特許第5697755号(P5697755)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697755
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/30 20060101AFI20150319BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   H01B3/30 B
   H01B3/30 P
   C08G18/79 W
   H01B3/30 M
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-538491(P2013-538491)
(86)(22)【出願日】2012年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2012074861
(87)【国際公開番号】WO2013054659
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-224637(P2011-224637)
(32)【優先日】2011年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391003624
【氏名又は名称】サンユレック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 良道
(72)【発明者】
【氏名】森崎 晃
(72)【発明者】
【氏名】福地 崇史
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−263108(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/051114(WO,A1)
【文献】 特開2011−001426(JP,A)
【文献】 特開2008−024828(JP,A)
【文献】 特開2007−197642(JP,A)
【文献】 特開2010−215857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/16−3/56
C08G 18/00−18/87
C08L 75/04
C08L 75/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジイソシアネートから選択される少なくとも1種と、炭素数6〜9の飽和炭化水素基からなるモノアルコールとから得られ、イソシアヌレート基とアロファネート基とを含むポリイソシアネート成分を含有するA剤と、
(2)ポリオール成分を含有するB剤と
を含む電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物であって、
該ポリイソシアネート成分のイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)が、85/15〜15/85であることを特徴とする電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート成分のイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)が、75/25〜25/75である請求項1に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオール成分は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数3〜20の直鎖状又は分枝鎖状の2価の不飽和脂肪族炭化水素基であり、mは、1〜20の整数を表す。)で表されるポリオール、及びひまし油系ポリオールを含む請求項1又は2に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオール成分は、ポリブタジエンポリオール、及びひまし油系ポリオールを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。
【請求項6】
請求項5に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物、及び電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材、及び該封止材を用いて樹脂封止された電気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子部品の高密度化および高集積化が進み、各部品に対して、信頼性の向上が要求されている。
【0003】
特に、車のエンジンや、給湯器等に用いられる電気電子部品は、常温での防湿性のみならず、高温や湿熱環境下にあっても高い信頼性が要求される。
【0004】
このような電気電子部品を湿気、粉塵等を含む雰囲気や、振動、衝撃等から保護する目的で電気絶縁封止材が用いられており、その材料としては、一般的にシリコーン系樹脂やウレタン系樹脂等の低硬度で柔軟な樹脂が使用されている。
【0005】
上記シリコーン系樹脂は、耐熱性、可撓性、低温特性に優れているものの、電気部品を構成する材料との接着力が必ずしも十分ではなく、また、透湿性が大きいため、水分による影響を十分に防止できないという欠点がある。
【0006】
一方、上記ウレタン系樹脂は、その本来の特徴的な性質として、可撓性、耐摩耗性、低温硬化性、電気特性等が良好であり、電気絶縁封止材としての用途に使用されている。
【0007】
ウレタン系樹脂のイソシアネート成分として、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)が一般的に用いられている。このようなウレタン系樹脂は、一般に耐熱性が十分でないことが多い。特にエンジン近傍のような過酷な環境下で電気部品の封止材として用いられた場合、経時的に表面にヒビ割れを起こし易く、電気部品を長期間防湿保護できないという問題があった。
【0008】
耐熱性を有する電気部品用のポリウレタン樹脂組成物として、例えば、基板上に太陽電池セルを電気的に接続して、その太陽電池セルを封止するための、脂肪族系及び/又は脂環式系のポリウレタン樹脂が提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
しかし、特許文献1では、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との相溶性が検討されていない。イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートは、ポリオール成分との相溶性が悪い。このため、特許文献1に提案されているポリウレタン樹脂組成物を用いた場合、硬化成型物にベタツキを生じてしまい、被着体との接着力が低下し、これに起因する耐湿性の低下、及び絶縁性の低下を招くという問題があった。
【0010】
また、特許文献2では、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分の相溶性を有し、耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物として、水酸基含有化合物としてポリブタジエンポリオール(A)、及びひまし油系ポリオール(B)を含有し、イソシアネート基含有化合物としてポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(C)を含有するポリウレタン樹脂組成物が提案されており、特許文献3では、(A)ポリイソシアネートと、(B)ポリブタジエンポリオールとの反応により得られ、上記(B)ポリブタジエンポリオールにおける1,2−ビニル構造の比率が、85モル%を超えるポリウレタン樹脂組成物が提案されている。
【0011】
しかし、特許文献2及び3においても、相溶性に優れるポリウレタン樹脂組成物を得るための、ポリイソシアネート成分の検討が十分にされていない。このようなポリウレタン樹脂組成物を電子部品に用いた場合、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分との相溶性が十分でなく、耐熱性、耐湿性、及び絶縁性において十分な性能が得られているとは言えなかった。このため、各種電気部品に対して好適に用いることができる電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物としては改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−23018号公報
【特許文献2】特開2011−1426号公報
【特許文献3】特開2010−150472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分の相溶性に優れ、耐熱性、耐湿性、及び絶縁性に優れた電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリウレタン樹脂組成物のイソシアネート成分として、イソシアヌレート基と、アロファネート基を特定のモル比で含有するポリイソシアネート成分を用い、これをポリオール成分と併用することで、相溶性に優れたポリウレタン樹脂組成物を得ることができ、上記目的を達成し得る電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物、封止材及び樹脂封止された電気部品を提供するものである。
1.(1)脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジイソシアネートから選択される少なくとも1種と、炭素数6〜9の飽和炭化水素基からなるモノアルコールとから得られ、イソシアヌレート基とアロファネート基とを含むポリイソシアネート成分を含有するA剤と、
(2)ポリオール成分を含有するB剤と
を含む電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物であって、
該ポリイソシアネート成分のイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)が、85/15〜15/85であることを特徴とする電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
2.前記ポリイソシアネート成分のイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)が、75/25〜25/75である上記項1に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
3.前記ポリオール成分は、下記一般式(1):
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、Rは、水酸基を有していてもよい炭素数3〜20の直鎖状又は分枝鎖状の2価の不飽和脂肪族炭化水素基であり、mは、1〜20の整数を表す。)で表されるポリオール、及びひまし油系ポリオールを含む上記項1又は2に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
4.前記ポリオール成分は、ポリブタジエンポリオール、及びひまし油系ポリオールを含む上記項1〜3のいずれか一項に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物。
5.上記項1〜4のいずれか一項に記載の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。
6.上記項5に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気部品。
【0018】
本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、(1)脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジイソシアネートから選択される少なくとも1種から得られ、イソシアヌレート基とアロファネート基とを含むポリイソシアネート成分を含有するA剤と、(2)ポリオール成分を含有するB剤とを含む電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物であって、該ポリイソシアネート成分のイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)が、85/15〜15/85であることを特徴とする。
【0019】
上記特徴を有する本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、ポリイソシアネート成分がイソシアヌレート基とアロファネート基とを特定のモル比で含有するので、ポリイソシアネート成分の極性が高いことに起因する、ポリイソシアネート成分とポリオール成分の相溶性の低下を抑制することができる。このようなポリウレタン樹脂組成物は、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分の相溶性に優れるため、樹脂硬化成型物のベタツキの発生を抑制することができ、耐熱性、耐湿性、及び絶縁性に優れた電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
このような本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、各種電気部品の封止に用いる封止材として適している。
以下、本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物の各成分について具体的に説明する。
【0021】
本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、(1)脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジイソシアネートから選択される少なくとも1種から得られ、イソシアヌレート基とアロファネート基とを含むポリイソシアネート成分を含有するA剤と、(2)ポリオール成分を含有するB剤とを含む2液型のポリウレタン樹脂組成物であって、使用時にA剤とB剤とを混合して用いられる。
【0022】
A剤
本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジイソシアネートから選択される少なくとも1種から得られ、イソシアヌレート基とアロファネート基とを含むポリイソシアネート成分を含有するA剤を含む。
【0023】
本明細書において、上記ポリイソシアネート成分は、下記式(2)
【0024】
【化2】
【0025】
で表されるイソシアヌレート基と、下記式(3)
【0026】
【化3】
【0027】
で表されるアロファネート基とを含む。
【0028】
上記イソシアヌレート基、及びアロファネート基は、上記ポリイソシアネート成分一分子中に、両方存在していてもよい。また、ポリイソシアネート成分が全体としてこれらの基を両方含んでいれば、上記ポリイソシアネート成分一分子中に、いずれかひとつが存在していてもよい。また、これらの基が、ポリイソシアネート成分一分子中に複数存在していてもよい。
【0029】
上記ポリイソシアネート成分の、イソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)は、85/15〜15/85である。上記モル比(a)/(b)は、耐熱性、耐湿性、相溶性に優れる点で、75/25〜25/75であることが好ましく、70/30〜30/70であることがより好ましい。
【0030】
上記ポリイソシアネート成分の原料として、脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジイソシアネートから選択される少なくとも1種のジイソシアネート化合物を用いる。
【0031】
上記脂肪族ジイソシアネートとは分子中にイソシアネート基を除くと、鎖状脂肪族炭化水素を有し、芳香族炭化水素を有しない化合物である。一方、上記脂環式ジイソシアネートとは、分子中に芳香族性を有しない環状脂肪族炭化水素を有する化合物である。脂肪族ジイソシアネートを用いると得られるポリイソシアネート成分が低粘度となるのでより好ましい。上記脂肪族ジイソシアネートとして、例えば、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。上記脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。この中でもHDI、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートは、工業的に入手し易いため好ましい。中でもHDIは耐候性と塗膜の柔軟性が非常に優れており最も好ましい。
【0032】
イソシアヌレート基とアロファネート基とを含むポリイソシアネートを製造する方法としては、上記脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートから選択される少なくとも1種のジイソシアネート化合物より、イソシアヌレート基とアロファネート基とを特定のモル比で含有するポリイソシアネート化合物を複数種製造して混合する方法、該ジイソシアネート化合物から、イソシアヌレート基とアロファネート基とを有するポリイソシアネートを一括で製造する方法が挙げられる。
【0033】
上記ポリイソシアネート成分の原料として、更にモノアルコールを用いることができ、また、ジオール若しくはトリオール等の多価アルコールを用いることができるが、モノアルコールを用いることが好ましい。中でも、炭素数が1〜20のモノアルコールを用いることがより好ましい。モノアルコールの炭素数の下限は、好ましくは2、より好ましくは3、更に好ましくは4、特に好ましくは6である。上限は、好ましくは16、より好ましくは12、更に好ましくは9である。モノアルコールは1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いても良い。また、上記モノアルコールは、分子内にエーテル基や、エステル基、カルボニル基を含んでも良いが、好ましいのは飽和炭化水素基だけからなるモノアルコールである。更に、分岐を有しているモノアルコールがより好ましい。このようなモノアルコールとして例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノール、トリデカノール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、トリメチルシクロヘキサノール等が挙げられる。この中でイソブタノール、n−ブタノール、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、1−へプタノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、トリデカノール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、1,3,5−トリメチルシクロヘキサノールはポリオール成分との相溶性が優れているため、より好ましい。
【0034】
上記ポリイソシアネート成分を製造する方法としては、以下の3つの方法が挙げられる。
【0035】
(I)モノアルコールとジイソシアネートを、ウレタン化反応し、その後、あるいは同時にアロファネート化反応及びイソシアヌレート化反応を行い、ポリイソシアネート成分を得る方法。
【0036】
(II)モノアルコールとジイソシアネートを、ウレタン化反応し、その後、あるいは同時にアロファネート化反応を行い、得られたアロファネート基を有するポリイソシアネートと、ジイソシアネートをイソシアヌレート化反応して得たイソシアヌレート基を有するポリイソシアネートを混合して、ポリイソシアネート成分を得る方法。
【0037】
(III)モノアルコールとジイソシアネートを、ウレタン化反応し、その後、あるいは同時にアロファネート化反応を行い、得られたアロファネート基を含有するポリイソシアネートと、モノアルコールとジイソシアネートを、ウレタン化反応し、その後あるいは同時にアロファネート化及びイソシアヌレート化反応を行い、得られたアロファネート基及びイソシアヌレート基を有するポリイソシアネートを混合してポリイソシアネート成分を得る方法。
【0038】
(I)の方法は、一つのプロセスで製造できるため、生産効率が良いという特徴がある。(II)、(III)の方法は、イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートあるいはイソシアヌレート構造とアロファネート構造を有するポリイソシアネートと、アロファネート基を有するポリイソシアネートを任意の比率で混合することが可能であるので、得られるポリイソシアネート成分の物性の調整が容易であるという特徴がある。
【0039】
(I)〜(III)の製造方法のうち、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物が耐熱性や耐湿性に優れる点で、(I)及び(III)の製造方法が好ましく、さらに、生産効率に優れる点で、(I)の製造方法がより好ましい。
【0040】
上記製造方法は、イソシアヌレート基とアロファネート基のモル比が85/15〜15/85の範囲になるように製造すれば、いずれの方法を用いても良い。
【0041】
ウレタン化反応の反応温度は、好ましくは20〜200℃、より好ましくは40〜150℃、更に好ましくは60〜120℃である。反応時間は、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは15分〜15時間、更に好ましくは20分〜10時間である。20℃以上で反応が速く、200℃以下でウレトジオン化などの副反応が抑制され、また着色も抑制される。時間は、10分以上であれば反応を完結させることが可能となり、24時間以下であれば生産効率に問題が無く、また副反応も抑制される。ウレタン化反応は、無触媒で、またはスズ系、アミン系などの触媒の存在下で行う事ができる。
【0042】
アロファネート化反応は、好ましくは20〜200℃の温度で行われる。より好ましくは、40〜180℃であり、更に好ましくは60〜160℃である。特に好ましくは90〜150℃であり、最も好ましいのは110〜150℃である。20℃以上で、アロファネート化触媒の量が少なくなると共に、反応の終結までに必要な時間が短い。200℃以下で、ウレトジオン化などの副反応が抑制され、また、反応生成物の着色が抑えられる。
【0043】
アロファネート化反応の反応時間は、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは15分〜12時間、更に好ましくは20分〜8時間、特に好ましくは20分〜6時間が良い。反応時間が10分以上であれば反応の制御が可能となり、24時間以内であれば生産効率が十分である。なお、反応温度が130℃を超える場合には、副反応としてウレトジオンが生成する場合があるため、反応時間は好ましくは8時間以内、より好ましくは6時間以内、更に好ましくは4時間以内が良い。
【0044】
イソシアヌレート化反応、あるいはアロファネート化及びイソシアヌレート化反応は、好ましくは20〜180℃の温度で行われる。より好ましくは、30〜160℃であり、更に好ましくは40〜140℃である。特に好ましくは60〜130℃であり、最も好ましいのは80〜110℃である。20℃以上で、触媒の量が少なくなると共に、ナイロン化反応等の副反応が起こりにくくなる。また180℃以下で、ウレトジオン化などの副反応が抑制され、また、反応生成物の着色が抑えられる。
【0045】
イソシアヌレート化反応、あるいはアロファネート化及びイソシアヌレート化反応の反応時間は、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは15分〜12時間、更に好ましくは20分〜8時間、特に好ましくは20分〜6時間が良い。反応時間が10分以上であれば反応の制御が可能となり、24時間以内であれば生産効率が十分である。
【0046】
(I)の方法を採用する場合、アロファネート化反応およびイソシアヌレート化反応は触媒を用いた方が好ましく、特に生成するポリイソシアネートのイソシアヌレート基/アロファネート基のモル比が85/15〜15/85となる触媒を選択する方が好ましい。このような触媒として、例えばテトラアルキルアンモニウム、ヒドロキシアルキルアンモニウムのカルボン酸塩、ハイドロオキサイドや、アミノシリル基含有化合物等、あるいはこれらの混合物などが挙げられるが挙げられる。
【0047】
(II)、あるいは(III)の方法を採用し、アロファネート基を有するポリイソシアネートを製造する場合、アロファネート化反応は触媒を用いた方が好ましく、特にアロファネート基の選択率が高い触媒、すなわち生成するポリイソシアネートのイソシアヌレート基/アロファネート基の比が好ましくは0/100〜30/70、より好ましくは0/100〜20/80、更に好ましくは0/100〜10/90となる触媒を選択する方が好ましい。このような触媒として、例えば鉛、亜鉛、ビスマス、錫、ジルコニル、ジルコニウムのカルボン酸塩等、あるいは亜鉛、ジルコニウム、スズのアルコキサイド、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0048】
(II)の方法を採用し、イソシアヌレート基を含有するポリイソシアネートを製造する場合、イソシアヌレート化反応は触媒を用いた方が好ましい。イソシアヌレート化触媒としては、例えばテトラアルキルアンモニウム、ヒドロキシアルキルアンモニウム、アルカリ金属塩のカルボン酸塩、ハイドロオキサイドや、アミノシリル基含有化合物等、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0049】
(III)の方法を採用し、アロファネート基及びイソシアヌレート基を含有するポリイソシアネートを製造する場合、アロファネート化反応及びイソシアヌレート化反応は触媒を用いた方が好ましい。アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒として、例えばテトラアルキルアンモニウム、ヒドロキシアルキルアンモニウム、アルカリ金属塩のカルボン酸塩、ハイドロオキサイドや、アミノシリル基含有化合物等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0050】
アロファネート化触媒、イソシアヌレート化触媒、アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒の使用量は、反応液総重量を基準にして、好ましくは0.001〜2.0重量%、より好ましくは、0.01〜0.5重量%の量にて用いられる。0.001重量%以上で触媒の効果が十分に発揮できる。2重量%以下で、反応の制御が容易である。
【0051】
上記ポリイソシアネート成分の製造において、アロファネート化触媒、イソシアヌレート化触媒、アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒の添加方法は限定されない。例えば、ウレタン基を含有する化合物の製造の前、即ちジイソシアネートと水酸基を有する有機化合物のウレタン化反応に先だって添加しても良いし、ジイソシアネートと水酸基を有する有機化合物のウレタン化反応中に添加しても良く、ウレタン基含有化合物製造の後に添加しても良い。また、添加の方法として、所要量のアロファネート化触媒、イソシアヌレート化触媒、アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒を一括して添加しても良いし、何回かに分割して添加しても良い。または、一定の添加速度で連続的に添加する方法も採用できる。
【0052】
ウレタン化反応やアロファネート化反応、イソシアヌレート化触媒、アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒は、無溶媒中で進行するが、必要に応じて、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン等の芳香族系溶剤、ジアルキルポリアルキレングリコールエーテル等のイソシアネート基との反応性を有していない有機溶剤、およびそれらの混合物を溶媒として使用する事ができる。
【0053】
上記ポリイソシアネート成分の製造におけるウレタン化反応、アロファネート化反応、イソシアヌレート化反応、アロファネート化反応及びイソシアヌレート化反応の過程は、反応液のNCO基含有率を測定するか、屈折率を測定する事により追跡できる。
【0054】
アロファネート化反応、イソシアヌレート化反応、アロファネート化反応及びイソシアヌレート化反応は、室温に冷却するか、反応停止剤を添加することにより停止できるが、触媒を用いる場合、反応停止剤を添加するほうが、副反応を抑制することができるために、好ましい。反応停止剤を添加する量は、触媒に対して、好ましくは0.25〜20倍のモル量、より好ましくは0.5〜16倍のモル量、更に好ましくは1.0〜12倍のモル量である。0.25倍以上で、完全に失活させることが可能となる。20倍以下で保存安定性が良好となる。反応停止剤としては、触媒を失活させるものであれば何を使っても良い。反応停止剤の例としては、リン酸、ピロリン酸等のリン酸酸性を示す化合物、リン酸、ピロリン酸等のモノアルキルあるいはジアルキルエステル、モノクロロ酢酸などのハロゲン化酢酸、塩化ベンゾイル、スルホン酸エステル、硫酸、硫酸エステル、イオン交換樹脂、キレート剤等が挙げられる。工業的にみた場合、リン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、およびリン酸モノアルキルエステルや、リン酸ジアルキルエステルは、ステンレスを腐食し難いので、好ましい。リン酸モノエステルや、リン酸ジエステルとして、たとえば、リン酸モノエチルエステルや、リン酸ジエチルエステル、リン酸モノブチルエステルやリン酸ジブチルエステル、リン酸モノ(2−エチルヘキシル)エステルや、リン酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル、リン酸モノデシルエステル、リン酸ジデシルエステル、リン酸モノラウリルエステル、リン酸ジラウリルエステル、リン酸モノトリデシルエステル、リン酸ジトリデシルエステル、リン酸モノオレイルエステル、リン酸ジオレイルエステル、リン酸モノテトラデシルエステル、リン酸ジテトラデシルエステル、リン酸モノヘキサデシルエステル、リン酸ジヘキサデシルエステル、リン酸モノオクタデシルエステル、リン酸ジオクタデシルエステルなど、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0055】
また、シリカゲルや活性炭等の吸着剤を停止剤として用いることも可能である。この場合、反応で使用するジイソシアネートに対して、0.05〜10重量%の添加量が好ましい。
【0056】
反応終了後、ポリイソシアネート成分からは、未反応のジイソシアネートや溶媒を分離しても良い。安全性を考えると、未反応のジイソシアネートは分離した方が好ましい。未反応のジイソシアネートや溶媒を分離する方法として、例えば、薄膜蒸留法や溶剤抽出法が挙げられる。
【0057】
上記ポリイソシアネート成分におけるイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)は、1H−NMRにより求めることができる。HDIを原料として用いたポリイソシアネート組成物を1H−NMRで測定する方法の一例を以下に示す。
【0058】
1H−NMRの測定方法例:ポリイソシアネート成分を重水素クロロホルムに10重量%の濃度で溶解する(ポリイソシアネート成分に対して0.03重量%テトラメチルシランを添加)。化学シフト基準は、テトラメチルシランの水素のシグナルを0ppmとした。1H−NMRにて測定し、8.5ppm付近のアロファネート基の窒素に結合した水素原子(アロファネート基1molに対して、1molの水素原子)のシグナルと、3.8ppm付近のイソシアヌレート基に隣接したメチレン基の水素原子(イソシアヌレート基1モルに対して、6molの水素原子)のシグナルの面積比を測定する。イソシアヌレート基/アロファネート基=(3.8ppm付近のシグナル面積/6)/(8.5ppm付近のシグナル面積)
上記ポリイソシアネート成分のイソシアネート基含有率(以下、NCO基含有率)は、実質的に溶剤やジイソシアネートを含んでいない状態で、好ましくは13〜22重量%である。また、粘度は、実質的に溶剤やジイソシアネートを含んでいない状態で好ましくは150〜800mPa.sである。
【0059】
B剤
本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、ポリオール成分を含むB剤を含有する。
ポリオール成分
上記ポリオール成分としては、特に限定的ではなく、従来ポリオール成分として用いられているものを各種使用することが可能である。上記ポリオール成分としては、例えば、下記一般式(1)で表される、末端に水酸基を有するポリオールを用いることができる。
【0060】
【化4】
【0061】
(式中、Rは、炭素数3〜20の、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、水酸基を有していてもよい2価の炭化水素基であり、mは、1〜20の整数を表す。)
上記一般式(1)で表される、末端に水酸基を有するポリオールとしては、ポリブタジエンポリオールを用いることがより好ましい。上記ポリブタジエンポリオールとしては、例えば、1,4結合を60〜90モル%、及び1,2結合を10〜40モル%有するポリブタジエンからなる繰り返し単位を有し、繰り返し数は10〜14であり、両末端に水酸基を有するポリオールが挙げられる。
【0062】
上記ポリブタジエンポリオールの分子量は、800〜4800であることが好ましく、1200〜3000であることがより好ましい。
【0063】
上記ポリオール成分としては、具体的には、ポリブタジエンポリオール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、2−メチルプロパン−1、2,3−トリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリット、ポリラクトンジオール、ポリラクトントリオール、エステルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、シリコーンポリオール、フッ素ポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、水酸基含有液状ポリイソプレンの水素化物、水酸基含有液状ポリブタジエンの水素化物等が挙げられる。
【0064】
上記ポリオール成分としては、また、ひまし油系ポリオールを用いることができる。上記ひまし油系ポリオールとしては、ひまし油、又はひまし油誘導体等が挙げられる。
【0065】
上記ひまし油誘導体としては、ひまし油脂肪酸;ひまし油又はひまし油脂肪酸に水素付加した水素化ひまし油;ひまし油とその他の油脂のエステル交換物;ひまし油と多価アルコールの反応物;ひまし油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物;これらにアルキレンオキサイドを付加重合したもの等が挙げられる。
【0066】
上記ひまし油系ポリオールとしては、水素化ひまし油を用いることが好ましい。
【0067】
上記ポリオール成分は、ポリブタジエンポリオール、及びひまし油系ポリオールを含むことが更に好ましい。この場合、ポリブタジエンポリオールと、ひまし油系ポリオールとの配合比は、ポリブタジエンポリオールと、ひまし油系ポリオールの総量を100重量%として、(ポリブタジエンポリオール):(ひまし油系ポリオール)=90:10重量%〜50:50重量%であることが好ましく、90:10重量%〜70:30重量%であることがより好ましい。上記配合比のポリオール成分を用いると、ポリイソシアネート成分との相溶性に優れ、また、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物の粘度が低くなり、作業性に優れた特性を示すことができる。
【0068】
上記ポリオール成分は、ポリブタジエンポリオール、及び水素化ひまし油を含むことが更に好ましい。
【0069】
上記好適に用いられるポリオール成分を更に具体的に挙げると、末端に水酸基を有するポリオールとして、出光興産化学株式会社製水酸基含有液状ポリブタジエン(水酸基含有量=0.83mol/kg、粘度=7000mPa・s(25℃)、商品名:Poly bd(登録商標)R−45HT)を用い、水素化ひまし油として、伊藤製油株式会社製水素化ひまし油、水酸基含有量=1.67mol/kg、粘度=2200mPa・s(25℃)商品名:SR−309を用い、これらを混合したポリオール成分が挙げられる。
【0070】
上記ポリオール成分の水酸基(OH)と、ポリイソシアネート成分のイソシアネート基(NCO)との当量比NCO/OHは、0.70〜1.40であることが好ましい。当量比NCO/OHを、上記範囲とすることで、防湿絶縁剤としての機能を発揮することができる。上記当量比NCO/OHは、0.80〜1.20であることがより好ましく、0.85〜1.05であることが更に好ましい。
【0071】
(他の成分)
本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、上述したポリイソシアネート成分と、ポリオール成分との他に、可塑剤を含有していてもよい。
【0072】
上記可塑剤としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。上記可塑剤としては、硬化物に弾性を付与するとともに、組成物調製時に低粘度化を図るという観点から、水酸基を持たない可塑剤を用いることが好ましい。このような可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレートなどのフタル酸エステル、トリエチルヘキシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテートなどのトリメリテート系可塑剤、トリクレジルフォスフェート、トリスキシレニルフォスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルホスフェート、トリフェニルフォスフェートなどリン酸エステルが挙げられる。
【0073】
上記可塑剤を更に具体的に挙げると、ジェイプラス株式会社製フタル酸ジイソノニル DINP(商品名)、分子量419が挙げられる。
【0074】
上記可塑剤は、A剤又はB剤のどちらに含まれていてもよいが、B剤に含まれていることが好ましい。
【0075】
上記可塑剤の含有量は、本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性、耐湿性、及び絶縁性を阻害しないためには、ポリイソシアネート成分、及びポリオール成分の合計を100重量部として、1〜50重量部であることが好ましい。可塑剤の含有量を、上記範囲とすることにより、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物の相溶性が優れ、樹脂硬化物のベタツキを抑制することができる。また、可塑剤の含有量が多すぎると、樹脂硬化物の絶縁性、耐湿性が低下するおそれがある。
【0076】
上記ポリオール成分は、更に、充填剤を添加することができる。充填剤を含有することで、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物に難燃性、及び熱伝導性を付与することができる。
【0077】
上記充填剤としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウムが挙げられる。
【0078】
上記充填剤の含有量は、本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性、耐湿性、及び絶縁性を阻害しないためには、ポリイソシアネート成分、及びポリオール成分の合計を100重量部として、5〜80重量部であることが好ましい。耐熱性、耐湿性、及び絶縁性をより発揮させることができる点で、40〜60重量部であることがより好ましい。
【0079】
上記充填剤は、A剤又はB剤のどちらに含まれていてもよいが、B剤に含まれていることが好ましい。
【0080】
本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、更に、その他の添加剤を含んでいてもよい。 その他の添加剤としては、物性向上用低分子量ポリオール(ビスフェノール型ポリオール、アニリン系ポリオール、オクタンジオール等の炭化水素系低分子量ポリオール等)、粘度調整剤(フタル酸・脂肪酸系可塑剤、プロセスオイル、シリコーンオイル、パラフィン系オリゴマー、オレフィン系オリゴマー等)、無機・有機充填剤(炭酸カルシウム、カーボンブラック、クレー、中空フィラー、ゴム粉末、樹脂粉末、タルク、マイカ、カオリン、ベントナイト、シリカ、アルミナ、チタニア、水酸化アルミニウム、グラファイト、ガラス繊維及び炭素繊維等の無機フィラー又は顔料等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、難燃剤(りん系、ハロゲン系、酸化アンチモン)発泡抑制剤・表面処理材、硬化触媒(錫系、イミダゾール系、アミン系等)等を挙げることができる。
【0081】
上記その他の添加剤の総量は、本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性、耐湿性、及び絶縁性を阻害しないためには、ポリイソシアネート成分及びポリオール成分の合計を100重量部として、0.1〜10.0重量部であることが好ましい。耐熱性、耐湿性、及び絶縁性をより発揮させることができる点で、0.1〜5.0重量部であることがより好ましい。
【0082】
上記その他の添加剤は、A剤又はB剤のどちらに含まれていてもよいが、B剤に含まれていることが好ましい。
【0083】
上記説明した電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、耐熱性、耐湿性、及び絶縁性に優れるので、電気部品の封止材として有用である。
【0084】
また、上記封止材を用いて、樹脂封止された電気部品を製造することができる。上記封止材を用いて樹脂封止された電気部品は、耐熱性、耐湿性、及び絶縁性に優れる。
【0085】
上記電気部品を製造する方法としては、電気基板等所望の場所に、上記電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を注入、塗布し、例えば、60〜80℃の温度で、30〜90分間加熱する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0086】
本発明の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物は、(1)脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種を含有し、イソシアヌレート基とアロファネート基とを含むポリイソシアネート成分を含有するA剤と、(2)ポリオール成分を含有するB剤とを含み、ポリイソシアネート成分のイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)が特定の範囲であることにより、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分との相溶性に優れる。このため、樹脂硬化成型物のベタツキの発生を抑制することができ、耐熱性、耐湿性、及び絶縁性に優れ、各種電気部品に対して好適に用いることができる電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0087】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。なお、実施例1、4、6は参考例として記載するものである。
【0088】
(合成例)
以下に、ポリイソシアネート成分の合成例を示す。
【0089】
なお、ポリイソシアネート成分のイソシアヌレート基(a)とアロファネート基(b)のモル比(a)/(b)は、1H−NMR(Bruker社製FT−NMRDPX−400)を用いて、8.5ppm付近のアロファネート基の窒素原子上の水素のシグナルと、3.8ppm付近のイソシアヌレート基のイソシアヌレート環の窒素原子の隣のメチレン基の水素のシグナルの面積比から、イソシアヌレート基とアロファネート基の比を求めることにより測定した。
【0090】
NCO基含有率は、イソシアネート基を過剰の2Nアミンで中和した後、1N塩酸による逆滴定によって求めた。
【0091】
粘度は、E型粘度計(トキメック社製)を用いて25℃で測定した。測定は、標準ローター(1°34’×R24)を用い、以下の回転数により行った。
100r.p.m.(128mPa.s未満の場合)
50r.p.m.(128mPa.s〜256mPa.sの場合)
20r.p.m.(256mPa.s〜640mPa.sの場合)
10r.p.m.(640mPa.s〜1280mPa.sの場合)
5r.p.m.(1280mPa.s〜2560mPa.sの場合)
【0092】
合成例1
(ポリイソシアネート成分A−1の合成)
撹拌器、温度計、冷却管を取り付けた四ッ口フラスコの内部を窒素置換した。HDI 1200gとイソブタノール0.6部を仕込み、撹拌下反応器内温度を80℃で2時間保持した。その後、イソシアヌレート化触媒としてテトラメチルアンモニウムカプリエートを0.1g加え、イソシアヌレート化反応を行い、転化率が12%になった時点でリン酸を0.2g加え、反応を停止した。反応液を濾過後、流下式薄膜蒸留装置を用いて、1回目160℃(27Pa)、2回目150℃(13Pa)で未反応のHDIを除去することにより、ポリイソシアネート成分A−1を得た。得られたポリイソシアネート成分A−1は、淡黄色透明の液体であり、収量230g、25℃における粘度は400mPa・s、NCO基含有率は22.6%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は78/22であった。
【0093】
合成例2
(ポリイソシアネート成分A−2の合成)
合成例1と同様の装置に、HDI1000gと2−エチルヘキサノール30gを仕込み、80℃で1時間撹拌してウレタン化反応を行った。アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒としてカプリン酸テトラメチルアンモニウムの固形分10%n−ブタノール溶液を0.36g添加した。さらに3時間撹拌した後、リン酸の固形分85%水溶液0.58gを加え、反応を停止した。反応液の濾過後、流下式薄膜蒸留装置を用いて、1回目160℃(27Pa)、2回目150℃(13Pa)で未反応のHDIを除去することにより、ポリイソシアネート成分A−2を得た。得られたポリイソシアネート成分A−2は、淡黄色透明の液体であり、収量300g、25℃における粘度は450mPa・s、NCO基含有率は20.6%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は65/35であった。
【0094】
合成例3
(ポリイソシアネート成分A−3の合成)
合成例1と同様の装置に、HDI1000gと2−エチルヘキサノール30gを仕込み、撹拌下90℃で1時間ウレタン化反応を行った。90℃で、アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒としてカプリン酸テトラメチルアンモニウムの固形分5%イソブタノール溶液を0.6g加えた。さらに2時間撹拌した後、リン酸85%水溶液を0.06gを加え、反応を停止した。反応液を濾過後、合成例1と同様の方法で未反応のHDIを除去することにより、ポリイソシアネート成分A−3を得た。得られたポリイソシアネート成分A−3は透明の液体であり、収量210g、25℃における粘度は340mPa・s、NCO基含有率は20.3%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は50/50であった。
【0095】
合成例4
(ポリイソシアネート成分A−4の合成)
合成例1と同様の装置に、HDI1000gとイソブタノール50gを仕込み、90℃で1時間撹拌してウレタン化反応を行った。アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒としてカプリン酸テトラメチルアンモニウムの固形分10%n−ブタノール溶液を0.53g添加した。さらに3時間撹拌した後、リン酸の固形分85%水溶液0.10gを加え、反応を停止した。反応液を濾過後、合成例1と同様の方法で未反応のHDIを除去することにより、ポリイソシアネート成分A−4を得た。得られたポリイソシアネート成分A−4は、淡黄色透明の液体であり、収量440g、25℃における粘度は450mPa・s、NCO基含有率は19.6%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は40/60であった。
【0096】
合成例5
(ポリイソシアネート成分A−5の合成)
合成例1と同様の装置に、HDI1000gと2−エチルヘキサノール100gを仕込み、攪拌下90℃で1時間撹拌してウレタン化反応を行った。アロファネート化及びイソシアヌレート化触媒として2−エチルヘキサン酸ビスマスの固形分20%ミネラルスピリット溶液を10g添加した。さらに3時間撹拌した後、リン酸2−エチルヘキシルエステル4.5gを加え反応を停止した。反応液を濾過後、合成例1と同様の方法で未反応のHDIを除去することにより、ポリイソシアネート成分A−5を得た。得られたポリイソシアネート成分A−5は淡黄色透明の液体であり、収量420g、25℃における粘度は160mPa・s、NCO含有率17.4%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は16/84であった。
【0097】
合成例6
(ポリイソシアネート成分A−6の合成)
合成例1と同様の装置に、HDIを500g仕込み、60℃で撹拌下、テトラメチルアンモニウムカプリエート0.08gを加えた。60℃で反応を進行させ、4時間後反応液のイソシアネート基含有率および屈折率測定により、ポリイソシアネートへの転化率が20%になった時点で、リン酸0.2gを添加して反応を停止した。反応液を濾過後、合成例1と同様の方法で未反応のHDIを除去することにより、ポリイソシアネート成分A−6を得た。得られたポリイソシアネート成分A−6は、淡黄色透明の液体であり、収量は102g、25℃における粘度は1400mPa・s、NCO基含有率は23.4%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は100/0であった。
【0098】
合成例7
(ポリイソシアネート成分A−7の合成)
合成例1と同様の装置に、HDI561.9gとイソブタノール38.1gを仕込み、撹拌下、90℃で60分間ウレタン化反応を行った。温度を120℃に上げた後、アロファネート化触媒として2−エチルヘキサン酸ジルコニルの固形分20%ミネラルスピリット溶液を0.28g加えた。さらに60分撹拌後、リン酸の固形分85%水溶液0.097gを加え反応を停止した。反応液を濾過後、合成例1と同様の方法で未反応のHDIを除去することにより、ポリイソシアネート成分A−7を得た。得られたポリイソシアネート成分A−7は、淡黄色透明の液体であり、収量203g、25℃における粘度は130mPa・s、NCO基含有率は18.8%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は3/97であった。
【0099】
合成例8
(ポリイソシアネート成分A−8の合成)
撹拌機、温度計、アリーン冷却器及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを99.8重量%含有するジフェニルメタンジイソシアネートを1000重量部仕込み、撹拌下にトリエチルフォスフェートを12重量部添加し、190℃まで昇温してカルボジイミド化反応を行った。NCO基含有率が7.09mmol/gとなった時点で、反応器ごと氷水で常温まで急冷して、カルボジイミド化反応を停止させた。その後、2日間エージングを行ってポリイソシアネート成分A−8を得た。得られたポリイソシアネート成分A−8は、淡褐色液体であり、NCO基含有率は29.4%であった。
【0100】
合成例9
(ポリイソシアネート成分A−9の合成)
合成例5および6にて合成したポリイソシアネート成分A−6およびA−7を、A−6/A−7=54/46(重量比)になるように混合し、ポリイソシアネート成分A−9を得た。得られたポリイソシアネート成分A−9は、淡黄色透明の液体であり、25℃における粘度は770mPa・s、NCO基含有率は21.3%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は50/50であった。
【0101】
合成例10
(ポリイソシアネート成分A−10の合成)
合成例2および7にて合成したポリイソシアネート成分A−2およびA−7を、A−2/A−7=85/15(重量比)になるように混合し、ポリイソシアネート成分A−10を得た。得られたポリイソシアネート成分A−10は、淡黄色透明の液体であり、25℃における粘度は400mPa・s、NCO基含有率は20.3%であった。1H−NMRを測定したところ、イソシアヌレート基/アロファネート基のモル比は50/50であった。
【0102】
実施例1
末端に水酸基を有するポリオールとして、出光興産株式会社製 商品名:Poly bd(登録商標) R−45HTを用意した。また、水素化ひまし油として、伊藤製油株式会社製 商品名:SR−309を用意した。更に、可塑剤として、フタル酸ジイソノニル(ジェイプラス社製 商品名DINP)を用意した。
【0103】
これらを、加熱、冷却、減圧装置を備えた反応釜に、表1に示した配合量で投入し、100℃、10mmHg以下の圧力下で2時間かけて脱水し、ポリオール成分(B剤)とした。
【0104】
ポリイソシアネート成分として、上記合成例1で合成したポリイソシアネート成分A−1を用意し、A剤とした。
【0105】
表1に示す配合量で、B剤にA剤を加えて攪拌し、脱泡することにより電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。なお、A剤とB剤との配合比率は、ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基1当量に対してポリオール成分中の活性水素が1当量となるように調製した。
【0106】
(テストピースの作成)
130×130×3mmの成型用型、および内径30mm、高さ10mmの成形用型に上記のようにして得られた電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を注入した。なお、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を硬化させる場合には、注入後の電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を、60℃で16時間加熱した後、室温で1日放置して硬化させた。
【0107】
実施例2
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例2で合成したポリイソシアネート成分A−2を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0108】
実施例3
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例3で合成したポリイソシアネート成分A−3を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0109】
実施例4
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例4で合成したポリイソシアネート成分A−4を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0110】
実施例5
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例5で合成したポリイソシアネート成分A−5を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0111】
実施例6
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例9で合成したポリイソシアネート成分A−9を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0112】
実施例7
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例10で合成したポリイソシアネート成分A−10を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0113】
比較例1
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例6で合成したポリイソシアネート成分A−6を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0114】
比較例2
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例7で合成したポリイソシアネート成分A−7を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0115】
比較例3
ポリイソシアネート成分(A剤)として、上記合成例8で合成したポリイソシアネート成分A−8を用いた以外は実施例1と同様にして、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0116】
[評価]
試験例1(硬度評価(初期硬度))
実施例1〜7、及び比較例1〜3で作製した電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を硬化させたテストピースを用いて、JIS K6253に準拠して、JISA硬度を測定した。
硬度がA70未満のものを○、A70〜80のものを△、A80を超えるものを×とした。
【0117】
試験例2(耐熱性評価(耐熱性試験後硬度))
実施例1〜7、及び比較例1〜3で作製した、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を硬化させたテストピースを、更に、120℃で1000時間加熱し、23℃で1時間放置した後、JIS K6253に準拠して、JISA硬度を測定した。
硬度がA70未満のものを○、A70〜85のものを△、A85を超えるものを×とした。
【0118】
試験例3(絶縁性評価(初期絶縁性))
実施例1〜7、及び比較例1〜3で作製した、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を硬化させたテストピースの23℃での体積抵抗率を測定した。
抵抗率が、1011Ω・m以上のものを○とし、1011Ω・m未満のものを×とした。
【0119】
試験例4(耐湿性評価(耐湿性試験後絶縁性))
実施例1〜7、及び比較例1〜3で作製した、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を硬化させたテストピースを、更に、121℃、100%RHのプレッシャークッカー装置で200時間処理した。23℃で体積抵抗率を測定した。
抵抗率が、10Ω・m以上のものを○、10Ω・m台のものを△、10Ω・m以下のものを×とした。
【0120】
試験例5(相溶性評価)
実施例1〜7、及び比較例1〜3で作製した、電気絶縁用ポリウレタン樹脂組成物を硬化させたテストピースを、更に、120℃で1000時間加熱した。以下の評価基準により、相溶性を目視で判定した。
○:テストピース表面に液滴を生じている。
×:液滴を生じていない。
【0121】
上記試験1〜5の評価結果を、表1に示した。
【0122】
【表1】