(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不飽和モノマー混合物100質量部に対し、N−置換(メタ)アクリルアミド化合物の配合量が1〜99質量部であり、かつ疎水性マクロモノマーの配合量が1〜30質量部である、請求項1又は2に記載の塗膜形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の塗膜形成方法を、各工程毎に順を追ってさらに詳細に説明する。
【0018】
工程(1)
本工程では、被塗物に、N−置換(メタ)アクリルアミド化合物を含むモノマー成分の共重合体であって、(A)水に対する下限臨界溶液温度T
1が30〜95℃の範囲内である主鎖と(B)疎水性の側鎖とからなる構造を持つグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物を塗装して未硬化の塗膜が形成される。
【0019】
被塗物
本発明において水性塗料組成物が塗装される被塗物としては、特に限定されるものではなく、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体の外板部;自動車部品;携帯電話、オーディオ機器などの家庭電気製品の外板部などを挙げることができ、なかでも、自動車車体の外板部及び自動車部品が好ましい。
【0020】
また、上記被塗物の素材としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅、ブリキ、ステンレス鋼、亜鉛メッキ鋼、合金化亜鉛(Zn−Al、Zn−Ni、Zn−Fe等)メッキ鋼などの金属材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂類や各種のFRPなどのプラスチック材料;ガラス、セメント、コンクリートなどの無機材料;木材;繊維材料(紙、布等)などを挙げることができ、なかでも、金属材料及びプラスチック材料が好適である。
【0021】
上記被塗物は、上記金属材料やそれから成形された車体等の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理などの表面処理が施されたものであってもよい。さらに、該被塗物は、上記金属基材、車体などに、各種電着塗料などの下塗り塗膜が形成されたものであっても、さらに上記特定のグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物以外のベース塗料の塗装により塗膜が形成されたものであってもよく、なかでも、カチオン電着塗料によって下塗り塗膜が形成された車体が特に好適である。
【0022】
グラフトコポリマー
本発明の方法で用いるベース塗料に含まれるグラフトコポリマーにおいては、その主鎖部分はN−置換(メタ)アクリルアミド化合物を必須モノマー成分として含み、かつ水に対する下限臨界溶液温度(以下、「LCST」と略称する場合がある)が30〜95℃の範囲内である。一方、本発明に用いるグラフトコポリマーの側鎖部分は、疎水性である。
【0023】
上記主鎖部分は、N−置換(メタ)アクリルアミド化合物と、必要によりその他の不飽和モノマーを共重合することにより得ることができる。該N−置換(メタ)アクリルアミド化合物は、通常、N−アルキルアクリルアミド、N−アリルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N−アリルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N―ジアリルアクリルアミド、N―アルキル,N−アリルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、N,N―ジアリルメタクリルアミド、N―アルキル,N−アリルメタクリルアミド及びそれらの誘導体の総称である。
【0024】
該N−置換(メタ)アクリルアミド化合物としては、具体的には、例えば、N−メチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−nプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドメチルエーテル、N−メチロールアクリルアミドエチルエーテル、N−メチロールアクリルアミドプロピルエーテル、N−メチロールアクリルアミドブチルエーテル、アクリロイルモルホリン、ダイアセトンアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−nプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチル,N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチル,N−エチルメタクリルアミド等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
これらの中でもそのホモポリマーがLCSTを示すものとして、よく知られているものではN−イソプロピルアクリルアミド(LCSTは30.9℃である)、N−nプロピルアクリルアミド(LCSTは21.5℃である)、N−nプロピルメタクリルアミド(LCSTは28.0℃である)、N,N−ジエチルアクリルアミド(LCSTは32.0℃である)等が挙げられる(参考文献:伊藤昭二 高分子論文集、46(7)、437−443(1989))。
【0026】
本発明においてはN−置換(メタ)アクリルアミド化合物と、必要によりその他の不飽和モノマーをラジカル共重合することにより、30〜95℃のLCSTを示す主鎖を合成することができる。このときN−置換(メタ)アクリルアミドとして、N−イソプロピルアクリルアミド、N−nプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミド、より好ましくはN−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミドの中から選ばれるモノマーが1種類以上含まれていることが水溶解性等の観点から好ましい。
【0027】
本発明において必要に応じてN−置換(メタ)アクリルアミドと共重合されるその他の不飽和モノマーとしては公知のラジカル重合性の不飽和モノマーを好適に用いることができる。分子中に不飽和基を1つ含有するモノマーとしては以下のものを挙げることができる。
【0028】
まずアクリロイルモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のC1〜24アルキルアクリレート;アクリル酸;2−ヒドロキシエチルアクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート;グリシジルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート等のエポキシ基含有アクリレート;N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレート;3−エチル−3−アクリロイルオキシメチルオキセタン、3−メチル−3−アクリロイルオキシメチルオキセタン等のオキセタン環含有アクリレート等が挙げられる。
【0029】
次にメタクリロイルモノマーとして、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のC1〜24アルキルメタクリレート;メタクリル酸;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート等のヒドロキシアルキルメタクリレート;グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリレート;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート等のアミノアルキルメタクリレート;3−エチル−3−メタクリロイルオキシメチルオキセタン、3−メチル−3−メタクリロイルオキシメチルオキセタン、3−ブチル−3−メタクリロイルオキシメチルオキセタン等のオキセタン環含有メタクリレート;γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有メタクリレート;サイラプレンFM−0711(チッソ(株)製)等のジメチルポリシロキサン含有メタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、パーフルオロオクチルメチルメタクリレート、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート等の含フッ素メタクリレート等が挙げられる。
【0030】
その他の不飽和基を1つ含有するラジカル重合性の不飽和モノマーとしてアクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
【0031】
不飽和基を2つ以上含有するモノマーとしてはエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,4− ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、シアヌル酸トリアクリレート、トリアクリルホルマール等の(メタ)アクリル系の多官能性単量体;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメリット酸トリアリル、ジエチレングリコールジアリルエーテル等のアリル系多官能性単量体等が挙げられる。これら不飽和基を2つ以上含有するモノマーはグラフトポリマーの主鎖を分岐させ、また3次元ゲル化させるので多く用いることはできない。本発明においてはその使用量はグラフトポリマーを合成する際の全モノマーに対して1質量%以下であることが好ましく、全く使用しないことがより好ましい。
【0032】
グラフトコポリマーの製造方法
本発明に用いられるグラフトコポリマーは疎水性の側鎖を持つ。本発明において側鎖とは、前記グラフトポリマーの主鎖にグラフトされている部分を示す。
【0033】
上記グラフトポリマーを得る方法としては、公知の方法により予め合成された主鎖となるポリマーに疎水性モノマーをグラフト重合させる方法;疎水性のマクロモノマーと他の不飽和モノマーとを共重合させて1段階でグラフトポリマーを得る方法等が挙げられる。
【0034】
なかでも簡便に所望のグラフトポリマーを得るには疎水性のマクロモノマーと他の不飽和モノマーとを共重合させる方法が好ましい。本発明に好ましく用いることができる疎水性のマクロモノマーを合成する方法を以下に述べる。
【0035】
マクロモノマーを合成する幾つかの方法が公知となっている。例えば、特公昭43−11224号公報には、マクロモノマーを製造する工程においてメルカプトプロピオン酸のような連鎖移動剤を用いてポリマー鎖末端にカルボン酸基を導入し、ついでメタクリル酸グリシジルを付加することによってエチレン性不飽和基を導入してマクロモノマーを得る方法が記載されている。またコバルト錯体を用いた触媒的連鎖移動重合法(Catalytic Chain Transfer Polymerization、CCTP)による方法が、特公平6−23209号公報、特公平7−35411号公報に開示されている。さらに、特開平7−002954号公報には、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを付加−開裂型連鎖移動剤として用いてラジカル重合してマクロモノマーを得て、ついでこのマクロモノマーを他のエチレン性不飽和単量体と共重合することによってグラフト共重合体を得る方法が記載されている。
【0036】
また、末端にカルボキシル基を持つ(好ましくは直鎖状の)ポリエステル樹脂にグリシジルメタクリレートを開環付加させマクロモノマーを製造する方法もある。
【0037】
これらの方法のうちメルカプトプロピオン酸のような連鎖移動剤を用いる方法は、臭気の強いメルカプタン系の連鎖移動剤の使用が必須であること、マクロモノマーの製造に使用する不飽和単量体の官能基の種類が大きく制限されること、グラフト共重合体を得るまでの工程が煩雑であること等が問題となる場合がある。また、コバルト錯体を用いた触媒的連鎖移動重合法によるマクロモノマーは他のモノマーとラジカル重合させる際に触媒的連鎖移動重合を起こさないようにするためにコバルト錯体を除去するか、化学的に触媒活性を失わせる必要がある。その点2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを付加−開裂型連鎖移動剤として用いラジカル重合によりマクロモノマーを得る方法はそれらの工業的利用に際しての問題点が少なく好ましい。
【0038】
マクロモノマーの原料となる出発モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルキル基がC1〜24、好ましくはアルキル基がC4〜18のアルキル(メタ)アクリレート、さらに好ましくはアルキル基がC4〜18のアルキルメタクリレートを挙げることができる。具体的には、例えば、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートを好適に使用することができる。
【0040】
マクロモノマーの原料となる出発モノマーが、上記アルキル(メタ)アクリレートを含有する場合、該アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、マクロモノマーの原料となる出発モノマーの合計量を基準として、5〜100質量%の範囲内であることが好ましく、30〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、40〜90質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0041】
また、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アルキル基がC1〜24、好ましくはアルキル基がC1〜8であり、かつ1〜2個、好ましくは1個の水酸基を有するアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを好適に使用することができる。
【0042】
マクロモノマーの原料となる出発モノマーが、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含有する場合、該ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの含有量は、マクロモノマーの原料となる出発モノマーの合計量を基準として、5〜70質量%の範囲内であることが好ましく、10〜60質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
本発明においてはマクロモノマーの重量平均分子量は1,500以上、好ましくは2,000〜20,000の範囲内であることがそれを用いて合成されたグラフトポリマー(の水溶液)が増粘効果を発現するために好ましい。
【0044】
本発明においてグラフトコポリマーを構成する、前記N−置換(メタ)アクリルアミド化合物、その他のモノマー及びマクロモノマーの質量比は、これらの合計固形分量を基準として、下記の範囲内であることが好ましい。
N−置換(メタ)アクリルアミド化合物:1〜99質量%、好ましくは50〜97質量%、さらに好ましくは60〜95質量%、
その他の不飽和モノマー:0〜98質量%、好ましくは0〜47質量%、さらに好ましくは0〜35質量%、
マクロモノマー:1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%。
【0045】
上記合計固形分量のうち、30質量部よりもマクロモノマーが多いと疎水成分が過剰となりグラフトポリマーの常温における水溶解性が不十分になることがある。また1質量部よりも少ないと水性塗料に混合した際に塗料とグラフトポリマーの疎水性相互作用によると考えられる常温での増粘効果の発現が不十分となることがある。
【0046】
N−置換(メタ)アクリルアミド化合物とその他のモノマーの比率は所望するLCSTに応じて組み合わせるモノマーの種類と量を変えることができる。ただし、N−置換(メタ)アクリルアミド化合物ポリマーはLCST前後の溶解挙動変化が顕著であるのに対し、その他のモノマーは溶解挙動変化が鈍い又は起こらないものがほとんどなので、本発明の目的である明らかな感熱応答性を得るためにはN−置換(メタ)アクリルアミド化合物の量は全体の内50質量部以上であることが好ましい。
【0047】
グラフトポリマーの合成は例えばバルク重合法、溶液重合法、エマルション重合法等公知のラジカル重合方法を任意に用いて行うことができる。なかでも重合方法が比較的容易であることから通常の溶液重合法を好ましく用いることができる。
【0048】
上記ラジカル重合方法において使用される重合開始剤としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等の過酸化物系重合開始剤;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、アゾクメン、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−(t−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤を挙げることができる。
【0049】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、モノマー成分100質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部の範囲内であることが適当である。
【0050】
また、溶媒としては溶剤への連鎖移動が起こりにくく、且つ水溶性である有機溶剤が好ましい。かかる溶剤として例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、 sec−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;n−ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は1種で又は2種以上を組合せて使用することができる。ラジカル重合時において、上記有機溶剤は、モノマー成分の合計量に対して、通常、400質量%以下となる範囲で使用される。
【0051】
グラフトポリマーの重量平均分子量はその増粘性の観点から20,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましい。
【0052】
なお、本発明においてグラフトポリマーの重量平均分子量及びマクロモノマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。
【0053】
グラフトポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置として、「HLC−8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel GMHHR−L」(商品名、東ソー社製)を1本使用し、検出器として、示差屈折率計を使用し、移動相:N,N−ジメチルホルムアミド(臭化リチウムとリン酸をそれぞれ10mM含む)、測定温度:25℃、流速:1mL/minの条件下で測定することができる。
【0054】
また、マクロモノマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置として、「HLC−8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G4000HXL」、「TSKgel G3000HXL」、「TSKgel G2500HXL」及び「TSKgel G2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の計4本を使用し、検出器として、示差屈折率計を使用し、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:1mL/minの条件下で測定することができる。
【0055】
なお、共重合により得た主鎖部分のLCSTは測定により求めることができる。簡便にはコポリマー単体の希薄水溶液の濃度1〜5質量%程度の粘度を、温度可変型の粘度測定装置を用いて室温から昇温しながら測定し、粘度が急激に減少する温度、すなわち微分粘度曲線のピーク温度を下限臨界溶液温度として決定することができる。より簡便な方法としては昇温しながら水溶液の透明性を目視確認し、曇点温度(ポリマーの凝集が起こることにより液が濁る)を下限臨界溶液温度とすることができる。
【0056】
本発明はLCSTを持つ主鎖と疎水性の側鎖をもつグラフトポリマーを流動調整剤(増粘剤)として利用することを特徴とする。ここで疎水性とは、一般に水に対する親和性が低い性質を示し、本発明においては、20℃において実質的に水に溶解しない状態にあることを意味する。例えば、上記マクロモノマーを主鎖とは別に合成し、20℃において、100gの水に溶解する当該マクロモノマーの質量が1g以下の場合に疎水性とする方法もある。
【0057】
疎水性の側鎖を持たない単純なLCSTを持つポリマーの水溶液では、LCSTの前後での溶液粘度の変化が充分でない。これに対し、上記疎水性側鎖を持つグラフトポリマーの水溶液はLCSTの前後の粘度の変化が非常に大きい。この理由は必ずしも明らかにはなっていないが、溶解状態に特徴があると考えられる。即ち、LCST以下の温度の水溶状態において本発明のグラフトポリマーは側鎖部分が自己又は他のグラフトポリマーの側鎖と疎水性相互作用を持ち、そのため溶液中でポリマー同士が擬似的なネットワーク構造をとると考えられる。その結果LCST以下の温度での溶液粘度が高く(増粘効果が大きく)なる。
【0058】
このときマクロモノマーをコモノマーとして用いているので、より正確に主鎖部分のLCSTを測定するにはいわゆる「主鎖のみのポリマー」を測定してLCSTを決定することが好ましい。
【0059】
また、この効果は塗料に用いた場合にバインダーとの疎水性相互作用も相乗する場合にはより強く現れる。そのような観点からは、水性塗料のバインダーが水溶性樹脂である場合よりも、疎水性の部分を含有している水分散樹脂である場合に、効果がより顕著になる。
【0060】
水性塗料組成物
工程(1)において塗装される水性塗料組成物は、上記グラフトコポリマーを含有する塗料組成物である。該水性塗料組成物は、通常、該グラフトコポリマーに加え、熱硬化性樹脂成分及び水を含有し、さらに必要に応じて、光輝性顔料、着色顔料、体質顔料、有機溶剤、表面調整剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料分散剤、消泡剤等を含有することができる。なお、本明細書において、水性塗料とは溶媒の主成分が水である塗料である。
【0061】
上記熱硬化性樹脂成分としては、架橋性官能基を有する基体樹脂及び架橋剤を使用することができる。
【0062】
上記基体樹脂が有する架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基等を挙げることができる。基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0063】
上記水性塗料組成物における前記グラフトコポリマーの配合量は、固形分として、上記熱硬化性樹脂成分100質量部に対して、通常0.05〜20質量部程度であることが好ましく、0.1〜10質量部程度であることがより好ましく、0.5〜5質量部程度であることが更に好ましい。
【0064】
前記光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム(蒸着アルミニウムを含む)、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、ガラスフレーク、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタン又は酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタン又は酸化鉄で被覆された雲母などを挙げることができる。これらの光輝性顔料は、単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの光輝性顔料はりん片状であることが好ましい。
【0065】
りん片状の光輝性顔料としては、長手方向寸法が通常1〜100μm程度、好ましくは5〜40μm程度であり、厚さが通常0.001〜5μm程度、好ましくは0.01〜2μm程度のものを好適に用いることができる。
【0066】
前記水性塗料組成物が、上記光輝性顔料を含有する場合、該光輝性顔料の配合量は、固形分として、前記熱硬化性樹脂成分100質量部に対して、通常1〜100質量部程度であることが好ましく、2〜50質量部程度であることがより好ましく、3〜30質量部程度であることが更に好ましい。
【0067】
本発明の塗膜形成方法において、前記水性塗料組成物が上記光輝性顔料を含有する場合、光輝性に優れた塗膜を形成することができる。なお、光輝性に優れた塗膜とは、一般に、角度を変えて塗膜を観察した際に、観察の角度による明度の変化が顕著であり、さらに、光輝性顔料が塗膜中に比較的均一に存在して、メタリックムラがほとんど見られない塗膜をいう。また、上記のように、観察の角度による明度の変化が顕著であることは、一般に、フリップフロップ性が高いといわれる。
【0068】
工程(1)において、上記水性塗料組成物の塗布量は、硬化膜厚として、通常、1〜50μm、より好ましくは5〜35μm、さらに好ましくは8〜25μmとなる量であることが好適である。
【0069】
また、上記水性塗料組成物の塗装は、公知の方法、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装等の方法によって行うことができる。
【0070】
工程(2)
工程(1)で形成された未硬化の塗膜は、予備加熱温度T
2が60〜100℃の範囲内であり、かつ該予備加熱温度T
2と前記下限臨界溶液温度T
1との関係がT
2−T
1=−30℃〜30℃、好ましくは−20℃〜20℃、さらに好ましくは−10℃〜10℃の範囲内となる加熱条件で予備加熱される。
【0071】
なお、本明細書において、上記予備加熱温度T
2は、予備加熱設備内の温度である。該予備加熱設備内においても、熱源からの距離により温度に差が生じる場合があるが、予備加熱設備内は、通常、設備内の空気を循環させることにより、空気の温度を均一化させている。このため、上記予備加熱温度T
2は、予備加熱設備内の空気の温度とすることができる。
【0072】
また、上記予備加熱は、1〜15分間程度行うことが好ましく、2〜10分間程度行うことがより好ましく、3〜5分間程度行うことがさらに好ましい。
【0073】
上記予備加熱は、通常の塗膜の予備加熱手段、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱などにより行なうことができる。具体的には、例えば、60〜100℃に調節した予備加熱炉に、水性塗料組成物が塗布された被塗物を入れ、1〜15分間保持する方法;両端に出入り口を有し、その中をベルトコンベアにより移動させて予備加熱を行うトンネル型乾燥機を準備し、トンネルの内部を60〜100℃に温度設定をしておき、その中を例えば1〜15分間かけて通過させる方法等が挙げられる。
【0074】
工程(3)
以上に述べた工程(1)及び(2)で形成される未硬化の塗膜は、加熱して硬化させられる。
【0075】
上記未硬化の塗膜は、通常の塗膜の加熱手段により、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱などにより、80〜180℃、好ましくは100〜160℃、より好ましくは110〜150℃の温度で10〜40分間、好ましくは15〜30分間程度加熱することによって硬化塗膜とすることができる。
【0076】
本発明の塗膜形成方法の適用例
上記本発明の塗膜形成方法には、上記ベース塗料の予備加熱工程(2)と加熱硬化工程(3)との間に、クリヤーコート塗料の塗装工程を行う方法も含まれる。具体的には、本発明の塗膜形成方法は、ベースコート塗膜及びクリヤーコート塗膜からなる複層塗膜を、2コート1ベーク方式で自動車車体等の被塗物上に形成する場合に好適に用いることができる。この場合の塗膜形成方法は、下記方法1に従って、行うことができる。
【0077】
方法1
工程(I):被塗物に、N−置換(メタ)アクリルアミド化合物を含むモノマー成分の共重合体であって、(A)水に対する下限臨界溶液温度T
1が30〜95℃の範囲内である主鎖と(B)疎水性の側鎖とからなる構造を持つグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物を塗装してベースコート塗膜を形成する工程、
工程(II):工程(I)で形成された未硬化のベースコート塗膜を、予備加熱温度T
2が60〜100℃の範囲内であり、かつ該予備加熱温度T
2と前記下限臨界溶液温度T
1との関係がT
2−T
1=−30℃〜30℃の範囲内となる加熱条件で予備加熱する工程、
工程(III):工程(II)で得られた未硬化のベースコート塗膜上に、クリヤーコート塗料組成物を塗装してクリヤーコート塗膜を形成する工程、ならびに
工程(IV):工程(I)〜(III)で形成された未硬化のベースコート塗膜及び未硬化のクリヤーコート塗膜を、加熱して両塗膜を同時に硬化させる工程、
を含む塗膜形成方法。
【0078】
上記方法1における被塗物は、下塗り塗膜が形成された自動車車体、下塗り塗膜及び中塗り塗膜が形成されている自動車車体等が好ましい。上記下塗り塗膜は電着塗料によって形成された塗膜であることが好ましく、カチオン電着塗料によって形成された塗膜であることがさらに好ましい。
【0079】
本発明において、硬化塗膜とは、JIS K 5600−1−1(2004)に規定された硬化乾燥状態、すなわち、塗面の中央を親指と人差指とで強く挟んで、塗面に指紋によるへこみが付かず、塗膜の動きが感じられず、また、塗面の中央を指先で急速に繰り返しこすって、塗面にすり跡が付かない状態の塗膜である。一方、未硬化塗膜とは、塗膜が上記硬化乾燥状態に至っていない状態であって、JIS K 5600−1−1に規定された指触乾燥状態及び半硬化乾燥状態を含むものである。
【0080】
本発明の塗膜形成方法を、上記方法1の2コート1ベーク方式で行う場合、水性塗料組成物の塗装膜厚は、硬化膜厚として、3〜30μm程度が好ましく、5〜25μm程度がより好ましく、8〜18μm程度が更に好ましい。また、上記クリヤーコート塗料組成物の塗装膜厚は、硬化膜厚として、10〜80μm程度が好ましく、15〜60μm程度がより好ましく、20〜45μm程度が更に好ましい。
【0081】
また、方法1において、上記クリヤーコート塗料組成物の塗装後は、必要に応じて、室温で1〜60分間程度のインターバルをおいたり、40〜80℃程度で1〜60分間程度予備加熱することができる。
【0082】
上記水性塗料組成物及びクリヤーコート塗料組成物の硬化は、前述した公知の加熱手段により行うことができる。加熱温度は、80〜180℃程度が好ましく、100〜170℃程度がより好ましく、120〜160℃程度が更に好ましい。また、加熱時間は、10〜60分間程度が好ましく、20〜40分間程度がより好ましい。この加熱により、ベースコート及びクリヤーコートの両塗膜を同時に硬化させることができる。
【0083】
また、前述のように、本発明の塗膜形成方法に供する被塗物には、上記特定のグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物以外の塗料をあらかじめ塗布したものも含まれる。すなわち本発明の塗膜形成方法は、第1着色塗膜、第2着色塗膜及びクリヤーコート塗膜からなる複層塗膜を、3コート1ベーク方式で自動車車体等の被塗物上に形成する場合に、第2着色塗膜形成用として前述した特定のグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物を使用することによって、好適に用いることができる。この場合の塗膜形成方法は、下記方法2に従って、行うことができる。
【0084】
方法2
工程(I):被塗物に、第1着色塗料組成物を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):上記未硬化の第1着色塗膜上に、N−置換(メタ)アクリルアミド化合物を含むモノマー成分の共重合体であって、(A)水に対する下限臨界溶液温度T
1が30〜95℃の範囲内である主鎖と(B)疎水性の側鎖とからなる構造を持つグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜を、予備加熱温度T
2が60〜100℃の範囲内であり、かつ該予備加熱温度T
2と前記下限臨界溶液温度T
1との関係がT
2−T
1=−30℃〜30℃の範囲内となる加熱条件で予備加熱する工程、
工程(IV):工程(III)で得られた未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤーコート塗料組成物を塗装してクリヤーコート塗膜を形成する工程、ならびに
工程(V):工程(I)〜(IV)で形成された未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜及び未硬化のクリヤーコート塗膜を、加熱して両塗膜を同時に硬化させる工程、
を含む塗膜形成方法。
【0085】
上記方法2における被塗物としては、下塗り塗膜を形成した自動車車体等が好ましい。上記下塗り塗膜は電着塗料によって形成されることが好ましく、カチオン電着塗料によって形成されることがさらに好ましい。
【0086】
前記方法2において、第1着色塗料組成物の塗装膜厚は、通常、硬化膜厚で3〜50μm程度が好ましく、5〜30μm程度がより好ましく、10〜25μm程度が更に好ましい。また、上記特定のグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物の塗装膜厚は、硬化膜厚として、1〜30μm程度が好ましく、3〜25μm程度がより好ましく、5〜20μm程度が更に好ましい。また、クリヤーコート塗料組成物の塗装膜厚は、通常、硬化膜厚で10〜80μm程度が好ましく、15〜60μm程度とするのがより好ましく、20〜45μm程度が更に好ましい。
【0087】
また、上記本発明の塗膜形成方法には、上記ベース塗料の予備加熱工程(2)と加熱硬化工程(3)との間に、上記特定のグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物以外の塗料の塗装工程、クリヤーコート塗料の塗装工程を行う方法も含まれる。具体的には、本発明の塗膜形成方法は、自動車車体等の被塗物に、第1着色塗膜、第2着色塗膜及びクリヤーコート塗膜からなる複層塗膜を、3コート1ベーク方式で形成する場合に、第1着色塗膜形成用として上記特定のグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物を使用することによって、好適に用いることができる。この場合の塗膜形成方法は、下記方法3に従って、行うことが出来る。
【0088】
方法3
工程(I):被塗物に、N−置換(メタ)アクリルアミド化合物を含むモノマー成分の共重合体であって、(A)水に対する下限臨界溶液温度T
1が30〜95℃の範囲内である主鎖と(B)疎水性の側鎖とからなる構造を持つグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):工程(I)で形成された未硬化の第1着色塗膜を、予備加熱温度T
2が60〜100℃の範囲内であり、かつ該予備加熱温度T
2と前記下限臨界溶液温度T
1との関係がT
2−T
1=−30℃〜30℃の範囲内となる加熱条件で予備加熱する工程、
工程(III):工程(II)で得られた未硬化の第1着色塗膜上に、第2着色塗料組成物を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(IV):工程(III)で得られた未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤーコート塗料組成物を塗装してクリヤーコート塗膜を形成する工程、ならびに
工程(V):工程(I)〜(IV)で形成された未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜及び未硬化のクリヤーコート塗膜を、加熱して両塗膜を同時に硬化させる工程、
を含む塗膜形成方法。
【0089】
上記方法3における被塗物としては、下塗り塗膜を形成した自動車車体等が好ましい。上記下塗り塗膜は電着塗料によって形成されることが好ましく、カチオン電着塗料によって形成されることがさらに好ましい。
【0090】
前記方法3において、上記特定のグラフトコポリマーを含有する水性塗料組成物の塗装膜厚は、通常、硬化膜厚で3〜50μm程度が好ましく、5〜30μm程度がより好ましく、10〜25μm程度が更に好ましい。また、第2着色塗料組成物の塗装膜厚は、硬化膜厚として、1〜30μm程度が好ましく、3〜25μm程度がより好ましく、5〜20μm程度が更に好ましい。また、クリヤーコート塗料組成物の塗装膜厚は、通常、硬化膜厚で10〜80μm程度が好ましく、15〜60μm程度とするのがより好ましく、20〜45μm程度が更に好ましい。
【0091】
上記方法2及び3において、上記クリヤーコート塗料組成物の塗装後は、必要に応じて、室温で1〜60分間程度のインターバルをおいたり、40〜80℃程度で1〜60分間程度予備加熱することができる。
【0092】
また、上記方法2及び3において、未硬化の第1着色塗膜、未硬化の第2着色塗膜及び未硬化のクリヤーコート塗膜の3層塗膜の加熱硬化は、前述した公知の加熱手段により行うことができる。加熱温度は、80〜180℃程度が好ましく、100〜170℃程度がより好ましく、120〜160℃程度が更に好ましい。また、加熱時間は、10〜60分間程度が好ましく、20〜40分間程度がより好ましい。この加熱により、第1着色塗膜、第2着色塗膜及びクリヤーコート塗膜の三層塗膜を同時に硬化させることができる。
【0093】
上記方法1〜3で用いられるクリヤーコート塗料組成物としては、自動車車体等の塗装用として公知の熱硬化性クリヤーコート塗料組成物をいずれも使用できる。例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂及び架橋剤を含有する有機溶剤型熱硬化性塗料組成物、水性熱硬化性塗料組成物、粉体熱硬化性塗料組成物等を挙げることができる。
【0094】
上記基体樹脂が有する架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、シラノール基等を挙げることができる。基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボキシル基含有化合物、カルボキシル基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、エポキシ基含有化合物等を挙げることができる。
【0095】
クリヤーコート塗料組成物の基体樹脂/架橋剤の組み合わせとしては、カルボキシル基含有樹脂/エポキシ基含有樹脂、水酸基含有樹脂/ポリイソシアネート化合物、水酸基含有樹脂/ブロック化ポリイソシアネート化合物、水酸基含有樹脂/メラミン樹脂等が好ましい。
【0096】
また、上記クリヤーコート塗料組成物としては、一液型塗料であってもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等の多液型塗料であってもよい。
【0097】
また、上記クリヤーコート塗料組成物には、必要に応じて、透明性を阻害しない程度に着色顔料、光輝性顔料、染料等を含有させることができ、さらに体質顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、表面調整剤等を適宜含有せしめることができる。
【0098】
前記方法2で用いられる第1着色塗料組成物としては、例えば、公知の熱硬化性中塗り塗料組成物を使用することができる。また、前記方法3で用いられる第2着色塗料組成物としては、例えば、公知の熱硬化性ベースコート塗料組成物を使用することができる。これらの塗料組成物としては、具体的には、例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂、架橋剤、着色顔料及び体質顔料を含有する熱硬化性塗料組成物を、好適に使用できる。
【0099】
上記基体樹脂が有する架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基等を挙げることができる。基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0100】
また、上記第1着色塗料組成物及び第2着色塗料組成物としては、有機溶剤型塗料組成物、水性塗料組成物、粉体塗料組成物のいずれを用いてもよく、なかでも、水性塗料組成物を用いることが好ましい。
【0101】
上記方法1〜3において、第1着色塗料組成物、第2着色塗料組成物及びクリヤーコート塗料組成物の塗装は、公知の方法、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装等の方法によって行うことができる。
【0102】
本発明の塗膜形成方法において、平滑性、鮮映性及び光輝性に優れた塗膜が形成される理由としては、前記グラフトポリマーを含有する水性塗料組成物が、被塗物に塗着した時点では、該グラフトポリマー中の疎水性の側鎖による網状構造を形成し、粘度を発現するため、タレが抑制され、その後、予備加熱温度T
2が60〜100℃の範囲内であり、かつ該予備加熱温度T
2と前記下限臨界溶液温度T
1との関係がT
2−T
1=−30℃〜30℃の範囲内となる、T
2とT
1が比較的近い加熱条件で予備加熱することにより、水分が蒸発して、塗着した塗料の粘度が上がる一方で、グラフトポリマーによる網状構造が比較的緩やかに崩れ、塗着塗料がタレない程度のフロー性を維持しながら粘度上昇することが推察される。
【実施例】
【0103】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を一層具体的に説明する。但し、本発明は、これらにより限定されない。各例において、「部」及び「%」は、特記しない限り、質量基準による。また、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づく。
【0104】
疎水性側鎖部分を形成するマクロモノマーの合成
製造例1
温度計、サーモスタット、撹拌機、環流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備え付けた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル83部、酢酸ブチル37部を仕込み、気相に窒素ガスを吹き込みながら90℃で攪拌し、n−ブチルメタクリレート50部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート50部、メルカプトプロピオン酸8部及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.8部からなる混合液を、4時間かけて均一速度で滴下し、重合反応を行なった。その後、同温度で2時間熟成させた後、110℃で1時間加熱して固形分47%のプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマーの固形分あたりの酸価は39.2mgKOH/gであった。次いでこの中に重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.04部、及びグリシジルメタクリレート11部を加えた後、テトラブチルアンモニウムブロミド3部を加えて110℃で12時間反応させた後減圧し、酢酸エチルを除去して固形分65%のマクロモノマー溶液(MM−1)を得た。この反応におけるグリシジルメタクリレートのグリシジル基の反応率は96%であった。得られたマクロモノマーは、重合性二重結合を1分子当り平均して約1.0個有しており、末端メタクリレート型マクロモノマーを主体とし、重量平均分子量が4,000であった。
【0105】
製造例2
使用するメタクリル酸エステル及び溶媒は、いずれも使用前に、これらの中に窒素ガスを少なくとも1時間通送することにより、脱気(脱酸素)を行った。
【0106】
温度計、サーモスタット、撹拌機、環流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備え付けた反応容器にキシレン30部、酢酸エチル25部を仕込み、液中に窒素ガスを通送しながら105℃に加熱して、n−ブチルメタクリレート50部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート50部、金属錯体としてビス(ボロンジフルオロジメチルグリオキシメイト)Co(II)0.008部、ラジカル開始剤として2、2’―アゾビス(2―メチルブチロニトリル)1部、添加溶剤として酢酸エチル15部の混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後105℃で1時間放置し、更に2、2’―アゾビス(2―メチルブチロニトリル)0.5部、キシレン12部を1時間かけて滴下し、滴下終了後105℃で1時間放置し、固形分55%のマクロモノマー溶液を得た。
【0107】
得られたオリゴマー溶液を減圧し、キシレンと酢酸エチルを除去して固形分98%以上とした後、エチレングリコールモノブチルエーテルで希釈して固形分65%のマクロモノマー溶液(MM−2)を得た。得られたマクロモノマーは、重合性二重結合を1分子当り平均して約1.0個有しており、末端メタクリレート型マクロモノマーを主体とし、重量平均分子量が4,000であった。
【0108】
製造例3
温度計、サーモスタット、撹拌機、環流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備え付けた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル16部及び2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(以下、「MSD」と略称することがある)4.5部を仕込み、160℃で窒素を吹き込みながら撹拌した。次いで、この中に、n−ブチルメタクリレート50部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート50部及びジ−tert−アミルパーオキサイド7部からなる混合液を3時間かけて滴下し、そのまま、2時間撹拌した。次いで、30℃まで冷却し、エチレングリコールモノブチルエーテルで希釈して固形分65%のマクロモノマー溶液(MM−3)を得た。得られたマクロモノマーは、重量平均分子量が4,000であり、プロトンNMRでの解析によるとMSD由来のエチレン性不飽和基のうち97%以上がポリマー鎖末端に存在し、2%は消失していた。
【0109】
なお、上記プロトンNMRでの解析は、溶媒として重クロロホルムを使用し、重合反応前後の、MSDの不飽和基のプロトンに基づくピーク(4.8ppm、5.1ppm)、マクロモノマー鎖末端のエチレン性不飽和基のプロトンに基づくピーク(5.0ppm、5.2ppm)及びMSDに由来する芳香族プロトン(7.2ppm)のピークを測定した後、上記MSDに由来する芳香族プロトン(7.2ppm)は重合反応前後で変化しないと仮定し、これを基準として、各不飽和基(未反応、マクロモノマー鎖末端、消失)を定量化することによって行なった。
【0110】
製造例4
第1表に示したモノマー組成とする以外は製造例3と同様にして固形分65%のマクロモノマー溶液(MM−4)を得た。
【0111】
【表1】
【0112】
上記MM−1、MM−2及びMM−3は、20℃において、100gの水に1g溶解しない。一方、MM−4は、20℃において、100gの水に1gよりも多く溶解する。
【0113】
製造例5
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル40部を仕込み、液中に窒素ガスを通送しながら60℃に昇温後、N,N−ジメチルアクリアミド16部、N−イソプロピルアクリルアミド84部及びエチレングリコールモノブチルエーテル80部からなる混合液と2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.15部、メチルエチルケトン24部の混合物をそれぞれ4時間かけてフラスコに滴下し、滴下終了後1時間熟成した。その後さらに2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.15部、メチルエチルケトン6部の混合物を1時間かけてフラスコに滴下し、滴下終了後1時間熟成したのち、冷却して固形分40%のポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液はジエチルエーテルに沈澱させて、得られた沈殿物を減圧乾燥させることにより固形分99%以上のコポリマー(P−1)を得た。このコポリマーを1%水溶液として、曇点法により測定した下限臨界溶液温度T
1は34℃であった。
【0114】
製造例6〜14
第2表に示したモノマー組成とする以外は製造例5と同様にしてコポリマー(P−2)〜(P−10)を得た。また、得られたコポリマーの曇点法による下限臨界溶液温度を第2表中に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
製造例15
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び2つの滴下装置を備えた反応容器に、製造例3で得たマクロモノマー溶液(MM−3)15.4部(固形分10部)、エチレングリコールモノブチルエーテル20部及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート30部を仕込み、液中に窒素ガスを吹き込みながら85℃に昇温した。次いで、同温度に保持した反応容器内に、N,N−ジメチルアクリルアミド14.4部、N−イソプロピルアクリルアミド75.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル10部及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート40部からなる混合液と、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.2部及びエチレングリコールモノブチルエーテル20部からなる混合液とをそれぞれ4時間かけて、同時に反応容器内に滴下し、滴下終了後、同温度で2時間攪拌して熟成を行なった。次いで、同温度に保持した反応容器内に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3部及びエチレングリコールモノブチルエーテル15部からなる混合液を1時間かけて滴下し、滴下終了後、同温度で1時間攪拌して熟成を行なった。次いで、エチレングリコールモノブチルエーテルを添加しながら、30℃まで冷却し、固形分35%のグラフトコポリマー溶液を得た。得られたグラフトコポリマーの重量平均分子量は23万であった。得られた共重合体溶液に脱イオン水を添加し、固形分20%のグラフトコポリマー希釈液(GP−1)を得た。
【0117】
製造例16〜26
下記第3表に示したモノマー組成とする以外は製造例15と同様にして、固形分20%のグラフトコポリマー希釈液(GP−2)〜(GP−12)を得た。また、得られたグラフトポリマーの主鎖部分の下限臨界溶液温度T
1及び重量平均分子量を下記第3表に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
水酸基含有アクリル樹脂の製造
製造例27
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器に脱イオン水128部、「アデカリアソープSR−1025」(商品名、ADEKA製、乳化剤、有効成分25%)3部を仕込み、窒素気流中で攪拌混合し、80℃に昇温した。
【0120】
次いで、下記コア部用モノマー乳化物の全量のうちの1%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液5.3部とを反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、コア部用モノマー乳化物の残部を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行った。次に、下記シェル部用モノマー乳化物を1時間かけて滴下し、1時間熟成した後、5%2−(ジメチルアミノ)エタノール水溶液40部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、平均粒子径100nm、固形分30%の水酸基含有アクリル樹脂水分散液(AC−1)を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂は、酸価が26mgKOH/g、水酸基価が22mgKOH/gであった。
【0121】
コア部用モノマー乳化物:脱イオン水40部、「アデカリアソープSR−1025」2.8部、アリルメタクリレート2.1部、スチレン2.8部、n−ブチルアクリレート28部、メチルメタクリレート16.1部及びエチルアクリレート21部を混合攪拌することにより、コア部用モノマー乳化物を得た。
【0122】
シェル部用モノマー乳化物:脱イオン水17部、「アデカリアソープSR−1025」1.2部、過硫酸アンモニウム0.03部、スチレン3部、n−ブチルアクリレート9部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5.1部、メタクリル酸4部、メチルメタクリレート6部及びエチルアクリレート2.9部を混合攪拌することにより、シェル部用モノマー乳化物を得た。
【0123】
製造例28
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器にプロピレングリコールモノプロピルエーテル35部を仕込み85℃に昇温後、メチルメタクリレート30部、2−エチルヘキシルアクリレート20部、n−ブチルアクリレート29部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15部、アクリル酸6部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル15部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)2.3部の混合物を4時間かけて滴下し、滴下終了後1時間熟成した。その後さらにプロピレングリコールモノプロピルエーテル10部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1部の混合物を1時間かけて滴下し、滴下終了後1時間熟成した。さらにジエタノールアミン7.4部を加え、固形分55%の水酸基含有アクリル樹脂溶液(AC−2)を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂は酸価が47mgKOH/g、水酸基価が72mgKOH/gであった。
【0124】
水酸基含有ポリエステル樹脂の製造
製造例29
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び水分離器を備えた反応容器に、トリメチロールプロパン109部、1,6−ヘキサンジオール141部、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物126部及びアジピン酸120部を仕込み、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、230℃で4時間縮合反応させた。次いで、得られた縮合反応生成物に、カルボキシル基を導入するために、無水トリメリット酸38.3部を加えて、170℃で30分間反応させた後、2−エチル−1−ヘキサノールで希釈し、固形分70%の水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(PE−1)を得た。得られた水酸基含有ポリエステル樹脂は、酸価が46mgKOH/g、水酸基価が150mgKOH/g、数平均分子量が1,400であった。
【0125】
アルミニウム顔料分散液の製造
製造例30
攪拌混合容器内において、「GX−180A」(商品名、旭化成メタルズ社製、アルミニウム顔料ペースト、アルミニウム含有量74%)19部(固形分14部)、2−エチル−1−ヘキサノール35部、下記リン酸基含有樹脂溶液8部(固形分4部)及び2−(ジメチルアミノ)エタノール0.2部を均一に混合して、アルミニウム顔料分散液(AL−1)を得た。
リン酸基含有樹脂溶液:温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器にメトキシプロパノール27.5部、イソブタノール27.5部の混合溶剤を入れ、110℃に加熱し、スチレン25部、n−ブチルメタクリレート27.5部、「イソステアリルアクリレート」(商品名、大阪有機化学工業社製、分岐高級アルキルアクリレート)20部、4−ヒドロキシブチルアクリレート7.5部、下記リン酸基含有重合性モノマー15部、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート12.5部、イソブタノール10部、t−ブチルパーオキシオクタノエート4部からなる混合物121.5部を4時間かけて上記混合溶剤に加え、さらにt−ブチルパーオキシオクタノエート0.5部とイソプロパノール20部からなる混合物を1時間滴下した。その後、1時間攪拌熟成して固形分濃度50%のリン酸基含有樹脂溶液を得た。本樹脂のリン酸基による酸価は83mgKOH/g、水酸基価は29mgKOH/g、重量平均分子量は10,000であった。
リン酸基含有重合性モノマー:温度計、サーモスタット、攪拌器、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器にモノブチルリン酸57.5部、イソブタノール41部を入れ、90℃に昇温後、グリシジルメタクリレート42.5部を2時間かけて滴下した後、さらに1時間攪拌熟成した。その後、イソプロパノ−ル59部を加えて、固形分濃度50%のリン酸基含有重合性モノマー溶液を得た。得られたモノマーの酸価は285mgKOH/gであった。
【0126】
水性塗料組成物の製造
製造例31
攪拌混合容器に、製造例27で得た水酸基含有アクリル樹脂水分散液(AC−1)100部(固形分30部)、製造例28で得た水酸基含有アクリル樹脂溶液(AC−2)18部(固形分10部)、製造例29で得た水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(PE−1)43部(固形分30部)、製造例30で得たアルミニウム顔料分散液(AL−1)62部及び「サイメル325」(商品名、日本サイテックインダストリーズ株式会社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5部を入れ、均一に混合し、更に、実施例15で得たグラフトコポリマー希釈液(GP−1)5部(固形分1部)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、固形分25%の水性塗料組成物(X−1)を得た。
【0127】
製造例32〜42
製造例31において、グラフトコポリマー希釈液(GP−1)を下記第4表に示すグラフトコポリマー希釈液とする以外は、実施例31と同様にして、pH8.0、固形分25%の水性塗料組成物(X−2)〜(X−12)を得た。
【0128】
被塗物の作製
製造例43
30cm×45cmのリン酸亜鉛処理された冷延鋼板に、熱硬化性エポキシ樹脂系カチオン電着塗料組成物(商品名「エレクロンGT−10」、関西ペイント社製)を膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で30分加熱して硬化させた。次いで、この電着塗膜上に中塗り塗料組成物(商品名「TP−65−2」、関西ペイント社製、ポリエステル樹脂・アミノ樹脂系有機溶剤型塗料組成物)を膜厚35μmになるように塗装し、140℃で30分間加熱して硬化させた。かくして、鋼板上に電着塗膜及び中塗り塗膜を形成してなる被塗物を作製した。
【0129】
塗膜形成方法
実施例1
製造例31で得られた水性塗料組成物(X−1)を、前記方法1の2コート1ベーク方式[(1)グラフトコポリマー含有水性塗料組成物の塗布工程、(2)予備加熱工程、(3)クリヤーコート塗膜形成工程、(4)加熱硬化工程]におけるベースコート形成用塗料として使用して、被塗物上にベースコート及びクリヤーコートからなる複層塗膜を形成した。
【0130】
即ち、製造例43で得た被塗物に、水性塗料組成物(X−1)を、回転霧化型のベル型塗装機を用いて、膜厚15μmとなるように塗装し、2分間放置後、60℃で3分間予備加熱を行った。次いで、その未硬化塗面上にアクリル樹脂系有機溶剤型上塗りクリヤー塗料組成物(商品名「マジクロンKINO−1210」、関西ペイント社製)を膜厚35μmとなるように塗装し、7分間放置した後、140℃で30分間加熱してこの両塗膜を同時に硬化させた。かくして、被塗物上にベースコート及びクリヤーコートからなる複層塗膜が形成された試験板を得た。
【0131】
実施例2〜13及び比較例1〜6
実施例1において、水性塗料組成物(X−1)に代えて、第4表に示した水性塗料組成物を用い、予備加熱温度T
2を第4表に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜13及び比較例1〜6の試験板を得た。
【0132】
評価試験
上記実施例1〜13及び比較例1〜6で得られた各試験板について、平滑性、鮮映性、フリップフロップ性及びメタリックムラの評価を行なった。試験方法は、下記の通りである。
【0133】
平滑性:各試験板について、「Wave Scan」(商品名、BYK Gardner社製)によって測定されるLong Wave(LW)値に基づいて、平滑性を評価した。LW値が小さいほど塗面の平滑性が高いことを示す。
【0134】
鮮映性:各試験板について、「Wave Scan」(商品名、BYK Gardner社製)によって測定されるShort Wave(SW)値に基づいて、鮮映性を評価した。SW値が小さいほど塗面の鮮映性が高いことを示す。
【0135】
フリップフロップ性:角度を変えて各試験板を目視し、下記基準でフリップフロップ性を評価した。
S:目視の角度による明度の変化が顕著である(極めて優れたフリップフロップ性を有する)。
A:目視の角度による明度の変化が大きい(フリップフロップ性に優れる)。
B:目視の角度による明度の変化がやや小さい(フリップフロップ性がやや劣る)。
C:目視の角度による明度の変化が小さい(フリップフロップ性が劣る)。
【0136】
メタリックムラ:各試験板を目視にて観察し、メタリックムラの発生程度を下記基準で評価した。
S:メタリックムラがほとんど認められず、極めて優れた塗膜外観を有する。
A:メタリックムラがわずかに認められるが、優れた塗膜外観を有する。
B:メタリックムラが認められ、塗膜外観がやや劣る。
C:メタリックムラが多く認められ、塗膜外観が劣る。
【0137】
総合評価
本発明の属する自動車車体等の塗装分野においては、塗膜の平滑性、鮮映性及び光輝性の全てが優れていることが重要である。従って、下記の基準にて総合評価を行った:
S:平滑性及び鮮映性が15以下であり、フリップフロップ性がSであり、かつメタリックムラがSである、
A:平滑性及び鮮映性が15以下であり、フリップフロップ性及びメタリックムラがS又はAであり、少なくとも一方がAである、
B:平滑性及び鮮映性が20以下であり、かつフリップフロップ性及びメタリックムラがS、A又はBであって、
平滑性及び鮮映性の少なくとも一方が15より大きいか、又はフリップフロップ性及びメタリックムラの少なくとも一方がBである
C:平滑性及び鮮映性の少なくとも一方が20より大きいか、又はフリップフロップ性及びメタリックムラの少なくとも一方がCである
第4表に、塗膜性能の試験結果を示す。
【0138】
【表4】
【0139】
【表5】