(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のガス拡散電極と前記第2のガス拡散電極とは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)層と、多孔質導電体と、電極触媒とを有して構成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の二酸化炭素富化デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に二酸化炭素富化デバイスの一例を示す。二酸化炭素富化デバイスは、カソードとして機能する第1のガス拡散電極(ガス拡散電極1)と、第1のガス拡散電極(ガス拡散電極1)から離間して配置された、アノードとして機能する第2のガス拡散電極(ガス拡散電極2)と、陰イオン交換膜5と電解液3とを備える。
【0026】
陰イオン交換膜5は、ガス拡散電極1とガス拡散電極2の間にガス拡散電極1及びガス拡散電極2から離れて存在している。電解液3は陰イオン交換膜5を膨潤しており、ガス拡散電極1とガス拡散電極2の間に存在している。すなわち、ガス拡散電極1及びガス拡散電極2は電解液3と接しており、ガス拡散電極1及びガス拡散電極2の表面において電極(固相)、電解液(液相または固相)、二酸化炭素および酸素を含有するガス(気相)の三相界面を形成し、ガスと電解液とによる電極反応ができるようにして存在している。
【0027】
陰イオン交換膜5は、選択的にアニオンを透過させることが可能な膜であり、特に支持電解質に含まれるカチオン、もしくは溶媒に含まれるH
+の移動を妨げることができる。これにより、電極反応で生じた電極1と電極2の間の電荷のアンバランスはアニオンの移動でのみ補償されることとなり、これによりHCO
3−の移動が起こりやすくする。よって、陰イオン交換膜5により電解液3を区切ることにより、カチオンの移動が抑えられ、電極反応に応じたHCO
3−の透過が達成される。
【0028】
陰イオン交換膜5としては、アニオンのみ透過させカチオンを透過させない機能を発揮しうる限り如何なるものを使用しても良いが、例示すれば、トクヤマ社製ネオセプタAMX、AHA、ACM等を挙げることができる。好ましくは、トクヤマ社製ネオセプタAMXである。
【0029】
ガス拡散電極1及びガス拡散電極2は、多孔質導電体の一方の面に撥水加工を施し、他方の面に酸素還元触媒が担持された構造を有してなる。
【0030】
前記多孔質導電体の比表面積はBET吸着測定において1m
2/g以上であることが好ましい。より好ましくは、30m
2/g、さらに好ましくは100m
2/g以上、さらに好ましくは500m
2/g以上である。上記条件を満たす場合、反応面積が増大し、より多くのCO
2透過量を達成することができる。1m
2/gより小さい場合には、三相界面の面積が小さいために、二酸化炭素の富化性能が十分ではない。また、多孔質導電体の表面抵抗による電圧損失を低減させるために、多孔質集電体の表面抵抗は低いほどよいが、好ましくは表面抵抗は1kΩ/□以下、より好ましくは200Ω/□以下である。多孔質集電体の好ましい例としては、カーボンシートやカーボンクロスなどが挙げられる。
【0031】
ガス拡散電極1及びガス拡散電極2の撥水加工は、多孔質導電体表面に例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコートするなどして施すことができる。この撥水処理加工を施すことにより、ガス拡散電極1及びガス拡散電極2は、気体は通過することができるが、水は通過することができないという性状を有することとなる。
【0032】
ガス拡散電極1及びガス拡散電極2に担持される触媒は、特に酸素の酸化還元反応を触媒する材料が好ましい。例としては、酸素の吸着サイトとして作用することができる遷移金属であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Auから選ばれる少なくとも一種類の金属を含む合金、錯体またはこれらの金属をドーパントとした化合物、カーボンナノチューブ、グラファイトが挙げられる。これらのうち、触媒性能を鑑みた場合、比較的高い性能を有するため、Pt、Pt/Ru、カーボンナノチューブなどが好ましい。また、より好ましくはPt/Ruである。この場合、CO(一酸化炭素)への耐被毒性が向上し、長期安定性のあるデバイスとなることが期待される。
【0033】
ガス拡散電極1とガス拡散電極2は、ともに触媒が担持された側が電解液3と接するように設置し、また撥水加工を施した側が、外部気体と触れるように設置する。
【0034】
ガス拡散電極1およびガス拡散電極2は、外部回路を通じて直流電源4に接続する。ガス拡散電極1とガス拡散電極2との間に印加する直流電圧は、ガス拡散電極1(カソード)で酸素の還元反応が起こり、かつガス拡散電極2(アノード)で水の酸化反応が起こる電圧である必要がある。電解液3の溶媒に水を用いる場合には、デバイスが永続的に動作するために水の電気分解が起こらない電圧が好ましく、水の分解反応の自由エネルギーから求められる理論的に電気分解が起こらない電圧である1.2Vを超えない電圧範囲がよい。電極や電解質のIRドロップなどの損失がある場合、印加する電圧は、1.2V以上印加してもよい。この場合、好ましくは10V以下である。より好ましくは5V以下、さらに好ましくは2V以下である。
【0035】
デバイスは、ガス拡散電極1に、大気等の外部雰囲気から二酸化炭素および酸素を含むガスを供給することにより、駆動する。このため、ガス拡散電極1は外部雰囲気との接触面積が大きくなるように設けるとよい。
【0036】
ガス拡散電極1とガス拡散電極2とは、互いに対向させて設置することが好ましい。また、ガス拡散電極1とガス拡散電極2を互いに対向させる距離は、溶液抵抗による電圧降下(IRドロップ)をできる限り小さくするため、電極同士が互いに接触しない程度の距離で可能な限り近接させることが好ましい。電解液3のイオン濃度が十分高く、溶液抵抗が小さい場合には、IRドロップによる電圧損失を小さくすることができる。デバイスの構造上、電極同士を近接させることにより電極同士が接触する恐れがある場合には、ガス拡散電極1とガス拡散電極2との間にセパレータを挿入してもよい。このセパレータの性状としては、セパレータ中に電解液3を含有させることができ、かつ絶縁性を有することが好ましい。電解液3中に存在するイオンの拡散性が低下しないよう、セパレータの空隙率は高いほど好ましい。
【0037】
溶媒は、二酸化炭素を吸収し二酸化炭素が電離するものであることが好ましい。このような溶媒としては、水を始め、アルコール類、有機溶媒、イオン液体などが挙げられる。特に好ましいものは水、もしくは、水を含む混合溶媒である。
【0038】
電解液3に用いる溶質としては、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩が好ましい。より具体的には、NaHCO
3、KHCO
3、LiHCO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、Li
2CO
3である。
【0039】
また、電解液3のpHは5〜14であることが好ましい。電解液3のpHを調整するために、アルカリ性の電解質を電解液3に添加する。pH調整に用いる電解質の好ましい例としては、NaOH、KOH、LiOHなどが挙げられる。電解液3のpHが5よりも小さい場合には、二酸化炭素の吸収速度が極めて遅くなることで二酸化炭素の吸収が律速となり、二酸化炭素富化デバイスを駆動していくに従って電解液3中の総無機炭素濃度が減少していき、結局は二酸化炭素富化デバイスの性能が低下することになる。
【0040】
また電解液3のpHは、陰イオン交換膜5により仕切られたガス拡散電極1(カソード)側の電解液3は、pHが7〜12であり、かつ、陰イオン交換膜5により仕切られたガス拡散電極2(アノード)側の電解液3は、pHが、6〜12であり、かつ、電解液3のガス拡散電極1側とガス拡散電極2側とのpH差が、−4〜−0.01であることが好ましい。
【0041】
カソード側のpHが7より小さい場合は、CO
2吸収速度が極めて遅くなり、CO
2が吸収されにくくなり透過量の減少が起こる。
【0042】
またアノード側のpHが6以下である場合、電解液3からのCO
2発生量が極めて高くなり、アノード側での吸収量を超えてCO
2が放出されるため、結果として電解液3の劣化が発生する。このため、安定的に駆動させるためには、アノード側のpHが6以上である必要がある。
【0043】
また、アノード・カソード側の電解液3はともにpHが12以下であることが好ましい。12以上である場合、溶液の粘度が増加するために単位面積あたりの電流が低くなり、透過量が減少する現象が起こる。
【0044】
また、イオン交換膜5によって隔てられた電解液3のpH差は、0.01〜4であることが好ましい。pH差が存在することによりカソード側の電解液3に存在する炭酸水素アニオンがアノード側へ移動しやすくなる。
【0045】
このpH差によるアニオンの移動は濃淡電池の原理と同様と考えられ、pH差1に対してデバイス内部には約60mV分の印加状態となると考えられる。
【0046】
溶質濃度が希薄な場合には、電解液3のイオン伝導性を向上させるために、支持電解質を溶媒に溶解させてもよい。電解質としては、例えば過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩などのアンモニウム塩、過塩素酸リチウムや四フッ化ホウ素カリウムなどアルカリ金属塩などが好ましい。また、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、アミノ基を有する有機化合物をカチオンとし、塩素、臭素などのハロゲンイオン、もしくはスルホニウム、などをアニオンとする塩が挙げられる。電解液3が十分なイオン伝導性を有する場合は、支持電解質を添加しなくてよい。
【0047】
また、前記電解液3は、ゲル化または固定化されていてもよく、ゲル化された電解液(ゲル化電解液)、あるいは高分子電解質から形成されていてもよい。電解液3をゲル化するためのゲル化剤としては、ポリマー、ポリマー架橋反応等の手法を利用するゲル化剤、重合性多官能モノマー、オイルゲル化剤などが挙げられる。ゲル化電解液、高分子電解質としては、一般に用いられる物質が適用され得るが、例えばポリフッ化ビニリデンなどのフッ化ビニリデン系重合体、ポリアクリル酸などのアクリル酸系重合体、ポリアクリロニトリルなどのアクリロニトリル系重合体およびポリエチレンオキシドなどのポリエーテル系重合体、構造中にアミド構造を有する化合物などが好ましい。電解液3をゲル化、または固定化した場合、ガス拡散電極1に接するゲル化または固定化された電解液と、ガス拡散電極2に接するゲル化または固定化された電解液の、[数1]により算出される総無機炭素濃度、電解質のpH、支持電解質の有無と種類およびその濃度は異なっていてもよい。総無機炭素濃度は少ない方が[化4]に示した平衡反応の電離反応に対する逆反応速度が小さくなり、また電解液のpHは高い方が[化4]に示した平衡反応の酸解離定数pKa値が大きくなる。このため、ガス拡散電極1側でCO
2の吸収をより起こり易くし、ガス拡散電極2側でCO
2の気体発生を起こり易くするために、ガス拡散電極1に接するゲル化または固定化された電解質の方がガス拡散電極2に接するゲル化または固定化された電解質よりも、総無機炭素濃度を少なく、pH値を高くすることが好ましい。この場合、イオン伝導度が小さい方のゲル化または固定化された電解質に支持電解質を添加することが好ましい。
[数1]
(総無機炭素濃度)=[H
2CO
3]+[HCO
3−]+[CO
32−]
[化4]
CO
2+H
2O⇔H
++HCO
3−
【0048】
ガス拡散電極1とガス拡散電極2との間に直流電源4により電圧が印加された状態において、ガス拡散電極1に二酸化炭素と酸素を含むガスが供給されると、ガス拡散電極1側ではじめに
CO
2+H
2O→H
++HCO
3−
の二酸化炭素の溶解、電離反応が起こり、この反応で生じた水素イオンH
+を用いて、
O
2+4H
++4e
−→2H
2O
の酸素還元の電気化学反応が起こる。ガス拡散電極1側に存在する二酸化炭素濃度が高いほど上記反応量は多くなり、当該二酸化炭素富化デバイスの電流値は大きくなる。
【0049】
次に、上記生成された炭酸水素イオンHCO
3−の一部はさらに電離して炭酸イオンCO
32−となり、また炭酸水素イオンHCO
3−の一部は平衡反応により炭酸H
2CO
3となり、このようにして生成された炭酸水素イオンHCO
3−、炭酸イオンCO
32−、炭酸H
2CO
3は電解液3中で濃度拡散により、ガス拡散電極2側へと拡散する。なお、電解液3中には炭酸水素イオンHCO
3−、炭酸イオンCO
32−、炭酸H
2CO
3が存在するため、電解液3中のイオン、炭酸とともに濃度拡散する。
【0050】
ガス拡散電極2の近傍では、濃度拡散および静電力による泳動により、炭酸水素イオンHCO
3−がガス拡散電極2に達する。ガス拡散電極2側では、
2H
2O→O
2+4H
++4e
−
の水の酸化反応が起こり、酸素が発生し、またこの反応によりガス拡散電極2近傍では水素イオンH
+濃度が高くなり、炭酸水素イオンHCO
3−、炭酸イオンCO
32−、炭酸H
2CO
3の間の平衡が大きく炭酸側に偏るため、水素イオンH
+と電解液3中の炭酸水素イオンHCO
3−が、
H
++HCO
3−→H
2CO
3
H
2CO
3→H
2O+CO
2
のように反応することで、二酸化炭素が生成される。結果としてガス拡散電極2側からは、酸素および二酸化炭素の混合ガスが排出される。大気濃度の二酸化炭素(0.04%)がガス拡散電極1に供給される場合には、酸素:二酸化炭素がおよそ1:1〜2:1程度へと富化される。
【0051】
ガス拡散電極2側の二酸化炭素濃度が高い場合、平衡の逆反応である
H
2O+CO
2→H
++HCO
3−
の反応が起こりやすくなるため、アノードであるガス拡散電極2側での反応が起こるための過電圧が大きくなる。このため、同一電圧で反応量を大きくするためには、ガス拡散電極2側は二酸化炭素濃度が希薄であれば希薄である方が良く、好ましくは5%以下である。より好ましくは、ガス拡散電極2側に気流を発生させ、常に二酸化炭素濃度を希釈する装置を備える。
【0052】
前述した、気体の二酸化炭素の電解液3への溶解を詳細に記すと、反応ははじめに二酸化炭素分子が水和水により包囲される反応、
CO
2(g)→CO
2(aq)
により起こる。電解液3中に溶解した二酸化炭素の一部は水分子の付加により、炭酸となる。
CO
2(aq)+H
2O(l)→H
2CO
3(aq)
【0053】
25℃におけるこの平衡反応の正反応の速度定数は、0.039s
−1と非常に遅く、また逆反応の速度定数は23s
−1である。上記反応により生じた炭酸H
2CO
3は、酸解離反応により電離して炭酸水素イオンHCO
3−と水素イオンH
+とが生じる。
H
2CO
3(aq)→HCO
3−(aq)+H
+(aq)
【0054】
炭酸水素イオンHCO
3−はさらに酸解離反応により電離して炭酸イオンCO
32−が生じる。炭酸H
2CO
3、炭酸水素イオンHCO
3−、炭酸イオンCO
32−はいずれも平衡状態にあり、電解液3中での各々のイオンの存在比はpHにより決まる。
【0055】
当該二酸化炭素富化デバイスの二酸化炭素吸収能力を高めるために、電解液3は、二酸化炭素と水を炭酸水素イオンHCO
3−と水素イオンH
+に電離させる反応の触媒を含有していることが好ましい。または、ガス拡散電極1の酸素還元触媒担持側の表面に、二酸化炭素と水を炭酸水素イオンHCO
3−と水素イオンH
+に電離させる反応の触媒を担持していることが好ましい。二酸化炭素と水を炭酸水素イオンHCO
3−と水素イオンH
+に電離させる反応の触媒の好ましい例としては、炭酸脱水酵素、亜鉛イオンZn
2+を中心とした4配位錯体などが挙げられる。
【0056】
当該二酸化炭素富化デバイスを用いた二酸化炭素の富化方法では、カソードであるガス拡散電極1に供給された常温の混合ガスを、アノードであるガス拡散電極2から常温のまま排出し、またデバイスへの二酸化炭素の吸収は化学的に行われ、またデバイス中の移動は濃度拡散および静電力による泳動で起こるため、多大なエネルギーを投入する必要がないことから、エネルギー消費を抑えつつ、安価に二酸化炭素を富化することができる。
【0057】
また、本発明における電極触媒は、白金を用いないカーボン系触媒を用いることが好ましい。白金を用いないことにより、デバイスの低コスト化を期待することができる。ここで、上記白金を用いない触媒について詳しく説明する。
【0058】
1.電極触媒
1−1.概要
電極触媒は、特定の金属錯体を触媒成分とし、Pt系触媒等の従来の電極触媒と比較して同等又はより高い酸素還元反応(ORR)触媒活性、耐久性及び耐食性を有することを特徴とする。
【0059】
1−2.構成
電極触媒は、触媒成分として、1)特定の物性を有する金属錯体、又は2)特定の重合体金属錯体を焼成処理して成る金属錯体を含む。以下で本発明の電極触媒の構成について具体的に説明をする。
【0060】
本発明において「金属錯体」とは、重合体及び/又はその変性物、並びに触媒金属からなり、該重合体又はその変性物中の配位子が該触媒金属と配位結合した化合物をいう。
【0061】
本明細書において「焼成金属錯体」とは、重合体金属錯体を焼成処理した化合物をいう。ここでいう「焼成(処理)」とは、高温での熱処理をいう。
【0062】
本明細書において、「重合体金属錯体」とは、焼成処理を行っていない状態の前記金属錯体をいう。
【0063】
以下、本明細書において単に「金属錯体」と表記した場合には、焼成処理済みであるか否かにかかわらず、前記焼成金属錯体及び重合体金属錯体を包括的に指すものとする。
【0064】
本発明の電極触媒において、触媒成分として機能する必須の構成要素は、後述するように、特定の重合体及び/又はその変性物、並びに触媒金属とからなる金属錯体、又は特定の重合体と触媒金属とからなる金属錯体を焼成してなる焼成金属錯体である。以下、本発明の電極触媒において必須の構成要素となるこれらの金属錯体を、総括して、「2-4アミノピリジンポリマー金属錯体」と称する。
【0065】
本発明において、「2-4アミノピリジンポリマー」とは、モノマーであるジアミノピリジン(C
5H
7N
3)、トリアミノピリジン(C
5H
8N
4)及び/又はテトラアミノピリジン(C
5H
9N
5)が重合した化合物の総括名称である。本明細書において単に「重合体(ポリマー)」と表記した場合には、特に断りのない限り、「2-4アミノピリジンポリマー」を指すものとする。また、「その変性物」とは、前記重合体の変性物であり、これは、重合体金属錯体を焼成したときに、重合体の熱分解等により生じる化合物及びオリゴマー等を指す。
【0066】
前記ジアミノピリジン、トリアミノピリジン及びテトラアミノピリジンは、ピリジン(C
5H
5N)の水素原子(H)がそれぞれ2つ、3つ及び4つのアミノ基(−NH
2)と置換した化合物である。2-4アミノピリジンポリマーを構成するモノマーは、1種のみ又は2種以上の組合せのいずれで構成されていてもよい。
【0067】
ジアミノピリジンには、2, 3-ジアミノピリジン、2, 4-ジアミノピリジン、2, 5-ジアミノピリジン、2, 6-ジアミノピリジン及び3, 4-ジアミノピリジンの位置異性体が、トリアミノピリジンには、2, 3, 4-トリアミノピリジン、2, 3, 5-トリアミノピリジン、2, 3, 6-トリアミノピリジン、2, 4, 5-トリアミノピリジン及び3, 4, 5-トリアミノピリジンの位置異性体が、またテトラアミノピリジンには、2, 3, 4, 5-テトラアミノピリジン、2, 4, 5, 6-テトラアミノピリジン及び2, 3, 5, 6-テトラアミノピリジンの位置異性体が知られているが、2-4アミノピリジンポリマーを構成する各モノマーは、いずれの位置異性体であってもよい。また、同一の位置異性体のみで構成されていてもよいし、異なる2種以上の位置異性体で構成されていてもよい。
【0068】
2-4アミノピリジンポリマーが2種以上のモノマー及び/又は2種以上の位置異性体で構成される場合、2-4アミノピリジンポリマー中のそれぞれのモノマー及び/又は位置異性体の配置は、重合可能な限り、特に限定はしない。例えば、特定のモノマーの組合せが規則的に繰り返されるように重合されていてもよいし、ランダムに重合されていてもよい。
【0069】
前記重合体金属錯体は、2-4アミノピリジンポリマーが包含する配位子が触媒金属を配位している。当該ポリマーにおいて配位子となり得る原子(配位原子)には、例えば、ピリジン環の窒素原子及び/又はアミノ基の窒素原子等が挙げられる。ここで、ジアミノピリジン、トリアミノピリジン及びテトラアミノピリジンは、配位子となり得る窒素原子を一分子内に、それぞれ3つ、4つ及び5つ包含している。したがって、これらのモノマーからなる2-4アミノピリジンポリマーは、窒素原子の含有量が多く、それ故に、従来の触媒金属を配位した重合体からなる金属錯体をベースとする電極触媒と比較して、より多くの触媒金属を配位することができる。この特徴により、本発明の電極触媒は、高い酸化還元反応(ORR)触媒活性を有し得る。
【0070】
2-4アミノピリジンポリマーの好ましい一例として、ジアミノピリジンのみが重合した「ジアミノピリジンポリマー」が挙げられる。ジアミノピリジンポリマーを構成する位置異性体は、限定はしないが、2, 6-ジアミノピリジン及び/又は2, 3-ジアミノピリジンが好ましい。これらの位置異性体は、分子内で窒素原子(N)が互いに最も近位に配置されるため、重合体中で触媒金属をより安定して配位することができるためである。より好ましいジアミノピリジンポリマーは、2, 6-ジアミノピリジンモノマーのみが重合した2, 6-ジアミノピリジンポリマーである。
【0071】
2-4アミノピリジンポリマーを構成する各モノマーを連結する化学重合反応は、限定はしないが、好ましくはアニオン重合である。重合体が2, 6-ジアミノピリジンポリマーである場合、そのポリマーは、2, 6-ジアミノピリジンのアニオン重合により、例えば、以下の[化5]及び/又は[化6]で示す化学構造を含むことが予想される。
[化5]
[化6]
【0072】
本明細書において「触媒金属」とは、金属錯体中に配位された金属原子又は金属イオンである。本発明の電極触媒の触媒成分である2-4アミノピリジンポリマー金属錯体において、触媒金属は、直接的な触媒活性を担う物質である。触媒金属は、特に制限はしないが、好ましくは遷移金属である。具体的には、例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスニウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)及び金(Au)等の原子又はそのイオンが挙げられる。当業者は、これらの触媒金属からコスト、供給量、触媒活性効率等を勘案し、目的に応じて適切な触媒金属を適宜選択すればよい。本発明の電極触媒において、触媒金属としては、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuが好適である。この中でも、触媒金属としては、特に、Fe、Coが好適である。金属錯体は、1種の触媒金属を配位していてもよいし、又は異なる二以上の触媒金属を配位していてもよい。なお、Pt及びAuは希少かつ高価であることから、本発明の目的に反するかに思われるが、金属錯体中に配位させて用いることで、公知のPt系触媒と比較してPt使用量を相対的に低減することが可能であることから、本発明の目的を達し得る。それ故、本発明における触媒金属に包含することができる。
【0073】
2-4アミノピリジンポリマー金属錯体の構造例として、2, 6-ジアミノピリジンポリマーが触媒金属としてコバルトを配位した金属錯体(Co-2, 6-ジアミノピリジンポリマー;Co-2,6-diaminopyridinepolymer、本明細書では、しばしば「CoDAPP」で表す)の場合には、例えば、以下の[化7]で示す構造を含むことが予想される。
[化7]
【0074】
本発明の2-4アミノピリジンポリマー金属錯体は、好ましくは重合体金属錯体を焼成処理して得られる。焼成処理によって重合体金属錯体中の触媒金属が安定して窒素原子に配位され、その結果、化学的硬化により、安定した触媒活性能と高い耐久性及び耐食性を得ることができるからである。
【0075】
2-4アミノピリジンポリマー金属錯体における2-4アミノピリジンポリマーと触媒金属塩の混合比は、原料モノマーと触媒金属原子とのモル比で3:1〜5:1、好ましくは3.5:1〜4.5:1となるように選択すればよい。
【0076】
焼成処理のための「焼成温度」は、650〜800℃、好ましくは680〜780℃、より好ましくは690〜760℃、さらに好ましくは700〜750℃である。焼成処理は、電極触媒を熱処理するための公知の方法で行い得る。例えば、乾燥した重合体金属錯体の粉末を還元性ガス雰囲気下において前記焼成温度で、30分間〜5時間、好ましくは1時間〜2時間焼成すればよい。還元性ガスは、例えば、アンモニアを使用することができる。
【0077】
「特定の物性」とは、本発明における2-4アミノピリジンポリマー金属錯体が示す物理的性質であって、例えば、前記重合体金属錯体を焼成することにより、重合体金属錯体において触媒金属の窒素原子への配位が安定する結果として得られる下記(i)又は(ii)の少なくとも一つを満たす性質をいう。
(i)X線光電子分光分析により分析した、窒素原子に配位した金属の含有率が0.4モル%以上である。
(ii)X線光電子分光分析により、窒素原子に配位した金属の存在が認められ、かつ、窒素原子の含有率が6.0モル%以上である。
【0078】
窒素原子に配位した金属の含有率及び窒素原子の含有率は、X線光電子分光分析により測定される。含有率はいずれも、金属錯体を基準としたときの(金属錯体を100モル%としたときの)それらの割合である。
【0079】
焼成により、2-4アミノピリジンポリマーの一部が変性することがあり、重合体の形態が失われることがある。そのような変性は、焼成金属錯体が電極触媒として使用され得る限りにおいて、許容され、したがって、本発明の電極触媒を構成する2-4アミノピリジンポリマー金属錯体は、2-4アミノピリジンポリマーが焼成により変性した物質を含み得る。
【0080】
焼成金属錯体の形状は、特に限定はしない。しかし、電極表面に担持させる電極触媒の単位面積当たりの比表面積は、大きい方が好ましい。電極の単位質量当たりの触媒活性(質量活性)をより高めることができるからである。したがって、好ましい形状は、粒子状、特に粉末状である。焼成金属錯体の比表面積は、好ましくは100m
2/g以上であり、より好ましくは400m
2/g以上であり、さらにより好ましくは500m
2/g以上である。このような比表面積は、窒素BET吸着法等によって測定することができる。
【0081】
電極触媒は、上記焼成金属錯体以外の触媒成分を含むことができる。例えば、CoTMPP触媒のような公知の触媒を含んでいてもよい。
【0082】
1−3.効果
上記電極触媒によれば、従来のポリマーと触媒金属を含む金属錯体由来の電極触媒よりも、より多くの触媒金属を配位することができる。それによってPt系触媒やCoTMPP触媒のような公知の電極触媒と比較して、同等又はより高いORR触媒活性と耐久性を有し、かつPtを使用しない若しくはその使用量を低減できる。
【0083】
また、Ptに代えてFe等の安価な金属を触媒金属として利用できることから、単位質量あたりの製造コストが低廉な電極触媒を提供することができ、さらに将来的な燃料電池の量産化に伴う資源供給量の増大にも対応することできる。
【0084】
2.電極触媒の製造方法
2−1.概要
本製造方法は、電極触媒を低廉で製造することができる。
【0085】
2−2.方法
上記電極触媒の製造方法は、(a)重合工程、(b)重合体金属錯体形成工程及び(c)焼成工程を含む。以下、それぞれの工程について、具体的に説明をする。
【0086】
(a)重合工程
「重合工程」とは、ジアミノピリジン、トリアミノピリジン及び/又はテトラアミノピリジンをアニオン重合させて、2-4アミノピリジンポリマーを合成する工程である。重合させるモノマーは、1種のみを用いてもよいし、又は2又は3種を組み合わせてもよい。2種以上のモノマーを組み合わせて重合させる場合、それぞれのモノマーの混合モル比に特に制限はない。当業者が触媒活性を勘案しつつ適宜定めればよい。重合工程に使用する好ましいモノマーの一例として、ジアミノピリジン単独の場合が挙げられる。
【0087】
重合に使用する各モノマーの位置異性体は、特に制限はしないが、好ましくはモノマー分子内で配位子となる窒素原子が近位に位置する位置異性体が好ましい。例えば、前述のジアミノピリジンをモノマーとして重合させる場合には、ジアミノピリジンの位置異性体の中でも窒素原子が最も近位に位置する、2, 3-ジアミノピリジン又は2, 6-ジアミノピリジンが好ましい。
【0088】
本工程において、上記モノマーは、アニオン重合反応によって重合される。アニオン重合反応は、当該分野で慣用される公知の方法を用いて行えばよい。例えば、上記モノマーに強塩基溶液を作用させて脱プロトン化し、発生したカルバニオンを求核剤として各モノマーを重合させればよい。強塩基溶液に使用する塩基には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。重合温度や重合時間は、反応が進行する範囲であれば特に限定はしない。通常は、5〜40℃の温度下で5〜48時間程度反応させれば本工程を達成し得る。
【0089】
重合反応後は、遠心又はろ過によって溶媒を除去し、重合体を回収する。回収した2-4アミノピリジンポリマーは、水(脱イオン水、蒸留水を含む)等で洗浄した後に乾燥させて、以降の工程に使用することが好ましい。
【0090】
なお、既に合成された2-4アミノピリジンポリマーを上記電極触媒の製造方法で用いる場合には、本工程を経ずに、次の重合体金属錯体形成工程から開始することができる。
【0091】
(b)重合体金属錯体形成工程
「重合体金属錯体形成工程」とは、2-4アミノピリジンポリマーと触媒金属塩の混合により該ポリマーに触媒金属を配位させて重合体金属錯体を形成させる工程である。2-4アミノピリジンポリマーが包含する窒素原子が配位子(配位原子)となって触媒金属と配位結合し、重合体金属錯体が形成される。
【0092】
「触媒金属塩」は、金属錯体中に配位させる触媒金属の塩であって、具体的には触媒金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩等が挙げられる。本工程における触媒金属は、電極触媒において触媒活性を有する金属であればよく、特に制限はしないが、好ましくは遷移金属である。具体的には、例えば、前記第1実施形態に記載の遷移金属が挙げられる。このうちCr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuの塩は、本工程の触媒金属塩として好適であり、Fe又はCoの触媒金属塩は、特に好ましい。具体的には、塩化鉄、硝酸鉄、硫化鉄、硝酸コバルト、塩化コバルト、硫化コバルト等が挙げられる。
【0093】
2-4アミノピリジンポリマーと触媒金属塩の混合比は、原料モノマーと触媒金属原子のモル比が3:1〜5:1、好ましくは3.5:1〜4.5:1となるように、選択すれよい。すなわち、(ポリマーを構成する繰り返し単位のモル数):(触媒金属塩に含まれる金属のモル数)が上記好ましい範囲となるように、ポリマー及び触媒金属塩の質量を選択して、ポリマーと触媒金属塩を混合すればよい。これらを適当な溶媒中で混合して懸濁させ、さらに十分に撹拌することで触媒金属又はそのイオンを2-4アミノピリジンポリマー中に配位させることができる。媒体は、水、エタノール、プロパノール又はそれらを組み合わせた混合溶液、例えば、水とエタノール若しくは水と(イソ)プロパノールの混合溶液等を用いることができる。混合温度や混合時間は、反応が進行する範囲であれば特に限定はしない。通常は、50〜70℃の温度下で30分〜5時間程度反応さえれば本工程を達成し得る。前記2つの物質を十分に混合させるため、超音波混合を行ってもよい。
【0094】
反応が進行すると、形成された重合体金属錯体は溶媒中において固体となって沈澱する。重合体金属錯体形成後は、溶媒を遠心、ろ過又は蒸発によって除去して、目的の重合体金属錯体を回収する。未配位の触媒金属等を除くため水(脱イオン水、蒸留水を含む)等で洗浄してもよい。回収された重合体金属錯体は、必要に応じて、例えば、水晶乳鉢(quartz mortar)等を用いて粉末化してもよい。
【0095】
(c)焼成工程
「焼成工程」とは、前記重合体金属錯体形成工程で得られた重合体金属錯体を還元性ガス雰囲気下で高温にて焼成し、焼成金属錯体を得る工程である。本工程により重合体金属錯体において触媒金属が移動することによって、触媒金属を安定的に配位した耐久性の高い電極活性成分が調製される。
【0096】
焼成温度は、650〜800℃、好ましくは680〜780℃、より好ましくは690〜760℃、さらに好ましくは700〜750℃である。この温度で焼成することで、酸化還元反応(ORR)触媒活性及び耐久性の高い触媒成分としての焼成金属錯体を得ることができる。
【0097】
上記第1実施形態と同様に、還元性ガスには、アンモニアガス、を用いることができる。
【0098】
焼成処理は、電極触媒を熱処理するための公知の方法で行い得る。例えば、重合体金属錯体の粉末を還元性ガス雰囲気下において前記焼成温度で、30分間〜3時間、好ましくは1時間〜2時間焼成すればよい。
【0099】
焼成処理後に、不溶性物質及び非活性触媒を除くため焼成金属錯体を塩酸、硝酸又は硫酸溶液等で酸洗処理(pre-leach)することが好ましい。酸洗処理後は、水(脱イオン水、蒸留水を含む)等で十分に洗浄し、続いて遠心又はろ過によって回収した後、乾燥させることで、目的とする焼成金属錯体を得ることができる。
【0100】
得られた焼成金属錯体は、比表面積を増大させるために水晶乳鉢等を用いて粉末化し、微小粒子にすることが好ましい。
【0101】
本工程で得られた焼成金属錯体は、触媒成分であることから、そのまま上記電極触媒の電極触媒として用いることもできる。
【0102】
2−3.効果
上記電極触媒によれば、Pt系触媒やCoTMPP触媒のような公知の電極触媒と比較して同等又はより高い酸化還元反応(ORR)触媒活性、耐久性及び耐食性を有する電極触媒を、低コストで、かつ比較的簡便な製造方法を提供することができる。
【0103】
3.導電性担体・支持体・担持方法
3−1.導電性担体
「導電性担体」とは、導電性を有し、かつ電極触媒を担持し得る物質をいう。前記特性を有する物質であれば材質は特に限定はしない。例えば、炭素系物質、導電性ポリマー、半導体、金属等が挙げられる。
【0104】
本明細書において「炭素系物質」とは、炭素(C)を構成成分とする物質をいう。例えば、グラファイト、活性炭、カーボンパウダ(例えば、カーボンブラック、バルカンXC-72R、アセチレンブラック、ファーネスブラック、デンカブラックを含む)、カーボンファイバ(グラファイトフェルト、カーボンウール、カーボン織布を含む)、カーボンプレート、カーボンペーパー、カーボンディスクや、さらにカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン及びカーボンナノクラスターのような微細構造物質が該当する。
【0105】
本明細書において「導電性ポリマー」とは、導電性を有する高分子化合物の総称をいう。例えば、アニリン、アミノフェノール、ジアミノフェノール、ピロール、チオフェン、パラフェニレン、フルオレン、フラン、アセチレン若しくはそれらの誘導体を構成単位とする単一モノマー又は2種以上のモノマーの重合体が挙げられる。具体的には、例えば、ポリアニリン、ポリアミノフェノール、ポリジアミノフェノール、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリフルオレン、ポリフラン、ポリアセチレンが該当する。
【0106】
入手の容易性、コスト、耐食性、耐久性等を考慮した場合、好適な導電性担体は、炭素系物質であるが、本発明では、これに限定はされない。
【0107】
担体は、単一種で構成されていてもよいし、2種以上を組み合わせたものであってもよい。例えば、炭素系物質と導電性ポリマーを組み合わせた担体、又は同じ炭素系物質であるカーボンパウダとカーボンペーパーを組み合わせた担体を使用することができる。
【0108】
担体の形状は、表面に第1実施形態の電極触媒を担持し得る形状であれば特に限定はしない。燃料電池用電極における単位質量あたりの触媒活性(質量活性)をより高くすることを目的とするのであれば、単位質量当たりの比表面積が大きい粉末形状又は繊維形状が好ましい。担体は、一般に比表面積が大きいほど広い担持面積を確保することができ、触媒成分の担体表面上での分散性を高め、さらにより多くの触媒成分をその表面に担持することが可能となるからである。したがって、カーボンパウダのような微粒子形状やカーボンファイバのような微細繊維形状は、担体形状として好適である。平均粒径が1nm〜1μmの微小粉末は特に好ましい。例えば、平均粒径が10nm〜300μm程度のカーボンブラックは、本工程の担体として好適である。
【0109】
また、担体は、燃料電池電極と外部回路とを連絡する導線との接続端子をその一部に有する。
【0110】
3−2.支持体
「支持体」は、それ自身が剛性を有し、本発明の燃料電池用電極に一定の形状を付与することのできる物質をいう。導電性担体が粉末形状等の場合、電極触媒を担持した導電性担体のみでは燃料電池用電極として一定の形状を保持することができない。また、導電性担体が薄層状態の場合には、担体自体が剛性を有していない。このような場合、電極触媒を担持した導電性担体を支持体表面に配置することで、電極として一定の形状及び剛性が付与される。
【0111】
ただし、支持体は、本発明の燃料電池用電極の必須の構成要素ではない。例えば、カーボンディスクのように導電性担体自身が一定の形状と剛性を有する場合には、電極触媒を担持した導電性担体のみで燃料電池用電極として一定の形状を保持することができる。また、電解質材自体が燃料電池用電極に一定の形状と剛性を付与する場合もある。例えば、PEFCでは固体高分子電解質膜の両面に薄層電極が接合されている。このような場合には、必ずしも支持体は必要とされない。したがって、支持体は、必要に応じて、本発明の燃料電池用電極に加えればよい。
【0112】
支持体の材質は、電極が一定の形状を保持できる程度の剛性を有していれば特に限定はしない。また、絶縁体であるか又は導電体であるかは問わない。絶縁体の場合、例えば、ガラス、プラスチック、合成ゴム、セラミックス、又は耐水若しくは撥水処理した紙や植物片(例えば、木片を含む)、動物片(例えば、骨片、貝殻、スポンジを含む)が挙げられる。多孔質構造の支持体は、電極触媒を担持した導電性担体を接合する比表面積が増加し、電極の質量活性を増大できることから、より好ましい。多孔質構造の支持体としては、例えば、多孔質セラミック、多孔質プラスチック、動物片等が挙げられる。導電体の場合、炭素系物質(例えば、カーボンペーパー、カーボンファイバ、炭素棒を含む)、金属、導電性ポリマー等が挙げられる。支持体が導電体の場合には、電極触媒を担持した導電性担体をその表面に配置することで支持体かつ集電体として機能し得る。
【0113】
本発明の燃料電池用電極が支持体を含む場合、通常、支持体の形状が燃料電池用電極の形状を反映する。支持体の形状は、電極としての機能を果たすことができる形状であれば、特に限定はしない。燃料電池の形状等に応じて適宜定めればよい。例えば、(略)平板状(薄層状を含む)、(略)柱状、(略)球状又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0114】
3−3.方法
(1)電極触媒担持方法
電極触媒を導電性担体に担持させる方法には、当該分野で公知の方法を用いることができる。例えば、適当な固着剤を用いて導電性担体表面に焼成金属錯体を固定させる方法が挙げられる。固着剤は導電性があれば好ましいが、限定はしない。例えば、前記導電性ポリマーを適当な溶剤に溶解した導電性ポリマー溶液やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の分散液等を固着剤として用いることができる。そのような固着剤を、導電性担体表面及び/又は電極触媒表面に塗布して又は吹き付けて両者を混合するか、又は固着剤の溶液中に含侵した後、乾燥させることで電極触媒の導電性担体への担持を達成し得る。また、導電性担体と焼成金属錯体を水等の溶媒中で混合し、水酸化ナトリウム等の塩基を添加することで、焼成金属錯体を導電性担体表面に析出させて担持させる方法も使用することができる。
【0115】
(2)燃料電池用電極形成方法
燃料電池用電極を形成させる方法は、当該分野で公知の方法を用いることができる。例えば、電極触媒を担持した導電性担体をPTFEの分散液(例えば、Nafion(商標登録;Du Pont社)溶液)等と混合して、適当な形状に成型した後、熱処理を行って燃料電池用電極を形成することができる。PEFCやPAFCのように、固体高分子電解質膜や電解質マトリクス層の表面に電極形成をする場合には、前記混合液をシート状に成型し、形成された電極シートの膜接合面にプロトン伝導性を有するフッ素樹脂系イオン交換膜の溶液等を塗布又は含侵した後、膜両面に重ねてホットプレスして膜に接合すればよい。プロトン伝導性を有するフッ素樹脂系イオン交換膜には、例えば、Nafion、Filemion(登録商標;旭硝子社)等を使用することができる。
【0116】
また、前記混合液からなる混合スラリーをカーボンペーパー等の導電性の支持体表面上に塗布した後、熱処理を行い、燃料電池用電極を形成することができる。
【0117】
さらに、プロトン伝導性イオン交換膜の溶液(例えば、Nafion溶液)と電極触媒を担持した導電性担体との混合インク又は混合スラリーを支持体、固体高分子電解質膜又は電解質マトリクス層等の表面に塗布して形成させてもよい。
【0118】
3−4.効果
本発明によれば、Pt系触媒と比較して触媒活性能、耐久性及び耐食性が同等又はより高く、かつ従来のPt系触媒よりも低廉で、安定的に供給が可能である。
【0119】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【実施例】
【0120】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
[実施例1]
(ガス拡散電極の作製)
導電性多孔質材料には市販のカーボンペーパー(気孔率70%、厚さ0.4mm)を用いた。ガス拡散性を向上させるためにカーボンペーパーの一方の面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)30wt%が分散した溶液をバーコーター法により塗布し、窒素雰囲気電気炉中で340℃の温度において20分間焼成して樹脂をカーボンペーパーに固着させ、撥水加工を施した。
【0121】
カーボンペーパー上に塗布する触媒ペーストは以下のように調製した。ボールミル用ジルコニアポットにおいて、2−プロパノール/水=1/1混合溶媒50mLに、市販の白金担持カーボンブラック(10wt%Pt/Vulcan XC−72担持)が100mgとなるように分散させた。上記分散液を撹拌しながら、市販のPTFEをポリフロンディスパージョン(平均粒径0.3μm)の形で滴下混合する。PTFEの添加量は、全カーボンブラック5に対して1となるように添加した。PTFEを添加した上記分散液を、カーボンペーパー上に吸引濾過し、窒素雰囲気電気炉中で340℃の温度において20分間焼成することで加熱、シンタリングして多孔質のガス拡散電極1及びガス拡散電極2を作製した。
【0122】
(電解液の調製)
炭酸水素ナトリウムNaHCO
3と水酸化ナトリウムNaOHをイオン交換水に溶解させ、NaHCO
3が飽和した条件において、pH値を種々変化させた。
【0123】
(デバイスの組み立て)
ガス拡散電極1と、ガス拡散電極2とを互いに対向するように配置し、その間に陰イオン交換膜5(ネオセプタ(登録商標) AMX)を挟み込み、電解液3で満たした。電解液3は、ガス拡散電極1及びガス拡散電極2を介する他は外気に触れないように密閉し、ガス拡散電極1がカソード、ガス拡散電極2がアノードとなるように直流電源4に当該電極を接続した。これにより、当該二酸化炭素富化デバイスを得た。ガス拡散電極2から排出された二酸化炭素の量が観測できるように、ガス拡散電極2側には8 mL/cm
2となるような容積の管付きガラス容器を取り付け、Oリングで排出されたガスが漏れないように密閉した。ガラス容器の管部分には、二酸化炭素検知器(固体電解質センサタイプ、分解能0.01%)を、排出されたガスが漏れないように取り付けた。室温、および系の温度は25℃とした。
【0124】
ガス拡散電極1を直流電源4の負極、ガス拡散電極2を正極に接続し、両電極の間にNaOHによりpHを9.0に調整した電解液3を充填し、両電極間に1.2Vの直流電圧を印加した。電圧の印加により、ガス拡散電極2から二酸化炭素の排出が確認された。ガス拡散電極2からの二酸化炭素の
透過量は、ガス拡散電極2に取り付けたガラス容器内の二酸化炭素濃度を二酸化炭素検出器で測定することにより、確認した。結果を表1に示す。
透過量は、下記の[数2]により算出した。
[数2]
(単位面積あたり
透過量) = (ガラス容器内の二酸化炭素濃度)×(ガラス容器の体積)/(ガラス容器により囲まれているガス拡散電極2の面積)
【0125】
[実施例2〜4]
実施例1と同様にして、電解液3のpHをNaOHの添加により種々変化させ、ガス拡散電極1とガス拡散電極2との間に1.2Vの直流電圧を印加して、ガス拡散電極2に取り付けたガラス容器内の二酸化炭素濃度を二酸化炭素検出器で測定することにより確認し、二酸化炭素の
透過量を測定した。結果を表1に示す。
【0126】
[実施例5]
実施例5では、実施例1における電極触媒を以下の白金を用いない電極触媒に変え、そのほかは、実施例1と同様に検討を行った。
【0127】
<実施例1:電極触媒の調製>
(実験例1)Co-2, 6-ジアミノピリジンポリマー(CoDAPP)触媒の調製
CoDAPP触媒は、本発明の第2実施形態の方法に従った。2, 6-ジアミノピリジンモノマー(Aldrich社)と酸化剤ペルオキシ二硫酸アンモニウム(APS)(Wako社)を1:1.5のモル比で混合し、撹拌した。具体的には、5.45gの2, 6-ジアミノピリジンと1gの水酸化ナトリウムを400mLの蒸留水に溶かし、その後27.6gのAPSと100mLの水を加えた。得られた混合物を5分間撹拌し、室温で12時間、2, 6-ジアミノピリジンを重合させた。重合反応後、得られた黒色の沈殿物を3000rpmで遠心して回収し、蒸留水で3回洗浄した。真空下で60℃にて数時間乾燥させて2, 6-ジアミノピリジンポリマーを得た。
【0128】
2, 6-ジアミノピリジン(原料モノマー)とコバルト(触媒金属原子)のモル比が4:1となるように、5.45gの2, 6-ジアミノピリジンポリマーと3.62gの硝酸コバルト(和光純薬)と150mLの水:エタノール(1:1)溶液に懸濁した。同様に、2, 6-ジアミノピリジンとコバルトのモル比が6:1、8:1、10:1となるように、モル比から、2, 6-ジアミノピリジンポリマー及び硝酸コバルトそれぞれの量を算出し、配合した。懸濁液をsonicator ultrasonic probe systems(アズワン(株))で1時間超音波混合して、さらに60℃で2時間撹拌した後、溶液を蒸発させた。残った2, 6-ジアミノピリジンポリマーとコバルトからなる重合体金属錯体の粉末を水晶乳鉢ですりつぶした。
【0129】
前記重合体金属錯体をアンモニアガス雰囲気下で700℃にて1.5時間焼成した。得られた焼成金属錯体を12規定の塩酸溶液で8時間超音波酸洗処理(pre-leach)し、不溶性物質及び非活性物質を除き、続いて脱イオン水で十分に洗浄した。最後に、本発明の電極触媒である焼成金属錯体をろ過により回収し、60℃で乾燥させた。
【0130】
[比較例]
実施例1で述べた
図2に示した当該二酸化炭素富化デバイスの性能と、非特許文献1に示した多孔質高分子膜の透過速度の違いを利用した二酸化炭素促進輸送膜の二酸化炭素富化性能、および特許文献1に示した固体溶融塩を用いたデバイスの二酸化炭素富化性能を比較した結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
この結果に表されている通り、二酸化炭素富化膜性能を、低エネルギーでの駆動の最も重要な要件である常温常圧において評価したところ、本発明におけるデバイスが高い富化性能を有することが分かった。すなわち、実施例1〜3では高い二酸化炭素富化性能と低エネルギー消費を両立することができることが分かった。