特許第5697334号(P5697334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5697334重金属の不溶化剤及び重金属の不溶化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697334
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】重金属の不溶化剤及び重金属の不溶化方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20150319BHJP
   A62D 3/33 20070101ALI20150319BHJP
   B01D 53/68 20060101ALI20150319BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20150319BHJP
   B09C 1/02 20060101ALI20150319BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20150319BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20150319BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20150319BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20150319BHJP
   C09K 17/12 20060101ALI20150319BHJP
   F23J 1/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C09K3/00 SZAB
   A62D3/33
   B01D53/34 134A
   B09B3/00 304A
   B09B3/00 304G
   B09B3/00 304K
   C09K17/02 Z
   C09K17/06 Z
   C09K17/10 Z
   C09K17/12 Z
   F23J1/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-520495(P2009-520495)
(86)(22)【出願日】2008年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2008061086
(87)【国際公開番号】WO2009001720
(87)【国際公開日】20081231
【審査請求日】2011年4月14日
【審判番号】不服2014-114(P2014-114/J1)
【審判請求日】2014年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2007-166763(P2007-166763)
(32)【優先日】2007年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505462714
【氏名又は名称】株式会社AZMEC
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】正田 武則
(72)【発明者】
【氏名】山崎 淳司
(72)【発明者】
【氏名】松方 正彦
【合議体】
【審判長】 山田 靖
【審判官】 國島 明弘
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−69544(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/069351(WO,A1)
【文献】 特開2003−225640(JP,A)
【文献】 特開2007−63026(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/001719(WO,A1)
【文献】 特開2006−187773(JP,A)
【文献】 特開2004−292568(JP,A)
【文献】 特開2002−121552(JP,A)
【文献】 特開2004−330018(JP,A)
【文献】 特開2006−247645(JP,A)
【文献】 特開2005−262119(JP,A)
【文献】 米国特許第6039882(US,A)
【文献】 特開2000−301101(JP,A)
【文献】 特開2007−302885(JP,A)
【文献】 ARIENZO M,Oxidizing 2,4,6−trinitrotoluene with pyrite−H2O2 suspensions,Chemosphere,英国,1999年10月,Vol.39,No.10,Page1629−1638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
B09B3/00
B09C1/02
B09C1/08
B01D53/68
A62D3/33
C09K17/02
C09K17/06
C09K17/10
C09K17/12
F23J1/00
A62D101/08
A62D101/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄鉄鉱粉末と、活性化剤とからなるとともに、黄鉄鉱粉末と、活性化剤とを併せて含有する重金属の不溶化剤であって、
前記活性化剤は、硫酸、塩酸、明礬石、焼石膏、硫酸第1鉄又は硫酸アルミニウムであり、
前記重金属は、鉛、カドミウム、水銀、セレン及びヒ素の少なくとも1種であることを特徴とする重金属の不溶化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の重金属の不溶化剤を用い、石炭灰、焼却灰、又はガス化炉から排出される灰を不溶化することを特徴とする重金属の不溶化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌、石炭灰、焼却灰等に含まれる有害物質の溶出抑制を行うための不溶化剤組成に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国においては、土壌汚染が判明した土地の件数が平成8年度から飛躍的に増加し、現在、約32万箇所の土地で土壌汚染が発生していると推定されている。また、海外における土壌汚染の状況は、米国で50万箇所、ヨーロッパにおいてはフランスで70万箇所、ドイツで30万箇所と推定されている。さらに、アジア地域では近年の急速な工業化により、土壌汚染を含む環境面での様々な問題が複合的に発生しているといわれている。
【0003】
環境省発表の「平成16年度土壌汚染対策法の実施状況及び土壌汚染調査・対策事例等にする調査結果」によると、平成17年度末日までに都道府県等が把握した土壌汚染調査結果では、超過事例が1,906件となり、我が国の深刻な土壌汚染の現状が明らかになっている。このような背景の中、我が国では平成15年に土壌汚染対策法が施行され、直接摂取によるリスク、地下水等の摂取によるリスクの回避に重点をおいた対策が示され、土壌汚染対策法の厳しい環境基準に対応できるような、抜本的な対策技術の確立が求められている。
【0004】
調査により判明した土壌汚染原因の内訳は、重金属等超過事例が61%、揮発性有機化合物(VOC)超過事例が25%、複合汚染超過事例が14%となっている。重金属等の汚染原因物質の順位は、鉛、ヒ素、フッ素、六価クロム、水銀、シアン、セレン、カドミウム、ホウ素、アルキル水銀の順になっており、また、揮発性有機化合物(VOC)超過事例では、原因物質はトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン等の順となっている。
【0005】
一般廃棄物、ごみ処理施設から排出される焼却灰などの処理残渣を合わせた埋め立て総量は、平成13年度では990万トンとなっている。ごみの選別・破砕などによる再資源化の努力により、この埋め立て総量は年々減少しているが、一般廃棄物の最終処分場の残余年数は逼迫した状況にある。
【0006】
したがって、まず第1に焼却灰の減容処理を行い、処理量の低減を図ることが望まれる。また、焼却灰等に含まれる有害物質を確実に無害化し、建設分野等でリサイクル利用を推進することが望まれる。
【0007】
一方、火力発電により発生する大量の石炭灰の安全で経済的な処理やリサイクル利用の促進も重要な課題となっている。近年の原油価格の高騰により、発電燃料は石油から石炭へと急速にシフトが進んできている。平成14年度末に3,377万kWであった石炭火力発電設備は、平成19年度には3,922万kW、平成24年度には4,315万kWとなる計画となっており、これにより、国内の石炭灰発生量は、平成14年度末の約920万トンが、平成19年度末には約1,000万トンに達するものと予測されている。
【0008】
現在の石炭灰の処理の状況をみると、排出量の55%が有効利用され、45%が主に海域で埋め立て処分されているが、この埋め立て処分地の確保が非常に困難になってきている。また、石炭灰の具体的な有効利用の用途としては、セメント原料及び土木・建築分野での利用が90%を占めている。
【0009】
我が国で排出されている石炭灰は基本的には重金属等の溶出は少ないが、一部には土壌環境基準を超過するホウ素、フッ素、六価クロム,ヒ素などの溶出量を生ずるものが存在している。石炭灰は、路盤材、軽量裏込材など建設分野での応用範囲が広いため、安価で確実な有害物質の不溶化技術が確立されれば、さらに、そのリサイクル利用を推進することができると考えられる。
【0010】
重金属等の有害物質で汚染された土壌や灰の一般的な処理対策として、置き換え法、土壌洗浄、遮蔽、不溶化処理などが挙げられる。置き換え法は汚染土を処理場に処分し、良質土と置き換える方法である。また、土壌洗浄は、汚染土を洗浄により汚染物質と分離した後に現地に戻す方法であり、土壌より有害成分を除去するため、安全で確実な方法であるが、比較的コストは高く、また、汚染土を処分するため廃棄物が発生することになる。また、遮蔽は、シートパイル、地中壁を設置することで汚染された領域を隔離・遮蔽する方法で、隣接への汚染物質の移動を防ぎ、汚染の拡散を防ぐ方法であり、汚染土そのものの無害化処理に主眼をおいたものではない。
【0011】
不溶化処理は有害物質溶出抑制効果をもつ薬剤を汚染土、灰に混合処理し、再び現地に戻す方法であり、経済的で廃棄物が発生しない利点がある。不溶化処理法は、置き換え法において、汚染土壌を処分場に処理するため、含有する有害物質の溶出量低減を行うために用いられる。これらの技術の中で、不溶化処理は経済性に優れるため、大量に発生する灰などの廃棄物の処理に適する。例えば、現在、焼却飛灰のほとんどは、不溶化処理を行った後、処理場に処分されている。
【0012】
鉛は代表的な両性金属物質であり、酸性領域では陽イオンとして、また、高アルカリ領域では水酸化物として溶液中に熔解しやすい性質を有している。このため、例えば、高アルカリの特性をもつ、セメントや石灰を用いて不溶化処理を行っても、鉛の溶出を止めることは困難である。
【0013】
土壌や灰に含まれる鉛を不溶化する方法としては、例えば軽焼マグネシアなどを主とする組成物を用いて不溶化処理を施し、土壌や灰のpHを中性〜10程度の範囲に制御し、鉛を水酸化物として固定する方法がある。この方法は簡易で、極めて優れた方法であるが、例えば消石灰を吹き込んだ高アルカリの焼却飛灰等に対しては、適用することは困難である。
【0014】
また、鉛を不溶化する別の方法として、硫化剤を添加し難溶性の硫化鉛を生成する処理法が挙げられる。この方法は水処理の分野では硫化物法として古くから知られており、不溶化処理においても、硫化鉛はpH4程度〜高アルカリの幅広い条件で溶解度が低く、このため、環境中に晒しても極めて安定した状態を保つことができる利点がある。また、同様の原理で、カドミウム、水銀などを硫化物法により溶出抑制を行うことができる。
【0015】
硫化物を形成するために用いられる一般的な硫化剤として、硫化ナトリウム、水硫化ナトリウム、キレート硫化剤などが挙げられる。硫化ナトリウム、水硫化ナトリウムの無機硫化剤の使用には、有毒な硫化水素ガス発生のリスクが伴うため、取り扱いが困難な問題点があった。
【0016】
このため、例えば焼却飛灰のように、鉛を高含有する廃棄物の処理には、現在はキレート硫化剤が一般的に用いられている。しかしながら、キレート剤を用いた処理は比較的高価であり、また環境中では、紫外線劣化等による長期的安定性も懸念される問題点があった。
【0017】
なお、鉛を含む汚染土壌、灰等の不溶化技術として、特許文献1では三酸化二鉄、三水酸化鉄などの鉄化合物を添加して混合した後、加熱処理する方法が開示されている。また、文献2には鉛を固定するキレート剤技術についての発明が示されている。
【0018】
六価クロムを含む汚染土壌、灰等の不溶化処理として鉄粉、硫酸第1鉄などの還元剤を添加する方法が従来より行われている。例えば特許文献3では硫酸第1鉄などの硫酸イオン含有化合物と生石灰やセメントと組み合わせた不溶化方法が開示されている。また、特許文献4では、高炉スラグ粉末、粉末硫黄、石炭微粉末、硫酸第1鉄などの還元性を有する溶出低減剤と、セメントなどの水硬性材料を組み合わせて行う不溶化方法が示されている。
【特許文献1】特開2005−270746号公報
【特許文献2】特開2005−89565号公報
【特許文献3】特開2004−283757号公報
【特許文献4】特開2006−193971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前述のように鉛、六価クロム等の有害物質溶出抑制には様々な方法があるが、高濃度の汚染に対応することは難しい。また、複合汚染においては、汚染の原因物質に応じて処理方法を変更する必要があることから、すべての原因物質について厳しい環境基準に対応するように処理することは難しく、処理が煩雑、高コストになるという問題があった。
【0020】
また、キレート剤を用いる方法では、キレート剤が一般的に高価であることによるコスト上の問題があるほか、キレート剤が有機材料であることにより、環境中で劣化しやすいという問題があった。
【0021】
本発明の目的は、高濃度の鉛、カドミウム、水銀等を含有する土壌、灰などの、経済的かつ効果的な不溶化技術を提供することにある。さらには、鉛、カドミウム、水銀に加えて、六価クロム、セレン等の陰イオン型の有害物質、及びこれらによる複合汚染を生じている土壌、灰の効果的な溶出抑制技術を提供することにある。このような陰イオン型の複数の有害物質を含む材料の典型的な例としては、例えば石炭灰などがある。また、本発明はこれらの溶出抑制技術を提供することにより、処理した土壌や灰のリサイクル利用の促進を図ることを目的とする。さらには、焼却施設において、焼却飛灰を安全に確実に不溶化処理することができる吹込剤としても使用することができる有害物質の不溶化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の重金属の不溶化剤は、黄鉄鉱粉末と、活性化剤とからなるとともに、黄鉄鉱粉末と、活性化剤とを併せて含有する重金属の不溶化剤であって、前記活性化剤は、硫酸、塩酸、明礬石、焼石膏、硫酸第1鉄又は硫酸アルミニウムであり、前記重金属は、鉛、カドミウム、水銀、セレン及びヒ素の少なくとも1種であることを特徴とする。
【0023】
本発明の重金属の不溶化方法は、本発明の重金属の不溶化剤を用い、石炭灰、焼却灰、又はガス化炉から排出される灰を不溶化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の有害物質の不溶化剤によれば、土壌や灰等に含まれる鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、セレン、ヒ素、等の溶出抑制、トリクロロエチレン、ダイオキシン、PCB類等の有機塩素化合物の分解による無害化を確実に、経済的に行うことができる。
【0025】
水銀の不溶化処理ついては環境基準値が厳しいため、従来技術による処理は困難であるといわれているが、本発明によれば簡易に効率的な処理が可能である。
【0026】
さらに、本発明の有害物質の不溶化剤は高濃度の鉛、六価クロム等を含有する焼却灰の不溶化処理剤、吹き込み剤として好適に用いることができる。本発明の有害物質の不溶化剤を用いて無害化された土壌や焼却灰などは堅固に硬化するため、安全にリサイクル利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の有害物質の不溶化剤について詳細に説明する。
【0028】
本発明の有害物質の不溶化剤は、硫化鉄鉱と、活性化剤とを含有するものであり、地表に豊富に存在する天然鉱物である硫化鉄鉱を活用し、鉛、六価クロムなどを含有する土壌、焼却灰などの溶出抑制を行うものである。
【0029】
硫化鉄鉱としては二硫化鉄、黄鉄鉱、白鉄鉱、磁硫鉄鉱を用いることができ、これらは反応活性を高めるため、1.0mm以下、好ましくは0.5mm以下に粉砕して使用することが好ましい。
【0030】
硫化鉄鉱は硫黄成分を40%程度も含有する硫化化合物でありながら、常温では安定な物質であり、悪臭も伴わず、また有毒な硫化水素ガスの発生も生じないため、取り扱いが容易である。また、これらは地表に多く存在し、日本国内にもアジア諸国にも多く分布する天然鉱物であるため、原料の確保の面で経済性に優れる利点ももっている。
【0031】
本発明の有害物質不溶化剤は、硫化鉄鉱粉体と活性化剤を併せて含有することを特徴とする。活性化剤は、硫化鉄鉱表面に作用し、酸化分解を促進する機能をもっている。土壌や灰に硫化鉄鉱のみを添加した場合には、短期間に不溶化効果を得ることは困難であるが、本発明の有害物質の不溶化剤は、活性化剤を併せて含有しているため、数日から1週間程度以内の短時間に優れた不溶化効果が得られる。また、塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等を含有する汚染土壌、焼却灰等は活性化剤を添加しなくても同様の効果を得ることができる。すなわち、汚染土壌に活性化剤の成分が含まれる場合には、この活性化剤の成分を利用し、硫化鉄鉱を添加するだけで同様の効果を得ることができる。したがって、予め活性化剤を含有する汚染土壌、スラグ、焼却灰、ガス化炉から排出される灰に、少なくとも硫化鉄鉱を含有する不溶化剤を添加することで、有害物質を不溶化することができる。
【0032】
活性化剤としては硫酸、塩酸、硝酸、カルボン酸、スルホン酸、硫酸化合物、塩化物、硝酸化合物、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物、過酸化水素水、次亜塩素酸ナトリウム等を用いることができる。活性化剤として用いる硫酸化合物としては硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸鉄(II、III)、石膏、明礬、明礬石、鉄明礬石、重晶石等がある。また、塩化物としては塩化アルミニウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化鉄(II、III)、塩化カルシウム等、硝酸化合物としては硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸鉄(II、III)等がある。さらにカルボン酸化合物としては、酢酸、ギ酸等、スルホン酸化合物としてはメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0033】
本発明の活性剤は硫酸イオン、塩素イオン、硝酸イオン、カルボキシル基、スルホ基等を付与する物質であればその他の無機物質の化合物、有機物質でも利用が可能であるが、経済性を考慮すると無機材料の使用が好ましい。また、地下水などの汚染の影響の少ない硫酸、塩酸、硫酸化合物、塩素化合物の使用が好ましいと思われる。
【0034】
本発明の組成物である硫化鉄鉱は、水と酸素と接触することで酸化分解を生じ、さらに活性化剤と組み合わせて使用することで、短期間に酸化分解を生じる(化1、化2)。
【0035】
この現象を利用して、例えば化3に示すように硫化鉄鉱の表面に析出させ、陽イオン型有害物質を固定するものと考えられる。本発明の不溶化剤ではこの機構により鉛、カドミウム、水銀などの不溶化処理が可能である。
【0036】
硫化鉄鉱は最終的には3価の鉄化合物まで酸化されるため、強い還元機能を有し、六価クロム、セレンなどの不溶化剤としても好適に用いることができる。化4にはセレンの還元を示している。
【0037】
【化1】
【0038】
【化2】
【0039】
【化3】
【0040】
【化4】
【0041】
また、この外、硫化鉄鉱のS部分はヒ酸等と交換する性質があり、また、酸化分解により水酸化鉄を生成するため、本不溶化剤はヒ素の固定機能をもっている。
【0042】
さらに、本不溶化剤の強い還元機能を利用してトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなど揮発性有機化合物(VOC)、ダイオキシン、PCB類等の有機塩素化合物の分解、脱塩素による無害化処理、前記の重金属等の有害物質と揮発性有機化合物との複合汚染の処理にも用いることができる。下記には有機塩素化合物(RCl)がエチレン類(RH)に還元処理場合される化学式を示す。
【0043】
【化5】
【0044】
また、本発明の不溶化剤は、さらに水硬性材料を添加することで、土壌や灰を堅固に固化することができ、これにより被処理物の解砕や飛散を防ぎ、また透水性を低下させる効果が生まれ、不溶化処理の効果をさらに高めることができる。また、硫化鉄鉱と活性化剤の添加により酸性側となった土壌や灰を中和処理する効果も合わせ持つ。
【0045】
本発明では、水硬性材料として、軽焼マグネシア、セメントや石灰原料、軽焼ドロマイト、炭酸マグネシウム、石灰石、ドロマイトを用いて灰や、土壌の固化処理を行いながら、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、セレンなどの不溶化処理を同時に行うことができる。本発明に用いられる軽焼マグネシア(酸化マグネシウム)は、天然鉱物であるマグネサイト(炭酸マグネシウム)を700〜800℃で焼成したもの、ブルーサイト(水酸化マグネシウム)を300〜800℃で焼成したものが好適である。また、本発明にはドロマイトを700〜1300℃、好ましくは700〜1000℃で焼成した軽焼ドロマイトをマグネシウム及びカルシウムを含む原料として用いることができる。本発明に用いる軽焼マグネシア、生石灰、消石灰などの石灰原料、軽焼ドロマイト、炭酸マグネシウム、石灰石、ドロマイトは反応性を高めるため、0.5mm以下、好ましくは0.1mm以下に粉砕した粉末として使用することが好ましい。
【0046】
これらの水硬性材料を添加することにより、土壌、灰を堅固に固化、減容することができ、リサイクル材料、地盤材料として好適に用いることができる。さらに、本発明の不溶化剤は無機剤で構成されているため、長期にわたって安定である。
【0047】
本発明の有害物質の不溶化剤は、さらに珪酸アルカリ金属塩を含有してもよい。珪酸アルカリ金属塩を含有することで、本発明の不溶化剤によって固化された処理材の強度発現を高めることができ、これにより不溶化効果が向上し、また、好適にリサイクル利用を促進することができる。
【0048】
すなわち、珪酸アルカリ金属塩溶液は、Ca、Mg、Al、Baなどの多価金属イオンと反応して、不溶性の珪酸金属塩水和物や珪酸を同時に生成してゲル化する。例えば、珪酸アルカリ金属塩として珪酸ソーダ、多価金属イオンとしてCaを用いた場合、化6の反応によりゲル化する。なお、この反応においてSiOも同時に生成する。この機構により、不溶化処理剤の強度特性は向上し、また処理剤に撥水性を付与することができる。
【0049】
【化6】
【0050】
ここで、珪酸アルカリ金属塩としては、特定のものに限定されるものではないが、例えば、水ガラス、カリウム水ガラス、シリカゾル、リチウム水ガラス、粉末珪酸ソーダ、粉末珪酸カリウムを用いることができる。特に、水ガラス、カリウム水ガラス、リチウム水ガラスを用いた場合は、その分散効果に基づく減水作用により、より効果的に有害物質を不溶化し、被処理物の強度特性を向上させることができる。
【0051】
ところで、一般ゴミ焼却施設では、燃焼ガス内に塩化水素ガスが大量に発生するので、焼却施設の腐食を防ぐため、現在、大量のアルカリ剤を吹き込む方法を採っている。この煙道内のガス温度は通常150〜200℃となっている。
【0052】
本発明の有害物質の不溶化剤の組成物である硫化鉄鉱は、前述のように塩酸を活性化剤として用いることができ、これにより鉛や六価クロムの強い不溶化効果が生まれる。このメカニズムを用いて、本発明の不溶化剤を吹き込み剤として使用することができる。前述の通り、焼却ガスの中には、本発明の活性化剤である塩化水素ガスが高濃度で含まれているからである。
【0053】
この場合、煙道を保護するために同時にアルカリ剤を吹き込む必要があり、このアルカリ剤として、消石灰、重曹、軽焼マグネシア、水酸化マグネシウム(ブルーサイト)が挙げられる。
【0054】
また、この吹き込み剤には活性炭を添加し、ダイオキシンの吸着を行うこともできる。本発明の組成物を吹き込み剤として使用することで、事後の不溶化剤添加による混練処理を行う必要がなくなる。
【0055】
本発明の有害物質の不溶化剤は、さらに遅延剤を含有してもよい。この遅延剤は、混練処理に必要な時間、混練後の運搬、埋め立てなどの処理に必要な時間を確保するために、固化反応を遅延させる目的で用いられる。遅延剤の添加量は、不溶化剤成分合計質量の10質量部以下が好ましい。
【0056】
ここで、遅延剤としては、特定のものに限定されるものではなく、例えば、オキシカルボン酸塩、スルホン酸ソーダ、澱粉分解生成物、多糖類、有機酸、コンクリート混和剤、アルカリリン酸化合物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを用いることができる。
【0057】
なお、本発明の有害物質の不溶化剤を用いて、有害物質を確実に不溶化するためには、不溶化剤と被処理物を十分に混練することが望ましい。本不溶化剤は微細な無機粒子で構成されるため容易に攪拌・混練を行うことができるため、特殊な混練方法は必要としない。実際の処理には、ミキサーを用いた混練や、重機による攪拌混合処理などにより混練を行う方法が用いられる。例えばスタビライザー、ブルドーザ、バックホウ、自走式土壌改良機、高圧噴射法を用いた混練処理を行うことができ、さらに、ベルトコンベヤーと重力式混合装置の組み合わせや、回転打撃による撹拌方法など公知の混練方法を使用してもよい。
【0058】
本発明の有害物質の不溶化剤は、重金属等を含有する石炭灰や焼却灰等と混合して、安全に埋め立て処理を行うことができ、さらに、例えば、粒状物に加工して道路路盤材料、裏込め材として安全にリサイクル利用を行うことができる。そして、本発明の有害物質の不溶化剤は、固化強度が従来の技術よりも大きいため、地盤強度を容易に確保することができ、また、長期の不溶化効果が期待できる。
【0059】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものでなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。
【0060】
以下、具体例に基づき、さらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0061】
土壌に重クロム酸カリウムを添加し、土壌中の六価クロム含有量を200mg/kgに調整した汚染土を模擬的に作成し、これを湿潤に保ったまま1週間、養生した。
【0062】
この汚染土壌に表1に示す不溶化剤と水を添加し、モルタルミキサーにより3分混練後、20℃の恒温で1週間養生を行った。各サンプルを用いて、平成3年環境省告示第46号に示す方法に従って溶出試験を実施した。この結果を表2に示す。
【0063】
不溶化剤を添加しない土壌の六価クロム溶出量は17mg/Lと非常に大きい値を示した。これに二硫化鉄粉を1.5質量%添加した比較例2ではかなり六価クロム溶出量が低下したが、第1種土壌環境基準を満足することはできなかった。これに活性化剤である明礬石、焼石膏を添加すると六価クロム溶出量はさらに低下して、基準以下となった。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
ここで、二硫化鉄粉(黄鉄鉱粉)は中国製粉砕品(Fe:43%、S:47%、粒度−100μm通過47%)、明礬石としては東海工業株式会社製(SiO:57.4%、Al:12.1%、Fe:0.4%、SO:11.1%、KO:1.6%、NaO:0.8%、CaO:0.3%、粉末度3000ブレーン)、焼石膏は吉野石膏製の半水石膏(含有量91.5%以上、SO:50.5%以上、CaO:35.3%、HO:2.5%以上)を用いた。
【実施例2】
【0067】
土壌に硝酸鉛を添加し、土壌中の鉛含有量を3000mg/kgに調整した汚染土を模擬的に作成し、これを湿潤に保ったまま1週間、養生した。この汚染土壌に表3に示す不溶化剤と水を添加し、モルタルミキサーにより3分混練後、セメント協会基準JCAS L−01:2003に基づきφ50mm、H100mmの圧縮強度試験供試体を作成した。この供試体を20℃の恒温で1週間養生を行い、圧縮強度試験を行った。さらに、圧縮強度試験を行った試験片を粉砕し、環境省告示第46号に示す方法に従い溶出試験を実施した。この結果を表4に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
ここで、二硫化鉄粉(黄鉄鉱粉)は中国製粉砕品(Fe:43%、S:47%、粒度−100μm通過47%)を、生石灰は上田石灰製造株式会社製(CaO:97.1%、SiO:0.03%、Al:0.01%、Fe:0.01%、MgO:0.5%、ig.loss:1.6%、−0.5mmふるい通過97%)、硫酸アルミウムは東信化学工業株式会社製(Al:16%、Fe:0.06%)試薬を用いた。
【0070】
二硫化鉄粉のみを添加した比較例3では鉛の溶出量が大きかったが、これに活性化機能をもつ硫酸化合物、塩素化合物を加えることで鉛の溶出量は低下した。
【0071】
【表4】
【実施例3】
【0072】
本実施例では、アルカリ焼却灰の不溶化を行った。
【0073】
表5の組成、表6の有害物質含有量の特性をもつ焼却飛灰の溶出抑制について検討した。この灰は、一般的なアルカリ焼却灰の組成を有しており、鉛、フッ素を比較的多く含有していた。
【0074】
この灰の環境省令46号に規定する方法による溶出試験結果を表7に示す。焼却灰の鉛溶出量は処理場への受け入れ基準である第2溶出量基準を超過していた。また、焼却灰中にカルシウムを大量に含んでいるため、フッ素の溶出量はさほどではなく、第2溶出量基準以下であった。その他の有害物質については全て基準以下の結果となっており、アルカリ焼却飛灰の処理においては、鉛の効率的処理が最も重量であることが分かった。
【0075】
この焼却灰に本発明の不溶化剤を水と一緒に加えて、モルタルミキサーにより3分混練後、20℃の恒温で1週間養生を行った。各サンプルを用いて、平成3年環境省告示第46号に示す方法に従って溶出試験を実施した。この結果を表8に示す。
【0076】
黄鉄鉱粉末のみを添加した比較例においても、鉛の溶出は低減されるが、本発明の組成である活性化剤成分である硫酸アルミニウム、硫酸、塩酸とを組み合わせることで、実施例6のようにさらに効果が大きくなり、養生期間1週間で実施例7、8のように、検出限界以下まで溶出抑制を行うことができた。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
ここで濃硫酸:濃度96%、関東化学製試薬、塩酸:濃度35%、関東化学製試薬、その他の薬剤は前述の実施例と同様のものを用いた。