【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インゴット鋳造では,外側から内側に向かって順次凝固する。凝固に伴って体積収縮するため、インゴット内部には巣ができる。それらは、その後の熱間加工( 圧延,鍛造) でつぶされて鍛着するが、インゴットサイズの制約から,十分な鍛錬が施せない場合、未鍛着部が残存することがある。この未鍛着部の残存は好ましくない。十分な鍛錬を施すことが内質を向上させることは明らかである。鍛造で丸材を軸方向に据え込んで平らにし、中心部を打ち抜く工程において、内質が劣る丸材の中心部は除去するようにはしているが、除去しきれない場合があるのが現状である。また、打ち抜いた中心部はスクラップとなるため、歩留まりが悪いという問題もある。
【0005】
上記のように、従来の技術では,大型の転がり軸受の軌道輪の素形材は、鍛錬不足で内質が劣り、また鍛造の中心部打ち抜き工程で歩留まりが悪くなるという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化、中心部打ち抜き工程や拡径工程の不要化による歩留り向上、低コスト化、省エネルギー化、省資源化につながる転がり軸受軌道輪用リング部材および転がり軸受軌道輪、並びにその製造方法を提供することである。
この発明の他の目的は、この発明の転がり軸受軌道輪の利点を効果的に発揮させることのできる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり軸受軌道輪用リング部材は、転がり軸受の軌道輪における機械加工が施される前の素材である鋼製のリング部材であって、このリング部材の断面形状に圧延された棒状部材をリング状に成形し、両端の端面を相互
に液相接合
し、断面形状を転がり軸受の軌道輪の断面形状に近づける旋削加工を行った後、前記両端の端面を液相接合した接合部に、少なくとも軌道面となる軸方向範囲に渡り、かつ軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲で、前記液相接合を強化する処理として固相接合を施したことを特徴とする。前記棒状部材は、必要な鍛練成形比を有するように圧延されてものを用いることが好ましい。
この構成によると、リング部材の断面形状に圧延された棒状部材をリング状に成形するため、十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化が得られ、また従来の鍛造工程における中心部打ち抜き工程や拡径工程が省略されて、工程削減による低コスト化,省エネルギー化、および歩留り向上による省資源化につながる。このリング部材を用いて転がり軸受の軌道輪を製造することにより、その十分な鍛錬による巣を鍛着させることによる高品質な軌道輪が得られる。
なお、この発明は、上記のように十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化を図るものであり、先行技術文献2で開示した自動車用スターターリングギヤ等とは、発想が異なるものである。
【0008】
前
記液相接合を強化する処理として、前記接合部に、工具を回転させながら押し付けることで摩擦熱を発生させて相互に接合させる母材を軟化させるとともに、前記工具の回転力によって接合部周辺を塑性流動させて練り混ぜることで前記両端の端面を一体化させる摩擦攪拌接合を施しても良い。
前記棒状部材のリング状への成形は、温間または熱間等の軟らかい高温状態で行うことが好ましい。また前
記液相接合は
、例えば溶接によって行う。
【0009】
リング部材の断面形状は、単純な矩形形状等であっても良いが、転がり軸受の軌道溝に加工される環状の溝を有するものとすることが好ましい。その場合、棒状部材はリング部材の断面形状に圧延されたものであるため、棒状部材も溝を有する断面形状とされる。塑性加工で形成されるリング部材の段階で溝を形成しておくことにより、旋削の取代が少なくて済み、歩留りの向上、加工時間の短縮が図れる。
【0010】
リング部材には、前記両端の端面
を液相接合した接合部のある円周方向部分に、接合部の判別用の印を施すのが良い。接合部は他の部分よりも強度が低くなることが懸念されるため、判別用の印を施しておくことで、接合部が非負荷域となるように使用する等の使用上の便利や、後述の接合部強化のための処理が容易となる。
【0011】
断面形状を転がり軸受の軌道輪の断面形状に近づける旋削加工を行った後、前記両端の端面
を液相接合した接合部に、少なくとも軌道面となる軸方向範囲に渡り、かつ軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲で
、前記液相接合を強化する処
理として固相接合を施した。なお、「軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲」とは、例えば、最大交番せん断応力が最大になる深さの4倍の深さである。この場合、少なくとも最大接触面圧3GPaまでは許容できる安全設計となる。設計における最大接触面圧が1.5GPa程度の直径2〜4mの軸受軌道輪の場合、最大交番せん断応力が最大になる深さは1mm程度である。したがって、接合強化深さは5mm程度あればよく、10mmもあれば十分である。
上記の液相接合のみでは、転がり軸受軌道輪として用いる場合に強度不足が懸念されるため、リング部材を旋削加工した後、転がり軸受軌道輪の少なくとも転がり負荷を受ける軌道面となる箇所の接合部に対し、転がり接触で高い応力が作用する深さまで接合部の強度を向上させるのが良い。その方法としては固相接合、例えば摩擦攪拌接合を施す。なお、接合部を強化した後、接合強化部が判別できるように、その後の工程で消滅しないような印を再度付すのが良い。
【0012】
この発明の転がり軸受軌道輪は、この発明における上記のいずれかの構成の転がり軸受軌道輪用リング部材に、旋削、熱処理、および研削を施したものである。上記のように、転がり軸受軌道輪に加工した場合に、その十分な鍛錬による巣を鍛着させることによる高品質化の効果が、効果的に発揮される。
【0013】
この転がり軸受軌道輪は、呼び径が直径1m以上等の前記両端の端面を接合した円周方向部分である接合部に、この接合部の判別用の印を施すのが良い。この印があると、前述のように、接合部に大きな負荷がかからない好適な使用形態が採用できる。
【0014】
この発明の転がり軸受は、内輪、外輪、複数の転動体、および保持器を有し、前記内輪および外輪のいずれか一方または両方に、この発明の上記いずれかの構成の転がり軸受軌道輪を用いたものである。
この転がり軸受は、大型の転がり軸受であっても良い。例えば、風車の主軸を支持する軸受であっても良い。風車主軸用の軸受の直径は数mに及ぶ超大型のものがあるが、このような軸受の場合に、この発明のリング部材を用いたことによる品質向上の効果がより効果的に発揮される。
【0015】
この発明の転がり軸受は、前記内輪および外輪のうち、静止側輪に、この発明の上記印が施された転がり軸受軌道輪を用い、前記接合部の判別用の印のある周方向部分を、前記静止側輪の非負荷圏に配置するのが良い。
両端の接合部は、強度不足が懸念されるが、静止側輪に適用してその接合部を非負荷圏に配置することにより、接合部に大きな荷重が作用せず、強度不足になることが回避される。その場合に、前記接合部の判別用の印のあると、接合部を非負荷圏に配置する組立作業が簡単となる。
【0016】
この発明の転がり軸受軌道輪用リング部材の製造方法は、転がり軸受の軌道輪における機械加工が施される前の素材である鋼製のリング部材を製造する方法であって、このリング部材の断面形状に圧延された棒状部材をリング状に成形し、両端の端面を相互
に液相接合し、断面形状を転がり軸受の軌道輪の断面形状に近づける旋削加工を行った後、前記両端の端面
を液相接合した接合部に、少なくとも軌道面となる軸方向範囲に渡り、かつ軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲で
、前記液相接合を強化する処
理として固相接合を施したことを特徴とする。この製造方法によると、この発明の転がり軸受軌道輪用リング部材につき述べた上記の十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化が得られ、また従来の鍛造工程における中心部打ち抜き工程や拡径工程が省略されて、工程削減による低コスト化,省エネルギー化、および歩留り向上による省資源化につながる。
【0017】
この発明の転がり軸受軌道輪の製造方法は、転がり軸受の軌道溝を有する軌道輪を製造する方法であって、素材となる鋼製のリング部材を製造する素材製造過程と、前記リング部材に加工および処理を施す素材加工過程とでなり、前記素材となるリング部材は軌道溝に加工される環状の溝を有し、前記素材製造過程では、前記リング部材の断面形状に圧延された棒状部材をリング状に成形し、両端の端面を相互
に液相接合し、前記素材加工過程では、前記リング部材に旋削、前記接合を強化する処理、熱処理、および研削を施し、前記接合を強化する処理では、前記リング部材の断面形状を転がり軸受の軌道輪の断面形状に近づける旋削加工を行った後、前記両端の端面
を液相接合した接合部に、少なくとも軌道面となる軸方向範囲に渡り、かつ軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲で
、前記液相接合を強化する処
理として固相接合を施したことを特徴とする。
この製造方法によると、この発明の転がり軸受軌道輪について前述したように、十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化、中心部打ち抜き工程や拡径工程の不要化による低コスト化、省エネルギー化、歩留り向上による省資源化につながる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の転がり軸受軌道輪用リング部材は、転がり軸受の軌道輪における機械加工が施される前の素材である鋼製のリング部材であって、このリング部材の断面形状に圧延された棒状部材をリング状に成形し、両端の端面を相互
に液相接合し、断面形状を転がり軸受の軌道輪の断面形状に近づける旋削加工を行った後、前記両端の端面
を液相接合した接合部に、少なくとも軌道面となる軸方向範囲に渡り、かつ軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲で
、前記液相接合を強化する処
理として固相接合を施したため、十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化、中心部打ち抜き工程や拡径工程の不要化による低コスト化、省エネルギー化、歩留り向上による省資源化が図れる。
この発明の転がり軸受軌道輪は、この発明の転がり軸受軌道輪用リング部材に、旋削、熱処理、および研削を施したものであるため、十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化、中心部打ち抜き工程や拡径工程の不要化による低コスト化、省エネルギー化、歩留り向上による省資源化が図れる。
この発明の転がり軸受は、前記内輪および外輪のいずれか一方または両方に、この発明のリング部材を用いたため、この発明の転がり軸受用軌道輪における上記各効果が、効果的に発揮される。
【0019】
この発明の転がり軸受軌道輪用リング部材の製造方法は、転がり軸受の軌道輪における機械加工が施される前の素材である鋼製のリング部材を製造する方法であって、このリング部材の断面形状に圧延された棒状部材をリング状に成形し、両端の端面を相互
に液相接合し、断面形状を転がり軸受の軌道輪の断面形状に近づける旋削加工を行った後、前記両端の端面
を液相接合した接合部に、少なくとも軌道面となる軸方向範囲に渡り、かつ軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲で
、前記液相接合を強化する処
理として固相接合を施した方法であるため、この発明のリング部材につき延べたと同様に、十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化、中心部打ち抜き工程や拡径工程の不要化による低コスト化、省エネルギー化、歩留り向上による省資源化が図れる。
この発明の転がり軸受軌道輪の製造方法は、転がり軸受の軌道溝を有する軌道輪を製造する方法であって、素材となる鋼製のリング部材を製造する素材製造過程と、前記リング部材に加工および処理を施す素材加工過程とでなり、前記素材となるリング部材は軌道溝に加工される環状の溝を有し、前記素材製造過程では、前記リング部材の断面形状に圧延された棒状部材をリング状に成形し、両端の端面を相互
に液相接合し、前記素材加工過程では、前記リング部材に旋削、前
記液相接合を強化する処理、熱処理、および研削を施し、前
記液相接合を強化する処理では、前記リング部材の断面形状を転がり軸受の軌道輪の断面形状に近づける旋削加工を行った後、前記両端の端面
を液相接合した接合部に、少なくとも軌道面となる軸方向範囲に渡り、かつ軌道面となる周面から転がり接触で高い応力が作用する深さ範囲で
、前記液相接合を強化する処
理として固相接合を施すため、この発明のリング部材につき延べたと同様に、十分な鍛錬を施して巣を鍛着させることによる高品質化、中心部打ち抜き工程や拡径工程の不要化による低コスト化、省エネルギー化、歩留り向上による省資源化が図れる。