【実施例】
【0021】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0022】
本実施例は、
図1に示すように、本発明の温度測定装置を内径測定器に用いた場合であり、この内径測定器に用いられた温度測定装置は、内径測定器で測定した被測定物2の内径測定値を、長さを測定する際の標準温度である20℃における寸法値に補正するため、もとの温度となる内径測定時の被測定物2の温度を測定するものである。
【0023】
本実施例の内径測定器に用いた温度測定装置は、複数の温度センサS1を配設した測定台1に被測定物2を載置してこの被測定物2の温度を測定する際に、測定台1に配設した複数の温度センサS1の中から被測定物2の温度を測定していると判断される温度センサS1を選抜し、この選抜した温度センサS1を用いて被測定物2の温度を測定する温度測定装置であり、具体的には、測定台1に配設した複数の温度センサS1が示す各温度データを、k平均法を用いて複数のクラスタに分類すると共に、測定台1に配設した複数の温度センサS1の中から被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1を索出し、k平均法を用いて分類した複数のクラスタの中から被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が測定した温度データを含んでいるクラスタを選抜し、この被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1を含んでいるクラスタを構成する温度センサS1の温度データを用いて被測定物2の温度測定するように構成した温度測定装置である。
【0024】
また、本実施例の温度測定装置は、被測定物2を載置する測定台1と、この測定台1に配設され被測定物2の温度を測定する複数の温度センサS1と、これら複数の温度センサS1の中から被測定物2の温度を測定していると判断される温度センサS1を選抜する処理を行う温度センサ選抜処理部3とで構成されている。尚、本実施例の温度測定装置の測定台1は、内径測定器の測定台を兼用する構成としている。
【0025】
より具体的には、
図2に示すように、被測定物2を載置する測定台1は、円形状に形成し、この円形状に形成した測定台1の中心から半径方向に複数の温度センサS1を一直線上に配設した構成としている。
【0026】
即ち、温度センサS1を半径方向に一直線上に配設することで、内径測定器で内径を測定する被測定物2の中心を測定台1の中心に合わせて載置するだけで、この被測定物2の厚み方向の温度分布を測定し得る構成としている。
【0027】
この測定台1に配設する温度センサS1の配置について、より詳細に説明すると、
図3に示すように、温度センサS1は、縦3mm×横2mmの方形状のものを採用し、測定台1の中心から半径方向に4mm離れた位置に温度センサS1の中心側端部が位置するように一つ目の温度センサS1を配設し、また、隣り合う温度センサS1の間隔を1.5mmに設定して複数の温度センサS1を半径方向に一直線上に配設した構成としている。
【0028】
即ち、本実施例の内径測定器で内径を測定するリングゲージは、ISO/JISでその最小の厚み(内外径の差)が8.5mmと定められており、この最小の厚みの被測定物2の内径寸法が非常に小さな寸法で小さなサイズの被測定物2に対しても、確実に一つの温度センサS1は全面が接触して被測定物2の温度を確実に測定し得る構成としている。
【0029】
また、この測定台1に配設する温度センサS1は、被測定物2と接触して温度を測定する接触式の温度センサS1であり、具体的には、窒化アルミと白金薄膜とからなる白金測温抵抗体を採用している。
【0030】
また、本実施例では、測定台1に配設され被測定物2の温度を測定する温度センサS1以外に、被測定物2の温度を測定せず、測定台1の周囲の環境温度を測定する環境温度センサS2を測定台1付近で被測定物2の温度を測定しない位置に設けた構成とし、具体的には、この環境温度センサS2は、測定台1に配設する温度センサS1と同じ白金測温抵抗体を採用した構成としている。
【0031】
尚、測定台1の形状は、円形状に限らず方形状や多角形状など被測定物2を載置し得る形状であれば特に限定するものではなく、また、この測定台1に配設する温度センサS1の配置に関しても、放射状や同心円状など測定台1に載置した被測定物2の温度を精度よく測定できることが可能な配置であれば適宜採用するものとし、更に、温度センサS1や環境温度センサS21の種類に関しても上記に限定されるものではなく、他の測温抵抗体や熱電対を採用してもよく、また、非接触式の放射温度計や光温度計などを採用してもよく、本実施例と同様の効果を発揮するものであれば適宜採用するものとする。
【0032】
この測定台1に配設した複数の温度センサS1の中から被測定物2の温度を測定していると判断される温度センサS1を選抜する処理を行う温度センサ選抜処理部3は、複数の温度センサS1の中から被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1を索出する測定確定温度センサ索出手段と、複数の温度センサS1が示す各温度データを複数のクラスタに仮分類する初期振り分け処理手段と、複数のクラスタに仮分類した各温度データをk平均法を用いて複数のクラスタに本分類するk平均法分類処理手段と、k平均法で分類したクラスタの重心を求める重心算出処理手段と、前回求めた重心と新たに求めた重心との差を算出する重心差算出処理手段と、重心の差と閾値とを比較し最終的なクラスタに分類されたか否かを判定する閾値比較処理手段とで構成しており、具体的には、これらの手段は、コンピュータ(パソコン)で処理されるプログラムで構成されるものである。
【0033】
即ち、測定台1に配設した複数の温度センサS1の全ての温度データが温度センサ選抜処理部3であるコンピュータ(パソコン)に入力され、入力された全ての温度データの中から被測定物2の温度を測定していると判断される温度データを、k平均法を用いて選抜する処理が行われ、この被測定物2の温度を測定していると判断される温度データを選抜することで被測定物2の温度を測定していると判断される温度センサS1を選抜することとなるので、この選抜した温度センサS1が測定した温度データを被測定物2の温度測定結果として表示したり、或いは、この温度データを用いて次の処理を行うように構成している。
【0034】
本実施例の温度センサ選抜処理部3に入力された全ての温度データの中から被測定物2であるリングゲージの温度を測定していると判断される温度データを、k平均法を用いて選抜するためのアルゴリズムは、以下の手順1〜手順5で行われる。
【0035】
手順1:測定台1に配設した温度センサS1が示す各温度データ、即ち、温度センサ選抜処理部3に入力された全ての温度データを、min-max法を用いて二つのクラスタに仮分類すると共に、温度センサ選抜処理部3に入力された全ての温度データの中から被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1を索出する。
【0036】
手順2:二つのクラスタに仮分類した温度データを、k平均法を用いて二つのクラスタに本分類する。
【0037】
手順3:本分類した二つのクラスタのうち、手順1で索出した被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの重心を求める。
【0038】
手順4:被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの全ての温度データを、min-max法を用いて二つのクラスタに仮分類すると共に、この二つのクラスタに仮分類した温度データを、k平均法を用いて二つのクラスタに本分類し、この本分類した二つのクラスタのうち、手順1で索出した被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの重心を求める。
【0039】
手順5:今回求めた被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの重心と、前回求めた被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの重心との差(重心の変化量)を求め、重心の差が閾値以下であれば、前回重心を求めたクラスタに含まれる全ての温度センサS1を、被測定物2を測定していると判断される温度センサS1として選抜して処理を終了し、閾値以下でなければ手順4に戻り、重心の差が閾値以下となるまで手順4と点順5とを繰り返す。
【0040】
尚、本実施例におけるクラスタの重心とは、クラスタに含まれる温度データ群の平均温度のことを示す。
【0041】
上記した各手順を、以下に、より具体的に説明する。
【0042】
手順1は、温度センサ選抜処理部3に入力された測定台1に配設した複数の温度センサS1が測定した全ての温度データ、即ち、被測定物2の温度を測定した温度データと、被測定物2の温度を測定していない温度データの両方の温度データを、k平均法を用いて複数のクラスタに分類するための初期振り分け(仮分類)を初期振り分け処理手段を用いて行っている。
【0043】
具体的には、各温度データを所定数(2以上)のクラスタに初期振り分けするための各クラスタの仮重心を設定する仮重心設定処理を行い、各温度データを前記仮重心設定処理で設定した仮重心の中で一番近い仮重心に割り当ててこれら仮重心を基準とした複数のクラスタに前記各温度データを仮分類する初期振り分け処理を行っている。
【0044】
本実施例の仮重心設定処理は、min-max法を用いて、仮重心の仮重心間距離(仮重心の温度差)が大きくなるように所定数(指定した数)の仮重心を設定する処理であり、具体的には、例えば、複数の温度センサS1が示す各温度データを二つのクラスタに初期振り分けするための二つの仮重心を設定する場合は、複数の温度センサS1が示す各温度データの最も高い温度T
maxと最も低い温度T
minとの中間温度T
midを求め、この中間温度T
midに最も近似する温度データを第一の仮重心とし、この第一の仮重心とした温度データと最も差がある温度データを第二の仮重心として二つの仮重心を設定している。
【0045】
尚、中間温度T
midは次式から求める。
【0046】
【数1】
【0047】
また、三つ以上の仮重心を設定する場合は、前述のようにして設定した第二の仮重心の温度データと最も差がある温度データを第三の仮重心として設定し、この第三の仮重心の温度データと最も差がある温度データ(既に仮重心に設定された温度データを除いて最も差がある温度データ)を第四の仮重心として設定するといったように、本実施例におけるmin-max法を用いた仮重心設定処理は、設定した仮重心から最も距離のある(温度差がある)ものを次の仮重心に設定し、このように設定する仮重心を初期振り分けするクラスタの数だけ設定することで、仮重心間距離が大きく振り分けられ、k平均法を用いて本分類する際に、クラスタ数が多くても本分類したクラスタの結果の再現性が顕著に向上し、ランダムな初期振り分けを行った場合に生ずる可能性がある分類の途中での重心の消滅などは発生せず、よって、信頼性の高い温度データを得ることができる。
【0048】
尚、本実施例では、測定台1に配設した複数の温度センサS1が測定した温度テータを、被測定物2を測定している温度データと、そうでない(測定していない)温度データとに分類することが目的であるので、分類したいクラスタは二つとなるため、この仮重心の設定数も二つとしている。
【0049】
また、本実施例では、仮重心設定処理にmin-max法を用いているが、この仮重心設定処理は、min-max法以外の方法を採用してもよく、例えば、入力された温度データに対してランダムに仮重心を設定するように構成(プログラミング)したり、或いは、仮重心を二つ設定する場合は、最大温度、最小温度の二つの点を仮重心とするように構成してもよく、本実施例の作用効果を発揮し得るものであれば適宜採用可能なものとする。
【0050】
次いで、各温度データを一番近い(一番温度が近似する)仮重心のクラスタに割り当てる初期振り分け処理を行う。本実施例では、上述したように、仮重心を二つ設定するので、この二つの仮重心に、各温度データを夫々の近似するほうの仮重心に割り当てて二つのクラスタに仮分類する処理を行っている。
【0051】
尚、この初期振り分け処理におけるクラスタ数は二つ以上でもよい。例えば、クラスタ数を三つにすれば、その分k平均法を用いた処理の回数が減ることになる。しかし、あまり初期の段階で細かく分類し過ぎてしまうと、必要な温度データまで除外してしまう恐れがあるため、初期振り分け処理時のクラスタ数の設定は適宜採用するものとし、また、確実に被測定物2の温度を測定していると判断される温度センサSを選抜するためには、初期振り分け処理のクラスタ数は二つにすることが好ましい。
【0052】
また、この初期振り分け処理手段を用いた初期振り分け処理の前に、若しくは、同時に、或いは後に、測定確定温度センサ索出手段を用いて、測定台1に配設した複数の温度センサS1の中から被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1を索出する測定確定温度センサ索出処理を行っている。
【0053】
本実施例では、上述したように測定台1に配設した各温度センサS1は、測定台1の中心からの距離が既知となっているので、被測定物2の内径を測定することで、この被測定物2に接触しこの被測定物2の温度を測定する少なくとも一つの被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1を索出することができる。
【0054】
具体的には、被測定物2の内径を測定し、温度センサS1の中心側端部の位置(測定台1の中心から温度センサS1の中心側端部までの距離)が、被測定物2の測定した内径寸法値よりも外側(中心から遠ざかる方向)で、且つこの内径測定値に一番近い温度センサS1を索出することで、温度センサSの測定面全面が確実に被測定物2に接触し、被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1を索出している。
【0055】
尚、別の索出方法として、環境温度センサS2が測定している温度データと比較し、この環境温度センサS2が示す温度データと最も差が大きい温度データを示す温度センサS1を索出して、この索出した温度センサS1を被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1としても良い。
【0056】
即ち、この環境温度センサS2は、被測定物2の温度を測定せず、測定台1付近の環境温度を測定しているので、測定台1に配設した温度センサS1の中の被測定物2の温度を測定していない温度センサS1は、この環境温度センサS2とほぼ同じ温度データを示すことになり、この環境温度センサS2の示す温度データと異なる温度データを示している温度センサS1が被測定物2の温度を測定している可能性が高いと判断することができ、更に、環境温度センサS2の示す温度データと異なる温度データを示していても、被測定物2に近接している温度センサS1などは放射熱の影響で異なる温度データを示している可能性があるので、環境温度センサS2が示す温度データと温度差が最大の温度データを示す温度センサS1を被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1とすることでより確実性の高いものとしている。
【0057】
手順2は、二つのクラスタに仮分類した各温度データを二つのクラスタに本分類するk平均法分類処理を、k平均法分類手段を用いて行っている
具体的には、仮分類した二つのクラスタの夫々の重心(夫々のクラスタに含まれる温度データ群の平均値)を算出し、温度センサ選抜処理部3に入力された全ての温度データを、この算出した二つの重心の近い方の重心に割り当てて二つのクラスタに本分類する処理を行っている。
【0058】
手順3は、手順2で本分類した二つのクラスタの夫々の重心を求める重心算出処理を、重心算出手段を用いて行っている
具体的には、クラスタの重心は、このクラスタを構成する複数の温度データの平均値であるので、夫々のクラスタ毎に温度データの和を算出し、この算出した温度データの和を温度データ数で除する処理を行い重心を算出している。
【0059】
手順4は、被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの全ての温度データに対して再度、min-max法を用いて二つのクラスタに仮分類すると共に、この二つのクラスタに仮分類した温度データを、k平均法を用いて二つのクラスタに本分類し、この本分類した二つのクラスタのうちの被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるほうのクラスタを選抜して、このクラスタの重心を求める処理を行っている。
【0060】
即ち、手順4は、手順1〜3によって求めた被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタに対して、手順1〜3に示した初期振り分け処理、k平均法分類処理、重心算出処理と同様の処理を再度行い、前回のクラスタが最終的なクラスタなのか、或いは、まだ、分類可能なのかを判断するための比較対象を求める処理である。
【0061】
手順5は、今回求めた被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの重心、即ち、比較対象のために求めたクラスタの重心と、前回求めた被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタの重心、即ち、最終的なクラスタかどうかを判断したいクラスタの重心との差を算出する重心差算出処理を、重心差算出処理手段を用いて行い、この算出した重心の差(重心の変化量)を予め設定した閾値と比較する閾値比較処理を、閾値比較処理手段を用いて行っている。
【0062】
具体的には、本実施例では、閾値を0.5℃に設定し、この手順5で算出した重心の差、即ち、今回の被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタに含まれる全ての温度データの平均値(平均温度)と、前回の被測定物2の温度を測定していることが確定的である温度センサS1が示す温度データを含んでいるクラスタに含まれる全ての温度データの平均値(平均温度)との差が閾値の0.5℃以下であれば、前回重心を求めたクラスタが最終的なクラスタとなるので、この前回重心を求めたクラスタに含まれる全ての温度センサS1を、被測定物2を測定していると判断される温度センサS1として選抜して処理を終了し、また、重心の差が0.5℃以下でなければ、手順4に戻り、重心の差が閾値(0.5℃)以下となるまで手順4と点順5とを繰り返す処理が行われる。
【0063】
以上のように、本実施例は、複数の温度センサS1を配設した測定台1に被測定物2を載置するだけで、光センサや圧力センサなどの検出システムを別途追加することなく、極めて簡易な構成で被測定物2の温度を測定している全ての温度センサS1を選抜し、この選抜した温度センサS1の温度データを用いて精度の高い温度測定を行う実用性に優れた画期的な温度測定装置を用いた内径測定器となり、よって、補正された寸法値も信頼性の高いものとなる。
【0064】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。