(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697765
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20150319BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20150319BHJP
C09K 11/59 20060101ALI20150319BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20150319BHJP
【FI】
C09K11/08 J
C09K11/64CQD
C09K11/59CPR
H01L33/00 410
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-557353(P2013-557353)
(86)(22)【出願日】2012年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2012070390
(87)【国際公開番号】WO2013118329
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2014年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-26586(P2012-26586)
(32)【優先日】2012年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
(72)【発明者】
【氏名】伏井 康人
(72)【発明者】
【氏名】市川 恒希
(72)【発明者】
【氏名】山田 鈴弥
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
【審査官】
吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−212508(JP,A)
【文献】
特開2009−065145(JP,A)
【文献】
特開2007−180483(JP,A)
【文献】
特開2008−166825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
C09K 11/59
C09K 11/64
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光の波長455nmでのピーク波長が525nm以上535nm以下であり、励起光の波長455nmでのYAG蛍光体である三菱化学株式会社製P46Y3の蛍光強度を100%としたときの相対的な蛍光強度が250%以上270%以下のシリケート蛍光体(A)と、
励起光の波長455nmでのピーク波長が540nm以上545nm以下であり、励起光の波長455nmでのYAG蛍光体の蛍光強度を100%としたときの相対的な蛍光強度が260%以上280%以下の酸窒化物蛍光体(B)と、
励起光の波長455nmでのピーク波長が645nm以上655nm以下の酸窒化物蛍光体(C)と、を有し、
シリケート蛍光体(A)の配合割合が20質量%以上35質量%以下であり、酸窒化物蛍光体(B)の配合割合が50質量%以上70質量%以下であり、酸窒化物蛍光体(C)の配合割合が10質量%以上20質量%以下である蛍光体。
【請求項2】
請求項1記載のシリケート蛍光体(A)及び酸窒化物蛍光体(B)の配合割合をa及びbとしたときに、1.5≦b/a≦3.5の関係を有する蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の蛍光体のシリケート蛍光体(A)、酸窒化物蛍光体(B)及び(C)の配合割合をa、b及びcとしたときに、4.0≦(a+b)/c≦8.2の関係を有する蛍光体。
【請求項4】
酸窒化物蛍光体(B)がβ型サイアロン、酸窒化物蛍光体(C)がCASNである請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項5】
酸窒化物蛍光体(B)がβ型サイアロン、酸窒化物蛍光体(C)がCASNである請求項3に記載の蛍光体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したピーク波長440nm以上460nm以下のLEDと、を有する発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)に用いられる蛍光体及びLEDを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光装置に用いられる蛍光体として、β型サイアロンと赤色発光蛍光体の組み合わせがあり(特許文献1参照)、特定の色座標を有する赤色発光蛍光体と緑色発光蛍光体を組み合わせた蛍光体がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−180483号公報
【特許文献2】特開2008−166825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来の蛍光体に酸窒化物蛍光体を加えて高輝度と高演色性を両立させた蛍光体を提供することにあり、さらに、この蛍光体を用いた白色発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ピーク波長525nm以上535nm以下、蛍光強度250%以上270%以下のシリケート蛍光体(A)と、ピーク波長540nm以上545nm以下、蛍光強度260%以上280%以下の酸窒化物蛍光体(B)と、ピーク波長645nm以上655nm以下の酸窒化物蛍光体(C)とを有し、シリケート蛍光体(A)の配合割合が20質量%以上35質量%以下であり、酸窒化物蛍光体(B)の配合割合が50質量%以上70質量%以下であり、酸窒化物蛍光体(C)の配合割合が10質量%以上20質量%以下である蛍光体である。
【0006】
シリケート蛍光体(A)及び酸窒化物蛍光体(B)の配合割合をa及びbとしたときに、それぞれの関係は、1.5≦b/a≦3.5であることが好ましい。
【0007】
シリケート蛍光体(A)、酸窒化物蛍光体(B)及び酸窒化物蛍光体(C)の配合割合をa、b及びcとしたときに、それぞれの関係は、4.0≦(a+b)/c≦8.2であることが好ましい。
【0008】
酸窒化物蛍光体(B)がβ型サイアロン、酸窒化物蛍光体(C)がCASNであるのが好ましい。
【0009】
本願の他の観点からの発明は、前述の蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する発光装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高輝度で高温特性と長期信頼性を有する蛍光体及びこの蛍光体を用いた白色発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ピーク波長525nm以上535nm以下、蛍光強度250%以上270%以下のシリケート蛍光体(A)と、ピーク波長540nm以上545nm以下、蛍光強度260%以上280%以下の酸窒化物蛍光体(B)と、ピーク波長645nm以上655nm以下の酸窒化物蛍光体(C)を有する蛍光体である。
【0012】
これらの蛍光体(A),(B)及び(C)を混在させることにより、高輝度で高温特性と長期信頼性を有する蛍光体を得ることができた。
【0013】
シリケート蛍光体(A)の配合割合は20質量%以上35質量%以下であり、酸窒化物蛍光体(B)の配合割合は50質量%以上70質量%以下であり、酸窒化物蛍光体(C)の配合割合は10質量%以上20質量%以下である。
シリケート蛍光体(A)の配合割合は、あまりに少ないと演色性が低くなる傾向にあり、あまりに多いと高温特性や長期信頼性を得難くなる傾向にあるため、かかる範囲が好ましい。酸窒化物蛍光体(B)の配合割合は、あまりに少ないと高温特性や長期信頼性が得難くなる傾向にあり、あまりに多いと高い演色性が得られなくなる傾向にある。酸窒化物蛍光体(C)の配合割合も、あまりに少ないと高い演色性を示さず、甚だしい場合には白色光そのものが得られなくなる傾向にあり、あまりに多いと輝度が低下し、更には白色光が得られなくなる傾向にある。
【0014】
本発明における蛍光体(A)は、ピーク波長525nm以上535nm以下、蛍光強度250%以上270%以下の緑色発光シリケート蛍光体である。具体的には、Intematix社製のG3161、EG2762、EG3261、EG3560、Merck社製のSGA−530、SGA−535がある。
【0015】
蛍光体の蛍光強度は、標準試料(YAG、より具体的には三菱化学株式会社製P46Y3)のピーク高さを100%とした相対値を%表示して示したものである。蛍光強度の測定機は、株式会社日立ハイテック製F−7000形分光光度計を用い、測定方法は、次のものである。
<測定法>
1)試料セット:石英製セルに測定試料又は標準試料を充填し、測定機に交互にセットして測定した。充填は、相対充填密度35%程度になるようにしてセル高さの3/4程度まで充填した。
2)測定:455nmの光で励起し、500nmから700nmの最大ピークの高さを読み取った。測定を5回行ない、最大値、最小値を除いて残りの3点の平均値とした。
【0016】
本発明における蛍光体(B)は、ピーク波長540nm以上545nm以下、蛍光強度260%以上280%以下の緑色発光酸窒化物蛍光体である。具体的には、β型サイアロンがあり、より具体的には、電気化学工業株式会社アロンブライト(登録商標)がある。
【0017】
本発明における蛍光体(C)は、ピーク波長645nm以上655nm以下の酸窒化物蛍光体である。具体的には、CASNと略されカズンとよばれる蛍光体であり、より具体的には、三菱化学株式会社BR−101A(ピーク波長650nm)、Intematix社のR6634(ピーク波長650nm)及び同社R6733(ピーク波長655nm)がある。この酸窒化物蛍光体(C)に、調整用として、Intematix社R6436(ピーク波長630nm)やR6535(ピーク波長640nm)、三菱化学株式会社のBR−102C、BR−102F(ピーク波長630nm)又はBR−102D(ピーク波長620nm)を酸窒化物蛍光体(C)より少ない添加量の範囲で混在させても良い。
【0018】
シリケート蛍光体(A)と酸窒化物蛍光体(B)との配合比は、高信頼性を維持するために、シリケート蛍光体(A)の配合割合を酸窒化物蛍光体(B)の配合割合に比べて低くするのが好ましく、それぞれの配合割合をa、bとしたとき、1.5≦b/a≦3.5の関係を有するのが好ましい。
【0019】
酸窒化物蛍光体(C)の配合割合は、酸窒化物蛍光体(C)自体の輝度が低いため、低い方が好ましいが、あまりに低いと演色性までもが低下するため、4.0≦(a+b)/c≦8.2の範囲が好ましい。
【0020】
シリケート蛍光体(A)、酸窒化物蛍光体(B)及び(C)の混合手段は、均一に混合又は希望する混合度合いに混合できれば、適宜選択できるものである。この混合手段にあっては、不純物が混入したり、蛍光体の形状や粒度が明らかに変わったりしないことが前提である。
【0021】
本願の他の観点からの発明は、上述のように、混合した蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する発光装置である。LEDの発光面に搭載される際の蛍光体は、封止部材によって封止されたものである。封止部材としては、樹脂とガラスがあり、樹脂としてはシリコーン樹脂がある。LEDとしては、最終的に発光される色に合わせて赤色発光LED、青色発光LED、他の色を発光するLEDを適宜選択することが好ましい。青色発光LEDの場合、窒化ガリウム系半導体で形成され、ピーク波長は440nm以上460nm以下にあるものが好ましく、さらに好ましくは、ピーク波長は、445nm以上455nm以下である。LEDの発光部の大きさは0.5mm角以上のものが好ましく、LEDチップの大きさは、かかる発光部の面積を有するものであれば適宜選択でき、好ましくは、1.0mm×0.5mm、更に好ましくは1.2mm×0.6mmである。
【実施例】
【0022】
本発明に係る実施例を、表及び比較例を用いて詳細に説明する。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示した蛍光体は、本発明のシリケート蛍光体(A)、酸窒化物蛍光体(B)及び(C)である。表1のシリケート蛍光体(A)のうち、P2及びP3はピーク波長525nm以上535nm以下、蛍光強度250%以上270%以下の条件を満たす蛍光体である。表1の酸窒化物蛍光体(B)のうち、P6のみがピーク波長540nm以上545nm以下、蛍光強度260%以上280%以下の条件を満たす蛍光体である。表1の酸窒化物蛍光体(C)のうち、P8のみがピーク波長645nm以上655nm以下の条件を満たす蛍光体である。
【0025】
これら蛍光体を表2の割合で混合して、実施例、比較例に係る蛍光体を得た。
【0026】
【表2】
【0027】
実施例1の蛍光体は、シリケート蛍光体(A)としての表1のP2の蛍光体を35質量%、酸窒化物蛍光体(B)としての表1のP6の蛍光体を50質量%及び酸窒化物蛍光体(C)としての表1のP8の蛍光体を10質量%配合し、三菱化学株式会社のBR−102Cを5質量%補充したものである。表2中、「蛍光体の構成」におけるP1乃至P9の値は質量%である。蛍光体同士の混合にあっては、合計2.5gを計量してビニール袋内で混合した上で、シリコーン樹脂(東レダウコーニング株式会社OE6656)47.5gと一緒に自転公転式の混合機(株式会社シンキー製「あわとり練太郎」ARE−310(登録商標))で混合した。表2のb/a及び(a+b)/cは、シリケート蛍光体(A)の配合割合をa、酸窒化物蛍光体(B)の配合割合をb、酸窒化物蛍光体(C)の配合割合をcとしたときの値である。
【0028】
蛍光体のLEDへの搭載は、凹型のパッケージ本体の底部にLEDを置いて、基板上の電極とワイヤボンディングした後、混合した蛍光体をマイクロシリンジから注入して行なった。蛍光体の搭載後、120℃で硬化させた後、110℃×10時間のポストキュアを施して封止した。LEDは、発光ピーク波長448nmで、チップ1.0mm×0.5mmの大きさのものを用いた。
【0029】
表2で示した評価について説明する。
表2の初期評価として、演色性の評価を採用した。演色性の評価には色再現範囲を採用し、色座標におけるNTSC規格比の面積(%)で表した。数字が大きいほど演色性が高い。評価の合格条件は、72%以上である。これは一般的なLED−TV向けに採用されている条件である。
【0030】
表2の輝度は25℃での光束(lm)で評価した。電流60mAを10分間印加した後の測定値を取った。評価の合格条件は、25lm以上である。この値は測定機や条件によって変わるため、実施例との相対的な比較するために、(実施例の下限値)×85%として設定された値である。
【0031】
表2の高温特性は、25℃の光束に対する減衰性で評価した。50℃、100℃、150℃での光束を測定して、25℃を100%とした時の値である。評価の合格条件は、50℃で97%以上、100℃で95%以上、150℃で90%以上である。この値は、世界共通の規格値ではないが、現状、高信頼性の発光素子の目安と考えられている。
【0032】
表2の長期信頼性は、85℃、85%RHにおいて、それぞれ500時間(hrs)及び2,000時間放置した後、取り出して室温で乾燥した際の光束を測定し、初期値を100%としたときの光束の減衰値である。
評価の合格条件は、500hrsで97%以上、2,000hrsで94%以上である。これはシリケート蛍光体だけでは達成できない値である。
【0033】
表2に示すように、本発明の実施例は、比較的良好な色再現性、光束値を示し、且つ高温や高温高湿下で長期保存した際の光束の減衰も比較的小さい。
本発明の比較例1は、光束値が小さく、比較例2、3、4では色再現性に劣る。また、各成分蛍光体の混合組成が、本発明の範囲外にある比較例5、8は色再現性のNTSC規格比が著しく小さくなり、同様に比較例6では、高温特性、長期信頼性に劣る。中でも酸窒化物蛍光体Bの添加量が少な過ぎた比較例7は、色再現性、光束、高温特性、長期信頼性すべてに劣り、白色LEDバックライト用に使用することは難しい。更に、酸窒化物蛍光体Cの添加量が多過ぎた比較例9では、色再現性、光束値が小さくなり、シリケート蛍光体A/酸窒化物蛍光体Bの比が範囲外にある比較例10では、高温特性、長期信頼性試験で、光束値の低下が大きいため、信頼性の低いLEDパッケージとなり、テレビやモニターなどの製品に適用することは到底望めない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の蛍光体は、白色発光装置に用いられる。本発明の白色発光装置としては、液晶パネルのバックライト、照明装置、信号装置、画像表示装置に用いられる。