特許第5697489号(P5697489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5697489-酸素濃度の分析方法及び装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697489
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】酸素濃度の分析方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
   G01N27/46 321
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-44884(P2011-44884)
(22)【出願日】2011年3月2日
(65)【公開番号】特開2012-181126(P2012-181126A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2014年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】坂田 晋
(72)【発明者】
【氏名】味田 直樹
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−119985(JP,A)
【文献】 特開2003−166965(JP,A)
【文献】 特開平05−087772(JP,A)
【文献】 特開2001−305092(JP,A)
【文献】 特開2005−172726(JP,A)
【文献】 特開2001−147216(JP,A)
【文献】 実開平06−062364(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26
G01N 27/407
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス中の酸素濃度をガルバニ電池式酸素センサで測定する酸素濃度の分析方法において、前記試料ガスの酸素濃度の予測値に対応する酸素濃度を有する酸素含有ガスと前記試料ガスとを前記ガルバニ電池式酸素センサの測定部に切り替え導入し、酸素濃度の測定を行なわない待機中に継続して前記酸素含有ガスを導入する酸素濃度の分析方法。
【請求項2】
前記試料ガス中の酸素濃度の予測値が0.1〜1ppbである請求項1記載の酸素濃度の分析方法。
【請求項3】
試料ガス導入経路から測定部に導入された試料ガス中の酸素濃度を測定するガルバニ電池式酸素センサを備えた酸素濃度の分析装置において、前記ガルバニ電池式酸素センサの測定部に、前記試料ガス導入経路と、前記試料ガス中の酸素濃度の予測値に対応する酸素濃度を有する酸素含有ガスを酸素濃度の測定を行なわない待機中に継続して導入する酸素含有ガス導入経路とを接続するとともに、前記測定部に導入するガスを前記試料ガスと前記酸素含有ガスとのいずれかに切り替えるためのガス切替手段を設けた酸素濃度の分析装置。
【請求項4】
前記試料ガス中の酸素濃度の予測値が0.1〜1ppbである請求項3記載の酸素濃度の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素濃度の分析方法及び装置に関し、詳しくは、ガルバニ電池式酸素センサを使用して試料ガス中の酸素濃度を測定する酸素濃度の分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガス中の微量酸素濃度を測定するための酸素濃度計として、ガルバニ電池式の酸素センサが広く知られている。ガルバニ電池式の酸素センサを使用してガス中の微量酸素濃度を測定する際にセル中の電解液に含まれる溶存酸素を除去することにより、試料ガス中に含まれる1〜10ppbの微量酸素の分析が可能としている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3106247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電解液の溶存酸素を除去する方法では、酸素濃度が1〜10ppbのppbレベルまでは正確に測定することはできるが、酸素濃度が0.1〜1ppbのサブppbレベルになると正確な測定を行うことができなかった。
【0005】
そこで本発明は、試料ガス中の酸素濃度が0.1〜1ppbのサブppbレベルであっても正確な酸素濃度を測定することができる酸素濃度の分析方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の酸素濃度の分析方法は、試料ガス中の酸素濃度をガルバニ電池式酸素センサで測定する酸素濃度の分析方法において、前記試料ガスの酸素濃度の予測値に対応する酸素濃度を有する酸素含有ガスと前記試料ガスとを前記ガルバニ電池式酸素センサの測定部に切り替え導入し、酸素濃度の測定を行なわない待機中に継続して前記酸素含有ガスを導入することを特徴とし、特に、前記試料ガス中の酸素濃度の予測値が0.1〜1ppbであることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の酸素濃度の分析装置は、試料ガス導入経路から測定部に導入された試料ガス中の酸素濃度を測定するガルバニ電池式酸素センサを備えた酸素濃度の分析装置において、前記ガルバニ電池式酸素センサの測定部に、前記試料ガス導入経路と、前記試料ガス中の酸素濃度の予測値に対応する酸素濃度を有する酸素含有ガスを酸素濃度の測定を行なわない待機中に継続して導入する酸素含有ガス導入経路とを接続するとともに、前記測定部に導入するガスを前記試料ガスと前記酸素含有ガスとのいずれかに切り替えるためのガス切替手段を設けたことを特徴とし、特に、前記試料ガス中の酸素濃度の予測値が0.1〜1ppbであることを特徴としている
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガルバニ電池式酸素センサの測定部における電解液中の溶存酸素濃度を常時安定させた状態としておくことができるので、試料ガス中の酸素濃度が0.1〜1ppbのサブppbレベルであっても正確な酸素濃度を測定することができる。また、電解液中の溶存酸素濃度が安定していることから、電極回路に流れる電流も安定した状態となり、測定開始で試料ガスを測定部に導入してから測定値が安定するまでの時間が短くなり、試料ガス中の酸素濃度の測定に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1形態例を示す酸素濃度分析装置の系統図である。
図2】検量線における設定濃度と測定濃度との関係を示す図である。
図3】測定時の経過時間と表示濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明における酸素濃度の分析方法を実施するために適した構成を有する酸素濃度分析装置を示すものであって、この酸素濃度分析装置は、酸素濃度測定手段としてガルバニ電池式酸素センサ11を用いたものであって、ガルバニ電池式酸素センサ11は、恒温槽12内に設置されて一定の雰囲気、例えば、±0.1℃の温度変化範囲内に保たれている。
【0011】
ガルバニ電池式酸素センサ11には、各種機器から採取した試料ガスが流れる試料ガス導入経路13と、酸素を含まないベースガス、例えば純水素ガスが流れるベースガス経路14と、あらかじめ設定された酸素濃度を有する標準ガス、例えば、水素ガス中に1ppmの酸素を含む標準ガスを導入する標準ガス導入経路15とが設けられている。
【0012】
試料ガス導入経路13は、測定経路16と排気経路17とに分岐しており、測定経路16に設けられた測定弁16Vと排気経路17に設けられた排気弁17Vとを切り替え開閉することにより、試料ガス導入経路13を流れる試料ガスを測定経路16を介してガルバニ電池式酸素センサ11に導入したり、試料ガス導入経路13を流れる試料ガスを排気経路17から排気したりできるように形成されている。
【0013】
ベースガス経路14は、ベースガス導入弁14Vを備えており、ベースガス導入弁14Vを開くことにより、ベースガス経路14からガルバニ電池式酸素センサ11にベースガスを導入できるように形成されている。また、本形態例では、試料ガス導入経路13の前記測定経路16とベースガス経路14とを、導入経路18に合流させてガルバニ電池式酸素センサ11に接続しており、導入経路18に設けた第1減圧弁18Vによってガルバニ電池式酸素センサ11に導入する試料ガス又はベースガスの流量又は流量と圧力とを調整するようにしている。
【0014】
標準ガス導入経路15は、標準ガスの流量又は流量と圧力とを調整するための第2減圧弁15Vを備えており、この第2減圧弁15Vの下流側は、第1減圧弁18Vとガルバニ電池式酸素センサ11との間で前記導入経路18に接続している。また、前記試料ガス導入経路13から分岐した排気経路17と、ガルバニ電池式酸素センサ11の排気経路11aとには、流量計11f,17fがそれぞれ設けられている。
【0015】
次に、このように形成した酸素濃度分析装置を使用して、本発明方法により試料ガス中の酸素濃度を測定する手順を説明する。まず、恒温槽12内に設置したガルバニ電池式酸素センサ11を安定した温度状態とした後、ベースガス経路14のベースガス導入弁14Vを開き、第1減圧弁18Vで圧力調整を行うことにより、ベースガスをあらかじめ設定された流量でガルバニ電池式酸素センサ11に導入し、ガルバニ電池式酸素センサ11のゼロ校正を行う。このとき、第2減圧弁15V及び測定弁16Vは閉じ状態、排気弁17Vは開状態となっており、試料ガスは、試料ガス導入経路13から排気経路17を通って排気されている。
【0016】
ゼロ校正終了後、標準ガス導入経路15の第2減圧弁15Vの開度を調整し、あらかじめ設定された流量で標準ガスを導入し、導入経路18でベースガスと混合することにより、あらかじめ設定された酸素濃度の酸素含有ガスとしてガルバニ電池式酸素センサ11に導入し、ガルバニ電池式酸素センサ11のスパン校正を行う。このとき、ベースガスの流量と標準ガスの流量とを適宜調整することにより、検量線の作成に必要な酸素濃度を有する酸素含有ガスをスパン校正用のガスとしてガルバニ電池式酸素センサ11に導入することができる。また、ゼロ校正及びスパン校正を行う際には、スパン校正用ガスの最大酸素濃度以下の酸素を含有する酸素含有ガスをガルバニ電池式酸素センサ11に継続して導入しておき、ゼロ校正時やスパン校正時には、ガルバニ電池式酸素センサ11に導入するガスを、酸素含有ガスから酸素を含まないベースガス又は濃度設定を行ったスパン校正用ガスに切り替えて各校正を行う。
【0017】
スパン校正後、試料ガスの酸素濃度を測定する際には、ベースガス導入弁14V、第2減圧弁15V及び排気弁17Vを閉じるとともに測定弁16Vを開き、前記試料ガスのみを、試料ガス導入経路13から測定経路16及び導入経路18を介してガルバニ電池式酸素センサ11に導入し、前述のゼロ校正及びスパン校正で作成した検量線に基づいて試料ガス中の酸素濃度を測定する。
【0018】
試料ガスの酸素濃度の測定を行わない待機中は、ベースガス導入弁14V、第2減圧弁15V及び排気弁17Vを開状態とし、測定弁16Vを閉状態とする。これにより、試料ガスは、試料ガス導入経路13から排気経路17を通って排気され、ガルバニ電池式酸素センサ11には、ベースガス経路14からベースガス導入弁14V及び第1減圧弁18Vを介して導入されるベースガスと、標準ガス導入経路15から第2減圧弁15Vを介して導入される標準ガスとが導入経路18で合流した酸素含有ガスが導入される状態となる。
【0019】
したがって、ガルバニ電池式酸素センサ11の測定部には、試料ガスの酸素濃度を測定する測定中も、試料ガスの酸素濃度の測定を行わない待機中も、常時、酸素を含有したガスが導入される状態となる。なお、通常の操作では、試料ガスの酸素濃度がゼロとなることはほとんどないといえる。
【0020】
このように、待機中にもガルバニ電池式酸素センサ11の測定部に酸素含有ガスを継続して導入することにより、導入経路18からガルバニ電池式酸素センサ11の測定部に至る配管の内面などに、常時一定の酸素が吸着した状態にしておくことができる。従来のように、待機中に酸素を全く含まないベースガスのみを流したときには、ベースガスが流れることによって配管内面などから酸素が脱離し、測定時に試料ガスを流したときに、試料ガス中の酸素が配管内面などに吸着することによって測定酸素濃度が低い状態となる。さらに、配管内面などに酸素が十分に吸着するまでの間は測定酸素濃度が徐々に上昇し、配管内面などに試料ガス中の酸素が十分に吸着した後に、測定値が安定して正確な酸素濃度を測定することが可能となる。したがって、従来の測定方法では、測定開始から測定値が安定した状態になるまでに長時間を要することになる。
【0021】
一方、待機中にも継続して酸素含有ガスを流しておくことにより、配管内面などから酸素が脱離することを防止できるので、配管内面などにおける酸素の吸着状態を安定した状態にしておくことができる。これにより、測定開始時に試料ガス中の酸素の一部が配管内面などに吸着することがなくなり、測定開始直後の測定酸素濃度の低下を抑えて短時間で安定した測定値を得ることが可能となる。なお、本形態例では、標準ガス導入経路15との合流部より上流側の導入経路18では、酸素の脱離及び吸着が発生するが、この部分を短くするなどして酸素が吸着する面積をできるだけ短くしておくことにより、測定開始直後の測定酸素濃度の低下を最小限にでき、試料ガス中の酸素濃度を短時間で正確に測定することが可能となる。
【0022】
また、微量酸素の分析を可能にするため、電解液に含まれる溶存酸素を除去すると、待機中に電解液中のイオンが減少して抵抗が増大し、測定電極の回路に電気が流れない状態となるため、測定開始時に試料ガス中の酸素が電解液中に溶け込んで回路に電気が安定して流れるまでに時間がかかるため、これによっても測定開始からの時間が長くなってしまう。これに対し、電解液に含まれる溶存酸素が過剰にならないように、従来と同様に電解液に含まれる溶存酸素を除去しながら、待機中にも酸素含有ガスを継続して導入しておくことにより、電解液中のイオン濃度を安定させた状態としておくことができ、測定電極回路の電流の流れが安定し、測定開始から短時間で試料ガス中の酸素濃度を正確に測定することが可能となる。
【0023】
さらに、検量線を作成する際にも、ベースガスの導入と標準ガスの導入とを単に切り替えて行う場合は、前述の酸素の脱離及び吸着現象、電気回路の電気の流れなどによる誤差が発生しやすく、理論線よりも低濃度側に検量線がオフセットした状態になることがある。
【0024】
これらの現象は、試料ガス中の酸素濃度が極めて低濃度の場合、具体的には、1ppb以下のサブppbレベルの場合に顕著であり、例えば、図2に示すように、0.6ppbまでの検量線を作成する際に、ベースガスと標準ガス(スパン校正用のガス)とを切り替える従来の方法では、理論線Aに対して検量線Bが低濃度側となり、本発明の方法を適用して検量線作成の際に酸素含有ガスとスパン校正用のガスとを切り替える場合は、理論線Aに極めて近い検量線Cを作成することができる。なお、図2における両検量線B,Cの状態からも分かるように、設定濃度が1ppb付近になると、両検量線B,Cは接近した状態となり、設定濃度が1ppb以上では略同じ直線となる。
【0025】
また、図3に示すように、圧力及び流量を同じ条件として、例えば、試料ガス中の酸素濃度が1ppbの場合、測定開始からガルバニ電池式酸素センサ11の表示濃度が安定するまで、測定時と待機時とで試料ガスとベースガスとを切り替える従来の方法では、破線Dで示すように、表示濃度が安定するまでに約4時間を要するのに対し、本発明の方法を適用して試料ガスと酸素含有ガスとを切り替えることにより、実線Eで示すように約30分に短縮できることが分かる。
【0026】
待機中に導入経路18からガルバニ電池式酸素センサ11に導入する酸素含有ガスにおける酸素濃度は、任意に設定することが可能であるが、試料ガス中の酸素濃度の予測値の範囲であることが好ましい。すなわち、酸素含有ガスの酸素濃度が高すぎると、酸素含有ガス導入中に配管内面などに吸着する酸素量が多くなり、吸着した酸素が試料ガス導入時に脱離して試料ガス中の酸素濃度の測定値が高くなってしまうことがあり、逆に、酸素含有ガスの酸素濃度が低すぎると、試料ガス導入時に試料ガス中の酸素が配管内面などに吸着して酸素濃度の測定値が低くなってしまうことがある。
【0027】
したがって、急速に技術革新が進んでいる化合物半導体分野、特にLED分野に使用される各種ガスは、近年益々高純度化し、従来のppbレベルからサブppbレベルでの管理が要求されているため、これらのガス中の酸素濃度を測定する場合には、ガルバニ電池式酸素センサ11に導入する酸素含有ガスにおける酸素濃度は、管理目標とするサブppbレベルの範囲、すなわち、試料ガス中の酸素濃度の予測値である0.1〜1ppbの範囲に設定することが好ましい。
【0028】
なお、ガルバニ電池式酸素センサには、市販の各種ガルバニ電池式酸素センサを用いることが可能であり、各ガスの圧力調整や流量調整も、市販の圧力調整器や流量調整器を使用することが可能である。また、ガス流路の切替手段には三方弁を用いることもでき、複数の試料ガスにも適用で、ベースガスや標準ガスには、試料ガスに応じたものを使用することができる。
【符号の説明】
【0029】
11…ガルバニ電池式酸素センサ、12…恒温槽、13…試料ガス導入経路、14…ベースガス経路、15…標準ガス導入経路、16…測定経路、17…排気経路、18…導入経路
図1
図2
図3