【実施例】
【0065】
実施例1
A. 材料および方法
A.1. 材料
分岐状マルトデキストリン(BMD)[非消化性グリコシド結合:α−1,2およびα−1,3を有する分岐状マルトデキストリン、NUTRIOSE(登録商標)FB06 Roquette Freres]、エンドウデンプン(エンドウデンプンN−735)、アルファ化ヒドロキシプロピルエンドウデンプン(PS HP−PG)(LYCOAT(登録商標)RS780)、マルトデキストリン(MD)(GLUCIDEX(登録商標)1,Roquette Freres)、EURYLON(登録商標)7A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(70%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)、EURYLON(登録商標)6A−PG(アセチル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン)(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)およびEURYLON(登録商標)6HP−PG(ヒドロキシプロピル化およびアルファ化高アミロースメイズデンプン(60%アミロース)(Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat(登録商標)ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC;Morflex(登録商標)、Greensboro,USA)、パンクレアチン(哺乳動物膵臓由来=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとを含有する混合物、Fisher Bioblock,Illkirch,France)、ラット腸からの抽出物(アミラーゼとスクラーゼとイソマルターゼとグルコシダーゼとを含有するラット腸粉末、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、Columbia血液寒天、肉牛および酵母からの抽出物、さらにはトリプトン(=カゼインの膵液消化物)(Becton Dickinson,Sparks,USA)、L−システイン塩酸塩水和物(Acros Organics,Geel,Belgium)、McConkey寒天(BioMerieux,Balme−les−Grottes,France)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)。
【0066】
A.2. フィルムの作製
さまざまなタイプの水性ポリサッカリドと水性エチルセルロース分散体とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型中にキャストし、続いて60℃で1日間乾燥させることにより、薄い高分子フィルムを作製した。水溶性ポリサッカリドを精製水に溶解させ(5%w/w)、1:3(ポリマー:ポリマー w:w)の比で可塑化エチルセルロース分散体とブレンドした(25%のTEC、一晩撹拌、15%w/wのポリマー含有率)。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0067】
A.3. フィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。水取込み速度および乾燥質量損失速度を、
(i)模擬胃液(0.1M HCl)
(ii)模擬腸液[1%のパンクレアチンまたは0.75%のラット腸からの抽出物を含むかまたは含まないリン酸緩衝液pH6.8(USP30)]
(iii)健常被験者からの糞便が接種された培養培地
(iv)炎症性腸疾患患者からの糞便が接種された培養培地
(v)比較のための糞便無し培養培地
への暴露時、重量測定法により測定した。
【0068】
1.5gの肉牛抽出物、3gの酵母抽出物、5gのトリプトン、2.5gのNaCl、および0.3gのL−システイン塩酸塩水和物を1Lの蒸留水(pH7.0±0.2)に溶解させ、続いてオートクレーブ中で滅菌することにより、培養培地を調製した。クローン病または潰瘍性結腸炎の患者の糞便さらには健常被験者の糞便をシステイン加リンゲル液で1:200に希釈し、この懸濁液2.5mLを培養培地で100mLに希釈した。100mLの予備加熱された培地が充填された120mLガラス容器に1.5×5cmのフィルム片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(GFL3033、Gesellschaft fur Labortechnik,Burgwedel,Germany)。嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)で糞便サンプルと共にインキュベーションを行った。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0069】
【数1】
【0070】
A.4. 細菌学的分析
糞便サンプルの細菌学的分析のために、これをシステイン加リンゲル液で1:10に希釈した。システイン加リンゲル液で8つのさらなる10倍希釈液を調製し、0.1mLの各希釈液を非選択性改変Columbia血液寒天(全培養可能菌数を求めるため)およびMcConkey寒天(腸内細菌に対して選択性がある)にプレーティングした。Columbia血液寒天プレートを嫌気的条件下(5%CO2、10%H2、85%N2)37℃で1週間インキュベートした。コロニーの数は少なかったが、主なコロニーを継代培養して、表現型同定基準に基づいて同定した。25枚のMcConkey寒天プレートを空気中37℃で48時間インキュベートした。コロニーの数は少なかったが、API 20Eシステム(BioMerieux,Balme−les−Grottes,France)を用いて同定した。新しい糞便でlog CFU/g(コロニー形成単位毎グラム)としてカウント数を表した。
【0071】
糞便サンプルと共にフィルムのインキュベーションを行った時に発生した微生物叢の細菌学的分析のために、グラム染色後、カメラ(Unit DS−L2,DS camera Head DS−Fi 1、Nikon,Tokyo,Japan)を備えたAxiostar plus顕微鏡(Carl Zeiss,Jena,Germany)を用いて顕微鏡写真を撮影した。嫌気的条件下、ごく少量のポリペプチドを含有する糖質フリーの培養培地(したがって、研究対象のポリサッカリドを基質として使用するのに有利である)中で、インキュベーションを行った。
【0072】
B. 結果および考察
B.1. 上部GIT内でのフィルムの性質
薬剤に対する高分子系の透過性は、巨大分子の密度および移動性を決定するその水含有率および乾燥質量に強く依存する。たとえば、乾燥ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)系マトリックス錠剤では、薬剤の見掛けの拡散係数はゼロに近づき、一方、完全水和HPMCゲルでは、水性溶液の場合と同程度の大きさの拡散率を達成可能である。水含有率の増加に伴って、巨大分子の移動性ひいては拡散に利用可能な自由体積は、有意に増大する。いくつかの系では、ポリマーは、臨界水含有率に到達し次第、ガラス相からゴム相への転移を起こす。これは、ポリマーおよび薬剤の移動性の有意な段階的増大を引き起こす。したがって、高分子フィルムコーティングの水含有率から巨大分子の移動性ひいては薬剤の透過性についての重要な見識を得ることが可能である。
図1aおよび1bは、それぞれ、0.1N HCl中およびリン酸緩衝液pH6.8中での種々のタイプのポリサッカリド:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込み速度を示している。すべてのフィルムでエチルセルロースの存在により上部GIT内での早期溶解を回避することが可能である。研究対象のポリサッカリドはすべて水溶性であり、コーティングの周囲環境への薬剤透過性の感受性を提供することを目的とする。すなわち、結腸に達した時点で、ポリサッカリドは酵素分解され、薬剤放出が開始される。
図1のポリサッカリド:エチルセルロースブレンド比は、一定すなわち1:3である。明らかなように、水取込み速度および水取込み率は、ポリサッカリドのタイプに有意に依存する。結腸ターゲッティングを可能にする理想的なフィルムコーティングは、上部GIT内での早期薬剤放出を防止するために、両方の培地でごく少量の水を低速度で取り込むものでなければならない。見てのとおり、エチルセルロースとBMDまたはエンドウデンプンとのブレンドは、この目的に最も有望である。水溶性ポリサッカリドを含まない可塑化エチルセルロースフィルム(白丸)は、わずかな量の水を取り込むにすぎない。
【0073】
水取込み速度のほかに、薄い高分子フィルムの乾燥質量損失挙動もまた、コーティングの薬剤に対する透過性ひいては上部GIT内で早期放出を抑制する可能性に対する指標として機能する。フィルムが放出培地への暴露時に有意量の乾燥質量を失う場合、コーティングは、多くの薬剤とくに5−アミノサリチル酸(5−ASA、153.1Da)のような低分子量のものに対して透過性になることが予想されうる。
図2aおよび2bは、それぞれ、0.1N HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、種々のポリサッカリド:エチルセルロースブレンド(一定比=1:3)で構成される薄いフィルムの実験的に決定された乾燥質量の損失を示している。理想的なフィルムは、わずかな量の乾燥質量を低速度で失うにすぎず(またはまったく質量を失わず)、これらの条件下で組込み薬剤に対して透過性の低い緻密高分子網状構造を確保する。見てのとおり、エンドウデンプン含有フィルムおよびBMD含有フィルムの乾燥質量損失は、これらの放出培地への8時間までの暴露の後でさえも非常に低い。観測された乾燥質量の減少は、少なくとも部分的には、バルク流体中への水溶性可塑剤トリエチルシトレート(TEC、水性エチルセルロース分散体を可塑化するために使用される)の浸出のためとすることが可能である。それに加えて、水溶性ポリサッカリドの一部は、フィルムから浸出する可能性がある。水溶性ポリサッカリドを含まない可塑化エチルセルロースフィルム(白丸)は、放出培地のタイプに関係なく、ごく少量の水を失うにすぎない。しかしながら、インタクトなエチルセルロースフィルムの透過性は、多くの薬剤に対して非常に低いことが知られており、これは、少なくとも部分的には、これらの系の低い水取込み速度および水取込み率のためとすることが可能である。このため、インタクトなエチルセルロースフィルムはまた、湿分保護コーティングとして使用される。ブレンド系の水取込み速度および水取込み率の増加(
図1)は、ポリマー鎖の移動性のかなりの上昇ひいてはTECの移動性の増大を引き起こすので、バルク流体中への水溶性可塑剤TECの損失は、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムと比較して、25%(w/w)の水溶性ポリサッカリドを含有するフィルムではかなり顕在化すると予想されうることに留意されたい。
【0074】
図2に示された結果は一切の酵素の不在下で得られたことを指摘しておかなければならない。膵酵素が特定のポリサッカリドを分解可能であり、したがって、in vivo条件下で有意な質量損失および水取込みを誘導することにより、結果としてフィルムの薬剤に対する透過性が増大される可能性があることは周知である。この現象の重要性を明確化するために、リン酸緩衝液pH6.8中、パンクレアチン(=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとを含有する混合物)の存在下、およびラット腸からの抽出物(アミラーゼとスクラーゼとイソマルターゼとグルコシダーゼとを含有する)の存在下で、薄いフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失挙動をも測定した(
図3)。明らかなように、これらの酵素の添加は、研究対象のフィルムの得られた水取込み速度および乾燥質量損失速度に有意な影響を及ぼさなかった。したがって、フィルムは、これらの酵素に対する基質として機能しない。
【0075】
B.2. 結腸内でのフィルムの性質
結腸に達した時点で、高分子フィルムコーティングは、薬剤に対して透過性にならなければならない。これは、たとえば、(部分的)酵素分解により誘導可能である。重要なこととして、特定の酵素の濃度は、上部GIT内よりも結腸内のほうがかなり多い。これは、結腸(GITのこの部分は胃および小腸よりもかなり多くの細菌を含有する)の天然微生物叢により生成される酵素を含む。しかしながら、炎症性腸疾患に罹患している患者の微生物叢は健常被験者の微生物叢と有意に異なる可能性があるので、このタイプの結腸ターゲッティング手法を使用する場合、多くの注意を払わなければならない。したがって、薬剤送達系は、患者の疾患状態に適合化されなければならない。表1は、たとえば、この試験に組み込まれた健常被験者、さらにはクローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便サンプルで決定された細菌の濃度を示している。重要なこととして、とくにビフィズス菌(複数の細胞外グリコシダーゼにより複合ポリサッカリドを分解可能である)および大腸菌(Escherichia coli)の濃度に関して有意差が存在し、これらの細菌は、炎症性腸疾患患者の糞便と比較して健常被験者の糞便ではかなり高濃度で存在していた。これとは対照的に、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の糞便サンプルは、健常被験者では検出されなかったラクトース陰性の大腸菌(E. coli)、シトロバクター・フロインディー(Citrobacter freundii)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、およびエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)を含有していた。したがって、微生物叢の質および量に関して基本的な差が存在し、これらを考慮に入れなければならない。すなわち、健常ボランティアにおいて生理学的条件下で結腸ターゲッティングを可能にする高分子フィルムコーティングは、患者の疾患状態では病態生理学的条件下でうまく機能しない可能性がある。ほとんどの場合無視されるこの非常に重大な問題点に対処するために、クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者からの糞便サンプルさらには健常被験者の糞便への暴露時、ならびに比較のために純粋培養培地への暴露時の、種々のタイプのポリサッカリド:エチルセルロースブレンドで構成される薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失を調べた(
図4)。適切なフィルムは、結腸内の炎症部位で薬剤放出を誘導するために、患者の糞便への暴露時にかなりの量の水を取り込みかつ有意な乾燥質量損失を示すものでなければならない。
図4aおよび4bに見られるように、エチルセルロース:BMDおよびエチルセルロース:エンドウデンプン(これらは、上部GITの内容物をシミュレートした培地で得られた以上に記載の結果によれば、2つの最も有望なタイプのポリマーブレンドである)に基づくフィルムは、クローン病患者、潰瘍性結腸炎患者、さらには健常被験者の糞便への暴露時に有意な水取込みおよび乾燥質量損失を示す。他のタイプのポリマーブレンドもまた、糞便サンプルへの暴露時に呈したフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失の挙動に関して有望である(さらにはエチルセルロース:BMDブレンドおよびエチルセルロース:エンドウデンプンブレンドよりも適切である)ように見える点に留意されたい。しかしながら、これらの系は、上部GITの内容物をシミュレートした培地との接触時に、すでにかなりの量の水を取り込みかつ乾燥質量を顕著に損失する(
図1および2)。
【0076】
研究対象の高分子フィルムが炎症性腸疾患患者からの糞便中の細菌に対する基質として機能するという事実は、嫌気的条件下37℃で糞便サンプルへのフィルム暴露時に発生した微生物叢の分析によりさらに確認することが可能であった(
図5)。明らかなように、特定のタイプの細菌は、ブレンドフィルムと共にインキュベートした時に増殖した。重要なこととして、この現象は、疾患状態の患者のGITの生態系にかなり有益で、結腸内の微生物叢を正常化することが期待できる。この非常に有望なプレバイオティクス効果は、薬剤ターゲティング効果に追加されて現れる。一切の高分子フィルムを用いずにまたは純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムと共にインキュベートした生物学的サンプルは、かなり少ない細菌増殖を示した(
図5)。
【0077】
結腸ターゲッティングが確認された新規な高分子フィルムコーティングは、患者の疾患状態に適合化された水不溶性ポリマー:ポリサッカリドブレンド、特定的には、エチルセルロース:BMDブレンド、エチルセルロース:エンドウデンプンブレンド、エチルセルロース:MDブレンド、エチルセルロース:EURYLON(登録商標)6A−PGブレンド、エチルセルロース:EURYLON(登録商標)6HP−PGブレンド、およびエチルセルロース:EURYLON(登録商標)7A−PGブレンドで構成される。重要なこととして、上部GITの内容物をシミュレートした培地中での水取込みおよび乾燥質量損失の速度および度合いが低いことと、炎症性腸疾患患者からの糞便との接触時に水取込みおよび乾燥重量損失が増大することと、を組み合わることが可能である。患者の結腸内の微生物叢の組成の変化から、これらのポリサッカリドは、疾患状態の結腸内細菌に対する基質として機能し、おそらく患者のGITの生態系に有益な効果を呈するであろうことが示唆される。したがって、得られた新しい知見は、薬剤を結腸に特異的に送達可能な新規高分子フィルムコーティングの開発の基礎を提供する。重要なこととして、これらの高分子障壁は、疾患状態の標的部位の病態に適合化される。
【0078】
実施例2
A. 材料および方法
A.1. 材料
分岐状マルトデキストリン(BMD)(コムギデンプンから得られた高繊維含有率の水溶性分岐状マルトデキストリン、NUTRIOSE(登録商標)FB06、Roquette Freres,Lestrem,France)、マルトデキストリン(GLUCIDEX(登録商標)1、Roquette Freres)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)。
【0079】
A.2. 薄い高分子フィルムの作製
さまざまなタイプのポリサッカリドと水性エチルセルロース分散体とのブレンドをテフロン(登録商標)成形型中にキャストし、続いて60℃で1日間乾燥させることにより、薄い高分子フィルムを作製した。水溶性ポリサッカリドを精製水に溶解させ、指定どおり1:2、1:3、1:4、1:5(ポリマー:ポリマー w:w)の比で可塑化水性エチルセルロース分散体とブレンドした(エチルセルロース含有率を基準にして25.0、27.5、または30.0%w/wのTEC、一晩撹拌、15%w/wのポリマー含有率)。混合物を6時間攪拌してからキャストした。
【0080】
A.3. フィルムの特性解析
厚さゲージ(Minitest600、Erichsen,Hemer,Germany)を用いてフィルムの厚さを測定した。フィルムの平均厚さはすべて、300〜340μmの範囲内であった。フィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度を、0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8(USP30)への暴露時、次のように重量測定法により測定した。すなわち、100mLの予備加熱された培地が充填された120mLプラスチック容器に1.5×5cmの部片を入れ、続いて37℃で水平振盪させた(80rpm、GFL3033、Gesellschaft fuer Labortechnik,Burgwedel,Germany)。所定の時間点でサンプルを抜き取り、過剰の水を除去し、フィルムを正確に秤量し(湿潤質量)、そして一定重量になるまで60℃で乾燥させた(乾燥質量)。時間tにおける水含有率(%)および乾燥フィルム質量(%)を以下のように計算した。
【0081】
【数2】
【0082】
A.4. 薄いフィルムの機械的性質
テクスチャーアナライザー(TAXT.Plus、Winopal Forschungsbedarf,Ahnsbeck,Germany)および突刺試験を用いて乾燥状態および湿潤状態のフィルムの機械的性質を調べた。フィルム試料をフィルムホルダーに取り付けた(n=6)。突刺プローブ(球状端:直径5mm)をロードセル(5kg)に固定し、0.1mm/sのクロスヘッド速度でフィルムホルダーの孔の中心に向けて下方駆動させた。荷重対変位曲線をフィルムの破壊まで記録し、これを用いて次のような機械的性質を調べた。
【0083】
【数3】
式中、Fは、フィルムを突刺するのに必要な荷重であり、かつAは、経路内に位置するフィルムの縁部の断面積である。
【0084】
【数4】
式中、Rは、ホルダーの円筒孔内に露出したフィルムの半径を表し、かつDは、変位を表す。
【0085】
【数5】
式中、AUCは、荷重対変位曲線下の面積であり、かつVは、フィルムホルダーのダイキャビティー内に位置するフィルムの体積である。
【0086】
B. 結果および考察
B.1. BMD:エチルセルロースブレンド
a) 薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失
高分子フィルムコーティングの透過性は、その水含有率に強く依存する。乾燥系では、拡散係数は、ゼロに近づく。水含有率の増加に伴って、巨大分子の移動性ひいては組込み薬剤分子の移動性が増大する。
図6aおよび6bは、37℃での0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の、さまざまなBMD:エチルセルロースブレンドに基づく薄い高分子フィルムの重量測定法で測定された水取込みを示している。明らかなように、ポリマーブレンド比は、得られた水透過速度および水透過率に有意な影響を及ぼした。BMD含有率の増加に伴って、取り込まれた水の量さらにはこの質量輸送過程の速度が増加した。この現象は、水溶性ポリサッカリドBMDと比較してより疎水性のエチルセルロースの性質のためとすることが可能である。したがって、このタイプの高分子フィルム中での薬剤の移動性は、BMD含有率の増加に伴って有意に増加することが予想されうる。興味深いことに、研究対象のフィルムの水取込み速度および水取込み率は、0.1N HCl中よりもリン酸緩衝液pH6.8中にほうがより高かった(
図6b対
図6a)。これは、水性エチルセルロース分散体Aquacoat ECD中の乳化剤ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)の存在のためとすることが可能である。低pHでは、SDSは、プロトン化されて中性であるが、pH6.8では、脱プロトン化されて負に荷電される。したがって、界面張力を低下させる能力は、pH6.8ではより顕在化し、結果として系中への水透過が促進される。重要なこととして、研究対象の系(1:2のBMD:エチルセルロースブレンド比まで)の最大の水取込み速度および水取込み率でさえも、比較的低い(
図6)。したがって、上部GIT内での早期薬剤放出は、研究対象の範囲内のポリマー:ポリマーブレンド比に関係なく、このタイプの高分子フィルムでは制限されることが予想されうる。
【0087】
水取込み速度のほかに、薄い高分子フィルムの乾燥質量損失挙動もまた、薬剤放出を抑制したり可能にしたりするフィルムの能力についての重要な見識を与える。0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の薄いフィルムの得られた乾燥質量損失に及ぼすBMD:エチルセルロースブレンド比の影響は、
図7aおよび7bに例示されている。明らかなように、乾燥質量損失の速度および度合いは両方とも、BMD含有率の増加に伴って増加した。これは、少なくとも部分的には、バルク流体中へのこの水溶性化合物の浸出のためとすることが可能である。しかしながら、放出培地中への水溶性可塑剤TEC(フィルム形成時にエチルセルロースナノ粒子の融合を促進するために使用される)の拡散もまた、有意に促進されることが予想されうる。すなわち、系の水含有率の増加に起因して(
図6)、ポリマー鎖の移動性ひいては低分子量可塑剤の移動性もまた、増大する。純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムの乾燥質量損失は、主に、そのようなTEC浸出のためとすることが可能であり、この現象の(わずか)pH依存性が観察される(以上で述べたSDS効果に起因して)ことに留意されたい。重要なこととして、乾燥質量損失は、いずれの場合も制限され、フィルム中の水不溶性エチルセルロースの存在は、バルク流体中への水溶性ポリサッカリドの浸出を効果的に妨害する。この場合も、GITの上部内の早期薬剤放出は、研究対象の範囲内(1:2のBMD:エチルセルロースまで)のポリマー:ポリマーブレンド比に関係なく、おそらく制限されるであろう。
【0088】
b) 薄いフィルムの機械的性質
上部GIT内での制限された水取込みおよび乾燥質量損失のほかに、結腸への部位特異的薬剤送達を提供する高分子フィルムコーティングは、in vivoで胃および小腸で遭遇する剪断応力に起因する偶発的な亀裂形成を回避するために、十分に安定(機械的に)でなければならない。それに加えて、水性体液との接触時、系中への水の浸透に起因して、コーティング付き製剤内に有意な静水圧が蓄積する可能性がある。コア配合物中の浸透活性な薬剤および/または賦形剤の存在/不在は、この現象の重要性に強く影響を及ぼす可能性がある。脆弱なフィルムコーティングは、外部からのそのような剪断力(GITの運動により引き起こされる)および内部からの静水圧(水浸透により引き起こされる)を受けることが原因でおそらく破裂するであろう。そのような偶発的な亀裂形成の危険性を推定できるようにするために、それぞれ0.1N HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露前および暴露時、テクスチャーアナライザーおよび突刺試験を用いて、研究対象のBMD:エチルセルロースフィルムの破断に必要なエネルギーを測定した。
図8の白色バーは、ポリマーブレンド比の関数として室温で乾燥状態の薄いBMD:エチルセルロースフィルム(エチルセルロース含有率を基準にして25%w/wのTECで可塑化されている)の機械的安定性を表している。明らかなように、フィルムの破断点エネルギーがエチルセルロース含有率の増加に伴って有意に増大されたことから、この化合物は、主に、これらの条件下で系の機械的安定性に寄与することが示唆される。重要なこととして、研究対象のフィルムはすべて、適切なコーティングレベルで、上部GIT内で受ける剪断応力および静水圧に耐えるのにおそらく十分である機械的安定性を示した。これは、フィルムの実験的に決定された突刺強度および破断点伸び%(データは示さず)により確認された。しかしながら、高分子系中への水の浸透は、フィルムの組成ひいてはその機械的性質を有意に変化させることを指摘しておかなければならない(
図6および7)。特定的には、水が多くのポリマーに対する可塑剤として作用しかつ水溶性TECおよびポリサッカリドが(少なくとも部分的に)高分子網状構造から浸出するという事実から、フィルムの機械的安定性の時間依存的変化が引き起こされることが予想されうる。それに加えて、
図8に示された結果は、37℃の体温ではなく室温で得られたものであった。高分子網状構造の温度が、たとえばガラス相からゴム相への転移に起因して、その機械的性質に強く影響を及ぼす可能性があることは、周知である。
【0089】
これらの理由により、0.1N HClへの2時間暴露時、および37℃のリン酸緩衝液pH6.8への8時間までの暴露時の、研究対象のBMD:エチルセルロースフィルムの破断に必要なエネルギーをも測定した(
図9)。見てのとおり、高分子網状構造の機械的安定性は、ポリマーのブレンド比および放出培地のタイプに関係なく、時間と共に低下した。これは、少なくとも部分的には、バルク流体中へ水溶性可塑剤TECおよびポリサッカリドの浸出のためとすることが可能である。重要なこととして、最低観測値からでさえも、in vivoで受ける外部剪断応力および/または内部静水圧に起因する偶発的な亀裂形成は起こりそうにないことが示唆される(適切なコーティングレベルで)。この場合も、これは、ポリマーブレンド比、暴露時間、および放出培地のタイプに関係なく、フィルムの実験的に決定された突刺強度および伸び%と一致した(データは示さず)。
【0090】
c) 可塑剤含有率の影響
可塑剤含有率が高分子フィルムの機械的性質に有意な影響を及ぼす可能性があることは、周知である。研究対象のBMD:エチルセルロースブレンドでこの現象の重要性を評価するために、組み込まれるTECのパーセントを(エチルセルロース含有率を基準にして)25%w/wから30%w/wに増加させた。25%w/w未満のTEC含有率は、フィルム形成時のエチルセルロースナノ粒子の融合を困難にするであろうから、ポリマー鎖の移動性は、この過程にきわめて重要である。30%w/w超のTEC含有率は、コーティング時および硬化時に固着傾向を有意に増加させるので、回避されなければならない。
図8に見られるように、BMD:エチルセルロースフィルムの機械的安定性は、ポリマーブレンド比に関係なく、TEC含有率の増加に伴って有意に増大した。これは、フィルムの実験的に決定された突刺強度および伸び%と一致した(データは示さず)。したがって、高浸透活性のコア配合物の場合(水浸透時に製剤内に有意な静水圧の蓄積を生じる)、TEC含有率を増加させることにより、所要のコーティングレベル(偶発的な亀裂形成を回避する)を低下させることが可能である。この場合も、0.1N HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時の高分子網状構造の組成の時間依存的変化の影響さらには37℃への温度上昇の影響をモニターすることが重要であった。
図10に見られるように、フィルムの破断に必要なエネルギーは、ポリマーブレンド比、初期可塑剤含有率、および放出培地のタイプに関係なく、以上で考察された理由により放出培地への暴露時に低下した。重要なこととして、いずれの場合も、(エチルセルロース含有率を基準にして)25w/wから30%w/wへの初期TEC含有率の増加は、すべての時間点で機械的安定性の増大を引き起こした。
【0091】
しかしながら、高分子フィルム中の水溶性可塑剤TECのパーセントを増加させた場合、水性培地への暴露時、系の水取込みおよび乾燥質量損失の速度および度合いもまた、増加することが予想されうる。これは、潜在的に、高分子フィルムの薬剤透過性の有意な増大を引き起こす可能性があり、結果として、上部GIT内で早期薬剤放出を生じる可能性がある。これらの現象の重要性を推定するために、0.1N HClへの2時間暴露時およびリン酸緩衝液pH6.8への8時間暴露時、研究対象のフィルムの水取込み速度および乾燥質量損失速度をモニターした。最大TEC含有率(30%)さらには2つの最も決定的なBMD:エチルセルロースブレンド比すなわち1.2および1:3を選択した(
図11)。最大TEC含有率(30%)さらには2つの最も決定的なBMD:エチルセルロースブレンド比すなわち1.2および1:3を選択した(
図11)。重要なこととして、初期TEC含有率を25%から30%に増加させた場合、ポリマーのブレンド比および放出培地のタイプに関係なく、水取込み速度および乾燥質量損失速度の得られた変化は、副次的なものにすぎなかった。したがって、上部GIT内で薬剤放出を抑制する系の能力を損なうことなく、可塑剤レベルを増加させることにより、BMD:エチルセルロースフィルムの機械的安定性を効率的に改良することが可能である。
【0092】
BMD:エチルセルロースブレンドは、結腸ターゲッティングを可能にする先進的な薬剤送達系用のフィルムコーティング材料である。重要なこととして、特定の治療の特定のニーズ(たとえば、薬剤の浸透活性および用量)に適合化される所望の系の性質は、ポリマー:ポリマーブレンド比を1:2まで、好ましくは1:2〜1:8、さらに好ましくは1:3〜1:6、たとえば、1:4〜1:5で変化させることにより、さらには、水不溶性ポリマー含有率を基準にして、可塑剤含有率を25%〜30%w/wで変化させることにより、容易に調整可能である。
【0093】
B.2. MD:エチルセルロースブレンド
我々は、以上の実施例で、エチルセルロースとさまざまなタイプのポリサッカリドとくにMD(非分岐状マルトデキストリン)とのブレンドが炎症性腸疾患の局所治療を改善すべく結腸への部位特異的薬剤送達を可能にすることを示した。重要なこととして、そのようなフィルムは、クローン病および潰瘍性結腸炎に罹患している患者の疾患状態で微生物叢に対する基質として機能する。しかしながら、ポリマー:ポリマーブレンド比が、得られる系の性質、特定的には、その水取込み速度および乾燥質量損失速度さらにはin vivoで呈示される内部応力および外部応力に対するその機械的耐性にどの程度影響を及ぼすかは、依然として不明である。
【0094】
図12は、それぞれ0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時に得られた水取込み速度および乾燥質量損失挙動に及ぼすMD:エチルセルロースフィルムの組成の影響を示している。比較のために、純粋(可塑化)エチルセルロースフィルムを用いて得られた結果も示されている。明らかなように、MD:エチルセルロースブレンド比を1:5から1:2に増加させた場合、水取込み速度および水取込み率は有意に増加した。これは、MDがマルトデキストリンでありエチルセルロースよりもかなり親水性であるであるという事実のためとすることが可能である。高い初期MD含有率では、水含有率は、有意になった。たとえば、1:2ブレンドの場合、リン酸緩衝液pH6.8への1時間暴露後、フィルムの約半分は水で構成された。これは、上部GIT内での易水溶性低分子量薬剤の放出の効率的抑制を困難にすることが予想されうる。なぜなら、巨大分子の移動性は、水含有率の増加に伴って有意に増加し、結果として薬剤移動性を増大させるからである。おそらく高コーティングレベルが必要になるであろう。しかしながら、高い水含有率の時でさえも、より大きい薬剤分子(たとえばタンパク質)の透過性は、高分子網状構造中では低い可能性がある。この場合、薬剤の移動性は、「薬剤分子サイズ:巨大分子網状構造の平均メッシュサイズ」の比に本質的に依存する。結腸への部位特異的送達を有する先進的薬剤送達系は、たとえば、経口投与後にタンパク質の全身送達を可能にするうえで魅力的である可能性がある。タンパク質が上部GIT内で低pHおよび酵素分解から有効に保護される場合、それは、結腸内放出時に吸収される可能性がある。さらに、水溶性の乏しい薬剤の相対放出速度は、製剤がインタクトな状態で残存するかぎり、フィルムコーティングが有意量の水を含有する場合でさえも、きわめて低い可能性がある。
【0095】
興味深いことに、水取込み速度および水取込み率は両方とも、ポリマーブレンド比に関係なく0.1M HCl中よりもリン酸緩衝液pH6.8中のほうが高かった(
図12、上側の図)。これは、フィルムの作製に使用された水性エチルセルロース分散体中のナトリウムドデシルスルフェート(SDS)(安定化剤として作用する)の存在のためとすることが可能である。低pHでは、この乳化剤は、プロトン化されて中性であるが、pH6.8では、脱プロトン化されて負に荷電される。したがって、界面張力を低下させるその能力が増大されるので、高分子網状構造中への水浸透が促進される。
【0096】
さらに、乾燥フィルムの質量損失の速度および度合いは、MD含有率の増加に伴って有意に増大した(
図12、下側の図)。これは、少なくとも部分的には、バルク流体中へのこの水溶性マルトデキストリンの浸出により説明可能である。しかしながら、放出培地中への水溶性可塑剤TECの(部分的)浸出もまた、この現象に関与する。TECは、水性分散体からのフィルム形成を可能にするためにエチルセルロースナノ粒子の可塑化に必要とされる。MDフリーのフィルムでさえも、とくにpH6.8でいくらかの乾燥質量を損失する。高い初期MD含有率を含む高分子系のかなりの水含有率は、低分子量水溶性可塑剤TECの浸出を促進することが予想されうる。この場合も、観測された効果は、SDSの存在に起因して、0.1M HClへの暴露時よりもリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のほうが顕在化した(
図12)。
【0097】
MD:エチルセルロースフィルム(
図12)とBMD:エチルセルロースフィルム(
図6および7)とを、それらの水取込みおよび乾燥質量損失に関して比較した場合、フィルムに耐水性を付与するうえでBMDはMDよりも効率的であることは明らかであると思われる。
【0098】
適切な水取込み速度および乾燥質量損失速度のほかに、結腸への部位特異的薬剤送達を可能にするように意図された高分子フィルムコーティングはまた、生体内で受ける種々の機械的応力に耐えるのに十分な機械的安定性を提供しなければならない。これは、とくに、(i)上部GITの運動から生じる剪断力、および(ii)水性体液との接触時に系中への浸透圧駆動水流入により引き起こされる、製剤のコアからフィルムコーティングに作用する静水圧に関係する。そのような外部応力および内部応力に耐える研究対象のMD:エチルセルロースブレンドの能力を推定するために、テクスチャーアナライザーおよび突刺試験を用いて薄いフィルムの機械的性質を測定した。突刺強度、破断点伸び%、さらには室温で乾燥状態のフィルムの破断に必要なエネルギーを表2に示す。明らかなように、系の機械的安定性は、エチルセルロース含有率の増加に伴って増大した。したがって、この化合物は、これらの高分子網状構造中では安定化剤である。
【0099】
表2に示された機械的性質は、室温で乾燥フィルムを用いて得られたものであることを指摘しておかなければならない。水が多くのポリマーに対して可塑剤として作用することは周知であり、
図12に見られるように、0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時、有意量の水がフィルム中に浸透する。さらに、高分子系の組成は、MDおよびTECの(部分的)浸出に起因して、放出培地との接触時に有意に変化する。それに加えて、高分子フィルムの機械的耐性は、温度に有意に依存する可能性がある。ポリマーは、たとえば、温度を37℃に上昇させた場合、ガラス相からゴム相への転移を起こす可能性がある。これらの理由により、0.1M HClへの2時間までの暴露時およびリン酸緩衝液pH6.8への8時間までの暴露時、研究対象のMD:エチルセルロースブレンドの機械的性質をも調べた。
図13に見られるように、高分子フィルムの機械的安定性は、ポリマーのブレンド比および放出培地のタイプに関係なく、MDおよびTECの部分的浸出に起因して時間と共に低下した。重要なこととして、適切な機械的安定性は、ポリマー:ポリマーブレンド比を変化させることにより(最終的にはコーティング厚さを変化させることにより)効果的に調整可能である。
【0100】
重要なこととして、所望の系安定性は、この場合も、ポリマーブレンド比を変化させることにより効果的に調整可能である。
【0101】
結腸への部位特異的薬剤送達を提供する興味深い可能性を示す(かつ炎症性腸疾患患者の病態生理に適合化される)ポリサッカリド:水不溶性ポリマーブレンドで構成される薄い高分子フィルムの主要な性質は、ポリマーのブレンド比およびポリサッカリドのタイプを変化させることにより効果的に調整可能である。これは、上部GITの内容物をシミュレートした水性培地への暴露前および暴露時の水取込み速度、および乾燥質量損失速度、さらにはフィルムの機械的性質を含む。したがって、広範囲のフィルムコーティングの性質を容易に提供することが可能であるので、それぞれの薬剤治療のニーズ(たとえば、コア配合物の浸透活性および投与量)に適合化させることが可能である。
【0102】
実施例3
A. 材料および方法
A.1. 材料
分岐状マルトデキストリン(NUTRIOSER FB06、Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)、5−アミノサリチル酸(5−ASA、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、微結晶性セルロース(Avicel PH101、FMC Biopolymer,Brussels,Belgium)、ベントナイトおよびポリビニルピロリドン(PVP、Povidone K30)(Cooperation Pharmaceutique Francaise,Melun,France)、パンクレアチン(哺乳動物膵臓由来=アミラーゼとプロテアーゼとリパーゼとの混合物)およびペプシン(Fisher Bioblock,Illkirch,France)、肉牛および酵母からの抽出物さらにはトリプトン(=カゼインの膵液消化物)(Becton Dickinson,Sparks,USA)、L−システイン塩酸塩水和物(Acros Organics,Geel,Belgium)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)。Pentasa(登録商標)、Asacol(登録商標)、およびLialdaは、それぞれ、Ferring社製、Meduna社製、およびShire社製の市販品である。
【0103】
A.2. 薬剤担持ペレット剤コアの作製
押出しおよび球状化により薬剤担持ペレット剤コア(直径:710〜1000μm、60%5−ASA、32%微結晶性セルロース、4%ベントナイト、4%PVP)を作製した。粉末を高速グラニュレーター(Gral10、Collette,Antwerp,Belgium)でブレンドし、均一塊が得られるまで精製水を添加した。湿潤粉末混合物をシリンダー押出し機(SK M/R、Alexanderwerk,Remscheid,Germany)に通した。続いて、押出し物を520rpmで球状化し(Spheronizer Model15、Calveva,Dorset,UK)、流動床(ST15、Aeromatic,Muttenz,Switzerland)を用いて40℃で30分間乾燥させた。
【0104】
A.3. コーティング付きペレット剤の作製
BMDを精製水に溶解させ(5%w/w)、1:2、1:3、1:4、1:5(w/w)の比で可塑化水性エチルセルロース分散体とブレンドし(25%TEC、一晩撹拌、15%w/wポリマー含有率)、コーティング前に6時間攪拌した。Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、5、10、15、および20%(w/w)の重量増加が達成されるまで薬剤担持ペレット剤コアにコーティングを施した。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。コーティング後、ビーズをさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0105】
A.4. in vitro薬剤放出
以下のGIT内の状態をシミュレートした3つの異なる実験構成を用いて、コーティング付きペレット剤からの薬剤放出を測定した。
【0106】
(i)上部GIT: 最初の2時間の間、100mL溶解培地:0.1M HCl(場合により0.32%ペプシンを含有していてもよい)が充填された120mLプラスチック容器にペレット剤を入れ、次に、培地をリン酸緩衝液pH6.8(USP30)(場合により1%パンクレアチンを含有していてもよい)に完全に変更した。水平振盪機(80rpm、GFL3033、Gesellschaft fuer Labortechnik,Burgwedel,Germany)を用いてフラスコを撹拌した。所定の時間点で3mLのサンプルを抜き取ってUV分光光度法により分析した(0.1M HCl中ではλ=302.6nm、リン酸緩衝液pH6.8中ではλ=330.6nm)(Shimadzu UV−1650、Champs sur Marne,France)。UV測定前、酵素の存在下で、サンプルを11,000rpmで15分間遠心分離し、続いて濾過した(0.2μm)。各実験を三重反復方式で行った。
【0107】
(ii)糞便を含まない全GIT: GITに沿ったpHの漸増をシミュレートするために、USP装置3(Bio−Dis、Varian,Paris,France)を用いて薬剤放出を測定した。200mL 0.1M HClが充填された250mL容器にペレット剤を入れた。浸漬速度は、10、20、または30dpmであった(指定どおり)。2時間後、ペレット剤をリン酸緩衝液pH5.5(Eur.Pharm)中に移した。表3は、後続の変化およびさまざまな放出培地への暴露時間を示している。以上に記載されたように、所定の時間点で3mLのサンプルを抜き取ってUV分光光度法により分析した(pH=5.5/6.0/6.8/7.0/7.4でλ=306.8/328.2/330.6/330.2/330.2)。
【0108】
(iii)糞便を有する全GIT: 上部GITを介する通過をシミュレートするために、USP装置3(Bio−Dis)を用いて、ペレット剤を0.1M HClに2時間暴露し、続いて、リン酸緩衝液pH6.8または7.4(USP30)に9時間暴露した。その後、炎症性腸疾患患者からの糞便が接種された100mL培養培地、特定のタイプのビフィズス菌が接種された培養培地、ビフィズス菌とバクテロイデス菌と大腸菌(E−coli)との混合物が接種された培養培地、または比較のために糞便および細菌を含まない培養培地が充填された120mLフラスコ中にペレット剤を移した。37℃、嫌気的条件下(5%CO2の10%H2、85%N2)、かつ温和な撹拌下で、サンプルをインキュベートした。1.5gの肉牛抽出物、3gの酵母抽出物、5gのトリプトン、2.5gのNaCl、および0.3gのL−システイン塩酸塩水和物を1Lの蒸留水(pH7.0±0.2)に溶解させ、続いてオートクレーブ中で滅菌することにより、培養培地を調製した。クローン病または潰瘍性結腸炎の患者の糞便さらには健常被験者の糞便をシステイン加リンゲル液で1:200に希釈し、この懸濁液2.5mLを培養培地で100mLに希釈した。所定の時間点で、2mLのサンプルを抜き取り、13,000rpmで5分間遠心分離し、濾過し(0.22μm)、そして高性能液体クロマトグラフィー(HPLC、ProStar230、Varian,Paris,France)を用いて薬剤含有率を分析した。移動相は、10%のメタノールと90%の水性酢酸溶液(1%w/v)とで構成されるものであった[i]。サンプルをPursuit C18カラム(150×4.6mm、5μm)に注入した。流量は1.5mL/minであった。λ=300nm.3でUV分光光度法により薬剤を検出した。
【0109】
B 結果および考察
B.1. 上部GIT内での薬剤放出
結腸への薬剤の部位特異的送達を可能にする理想的フィルムコーティングは、上部GIT内で薬剤放出を完全に抑制するものでなければならない。しかしながら、結腸に達した時点で、薬剤放出は、時間制御されなければならない(これは、急速かつ完全な放出を含みうる)。ポリサッカリドBMDとエチルセルロースとのブレンドは、以上の実施例で、胃および小腸を介する通過をシミュレートした放出培地への暴露時に水取込みおよび乾燥質量損失の速度および度合いが低い有望な新規高分子フィルムであることが示された。しかしながら、結腸に達した時点で、それは、炎症性腸疾患患者において微生物叢に対する基質として機能し、しかも有意な乾燥質量を損失し、かつかなりの量の水を取り込む。それにもかかわらず、この新規高分子フィルムは、コーティング付き固体製剤からの薬剤放出を適切に制御できるかどうかは、不明であった。
【0110】
図14は、撹拌フラスコ中37℃で0.1M HClに2時間暴露してから培地をリン酸緩衝液pH6.8(USP)に完全に変更した際のさまざまなコーティングレベルでBMD:エチルセルロース1:2ブレンドでコーティングされたペレット剤からの5−ASAのin vitro薬剤放出速度を示している(実線の曲線)。明らかなように、相対薬剤放出速度は、拡散経路長の増加に起因して、コーティングレベルの増加に伴って低下した。しかしながら、20%w/wコーティングレベルの場合でさえも、薬剤放出は、これらの条件下で依然として有意であり、11時間後、5−ASAの約20%が放出された。これらの結果は、酵素を含まない放出培地で得られたものであったことを指摘しておかなければならない。これは、in vivoの状態を適切に反映していない。すなわち、消化酵素の存在は、フィルムコーティングの性質を変化させる可能性があり、結果として薬剤放出がかなり速くなる可能性がある。この現象の重要性を推定するために、0.32%のペプシンを0.1M HClに添加し、1%のパンクレアチンをリン酸緩衝液pH6.8に添加した。
図14の点線の曲線は、これらの条件下で実験的に測定されたそれぞれの薬剤放出速度を示している。重要なこととして、いずれの場合もごくわずかな増加/無影響であったことから、酵素は、これらの条件下(たとえば、エチルセルロースの存在下)でこの高分子フィルムコーティングをかなりの程度まで分解することはできないことが示唆される。それにもかかわらず、より高いコーティングレベルでさえも観測された薬剤放出速度は、高すぎることはなかった。
【0111】
研究対象のペレット剤からの5−ASAの放出速度を低下させるために、フィルムコーティング中の初期エチルセルロース含有率を増加させた。以上に示されたように、水取込みの速度および度合いさらには乾燥フィルム質量損失の速度および度合いは、フリーフィルムをそれぞれ0.1N HClおよびリン酸緩衝液pH6.8に暴露し場合、初期BMD含有率の減少に伴って低下した。
図15は、研究対象のペレット剤からの得られた5−ASA放出速度に及ぼすBMD:エチルセルロースブレンド比の影響を示している。明らかなように、相対薬剤放出速度は、ポリマー:ポリマーブレンド比を1:2から1:5に減少させた場合、有意に低下した。さらに、いずれの場合も、放出速度は、コーティングレベルの増加に伴って低下した。
図15に見られるように、1:4または1:5のBMD:エチルセルロースブレンド比では、上部GITを介する通過をシミュレートしたこれらの条件下で薬剤放出をほとんど完全に抑制するのに15〜20%のコーティングレベルで十分である。すべての通過時間は、in vivoでの実際の通過時間よりも十分に長いことが予想されうるように選択されたことに留意されたい(最悪の場合の条件)[ii、iii]。したがって、ペレット剤のin vivo性能は、さらに良好であることが予想されうる。重要なこととして、0.32%のペプシンおよび1%のパンクレアチンを放出培地に添加した場合、コーティングレベルおよびポリマーブレンド比に関係なく、ほとんどまたはまったくない影響が観察されなかった(
図15の点線の曲線)。しかしながら、これらの実験では、上部GIT全体にわたる放出媒体のpHの漸増は、きわめて単純化されたものであった。さらに、ペレット剤が受ける機械的応力は、それほど重要ではなかった(フラスコ中で80rpmで水平撹拌)。in vivoでは、有意な機械的剪断力(上部GITの運動により引き起こされる)は、高分子フィルムコーティング内に亀裂形成を誘導する可能性があり、結果としてかなり高い薬剤放出速度になる可能性がある。これらの2つの重要な側面をより良好にシミュレートするために、1:4および1:5のブレンド比の20%のBMD:エチルセルロースでコーティングされたペレット剤で、表3に列挙された放出培地および通過時間を用いて、USP装置3により放出させた。次の3つの異なる浸漬速度で試験した。(i)高速:11.5時間にわたり30dpm、次に20dpm、(ii)中速:11.5時間にわたり20dpm、次に10dpm、および(iii)低速:11.5時間にわたり10dpm、次に5dpm。明らかなように、5−ASA放出は、とくにBMD:エチルセルロースブレンド比1:5で、これらのより過酷な条件下でも効果的に抑制された(
図16)。この場合も、選択された放出時間は、非生理学的でおり、極限(最悪の場合)の条件に相当することに留意されたい。これらの高分子ブレンドのin vivo性能は、より良好であることが予想されうる。したがって、これらのフィルムコーティングの機械的安定性は、長期間にわたりかなりの剪断力を受けた時でさえも十分である。
【0112】
B.2. 結腸内での薬剤放出
結腸に達した時点で、高分子フィルムコーティング(これは上部GIT内で薬剤放出を効果的に抑制した)は、薬剤に対して透過性にならなければならない。
【0113】
図17は、次の3つのブレンド比、すなわち、1:3、1:4、または1:5の15%および20%w/wのBMD:エチルセルロースでコーティングされた研究対象のペレット剤からの5−ASAの放出を示している。放出媒体は、最初の2時間の間、0.1M HClであり、続いて9時間の間、リン酸緩衝液pH6.8で完全に置き換えた。最後の10時間の間、ペレット剤を炎症性腸疾患患者からの糞便に暴露し、嫌気的条件下でインキュベートした(実線の曲線)。明らかなように、上部GITを介する通過をシミュレートした培地での5−ASA放出は、効果的に抑制されたが、ペレット剤が患者の糞便に暴露され次第、放出速度の有意な増加が観測された。
【0114】
薬剤透過性のこの急激な増加は、BMD:エチルセルロースが、クローン病および潰瘍性大腸炎に罹患している患者の微生物叢により分泌される酵素に対する基質として機能するという事実のためとすることが可能である(
図17の略画図)。この微生物叢の生存率は、in vitroでは制限されることに留意されたい。したがって、酵素活性は、所与の実験条件下ではおそらく過小評価されるであろう。
【0115】
in vivoでは、細菌は、フィルムコーティング中のポリサッカリドを分解可能なそれぞれの酵素を連続的に産生する。したがって、この試験で観測されたような100%未満の薬剤放出効果の横這い状態は、in vivoではおそらく起こらないであろう。
【0116】
比較のために、嫌気的条件下で上部GIT内の状態をシミュレートした放出培地に暴露してから患者の糞便を含まない培養培地に暴露した時についても、5−ASA放出を測定した(
図17の点線の曲線)。重要なこととして、薬剤放出速度の急激な増加は、12時間後には観測されなかった。これは、フィルムコーティングの透過性の有意な増大が、炎症性腸疾患患者の糞便中に存在する酵素によるこのタイプの高分子系の(部分的)酵素分解により引き起こされるという仮説を裏付けるものである。
【0117】
新しい糞便のサンプルのみがin vitro薬剤放出測定に使用可能であることを指摘しておかなければならない(複雑な微生物叢の限られた生存率に起因する)。とくに日常的な使用に適用する場合、実際上、そのようなサンプルの入手可能性には制約があるので、糞便サンプル中の最も重要な細菌を同定して被験者の結腸内の状態をシミュレートした2つの選択肢の放出培地を開発した。
図18は、それぞれ1:3、1:4、または1:5のブレンド比の15%または20%のBMD:エチルセルロースでコーティングされたペレット剤からの実験的に決定された5−ASA放出速度を示している。最初の2時間の間、ペレット剤を0.1M HClに暴露し、続いて9時間の間、リン酸緩衝液pH6.8に暴露し、最後に、ビフィズス菌とバクテロイデス菌と大腸菌(Escherichia coli)との混合物を含有する培養培地(
図18a)またはビフィズス菌を含有する培養培地(
図18b)のいずれかに暴露した。
【0118】
明らかなように、結腸の状態をシミュレートしたこれらの「選択肢」の薬剤放出培地への暴露時の相対放出速度の急激な増加は、炎症性腸疾患患者からの糞便で観測されたものに類似していた(
図18対
図17)。したがって、これらの培地は、実際の糞便サンプルに対する良好な代替物になりうる。
【0119】
図19は、3つの市販品、すなわち、Pentasa(登録商標)ペレット剤、コーティング付き顆粒が充填されたAsacol(登録商標)カプセル剤、およびLialda錠剤からの実験的に決定された5−ASA放出速度を例示している。Pentasa(登録商標)ペレット剤は、エチルセルロースでコーティングされた5−ASA担持スターターコアで構成される。見てのとおり、薬剤放出は、すでに上部GIT内で開始されており、これは文献の報告と一致している[iv]。Asacol(登録商標)カプセル剤は、低pHでは不溶性であるがpH>7では可溶性になるEudragit S:ポリ(アクリルメタクリレート)でコーティングされた5−ASA担持顆粒が充填されたものである。Bio−Dis放出装置および培地変更用の所定のタイムスケジュールを用いてシンク条件を提供できるようにするために、ハードゼラチンカプセルを開放して0.05gの顆粒を各容器に入れた。
図19に見られるように、5−ASA放出は、研究対象の条件下で上部GIT内ですでに有意である。このタイプの薬剤送達系の性能は、ペレット剤が暴露される環境のpHに本質的に依存することに留意されたい。Lialda錠剤は、親水性化合物および親油性化合物[ナトリウムカルメロース、ナトリウムカルボキシメチルデンプン(タイプA)、タルク、ステアリン酸、およびカルナウバワックス]で構成されるマトリックスに薬剤が組み込まれたものである。この制御放出性マトリックス錠剤は、Eudragit LおよびEudragit S:2種のポリ(アクリルメタクリレート)のブレンドでコーティングされたものである。
図19に見られるように、5−ASA放出は、研究対象の条件下で上部GITの内容物をシミュレートした放出培地中で効果的に抑制される。系が結腸培地に暴露された時点で、薬剤放出が開始される。
【0120】
興味深いことに、これらの条件下では、糞便サンプルの存在/不在は、研究対象の製剤のいずれにおいてもそれほど顕著な影響を示さなかった。
【0121】
新開発のBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤は、次のような主な利点を提供する。(i)胃通過時間のより少ない変動、GITの内容物全体にわたるより均一な分布、およびシングルユニット製剤の「オールオアナッシング」効果の回避を可能にするマルチユニット製剤であること。(ii)上部GIT内で薬剤放出を効果的に抑制すること。(iii)結腸内で時間制御薬剤放出を提供すること(この開始は、炎症性腸疾患の結腸内に存在する酵素により誘導される)。(iv)ポリサッカリドBMDを含有すること(そのプレバイオティクス活性は、驚くべきことに、エチルセルロースと混合した場合、阻害されないので、患者の結腸内の微生物叢を正常化する)。
【0122】
新規な高分子フィルムコーティングのBMD:エチルセルロースブレンドは、本発明に従って結腸への薬剤(たとえば5−ASA)の部位特異的送達を可能にする。重要なこととして、この新しい高分子障壁は、とくに疾患状態の微生物叢および環境のpHに関して、標的部位の状態に適合化される。さらに、この新規な高分子フィルムコーティングの第2の効果は、結腸内の微生物叢を正常化するBMDの有意なプレバイオティクス効果であり、炎症性腸疾患に罹患している患者にとくに有益である。
【0123】
実施例4
可塑剤として25%のジブチルセバケートを用いて実施例2および3と同一のプロトコルによりBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤を得た。水取込み速度(
図20)および乾燥質量損失速度(
図21)を試験したところ、可塑剤としてTECを用いたBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤と同一の結果を示した。実際に、コーティング付きペレット剤の特性は、可塑剤依存性でない。実施例3と同一のプロトコルに従って、炎症性腸疾患患者からの糞便の存在下および不在下で、全GITを介する通過をシミュレートした条件下で、BMD:エチルセルロース1:4(エチルセルロースは25%のジブチルセバケートで可塑化されている)でコーティングされたペレット剤を用いて、5−ASA放出を試験した。コーティングレベルは、15%であった(
図22)。前の実施例3と同様に、5−ASA放出は、研究対象の条件下で上部GITの内容物をシミュレートした放出培地中で観察されない。系が結腸培地に暴露された時点で、薬剤放出が開始される。
【0124】
実施例5
A. 材料および方法
A.1. 材料
分岐状マルトデキストリン(BMD)(コムギデンプンから得られた高繊維含有率の水溶性分岐状マルトデキストリン、NUTRIOSE(登録商標)FB06、Roquette Freres,Lestrem,France)、イヌリン、FOS、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)。
【0125】
A.2. 薄い高分子フィルムの作製
実施例2に見られるように薄い高分子フィルムを作製した。
【0126】
A.3. フィルムの特性解析
実施例2に見られるように、フィルムの厚さ、水取込み速度、および乾燥質量損失速度を測定した。
【0127】
B 結果および考察
薄いフィルムの水取込みおよび乾燥質量損失
37℃での0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時、イヌリンおよびFOSの水取込み速度および乾燥質量損失速度をBMDと比較した。明らかなように、ポリマーブレンド比は、BMDで観測されたように、FOSおよびイヌリンで得られた水透過速度および水透過率に有意に影響を及ぼした。以上に見られるように、この現象は、水溶性不消化性ポリサッカリドのイヌリン、FOS、およびBMDと比較してより疎水性のエチルセルロースの性質のためとすることが可能である。興味深いことに、研究対象のフィルムの水取込み速度および水取込み率は、0.1N HCl中よりもリン酸緩衝液pH6.8中のほうが高かった(
図23b対
図23a、
図24b対
図24a)。これは、以上で、水性エチルセルロース分散体Aquacoat ECD中に乳化剤ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)の存在のためとされた。
【0128】
図23〜26で0.1M HClおよびリン酸緩衝液pH6.8への暴露時のフィルムの水取込み速度および水取込み率を比較することにより、第2のポリサッカリドのタイプは、有意な影響を及ぼすことがわかる。たとえば、BMD:エチルセルロースブレンド(実線)は、放出培地のタイプに関係なく、低い水取込み速度および乾燥質量損失を示す。フィルムに耐水性挙動を付与するうえでイヌリンおよびFOSがBMDほど効率的でないとしても、上部GIT内の早期薬剤放出は、研究対象の範囲内のポリマー:ポリマーブレンド比に関係なく、イヌリンおよびFOSを含有する高分子フィルムを用いて制限されることが予想されうる。
【0129】
実施例6
A. 材料および方法
A.1 材料
2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)(Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、システイン加リンゲル液(Merck,Darmstadt,Germany)、BMD(NUTRIOSE(登録商標)FB06、Roquette Freres,Lestrem,France)、エンドウデンプンN−735(エンドウデンプン、Roquette Freres,Lestrem,France)、水性エチルセルロース分散体(Aquacoat ECD30、FMC Biopolymer,Philadelphia,USA)、トリエチルシトレート(TEC、Morflex,Greensboro,USA)、5−アミノサリチル酸(5−ASA、Sigma−Aldrich,Isle d’Abeau Chesnes,France)、微結晶性セルロース(Avicel PH101、FMC Biopolymer,Brussels,Belgium)、ポリビニルピロリドン(PVP、Povidone K30)(Cooperation Pharmaceutique Francaise,Melun,France)、Pentasa(登録商標)(コーティング付きペレット剤、Ferring、バッチ番号:JX155)、Asacol(登録商標)(コーティング付き顆粒剤、Meduna、バッチ番号:TX143)。
【0130】
A.2 BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の作製
押出しおよびそれに続く球状化により5−アミノサリチル酸(5−ASA)担持ペレット剤スターターコア(直径:0.7〜1.0mm、60%5−ASA、32%微結晶性セルロース、4%ベントナイト、4%PVP)を次のように作製した。すなわち、それぞれの粉末を高速グラニュレーター(Gral10、Collette,Antwerp,Belgium)でブレンドし、均一塊が得られるまで精製水を添加した(100gの粉末ブレンドに対して41gの水)。湿潤混合物をシリンダー押出し機(SK M/R、孔:直径1mm、厚さ3mm、回転速度:96rpm、Alexanderwerk,Remscheid,Germany)に通した。続いて、押出し物を520rpmで2分間球状化し(Spheroniser Model15、Calveva,Dorset,UK)、流動床(ST15、Aeromatic,Muttenz,Switzerland)を用いて40℃で30分間乾燥させた。篩分けによりサイズ画分0.7〜1.0mmを得た。
【0131】
続いて、Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、15%(w/w)(BMD:ECコーティング付きペレット剤)または20%(w/w)(エンドウデンプン:ECコーティング付きペレット剤)の重量増加が達成されるまで、得られた薬剤担持スターターコアをBMD:エチルセルロース1:4ブレンド(BMD:ECコーティング付きペレット剤)またはエンドウデンプン:エチルセルロース1:2ブレンド(エンドウデンプン:ECコーティング付きペレット剤)でコーティングした。
【0132】
BMDを精製水に溶解させ(5%w/w)、1:4の比(w/w、非可塑化ポリマー乾燥質量を基準にして)で可塑化水性エチルセルロース分散体とブレンドし(25%TEC、一晩撹拌、15%w/wポリマー含有率)、コーティング前に6時間攪拌した。Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、15%(w/w)の重量増加が達成されるまで薬剤担持ペレット剤コアにコーティングを施した。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。コーティング後、ビーズをさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0133】
エンドウデンプンを65〜75℃で精製水中に分散させた(5%w/w)。25%のTEC(w/w、分散体の固形分含有率を基準にして)を用いて水性エチルセルロース分散体(15%w/w固形分含有率)を24時間可塑化した。エンドウデンプンおよびエチルセルロース分散体を次の比すなわち1:2(ポリマー:ポリマー、w:w)で室温でブレンドした。混合物を6時間攪拌してからコーティングした。Wursterインサートを備えた流動床コーター(Strea1、Aeromatic−Fielder,Bubendorf,Switzerland)を用いて、20%(w/w)の重量増加が達成されるまで薬剤担持ペレット剤コアにコーティングを施した。プロセスパラメーターは次のとおりであった。入口温度=39±2℃、生成物温度=40±2℃、スプレー速度=1.5〜3g/分、アトマイゼーション圧力=1.2bar、ノズル直径=1.2mm。その後、ペレット剤をさらに10分間流動化させ、続いて、60℃のオーブン中で24時間硬化させた。
【0134】
A.3 結腸炎の誘導および試験デザイン
雄ウィスターラット(250g)をin vivo試験に使用した。この試験は、政府ガイドライン(86/609/CEE)に準拠してInstitut Pasteur de Lilleの公認施設(A35009)で行った。1ケージあたり4匹の動物を飼育した。ラットはすべて、水道水を自由に利用できた。
【0135】
実験の開始時(0日目)、ラットを6群(5〜8匹の動物/群)に分けた。2つの群は、標準飼料を摂取した(陰性および陽性の対照群)。他の群は、Pentasa(登録商標)ペレット剤(n=8)、Asacol(登録商標)ペレット剤(n=8)、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤(n=8)、またはエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤(n=8)のいずれかを含む食物を摂取した。
【0136】
「食物混合」技術を用いて、これらの4つの異なる飼料を調製した。系はすべて、150mg/kg/日の5−ASAの用量が得られるように添加された。
【0137】
3日目、以下のように結腸炎を誘導した:ペントバルビタール(40mg/kg)を用いてラットを90〜120分間麻酔し、水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物に溶解されたTNBS(250μl、20mg/ラット)の直腸内投与を施した。
【0138】
対照ラット(陰性対照)には媒体のみ(水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物)の直腸内投与を施した。直腸内TNBS投与または直腸内媒体投与の3日後(6日目)、動物を屠殺した。
【0139】
A.4 結腸炎の巨視的および組織学的な評価
結腸炎の巨視的および組織学的な指標を2名の研究者により盲検的に評価した。Ameho基準に従って組織学的評価を行うために、肛門管から正確に4cm上に位置する結腸検体を使用した。0〜6の尺度に基づくこの等級付けは、炎症浸潤の度合い、糜爛、潰瘍、または壊死の存在、ならびに病変の深さおよび表面積を考慮に入れる。
【0140】
A.5 統計
ノンパラメトリック検定(マン・ホイットニー検定)を用いてすべての比較を解析した。P値が<0.05であった場合、差は、統計学的に有意であると判断された。
【0141】
B 結果および考察
TNBS起因性結腸炎は、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で治療することにより改善される。
【0142】
直腸内TNBS投与が施された動物における結腸炎の進行を特徴付けた。
【0143】
媒体のみ(水性0.9%NaCl溶液と100%エタノールとの1:1混合物)の直腸内投与の3日後に屠殺された対照ラット(陰性対照群)は、結腸内に巨視的病変を有していなかった(
図27A)。これとは対照的に、TNBS投与の3日後程度の早い時期に重篤な結腸炎が誘導された(
図27B)。組織学的レベルに関して、対照ラットでは異常は検出されなかった(
図29:対照=陰性対照群)。これとは対照的に、TNBS投与の3日後、結腸組織構造は、好中球浸潤を伴う大きい潰瘍面積により特徴付けられ、筋層の深部にまで壊死が広がった(
図29:TNBS)。BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理された動物の結腸は、病変の有意な減少を示した(
図27)。この結果は、エンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理されたラットの場合(データは示さず)と類似していた。さらに、TNBS起因性結腸病変に及ぼすPentasa(登録商標)ペレット剤、Asacol(登録商標)ペレット剤、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤による処理の影響を、Amehoスコアを用いて検討した(
図28)。結腸炎を有する未処理ラットを比較のために調べた。
【0144】
最適効果は、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤を用いた場合およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤を用いた場合に得られた。結腸炎誘導の3日後、結腸炎を有する未処理ラットと比較して、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の投与が予防的に施されたラットで、巨視的病変スコアの有意な減少が観測された。巨視的炎症に対応して、組織学的分析によっても、(i)直腸内にTNBS、(ii)直腸内にTNBSかつ経口的にPentasa(登録商標)ペレット剤、(iii)直腸内にTNBSかつ経口的にAsacol(登録商標)ペレット剤、(v)直腸内にTNBSかつ経口的にBMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤、および(v)直腸内にTNBSかつ経口的にエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤で処理された動物間に主要な差が確認された(
図30)。これは、TNBS投与の3日後のAmeho炎症スコアの有意な減少に反映された(
図28)。明らかなように、BMD:エチルセルロースコーティング付きペレット剤およびエンドウデンプン:エチルセルロースコーティング付きペレット剤の投与は、より小さい多型炎症性浸潤、限局的な浮腫、および小さい巣状壊死病変で構成される炎症性病変を低減させた(
図29)。
【0145】
TNBS、TNBSかつPentasa(登録商標)ペレット剤、およびTNBSかつAsacol(登録商標)ペレット剤で処理した場合、固有層での顕著な炎症性浸潤ならびに筋層および漿膜層の深部にまで広がる壊死を伴う結腸壁の肥厚がはっきりと認められる。
【0146】
これらの結果から、in vivoでの結腸ターゲッティング用に提案された新規なフィルムコーティングの有効性が明確に実証される。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】