(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5697788
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】乳酸菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20150319BHJP
C12R 1/01 20060101ALN20150319BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 A
C12R1:01
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-189564(P2014-189564)
(22)【出願日】2014年9月18日
【審査請求日】2014年9月18日
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-01919
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501195223
【氏名又は名称】株式会社日本バリアフリー
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 忠士
【審査官】
吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−265181(JP,A)
【文献】
特開2011−010594(JP,A)
【文献】
特開2009−136158(JP,A)
【文献】
特開2008−263898(JP,A)
【文献】
British Journal of Nutrition,2007年,97,p.522-527
【文献】
INTERNATIONAL JOURNAL OF SYSTEMATIC AND EVOLUTIONARY MICROBIOLOGY,2011年,61,p.1894-1898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20−1/21
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サケの腸内容物から単離された乳酸菌であって、標準菌であるラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)NBRC(登録商標)100933に対し、胆汁耐性が胆汁濃度0.25〜2.5%(w/v)の範囲で55〜70倍、酸耐性がpH4〜5の範囲で7倍以上、食塩耐性が食塩濃度4〜5質量%の範囲で1.3倍以上、活性酸素種の毒性に対する保護作用が2倍以上であり、豆乳に対する発酵能を備えるラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)BF3株(NITE P−01919)に属することを特徴とする乳酸菌。
【請求項2】
請求項1記載の乳酸菌において、前記活性酸素種は過酸化水素から発生する活性酸素であることを特徴とする乳酸菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サケの腸内容物から単離された新規な乳酸菌に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発酵食品等から単離された乳酸菌が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)又は、ラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の何れかに属し、死菌の乾燥菌体重量1mg当たり、60容量%エタノール溶液において1.2μg以上のコレステロール吸着量を示し、且つリン酸緩衝液(pH6.8)において33nmol以上の胆汁酸吸着量を示す乳酸菌が記載されている。また、前記乳酸菌は、血中コレステロールの低減に有用であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−189973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、乳酸菌は前記発酵食品以外にも各種の分離源があり、従来活用されていない分離源から新たな特性を備える乳酸菌を分離することが望まれる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、サケの腸内容物から単離された新規な乳酸菌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、サケの腸内容物から単離された乳酸菌について検討した結果、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)BF3(NITE P−01919)と命名した乳酸菌が、標準菌に対して、胆汁耐性、酸耐性、食塩耐性、活性酸素種の毒性に対する保護作用に優れ、豆乳を発酵させて固化できることを見い出した。
【0008】
そこで、本発明は、サケの腸内容物から単離された乳酸菌であって、標準菌
であるラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)NBRC(登録商標)100933に対し、胆汁耐性が胆汁濃度0.25〜2.5%(w/v)の範囲で55〜70倍、酸耐性がpH4〜5の範囲で7倍以上、食塩耐性が食塩濃度4〜5質量%の範囲で1.3倍以上、活性酸素種の毒性に対する保護作用が2倍以上であり、豆乳に対する発酵能を備えるラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)BF3株(NITE P−01919)に属することを特徴とする。
【0010】
また、本発明において、前記活性酸素種は、例えば、過酸化水素から発生する活性酸素である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の乳酸菌の特性を示すグラフであり、(a)は胆汁耐性、(b)は酸耐性、(c)は食塩耐性を示すグラフ。
【
図2】本発明の乳酸菌の過酸化酸素の毒性に対する保護作用を示すグラフ。
【
図3】本発明の乳酸菌の過酸化酸素の毒性に対する保護作用の濃度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0013】
本実施形態の乳酸菌は、北海道羅臼産の雄のシロザケの腸内容物から単離されたものである。前記腸内容物からの単離は次のようにして行った。
【0014】
まず、北海道羅臼産の雄のシロザケの腸内容物を無菌的に採取し、採取した腸内容物を培養液(GAM液体培地、日水製薬株式会社製、嫌気性菌用)に1gずつ接種し、30℃の温度で3日間浸漬培養後、濁りの有無を確認した。次に、濁りの認められた培養液を位相差顕微鏡で観察し、菌体の認められた培養液を寒天平板培地に1白金耳画線塗沫し、嫌気培養装置(三菱ガス化学株式会社製、商品名:アネロパック)内で、嫌気条件下、30℃の温度に保持して3日間培養した。前記寒天平板培地は、前記GAM液体培地に1.5%w/vの寒天を添加して固めたものである。
【0015】
次に、前記培養後に出現したコロニーについて、グラム染色及びカタラーゼ試験を行い、グラム陽性であってカタラーゼ陰性である菌を簡易的に乳酸菌として分離した。次に、分離した菌体について、16SrRNA遺伝子約500塩基の塩基配列についてBLAST検索を行うことにより、得られた菌体はラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)と同定された。
【0016】
本出願人は、前記菌体をラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)BF3株(以下、BF3と略記する)と命名した。BF3株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−01919として、2014年8月21日付けで寄託されている。
【0017】
BF3株の菌学的性質を表1、表2に示す。
【0020】
次に、BF3株の特性について説明する。
【0021】
〔胆汁耐性〕
まず、BF3株をBHI(Brain heart infusion)液体培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(Thermo Fisher Scientific Inc.)製)で37℃の温度に保持して一晩培養し、BF3株培養液を調製した。
【0022】
次に、胆汁粉末(和光純薬工業株式会社製)を0〜2.5%w/vの範囲で添加したBHI液体培地4mlに、BF3株培養液0.04ml(1%v/v)を接種し、37℃の温度に保持して一晩培養後、培養液の濁度を分光光度計により波長600nmで測定した。
【0023】
次に、標準菌としてラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)NBRC
(登録商標)10093
3を用いた以外は、BF3株と全く同一にして、培養液の濁度を分光光度計により波長600nmで測定した。結果を
図1(a)にOD600として示す。
【0024】
図1(a)から、BF3株は前記標準菌に対して、胆汁濃度0.25〜2.5%(w/v)の範囲で、55〜70倍の胆汁耐性を備えていることが明らかである。また、
図1(a)から、前記標準株は胆汁濃度0.25〜2.5%(w/v)の範囲では殆ど増殖できないが、BF3株は胆汁濃度0.25〜2.5%(w/v)の範囲でも増殖できることが明らかである。
【0025】
〔酸耐性〕
まず、BF3株をBHI液体培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(Thermo Fisher Scientific Inc.)製)で37℃の温度に保持して一晩培養し、BF3株培養液を調製した。
【0026】
次に、pH3.0〜9.0の範囲に調整したBHI液体培地4mlに、BF3株培養液0.04ml(1%v/v)を接種し、37℃の温度に保持して一晩培養後、培養液の濁度を分光光度計により波長600nmで測定した。
【0027】
次に、前記標準菌を用いた以外は、BF3株と全く同一にして、培養液の濁度を分光光度計により波長600nmで測定した。結果を
図1(b)にOD600として示す。
【0028】
図1(b)から、BF3株は前記標準菌に対して、pH4〜5の範囲で、7倍以上の酸耐性を備えていることが明らかである。また、
図1(b)から、前記標準菌はpH4以下では増殖できないが、BF3株はpH4以下でも増殖できることが明らかである。
【0029】
〔食塩耐性〕
まず、BF3株をBHI液体培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(Thermo Fisher Scientific Inc.)製)で37℃の温度に保持して一晩培養し、BF3株培養液を調製した。
【0030】
次に、食塩(NaCl)の濃度を0〜5質量%の範囲に調整したBHI液体培地4mlに、BF3株培養液0.04ml(1%v/v)を接種し、37℃の温度に保持して一晩培養後、培養液の濁度を分光光度計により波長600nmで測定した。
【0031】
次に、前記標準菌を用いた以外は、BF3株と全く同一にして、培養液の濁度を分光光度計により波長600nmで測定した。結果を
図1(c)にOD600として示す。
【0032】
図1(c)から、BF3株は前記標準菌に対して、食塩濃度4〜5質量%の範囲で、1.3倍以上の食塩耐性を備えていることが明らかである。また、
図1(c)から、前記標準菌は食塩濃度5質量%では増殖できないが、BF3株は食塩濃度5質量%でも増殖できることが明らかである。
【0033】
〔活性酸素種の毒性に対する保護作用〕
まず、MRSブイヨン(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(Thermo Fisher Scientific Inc.)製)で一晩培養し、分光光度計により波長660nmで測定した濁度(OD660)が2.0になるように調整したBF3株の死菌液に、GYP培地で30℃の温度に保持して4日間培養した酵母(Saccharomyces cerevisiae)の培養液をそれぞれ1%v/vになるように接種し、30℃の温度に保持して120rpmで1時間振盪培養を行った。
【0034】
次に、前記振盪培養後、培養液に最終濃度が3mMとなるように過酸化水素を添加し、再び30℃の温度に保持して120rpmで1時間振盪した。
【0035】
次に、前記振盪後、各培養液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)により50倍に希釈し、0.01質量%のクロラムフェニコールを添加したポテトデキストロース寒天培地(日水製薬株式会社製)に塗沫し、30℃の温度に保持して3日間培養した。培養後、前記ポテトデキストロース寒天培地に形成されたコロニー数を計測し、酵母の生存数を測定した。
【0036】
次に、ブランクとして、過酸化水素を全く添加しなかった以外は前記と全く同一にして、酵母の生存数を測定した。
【0037】
次に、前記ブランクにおける酵母の生存数の平均値を100%として、該平均値に対する過酸化酸素を添加した場合の酵母の生存数から生残率を算出した。
【0038】
次に、コントロールとして、BF3株を全く添加しなかった以外は前記と全く同一にして、酵母の生存数を測定し、前記ブランクにおける酵母の生存数の平均値に対する生残率を算出した。
【0039】
また、BF3株に代えて前記標準株を用いた以外は前記と全く同一にして、酵母の生存数を測定し、前記ブランクにおける酵母の生存数の平均値に対する生残率を算出した。結果を
図2に示す。
【0040】
過酸化酸素は活性酸素を発生させ、該活性酸素が前記酵母に対して毒性を示す。BF3及び前記標準菌はいずれも前記毒性に対する保護作用を示し、該毒性を軽減することができるが、
図2から、BF3株は前記標準菌に対して、最終濃度3mMの過酸化水素で2倍以上の保護作用を備えていることが明らかである。
【0041】
次に、分光光度計により波長660nmで測定した濁度(OD660)が0.25〜2.0になるように調整したBF3株の死菌液を用いた以外は、前記と全く同一にして酵母の生存数を測定し、前記ブランクにおける酵母の生存数の平均値に対する生残率を算出した。結果を
図3に示す。
【0042】
図3から、BF3株の過酸化水素から発生する活性酸素の毒性に対する保護作用は濃度依存性を備えており、BF3株の濃度(OD660)が大になるほど該保護作用も大になることがあきらかである。
【0043】
〔豆乳に対する発酵能〕
まず、BF3株をMRSブイヨン(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(Thermo Fisher Scientific Inc.)製)で37℃の温度に保持して一晩培養し、BF3株培養液を調製した。
【0044】
次に、固形分9質量%を含む豆乳(pH6.4±0.0)に、BF3株培養液をそれぞれ2%v/vになるように接種し、37℃の温度に保持して48時間発酵させた。
【0045】
前記発酵後、豆乳のpHを測定した。また、豆乳のカードの生成の有無により固化を確認した。
【0046】
次に、BF3株に代えて前記標準菌を用いた以外は前記と全く同一にして豆乳の発酵を行い、前記発酵後、豆乳のpHを測定した。また、豆乳のカードの生成の有無により固化を確認した。
【0047】
この結果、BF3株は前記豆乳のpHを4.4±0.1まで下げ、該豆乳を固化することができたが、前記標準株は該豆乳のpHを5.4±0.0までしか下げることができず、該豆乳を固化させることができなかった。従って、BF3株は前記豆乳に対する発酵能を備えているが、前記標準株は該豆乳に対する発酵能を備えていないことが明らかである。
【0048】
次に、前記特性に基づくBF3株の利用可能性について説明する。
【0049】
BF3株は、前述のように、胆汁耐性、酸耐性及び食塩耐性に優れているため、経口摂取した場合に、胃酸や胆汁等に犯されることなく、腸内まで達することができ、腸内環境を整備することができる。
【0050】
また、BF3株は、前述のように食塩耐性に優れているため、醤油、味噌等の食塩を多く含む食品の発酵に用いることができる。
【0051】
また、BF3株は、前述のように過酸化酸素等の活性酸素の毒性に対する保護作用に優れているため、人体内に取り込まれた酸素の一部が活性酸素に変化することにより生じるがん、生活習慣病、老化、皮膚の変性(しみ、しわ等)等を防止する食品、健康食品、化粧品、医薬品、医薬部外品等として利用することができる。
【0052】
また、BF3株は、前述のように豆乳に対する発酵能を備えているため、豆乳を用いたチーズ(SOYチーズ)の製造、凝固剤を使わない豆腐の製造に利用することができる。
【要約】
【課題】サケの腸内容物から単離された新規な乳酸菌を提供する。
【解決手段】サケの腸内容物から単離された乳酸菌であって、標準菌に対し、胆汁耐性が胆汁濃度0.25〜2.5%(w/v)の範囲で55〜70倍、酸耐性がpH4〜5の範囲で7倍以上、食塩耐性が食塩濃度4〜5質量%の範囲で1.3倍以上、活性酸素種の毒性に対する保護作用が2倍以上であり、豆乳に対する発酵能を備えるラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)BF3株(NITE P−01919)に属する。
【選択図】
図1