(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記速度算出手段は、前記各ドップラーシフト量及び前記所定ピッチの情報から前記移動体の速度を算出する演算式を予め記憶する記憶部を有し、前記演算式を用いて前記速度を算出するものであることを特徴とする請求項1に記載のドップラー速度計。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係るドップラー速度計の概略構成を示すブロック図である。ドップラー速度計は、超音波信号の送受信を行う超音波送受波器1と、超音波送受波器1の送受信動作を切り替える送受波切替器2と、超音波送受波器1を構成する複数の振動子に入力する送信駆動信号を生成する送信駆動信号生成回路31と、送信駆動信号を増幅する送信アンプ32とを備える。また、ドップラー速度計は、受信アンプ4と、超音波送受波器1の各振動子に対して受波ビームを形成する受波ビーム形成回路5と、受信信号に含まれるドップラーシフト量の算出、及びそれに基づいて測定対象、例えば船舶の速度を算出するドップラー処理部6と、算出結果を表示するLEDやプラズマディスプレイ等からなる表示部7とを備えると共に、各部に対して必要な指示信号や駆動信号等の制御信号を出力する制御部8とを備えている。
【0015】
超音波送受波器1は、例えば水平面に平行な面を送波面とする複数の超音波振動子が所定チャンネル数、例えば9チャンネルに割り当てられてアレイ状に配列されている。超音波送受波器1は、例えば船底に装備され、送波面は水中に向けて露出されている。
【0016】
ここで、超音波送受波器1の詳細構造について、
図2、
図3、
図4を用いて説明する。
図2(a)は、送波面を示す平面図で、
図2(b)は、
図2(a)におけるA−A線断面図である。
図3は、
図2(a)に示す各振動子の位置関係を示す図で、
図3(a)は平面図、
図3(b)は部分拡大平面図である。
図4は、
図2(a)に示す各振動子の配線を説明する配線図である。なお、
図3(a)、
図4ではチャンネル番号を省略しているが、振動子の配置は、
図2に示す配置と同一である。
【0017】
超音波送受波器1は、船首−船尾方向に直交する辺を一辺とした正三角形の各頂点に振動子100が配置された正三角形格子構造を有する。振動子100の船首−船尾方向における配列ピッチ(振動子列間の間隔)をdとすると、正三角形の一辺の長さ、すなわち振動子100の中心間距離は(2/3
1/2)dである。なお、ピッチdは、送信信号に含まれる所定周波数成分の波長λと、水平面と探知方向とのなす角である俯角θとにより予め設定されている。詳細は後述する。
【0018】
超音波送受波器1は、
図2(b)に示すように、強誘電体等からなる圧電効果を有する基板101と、この基板101の両面の対向する位置に形成された電極102とで形成される。すなわち、各振動子100は、圧電基板101の両面の対向する位置に電極102を形成することで形成される。圧電基板101は、両面の電極102間に所定電圧が印加されると基板特有の周波数で振動する。すなわち、圧電基板101の電極102で挟まれた部分が圧電振動子として機能する。
【0019】
振動子100は、本実施形態では、9チャンネルに分けられており、各チャンネルの振動子100a〜100c、110e〜100g、100h〜100jは、
図2、
図3に示す位置関係を有して配置されている。なお、
図2(a)、
図3(b)では各チャンネルの代表する振動子にのみ記号を付し、他の振動子については、属するチャンネル番号のみを示した。
【0020】
図3(b)に示すように、第1、第2、第3チャンネル振動子100a〜100cの中心をそれぞれ頂点として一辺の長さが(2/3
1/2)dの正三角形が形成されており、第2、第3チャンネル振動子100b,100cを結ぶ辺が船首−船尾方向に対して直角で、この辺に対して船首側に第1チャンネル振動子100aが配置されている。第4チャンネル振動子100eは、第3チャンネル振動子100cを挟んで第2チャンネル振動子100bの反対の位置に配置されており、第5チャンネル振動子100fは、第3チャンネル振動子100cを挟んで第1チャンネル振動子100aの反対の位置に配置されている。第6チャンネル振動子100gは、第4チャンネル振動子100eと第5チャンネル振動子100fとともに一辺の長さが(2/3
1/2)dの正三角形を構成する位置に配置されており、言い換えれば、第6チャンネル振動子100gは、第4、第5チャンネル振動子100e,100fを結ぶ線を線対称の基準として第3チャンネル振動子100cと対称の位置に配置されている。第7チャンネル振動子100hは、第6チャンネル振動子100gを挟んで第5チャンネル振動子100fの反対の位置に配置されており、第8チャンネル振動子100iは、第6チャンネル振動子100gを挟んで第4チャンネル振動子100eの反対の位置に配置されている。第9チャンネル振動子100jは、第7チャンネル振動子100hと第8チャンネル振動子100iと共に、一辺の長さが(2/3
1/2)dの正三角形を構成する位置に配置されており、言い換えれば、第9チャンネル振動子100jは、第7、第8チャンネル振動子100h,100iを結ぶ線を線対称の基準として第6チャンネル振動子100gと対称の位置に配置されている。また、第9チャンネル振動子100jは、第8チャンネル振動子100iの反対の位置にある第1チャンネル振動子100aとで一辺の長さが(2/3
1/2)dの正三角形を形成する位置に第2チャンネル振動子100bが配置されると共に、第2チャンネル振動子100bとで一辺の長さが(2/3
1/2)dの正三角形を形成する位置に第4チャンネル振動子100eが配置されている。そして、超音波送受波器1は、かかる9つのチャンネルの振動子の配列パターンが縦横に所定数だけ繰り返して形成されている。
【0021】
このように形成された振動子100a〜100c,100e〜100g,100h〜100jは、
図4に示す配線パターンで配線されている。船首−船尾方向に直角な方向に並ぶ第1チャンネル振動子100aは、それぞれ配線パターンL12,L13,L14,L15で並列接続されており、各配線パターンL12〜L15は、ポートP1に接続されている。同様に、第2チャンネル振動子100bは、それぞれ配線パターンL21,L22,L23,L24,L25でポートP2に並列接続され、第3チャンネル振動子100cは、それぞれ配線パターンL31,L32,L33,L34,L35でポートP3に並列接続されている。また、第4チャンネル振動子100eは、それぞれ配線パターンL41,L42,L43,L44,L45でポートP4に並列接続され、第5チャンネル振動子100fは、それぞれ配線パターンL51,L52,L53,L54,L55でポートP5に並列接続され、第6チャンネル振動子100gは、それぞれ配線パターンL61,L62,L63,L64,L65でポートP6に並列接続されている。さらに、第7チャンネル振動子100hは、それぞれ配線パターンL71,L72,L73,L74,L75でポートP7に並列接続され、第8チャンネル振動子100iは、それぞれ配線パターンL81,L82,L83,L84でポートP8に並列接続され、第9チャンネル振動子100jは、それぞれ配線パターンL91,L92,L93,L94でポートP9に並列接続されている。ポートP1〜P9は、送受波切替器2とのバスラインの各ラインにそれぞれ接続されている。なお、各振動子100a〜100c,100e〜100g,100h〜100jの他方の端子は、例えば、それぞれチャンネル毎に、あるいはコモンで接地されている。この結果、全ての振動子が第1チャンネル〜第9チャネルに分けて接続される。なお、前述の配線パターンとしては、圧電基板101の対向する両面に電極102を形成する構造の場合には圧電基板101の一方面に配線パターン電極を形成することにより実現され、単体の振動素子を用いる場合には絶縁基板表面に形成した配線パターン電極や導体線による振動素子の端子を接続することにより実現される。
【0022】
超音波送受波器1は、本実施形態においては、9つのチャンネルの振動子100が3つのグループに分けられている。具体的には、第1チャンネル振動子100a〜第3チャンネル振動子100cが第1グループとされ、第4チャンネル振動子100e〜第6チャンネル振動子100gが第2グループとされ、第7チャンネル振動子100h〜第9チャンネル振動子100jが第3グループとされる。
【0023】
図5は、超音波送受波器1の第1〜第3グループ振動子の配列パターンを示す平面図である。
図5に示すように、第1グループ振動子110a、第2グループ振動子110b及び第3グループ振動子110cは、互いの中心間距離が2dで、正三角形格子状に配列した位置関係を有する。また、超音波送受波器1は、船首−船尾方向と平行な方向、及び船首−船尾方向に対して±π/6の方向に対して、各グループの振動子がピッチdで配列されている。詳細には、船首−船尾方向に平行な方向に、第1グループ振動子110a、第2グループ振動子110b、第3グループ振動子110cの順番でピッチdを有して配列され、船首−船尾方向に対して±π/6の方向に、第1グループ振動子110a、第3グループ振動子110c、第2グループ振動子110bの順番でピッチdを有して配列されている。
【0024】
送信駆動信号生成回路31は、制御部8から入力された制御信号に従い、振動子が所望周波数の送信信号を送信するための送信駆動信号を生成し、グループ毎に出力する送信駆動信号の位相制御を行う。
図6(a)は、超音波送受波器1の第1〜第3グループ振動子への遅延制御(位相制御に相当)を示すブロック図であり、(b)は、(a)に示す遅延制御を行った場合の水平方向に射影した送信ビームの進行方向を示す図である。
【0025】
送信信号に含まれる所定周波数成分の波長をλとすると、
図6(a)に示すように、基準の送信駆動信号と、2λ/3[m]だけ遅延した送信駆動信号と、λ/3[m]だけ遅延した送信駆動信号とが、3系統のバスラインによりそれぞれ送受波切替器2に出力される。2λ/3[m]だけ遅延した送信駆動信号は、第1グループ振動子110aを構成する第1〜第3チャンネルの振動子(100a〜100c)にそれぞれバスラインおよびポートP1〜P3を介して出力される。λ/3[m]だけ遅延した送信駆動信号は、第2グループ振動子110bを構成する第4〜第6チャンネルの振動子(100e〜100g)にそれぞれバスラインおよびポートP4〜P6を介して出力される。そして、基準の送信駆動信号は、第3グループ振動子110cを構成する第7〜第9チャンネルの振動子(100h〜100j)にそれぞれバスラインおよびポートP7〜P9を介して出力される。なお、2λ/3[m]だけ遅延した送信駆動信号を基準にすると、λ/3[m]だけ遅延した送信駆動信号は所定周波数で2π/3[rad]だけ位相進み(進相)の送信駆動信号、基準の送信駆動信号は所定周波数で4π/3[rad]だけ進相の送信駆動信号と見なすことができる。
【0026】
このような送信駆動信号が各振動子に印加されると、第1グループ振動子110a、第2グループ振動子110b及び第3グループ振動子110cから送信される超音波信号は、
図6(b)に示すように、船首方向、この船首方向から右舷方向に2π/3[rad]だけ回転した右舷後方、及び船首方向から左舷方向に2π/3[rad]だけ回転した左舷後方の三方向であって、かつ等位相面に直交する方向である、水平方向に対して所定の俯角θの方向に進む。このため、これらの方向を進行方向とする3つの送信ビームTxBeam1〜TxBeam3が形成される。なお、俯角θは周波数とピッチdとで決まる。
【0027】
図7は、超音波送受波器から送信される超音波の位相制御を説明するための側面から見た概略図である。なお、
図7は、説明の便宜上、上下逆となっている。送波面1Aは、超音波送受波器1のフラットな面である。送波面1Aの任意の一断面において、一方側からピッチdを有して第1グループ振動子110a、第2グループ振動子110b、第3グループ振動子110cが、この順で配列されている。
【0028】
今、ピッチdを有する第1〜第3グループ振動子110a〜110cに対して、順次2π/3[rad]ずつ移相した波長λの送信駆動信号を印加して超音波を送信するようにすると、このときのビームTxBeam1の俯角(送波面1Aからの傾斜角)θは、
d・cosθ=λ/3=c/3f0 ・・・(1)
(但し、c=f0・λ)
と表される。
【0029】
続いて、
図8を用いて船速とドップラーシフト量との関係について説明する。
図8は、船体を基準にしたxyz直交座標系とビーム方向単位ベクトル(Beam1,2,3の斜交座標系)との関係を示す図で、
図8(a)は全体斜視図、
図8(b)は平面図である。
図8において、y軸は船首−船尾方向、x軸は左舷−右舷方向、z軸は上下方向である。また、Beam1,2,3は、平面視では
図8(b)に示すようにy軸(右舷方向を基準方位としたときの方位角φ1)をBeam1として、左舷後方2π/3(右舷方向を基準方位としたときの方位角φ3)にBeam3が、右舷後方2π/3(右舷方向を基準方位としたときの方位角φ2)にBeam2が設定され、かつ、それぞれ所定の俯角が設定されている。また、船体SHの移動速度ベクトルをV(Vx,Vy,Vz)とする。
【0030】
そして、超音波(f0[Hz])が送信された方向と船体SHの移動速度ベクトルVとなす角をΨとし、船体SHの移動速度v[m/s]、船体から送信され水中からの反射波に含まれるドップラーシフト量fd[Hz]、水中音速c[m/s]とすると、ドップラーシフト量fdは、
fd=2vcosΨ・f0/c ・・・(2)
と表される。
【0031】
今、Beam2に着目すると、Beam2の俯角をθとしたとき、Beam2の単位ベクトルは、(cosθcosφ2,cosθsinφ2,−sinθ)
となる。ここで、cosΨは、内積の公式より、
【0033】
であるので、(式2)に代入すると、Beam2により観測されるドップラーシフト量は、
【0036】
そして、Beam1,3において観測される各ドップラーシフト量fd1,fd3も同様の関係が成立するため、これらを行列表現を導入して表すと、船体の速度とドップラーシフト量との関係は、
【0038】
として表される。ここで簡単のため、各ビーム方向単位ベクトルのxy平面(水平面)とのなす角である俯角を一律にθとし、さらに、φ1=90[deg]、φ2=330[deg]、φ3=210[deg]とする。このとき、(式5)は以下のようになる。
【0040】
すなわち、船体SHの速度Vx,Vy,Vzは、水中音速cと、周波数f0と、俯角θと、ドップラーシフト量fd1,fd2,fd3とを用いて表される。ここで、(式1)から得られるc/f0=3dcosθを、(式6)に代入すると、以下の通りとなる。
【0042】
(式7)において、船体SHの速度Vx,Vyは、ドップラーシフト量fd1,fd2,fd3及びピッチdから求められる。また、船体SHの速度Vzは、sinθが関与するため、周波数依存性がある。しかし、速度Vzは、船体SHの上下方向への速度成分であるため、基本的には無視できるものであり、乃至は極めて小さい値であって周波数依存性の影響も小さい。ドップラー処理部6は、(式7)を予め記憶しておき、ドップラーシフト量fd1,fd2,fd3が検出された時点で、(式7)を用いて、Vx,Vyを求め、あるいはVx,Vy,Vzを求めるようにすればよい。
【0043】
ところで、本実施形態においては、送信駆動信号生成回路31は、所定の範囲を有する広帯域の送信駆動信号を生成する。従って、第1〜第3グループ振動子110a〜110cから広帯域の送信信号が送信される。このときの広帯域の周波数と送信方向とドップラーシフト量との関係を説明する。
【0044】
図9は、広帯域の周波数の超音波と送信方向との関係を説明する説明図である。周波数f1,f2は送信周波数の帯域範囲内の任意の2つの周波数を示している。送波面1Aにおいて送信方向にピッチdで配置された第1〜第3グループ振動子110a〜110cを用いて広帯域の超音波を送信すると、周波数によって俯角が異なる。
【0045】
今、
図9に示すように、周波数f1で俯角θ1、周波数f2で俯角θ2とすると、
f1cosθ1=f2cosθ2=c/3d ・・・(8)
が成立する。一方、各ドップラーシフト量Δf1,Δf2は、
Δf1=2vcosθ1・f1/c ・・・(9)
Δf2=2vcosθ2・f2/c ・・・(10)
と表される。ところで、(式9)中のcosθ1・f1と(式10)中のcosθ2・f2とは、(式8)より等しい。従って、Δf1=Δf2となる。すなわち、第1〜第3グループ振動子110a〜110cから広帯域の超音波を送信ビームTxBeam1〜TxBeam3として送信する実施形態においては、ドップラーシフト量は使用周波数に依存しない。すなわち、
図8において、ドップラーシフト量fd1,fd2,fd3は使用周波数とは無関係であって、周波数依存性がない。
【0046】
そうすると、(式7)に示す船速の内、少なくともxy面の船速は、ドップラーシフト量fd1,fd2,fd3及びピッチdから求まるから、広帯域の周波数を使用しても何ら影響はない。
【0047】
これは、送信方向に向けられた振動子を用いて、広帯域の周波数信号で送信する態様を採用した場合には、当該送信方向に対して広帯域内の全ての周波数が含まれ、その結果、各周波数に応じたドップラーシフトが生じる。従って、送信方向からの反射波中に周波数に応じたドップラーシフト成分が混在し、つまりドップラーシフト量が使用周波数に依存したものとなる。詳細には、送信周波数が高い程、ドップラーシフト量も比例的に大きく現れる。しかし、第1〜第3グループ振動子110a〜110cを用いて広帯域の周波数信号を送信する態様では、ドップラーシフト量は周波数依存性を有しない。
【0048】
続いて、送信駆動信号生成回路31の動作について説明する。前述したように、超音波送受波器1から送信される超音波信号は、所定波長範囲を有する広帯域の信号である。
【0049】
図10は、送信信号の波形の一例を示し、
図11は、送信波形のパワースペクトルの包絡線形状の一例を示す図である。所定の広帯域の送信信号は種々の方式で生成可能があるが、本実施形態では、
図10に示す、二相位相偏移変調方式(BPSK方式;Binary Phase Shift Keying)で符号化された広帯域信号を複数連ねた送信信号を用いる。この方式は、本出願人に係る特許出願(特開2007−292668号公報)に記載されている通りであり、以下、簡単に説明する。送信駆動信号生成回路31は、計測を行う毎にこの送信信号を超音波送受波器1から送信する。
【0050】
送信信号は4つの同じエレメントからなり、各エレメントは上記符号化がされた7つのサブパルスからなる。図において、Taは送信信号の時間幅、Tbはエレメントの時間幅、Tcはサブパルスの時間幅である。上記の時間幅Taは、例えば0.7ms程度であり、サブパルスの周波数(キャリア周波数)は、例えば250kHz程度である。尚、他の符号パターン(例えば、+1+1+1−1+1−1−1)を使用すると
図11に示す送信波形のパワースペクトルの包絡線形状が変化する。
【0051】
各振動子100で受信されたエコー信号を含む受信信号は、受信アンプ4で増幅され、受信ビーム形成回路5を経た後、さらに図略のA/D変換器でデジタル信号に変換されて、ドップラー処理部6内の図略のバッファメモリに一時的に格納される。ドップラー速度計は、受信信号中の1または複数の設定深度におけるエコー信号および海底からのエコー信号をバッファメモリから読み出し、それぞれのドップラーシフト量fdを求めて出力する。ドップラー処理部6は、3方向(あるいは6方向)からの受信信号からドップラーシフト量を求める。なお、6方向のうちの他の3方向は、
図6の位相差を第2グループ振動子110bに対して4π/3と、第3グループ振動子110cに対して2π/3とすることで得ることができる。
【0052】
表示部7は、演算結果を報知のために表示するもので、例えば航路を基点とする矢印が所定間隔で表示され、矢印の向きで潮流の向きが示され、矢印の長さで潮流の速度が示される。潮流の速度及び向きは、対水船速(または対地船速)Vに基づいて求めればよい。
【0053】
制御部8は、CPU(中央演算処理部)や、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)、メモリ(プログラムメモリおよびデータメモリ)などから構成され、各種の演算やドップラー速度計の各部の制御などを行う。
【0054】
ドップラー処理部6は、DFT(Discrete Fourier Transform)により、送信波形に対して高速フーリエ変換アルゴリズムを用いて離散フーリエ変換を施して時間領域の送信波形を周波数領域の振幅スペクトルに変換する。さらに、振幅スペクトルを2乗して、
図11に示すパワースペクトルを生成する。このパワースペクトルPt[fi](fiはパワースペクトルPt[i]の周波数)は所定波長、例えば10Hz程度の分解能で生成されている。なお、各スペクトルである1区間を数[KHz]単位とし、重心計算区間を数個設定することで、広帯域を実現している。離散フーリエ変換および送信波形の性質上、パワースペクトルPt[fi]は、2/Tcの範囲に分布し、中心周波数f0、すなわちピーク51の周波数f0はサブパルスの周波数に等しくなり、隣り合うピークの周波数差が1/Tbとなり、各ピークの幅(各ピークのゼロクロス幅)が2/Taとなる。
【0055】
ドップラー処理部6は、重心周波数算出機能により、各ピーク51等が各重心計算区間Wt[k](k=1〜n)(
図11参照、Wt[1:n]とも表す)の中央に位置するように重心計算区間Wt[k]を決める。次に、パワースペクトルPt[fi]を重みとして、重心計算区間Wt[k]ごとに重心周波数fwt[k](k=1〜n)を次式で算出する。
【0056】
fwt[k]=Σ(Pt[fj]・fj)/ΣPt[fj]
ここで、Pt[fj]は重心計算区間Wt[k]に属するパワースペクトルである。
【0057】
ドップラー処理部6は、DFTによって、振幅スペクトルを2乗して
図12に示すパワースペクトルPr[fi](fiはパワースペクトルPr[i]の周波数)を生成する。また、
図12からパワースペクトルPr[fi]の中心周波数、すなわちピーク61の周波数が送信波形のパワースペクトルPt[fi]の中心周波数f0からΔfaだけずれていることが分かる。このΔfaをドップラーシフト量として扱うことができる。なお、隣り合うピークの周波数差は、
図11のピーク間の周波数差(1/Tb)に略等しい。ドップラー処理部6は、送信波形のパワースペクトルPt[fi]と受信信号のパワースペクトルPr[fi]とからドップラーシフト量を求めて出力する。ドップラー処理部6は、ドップラー計測手段として機能し、パワースペクトルPt[fi]とPr[fi]との相互相関処理を行う。すなわち、パワースペクトルPr[fi]に対してパワースペクトルPt[fi]を前記の所定の分解能ずつシフトさせながら、各シフト状態で両パワースペクトルの積和演算を行なって演算結果を出力する。
【0058】
図13は、演算結果である相互相関出力を示す。中央に位置する最大のピーク71は、パワースペクトルPt[fi]のピーク51がパワースペクトルPr[fi]のピーク61に一致したときのものであり、送信波形の中心周波数f0からΔfbだけずれている。また、ピーク72はピーク51がピーク62に一致したときのものであり、ピーク73はピーク51がピーク63に一致したときのものである。ドップラー処理部6は、相互相関出力のうち最大値をとるピーク71を検出し、このピーク71の周波数から送信波形の中心周波数f0を減算した周波数差Δfbをドップラーシフト量として扱う。なお、ドップラーシフト量は上記方法に限定されず、例えば上記のように積和演算して求めたドップラーシフト量を初期値として、より計測精度の高いドップラーシフト量fdを求めるようにしてもよい。
【0059】
次に、受信時の動作について簡単に説明する。受信時には、送受波切替器2は第1チャンネル振動子100a〜第9チャンネル振動子100jで受信した受信信号をそれぞれ個別のバスラインを介して、受信ビーム形成回路5に出力する。受信ビーム形成回路5は、それぞれ選択される3つのグループ振動子110a、110b、110cの信号に基づいて、受信ビームRxBeam1〜受信ビームRxBeam3(あるいは必要に応じて、受信ビームRxBeam1〜受信ビームRxBeam3とは逆方向となる3方向)を形成する。
【0060】
なお、本発明は、以下の態様を採用することができる。
【0061】
(1)本実施形態では、第1〜第3グループ振動子110a〜110cに、0[rad]、2π/3[rad],4π/3[rad](あるいは0[rad]、4π/3[rad],2π/3[rad])の位相で送信駆動信号を出力するようにしたが、これに代えて、送信駆動信号生成回路31によって、第1〜第3グループ振動子110a〜110cのうちのいずれかの2つのグループ振動子に互いにπ[rad]の位相差で送信駆動信号を出力するようにしてもよい。送信駆動信号については、
図10に示す送信信号を採用してもよい。
図14(a)は、位相制御を示すブロック図であり、
図14(b)は、
図14(a)に示す位相制御を行った場合の水平方向に射影した送信ビームの進行方向を示す図である。
図14(a)に示すように、基準の送信駆動信号と、π(rad:ラジアン)だけ位相の異なる送信駆動信号とが、所定の2種類、例えば第1グループ振動子110aと第3グループ振動子110cとに入力される。
【0062】
位相差π(rad)を有する送信駆動信号が第1グループ振動子110a、第3グループ振動子110cに入力されると、超音波信号は、
図14(b)に示すように、船首方向、船尾方向、船首方向から左舷、右舷方向に±π/3(rad)回転した方向、及び船首方向から左舷、右舷方向に±π2/3(rad)回転した方向の計6方向に対して、所定の俯角θを有して送信される。すなわち、6つの送信ビームTxBeam1〜TxBeam3、TxBeam1’〜TxBeam3’が設定される。
【0063】
(2)本実施携帯では、水平面上の2π/3[rad]毎の方向(ビーム送信方向)からのドップラーシフト量を得るようにしたが、少なくとも複数方向からのドップラーシフト量を得るようにすればよい。すなわち、平面上で複数方向に所定ピッチを有して振動子が配列され、各方向に対して位相差を利用して超音波を送信することで所定の俯角方向に位相合成された超音波を送信する態様であればよい。さらに、xyz座標系とビーム送信方向との変換式を利用してドップラーシフト量と船体の速度との行列式を予め設定しておけばよい。