特許第5698154号(P5698154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698154インジウムアルコキシド含有組成物、該組成物の製造法及び該組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698154
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】インジウムアルコキシド含有組成物、該組成物の製造法及び該組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C23C 20/08 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
   C23C20/08
【請求項の数】21
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-550510(P2011-550510)
(86)(22)【出願日】2010年2月5日
(65)【公表番号】特表2012-518087(P2012-518087A)
(43)【公表日】2012年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2010051409
(87)【国際公開番号】WO2010094581
(87)【国際公開日】20100826
【審査請求日】2013年2月4日
(31)【優先権主張番号】102009009338.9
(32)【優先日】2009年2月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100061815
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン シュタイガー
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ ティーム
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ メルクロフ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥイ ヴ ファム
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンヌ ダマシェク
(72)【発明者】
【氏名】アーネ ホッペ
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−106934(JP,A)
【文献】 特開2007−042689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 20/00−20/08
C23C 18/02
H01L 21/368
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状のインジウムアルコキシド含有組成物であって、
− 少なくとも1種のインジウムアルコキシド並びに
− 少なくとも3種の溶媒L1、L2及びL3
を包含する液状のインジウムアルコキシド含有組成物において、溶媒L1が、乳酸エチル、アニソール、テトラヒドロフルフリルアルコール、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテート及び安息香酸エチルから成る群から選択されており、かつ溶媒L2とL3の2者の沸点の差がSATP条件下で少なくとも30℃であることを特徴とする、液状のインジウムアルコキシド含有組成物。
【請求項2】
前記溶媒L1が、乳酸エチル、アニソール、テトラヒドロフルフリルアルコール及び酢酸ブチルから成る群から選択されていることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のインジウムアルコキシドが、少なくとも1個のC1〜C15−アルコキシ基又はC1〜C15−オキシアルキルアルコキシ基を有するインジウム(III)アルコキシドであることを特徴とする、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記インジウム(III)アルコキシドが、インジウムイソプロポキシドであることを特徴とする、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記インジウムアルコキシドが、前記組成物中で、前記組成物の全体の質量に対して、1〜15質量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記インジウムアルコキシドが、前記組成物中で、前記組成物の全体の質量に対して、2〜10質量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記インジウムアルコキシドが、前記組成物中で、前記組成物の全体の質量に対して、2.5〜7.5質量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記溶媒L2及びL3が有機溶媒であり、それらは互いに無関係に、アルコール、ポリアルコール、エステル、アミン、ケトン又はアルデヒドから成る群から選択されていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
2の沸点がSATP条件下で30〜120℃であり、かつL3の沸点がSATP条件下で120〜300℃であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
2が、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、クロロホルム及びエチレングリコールジメチルエーテルから成る群から選択されていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
3が、テトラヒドロフルフリルアルコール、酢酸ブチル、ジエチレングリコール、アニソール、エチレングリコールジアセテート、安息香酸エチル及び乳酸エチルから成る群から選択されていることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が2種の溶媒のイソプロパノール及びジエチレングリコールを包含することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
2の割合が、前記組成物の全体の質量に対して30〜95質量%であり、かつL3の割合が、前記組成物の全体の質量に対して0.5〜70質量%であることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が少なくとも3種の溶媒のイソプロパノール、酢酸ブチル及び乳酸エチルを有することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
さらに別の少なくとも1種の更なる金属アルコキシドを有することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1種の金属アルコキシドの割合が、前記組成物の全体の質量に対して0.01〜7.5質量%であることを特徴とする、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1種のインジウムアルコキシドを、前記少なくとも3種の溶媒の混合物と混合することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項記載の液状のインジウムアルコキシド含有組成物の製造法。
【請求項18】
前記少なくとも1種のインジウムアルコキシドと少なくとも1種の溶媒を包含する組成物を他の1種以上の溶媒と混合することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項記載の液状のインジウムアルコキシド含有組成物の製造法。
【請求項19】
半導体構造を製造するための、請求項1から16までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項20】
電子素子を製造するための、請求項1から16までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項21】
前記電子素子が、(薄膜)トランジスタ、ダイオード又は太陽電池である請求項20記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムアルコキシド含有組成物、該組成物の製造法及び該組成物の使用に関する。
【0002】
印刷プロセスによる半導体の電子素子膜の製造は、数多くの他の方法、例えば化学蒸着法(CVD)と比較して、ずっと低い製造コストを可能にする。なぜなら、この場合、半導体の堆積を連続的な印刷プロセスにおいて行うことができるからである。その上また、低いプロセス温度の場合、フレキシブルな基板上で作業し、かつ場合により(なかでも、非常に薄い膜の場合と、殊に酸化物半導体の場合に)印刷された膜の光学的な透明性を得る可能性が開ける。半導体膜とは、これ以降、ゲート・ソース電圧50V及びソース・ドレイン電圧50Vにて20μmのチャネル長さ及び1cmのチャネル幅を有する素子にて0.1〜50cm2/Vsの電荷担体移動度を有する膜と解される。
【0003】
印刷法により製造される素子膜の材料は、そのつどの膜特性を大きく決定づけるものであるので、その選択は、この素子膜を含有する各々の素子に重要な影響を及ぼす。印刷された半導体膜の重要なパラメーターは、該半導体膜のそのつどの電荷担体移動度並びに該半導体膜の製造に際して使用される印刷可能な前駆体の加工性及び加工温度である。材料は、多数の適用及び基板に適しているように、良好な電荷担体移動度を有し、かつ溶液から、そして500℃を明らかに下回る温度で製造可能であることが望ましい。同様に、数多くの新しい用途に所望されていることは、作製された半導体膜の光学的な透明性である。
【0004】
酸化インジウム(酸化インジウム(III)、In23)は、3.6〜3.75eVの大きなバンドギャップ(蒸着膜について測定)[H.S.Kim,P.D.Byrne,A.Facchetti,T.J.Marks;J.Am.Chem.Soc.2008,130,12580−12581]に基づき、将来有望とされる半導体である。その上また、数百ナノメートルの厚みの薄い膜は、550nmにて90%より大きい可視スペクトル領域中で高い透過率を有することができる。極めて高度に規則正しい配列を持った酸化インジウムの単結晶中では、おまけに160cm2/Vsまでの電荷担体移動度を測定することができる。しかしながら、これまで、かかる値を溶液からの処理によって達成することは依然としてできていない[H.Nakazawa,Y.Ito,E.Matsumoto,K.Adachi,N.Aoki,Y.Ochiai;J.Appl.Phys.2006,100,093706及びA.Gupta,H.Cao,Parekh,K.K.V.Rao,A.R.Raju,U.V.Waghmare;J.Appl.Phys.2007,101,09N513]。
【0005】
しばしば、酸化インジウムは、なかでも酸化スズ(IV)(SnO2)と一緒に半導体の混合酸化物ITOとして使用される。可視スペクトル領域中での透過性を同時に併せ持つITO膜の比較的高い導電性に基づき、とりわけ液晶表示(LCD;liquid crystal display)の分野での使用、殊に"透明電極"としての使用が見出される。たいていの場合ドープされたこれらの金属酸化物膜は、工業的には、なかでも高真空中での費用の掛かる蒸着法によって製造される。ITOコーティングされた基材への経済的な大きな関心に基づき、その間に、なかでもゾル・ゲル法に拠った、酸化インジウム含有膜のための幾つかのコーティング法が存在している。
【0006】
原則的に、印刷法による酸化インジウム半導体の製造には2つの可能性がある:1)(ナノ)粒子が印刷可能な分散液中に存在し、かつ印刷プロセス後に焼結プロセスによって所望の半導体膜に転化する粒子構想、並びに2)少なくとも1種の可溶性の前駆生成物を印刷後に酸化インジウム含有膜へと変える前駆体構想。粒子構想は、前駆体の使用に比べて2つの重大な欠点を有している:1つ目は、粒子の分散液がコロイド不安定性を有し、これは(後の成膜特性に関して欠点である)分散添加剤の使用を必要としており、2つ目は、使用可能な粒子の多くが(例えばパッシベーション膜に基づき)焼結によって不完全な膜しか形成せず、その結果、該膜中で部分的になお粒状の構造が発生することである。これらの粒子境界では、電荷担体の移動度を抑制し、かつ一般的な膜抵抗を高める、多大な粒子−粒子−抵抗が生じる。
【0007】
酸化インジウム含有膜を製造するために種々の前駆体が存在する。そうしてインジウム塩以外に、例えばインジウムアルコキシドも、酸化インジウム含有膜を製造するための前駆体として使用することができる。
【0008】
例えば、Marks他は、InCl3並びにメトキシエタノール中に溶解された塩基のモノエタノールアミン(MEA)からなる前駆体溶液を製造に際して使用した素子を記載している。溶液の遠心分離(スピンコーティング)後に、相応する酸化インジウム膜が400℃での熱的な処理によって作製される[H.S.Kim,P.D.Byrne,A.Facchetti,T.J.Marks;J.Am.Chem.Soc.2008,130,12580−12581及び補足情報]。
【0009】
インジウム塩の溶液と比べて、インジウムアルコキシドの溶液は、該溶液が、より低い温度で酸化インジウム含有コーティングへと変換されることができるという利点を提供する。
【0010】
インジウムアルコキシドとその合成は、すでに前世紀の70年代から記載されている。Mehrotra他は、塩化インジウム(III)(InCl3)とNa−ORとからのインジウムトリスアルコキシドIn(OR)3の製造を記載しており、その際、Rは、−メチル、−エチル、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基及びn−ペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基を表す[S.Chatterjee,S.R.Bindal,R.C.Mehrotra;J.Indian Chem.Soc.1976,53,867]。
【0011】
Bradley他は、Mehrotra他と似た反応を報告しており、そして、ほぼ同一の出発材料(InCl3、イソプロピルナトリウム)と反応条件にて、中心原子として酸素を有するインジウムオキソクラスターを得ている[D.C.Bradley,H.Chudzynska,D.M.Frigo,M.E.Hammond,M.B.Hursthouse,M.A.Mazid;Polyhedron 1990,9,719]。
【0012】
Hoffman他は、インジウムイソプロポキシドを得るための代替的な合成経路を示しており、そして、Mehrotra他とは対照的に不溶性の白色の固体を得ている。彼らは、高分子物質[In(O−iPr)3nであると推測している[S.Suh,D.M.Hoffman;J.Am.Chem.Soc.2000,122,9396−9404]。
【0013】
前駆体法による酸化インジウム含有コーティングの多くの製造法は、前駆体から製造可能なメタレートゲルが転化工程によって相応する酸化物膜へと変換されるゾル・ゲル法に拠っている。
【0014】
そうしてJP11−106934A(Fuji Photo Film Co.Ltd.)は、ゾル・ゲル処理による透明な基材上での透明な導電性金属酸化物フィルムの製造法を記載しており、該製造法の場合、0℃より下で、金属アルコキシド又は金属塩、有利にはインジウムアルコキシド又はインジウム塩が、溶相で加水分解され、次いで加水分解物が加熱される。
【0015】
JP06−136162A(Fujimori Kogyo K.K.)は、基材上での溶液からの金属酸化物フィルムの製造法を記載しており、該製造法の場合、金属アルコキシド溶液、殊にインジウムイソプロポキシド溶液が金属酸化物ゲルへと変えられ、基材上に施与、乾燥され、かつ熱により処理され、その際、乾燥工程及び熱処理工程の前、該工程の間又は該工程の後にUV線で照射される。
【0016】
JP09−157855A(Kansai Shin Gijutsu Kenkyusho K.K.)も、基材上に施与され、かつUV線によって、そのつどの金属酸化物へと変換される、金属酸化物ゾルの中間段階を介した金属アルコキシド溶液からの金属酸化物フィルムの製造を記載する。結果生じる金属酸化物は、酸化インジウムでありうる。
【0017】
CN1280960Aは、ゾル・ゲル法による溶液からのインジウム・スズ酸化物膜の製造を記載しており、その際、金属アルコキシドの混合物が、溶媒中に溶解、加水分解され、次いで基材のコーティングのために使用され、あとに乾燥及び硬化が続けられる。
【0018】
しかしながら、このゾル・ゲル法に共通していることは、それらのゲルが、高い粘度に基づき印刷処理における使用には適しておらず及び/又は、殊に僅かに濃縮された溶液の場合には、結果生じる酸化インジウム含有膜が不均質性ひいては不十分な成膜パラメーターを有することである。不均質性とは、本件の場合、個々のドメイン中での結晶形成と解され、これは表面でRms=5nm(二乗平均平方根粗さ;英語rms−roughness=root−mean−squared roughness:平均二乗根;原子間力顕微鏡により測定)を上回る粗さをもたらす。この粗さは、一方では、酸化インジウム含有膜の成膜特性にマイナス作用を及ぼし(なかでも、半導体適用には小さすぎる電荷担体移動度が結果生じる)、かつ他方では、素子を作製するための更なる膜の施与にとってマイナス作用を及ぼす。
【0019】
これまでに記載されたゾル・ゲル法とは対照的に、JP11−106953A(Fuji Photo Film Co.Ltd)には、透明な基材上での導電性金属酸化物フィルムの製造法が記載されており、該製造法の場合、250℃を下回る、有利には100℃を下回る硬化温度を得るために、金属アルコキシド及び/又は金属塩を含有するコーティング組成物が透明な基材上で熱的に乾燥され、引き続きUV線又はVIS線で転化される。
【0020】
しかしながら、この方法の場合に使用される電磁線による転化は、結果生じる表面の膜に起伏があり、かつ平らでないという欠点を有する。これは、均一かつ一様なビーム分布を基材上で得ることが困難であることから生まれる。
【0021】
JP2007−042689Aは、亜鉛アルコキシドを不可避的に含有し、そのうえインジウムアルコキシドを含有していてよい金属アルコキシド溶液、並びにこれらの金属アルコキシド溶液を使用する半導体素子の製造法を記載している。
金属アルコキシドフィルムは、熱的に処理され、かつ酸化物膜へと変換される。
【0022】
しかしながら、これらの系も、十分には均質でないフィルムをもたらす。
【0023】
従って、本発明が基礎とする課題は、公知の先行技術と比べて、上記先行技術の言及した欠点を有さない酸化インジウム含有膜を製造することができる系を提供すること、すなわち、慣例の印刷法において使用可能であり、かつ、高い均質性及び僅かな波むら、起伏及び粗さ(殊に粗さ≦20nm Rms)を有する、より良好な品質の酸化インジウム含有膜を製造することができる系を提供することである。
【0024】
この課題は、少なくとも1種のインジウムアルコキシドと少なくとも3種の溶媒L1、L2及びL3を包含する液状のインジウムアルコキシド含有組成物において、溶媒L1が、乳酸エチル、アニソール、テトラヒドロフルフリルアルコール、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテート及び安息香酸エチルから成る群から選択されており、かつ双方の溶媒L2及びL3の沸点の差がSATP条件下で少なくとも30℃であることを特徴とする該組成物によって解決される。
【0025】
その際、意想外にも、2種より多い溶媒を有する組成物において、該組成物を用いて作製可能な酸化インジウム含有膜の品質が大きく悪化することなく、2種のみの溶媒を有する系と比べて、空気中に触れた本発明による組成物の貯蔵安定性及び耐久性が大きく改善することを認めることができた。この効果は、該系が次の溶媒:乳酸エチル、アニソール、テトラヒドロフルフリルアルコール又は酢酸ブチルの少なくとも1種を含有する場合、特に際立ったものであった。
【0026】
本発明の意味における液状の組成物とは、SATP条件("標準環境温度及び圧力"、T=25℃及びp=1013hPa)にて液状で存在する組成物と解される。
【0027】
インジウムアルコキシドは、有利にはインジウム(III)アルコキシドである。更に有利には、インジウム(III)アルコキシドは、少なくとも1個のC1〜C15−アルコキシ基又は−オキシアルキルアルコキシ基、特に有利には少なくとも1個のC1〜C10−アルコキシ基又は−オキシアルキルアルコキシ基を有するアルコキシドである。極めて有利には、インジウム(III)アルコキシドは、一般式In(OR)3のアルコキシドであり、式中、RはC1〜C15−アルキル基又は−アルキルオキシアルキル基、更にずっと有利にはC1〜C10−アルキル基又は−アルキルオキシアルキル基である。特に有利には、このインジウム(III)アルコキシドは、In(OCH33、In(OCH2CH33、In(OCH2CH2OCH33、In(OCH(CH323又はIn(O(CH333である。更にずっと有利には、In(OCH(CH323(インジウムイソプロポキシド)が使用される。
【0028】
インジウムアルコキシドは、組成物中で、有利には、組成物の全体の質量に対して、1〜15質量%の割合、特に有利には2〜10質量%の割合、極めて有利には2.5〜7.5質量%の割合で存在する。
【0029】
溶媒L2及びL3は、有利には互いに無関係に、アルコール、ポリアルコール、エステル、アミン、ケトン又はアルデヒドから成る群から選択される有機溶媒である。その際、溶媒の選択を、それらの沸点の差がSATP条件下で少なくとも30℃であるように行い、かつ常に少なくとも3種の異なる溶媒が存在することが保証されている場合には、本質的に溶媒の全ての組み合わせを選択することができる。
【0030】
有利な組成物は、L2の沸点がSATP条件下で30〜120℃であり、かつL3の沸点がSATP条件下で120〜300℃であり、ただし他方では、双方の選択された溶媒が、SATP条件下で少なくとも30℃の沸点差を有する組成物である。
【0031】
極めて有利には、組成物中の溶媒L2は、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、クロロホルム、酢酸エチル、エチレングリコールジメチルエーテルから成る群から選択されている。
【0032】
そのうえ極めて有利には、L3は、テトラヒドロフルフリルアルコール、酢酸ブチル、アニソール、安息香酸エチル、エチレングリコールジアセテート、乳酸エチル及びジエチレングリコール、更にずっと有利にはジエチレングリコール、酢酸ブチル及び乳酸エチルから成る群から選択されている。
【0033】
極めて高価な酸化インジウム含有膜は、L2=イソプロパノール及びL3=ジエチレングリコールを包含する組成物により製造することができる。
【0034】
有利には、本発明による組成物は、溶媒L2を、該組成物の全体の質量に対して30〜95質量%の割合で含有し、かつ溶媒L3を、該組成物の全体の質量に対して0.5〜70質量%の割合で含有する。
【0035】
極めて貯蔵安定性のかつ耐久性の組成物は、溶媒のイソプロパノール、酢酸ブチル及び乳酸エチルからの混合物を用いて得られた。
【0036】
本発明による組成物を用いて−該組成物がインジウムアルコキシド以外に更に別の金属前駆体を含有しない場合には−質的に非常に高価な酸化インジウム膜を製造することができる。本発明の意味における酸化インジウム膜とは、その際、言及したインジウムアルコキシドから製造可能な金属含有膜と解され、該金属含有膜は本質的にインジウム原子もしくはインジウムイオンを有し、その際、インジウム原子もしくはインジウムイオンは本質的に酸化物で存在する。場合により、酸化インジウム膜は、完全ではない転化からのカルベン割合もしくはアルコキシド割合もなお有していてよい。それとは異なり、酸化インジウム含有膜とは、本質的に酸化物で存在するインジウム原子もしくはインジウムイオン以外にもなお更に別の金属、半金属又はそれらの相応する酸化物を有する膜と解される。
【0037】
好ましくは、本発明による組成物は、しかしながら、なお少なくとも1種の更なる(半)金属前駆体を有する。特に質的に高価な酸化インジウム含有膜は、その際、組成物がなお少なくとも1種の更なる(半)金属アルコキシドを有する場合に製造することができる。(半)金属アルコキシドとの用語は、その際、半金属アルコキシドのみならず金属アルコキシドも包含する。
【0038】
この少なくとも1種の(半)金属アルコキシドは、有利には、組成物の全体の質量に対して0.01〜7.5質量%の割合で存在する。
【0039】
有利には、少なくとも1種の(半)金属アルコキシドは、第1族、第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、第14族又は第15族の群の金属もしくは半金属から成る群から選択された金属又は半金属のアルコキシド、有利には、Zn、Ga、Sn、Mg、Fe、Al、Ba、Cu、Ti、Si、Pb、Zr、Hf、Ta、Nb、Ge、Mn、Re、Ru及びAgから成る群から選択された金属もしくは半金属のアルコキシドである。極めて有利には、(半)金属アルコキシドは、Zn、Ga、Sn、Ti及びCuから成る群から選択された金属もしくは半金属のアルコキシドである。
【0040】
少なくとも1種の更なる(半)金属アルコキシドは、有利には、少なくとも1個のC1〜C15−アルコキシ基又は−オキシアルキルアルコキシ基、特に有利には少なくとも1個のC1〜C10−アルコキシ基又は−オキシアルキルアルコキシ基を有するアルコキシドである。極めて有利には、(半)金属アルコキシドは、一般式In(OR)3のアルコキシドであり、式中、RはC1〜C15−アルキル基又は−アルキルオキシアルキル基、更にずっと有利にはC1〜C10−アルキル基又はアルキルオキシアルキル基である。特に有利には、この(半)金属アルコキシドは、M(x)(OCH3x、M(x)(OCH2CH3x、M(x)(OCH2CH2OCH3x、M(x)(OCH(CH32x又はM(x)(O(CH33xの種類のアルコキシドであり、その際、添え字xは(半)金属の相応する価数に相当する。
【0041】
本発明による組成物は、少なくとも1種のインジウムアルコキシドを、少なくとも3種の溶媒を包含する混合物と混ぜることによって製造することができる。
【0042】
代替的に、本発明による組成物はまた、少なくとも1種のインジウムアルコキシド及び少なくとも1種の溶媒を包含する組成物を他の溶媒と混合することによって製造することができる。
【0043】
そのうえ本発明の対象は、半導体構造を製造するための本発明による組成物の使用である。
【0044】
本発明による組成物を用いて製造可能な半導体の酸化インジウム含有構造は、0.1〜50cm2/Vsの電荷担体移動度(ゲート・ソース電圧50V、ドレイン・ソース電圧50V、チャネル長さ1cm及びチャネル幅20μmにて測定)を有し、その際、これは"傾斜チャネル近似"のモデルにより測定されることができる。このために、古典的なMOSFETから公知の式が使用される。線形領域においては:
【数1】
が適用され、式中、IDはドレイン電流、UDSはドレイン・ソース電圧、UGSはゲート・ソース電圧、Ciは絶縁体の単位面積当たりの容量、Wはトランジスタ−チャネルの幅、Lはトランジスタのチャネル長さ、μは電荷担体移動度及びUTは閾値電圧である。
【0045】
飽和領域においては、ドレイン電流とゲート電圧の2乗の関係が適用され、該関係はここで電荷担体移動度を測定するために使用される:
【数2】
【0046】
有利には、本発明による組成物は、半導体の酸化インジウム含有構造、殊に半導体の酸化インジウム含有膜の製造法において使用される。従って、本発明の対象はまた、半導体構造を製造するための本発明による組成物の使用である。有利には、この使用は、半導体構造を製造するコーティング法における本発明による組成物の使用の形で行われる。本発明による組成物は、印刷法(殊にフレキソ/グラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、デジタルオフセット印刷及びスクリーン印刷)、噴霧法、回転コーティング法("スピンコーティング")及び浸漬法("ディップコーティング")から選択されるコーティング法での使用に特に良く適している。
極めて有利には、本発明による方法は印刷法である。
【0047】
これらの本発明による方法で使用される基材は、有利には、ガラス、シリコン、二酸化シリコン、金属酸化物又は遷移金属酸化物あるいは高分子材料、殊にPE、PEN、PI又はPETから成る基材から選択されている。
【0048】
コーティング後かつ転化前に、コーティングされた基材を、そのうえ乾燥させてよい。これに関しての相応する措置及び条件は当業者に公知である。
【0049】
酸化インジウムもしくは酸化インジウム含有膜への作製された構造もしくは膜の転化は、熱的な方法で及び/又はUV線、IR線あるいはVIS線によって行うことができる。しかしながら、特に良好な結果は、転化のために150℃〜360℃の温度が使用される場合に得ることができる。
【0050】
その際、一般に、数秒ないし数時間にかけてまでの転化時間が用いられる。
【0051】
転化はそのうえ、コーティング工程後に得られた膜を熱的な処理前に水及び/又は過酸化水素と接触させ、かつ該膜を中間工程でまず金属水酸化物へと変換し、その後に熱的な変換を行うことによって補うこともできる。
【0052】
そのうえ本発明による方法に従って作製された膜の品質は、転化工程に続けて組み合わされた温度処理とガス処理(H2又はO2による)、プラズマ処理(Ar−、N2、O2又はH2プラズマ)、マイクロ波処理、レーザー処理(UV領域、VIS領域又はIR領域中での波長を有する)、紫外線放射、赤外線放射又はオゾン処理によって更に改善することができる。
【0053】
そのうえ本発明の対象は、本発明による組成物を用いて製造可能な酸化インジウム含有膜である。
【0054】
そのうえ本発明による組成物を用いて製造可能な酸化インジウム含有構造は、電子素子の製造、殊に(薄膜)トランジスタ、ダイオード又は太陽電池の製造のために有利には適している。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明によるコーティングのIn23膜のSEM写真を示す図
図2】比較例のコーティングのIn23膜のSEM写真を示す図
【0056】
以下の実施例は、本発明の対象を詳細に説明するものである。
【0057】
比較例:
溶液0の調製
イソプロパノール(bp:82℃)中で5質量%のインジウム(III)イソプロポキシドの溶液に、イソプロパノール10体積%を加えた。この方法では、本発明による実施例で濃度を変化させることによって生じる効果は除外される。
【0058】
コーティング
約15mmのエッジ長さ及び約200nmの厚さの酸化シリコン−コーティング及びITO/金からのフィンガー構造を有するドープされたシリコン基材を、上記と同じ条件下で、調製された溶液0 100μLを用いてスピンコーティング(2000rpm)により空気中でSATP条件下でコーティングした。コーティングプロセス後に、コーティングされた基材を空気中で350℃の温度で1時間のあいだ焼鈍した。
【0059】
図1は、結果生じる本発明によるコーティングのIn23膜のSEM写真を示し、図2は、比較例の相応するSEM写真を示す(倍率:10,000x)。本発明による膜の粗さはずっと少ないことが明らかに認められる。そのうえ、比較例の膜は本発明による実施例よりずっと不均質である。
【0060】
本発明によるコーティングは、1cm2/Vsの電荷担体移動度(ゲート・ソース電圧50V、ソース・ドレイン電圧50V、チャネル幅1cm及びチャネル長さ20μm)を示す。それに比べて、比較例の膜における電荷担体移動度は0.02cm2/Vs(ゲート・ソース電圧50V、ソース・ドレイン電圧50V、チャネル幅1cm及びチャネル長さ20μm)でしかない。
【0061】
本発明による実施例1〜4
上述の例と同じように、更に別の組成物を製造した。これらの溶液を用いて、比較例と同じようにトランジスタを組み立て、そして該トランジスタの電荷担体移動度を測った。第1表には、製造した溶液と測定した移動度がまとめられている。
【0062】
溶液1の調製
イソプロパノール(bp:82℃)中で5質量%のインジウム(III)イソプロポキシドの溶液に、酢酸ブチル(bp:127℃)50体積%と乳酸エチル(bp:154℃)からなる混合物10体積%を加えた。
【0063】
溶液2の調製
イソプロパノール(bp:82℃)中で5質量%のインジウム(III)イソプロポキシドの溶液に、ジエチレングリコール(bp:244℃)50体積%とアニソール(bp:155℃)50体積%からなる混合物10体積%を加えた。
【0064】
溶液3の調製
イソプロパノール(bp:82℃)中で5質量%のインジウム(III)イソプロポキシドの溶液に、ジエチレングリコール(bp:244℃)50体積%とエチレングリコールジアセテート(bp:190℃)50体積%からなる混合物10体積%を加えた。
【0065】
溶液4の調製
イソプロパノール(bp:82℃)中で5質量%のインジウム(III)イソプロポキシドの溶液に、ジエチレングリコール(bp:244℃)50体積%と安息香酸エチル(bp:214℃)50体積%からなる混合物10体積%を加えた。
【0066】
コーティング
約15mmのエッジ長さ及び約200nmの厚さの酸化シリコン−コーティング及びITO/金からのフィンガー構造を有するドープされたシリコン基材を、上記と同じ条件下で、それぞれの溶液100μLを用いてスピンコーティング(2000rpm)により空気中でSATP条件下でコーティングした。コーティングプロセス後に、コーティングされた基材を空気中で350℃の温度で1時間のあいだ焼鈍した。電気的測定の結果は、第1表から読み取ることができる。
【0067】
【表1】
図1
図2