【実施例】
【0030】
実施例1
材料および方法
2ヶ月〜6歳の年齢の99名の子どもは、2003年3月から2005年12月の間に、CAPのためにUniversity Hospitals of Lausanne and Geneva(スイス国所在)の小児病棟に入院したときに前向きコホート研究に登録された。子どもは、WHOの分類(ref)に従い、肺炎の臨床的徴候を呈する場合に適格者とし、喘息、慢性疾患、または基礎疾患、免疫抑制を積極的に治療した子ども、または喘鳴(細気管支炎の疑い)を呈する子どもは除外した。2003〜2005年におけるスイス国の勧告に従って肺炎連鎖球菌の予防接種を受けた子どもはいなかった。両機関の倫理委員会に承認されるように、親が内容について署名した後、彼らを登録した。
【0031】
血液、尿および鼻咽頭のサンプルを、入院8時間以内に培養し、ウイルスまたは細菌の存在を評価した。13種類のウイルス、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、およびクラミジア肺炎菌を含め、鼻咽頭のサンプルについて、PCR分析したのに対し、血液サンプルはPly特異性のPCRで評価した。入院時に行ったすべての胸部X線検査は、臨床および実験室の研究結果を伏せて、年長の放射線技師が目を通した。回復期の血清サンプルは、肺炎連鎖球菌に対してあらかじめ予防接種を受けていない、75/99名の子どもについて、3週間後に入手した。これら75名の子どもを、CAPに関連した抗肺炎球菌の応答についての本研究に含めた。
【0032】
この研究に用いたPhtD、PhtE、PcpAおよびLytBタンパク質は、大腸菌に発現させた組換えタンパク質である。使用するPhtDおよびPhtEは完全長タンパク質であり、使用するPcpAおよびLytBはコリン−結合ドメインが除去された切断した形態のものである。4種類のタンパク質すべてが、可溶性のタンパク質として大腸菌に発現され、イオン交換クロマトグラフィーの組合せによって精製される。すべてのタンパク質は、精製後、SDS−PAGEおよびRP−HPLCで分析して、≧90%の純度を有する。
【0033】
対をなす、急性期および回復期の血清サンプルを、分析するまでの間、−20℃で保管した。実験室への輸送前にサンプルを符号化し、盲目的に、実験室の個人的に無意識の臨床データによって、Ply、PhtD、PhtE、PcpAおよびLytBに対するIgG抗体を測定した。Immulon(Thermo Labsystem社製)プレートをコーティングするため、精製タンパク質を使用し、間接ELISA法によって、対をなす血清サンプルを、同一の手順で試験した。抗体力価の定量化を可能にするため、各血清サンプルの8連続希釈を行った。37℃で60分後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(Cappel社製)に共役した抗IgG抗体を加えた後、基質としてABTSを加えた。各血清のELISA力価を、各アッセイに使用する基準ヒトAB血清に対する比較によって定義し、ELISAの単位は、OD=1.0における希釈の逆数を取ることによって適宜割り当てられた。結果をEU/mlで表した。5EU/mlのアッセイのカットオフ未満の力価を有する血清には、2.5EU/mlの力価を与えた。抗体力価を、平均幾何学濃度(GMC)を比較できるように対数変換した。抗体力価における
有意な上昇は、急性期および回復期のサンプル間の最小値の2倍(100%)の増加として、あらかじめ定義した。
【0034】
参加者の社会人口統計学的特性は、標準的な記述統計学(頻度、平均、幾何学的平均、および標準偏差)を使用して記載される。スチューデントのt検定を用いて、異なる血清の比較検討を行ったのに対し、カテゴリーデータは、適切な場合には、カイ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定を使用して比較した。分散分析(ANOVA)を使用して、グループ間の血清学を比較した。症例患者であるか症例患者ではないかという従属変数に対する各変数の関係を決定するために、単変量統計解析を行った。補正オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出するために、ロジスティック回帰分析を使用し、交絡因子(性別など)としての関数であるかもしれない統計的に有意な人口統計学的変数を調整した。すべての統計的検定において、差異が、p<.05のとき、または95%CIが1.0を含まなかった場合に、有意差ありとみなした。解析には、SPSS(バージョン15.0)統計ソフトウェアプログラムを使用した。
【0035】
実施例2
実験結果
A.CAPを有する子どもにおける急性の肺炎球菌感染の痕跡
75名のあらかじめ健康な子ども(平均年齢33.7ヶ月、中央値35.4ヶ月、範囲2.6〜66ヶ月、女性50%)が入院時に登録され、CAPに関連した抗肺炎球菌の免疫の前向き研究のための急性期および回復期の血清を提供した。1名の子供だけが陽性の血液培養を有していたのに対し、15/75名(20%)の患者は、血中に肺炎球菌溶血素DNA(Ply
+−PCR)を有していた。血清IgGのPlyに対する血清応答(急性期と回復期の血清間に2倍の増加)を使用して、16/75名(21%)の子どもにおける急性の肺炎球菌感染の痕跡を確認した(表1)。割合は、Ply
+−PCRおよび/または抗Ply血清応答を組み合わせると、最近の報告と一致して、31%(23/75)まで増大した(Korppi M, Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2007)。
【0036】
子どもの急性の肺炎球菌感染の痕跡をさらに確認するため、我々は、75対の急性期および回復期の血清サンプルにおける抗体力価を定量するため、4種類の追加のPSP(PhtD、PhtE、LytB、およびPcpA)を免疫学的試験に使用した。LytBに対する応答は稀であった(表1)。対照的に、CAPを患い入院している21〜32%の子どもには、有意な(≧2倍)IgG応答が見られた(表1)。要するに、34/75名(45%)の子どもが、肺炎連鎖球菌に対する急性応答の痕跡を有した。血清IgG抗体における平均倍率変化は、抗PhtD(4.22)、抗PhtE(6.88)、および抗PcpA(5.62)で著しく、抗Ply(2.15)では穏やかであり、抗LytB(1.51)では弱かった。年齢は血清抗PSP抗体の倍率変化に影響を与えなかった(各PSPについてR
2<0.162)ことから、年少乳児であっても、急性の肺炎球菌感染に対する抗PSP応答は上昇しうることを示唆している。これは、PhtD、PhtE、およびPcpAに対し、顕著な血清応答を有する月齢8〜10ヶ月の3名の乳児の観察によって確認された(平均2.88〜6.82の倍率変化)。最後に、血清応答は、幾つかのPSPに対して頻繁に示され(≧2PSP:30%、≧3PSP:25%、≧4PSP:14%、≧5種類のPSP:1%)、最近の肺炎球菌の曝露の強い痕跡を示した。
【0037】
≧1PSPに対する急性の血清応答を有する34/75名(45%)の子どもは、86%(13/15名)のPly
+−PCR患者を含んでいた。わずかに2名のPly
+−PCRの子どもにのみ、抗PSP応答が無かった:2.6ヶ月の男児は、恐らくは、感染誘発型のB細胞応答の急速な上昇には若齢過ぎ、43ヶ月の女児は、17日間に及ぶ咳と7日間の発熱を伴って入院しており、最終的に大葉性肺炎を患って入院したときには、5種類のPSPに対してすでに高い急性の血清力価を有していた。従って、5種類のPSPのパネルに対するPly
+−PCRと血清応答の組合せにより、急性の肺炎球菌感染(P−CAP)の強い痕跡を有する、CAPで入院している36/75名(48%)の子どもを確認した。
【0038】
B.幼児における肺炎球菌のCAPの診断のための免疫試験
最近の肺炎球菌の曝露の痕跡を有しない(Ply PCR陰性およびいずれかのPSPに対するIgG力価の≧2倍の上昇なし(NP−CAP))31名の子どもに対し、急性の肺炎球菌(≧2倍の上昇)および/または感染(Ply
+−PCR)(P−CAP)の応答の痕跡を有する36名のCAPの子どもについて調査した。高い抗PSPは最近の曝露または感染を反映しうる
が、≧2倍の応答の尤度を制限することから、≧3PSPに対する非常に高い入院血清力価(>300EU/ml)を有する8名の子どもを、帰属の誤りを防ぐために、これらの分析から除外した。応答者は、定義により、対照群には含まれないので、これらのアプローチはアッセイの特異性および1.00の陽性適中率を設定する。しかしながらそれは、よく吟味された試験群におけるアッセイ感受性および陰性適中率の比較を可能にする。Ply
+−PCRのみに依存して肺炎球菌のCAPを診断すると、肺炎球菌性肺炎がほとんど菌血症性ではないという事実と一致する、19/36名(53%)の患者を見逃してしまっていたであろう。抗Ply IgG応答のみの使用は、
17/36名(47%)の子どもを見逃し、以前の報告と一致する、0.44の感受性および0.61の陰性適中率を生じる(表1)。高い数値は、抗PhtEまたは抗PcpAのいずれかの単独使用で生じた(表1)。仮定されるように、幾つかのPSPの組合せは、アッセイの感受性をさらに増強した(表2)。抗PcpAと抗PhtEの応答の組合せは、0.92の感受性と0.91の陰性適中率を生じさせた。これらの値は、抗Plyの応答を加えることによってさらに増大し、抗PcpA、PhtEおよびPlyの応答の組合せは、感受性と陰性適中率の両方にとって0.94の最適な結果を生じた。重要なことに、PcpAを含まないPSPの任意の組合せの最大値の感受性は、依然として0.68未満である。これは、抗原の数を増加させるとCAPの病原の同定の可能性を高め、特定の免疫試験が他のものよりも小児肺炎球菌のCAPの診断にさらに大いに貢献することを裏付けるものである。
【0039】
C.肺炎球菌または非肺炎球菌のCAPを患う子どもの臨床特性
次に、急性の肺炎球菌感染の強い痕跡を有する子ども(P−CAP,n=36)が、最近の肺炎球菌の曝露の痕跡の無い子ども(n=31,NP−CAP)と、人口統計特性または臨床特性の点で異なるか否かを判断することを目的とした。単変量解析は、年齢(33.5ヶ月対32.7ヶ月)、性別(50%対48%の女性)、肺炎の臨床重症度(WHOスコアI:5対1,II:23対21,III:7対9)、咳の持続期間(7日間対4日間)、発熱期間(4.2日間対3.2日間)または入院の30日間の抗生物質の使用(9名対8名の子ども)について、P−CAPまたはNP−CAPで入院している子どもの群間で異ならないことを示唆した。これは、臨床パターン単独では肺炎球菌に由来するCAPを有する子どもを確実に特定し得ないことを裏付けている。
【0040】
D.肺炎球菌または非肺炎球菌のCAPで入院した子供における明確な肺炎球菌の免疫
肺炎連鎖球菌の感染に対する防御において、以前から存在する抗肺炎球菌の抗体の重要性を考慮して、我々は、通常の基準血清を使用して、入院時におけるPSP特異性の免疫を比較し、場合により、P−CAPおよびNP−CAPの子どもにおける差異を識別する。75名の患者のすべてが、少なくとも1種類のタンパク質、ほとんどの人は幾つかのPSPに対し、検出可能な血清抗体を有していた(≧2PSP:96%,≧3PSP:92%,≧4PSP:89%,≧5種類のPSP:86%)。PcpA、PlyおよびPhtEに対して最も高いGMTを示したが、抗LytB抗体は著しく低かった(表3)。入院時における抗体力価は著しく異なっていた。肺炎球菌の曝露およびB細胞応答能の両方が年齢と共に上昇することから、我々は、年齢(月齢)とPSP特異性のGMTの相関について調べた(log10EU/ml)。これらの相関関係は強く、Ply(R
2=0.63434)、PhtD(R
2=0.63297)およびPhtE(R
2=0.59359)であり、LytB(R
2=0.45824)およびPcpA(R
2=0.31625)では有意ではあったが弱かった。4つの同年齢の群(≦17、18〜35、36〜49および≧50ヶ月)に分けた子どもにおける曝露誘発型の抗PSP抗体の評価は、抗PcpA抗体が、<18ヶ月の子どもにおいて、すでに高い力価で存在し(
図1)、それらの年齢に伴う増大は有意であるが(p=0.022)、他のPSP(p<0.001)よりも顕著さは少ないことを示唆した。抗PcpAおよび抗PhtE抗体は、恐らくは母親の抗体の受身伝達を反映して、月齢2.6ヶ月の最も若年齢の乳児にもすでに存在していた。
【0041】
本研究に用いた5種類のPSPは、肺炎球菌株のなかでも良好に保存されている(>95〜98%)。抗PSP IgG抗体が肺炎球菌性肺炎に対する防御の役割を担っているならば、肺炎球菌または非肺炎球菌のCAPを有する子供の肺炎球菌の免疫における差異を見出すことが期待される。入院時において、PhtD、PhtEおよびLytBに対する抗体は、P−CAPおよびNP−CAPの子どもにおいて同様であり(表4および
図2)、肺炎連鎖球菌への同様の過去の曝露およびB細胞応答能を示唆した。抗Plyは、入院時において、NP−CAP(169EU/ml、p=0.03)の子どもよりも、P−CAP(446EU/ml)で有意に高かった。この差は、本質的に、入院時に、高い抗Ply抗体(>200EU/ml;
図2)を有するP−CAPの子どもの割合が高いことを反映していた。非常に対照的に、抗PcpA抗体は、入院時において、P−CAPで入院している子どもにおいては、>10EU/mlの値の抗PcpA力価を有するNP−CAPの子どもの割合が高いことが影響して(
図2)、NP−CAPの子どもよりも3倍低かった(233対716EU/ml、p=0.001)。したがって、以前から存在する抗肺炎球菌の免疫は、肺炎球菌および非肺炎球菌系のCAPで入院している子どもで、有意に異なっていた。
【0042】
次に、P−CAPまたはNP−CAPで入院後3週間採取した、回復期の抗体力価を比較した。Ply、PhtD、PhtEおよびLyt−Bに対する回復期の抗体力価は、年齢の影響を受けて、依然として有意であり(p<0.01)、対照的に、抗PcpAの回復期の力価には影響を与えなかった。抗LytB抗体は、回復期の血清においてデータIIを増加させず、この抗原の感染誘発型の免疫原性が低いことを示唆した(表4;
図2)。4つの他のPSPに対する回復期の抗体力価は、NP−CAPの患者よりもP−CAPの患者の方が高かった。これらの差異は、抗Ply抗体でのみ統計的有意性に達した(表2)。逆累積度数分布曲線は、P−CAPの子どもにおける中程度または高い抗PhtDおよび抗PhtE力価の割合が高いことを明確に示唆していることから(
図2)、これは、本質的に、比較的小さい試験群における血清応答の顕著な異質性を反映しやすい。大変興味深いことに、入院時におけるP−CAPの子どもにおいて3倍低かった抗PcpA抗体は、肺炎の1つの症状の後、わずか3週間で、NP−CAPの子どものみの場合と同様の力価に達した。
【0043】
多変量解析は、年齢および臨床スコアにかかわらず、入院している子どもにおける、非肺炎球菌性肺炎に対する肺炎球菌の唯一の判断材料として、入院時における高いPly抗体(p=0.014)および低いPcpA抗体(p=0.004)を裏付けた。
【0044】
E.データ解析
データは、免疫原性のPSPのパネルの利用が、世界保健機構(WHO)によって定義されるような肺炎の臨床的徴候を有する幼児における肺炎球菌感染の診断を飛躍的に向上させることを実証している。WHOは、抗PcpA抗体を、肺炎球菌のCAPの重要な診断マーカーとして認定している。これらの抗体は、非肺炎球菌性肺炎よりは肺炎球菌を有する子どもにおいて、急性期の間に、非常に低いレベルで検出可能である。
【0045】
この研究では、我々は、PSPに基づくアッセイの感受性は、最も免疫原性のタンパク質の使用、および/またはそれらの組合せによって改善できる可能性があると仮定した。PSP免疫原性の重要性は、主として、LytBでは0.14、Plyで0.44、PhtDで0.56、およびPhtEまたはPcpAタンパク質のいずれかで0.64の範囲の感受性の実証によって確認された。年齢とは概ね無関係である、抗体応答の平均倍率(LytB(1.51)、Ply(2.15)、PhtD(4.22)、PcpA(5.62)およびPhtE(6.88))の同様の勾配によって証明されるように、この順位は、PSPの相対的な免疫原性を直接、反映する。さらに感心させられることには、幾つかのPSPの組合せが、アッセイの感受性を著しく上昇させ、抗PcpAおよび抗PhtEの応答の組合せがCAPで入院している子どもにおける最近の肺炎球菌の曝露/感染の診断で0.92の感受性に達し、これは、抗Ply応答の追加によって0.94まで上昇した。これらの感受性およびそれらの関連する陰性適中率の改善の理由の1つは、過去のコロニー形成または感染が、通常、すべてのPSPに対する抗体を励起せず、したがって、1つのPSPに対し、前から存在する高い抗体力価が、他の抗原に対する応答を妨げないようにしうることである。別の理由は、肺炎球菌のCAPの鍵となる診断マーカーとしてのタンパク質の同定である:その存在なしでは、試験したPSPの組合せにかかわらず、アッセイの感受性は、0.92ではなく、0.67になる(表2)。
【0046】
免疫試験としての5種類のPSPのパネルの使用は、急性の肺炎球菌の応答の痕跡を有する34/75名(45%)のCAPの子どもを確認した。これは、2名を除いて、血液中に肺炎球菌のDNAを有するすべての患者(Ply
+−PCR)を包含した:4日間に及ぶ発熱および咳の後に入院した3ヶ月未満の乳児では、抗PSP応答が依然として陰性であった。これは、血清診断が、免疫が未熟な時点で肺炎連鎖球菌への最初の曝露を経験する非常に年少の乳児においては依然として困難でありうることを示唆している。本研究には年少乳児はほとんど登録されなかったことから、この問題はその後の研究で対処する必要があろう。抗PSP応答を欠く他のPly
+−PCRの子どもは、CAPでの入院前に長期にわたる咳(17日間)および発熱(7日間)を有する未就学児であった。彼女の抗体力価は、入院時においてすでに非常に高く(抗Ply:952EU/ml、抗PhtD:192EU/ml、抗PhtE:277EU/ml、抗PcpA:462EU/ml)、入院前のそれらの活性化を示唆していた。注意すべきは、この患者の血清診断が、厳しい研究基準ではなく、むしろ抗体力価の倍率の排他的利用により、陽性とみなされるべきだったことであろう。8名の他の子ども(平均年齢44.5ヶ月,範囲22〜66)は、入院時において≧3PSPに対し、以前から存在する高い免疫を有しており(抗Ply>380EU/ml、抗PhtD>111EU/ml、抗PhtE>393EU/mlおよび抗PcpA>266EU/ml)、帰属の誤りを防ぐために、P−CAPまたはNP−CAPのいずれの患者とも見なさなかった。呼吸器系ウイルス(RSV、hMPV、パラインフルエンザ、ライノウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス)は、肺炎マイコプラズマ感染の痕跡を有する1名を除き、全員について確認され、すべてのPly−PCRは陰性のままであった。これら8名の患者をNP−CAP群に含めれば、各抗PSPアッセイの陰性適中率はさらに増大するであろう。
【0047】
一部の抗PSP応答は、鼻咽頭保菌が原因で生じたとは結論付けることはできない。入院時において、肺炎連鎖球菌は、鼻咽頭の獲得が肺炎球菌感染症に先行するという事実と一致して、鼻咽頭のP−CAP患者のほうがNP−CAP患者よりもさらに頻繁に確認された(44%対22%,p=0.06)。例えば、新規の肺炎球菌株の獲得が、Ply、PhtBおよびPhtEなどの特定のPSPに対する抗体の発現を誘発することが知られている(Holmlund E, PIDJ 2007)。対照的に、肺炎球菌の保菌単独では、急性の血清応答との関連性はなかった。保菌者の最近の獲得を確認するために、CAPで入院する前に鼻咽頭をサンプリングすることはできず、抗PcpA抗体が鼻咽頭保菌獲得によって容易に誘発されないと考えられる理由が存在する(下記参照)。AOMは、3名のNP−CAPおよび4名のP−CAP患者(NS)において、入院時に、30日以内の抗生物質の処方が診断され、両方の群で同様であった。CAPの病因についての以前の前向き研究は、健康な子どもの正式な対照群または他の病気を患う患者の対照群を含めなかった。大変興味深いことに、月齢24〜60ヶ月の38名のCAP患者の入院抗体力価(平均年齢43.1ヶ月、P−CAP:18、NP−CAP:18、不明:2)は、別の研究で以前に軽度の気道感染の既往がない対照として選択された58名の健康な子ども(平均年齢43.6ヶ月)のものよりも、著しく低かった(それぞれ、Ply:460対745EU/ml、PhtD:150対300EU/ml、PhtE:382対679EU/ml、PcpA:580対1440EU/ml)。従って、前向きコホート研究におけるPhtD、PhtEおよびPcpA免疫についての保菌の獲得の影響、AOM、および呼吸器感染の低さを評価することは興味深いであろう。
【0048】
本明細書に提示する病因のデータは、他の研究者の研究結果をよく裏付けている。肺炎連鎖球菌の原因となる役割は、実際、同様の設計、治験対象母集団および広範囲に及ぶ診断的な検査を用いた米国の研究において、44%の事例で文書化されていた(Michelow 2004)。それは、7価の肺炎球菌の複合ワクチンの20〜30%の予防効果とも一致している。これらのPSPに基づいた免疫試験の高い感受性および特異性を他の設定においても確認したならば、この試験が小児肺炎球菌感染症の負荷の評価に大いに有用であることを、証明するであろう。実際、肺炎球菌の病因は、本明細書で確認されたように、単に臨床症状から生じるわけではない。CAPの肺炎球菌の診断の感受性の増大はまた、さまざまな国設定における肺炎球菌のワクチンの有効性を実証するのに必要とされる研究規模を大幅に低減するであろう。
【0049】
入院時における抗肺炎球菌の免疫が、肺炎球菌と非肺炎球菌のCAPで入院した子供において有意に異なることも観察された。すべての子どもにおいて、年齢および過去の曝露を反映する幅広い濃度範囲にわたり、PSP特異性の抗体が見られた。PhtD、PhtEおよびLyt−Bに対する入院抗体レベルは、両方の群で類似しており、これらの子どもが、その抗体が母体由来であるかもしれない最も年少の乳児を除いて、肺炎連鎖球菌にあらかじめ曝露された、そうでなければ健康な子どもであったという主張を支持した。 入院時における、抗Ply IgG抗体は、P−CAPの子どものものよりも≧2倍高かった。この有意差は、本質的に、入院時にすでに高い抗Ply抗体(>200EU/ml;
図2)を有するP−CAPの子どもの割合が多いことを反映していた。従って、Ply特異性の応答は、他のPSPに対する応答よりも、P−CAPを有する子供において、より急速に誘発された。抗Ply免疫がこれらの患者においてあらかじめ誘発されており、肺炎球菌感染の時点での急速な既往反応を可能にすると仮定したくなる。より高い入院時抗Ply抗体の観察は、他の研究結果と一致し、肺炎球菌のCAPの血清診断的な基準における「高い」抗Ply力価の包含を支持する。
【0050】
非常に対照的に、抗PcpA抗体は、肺炎球菌のCAPで入院した子どもでは3倍低く、この差は非常に有意であった(p=0.001)。これは、Mn
2+ののレベルが1,000倍も低い(20nM)肺または血流に肺炎球菌が侵入するまで、PcpA発現が抑制されるように、唾液がMn
2+の最も高いインビボ濃度(36μM)を有することによる。PcpAは鼻咽頭のコロニー形成の間には発現されないことから、抗PcpA応答はコロニー形成よりも肺炎球菌感染症を反映する。これは、鼻咽頭誘発性の応答との混同を防ぐ、PcpAに基づくアッセイの独特の感受性の一因でありうる(表3)。このPcpA発現パターンは、別の意味合いも有する:以前から存在する抗PcpA免疫を有する子どもは、肺炎球菌感染症が以前に生じた子どもである。反対に、CAPの入院時における低い抗PcpA抗体力価は、子どもが肺炎球菌感染症の最初の発現を経験している可能性があることを示唆し、これは、呼吸器疾患の罹患率が低いと、感染症の危険性が高いことと関係しうる。PcpA抗体は、既往症によって高められた防御免疫のマーカーでありうる。いずれにしても、PcpAは肺炎球菌性肺炎の定着における重要な役割を担っているように思われ、したがって、潜在的なワクチンまたは診断的要素としてさらに評価する必要がある。
【0051】
要約すると、5種類の肺炎球菌の表面タンパク質(PSP)のパネルを使用して、CAPを患って入院している75名の幼児(平均年齢33.7ヶ月)の前向き研究において、肺炎球菌感染を確定した。23名(31%)の患者は、陽性の肺炎球菌溶血素(Ply)血液PCR(20%)、または抗Ply抗体の≧2倍増加(21%)のいずれかを有していた。急性の肺炎球菌感染(P−CAP)を有する36/75名(45%)の患者を確認する免疫学的試験として、PhtD、PhtE、LytBおよびPcpAを加えると診断の感受性が0.44(Ply単独)から0.94に上昇した。年齢、性別、臨床重症度のWHOスコア、咳/発熱または抗生物質使用前の期間のいずれも、これら36名の患者を最近の肺炎球菌の曝露(NP−CAP)の形跡のない31名の子どもと識別することができなかった。入院時に、PhtD、PhtEおよびLyt−Bに対する抗体は、両方の群で同様であったのに対し、抗Ply抗体はP−CAP患者において、NP−CAP患者よりも非常に高かった(それぞれ446対169EU/ml;p=0.031)。対照的に、P−CAPの子どもは、3倍低い抗PcpA抗体を有していた(233対716EU/ml;p=0.001)。多変量解析により、幼児におけるP−CAPの最も重要な判断材料(p=0.004)として、入院時点における低いPcpA抗体を確認した。これは、鼻咽頭よりも、肺などのMn
2+が低い部位におけるPcpAの選択発現と一致していた。
【0052】
本明細書に引用されたすべての参考文献は、参照することにより、それら全体を本開示に援用する。本発明は、好ましい実施の形態の観点から記載されているが、変更および修飾が生じるであろうことは当業者に理解されよう。したがって、添付の特許請求の範囲は特許請求の範囲に記載する本発明の範囲内にある、これら等価のバリエーションのすべてに及ぶことが意図されている。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】