(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多角形平板状のインサート本体における1の多角形面にすくい面が設けられ、前記多角形面に隣接する周面が逃げ面とされ、前記すくい面と前記逃げ面とが交差する稜線を刃先とした切れ刃が形成されたインサートにおいて、
前記すくい面には、複数の山部と谷部とを交互に配列したセレーションが、前記切れ刃に交差するように形成され、
前記逃げ面の垂直視において、前記稜線は、底部が凹円弧部に頂部が凸円弧部にされてこれを交互に繰り返す波形状に形成され、
前記凹円弧部と前記凸円弧部は、ともに1/4円弧以上、1/3円弧以下であり、
前記凹円弧部は、これに隣接する2つの前記凸円弧部の一方に近く他方に遠い位置に偏在することを特徴とするフライス加工用インサート。
前記稜線は、前記凹円弧部と、これに隣接する2つの前記凸円弧部のうち遠い方の前記凸円弧部との間が直線によって結ばれた形状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のフライス加工用インサート。
前記稜線は、前記凹円弧部と、これに隣接する2つの前記凸円弧部のうち近い方の前記凸円弧部との間が直線によって結ばれた形状に形成されたことを特徴とする請求項2に記載のフライス加工用インサート。
前記稜線は、前記凹円弧部と、これに隣接する2つの前記凸円弧部のうち近い方の前記凸円弧部とが直接結ばれた形状に形成されたことを特徴とする請求項2に記載のフライス加工用インサート。
前記凸円弧部は、その両端点同士を結ぶ仮想弦が、当該凸円弧部に隣接する2つの前記凹円弧部のうち近い方に傾いていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサート。
前記凸円弧部の中点を通る当該凸円弧部の接線と、前記中点を通り工具回転軸に直交する直線とのずれ角を±5度以内にして回転切削工具本体に取付可能に構成されたことを特徴とする請求項5に記載のフライス加工用インサート。
前記稜線は、前記凹円弧部に対して当該凹円弧部に隣接する2つの前記凸円弧部のうち近い方の前記凸円弧部が存在する方向に向かって辿ったとき、次第に狭ピッチに形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサート。
前記インサートの基体が超硬合金製部材から構成されるとともに、前記切れ刃が、前記基体に接合された立方晶窒化硼素(CBN)焼結体又は多結晶ダイヤモンドからなる高硬質部材から構成されたことを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサート。
前記切れ刃は、前記凹円弧部と前記凸円弧部とが交互に繰り返す前記波形状の範囲と前記多角形面のコーナーとの間に、ワイパー刃を有することを特徴とする請求項1から9のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサート。
請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載のインサートが、回転駆動される回転切削工具本体の先端部に着脱自在に取り付けられたフライス加工用刃先交換式回転切削工具。
前記凸円弧部の中点を通る当該凸円弧部の接線と、前記中点を通り工具回転軸に直交する直線とのずれ角を±5度以内にして前記インサートが前記回転切削工具本体に取付られた請求項11又は請求項12に記載のフライス加工用刃先交換式回転切削工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の波形状の切れ刃を有したインサートの用途は、金属材料の切削加工が主である。金属材料の切屑は長く繋がりやすいため、波形状の切れ刃で細かく裁断することにより切屑処理性向上の効果がある。また、金属材料の切削にあたっては、刃先への負荷が大きく刃先の欠けが問題となるため、刃先強度を高く維持する必要がある。
したがって、これらの必要性、すなわち、切屑処理性や、刃先強度の維持の観点から、波形状切れ刃の形状は設計され、波形状切れ刃には正弦波などが多く採用されてきた。
しかし、繊維強化樹脂複合材(FRP:Fiber Reinforced Plastics)の切削加工においては、金属材料の切削加工に比較すると、切れ刃に切屑処理性や刃先強度は高く求められない。そのために、FRP切削用途においては、インサートの切れ刃の波形を切削抵抗の低減等の特性を向上させるために工夫する余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、切削抵抗が低減され、従って、切れ刃の摩耗の進行が抑えられ、長寿命化が図られたフライス加工用インサート及びフライス加工用刃先交換式回転切削工具を提供することを課題とする。
さらに本発明は、切れ刃の耐摩耗性を改善し、さらに長寿命化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、多角形平板状のインサート本体における1の多角形面にすくい面が設けられ、前記多角形面に隣接する周面が逃げ面とされ、前記すくい面と前記逃げ面とが交差する稜線を刃先とした切れ刃が形成されたインサートにおいて、
前記すくい面には、複数の山部と谷部とを交互に配列したセレーションが、前記切れ刃に交差するように形成され、
前記逃げ面の垂直視において、前記稜線は、底部が凹円弧部に頂部が凸円弧部にされてこれを交互に繰り返す波形状に形成され、
前記凹円弧部と前記凸円弧部は、ともに1/4円弧以上、1/3円弧以下であり、
前記凹円弧部は、これに隣接する2つの前記凸円弧部の一方に近く他方に遠い位置に偏在することを特徴とするフライス加工用インサートである。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記稜線は、前記凹円弧部と、これに隣接する2つの前記凸円弧部のうち遠い方の前記凸円弧部との間が直線によって結ばれた形状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のフライス加工用インサートある。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記稜線は、前記凹円弧部と、これに隣接する2つの前記凸円弧部のうち近い方の前記凸円弧部との間が直線によって結ばれた形状に形成されたことを特徴とする請求項2に記載のフライス加工用インサートある。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記稜線は、前記凹円弧部と、これに隣接する2つの前記凸円弧部のうち近い方の前記凸円弧部とが直接結ばれた形状に形成されたことを特徴とする請求項2に記載のフライス加工用インサートある。
【0010】
請求項5記載の発明は、前記凸円弧部は、その両端点同士を結ぶ仮想弦が、当該凸円弧部に隣接する2つの前記凹円弧部のうち近い方に傾いていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサートある。
【0011】
請求項6記載の発明は、前記凸円弧部の中点を通る当該凸円弧部の接線と、前記中点を通り工具回転軸(AX)に直交する直線とのずれ角(λ)を±5度以内にして回転切削工具本体に取付可能に構成されたことを特徴とする請求項5に記載のフライス加工用インサートである。
【0012】
請求項7記載の発明は、前記稜線は、前記凹円弧部に対して当該凹円弧部に隣接する2つの前記凸円弧部のうち近い方の前記凸円弧部が存在する方向に向かって辿ったとき、次第に狭ピッチに形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサートある。
【0013】
請求項8記載の発明は、多結晶ダイヤモンド皮膜の被覆が施されたことを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサートある。
【0014】
請求項9記載の発明は、前記インサートの基体が超硬合金製部材から構成されるとともに、前記切れ刃が、前記基体に接合された立方晶窒化硼素(CBN)焼結体又は多結晶ダイヤモンドからなる高硬質部材から構成されたことを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサートある。
【0015】
請求項10記載の発明は、前記切れ刃は、前記凹円弧部と前記凸円弧部とが交互に繰り返す前記波形状の範囲と前記多角形面のコーナーとの間に、ワイパー刃を有することを特徴とする請求項1から9のうちいずれか一に記載のフライス加工用インサートである。
【0016】
請求項11記載の発明は、請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載のインサートが、回転駆動される回転切削工具本体の先端部に着脱自在に取り付けられたフライス加工用刃先交換式回転切削工具ある。
【0017】
請求項12記載の発明は、前記インサートを前記回転切削工具本体の先端部に装着した状態において、
前記切れ刃の最下点(BT)と、前記最下点を有する辺に対し工具回転軸(AX)の半径方向外方に隣接する辺における前記最下点に相当する相当点(BTR)とを結ぶ線分(T)を想定したとき、
前記線分と、前記最下点を含み工具回転軸に直交する面(U)とのなす角(δ)が、5度以上、30度以下であることを特徴とする請求項11に記載のフライス加工用刃先交換式回転切削工具ある。
【0018】
請求項13記載の発明は、前記凸円弧部の中点を通る当該凸円弧部の接線と、前記中点を通り工具回転軸(AX)に直交する直線とのずれ角(λ)を±5度以内にして前記インサートが前記回転切削工具本体に取付られた請求項11又は請求項12に記載のフライス加工用刃先交換式回転切削工具ある。
【0019】
請求項14記載の発明は、請求項10に記載のインサートが、回転駆動される回転切削工具本体の先端部に着脱自在に取り付けられたフライス加工用刃先交換式回転切削工具であって、
前記インサートを前記回転切削工具本体の先端部に装着した状態において、
前記切れ刃の最下点(BT)を含み工具回転軸(AX)に直交する面(U)を角度基準とし前記最下点を観察点として、仰角(γ)1度以下の範囲で所定長さに亘って前記ワイパー刃(43)が形成されていることを特徴とするフライス加工用刃先交換式回転切削工具である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、切削抵抗が低減されるので、切れ刃の摩耗の進行が抑えられ、フライス加工用インサートが長寿命化するという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0023】
図1に示すように本実施形態のフライス加工用刃先交換式回転切削工具1は、回転切削工具本体10と、フライス加工用インサート20とを備える。
工具本体10は、フライス盤の主軸に取り付けられて回転駆動される軸体である。工具本体10の中心軸が工具回転軸AXに相当する。
工具本体10の先端部11にインサート20が着脱自在に取り付けられる。インサート20の取付数は任意である。4つのインサート20が先端部11の円周に沿って均等に取り付けられた例が図示される。
先端部11には、チップポケット12、インサート取付座13が形成されている。インサート20は、インサート取付座13に装着され、取付螺子30によって工具本体10に固定されている。
図1、
図2A及び
図2Bに示すように、インサート20は工具本体10に対して一定の角度で固定される。すなわち、インサート20は、
図2Aに示すように負の軸方向すくい角(アキシャルレーキ角度、Ar)、
図2Bに示すように負の半径方向すくい角(ラジアルレーキ角度、Rr)で固定される。
【0024】
図3に示すようにインサート20は、多角形平板状の本体を成す。本実施形態のインサート20にあっては、四角形平板状の本体を成すが、これを
図12に示すような三角形や
図13から
図15に示すような五角形以上にしても本発明を実施できる。
図3に示すようにインサート20の外形は、二つの相対する多角形面と、これに隣接する周面とにより形成されている。多角形面にすくい面21が設けられている。周面は逃げ面22とされている。
すくい面21と逃げ面22との交差稜線23を刃先とした切れ刃が形成されている。
【0025】
図12から
図15に示すインサート20Aから20Dにあっても同様に、その外形は、二つの相対する多角形面と、これに隣接する周面とにより形成されている。多角形面にすくい面21が設けられている。周面は逃げ面22とされている。すくい面21と逃げ面22との交差稜線23を刃先とした切れ刃が形成されている。
多角形面の角数が異なる何れの多角形平板状のインサートのおいても、切れ刃稜線23に形成される波形状の形態や、それによる作用効果は、後述する四角形平板状の本体と同様なものを得ることができる。
また、インサート形状を多角形平板状としその角数を増やすことで、1つのインサートにおける順に使用できる有効切れ刃数を増やして経済的かつ効率的な切削加工が可能となるインサート、及びこのインサートを装着した刃先交換式回転切削工具を得ることができる。
【0026】
多角形平板状のインサートのおいては、多角形面の角数によって切削時の種々の切削条件等は変化することがあるので、この点は適正な条件を選択する必要がある。
例えば、角度δ値(一般には、切込角度のこと)を一定とした場合、切削条件である軸方向切り込み量については、多角形面の角数を増やすほど大きな値を設定することは困難となる。しかし、FPR材の切削加工においては、軸方向切り込み量を大きく設定する可能性は低いことから、たとえ八角形平板状のインサート本体としても、軸方向切り込み量を減らして加工しなくてはならないなどの制約を受けることは少ないといえる。
【0027】
なお、以上のインサート20,20A,20B,20C,20Dにあってはネガティブ型を図示した。これに対し、
図16に示すインサート20Eはポジティブ型である。
ネガティブインサートにあっては、インサート本体の相対する2つの多角形面の双方にすくい面21を配置して切れ刃を形成し、工具本体10への取付において工具先端に配置する辺を順に変えて使用することができるので、ポジティブインサートと比較して順に使用できる有効切れ刃数を2倍とすることができる。例えば、八角形平板状のネガティブインサート20Dにあっては、順に使用できる有効切れ刃数を、(八角形の辺の数)×(八角形面の数:2)で、16とすることができる。但し、すくい面21と逃げ面22との相対角が90度であるため、上述したように、負の軸方向すくい角(アキシャルレーキ角度、Ar)で工具本体10に固定され、軸方向すくい角(Ar)を正とすることはできない。
これに対しポジティブインサートにあっては、順に使用できる有効切れ刃数は半減するものの、軸方向すくい角(Ar)を正とすることができ、切削時の抵抗を低減するには好ましい形状である。
【0028】
さて、すくい面21には、複数の山部21a,21a,・・・と谷部21b,21b,・・・とを交互に配列したセレーションが、切れ刃に交差するように形成されている。
インサート20には、相対する多角形面を貫通する取付用孔部24が形成されており、これに上述した取付用螺子30が挿入される。
【0029】
図4Bに示すように、逃げ面22の垂直視において、切れ刃の刃先を形成する稜線(以下「刃先稜線」という。)23は、底部が凹円弧部23bに頂部が凸円弧部23aにされてこれを交互に繰り返す波形状に形成されている。以下、この刃先稜線23の形状につき
図5〜
図9を参照して詳細に説明する。
【0030】
図5Aに示すように、刃先稜線23の一の上頂点をA、上頂点Aに隣接する一の上頂点をC、上頂点A−C間の下頂点をBとする。さらに、頂点A−C間の距離をR、頂点A−B間の距離をP、頂点B−C間の距離をQとすると、本インサート20は、P>Qの条件を具備する。
すなわち、凹円弧部23bは、これに隣接する2つの凸円弧部23a,23aの一方(=上頂点Cを含む凸円弧部23a)に近く他方(=上頂点Aを含む凸円弧部23a)に遠い位置に偏在する。
このように、波形状をした切れ刃の凸円弧部を偏在させることによって、偏摩耗の発生を抑制することができ、切削抵抗の低減効果も得ることがでる。一方、凸円弧部が偏在しないような波形状、例えば、正弦波形状とした場合は、凸円弧部の内周側の摩耗が優先的に進行してしまうため、切れ刃は短寿命となり、切削抵抗の低減効果も得ることができない。
【0031】
また、凹円弧部23bと凸円弧部23aは、ともに1/4円弧以上、1/3円弧以下である。なお、補足すると、1/4円弧の中心角は90°、1/3円弧の中心角は120°である。
したがって、
図5Bに示すように凸円弧部23aの両端点における接線同士の成す角であって、当該円弧の中心を含む側の角をθ(クサビ角)と定義すると、本インサート20は、60°≦θ≦90°の条件を具備する。
本発明において、円弧部を1/4円弧に設定した場合、切れ刃は切削抵抗と刃先の強度とのバランスが良好なため、正常な摩耗状態を得ることができる。これを次第に1/3円弧の状態へと移行させると、θ値が小さくなって切削抵抗値は小さくなるものの、刃先の強度は低下する傾向にある。そこで、凸円弧部の頂点付近における微小チッピングの発生を最小限にするため、1/3円弧以下に規定する。
即ち、円弧部を1/3円弧を超えて大きい5/12円弧に設定すると、切削抵抗は低減するものの、切れ刃の強度が不足して凸円弧部の一部に欠損が発生する不都合が生じる。一方、1/4円弧未満となる1/6円弧に設定すると、切削抵抗の低減効果を得ることができない。
【0032】
また刃先稜線23は、凹円弧部23bに対して当該凹円弧部23bに隣接する2つの凸円弧部23a,23aのうち近い方の凸円弧部23aが存在する方向に向かって辿ったとき、次第に狭ピッチに形成されている。これに関し
図5Cを参照して説明する。
刃先稜線23は、工具回転軸AXに対して
図5Cに示すような向きに配置される(なお、
図5Cにおいては、刃先稜線23と工具回転軸AXとの正確な距離を示していない。)。すなわち、
図5Aに示した上頂点Cから上頂点Aに向かう方向が回転の内周側である。
上述した距離Rは、刃先稜線23の繰り返し形状のピッチに相当する。
図5Cに示すように、ピッチRを工具回転軸AXに近い回転の内周側から外周側に向かって順にR1,R2,R3,・・・とすると、本インサートは、R1>R2>R3>・・・の条件を具備することとなる。
このように、インサートを工具本体に装着した状態で、ピッチ間隔を、工具回転の内周側から外周側へ向かう方向に次第に狭ピッチとなるように設定することによって、加工中に最も切削負荷が高くなる外周部において切れ刃の切削抵抗が低減され、正常な摩耗状態を得ることができる。
【0033】
なお、θについても、
図5Cに示すように工具回転軸AXに近い内周側から外周側に向かって順にθ1,θ2,θ3,・・・とする。本インサートにあっては、θ1=θ2=θ3=,・・・、すなわち、θ=(一定)の条件で刃先稜線を形成している。これに拘わらず、θに変化をつけて本発明を実施しても良い。例えば、外周側ほど鋭い凸円弧部23aとなるように、θ1>θ2>θ3>,・・・としてもよい。
【0034】
本インサート20の刃先稜線23は、凹円弧部23bと、これに隣接する2つの凸円弧部23a,23aのうち遠い方の凸円弧部23aとの間が直線によって結ばれた形状に形成されている。また、本インサート20の刃先稜線23は、凹円弧部23bと、これに隣接する2つの凸円弧部23a,23aのうち近い方の凸円弧部23aとの間が直線によって結ばれた形状に形成されている。
すなわち、
図6に示すように、凹円弧部23bの両端点を(D1,E1),(D2,E2),・・・とし、凸円弧部23aの両端点を(F1,G1),(F2,G2),・・・としたとき、区間(E1−F1),区間(G1−D2),区間(E2−F2),区間(G2−D3),・・・は直線状である。
さらに、本インサート20においては、これらの区間直線と、凸円弧部23a及び凹円弧部23bとの連結点においても刃先稜線23の傾きが連続的に変化するように繋がれている。すなわち、代表して区間直線E1−F1についていうと、直線E1−F1は、点E1を一端点とする凹円弧部23b及び点F1を一端点とする凸円弧部23aの共通接線である。他の区間直線も、隣接する円弧部の共通接線である。
【0035】
なお、本実施形態に拘わらず
図7に示すように、点E1,E2,E3,・・・と点F1,F2、F3,・・・とを共通とし、比較的近くに隣接する凹円弧部23bと凸円弧部23aとを直接繋ぐことも可能である。すなわち、凹円弧部23bと、これに隣接する2つの凸円弧部23a,23aのうち近い方の凸円弧部23aとが直接結ばれた形状に刃先稜線を形成することも可能である。
このように、夫々の凸円弧部、凹円弧部を自由曲線にて連結したもの、凸円弧部、凹円弧部同士を直線にて連結したもの、凹円弧部に対し遠方の凸円弧部を直線で連結し、近方の凸円弧部を直接で連結したものなどの組み合わせが考えられるが、これらを比較した場合は、ほぼ同等の性能を示すと考えられる。
【0036】
また、
図8に示すように、凸円弧部23aの両端点同士を結ぶ仮想弦Inが、当該凸円弧部23aに隣接する2つの凹円弧部23b,23b,のうち近い方に傾いている。
図8に示すように、互いに比較的近くに隣接する凹円弧部23b及び凸円弧部23aの各端点をDn,En,Fn,Gnとし、凸円弧部23aから比較的遠くに離れて隣接する凹円弧部23bの各端点をD(n+1),E(n+1)とし、凸円弧部23aの中点をHnとする。
中点Hnを通る当該凸円弧部23aの接線Knは、仮想弦Inと平行である。
この仮想弦In及び接線Knが近い方の凹円弧部23b、すなわち、弧Dn−Enの方に傾いている。このとき、弧Dn−Enの方に傾くとは、接線Knと基準とする深さJn,J(n+1)とが、Jn<J(n+1)の関係を有することと同義である。この深さの関係は、深さの基準を仮想弦Inを含む直線としても同じである。
すなわちこれは、波形状をした切れ刃の凸円弧部の仮想弦Inが、回転の内周側に傾斜した状態となっていることを示す。
図8において、仮想弦Inと平行な位置関係にあり、中点Hnを通る接線Knにおいて、中点Hnを通り接線Knと垂直な線分を垂線Znとする。
また、工具回転軸AXを中心とし、工具回転軸AXと中点Hnとの距離を半径とする円弧CYnについて、中点Hnにおける接線を接線Ynとする。
そこで両者、すなわち、前記垂線Znと前記接線Ynとの交差角度αが小さくなるほど、両者は重なる傾向を示す。このとき、本発明の波形状をした切れ刃が「切削方向を向いている」と表現するものとし、そのときの効果として切削抵抗が低減される。従って、切れ刃の摩耗の進行が抑えられ、長寿命化が図られるのである。
このように、仮想弦Inが、当該凸円弧部23aに隣接する2つの凹円弧部23b、23b、のうち近い方に傾いていることによって、切れ刃の凸円弧部における偏摩耗を回避すること、及び切削抵抗の低減効果に有効である。
一方、仮想弦の傾斜が無い場合には、工具回転おける内周側の摩耗が優先的に進行するために切れ刃の凸円弧部に偏摩耗が発生し、切れ刃は短寿命となってしまう不都合を生じる。
【0037】
また、
図8に示すように、中点Hnを通り工具回転軸AXに直交する直線を直線Lnとするとき、
図8及び
図9に示す接線Knと直線Lnとずれ角λは、できるだけ小さいことが好ましい。ずれ角λを±5度以内にすれば、実用上において十分な切削抵抗の低減効果が得られる。
このとき、λ値は、直線Lnを基準として時計回転方向が正、反時計回転方向を負とする。従って
図8に示すλ値は、負の値を示す。
【0038】
以上のように、刃先稜線の形状の最適化を図ることによって、切削抵抗を低減するとともに、切れ刃の耐摩耗性を向上させて、さらに長寿命化を図ることができる。
そのため、インサートに多結晶ダイヤモンド皮膜の被覆を施すことが有効である。
また、インサートの基体が超硬合金製部材から構成されるとともに、切れ刃が、基体に接合された立方晶窒化硼素(CBN)焼結体からなる高硬質部材から構成されたものも有効である。この場合、立方晶窒化硼素(CBN)焼結体に代え、切れ刃が多結晶ダイヤモンドからなる高硬質部材から構成されたものも有効である。
このように、多結晶ダイヤモンド皮膜や高硬質部材の採用によって、切れ刃の耐摩耗性は飛躍的に向上させることができる。
【0039】
また、
図10に示すようにインサート20を回転切削工具本体10の先端部11に装着した状態における切れ刃の最下点とインサート最外周点とを結ぶ線分Tと、最下点を含み工具回転軸AXに直交する面Uとのなす角δが、5度以上、30度以下である。
【0040】
インサート最外周点は、工具回転軸AXと平行な直線AX1(
図11に図示)とインサート20との接点である。しかしこれはインサートの多角形面が正四角形の場合に限る。
そこで、角δを一般的に定義する。
そのためにまず、
図11に示す相当点BTRを一般的に定義する。
相当点BTRは、最下点BTを有する辺41に対し工具回転軸AXの半径方向外方に隣接する辺42における最下点BTに相当する点である。
例えば、
図11を参照してインサート20の多角形面が正四角形の場合、仮にインサート20を
図11において反時計回転方向に90度回転させたときに最下点BTが移動した先が相当点BTRである。この回転角90度は、正三角形であれば120度、正五角形、正六角形、正八角形で順に72度、60度、45度、一般化するとn角形で(360/n)度となる。
さらに表現を変えて補足説明すると、現最下点BTを有する辺41に対し工具回転軸AXの半径方向外方に隣接する辺42が工具先端(図において下端)となるように(360/n)度だけインサートを回転させて配置換えした場合に最下点になる点が現最下点BTに対する相当点BTRである。例えば、
図11において辺42が工具先端(図において下端)となるように90度だけインサート20を回転させると、相当点BTRが最下点に移動する。したがって、その回転前の
図11に示す現状において相当点BTRは現最下点BTに相当する相当点である。
インサートの多角形面の角数によらず、角δを、最下点BTと相当点BTRを結ぶ線分Tと、最下点を含み工具回転軸AXに直交する面Uとのなす角と定義する。
角δは5度以上、30度以下であることが好ましい。この範囲において上述した形状の刃先稜線23を有したインサートを適用することで、インサートの性能を発揮させることができる。
例えば、δ値が大きくなることで切削抵抗が増大し、これに伴い、特に切削負荷の高くなる境界部分での境界摩耗の損傷が大きくなる不都合が生じるため、上限値を30度とすることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態のインサート20の稜線23を刃先とした切れ刃は、
図4B及び
図4Cに示すように、凹円弧部23bと凸円弧部23aとが交互に繰り返す波形状の範囲の波形状切れ刃のほか、当該波形状切れ刃とインサート20の多角形面のコーナーとの間にワイパー刃43を有している。
ワイパー刃の機能は、切削加工時における工具の半径方向送りに伴って、先行して波形状切れ刃よって形成される被削材表面上の凹凸を切削除去して、平坦にすることである。
したがって、ワイパー刃によって被削材の表面形態の仕上げ面粗さを向上させることができる。ワイパー刃の形状は、直線状切れ刃、複数の直線を組み合わせた折れ線形状切れ刃、又は大きな半径を有する円弧形状切れ刃であることが好ましい。ワイパー刃の形状が、直線形状と円弧形状との組み合わせであっても、仕上げ面粗さに大きな影響はない。
【0042】
いずれにしても
図11に示すように、切れ刃の最下点BTを含み工具回転軸AXに直交する面Uを角度基準とし最下点BTを観察点として、仰角γが1度以下の範囲で所定長さに亘ってワイパー刃43が形成されていることが好ましい。上述の機能を実効あらしめるためである。γ値が1度を超えて大きな値となる場合は、被削材表面上の凹凸を取り除くことが不完全となり、被削材表面を平坦形状とすることができないといった不都合が生じてしまう。
図11において、最下点BTを通り面Uと角γ(1度以下)をなす直線Sと刃先稜線23との交点を点Wとし、点Wを通り工具回転軸AXに平行な直線AX2と面Uとの交点を点Vとするとき、ワイパー刃は最下点BTから点Wに亘って形成される。上記のワイパー刃の所定長さは、面Uに垂直投影した長さ、すなわち、最下点BTから点Vまでの距離により規定することが便宜である。
ワイパー刃の所定長さは、最下点BTから点Vまでの距離で、工具一回転あたりの半径方向送り量以上とされることが好ましい。当該送り量より短ければ、ワイパー刃が通過しない被削材表面が生じてしまい、凹凸の取り残しが生じてしまうからである。なお、周方向に複数(本実施形態では4つ)のインサートが取り付けられている場合でも、取付誤差や形成誤差によって、各インサートの切り込み深さにバラツキが生じるので、一のインサートの波形状切れ刃の削り残しの凹凸を、当該一のインサート自身のワイパー刃で削り取ることを想定して設計する必要があり、そのため「工具一回転あたり」で規定する。
【0043】
例えば、ワイパー刃43は、1.0mmから1.5mmの長さをもって最下点BTから工具中心方向に延び点Wまで形成される。
波形状切れ刃とワイパー刃とを備えたインサートを工具本体10に装着したときは、切れ刃の最下点BTから工具回転軸AXの半径方向外方に波形状切れ刃を有し、最下点BTから半径方向内方にワイパー刃を有していることが好ましい。このような場合に、ワイパー刃が有効に機能することにより、デラミネーション(層間剥離)によるバリや上述の凹凸を取り除き、被削材の表面仕上げ面粗さを向上させる効果を得ることができる。
【実施例1】
【0044】
以下に、本発明の有効性を確認するための第1試験を開示する。
第1試験は、本発明例(試料番号1〜7)、比較例(試料番号8〜10)、及び従来例(試料番号11〜13)のインサートをそれぞれ作製し、それぞれ工具本体に取り付けて切削試験を行ったものである。
表1に各試料の切れ刃の形状的特徴と、取付角度(上記の角λ及び角δ)に関する条件を示す。表2に各試料の評価結果を示す。いずれの試料も切れ刃の素材を超硬合金とした。
本試験に適用する工具本体は、インサートの軸方向すくい角(Ar)を−15度、半径方向すくい角(Rr)を−17度としてインサートが取り付けられるように作製した。また、本工具本体の工具径(mm)はΦ25とし、インサート取付け数は4箇所とした。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
本切削試験は、主にその切れ刃の形状的な差異が切削性能に及ぼす影響を確認するためであることから、以下の切削条件1にて切削を行った。なお、切削抵抗の評価は、切削加工中の切削抵抗は、使用するマシニングセンタの主軸負荷ロードメータにおける抵抗値を読み取りることにより測定した。また、工具寿命の評価は、一定距離加工時での工具摩耗状態を観察することより評価した。
表2の切削抵抗の評価の結果において、◎は主軸ロードメータの負荷が7%以下、○は同負荷が8〜9%、△は同負荷が10〜11%は、×は同負荷が12%以上であることを示す。
表2に示す工具寿命の評価の結果は、最大逃げ面摩耗幅(mm)(VBmax値)により評価した。◎は工具の最大逃げ面摩耗幅がVB=0.10mm以下、○はVB=0.10〜0.15、△はVB=0.15〜0.2、×はVB=0.2以上であることを示す。
(切削条件1)
被削材 :炭素繊維強化樹脂複合材(板材)
切削速度 :300m/分
主軸の回転数 :3822回転/分
軸方向切込み量:0.5mm
径方向切込み幅:16mm
1刃の送り :0.18mm
テーブル送り :2752mm/分
切削距離 :5m
加工方法 :平面加工
【0048】
本発明例1のインサートは、波形状の切れ刃を有し、その刃先稜線は表1に示すように、凸円弧部及び凹円弧部が何れも1/4円弧とされたものである。凸円弧部及び凹円弧部の円弧半径を、0.15mmとした。
図5Aに示したように、本発明例1の波形状の切れ刃において、凹円弧部は隣接する2つの凸円弧部を有し、偏在する状態とした。
すなわち、凹円弧部23bは、これに隣接する2つの凸円弧部23a,23aの一方(=上頂点Cを含む凸円弧部23a)に近く他方(=上頂点Aを含む凸円弧部23a)に遠い位置に偏在する状態とした。
夫々の凸円弧部、凹円弧部は、自由曲線にて連結した。凸円弧部の仮想弦(
図8のInに相当)は、隣接する2つの凹円弧部のうち、近い側の凹円弧部の方に傾斜するものとした。これは、波形状をした切れ刃の凸円弧部の仮想弦Inが、回転の内周側に傾斜した状態とした。
ピッチ間隔(
図5BのRに相当)は、等ピッチとし、そのピッチ量を約0.9mmとした。また、本発明例1のインサートを工具本体に装着したときの角度(度)λ値、δ値、は夫々λ値を+10度、δ値を10度、に設定した。本発明例2〜7及び比較例8〜10も表1に示す要件以外は、本発明例1に準じて作製した。
切削評価の結果では、本発明例1は、摩耗量が少なく耐摩耗性に優れた。また、切削抵抗の低減効果を有し、比較例及び従来例に比較して優れ、高い性能を示した。
【0049】
本発明例2は、λ値を+1度としたことで、更に耐摩耗性に優れ、また、切れ刃全体に渡って均一な正常摩耗を示した。さらに、切削抵抗の低減効果を有し、本発明例1よりも優れた切削評価の結果を得た。
λ値を+10度から+1度へ変更したことによって、凸円弧部の偏摩耗が回避され、均一性が確保されたことにより、摩耗量が少なくなった。
【0050】
本発明例3は、刃先稜線を構成する凸円弧部及び凹円弧部を、何れも1/3円弧とし、その円弧半径を、0.15mmとした。凸円弧部及び凹円弧部を1/3円弧としたことで、1/4円弧に設定した本発明例2と比較して切削抵抗は若干低くなり、良好な摩耗状態を示した。
しかし、凸円弧部の頂点付近には、微小チッピングが発生していたことより、刃先の強度低下が推定される。
【0051】
本発明例4は、凸円弧部、凹円弧部同士を直線にて連結したもの、本発明例5は、凹円弧部に対し遠方の凸円弧部を直線で連結し、近方の凸円弧部を直接で連結したものである。夫々の凸円弧部、凹円弧部を自由曲線にて連結した本発明例2と比較して、ほぼ同等の性能を示した。
【0052】
本発明例6は、本発明例4の形状に更に改良を加え、波形状の凸円弧部の間隔を示すピッチ間隔(
図5BのRに相当)を次第に狭ピッチとなるように設定したものである。このピッチ間隔は、インサートを工具本体に装着した状態で、工具回転の内周側から外周側へ向かう方向に次第に狭ピッチとなるように設定した。具体的には、工具回転の最内周側のピッチを約0.9mmとし、外周側に向かうにつれてそのピッチ量を1ピッチ毎に約3〜10%減少させた。
その結果、切れ刃の境界摩耗による損傷が小さくなり、良好な結果を示した。これは、加工中に最も切削負荷が高くなる外周部において、そのピッチが狭ピッチになることで、加工中の切削抵抗が低減され、結果として良好な摩耗状態になったと考えられる。
本発明例6は、本発明におけるインサートの切れ刃形状としては、最も好ましい形態と考えられる。
【0053】
本発明例7は、δ値の影響を調べるために、δ値を30度に設定した場合の評価結果である。δ値が10度の本発明例6と比較すると、本発明例7は、境界摩耗による損傷が大きく、切削抵抗が増大した。これは、δ値が大きくなることで工具と工作物の接触長さが減少すると共に、切削加工に有効な波切れ刃が減少してしまったことが原因であると考えられる。そのため、切削抵抗の増大に伴い、特に切削負荷の高くなる境界部分での境界摩耗の損傷が大きくなった。
【0054】
比較例8は、凸円弧部及び凹円弧部を何れも5/12円弧に設定し、比較例9は、凸円弧部及び凹円弧部を何れも1/6円弧に設定したものである。その円弧半径は、0.15mmとした。比較例8は、5/12円弧としたことで、切削抵抗の低減をはかれたものの、切れ刃の強度が不足したため凸円弧部の一部に欠損が観察された。
また比較例9は、1/6円弧としたことで、切削抵抗の低減効果を得ることができなかった。
【0055】
比較例10は、凸円弧部の仮想弦が傾斜していない刃先稜線を有したインサートである。すなわち、比較例10にあっては、λ値は基準線に対する工具本体の半径方向すくい角(Rr)との差により決定される。ここで、工具本体の半径方向すくい角は−17度であるため、仮想弦の傾斜がない場合には、λ値は+17度となる。
切削試験より、仮想弦の傾斜が無いことによって、切れ刃の凸円弧部に偏摩耗が発生した。特に、凸円弧部の左側(工具回転おける内周側)の摩耗が優先的に進行したため、切れ刃は短寿命となった。さらに切削抵抗の低減効果も得ることができなかった。
【0056】
従来例11は、波形状を正弦波形状としたものである。正弦波形状は、比較例10と類似した形状を採用し、波の1周期を約1.8mmとし、波の振幅を約0.9mmとした。この場合も比較例10の場合と同様に、切れ刃の凸円弧部に偏摩耗が発生した。特に、凸円弧部の左側(工具回転おける内周側)の摩耗が優先的に進行したため、切れ刃は短寿命となった。切削抵抗の低減効果も得ることができなかった。
【0057】
従来例12は、切れ刃形状を直線刃とし、δ値を90度に設定したものである。切削試験後の摩耗状態を観察すると、インサートのノーズR部での摩耗進行が大きく、短寿命の結果となった。また、切削抵抗の低減効果も得ることができなかった。
【0058】
従来例13は、円弧形状の切れ刃とし、δ値を45度に設定したものである。切削試験後の摩耗状態を観察すると、境界摩耗の進行が大きく、短寿命の結果となった。
【実施例2】
【0059】
次に、本発明の有効性を確認するための第2試験を開示する。
第2試験は、上記第1試験で最も好ましい切れ刃形状の形態を備えた本発明例6をベースとして、コーティングを施したもの、および切れ刃部の素材の違いによる評価を行った。評価には、本発明例6と、本発明例14、本発明例15の3種類のインサートを作製し、切削試験をして比較評価を行った。
本発明例14は、本発明例6の切れ刃形状を備え、少なくとも切れ刃部に多結晶ダイヤモンド皮膜を被覆した。
本発明例15は、本発明例6の切れ刃形状を備え、切れ刃部の素材に多結晶ダイヤモンドを使用した。このとき、インサートの基体は超硬合金製部材から構成され、切れ刃部は、インサートの基体にロウ付けにより接合した。
表3に本試験の条件と評価結果を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
本切削試験は、多結晶ダイヤモンド皮膜の有無、および切れ刃部の素材の差異が切削性能に及ぼす影響を確認するためであることから、以下の切削条件2にて切削を行った。評価は、工作物表面粗さの最大粗さRzが20μm以上となるか、もしくは工作物である炭素繊維強化樹脂複合材にデラミネーション(層間剥離)が確認された時点を工具寿命として行った。
表3に示す工具寿命の評価の結果において、◎は工具寿命が30分以上、○は工具寿命が15〜30分、△は工具寿命が15分以下であること示す。
(切削条件2)
被削材 :炭素繊維強化樹脂複合材(板材)
切削速度 :600m/分
主軸の回転数 :7643回転/分
軸方向切込み量:0.5mm
径方向切込み幅:16mm
1刃の送り :0.18mm
テーブル送り :5503mm/分
加工方法 :平面加工
【0062】
本発明例14は、本発明例6と同一形状のインサートに多結晶ダイヤモンド皮膜を被覆したものである。その被覆条件を以下に示す。
本発明例6のインサートをコーティング装置の炉内にセットし、それらの表面に、熱フィラメントCVD法により、約6〜10μm厚さの多結晶ダイヤモンド皮膜を成膜した。
インサートの周辺に配置したタングステン製フィラメントに電流を流すことにより、フィラメントを約2000から2500℃に加熱し、水素に対するメタンのガス流量比(CH4/H2)を0.1%〜3%、炉内圧力0.5〜1.0kPa、基体温度700℃〜800℃の範囲で成膜した。
上記の成膜条件で被覆することにより、多結晶ダイヤモンド皮膜の耐摩耗性を維持し、耐剥離性に優れた多結晶ダイヤモンド被覆インサートを作製した。
作製したインサートを用いて切削評価を行った結果、インサートの寿命は、多結晶ダイヤモンド皮膜の被覆がない本発明例6と比較して約10倍の長寿命を示した。多結晶ダイヤモンド皮膜はその成膜時間が長く、成膜コストも非常に高価になるため、皮膜無しのインサートに比べて価格が約10倍程度になってしまう。しかし、多結晶ダイヤモンド皮膜を施すことで、1コーナ当りの切削距離が長くなるため、工具交換頻度が少なくなり、ランニングコストの低減化には有効である。
【0063】
本発明例6の切れ刃形状を備え、切れ刃部の素材に多結晶ダイヤモンドを使用した本発明例15の作製条件を以下に示す。
【0064】
波形状切れ刃を多結晶ダイヤモンドで設けた。炭素繊維強化樹脂複合材の加工ではデラミネーション(層間剥離)がその品質上、重要な問題となるため、切れ刃形状には切れ味の重視されるシャープエッジ形状が適している。そのため、本発明に適用した多結晶ダイヤモンドの切れ刃形状は、研削加工にてその形状を加工した後、刃先処理は行わずに切削試験を行った。
【0065】
なお、多結晶ダイヤモンドからなる切れ刃部は、超硬合金製部材から構成されたインサートの基体の台金にロウ付け処理を行うことで接合した。ロウ付けは、インサートの基体と波形状切れ刃部とを準備して、両者をロウ付け用ロウ材を用いて、ロウ接合した。このときの接合面のロウ付け材の厚さは略20から30μmの範囲とした。
【0066】
作製した本発明例15のインサートを用いて、同様に切削試験を行い評価した。その結果、インサートの寿命は、超硬合金製の本発明例6と比較して約30倍の長寿命を示した。但し、多結晶ダイヤモンドを用い、波形状の切れ刃部を研削加工にて成形する場合、その作製コストは非常に高価になり、通常の超硬合金をベースとするインサートと比べると、価格は30倍程度となってしまう。さらに、多結晶ダイヤモンドをロウ付けして作製されたインサートは、通常であるとその使用コーナ数が1箇所となってしまう。そのため、コーナ単価を考えると、ダイヤモンド皮膜が被覆されたインサートに比べると割高となる場合がある。