(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697668
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】口腔内崩壊錠剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/22 20060101AFI20150319BHJP
A61K 9/26 20060101ALI20150319BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20150319BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
A61K47/22
A61K9/26
A61K47/32
A61K47/38
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-523934(P2012-523934)
(86)(22)【出願日】2011年7月8日
(86)【国際出願番号】JP2011065714
(87)【国際公開番号】WO2012005359
(87)【国際公開日】20120112
【審査請求日】2012年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-156873(P2010-156873)
(32)【優先日】2010年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】中村 一裕
(72)【発明者】
【氏名】小川 哲平
【審査官】
高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−281564(JP,A)
【文献】
特表2008−526827(JP,A)
【文献】
特表2009−515871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分を含有する核粒子が水不溶性高分子および/または腸溶性高分子、ならびに崩壊剤を含む層で被覆された粒子を、アスコルビン酸とともに圧縮成型してなる口腔内崩壊錠剤。
【請求項2】
アスコルビン酸の含量が1〜10重量%である請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
水不溶性高分子および/または腸溶性高分子がメタクリル酸コポリマーである請求項1または2に記載の錠剤。
【請求項4】
水不溶性高分子および/または腸溶性高分子がエチルセルロースである請求項1または2に記載の錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸を崩壊促進剤として含む口腔内崩壊錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸類やクエン酸類等の有機酸を含有する口腔内崩壊錠剤は知られている。その具体例として、アスコルビン酸を有効成分として含有するもの(特許文献1〜3)、有効成分の溶解剤として吸収性を確保するために添加するものとして例示があるもの(特許文献4、5)があるが、いずれにも口腔内崩壊錠剤における崩壊性に寄与するとの記載や示唆はない。崩壊性を目的とする技術としては、アスコルビン酸やクエン酸を、炭酸塩との組み合わせを必須とする発泡性崩壊剤として含有するもの(特許文献6)が知られている。
【0003】
一方、口腔内崩壊錠剤においては、口腔内崩壊性、有効成分に由来する苦味等の不快な味や刺激感のマスキング性、さらに腸管での意図する溶出性(普通錠剤と同等の溶出性、徐放性等制御された溶出性等)の同時達成が課題であり、このための検討がなされている。
【0004】
その例として、有効成分を含む核粒子を、エチルセルロース等の水不溶性高分子あるいはメタクリル酸コポリマー等の腸溶性高分子に、さらにクロスカルメロースナトリウム等の崩壊剤やヒプロメロース等の透水成分を混合したもので被覆した粒子を、崩壊剤等の成分とともに圧縮成型した口腔内崩壊錠剤が知られている(特許文献7、8)。
【0005】
しかし、この方法では苦味等マスキング性と腸管内溶出性は良好であるものの、製造直後の崩壊性が不良となり、良好な品質の製剤の安定した供給という観点で課題があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−161495号公報
【特許文献2】特許第3884056号公報
【特許文献3】特開2002−121133号公報
【特許文献4】特表2003−512402号公報
【特許文献5】特開2002−316923号公報
【特許文献6】特表平5−500956号公報
【特許文献7】特表2003−504324号公報
【特許文献8】特開2008−214334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、苦味等のマスキング性と良好な溶出性を備え、製造直後から良好な口腔内崩壊性が恒常的に維持される口腔内崩壊錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、有効成分を含む核粒子が、水不溶性高分子または腸溶性高分子で被覆された粒子を、アスコルビン酸類やクエン酸類等の有機酸とともに圧縮成型した製剤とすることにより、苦味等のマスキング性と良好な溶出性を備え、製造直後から良好な口腔内崩壊性が恒常的に維持されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は有効成分を含有する核粒子が水不溶性高分子および/または腸溶性高分子を含む被覆層で被覆された粒子を、有機酸とともに圧縮成型してなる口腔内崩壊錠剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、苦味等のマスキング性と良好な溶出性を備え、製造直後から良好な口腔内崩壊性が恒常的に維持される口腔内崩壊錠剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、有効成分を含有する核粒子が水不溶性高分子および/または腸溶性高分子を含む被覆層で被覆された粒子を、有機酸とともに圧縮成型してなる口腔内崩壊錠剤である。
【0012】
本発明における口腔内崩壊錠剤とは、口腔内の唾液のみもしくは少量の水の摂取で60秒以内、好ましくは30秒以内に口腔内で崩壊して服用することが可能な錠剤を意味する。
【0013】
本発明の口腔内崩壊錠剤は、実用的な硬度として、好ましくは29N以上、さらに好ましくは49N以上である。本発明錠剤の好ましい溶出性は、pH6.0のMcIlvaine緩衝液を用い、日局パドル法毎分50回転で評価した60分後の溶出率が80%以上である。
【0014】
本発明における核粒子は、有効成分の他に、軽質無水珪酸、タルク、ステアリン酸またはその金属塩などの流動化剤を含んでいてもよい。
本発明における核粒子の大きさは、レーザー回折法で測定した場合のメジアン径として、通常1〜50μmであり、好ましくは3〜30μmである。
【0015】
本発明における核粒子は、水不溶性高分子、腸溶性高分子またはそれらの混合物を含む被覆剤で被覆される。水不溶性高分子としては、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、およびアクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、腸溶性高分子としては、メタクリル酸・アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸・メタクリル酸メチルコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート等が挙げられる。かかる被覆剤は、これらのほかに、マクロゴール、クエン酸トリエチル、アセチル化モノグリセリド、トリアセチン、ポリソルベート80、プロピレングリコール等の可塑剤や、タルク、酸化チタン、ステアリン酸もしくはその金属塩、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム等の凝集防止剤、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の溶出速度調整物質を含んでいてもよい。
【0016】
本発明で用いるメタクリル酸コポリマーとしては、特に限定されないが、メタクリル酸コポリマーLD(例えば、商品名:オイドラギットL30D55、エボニック社製)、メタクリル酸コポリマーL(例えば、商品名:オイドラギットL100、エボニック社製)、メタクリル酸コポリマーS(例えば、商品名:オイドラギットS100、エボニック社製)などが挙げられる。
【0017】
これら水不溶性高分子や腸溶性高分子を含む被覆層の含量(コーティング率)は、核粒子に対し、通常2〜100重量%、好ましくは5〜80重量%、さらに好ましくは10〜60重量%である。
【0018】
本発明で用いられる有機酸としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸2グルコシドなどのアスコルビン酸類、クエン酸およびクエン酸塩(「クエン酸類」と総称する。以下同じ。)、フマル酸およびフマル酸塩(フマル酸類)、リンゴ酸およびリンゴ酸塩(リンゴ酸類)、酒石酸および酒石酸塩(酒石酸類)が挙げられ、なかでもアスコルビン酸類、クエン酸類が好ましい。
これら有機酸の含量は、錠剤重量に対し、通常0.5〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは2〜5重量%である。
【0019】
本発明の錠剤には、苦味マスキング性、腸溶性、崩壊性等に特に影響しない範囲で、通常錠剤に用いられる添加物が含有されていてもよい。かかる添加物としては、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、矯味剤が挙げられる。
【0020】
本発明の口腔内崩壊錠剤としては、有効成分を含有する核粒子が水不溶性高分子および/または腸溶性高分子を含む層で被覆された粒子と、崩壊剤を含む粒子を崩壊剤で被覆した顆粒とを、有機酸とともに圧縮成型してなるものが特に好ましい。
【0021】
本発明の錠剤における有効成分は特に制限されないが、例えば2−(3−シアノ−4−イソブチルオキシフェニル)−4−メチル−5−チアゾールカルボン酸(以下、「化合物I」と表記することがある。)が挙げられる。
【0022】
本発明の口腔内崩壊錠剤は、通常の製造機器または多少の改変を伴う製造機器を用いて困難を伴わずに製造することができる。例えば、有効成分が水不溶性高分子や腸溶性高分子を含む被覆層で被覆された顆粒を調製し、アスコルビン酸類やクエン酸類の粒子および1種類以上の製薬学的に許容される添加剤とともに圧縮成形することにより製造される。
【実施例】
【0023】
〔実施例1〕(顆粒外にアスコルビン酸あり)
精製水522.8gにポリソルベート80(日光ケミカルズ)15.1gを加え、混合した後、タルク(日興製薬)35.3g、クロスカルメロースナトリウム(FMC)12.6gを加え、十分に攪拌した(第1液)。これとは別に、水酸化ナトリウム(和光純薬工業)1.4gを精製水427gに溶解させた溶液を、メタクリル酸コポリマーLD(エボニック社、商品名;オイドラギットL30D55)380.3gに加え、攪拌した(第2液)。第1液に第2液を加えて懸濁させ、篩過してコーティング分散液とした。
化合物I 300gと軽質無水珪酸(フロイント産業、商品名;アドソリダー101)15gを微粒子コーティング・造粒装置(パウレック、MP−01SFP)に投入し、上記コーティング分散液を噴霧し、薬物含有粒子を得た。
D−マンニトール(東和化成工業、商品名;マンニットP)870g、軽質無水珪酸(フロイント産業、商品名;アドソリダー101)40g、クロスポビドン(ISP、商品名;ポリプラスドンXL−10)45gを流動層造粒機(パウレック、MP−01)に仕込み、精製水144gを噴霧し、顆粒を得た。この顆粒にクロスポビドン45gを投入し、粉コーティングし、崩壊剤被覆顆粒を調製した。
崩壊剤被覆顆粒108.5gに薬物含有粒子36.2g、アスコルビン酸(武田薬品工業)3.0g、ステアリン酸カルシウム(日本油脂)2.3gを加えて混合後、ロータリー打錠機(畑鐵工所、HT−AP6SS−U)を用いて圧縮成型した。成型条件は錠剤重量250mg、φ8mm割線平杵で硬度約78.5Nとなるように打錠した。
【0024】
〔実施例2〕(顆粒外にクエン酸あり)
実施例1のアスコルビン酸をクエン酸に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で錠剤を製した。
【0025】
〔実施例3〕(顆粒外にアスコルビン酸ナトリウムあり)
実施例1のアスコルビン酸をアスコルビン酸ナトリウムに置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で錠剤を製した。
【0026】
〔実施例4〕(顆粒外にアスコルビン酸2グルコシドあり)
実施例1のアスコルビン酸をアスコルビン酸2グルコシドに置き換えた以外は、実施例1と同様の方法で錠剤を製した。
【0027】
〔比較例〕(顆粒外にアスコルビン酸、クエン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸2グルコシドなし)
精製水522.8gにポリソルベート80(日光ケミカルズ)15.1gを加え、混合した後、タルク(日興製薬)35.3g、クロスカルメロースナトリウム(FMC)12.6gを加え、十分に攪拌した(第1液)。これとは別に、水酸化ナトリウム(和光純薬工業)1.4gを精製水427gに溶解させた溶液を、メタクリル酸コポリマーLD(エボニック社、商品名;オイドラギットL30D55)380.3gに加え、攪拌した(第2液)。第1液に第2液を加えて懸濁させ、篩過してコーティング分散液とした。
次に、実施例と同様に化合物Iと軽質無水珪酸に対して上記コーティング分散液を噴霧し、薬物含有粒子を得た。また、実施例と同様の方法で崩壊剤被覆顆粒を調製した。
崩壊剤被覆顆粒112.4gに薬物含有粒子35.3gとステアリン酸カルシウム(日本油脂)2.3gを加えて混合後、ロータリー打錠機(畑鐵工所、HT−AP6SS−U)を用いて、実施例と同じ成型条件で圧縮成型した。
【0028】
〔試験例〕
実施例1〜4及び比較例の製造直後の錠剤について、口腔内崩壊時間とマスキング性を評価した。マスキング性の評価方法は、健康な成人男性2名で行い、錠剤を舌の上に置き、崩壊させた後の主薬の刺激に対するマスキング性を以下に示す基準で評価した。
0:明らかにマスキング効果があり、刺激を全く感じない
1:マスキング効果はあり、ほとんど刺激を感じない
2:マスキング効果はあるが、刺激を感じる
3:マスキング効果は弱く、刺激を強く感じる(許容可)
4:マスキング効果はなく、刺激を強く感じる(許容不可)
その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
比較例では、崩壊剤を添加した処方であるにもかかわらず、崩壊性が顕著に遅延し、マスキング性も低下した。しかし、実施例1〜4では、有機酸の添加により、崩壊性およびマスキング性が改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、口腔内崩壊錠剤の製造に利用される。