(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697921
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】消磁器及び消磁方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
H04R3/00 310
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-174118(P2010-174118)
(22)【出願日】2010年8月3日
(65)【公開番号】特開2012-34305(P2012-34305A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】501396956
【氏名又は名称】株式会社愛和
(74)【代理人】
【識別番号】100130281
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 道幸
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 正美
【審査官】
渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−116401(JP,A)
【文献】
特開昭60−032499(JP,A)
【文献】
特開平05−191885(JP,A)
【文献】
特開平01−159804(JP,A)
【文献】
特開平10−290468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/15
B66C 1/08
G04D 9/00
G10H 1/00− 7/02
G10H 7/08
G10K 15/00−15/12
G11B 5/00− 5/024
G11B 5/465
G11B 11/10
H01F 13/00
H01J 29/00
H02P 9/12
H04N 9/29
H04R 3/00−3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオシステムにおけるアンプ入力からスピーカーにまで及ぶ信号パス全体の消磁を行う消磁器において、
発振する略正弦波の周波数がそれぞれ異なる複数の周波数帯域別発振部と、
該複数の周波数帯域別発振部からの発振信号を混合信号に混合する多信号混合部と、
該混合信号の包絡線振幅を、徐々に減衰させて交番式の消磁信号を生成する電圧制御増幅部とを備え、複数の周波数成分を含む該消磁信号を生成するもので、
該電圧制御増幅部が、該混合信号の包絡線振幅の減衰傾斜に緩急の繰り返しを持たせ、緩やかに減衰する期間が急激に減衰する期間より長いことを特徴とする消磁器。
【請求項2】
前記電圧制御増幅部が、前記混合信号の包絡線振幅を、約1秒掛けて最大振幅にした後に、徐々に減衰させることを特徴とする請求項1記載の消磁器。
【請求項3】
オーディオシステムにおけるアンプ入力からスピーカーにまで及ぶ信号パス全体の消磁を行う消磁方法において、
略正弦波の周波数がそれぞれ異なる複数の発振信号を生成し、
次に、該複数の発振信号を混合信号に混合し、
該混合信号の包絡線振幅を、徐々に減衰させて交番式の消磁信号を生成して、複数の周波数成分を含む該消磁信号を生成し、
該混合信号の包絡線振幅の減衰傾斜に緩急の繰り返しを持たせ、緩やかに減衰する期間が急激に減衰する期間より長いことを特徴とする消磁方法。
【請求項4】
前記混合信号の包絡線振幅を、約1秒掛けて最大振幅にした後に、徐々に減衰させることを特徴とする請求項3記載の消磁方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオシステムにおけるアンプ入力からスピーカにまで及ぶ信号パス全体の消磁を行う消磁器及び消磁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アンプからスピーカケーブルを経由してスピーカにまで及ぶオーディオシステムの全般にわたって消磁を行う方法として、アンプのライン入力に消磁信号を入力して行うものがある。この消磁信号は、交番式消磁法で、特定の正弦波を徐々に減衰させたものである。
【0003】
消磁信号をアンプのライン入力に入力する従来の交番式消磁法を用いた装置としては、例えば、非特許文献1に示されるようなものがある。この非特許文献1に示される消磁器は、単一周波数の正弦波を徐々に減衰させて消磁信号を生成するものである。
【0004】
また、他の消磁方法としては、CD(コンパクトディスク:Compact Disc)に録音された音によるものもあるようである。このCDによる音は、実際には、周波数を時間的に変化させる(周波数スイープ)ようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Top>Products>Exorcist、[online]、2010年、Gryphon Audio Designs、[平成22年7月7日検索]、インターネット<http://www.gryphon-audio.dk/>、英語
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の単一周波数の正弦波による消磁器では、音域により振り分けを行なっている2ウェイ、3ウェイのスピーカシステムではスピーカシステムに内蔵されたディバイダ・ネットワーク(ローパスフィルター、バンドパスフィルター、ハイパスフィルター)の周波数成分振り分けによって、消磁信号がすべてのスピーカまで届かず、システム全体を消磁できない。
【0007】
また、同様に既存のCDによるものは、周波数スイープにより周波数は変化するが振幅は変化しないために消磁の効果が十分ではない。さらに、CDによるものは、ホワイトノイズ又はピンクノイズや掃引信号などを含み、不快な音が連続し、長時間音を出すことは不快感を伴うことが多い。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、フルレンジのスピーカだけでなく、2ウェイや3ウェイといって複数の周波数帯域のスピーカを備えるスピーカシステムでも、オーディオシステムにおけるアンプ入力からスピーカにまで及ぶ信号パス全体の消磁又は減磁を行うことができる消磁器及び消磁方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の消磁器は、発振する略正弦波の周波数がそれぞれ異なる複数の周波数帯域別発振部と、複数の周波数帯域別発振部からの発振信号を混合信号に混合する多信号混合部と、混合信号の包絡線振幅を、徐々に減衰させて交番式の消磁信号を生成する電圧制御増幅部とを備え、複数の周波数成分を含む消磁信号を生成する
もので、電圧制御増幅部が、混合信号の包絡線振幅の減衰傾斜に緩急の繰り返しを持たせ、緩やかに減衰する期間が急激に減衰する期間より長いことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の消磁器は、
電圧制御増幅部が、混合信号の包絡線振幅を、約1秒掛けて最大振幅にした後に、徐々に減衰させることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の消磁方法は、略正弦波の周波数がそれぞれ異なる複数の
発振信号を生成し、次に、複数の発振信号を混合信号に混合し、混合信号の包絡線振幅を、徐々に減衰させて交番式の消磁信号を生成して、複数の周波数成分を含む消磁信号を生成し、混合信号の包絡線振幅の減衰傾斜に緩急の繰り返しを持たせ、緩やかに減衰する期間が急激に減衰する期間より長いことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の
消磁方法は、混合信号の包絡線振幅を、約1秒掛けて最大振幅にした後に、徐々に減衰させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1及び
請求項3の発明によれば、消磁信号が複数の周波数成分を含むことから、フルレンジのスピーカだけでなく、2ウェイや3ウェイといって複数の周波数帯域のスピーカを備えるスピーカシステムでも、オーディオシステムにおけるアンプ入力からスピーカにまで及ぶ信号パス全体の消磁又は減磁を行うことができる。
また、混合信号の包絡線振幅の減衰傾斜に緩急の繰り返しを持たせ、緩やかに減衰する期間が急激に減衰する期間より長いことから、緩やかに減衰させる期間を長く取って、スピーカから再生される消磁信号の音の違和感を抑えつつ、急激に減衰する期間を緩やかに減衰する期間とセットで持たせることで、全体としてより短い期間で消磁又は減磁を行うことができる。
【0022】
請求項2及び
請求項4の発明によれば、
混合信号の包絡線振幅を、約1秒掛けて最大振幅にした後に、徐々に減衰させることから、消磁の開始時点で、いきなり大きな音で消磁信号がスピーカで再生されることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る消磁器の構成の一例を示す構成図である。
【
図2】同消磁器の正規化制御電圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、本発明に係る消磁器の構成の一例を示す構成図である。
図2は、同消磁器の正規化制御電圧を示すグラフである。
図1における消磁器1は、オーディオシステムにおけるアンプ入力からスピーカにまで及ぶ信号パス全体の消磁を行うための消磁信号を発生させる装置であり、交番式消磁法に基づく消磁信号をアンプのライン入力に入力することができるように構成している。
【0029】
消磁器1は、制御部10、低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26、多信号混合部20、電圧制御増幅部12、電圧増幅部14等から構成されている。
【0030】
制御部10は、消磁器1全体の操作上の制御を行うと共に、各部の制御を行うものである。本実施の形態の消磁器1では、この制御部10をMPU(Micro-Processing Unit:マイクロプロセッサ)とソフトウェアにより構成させている。より具体的には、制御部10は、後述する電圧制御増幅部12の制御指示のための信号となる包絡線電圧を発生するための正規化制御電圧を生成するD/Aコンバータ、消磁器1の動作状況を表示する液晶表示制御機能(液晶表示は不図示)、各種スイッチの情報を取り込むインタフェース機能(スイッチが不図示)等を備えている。尚、本実施の形態の消磁器1では、制御部10をMPUによりソフトウェアにより動作する形態を採用しているが、ソフトウェアによる場合に限られるものではなく、ハードウェアのみによる場合や、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによる場合などであってもよい。
【0031】
周波数帯域別発振部である低域用発振部22、中域用発振部24及び高域用発振部26は、それぞれ異なる周波数の略正弦波を発振する発振器である。本実施の形態の消磁器1では、低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26は、MPUとソフトウェアにより構成されていて、内蔵するD/Aコンバータの出力をソフトウェアにより制御して、所定の周波数の略正弦波の発振信号を生成している。この発振信号の略正弦波は、D/Aコンバータの出力によるため厳密には階段状の正弦波であり、高調波成分を含んでいる。尚、本実施の形態の消磁器1では、低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26をMPUによりソフトウェアにより動作する形態を採用しているが、ソフトウェアによる場合に限られるものではなく、ハードウェアのみによるアナログ発振や、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによる場合などであってもよい。
【0032】
低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26の発振信号の周波数は、適宜定めるようにすれば良いが、例えば、スピーカシステムに用いられる各帯域のスピーカの再生中心の周波数を選ぶようにする。具体的には、本実施の形態の消磁器1の低域用発振部22は224Hz、中域用発振部24は1,120Hz、高域用発振部26は21,340Hzにしている。すなわち、低域用発振部22の周波数がウーファー用であり、中域用発振部24の周波数がスコーカー用であり、高域用発振部26の周波数がツイーター用である。尚、各周波数帯域別発振部である低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26の発振信号の周波数は、必ずしも相互に関連性を持たせる必要はないが、本実施の形態の消磁器1では、各周波数帯域別発振部の周波数が、ほぼ倍音の関係になるようにしている。
【0033】
尚、周波数帯域別発振部は、特に3個と限られるわけではなく、いくつで構成してもよい。また、1つの周波数帯域別発振部で、複数の周波数の発振信号を生成できるようにして、発振信号の周波数を切り換えられるような構造にするようにしてもよい。具体的には、本実施の形態の消磁器1の低域用発振部22では、基本的に224Hzの発振信号を生成するが、スイッチを設けて、そのスイッチを切り換えることで、88Hzの発振信号を生成することができるようにしている。この88Hzは、超低域用サブウーファー用であり、ディバイダ・ネットワークで減衰されてしまうため、ディバイダ・ネットワークのカットオフ周波数以下の周波数に切り替えることにより、サブウーファーのディバイダ・ネットワーク及びボイスコイルにも適用することができるようにしている。
【0034】
多信号混合部20は、周波数帯域別発振部である低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26からの発振信号を混合信号に混合するものである。多信号混合部20は、加算信号だけでなく乗算信号を発生させることで、基本波並びに高調波の和と積の多数の信号周波数成分を作り出し混合する。本実施の形態の消磁器1では、多信号混合部20には、混合比最適化パッシブミキサーを用いている。
【0035】
電圧制御増幅部12は、多信号混合部20で生成された混合信号の包絡線振幅を、徐々に減衰させて交番式の消磁信号を生成するものである。本実施の形態の消磁器1では、制御部10で生成された正規化制御電圧を包絡線振幅の制御値として、混合信号の包絡線振幅を変化させる。尚、正規化制御電圧の波形、すなわち包絡線振幅の変化のさせ方は、後述する。
【0036】
電圧増幅部14は、電圧制御増幅部12で包絡線振幅が制御された消磁信号を、アンプのライン入力に入力可能な信号レベルに増幅するものである。尚、電圧制御増幅部12の出力側に、例えばカットオフ周波数が77kHzのローパスフィルタを設け、不要な高域の周波数成分を除去するようにしてもよい。また、アンプのライン入力側との接続の関係で、消磁器1及びアンプを相互に破損させないように、電圧増幅部14と消磁器1の出力端子までの間に、アナログスイッチやMOSFETスイッチ等を設けるようにしてもよい。
【0037】
次に、消磁信号(混合信号)の包絡線振幅の制御について、
図2により説明する。まず、消磁開始の一番最初の区間Aでは、約1秒掛けて包絡線振幅を最大振幅にするようにする。そして、その後に区間B〜区間Eで、包絡線振幅を徐々に減衰させていく。本実施の形態の消磁器1では、区間A〜区間Eまでの時間、すなわち消磁に要する時間は、約65秒である。区間B〜区間Eでは、
図2でも明らかなように、包絡線振幅の減衰傾斜に緩急の繰り返しを持たせ、緩やかに減衰する期間が急激に減衰する期間より長くなるようにしている。具体的には、まず区間Bで緩やかに包絡線振幅を減衰させ、次の区間である区間Cで、区間Bよりも急な傾斜で包絡線振幅を減衰させる。続く区間Dと区間Eでは、区間Bと区間Cと同様に、まず緩やかに包絡線振幅を減衰させ、次の区間で、前の区間よりも急な傾斜で包絡線振幅を減衰させるようにする。そして、緩やかに減衰する期間(区間B、区間D)が急激に減衰する期間(区間C、区間E)より長くなっている。
【0038】
以上のように構成され動作する本実施の形態の消磁器1によれば、周波数帯域別発振部である低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26を備え、消磁信号が複数の周波数成分を含むことから、フルレンジのスピーカだけでなく、2ウェイや3ウェイといって複数の周波数帯域のスピーカを備えるスピーカシステムでも、オーディオシステムにおけるアンプ入力からスピーカにまで及ぶ信号パス全体の消磁又は減磁を行うことができる。
【0039】
また、複数の発振信号を和積算して混合信号に混合することから、消磁信号により多くの周波数成分を含ませることが可能で、広い帯域でより平均的な消磁又は減磁を行うことができる。すなわち、周波数帯域別発振部である低域用発振部22、中域用発振部24、高域用発振部26の発振信号は正弦波に近いが高調波成分を持たせるため、D/A変換の後、ローパスフィルターを通さず加算信号だけでなく乗算信号を発生させ、基本波並びに高調波の和と積の多数の信号周波数成分を作り出し、コイル、コンデンサ、抵抗器で形成されるあらゆるディバイダ・ネットワークのクロスオーバー周波数に対しても通過することができるのでスピーカシステムのディバイダ・ネットワークのコイル及びスピーカのボイスコイルの消磁又は減磁を行うことができる。また、複数の発振信号を和積算して混合信号に混合することから、消磁信号により多くの周波数成分を含ませることが可能で、周波数帯域別発振部の数を抑えることも可能となる。
【0040】
さらに、発振信号が、階段状の略正弦波で、高調波成分を含むことから、発振信号の発振周波数よりも上のCDでは記録及び再生できない高調波を消磁信号に含ませることが可能で、より高域での消磁又は減磁を行うことができる。具体的には、CDの高域周波数は標本化周波数が44.1kHzであることから、シャノンの定理より22kHzまでの再生しか行えないが、現在の高域用高級スピーカは40kHzないし50kHz程度まで再生能力を有し、CDでは高調波(倍音成分)を含ませられないのに対し、消磁器1では、最高周波数60kHz台の倍音までを含みスピーカのボイスコイルの消磁又は減磁を行うことができる。
【0041】
さらに、各発振信号の周波数が、互いに倍音の関係にあることから、消磁信号がスピーカから再生された場合でも、複数の周波数成分を含むことによる音のうねりを抑え、再生音の不快感を抑えることができる。
【0042】
さらに、混合信号の包絡線振幅の減衰傾斜に緩急の繰り返しを持たせ、緩やかに減衰する期間が急激に減衰する期間より長いことから、緩やかに減衰させる期間を長く取って、スピーカから再生される消磁信号の音の違和感を抑えつつ、急激に減衰する期間を緩やかに減衰する期間とセットで持たせることで、全体としてより短い期間で消磁又は減磁を行うことができる。
【0043】
さらに、混合信号の包絡線振幅を、約1秒掛けて最大振幅にした後に、徐々に減衰させることから、消磁の開始時点で、いきなり大きな音で消磁信号がスピーカで再生されることを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明は、MCカートリッジの昇圧トランスやエレキギターのピックアップの消磁にも利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・・消磁器
10・・・制御部
12・・・電圧制御増幅部
14・・・電圧増幅部
20・・・多信号混合部
22・・・
低域用発振部
24・・・
中域用発振部
26・・・
高域用発振部