(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し、該溶融帯にドーパントを供給しながら該溶融帯を凝固させて、直径が実質的に同一である直胴部と、該直胴部に隣接し且つ直径が拡大又は縮小する直径拡縮部とを有するシリコン単結晶を製造するFZ法によるシリコン単結晶製造装置
であり、前記直径拡縮部に隣接する領域を含む前記直胴部の長手方向の全域に亘って、前記直胴部の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶を得るシリコン単結晶製造装置であって、
前記溶融帯にドーパントを供給するドーパント供給部と、
所定の変更条件に基づいてドーパントの供給条件を変更するように前記ドーパント供給部を制御するドーパント供給条件変更部と、
前記直径拡縮部における前記直胴部とは反対側の端部からのシリコン単結晶の長手方向の位置をxとし、前記溶融帯におけるシリコン単結晶の長手方向に沿う幅をwとし、前記位置xの関数として、凝固後のシリコン単結晶の体積をVc(x)とし、前記位置xの関数として、前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x)とする場合に、前記位置xにおける前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積Vm(x)を下記式(1)により算出する溶融帯体積算出部と、
Vm(x)=Vc(x+w)−Vc(x)・・・(1)
シリコン単結晶が成長速度vで微少量Δxだけ成長する際に要する時間をΔt=Δx/vとし、単位時間に前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量をGとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際における前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量を下記式(2)により算出するドーパント供給量算出部と、
GΔt・・・(2)
前記ドーパントの偏析係数をk
0とし、前記位置xの関数として、凝固前の前記溶融帯におけるドーパント濃度をCm(x)とし、シリコン単結晶が微少量Δx成長する間に前記溶融帯が凝固したことにより増加するシリコン単結晶の体積の増加量をΔVcとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際に、凝固後のシリコン単結晶に取り込まれるドーパントの取り込み量を下記式(3)により算出するドーパント取り込み量算出部と、
k
0Cm(x)ΔVc・・・(3)
シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x+Δx)とする場合に、シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における凝固前の前記溶融帯におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)を、前記式(1)〜(3)に基づいて下記式(4)により算出する凝固前ドーパント濃度算出部と、
【数2】
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を下記式(5)により算出する凝固後ドーパント濃度算出部と、
C(x+Δx)=k
0Cm(x+Δx)・・・(5)
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を微少量Δxごとに順次算出することによりシリコン単結晶全体の抵抗率分布モデルを算出する抵抗率分布モデル算出部と、
前記ドーパント供給条件変更部における前記変更条件は、前記抵抗率分布モデル算出部により算出された前記抵抗率分布モデルに基づいて、前記直胴部に対応する前記溶融帯にドーパントを供給しながら前記直胴部を形成するときにおけるドーパントの供給条件に対して、前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯にドーパントを供給しながら前記直径拡縮部を形成するときにおけるドーパントの供給条件を変更するように、設定されることを特徴とする
シリコン単結晶製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術によっても、FZ法により製造されたシリコン単結晶において、シリコン単結晶の長手方向の抵抗率分布が同一ではないことがあるという問題点がある。従って、シリコン単結晶の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶をより確実に製造することが望まれている。
【0006】
本発明は、シリコン単結晶の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶をより確実に製造することができるシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置、並びにシリコン単結晶を製造する場合に用いられるシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、直胴部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直胴部を形成するときと、直径拡縮部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直径拡縮部を形成するときとで、溶融帯へのドーパントの供給条件が同じであることが前記問題点の原因であることを知見した。そして、本発明者は、直胴部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直胴部を形成するときに対して、直径拡縮部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直径拡縮部を形成するときにおいて、溶融帯へのドーパントの供給条件を変更することにより、シリコン単結晶の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶をより確実に製造することができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し、該溶融帯にドーパントを供給しながら該溶融帯を凝固させて、直径が実質的に同一である直胴部と、該直胴部に隣接し且つ直径が拡大又は縮小する直径拡縮部とを有するシリコン単結晶を製造するFZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、前記直胴部に対応する前記溶融帯にドーパントを供給しながら前記直胴部を形成する直胴部形成工程と、前記直胴部形成工程の前及び/又は後に、前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯にドーパントを供給しながら前記直径拡縮部を形成する直径拡縮部形成工程と、を備え、前記直径拡縮部形成工程において、所定の変更条件に基づいて、前記直胴部形成工程におけるドーパントの供給条件に対して前記直径拡縮部形成工程におけるドーパントの供給条件を変更することを特徴とする。
【0009】
また、前記直径拡縮部に隣接する領域を含む前記直胴部の長手方向の全域に亘って、前記直胴部の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶を得ることが好ましい。
【0010】
また、前記ドーパントの供給条件は、ドーパントを含むドーパントガスの流量及び/又はドーパントガスにおけるドーパントの濃度であることが好ましい。
【0011】
また、前記変更条件は、凝固前の前記溶融帯におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)と、凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)と、に基づいて算出される抵抗率分布モデルに基づいて、設定されることが好ましい。
【0012】
また、前記抵抗率分布モデルを算出する工程として、
前記直径拡縮部における前記直胴部とは反対側の端部からのシリコン単結晶の長手方向の位置をxとし、前記溶融帯におけるシリコン単結晶の長手方向に沿う幅をwとし、前記位置xの関数として、凝固後のシリコン単結晶の体積をVc(x)とし、前記位置xの関数として、前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x)とする場合に、前記位置xにおける前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積Vm(x)を下記式(1)により算出する溶融帯体積算出工程と、
Vm(x)=Vc(x+w)−Vc(x)・・・(1)
シリコン単結晶が成長速度vで微少量Δxだけ成長する際に要する時間をΔt=Δx/vとし、単位時間に前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量をGとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際における前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量を下記式(2)により算出するドーパント供給量算出工程と、
GΔt・・・(2)
前記ドーパントの偏析係数をk
0とし、前記位置xの関数として、凝固前の前記溶融帯におけるドーパント濃度をCm(x)とし、シリコン単結晶が微少量Δx成長する間に前記溶融帯が凝固したことにより増加するシリコン単結晶の体積の増加量をΔVcとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際に、凝固後のシリコン単結晶に取り込まれるドーパントの取り込み量を下記式(3)により算出するドーパント取り込み量算出工程と、
k
0Cm(x)ΔVc・・・(3)
シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x+Δx)とする場合に、シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における凝固前の前記溶融帯におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)を、前記式(1)〜(3)に基づいて下記式(4)により算出する凝固前ドーパント濃度算出工程と、
【数1】
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を下記式(5)により算出する凝固後ドーパント濃度算出工程と、
C(x+Δx)=k
0Cm(x+Δx)・・・(5)
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を微少量Δxごとに順次算出することによりシリコン単結晶全体の抵抗率分布モデルを算出する抵抗率分布モデル算出工程と、を備えることが好ましい。
【0013】
本発明のシリコン単結晶製造装置は、シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し、該溶融帯にドーパントを供給しながら該溶融帯を凝固させて、直径が実質的に同一である直胴部と、該直胴部に隣接し且つ直径が拡大又は縮小する直径拡縮部とを有するシリコン単結晶を製造するFZ法によるシリコン単結晶製造装置であって、
前記溶融帯にドーパントを供給するドーパント供給部と、
所定の変更条件に基づいてドーパントの供給条件を変更するように前記ドーパント供給部を制御するドーパント供給条件変更部と、
前記直径拡縮部における前記直胴部とは反対側の端部からのシリコン単結晶の長手方向の位置をxとし、前記溶融帯におけるシリコン単結晶の長手方向に沿う幅をwとし、前記位置xの関数として、凝固後のシリコン単結晶の体積をVc(x)とし、前記位置xの関数として、前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x)とする場合に、前記位置xにおける前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積Vm(x)を下記式(1)により算出する溶融帯体積算出部と、
Vm(x)=Vc(x+w)−Vc(x)・・・(1)
シリコン単結晶が成長速度vで微少量Δxだけ成長する際に要する時間をΔt=Δx/vとし、単位時間に前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量をGとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際における前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量を下記式(2)により算出するドーパント供給量算出部と、
GΔt・・・(2)
前記ドーパントの偏析係数をk
0とし、前記位置xの関数として、凝固前の前記溶融帯におけるドーパント濃度をCm(x)とし、シリコン単結晶が微少量Δx成長する間に前記溶融帯が凝固したことにより増加するシリコン単結晶の体積の増加量をΔVcとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際に、凝固後のシリコン単結晶に取り込まれるドーパントの取り込み量を下記式(3)により算出するドーパント取り込み量算出部と、
k
0Cm(x)ΔVc・・・(3)
シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x+Δx)とする場合に、シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における凝固前の前記溶融帯におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)を、前記式(1)〜(3)に基づいて下記式(4)により算出する凝固前ドーパント濃度算出部と、
【数2】
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を下記式(5)により算出する凝固後ドーパント濃度算出部と、
C(x+Δx)=k
0Cm(x+Δx)・・・(5)
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を微少量Δxごとに順次算出することによりシリコン単結晶全体の抵抗率分布モデルを算出する抵抗率分布モデル算出部と、
前記ドーパント供給条件変更部における前記変更条件は、前記抵抗率分布モデル算出部により算出された前記抵抗率分布モデルに基づいて、前記直胴部に対応する前記溶融帯にドーパントを供給しながら前記直胴部を形成するときにおけるドーパントの供給条件に対して、前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯にドーパントを供給しながら前記直径拡縮部を形成するときにおけるドーパントの供給条件を変更するように、設定されることを特徴とする。
【0014】
本発明のシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法は、FZ法により、シリコン単結晶の原料となる原料シリコン素材を部分的に加熱して溶融帯を形成し、該溶融帯にドーパントを供給しながら該溶融帯を凝固させて、直径が実質的に同一である直胴部と、該直胴部に隣接し且つ直径が拡大又は縮小する直径拡縮部とを有するシリコン単結晶を製造する場合に用いられるシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法であって、
前記直径拡縮部における前記直胴部とは反対側の端部からのシリコン単結晶の長手方向の位置をxとし、前記溶融帯におけるシリコン単結晶の長手方向に沿う幅をwとし、前記位置xの関数として、凝固後のシリコン単結晶の体積をVc(x)とし、前記位置xの関数として、前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x)とする場合に、前記位置xにおける前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積Vm(x)を下記式(1)により算出する溶融帯体積算出工程と、
Vm(x)=Vc(x+w)−Vc(x)・・・(1)
シリコン単結晶が成長速度vで微少量Δxだけ成長する際に要する時間をΔt=Δx/vとし、単位時間に前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量をGとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際における前記溶融帯に供給されるドーパントの供給量を下記式(2)により算出するドーパント供給量算出工程と、
GΔt・・・(2)
前記ドーパントの偏析係数をk
0とし、前記位置xの関数として、凝固前の前記溶融帯におけるドーパント濃度をCm(x)とし、シリコン単結晶が微少量Δx成長する間に前記溶融帯が凝固したことにより増加するシリコン単結晶の体積の増加量をΔVcとする場合に、シリコン単結晶が微少量Δxだけ成長する際に、凝固後のシリコン単結晶に取り込まれるドーパントの取り込み量を下記式(3)により算出するドーパント取り込み量算出工程と、
k
0Cm(x)ΔVc・・・(3)
シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における前記直径拡縮部に対応する前記溶融帯の体積をVm(x+Δx)とする場合に、シリコン単結晶が前記位置xから微少量Δxだけ成長する際における凝固前の前記溶融帯におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)を、前記式(1)〜(3)に基づいて下記式(4)により算出する凝固前ドーパント濃度算出工程と、
【数3】
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を下記式(5)により算出する凝固後ドーパント濃度算出工程と、
C(x+Δx)=k
0Cm(x+Δx)・・・(5)
凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を微少量Δxごとに順次算出することによりシリコン単結晶全体の抵抗率分布モデルを算出する抵抗率分布モデル算出工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シリコン単結晶の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶をより確実に製造することができるシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置を提供することができる。
また、本発明によれば、シリコン単結晶を製造する場合に用いられるシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のシリコン単結晶製造装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態のシリコン単結晶製造装置1において、本発明のシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法が用いられる。
【0018】
図1は、本実施形態のシリコン単結晶製造装置1を模式的に示す側面図である。
図1に示すように、シリコン単結晶製造装置1は、シリコン単結晶10の原料となる原料シリコン素材9を部分的に加熱して溶融帯11を形成し、溶融帯11にドーパントを供給しながら溶融帯11を凝固させて、シリコン単結晶10を製造するFZ法によるシリコン単結晶製造装置である。
【0019】
シリコン単結晶10は、直径が実質的に同一である直胴部10aと、直胴部10aに隣接し且つ直径が拡大又は縮小する直径拡縮部10b及び10cとを有する。「直径が実質的に同一」とは、直胴部として取り扱うことができる程度に同一ということである。直径拡縮部は、直胴部10aの下方に隣接し下方に向かって直径が縮小する下部テーパ部(トップ部)10b、及び直胴部10aの上方に隣接し上方に向かって直径が縮小するテール部10cである。換言すると、下部テーパ部10bは、種結晶12(後述)から上方に向かって直径が拡大する部位である。
【0020】
図1に示すように、シリコン単結晶製造装置1は、反応炉2と、原料保持具3と、誘導加熱コイル4と、種結晶保持具5と、単結晶重量保持具6と、ドーパント供給部としてのガスドープ装置7と、制御装置8と、を備える。
【0021】
反応炉2は、原料保持具3、誘導加熱コイル4、種結晶保持具5、単結晶重量保持具6、原料シリコン素材9、シリコン単結晶10、溶融帯11及び種結晶12を収容し、FZ法によるシリコン単結晶の成長を行う。
【0022】
原料保持具3は、反応炉2内に収容され、シリコン単結晶10の原料となる原料シリコン素材9の上端部を保持する部材である。原料保持具3は、その真上に位置する上軸21に装着される。上軸21は、回転可能に構成され、かつ上下方向に移動可能に構成される。
【0023】
誘導加熱コイル4は、反応炉2内に収容されている。誘導加熱コイル4は、原料シリコン素材9を部分的に加熱して溶融帯11を形成し、溶融帯11を凝固させてシリコン単結晶10の成長を行う。誘導加熱コイル4は、銅を主体として形成され、原料シリコン素材9の外周を囲むリング形状の部材である。
【0024】
種結晶保持具5は、種結晶12、及び種結晶12上に形成されるシリコン単結晶10を保持して固定する部材である。種結晶保持具5は、その直下に位置する下軸22に装着される。下軸22は、回転可能に構成され、かつ上下方向に移動可能に構成される。
単結晶重量保持具6は、成長したシリコン単結晶10における下部テーパ部10bを保持する部材である。単結晶重量保持具6は、シリコン単結晶10の重量の大部分を受け止め、種結晶12にシリコン単結晶10の重量がほとんど掛からないようにしている。
【0025】
ガスドープ装置7は、溶融帯11にドーパントを含むドーパントガスを供給するドーパント供給部として機能する。ガスドープ装置7は、ガスボンベ71と、流量制御バルブ72と、ドープガスノズル73と、を備える。
【0026】
制御装置8は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置(いずれも図示せず)等を備え、ガスドープ装置7の流量制御バルブ72を制御することによりガスボンベ71から供給されるドーパントガスの流量の制御を行う。
【0027】
ガスボンベ71には、ドーパントガスが高圧状態で収容される。
流量制御バルブ72は、制御装置8のドーパント供給条件変更部112(後述)の制御に従って、バルブの開閉を行い、溶融帯11に供給するドーパントガスの流量を制御する。
ドープガスノズル73は、誘導加熱コイル4の近傍に配置され、流量制御バルブ72により流量が制御されたドーパントガスを溶融帯11へ供給する。ドープガスノズル73により溶融帯11へドーパントガスが供給されることにより、ドーパントは、溶融帯11、つまりシリコン単結晶10に取り込まれる。
【0028】
このようなシリコン単結晶製造装置1は、誘導加熱コイル4により原料シリコン素材9の下端部を加熱して溶融帯11を形成する。そして、シリコン単結晶製造装置1は、溶融帯11を種結晶12に融着させた後に、原料シリコン素材9及びシリコン単結晶10を回転させると共に上軸21及び下軸22の軸線方向に下降させることにより、溶融帯11からシリコン単結晶10を成長させる。
【0029】
次に、制御装置8の詳細につい
て説明する。
図2は、
図1に示すシリコン単結晶製造装置1における制御装置8の機能構成を示すブロック図である。
図3は、溶融帯11におけるシリコン単結晶10の長手方向に沿う幅wを示す模式図である。
制御装置8は、ガスドープ装置7の流量制御バルブ72を制御する。この制御装置8は、制御演算部81と、制御出力部(Programmable Logic Controller)82と、流量制御部(Mass Flow Controller)83と、を備える。
【0030】
制御演算部81は、CPU(Central Processing Unit)及びハードディスク等の記憶装置を備えた汎用のコンピュータにより構成される。制御演算部81は、流量制御バルブ72によって制御され且つ溶融帯11に供給するドーパントガスの流量を演算し、流量に係る信号を制御出力部82に出力する。
【0031】
制御演算部81は、溶融帯体積算出部101と、ドーパント供給量算出部102と、ドーパント取り込み量算出部103と、凝固前ドーパント濃度算出部104と、凝固後ドーパント濃度算出部105と、抵抗率分布モデル算出部106と、位置算出部111、ドーパント供給条件変更部112と、を備える。
【0032】
溶融帯体積算出部101は、シリコン単結晶10の長手方向の位置xにおける下部テーパ部10bに対応する溶融帯11の体積Vm(x)を下記式(1)により算出する。「下部テーパ部10bに対応する溶融帯11」とは、凝固後、下部テーパ部10bとなる溶融帯11のことである。
Vm(x)=Vc(x+w)−Vc(x)・・・(1)
【0033】
式(1)において、下部テーパ部10bにおける直胴部10aとは反対側の端部(下端部)からのシリコン単結晶10の長手方向の位置をxとする(
図3参照)。溶融帯11におけるシリコン単結晶10の長手方向に沿う幅をwとする(
図3参照)。位置xの関数として、凝固後のシリコン単結晶10の体積をVc(x)とする。位置xの関数として、下部テーパ部10bに対応する溶融帯11の体積をVm(x)とする。
【0034】
ドーパント供給量算出部102は、シリコン単結晶10が微少量Δxだけ成長する際における溶融帯11に供給されるドーパントの供給量を下記式(2)により算出する。
GΔt・・・(2)
式(2)において、シリコン単結晶10が成長速度vで微少量Δxだけ成長する際に要する時間をΔt=Δx/vとする。単位時間に溶融帯11に供給されるドーパントの供給量をGとする。
【0035】
ドーパント取り込み量算出部103は、シリコン単結晶10が微少量Δxだけ成長する際に、凝固後のシリコン単結晶10に取り込まれるドーパントの取り込み量を下記式(3)により算出する。
k
0Cm(x)ΔVc・・・(3)
式(3)において、ドーパントの偏析係数をk
0とする。位置xの関数として、凝固前の溶融帯11におけるドーパント濃度をCm(x)とする。シリコン単結晶10が微少量Δx成長する間に溶融帯11が凝固したことにより増加するシリコン単結晶10の体積の増加量をΔVcとする。
【0036】
凝固前ドーパント濃度算出部104は、シリコン単結晶10が位置xから微少量Δxだけ成長する際における凝固前の溶融帯11におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)を、前記式(1)〜(3)に基づいて下記式(4)により算出する。
【数4】
式(4)において、シリコン単結晶10が位置xから微少量Δxだけ成長する際における下部テーパ部10bに対応する溶融帯11の体積をVm(x+Δx)とする。
【0037】
凝固後ドーパント濃度算出部105は、凝固後のシリコン単結晶10におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を下記式(5)により算出する。
C(x+Δx)=k
0Cm(x+Δx)・・・(5)
【0038】
抵抗率分布モデル算出部106は、凝固後のシリコン単結晶10におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を微少量Δxごとに順次算出することにより、シリコン単結晶10全体の抵抗率分布モデルを算出する。つまり、抵抗率分布モデルは、凝固前の溶融帯11におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)と、凝固後のシリコン単結晶10におけるドーパントの濃度C(x+Δx)と、に基づいて算出される。抵抗率分布モデルは、結晶全体の近似的なドーパントの濃度(抵抗率)分布ということもできる。
【0039】
位置算出部111は、誘導加熱コイル4に対する原料シリコン素材9の長手方向(上下方向)の位置に基づいて、現在において原料シリコン素材9におけるどの位置が溶解されているかを、つまり、溶融帯11の位置がどこであるかを算出して取得する。原料シリコン素材9の位置は、装置本体の制御コントローラ(図示せず)から取得する。
【0040】
ドーパント供給条件変更部112は、所定の変更条件に基づいてドーパントの供給条件を変更するように、ガスドープ装置7の流量制御バルブ72を制御する。前記変更条件は、抵抗率分布モデル算出部106により算出された抵抗率分布モデルに基づいて、直胴部10aに対応する溶融帯11にドーパントを供給しながら直胴部10aを形成するときにおけるドーパントの供給条件に対して、下部テーパ部10bに対応する溶融帯11にドーパントを供給しながら下部テーパ部10bを形成するときにおけるドーパントの供給条件を変更するように、設定される。
【0041】
変更条件は、例えば、後述する実施例1のように、「下部テーパ部10bに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量を、直胴部10aに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量よりも13.8%増とする」である。また、後述する実施例2のように、「テール部10cに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量を、直胴部10aに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量よりも40%減とする」である。
また、ドーパント供給条件変更部112は、変更したドーパントの供給条件を元に戻す(例えば、流量を13.8%増の状態又は40%減の状態から本来の流量にする)。
ドーパント供給条件変更部112は、ドーパントの供給条件を変更する変更条件に係る信号を制御出力部82に出力する。
【0042】
制御出力部82は、ドーパント供給条件変更部112から出力された変更条件に係る信号に基づいて、流量に係る信号を生成し、流量制御部83に出力する。
流量制御部83は、制御出力部82から出力された流量に係る信号に基づいて、流量制御バルブ72の開度の制御を行う。
【0043】
次に、本実施形態のシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法について、
図4を参照しながら説明する。本実施形態のシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法は、制御演算部81における溶融帯体積算出部101、ドーパント供給量算出部102、ドーパント取り込み量算出部103、凝固前ドーパント濃度算出部104、凝固後ドーパント濃度算出部105及び抵抗率分布モデル算出部106によって実施される。
【0044】
図4は、本発明のシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態のシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法は、溶融帯体積算出工程S1と、ドーパント供給量算出工程S2と、ドーパント取り込み量算出工程S3と、凝固前ドーパント濃度算出工程S4と、凝固後ドーパント濃度算出工程S5と、抵抗率分布モデル算出工程S6と、を備える。
【0045】
(S1)溶融帯体積算出工程
溶融帯体積算出部101は、シリコン単結晶10の長手方向の位置xにおける下部テーパ部10bに対応する溶融帯11の体積Vm(x)を前記式(1)により算出する。
【0046】
(S2)ドーパント供給量算出工程
ドーパント供給量算出部102は、シリコン単結晶10が微少量Δxだけ成長する際における溶融帯11に供給されるドーパントの供給量を前記式(2)により算出する。
【0047】
(S3)ドーパント取り込み量算出工程
ドーパント取り込み量算出部103は、シリコン単結晶10が微少量Δxだけ成長する際に、凝固後のシリコン単結晶10に取り込まれるドーパントの取り込み量を前記式(3)により算出する。
【0048】
(S4)凝固前ドーパント濃度算出工程
凝固前ドーパント濃度算出部104は、シリコン単結晶10が位置xから微少量Δxだけ成長する際における凝固前の溶融帯11におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)を、前記式(1)〜(3)に基づいて前記式(4)により算出する。
【0049】
(S5)凝固後ドーパント濃度算出工程
凝固後ドーパント濃度算出部105は、凝固後のシリコン単結晶10におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を前記式(5)により算出する。
【0050】
(S6)抵抗率分布モデル算出工程
抵抗率分布モデル算出部106は、凝固後のシリコン単結晶10におけるドーパントの濃度C(x+Δx)を微少量Δxごとに順次算出することによりシリコン単結晶10全体の抵抗率分布モデルを算出する。
【0051】
次に、本実施形態のシリコン単結晶の製造方法について、
図5を参照しながら説明する。本実施形態のシリコン単結晶の製造方法は、前記実施形態のシリコン単結晶製造装置1を用いて実施される。
【0052】
図5は、本発明のシリコン単結晶の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図5に示すように、本実施形態のシリコン単結晶の製造方法は、直径拡縮部形成工
程としての下部テーパ部形成工程S21と、直胴部形成工程S22と、テール部形成工程S23と、を備える。
【0053】
(S21)下部テーパ部形成工程S21
下部テーパ部形成工程S21は、下部テーパ部10bに対応する溶融帯11にドーパントを供給しながら下部テーパ部10bを形成する工程である。下部テーパ部形成工程S21において、所定の変更条件に基づいて、直胴部形成工程S22におけるドーパントの供給条件に対して、下部テーパ部形成工程S21におけるドーパントの供給条件を変更する。具体的には、下部テーパ部形成工程S21においては、ドーパント供給条件変更部112は、所定の変更条件に基づいてドーパントの供給条件を変更するように、ガスドープ装置7の流量制御バルブ72を制御する。例えば、ドーパント供給条件変更部112は、「下部テーパ部10bに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量を、直胴部10aに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量よりも13.8%増とする」ように、ガスドープ装置7の流量制御バルブ72を制御する。
【0054】
(S22)直胴部形成工程S22
直胴部形成工程S22は、下部テーパ部形成工程S21の後に行われる工程であり、直胴部10aに対応する溶融帯11にドーパントを供給しながら直胴部10aを形成する工程である。例えば、ドーパント供給条件変更部112は、「ドーパントガスの流量を、下部テーパ部10bに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量(13.8%増)から、直胴部10aに対応する溶融帯11へ供給するドーパントガスの流量と同一(本来の流量)とする」ように、ガスドープ装置7の流量制御バルブ72を制御する。
【0055】
(S23)テール部形成工程S23
テール部形成工程S23は、直胴部形成工程S22の後に行われる工程であり、テール部10cに対応する溶融帯11にドーパントを供給しながらテール部10cを形成する工程である。
【0056】
次に、直胴部10aに対応する溶融帯11にドーパントを供給しながら直胴部10aを形成するときに対して、下部テーパ部10bに対応する溶融帯にドーパントを供給しながら下部テーパ部10bを形成するときに、溶融帯11へのドーパントの供給条件を変更することにより、シリコン単結晶10の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶をより確実に製造することができることを知見した経緯について、説明する。
【0057】
図6は、シリコン単結晶の抵抗率分布の解析解を示すグラフである。
図7は、従来におけるシリコン単結晶の抵抗率分布の実測データを示すグラフである。
図8は、解析解と本発明のモデルとの関係を示すグラフである。
図9は、解析解と本発明のモデルでテーパ中のガス流量を無調整の場合と本発明のモデルでテーパ中のガス流量を15%増の場合との関係を示すグラフである。
図10は、下部テーパ部/テール部の長さと直胴部の流量に対する増減率との関係について、下部テーパ部/テール部の成長速度と直胴部の成長速度との比ごとに示すグラフである。
【0058】
FZ法により製造されるシリコン単結晶は、成長時に単位時間あたりに一定量のドーパントが供給されれば、
図6に示すように、結晶長さが一定以上になった後、結晶中におけるドーパントの濃度(つまり、抵抗率分布)が実質的に同一になる。なお、
図6において、「規格化抵抗率」とは、直胴部分での値が1となるよう、同部分での狙いの抵抗率で全体の分布を除したものである。
例えば、偏析係数が0.35のリン(P)であれば、結晶長さが約400mmとなった後、抵抗率分布は一定(実質的に同一)となる(
図6に示す1点鎖線参照)。ただし、
図6に示すこの結果は、素材の直径と結晶の直径とを常に同一として取り扱う解析解から導かれるものである。
【0059】
実際にFZ法によりシリコン単結晶を成長させる場合には、直径(体積の増加率)が変化する(拡大する)下部テーパ部からドーパントガスを供給し始める。
下部テーパ部においては、
図6に示す抵抗率の分布から外れることが予測されていたが、下部テーパ部の段階(結晶長さが20mmの段階)から、体積の大きい直胴部に適した流量でドーパントガスを供給していれば、直胴部において規定のドーパントの濃度に収まると考えられていた。例えば、直径が150mmや200mmであるような口径が大きい結晶では、下部テーパ部の長さは長くなってゆくので、下部テーパ部の影響は無視できる程度であると考えられていた。
【0060】
しかし、実際には、
図7に示すように、直胴部の下端部(結晶長さが500mmの位置)から約100mm(結晶長さが約600mmの位置)の間では、抵抗率が目標値(
図6に太い破線で示す)よりも高くなる現象が見られた。図
7において、白丸のプロットは、結晶4本分の抵抗率の実測値を示す。抵抗率の許容範囲の目安を、目標値の±5%程度(つまり、規格化抵抗率が0.95〜1.05程度)とすると、直胴部の下端部から約100mmの間では、抵抗率の実測値の大部分が許容範囲の目安を外れることがわかる。
【0061】
図6に示す結晶の直径が実質的に同一であるモデルでは、結晶の成長が400mm程度進行すれば、抵抗率は一定に落ち着く(定常化する)はずであるが、実際には挙動が異なっている。その理由は、結晶の直径(体積の増加率)が変化する下部テーパ部分においてドーパントの取り込まれ方が、直胴部分におけるドーパントの取り込まれ方とは異なり、この相異が直胴部における下部テーパ部に隣接する領域におけるドーパントの濃度(つまり、抵抗率)に影響を与えているためと考えられる。
【0062】
素材及び結晶が同径で変化しない場合には、素材及び結晶は、長さのみが変化する1次元として取り扱えるので、ドーパントの濃度C(x)は周知の下記式(6)に示す解析解で表すことができる。
【数5】
式(6)において、結晶のドーパン
トの濃度をC(x)とする。素材のドーパント
の濃度をC
0とする。ドーパントごとの偏析係数をk
0とする。シリコン単結晶の長手方向の位置をxとする。溶融帯の幅をwとする。なお、位置xは、直胴部10aにおける下端部を0とした座標値として設定されている。
【0063】
図
6に示すグラフは、式(6)に示す解析解を抵抗率に変換して図示したものである。これに結晶の体積(直径)の変化を考慮すると、モデルの次元を拡張する必要があるので、解析的に解くことができなくなる。これが、これまで下部テーパ部におけるドーパントの濃度分布の挙動が不明であった理由であることを、本発明者は知見した。
これに対して、本発明者は、下部テーパ部におけるドーパントの濃度分布の挙動を数値的に解くことを試み、前述の抵抗率分布モデルを導いた。
【0064】
なお、抵抗率分布モデルに不備がないことについては、
図8に示すように検証した。すなわち、抵抗率分布モデルを用いて、
図6に示す解析解がある状況(直径の変化がない状況)を計算した。ここで、溶融帯の幅w=40mm,偏析係数k
0=0.35(リン)に設定してある。実線で示す解析解と白丸のプロットで示す抵抗率分布モデルとは非常によく一致しており、抵抗率分布モデルに不備がないことを確認できる。
【0065】
次に、
図9を用いて、直径の変化がある場合における解析解と抵抗率分布モデルとの関係について説明する。
図9において、体積の変化を考慮しない解析解により導かれた抵抗率分布を1点鎖線で示す。また、ドーパントの供給条件を変更しなかった場合(流量無調整)において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を実線で示す。また、ドーパントガスの流量を15%増に変更した場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を破線で示す。下部テーパ部の形状は、仮想的に、高さが500mmの三角錐とし、下部テーパ部の成長速度は、直胴部の成長速度の1.25倍であるとした。
【0066】
図9において1点鎖線、実線及び破線で示すように、ドーパント(ドーパントガス)の供給開始直後において、抵抗率は、急激に低下するが、溶融帯の体積の増加と共に徐々に高くなる。この条件では、下部テーパ部の成長速度が直胴部の成長速度よりも速いため、ドーパントガスの供給量に対して、溶融帯の体積の増加が速く、抵抗率の目標値を超えてしまう(オーバーシュート)ことになる。この結果から明らかように、抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布は、体積の変化を考慮しない解析解とは、分布が全く異なる。
【0067】
1点鎖線で示す解析解においては、オーバーシュートの発現が示されていない。一方、実線で示す、ドーパントの供給条件を変更しなかった場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布においては、オーバーシュートの発現が示される。
つまり、ドーパントの供給条件を変更しなかった場合には、直胴部の下端部(結晶長さが500mmの位置)から約200mm(結晶長さが約700mmの位置)の間では、抵抗率が目標値(規格化抵抗率が1)よりも高く、許容範囲の目安(0.95〜1.05程度)を外れてしまう。
一方、
図9において破線で示す、ドーパントガスの流量を15%増に変更した場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布においては、オーバーシュートの発現が示されず、直胴部の下端部(結晶長さが500mmの位置)から直胴部の長手方向の全域に亘って抵抗率が目標値とほぼ一致し、許容範囲の目安から外れない。
【0068】
これらの考察から、直胴部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直胴部を形成するときと、直径拡縮部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直径拡縮部を形成するときとでドーパントの供給条件を変更することで、直胴部の長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶を得ることができること、及び、抵抗率分布モデルに基づいてドーパントの供給条件を適切に変更することで、この効果がより確実に得られることがわかる。また、このモデルを詳細に検討した結果、下部テーパ部又はテール部の形状が三角錐であると仮定した場合、ドーパントの供給条件の増減率(変更量)の最適値は、下部テーパ部又はテール部の長さ、及び、下部テーパ部又はテール部と直胴部との成長速度比で定まることがわかった。この最適値の分布を
図10に示す。
【0069】
本実施形態のシリコン単結晶製造装置1、シリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法によれば、例えば以下の効果が奏される。
本実施形態のシリコン単結晶の製造方法においては、下部テーパ部形成工程S21において、所定の変更条件に基づいて、直胴部形成工程S22におけるドーパントの供給条件に対して下部テーパ部形成工程S21におけるドーパントの供給条件を変更している(例えば、ドーパントガスの流量を15%増)。そのため、変更条件を適切に設定することにより、直胴部10aにおける下部テーパ部10bに隣接する領域において、下部テーパ部10bに隣接する領域を含む直胴部10aの長手方向の全域に亘って、直胴部10aの長手方向の抵抗率分布が実質的に同一なシリコン単結晶を得ることができる。
【0070】
また、本実施形態のシリコン単結晶の製造方法においては、変更条件は、凝固前の前記溶融帯におけるドーパントの濃度Cm(x+Δx)と、凝固後のシリコン単結晶におけるドーパントの濃度C(x+Δx)と、に基づいて算出される抵抗率分布モデルに基づいて、設定されている。そのため、適切な変更条件を容易に設定することができる。
【0071】
また、本実施形態のシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法によれば、抵抗率分布モデルを容易に算出することができる。
【0072】
以上、本発明のシリコン単結晶製造装置、シリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶の抵抗率分布の算出方法の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に制限されるものではない。
ドーパントの供給条件は、前述の実施形態においては、ドーパントを含むドーパントガスの流量であるが、これに制限されない。例えば、ドーパントの供給条件は、ドーパントガスにおけるドーパントの濃度であってもよく、あるいは、ドーパントを含むドーパントガスの流量及びドーパントガスにおけるドーパントの濃度の両方でもよい。
前述の実施形態においては、直径拡縮部としての下部テーパ部10bと直胴部10aとでドーパントの供給条件を変更しているが、これに制限されない。直径拡縮部としてのテール部10cと直胴部10aとでドーパントの供給条件を変更してもよい。つまり、前述の下部テーパ部10bに関する説明は、テール部10cにも援用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
図11は、実施例1におけるシリコン単結晶の抵抗率分布の実測データを示すグラフである。
図12は、実施例2におけるシリコン単結晶の抵抗率分布の実測データを示すグラフである。
図13は、比較例1におけるシリコン単結晶の抵抗率分布の実測データを示すグラフである。
図14は、比較例2におけるシリコン単結晶の抵抗率分布の実測データを示すグラフである。
【0074】
[実施例1]
実施例1は、直胴部の直径が205mmのシリコン単結晶をFZ法により製造する例である。実施例1においては、抵抗率分布モデルに基づいて、直胴部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直胴部を形成するときにおけるドーパントガスの流量に対して、下部テーパ部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら下部テーパ部を形成するときにおけるドーパントガスの流量を13.8%増に変更している。この「13.8%増」という変更条件は、主として、下部テーパ部の形状、下部テーパ部と直胴部との成長速度の比率などにより設定した。
【0075】
図11を用いて更に詳細に説明する。
図11において、白丸のプロットは、ドーパントガスの流量を13.8%増に変更した場合における結晶3本分の抵抗率の実測値を示す。
図9と同様に、
図11においても、ドーパントの供給条件を変更しなかった場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を実線で示す。また、ドーパントガスの流量を13.8%増に変更した場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を破線で示す。
なお、
図11及び
図13の横軸において、直胴部の下端部の位置を「結晶長さ=0mm」とした。
【0076】
FZ法により、直径205mmのシリコン単結晶を、直胴部における規格化抵抗率が1となるように、ドーパントガスとしてPH
3ガスを流しながら、3本のシリコン単結晶を製造した。
ここで、下部テーパ部の成長速度及び下部テーパ部の形状(特に下部テーパ部の長さ)を考慮して、抵抗率分布モデルを用いて計算を行ったところ、直胴部に対応する溶融帯へのドーパントガスの流量に対して、下部テーパ部においては、ドーパントガスの流量を13.8%増とすることで、直胴部の下端部(下部テーパ部に隣接し、直胴部が始まる部分)から抵抗率分布をフラットにすることができると見積もられた。これに従って、ドーパントガスの流量を「13.8%増」に設定した。
【0077】
下部テーパ部に対応する溶融帯(直胴部の下端部まで)において、直胴部に対応する溶融帯におけるドーパントガスの流量に対して13.8%増でドーパントガスを溶融帯に供給し、直胴部の下端部に達したところで即座に、ドーパントガスの流量を戻した。この結果、
図11に示すように、3本の結晶の抵抗率分布は直胴部の全域に亘ってフラットになり、不良部位は発生しなかった。
【0078】
[実施例2]
実施例2は、直胴部の直径が155mmのシリコン単結晶をFZ法により製造する例である。実施例2においては、抵抗率分布モデルに基づいて、直胴部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながら直胴部を形成するときにおけるドーパントガスの流量に対して、テール部に対応する溶融帯にドーパントを供給しながらテール部を形成するときにおけるドーパントガスの流量を40%減に変更している。この「40%減」という変更条件は、主として、テール部の形状、テール部と直胴部との成長速度の比率などにより設定した。
【0079】
図12を用いて更に詳細に説明する。
図12において、白丸のプロットは、ドーパントガスの流量を40%減に変更した場合における結晶3本分の抵抗率の実測値を示す。
図9と同様に、
図12においても、ドーパントの供給条件を変更しなかった場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を実線で示す。また、ドーパントガスの流量を40%減に変更した場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を破線で示す。
なお、
図12及び
図14の横軸において、直胴部の上端部の位置を「結晶長さ=0mm」とした。
【0080】
FZ法により、直径155mmのシリコン単結晶を、直胴部における規格化抵抗率が1となるように、ドーパントガスとしてPH
3ガスを流しながら、3本のシリコン単結晶を製造した。目標とする長さの直胴部を得た後、直径を縮小し、長さが140mmのテール部を作成した。
ここで、テール部の成長速度及びテール部の形状(特にテール部の長さ)を考慮して、抵抗率分布モデルを用いて計算を行ったところ、直胴部に対応する溶融帯へのドーパントガスの流量に対して、テール部においては、ドーパントガスの流量を40%減とすることで、直胴部の上端部(テール部に隣接し、直胴部が終わる部分)まで抵抗率分布をフラットにすることができると見積もられた。これに従って、ドーパントガスの流量を「40%減」に設定した。
【0081】
直胴部に対応する溶融帯からテール部に対応する溶融帯(直胴部の上端部まで)に達したところで即座に、直胴部に対応する溶融帯におけるドーパントガスの流量に対して40%減でドーパントガスを溶融帯に供給した。この結果、
図12に示すように、3本の結晶の抵抗率分布は直胴部の全域に亘ってフラットになり、不良部位は発生しなかった。
【0082】
[比較例1]
下部テーパ部に対応する溶融帯から直胴部に対応する溶融帯に亘って、実施例1における直胴部に対応する溶融帯と同じ条件で(ドーパントガスの流量を変化させずに)、ドーパントガスを溶融帯に供給した。それ以外の条件は、実施例と同じである。
図13において、白丸のプロットは、ドーパントガスの流量を変更しなかった場合における結晶3本分の抵抗率の実測値を示す。
図11と同様に、
図13においても、ドーパントの供給条件を変更しなかった場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を実線で示す。
この結晶の抵抗率を4探針法で測定したところ、直胴部の下端部から200mm程度の位置まで抵抗率が目標値(規格化抵抗率が1)よりも高くなる部分ができた。特に最初の100mmの部分においては、目標値からの外れが大きく、不良部位となり、製品として利用することができなかった。
【0083】
[比較例2]
テール部に対応する溶融帯から直胴部に対応する溶融帯に亘って、実施例2における直胴部に対応する溶融帯と同じ条件で(ドーパントガスの流量を変化させずに)、ドーパントガスを溶融帯に供給した。それ以外の条件は、実施例と同じである。
図14において、白丸のプロットは、ドーパントガスの流量を変更しなかった場合における結晶3本分の抵抗率の実測値を示す。
図12と同様に、
図14においても、ドーパントの供給条件を変更しなかった場合において抵抗率分布モデルにより導かれた抵抗率分布を実線で示す。
この結晶の抵抗率を4探針法で測定したところ、直胴部の上端部(0mm)から下側に40mm程度の位置まで、抵抗率の目標値(規格化抵抗率が1)からの外れが最大20%程度と大きく、不良部位となり、製品として利用することができなかった。