特許第5698022号(P5698022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698022
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】トレッド用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20150319BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20150319BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150319BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K3/34
   B60C1/00 A
   B60C11/00 D
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-30245(P2011-30245)
(22)【出願日】2011年2月15日
(65)【公開番号】特開2012-167217(P2012-167217A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】千葉 雅巳
【審査官】 米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−302714(JP,A)
【文献】 特開2006−036588(JP,A)
【文献】 特開2008−222949(JP,A)
【文献】 特開2004−250245(JP,A)
【文献】 特開2003−335902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分に対して、補強剤として、水溶液中に分散させて層間剥離した層状粘土鉱物を含むトレッド用ゴム組成物であって、
ゴム成分100重量部に対して、0.5〜5重量部の前記層状粘土鉱物を含むトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分100重量部に対して、0.5〜3重量部の前記層状粘土鉱物を含むことを特徴とする請求項1に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトレッド用ゴム組成物を用いたことを特徴とするトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物及びこのトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤに関し、特に、ナノクレー(層状粘土鉱物)を含むトレッド用ゴム組成物及びこのトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッド用ゴム組成物には、路面を捕捉するグリップ性能と、効率的な走行を可能とする転がり抵抗性能の両立が求められる。かかる課題を解決しようとした先行文献として、特許文献1と特許文献2がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、グリップ性能と転がり抵抗特性をともにバランスよく向上させることを目的として、エポキシ化天然ゴムを含有するゴム成分100重量部に対して、シリカを水に分散させて5%水性分散液としたときのpHが7.1〜12.0であるシリカを30〜80重量部、およびカーボンブラックを10重量部以下含有するトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、ウェット性能を維持しながら、転がり抵抗を低減することを目的として、スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴムに、シリカと、シランカップリング剤を配合するとともに、カルシウムを含まないキチンそのものからなるキチン粉末を配合したタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、空気入りタイヤのトレッド用として高いグリップ性能を与えるゴム組成物等を提供することを目的として、天然ゴム及び合成ゴムから選ばれるゴム成分100質量部に対して、フェノール系樹脂1〜100質量部、及び有機変性された層状粘土鉱物0.1〜20質量部を配合してなるゴム組成物等が開示されている。
【0006】
一方、近年、環境意識の向上、地球温暖化抑制のための炭酸ガス排出規制、石油資源の供給量減少に伴い、将来的には石油資源に多くを依存しないタイヤの組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−156593号公報
【特許文献2】特開2009−29992号公報
【特許文献3】特開2008−222949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、いずれの先行技術もグリップ性能を向上させることに重点があり、タイヤの強度を補強するためカーボンブラックやシリカなどを多く使用しており、転がり抵抗の減少に対しては、十分な方策となっておらず、未だ十分とは言えない。
また、合成ゴムや、タイヤの強度を補強するカーボンブラックは、その添加量が多く、ゴムやタイヤの用途によっては、ゴム本来が有するゴム弾性を阻害している場合も見受けられる。このため、本願発明者は、転がり抵抗の小さいタイヤとするために、この補強剤としてのカーボンブラック、シリカの添加量に着目した。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、可能な限り石油資源の使用及び補強剤の使用を低く抑えると共に、タイヤのトレッドとして、良好なグリップ性能と転がり抵抗特性を得ることができるトレッド用ゴム組成物及びこのトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、層状粘土鉱物を含み、かつ、カーボンブラックやシリカを含まないゴム組成物をタイヤのトレッドに適用することにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明に係るトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分に対して、補強剤として、水溶液中に分散させて層間剥離した層状粘土鉱物を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分100重量部に対して、0.5〜5重量部、より好ましくは、0.5〜3重量部の前記層状粘土鉱物を十分に層関剥離させることによりカーボンブラックをしのぐ補強性が得られる。
そのため、従来、必要とされた補強性充填剤を含まないタイヤトレッド用ゴム組成物を得ることができる。補強性充填剤を含まないことにより、若しくは補強性充填剤の使用量を十分低く抑えることにより、ゴム成分の比率を高くすることができ、ゴム本来の持つゴム弾性に優れた特性を有効に発揮させ、グリップが良好で、ゴム弾性の大きいゴム組成物となる。
また、本発明に係るタイヤは、上記のトレッド用ゴム組成物を用いたことを特徴とするトレッドを有する。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、可能な限り石油資源の使用及び補強剤の使用を低く抑えると共に、タイヤのトレッドとして、良好なグリップ性能と転がり抵抗特性を得ることができるトレッド用ゴム組成物及びこのトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有するタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明に用いる主成分となるゴム成分は、天然ゴム、合成ゴムのいずれを含んでいてもよい。天然ゴム(NR)は、イソプレンゴム(IR)のように化学的に合成されたものでもよいし、天然ゴムラテックスに他の化合物を添加し、その化合物を天然ゴム分子にグラフト重合等させた変性天然ゴムであってもよい。また、合成ゴムは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)など、他の合成ゴムも含め、あらゆる種類の合成ゴムを含んでいてもよい。
【0014】
トレッド用ゴム組成物には、安全性及び経済性の観点から、耐摩耗性に加え、低転がり抵抗やグリップ性能に優れることが求められ、通常、ゴム組成物を補強するために、ゴム成分に補強剤を添加する。補強剤は、通常、シリカ、カーボンブラックが用いられる。しかしながら、本発明では、これら通常に使用される補強剤に代えて、層間剥離した層状粘土鉱物(ナノクレー)を含む。もちろん、通常使用されるカーボンブラックなどの補強剤を含んでもよいが、実質的にカーボンブラックなどの他の補強剤を含まず、補強剤として層間剥離した層状粘土鉱物のみを含んでもよい。
【0015】
層状粘土鉱物は、具体的にはスメクタイト系粘土鉱物、パーミキュライトである。また、スメクタイト系粘土鉱物は、モンモリロナイト、バイデライト,ノントロナイト,サポナイト,ヘクトナイト等である。また、有機変性剤により変性された層状粘土鉱物でもよい。
【0016】
これらの層状粘土鉱物は、天然のものでも、合成されたものでもよい。また、これらは一種を単独で用いても、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、スメクタイト系粘土鉱物のモンモリロナイトである。なお、実施例では、層状粘土鉱物として、モンモリロナイトであるクニミネ工業社製のクニピアFを使用しているが、これに限定されない。
【0017】
上記の層状粘土鉱物を、以下のように層間剥離させる。この層間剥離させた層状粘土鉱物をナノクレーと呼ぶ。層状粘土鉱物を層間剥離させる方法は、水溶液中に層状粘土鉱物を懸濁・分散することにより層間剥離させる方法でも、層状粘土鉱物を有機化させる方法でも、いずれの方法であってもよく、一般的には、層間挿入法、In-Situ重合法、超微粒子直接分散法などが挙げられる。
【0018】
有機化させる方法では、有機変性剤として、例えば、有機オニウム塩やアンモニウム塩などを使用し、イオン交換法により、層状粘土鉱物の層間に有機鎖を結合させる。有機化された層状粘土鉱物は、有機溶剤に対する膨潤性に優れ、ゴム成分が浸入し易く、層状粘土鉱物がゴム成分中に分散される。例えば、有機変性剤により変性された天然スメクタイト粘土である。
【0019】
水溶液中に分散させる方法では、まず、少量の層状粘土鉱物を水中で層劈開させ、層状粘土鉱物を分散させることにより、水溶液を調整する。そして、この水溶液を撹拌する。このようにすることで、層状粘土鉱物は、層状の間に十分な水分子が入り込み、層間剥離が起こる。
【0020】
即ち、層状粘土鉱物の膨潤は、粘土層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力が、層間陽イオンと水分子等の相互作用エネルギーより弱いため、層間陽イオンが水分子等を引き寄せる力により層間が押し広げられることにより起こる。この層間陽イオンと水分子等との相互作用によって、層間剥離が生ずる。層間陽イオンと水分子の相互作用が限界に達すると膨潤が終了する。また、層状粘土鉱物の膨潤濃度を低くすることにより、層間の相互作用を最小化することができ、その結果、水溶液中又は有機溶剤中の層状粘土鉱物を十分に層間剥離させることができる。
【0021】
また、実施例では、ゴム成分、層状粘土鉱物以外に、タイヤに使用されるゴム組成物製造に当たり一般に使用される加硫促進剤などを含むが、実施例に使用されたものに限定されるものではなく、ワックス、老化防止剤、添加剤、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ工業で一般的に使用される他の添加物を適宜含んでもよい。
【0022】
また、トレッドとは、主に路面に接する部分であり、特に耐摩耗性、高グリップ性、低転がり抵抗性が求められる。また、タイヤに使用されるゴム組成物は、一般的に低比重であることが好ましい。タイヤには、他にサイドウォール部やビード部などのゴム組成物からなる部分があるが、本発明に係るゴム組成物は、トレッド用のゴム組成物である。
なお、本発明に係るタイヤは、タイヤ工業において一般的に行なわれている混練工程等を経ることにより製造される。例えば、混練によってゴム成分と層状粘土鉱物を混練することができる。ここで、混練は、バンバリー、ニーダー、ラボプラストミル、ロール等の周知の混練装置を用いて行なうことが可能である。
【0023】
ゴム成分100重量部に対する層間剥離した層状粘土鉱物の配合割合は、0.5〜5重量部、より好ましくは、0.5〜3重量部である。層状粘土鉱物の配合割合が5重量部を超えると、補強効果が高くなりすぎゴム組成物の硬度が高くなり、加工できない。即ち、タイヤトレッドにするために、練り工程、押出し工程を経るが、この練り工程で、粉々になってしまい、十分に練ることができず、ゴム弾性が発現しない。また、層状粘土鉱物の配合割合が0.5を下回ると、十分な補強効果が得られず、転がり抵抗性やグリップ性が劣ってくる。また、層状粘土鉱物の配合割合が0.5〜3重量部であると、良好な低転がり抵抗性や高グリップ性を得ることができる。
【0024】
このように、層間剥離した層状粘土鉱物の補強強化は非常に高く後述の実施例に示すように、カーボンブラックの10倍以上あることから、層状粘土鉱物は少ない添加量で効果を得ることができる。また、これにより、比重が低くなり、ゴム成分が多いことにより反発弾性が向上し、層状粘土鉱物という扁平フィラーにより摩擦抵抗が向上し、高性能なトレッド用ゴム組成物を得ることができる。
【0025】
<実施例>
参考例1では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物として、層間剥離したアンモニウム塩で変性したモンモリロナイトを用いた。この有機変性モンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して5重量部含む。また、この層状粘土鉱物は、後述のように層間剥離した層状粘土鉱物である。また、加硫活性剤として、5重量部のメタZ−40(井上石灰工業社製)、加硫活性剤として、1重量部のステアリン酸(日油社製)、2.75重量部のレノグランCBS−80(ラインケミー社製)、3.75重量部のレノグランS−80(ラインケミー社製)、0.4重量部のサンミックスTT−75E(三新化学工業社製)を含む。
【0026】
上記の有機変性モンモリロナイトは、以下のように層間剥離されている。モンモリロナイトを変性させるため、有機変性剤としてアンモニウム塩を用い、イオン交換法により、層状粘土鉱物の層間に有機鎖を結合させている。
【0027】
(ゴム練りサンプルの作成)
参考例1では、ニーダーにて、ブロック状の天然ゴム(NRと略記する)を120℃で3分混練して可塑化した後、有機変性モンモリロナイト、メタZ−40、ステアリン酸を添加し5分間混練し、混練物を排出した。当該混練物をロールにて、レノグランCBS−80、サンミックスTT−75E、レノグランS−80を添加し、混練して混練物を得た。当該混練物を2mmのスペーサーを用いて、熱プレスで160℃、10分間加硫処理を行い、物性測定用のサンプルを得た。
【0028】
このようにして得たゴム−層状粘土鉱物のマスターバッチを、層間剥離された層状粘土鉱物がゴム成分に対して5重量部となるように配合し、混練して、タイヤトレッド用ゴム組成物を得た。
【0029】
上記の有機変性モンモリロナイトに代えて、以下のように水分散系の層間剥離されたクレイについても、検討した。
まず、通常のモンモリロナイトを、蒸留水に添加し、水中で層劈開させ、層状粘土鉱物(モンモリロナイト)を分散させることにより、水溶液を調整した。そして、この水溶液を撹拌して、まず層状粘土鉱物が水膨潤した溶液を5リットル作成した。
【0030】
この溶液に、ゴム成分50%を有する600グラムのゴムラテックス(NR)を混合した。次に、このゴムラテックス混合液を、凝固剤(塩化カルシウム)の濃度が10%である凝固溶液中に滴下し、クラム状の凝固物を作成し、回収した。この凝固物を水洗浄後、水分を除去して、ゴム−層状粘土鉱物のマスターバッチ300グラムを得た。
【0031】
次に、主成分となるブロック状のゴム材(天然ゴム)をニーダーにて混練りして可塑化した後、有機変性モンモリロナイトの代わりに、上記の方法で得た水分散系層状粘土鉱物(モンモリロナイト)を含んだ天然ゴム(NR)系のマスターバッチと他の添加剤を添加して、混練して、実施例2の混練物を得た。なお、水分散系モンモリロナイトの添加量が表1の値である3重量部となるように、ブロック状のゴム材と上記マスターバッチとを配合した。
さらに、実施例3〜5では、表1のように0.5〜5重量部となるよう、それぞれマスターバッチと他の添加剤とを配合して混練し、タイヤトレッド用ゴム組成物を得た。なお、実施例6においては、ゴム材として、天然ゴムを40部に対しSBRを60部の比率で用いた。
【0032】
上記のようにして作製されたゴム組成物において、評価結果を表1に示す。参考例1の常態物性において、硬度(HS)は55、引張強さ(TB)は16、伸び(EB)は480、300%モジュラスは7.3となった。また、比重は1.03、転がり抵抗性を示す反発弾性は72、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は78となった。なお、これらの評価方法は後述する。
【0033】
実施例2では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物としては水分散系の層間剥離したモンモリロナイトであり、このモンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して3重量部含む。但し、マスターバッチの作成時に、ごくわずかな凝固剤(塩化カルシウム)を添加しているが、これ以外の、配合は参考例1と同じである。
【0034】
常態物性において、硬度(HS)は64、引張強さ(TB)は20.3、伸び(EB)は450、300%モジュラスは8.2となった。また、比重は1.03、転がり抵抗性を示す反発弾性は75、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は80となった。
【0035】
実施例3では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物としては水分散系の層間剥離したモンモリロナイトであり、このモンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して1重量部含む。これ以外の、配合は実施例2と同じである。
【0036】
常態物性において、硬度(HS)は47、引張強さ(TB)は15、伸び(EB)は550、300%モジュラスは5となった。また、比重は1.0、転がり抵抗性を示す反発弾性は72、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は83となった。
【0037】
実施例4では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物としては水分散系の層間剥離したモンモリロナイトであり、このモンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して5重量部含む。これ以外の、配合は実施例2と同じである。
【0038】
常態物性において、硬度(HS)は75、引張強さ(TB)は22、伸び(EB)は350、300%モジュラスは15となった。また、比重は1.03、転がり抵抗性を示す反発弾性は65、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は65となった。
【0039】
実施例5では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物は水分散系の層間剥離したモンモリロナイトであり、このモンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して0.5重量部含む。これ以外の、配合は実施例2と同じである。
【0040】
常態物性において、硬度(HS)は43、引張強さ(TB)は7、伸び(EB)は600、300%モジュラスは4となった。また、比重は1.0、転がり抵抗性を示す反発弾性は70、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は82となった。
【0041】
実施例6では、天然ゴムとスチレンブタジエンゴム(SBR)を4:6の割合で配合したゴム成分を使用する。また、層状粘土鉱物は水分散系の層間剥離したモンモリロナイトであり、このモンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して3重量部含む。これ以外の、配合は実施例2と同じである。
【0042】
常態物性において、硬度(HS)は60、引張強さ(TB)は16、伸び(EB)は500、300%モジュラスは6.5となった。また、比重は1.03、転がり抵抗性を示す反発弾性は70、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は92となった。
【0043】
比較例1では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物の代わりに、カーボンブラック(HAF)を補強剤としてゴム成分100重量部に対して50重量部配合し、ニーダーにて、混練した。また、可塑剤として、ナフテンオイルをゴム成分100重量部に対して10重量部含む。これ以外の、配合は参考例1と同じである。
【0044】
常態物性において、硬度(HS)は60、引張強さ(TB)は19、伸び(EB)は450、300%モジュラスは7となった。また、比重は1.1、転がり抵抗性を示す反発弾性は60、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は60となった。
【0045】
比較例2では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物は水分散系の層間剥離したモンモリロナイトであり、このモンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して6重量部含む。これ以外の、配合は実施例2と同じである。なお、本比較例のゴム組成物は、硬度が硬すぎて加工ができず、ゴム組成物として用をなさない。
【0046】
常態物性において、硬度(HS)は82、引張強さ(TB)は18、伸び(EB)は200、300%モジュラスは測定不能となった。また、比重は1.03、転がり抵抗性を示す反発弾性は58、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は60となった。
【0047】
比較例3では、ゴム成分として、天然ゴムを使用する。また、層状粘土鉱物としては通常のモンモリロナイト(クニミネ工業社製のクニピアF)である。但し、このモンモリロナイトは、層間剥離されていないものである。
この通常のモンモリロナイトをゴム成分100重量部に対して5重量部含む。これ以外の、配合は参考例1と同じである。
【0048】
常態物性において、硬度(HS)は40、引張強さ(TB)は7、伸び(EB)は750、300%モジュラスは測定不能となった。また、比重は1.03、転がり抵抗性を示す反発弾性は70、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は75となった。
【0049】
比較例4では、天然ゴムとスチレンブタジエンゴム(SBR)を4:6の割合で配合したゴム成分を使用する。また、層状粘土鉱物の代わりに、カーボンブラック(HAF)を補強剤としてゴム成分100重量部に対して50重量部含む。また、可塑剤として、ナフテンオイルをゴム成分100重量部に対して10重量部含む。これ以外の、配合は実施例2と同じである。
【0050】
常態物性において、硬度(HS)は55、引張強さ(TB)は16、伸び(EB)は530、300%モジュラスは7となった。また、比重は1.1、転がり抵抗性を示す反発弾性は50、グリップ性を示すウェットスキッド抵抗は80となった。
【0051】
まず、参考例1と比較例1とを比較する。この両者の配合の主な違いは、比較例1では補強剤としてカーボンブラックを含んでいるのに対し、参考例1では、層間剥離したモンモリロナイトを含んでいることにある。両者の常態物性における顕著な違いは出ていないが、反発弾性では比較例1の60から参考例1の72と12も増加し、ウェットスキッド抵抗では60から78と18も増加している。従って、カーボンブラックに代えて、層間剥離したモンモリロナイトを少量使用することにより、トレッド用ゴム組成物に要求される、効率的な走行を可能とする転がり抵抗性能と路面を捕捉するグリップ性能の両立が実現されている。
【0052】
また、比重においても、1.1から1.03と軽くなっている。これは、比較例1においては、カーボンブラックを50重量部と多量に含んでいる一方、参考例1ではモンモリロナイトを5重量部という少量を含むだけなので、比重が軽くなる。タイヤ用のゴム組成物にとっては好適である。
【0053】
次に、実施例6と比較例4とを比較する。この両者の配合の主な違いは、上記比較と同様、比較例4では補強剤としてカーボンブラックを含んでいるのに対し、実施例では、水分散系の層間剥離したモンモリロナイトを含んでいることにある。なお、上記比較との主な違いは、上記比較は天然ゴム成分のみであったが、本比較では、天然ゴムに加えスチレンブタジエンゴム(SBR)も含んだゴム成分となっている。
【0054】
評価結果においても、上記比較とほぼ同様なことが言える。即ち、両者の常態物性における顕著な違いは出ていないが、反発弾性では比較例4の50から実施例6の70と20も増加し、ウェットスキッド抵抗では80から92と12も増加しており、トレッド用ゴム組成物に要求される、効率的な走行を可能とする転がり抵抗性能と路面を捕捉するグリップ性能の両立が実現されている。このことは、ゴム成分が、天然ゴムだけでなく他の合成ゴムであっても、本発明の効果が得られることを示している。
【0055】
また、比重においても、1.1から1.03と軽くなっている。これは、比較例4においては、カーボンブラックを50重量部と多量に含んでいる一方、実施例6ではモンモリロナイトを3重量部という少量を含むだけなので、比重が軽くなる。タイヤ用のゴム組成物にとっては好適である。
【0056】
次に、参考例1と比較例3とを比較する。この両者の主な違いは、参考例1では、層間剥離したモンモリロナイトを含んでいるのに対し、比較例3では、層間剥離していないモンモリロナイトを含んでいる。両者に含まれるモンモリロナイトの重量部は同じである。比較例3は、参考例1より、反発弾性とウェットスキッド抵抗の値が共にやや下まわっており、しかも、補強効果を示す一般物性(硬度・引張強さ)においては大きく劣り、補強効果はほとんどないと言ってよい。
また、有機変性したモンモリロナイトに代えて水分散したモンモリロナイト(実施例2〜実施例6)についても、上記と同様の効果を示している。
【0057】
また、300%モジュラスでは測定不能となるので、タイヤ用のゴム組成物としても不適な物となる。このことは、単に層状粘土鉱物(本比較例ではモンモリロナイト)を含んでいるだけでは補強効果は得られないが、層間剥離した層状粘土鉱物を含むことにより、かかる補強効果が得られることを示す。
【0058】
<臨界的意義>
トレッド用ゴム組成物に要求される転がり抵抗性能とグリップ性能の観点から、比較検討する。なお、一般的な自転車に使用されるタイヤのゴムでは、比重は1.25、反発弾性は50、ウェットスキッド抵抗は60である。
【0059】
まず、転がり抵抗性能を示す反発弾性は、0.5重量部のモンモリロナイトを含む実施例5が70、1重量部のモンモリロナイトを含む実施例3が72、3重量部のモンモリロナイトを含む実施例2が75、5重量部のモンモリロナイトを含む実施例4が65であるのに対し、モンモリロナイトを含まない比較例1が60、6重量部のモンモリロナイトを含む比較例2が58である。
【0060】
また、グリップ性能を示すウェットスキッド抵抗は、0.5重量部のモンモリロナイトを含む実施例5が82、1重量部のモンモリロナイトを含む実施例3が83、3重量部のモンモリロナイトを含む実施例2が80、5重量部のモンモリロナイトを含む実施例4が65であるのに対し、モンモリロナイトを含まない比較例1が60、6重量部のモンモリロナイトを含む比較例2が60である。
【0061】
ここで、一般的な自転車に使用されるタイヤのゴムにおいては、反発弾性は50、ウェットスキッド抵抗は60であることを考慮すると、実施例は明らかに反発弾性とウェットスキッド抵抗において、即ち、転がり抵抗性能とグリップ性能において向上している。従って、ゴム成分100重量部に対して、0.5〜5重量部の層間剥離されたモンモリロナイトを含むと補強効果が得られることがわかる。
【0062】
また、モンモリロナイトを5重量部含む実施例4と、他の実施例(実施例2、実施例3、実施例5)とを比べると、実施例4では、反発弾性、ウェットスキッド抵抗とも少し低減する。従って、好ましくは、ゴム成分100重量部に対して、0.5〜3重量部の層間剥離されたモンモリロナイトを含むと、より顕著な補強効果が得られることがわかる。
【0063】
また、水分散したモンモリロナイトに代えて有機変性したモンモリロナイトについても、上記と同様の効果を発揮している。
【0064】
なお、上述した評価の評価方法について以下に述べる。
<常態物性評価>
JIS K6253(硬さ試験)、JIS K6251(引張試験)に従い、160°Cで10分加硫を行ったテストピースを用いて評価した。
【0065】
<転がり抵抗性(反発弾性)の評価>
JIS K6255(トリプソ式反発弾性)に従い、160°Cで15分加硫を行ったテストピースを用いて評価した。
【0066】
<グリップ性(ウェットスキッド抵抗)の評価>
ASTM E303(Standard Test Method For Measureing Surface Frictional Properties Using The British Pendulum Tester) 英国式振り子抵抗試験機を用いる表面摩擦特性の測定法に従い、160°Cで15分加硫を行ったテストピースを用いて評価した。
【0067】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。
【表1】