【文献】
大川学 外1名,”正規化によるオフライン筆者認識への影響分析”,FIT2007 第6回情報科学技術フォーラム 一般講演論文集 第3分冊 画像認識・メディア理解 グラフィクス・画像 ヒューマンコミュニケーション&インタラクション 教育工学・福祉工学・マルチメディア応用,日本,社団法人情報処理学会 社団法人電子情報通信学会,2007年 8月22日,p.105−106
【文献】
松元秀昭 外1名,”シーケンシャルニューラルネットワークを用いた手書き文字による個人認証”,画像電子学会誌 第38巻 第5号,日本,画像電子学会,2009年 9月25日,第38巻 第5号,p.614−622
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
筆跡鑑定の分野では、例えば、犯罪現場に残された筆跡が、複数の関係者の中の誰の筆跡かを特定するのが筆者識別と呼ばれ、これに対して、犯罪現場に残された筆跡が、被疑者の筆跡かどうかを判定するのが筆者照合と呼ばれている。 そして、これら筆者識別と筆者照合を併せて筆者認識と呼んでいる。
【0003】
従来の筆者認識、すなわち筆跡鑑定の分野では、特徴抽出法と呼ばれている鑑定者の経験や勘による観察鑑定が中心であった。
また、筆跡鑑定を迅速に行うために、コンピュータによるデータ処理を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1が開示する筆跡鑑定方法は、読込装置が、複数の書面にそれぞれ手書きされた同一もしくは同一種類の鑑定対象文字に対して、各鑑定対象文字の筆跡運動における運動振域をそれぞれ読み込む第一のステップと、演算装置が、前記各鑑定対象文字の筆跡運動における運動振域に基づいて、該筆跡の個人内変動および相似性の、少なくとも一方を数値化する第二のステップとを備えたことを特徴とするものである。
【0004】
そして、特許文献1が開示する筆跡鑑定方法では、
(1) 複数の書面にそれぞれ手書きされた同一もしくは同一種類の鑑定対象文字に対して、各鑑定対象文字の筆跡運動における運動振域をそれぞれ読み込み、
(2) 取り込んだ文字データ(デジタル画像)から文字の縦横の長さ(縦横域)を測定し、
(3) この縦横の長さH,Wの測定後、汎用の表計算ソフトにより、縦の長さHを、横の長さWで割り算して正接値tanθを、縦の長さHと、横の長さWとを掛け算して面積Sをそれぞれ演算し、
(4) 得られた結果に、度数分布図、分散、標準偏差などを適用して個人内変動を数値化し、
(5) 各正接値tanθの比率から1を引き算した差分の絶対値(第一の差分)と、各面積Sの比率から1を引き算した差分の絶対値(第二の差分)とをそれぞれ演算し、両差分の絶対値同士を掛け合わせたものを相似率と定義して、この相似率で筆跡の相似性を数値化し、
(6) 各文字の筆跡の個人内変動を数値化したものを表示部にプロットしてグラフ表示するとともに、相似率をその求められた頻度(算出頻度)ごとにプロットして表示部にグラフ表示する、
という方法をとっている。
【0005】
特許文献1が開示する筆跡鑑定方法では、縦の長さHを、横の長さWで割り算して求めた正接値tanθと、縦の長さHと、横の長さWとを掛け算して求めた面積Sにのみ基づいて筆跡の相似性を数値化しているため、相似性の判断に偏りが生じやすく、正確な相似性の評価が困難であるという問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の1実施形態に係る筆跡鑑定装置のシステム構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、3つの「昭」という文字を正規化手段により正規化した結果を例示したものである。
【
図3】
図3は、3つの「昭」という文字を細線化手段により細線化した結果を例示したものである。
【
図4】
図4は、「昭」という文字パターンから、矩形部選択手段により矩形部「日」を選択した結果を例示したものである。
【
図5】
図5は、選択した矩形部について、形態定数算出手段によって形態定数を算出した例を示したものである。
【
図6】
図6は、射影算出手段により、画面縦軸上および横軸上に射影した画素密度分布を算出した結果を例示したものである。
【
図7】
図7は、正規化された「字」という文字サンプルを示したものである。
【
図8】
図8の左図は、配列パターンとその対応する番号を示したものであり、
図8の右図は、左側に示す配列パターンの番号に対応した方向性を定義したものである。
【
図9】
図9は、加重方向指数ヒストグラム算出手段によって、文字パターン「昭」の加重方向指数ヒストグラムを算出した結果を示したものである。
【
図10】
図10は、指数表を示すものであり、
図10の上に示す表中の数値は、方向指数を表す数値であり、
図10の下に示す表中の数値は方向指数を表す数値であり、同表の下側に示す矢印の方向は、方向を示すものである。
【
図11】
図11は、指数表を用いて輪郭線に隣接した白画素の方向を抽出する過程を説明するためのサンプル画素を示すものであって、特定の白画素「X」と、この白画素の外周に存在する8つの画素を示している。
【
図12】
図12は、X方向の値、およびY方向の値を求めるための説明図を示したものである。
【
図13】
図13は、X方向の値、およびY方向の値を求める1例を示したものである。
【
図14】
図14は、指数表を用いて、輪郭線に隣接した白画素の方向を抽出した結果の一例を示すものである。
【
図15】
図15は、方向指数4に着目し、この方向を伝搬させる方法について説明するための図である。
【
図16】
図16は、方向指数4を持つ白画素を発信源として、その方向を伝搬させ、設定された各白画素の数値を示したものである。
【
図17】
図17は、背景情報算出手段209により正規化された3個の文字パターン「記」の背景情報を算出した結果を、比較可能なように表示したものである。
【
図18】
図18は、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの細線化された文字パターンを対比可能に表示したものの1例である。
【
図19】
図19は、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムの手順を示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムの手順を示すフローチャートである。
【
図21】
図21は、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムの手順を示すフローチャートである。
【
図22】
図22は、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムの手順を示すフローチャートである。
【
図23】
図23は、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムの手順を示すフローチャートである。
【
図24】
図24は、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムの手順を示すフローチャートである。
【
図25】
図25は、3つの「田辺和昭」という文字を正規化手段により正規化した結果を例示したものである。
【
図26】
図26は、3つの「田辺和昭」という文字を細線化手段により細線化した結果を例示したものである。
【
図27】
図27は、対比文字、および被対比文字が複数文字からなる場合の例であって、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの細線化された文字パターンを対比可能に表示したものの1例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の1実施形態に係る筆跡鑑定支援装置100のシステム構成を示すブロック図である。
図1に示す実施形態の筆跡鑑定支援装置100は、汎用されているデスクトップコンピュータやラップトップコンピュータをベースとして構成されたものであり、CPU(Central Processing Unit)のような演算処理装置101、スタートアップ時のコンピュータ内のエレメント間の情報転送を支援するBIOS(Basic Input/output System)を収納するROM(Read Only Memory)102、実行時にオペレーション・システム(OS)やアプリケーションプログラム(本実施形態では、筆跡鑑定支援プログラム200)、あるいはプログラムデータを収納するRAM(Random Access Memory)103、コマンドや情報を入力するためのキーボードやポインティングデバイス等の入力装置104、画像データを入力するためのスキャナーやカメラ等の読取装置105、結果を表示するためのモニターのような表示装置106、および結果をハードコピーとして出力するプリンターのような出力装置107から構成されている。
【0025】
また、筆跡鑑定支援装置100には、ハードディスク、磁気ディスク、光ディスク等のコンピュータ読取可能媒体とコンピュータとの間のデータの授受を行うコンピュータ読取可能媒体入出力装置(図示せず)を更に備えるようにすることもできる。
【0026】
本発明に係る筆跡鑑定支援プログラム200は、手書きされた対比文字、および被対比文字の画像データを正規化した上で、直接比較対比したり、あるいは種々の特徴を抽出して比較対比することにより、対比文字、および被対比文字の特徴を多面的に評価できるようにしたものである。 なお、ここで、対比文字、および被対比文字とは、1文字に限定されるものではなく、複数文字から構成されるものを含むものである。 従って、例えば、4文字からなる氏名を一体的に対比文字、および被対比文字として取り扱うこともできるようになっている。
【0027】
図1に示すように、筆跡鑑定支援プログラム200は、画像読取手段201、記憶手段202、正規化手段203、細線化手段204、矩形部選択手段205、形態定数算出手段206、射影算出手段207、加重方向指数ヒストグラム算出手段208、背景情報算出手段209、および表示手段210から構成されており、以下、これらついて詳細に説明する。
【0028】
画像読取手段201は、用紙に手書き(筆記)された対比文字および被対比文字を画像データとして読取るための手段である。 画像読取手段201は、用紙に手書き(筆記)された1又は複数の対比文字および1又は複数の被対比文字を1文字毎に、あるいは複数文字を同時に、例えばイメージスキャナを用いて解像度240dpiの2値画像として読取り、例えば160x160画素(例えば1文字の場合)や、160x640画素(例えば3文字、4文字、5文字のように複数文字の場合)、あるいはその他の画素サイズの大きさの画像データとするものである。
【0029】
記憶手段202は、画像読取手段201により読取った画像データをRAMの中にプログラムデータの一部として記憶するものである。
【0030】
画像読取手段201によって読取られた対比文字あるいは被対比文字の画像データは、たとえ筆記者が同一人であったとしても、文字の大きさや文字の中心位置は文字毎にばらつくのが一般的である。 そこで、正規化手段203は、異なる筆者の文字であったとしても一定条件下で比較することができるように、文字パターンの重心と画面の中心が一致するように(すなわち、文字パターンの重心がたえず画面の中心に表示されるように)処理すると共に、文字パターンの大きさを一定にするように処理する。 従って、対比文字あるいは被対比文字が、例えば、4文字から成る場合には、4文字からなる文字パターンの重心と画面の中心が一致するように処理される。
【0031】
ここで、文字の重心とは、文字の釣り合いのとれた画素のことであり、画素の座標を(x,y)で表し、その濃度値をf(x,y)とすると重心の座標(x
m,y
m)は以下の式で求めることができる。
【0032】
次に、文字の大きさを一定にするために2次モーメントを求める。 2次モーメントr
mは、文字パターンの各画素と重心との距離の平均であり、以下の式によって求めることができる。
【0033】
このようにして求めた2次モーメントから文字の大きさが一定値Rとなるように、各文字毎(対比文字あるいは被対比文字が複数文字から成る場合には、複数文字を一体と捉える)に異なっている2次モーメントを統一することによって、文字の大きさの正規化を行なうようになっている。 このR値を変更することによって統一する文字の大きさが変化することになるが、本実施形態においては、R値を38として固定している。 このR値は38に限定されるものではなく、任意に設定することが可能である。
【0034】
正規化前の座標を(x,y)、正規化後の座標を(x’,y’)とし、正規化後の重心の座標を(x
m’,y
m’)とすると、
となり、(x,y)から(x’,y’)へと、文字の大きさを正規化することができる。
図2は、3つの「昭」という文字を、正規化手段203により正規化した結果を例示したものである。 また、
図25は、3つの「田辺和昭」という文字を、正規化手段203により正規化した結果を例示したものである。
【0035】
細線化手段204は、正規化された画像データにおける文字パターンの連結成分(文字画素が連続している成分)に対して、その連結性を維持したまま線幅が1画素の線図形となるように文字パターンを細める処理を行う。 この細線化は、ある太さのパターンを順次細かくしていく処理で、削除可能な画素を取り除き、文字パターンの中心線を求めるようにしたものである。 細線化処理のアルゴリズムには多くの手法が提案されているが、本実施形態においては、Hildichの手法を採用している。
【0036】
この手法では、文字パターン中の特定の画素に注目し、この特定の画素が以下に示す6つの条件を全て満たす場合のみ、その特定の画素は削除可能であるとして文字パターンを順次細めていくものである。
条件1: 当該特定の画素は黒画素であること
条件2: 当該特定の画素は白画素との境界画素であること
条件3: 当該特定の画素は端点ではないこと
条件4: 当該特定の画素は孤立点ではないこと
条件5: 当該特定の画素を削除しても連結性は維持されること
条件6: 当該特定の画素が線幅2(2画素の幅)の線分上にある場合は、その片側のみを削除する
【0037】
このようにして、削除可能な画素がなくなるまで処理を繰り返すことにより、文字パターンが細線化された画像データを得ることができる。
図3は、3つの「昭」という文字を細線化手段204により細線化した結果を例示したものである。 また、
図26は、3つの「田辺和昭」という文字を細線化手段204により細線化した結果を例示したものである。 なお、いずれの例においても、細線化された画像データは、目視し易くするために、画線を太くして表示している。
【0038】
矩形部選択手段205は、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける各文字パターンの中から、文字の重要な要素を構成する1又は複数個所の矩形部を選び出す機能を有する。 ここで、矩形部とは、文字パターンの中の外接する枠線を意味するものであり、例えば「昭」という文字パターンであれば、「口」の部分や「日」の部分の中央の横線を除いた部分等が該当する。 このように、文字パターンの中の重要な要素である矩形部の特徴に着目して筆跡鑑定をすることにより、認識精度をより高めることが可能となる。
図4は、「昭」という文字パターンから、矩形部選択手段205により矩形部「日」を選択した結果を例示したものである。
【0039】
なお、本実施形態においては、矩形部選択手段205が自動的に矩形部を選択するように設定することもできるし、入力装置104から入力されるコマンドに従って、各文字パターンの中の特定の1又は複数の矩形部を選択させるようにすることもできる。
【0040】
また、本実施形態においては、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける各文字パターンの中から、各々対応する矩形部を選択し、選択された矩形部を上述した細線化手段204によって細線化し、その後対応する矩形部を対比するようにしているが、これに限定されるものではなく、選択された矩形部を細線化手段204によって細線化することなく、直接対比するようにしても良い。
【0041】
形態定数算出手段206は、矩形部選択手段205によって選択された各文字パターンの中の矩形部の形態的特徴を数値化した形態定数を算出する。 具体的には、各文字パターンが記録された画像データの中の該当する矩形部の2値画像データに基づき、形態定数を算出する。 本実施例においては、形態定数としては、矩形部の高さ、幅、面積、重心の位置、文字重心と矩形部重心との距離が定義されている。
図5は、選択した矩形部について、形態定数算出手段206によって形態定数を算出した例を示したものである。 図中右側の各数値が、図中左側の文字パターンの各矩形部の形態定数を示している。
【0042】
射影算出手段207は、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける各文字パターンの画素数密度の分布算出し、その結果を画面の水平軸上および垂直軸上に投影してプロットするものである。 具体的には、画像データの画面において上下方向をY軸(垂直軸)、横方向をX軸(水平軸)と定義すると、例えば、Yが特定の値をとる位置における全画素の中から文字パターンに該当する画素(黒画素)の数の総計を求め、その値をY軸(垂直軸)上にプロットするという処理をY軸(垂直軸)上の全領域にわたって行う。 X軸(水平軸)についても、Y軸(垂直軸)と同様な処理を行うことによって、文字パターンの画素数密度の分布を画面の水平軸上および垂直軸上に投影してプロットすることができる。 これにより、対比文字、および被対比文字の画像データにおける各文字パターンの画素数密度の分布特性を容易に比較評価することができる。
図6は、射影算出手段207により、画面縦軸上および横軸上に射影した画素密度分布を算出した結果を例示したものである。 画面右側および画面下側に示した波形が、画素密度分布をプロットしたものである。
【0043】
加重方向指数ヒストグラム算出手段208は、加重方向指数ヒストグラムの特徴、即ち文字パターンの輪郭線から、細分化した領域において文字の方向性の程度を検出し、その結果に基づき筆跡鑑定を行うために、画像データを処理する手段である。
【0044】
図7に示す正規化された「字」という文字サンプルを使用して、加重方向指数ヒストグラム算出手段208により加重方向指数ヒストグラムを算出する手順は以下の通りである。
(1) まず、
図7に示すように画面を16×16の升に分割しておく。 (なお、対比文字、および被対比文字が複数文字、例えば、4文字からなるような場合には、画面を16×64の升に分割することになる。)
(2) 文字の輪郭線を求める。
(3) 輪郭線をたどりながら、各升の中の輪郭線の各画素の配列状態を調べる。
(ア)輪郭線の特定の画素に着目し、その特定の画素の前後の画素の配列パターンを調べ、
図8左図に示す1〜16までの配列パターンが、1つの升の中に各々何個存在するかカウントする(1つの升の中における各配列パターンの度数をカウントする)。
(イ)その結果、1つの升の中には16個の数字が存在することになり、升が16×16個あるから合計16×16×16=4096個の数値で1つの文字の特徴を表すことになる。
(ウ)
図8の右図は、左側に示す配列パターンの番号に対応した方向性を定義したものであり、左図の配列パターンの番号と右図の方向性を示す矢印の番号はそれぞれ対応するものである。
【0045】
(4) 次に、ガウスフィルターを使用して(3)で求めた特徴をぼかす。 縦横2升、計4升の中の1〜16までの各数値をそれぞれ加算する処理を順次行うことにより、16×16個あった升を8×8個の升からなる領域へ圧縮する(領域の圧縮)。
(5) 次に、領域の圧縮を行った特徴をもとにして、第1の方向の圧縮処理を行う。 具体的には、例えば偶数の配列パターン番号(即ち、方向性を示す矢印の番号)の度数の1/2を隣り合う基数の配列パターン番号に加えることによってこの処理は行われる。 (例えば、配列パターン番号2の度数の1/2は配列パターン番号1に加えられ、残りの1/2は配列パターン番号3にくわえられることになり、配列パターン番号4、6、8、10、12、14、16についても同様に処理される。)
(6) 次に、第1の方向の圧縮処理を行った特徴をもとにして、第2の方向の圧縮処理を行う。 具体的には、対称な方向性を示す矢印の番号(即ち、配列パターン番号)の度数を加え合わせることによってこの処理は行われる。例えば、1と9、3と11、5と13、7と15の度数を加え合わせることにより、対称な方向性を示す矢印の番号を統合する。 これで、加重方向指数ヒストグラムの特徴の数は16×4=256となり、この256個の数値からなる特徴を用いて筆跡鑑定を行う。
【0046】
図9は、加重方向指数ヒストグラム算出手段208によって、文字パターン「昭」の加重方向指数ヒストグラムを算出した結果を示したものであり、
図9の右上図は、加重方向指数ヒストグラムの特徴を4つの方向性を示す棒グラフで表したものであり、
図9の下方に示す表には、8×8=16領域の1〜4の方向毎に特徴の強さを数値として表示している。 (表の上に示す「方向1」、「方向2」、「方向3」、「方向4」を選択することにより、各方向における加重方向指数ヒストグラムの特徴の強さが数値として表示される。)
【0047】
次に、背景情報算出手段209について説明する。 背景情報算出手段209は、背景伝搬法を利用して筆跡鑑定を行うために使用する手段である。 背景伝搬法とは、文字パターンの背景の形に着目して筆跡鑑定を行うものであり、文字パターンの輪郭から波紋のように広がりながら背景の情報(白い画素の部分の広がり)を取り出し、この背景情報に基づき筆跡鑑定を行うものである。
【0048】
背景情報算出手段209により正規化された文字パターンの背景情報を算出する手順は以下の通りである。
(1) まず、画面を16×16の升に分割しておく。(なお、この場合においても対比文字、および被対比文字が複数文字、例えば、4文字からなるような場合には、画面を16×64の升に分割することになる。)
(2) 次に、文字の輪郭線を求める。
【0049】
(3) 指数表を用いて、輪郭線に隣接した白画素の方向を抽出する。
(ア)方向の算出には
図10に示すような指数表を準備する。
図10の上に示す表中の数値は、方向指数を表す数値であり、
図10の下に示す表中の数値は方向指数を表す数値であり、同表の下側に示す矢印の方向は、方向を示すものである。
(イ)まず、文字パターンの輪郭に隣接する任意の白画素「X」に着目し、
図11に示すように、この白画素の外周に存在する8つの画素を選択し、白画素を「0」、黒画素を「1」としてX方向の値、およびY方向の値を算出する。 ここで、
図11の塗りつぶされた画素は黒画素、塗りつぶしの無い画素は白画素を表すものである。
【0050】
(ウ)X方向の値、およびY方向の値は、次のように算出する。 つまり、着目した白画素「X」の右側列を「+列」、左側列を「−列」と定義し、更に、白画素「X」の上側行を「+行」、左側行を「−行」と定義する(
図12参照)。 そして、各列、各行の中の白画素を「0」、黒画素を「1」として、これらの数値の合計を求め、これらの合計値に「+列」、「+行」であれば「+」の符号を付し、「−列」、「−行」であれば、「−」符号を付す。 このような処理を行った後、2つの列の合計値を加算してX方向の値とし、2つの行の合計値を加算してY方向の値とする。
【0051】
(エ)ここで、
図11に示す画素配列を例にとって上記演算を実行すると、
図13に示すようになり、X方向の値として「+2」、Y方向の値として「−2」が得られる。
(オ)次に、
図10に示す指数表を使用し、X方向の値とY方向の値によって方向を求める。
図10に示す上の表中の中心にある「−1」をスタート点として、X方向に「+2」(X方向の値)、Y方向に「−2」(Y方向の値)だけ進むと、方向指数「7」が得られる。 方向指数が「7」の場合、
図10の下に示す表から、この画素の方向は「左上」ということになる。 ここで求めた方向は、文字パターンの輪郭に隣接する白画素の垂直方向を求めたものであり、微分という手法によって求めることもできるが、プログラムの処理速度を高めるために上述したような手法を採用している。
(カ)以上のような処理を輪郭線に隣接した白画素すべてについて実行する。
図14は、指数表を用いて、輪郭線に隣接した白画素の方向を抽出した結果の一例を示すものである。
【0052】
(4) 求められた輪郭線に隣接した白画素の方向に基づき、その方向を伝搬させる。
(ア)方向を伝搬させる際、発信源である白画素から遠ざかるに従って高い数値が各画素に割り当てられるようにする。
(イ)例えば、方向指数4について着目し、この方向指数4を持つ白画素を発信源として各画素に該当する数値を設定する。
図15は、方向指数4に着目し、この方向を伝搬させる方法について説明するための図である。
図15の左図は、
図14に示す輪郭線に隣接した白画素の方向を抽出した結果に基づき、方向指数4を有する画素のみを選びだしたものである。
【0053】
(ウ)この方向指数4を持つ白画素を発信源とするため、これらの画素の数値を全て「1」に設定する。(
図15の右図参照)
(エ)次に、
図10の下図によれば、方向指数4の方向は水平方向(X方向)右向きであるから、「1」に設定された画素から水平方向右側に向かって、波紋が伝播するように、順次1ずつ大きい数値を各画素の数値として設定していく。
図16は、方向指数4を持つ白画素を発信源として、その方向を伝搬させ、設定された各白画素の数値を示したものである。
(オ)このような処理を方向指数「0」〜「7」までの8個すべてについて行うことにより、背景伝搬法による背景情報の全てが算出されることになる。
【0054】
(5) ここで得られた結果を、加重方向指数ヒストグラム算出手段208において説明した方法と同様な方法によって、8×8画素にまで圧縮することにより、1つの文字パターンの背景情報として、8×8画素×8方向=512個の数値からなる特徴が得られることになる。
【0055】
(6)
図17は、背景情報算出手段209により正規化された3個の文字パターン「記」の背景情報を算出した結果を、比較可能なように表示したものであり、
図17には、3個の文字パターン「記」の背景情報を算出した結果を横方向に並べて配置しており、
図17の各図中の右上図は、背景情報の特徴(8つの方向性)を示す棒グラフで表したものであり、同じく下方に示す表には、8×8=16領域の「0」〜「7」の方向指数毎に特徴の強さを数値として表示している。 (表の上に示す8つの方向を選択することにより、各方向における特徴の強さが数値として表示される。)
【0056】
次に、表示手段210について説明する。 表示手段210は、モニターのような表示装置106に、
(1) 正規化された対比文字、および被対比文字の画像データを対比可能に表示したり、
(2) 正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの細線化された文字パターンを対比可能に表示したり、
(3) 正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの文字パターンであって、細線化された矩形部を対比可能に表示したり、
(4) 正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの文字パターンであって、細線化された矩形部の算出された形態定数を対比可能に表示したり、
(5) 正規化された対比文字、および被対比文字の文字パターンの画素密度であって、画面縦軸上および横軸上に射影した画素密度分布を対比可能に表示したり、
(6) 正規化された対比文字、および被対比文字の加重方向指数ヒストグラムを対比可能に表示したり、
(7) 正規化された対比文字、および被対比文字の背景情報を対比可能に表示したり、
することができるようになっている。
【0057】
例えば、
図18は、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの細線化された文字パターンを対比可能に表示したものの1例であり、
図18の上方には、対比すべき文字の画像データの細線化された文字パターンが対比できるように横方向に並べて配置され、
図18の下方には、対比すべき文字の画像データの細線化された文字パターンが対比できるように、重ねて表示されるようになっている。
また、
図27は、対比文字、および被対比文字が複数文字からなる場合の例であり、
図27の上方には、対比すべき文字の画像データの細線化された文字パターンが対比できるように横方向に並べて配置され、
図27の下方には、対比すべき文字の画像データの細線化された文字パターンが対比できるように、重ねて表示されるようになっている。
【0058】
図17は、背景情報算出手段209により正規化された3個の文字パターン「記」の背景情報を算出した結果を、比較可能なように表示したものの1例である。
【0059】
次に、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムの手順について説明する。
図19から
図24は、本発明にかかる筆跡鑑定支援方法および筆跡鑑定支援プログラムのフローチャートを示すものである。 以下、このフローチャートに基づき、手順を説明することにする。
【0060】
まず、
図19に示すフローチャートでは、ステップ301において、画像読取手段201は、用紙に手書き(筆記)された対比文字および被対比文字を画像データとして読取る。 ステップ302においては、記憶手段202が、画像読取手段201により読取った画像データをRAMの中にプログラムデータの一部として記憶する。 ステップ303においては、正規化手段203が、記憶された画像データの文字パターンの大きさと重心を統一するために、正規化を行う。 そして、ステップ304においては、表示手段210によって、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データが、表示装置106に対比可能に表示される。
【0061】
このようにして表示された、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データによって、対比文字および被対比文字の形態的特徴を評価することができ、筆跡鑑定を容易に実行できるようになる。
【0062】
また、
図20に示すフローチャートに進むと、ステップ307においては、細線化手段204が、ステップ303で正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンを細線化する。 そして、ステップ308においては、表示手段210によって、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの細線化された文字パターンが、表示装置106に対比可能に表示される。
【0063】
このようにして表示された、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの細線化された文字パターンによって、対比文字および被対比文字の形態的特徴を評価することができ、筆跡鑑定を容易に実行できるようになる。
【0064】
また、
図21に示すフローチャートに進むと、ステップ311においては、矩形部選択手段205が、ステップ303で正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンの中から矩形部を選択する。 ステップ312においては、細線化手段204によって、選択された文字パターンの矩形部が細線化される。 そして、ステップ313では、表示手段210によって、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの文字パターンであって、細線化された矩形部が、表示装置106に対比可能に表示される。
【0065】
更に、ステップ314では、形態定数算出手段206が、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの文字パターンであって、細線化された矩形部の形態定数を算出する。 そして、ステップ315では、表示手段210によって、算出された矩形部の形態定数が、表示装置106に対比可能に表示される。
【0066】
このようにして表示された、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データの文字パターンであって、細線化された矩形部、及び/又は、細線化された矩形部の形態定数によって、対比文字および被対比文字の形態的特徴を評価することができ、筆跡鑑定を容易に実行できるようになる。
【0067】
また、
図22に示すフローチャートに進むと、ステップ318においては、射影算出手段207が、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンの画素数を、画面縦軸上および横軸上に射影した画素密度を算出する。 そして、ステップ319では、表示手段210によって、画面縦軸上および横軸上に射影した画素密度分布がプロットされ、表示装置106に対比可能に表示される。
【0068】
このようにして表示された、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンの、画面縦軸上および横軸上に射影した画素密度分布によって、対比文字および被対比文字の形態的特徴を評価することができ、筆跡鑑定を容易に実行できるようになる。
【0069】
また、
図23に示すフローチャートに進むと、ステップ322においては、加重方向指数ヒストグラム算出手段208が、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンの加重方向指数ヒストグラムを算出する。 そして、ステップ323では、表示手段210によって、正規化された対比文字、および被対比文字の加重方向指数ヒストグラムが、表示装置106に対比可能に表示される。
【0070】
このようにして表示された、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンの加重方向指数ヒストグラムによって、対比文字および被対比文字の形態的特徴を評価することができ、筆跡鑑定を容易に実行できるようになる。
【0071】
また、
図24に示すフローチャートに進むと、ステップ326においては、背景情報算出手段209が、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンの背景情報を算出する。 そして、ステップ327では、表示手段210によって、正規化された対比文字、および被対比文字の背景情報が、表示装置106に対比可能に表示される。
【0072】
このようにして表示された、正規化された対比文字、および被対比文字の画像データにおける文字パターンの背景情報によって、対比文字および被対比文字の形態的特徴を評価することができ、筆跡鑑定を容易に実行できるようになる。
【0073】
以上述べたように、本発明においては、対比文字および被対比文字の、1種類又は複数種類の形態的特徴を同時に、あるいは別々に評価することができるため、精度の高い筆跡鑑定を迅速に実施することが可能となる。