(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
<アクリル系共重合体>
本発明によるアクリル系共重合体は、N−アルキルマレイミド単位3質量%以上、22質量%以下、(メタ)アクリル酸アルキル単位74質量%以上、87質量%以下および(メタ)アクリル酸ベンジル単位1質量%以上、11質量%以下を構成単位として有する。また、本発明において、アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwは、0.5×10
5以上、2.6×10
5以下である。以下、アクリル系共重合体について詳述する。
【0027】
(N−アルキルマレイミド単位)
N−アルキルマレイミド単位は、N−アルキルマレイミドモノマーから得られる構成単位である。N−アルキルマレイミド単位は、マレイミド単位の窒素原子上にアルキル基が置換した構成単位であり、当該アルキル基は、鎖状アルキル基であっても環状アルキル基であってもよく、環状アルキル基が好ましい。なお、鎖状アルキル基は、環構造を有しないアルキル基を示し、環状アルキル基は、環構造を有するアルキル基を示す。
【0028】
N−アルキルマレイミド単位におけるアルキル基の炭素原子数は、好ましくは1以上、10以下であり、より好ましくは3以上、8以下である。
【0029】
N−アルキルマレイミド単位におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−へキシル基、2−エチルへキシル基、ドデシル基、ラウリル基、シクロへキシル基等が挙げられ、これらのうちメチル基、エチル基、シクロヘキシル基が好ましく、シクロヘキシル基がより好ましい。
【0030】
すなわち、N−アルキルマレイミド単位としては、N−メチルマレイミド単位、N−エチルマレイミド単位、N−n−プロピルマレイミド単位、N−イソプロピルマレイミド単位、N−nーブチルマレイミド単位、N−イソブチルマレイミド単位、N−t−ブチルマレイミド単位、N−n−へキシルマレイミド単位、N−2−エチルへキシルマレイミド単位、N−ドデシルマレイミド単位、N−ラウリルマレイミド単位、N−シクロヘキシルマレイミド単位等が挙げられ、これらのうちN−メチルマレイミド単位、N−エチルマレイミド単位、N−シクロヘキシルマレイミド単位が好ましく、N−シクロヘキシルマレイミド単位がより好ましい。なお、N−アルキルマレイミド単位はこれらのうちの1種であってもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0031】
アクリル系共重合体中のN−アルキルマレイミド単位の含有量は、3質量%以上であり、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは12質量%以上である。N−アルキルマレイミド単位の含有量が過少であると、厚み方向位相差Rthの絶対値および光弾性係数Cの絶対値が大きくなる傾向にあり、またアクリル系共重合体のガラス転移温度Tgが低くなる傾向にある。ガラス転移温度Tgが低下すると溶融押出しの際に熱分解しやすくなるという問題が生じる場合がある。
【0032】
また、アクリル系共重合体中のN−アルキルマレイミド単位の含有量は、22質量%以下であり、好ましくは21質量%以下であり、より好ましくは19質量%以下であり、さらに好ましくは17質量%以下である。N−アルキルマレイミド単位の含有量が過多であると、厚み方向位相差Rthの絶対値および光弾性係数Cの絶対値が大きくなる傾向にあり、また、フィルムが黄変し易いという問題もある。
【0033】
((メタ)アクリル酸鎖状アルキル単位)
(メタ)アクリル酸アルキル単位は、(メタ)アクリル酸アルキルモノマーから得られる構成単位である。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸をいうものとする。(メタ)アクリル酸アルキル単位のアルキル基は、鎖状アルキル基であっても環状アルキル基であってもよく、好ましくは鎖状アルキル基である。
【0034】
(メタ)アクリル酸アルキル単位におけるアルキル基の炭素原子数は、好ましくは1以上、6以下であり、より好ましくは1以上、4以下である。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキル単位におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−へキシル基、2−エチルへキシル基等が挙げられ、これらのうちメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0036】
すなわち、(メタ)アクリル酸アルキル単位としては、(メタ)アクリル酸メチル単位、(メタ)アクリル酸エチル単位、(メタ)アクリル酸n−プロピル単位、(メタ)アクリル酸イソプロピル単位、(メタ)アクリル酸n−ブチル単位、(メタ)アクリル酸イソブチル単位、(メタ)アクリル酸t−ブチル単位、(メタ)アクリル酸n−へキシル単位、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル単位等が挙げられ、これらのうち(メタ)アクリル酸メチル単位、(メタ)アクリル酸エチル単位、(メタ)アクリル酸プロピル単位、(メタ)アクリル酸イソプロピル単位が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル単位がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸アルキル単位としては、メタクリル酸メチル単位が特に好ましい。なお、(メタ)アクリル酸アルキル単位はこれらのうちの1種であってもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0037】
アクリル系共重合体中の(メタ)アクリル酸アルキル単位の含有量は、74質量%以上であり、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは78質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。(メタ)アクリル酸アルキル単位の含有量が過少であると、厚み方向位相差Rthの絶対値および光弾性係数Cの絶対値が大きくなる傾向にあり、また、フィルムが黄変し易いという問題もある。
【0038】
また、アクリル系共重合体中の(メタ)アクリル酸アルキル単位の含有量は、87質量%以下であり、好ましくは86質量%以下であり、より好ましくは84質量%以下である。(メタ)アクリル酸アルキル単位の含有量が過多であると、厚み方向位相差Rthの絶対値および光弾性係数Cの絶対値が大きくなる傾向にあり、またアクリル系共重合体のガラス転移温度Tgが低くなる傾向にある。
【0039】
((メタ)アクリル酸ベンジル単位)
(メタ)アクリル酸ベンジル単位は、(メタ)アクリル酸ベンジルモノマーから得られる構成単位である。(メタ)アクリル酸ベンジル単位としては、アクリル酸ベンジル単位およびメタクリル酸ベンジル単位が挙げられ、このうちメタクリル酸ベンジル単位が好ましい。
【0040】
アクリル系共重合体中の(メタ)アクリル酸ベンジル単位の含有量は、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。(メタ)アクリル酸ベンジル単位の含有量が過少であると、面内位相差Reの絶対値、厚み方向位相差Rthの絶対値および光弾性係数Cの絶対値を同時に十分に小さくすることが困難となり、また、仮にそれを達成できてもフィルムの色相が悪化する傾向にある。また、アクリル系共重合体のメルトフローレート(以後、単に「MFR」ともいう。)が低くなり、押出し成形における成形性の低下、フィルムの製造効率の低下等の問題が生じる場合がある。
【0041】
アクリル系共重合体中の(メタ)アクリル酸ベンジル単位の含有量は、11質量%以下であり、好ましくは9質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。(メタ)アクリル酸ベンジル単位の含有量が過多であると、厚み方向位相差Rthの絶対値および光弾性係数Cの絶対値が大きくなる傾向にあり、またアクリル系共重合体のガラス転移温度Tgが低くなる傾向にある。
【0042】
本発明によるアクリル系共重合体は、フィルム成形した場合の可とう性およびメルトフローレート(MFR)等のフィルム製造効率の観点から、重量平均分子量Mwが、0.5×10
5以上、2.6×10
5以下の範囲であり、0.7×10
5以上、2.4×10
5以下の範囲であることが好ましく、0.8×10
5以上、2.2×10
5以下の範囲であることがより好ましい。アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwを0.5×10
5以上とすることにより、フィルム成形した場合の可とう性を向上させることができ、その結果、フィルムのMIT耐折度回数を向上させることができる。一方、アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwが2.6×10
5を超えると、アクリル系共重合体の溶融時の粘度が高くなり過ぎて、フィルムの製造効率が悪化する場合がある。例えば、アクリル系共重合体を用いて押出成形機によりフィルムを製膜する場合、押出成形機には樹脂中の異物等を除去するためのフィルターが備えられているが、樹脂の溶融粘度が高くなり過ぎると、フィルターにかかる圧力が高くなり、フィルター性能が低下したり、場合によってはフィルターが破損してしまう場合がある。本発明によれば、アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwを2.6×10
5以下とすることにより、メルトフローレート(MFR)を1.0g/10分以上とすることができ、上記したようなフィルム製膜時のフィルター性能の低下を抑制して、製造効率を向上させることができる。したがって、本発明によるアクリル系共重合体は、重量平均分子量Mwが上記範囲内であるため、フィルム成形した場合の可とう性およびフィルム製造効率を向上させることができる。
【0043】
なお、本明細書中、重量平均分子量Mwは、東ソー株式会社製のHLC−8220 GPCにより測定される、標準ポリスチレン分子量換算の値を示す。なお、カラムは東ソー株式会社製のSuper−Multipore HZ−Mを使用し、測定条件は、溶媒HPLC用テトラヒドロフラン(THF)、流量0.35ml/min、カラム温度40℃とすることができる。
【0044】
本発明によるアクリル系共重合体は、ガラス転移温度Tgが、120℃以上であることが好ましい。これにより、フィルムの耐熱性が一層向上し、熱に対するフィルムの寸法安定性が向上するため、偏光板用保護フィルムとして一層好適なものとなる。また、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限はないが、二軸延伸フィルムとして用いた場合、二軸延伸フィルムの十分な耐熱性が達成される観点から、140℃以下であってよく、130℃以下であってもよい。
【0045】
なお、本明細書中、ガラス転移温度Tgは、SIIナノテクノロジー社製の示差走査熱量測定装置DSC7020を使用し、昇温速度10℃/分で昇温させたときのガラス転移点のオンセット温度から求めた値を示す。なお、試料の質量は5mg以上、10mg以下とする。
【0046】
本発明によるアクリル系共重合体は、メルトフローレート(MFR)が、1.0g/10分以上であることが好ましい。このようなアクリル系共重合体は流動性に優れるため、溶融押出しによるフィルム成形が容易となり、フィルムの製造効率が向上する。また、メルトフローレート(MFR)の上限に特に制限はないが、40g/10分以下であってよく、30g/10分以下であってもよい。
【0047】
なお、本明細書中、メルトフローレート(MFR)は、株式会社東洋精機製のメルトインデックサF−F01を用い、3.8kg重荷重、260℃条件下、JIS K7020に準拠して測定される値を示す。
【0048】
本発明によるアクリル系共重合体の1%質量減少熱分解温度(以後、単に「熱分解温度」ともいう。)は、280℃以上であることが好ましく、285℃以上であることがより好ましい。これにより、フィルムの耐熱性が一層向上し、偏光板用保護フィルムとして一層好適なものとなる。また、熱分解温度の上限に特に制限はないが、二軸延伸フィルムとしての十分な耐熱性が達成される観点から、400℃以下であってもよく、350℃以下であってもよい。
【0049】
なお、本明細書中、熱分解温度は、SIIナノテクノロジー社製の示差熱熱質量同時測定装置TG/DTA7200を使用し、昇温温度10℃/分で180℃まで昇温させ、60分保持した後、昇温速度10℃/分で450℃まで昇温し、250℃における試料の質量を基準として1%質量減少したときの温度を示す。
【0050】
本発明によるアクリル系共重合体は、上記した三種のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。重合方法は特に制限されず、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の方法により製造することができる。これらのうち、重合後の処理が容易であり、重合後の処理において有機溶媒の除去のための加熱等が不要である観点から、懸濁重合が好適である。
【0051】
本発明によるアクリル系共重合体においては、懸濁重合により製造することで特に色相に優れたものとなる。懸濁重合は、溶液重合とは異なり、重合系から高温で有機溶媒を除去する工程を必要としないため、より一層、色相に優れたアクリル系共重合体を得ることができる。
【0052】
ところで、例えば、特許文献1に記載されたメタクリル酸メチルとN−シクロヘキシルマレイミドとの共重合体を製膜してフィルム化した場合、フィルムの色相が悪くなる傾向にある。本発明者らは、色相の悪化の原因が、重合後のアクリル系共重合体における残存モノマー量が多いことが一因であるとの知見を得た。そして、本発明者らは、モノマー単位として、N−アルキルマレイミド単位と、(メタ)アクリル酸アルキル単位とに加え、(メタ)アクリル酸ベンジル単位を採用することで、モノマー転化率が向上し、重合後のアクリル系共重合体における残存モノマー量が十分に低減されることがわかった。また、これらの特定のモノマーを特定の比率で含有させることにより、重合後の残存モノマー量が一層低減されることが分かった。
【0053】
このような効果が奏される理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。すなわち、N−アルキルマレイミドモノマーと(メタ)アクリル酸アルキルモノマーとの反応性が必ずしも高くないのに対して、(メタ)アクリル酸ベンジルモノマーと両モノマーとの反応性が高いことから、(メタ)アクリル酸ベンジルにより重合反応が促進され、高いモノマー転化率が達成されると考えられる。なお、残存モノマー量が多い場合でも、アクリル系共重合体自体に着色は認められない。本発明者らの知見によれば、残存モノマー量が多い場合には、アクリル系共重合体を含む樹脂材料をフィルム化する工程における加熱等によって黄変が生じる。
【0054】
本発明においては、アクリル系共重合体の残存モノマー量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下である。
【0055】
懸濁重合の条件は特に制限されず、公知の懸濁重合の条件を適宜適用することができる。以下に、懸濁重合によるアクリル系共重合体の製造方法の一例を示すが、本発明が下記の一例に限定されるものではない。
【0056】
まず、所望の質量比率となるようにモノマー(N−アルキルマレイミド、(メタ)アクリル酸アルキル、および(メタ)アクリル酸ベンジル)をそれぞれ計量し、その総量を100質量部とする。モノマー総量100質量部に対して、300質量部の脱イオン水、および0.6質量部の分散剤としてのポリビニルアルコール(株式会社クラレ製のクラレパボール))を懸濁重合装置に投入し、撹拌を開始する。次いで、計量したモノマーと、重合開始剤として日本油脂株式会社製のパーロイルTCPを1質量部と、連鎖移動剤として1−オクタンチオールを0.22質量部とを、懸濁重合装置に投入する。
【0057】
その後、懸濁重合装置に窒素を通じつつ、反応系を70℃まで昇温した後、70℃で3時間保持して反応させる。反応後、室温まで冷却し、必要に応じてろ過、洗浄および乾燥等の操作を行い、粒子状のアクリル系共重合体を得ることができる。このような方法によれば、残存モノマー量が5質量%以下であり、重量平均分子量Mwが0.5×10
5以上、2.6×10
5以下の範囲にあるアクリル系共重合体を容易に得ることができる。
【0058】
なお、上述の重合開始剤、連鎖移動剤および分散剤の種類、ならびに投入量は一例であって、懸濁重合の条件は上記に限定されるものではない。懸濁重合では、残存モノマー量が5質量%以下、および、重量平均分子量Mwが0.5×10
5以上、2.6×10
5以下を達成できる範囲で、その条件を適宜変更することができる。例えば、アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwは、連鎖移動剤の投入量を変更することにより適宜調整することができる。
【0059】
重合開始剤としては、例えば、日本油脂株式会社製のパーロイルTCP、パーオクタO、ナイパーBW等を用いることができる。また、重合開始剤の使用量は、例えば、モノマー総量100質量部に対して、0.05質量部以上、2.0質量部以下であってよく、0.1質量部以上、1.5質量部以下であってもよい。
【0060】
連鎖移動剤としては、例えば、1−オクタンチオール、1−ドデカンチオール、tert−ドデカンチオール等のチオール類を用いることができる。また、連鎖移動剤の使用量は、所望の重量平均分子量Mwに応じて適宜変更できるが、例えば、モノマー総量100質量部に対して、0.05質量部以上、0.6質量部以下とすることができ、0.07質量部以上、0.5質量部以下であってもよい。
【0061】
分散剤としては、例えば、株式会社クラレ製のクラレパボール等のPVA、ポリアクリル酸ナトリウム等を用いることができる。また、分散剤の使用量は、例えば、モノマー総量100質量部に対して、0.01質量部以上、0.5質量部以下であってよく、0.02質量部以上、0.3質量部以下であってもよい。
【0062】
懸濁重合の条件は、重合開始剤、連鎖移動剤および分散剤の種類、ならびに使用量等に応じて適宜調整することができる。例えば、反応温度は、50℃以上、95℃以下とすることができ、好ましくは60℃以下、85℃以下である。また、反応時間は、十分に反応が進行する時間が確保されていればよく、例えば、2時間以上、10時間以下とすることができ、好ましくは3時間以上、8時間以下である。なお、モノマー転化率は反応活性種の寿命、モノマーの反応性等によって決まるため、必ずしも反応時間を延長してもモノマー転化率は向上しない。
【0063】
上記のような、本発明によるアクリル系共重合体は、二軸延伸フィルム用の樹脂材料として好適に用いることができる。本発明によるアクリル系共重合体によれば、配向複屈折および光弾性複屈折がともに小さく、透明性、耐熱性および可とう性に優れる二軸延伸フィルムを得ることができる。
【0064】
<二軸延伸フィルム>
次に、本発明による二軸延伸フィルムについて説明する。本発明による二軸延伸フィルムは、上記のアクリル系共重合体を含む樹脂を製膜した未延伸フィルムを二軸延伸して得ることができる。本発明による二軸延伸フィルムは、配向複屈折および光弾性複屈折がともに小さく、透明性、耐熱性および可とう性に優れるため、特に、光学フィルムとして好適に用いることができる。以下、本発明による二軸延伸フィルムの諸特性について詳述する。
【0065】
二軸延伸フィルムの面内位相差Reの絶対値および厚み方向位相差Rthの絶対値は、いずれも3.0nm以下であることが好ましく、2.5nm以下がより好ましく、2.0nm以下がさらに好ましく、1.0nm以下が一層好ましい。面内位相差Reの絶対値および厚み方向位相差Rthの絶対値が小さいと、配向複屈折が小さくなるため、二軸延伸フィルム、特に偏光板用保護フィルムとして、一層好適に用いることができる。
【0066】
二軸延伸フィルムの光弾性係数Cの絶対値は、3.0×10
−12/Pa以下であることが好ましく、2.0×10
−12/Pa以下がより好ましく、1.0×10
−12/Pa以下がさらに好ましく、5.0×10
−13/Pa以下が一層好ましく、1.0×10
−13/Pa以下であってもよい。光弾性係数Cの絶対値が小さいと、光弾性複屈折が小さくなるため、二軸延伸フィルム、特に偏光板用保護フィルムとして、一層好適に用いることができる。
【0067】
二軸延伸フィルムの配向複屈折性は、Axometrics社製Axoscan装置を用いてフィルムの面内位相差値であるレタデーションReと厚み方向位相差値であるRthを測定して評価することができる。
【0068】
Re(単位:nm)は、フィルム面内の1方向の屈折率をn
x、それと直行する方向の屈折率をn
y、フィルムの厚みをdnmとしたとき次式(1)で表される。
Re=(n
x−n
y)×d …(1)
【0069】
Rth(単位:nm)は、フィルム面内の1方向の屈折率をn
x、それと直行する方向の屈折率をn
y、フィルムの厚み方向の屈折率をn
z、フィルムの厚みをdnmとしたとき次式(2)で表される。
Rth=((n
x+n
y)/2−n
z)×d …(2)
【0070】
フィルムの位相差値の符号は、ポリマー主鎖の配向方向に屈折率が大きいものを正とし、延伸方向と直行する方向に屈折率が大きいものを負とする。
【0071】
二軸延伸フィルムの光弾性複屈折は、配向複屈折性と同じくAxometrics社製Axoscan装置を用いてフィルムの位相差値であるレタデーションReのフィルムにかけた応力による変化量を測定し、光弾性係数C(単位:10
−12/Pa)として求められる。具体的な光弾性係数Cの算出方法は次式(3)のとおりである。
C=ΔRe/(Δσ×t) …(3)
【0072】
Δσはフィルムにかかった応力の変化量で単位は[Pa]、tはフィルムの膜厚で単位は[m]、ΔReはΔσの応力の変化量に対応した面内位相差値の変化量で単位は[m]である。光弾性係数Cの符号は、応力をかけた方向に屈折率が大きくなるものを正とし、応力をかけた方向と直行する方向に屈折率が大きくなるものを負とする。
【0073】
二軸延伸フィルムは、JIS P8115に準拠して測定されるMIT耐折度回数が、100回以上であることが好ましい。このような二軸延伸フィルムは、偏光板用保護フィルムとして要求される可とう性を十分に満たすものであるため、偏光板用保護フィルムとして一層好適に用いることができる。また、このような二軸延伸フィルムは、耐屈曲性に優れるため、大面積化が要求される用途に一層好適に使用できる。
【0074】
なお、本明細書中、MIT耐折度試験は、テスター産業株式会社製のBE−201 MIT耐屈度試験機を使用して行うことができる。なお、テスター産業株式会社製のBE−201 MIT耐屈度試験機は、MIT耐折度試験機とも呼ばれている。測定条件は加重200g、折り曲げ点先端Rは0.38、屈曲速度は175回/分、屈曲角度は左右135°とし、フィルムサンプルの幅は15mmとする。そして、二軸延伸フィルムの搬送方向に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数と、幅方向に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数との平均値をMIT耐折度回数とする。
【0075】
MIT耐折度回数が100回以上であれば、延伸工程後の二軸延伸フィルムを搬送して巻き取る工程や、偏光板等に張り合わせるなどの工程で破断するのを防ぐことができる。
【0076】
また、偏光板用保護フィルムの耐ヒートショック性の試験方法として、ガラス基盤にのりを介しフィルムを張り合わせ、−20℃から60℃の範囲で昇温、降温を30分間隔で500サイクル繰り返すヒートショック試験が知られているが、上述のMIT耐折度回数が100回以上であれば、ヒートショック試験中にフィルムにクラックが入るのを防ぐことができる。
【0077】
二軸延伸フィルムのMIT耐折度回数は、120回以上であることがより好ましく、150回以上であることがさらに好ましい。
【0078】
二軸延伸フィルムの膜厚は、10μm以上150μm以下とすることができ、15μm以上120μm以下とすることもできる。膜厚が10μm以上であると、フィルムの取り扱い性が良好となり、150μm以下であると、ヘイズの増加や、単位面積あたりの材料コストの増加等の問題が生じにくくなる。
【0079】
本発明においては、本発明によるアクリル系共重合体を含有する樹脂材料を製膜して得られた未延伸フィルムを二軸延伸する際、二軸延伸の延伸倍率は、上述のMIT耐折度回数を達成できるように適宜調整することができる。例えば、延伸倍率は、面積比で1.3倍以上とすることができ、1.5倍以上とすることもできる。また、延伸倍率は、面積比で6.0倍以下であってよく、4.0倍以下であってもよい。
【0080】
二軸延伸フィルムの黄色味の指標であるb
*値は、1.00以下であることが好ましく、より好ましくは0.50以下であり、さらに好ましくは0.30以下である。なお、黄色味の指標であるb
*値は、二軸延伸フィルムの分光スペクトルを日本電色工業(株)製Spectrophotometer SD6000を用いて測定し、求めることができる。
【0081】
本発明による二軸延伸フィルムは、優れた耐光性を有する。耐光性は、光照射前後でのフィルム物性値の変化量によって評価することができる。フィルム物性値としては、黄色味の指標であるb
*値、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth、光弾性係数C、およびMIT耐折度回数などが用いられる。例えば、キセノンウェザーメーター〔東洋精機製作所 アトラスCi4000〕を用いて、二軸延伸フィルムに光を照射し、下記のようにして耐光性を評価することができる。
【0082】
耐光性は、光照射後のb
*値を光照射前のb
*値(b
*1)から差し引きした値Δb
*(=b
*1−b
*)、光照射前後における面内位相差Reの差し引き値ΔRe(=光照射前Re−光照射後Re)、光照射前後における厚み方向位相差Rthの差し引き値ΔRth(=光照射前Rth−光照射後Rth)、光照射前後における光弾性係数Cの差し引き値ΔC(=光照射前C−光照射後C)、および光照射前後におけるMIT耐折度回数の差し引き値ΔMIT(=光照射前MIT−光照射後MIT)から評価できる。
【0083】
本発明による二軸延伸フィルムは、アクリル系共重合体以外の成分を含有していてもよい。アクリル系共重合体以外の成分としては、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、安定剤等、二軸延伸フィルムに用いられる添加剤を必要に応じて用いることができる。これらの成分の配合量は、本発明の効果が有効に奏される範囲であれば特に制限されないが、樹脂材料の総量基準で、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。すなわち、樹脂材料中のアクリル系共重合体の含有量は、樹脂材料の総量基準で、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であってもよい。
【0084】
(二軸延伸フィルムの製造方法)
本発明による二軸延伸フィルムの製造方法の一態様について詳述する。本態様において、本発明による二軸延伸フィルムは、上述のとおりアクリル系共重合体を含有する樹脂材料からなる未延伸フィルムを二軸延伸して得ることができる。すなわち、本発明による二軸延伸フィルム製造方法の製造方法は、上記アクリル系共重合体を含んでなる樹脂材料を溶融押出して未延伸フィルムを得る工程(溶融押出工程)と、前記未延伸フィルムを二軸延伸して二軸延伸フィルムを得る工程(延伸工程)と、を備える。
【0085】
溶融押出工程は、例えば、ダイリップを備える押出製膜機により行うことができる。このとき、樹脂材料は、押出製膜機内で加熱溶融され、ダイリップから連続的に吐出されることで未延伸フィルムを得ることができる。
【0086】
溶融押出の際の押し出し温度は、130℃以上300℃以下であることが好ましく、150℃以上280℃以下であることがより好ましい。押し出し温度が130℃以上であると、樹脂材料中のアクリル系共重合体が十分に溶融混錬されるため、未溶融物のフィルムへの残存が十分に防止される。また、300℃以下であると、熱分解によるフィルムの着色や、分解物のダイリップへの付着等の問題が生じることが十分に防止される。よって、溶融押出の押し出し温度が上記範囲内であれば、樹脂材料中のアクリル系共重合体が十分に溶融混錬されるため、未溶融物のフィルムへの残存を十分に防止することができると共に、熱分解によるフィルムの着色や、分解物のダイリップへの付着等が生じることを抑制することができる。
【0087】
Tダイ押し出し装置を用いた溶融製膜法において、Tダイリップから吐出された溶融樹脂が最初に接触する第1ロールの温度T
1℃は、溶融樹脂のガラス転移温度をTg℃としたとき、(Tg−24)≦T
1≦(Tg+24)の範囲が好ましく(Tg−20)≦T
1≦(Tg+20)の範囲がさらに好ましい。T
1の温度が(Tg−24)℃以上であれば、Tダイリップから吐出された溶融状態の樹脂フィルムが急冷されることを抑制できるため、収縮ムラにより製膜したフィルムの厚み精度が悪化することを抑制することができる。T
1の温度が(Tg+24)℃以下であれば、Tダイリップから吐出された溶融状態の樹脂が第1ロールに貼りついてしまうことを抑制することができる。
【0088】
なお、フィルム厚みムラ(単位:%)は、未延伸フィルム(原反フィルム)の両端の耳を各10mm切り落とした後のロールサンプルを幅方向等間隔に20箇所測定した厚みの最大値をt
1μm、最小値をt
2μm、平均値をt
3μmとしたとき、下記式(4):
厚みムラ(%)=100×(t
1―t
2)/t
3 …(4)
から算出される値を意味するものとする。
【0089】
延伸工程では、溶融押出工程で得られた未延伸フィルム(原反フィルム)を延伸して、二軸延伸フィルムを得る。延伸方法としては、従来公知の二軸延伸法を適宜選択することができる。二軸延伸装置としては、例えば、テンター延伸装置において、フィルム端部を把持するクリップ間隔がフィルムの搬送方向にも拡がる同時二軸延伸装置を用いることができる。また、延伸工程では、周速差を利用したロール間延伸、テンター装置による延伸等を組み合わせた逐次二軸延伸法も適用できる。
【0090】
延伸装置は、押出製膜機と一貫ラインであってよい。また、延伸工程は、押出製膜機により巻き取った原反フィルムをオフラインで延伸装置に送り出して延伸する方法で行ってもよい。
【0091】
延伸温度としては、原反フィルムのガラス転移温度をTg℃としたとき、(Tg+2)℃以上、(Tg+20)℃以下が好ましく、(Tg+5)℃以上、(Tg+15)℃以下がさらに好ましい。延伸温度が(Tg+2)℃以上であると、延伸中のフィルムの破断や、フィルムのヘイズの上昇等の問題の発生を十分に防止することができる。また、(Tg+20)℃以下であると、ポリマー主鎖が配向しやすく、一層良好なポリマー主鎖配向度が得られる傾向にある。
【0092】
溶融製膜法で製膜された原反フィルムを延伸することで、ポリマー主鎖が配向してフィルムの耐屈曲性を向上させることができる一方で、複屈折率が小さなポリマー材料からなるフィルムでなければ、フィルムの位相差値が上昇してしまい、液晶表示装置に組み込んだときに像質が悪化してしまう。本態様においては、上述の樹脂材料を用いることで、優れた光学特性と耐屈曲性とを両立した二軸延伸フィルムが得られる。
【0093】
上記のように、本発明による二軸延伸フィルムの製造方法を用いれば、配向複屈折および光弾性複屈折がともに小さく、透明性、耐熱性および可とう性に優れた二軸延伸フィルムを得ることができる。
【0094】
(偏光板)
本発明による偏光板は、偏光フィルムの少なくとも一方の面に上記二軸延伸フィルムを保護フィルムとして備えるものである。上記二軸延伸フィルムは、配向複屈折および光弾性複屈折がともに小さいため、保護フィルムとして上記二軸延伸フィルムを備える偏光板によれば、液晶表示装置への適用に際し、保護フィルムによる像質の悪化を十分に抑制することができる。
【0095】
本発明による偏光板は、上記二軸延伸フィルム以外の構成要素は、特に制限されず、公知の偏光板と同様の構成とすることができる。例えば、公知の偏光板における保護フィルムの少なくとも一部を、上記二軸延伸フィルムに変更したものであってよい。
【0096】
(液晶表示装置)
本発明による液晶表示装置は、上記偏光板を備えるものである。上記したように、本発明による偏光板は、保護フィルムとして上記二軸延伸フィルムを備えるものであるため、保護フィルムの光学特性に起因する像質の悪化を十分に抑制することができる。そのため、本発明による液晶表示装置によれば、良好な像質が実現される。
【0097】
本発明による液晶表示装置において、上記偏光板以外の構成要素は、特に制限されず、公知の液晶表示装置と同様の構成とすることができる。例えば、公知の液晶表示装置における偏光板を、上記偏光板に変更したものであってよい。
【0098】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0100】
<アクリル系共重合体の評価方法>
以下の実施例および比較例において、アクリル系共重合体の重量平均分子量Mw、ガラス転移温度Tg、残存モノマー量、メルトフローレート(MFR)、および1%質量減少温度は、以下のようにして測定した。
【0101】
重量平均分子量Mwは、東ソー株式会社製のHLC−8220 GPCを使用して測定した、標準ポリスチレン分子量換算の値を示す。また、カラムは東ソー株式会社製のSuper−Multipore HZ−Mを使用し、測定条件は、溶媒HPLC用テトラヒドロフラン(THF)、流量0.35ml/min、カラム温度40℃とした。
【0102】
ガラス転移温度Tgは、SIIナノテクノロジー社製の示差走査熱量測定装置DSC7020を使用し、昇温速度10℃/分で昇温させたときのガラス転移点のオンセット温度から求めた。なお、アクリル系共重合体の試料の質量は5mg以上、10mg以下とした。
【0103】
アクリル系共重合体の残存モノマー量は、以下の装置および方法で測定した。
(装置)
ガスクロマトグラフィー装置:アジレントテクノロジー社製GC 6850
カラム:HP−5 30m
オーブン温度条件:50℃で5分保持した後10℃/分で250℃まで昇温し、10分保持した。
注入量:0.5μl
モード:スプリット法
スプリット比:80/1
キャリアー:純窒素
検出器:FID
【0104】
(方法)
アクリル系共重合体の粒子約1gを精秤し、アセトン約10mlを加えて撹拌し、当該粒子を完全に溶解させてアセトン溶液とした。撹拌子を入れた100ml容器にメタノール約90mlを量り取り、上記アセトン溶液を滴下してポリマーを析出させて、スラリー液とした。次いで、内部標準物質としてクロロベンゼン約0.1mlを精秤し、上記スラリー液に添加し、激しく振ってよく混ぜた。この溶液を静置し、上澄み液約1.5mlを濾過したものを用いて、GC(ガスクロマトグラフィー)にて各モノマーの検出を行った。なお、各成分の保持時間、面積/質量換算係数は下記表1に記載のとおりであった。
【0105】
【表1】
【0106】
各モノマーのGC面積値に面積/質量換算係数を乗じ、以下の比例式により各モノマーの質量を算出した。
式:内部標準物質質量:各モノマー質量=(内部標準物質GC面積値×面積/質量換算係数):(各モノマーGC面積値×面積/質量換算係数)
以上の方法により、精秤したアクリル系共重合体粒子中の各モノマーの残存質量を求め、その総和を、精秤したアクリル系重合体粒子の質量で除することで、残存モノマー量%を算出した。
【0107】
MFRは、株式会社東洋精機製のメルトインデックサF−F01を使用して測定した。
【0108】
1%質量減少温度は、SIIナノテクノロジー社製の示差熱熱質量同時測定装置TG/DTA7200を使用し、昇温温度10℃/分で180℃まで昇温させ、60分保持した後、昇温速度10℃/分で450℃まで昇温し、250℃におけるアクリル系共重合体を基準として1%質量減少したときの温度を求めた。
【0109】
<アクリル系共重合体の合成>
以下の通り、アクリル系共重合体(a−1)〜(a−9)、(b−1)〜(b−7)を合成し、得られたアクリル系共重合体の重量平均分子量Mw、ガラス転移温度Tg、MFR、残存モノマー量、および1%質量減少温度を測定した。
【0110】
[アクリル系共重合体(a−1)の合成]
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、脱イオン水300質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(株式会社クラレ社製クラレポバール)0.6質量部を合わせて投入し、撹拌を開始した。次に、N−シクロヘキシルマレイミド(以下、場合により「CHMI」と表す。)15質量部と、メタクリル酸メチル(以下、場合により「MMA」と表す。)81質量部と、メタクリル酸ベンジル(以下、場合により「BnMA」と表す。)4質量部と、重合開始剤として日本油脂株式会社製のパーロイルTCPを1質量部と、連鎖移動剤として0.22質量部の1−オクタンチオールとを仕込み、反応釜に窒素を通じつつ、70℃まで昇温させた。70℃に達した状態を3時間保持した後、冷却し、濾過、洗浄、乾燥によって粒子状のアクリル系共重合体(a−1)を得た。
【0111】
[アクリル系共重合体(a−2)の合成]
連鎖移動剤の仕込量を0.48質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−2)を得た。
【0112】
[アクリル系共重合体(a−3)の合成]
連鎖移動剤の仕込量を0.11質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−3)を得た。
【0113】
[アクリル系共重合体(a−4)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)20質量部、メタクリル酸メチル(MMA)75質量部、メタクリル酸ベンジル(BnMA)5質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−4)を得た。
【0114】
[アクリル系共重合体(a−5)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)12質量部、メタクリル酸メチル(MMA)86質量部、メタクリル酸ベンジル(BnMA)2質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−5)を得た。
【0115】
[アクリル系共重合体(a−6)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)16質量部、メタクリル酸メチル(MMA)81質量部、メタクリル酸ベンジル(BnMA)3質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−6)を得た。
【0116】
[アクリル系共重合体(a−7)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)13質量部、メタクリル酸メチル(MMA)81質量部、メタクリル酸ベンジル(BnMA)6質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−7)を得た。
【0117】
[アクリル系共重合体(a−8)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)8質量部、メタクリル酸メチル(MMA)82質量部、メタクリル酸ベンジル(BnMA)10質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−8)を得た。
【0118】
[アクリル系共重合体(a−9)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)15質量部、メタクリル酸メチル(MMA)81質量部、メタクリル酸ベンジル(BnMA)4質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(a−9)を得た。
【0119】
[アクリル系共重合体(b−1)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)10質量部、メタクリル酸メチル(MMA)90質量部、およびメタクリル酸ベンジル(BnMA)0質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(b−1)を得た。
【0120】
[アクリル系共重合体(b−2)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)20質量部、メタクリル酸メチル(MMA)80質量部、およびメタクリル酸ベンジル(BnMA)0質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(b−2)を得た。
【0121】
[アクリル系共重合体(b−3)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)23質量部、メタクリル酸メチル(MMA)73質量部、およびメタクリル酸ベンジル(BnMA)4質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(b−3)を得た。
【0122】
[アクリル系共重合体(b−4)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)8質量部、メタクリル酸メチル(MMA)88質量部、およびメタクリル酸ベンジル(BnMA)4質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(b−4)を得た。
【0123】
[アクリル系共重合体(b−5)の合成]
モノマーの仕込量を、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI)7質量部、メタクリル酸メチル(MMA)81質量部、およびメタクリル酸ベンジル(BnMA)12質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(b−5)を得た。
【0124】
[アクリル系共重合体(b−6)の合成]
連鎖移動剤の仕込量を0.52質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(b−6)を得た。
【0125】
[アクリル系共重合体(b−7)の合成]
連鎖移動剤の仕込量を0.09質量部に変更したこと以外は、アクリル系共重合体(a−1)と同様にしてアクリル系共重合体の合成を行い、アクリル系共重合体(b−7)を得た。
【0126】
得られたアクリル系用重合体アクリル系共重合体(a−1)〜(a−9)、(b−1)〜(b−7)の質量平均分子Mw、ガラス転移温度Tg、MFR、残存モノマー量、および1%質量減少温度の測定結果は下記の表2に示される通りであった。
【0127】
【表2】
【0128】
<二軸延伸フィルムの評価方法>
次に、上記で得られたアクリル系共重合体(a−1)〜(a−9)、(b−1)〜(b−7)を用いて、以下の実施例および比較例の二軸延伸フィルムを製造した。得られた各実施例および比較例の二軸延伸フィルムの厚み、厚みムラ、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth、光弾性係数C、MIT耐折度回数、黄色味の指標であるb
*値、および耐光性は、以下のようにして測定した。
【0129】
二軸延伸フィルム(A−1)の厚みは、デジタル測長機(デジマイクロMF501、ニコン社製)を用いて測定した。また、フィルム厚みムラ(単位:%)は、フィルム原反の両端の耳を各10mm切り落とした後のロールサンプルを幅方向等間隔に20箇所測定した厚みの最大値をt
1μm、最小値をt
2μm、平均値をt
3μmとしたとき、厚みムラ=100×(t
1―t
2)/t
3として計算される値とした。
【0130】
面内位相差Re、および厚み方向位相差Rthは、Axometrics社製Axoscan装置を用いて測定した。
【0131】
光弾性係数Cは、Axometrics社製Axoscan装置を用いてフィルムの位相差値であるレタデーション(Re)の二軸延伸フィルムにかけた応力による変化量を測定して求められる。具体的には、次式(3)のとおりである。
C=ΔRe/(Δσ×t) …(3)
Δσはフィルムにかかった応力の変化量(単位:Pa)であり、tはフィルムの膜厚(単位:m)、ΔReはΔσの応力の変化量に対応した面内位相差値の変化量(単位:m)である。
【0132】
MIT耐折度回数の測定は、JIS P8115に準拠し、テスター産業株式会社製のBE−201 MIT耐折度試験機を使用して行った。測定条件は、加重200g、折り曲げ点先端Rは0.38、屈曲速度は175回/分、屈曲角度は左右135°とし、フィルムサンプルの幅は15mmとした。そして、二軸延伸フィルムの搬送方向(MD方向)に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数と、幅方向(TD方向)に繰り返し屈曲させたときに破断した屈曲回数との平均値をMIT耐屈度試験回数とした。
【0133】
黄色味の指標であるb
*値の測定は、二軸延伸フィルムの分光スペクトルを日本電色工業(株)製Spectrophotometer SD6000を用いて測定して求めた。測定条件は、キセノンウェザーメーター〔東洋精機製作所 アトラスCi4000〕を用いて、二軸延伸フィルムに、放射照度60W/m
2、ブラックパネル温度63±3℃、湿度50%RH、600時間光照射として行なった。
【0134】
また、耐光性の評価には、キセノンウェザーメーター〔東洋精機製作所 アトラスCi4000〕を用いて、二軸延伸フィルムに、放射照度60W/m
2、ブラックパネル温度63±3℃、湿度50%RH、600時間光照射して行った。光照射後のb
*値を光照射前のb
*値(b
*1)から差し引きした値Δb
*(=b
*1−b
*)、光照射前後における面内位相差Reの差し引き値ΔRe(=光照射前Re−光照射後Re)、光照射前後における厚み方向位相差Rthの差し引き値ΔRth(=光照射前Rth−光照射後Rth)、光照射前後における光弾性係数Cの差し引き値ΔC(=光照射前C−光照射後C)、および光照射前後におけるMIT耐折度回数の差し引き値ΔMIT(=光照射前MIT−光照射後MIT)を求め、耐光性を評価した。
【0135】
<二軸延伸フィルムの製造>
[実施例1]
(二軸延伸フィルム(A−1)の製造)
粒子状のアクリル系共重合体(a−1)を、2軸スクリュー式押し出し機(KZW−30MG、テクノベル社製)を用いてフィルムとした。2軸押し出し機のスクリュー径は、15mm、スクリュー有効長(L/D)は、30であり、押し出し機にはアダプタを介してハンガーコートタイプのTダイが設置されている。また、押し出し機の溶融ゾーンからTダイまでの間には、ポリマーフィルター(長瀬産業社製、リーフディスクフィルター、目開き:10μm、7インチ、31枚ユニット)が備えられている。押し出し温度Tp℃は、ガラス転移温度がTg℃である非結晶性ポリマーの場合、式(5)が最適となることから、238℃とした。
Tp=5(Tg+70)/4 …(5)
また、2軸スクリュー式押し出し機中のポリマーフィルターの前後での圧力差(Mpa)をモニターし、ポリマーフィルターにかかる圧力を調べた。結果は、下記の表3に示されるとおりであった。
【0136】
また、Tダイリップから吐出された溶融樹脂が最初に接触する第1ロールの温度T1(℃)は、溶融樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、(Tg−24)≦T1≦(Tg+24)の範囲が好ましいことから、第1ロールの温度T1は、130℃とした。
【0137】
得られたフィルム原反(未延伸フィルム)を井元製作所製二軸延伸機にて延伸し(延伸温度:Tg+9℃、延伸倍率:1.5×1.5倍、同時二軸延伸)、二軸延伸フィルム(A−1)を得た。
【0138】
[実施例2]
(二軸延伸フィルム(A−2)の製造)
延伸倍率を1.2×1.2倍に変更し、厚みが40μmとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−2)を得た。
【0139】
[実施例3]
(二軸延伸フィルム(A−3)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−2)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−3)を得た。
【0140】
[実施例4]
(二軸延伸フィルム(A−4)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−3)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−4)を得た。
【0141】
[実施例5]
(二軸延伸フィルム(A−5)の製造)
延伸倍率を2.0×2.0倍に変更し、厚みが40μmとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−5)を得た。
【0142】
[実施例6]
(二軸延伸フィルム(A−6)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−4)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−6)を得た。
【0143】
[実施例7]
(二軸延伸フィルム(A−7)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−5)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−7)を得た。
【0144】
[実施例8]
(二軸延伸フィルム(A−8)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−6)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−8)を得た。
【0145】
[実施例9]
(二軸延伸フィルム(A−9)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−7)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−9)を得た。
【0146】
[実施例10]
(二軸延伸フィルム(A−10)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−8)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−10)を得た。
【0147】
[実施例11]
(二軸延伸フィルム(A−11)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(a−9)に変更し、第1ロールの温度を145℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−11)を得た。
【0148】
[実施例12]
(二軸延伸フィルム(A−12)の製造)
第1ロールの温度を105℃に変更し、厚みが40μmとなるようにしたこと以外は、実施例11と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−12)を得た。
【0149】
[実施例13]
(二軸延伸フィルム(A−13)の製造)
第1ロールの温度を140℃に変更し、厚みが40μmとなるようにしたこと以外は、実施例11と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(A−13)を得た。
【0150】
[比較例1]
(二軸延伸フィルム(B−1)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−1)に変更し、第1ロールの温度を122℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−1)を得た。
【0151】
[比較例2]
(二軸延伸フィルム(B−2)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−2)に変更し、第1ロールの温度を134℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−2)を得た。
【0152】
[比較例3]
(二軸延伸フィルム(B−3)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−3)に変更し、第1ロールの温度を135℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−3)を得た。
【0153】
[比較例4]
(二軸延伸フィルム(B−4)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−4)に変更し、第1ロールの温度を120℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−4)を得た。
【0154】
[比較例5]
(二軸延伸フィルム(B−5)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−5)に変更し、第1ロールの温度を119℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−5)を得た。
【0155】
[比較例6]
(二軸延伸フィルム(B−6)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−6)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−6)を得た。
【0156】
[比較例7]
(二軸延伸フィルム(B−7)の製造)
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−7)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−7)を得た。
【0157】
[比較例8]
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−1)に変更し、第1ロールの温度を142℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行ったが、第1ロールにフィルムが貼りついて製膜できなかった。
【0158】
[比較例9]
(二軸延伸フィルム(B−8)の製造)
第1ロールの温度を92℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−8)を得た。
【0159】
[比較例10]
アクリル系共重合体(a−1)をアクリル系共重合体(b−2)に変更し、第1ロールの温度を154℃としたこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行ったが、第1ロールにフィルムが貼りついて製膜できなかった。
【0160】
[比較例11]
(二軸延伸フィルム(B−9)の製造)
第1ロールの温度を104℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして二軸延伸フィルムの製造を行い、二軸延伸フィルム(B−9)を得た。
【0161】
上記のようにして得られた二軸延伸フィルム(A−1)〜(A−13)、(B−1)〜(B−9)の厚み、厚みムラ、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth、光弾性係数C、MIT耐折度回数、黄色味の指標であるb
*値、および耐光性を測定した。測定結果は、下記の表3に示されるとおりであった。
【0162】
【表3】