特許第5697851号(P5697851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697851
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】車両用開閉体制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/603 20150101AFI20150319BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20150319BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20150319BHJP
   B60J 7/057 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   E05F15/10
   B60J1/00 C
   B60J5/00 D
   B60J7/057 Q
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-71803(P2009-71803)
(22)【出願日】2009年3月24日
(65)【公開番号】特開2010-222855(P2010-222855A)
(43)【公開日】2010年10月7日
【審査請求日】2012年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正樹
【審査官】 七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4135706(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00− 15/20
B60J 1/00− 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた開口部を開閉する車両用開閉体の位置を制御する車両用開閉体制御装置であって、
電源から供給される電力によって前記車両用開閉体を駆動する電動モーターと、
前記電動モーターの回転により生じる負荷を推定する推定部と、
補正部によって算出されるフィルタリング後の負荷推定値を算出する際に用いられ、前記推定部によって推定されるフィルタリング前の負荷推定値と前記補正部によって以前に算出されたフィルタリング後の前回負荷推定値との重み付け関数に入力する係数を決定するフィルタ制御部と、
前記重み付け関数に前記フィルタリング前の負荷推定値を乗算する式と、1から前記重み付け関数を減算した式に前記フィルタリング後の前回負荷推定値を乗算する式と、を加算して表わされる式に、前記係数を代入して前記フィルタリング後の負荷推定値を算出し、前記フィルタリング前の負荷推定値を、算出した前記フィルタリング後の負荷推定値に補正する前記補正部と、
前記フィルタリング後の負荷推定値の変化量を負荷積算値として算出する負荷積算部と、
予め設定された閾値と前記負荷積算値とを比較することによって、前記車両用開閉体と前記開口部の縁部との間に物体が挟まれたか否か判定する判定部と、
前記判定部によって物体が挟まれたと判定された場合に前記電動モーターの回転を停止させるモーター制御部と、
を備える車両用開閉体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に取り付けられるサンルーフや窓等の車両用開閉体を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の天窓に配設されたサンルーフを電動モーターによって自動的に開閉する制御装置において、サンルーフによる物体の挟み込みを検知し、サンルーフを閉じる動作を停止する技術が提案されている。例えば、特許文献1にはサンルーフの移動速度の変動に基づいて挟み込みの検知を行う技術が開示されている。
【0003】
このような挟み込み検知の技術では、車両が悪路を走行するなどして車両に振動が生じた場合に、挟み込み発生時の検知遅れに伴う挟み込み荷重の増加や、逆に挟み込みが発生していないにもかかわらず誤って挟み込みが発生したと検知してしまうという問題があった。その原因は、車両の振動に応じて、サンルーフを駆動する電動モーターの回転速度が変動してしまうためである。
【0004】
このような問題に対し、車両の振動を検出する機能を設け、振動検出時には所定時間が経過するまで挟み込みの検知に用いられる閾値を高く設定する技術が提案されている。他にも、振動未検出時の電動モーターの回転速度を逐次記憶して挟み込み検知に使用することによって振動の影響を抑える技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−150791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前者の技術では、挟み込みの検知に用いられる閾値を一時的に高く設定した場合に、挟み込みの検知に遅延が生じてしまうという問題があった。また、後者の技術では、回転速度を記憶した際の環境(温度、湿度など)が現在と異なる場合には挟み込みの誤検知を起こす可能性があった。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、車両に振動が生じた場合の挟み込みの誤検知を抑止することを可能とする車両用開閉体制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、車両に設けられた開口部を開閉する車両用開閉体の位置を制御する車両用開閉体制御装置であって、電源から供給される電力によって前記車両用開閉体を駆動する電動モーターと、前記電動モーターの回転により生じる負荷を推定する推定部と、補正部によって算出されるフィルタリング後の負荷推定値を算出する際に用いられ、前記推定部によって推定されるフィルタリング前の負荷推定値と前記補正部によって以前に算出されたフィルタリング後の前回負荷推定値との重み付け関数に入力する係数を決定するフィルタ制御部と、前記重み付け関数に前記フィルタリング前の負荷推定値を乗算する式と、1から前記重み付け関数を減算した式に前記フィルタリング後の前回負荷推定値を乗算する式と、を加算して表わされる式に、前記係数を代入して前記フィルタリング後の負荷推定値を算出し、前記フィルタリング前の負荷推定値を、算出した前記フィルタリング後の負荷推定値に補正する前記補正部と、前記フィルタリング後の負荷推定値の変化量を負荷積算値として算出する負荷積算部と、予め設定された閾値と前記負荷積算値とを比較することによって、前記車両用開閉体と前記開口部の縁部との間に物体が挟まれたか否か判定する判定部と、前記判定部によって物体が挟まれたと判定された場合に前記電動モーターの回転を停止させるモーター制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、車両の振動によって生じる負荷推定値の変動が補正部によって補正されるため、車両の振動の影響による挟み込みの誤検知を抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】車両用開閉体システムの車両用開閉体システムの機能構成を表す概略ブロック図である。
図2】角速度算出部が行う角速度算出処理の概略を表す図である。
図3】電動モーターのアーマチュア軸のトルクT(縦軸)及びアーマチュア軸の角速度ω(横軸)の関係を表すグラフである。
図4】推定部によって推定される負荷推定値の時間変化を表すグラフである。
図5】負荷積算部によって算出される負荷積算値の時間変化を表すグラフである。
図6】車両の振動の影響を受けた負荷推定値の時間変化を表すグラフである。
図7】フィルタ制御部によるフィルタ制御処理の流れを表すフローチャートである。
図8】フィルタ部において常にフィルタ係数がフィルタ係数最小値gminに設定された場合の負荷推定値及び負荷積算値の時間変化を表すグラフである。
図9】フィルタ部において常にフィルタ係数がフィルタ係数最大値gmaxに設定された場合の負荷推定値及び負荷積算値の時間変化を表すグラフである。
図10】フィルタ制御部によってフィルタ係数が制御された場合の負荷推定値及び負荷積算値の時間変化を表すグラフである。
図11】フィルタ制御部によるフィルタ制御処理の変形例の流れを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、車両用開閉体システム100の機能構成を表す概略ブロック図である。車両用開閉体システム100は、車両用開閉体1、電源2、操作パネル3、車両用開閉体制御装置4を備える。
【0015】
車両用開閉体1は、車両に設けられた開口部を開閉するものであり、例えばドアの開口部(窓枠)に設けられたスライド式の窓ガラスや、屋根(ルーフ)の開口部に設けられたスライド式又はチルト式のサンルーフパネルや、屋根の開口部に設けられたサンルーフシェード等である。車両用開閉体1は、車両用開閉体制御装置4の電動モーター401から与えられる駆動力によって開閉動作を行う。
【0016】
電源2は、車両に設けられたバッテリー等の電力供給部であり、特に車両用開閉体制御装置4の電動モーター401を回転動作させるための電力や車両用開閉体制御装置4の各機能部が処理を行うための電力を供給する。
【0017】
操作パネル3は、使用者が車両用開閉体の開閉動作を指示するためのボタンを有し、押下されたボタンに応じた入力信号を車両用開閉体制御装置4のモーター制御部402に対して出力する。例えば、操作パネル3は、使用者によって開ボタンが押下された場合には開信号をモーター制御部402に対して出力し、閉ボタンが押下された場合には閉信号をモーター制御部402に対して出力する。
【0018】
車両用開閉体制御装置4は、電動モーター401、モーター制御部402、電圧値検出部403、角速度算出部404、推定部405、フィルタ制御部406、フィルタ部407、負荷積算部408、判定部409を備える。
【0019】
電動モーター401は、図示しないアーマチュア軸とアーマチュア軸の回転を減速させ、出力する図示しない減速機構を有する減速機構付モーターであって、モーター制御部402による制御に従ってアーマチュア軸を回転動作させ、アーマチュア軸の回転によって生じた駆動力を車両用開閉体1へ与える。電動モーター401には、モーターパルス検出部が設けられる。具体的には、複数の磁極を有するマグネットがアーマチュア軸と一体回転可能に取り付けられると共に、そのマグネットの近傍にセンサーとしてホールIC(Integrated Circuit)が設置される。アーマチュア軸が回転すると、アーマチュア軸の回転に連動してマグネットも回転する。そして、ホールICはマグネットの回転による磁極の切り替わりごとにモーターパルスを発生する。電動モーター401は、ホールICから発生したモーターパルスを、角速度算出部404に対して出力する。
【0020】
モーター制御部402は、操作パネル3及び判定部409からの指示に基づいて、電源2から供給される電力を電動モーター401に与え、電動モーター401のアーマチュア軸の回転を制御する。例えば、モーター制御部402は操作パネル3から開信号を入力すると、車両用開閉体1が開く方向へ動くように電動モーター401のアーマチュア軸を回転させるべく、電源2から供給される電力を電動モーター401に通電させる制御を行う。また、モーター制御部402は判定部409から停止信号を入力すると、電動モーター401のアーマチュア軸の回転を停止させるべく、電源2から電動モーター401へ供給される電力を遮断する制御を行う。また、モーター制御部402は、電動モーター401の制御状態を表す信号をフィルタ制御部406に出力する。
【0021】
電圧値検出部403は、電源2からモーター制御部402を介して電動モーター401に印加される電圧の大きさ(電圧値)を検出する。
角速度算出部404は、電動モーター401のホールICから出力されるモーターパルスに基づいて、電動モーター401のアーマチュア軸の回転における角速度を算出する。また、角速度算出部404は、モータパルスに基づいて、電動モータ401のアーマチュア軸の回転回数を計数する回転回数カウンタ(不図示)を有する。なお、角速度算出部404が行う角速度算出処理は、既存のどのような技術によって実現されても良い。
【0022】
推定部405は、電圧値検出部403によって検出された電圧値と、角速度算出部404によって算出された角速度とに基づいて、電動モーター401のアーマチュア軸の回転によって生じるトルクの大きさを推定する。
【0023】
フィルタ制御部406は、モーター制御部402による電動モーター401の制御状態及び推定部405によって推定されたトルクの大きさの時間変化に基づいて、フィルタ部407におけるフィルタ係数を決定する。また、フィルタ制御部406は図示しないフィルタカウンタを有し、状況に応じてフィルタカウンタの値をリセット、インクリメント、またはデクリメントする。
【0024】
フィルタ部407は、フィルタ制御部406によって決定されたフィルタ係数と、推定部405によって以前に推定されたトルクの大きさと、に基づいて、推定部405によって新たに推定されたトルクの大きさを補正する。具体的には、フィルタ部407は、フィルタ制御部406によって決定されたフィルタ係数に基づいて、推定部405によって推定されたトルクの大きさの時間変化に対しフィルタリングを行う。
【0025】
負荷積算部408は、電動モーター401が回転を開始した後に、推定部405によって推定されフィルタ部407によってフィルタリングされた後のトルクの大きさの変化量を積算する。
【0026】
判定部409は、負荷積算部408によって算出された負荷積算値と、予め設定されている閾値とに基づいて、車両用開閉体1と開口部の縁部との間に物体が挟まれたか否か(挟み込み発生の有無)について判定する。具体的には、判定部409は、負荷積算値が閾値より大きくなった場合に挟み込みが発生したと判定する。判定部409は、挟み込みが発生したと判定した場合、モーター制御部402に対し停止信号を出力し電動モーター401の回転を停止させる。
【0027】
図2は、角速度算出部404が行う角速度算出処理の概略を表す図である。A相センサー信号とB相センサー信号とは、それぞれアーマチュア軸と同心円の円周上の異なる角度(180度よりも小さい角度)の位置に設置された二つのホールICから出力されるモーターパルスである。図2の場合は、二つのホールICは90度ずれて設置される。また、アーマチュア軸に取り付けられるマグネットは4極(90度ずつずれて)取り付けられる。図2の場合、角速度算出部404は、式1及び式2に基づいて角速度ω(n)を算出する。なお、式2においてzは減速比を表す。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
図3は、電動モーター401のアーマチュア軸のトルクT(縦軸)及びアーマチュア軸の角速度ω(横軸)の関係を表すグラフである。基準電圧時の特性直線は、予め定められた基準電圧が電動モーター401に印加された場合の特性直線を表す。また、特性直線と縦軸(トルク軸)とが交わるときのトルクの値を、ロックトルクと呼ぶ。また、推定時の特性直線は、基準電圧とは異なる電圧が電動モーター401に印加されている場合の特性直線を表す。
【0031】
推定部405は、基準電圧時の特性直線に基づいてトルクの大きさを推定する。以下、推定部405による推定処理の内容について説明する。推定部405は、式3に基づいて、電動モーター401によって生じるトルクT(k)を算出する。式3において、Tlockは基準電圧時のロックトルクを表し、Vbaseは基準電圧値を表し、vmod(k)は電圧値検出部403によって検出された電圧値を表し、aは基準電圧時の特性直線の傾きを表し、ω(k)は角速度算出部404によって算出された角速度を表す。このうち、Tlock、Vbase、aの三つの値は、予め推定部405において設定された既知の値である。
【0032】
【数3】
【0033】
また、推定部405は、式4に基づいて、慣性モーメントに係るトルクT(k)を算出する。式4において、T(k)はパルスエッジ間時間を表し、Jは慣性モーメントを表す。なお、パルスエッジ間時間とは、角速度算出部404において検出された最新のT(n)の値(図2参照)を表す。このうち、Jは、予め推定部405において設定された既知の値である。
【0034】
【数4】
【0035】
そして、推定部405は、式3及び式4の算出結果と式5に基づいてトルクの推定値T(k)を算出する。
【0036】
【数5】
【0037】
図4は、推定部405によって推定されるトルク(負荷推定値)の時間変化を表すグラフである。推定部405は、所定のサンプル時間が経過する度に、負荷推定値を算出する。フィルタ制御部406はこのサンプル時間が経過する度にフィルタ係数を決定する。そして、フィルタ部407は、決定されたフィルタ係数に基づいて、推定部405によって推定された最新の負荷推定値及び以前に算出された負荷推定値を用いてフィルタリング後の負荷推定値を算出する。具体的には、フィルタ部407は以下に示す式6を用いて、フィルタリング後の負荷推定値Tmod(k)を算出する。式6において、T(k)はフィルタリング前の最新の負荷推定値を表し、Tmod(k−1)は一つ前のサンプリング時に算出されたフィルタリング後の負荷推定値を表し、gはフィルタ制御部406によって決定されたフィルタ係数を表す。
【0038】
【数6】
【0039】
また、式6においてf(g)はフィルタ係数gによって表される関数であり、例えば式7のように表されても良いし、他の式によって表されても良い。
【0040】
【数7】
【0041】
図5は、負荷積算部408によって算出される負荷積算値の時間変化を表すグラフである。負荷積算部408は、図4に表されるサンプル時間が経過する度に、フィルタ部407によってフィルタリングされた後の負荷推定値を用いて、負荷積算値を算出する。具体的には、負荷積算部408は以下に示す式8を用いて負荷積算値Tadd(k)を算出する。式8において、Tadd(k−1)は一つ前のサンプリング時に算出された負荷積算値を表す。
【0042】
【数8】
【0043】
図6は、車両の振動の影響を受けた負荷推定値の時間変化を表すグラフである。理想的には、挟み込みが発生していない場合の負荷推定値は時間変化がなく一定値となる。しかしながら、車両に振動が生じると電動モーター401の角速度に変動が生じ、その結果推定部405による負荷推定値に上下の変動が生じてしまう。そのため、負荷推定値の変動には、負荷推定値が時間の経過と共に上昇する期間(上昇期間)と、負荷推定値が時間の経過と共に下降する期間(下降期間)とが生じる。フィルタ制御部406は、上昇期間と下降期間とでそれぞれ異なる値をフィルタ係数として決定する。
【0044】
図7は、フィルタ制御部406によるフィルタ制御処理の流れを表すフローチャートである。フィルタ制御部406は、サンプル時間が経過する度に以下に示すフィルタ制御処理を実行しフィルタ係数を更新する。なお、フィルタ制御部406は、フィルタ制御処理において用いられる各値(角速度用閾値Thω、フィルタカウンタ用閾値Th、フィルタ係数最大値gmax、フィルタ係数最小値gmin)を予め記憶する。
【0045】
フィルタ制御処理が開始されると、まずフィルタ制御部406は電動モーター401が作動中であるか否かについて電動モーター401の制御状態に基づいて判断する(ステップS101)。例えば、制御状態が開動作中や閉動作中であり、停止信号が出力されていない状態であれば、フィルタ制御部406はモーター作動中であると判断する。一方、開動作中又は閉動作中でない場合や、停止信号が出された後であって再度開動作又は閉動作が開始されていない場合などには、フィルタ制御部406はモーター作動中ではないと判断する。
【0046】
モーター作動中ではないと判断した場合(ステップS101−NO)、フィルタ制御部406は、フィルタカウンタの値を0に初期化し(ステップS102)、フィルタ係数を予め定められている初期値に設定し初期化する(ステップS103)。
【0047】
一方、モーター作動中であると判断した場合(ステップS101−YES)、フィルタ制御部406は、新たに推定部405から出力された最新の負荷推定値が、前回の負荷推定値よりも下降したか否か判定する(ステップS104)。
【0048】
負荷推定値が下降している場合(ステップS104−YES)、フィルタ制御部406は、角速度算出部404によって算出される角速度を参照し、電動モーター401の回転の角速度が角速度用閾値Thω以上であるか否か判定する(ステップS105)。角速度が角速度用閾値Thω以上である場合(ステップS105−YES)、フィルタ制御部406は、フィルタカウンタの値がフィルタカウンタ用閾値Th未満であるか否か判定する(ステップS106)。フィルタカウンタの値がフィルタカウンタ用閾値Th未満である場合(ステップS106−YES)、フィルタ制御部406は、フィルタカウンタの値をインクリメントする(ステップS107)。一方、フィルタカウンタの値がフィルタカウンタ用閾値Th以上である場合(ステップS106−NO)、又はステップS107の処理の後、フィルタ制御部406は、フィルタ係数にフィルタ係数最大値gmaxを設定する(ステップS108)。また、ステップS105において、角速度が角速度用閾値Thω未満である場合(ステップS105−NO)、フィルタ制御部406は、フィルタ係数にフィルタ係数最小値gminを設定する(ステップS109)。
【0049】
ステップS104において、負荷推定値が下降せずに上昇している場合(ステップS104−NO、ステップS110−YES)、フィルタ制御部406はフィルタカウンタの値が0より大きいか否か判定する(ステップS111)。フィルタカウンタの値が0より大きい場合(ステップS111−YES)、フィルタ制御部406は、フィルタカウンタの値をデクリメントする(ステップS112)。一方、フィルタカウンタの値が0以下である場合(ステップS111−NO)、又はステップS112の処理の後、フィルタ制御部406は、フィルタカウンタの値がフィルタカウンタ用閾値Th以上であるか否か判定する(ステップS113)。フィルタカウンタの値がフィルタカウンタ用閾値Th以上である場合(ステップS113−YES)、フィルタ制御部406は、フィルタ係数にフィルタ係数最大値gmaxを設定する(ステップS114)。一方、フィルタカウンタの値がフィルタカウンタ用閾値Th未満である場合(ステップS113−NO)、フィルタ制御部406は、フィルタ係数として、フィルタ係数最大値gmaxよりも小さく、フィルタカウンタの値の減少に応じて小さくなる値を設定する。例えば、フィルタ制御部406は、フィルタカウンタの値の1/2の値をフィルタ係数に設定する(ステップS115)。また、ステップS110において、負荷推定値が上昇していない場合(ステップS110−NO)、フィルタ制御部406は、フィルタ係数にフィルタ係数最大値gmaxを設定する(ステップS116)。
【0050】
図8は、フィルタ部407において常にフィルタ係数がフィルタ係数最小値gminに設定された場合の負荷推定値及び負荷積算値の時間変化を表すグラフである。図8Aは負荷推定値を表し、図8Bは負荷積算値を表す。この場合、フィルタ後の負荷推定値においても車両の振動による影響が大きく残っており、負荷積算値の上下変動の最大値と挟み込み判定閾値との差(挟み込み判定余裕)が小さくなっている。そのため、挟み込みが発生していないにもかかわらず挟み込みが発生したと誤って判定してしまう可能性が高まってしまう。
【0051】
図9は、フィルタ部407において常にフィルタ係数がフィルタ係数最大値gmaxに設定された場合の負荷推定値及び負荷積算値の時間変化を表すグラフである。図9Aは負荷推定値を表し、図9Bは負荷積算値を表す。この場合、フィルタ後の負荷推定値においては車両の振動による影響が小さくなっており、負荷積算値の上下変動の最大値と挟み込み判定閾値との差(挟み込み判定余裕)が図8の場合に比べて大きくなっている。しかしフィルタ前の負荷推定値の変化に比べてフィルタ後の負荷推定値の変化は遅れて発生するため、挟み込みの発生を検知するタイミングが遅れてしまう。
【0052】
図10は、フィルタ制御部406によってフィルタ係数が制御された場合の負荷推定値及び負荷積算値の時間変化を表すグラフである。図10Aは負荷推定値を表し、図10Bは負荷積算値を表す。この場合、フィルタ後の負荷推定値においては車両の振動による影響が小さくなっており、負荷積算値の上下変動の最大値と挟み込み判定閾値との差(挟み込み判定余裕)が図8の場合に比べて大きくなっている。さらに、負荷推定値が上昇している場合には、フィルタ係数として、フィルタ係数最大値gmaxよりも小さく、フィルタカウンタの値の減少に応じて小さくなる値が設定される。そのため、負荷推定値が上昇している場合、則ち挟み込みが発生している可能性がある場合には、フィルタ係数が相対的に小さい値が設定され、フィルタ後の負荷推定値にフィルタ前の負荷推定値の変化が現れやすくなり、挟み込み発生の判定を遅れることなく行うことが可能となる。
【0053】
このように、車両用開閉体制御装置4では、車両に生じた振動の影響によって負荷推定値に上下変動(時間的な上下変化)が生じてしまった場合であっても、フィルタ部407がこのような負荷推定値の時間的な上下変化を低減させる。そのため、判定部409における挟み込み判定に用いられる負荷積算値には、車両に生じた振動の影響はほとんど生じず、車両の振動による誤検知を抑止することが可能となる。さらに、挟み込み発生時の検知を遅れることなく行うことが可能となり、挟み込み荷重の増加を抑止することが可能となる。
【0054】
また、ステップS109においてフィルタ係数にフィルタ係数最小値gminが設定されることにより、電動モーター401の起動時の応答性が向上する。
【0055】
<変形例>
図11は、フィルタ制御部406によるフィルタ制御処理の変形例の流れを表すフローチャートである。以下、フィルタ制御処理の変形例の流れのうち、図7に表されるフィルタ制御処理と異なる点についてのみ説明する。図11の場合、フィルタ制御部406は、ステップS101においてモーター作動中であると判断した場合(ステップS101−YES)、角速度算出部404が有する回転回数カウンタによって計数されるアーマチュア軸の回転回数を参照し、電動モーター401の回転回数が規定値以上であるか否か判定する(ステップS201)。回転回数カウンタの値が規定値未満である場合(ステップS201−NO)、フィルタ制御部406は、フィルタ係数にフィルタ係数最小値gminを設定する(ステップS202)。一方、回転回数カウンタの値が規定値以上である場合(ステップS201−YES)、フィルタ制御部406は、ステップS104以降の処理を実行する。また、ステップS104において負荷推定値が下降している場合(ステップS104−YES)、フィルタ制御部406は、ステップS106以降の処理を実行する。
【0056】
このように構成されることによっても、電動モーター401の起動時の応答性を向上させることが可能となる。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1…車両用開閉体, 2…電源, 3…操作パネル, 4…車両用開閉体制御装置, 401…電動モーター, 402…モーター制御部, 403…電圧値検出部, 404…角速度算出部, 405…推定部, 406…フィルタ制御部, 407…フィルタ部, 408…負荷積算部, 409…判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11