(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698161
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】金属含有膜被着のための金属錯体
(51)【国際特許分類】
C07F 5/00 20060101AFI20150319BHJP
C23C 16/18 20060101ALI20150319BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
C07F5/00 DCSP
C23C16/18
H01L21/285 C
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-13411(P2012-13411)
(22)【出願日】2012年1月25日
(65)【公開番号】特開2012-153688(P2012-153688A)
(43)【公開日】2012年8月16日
【審査請求日】2012年3月23日
【審判番号】不服2014-16885(P2014-16885/J1)
【審判請求日】2014年8月26日
(31)【優先権主張番号】61/436,000
(32)【優先日】2011年1月25日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/348,228
(32)【優先日】2012年1月11日
(33)【優先権主張国】US
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591035368
【氏名又は名称】エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】シンジャン レイ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ピー.スペンス
【合議体】
【審判長】
中田 とし子
【審判官】
柴田 昌弘
【審判官】
井上 雅博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−151613(JP,A)
【文献】
特開2007−302656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00 CSPD
C23C 16/18
H01L 21/285 C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式Iを有する金属含有錯体。
・構造式I:
【化1】
(式中、Mは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムからなる群から選択される三価金属イオンであり、R
1は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択され、R
3は、1〜10個の炭素原子を有するアルキル及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択される直鎖又は分岐基であり、R
4は、2〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5-6は、C1〜10直鎖又は分岐アルキルからなる群から個別に選択され、n=1であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよく、XはNR’(ここで、R’は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)であり、YはOである)
【請求項2】
下記の構造式I(A)を有する、請求項1に記載の金属含有錯体。
・構造式I(A):
【化2】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択され、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよく、R
5及びR’は、C1〜2アルキルからなる群から個別に選択され、R
6は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択される)
【請求項3】
前記直鎖又は分岐アルキルがメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、オクチル及びデシルからなる群から選択され、前記環状基が5又は6員の飽和炭化水素環、5又は6員の不飽和炭化水素環、及び5又は6員の芳香族環からなる群から選択される、請求項1に記載の金属含有錯体。
【請求項4】
M=イットリウム、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri; M=ガドリニウム、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri; M=ランタン、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri; ならびにM=エルビウム、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri、からなる群から選択される構造式Iの、請求項1に記載の金属含有錯体。
【請求項5】
下記の構造式Iを有する金属含有錯体を被着させることによる膜の製造方法。
・構造式I:
【化3】
(式中、Mは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムからなる群から選択される三価金属イオンであり、R
1は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択され、R
3は、1〜10個の炭素原子を有するアルキル及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択される直鎖又は分岐基であり、R
4は、2〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5-6は、C1〜10直鎖又は分岐アルキルからなる群から個別に選択され、n=1であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよく、XはNR’(ここで、R’は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)であり、YはOである)
【請求項6】
前記被着を、化学気相成長(CVD)、サイクリック化学気相成長(CCVD)、プラズマ支援サイクリック化学気相成長、原子層堆積(ALD)及びプラズマ支援原子層堆積からなる群から選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属含有錯体が下記の構造式I(A)を有する、請求項5に記載の方法。
・構造式I(A):
【化4】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群から選択され、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよく、R
5及びR’は、C1〜2アルキルからなる群から個別に選択され、R
6は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択される)
【請求項8】
前記直鎖又は分岐アルキルがメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、オクチル及びデシルからなる群から選択され、前記環状基が5又は6員の飽和炭化水素環、5又は6員の不飽和炭化水素環、及び5又は6員の芳香族環からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
構造式Iを有する金属含有錯体が、M=イットリウム、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri; M=ガドリニウム、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri; M=ランタン、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri; ならびにM=エルビウム、R1=But、R2=H、R3=Me、R4=−CH(Me)CH2−、R5=R’=Me、及びR6=Pri、からなる群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2011年1月25日出願の米国仮特許出願番号第61/436000号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体産業では、現在、様々な用途での薄い金属膜又は金属含有膜の使用を検討している。多くの有機金属錯体が、これらの薄い膜の形成のための可能性のある前駆体として評価されている。
【0003】
米国特許出願公開第2009/0302434号明細書及び国際公開第09/149372号パンフレットには、希土類金属含有層を被着させるための方法及び組成物が開示されている。一般的に、開示されている方法は、化学気相成長又は原子層堆積などの被着方法を用いて、希土類金属含有化合物を含む前駆体化合物を被着させる。開示されている前駆体化合物には、置換基として少なくとも1つの脂肪族基を有するシクロペンタジエニル配位子及びアミジン配位子が含まれる。
【0004】
Edelmann, F.T. “Lanthanide Amidinates and Guanidinates: From Laboratory Curiosities to Efficient Homogeneous Catalysts and Precursors for Rare−Earth Oxide Thin Films” Chemical Society Reviews 38(8): 2253−2268(2009)によるチュートリアル概説には、現在の有機ランタニド化学における最新の話題は大きなランタニドカチオンの配位要件を満たすことができる代替配位子セットの探求であることが教示されている。この分野において最も成功したアプローチの中に、立体的シクロペンタジエニル同等物と考えることができる一般タイプ[RC(NR’)
2]
-(R=H、アルキル、アリール、R’=アルキル、シクロアルキル、アリール、SiMe
3である)のアミジナート配位子の使用がある。密接に関係しているのは、一般タイプ[R
2NC(NR’)
2]
-(R=アルキル、SiMe
3、R’=アルキル、シクロアルキル、アリール、SiMe
3)のグアニジナートアニオンである。2つのアミジナート配位子又はグアニジナート配位子がランタニドイオンと配位結合してメタロセンに似た配位環境を形成することができ、それによって非常に反応性ではあるが安定したアミド種、アルキル種及び水素化物種の分離及び特性評価が可能になる。一置換及び三置換ランタニドアミジナート及びグアニジナート錯体もまた容易に利用できる。様々な希土類アミジナート及びグアニジナートが、例えば開環重合反応のための、非常に効果的な均一系触媒であることが判明している。更に、特定のアルキル置換ランタニドトリス(アミジナート)及びトリス(グアニジナート)は、揮発性が高いことが見出されており、そのため材料技術及びナノテクノロジーにおいてALD(=原子層堆積)法及びMOCVD(=有機金属化学気相成長)法のための有望な前駆体である可能性があった。このチュートリアル概説では、ランタニドアミジナート及びランタニドグアニジナートの成功談と、それらが単なる実験室での好奇心から効果的な均一系触媒ならびにALD及びMOCVD前駆体へと移り変わったことが言及された。
【0005】
Husekova, K., M. JurkoviC, K. Cico, D. Machajdik, E. DobroCka, R. Luptak, A. Mackova and K. Frohlich “Preparation of High Permittivity GdScO
3 Films by Liquid Injection MOCVD” ECS Transactions 25(8): 1061−1064(2009)には、GdScO
3薄膜の調製と特性が教示されている。これらの膜は、液体注入有機金属化学気相成長、MOCVDによって600℃で(100)Si基板上に作製された。被着させた状態のままの膜は、平滑な表面とはっきりしたGdScO
3/Si界面を有する非晶質であった。X線回折で、その非晶質相は1000℃までの高速熱アニールによく耐えることが示された。しかしながら、1000℃でアニール後のX線反射率パターンの変化により、基板から膜の全体積へのシリコンの拡散によるものと推定される膜厚の増大が示されている。静電容量−電圧測定の結果、誘電率は22であった。20を超える誘電率を達成するのに、GdScO
3の正確な化学量論量は必要でないことが示されている。
【0006】
Jones, A.C., H.C. Aspinall, P.R. Chalker, R.J. Potter, K. Kukli, A. Rahtu, M. Ritala and M. Leskela “Recent Developments in The MOCVD and ALD of Rare Earth Oxides and Silicates” Materials Science and Engineering B 118(1−3): 97−104(2005)では、0.1μm未満のCMOS技術における誘電体絶縁層としてのSiO
2の代替物としてランタニド又は希土類が調査されている。有機金属化学気相成長(MOCVD)及び原子層堆積(ALD)はこれらの高κ誘電酸化物の被着に有望な技術であり、この論文ではPrO
x、La
2O
3、Gd
2O
3、Nd
2O
3及びそれらの関連シリケートのMOCVD及びALDに関する最近の研究の一部を概説している。
【0007】
特開2002−338590号公報には、一般式Ln(C
5H
4Et)
3(Ln=La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)によって表される11のトリス(エチルシクロペンタジエニル)ランタニドが開示されており、それらは無水塩化ランタニドをエチルシクロペンタジエニルカリウムとTHF中又はTHFを含有する不活性有機溶媒中で反応させ、生成した塩を除去し、未反応の反応物、THF、溶媒及び副生成物を減圧下に真空蒸留で蒸留除去し、生成物を回収することによって調製される。
【0008】
Katamreddy, R., N.A. Stafford, L. Guerin, B. Feist, C. Dussarrat, V. Pallem, C. Weiland and R. Opila “Atomic Layer Deposition of Rare−Earth Oxide Thin Films for High−K Dielectric Applications” ECS Transactions, 19(2): 525−536(2009)には、原子層堆積(ALD)によって半導体のための金属層及び金属酸化物層を被着させるための金属源として多くの様々な有機ランタニド分子が提案されている。これらの前駆体は、半導体製造プロセスに使用するために、特定の物理的特性及び熱的特性が必要であった。例えば、それらの前駆体は高い揮発性、反応性及び熱安定性を有している必要があった。ALD被着方法は非常に有望であったが、新規の高κ金属酸化物膜には、半導体プロセスの非常に厳しい要件を満たす新たな前駆体が必要となる。トリス(シクロペンタジエニル)希土類化合物は、高蒸気圧、多くの場合には低融点及び液体状態での入手可能性、水に対する高い反応性、ならびに被着のための高成長率から、前駆体としての使用に興味深いものである。この研究では、Cp系ランタニド前駆体の種々の重要な熱的特性とともに金属酸化物の被着に関するそれらのALD特性が研究された。
【0009】
米国特許出願公開第2008/0032062号明細書には、式M(NR1R2)
x(この式中、Mは金属又は半金属であり、R1は、同じであるか又は異なり、炭化水素基又はヘテロ原子含有基であり、R2は、同じであるか又は異なり、炭化水素基又はヘテロ原子含有基であり、R1及びR2は、結合して置換又は非置換の飽和又は不飽和環状基を形成していてよく、1つの(NR1R2)基のR1又はR2は、もう1つの(NR1R2)基のR1又はR2と結合して置換又は非置換の飽和又は不飽和環状基を形成していてよく、xはMの酸化状態に等しい)によって表される有機金属化合物であって、(i)モノマー構造及びアニオン性配位子に関してMの酸化状態に等しい配位数を維持するのに十分な立体的嵩高さと、(ii)気相成長に好適な揮発性を有するのに十分な分子量とを有する有機金属化合物、この有機金属化合物を製造するための方法、ならびに有機金属前駆体化合物から膜又はコーティングを製造するための方法が開示されている。
【0010】
Nief, F. “Heterocyclopentadienyl Complexes of Group−3 Metals” European Journal of Inorganic Chemistry(4): 891−904(2001)には、第3族金属(スカンジウム、イットリウム、ランタン及びランタニド、ならびにウラン)のヘテロシクロペンタジエニル錯体が、シクロペンタジエニル様配位子の1つ以上の−CH単位がヘテロ元素(窒素、リン、ヒ素、又はアンチモン)で置き換えられている化合物であることが教示されている。これらの配位子は、とりわけ架橋構造及びキャビタンド様構造を有する、非常に多様な置換パターンを有することができる。古典的なη
5−配位挙動に加えて、そのヘテロシクロペンタジエニル配位子は、非常に多様な配位パターンをとることができる。いくつかの錯体は、窒素及びエチレンなどの小分子を活性化することが見出されているため、非常に有望な化学的性質を有する。
【0011】
Paivasaari, J. and I. Charles, L. Dezelah, Dwayne Back, Hani M. El−Kaderi, Mary Jane Heeg, Matti Putkonen, Lauri Niinisto and Charles H. Winter “Synthesis, structure and properties of volatile lanthanide complexes containing amidinate ligands: application for Er
2O
3 thin film growth by atomic layer deposition” J. Mater. Chem. 15: 4224−4233(2005)には、無水希土類塩化物を3当量のリチウム1,3−ジ−tert−ブチルアセトアミジナート(ジ−tert−ブチルカルボジイミド及びメチルリチウムからその場で調製したもの)を用いてテトラヒドロフラン中で周囲温度で処理することによって、Ln(
tBuNC(CH
3)N
tBu)
3(Ln=Y、La、Ce、Nd、Eu、Er、Lu)を57〜72%の分離収率で得たことが教示されている。これらの錯体のX線結晶構造によって、ランタニド(III)イオンの周りに歪んだ八面体配置を有するモノマーが形成されたことが示された。これらの新しい錯体は>300℃で熱的に安定であり、180〜220℃の間、0.05トルでは分解せずに昇華する。Er
2O
3膜が原子層堆積することは、基板温度225〜300℃の間でEr(
tBuNC(CH
3)N
tBu)
3及びオゾンを用いて示された。成長速度は、基板温度に対して、225℃での1サイクルで0.37Åから300℃での1サイクルで0.55Åまで直線的に増加した。基板温度>300℃では、基板でかなりの厚さ勾配が生じ、前駆体の熱分解が示唆された。膜成長速度は、エルビウム前駆体でパルス長1.0秒及び3.0秒の間でわずかに増加し、成長速度はそれぞれ、1サイクルで0.39Å及び0.51Åであった。250℃で被着させた一連の膜では、成長速度は被着サイクル数に対して直線的に変化した。飛行時間型弾性反跳粒子分析では、わずかに酸素リッチのEr
2O
3膜が示され、基板温度250℃及び300℃で炭素、水素及びフッ素のレベルはそれぞれ、1.0〜1.9原子%、1.7〜1.9原子%及び0.3〜1.3原子%であった。赤外線分光法では、炭酸塩の存在が示され、膜中の炭素及びわずかに過剰の酸素はこの種によるものであることが示唆された。被着させた状態のままの膜は、300℃未満で非晶質であったが、300℃では立方晶系のEr
2O
3による反射を示した。原子間力顕微鏡では、250℃及び300℃で被着させた膜でそれぞれ二乗平均平方根表面粗さ0.3nm及び2.8nmが示された。
【0012】
Peng, H., Z. Zhang, R. Qi, Y. Yao, Y. Zhang, Q. Shen and Y. Cheng “Synthesis, Reactivity, and Characterization of Sodium and Rare−Earth Metal Complexes Bearing a Dianionic N−Aryloxo−Functionalized β−ketoiminate Ligand” Inorganic Chemistry 47(21): 9828−9835(2008)には、ジアニオン性N−アリールオキソ官能基を有するβ−ケトイミナート配位子によって安定化した一連のナトリウム及び希土類金属錯体の合成及び反応性が教示されている。アセチルアセトンを1当量の2−アミノ−4−メチルフェノールと無水エタノール中で反応させることによって、化合物4−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)イミノ−2−ペンタノン(LH2、1)が高収率で得られた。化合物1と過剰のNaHとの反応によって、新規なナトリウムクラスター[LNa
2(THF)
2]
4(2)を良好な分離収率で得た。構造判定で、錯体2は頂点が22個のカゴ構造を有することが明らかになった。調査後、錯体2と無水LnCl
3との1:4モル比での反応によって、所望の塩化ランタニド[LLnCl(DME)]
2[Ln=Y(3)、Yb(4)、Tb(5)]をダイマーとして得た。更なる研究で、錯体3〜5は塩素置換反応に対して不活性であることが明らかになった。調査後、(ArO)
3Ln(THF)(ArO=2,6−Bu
t2−4−MeC
6H
2O)と化合物1との1:1モル比でテトラヒドロフラン(THF)中での反応によって、所望の希土類金属アリールオキシドをダイマー[LLn(OAr)(THF)]
2[Ln=Nd(6)、Sm(7)、Yb(8)、Y(9)]として高分離収率で得た。これらの錯体は全て十分に特性が調べられており、錯体2及び4〜6の最終的な分子構造が決定された。錯体6〜9はL−ラクチド重合の効果的な開始剤として使用することができ、その中心金属のイオン半径は触媒活性に対して重要な影響を与えることが見出された。
【0013】
米国特許出願公開第2010/0078601号明細書には、希土類金属含有層を被着させるための方法及び組成物が教示されている。一般的に、開示されている方法は、化学気相成長又は原子層堆積などの気相被着方法を用いて、希土類含有化合物を含む前駆体化合物を被着させる。一部の実施形態では、開示されている前駆体化合物は、置換基として少なくとも1つの脂肪族基を有するシクロペンタジエニル配位子を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0302434号明細書
【特許文献2】国際公開第09/149372号パンフレット
【特許文献3】特開2002−338590号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2008/0032062号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/0078601号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Edelmann, F.T. “Lanthanide Amidinates and Guanidinates: From Laboratory Curiosities to Efficient Homogeneous Catalysts and Precursors for Rare−Earth Oxide Thin Films” Chemical Society Reviews 38(8): 2253−2268(2009)
【非特許文献2】Husekova, K., M. JurkoviC, K. Cico, D. Machajdik, E. DobroCka, R. Luptak, A. Mackova and K. Frohlich “Preparation of High Permittivity GdScO3 Films by Liquid Injection MOCVD” ECS Transactions 25(8): 1061−1064(2009)
【非特許文献3】Jones, A.C., H.C. Aspinall, P.R. Chalker, R.J. Potter, K. Kukli, A. Rahtu, M. Ritala and M. Leskela “Recent Developments in The MOCVD and ALD of Rare Earth Oxides and Silicates” Materials Science and Engineering B 118(1−3): 97−104(2005)
【非特許文献4】Katamreddy, R., N.A. Stafford, L. Guerin, B. Feist, C. Dussarrat, V. Pallem, C. Weiland and R. Opila “Atomic Layer Deposition of Rare−Earth Oxide Thin Films for High−K Dielectric Applications” ECS Transactions, 19(2): 525−536(2009)
【非特許文献5】Nief, F. “Heterocyclopentadienyl Complexes of Group−3 Metals” European Journal of Inorganic Chemistry(4): 891−904(2001)
【非特許文献6】Paivasaari, J. and I. Charles, L. Dezelah, Dwayne Back, Hani M. El−Kaderi, Mary Jane Heeg, Matti Putkonen, Lauri Niinisto and Charles H. Winter “Synthesis, structure and properties of volatile lanthanide complexes containing amidinate ligands: application for Er2O3 thin film growth by atomic layer deposition” J. Mater. Chem. 15: 4224−4233(2005)
【非特許文献7】Peng, H., Z. Zhang, R. Qi, Y. Yao, Y. Zhang, Q. Shen and Y. Cheng “Synthesis, Reactivity, and Characterization of Sodium and Rare−Earth Metal Complexes Bearing a Dianionic N−Aryloxo−Functionalized β−ketoiminate Ligand” Inorganic Chemistry 47(21): 9828−9835(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
当業界では、化学気相成長(CVD)及び原子層堆積(ALD)によって金属含有膜を被着させるための可能性のある前駆体として、新しい揮発性の、反応性に富んだ、熱的に安定な化合物を開発する必要性がなおも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、半導体産業において金属膜又は金属酸化物膜を被着させるために前駆体として使用することができる可能性がある新しい一群の第2族〜第15族金属錯体に関するものである。
【0018】
本発明の1つの態様は、多座配位のケトイミン配位子及びアルコキシ又はアミノ配位子の両方を有する構造式Iを有する金属含有錯体に関する。
【0019】
【化1】
【0020】
(式中、Mは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、マンガン、アンチモン、ビスマスを含む三価金属イオンから選択され、R
1は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択され、R
3は、1〜10個の炭素原子を有するアルキル及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択される直鎖又は分岐基であり、R
4は、2〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5-6は、C1〜10直鎖又は分岐アルキルからなる群から個別に選択され、n=1又は2であり、R
1及びR
2は、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、Xは、O又はNR’(ここで、R’は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択され、Yは、O又はNR”(ここで、R”は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択される)
【0021】
本発明の別の態様は、多座配位のケトイミン配位子及びアルコキシ又はアミノ配位子の両方を有する構造式IIを有する一群の金属含有錯体に関する。
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、Mは、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、ルテニウム、銅、亜鉛、カジウム(cadium)を含む二価金属イオンであり、R
1は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され,R
2は、水素、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択され、R
3は、1〜10個の炭素原子を有するアルキル及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択される直鎖又は分岐基であり、R
4は、2〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5-6は、C1〜10アルキル、好ましくはC
1-3アルキルからなる群から個別に選択され、R
1及びR
2は、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、Xは、O又はNR’(ここで、R’は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択され、Yは、O又はNR”(ここで、R”は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択される)
【0024】
本発明の別の態様は、構造式I及び構造式IIからなる群から選択される構造式を有する、多座配位のケトイミン配位子及びアルコキシ又はアミノ配位子の両方を含む金属含有錯体を使用して、化学気相成長(CVD)、サイクリック化学気相成長(CCVD)、プラズマ支援サイクリック化学気相成長(PECCVD)、原子層堆積(ALD)又はプラズマ支援原子層堆積(PEALD)のいずれかによって金属含有膜又は多成分金属酸化物膜を製造するための方法に関する。
【0025】
更に、本発明の別の態様は、構造式I及び構造式IIからなる群から選択される構造式を有する、多座配位のケトイミン配位子及びアルコキシ又はアミノ配位子の両方を含む少なくとも1種の金属含有錯体を含む前駆体を使用することによる多成分金属酸化物膜に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)イットリウムの結晶構造を示す図である。
【
図2】ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)イットリウムの熱重量分析(TGA)を示す図であって、ほぼ完全な蒸発を示して、イットリウム含有膜を被着させるための前駆体としてそれを使用することができることを示唆している。
【
図3】(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)マグネシウムエトキシドダイマーの結晶構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の実施形態は、下に示す構造式Iによって表される、多座配位のケトイミン配位子及びアルコキシ又はアミノ配位子の両方を有する部類の金属含有錯体を開示するものである。
【0029】
(式中、Mは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、マンガン、アンチモン、ビスマスを含む三価金属イオンから選択され、R
1は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜10個の炭素原子を有するアルキル及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択される直鎖又は分岐基であり、R
4は、2〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5-6は、C1〜10直鎖又は分岐アルキルからなる群から個別に選択され、n=1又は2であり、R
1及びR
2は、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、Xは、O又はNR’(ここで、R’は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択され、Yは、O又はNR”(ここで、R”は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択される)
【0030】
本発明の第1の実施形態の第1の例は、下に示す構造式I(A)によって表される。
【0032】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5及びR’は、C1〜2アルキルからなる群から個別に選択され、R
6は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、n=1又は2であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよい)
【0033】
本発明の第1の実施形態の第2の例は、下に示す構造式I(B)によって表される。
【0035】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5及びR’は、C1〜2アルキルからなる群から個別に選択され、R
6及びR”は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から個別に選択され、n=1、2であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよい)
【0036】
本発明の第1の実施形態の第3の例は、下に示す構造式I(C)によって表される。
【0038】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5は、C1〜2アルキルからなる群から選択され、R
6は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、n=1又は2であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよい)
【0039】
本発明の第1の実施形態の第4の例は、下に示す構造式I(D)によって表される。
【0041】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5は、C1〜2アルキルからなる群から選択され、R
6及びR”は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から個別に選択され、n=1又は2であり、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよい)
【0042】
本発明の第2の実施形態は、下に示す構造式IIによって表される、多座配位のケトイミン配位子及びアルコキシ又はアミノ配位子の両方を含む一群の金属含有錯体を開示するものである。
【0044】
(式中、Mは、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、ルテニウム、銅、亜鉛、カジウムを含む二価金属イオンであり、R
1は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、1〜10個の炭素原子を有するアルキル、及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜10個の炭素原子を有するアルキ及び6〜10個の炭素原子を有するアリールからなる群から選択される直鎖又は分岐基であり、R
4は、2〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5-6は、C
1-10アルキル、好ましくはC
1-3アルキルからなる群から個別に選択され、R
7は、C1〜10アルキル、好ましくはC1〜3からなる群から選択され、R
1及びR
2は、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基、好ましくは5又は6員環を形成していてもよく、Xは、O又はNR’(ここで、R’は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択され、Yは、O又はNR”(ここで、R”は、C1〜10直鎖又は分岐アルキル又は3〜10個の炭素原子を有するアルキルシリルからなる群から選択される)から選択される)
【0045】
本発明の第2の実施形態の例は、下に示す構造式II(E)によって表される。
【0047】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5は、C1〜2アルキルからなる群から選択され、R
6は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよい)
【0048】
本発明の第2の実施形態の別の例は、下に示す構造式II(F)によって表される。
【0050】
(式中、R
1は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
2は、水素、メチル及びエチルからなる群からのものであることができ、R
3は、1〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキルであり、R
4は、2〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル結合基であり、R
5及びR’は、C1〜2アルキルからなる群から個別に選択され、R
6は、C1〜5直鎖又は分岐アルキルからなる群から選択され、R
1及びR
2は、結合して環状基を形成していてもよく、R
4及びR
5もまた、結合して環状基を形成していてもよい)
【0051】
「直鎖又は分岐アルキル」という用語は、ここでの説明を通して、1〜10個の炭素原子、好ましくは1〜5個の炭素原子を有する炭化水素基を意味する。代表的なアルキル基としては、限定されるものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、オクチル及びデシルが挙げられる。
【0052】
「環状基」という用語は、ここでの説明を通して、3〜10個の炭素原子、好ましくは5〜6個の炭素原子を有する炭化水素基又は芳香族基を意味する。代表的な環状基としては、限定されるものではないが、5又は6員の飽和炭化水素環、5又は6員の不飽和炭化水素環、及び5又は6員の芳香族環が挙げられる。
【0053】
三座配位のβ−ケトイミナート配位子及びアルコキシ又はアミノの両方を有するこれらの金属含有錯体は、化学気相成長(CVD)法、サイクリック化学気相成長(CCVD)法、プラズマ支援サイクリック化学気相成長(PECCVD)法、原子層堆積(ALD)法又はプラズマ支援原子層堆積(PEALD)法のいずれかによって、500℃より低い温度で、薄い金属膜、金属酸化物膜又は多成分金属酸化物膜を作製するための可能性のある前駆体として使用することができる。CVD、CCVD、PECCVD、ALD又はPEALD法は、還元剤又は酸化剤を用いて又は用いずに行うことができるが、それに対してALD法は通常、還元剤又は酸化剤などの別の反応物を使用することを必要とする。還元剤は、水素、アンモニア、水素プラズマ、アンモニアプラズマ、水素/窒素プラズマ、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。酸化剤は、酸素、オゾン、水、酸素プラズマ、水プラズマ、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0054】
多成分金属酸化物には、限定されるものではないが、チタンをドープした酸化イットリウム、チタンをドープした酸化スカンジウム、チタンをドープしたランタニド(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)酸化物、ハフニウムをドープした酸化イットリウム、ハフニウムをドープした酸化スカンジウム、ハフニウムをドープしたランタニド(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)酸化物、ジルコニウムをドープした酸化イットリウム、ジルコニウムをドープした酸化スカンジウム、ジルコニウムをドープしたランタニド(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)酸化物、及びそれらの混合物が含まれる。
【0055】
多成分金属酸化物の場合、これらの錯体は、他の揮発性金属前駆体と組み合わせて使用することができ、あるいはそれらが同じ三座配位β−ケトイミナート配位子とアルコキシ又はアミノ配位子を有する場合には、それらを前もって混合することができる。三座配位のβ−ケトイミナート配位子を有するこれらの金属含有錯体は、周知のバブリング技術又は蒸気抜き出し技術によって気相でCVD又はALD反応器に供給することができる。錯体を好適な溶媒又は溶媒混合物に溶解して、使用する溶媒又は混合溶媒に応じてモル濃度0.001〜2Mの溶液を調製することによって、直接液体供給法も使用することができる。
【0056】
被着プロセスに用いる前駆体の可溶化に使用する溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、亜硝酸エステル及びアルコールを含む任意の適合する溶媒又はそれらの混合物を含むことができる。溶液の溶媒成分は、好ましくは、1〜20のエトキシ−(C
2H
4O)−繰り返し単位を有するグリム溶媒、C
2〜C
12アルカノール、C
1〜C
6アルキル部分を含むジアルキルエーテル、C
4〜C
8環状エーテルからなる群から選択される有機エーテル、C
12〜C
60クラウンO
4〜O
20エーテル(ここで、先頭のC
iの範囲はエーテル化合物中の炭素原子の数iであり、その後のO
iの範囲はエーテル化合物中の酸素原子の数iである)、C
6〜C
12脂肪族炭化水素、C
6〜C
18芳香族炭化水素、有機エステル、有機アミン、ポリアミン及び有機アミドからなる群から選択される溶媒を含む。
【実施例】
【0057】
〔例1〕
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)イットリウムの合成
【0058】
室温で50mLのTHF中に2.00g(7.51mmol)のイットリウム(III)イソプロポキシドの溶液に、25mLのTHF中に3.40g(15.03mmol)の2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノンを加えた。反応混合物を16時間還流させ、その後揮発性物質を真空下で除去した。粒子の多い油を分離し、それを真空蒸留に付して余分な配位子を除去した。ワックス質の残留固形分をヘキサン中で再結晶させ、大きな塊状結晶を得た。
【0059】
元素分析: C
29H
57N
4O
3Yの計算値: C, 58.18; N, 9.36; H, 9.60。 実測値: C, 53.72; N, 9.11; H, 10.29。
1H NMR (500MHz, C
6D
6): δ=5.21(s,2H)、4.52(七重線,1H)、3.77(t,2H)、3.42(m,2H)、2.51(b,6H)、1.97(b,6H)、1.80(s,6H)、1.75(dd、2H)、1.45(dd,6H)、1.30(s,18H)、1.10(d,6H)。
【0060】
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)イットリウムの結晶構造を
図1に示した。
【0061】
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)イットリウムの熱重量分析(TGA)を
図2に示した。TGAから、この化合物がほぼ完全に蒸発することが示され、ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)イットリウムが熱的に安定であること、イットリウム含有膜を被着させるための前駆体として使用することができることが示された。
【0062】
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)イットリウムは、M=イットリウム、R
1=Bu
t、R
2=H、R
3=Me、R
4=−CH(Me)CH
2−、R
5=R’=Me、R
6=Pr
i、及びn=1の場合の構造式I(A)に相当した。
【0063】
〔例2〕
(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(エトキシ)マグネシウムダイマーの合成
【0064】
室温で40mLのトルエン中に0.25g(10.28mmol)のマグネシウム削りくずと4.66g(20.57mmol)の2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノンとの混合物に、0.95g(20.57mmol)の無水エタノールを加えた。反応混合物を16時間還流させ、その後それは均一な溶液になった。揮発性物質を真空下で除去して油状物質を得、それをヘキサンに懸濁させ加熱して溶液にした。結果として結晶が成長した。
【0065】
元素分析: C
30H
60Mg
2N
4O
4の計算値: C, 61.13; N, 9.50; H, 10.26。 実測値: C, 58.69; N, 9.44; H, 10.10。
1H NMR(500MHz,C
6D
6): δ=5.17(s,2H)、4.08(m,2H)、3.99(m,2H)、3.19(m,2H)、3.06(t,2H)、2.21(b,12H)、1.78(s,6H)、1.78(dd,2H)、1.40(s,18H)、1.37(t,6H)、1.03(d,6H)。
【0066】
(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)マグネシウムエトキシドダイマーの結晶構造を
図3に示した。
【0067】
(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(エトキシ)マグネシウムは、M=マグネシウム、R
1=Bu
t、R
2=H、R
3=Me、R
4=−CH(Me)CH
2−、R
5=R’=Me、及びR
6=Etの場合の構造式II(F)に相当した。
【0068】
〔例3〕
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)ガドリニウムの合成
【0069】
室温で15mLのTHF中に0.50g(1.49mmol)のガドリニウム(III)イソプロポキシドの溶液に、5mLのTHF中に0.68g(2.99mmol)の2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノンを加えた。反応混合物を16時間還流させ、その後全ての揮発性物質を真空下で除去した。処理後、1.08gの結晶を分離した。
【0070】
元素分析: C
29H
57N
4O
3Gdの計算値: C, 52.22; N, 8.40; H, 8.61。 実測値: C, 50.21; N, 8.34; H, 8.72。
【0071】
X線での単結晶の解析によって、構造がビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)ガドリニウムであることが確認された。
【0072】
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)ガドリニウムは、M=ガドリニウム、R
1=Bu
t、R
2=H、R
3=Me、R
4=−CH(Me)CH
2−、R
5=R’=Me、R
6=Pr
i、及びn=1の場合の構造式I(A)に相当した。
【0073】
〔例4〕
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)ランタンの合成
【0074】
室温で15mLのTHF中に0.50g(1.58mmol)のランタン(III)イソプロポキシドの溶液に、5mLのTHF中に0.72g(3.16mmol)の2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノンを加えた。反応混合物を16時間還流させ、その後全ての揮発性物質を真空下で除去して1.16gの生成物を得た。
【0075】
元素分析:
1H NMR(500MHz,C
6D
6): δ=5.16(s,2H)、4.54(七重線,1H)、3.80(t,2H)、3.45(m,2H)、2.49(b,6H)、1.97(b,6H)、1.80(dd,2H)、1.78(s,6H)、1.52(dd,6H)、1.30(s,18H)、1.07(d,6H)。
【0076】
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)ランタンは、M=ランタン、R
1=Bu
t、R
2=H、R
3=Me、R
4=−CH(Me)CH
2−、R
5=R’=Me、R
6=Pr
i、n=1の場合の構造式I(A)に相当した。
【0077】
〔例5〕
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)エルビウムの合成
【0078】
室温で15mLのTHF中に0.50g(1.45mmol)のエルビウム(III)イソプロポキシドの溶液に、5mLのTHF中に0.66g(2.90mmol)の2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノンを加えた。反応混合物を16時間還流させ、その後揮発性物質を真空下で除去して1.14gの生成物を得た。
【0079】
ビス(2,2−ジメチル−5(1−ジメチルアミノ−2−プロピルイミノ)−3−ヘキサノナト−N,O,N’)(イソプロポキシ)エルビウムは、M=エルビウム、R
1=Bu
t、R
2=H、R
3=Me、R
4=−CH(Me)CH
2−、R
5=R’=Me、R
6=Pr
i、及びn=1の場合の構造式I(A)に相当した。
【0080】
上に挙げた本発明の実施例及び実施形態は、本発明から構成することができる数多くの実施形態の例示である。具体的に開示したもの以外の数多くの物質を作ることができると考えられる。数多くの他のプロセス構成もまた用いることができ、そのプロセスに使用される物質は具体的に開示したもの以外の数多くの物質から選択することができる。