特許第5697906号(P5697906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697906
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】二次電池用電極水系組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20150319BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20150319BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20150319BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/58
   H01M4/1397
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-144130(P2010-144130)
(22)【出願日】2010年6月24日
(65)【公開番号】特開2012-9268(P2012-9268A)
(43)【公開日】2012年1月12日
【審査請求日】2013年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】表 和志
(72)【発明者】
【氏名】平田 和久
(72)【発明者】
【氏名】原田 弘子
【審査官】 吉田 安子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−231977(JP,A)
【文献】 特開平10−306265(JP,A)
【文献】 特開2004−265874(JP,A)
【文献】 特開2010−097817(JP,A)
【文献】 特開2000−294230(JP,A)
【文献】 特開2003−272619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/1397
H01M 4/58
H01M 4/13
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、バインダー及び水を必須成分として含み、二次電池の正極を形成する正極水系組成物であって、
該バインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含み、
該(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、フッ素含有重合体由来の構造部分と(メタ)アクリル変性した構造部分とを有し、
該(メタ)アクリル変性した構造部分は、(メタ)アクリル系化合物の重合体によって形成され、
該フッ素含有重合体は、フッ化ビニリデン系重合体であることを特徴とする二次電池用正極水系組成物。
【請求項2】
前記バインダーは、最低造膜温度が40℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極水系組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、フッ素含有重合体由来の構造部分と(メタ)アクリル変性した構造部分との質量比が40/60〜95/5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池用正極水系組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、フッ素含有重合体の水分散体を製造した後、該フッ素含有重合体の存在下で(メタ)アクリル系化合物重合することにより製造されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用正極水系組成物。
【請求項5】
前記電極活物質は、リチウムイオンを吸蔵、放出できる電極活物質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池用正極水系組成物。
【請求項6】
前記電極活物質は、オリビン構造を有する化合物を含む正極活物質であることを特徴とする請求項5に記載の二次電池用正極水系組成物。
【請求項7】
前記電極活物質は、リン酸鉄リチウムを主成分として含む正極活物質であることを特徴とする請求項5又は6に記載の二次電池用正極水系組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の二次電池用正極水系組成物に用いられるバインダーであって、
該バインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含み、
該(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、フッ素含有重合体由来の構造部分と(メタ)アクリル変性した構造部分とを有し、
該(メタ)アクリル変性した構造部分は、(メタ)アクリル系化合物の重合体によって形成され、
該フッ素含有重合体は、フッ化ビニリデン系重合体であることを特徴とする二次電池用正極水系組成物用バインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極水系組成物に関する。より詳しくは、リチウムイオン電池等の二次電池の電極を形成する組成物として好適に用いることができる二次電池用電極水系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、繰り返し充放電を行うことができる電池であり、近年の環境問題への関心の高まりを背景に、携帯電話やノートパソコン等の電子機器だけでなく、自動車や航空機等の分野においても使用がすすんでいる。このような二次電池への需要の高まりを受けて、研究も活発に行われており、特に、二次電池の中でも軽量、小型かつ高エネルギー密度のリチウムイオン電池は、各産業界から注目されており、開発が盛んに行われている。
リチウムイオン電池は、主に正極、電解質、負極及びセパレータから構成され、この中で電極は、電極組成物を集電体の上に塗布したものが用いられている。電極組成物のうち、正極の形成に用いられる正極組成物は、主に正極活物質、導電助剤、バインダー及び溶媒からなっており、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が一般に用いられている。これは、PVDFが化学的、電気的に安定であり、NMPがPVDFを溶解する経時安定性のある溶媒であること、及び、正極活物質として一般に用いられているコバルト酸リチウムが水中では加水分解をおこすと言われており、有機溶媒を使用する必要があることが理由である。PVDFやNMPは、その化学的、電気的安定性等のために負極組成物にも用いられている。しかしながら、PVDFは溶解濃度が高くなく、一般に10%以下の濃度で用いられており、PVDFを用いると固形分濃度を上げ難い。また、NMPは、沸点が高いため、NMPを溶媒として用いると電極を形成する際に溶媒の揮発に多くのエネルギーを必要とするといった問題がある。それに加え、近年は環境問題への関心の高まりを背景に、電極組成物にも有機溶媒を使用しない水系のものが求められてきている。このような状況の下、電池用組成物や、電池用組成物に用いることができるバインダーについて、様々な研究、開発がなされている。
【0003】
非水二次電池の電極を形成する組成物として、非水溶性ポリマーと鉄含有化合物とが水に分散されてなる非水電解質二次電池正極用スラリー組成物、及び、この組成物を集電体に塗布、乾燥して非水電解質二次電池正極用電極を製造することが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、非水電解液二次電池用電極を形成するための組成物として、少なくとも活物質及び結着材を含有する活物質層用塗工組成物であって、当該結着材を固形分を基準として2.5重量%以下含有し、且つ、当該結着材中にアクリル系共重合体を全結着材量を基準として20重量%以下含有する活物質層用塗工組成物、及び、この組成物の層を集電体の面上に設けてなる非水電解液二次電池用電極板が開示され、結着剤としてアクリル系共重合体とポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の他の樹脂とを混合したものを用いることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−63825号公報(第1−2、4、8−9頁)
【特許文献2】特開2006−107767号公報(第1−2、6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、非水溶性ポリマーとしてアクリル系ポリマー、ニトリル系ポリマー、ジエン系ポリマー等の非フッ素系ポリマーやPVDF、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系ポリマーが記載されている。これらのうち、PVDFやPTFEは、電極活物質等のフィラーを結着させる能力が低く、また、樹脂自体の製膜性も低い。したがって、フィラーが多い場合には、塗工、乾燥しても製膜できない場合が多い。特許文献1の実施例では、非水溶性ポリマーとしてアクリル系エラストマーの水分散体、スチレン・ブタジエン(SBR)系共重合体の水分散体、アクリロニトリル・ブタジエン系共重合体の水分散体が用いられているが、これらは何れもエマルションの化学的・電気的安定性に工夫の余地がある。更に特許文献2では、結着剤としてPVDFを用いた場合に得られる塗膜が硬く、集電体への密着性が低いために電極板を裁断する際に活物質層が脱落したりする不具合を解消することを目的として、結着剤としてアクリル系共重合体と他の樹脂とを混合したものを用いることが開示され、アクリル系共重合体とPVDFとの組み合わせが好ましいと記載されている。しかしながら、アクリル系共重合体とPVDFとは極性が大きく異なるため、これらを混合しただけでは、一般的には非相溶であり、相溶化剤となる成分、又は、アクリル系共重合体にPVDFと相溶性をもつモノマーを組み込み、或いは高温で事前に溶融混合していなければ相溶性は発現できない。特許文献2では、これらのポリマーの非相溶性のために樹脂が不均一に存在すると考えられ、この樹脂を用いて電極膜を作成した場合、膜の均一性に課題が残る。また特許文献2では、樹脂をN−メチル−ピロリドン等の有機溶媒に溶解させているが、水系溶媒を用いた水分散体の場合には、ポリマーが粒子の形で存在するため、更に相溶し難くなり、均一な膜を形成することがより難しくなるという課題がある。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、フィラーへの結着性が良好で、水系でありながら均一な膜を形成することができる化学的、電気的に安定な水系組成物であって、得られる膜が基材への密着性、可撓性に優れ、二次電池用の電極を形成する組成物として好適に用いることができる二次電池用電極水系組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、フィラー間の結着性が高く、フィラーの含有量を多くしても塗膜を形成することができ、更に得られる塗膜が基材への密着性や可撓性に優れたものとなるような、電極材料として好適な水系の組成物について種々検討し、組成物が含むバインダーに着目した。そして、バインダーとして、フッ素含有重合体を(メタ)アクリル変性した構造を有する変性重合体の水分散体を用いると、フッ素含有重合体が有する化学的、電気的に安定な性質を有しつつ、フッ素含有重合体の欠点である低い結着性や得られる塗膜の密着性の低さ、塗膜の硬脆さを改善することができることを見出した。すなわち、このようなバインダーが化学的、電気的に安定であり、かつ、活物質や導電助剤等のフィラーの量を多くしても塗膜を形成することが可能な優れたフィラーの結着性を有するバインダーとなるだけでなく、得られる塗膜が基材への密着性、可撓性に優れたものとなることを見出した。更に本発明者は、フッ素含有重合体を(メタ)アクリル変性した構造を有する重合体とすると、水系の溶媒を用いた水分散体としても均一な膜を形成することができること、及び、このバインダーを用いることで、塗膜の造膜温度も低下させることができ、塗膜形成のし易さも向上することも見出し、更に、このバインダーが、SBRと異なり、正極だけでなく、負極用バインダーとしても用いることができることを見出した。これらにより、このバインダーを用いた組成物が、二次電池用の電極を形成する組成物として好適であることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、電極活物質、バインダー及び水を必須成分として含み、二次電池の電極を形成する電極水系組成物であって、上記バインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含むことを特徴とする二次電池用電極水系組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の二次電池用電極水系組成物は、電極活物質、バインダー及び水を必須成分として含むものであるが、これらの必須成分をそれぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含んでいてもよい。
また、本発明におけるバインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を1種含むものであってもよく、2種以上含んでいてもよい。
以下においては、(メタ)アクリル変性させる前のフッ素含有重合体をフッ素含有重合体と記載する。また、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体を(メタ)アクリル変性したフッ素含有重合体とも記載する。
【0009】
本発明の二次電池用電極水系組成物が含むバインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含むものである。(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体とは、分散粒子の夫々の粒子中にフッ素含有重合体と(メタ)アクリル系重合体が絡み合って存在するものである。例えば、フッ素を中心とする骨格にアクリルが入り込んだ「IPN構造」のような構造を有する粒子である。したがって、フッ素含有重合体とアクリル系共重合体とを別々に製造し、その後に混合しただけのものは、本発明における(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体には該当しない。
【0010】
上記(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、フッ素含有重合体由来の構造部分と(メタ)アクリル変性した構造部分との質量比が40/60〜95/5であることが好ましい。このような比率であると、フッ素含有重合体が有する化学的、電気的な安定性と(メタ)アクリル変性したことにより得られる優れた結着性や可撓性、造膜温度を低下させる効果がバランスよく発揮されることになる。より好ましくは、フッ素含有重合体の構造部分と(メタ)アクリル変性した構造部分との質量比が50/50〜95/5であることであり、更に好ましくは、60/40〜90/10である。
【0011】
上記フッ素含有重合体は、フッ化ビニリデン系重合体であることが好ましい。フッ化ビニリデン系重合体は、結晶性を有する重合体であるが、これを(メタ)アクリル変性することで結晶性を低下させることができ、樹脂の結着性や可撓性の向上、及び、造膜温度の低下の点で大きな効果を得ることができる。したがって、フッ化ビニリデン系重合体を(メタ)アクリル変性したものを用いることで、二次電池用結着剤としてフッ素含有重合体が有する化学的、電気的な安定性と(メタ)アクリル変性したことにより得られる優れた結着性や可撓性、造膜温度を低下させる効果をより充分に発揮することができる。フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンのみを原料として製造されたものであってもよく、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合によって得られたものであってもよいが、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合によって得られたものであることが好ましい。他の単量体と共重合することによりフッ化ビニリデン系重合体の結晶性を低下させ、アクリル変性をし易くすることができる。
【0012】
上記フッ化ビニリデン(VDF)と共重合させる他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロプロピルビニルエーテル等のパーフルオロビニルエーテル類、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でもヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル類が好ましい。
【0013】
上記フッ化ビニリデン系重合体がフッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体である場合、フッ化ビニリデン系重合体の結晶性を低下させるという点からフッ化ビニリデン由来の構造と他の単量体由来の構造との比率が質量比で60/40〜97/3であることが好ましい。
【0014】
上記(メタ)アクリル変性した構造部分は、後述する(メタ)アクリル系化合物の1種又は2種以上や、それらを重合して得られる重合体によって形成される。好ましくは、(メタ)アクリル変性した構造部分が(メタ)アクリル系化合物の重合体によって形成されることである。また、これらの中でも、アクリル系化合物の1種又は2種以上や、それらのアクリル系化合物の重合体によって形成されるものであることが好ましい。これらにより、得られる(メタ)アクリル系化合物の重合体がベースのフッ素含有重合体と絡みあうことによる優れた結着性や可撓性、造膜温度を低下させる効果をより充分に発揮することができる。
【0015】
本発明の二次電池用電極水系組成物が含むバインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含む限りその他のバインダーとしてはたらく成分を含んでいてもよい。その他のバインダーとしてはたらく成分としては、ポリ(メタ)アクリル酸塩や、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系重合体等の水溶性樹脂、(メタ)アクリル変性していないフッ素含有重合体、SBRラテックス、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類等を用いることができる。
【0016】
本発明のバインダーは、最低造膜温度が40℃以下であることが好ましい。造膜温度を低下させることで、塗膜の形成が容易になり、塗膜の製造性を向上させることができる。
バインダーの最低造膜温度は35℃以下であることがより好ましい。
本発明のバインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体として、このような好ましい最低造膜温度を有するものを用いることが好ましい。
バインダーの最低造膜温度は、熱勾配試験機により測定することができる。
また、造膜時の膜が透明であることが好ましい。膜が透明であることは、フッ素含有重合体とアクリル系重合体との絡み合いにより、樹脂間が相溶しており、膜が均一であることを意味している。膜が透明であるとは、例えば、40℃で乾燥膜厚40μmの膜を形成した際に、膜を目視で見たときに濁りが確認できないことをいう。
【0017】
本発明のバインダーは、フッ素含有重合体の結晶化温度以上の温度で乾燥した後に結晶化温度が観測されないものであることが好ましい。(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体が充分に均一化し得るものである場合、フッ素含有重合体の結晶化温度以上の温度で乾燥することで、フッ素含有重合体と(メタ)アクリル変性した構造部分とが充分に相溶して均一化し、非晶化することで結晶化温度が観測されなくなる。このような(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含むバインダーであると、上述した本発明の効果がより顕著に発揮されることになる。
【0018】
本発明のバインダーは、固形分の割合がバインダー全体100質量%に対して、20〜70質量%であることが好ましい。20質量%未満の場合、多くの水を含有することから、塗料配合した場合の塗料固形分の範囲を制限し易くなる。70質量%を超える場合、樹脂のハンドリング性が低下する。バインダーの固形分とは、バインダーから溶媒である水を揮発させた後に残る成分、すなわち、バインダーのうち、水を主成分とする溶媒以外の成分のことである。
【0019】
上記(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、フッ素含有重合体を製造した後、該フッ素含有重合体の存在下で(メタ)アクリル系化合物を反応させることで製造できる。
フッ素含有重合体の水分散体は、懸濁重合や乳化重合を用いて重合体を合成する際の通常の手段により合成することができる。(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体の製造には、フッ素含有重合体の水分散体を製造した後、(メタ)アクリル系化合物を添加して、水に分散したフッ素含有重合体の粒子中に(メタ)アクリル系化合物を取り込ませ、(メタ)アクリル系化合物の重合を行う方法等を用いることができる。
また、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、フッ素含有重合体にアクリル系重合体を高温で混合し、均一化して相溶化させた後、得られたポリマーを分散剤等を用いて水に分散させる方法によっても得ることができる。
【0020】
上記フッ素含有重合体と反応させる(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸の塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル、グリシジル(メタ)アクリレート、アルキレングリコール含有(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等のアミノアクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0021】
本発明の二次電池用電極水系組成物は、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含むバインダーを含むことで、フッ素含有重合体が有する化学的、電気的な安定性と(メタ)アクリル変性したことにより得られる優れた結着性や可撓性、造膜温度を低下させる効果をともに発揮することができ、また、後述するように、このようなバインダーを用いることで正極、負極いずれの電極も形成することができる。
このような本発明の二次電池用電極水系組成物に用いられるバインダーであって、該バインダーは、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含む二次電池用電極水系組成物用バインダーもまた、本発明の1つである。
【0022】
本発明の二次電池用電極水系組成物において、バインダーの含有量は、電極活物質100質量%に対して1〜10質量%であることが好ましい。バインダーの含有量がこの範囲にあると、電極活物質や後述する導電助剤等のフィラーを結合し、且つ電極中の活物質含有量の低下を抑えることができる。
【0023】
本発明の二次電池用電極水系組成物において用いる電極活物質は、リチウムイオンを吸蔵、放出できる電極活物質であることが好ましい。このような電極活物質を用いることで、リチウムイオン電池の電極として好適に用いることができるものとなる。
リチウムイオンを吸蔵、放出できる化合物としては、リチウム含有の金属酸化物が挙げられ、そのような金属酸化物としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、マンガン酸リチウム等が挙げられる。
【0024】
本発明の二次電池用電極水系組成物を正極を形成する材料として用いる場合、電極活物質は、オリビン構造を有する化合物を含むものであることが好ましい。
すなわち、電極活物質が、オリビン構造を有する化合物を含む正極活物質であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。以下においては、正極を形成する材料として用いられる本発明の二次電池用電極水系組成物を本発明の正極水系組成物ともいう。
オリビン構造を有する化合物とは、下記式;
LiPO
(但し、Aは、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される1種又は2種以上であり、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sc、Y及び希土類元素の群から選ばれる1種又は2種以上である。x、y及びzは、0<x<2、0<y<1.5、0≦z<1.5を満たす数である。)で表される構造を有する化合物である。この化合物は、構造内の酸素原子がリンと結合することで(PO3−ポリアニオンを形成しており、酸素が結晶構造中に固定化されるために原理的に燃焼反応が起こらない。このため、この化合物を含む電極活物質は安全性に優れたものとなることから、特に中大型電源への用途に好適に用いることができるものとなる。上記A成分として好ましくは、Fe、Mn、Niであり、特に好ましくはFeである。上記D成分として好ましくは、Mg、Ca、Ti、Alである。
【0025】
上記オリビン構造を有する化合物としては、上記リチウムイオンを吸蔵、放出できる化合物のうち、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム等が挙げられる。また、正極活物質としては、導電性を補うためにカーボンで一部或いは全てを表面被覆しているものを用いることが好ましい。炭素の被覆量は、正極活物質100重量部に対して20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。
本発明の正極水系組成物においては、正極活物質全体100質量%に対して、オリビン構造を有する化合物が70質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上であり、最も好ましくは、正極活物質がオリビン構造を有する化合物のみからなることである。
【0026】
本発明の正極水系組成物において、上記オリビン構造を有する化合物は、平均粒子径が1μm以下であることが好ましい。平均粒子径が小さくなるほど表面積が大きくなり、少量の結着剤で結着させなければならないので、結着剤の可撓性が要求される。本発明の二次電池用電極水系組成物は、バインダーとして用いるフッ素含有重合体をアクリル変性したことにより結着性と可撓性が向上するため、特に粒子径の小さな粒子に適用することは好ましい形態となる。平均粒子径が1μm以下のオリビン構造を有する化合物を含む正極活物質を用いることにより、二次電池用正極組成物を電池の正極として用いた場合の出力特性等の電気特性を優れたものとすることが可能となる。オリビン構造を有する化合物の平均粒子径は、より好ましくは、0.01〜0.8μmである。
正極活物質の平均粒子径は、動的光散乱の粒度分布計(LiFePOの場合、1.7とする)により測定することができる。
【0027】
上記正極活物質は、リン酸鉄リチウムを主成分として含む正極活物質であることが好ましい。正極活物質が含む化合物としては、上記オリビン構造を有する化合物の中でもリン酸鉄リチウムがより好ましく、正極活物質の主成分であることが好ましい。リン酸鉄リチウムは、過充電に対する安定性が高く、また、鉄、リン等の豊富な資源を用いるものであることから、安価であり、製造コストの面でも好ましい。
リン酸鉄リチウムを主成分として含むとは、正極活物質全体100質量%に対するリン酸鉄リチウムの含有量が50質量%以上であることを意味するが、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。最も好ましくは、正極活物質がリン酸鉄リチウムのみからなることである。
【0028】
本発明の正極水系組成物において、導電助剤の含有量は、正極活物質100質量%に対して2〜25質量%であることが好ましい。導電助剤の含有量が2質量%より少ない場合、電極抵抗が低減できず導電助剤混合の効果がでないおそれがある。また25質量%より多いと正極に含まれる活物質量が低下するので容量を確保し難くなる。より好ましくは、正極活物質100質量%に対して5〜15質量%である。
【0029】
上記導電助剤は、平均粒子径が1μm以下のものであることが好ましい。平均粒子径が1μm以下の正極活物質を用いることにより、本発明の正極水系組成物から形成される正極を電池の正極として用いた場合の出力特性等の電気特性を優れたものとすることが可能となる。平均粒子径は、より好ましくは、0.01〜0.8μmであり、更に好ましくは、0.03〜0.5μmである。
導電助剤の平均粒子径は、動的光散乱の粒度分布計(導電助剤屈折率を2.0とする)により測定することができる。
【0030】
上記導電助剤はリチウムイオン電池を高出力化するために用いられ、主に導電性カーボンが用いられる。
導電性カーボンとしては、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、黒鉛等がある。これらの中でもケッチェンブラック、アセチレンブラック等が好ましい。
ケッチェンブラックは中空シェル構造を持ち導電性ネットワークを形成しやすい。そのため、従来のカーボンブラックに比べると半分程度の添加量で同等性能を発現するため好ましい。またアセチレンブラックは高純度のアセチレンガスを用いることで生成されるカーボンブラックの不純物が非常に少なく、表面の結晶子が発達しているため好ましい。
【0031】
本発明の正極水系組成物は、更に分散剤を用いることが好ましい。分散剤を使用する場合、分散剤としては、特に制限されず、アニオン性、ノニオン性若しくはカチオン性の界面活性剤、又は、高分子分散剤等の種々の分散剤を用いることができる。分散剤により、正極活物質及び導電助剤の微粒子化を促進し分散性を向上させることで、より安定した正極膜の電導度を達成できる。
【0032】
本発明の正極水系組成物は、分散剤を導電助剤100質量%に対して5〜20質量%含有することが好ましい。分散剤の含有量がこのような範囲であると、正極活物質と導電助剤とを充分に均一に分散させることが可能となる。より好ましくは、導電助剤100質量%に対して6〜15質量%である。
【0033】
本発明の正極水系組成物は、水を溶媒とする水系の正極組成物であるが、組成物中の水の含有量は、正極活物質100質量%に対して、50〜300質量%であることが好ましい。水の含有量がこの範囲にあることで、適当な粘度のスラリーを作製することができる。より好ましくは70〜200質量%である。
【0034】
本発明の正極水系組成物は、上述したもの以外の成分を含んでいてもよい。上述したもの以外の成分を含む場合、その含有量としては、正極水系組成物の固形分の割合が下記好ましい範囲となるような量であることが好ましい。
【0035】
本発明の正極水系組成物は、固形分の割合が正極水系組成物全体100質量%に対して、35〜70質量%であることが好ましい。より好ましくは、40〜60質量%である。正極水系組成物の固形分とは、正極水系組成物から溶媒を揮発させた後に残る成分、すなわち、正極水系組成物のうち、溶媒以外の成分のことである。
【0036】
本発明の正極水系組成物が導電助剤を含む場合、正極水系組成物の固形分における正極活物質、導電助剤、バインダー、及び、これら3つの成分以外のその他の成分の含有割合は、正極活物質/導電助剤/バインダー/その他=70〜95/2〜20/2〜10/0〜5であることが好ましい。このような含有割合であると、正極水系組成物から形成される電極を電池の正極として用いた場合の出力特性等の電気特性を優れたものとすることが可能となる。より好ましくは、80〜93/3〜15/4〜10/0〜3である。なお、ここでいうその他の成分は、正極活物質、導電助剤、バインダー以外の固形分中に含まれる成分を意味し、分散剤が含まれる。
【0037】
本発明の二次電池用電極水系組成物を負極を形成する材料として用いる場合、負極活物質として一般に用いられているものを使用することができる。負極活物質としては、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素系材料、ポリアセン系導電性高分子、チタン酸リチウム等の複合金属酸化物、リチウム合金等が例示される。
更に、電極活物質は、炭素材料からなる負極活物質であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0038】
二次電池用の負極を形成する負極組成物は、負極活物質、バインダー、水の他、必要に応じて導電助剤、分散剤、増粘剤等を含むことができる。導電助剤、分散剤、増粘剤としては、上述した正極組成物におけるものと同様のものを用いることができる。
【0039】
本発明の非水二次電池用電極水系組成物を負極を形成する材料として用いる場合、組成物の固形分における負極活物質、導電助剤、バインダー及びその他の成分の含有比率は、85〜99/0〜10/1〜10/0〜5であることが好ましい。尚、ここでいうその他の成分は、負極活物質、導電助剤、バインダー以外の成分を意味し、分散剤や増粘剤等が含まれる。
【0040】
本発明の二次電池用電極水系組成物は、粘度が1〜20Pa・sであることが好ましい。二次電池用電極水系組成物の粘度がこのような範囲にあると、塗工する際の適当な流動性を確保できる。より好ましくは3〜15Pa・sであり、更に好ましくは、4〜10Pa・sである。
また、本発明の二次電池用電極水系組成物は、チクソ値が2.5〜8であることが好ましい。2.5以下の場合は塗工液が流れてハジキ易くなり、8以上の場合は塗工液の流動性が無く塗工し難い。より好ましくは3.5〜7である。
二次電池用電極水系組成物の粘度は、B型粘度計により測定することができる。
また、チクソ値は、B型粘度計により、25±1℃ 6rpmと60rpmの粘度を測定し、6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値として得ることができる。
【0041】
本発明の二次電池用電極水系組成物は、pHが6〜9であることが好ましい。pHがこのような範囲にあることでアルミ集電体の腐食を起こしにくくなり、材料の持つ電池性能を充分に発現することができる。
pH測定は、ガラス電極式水素イオン温度計F−21((株)堀場製作所)を用いて、25℃の値を測定することができる。
【0042】
本発明の二次電池用正極水系組成物は、正極活物質としてLiFePOを用いた場合、動的光散乱の粒子径測定装置を用いて、フィラー成分の屈折率を1.7とした場合の平均粒子径が0.1〜1μmであることが好ましい。二次電池用電極水系組成物をスラリー状態にした時の平均粒子径がこのような範囲にあると、フィラー成分が充分に微細化し、混合していることが確認できる。
【0043】
本発明の二次電池用電極水系組成物が、正極活物質と導電助剤とを含むものである場合、正極水系組成物の作製方法としては、正極活物質と導電助剤とが均一に分散されることになる限り特に制限されないが、溶媒である水に分散剤や水溶性樹脂を混合し、次いで導電助剤を混合して、ビーズ、ボールミル、攪拌型混合機等を用いて分散させ、そこに、水に溶解或いは分散した、正極活物質を加えて、同様に分散処理を行い、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体のエマルションを混合して二次電池用正極組成物を得ることが好ましい。このような手順で組成物を調製すると、正極活物質と導電助剤とを充分に均一に分散させやすく好ましい。
負極水系組成物も、正極活物質の代わりに負極活物質を用いる以外は、同様の方法により調製することが好ましい。
【0044】
本発明の二次電池用電極水系組成物は、上述したように、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体の水分散体を含むバインダーを用いたものであって、これにより、電極活物質や導電助剤等のフィラーの結着性に優れ、更に、形成された塗膜が密着性や可撓性に優れたものとなる。そしてこのような電極水系組成物から形成される電極は、二次電池用の電極として充分な性能を発揮することができるものである。このように、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体は、電極を形成するために用いる材料として有用なものである。
このような本発明の二次電池用電極水系組成物を用いて形成される二次電池用電極や、(メタ)アクリル変性した構造を有するフッ素含有重合体を含む二次電池用電極もまた、本発明の1つである。
更に、このような二次電池用電極を用いて構成される二次電池もまた、本発明の1つである。
【0045】
本発明の二次電池は、正極活物質がLiFePOの場合、初期放電容量が120mAh/g以上であることが好ましい。より好ましくは、130mAh/g以上である。また、負極活物質が黒鉛の場合、初期放電容量が250mAh/g以上であることが好ましい。より好ましくは、300mAh/g以上である。
また、本発明の二次電池は充放電を100回繰り返した100サイクル後の電気容量維持率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上である。100サイクルの維持率を確認することで、初期の電池物性に分散剤が悪影響を及ぼしていないことが確認できる。
二次電池の電気容量は充放電評価装置により測定できる。
【発明の効果】
【0046】
本発明の二次電池用電極水系組成物は、上述の構成よりなり、フィラーへの結着性が良好であって水系でありながら均一な膜を形成することができる化学的、電気的に安定なバインダーを含む水系組成物であって、得られる膜が基材への密着性、可撓性に優れ、更に正極、負極いずれの材料としても使用することができることから、二次電池用の電極を形成する組成物として好適に用いることができる組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0048】
(1)バインダー用樹脂
実施例、比較例で用いたバインダーとして用いたフッ化ビニリデン(VDF)系−アクリル変性エマルションの最低造膜温度、結晶化温度は、以下のとおりである。最低造膜温度、結晶化温度は、以下のようにして測定、評価を行った。
VDF系−アクリル変性エマルション
含有比率 VDF系ポリマー/アクリル=70:30
最低造膜温度 28℃
結晶化温度 1回目:98℃ 2回目:無し
VDF系−アクリル変性エマルションは、MFT以上でワレのない透明な膜が得られた。
1.最低造膜温度(MFT)
熱勾配試験機を用いて、水分散体をガラス板上に0.2mmのアプリケータで塗工した後、乾燥し、クラックの生じた温度を最低造膜温度として測定した。
2.結晶化温度
測定サンプルは室温で水を乾燥し、ミキサーを用いてポリマーを粉化してポリマーサンプルとした。示差走査型熱量計DSC−6200(セイコー電子工業社製)を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分で測定した。
【0049】
水溶性樹脂(I)の合成
実施例でバインダーとして用いた水溶性樹脂(I)は、以下のようにして合成した。
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入管及び還流冷却装置を備えた反応装置に、イオン交換水41.14g、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(IPN50)49.37gを仕込み、攪拌下に反応装置内を窒素置換し、窒素雰囲気下で60℃に昇温した後、そこに過酸化水素2%水溶液3.86gを添加し、アクリル酸(AA)5.90g及びイオン交換水1.48gからなる水溶液を3時間かけて滴下した。
この滴下と同時に3−メルカプトプロピオン酸0.26g、L−アスコルビン酸0.10g及びイオン交換水15.91gからなる水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃の温度を維持した後、冷却して重合を終了した。
その後、30℃で48wt%水酸化ナトリウム水溶液とイオン交換水とを用いてpH約6、固形分が40wt%になるように調整し、水溶性樹脂(I)の水溶液を得た。
得られた水溶性樹脂(I)は、IPN50/AA=85.6/14.4の共重合体であり、重量平均分子量は、36300であった。
重量平均分子量は、以下の条件により、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:Waters LCM1
分子量カラム:G4000SWXL、G3000SWXL、2000SWXL(いずれも東ソー社製)を直列に接続して使用
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gに酢酸ナトリウム三無水物115.6を溶かしたもの
検量線用標準物質:ポリエチレングリコール
測定方法:溶離液に測定対象物の固形分が0.3質量%となるように溶解し、フィルターにてろ過したものを測定した。
【0050】
(2)正極組成物の作成
実施例1
水を20.80g、スチレン−マレイン酸コポリマー系分散剤(濃度27%品)を1.11g、及び、アセチレンブラックHS−100(デンカ社製)を3.00g混合して分散し、更にリン酸鉄リチウム(中国輸入品)25.50g、48wt%のVDF系−アクリル変性エマルション(70:30)(アルケマ社製)2.50gを順番に加えて分散させ、濾過を行って正極組成物(1)を得た。
【0051】
実施例2
水を20.50g、スチレン−マレイン酸コポリマー系分散剤を1.11g、水溶性樹脂(I)を2.25g、及び、アセチレンブラックHS−100を2.40g混合して分散し、更にリン酸鉄リチウム(中国輸入品)25.50g、48wt%のVDF系−アクリル変性エマルション(70:30)1.87gを順番に加えて分散させ、濾過を行って正極組成物(2)を得た。
【0052】
比較例1
水を17.89g、スチレン−マレイン酸コポリマー系分散剤を1.11g、及び、アセチレンブラックHS−100を3.00g混合して分散し、更にリン酸鉄リチウム(中国輸入品)25.50g、SBRラテックス(固形分48wt%)2.50gを順番に加えて分散させ、濾過を行って比較正極組成物(1)を得た。
【0053】
比較例2
水を3.50g、スチレン−マレイン酸コポリマー系分散剤を1.11g、及び、カルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、CMC1380、濃度1%品)を30.00g、及び、アセチレンブラックHS−100を3.00g混合して分散し、更にリン酸鉄リチウム(中国輸入品)25.50g、SBRラテックス(固形分48wt%)1.88gを順番に加えて分散させ、濾過を行って比較正極組成物(2)を得た。
【0054】
比較例3
水を20.36g、スチレン−マレイン酸コポリマー系分散剤を1.11g、ポリアクリル酸ナトリウム(固形分35wt%)を3.43g、及び、アセチレンブラックHS−100を3.00g混合して分散し、更にリン酸鉄リチウム(中国輸入品)25.50gを加えて分散させ、濾過を行って比較正極組成物(3)を得た。
【0055】
比較例4
水を19.39g、スチレン−マレイン酸コポリマー系分散剤を1.11g、アセチレンブラックHS−100を3.00g混合して分散し、更にリン酸鉄リチウム(中国輸入品)25.50gを混合分散した。PTFEのNMP分散液(喜多村社製 PTFE粒子0.2μm 固形分40%品)3.0gに水1.5gを加えた分散液を調整し、この調整分散液を上記の活物質等を分散した分散液に混合分散し、濾過を行って比較正極組成物(4)を得た。
【0056】
(3)正極組成物の各種評価
実施例1、2で得られた正極組成物(1)、(2)、及び、比較例1〜4で得られた比較正極組成物(1)〜(4)について、各種評価を行った。評価方法は、以下とおりである。評価結果を表1に示す。表1中、配合組成においては、各成分の量及び合計量に加え、その中の固形分の量も併記した。例えば、実施例1の48wt%のVDF系−アクリル変性エマルション(70:30)の量(2.50/1.20)は、48wt%のVDF系−アクリル変性エマルション(70:30)のバインダー水溶液2.50gを加え、その中に、バインダーの固形分1.20gが含まれていることを意味する。
なお、表1中、PAA−Naは、ポリアクリル酸ナトリウムを表す。
1.固形分
アルミ皿に正極組成物0.5gを入れて、熱風乾燥機を用いて150℃で1時間乾燥した。乾燥前後の重量より、固形分の質量を計測した。
2.粘度
B型粘度計((株)東京計器製)を用いて、25±1℃、30rpmの粘度を測定した。
3.チクソ値
B型粘度計((株)東京計器製)を用いて、25±1℃、6rpmと60rpmの粘度を測定し、6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値を求めた。
4.pH
ガラス電極式水素イオン温度計F−21((株)堀場製作所)を用いて、25℃の値を測定した。
【0057】
5.膜強度
アルミ箔の上にアプリケータを用いて正極組成物を塗工した。100℃×10分、200℃×60分で乾燥し、更に200℃×30分の熱プレスを行い、厚さ約40μmの正極膜を作製した。
正極膜を12mmのポンチで打ち抜く際に、切断面の欠けやすさや剥がれから判断した。
○・・・欠け、剥がれなし △・・・場合により切断端部に欠け、剥がれがある
×・・・打ち抜くと切断端部に必ず欠け、剥がれがある
6.充放電試験
充放電測定装置ACD−001(アスカ電子製)を用いて、コインセルを用いて電池評価を行った。
負極:Li箔
電解液:1mol%/L LiPF EC/EMC=1/1(キシダ化学製)
充放電条件:0.2C
【0058】
【表1】
【0059】
(4)負極組成物の作成
実施例3
水6.28g、カルボキシメチルセルロース溶液(ダイセル社製、CMC1380、濃度1%品)30.00gに負極活物質として黒鉛であるCGB−10(日本黒鉛社製)29.40gを混合して分散し、更に48wt%のVDF系−アクリル変性エマルション(70:30)0.62gを加えて分散させ、濾過を行って負極組成物(1)を得た。
【0060】
比較例5
バインダーをSBRラテックス0.63gに変更した以外は、実施例3と同様に行い、比較負極組成物(1)を得た。
【0061】
(5)負極組成物の各種評価
実施例3で得られた負極組成物(1)、及び、比較例5で得られた比較負極組成物(1)について、負極膜物性(剥離強度)、及び、電気特性の評価を行った。評価方法は、以下のとおりである。
7.負極膜物性(剥離強度)
銅箔上に負極組成物(1)及び比較負極組成物(1)を塗工し負極膜を得た。
膜を1cm幅とし、負極組成物側に両面テープを貼り付けた。
動的粘弾性装置RSA III(ティ・エイ・インスツルメント製)を用いて、銅箔及び両面テープ側(剥離基材付き)を保持して引張モード(速度5cm/min)を用いて剥離強度を測定した。
8.充放電試験
充放電測定装置ACD−001(アスカ電子製)を用いて、コインセルを用いて電池評価を行った。
正極:実施例及び比較例記載の正極組成物及び負極組成物
負極:Li箔
電解液:1mol%/L LiPF EC/EMC=1/1(キシダ化学製)
充放電条件:0.2C
【0062】
【表2】
【0063】
表1の実施例1、2と比較例1〜4との比較から、バインダーとしてVDF系−アクリル変性エマルションを用いることで、少量のバインダーの使用で良好なスラリー特数値を有するスラリーを形成することができ、その正極組成物から得られた塗膜は膜強度、電気特性に優れることが確認された。これに対し、バインダーとしてSBRラテックスを用いた比較例1、2では、電気特性の充放電容量のサイクル劣化がやや大きい結果となり、バインダーとしてポリアクリル酸ナトリウムを用いた比較例3では、組成物の粘度が高くなり、膜の可撓性が低く、作業性に劣る結果となった。また、バインダーとしてPTFEの分散体を用いた比較例4では、膜の可撓性が発現できず、正極膜として使用するのが難しい結果となった。
更に、表2の実施例3と比較例5との比較から、バインダーとしてVDF系−アクリル変性エマルションを用いた組成物は、負極を形成する組成物としても用いることができ、その負極組成物から得られた塗膜はSBRラテックスをバインダーとして用いた組成物から得られた塗膜と同等の優れた膜強度、電気特性を有することが確認された。上記のように、VDF系−アクリル変性重合体は、100℃の加熱で膜を形成することができることから、本発明の二次電池用電極水系組成物は、負極、正極いずれを形成する材料としても用いることができ、また、塗膜形成のし易さの点でも優れた二次電池用電極の材料として好適な水系の組成物であるといえる。