特許第5697692号(P5697692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5697692シクロヘキサシラン化合物を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697692
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】シクロヘキサシラン化合物を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/21 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
   C07F7/21
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-551225(P2012-551225)
(86)(22)【出願日】2011年1月25日
(65)【公表番号】特表2013-518109(P2013-518109A)
(43)【公表日】2013年5月20日
(86)【国際出願番号】US2011022360
(87)【国際公開番号】WO2011094191
(87)【国際公開日】20110804
【審査請求日】2013年10月7日
(31)【優先権主張番号】61/311,118
(32)【優先日】2010年3月5日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/299,287
(32)【優先日】2010年1月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512192129
【氏名又は名称】エヌディーエスユー リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】エランゴバン アルムガサミー
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ブードジョーク フィリップ アール.
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ ダグラス エル.
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−171528(JP,A)
【文献】 特表2008−508295(JP,A)
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2001年,Vol. 123,8117-8117
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,1960年,Vol. 82,751-752
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/21
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリクロロシランと試薬組成物とを接触させることで、テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物を生成する工程であって、
該試薬組成物が
(a) 第三級ポリアルキレンポリアミン配位子; および
(b) 少なくとも10.5のpKaを有する脱プロトン化試薬であって、3個のアルキルおよび/またはアラルキル置換基で置換された第三級アミン、第三級アルキル化環状アミン、ならびに/またはN,N,N',N'-テトラアルキル-1,8-ナフタレンジアミンである前記脱プロトン化試薬
を含む、工程
を含む、シクロヘキサシラン化合物を調製する方法。
【請求項2】
第三級ポリアルキレンポリアミン配位子がN,N,N',N'',N''-ペンタアルキルジエチレントリアミン、N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミンまたはその混合物を含み; 脱プロトン化試薬がトリアルキルアミンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試薬組成物がテトラアリールホスホニウム塩をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物が式(Ph4P)2(Si6Cl14)を有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
テトラアリールホスホニウムクロリド、N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミン、トリアルキルアミンおよびトリクロロシラン、1:1:3:5〜100:1:400:600のモル比で存在する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
第三級ポリアルキレンポリアミン配位子がN,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミンであり;脱プロトン化試薬がN,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミンまたはその混合物であり;テトラアリールホスホニウム塩がテトラフェニルホスホニウムクロリドである、請求項3記載の方法。
【請求項7】
脱プロトン化試薬トリアルキルアミンであり;かつ第三級ポリアルキレンポリアミン配位子、トリアルキルアミンおよびトリクロロシラン、1:3:3〜1:400:700のモル比で存在する、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物が式
(N,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミン・SiH2Cl)2(Si6Cl14)
を有する、請求項1、2または7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
第三級ポリアルキレンポリアミン配位子N,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミンであり; および脱プロトン化試薬が、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミンまたはその混合物である、請求項1、2、7または8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
第三級ポリアミン配位子がN,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミンおよび/またはN,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミンであり;脱プロトン化試薬がトリエチルアミンおよび/またはN,N-ジイソプロピルエチルアミンである、請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
脱プロトン化試薬がN,N-ジイソプロピルアルキルアミン、N,N-ジイソブチルアルキルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミンまたはその混合物である、請求項1または2記載の方法。
【請求項12】
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物と、Rがアルキルまたはアリールであり、Xがクロロ、ブロモまたはヨードである式RMgXを有する試薬とを接触させることで、ドデカオルガノシクロヘキサシランを生成する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物と金属水素化物還元剤とを接触させることで、シクロヘキサシランを生成する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
脱プロトン化試薬が、N,N-ジイソプロピルアルキルアミン、および/またはN,N-ジイソブチルアルキルアミンであり、かつ前記アルキル基が、6個以下の炭素原子を有する分岐および/または直鎖アルキル基である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
アルキル基が、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、および/またはsec-ブチル基である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
脱プロトン化試薬が、トリエチルアミン、トリ-(n-プロピル)アミン、トリ-(n-ブチル)アミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、またはその混合物であり;ならびに第三級ポリアルキレンポリアミン配位子が、N,N,N',N'',N''-ペンタアルキルジエチレントリアミン、N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミンまたはその混合物である、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「Method of Producing Cyclohexasilane Compounds」と題する2010年1月28日出願の米国仮出願第61/299,287号、および「Method of Producing Cyclohexasilane Compounds」と題する2010年3月5日出願の米国仮出願第61/311,118号の米国特許法第119(e)条に基づく恩典を主張し、これらの開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府の権利の表明
本発明は、米国エネルギー省補助金第DE-FG36-08GO88160号に基づく政府の支援により行った。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
テトラデカハロシクロヘキサシラン化合物、例えば式YmSi6X14-nX'n(Y=+1電荷およびm=2、または+2電荷およびm=1のカチオンであり; XおよびX'=F、Cl、Br、Iであり、n=0〜13である)で表されるものは、シクロヘキサシランSi6H12および他のシラン化合物の生成における重要な中間体である。シクロヘキサシランは、エレクトロニクスグレードのケイ素材料およびケイ素素子用の液体前駆体として使用することができる。シクロヘキサシランは、ケイ素ベースの電子産業で採用される様々なプロセスおよび技術における、ガス状SiH4および/または腐食性トリクロロシラン(HSiCl3)の相対的に無害な液相代替物である。Y2Si6Cl14中間体塩を生成する既存の方法は、求核性有機アミンを配位子として典型的に使用する。そのような合成は広範な副反応の傾向があり、副反応は有用な出発原料を減損させ、中間体Y2Si6Cl14塩の低収率(典型的には約10%)をもたらす。
【発明の概要】
【0004】
概要
本出願は、トリクロロシランからシクロヘキサシラン化合物を調製する方法に関する。該方法は、トリクロロシランと試薬組成物とを接触させることで、テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン、例えばテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物を生成する工程を含む。試薬組成物は、(a) 第三級ポリアミン配位子、例えばアルキル置換ポリアルキレンポリアミン; および(b) ポリアミン配位子以外の化合物を含む脱プロトン化試薬を典型的に含む。脱プロトン化試薬は、少なくとも約10.5、多くの場合11以上のpKaを有する第三級アミンを含みうる。反応成分および反応条件に応じて、1〜72時間の反応時間を一般的に使用することができ、相対的に短い反応時間(例えば2〜10時間)が望ましい。本方法は、テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン生成物の非常に増大した収率をもたらすことができる。
【0005】
特定の態様では、試薬組成物は、(a) 第三級ポリアルキレンポリアミン; および(b) 少なくとも約10.5のpKaを有するトリアルキルアミンなどの脱プロトン化試薬を含みうる。第三級ポリアミン配位子は、窒素原子をアルキル、アリールおよび/またはアラルキル置換基(望ましくはアルキルおよび/またはアラルキル)のみと共に含有するポリアミンでありうる。好適な第三級ポリアルキレンポリアミンの例としては、N,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミン(TEEDA)およびN,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミン(PEDETA)などのペンタアルキルジエチレントリアミンおよびテトラアルキルエチレンジアミン、ならびに、N,N,N',N'-テトラエチル-N''-ベンジルジエチレントリアミンなどのN,N,N',N'-テトラアルキル-N''-ベンジルジエチレントリアミンが挙げられる。
【0006】
試薬組成物は、少なくとも約10.5のpKaを有する第三級アミンを含むことが望ましいことがある。好適な例としては、3個のアルキル、アリールおよび/またはアラルキル置換基で置換された、少なくとも約10.5のpKaを有する第三級アミンが挙げられる。例えば、試薬組成物は、アルキル基がメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチルおよび/または他の分岐/直鎖アルキル基(望ましくは6個以下の炭素原子を有する)であるN,N-ジイソプロピルアルキルアミンおよび/またはN,N-ジイソブチルアルキルアミンを含みうる。第三級アミンは、ベンジルおよび/またはフェネチルなどの1個または複数のアラルキル基で置換されていてもよい。いくつかの態様では、試薬組成物は、n-アルキル基が6個以下の炭素原子を典型的に有するトリ-n-アルキルアミン(例えばトリエチルアミン、トリ-(n-プロピル)アミンおよび/またはトリ-(n-ブチル)アミン)を含みうる。好適な第三級アミンの他の例としては、アルキル基が望ましくはC1〜C6アルキル、好ましくはメチルであるN,N,N',N'-テトラアルキル-1,8-ナフタレンジアミン(例えばN,N,N',N'-テトラメチル-1,8-ナフタレンジアミンおよび/またはN,N,N',N'-テトラエチル-1,8-ナフタレンジアミン)が挙げられる。
【0007】
いくつかの態様では、高pKa第三級アミン(例えば、少なくとも約10.5のpKaを有するトリアルキルアミン)などの脱プロトン化試薬は、ポリアミン配位子としてのPEDETAとの組み合わせで使用する場合、テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン塩、例えばテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン塩の向上した収率をもたらす。この有益な効果は、高pKa第三級アミンをポリアミン配位子としてのTEEDAとテトラアリールホスホニウム塩などの第四級塩との組み合わせと共に使用する場合にも見られる。いくつかの場合、立体障害第三級アミン(例えばEDIPA(登録商標))の使用が有利でありうる。多くの場合、試薬組成物中の脱プロトン化試薬(例えば立体障害第三級アミン)が存在しないことは、大部分は望まれない副反応の発生による低生成物収率(一般的には10%未満)をもたらす。
【0008】
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物をシクロヘキサシランまたはドデカオルガノシクロヘキサシランに変換する方法も提供される。例えば、本方法により生成されるテトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物を、金属水素化物還元剤との反応を通じてシクロヘキサシランに変換することができる。テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物と、式RMgX(式中、Rはアルキルまたはアリールであり、Xはハロゲン化物である)を有する試薬とを反応させることで、ドデカオルガノシクロヘキサシラン化合物を生成することもできる。
[本発明1001]
トリクロロシランと試薬組成物とを接触させることで、テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物を生成する工程であって、該試薬組成物が(a) 第三級ポリアミン配位子; および(b) 少なくとも約10.5のpKaを有する第三級アミンを含む脱プロトン化試薬を含む、工程
を含む、シクロヘキサシラン化合物を調製する方法。
[本発明1002]
第三級ポリアミン配位子が第三級ポリアルキレンポリアミンを含み; (b) 第三級アミンがトリアルキルアミンを含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
第三級ポリアミン配位子がN,N,N',N'',N''-ペンタアルキルジエチレントリアミン、N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミンまたはその混合物を含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
第三級アミンがN,N,N',N'-テトラアルキル-1,8-ナフタレンジアミンを含む、本発明1001の方法。
[本発明1005]
試薬組成物がテトラアリールホスホニウム塩などの第四級塩をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物が式(Ph4P)2(Si6Cl14)を有する、本発明1005の方法。
[本発明1007]
試薬組成物がテトラアリールホスホニウムクロリド、N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミン、トリアルキルアミンおよびトリクロロシランを、1:1:3:5〜100:1:400:600の、テトラアリールホスホニウムクロリド:N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミン:トリアルキルアミン:トリクロロシランのモル比で含む、本発明1005の方法。
[本発明1008]
第三級アミンが、少なくとも約10.5のpKaを有するトリアルキルアミンを含み、第三級ポリアミン配位子が第三級ポリアルキレンポリアミンを含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
試薬組成物が第三級ポリアルキレンポリアミン、トリアルキルアミンおよびトリクロロシランを、1:3:3〜1:400:700の、第三級ポリアルキレンポリアミン:トリアルキルアミン:トリクロロシランのモル比で含む、本発明1008の方法。
[本発明1010]
試薬組成物がN,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミンおよびN,N-ジイソプロピルエチルアミンを含む、本発明1001の方法。
[本発明1011]
試薬組成物がN,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミンおよびトリエチルアミンを含む、本発明1001の方法。
[本発明1012]
試薬組成物が(a) N,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミン; (b) N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミンまたはその混合物; および(c) テトラフェニルホスホニウムクロリドを含む、本発明1001の方法。
[本発明1013]
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物が式(PEDETA・SiH2Cl)2(Si6Cl14)を有する、本発明1001の方法。
[本発明1014]
トリクロロシランと試薬組成物とを接触させる工程が、塩素化有機溶媒を含む有機溶媒の存在下で行われる、本発明1001の方法。
[本発明1015]
トリクロロシランと試薬組成物とを接触させる工程が約20℃〜75℃の温度で行われる、本発明1001の方法。
[本発明1016]
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物を回収する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1017]
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物を回収する工程が、反応中に形成される析出物の濾過によって実現される、本発明1016の方法。
[本発明1018]
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物と、Rがアルキルまたはアリールであり、Xがクロロ、ブロモまたはヨードである式RMgXを有する試薬とを接触させることで、ドデカオルガノシクロヘキサシランを生成する工程をさらに含む、本発明1016の方法。
[本発明1019]
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物と金属水素化物還元剤とを接触させることで、シクロヘキサシランを生成する工程をさらに含む、本発明1016の方法。
[本発明1020]
第三級アミンがN,N-ジイソプロピルアルキルアミン、N,N-ジイソブチルアルキルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミンまたはその混合物を含む、本発明1001の方法。
[本発明1021]
第三級ポリアミン配位子がN,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミンまたはN,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミンを含む、本発明1020の方法。
[本発明1022]
第三級ポリアミン配位子がN,N,N',N'-テトラアルキル-N''-ベンジルジエチレントリアミンを含む、本発明1001の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本出願は、相対的に高pKaの第三級アミン(例えば、立体障害非求核性アミンであるN,N-ジイソプロピルアミン(EDIPA(登録商標))などの脱プロトン化試薬の使用に関し、またホスホニウム対イオン材料などの第四級対イオン材料を使用することで、副反応を減少させ、所望のテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン生成物の有効な析出を促進することができる。このアプローチは正反応を推進するものであり、収率を劇的に増大させることができる。実験の過程で、ジクロロメタン溶媒中のPEDETA・H2SiCl2錯体に対するEDIPA(登録商標)の作用による、(既に報告された方法を使用する約10%の最大収率に対して)3倍以上の収率の向上が観察された。第三級ポリアミンPEDETAとHSiCl3との反応にEDIPA(登録商標)を最適な比で直接加えた際に、(PEDETA・SiH2Cl)2(Si6Cl14)塩の収率は、従来のプロセスで実現した約10%の収率に対して約1桁(65〜85%)向上した。いくつかの場合では、第四級塩(例えばRnR'4-nEX、ここでn=1〜4であり、R、R'=H、アルキル、アリールであり; E=N、P、As、Sb、Biである)を反応に加えることができる。例えば、ポリアミン配位子としてのTEEDAおよび脱プロトン化試薬としてのEDIPA(登録商標)の使用は、Ph4PClを使用して対イオン材料を導入する場合、テトラデカクロロシクロ-ヘキサシランジアニオン塩(Y2Si6Cl14)の収率を7倍以上増大させる。好適な第四級塩の別の例は第四級アンモニウム塩である。
【0010】
高pKa第三級アミン(例えばEDIPA(登録商標)またはトリエチルアミン(TEA))が、ポリアミン配位子としてのPEDETAと共に使用される場合にY2Si6Cl14の非常に増大した収率(例えば65〜85%)をもたらすことができることが示された。向上した収率は、高pKa第三級アミンをポリアミン配位子としてのTEEDAとテトラフェニルホスホニウムカチオンなどのテトラアリールホスホニウムカチオンとの組み合わせと共に使用する場合にも見られる。多くの場合、試薬組成物中の脱プロトン化試薬(すなわち上記の高pKa第三級アミン)が存在しないことは、大部分は望まれない副反応の発生による低Y2Si6Cl14収率(すなわち一般的には10%未満)を生じさせる。
【0011】
好適な第三級ポリアミン配位子の他の例としては第三級ポリアルキルポリ-アルケンアミン、第三級ポリアルキレンポリアルケンアミン、第三級ポリアリールポリアルケンアミン、第三級ポリアラルキルポリエンアミン、および窒素上に1個または複数のシリル基を有する第三級アミンが挙げられる。好適な第三級ポリアミン配位子としては、窒素原子上でアルキルおよび/またはアラルキル置換基の混合物で置換された第三級ポリアルキレンポリアミンを挙げることもできる。例としてはN,N,N',N'-テトラエチル-N''-ベンジルジエチレントリアミンなどのN,N,N',N'-テトラアルキル-N''-ベンジルジエチレン-トリアミン、ならびにアルキルおよび/またはベンジル基が炭化水素または有機ケイ素基で置き換えられた関連誘導体が挙げられるがそれに限定されない。
【0012】
EDIPA(登録商標)などの立体障害第三級アミンが、本方法に従ってポリアミンとの組み合わせで使用される場合の脱プロトン化試薬としての使用に好適である。EDIPA(登録商標)の立体障害性および相対的に高いpKa(すなわち11.3)は、求核剤として作用するその役割を制限しながら、プロトン引き抜き効率を増大させうる。両方の特徴が、四塩化ケイ素などの望まれない副生成物の形成を制限すると考えられる。また、テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン生成物の収率は、高pKaプロトン引き抜き剤(すなわち脱プロトン化試薬)として作用する他の第三級アミンの使用により第三級ポリアミン(例えばPEDETA)を多座配位子として機能させることを通じて増大しうる。
【0013】
好適な高pKa第三級アミンの他の例としてはN,N-ジイソプロピル-アラルキルアミン、N,N-イソプロピルジアラルキルアミン、N,N-ジイソプロピルアリールアミン、N,N-ジアリールアルキル-アミン、N,N,N-トリアリールアミンおよび/またはN,N,N-トリアラルキルアミンが挙げられ、そのような第三級アミンは少なくとも約10.5のpKaを有することが好ましい。
【0014】
好適な高pKa第三級アミンの他の例としては、N-アルキルピペラジン、N-アラルキル置換ピペラジン、N-アルキルピロリジンおよびN-アラルキル置換ピロリジンなどのアルキル化環状アミンが挙げられる。N-アルキルピペラジンおよびN-アルキルピロリジンは、窒素原子上の置換基としてのかさ高いアルキル基(例えばN-イソプロピル、N-イソブチルまたはN-シクロヘキシル)を含むことが望ましいことがある。環状アミン中で窒素原子に直ちに隣接した炭素原子は1個または複数のアルキル基で置換されていてもよい。好適なN-アルキルピロリジンの例としてはN-イソプロピルピロリジン、N-エチル-2-メチルピロリジンおよびN-ベンジル-ピロリジンが挙げられる。好適なN-アルキルピペラジンの例としてはN-イソプロピルピペラジン、N-エチル-2-メチルピペラジンおよびN-フェネチルピペラジンが挙げられる。そのような第三級アルキル化環状アミンは少なくとも約10.5のpKaを有することが望ましい。
【0015】
本方法において使用することができる好適な脱プロトン化試薬の他の例としては、金属水素化物試薬が挙げられる。例えば、LiH、NaH、KH、MgH2、CaH2、SrH2およびBaH2などの金属水素化物は、良好な脱プロトン化剤であることが知られており、第三級アミン脱プロトン化試薬の代わりにまたはそれと組み合わせて使用することができる。さらに、アルカリ金属アミド(すなわちMNR2、ここでM=Li、Na、Kであり、R=アルキル、アリール、アラルキルまたは有機シリル基である)およびアルカリ土類アミド(すなわちM(NR2)2、ここでM=Mg、Ca、Sr、Baであり、R=アルキル、アリール、アラルキルまたは有機シリル基である)を脱プロトン化試薬として使用することができる。そのような金属アミドの典型例はリチウムジイソプロピルアミド(LiN(i-Pr)2)およびナトリウムヘキサメチルジシラジド(NaN(SiMe3)2)である。
【0016】
本方法では、トリクロロシランと試薬組成物との接触を、クロロシランと別の反応物質とを接触させるために好適な任意の標準反応器中で行うことができる。反応器は、例えば連続攪拌回分式反応器、半回分式反応器または連続式反応器でありうる。いくつかの態様では、密封可能な容器中で本反応を行うことにより、反応の過程での揮発性成分の潜在的損失を最小化することが有利なことがある。密封式反応器の使用は、溶媒、または反応混合物の他の成分の沸点(例えばHSiCl3、沸点32℃)を超える温度で反応を実行させることもできる。
【0017】
本方法は実質的に無水の条件下で行うことが好ましい。これは、窒素またはアルゴンなどの乾燥不活性ガスで反応器をパージした後、反応器中にそのような不活性ガスのブランケットを維持することにより実現することができる。多くの場合、すべてのガラス器具は使用前に洗浄され、140〜150℃で少なくとも数時間乾燥される。すべての手順は標準シュレンク技術を使用して窒素および/またはアルゴン雰囲気下で行うことができる。
【0018】
Y2Si6Cl14は希釈剤の非存在下で本方法を介して調製することができるが、トリクロロシランと試薬組成物とを接触させる工程は有機溶媒の存在下で典型的に行われる。テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを形成するためのトリクロロシランのカップリング反応に干渉しないあらゆる有機溶媒または有機溶媒の混合物を使用することができる。有機溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタンおよび/または1,2-ジクロロエタンなどのハロ有機溶媒を含みうる。非常に多くの場合、有機溶媒はジクロロメタンおよび/または1,2-ジクロロエタンである。存在する場合、有機溶媒の量は全試薬の合計体積の典型的には0.01〜100倍(好ましくは0.5〜10倍)である。
【0019】
トリクロロシランと試薬組成物とを0〜120℃の温度で接触させることができ、一般的な反応温度は20〜75℃(好ましくは約40〜65℃)である。比較的高い温度を、高圧下で、または還流条件下の比較的高沸点の溶媒中で実現することができる。トリクロロシランと試薬組成物とを15〜75℃、多くの場合約25〜65℃の温度で接触させることができる。いくつかの態様では、トリクロロシランを反応混合物に相対的に低い温度、例えば-40〜25℃で導入することができる。トリクロロシランの添加が完了した後、上記の比較的高い温度で反応を典型的に進行させる。
【0020】
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物を反応混合物から結晶化/析出により単離することができる。例えば、テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物の回収を、結晶化を促進する十分な量の有機溶媒を加えることで実現することができる。結晶化は室温以下で起こりうる。あるいは、テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物の反応混合物からの回収を、該化合物の析出を支援する十分な量の有機溶媒を加えることで(例えば、テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン塩の塩素化有機溶媒溶液に炭化水素非溶媒を加えることで)行うこともできる。いくつかの場合では、ブレンド溶媒系を使用することが有利なことがある。そのような混合物は塩素化有機溶媒(例えばCH2Cl2および/もしくはC2H4Cl2)、ならびに/または脂肪族炭化水素(例えばペンタン、ヘキサンおよび/もしくはシクロヘキサン)、ならびに/またはエーテル(例えばジエチルエーテルおよび/もしくはテトラヒドロフラン)、ならびに/または芳香族炭化水素(例えばベンゼンおよび/もしくはトルエン)溶媒を利用する。
【0021】
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物の反応混合物からの結晶化または析出を実行し、回収中の該化合物とは反応しない、あらゆる有機溶媒またはそのような溶媒の混合物を、本方法において使用することができる。好適な有機溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびノナンなどの炭化水素、ならびにジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなどのエーテルが挙げられる。好ましくは、本方法により生成される化合物の結晶化または析出を実行するために使用される有機溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンまたはノナンである。特に好適な溶媒の一例はペンタンである。
【0022】
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン、例えばテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンをシクロヘキサシランに化学的に還元することができる。還元反応は、テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物と金属水素化物還元剤とを有機溶媒中、-110〜150℃の温度で接触させることで行うことができる。好適な還元剤としては水素化アルミニウムリチウムおよび水素化ジイソブチルアルミニウムが挙げられる。
【0023】
テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン、例えばテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンとグリニャール試薬とを接触させてドデカオルガノシクロヘキサシランを形成することもできる。グリニャール試薬は式RMgXで表され、式中、Rはアルキルまたはアリールであり、XはCl、BrまたはIである。好適なR基としてはメチル、エチル、プロピル、tert-ブチルおよびフェニルが挙げられるがそれに限定されない。テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物とグリニャール試薬との反応は、クロロシランとグリニャール試薬とを反応させるための当技術分野で公知の標準的方法により行うことができる。
【実施例】
【0024】
本発明を例示し、かつ当業者がそれを実施および使用することを支援するために、以下の実施例を提示する。これらの実施例は、本発明の範囲を別途限定するようには決して意図されていない。すべての収率は、別途記述がない限り重量パーセントによる。別途指定がない限り、すべての手順は、標準シュレンク技術を使用して窒素雰囲気下で、または慎重に乾燥させて窒素で充填したグローブボックス中で行う。すべてのガラス器具は使用前に適切に洗浄され、140〜150℃で少なくとも2時間乾燥される。
【0025】
比較例1
脱プロトン化試薬を用いない(PEDETA・SiH2Cl)2(Si6Cl14)の合成
マグネチックスターラおよびフリードリヒ冷却器を備えた3L三つ口丸底フラスコ(事前にオーブン中140℃で乾燥)を窒素で洗い流した。フラスコにジクロロメタン(400mL)、続いてN,N,N',N'',N''-ペンタエチルジエチレントリアミン(PEDETA、115.4g、474mmol)を装入した。この混合物にトリクロロシラン(250mL、1.37mol)を1時間かけて滴下した。添加中に発熱が観察され、蒸気を凝縮してフラスコに戻した(フリードリヒ冷却器の冷媒温度は-10℃に維持)。発熱が沈静した後、反応混合物を窒素雰囲気下、還流(約45℃)で72時間攪拌した。この期間の最後に加熱を中断し、析出物を沈殿させた。反応混合物を吸引濾過し、得られた生成物をジクロロメタン(200mL)で洗浄して無色固体30g(23.4mmol)(PEDETAに対して収率9.8%)を得た。
【0026】
比較例2
脱プロトン化試薬を用いない(Ph4P)2(Si6Cl14)の合成
テトラフェニルホスホニウムクロリド(Ph4PCl、1.87g、4.99mmol)のジクロロメタン10mL溶液にN,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミン(TEEDA)(1.09mL、5.11mmol)を加えた。冷却したシリンジを使用して、トリクロロシラン(2.02mL)を攪拌溶液にゆっくりと加えた。反応溶液を72時間還流し、その間に生成物が無色固体として析出した。固体を濾過し、ジクロロメタンで洗浄し、高真空下で3時間乾燥させて(Ph4P)2(Si6Cl14)塩(0.687g、20.4%)を得た。
【0027】
実施例1
脱プロトン化試薬を用いる(PEDETA・SiH2Cl)2(Si6Cl14)の合成
マグネチックスターラおよびフリードリヒ冷却器を備えた3L三つ口丸底フラスコを窒素で洗い流した。次にフラスコにジクロロメタン(400mL)、続いてPEDETA(81.5g、320mmol)およびEDIPA(登録商標)(143g、1.10mol)を装入した。トリクロロシラン(187mL、1.85mol)をこの混合物に1時間かけて滴下し、発熱により形成された蒸気を凝縮してフラスコに戻した(フリードリヒ冷却器の冷媒温度は-10℃に維持)。添加後、反応混合物を窒素雰囲気下、還流(約45℃)で42〜72時間攪拌した。この期間の最後に加熱を中断し、無色析出物を吸引濾過した。得られた生成物を窒素下、ジクロロメタン100mLで洗浄して(PEDETA・SiH2Cl)2(Si6Cl14) 165g(128mmol)を収率81%(PEDETAに対する)で得た。
【0028】
実施例2
脱プロトン化試薬としてのEDIPA(登録商標)を用いる(Ph4P)2(Si6Cl14)の合成
Ph4PCl(1.88g、5.02mmol)のジクロロメタン20mL溶液にTEEDA(1.09mL、5.11mmol)およびEDIPA(登録商標)(2.61mL、15.0mmol)を加えた。冷却したシリンジを使用して、トリクロロシラン(3.10mL、30.7mmol)を攪拌溶液にゆっくりと加えた。このクロロシランの添加によって、溶液は昇温し、わずかに黄色になった。反応溶液を72時間還流し、その間に生成物が無色固体として析出した。固体を濾過し、ジクロロメタンで洗浄し、真空下で3時間乾燥させて(Ph4P)2(Si6Cl14) 2.37gを収率70.3%(Ph4PClに対する)で得た。
【0029】
実施例3
脱プロトン化試薬としてのトリエチルアミンを用いる(Ph4P)2(Si6Cl14)の合成
Ph4PCl(1.88g、5.02mmol)のジクロロメタン20mL溶液にTEEDA(1.10mL、5.16mmol)およびトリエチルアミン(2.09mL、15.0mmol)を加えた。冷却したシリンジを使用して、トリクロロシラン(3.10mL、30.7mmol)を攪拌溶液にゆっくりと加えた。添加中、形成されたゲル状の固体を攪拌によってゆっくりと溶解させた。反応液を72時間還流させた。無色析出物を濾過し、ジクロロメタンで洗浄した後、真空下で3時間乾燥させて(Ph4P)2(Si6Cl14) 2.20gを収率65.6%(Ph4PClに対する)で得た。
【0030】
実施例4
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン塩の合成 − 溶媒の変動
ジクロロメタンに加えて1,2-ジクロロエタンおよびアセトニトリルを使用して反応を行って、収率に対する溶媒極性の効果を試験した。この試験の結果を表1に示す。試験では、反応を以下のプロトコールに従って行った。PEDETA(2.00g、8.22mmol)およびEDIPA(登録商標)(3.19g、24.7mmol)を乾燥溶媒(11mL)で希釈し、PTFEでコートされた磁気攪拌子を含有する20mL反応バイアルに移した。このアミン溶液を含有する反応バイアルをラバーセプタムで密封し、-30℃に冷却した。攪拌しながら、冷却したシリンジを使用して、トリクロロシラン(4.15mL、41.1mmol)をアミン溶液にセプタムを通じて加えた。得られた溶液を-30℃に冷却し、反応バイアル上のセプタムを中圧(20バール)クリンプキャップに速やかに取り替えた。次に反応混合物を55〜60℃に7時間加熱した。生成物混合物を-30℃に反応期間後23時間冷却した。真空濾過により単離し、CH2Cl2ですすいだ後、1,2-ジクロロエタン、アセトニトリルおよびCH2Cl2中で行われた反応について40%を超える生成物収率が観察された。
【0031】
(表1)反応収率に対する溶媒の効果
【0032】
実施例5
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン塩の合成 − 混合溶媒
いくつかの場合では、ブレンド溶媒系を使用することが有利なことがある。そのような混合物は塩素化有機溶媒(例えばCH2Cl2および/もしくはC2H4Cl2)、ならびに/または脂肪族炭化水素(例えばペンタン、ヘキサンおよび/もしくはシクロヘキサン)、ならびに/またはエーテル(例えばジエチルエーテルおよび/もしくはテトラヒドロフラン)、ならびに/または芳香族炭化水素(例えばベンゼンおよび/もしくはトルエン)を利用する。ベンゼン、テトラヒドロフランおよびシクロヘキサンとのジクロロメタン系混合物を使用して反応を行った。この試験の結果を表2に示す。試験では、反応を以下のプロトコールに従って行った。PEDETA(0.5g、2.06mmol)およびEDIPA(登録商標)(0.8g、6.19mmol)を攪拌子付きの5mL反応バイアル中で混合し、乾燥ジクロロメタン(2.5mL)および乾燥二次溶媒(0.5mL)で希釈した。反応容器をラバーセプタムで蓋をし、-30℃に冷却した。冷却したシリンジを使用して、トリクロロシラン(1.05mL)を反応容器にセプタムを通じて加えた。反応容器を-30℃に冷却した後、ラバーセプタムを中圧(20バール)クリンプキャップに速やかに取り替えた。次に反応容器を加熱油浴中、55〜60℃で7時間、攪拌しながら配置した。真空濾過により単離し、CH2Cl2ですすいだ後、すべての混合溶媒反応について40%を超える生成物収率が観察された(表2)。
【0033】
(表2)反応収率に対する混合溶媒の効果
【0034】
実施例6
テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン塩の合成 − 一般的変更
Si6Cl142-塩を生成するための時間を、いくつかの代替反応条件を使用して、上記実施例に記載された通常の42〜72時間から約7時間に減少させることができる。一般的アプローチは、中圧(最大約20バール)に耐えることが可能な密封式反応容器中で反応を行うこととした。以下に記載される種々の方法を使用してエネルギー/熱を反応混合物に導入し、室温で5日間制御反応を行った。別途指定がない限りの一般的反応スキームは以下に示す通りである。
【0035】
反応の化学量論を以下のように要約することができる。
2 PEDETA + 6 EDIPA + 10 HSiCl3 → [PEDETA・SiH2Cl]2[Si6Cl14] + 2 SiCl4 + 6 EDIPA・HCl
【0036】
変更された反応の典型的な手順をここに示す。これは、表3に記載のすべての試料について使用した一般的手順である。PEDETA(2.00g、8.22mmol)およびEDIPA(登録商標)(3.19g、24.7mmol)を乾燥ジクロロメタン(11mL)で希釈し、PTFEでコートされた磁気攪拌子を含有する20mL反応バイアルに移した。このアミン溶液を含有する反応バイアルをラバーセプタムで密封し、-30℃に冷却した。攪拌しながら、冷却したシリンジを使用して、トリクロロシラン(4.15mL、41.1mmol)をアミン溶液にセプタムを通じて加えた。得られた溶液を-30℃に冷却し、反応バイアル上のセプタムを中圧(20バール)クリンプキャップに速やかに取り替えた。従来の熱反応用に60℃に維持した油浴を使用して、溶液を様々な期間加熱した。別々の実験において、同様の溶液をBiotage Initiatorマイクロ波または従来の超音波洗浄浴中に配置した。実験の1つは、PEDETAの代わりにTEEDAおよびPPh4Clをそれぞれ配位子および対イオン源として使用した。表3に列挙した各実験について、生成物混合物を-30℃に反応期間後23時間冷却した。PEDETA約0.5g、EDIPA(登録商標)約0.8gおよびトリクロロシラン約1.0gを使用して4分の1規模で超音波化学反応および室温制御実験を行った。
【0037】
一般的変更実験の結果を以下の表3に要約する。大部分の場合、長期間の後にさらなる生成物が濾液から析出して2回目の結晶が生じる。40〜60℃で7時間の反応後、40〜60%の単離収率が典型的に観察された。室温での反応で同等の収率を得るには長い反応時間を必要とした。標準超音波浴を使用して0℃で1/4規模の反応を行って、超音波処理の効果を精査した。超音波処理中には生成物は観察されなかったが、23℃で終夜静置後には析出物が観察された。同一の超音波化学反応を50℃で行ったところ、7時間後に収率32%が得られた。
【0038】
(表3)マイクロ波実験および熱実験の条件の要旨
[a]この反応はTEEDAをポリアミンとし、Ph4PClをカチオン源として実行した。
【0039】
例示的態様
以下では、本明細書に記載の主題のいくつかの例示的態様に言及する。以下の態様は、本明細書に記載の主題の様々な特徴、特性および/または利点を含みうる、いくつかの選択される態様のみを例示する。したがって、以下の態様は、すべての可能な態様を包括するものと考えるべきではない。
【0040】
一態様によれば、トリクロロシランと、(a) 第三級ポリアミン、例えば第三級ポリアルキレンポリアミン; および(b) 少なくとも約10.5のpKaを有する第三級アミンを含む試薬組成物とを接触させることで、テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン、例えばテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物を生成する工程を含む方法により、シクロヘキサシラン化合物を調製することができる。反応混合物は、第三級ポリアミン配位子、脱プロトン化試薬およびトリクロロシランを、1:3:3〜1:400:700の、第三級ポリアミン配位子:脱プロトン化試薬:トリクロロシランのモル比で典型的に含む。特定の態様では、第三級ポリアルキレンポリアミン、トリアルキルアミンおよびトリクロロシランを、1:3:3〜1:400:700の、第三級ポリアルキレンポリアミン:トリアルキルアミン:トリクロロシランのモル比で含む反応混合物を使用することが望ましいことがある。特定の態様では、第三級ポリアルキレンポリアミン、トリアルキルアミンおよびトリクロロシランを、1:3:5〜1:30:50の、第三級ポリアルキレンポリアミン:トリアルキルアミン:トリクロロシランのモル比で含む反応混合物を使用することが望ましいことがある。
【0041】
別の態様によれば、トリクロロシランと、(a) 求核性第三級ポリアミン; (b) 立体障害非求核性アミンを含む試薬組成物とを接触させることで、テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物(例えば(PEDETA・SiH2Cl)2(Si6Cl14)または(RnR'4-nEX)2(Si6Cl14)、ここでn=1〜4であり、R、R'=H、アルキル、アリールであり; E=N、P、As、Sb、Biである)を生成する工程を含む方法により、シクロヘキサシラン化合物を調製することができる。
【0042】
別の態様によれば、本方法は、トリクロロシランと、(a) 第三級ポリアミン配位子; および(b) 高pKa第三級アミン(例えば少なくとも10.5のpKaを有する第三級アミン)を含む試薬組成物とを接触させる工程を含む。第三級ポリアミン配位子は第三級ポリアルキレンポリアミンを含みうる。第三級アミンは、N,N-ジイソプロピルアルキルアミンおよび/またはN,N-ジイソブチルアルキルアミンなどの立体障害非求核性アミンを含みうる。第三級ポリアミン配位子は、アルキル基がC1〜C6アルキルであることが好ましいペンタアルキルジアルキレントリアミン、テトラアルキルアルキレンジアミンまたはヘキサアルキルトリアルキレン-テトラミンなどの完全アルキル化ポリアミンでありうる。例えば、第三級ポリアミン配位子はN,N,N',N'',N''-ペンタ(n-アルキル)ジエチレントリアミンおよび/またはN,N,N',N'-テトラ(n-アルキル)エチレンジアミンを含みうる。本方法において使用されるペンタアルキルジエチレントリアミンおよびテトラアルキルエチレンジアミンの特に好適な例としてはN,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミン(TEEDA)およびN,N,N',N'',N''-ペンタエチル-ジエチレントリアミン(PEDETA)が挙げられる。
【0043】
試薬組成物は、テトラアリールホスホニウム塩(例えばテトラアリールホスホニウムハライド)などの第四級塩をさらに含みうる。本方法において使用されるテトラアリールホスホニウム塩の好適な例は、テトラフェニルホスホニウムハライド(例えばPh4PCl、Ph4PBrおよび/またはPh4PI)を含む。試薬組成物がテトラアリールホスホニウム塩を含む場合、テトラデカクロロシクロ-ヘキサシランジアニオン含有反応生成物は、式(Ph4P)2(Si6Cl14)を有する化合物などのテトラアリールホスホニウム塩として単離することができる。反応混合物は、第四級塩、第三級ポリアミン配位子、脱プロトン化試薬およびトリクロロシランを、1:1:3:5〜100:1:400:600の、第四級塩:第三級ポリアミン配位子:脱プロトン化試薬:トリクロロシランのモル比で典型的に含む。特定の態様では、第四級塩、第三級ポリアルキレンポリアミン、第三級アミン(例えばトリアルキルアミン)およびトリクロロシランを、1:1:3:5〜100:1:400:600の、第四級塩:第三級ポリアルキレンポリアミン:第三級アミン:トリクロロシランのモル比で含む反応混合物を使用することが望ましいことがある。特定の態様では、テトラアリールホスホニウムクロリド、N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミン、トリアルキルアミンおよびトリクロロシランを、1:1:3:5〜1:30:40:60の、テトラアリールホスホニウムクロリド:N,N,N',N'-テトラアルキルエチレンジアミン:トリアルキルアミン:トリクロロシランのモル比で含む反応混合物を使用することが望ましいことがある。
【0044】
別の態様によれば、本方法は、トリクロロシランと、(a) 第三級ポリアミン配位子; および(b) 高pKa第三級アミンを含む試薬組成物とを接触させることで、テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン、例えばテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物を形成する工程を含む。テトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物と、式RMgX(式中、Rはアルキルまたはアリールであり、Xはクロロ、ブロモまたはヨードである)を有する試薬とを接触させることで、ドデカオルガノシクロヘキサシラン(Si6R12)を生成することができる。
【0045】
別の態様によれば、本方法は、トリクロロシランと、(a) 第三級ポリアミン配位子および(b) 高pKa第三級アミンを含む試薬組成物とを接触させることで、テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン、例えばテトラデカクロロシクロヘキサシランジアニオンを含有する化合物を形成する工程を含む。テトラデカハロシクロヘキサシランジアニオン含有化合物と金属水素化物還元剤(例えば水素化アルミニウムリチウムまたは水素化ジイソブチルアルミニウム)とを接触させることでシクロヘキサシラン(Si6H12)を生成することができる。
【0046】
本発明の範囲および真意を逸脱することなく、本明細書に開示される方法および組成物に様々な置換および変更を加えることができることは、当業者には容易に明らかであろう。使用された用語および表現は、限定ではなく記述の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用において、提示および記述される特徴の任意の均等物またはその一部を排除するという意図はなく、本発明の範囲内で様々な変更が可能であると認識される。したがって、具体的な態様および任意的な特徴により本発明を説明してきたが、本明細書に開示される概念の変更および/または変形を当業者が使用することができること、および、そのような変更および変形が本発明の範囲内であると考えられることを理解すべきである。
【0047】
さらに、本発明の特徴または局面を代替物のマーカッシュ群または他の群に関して記述する場合、当業者は、本発明がマーカッシュ群または他の群の任意の個々のメンバーまたはメンバーの部分群に関してもそれによって記述されることを認識するであろう。