【文献】
P.Maurel, et al., The Journal of Neuroscience, 2000, 20(12), pp4635-4645
【文献】
T.Ogata, et al., The Journal of Neuroscience, 2004, 24(30), pp6724-6732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対象へのGGF2の投与後にシュワン細胞ミエリン化の阻害を回避する方法において使用するための、グリア成長因子2(GGF2)を含む組成物であって、該方法が、対象への体重1kg当たり500 ng±15%のGGF2の投与を含む、前記組成物。
ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者において、ミエリン形成を促進する方法において使用するための、グリア成長因子2(GGF2)を含む組成物であって、該GGF2の量が、体重1kg当たり500 ng±15%である、前記組成物。
前記ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害が、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、外傷性障害による末梢性脱髄(peripheral demyelination)、多発性硬化症、視神経炎、外傷性障害による中枢性脱髄(central demyelination)、横断性脊髄炎、進行性多巣性白質脳症、デビック病(視神経脊髄炎)、急性散在性脳脊髄炎、副腎白質ジストロフィー、および副腎白質ニューロパチー(adrenoleukoneuropathy)から選択される、請求項5〜8のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【背景技術】
【0004】
背景
ニューレグリン(NRG)およびNRG受容体は、神経、筋肉、上皮および他の組織での器官形成に関与する、細胞-細胞シグナル伝達に関する成長因子-受容体型チロシンキナーゼ系を含む(Lemke, Mol. Cell. Neurosci. 7: 247-262, 1996;Burden et al., Neuron 18: 847-855, 1997)。NRGファミリーは、上皮成長因子(EGF)様ドメイン、免疫グロブリン(Ig)ドメイン、および他の認識可能なドメインを含む多数のリガンドをコードする3つの遺伝子からなる。多数の分泌型アイソフォームおよび膜結合型アイソフォームは、このシグナル伝達系において、リガンドとして機能する。NRGの受容体は、全てEGF受容体(EGFR)ファミリーのメンバーであり、かつヒトにおいては各々HER1からHER4としても公知のEGFR(またはErbB1)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を含む(Meyer et al., Development 124: 3575-3586, 1997;Orr-Urtreger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 1867-71, 1993;Marchionni et al., Nature 362: 312-8, 1993;Chen et al., J. Comp. Neurol. 349: 389-400, 1994;Corfas et al., Neuron 14: 103-115, 1995;Meyer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 1064-1068, 1994;およびPinkas-Kramarski et al., Oncogene 15: 2803-2815, 1997)。
【0005】
Nrg-1、Nrg-2、およびNrg-3の3つのNRG遺伝子は、別個の染色体座位に位置し(Pinkas-Kramarski et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 9387-91, 1994;Carraway et al., Nature 387: 512-516, 1997;Chang et al., Nature 387: 509-511, 1997;およびZhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 9562-9567, 1997)、かつ一連の多様なNRGタンパク質を集合的にコードする。今日までに最も詳細に研究されているのは、構造的に関連したおよそ15個の別個のアイソフォームの一群を含むNrg-1の遺伝子産物である(Lemke, Mol. Cell. Neurosci. 7: 247-262, 1996およびPeles and Yarden, BioEssays 15: 815-824, 1993)。最初に同定されたNRG-1のアイソフォームは、Neu分化因子(NDF;Peles et al., Cell 69, 205-216, 1992およびWen et al., Cell 69, 559-572, 1992)、ヘレグリン(HRG;Holmes et al., Science 256: 1205-1210, 1992)、アセチルコリン受容体誘導活性(ARIA;Falls et al., Cell 72: 801-815, 1993)ならびにグリア成長因子GGF1、GGF2、およびGGF3(Marchionni et al. Nature 362: 312-8, 1993)を含んでいた。
【0006】
Nrg-2遺伝子は、相同性クローニング(Chang et al., Nature 387: 509-512, 1997;Carraway et al., Nature 387: 512-516, 1997;およびHigashiyama et al., J. Biochem. 122: 675-680, 1997)、およびゲノム的アプローチ(Busfield et al., Mol. Cell. Biol. 17: 4007-4014, 1997)によって同定された。NRG-2 cDNAはまた、神経および胸腺由来ErbBキナーゼ活性化因子(NTAK;Genbankアクセッション番号AB005060)、ニューレグリンのダイバージェント(Divergent of Neuregulin)(Don-1)、および小脳由来成長因子(CDGF;PCT出願国際公開公報第97/09425号)としても公知である。実験的証拠によって、ErbB4を発現するかまたはErbB2/ErbB4の組み合わせを発現する細胞は、NRG-2に対してとりわけ強い応答を示す可能性があることが示されている(Pinkas-Kramarski et al., Mol. Cell. Biol. 18: 6090-6101, 1998)。Nrg-3遺伝子産物(Zhang et al.,前記)はまた、ErbB4受容体に結合し、かつ活性化することも公知である(Hijazi et al., Int. J. Oncol. 13: 1061-1067, 1998)。
【0007】
EGF様ドメインは、全ての形態のNRGの中核部に存在し、かつErbB受容体への結合および活性化に必要とされる。3つの遺伝子中にコードされるEGF様ドメインの推定アミノ酸配列は、およそ30〜40%同一である(ペアワイズ比較)。さらに、NRG-1およびNRG-2においては、異なる生物活性および組織特異的な効能をもたらし得る少なくとも2つのEGF様ドメインのサブフォームが存在するように見受けられる。
【0008】
NRGに対する細胞応答は、上皮成長因子受容体ファミリーのNRG受容体型チロシンキナーゼEGFR、ErbB2、ErbB3、およびErbB4によって媒介される(Busfield et al., 1997, Mol Cell Biol. 17: 4007-14;Carraway et al., 1997, Nature 387: 512-6;Chang et al., 1997, Nature 387: 509-12)。すべてのNRGの高親和性結合は、主にErbB3またはErbB4のいずれかによって媒介される(Ferguson et al., 2000, EMBO J. 19: 4632-43)。NRGリガンドの結合によって、他のErbBサブユニットとの二量体化、および特定のチロシン残基に対するリン酸化によるトランス活性化がもたらされる(Honegger et al., 1990, Mol Cell Biol. 10: 4035-44;Lemmon and Schlessinger, 1994, Trends Biochem Sci. 19: 459-63;Heldin, 1995, Cell. 80: 213-23;Hubbard et al., 1998, J Biol Chem. 273: 11987-90)。特定の実験設定において、ErbB受容体のほぼ全ての組み合わせは、NRG-1アイソフォームの結合に応じて、二量体の形成が可能であるように見受けられる。しかしながら、ErbB2は、リガンド-受容体複合体の安定化において重要な役割を果たし得る、好ましい二量体形成パートナーであるように見受けられる。
【0009】
GGF2は、シュワン細胞の増殖、分化および保護を促進することが示されている(Goodearl et al., 1993, J Biol Chem. 268: 18095-102;Minghetti et al., 1996 J Neurosci Res. 43: 684-93)。NRG-1、ErbB2およびErbB4の発現はまた、マウス発生の間の心室筋の肉柱形成にも必要である(Meyer and Birchmeier 1995, Nature 378: 386-90;Gassmann et al., 1995, Nature 378: 390-4;Kramer et al., 1996, Proc Natl Acad Sci USA 93: 4833-8)。GGF2はまた、心筋細胞の増殖および保護を促進することも示されている(Zhao et al., 1998, J Biol Chem 273: 10261-10269)。投与に関連するパラメータは規定されていないままであるが、GGF2媒介性の神経保護はまた、脳卒中の動物モデルにおいても実証されている。
【0010】
本発明は、有害作用を限定する一方で、治療利点を最適化するGGF2投与のための方法に関する手引きを提示することによって、治療的適用に関するGGF2の使用を提起する。本発明は、特定の疾患状態について特定される血清GGF2濃度レベルに関する目標治療濃度域を規定する。
【発明の概要】
【0011】
概要
本発明は、疾患または障害の処置において有効であると決定された目標治療濃度域の範囲内に収まる血清血漿GGF2レベルを達成するように、それを必要とする患者にGGF2を投与することに関連する。本発明に従って、GGF2は薬学的組成物において投与されてもよい。
【0012】
本発明に従って、対象におけるグリア成長因子2(GGF2)の投与に続くシュワン細胞ミエリン化の阻害を回避するための方法が提示され、該方法は、神経細胞のミエリン形成を必要とする対象を提供する段階;薬学的に許容される担体においてGGF2を提供する段階;対象にGGF2を投与する段階;およびGGF2の量がシュワン細胞ミエリン化を阻害する量よりも少ない量であると決定する段階を含む。
【0013】
別の態様において、本発明は、ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者において、ミエリン形成を促進するための方法に関連し、該方法は、ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者を選択する段階;体重1kg当たり約500 ngのGGF2の量でグリア成長因子2(GGF2)を患者に投与する段階を含み、それによってミエリン形成が促進される。
【0014】
また別の態様において、本発明は、ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者においてミエリン形成を促進するための方法に関連し、該方法は、ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者を選択する段階;および約0.01 nMの血漿GGF2レベルを達成する量で、グリア成長因子2(GGF2)を患者に投与する段階を含む。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、ミエリン形成を促進するためにGGF2を使用する場合に、GGF2の治療用量範囲を拡大させるための方法に関連し、該方法は、ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を有する対象を選択する段階;GGF2とMek1/Erk経路阻害因子とを患者に投与する段階を含み、それによって、GGF2媒介性のミエリン形成が、Mek1/Erk経路阻害因子の非存在下において生じることになる場合と比べてより高い用量のGGF2で生じる。
【0016】
別の態様において、本発明は、GGF2の量がミエリン形成を促進するための治療的有効量であるかどうかを決定するための方法に関連し、該方法は、GGF2治療を受けている対象を提供する段階;および対象においてc-Junタンパク質のレベルを測定する段階であって、それによって、ベースラインc-Junレベルと比較したc-Junの増加により、GGF2の量が、ミエリン形成を促進するための治療効力の最大閾値付近であると示される段階を含む。
【0017】
本発明の特定の態様において、血漿GGF2濃度の、狭い目標治療濃度域を達成するように向けられた投与レジメを使用して、GGF2は哺乳動物に投与される。
【0018】
本明細書に記載されるように、GGF2は、シュワン細胞の増殖、分化、および保護を促進することができることが公知である。GGF2はまた、再ミエリン化を促進すること、および実験的自己免疫性脳脊髄炎を含む多発性硬化症の動物モデルにおいて、症状を軽減させることも示されている。しかしながら、一部の状況において(たとえば、高濃度のGGF2において)、GGF2は、シュワン細胞と共培養された神経細胞のミエリン形成を妨げ得る。
【0019】
本明細書に示されるデータは、GGF2が真に、末梢神経のミエリン形成を促進できることを実証するが、所望の、促進されたGGF2媒介性の末梢神経ミエリン形成を達成するためには、それを必要とする哺乳動物に対して、GGF2の正確な投与が必要とされることを開示する。本明細書に開示されるように、GGF2は、ミエリン形成を促進するために、血漿GGF2濃度が治療濃度域の範囲内となるように投与される。本明細書に示された結果がなければ、それを必要とする哺乳動物でのミエリン形成を促進するために必要とされる血漿GGF2濃度の狭い治療濃度域について、いかなる評価も存在しない。
【0020】
本明細書に示されるデータはまた、ミエリン形成を促進し、かつCRD-Nrg1欠失軸索でのミエリン形成欠損を回復させるのに、GGF2が十分であることも実証する。しかしながら、高濃度では、GGF2は、Erk依存的様式でミエリン形成を阻害する。本結果は、シュワン細胞に提示される濃度に依存して、GGF2はミエリン形成を促進し、かつ阻害する両方の能力があることを実証する。
【0021】
したがって、本発明は、GGF2媒介性のPI3キナーゼ経路の活性化とミエリン形成の促進との間に従来認識されていない正の相関関係が存在すること、およびGGF2媒介性のMek1/Erk経路の活性化とミエリン形成の促進との間に負の相関関係が存在することという、驚くべき発見に関連する。言い換えると、本発明者らは、これらの経路の活性化レベルを評価することによって、GGF2の投与は、ミエリン形成を促進するために微細に調整され得ることを発見した。本発明に従えば、対象におけるミエリン形成の促進のためのGGF2の目標治療濃度域は、検出可能なMek1/Erk経路の活性化(例えば、リン酸化Erkを検出することによってアッセイされる)の非存在下において、PI3キナーゼ経路の活性化(例えば、リン酸化Aktを検出することによりアッセイされる)を促進するGGF2量である。
【0022】
本発明の製剤および組成物は、有害作用を最小化する一方で、治療効果を最大化する、特定の、所望の放出プロファイルを提示する。所望の放出プロファイルは、薬物または活性剤の最大血漿濃度(C
max)、および特定の投与間隔での薬物または活性剤の血漿濃度(C
tau)の観点から記載され得る。C
tauに対するC
maxの比率(C
max:C
tau)は、観察されるC
maxおよびC
tauから算出され得る。投与間隔(
tau)は、薬物または活性剤の最終投与からの時間である。本出願において、C
tauが最終投与から12時間での薬物または活性剤の濃度である場合、投与間隔(
tau)は、例えば12時間であってもよい。
【0023】
さらに、本発明の製剤および組成物は、定常状態での薬物または活性剤の最大血漿濃度(C
maxSS)、および定常状態での薬物または活性剤の最小血漿濃度(C
minSS)の観点から記載され得る、所望の放出プロファイルを提示する。定常状態は、投与(吸収)速度が薬物または活性剤の消失速度と等しい場合に観察される。C
minSSに対するC
maxSSの比率(C
maxSS:C
minSS)は、観察されるC
maxSSおよびC
minSSから算出され得る。さらに、本発明の製剤および組成物は、定常状態での薬物または活性剤の平均最大血漿濃度(C
avSS)の観点から記載され得る、所望の放出プロファイルを提示する。
【0024】
再ミエリン化を必要とする患者に向けられる本発明の態様において、GGF2の目標ピーク血清レベルは、約0.01 nMである。
【0025】
再ミエリン化を必要とする患者に向けられる本発明の態様において、GGF2の目標ピーク血清レベルは、以下の任意の値であるか、もしくはおよそ以下の任意の値であるか、または以下の値の範囲内である:約0.001〜0.01 ng/ml;0.01〜0.1 ng/ml;0.1〜1.0 ng/ml;1.0〜10 ng/ml;10〜100 ng/ml;または100〜1000 ng/ml。特定の態様において、目標ピーク血清レベルは、約1.0 ng/mlである。
【0026】
脳卒中を経験している患者に向けられる本発明の態様において、GGF2の目標ピーク血清レベルは、以下の任意の値であるか、もしくはおよそ以下の任意の値であるか、または以下の値の範囲内である:約0.00001〜0.0001 ng/ml;0.0001〜0.001 ng/ml;0.001〜0.01 ng/ml;0.001〜0.01 ng/ml;0.01〜0.1 ng/ml;0.1〜1.0 ng/ml;1.0〜10 ng/ml;10〜100 ng/ml;100〜1000 ng/ml;1000〜10000 ng/ml;または10000〜100000 ng/ml。特定の態様において、目標ピーク血清レベルは、約0.2マイクログラム/mlである。
【0027】
神経疾患を有する患者に向けられる本発明の態様において、GGF2の目標ピーク血清レベルは、以下の任意の値であるか、もしくはおよそ以下の任意の値であるか、または以下の値の範囲内である:約0.001〜0.01 ng/ml;0.01〜0.1 ng/ml;0.1〜1.0 ng/ml;1.0〜10 ng/ml;10〜100 ng/ml;または100〜1000 ng/ml。特定の態様において、目標ピーク血清レベルは、約6.25 ng/mlである。
【0028】
心不全を有する患者に向けられる本発明の態様において、GGF2の目標ピーク血清レベルは、以下の任意の値であるか、もしくはおよそ以下の任意の値であるか、または以下の値の範囲内である:約0.001〜0.01 ng/ml;0.01〜0.1 ng/ml;0.1〜1.0 ng/ml;1.0〜10 ng/ml;10〜100 ng/ml;または100〜1000 ng/ml。特定の態様において、目標ピーク血清レベルは、約6.8マイクログラム/mlである。
【0029】
本発明に従って、GGF2を含む薬学的組成物は、当業者に公知の異なる経路によって投与されてもよい。例えば、静脈内投与、非経口投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、眼窩内投与、眼投与、脳室内投与、嚢内投与、髄腔内投与、大槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、エアロゾル投与、経口投与または局所(例えば、真皮を通過し、かつ血流に入ることが可能な製剤を保持している粘着性パッチを適用することによる)投与等の、任意の適切な投与経路が利用されてもよい。経口投与は、GGF2を含む徐放性の経口投与形態を含むことが意図される。本明細書に記載されるGGF2の薬学的組成物は、神経障害を患う個体を処置するために使用されてもよく、ここで薬学的組成物は、有害作用を最小化する一方で、治療効果を最大化する。
【0030】
本発明の第一の態様において、脱髄に関連する神経障害を患う哺乳動物に対してGGF2が投与され、ここでGGF2は、血漿GGF2濃度の、狭い目標治療濃度域を達成し、かつ維持する投与レジメにおいて、投与される。本明細書において開示されるように、それを必要とする対象において、ミエリン形成の誘導に関する治療効力に必要とされる血清血漿GGF2濃度を達成するために、GGF2の正確な投与が必要である。治療効力を達成するために適切なGGF2の投与が必要である脱髄障害の例は、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、外傷性障害による末梢性脱髄(peripheral demyelination)、多発性硬化症、視神経炎、外傷性障害による中枢性脱髄(central demyelination)、横断性脊髄炎、進行性多巣性白質脳症、デビック病(視神経脊髄炎)、急性散在性脳脊髄炎、副腎白質ジストロフィーおよび副腎白質ニューロパチー(adrenoleukoneuropathy)を含む。
【0031】
本発明の第二の態様において、鬱血性心不全、心筋梗塞、再潅流傷害、化学性心毒性、ウイルス性心毒性、または突発性心毒性、不整脈等の心筋障害を患う哺乳動物に対してGGF2が投与され、ここでGGF2は、血漿GGF2濃度の目標治療濃度域を達成する投与レジメにおいて投与される。
【0032】
本発明の第三の態様において、脳卒中、脊髄損傷または外傷性脳損傷を患う哺乳動物に対してGGF2が投与され、ここでGGF2は、血漿GGF2濃度の目標治療濃度域を達成する投与レジメにおいて投与される。
【0033】
本明細書において詳細に記載される任意の適用に関して、任意の適切な形態において、または薬学的組成物中の成分として、かつ任意の手段によってGGF2が投与され得ることが理解されると考えられ、それらは全て本明細書において記載され、かつ/もしくは当技術分野において理解される。
【0034】
したがって、本発明は、治療的に有効な血漿GGF2レベルに関する目標治療濃度域の同定に向けられている。目標治療濃度域は、患者の罹患している疾患または障害に依存して、および治療的に有効な適切な血漿GGF2レベルを達成することによってもたらされる所望の活性に依存して、変動する。
【0035】
症状の提示に基づいて個体を選択するための方法も、本明細書に含まれる。各々の適用に関して示されるように、治療的に有効な血漿GGF2レベルの達成に対する応答に基づいて、個体を選択するための方法も本明細書に含まれる。
【0036】
上に示される処置の方法に加え、本発明は、医用薬物の調製のための、またはそのような処置のために投与され得る医用薬物としての、本発明の任意の化合物の使用にまで拡張され、ならびに開示されかつ特定された処置のためのそのような化合物にも拡張される。
【0037】
本発明はまた、GGF2またはEGFLドメイン、およびMek1/Erk経路阻害因子を含む薬学的組成物、ならびにミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者の処置におけるその使用も含む。
[本発明1001]
対象におけるグリア成長因子2(GGF2)の投与に続くシュワン細胞ミエリン化の阻害を回避するための方法であって、
神経細胞のミエリン形成を必要とする対象を提供する段階;
薬学的に許容される担体においてGGF2を提供する段階;
対象にGGF2を投与する段階;および
GGF2の量がシュワン細胞ミエリン化を阻害する量より少ない量であると決定する段階
を含む方法。
[本発明1002]
GGF2が、静脈内、くも膜下腔内、または局所的に投与される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
決定段階が、GGF2の最大規範値より少ない量を投与することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
GGF2の最大規範値が、約0.01 nMの血漿GGF2レベルである、本発明1003の方法。
[本発明1005]
GGF2の最大規範値が、体重1kg当たり約500 ngのGGF2である、本発明1003の方法。
[本発明1006]
決定段階が、投与段階に続いてc-Junのレベルを決定することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
c-Junのレベルが増加している場合に、最初に投与した量と比較して減少させた量のGGF2を対象に投与する段階をさらに含む、本発明1006の方法。
[本発明1008]
c-Junのレベルが、細胞内液、血漿、血清、および脳脊髄液からなる群より選択される体液において決定される、本発明1006の方法。
[本発明1009]
決定段階が、Mek1/Erk経路の活性化を誘導するGGF2量を基準として、GGF2の量を決定することを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
決定段階が、リン酸化Erkの検出によって、GGF2の量がMek1/Erk経路の活性化を誘導する量を下回る量であると決定することを含み、シュワン細胞ミエリン化の阻害に関連する閾値レベルが、Mek1/Erk経路を活性化するのに十分なGGF2量である、本発明1009の方法。
[本発明1011]
決定段階が、GGF2の量がPI3キナーゼ経路に対して十分な量であると決定することをさらに含む、本発明1009の方法。
[本発明1012]
PI3キナーゼ経路の活性化が、リン酸化Aktを検出することにより評価される、本発明1011の方法。
[本発明1013]
Mek1/Erk経路の活性化が誘導された場合に、Mek1/Erk経路を阻害するのに十分な量で、Mek1/Erk経路阻害因子の一定量を対象に投与する段階をさらに含む、本発明1009の方法。
[本発明1014]
ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者において、ミエリン形成を促進するための方法であって、該方法が、
ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者を選択する段階;
グリア成長因子2(GGF2)を、体重1kg当たり約500 ngのGGF2量で患者に投与する段階
を含み、
それによってミエリン形成が促進される、方法。
[本発明1015]
GGF2の量が、体重1kg当たり500 ngのGGF2である、本発明1014の方法。
[本発明1016]
投与段階が、約0.01 nMの血漿GGF2レベルを誘発する、本発明1014の方法。
[本発明1017]
ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者において、ミエリン形成を促進するための方法であって、
ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者を選択する段階;および
グリア成長因子2(GGF2)を、約0.01 nMの血漿GGF2レベルを達成する量で患者に投与する段階
を含む方法。
[本発明1018]
GGF2が、0.01 nM GGF2の血清血漿GGF2レベルを達成するように患者に投与される、本発明1017の方法。
[本発明1019]
ミエリン形成を促進するためにGGF2を使用する場合に、GGF2の治療用量範囲を拡大させるための方法であって、該方法が、
ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を有する対象を選択する段階;
GGF2とMek1/Erk経路阻害因子とを患者に投与する段階
を含み、
それによって、GGF2媒介性のミエリン形成が、Mek1/Erk経路阻害因子の投与の非存在下において生じることになる場合と比べてより高い用量のGGF2で生じる、方法。
[本発明1020]
投与段階が、約0.01 nMを上回る血漿GGF2レベルを誘発するGGF2量を投与することを含む、本発明1019の方法。
[本発明1021]
投与段階が、0.01 nMを上回る血漿GGF2レベルを誘発するGGF2量を投与することを含む、本発明1020の方法。
[本発明1022]
投与段階が、体重1kg当たり約500 ngのGGF2より多いGGF2量を投与することを含む、本発明1019の方法。
[本発明1023]
投与段階が、体重1kg当たり500 ngのGGF2より多いGGF2量を投与することを含む、本発明1022の方法。
[本発明1024]
GGF2治療を受けている対象を提供する段階;および
対象においてc-Junタンパク質のレベルを測定する段階であって、それによって、ベースラインc-Junレベルと比較したc-Junの増加により、GGF2の量が、ミエリン形成を促進するための治療効力の最大閾値付近であると示される、段階
を含む、GGF2の量がミエリン形成を促進するための治療的有効量であるかどうかを決定するための方法。
[本発明1025]
c-Junレベルがベースラインc-Junレベルと比較して増加している場合に、対象に投与するGGF2の量を減少させる段階をさらに含む、本発明1024の方法。
[本発明1026]
c-Junレベルがベースラインc-Junレベルのままである場合に、対象に投与するGGF2の量を維持する段階をさらに含む、本発明1024の方法。
[本発明1027]
GGF2またはEGFLドメインおよびMek1/Erk経路阻害因子を含む、薬学的組成物。
[本発明1028]
ミエリン形成レベルの低下に関連する疾患または障害を患う患者の処置における使用のための、本発明1027の薬学的組成物。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本明細書に提示されるデータは、末梢神経のミエリン形成を促進するためには、例えば、血漿GGF2濃度またはGGF2用量等の治療濃度域を達成するように向けられた投与レジメを使用して、GGF2が哺乳動物に投与されなければならないことを実証した。
【0040】
定義
本明細書において使用される用語は、当業者に認識されかつ公知である意味を有するが、簡便性および完全性のため、特定の用語およびそれらの意味を以下に示す。
【0041】
本明細書に使用される「約」とは、規定値に別量を足した値か、または規定値から別量を引いた値を意味し、それによって値の範囲が確立される。特定の好ましい態様において、「約」は、基底(もしくは中心、もしくは参照)値または量に対して15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.75%、0.5%、0.25%、または0.1%までを足すか、または引いた範囲を示す。
【0042】
「上皮成長因子様ドメイン」または「EGF様ドメイン」とは、ErbB2、ErbB3、ErbB4またはそれらの組み合わせに結合し、かつそれらを活性化するNRG-1、NRG-2、またはNRG-3遺伝子によってコードされるポリペプチドモチーフを意味し、かつHolmes et al., Science 256: 1205-1210, 1992;米国特許第5,530,109号;米国特許第5,716,930号;米国特許出願第08/461,097号;Hijazi et al., Int. J. Oncol. 13: 1061-1067, 1998; Chang et al., Nature 387: 509-512, 1997;Carraway et al., Nature 387: 512-516, 1997;Higashiyama et al., J Biochem. 122: 675-680, 1997;および国際公開公報第97/09425号において開示されるように、EGF受容体結合ドメインに対する構造類似性を有する。上皮成長因子様(EGFL)ドメイン1〜6の核酸配列およびアミノ酸配列については、
図6〜11を参照のこと。
【0043】
「ニューレグリン」または「NRG」とは、NRG-1、NRG-2、もしくはNRG-3遺伝子または核酸(例えば、cDNA)によってコードされ、かつErbB2、ErbB3、もしくはErbB4またはそれらの組み合わせに結合し、かつそれらを活性化するポリペプチドを意味する。
【0044】
「ニューレグリン-1」、「NRG-1」、「ヘレグリン」、「GGF2」、または「p185erbB2リガンド」とは、ErbB2受容体に直接的に結合するか、またはErbB2受容体をトランス活性化し、かつ各々の内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,530,109号;米国特許第5,716,930号;および米国特許第7,037,888号に記載されるp185erbB2リガンド遺伝子によってコードされるポリペプチドを意味する。全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列については、
図5A〜Dを参照のこと。ニューレグリンの命名に関連する表については、
図12を参照のこと。
【0045】
NRG-1、NRG-2、およびNRG-3遺伝子によってコードされるポリペプチドは、それらがErbB受容体に結合し、かつErbB受容体を活性化するのを可能にするEGF様ドメインを有する。Holmesら(Science 256: 1205-1210, 1992)は、EGF様ドメインが単独で、p185erbB2受容体に結合し、かつp185erbB2受容体を活性化するのに十分であることを示している。したがって、NRG-1、NRG-2、およびNRG-3遺伝子によってコードされる任意のポリペプチド産物、例えば、ニューレグリン遺伝子またはニューレグリンcDNAによってコードされるEGF様ドメイン(例えば、米国特許第5,530,109号、米国特許第5,716,930号、米国特許第7,037,888号、米国特許第7,135,456号、および米国特許第7,319,019号に記載されるEGF様ドメイン;または国際公開公報第97/09425号に開示されるEGF様ドメイン)を有するポリペプチド等は、効果的な血清血漿GGF2濃度が達成される治療濃度域を達成するために、本発明の方法において使用され得る。
【0046】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される、単数形態「一つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈によって明確にその様でないと示されない限り、複数の参照を包含することも注意されねばならない。
【0047】
他に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されるものと類似のまたは同等な任意の方法および材料は、本発明の態様の実施または試験において使用され得るが、特定の方法、装置および材料を以下に記載する。
【0048】
「局所投与」とは、病気もしくは障害の部位で、またはその近傍での非全身性経路による直接投与を意味する。
【0049】
「患者」および「対象」という用語は、哺乳動物を含む全ての動物を指すように、本明細書において使用される。患者または対象の例には、ヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、およびブタが含まれる。
【0050】
本明細書に使用される、「薬学的に許容される塩、エステル、アミド、およびプロドラッグ」という用語は、適切な医学的判断の範囲内において、過度な毒性、刺激、アレルギー反応等なく患者の組織に接触させる際の使用に適し、妥当な利益/リスク比に釣合い、かつ意図される使用に関して有効な、本発明の化合物のカルボン酸塩、アミノ酸付加塩、エステル、アミド、およびプロドラッグを指し、かつ可能な場合、本発明の化合物の両性イオン性形態をも指す。
【0051】
「プロドラッグ」という用語は、例えば、血液中での加水分解によって、上記製剤の親の化合物を生じるように、インビボで迅速に変換される化合物を指す。詳細な考察は、双方ともに参照により本明細書に組み入れられる、T. Higuchi and V. Stella, "Pro-drugs as Novel Delivery Systems," the A.C.S. Symposium SeriesのVol. 14、およびBioreversible Carriers in Drug Design, ed. Edward B. Roche, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987において提供される。
【0052】
「塩」という用語は、本発明の化合物の、比較的非毒性の無機酸付加塩および有機酸付加塩を指す。これらの塩は、化合物の最終単離および精製の間にその場で(in situ)調製され得るか、または遊離塩基形態の精製された化合物と適切な有機酸または無機酸とを別個に反応させ、そのようにして形成された塩を単離することによって調製され得る。代表的な塩には、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩(naphthylate)、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、およびラウリルスルホン酸塩等が含まれる。これらには、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属およびアルカリ土類金属に基づく陽イオン、ならびに非毒性アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等が含まれてもよい(例えば、参照により本明細書に組み入れられるS.M. Barge et al., “Pharmaceutical Salts,” J. Pharm. Sci., 1977, 66: 1-19を参照のこと)。
【0053】
「治療的有効量」とは、健康状態または虚弱質に関連する症状を軽減させ、特定の身体機能の機能障害をもたらす疾患もしくは障害における身体機能を正常化させるか、または一つもしくは複数の臨床的に測定される疾患パラメータの改善を提供するのに十分な量である。好ましくは、症状の改善は、例えば歩行速度、下肢の筋緊張、下肢筋力、または痙縮等を含む、脱髄疾患に関連する症状に関連している。本出願に関連して、治療的有効量は、処置される神経障害に関連する痛み、もしくは痙縮を軽減させるのに十分な量であるか、または神経伝達を損なわせるかもしくは正常な性機能、膀胱機能、もしくは腸機能を妨げる神経障害を有する対象において、性機能、膀胱機能、もしくは腸機能の改善をもたらすのに十分な量である。
【0054】
「処置」とは、病気の継続期間の減少もしくは病気の重症度の減少、または患者の生活の質における主観的な改善もしくは患者の生存期間の延長を含む、患者の臨床症状を寛解させるための、患者に対する医用薬剤の投与または医学的手法の遂行を指す。
【0055】
本明細書において使用される、「目標治療濃度域」という用語は、所望の治療結果を達成する用量範囲または血清濃度範囲を指す。GGF2に関して、特定の態様において、目標治療濃度域は、対象においてミエリン形成を阻害するのに十分な量よりも少ない量であって、対象においてシュワン細胞のミエリン化を誘導するのに十分なGGF2の量を指す。驚くべき発見において、本発明者らは、PI3キナーゼの活性化およびMek1/Erk経路の活性化の相対レベルを決定することによって、ミエリン形成を促進する能力に関してGGF2の目標治療濃度域を同定した。より具体的には、本発明者らは、従来認識されていなかったGGF2媒介性のPI3キナーゼ経路の活性化とミエリン形成の促進との間の正の相関関係、およびGGF2媒介性のMek1/Erk経路の活性化とミエリン形成の促進との間の負の相関関係を発見した。言い換えると、これらの経路の活性化レベルを評価することにより、ミエリン形成を促進するように、GGF2の投与が微細に調整され得ることを、本発明者らは発見した。対象におけるミエリン形成の促進に関するGGF2の目標治療濃度域は、検出可能なMek1/Erk経路の活性化(例えば、リン酸化Erkを検出することによってアッセイされる)の非存在下において、PI3キナーゼ経路の活性化(例えば、リン酸化Aktを検出することによりアッセイされる)を促進するGGF2の量として定義される。リン酸化Aktおよびリン酸化Erkの検出は、ELISA、ウェスタン(免疫)ブロット、免疫細胞化学、インビトロキナーゼアッセイ、LC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)、MaldiTOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析;Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight mass spectrometry)または当技術分野に公知の他のタンパク質システム、例えばLuminex等を含む、当技術分野において公知の標準的なアッセイ法を使用して達成され得る。
【0056】
当業者は、PI3キナーゼ経路の活性化およびMek1/Erk経路の活性化の、他の細胞内マーカーが、公知であり、かつ本発明に従って使用されるということを理解するであろう。本発明に従って、PI3キナーゼ経路の活性化およびMek1/Erk経路の活性化の他の指標は、GGF2がミエリン形成を促進する治療濃度域を決定するために使用され得る。
【0057】
さらに、本発明の化合物は、非溶媒和形態で、ならびに水、エタノール等の薬学的に許容される溶媒との溶媒和形態において存在し得る。一般に、本発明の目的に関して、溶媒和形態は、非溶媒和形態と同等であると見なされる。
【0058】
MAPキナーゼ阻害因子
本発明において使用され得るMAPキナーゼ阻害因子の非限定的リストは、以下を含む:1 nMのIC50値でMKK1の活性をインビトロで強力に阻害し、かつしたがってMAPキナーゼERK1/2、p38キナーゼ、およびJNKのリン酸化および活性化、ならびにLPSで処置されたRaw264.7細胞におけるそれらの活性を阻害するアルクチゲニン(Arctigenin);MAPキナーゼ-キナーゼ(MAPK/ERKキナーゼまたはMEKとしても公知)によるMAPキナーゼのリン酸化を阻害するが、MAPキナーゼ自体を阻害しない、強力で、選択的かつ細胞透過性のMAPキナーゼ-キナーゼ阻害因子であるPD 98059。PD 98059誘導性の効果に関するIC50値は、多数のアッセイに関して1〜20μMの範囲内である。;組換えヒトp38において測定されるように、38 nMのKdで活性型キナーゼのATPポケット内に結合し、かつp38αアイソフォームおよびp38βアイソフォームを選択的に阻害する(p38α/SAPK2αおよびp38β2/SAPK2βに関するIC50値は、各々50 nMおよび100 nMである)、高度に選択的で、強力で、かつ細胞透過性のp38 MAPキナーゼの阻害因子であるSB202190;p38/SAPK2aおよびp38/SAPK2bに関して、各々50 nMおよび500 nMのIC50値を有する、高度に選択的でかつ細胞透過性のp38分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ阻害因子であり、かつ10倍より高い濃度でホスホイノシチド依存性タンパク質キナーゼ1(PDK1)も阻害する(IC50およそ3〜5μM)SB203580(Lck、GSK3bおよびAkt/PKBに対して100〜500倍の選択性を提示する);各々180 nMおよび220 nMのIC50値を有する、MKE1およびMKE2の選択的阻害因子であるSL 327。これは、全身性投与後に、海馬LTPをインビトロで阻害し、かつインビボで脳に浸透し、ラットにおいて恐怖条件付けおよび学習を遮断し、かつマウスにおいて神経保護をもたらす。;c-Jun N末端キナーゼ(JNK)の選択的阻害因子であるSP600125。これは、競合的かつ可逆的にJNK1、2および3を阻害し(IC50=40〜90 nM)、かつERK2、p38bおよび広範な他のキナーゼに対してより低い阻害効能を有することが示されており、かつインビボで活性型であることが公知である;ならびにPD 98059より100倍より高い効能を有する、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼMEK-1およびMKE-2の選択的阻害因子であり、かつPKC、Raf、ERK、JNK、MEKK、MKK-3、MKK-4/SEK、MKK-6、Abl、Cdk2およびCdk4の弱い阻害因子であり、かつ細胞ベースのレポーターアッセイにおいてAP-1トランス活性化を阻害するU0126。
【0059】
現在FDAフェーズ試験中の他の阻害因子には、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害因子(FTI)が含まれる。例えば、ザーネストラ(Zarnestra)(登録商標)(R115777、ティピファニブ)は、最も開発が進んでいるFTIである。以前に処置された転移性乳がんを患う患者の第II相試験では、持続的および間欠的の、2つの異なる投与スケジュールが試験された。2つの群における奏効率は10%および14%であり、さらに少なくとも6ヶ月にわたり安定な病状を有した患者は15%および9%であった。観察された主要な有害作用は、骨髄抑制および神経疾患であり、双方ともに、継続的投与群より間欠的投与群においてより少なかった。ザーネストラおよび他のFTIのいくつかの第I相試験は、細胞毒性化学療法との併用で遂行され、これらの併用レジメの安全性が実証されている。乳がんにおける第II相試験は、アロマターゼ阻害剤との併用においてザーネストラを使用するものを含め、進行中である。単アームの第II相試験由来のデータに基づき、ザーネストラの加速承認に対してFDA委員会が反対投票したため、急性骨髄性白血病(AML)におけるザーネストラの使用に関するFDAの承認は、保留中の第III相データである。
【0060】
ザーネストラ(登録商標)についての第I相臨床試験に関して、ザーネストラ(登録商標)は、2週間にわたって毎日2回、400 mgで経口投与される;第II相臨床試験に関して、ザーネストラ(登録商標)は、各28日周期の最初の21日間にわたって、毎日2回、300 mgで経口投与される;第III相臨床試験に関して、ザーネストラ(登録商標)は、各28日周期の最初の21日間にわたって、毎日2回、600 mgで経口投与される。
【0061】
Raf阻害因子は、現在FDAフェーズ試験中の別の種類の阻害因子を含む。例えば、ソラフェニブ(BAY 43-9006)は、Raf/MEK/Erkシグナル伝達経路のみならず、VEGFR経路およびPDGFR経路も標的にする最初の化合物である。2004年3月に、ソラフェニブは、転移性腎細胞がんに関して、FDAにより早期追跡指定を供与された。2005年4月に、ソラフェニブは、FDA早期追跡指定を供与されかつ既存の標準的治療よりも有意な利益を提供する可能性を有する治療に指定される、パイロット1プログラムに承認された。ソラフェニブに関する、いくつかの大規模な国際的多施設による第III相臨床試験も、進行段階の原発性腎臓がんおよび原発性肝臓がん、ならびに転移性黒色腫を患う患者において進行中である。
【0062】
ソラフェニブに関して、第I相臨床試験では、用量レベル1:3週間周期にわたり、一日2回、経口で200 mgのソラフェニブ、または用量レベル2:3週間周期にわたり、一日2回、経口で400 mgのソラフェニブの2つの用量レベルが試験された。
【0063】
進行性腎臓がんを有する患者において進行中の、第III相試験の中間解析計画の結果が、最近発表された(それらの全体の内容が本明細書に組み入れられる、Escudier et al. J Natl Cancer Inst. 2008 100: 1454-63)。769人の解析された患者のうち、無増悪生存機関(PFS)は、プラセボを用いた12週間と比較して、ソラフェニブを用いて24週間の中央値に倍加した。ソラフェニブの利点は、年齢、疾患の継続期間、または以前の治療に関わらず、全ての患者の部分集団において観察された。ソラフェニブを受けた80%の患者において疾患制御が達成され、78%は安定な病状(プラセボアームの55%に対して)を有し、かつ2%は部分的応答(プラセボアームの皆無に対して)を示した。12週間の無増悪率は、ソラフェニブに関して79%、それに対し、プラセボに関して50%であった。さらにソラフェニブは、768人の患者において非常によく許容され、かつ最も共通の有害作用は、高血圧、疲労、下痢、ならびに手および足の発疹(手足症候群)を含む発疹であった。第II相有効性試験では、進行性肺がん、乳がん、および他のがんにおける単一剤として、ソラフェニブを研究中である。第I/II相臨床試験では、広範な標準的化学療法および他の抗がん剤との併用において、ソラフェニブを調査中である。
【0064】
ISIS 5132は、第I相試験において、許容できる毒性を示している別のraf阻害因子である。第II相試験は、様々な種類のがんにおいて現在進行中である。
【0065】
現在FDAフェーズ試験中の他の阻害因子には、MEK阻害因子が含まれる。例えば、CI-1040は、経口的で、選択的な、MEK1〜2の小分子阻害因子である。動物試験および培養試験によって、乳がん細胞株におけるこの物質の活性が示されている。第I相試験によって、軽度の胃腸および皮膚の有害作用が見出されている。CI-1040処置はよく許容されたが、残念なことに、4種の異なる腫瘍(進行性結腸直腸がん、NSCLC、乳がん、および膵臓がん)を患う67人の患者における第II相試験では、いかなる応答も見出されなかった。
【0066】
第二世代のMEK阻害因子であるPD 0325901は、最近臨床開発に入り、かつCI-1040と比較して顕著により良好な薬学的性質を有するように見受けられ、研究者らは、より良好な抗がん効力につながり得ることを期待している。それは黒色腫患者において、いくらかの部分的応答を示している。
【0067】
PD 0325901に関して、第Iおよび第II相臨床試験では、複数の用量レベルが試験された。一日1回または一日2回のいずれかで経口投与され;いくつかの投与スケジュールが評価され;現在の投与スケジュールは、28日周期の3週間にわたって、5日間は薬物投与され、2日間は薬物なしである。評価用量は、一日1回1 mg〜毎日2回30 mgまで及んだ。とりわけ、一日2回10 mg、およびそれより高い用量で提示された眼毒性および神経毒性の安全性に関する懸念のため、臨床試験は尚早に中断された。
【0068】
本発明は、記載される特定の分子、組成物、方法論またはプロトコールに限定されないことが理解されるべきであり、なぜならそれらは変動する可能性があるからである。記載に使用される用語は、特定の態様のみを記載するためであり、かつ添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されない。
【0069】
投与:
ニューレグリン、およびニューレグリン遺伝子によりコードされるEGF様ドメインを含むポリペプチドは、単位用量形態において、薬学的に許容される希釈剤、担体もしくは賦形剤とともに、患者または実験動物に投与されてもよい。患者もしくは実験動物にそのような組成物を投与する適切な製剤または組成物を提供するために、従来の薬学診療が利用され得る。例えば、静脈内投与、非経口投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、眼窩内投与、眼投与、脳室内投与、嚢内投与、髄腔内投与、大槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、エアロゾル投与、経口投与、または局所(例えば、真皮を通過し、かつ血流に入ることが可能な製剤を保持している粘着性パッチを適用することによる)投与等の、任意の適切な投与経路が利用され得る。治療製剤は、液体溶液または懸濁液の形態であってもよい;経口投与に関して、製剤は錠剤またはカプセル剤の形態であってもよい;かつ鼻腔内製剤に関して、製剤は粉剤、鼻ドロップ剤、またはエアロゾルの形態であってもよい。上記の任意の製剤は、徐放製剤中にあってもよい。
【0070】
製剤を作製するための当技術分野において周知の方法は、例えば、全体が本明細書に組み入れられる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」中に見出される。例えば、非経口投与のための製剤は、賦形剤、無菌水または生理食塩水、ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、植物起源の油脂、または水素化ナフタレンを含んでもよい。徐放性で、生体適合性の生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーが、化合物の放出を制御するために使用されてもよい。本発明の分子を投与するための他の有用な非経口送達システムには、エチレン酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、植え込み型注入システム、およびリポソームが含まれる。吸入のための製剤は、例えばラクトース等の賦形剤を含んでもよく、または例えばポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココール酸およびデオキシコール酸等を含む水溶性溶液であってもよく、または鼻ドロップ剤の形態での投与のための油性溶液であってもよく、またはゲル剤であってもよい。
【0071】
したがって、かつ以前に述べられたように、本発明は、記載される処置の方法、およびそのような方法に関して有用な医用薬物の調製のためのそのような化合物の使用をその範囲内に包含し、かつ拡張する。
【0072】
脱髄疾患:
ミエリン鞘は、中枢神経系および末梢神経系において、多数の神経線維を被覆している。無傷のミエリン鞘の存在は、神経インパルスの軸索伝達を促進する。ミエリンに影響を及ぼす障害は神経伝達を妨げ、疾患症状は神経系のいかなる部分の欠損をも反映し得る。
【0073】
中枢神経系(CNS)中のオリゴデンドログリアによって形成されるミエリンは、末梢でシュワン細胞によって形成されるものとは、化学的かつ免疫学的に異なる。したがって、一部のミエリン障害(例えば、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーおよび他の末梢神経多発ニューロパチー等)は、主に末梢神経に影響を与える傾向があるが、他のミエリン障害は、主にCNSに影響を与える。CNS中で最も一般的に影響を受ける領域は、脳、脊髄、および視神経である。
【0074】
脱髄は、往々にして感染障害、虚血性障害、代謝障害、または遺伝性障害に続発的である。原因は不明であるが、障害が時折ウイルス感染またはウイルスワクチン接種の後に生じるため、原発性脱髄障害においては自己免疫メカニズムが疑われている。
【0075】
脱髄は、区分的または断片的である傾向があり、同時にまたは順次に複数領域に影響を及ぼす。しかしながら、神経機能の修復、再生および完全な回復を伴い、再ミエリン化が起こり得る。しかしながら、広範なミエリン損失は、通常軸索変性、および往々にして細胞体変性を伴う。
【0076】
多発性硬化症(MS)は、脳および脊髄における、脱髄の点在斑によって特徴付けられる。一般的な症状には、視覚異常および眼球運動異常、知覚異常、脱力、痙縮、排尿障害、および軽度認知障害が含まれる。典型的には、神経欠損は、次第に能力障害を生じながら、緩解および再燃を伴い複合的である。診断は、緩解および再燃の病歴に加え、臨床兆候、検査結果、磁気共鳴画像(MRI)で見られる損傷、または2つ以上の別個の神経異常を客観的に実証する他の診断基準(症状に依存して)による。処置には、急性再燃のためのコルチコステロイド、再燃を防止する免疫調節薬剤、および支援措置が一般的に含まれる。
【0077】
MSにおいて、脱髄の局所的な領域(プラーク)が生じ、オリゴデンドログリアの破壊、血管周囲の炎症、ならびにプラーク中およびプラーク周辺での、ミエリンの脂質ならびにタンパク質成分における化学変化を伴う。軸索損傷の可能性はあるが、細胞体および軸索は比較的よく保存される傾向にある。主に白質、とりわけ側柱および後柱(とりわけ頸部中)、視神経、ならびに脳室周囲領域中のCNS全体に汎発されるプラーク中で線維グリオーシスが発達する。中脳、脳橋および小脳中の路も影響を受ける。小脳中の灰白質および脊髄は、極めてより低い程度であるが影響され得る。
【0078】
心臓疾患
心臓疾患は、心臓に影響を及ぼすいくつかの異なる疾患に関する、一般的な用語である。これは、米国を含む多数の工業先進国における主な死因である。以下の広範な心臓疾患のカテゴリーが、導入のために提示される。外因性心筋症は、主要な病態が心筋の外に存在する心筋症である。心筋症の最も一般的な原因は虚血であるため、大多数の心筋症は外因性である。内因性の心筋症は、同定可能な外因によるものではない心筋の衰弱に由来する。一方、循環器疾患とは、心臓自体および/または血管系、とりわけ心臓につながり、かつ心臓から出る静脈ならびに動脈に影響を及ぼす多数の特定の疾患を指す。疾患二形性に関する研究によって、循環器疾患を患っている女性は、通常、血管に影響を与える形態を患い、一方男性は、通常、心筋自体に影響を与える形態を患うことが示唆されている。循環器疾患の公知の原因、または関連付けられている原因には、糖尿病、高血圧、高ホモシステイン血症、および高コレステロール血症が含まれる。虚血性心臓疾患は、また別のカテゴリーの心臓自体の疾患であり、臓器への血液供給の減少が特徴的である。
【0079】
高血圧性心臓疾患は、高い血圧、とりわけ局所的な高い血圧により引き起こされる心臓疾患を指す用語である。炎症性心臓疾患は、心筋および/またはその周辺の組織の炎症を伴う。心臓弁膜症は、一つまたは複数の心臓弁膜を含む任意の疾患プロセスである。心臓右側の弁膜は、三尖弁および肺動脈弁であり、ならびに心臓左側の弁膜は、僧帽弁および大動脈弁である。
【0080】
工業先進国における主な死因の一つである鬱血性心不全は、心臓に対する作業負荷の増加、およびそのポンプ機能の段階的な低下に起因する。体全体に十分量の血液を充足し、もしくはポンプする心臓機能を損傷するいかなる構造的心臓障害または機能的心臓障害にも起因し得る。初期には、高血圧または収縮組織の損失に起因する作業負荷の増加によって、代償性心筋細胞肥大および左心室壁の肥厚が誘導され、それによって収縮性が増強され、かつ心臓機能が維持される。しかしながら、時間の経過とともに、左心室腔が拡張し、収縮ポンプ機能が悪化し、心筋細胞がアポトーシス細胞死を受け、かつ心筋機能が次第に悪化する。
【0081】
鬱血性心不全の根底にある因子には、高血圧、虚血性心臓疾患、アントラサイクリン系抗生剤等の心毒性化合物への曝露、および心不全のリスクを増加させることが公知の遺伝学的欠損が含まれる。
【0082】
「鬱血性心不全」とは、安静時もしくは運動時に、心臓が正常な血液出力を維持することを不可能にするか、または正常な心臓充満圧の設定で正常な心拍出量を維持することを不可能にするような、損傷を受けた心臓機能を意味する。約40%またはそれより少ない左室駆出分画率は、鬱血性心不全の指標である(比較のため、約60%の駆出分画率が正常である)。鬱血性心不全の患者は、頻呼吸、胸水、安静時または運動時の疲労、収縮不全および浮腫等の、周知の臨床症状ならびに兆候を提示する。鬱血性心不全は、周知の方法(例えば“Consensus recommendations for the management of chronic heart failure.”Am. J. Cardiol., 83(2A): 1A-38-A, 1999を参照のこと)によって容易に診断される。
【0083】
相対的重症度および疾患進行度は、身体検査、心エコー検査、放射性核種撮像、侵襲性血行動態モニタリング、磁気共鳴血管撮影、および酸素摂取量試験と組み合わせた運動トレッドミル試験等の、周知の方法を使用して評価される。
【0084】
「虚血性心臓疾患」とは、心筋の酸素需要と適切な酸素供給との不均衡に起因する任意の障害を意味する。虚血性心臓疾患の大多数の場合は、アテローム性動脈硬化または他の血管障害において生じるような、冠動脈の狭窄に起因する。
【0085】
「心筋梗塞」とは、瘢痕組織により置換されている心筋の領域が、虚血性疾患によってもたされるプロセスを意味する。
【0086】
「心毒性」とは、直接的もしくは間接的に心筋細胞を損傷させるか、または心筋細胞を死滅させることによって心機能を低下させる化合物を意味する。
【0087】
「高血圧」とは、正常より高く、かつ鬱血性心不全を発症するリスクの増加を伴うと、医療専門家(たとえば、医者または看護師)が見なすような血圧を意味する。
【0088】
「処置する」とは、ニューレグリンまたはニューレグリン様ポリペプチドの投与が、統計学的に有意な様式で、処置の非存在下において生じると考えられる疾患の進行と比較して、処置の間に鬱血性心不全の進行を遅延させるか、または阻害することを意味する。左室駆出分画率、運動能力および他の臨床試験、ならびに生存率および入院率等の周知の徴候が、疾患の進行を評価するために使用され得る。統計学的に有意な様式で、処置が疾患の進行を遅延させるか阻害するかどうかは、当技術分野において周知の方法によって決定され得る(例えば、SOLVD Investigators, N. Engl. J. Med. 327: 685-691, 1992およびCohn et al., N. Engl. J Med. 339: 1810-1816, 1998を参照のこと)。
【0089】
「心筋菲薄化の進行の低減」とは、心室壁の厚みを維持するかまたは増加させるように、心室心筋細胞の肥大を維持することを意味する。
【0090】
「心筋性アポトーシスを阻害する」とは、ニューレグリン処置が、未処置の心筋細胞と比較して、心筋細胞の死滅を少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、またより好ましくは少なくとも25%、さらにより好ましくは少なくとも50%、またより好ましくは少なくとも75%、かつ最も好ましくは少なくとも90%阻害することを意味する。
【0091】
脳卒中
脳卒中または脳血管障害(CVA)とは、脳に血液を供給する血管中の障害によって、迅速に発展する脳機能の損失を指すために使用される用語である。脳部分への血液供給が突然中断された場合に、または脳中の血管が破裂し、脳細胞周辺の空間に血液を溢流させた場合に、脳卒中が生じる。脳細胞が血液から酸素および栄養素をもはや受け取らない場合、または脳中へもしくは脳周辺での突然の出血がある場合、脳細胞は死滅する。脳卒中の症状には、とりわけ身体の片側の突然の無感覚もしくは脱力感;突然の錯乱状態、もしくは発話困難、もしくは言語理解困難;突然の片方もしくは両方の眼における視力上の困難;突然の歩行困難、眩暈、もしくは平衡感覚喪失もしくは協調感覚喪失;または公知の原因が不明の突然の重度頭痛が含まれる。脳に供給する血管の遮断による虚血性(例えば、血栓症または塞栓症により引き起こされる);脳中へのまたは脳周辺での出血に起因する出血性の、2つの形態の脳卒中が存在する。
【0092】
治療濃度域に関する指標
本明細書に記載される各疾患の適用に関して、血清血漿GGF2レベルに関する目標治療濃度域が確立される。本明細書に記載される実験結果に従い、GGF2が脱髄に関連する神経障害を患う哺乳動物に投与される場合、血漿GGF2濃度の、狭い目標治療濃度域を達成し、かつ維持する投与レジメにおいて、GGF2が投与されなければならない。本明細書において開示されるように、それを必要とする対象において、ミエリン形成の誘導に関する治療効力に必要とされる血清血漿GGF2レベルを達成するために、GGF2の正確な投与が必要である。
【0093】
再ミエリン化を必要とする患者に向けられる本発明の特定の態様において、GGF2の目標血清血漿レベルは、約0.01 nMである。
【0094】
再ミエリン化を必要とする患者に向けられる本発明の別の態様において、GGF2は、患者の体重1kg当たり約500 ngの量で投与される。
【0095】
本発明の組成物は、それを必要とする患者でのGGF2の治療有効濃度の確立を含む、患者における状態の処置において使用され得る。患者のGGF2のレベルを増加させ、かつまたは治療有効濃度を維持するために、本組成物が使用され得る。望まれる場合、本発明の組成物は、最初のGGF2放出における大きなピークを回避するように製剤化されてもよい。それを必要とする患者に投与される場合、本発明の組成物は、上記疾患の処置を提供する。好ましくは、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも8時間、かつより好ましくは少なくとも10〜12時間にわたって患者において維持される治療的に有効な血漿GGF2レベルを達成するように、本組成物が投与される。
【実施例】
【0096】
材料および方法
抗体
免疫蛍光解析に関して、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)に対するモノクローナル抗体(SM194)(Sternberger monoclonals)を、1:500の希釈で使用した。ウェスタンブロット解析に関して、活性型erbB2(p-Neu/Tyr 1248)、erbB2およびerbB3に対するポリクローナル抗体を全てSanta Cruzから得て、1:1000の希釈で使用した。リン酸化Aktに対するモノクローナル抗体、およびリン酸化MAPKに対するポリクローナル抗体をCell Signalingから購入し、各々1:1000および1:500の希釈で使用した。AktおよびMAPK(Promega)に対するポリクローナル抗体を、各々1:1000および1:5000の希釈で使用した。
【0097】
II型ニューレグリン-1およびIII型ニューレグリン-1
組換えヒトグリア成長因子II(rhGGF-II、II型Nrg1)を、Acorda Therapeutics, Inc.から得た。組換えヒト感覚および運動神経由来因子(rhSMDF、III型Nrg1)を、R&D Systemsから購入した。本研究において、rhGGF-IIおよびrhSMDFは単に、各々GGF(またはGGF2)およびSMDFと称される。GGFは、EGFドメインおよびIg様ドメインを含むN末端の419アミノ酸残基であった。したがって、GGFは、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを欠如する可溶性タンパク質である。
【0098】
ラット初代シュワン細胞培養
以前に記載されるように(Brockes et al., Brain Res. 1979; 165: 105-118)、新生仔ラット(1〜2日齢)の坐骨神経から、シュワン細胞を調製した。ルーチンの培養に関して、EGFドメインニューレグリン-1(R&D Systems)(10 ng/ml)およびフォルスコリン(2μM)を添加した10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle’s medium)(DMEM)中で、シュワン細胞を増殖させた。本文中に記載される全ての実験において、継代数2〜4の細胞を使用した。
【0099】
後根神経節(DRG)神経細胞とシュワン細胞の共培養
以前に記載されるように(Eldridge et al., J Cell Biol. 1987; 105(2): 1023-34)、胎生期14.5日のラット胚から分離DRGを調製し、コラーゲン(1型ラット尾コラーゲン)で被覆された12 mmガラスカバースリップ上に、1.25 DRG/カバースリップの密度で播種した。5〜6時間後、B27(GIBCO)、20%グルコース、NGF(50 ng/ml)および5-フルオロデオキシウリジン(FUdR、10μM)を添加した神経細胞培養用基礎(neurobasal)培地(Cellgro)で培養物を満たし、増殖中の非神経細胞を除去するため、培地中でさらに2〜3日間にわたって維持した。続いて、FUdRを含まない新鮮な培地に培養物を交換し、DRGの軸索がカバースリップの周辺部に達するまで維持した。軸索ネットワークが確立された後、100,000細胞/カバースリップの密度で、シュワン細胞を神経細胞上に播種した。4〜5日後、10%熱不活化されたFBS、20%グルコース、NGF(50 ng/ml)およびアスコルビン酸(50μg/ml)を添加した最小必須培地(MEM)である、ミエリン形成用培地(myelinating medium)に、培養物を交換した。10〜11日後、MBPに関する免疫染色によりミエリン形成を評価した。
【0100】
上頸神経節(SCG)神経細胞とシュワン細胞の共培養
以前に記載されるように、生後1〜2日のラットから分離SCGを調製し、コラーゲンで被覆された12 mmガラスカバースリップ上に0.8 SCG/カバースリップの密度で播種した。翌日、B27(GIBCO)、20%グルコース、NGF(50 ng/ml)および5-フルオロデオキシウリジン(FUdR、10μM)を添加した神経細胞培養用基礎培地で培養物を満たし、増殖中の非神経細胞を除去するために、培地中でさらに2〜3日間にわたって維持した。FUdRを含まない新鮮な培地に培養物を交換し、軸索がカバースリップの周辺部に達するまで維持した。シュワン細胞を神経細胞上に播種し、シュワン細胞が軸索に集合するまで(約7〜10日間)、補充物質を含む神経細胞培養用基礎培地中で維持した。DRG-シュワン細胞の共培養物に関して記載されるように、培養物をミエリン形成用培地中に置くことによってミエリン形成を開始させた。40日後、MBP免疫染色によりミエリン形成を評価した。
【0101】
免疫沈降およびウェスタンブロット解析
細胞溶解物を調製するため、60 mmプレート上で90〜95%コンフルエントのラットシュワン細胞または共培養物を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2回洗浄し、続いて300μlの氷冷溶解緩衝液(50 mM Tris HCl pH7.4、1%NP-40、0.25%デオキシコール酸ナトリウム、150 mM NaCl、1 mM EGTA、10μg/mlロイペプチン、2μg/mlアプロチニン、1 mM PMSFおよび0.5 mMオルトバナジン酸ナトリウム)中に溶解させた。14,000 rpmで15分間にわたる冷却での遠心分離によって溶解物を清浄し、製造者の仕様書(Bio-Rad:Hercules, CA)に従って、上清のタンパク質濃度を決定した。ウェスタンブロット解析に関しては、50〜70μgのシュワン細胞溶解物を10% SDS-ポリアクリルアミドゲル上でサイズ分画し、PVDF膜上に移した。5%ミルク中でブロッキングした後、ブロッキング溶液中に調製された適切な一次抗体と共に膜をインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体と共にインキュベートした後、増強化学発光法によって、タンパク質のバンドを可視化した。免疫沈降に関しては、500μgのシュワン細胞溶解物を、0.6μgの一次抗体と共に4℃で3時間にわたってインキュベートし、その後50μlのセファロースAビーズと共に1時間にわたってインキュベートした。溶解緩衝液中でビーズを5回洗浄し、ビーズに結合したタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル上で分画し、ウェスタンブロット解析に供した。
【0102】
MBPに関する免疫蛍光染色
DRG-シュワン細胞またはSCG-シュワン細胞の培養物を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でリンスし、4%パラホルムアルデヒド中で20分間にわたって固定した。PBSで洗浄した後、氷冷メタノール中で試料を25分間にわたって透過処理し、続いて室温で1時間にわたってブロッキング溶液(5%正常ヤギ血清+0.3%Triton X)中でインキュベートした。続いてこれを、ブロッキング溶液中に調製された一次抗体と共に、一晩にわたってインキュベートした。PBSで洗浄した後、Alexa-488結合ヤギ抗マウス二次抗体と共に、45分間にわたって試料をインキュベートした。細胞の核を、DAPIによる染色によって可視化した。
【0103】
リアルタイム定量的PCR
統計学的解析
SASプログラミングソフトウェアを使用して、95%の有意水準で一元配置分散分析を遂行した。
【0104】
結果
ミエリン形成に対するGGF2の阻害機能は、MAPK活性化により媒介されている。初期の研究によって、シュワン細胞-神経細胞の共培養物に添加される場合、Nrg1 II型(GGF2)はミエリン形成を阻害することが示されている。PI3キナーゼ経路の活性化はミエリン形成を促進し、シュワン細胞のミエリン化状態は、PI3キナーゼ経路とRas/Raf/MAPK経路との均衡によって決定されるという知見が導かれたが(Ogata et al., J Neurosci 2004; 24: 6724-32)、Ras/Raf/MAPK経路の活性化は、シュワン細胞におけるミエリン関連遺伝子発現を阻害することも報告されている。本発明者らは、GGF2がMAPKの活性化を介して作用し、ミエリン形成を阻害する場合、GGF2誘導性のMAPK活性化の阻害は、ミエリン形成に対する阻害効果を逆転させるであろうと予測した。ミエリン形成に対するGGF2の阻害効果が、シュワン細胞における強固なMAPKの活性化を誘導するその能力によるものであり得るという可能性を評価するために、本発明者らは、シュワン細胞が後根神経節(DRG)神経細胞と共培養され、かつ培養培地中にアスコルビン酸を添加することにより関連軸索のミエリン形成を誘導する、よく確立されたインビトロミエリン形成培養システムを使用した。まず、共培養物中でMAPKの活性化に対するGGF2の効果を決定するために、初代シュワン細胞をDRG神経細胞上に播種し、軸索を増殖させた。培養物が増殖を停止した時点で、0.6 nMのGGF2を用いて共培養物を刺激した。20分後、細胞溶解物を調製し、ウェスタンブロット解析によってMAPKの活性化を決定した。対照の共培養物中では、低レベルの活性型MAPKが存在した。
図1に示されるように、GGF2での処置によって、MAPK活性化のレベルがさらに増加した。MAPKキナーゼの薬理学的阻害剤であるU0126での処置によって、GGF2誘導性のMAPK活性化が遮断され得るかどうかを決定するため、GGF2刺激に先立ち、漸増濃度のU0126(0.5μM、1μM、3μM、および10μM)で30分間にわたり共培養物を事前処置し、これらの濃度を培養培地中で維持した。GGF2処置の非存在下において、対照培養物を阻害剤で処置した。リン酸化MAPKレベルの段階的な低下によって示されるように、対照および実験培養物の双方において、U0126媒介性のMAPK阻害は濃度依存的であった。GGF2および1μM濃度のU0126で処置された培養物中では、活性化のレベルが基底レベルにまで低下し、一方10μMのU0126では、共培養物中のMAPKの活性化は完全に消滅した。GGF2誘導性のPI3キナーゼ活性化に対して、U0126はいかなる影響も有しなかった。
【0105】
ミエリン形成に対するMAPK阻害の効果を評価するために、ミエリン形成を開始する時点でU0126の存在下、または非存在下においてGGF2で共培養物を処置し、記載されたミエリン形成条件下で同一条件を維持した。対照培養物は、記載されたミエリン形成条件下で未処置のままであった。10〜11日後、培養物を固定し、ミエリン区分を可視化するためにミエリン塩基性タンパク質(MBP)に関して免疫染色した。GGF2で処置された培養物においては、以前に示されているように、ミエリン区分の数に顕著な減少が見られ、ミエリン形成に対するGGF2の阻害効果を明示している。しかしながら、U0126で同時処置された培養物においては、ミエリン形成に用量依存的な増加が見られ、MAPK活性化の遮断が、GGF2の阻害効果を逆転させたことを示している。
【0106】
GGF2は低濃度でミエリン形成を促進する:
MAPK活性化のレベルは、漸増濃度のGGF2で処置されたシュワン細胞において安定に増加したが、本発明者らは、0.01μMを下回る低濃度では、Akt活性化のレベルは基底レベルを上回り有意に増加したが、いかなる検出可能なレベルのMAPKの活性化も見られなかったことを観察した。シュワン細胞のミエリン化状態が、Akt活性化とMAPK活性化との均衡によって決定される場合、本発明者らは、これらの濃度でのMAPK活性の非存在下におけるAkt活性化の増加が、ミエリン形成に対する正の効果と相関するかどうかを評価することを探求した。この可能性を調査するために、ミエリン形成を開始する時点で、0.0005〜0.03 nMまでの範囲の濃度のGGF2で共培養物を処置した。後に培養物を固定し、MBPに関して免疫染色した。本知見に基づいて予測されたように、未処置の対照培養物と比較して、0.0005〜0.01 nMまでの範囲の低用量のGGF2で処置された培養物において、ミエリン形成レベルの増加が見られた。定量された場合、結果は、ミエリン区分の数における用量依存的な増加が存在することを実証した(
図2):対照レベルと比較して、0.0005 nM、0.001 nM、および0.01 nMのGGF2で、各々1.9倍、2.7倍、および3.5倍のミエリン形成の増加。0.03 nMでは、対照培養物に近接するか、またはわずかに対照培養物を下回るミエリン形成レベルの劇的な低下が見られた。後に続くGGF2量の増加によって、さらなるミエリン形成の低下がもたらされた。GGF2応答性のミエリン形成は、0.6 nMのGGF2で完全に阻害された。この濃度は、
図1に示されるように、共培養物における活性型MAPKの出現に対応する。これらの結果は、GGF2が、ミエリン形成の際に、一方でミエリン形成を促進しかつ他方で阻害するといった、二元的な役割を果たすこと、および2つの対立する機能は、シュワン細胞に提示されるGGF2の用量によって決定されることを示唆している。
【0107】
GGF2の対立する機能は、Mek/Erk活性化によって媒介される:
GGF2の対立する機能をさらに調査するために、さらなる実験を遂行した。以前の研究は、Ras/Raf/ErkおよびPI3キナーゼを、各々ミエリン形成の負の調節因子および正の調節因子に関連付け、二者間の均衡が、シュワン細胞のミエリン化状態と相関することを示唆している。GGF2により誘導される経路の活性化状態をさらに明示するために、1 nMの可溶性GGF2タンパク質で共培養物を処置した。本発明者らは、この濃度で、GGF2が効果的にミエリン形成を阻害したことを決定した。GGF2処置に続き30分後に細胞溶解物を調製し、ウェスタンブロット解析によってリン酸化タンパク質の存在を決定した(
図3A)。1 nMで(
図3A、囲みレーン)、GGF2は、基底レベルを上回ってAktの活性化を増加させた。この濃度でGGF2処置された培養物においても、Erk活性化の増加を観察した。0.6 nMもの低濃度のGGF2が、GGF2処置された培養物におけるErk活性化に関して十分であることが示された。
【0108】
上の結果を裏付け、かつErk活性化とミエリン形成に対するGGFの阻害効果との間の相関的関連性をさらに調査するため、さらなる実験を遂行した。したがって、上に記載のMek1/Erk経路の特定の阻害因子である漸増濃度のU0126と共に、GGF2で共培養物を処置した。
図3B中に示されるウェスタンブロット解析は、U0126はAkt活性化に対していかなる影響も有しなかったが、GGF2誘導性のErk活性化を用量依存的な様式で阻害したことを示す。共培養システム中で通常観察される低いレベルの内在性Erk活性も、薬物処置で低下した。
【0109】
本発明者らは、ミエリン形成に対するMek1/Erk阻害の効果をさらに評価した。
図3Cおよび
図3Dに示されるように、高濃度のGGF2の添加は、共培養物中でのミエリン形成をほぼ完全に阻害した。しかしながら、ミエリン形成レベルの用量依存的な増加によって示されるように(
図3Cおよび
図3D)、U0126で同時処置された培養物において、GGF2の阻害効果は逆転した。この結果は、ミエリン形成に対するGGF2の阻害効果が、Erkの活性化により媒介されていることの直接的な証拠を提供する。興味深いことに、GGF2の非存在下における共培養物中でのU0126処置も、ミエリン形成レベルの増加をもたらし(
図3E)、内在性Mek1/Erk活性が、内因性のミエリン形成の負の調節因子として機能することを示している。
【0110】
共培養物から調製された溶解物に対するウェスタンブロット解析はまた、シュワン細胞の分化およびミエリン化の負の調節因子であるc-Junタンパク質の発現が、GGF2処置により増加したことも明示した。後に続くGGF2誘導性のMek1/Erk活性の阻害は、c-Junレベルを下方調節し、続いて、ミエリンタンパク質の発現の増加を伴った。c-Junに対する効果とは異なり、U0126処置は、共培養物中でのKrox20の発現の増加をもたらした。これは、ミエリン形成の調節における、c-JunとKrox20との間の交差拮抗の関係を示唆する最近の報告と一致する(Parkinson et al, 2008, Journal of Cell Biology 181: 625-637)。
【0111】
GGF2はシュワン細胞のミエリン化を促進する:
本明細書において提示される結果を裏付け、かつ拡張し、GGF2の対立する機能をさらに評価するために、本発明者らは、シュワン細胞において、Ras/Raf/ErkおよびPI3キナーゼ活性化に対するGGF2の濃度依存的な効果を評価した。0.0003〜10 nMの範囲の様々な濃度のGGF2で細胞を処置し、ウェスタンブロット解析によって、Erk活性化およびAkt活性化のレベルを決定した。活性化レベルの画像および相対的増加は、
図4Aおよび4B中に提示される。活性型Aktのレベルは、試験された最低用量の時から安定に増加したが、Erk活性化にはより高い濃度のGGF2を必要とした。結果として、低濃度での2つの経路の差次的な活性化によって、AktがGGF2に応答して活性化される主要な経路であった、狭い用量濃度域(0.003〜0.01 nM、
図4B中の囲み)が生成された。次に、ミエリン形成に対する様々な用量のGGF2の効果を、共培養システムにおいて決定した。GGF2は、低い濃度域で用量依存的な前ミエリン形成効果(promyelinating effect)を誘発した:対照培養物と比較して、0.0005 nM、0.001 nM、0.003 nMおよび0.01 nMのGGF2で、各々1.5倍、2.3倍、2.2倍、および2.8倍のミエリン形成の増加(
図4C)。さらに濃度が増加するにつれて、GGF2は、Erk活性化の出現と一致してミエリン形成を阻害し始めた。GGF2の前ミエリン形成効果(promyelinating effect)はまた、低用量のGGF2が変異軸索上のミエリン形成欠損を回復させるCRD-Nrg1
+/−共培養物中においても実証された(
図4D)。
【0112】
可溶性Nrg1はミエリン形成の促進および阻害の両方をもたらし得る:
濃度により決定される二肢選択:
末梢神経系(PNS)において、GGF2は、シュワン細胞損傷応答に関連するNrg1アイソフォームと考えられている。ミエリン化シュワン細胞におけるGGF3-β3のインビボ異所発現は、細胞増殖を刺激し、かつ脱髄を誘導する(Huijbregts et al. J Neurosci 2003; 23: 7269-80)。さらに、シュワン細胞-DRG神経細胞の共培養物への高濃度のGGF2(例えば、0.25 nMのGGF2を超える濃度等)の添加は、ミエリン形成を阻害することが示されている(Zanazzi et al. J Cell Biol 2001; 152: 1289-99)。したがって、本研究の驚くべき結果は、GGF2が、低濃度でミエリン形成促進効果を提示するという発見であった。しかしながら、前ミエリン形成効果は低濃度範囲に限定され、かつこの範囲からのGGF2濃度の増加は、以前に記載されるようにミエリン形成の阻害をもたらす。可溶性GGF2が、細胞に提示される量のみに基づいて、同一の細胞状況下で2つの対立する生物学的機能を誘導し得るということを実証しているため、これは興味深い知見である。これは、GGF2の閾値レベルが、ミエリン形成の際の前ミエリン形成および阻害機能を決定することも示唆している。本研究において初めて実証されたように、これは、下流のシグナル伝達エフェクター受容体の、濃度依存的な差次的活性化によって説明され得る。より具体的には、本データは、GGF2の前ミエリン形成機能はAktを優先的に活性化する濃度で観察され、一方活性型Aktレベルの持続的な増加にもかかわらず、より高濃度での阻害的役割への遷移は、Erk活性化の出現と一致することを示す。この結果はまた、PI3キナーゼとRas/Raf/Erk活性化との均衡が、シュワン細胞におけるミエリン化状態の決定において重要であるという、以前の見解(Ogata et al. J Neurosci 2004; 24: 6724-32)を支持する。しかしながら、今回の知見は、Ras/Raf/Erk経路の活性化が、ミエリン形成の負の調節因子として機能するという直接的証拠を提供する。
【0113】
ミエリン形成に対するNrg1の阻害機能はErk/Mek1活性化によって媒介される:
シュワン細胞における恒常的に活性型のMek1の発現は、フォルスコリン誘導性のミエリン遺伝子発現を遮断するが、ドミナントネガティブ型Rasが、Nrg1によって誘導されるミエリン遺伝子の下方調節を遮断するという研究によって、ミエリン形成に対するRas/Raf/Erk経路の阻害的役割は、以前に示唆されている。しかしながら、ミエリン形成に対するその直接的な効果は、今回の結果以前には解明されていなかった。本明細書において実証されるように、閾値濃度を上回って使用される場合、GGF2は共培養物中でミエリン形成を阻害する。本発明者らは、本明細書において、Mek1/Erk1活性化の阻害は、GGF2処置された共培養物中でのミエリン形成を回復させることを示し、これは、GGF2の阻害的役割が、そのRas/Raf/Erk1活性化によって媒介されていたことを実証している。Mek1/Erkの活性化がミエリン形成を阻害するメカニズムは、不明確である。以前に記載されるように、可能性のあるメカニズムは、ミエリン遺伝子発現の抑制を含む。この示唆を支持して、本データは、U0126処置された培養物におけるミエリン形成の増加には、P0発現の増加が伴ったことを解明した。また、Mek1/Erk経路が、ミエリン形成またはシュワン細胞の分化に関与する転写因子の発現を調節し得ることもありうる。近年、シュワン細胞におけるc-Junの異所発現が、ミエリン形成を阻害することが示され、したがって、c-Junは、ミエリンプログラムの負の調節因子として機能することが示唆されている。本発明者らは、ミエリン形成を阻害するGGF2処置にはc-Junの誘導が伴い、かつさらにNrg1-誘導性のMek1/Erk1活性の阻害は、c-Junの発現を遮断することを決定したため、本知見はこの結論と一致している。この結果は、ミエリン形成に対するMek1/Erk1の阻害的な機能は、c-Junの誘導によって部分的に媒介されていることを示唆する。
【0114】
本研究の別の興味深い知見は、ミエリン形成の負の調節因子として役割を果たす共培養物中の内因性Mek1/Erk依存的シグナルの存在である。これは、正常なミエリン形成共培養物のU0126を用いた処置が、ミエリン形成を促進したという実験において示された。ミエリン形成の際のMek1/Erk1活性に寄与するシグナルの性質は現在未知であるが、軸索起源であり、軸索のCRD-Nrg1とは無関係である可能性がある。可能性のある候補は、PNS神経細胞によって発現され、かつ後にタンパク質分解的切断によって軸索膜から解離されるI型およびII型のIg-Nrg1である。可能性のある別のMek1/Erkの活性化因子は、PNS神経細胞中で発現され、かつその受容体がシュワン細胞で発現されるFGF-2である。FGF-2を用いた処置は、ミエリン遺伝子の発現を下方調節し、かつインビトロでミエリン形成を阻害する。FGF-2発現の欠如は、坐骨神経再生の際に、有髄軸索の数の増加をもたらす。末梢神経細胞はまた、関連するシュワン細胞上に発現される対応の受容体型チロシンキナーゼと共に、PDGFおよびIGFも発現する。PNSミエリン形成の際のこれらの成長因子の調節的役割を評価することは、極めて興味深いと考えられる。
【0115】
GGF2の治療的使用:
ミエリン化グリア細胞の移植によって損傷神経を回復させる可能性に関して、実験的移植によって圧倒的な証拠が提供されている。シュワン細胞は、培養物中で容易に増大され、PNSのみならずCNSにおいても、脱髄化損傷部位での再ミエリン化および神経伝達の回復を促進する自家移植の可能性を提供するため、そのような治療に関する良好な候補である。しかしながら、成体の再生軸索上でのシュワン細胞の再ミエリン化は、往々にして不完全であり、正常な神経と比較して、より薄いミエリン鞘およびより短い節間部の形成がもたらされる。したがって、GGF2の前ミエリン形成機能について、およびGGF2用量レベルによる不慮のミエリン形成妨害を回避できることについての今回の実証は有意であり、なぜならばそれは、脱髄疾患の処置、ならびに神経損傷後のミエリン再構築に関する治療ストラテジーを提供するためである。
【0116】
他の態様:
本明細書において記述される全ての刊行物および特許出願は、各々の独立した刊行物または特許出願が、具体的にかつ個別に参照により組み入れられることが示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0117】
本発明は、その特定の態様との関連において記載されているが、さらなる改変が可能であること、および、本出願は、本発明の原理に一般に従い、本発明の任意の変動、使用または適用をも網羅することが意図されること、ならびに、本開示からのそのような逸脱を包含することは、本発明が属し、かつ上に示される本質的な性質に適用され得る当技術分野の範囲内の公知のまたは慣例的な遂行の範囲内であり、かつ、添付の特許請求の範囲に従うことが理解されると考えられる。