(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記ステント用カバー部材を構成する生体吸収性ポリマー材料は、ポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプロラクトン(PCL)との共重合体(LCL)であって、上記PLLAと上記PCLの組成比がモル比(mol%)で95〜20:5〜80の範囲にあることを特徴とする請求項1記載のステント用カバー部材。
上記ステント用カバー部材を構成する生体吸収性ポリマー材料100重量部に対し、純度を94%以上とするエピガロカテキンガレード(EGCg)が1〜30重量部添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のステント用カバー部材。
上記ステント用カバー部材を構成する生体吸収性ポリマー材料は、ポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプロラクトン(PCL)との共重合体(LCL)であって、上記PLLAと上記PCLの組成比がモル比(mol%)で95〜20:5〜80の範囲にあることを特徴とする請求項7記載のステント装置。
上記ステントは、一連に連続する線条体を直線部分と折り曲げ部とが順次連続するように折り曲げて形成された複数の管状体形成エレメントを組み合わせて構成され、上記折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径されることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のステント装置。
上記ステント用カバー部材には、脈管内に植え込まれ拡張されたステントによって支持脈管内壁の表面積に対し10〜70%の開口率で複数の開口部が形成されていることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載のステント装置。
上記ステント用カバー部材には、内膜増殖抑制効果を有する薬剤が担持され、上記ステントには、血栓形成抑制効果を有する薬剤が担持されていることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のステント装置。
上記ステント用カバー部材を構成する生体吸収性ポリマー材料100重量部に対し、純度を94%以上とするエピガロカテキンガレード(EGCg)が1〜30重量部添加されていることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のステント装置。
上記ステント用カバー部材の外周面に、内膜増殖抑制効果を有する薬剤を含有したコーティング剤が被着されて薬剤担持層が形成されていることを特徴とする請求項7〜13のいずれか1項に記載のステント装置。
【背景技術】
【0002】
従来、生体の脈管、特に冠動脈などの血管において狭窄が発生した部位を、医療用バルーンカテーテルを用いて拡張し、この拡張した部位に筒状のステントを植え込み、このステントによりその内部から支持することで血流を確保するようにしたステント留置術を採用した経皮的冠動脈形成術(PTCA )による治療が行われている。
【0003】
本発明者らは、術後の被施術者への負担を軽減することを目的に、生体の血管内への植え込み後一定期間を経過することにより生体内で消失する生体吸収性ポリマー材料を用いて形成したステントをWO92/15342(特許文献1)、WO00/13737(特許文献2)において提案し、更に、WO2009/157164(特許文献3)において提案している。
【0004】
これらのステントは、形状記憶特性を有する生体吸収性ポリマー材料を用いて筒状に形成されたものであって、血管を内部から支持する外周径を有する拡径された大きさに形状記憶されている。これらのステントは、血管内に植え込まれとき、生体の体温により加温されて形状記憶された大きさに拡径された状態を維持して血管をその内部から支持する。この種のステントは、カテーテルに装着され、カテーテルとともに血管内に挿入され、脈管内の病変部位に植え込まれる。
【0005】
ところで、血管を内部から支持する大きさに拡径されたステントは、血管内への円滑な挿入を可能とするため、形状記憶された大きさに比し十分に小さい外周径を有する大きさに縮径された状態でカテーテルに装着されている。
【0006】
そして、生体吸収性ポリマー材料よりなるステントは、このステントを構成する生体吸収性ポリマー材料の性質から、血管内に植え込まれ生体の体温により加温されて形状記憶された外周径を有する大きさに拡径するとき、急峻に拡径することなく、一定の時間をかけて徐々に拡径されていく。これは、生体吸収性ポリマーが粘弾性体としての性質を有し、形状記憶された大きさに拡径していくときに粘性抵抗が作用するためである。このように、ステントは、拡径に時間を要する。
【0007】
そこで、生体吸収性ポリマー材料を用いて形成されたステントは、血管内の植え込み位置である病変部位まで移送された後、直ちに血管の内壁を支持する大きさに拡径されるように、拡張媒体の注入により急峻に拡張可能なバルーンの拡張力を利用して拡径される。
【0008】
このように、バルーンの拡張力を利用して拡径される生体吸収性ポリマー材料を用いて形成されたステントは、縮径された状態で、カテーテルの先端部に折り畳まれた状態で取り付けられたバルーン上に装着され、このバルーンとともに血管内の植え込み部位まで移送される。そして、血管の所望の植え込み位置まで移送されたところで、バルーンに拡張媒体が供給されて拡張されることにより、急峻に血管を内部より支持する大きさに拡径されて病変部位に植え込まれる。生体吸収性ポリマー材料からなるステントは、一旦拡径されると、バルーンから拡張媒体が抜き取られ、このバルーンが縮小された後にあっても、自己拡張力により形状記憶された大きさを維持し、このステントが植え込まれた部位を内部から支持し、血管内に血液の流路を確保する。
【0009】
生体吸収性ポリマー材料を用いて形成され、血管をその内部から拡張した状態に支持する拡径された大きさに形状記憶されたステントにあっては、血管内に挿入されていくときに生体の体温により加温され、縮径された状態から形状記憶された拡径された状態に形状回復する自己拡張力が作用する。このような形状回復機能が作用することにより、縮径されてバルーン上に圧着するように装着されたステントは、拡径してバルーンから離間するようになる。そのため、バルーン上に装着されたステントは、血管内に挿入する途中で血管の内壁に接触することにより生ずる摩擦力を受けてバルーンに対し位置ずれや、脱落を生じさせてしまう。そして、ステントは、バルーン上から脱落してしまうと、バルーンの拡張力を受けて急峻な拡径ができなくなり、病変部位等の所望の部位への正確な植え込みができなくなる。また、ステントは、バルーン上から脱落しない場合であっても、バルーンに対する位置ずれを生じさせてしまうと、バルーンの拡張力を全長に亘って均一に受けることができなくなり、一端側から他端側に亘る全長に亘って拡径されなくなってしまう。このように、ステントが全長に亘って均一に拡径されなくなってしまうと、血管内の所望の部位を正確に支持し得なくなってしまう。
【0010】
PTCAにおいて、ステント留置術を採用したとき、再狭窄が高い確率で発生することが報告されている。このような再狭窄を抑制するため、内膜増殖抑制効果を有する薬剤や血栓形成抑制効果を有する薬剤を含有したコーティング剤を表面に被着し、一定期間に亘って薬剤を放出するようにした薬剤放出型のステントが特開2008−253707号公報(特許文献4)等において提案されている。しかし、ステントがバルーンから脱落し、あるいは位置ずれを生じさせ、血管内の所望の留置位置に正確に植え込むことができなくなると、このステントに担持した薬剤を所望の薬剤投与部位に放出することができなくなってしまう。
【0011】
このような問題点を解消するため、本発明者等は、WO2004/103450(特許文献5)において、ステントを外周側に装着したバルーンカテーテルを保護用シース内に挿入したステント供給装置を提案している。このステント供給装置は、更に、ステントを保護用のシースから突出させ拡径するとき、バルーンに対する位置ずれが発生しないようにするため、ステントの一端側を保持部材により保持するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したようなステント供給装置は、縮径されたステントの拡張を防止してバルーン上にステントを装着した状態を維持できるが、保護シースを備えることにより構造が複雑となり製造が困難となる。
【0014】
更に、保護シースを用いたステント供給装置にあっては、ステントが装着されたバルーンを植え込み位置の近傍にまで挿入した後、バルーンを保護シースの先端から突出させるために保護シースをカテーテルに対し進退操作する必要があり、ステントの植え込み操作が煩雑になってしまう。
【0015】
そこで、本発明の目的は、保護シースなどを用いることなく、生体吸収性ポリマー材料により形成され、脈管内に植え込まれたときに脈管の内径以上に拡径される大きさに形状記憶され、体温により加温されて拡径された状態に形状回復するステントを縮径した状態でバルーンカテーテルのバルーン上に確実に装着支持することができるステント用カバー部材及びこのステント用カバー部材を用いたステント装置を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、生体吸収性ポリマー材料により形成されたステントとともに脈管内に植え込まれ、生体内で消失させることができ、生体内からの取り出しを不要としたステント用カバー部材及びこのステント用カバー部材を用いたステント装置を提供することにある。
【0017】
本発明の更に他の目的は、バルーンの拡張により拡径されるステントの拡径を阻害することなくステントを支持することができるステント用カバー部材及びこのステント用カバー部材を用いたステント装置を提供することにある。
【0018】
本発明の更に他の目的は、ステントとともに生体内に植え込まれることにより、ステントが植え込まれる病変部位への薬剤の放出を図り、内膜増殖を抑制し得るステント用カバー部材を提供し、更には、血栓の形成を抑制可能とするステント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述したような目的を達成するために提案される本発明は、形状記憶特性を有する生体吸収性ポリマー材料により
、当該ステントの内外周に亘って血流を確保する開口を周面に有する管状に形成され
るとともに、脈管内に植え込まれたときに上記脈管を内部から支持可能とする大きさに形状記憶され
、上記形状記憶された大きさより縮径されてバルーンカテーテルのバルーン上に装着され、上記バルーンの拡張により拡径されるステントを、上記ステントの外周側から上記縮径された状態に支持するステント用カバー部材であって、このステント用カバー部材は、弾性力を有し
一定量以上の拡張により塑性変形する生体吸収性ポリマー材料により
、上記バルーンカテーテルのバルーン上に縮径された状態で装着される
上記ステントを
上記縮径した状態に支持する内周径を有する大きさの筒状に形成され
るとともに、当該カバー部材の周面に上記カバー部材の内外に亘って血流を確保する複数の開口部が設けられてなり、上記バルーン上に装着された上記ステントが、上記バルーンの拡張により上記形状記憶された大きさに拡径されるとき、塑性変形して
上記ステントの支持を解放することを特徴とする。
【0020】
ステント用カバー部材を構成する生体吸収性ポリマー材料は、ポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプロラクトン(PCL)との共重合体(LCL)であって、上記PLLAと上記PCLの組成比がモル比(mol%)で95〜20:5〜80の範囲にあることが望ましい。
【0021】
ステント用カバー部材には、表面積に対し10〜70%の開口率で複数の開口部を形成することが望ましい。
【0022】
そして、ステント用カバー部材には、少なくとも内膜増殖抑制効果を有する薬剤、血栓形成抑制効果を有する薬剤のいずれか1の薬剤が含有される。そして、ステント用カバー部材に含有される薬剤としては、純度を94%以上とするエピガロカテキンガレード(EGCg)が用いられ、このEGCgは、ステント用カバー部材を構成する生体吸収性ポリマー材料100重量部に対し1〜30重量部添加されている。
【0023】
更に、本発明は、形状記憶特性を有する生体吸収性ポリマー材料により
、当該ステントの内外周に亘って血流を確保する開口を周面に有する管状に形成され
るとともに、脈管内に植え込まれたときに上記脈管を内部から支持可能とする大きさに形状記憶され
、上記形状記憶された大きさより縮径されてバルーンカテーテルのバルーン上に装着され、上記バルーンの拡張により拡径されるステントと、
上記形状記憶された大きさより縮径されたステントをその外周側から覆って上記縮径した状態に支持するステント用カバー部材とからなる。ステント用カバー部材は、弾性力を有
し一定量以上の拡張により塑性変形する生体吸収性ポリマー材料により、上記バルーンカテーテルのバルーン上に縮径された状態で装着される上記ステントを上記縮径された状態に支持する内周径を有する大きさの筒状に形成され
るとともに、当該カバー部材の周面に上記カバー部材の内外に亘って血流を確保する複数の開口部が設けられてなり、上記バルーン上に装着された上記ステントが、上記バルーンの拡張により上記形状記憶された大きさに拡径されるとき、塑性変形して上記ステントの支持を解放する。
【0024】
このステント用カバー部材は、37℃における弾性率が2×10
7〜2×10
9パスカル(Pa)の範囲にあることが望ましい。
【0025】
ステント用カバー部材により支持されるステントは、一連に連続する線条体を直線部分と折り曲げ部とが順次連続するように折り曲げて形成された複数の管状体形成エレメントを組み合わせて構成され、折り曲げ部の開き角を変化させることによって拡径、縮径されるようにしたものが用いられる。
【0026】
そして、本発明においては、ステント用カバー部材に内膜増殖抑制効果を有する薬剤を担持し、ステントに血栓形成抑制効果を有する薬剤を担持することが望ましい。
【0027】
更に、ステント用カバー部材の外周面に、内膜増殖抑制効果を有する薬剤を含有したコーティング剤が被着されて薬剤担持層を形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るステント用カバー部材及びこのカバー部材を用いたステント装置は、カバー部材が、弾性力を有する生体吸収性ポリマー材料により、ステントを縮径状態に支持する内周径を有する大きさを有する筒状に形成されているので、縮径された状態から形状記憶された大きさに徐々に拡径して形状回復する自己拡張力が作用するステントを縮径状態に確実に支持し、バルーンカテーテルのバルーンからの脱落や位置ずれを防止して脈管内に挿入され、所望のステント植え込み位置に正確にステントを植え込むことを可能とする。また、カバー部材は、ステントが形状記憶された大きさに拡径されるときに塑性変形するので、ステントが形状記憶された拡径された大きさに形状復帰することを阻害することがない。
【0029】
そして、本発明に係るステント装置は、カバー部材を、ステントと同様に生体吸収性ポリマー材料により形成しているので、ステントと共に脈管内で消失させることができるので、治療の目的を達成した後、体内から摘出する処置が不要となる。
【0030】
また、ステント用カバー部材は、ポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプロラクトン(PCL)の組成比をモル比(mol%)で95〜20:5〜80の範囲とする生体吸収性ポリマー材料により形成されることにより、縮径されたステントを支持する大きさに形成された状態で弾性を有し、拡径されるにしたがって弾性力を減少させて塑性変形する特性を有するものとなる。そのため、ステント用カバー部材は、一旦拡張された後、縮径した状態に弾性復帰することがないので、縮径された状態から形状記憶された大きさに拡径される生体吸収性ポリマー材料よりなるステントの自己拡張力を阻害することがなく、ステントによる脈管の拡張支持機能を維持することができる。
【0031】
そして、ポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプロラクトン(PCL)の組成比を、モル比(mol%)で95〜20:5〜80の範囲とする生体吸収性ポリマー材料は、弾性及び柔軟性を有することにより、屈曲した脈管に追従して容易に変形しながら径方向への変形を抑えることができ、脈管への追従を良好にして脈管への挿入を実現可能とする。
【0032】
また、ステント用カバー部材に所定の割合で開口部が設けられることにより、血管内に植え込まれたとき、血管の内壁を完全に覆ってしまうことを防止し、ステントが植え込まれる血管から分岐する側枝への血流を確保可能とする。
【0033】
更にまた、本発明に係るステント装置を用いることにより、所望のステント植え込み位置に正確にステントを植え込むことができるので、このステントと一体に血管内に植え込まれるステント用カバー部材に内膜増殖抑制効果を有する薬剤を担持することにより、この薬剤をステントが植え込まれる部位の血管内壁に対し適確に放出し、ステントを植え込むことにより生ずる内膜増殖による血管の再狭窄を抑制できる。
【0034】
特に、ステント用カバー部材に含有させる薬剤として、純度を94%以上とするエピガロカテキンガレード(EGCg)を用いることにより、ステント植え込み後の血管平滑筋細胞の増殖を効率よく防止でき、再狭窄を長期に渡って抑制することが可能となる。
【0035】
そして、ステントに血栓形成抑制効果を有する薬剤を担持することにより、この薬剤を血管内に放出して血栓の発生を抑えることができる。
【0036】
更に、ステント用カバー部材及びステントの双方に薬剤を担持することにより、より多くの薬剤を担持することができるばかりか、複数種類の薬剤を同時に放出することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を適用したステント用カバー部材と、このカバー部材を用いてステントを縮径状態としてバルーンカテーテルのバルーン上に支持するステント装置の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0039】
本発明に係るステント用カバー部材を用いたステント装置1は、
図1に示すように、生体吸収性ポリマー材料を構成材料として管状に形成され、生体の脈管、例えば冠動脈等の血管内に植え込まれたとき、血管をその内部から支持可能とする大きさに形状記憶されたステント2と、このステント2を外周側から覆って、形状記憶された大きさより縮径した状態に支持するステント用カバー部材3とを備える。
【0040】
本実施の形態において用いられるステント2は、
図2に示すように、生体吸収性ポリマーよりなる一連に連続する線条体4を直線部分5と折り曲げ部6とが順次連続するように折り曲げて形成された複数の管状体形成エレメント7を組み合わせ、一端側から他端側に亘って一の流路を構成するように筒状に形成されている。このステント2は、植え込まれる生体の血管等の脈管に応じて、その大きさが適宜選択される。例えば、冠動脈等の血管に植え込まれるステント2として構成されたものにあっては、血管に植え込まれたときの大きさで、その外周径R
1を2〜5mmとし、その長さL
1を10〜40mmとした管状に形成される。すなわち、ステント2は、このステント2が植え込まれる血管を内部から支持する外周径を有する大きさに形成される。
【0041】
そして、ステント2は、人体等の生体の脈管内に装着したとき、生体に悪影響を与えることがない生体吸収性ポリマーにより形成される。この生体吸収性ポリマーとしては、形状記憶特性が付与される架橋構造を有する脂肪族ポリエステルが用いられ、具体的には、ポリ乳酸(ポリラクチド:PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリグラクチン(ポリグリコール酸とポリ乳酸との共重合体)、ポリジオキサノン、ポリグリコネート(トリメチレンカーボネートとグリコリドとの共重合体)、ポリグリコール酸又はポリ乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体のいずれかが用いられる。また、これら材料を2以上複合した生体吸収性ポリマーを用いることができる。特に、ここで用いる生体吸収性ポリマーとしては、生体への安全性等を考慮して、ポリL−ラクチド(PLLA)が用いられる。
【0042】
なお、ここで用いるPLLAは、ガラス転移点(Tg)を55℃〜70℃とし、融点(Tm)を170℃〜185℃としている。
【0043】
ところで、一連に連続する線条体4を直線部分5と折り曲げ部6とが順次連続するようにジグザグ状に折り曲げて形成した複数の管状体形成エレメント7を組み合わせて形成されたステント2は、線条体4の折り曲げ部6の開き角(θ)が大きくなることにより、外周径を大きくした拡径した状態とされ、また、折り曲げ部6が閉じられることにより外周径を小さくした縮径した状態とされる。
【0044】
そして、ジグザグ状に折り曲げられた複数の線条体4を組み合わせて形成されたステント2は、
図2に示すような線条体4の折り曲げ部6が開かれ拡径された大きさに形状記憶される。このステント2の形状記憶される大きさは、血管内に植え込まれ、その血管を内部から支持するに足る大きさである。
【0045】
上述のように生体の血管に植え込まれ、この血管を支持するに足る大きさに形状記憶されて形成されたステント2は、
図1に示すように、血管への挿入を可能とする大きさに縮径される。この縮径は、管状に形成されたステント2を外周から圧力を加えて圧縮することによって行われる。例えば、縮径される大きさの内周径とされた管状の型枠に、拡径された大きさにあるステント2を圧縮しながら挿入することによって行われる。
【0046】
ところで、ステント2は、生体の血管内に植え込まれると目視による確認ができない。そこで、このステント2には、X線の照射による検出を可能とするステント検出用部材8が取り付けられている。このステント検出用部材8は、X線の透過率が低く、生体吸収性ポリマーより剛性が高く生体適合性に優れた金属により形成されている。本実施の形態では、金により形成されている。
【0047】
本実施の形態において、ステント検出用部材8は、
図2に示すように、ステント2の両端部側に1つずつ取り付けられている。ステント検出用部材8は、ステント2の両端部に取り付けられることにより、血管内におけるステント2の植え込み領域を容易に認識することを可能とする。
【0048】
そして、形状記憶された大きさから縮径されたステント2は、生体内に挿入され体温により加温されると、自己拡張力が作用し、縮径された状態から形状記憶された大きさに徐々に拡径して形状回復する。脈管内への移送途中でこのような形状回復機能が作用し、拡径してしまうと、血管の内壁に接触するなどして摩擦力を受けることにより容易にバルーンカテーテルのバルーンに対する位置ずれや、脱落を生じさせてしまう。
【0049】
このような位置ずれや脱落を防止するため、ステント2を縮径してバルーンカテーテルのバルーン上に圧着支持するためのステント用カバー部材3が用いられる。このステント用カバー部材3は、一定の弾性力を有する生体吸収性ポリマー材料を用いて筒状に形成されている。そして、ステント用カバー部材3は、ステント2を縮径してバルーン上に圧着支持するように、縮径されてバルーン上に装着されるステント2の外周径R
2以下の内周径R
3を有する筒状に形成されている。
【0050】
ところで、ステント用カバー部材3は、縮径されたステント2をバルーンカテーテルのバルーン上に位置ずれを生じさせることなく装着するため、バルーンに一定の圧着力をもって支持することが望ましい。そこで、ステント用カバー部材3は、一定の弾性力を有する生体吸収性ポリマー材料を用いて形成されている。また、ステント用カバー部材3は、ステント2と同種の生体吸収性ポリマー材料により形成することが望ましい。これは、互いの親和性が優れることにより、ステント2に対するステント用カバー部材3の密着性を向上し、拡径状態で形状記憶されたステント2を縮径された状態に確実に支持することを可能とするためである。
【0051】
そこで、本実施の形態において、ステント用カバー部材3は、脂肪族ポリエステルの一種であるポリL−ラクチド(PLLA)とポリε−カプロラクトン(PCL)の共重合体を材料として形成されている。ここで用いるPLLAとPCLの共重合体は、架橋構造を有し高い弾性力を有する。PLLAとPCLの共重合体の弾性力は、ポリL−ラクチド(PLLA)より大きなものとなる。
【0052】
そして、ステント用カバー部材3は、
図3に示すように、バルーン上に装着されて血管内を移送される大きさに縮径されたステント2の外周側に被せられて、ステント2を縮径した状態に支持する。本実施の形態において、ステント用カバー部材3は、ステント2を構成するPLLAを主体とする生体吸収性ポリマー材料の弾性力より高い弾性力を有する生体吸収性ポリマー材料により形成されているので、
図4に示すように、PLLAを主体とする生体吸収性ポリマー材料により形成されたステント2の外周面に圧着し、このステント2を縮径状態に圧縮するように弾性的に支持する。
【0053】
したがって、本発明に係るステント装置1は、生体の脈管内に挿入され体温により加温された場合であっても、ステント2は収縮状態を維持し、血管内への移送する途中で拡径して発生するバルーンからの脱落や位置ずれを防止できる。
【0054】
また、生体吸収性ポリマー材料であるPLLAとPCLの共重合体を用いて筒状に形成されたステント用カバー部材3は、カテーテルに設けたバルーンの拡張力により初期の縮径状態の内周径R
3を有する状態から拡張されていくと、
図5に示すように、弾性力を減少させる特性を有する。そして、カバー部材3は、一定量以上拡張されると、弾性力を失い初期の大ききに復帰することなく塑性変形する。そのため、ステント2が一定量以上拡張されると、ステント用カバー部材3は弾性力を低減させて塑性変形する状態となる。このような特性を有するステント用カバー部材3は、バルーンカテーテルのバルーン上に装着したステント2がバルーン12の拡張力により一定量以上拡張すると、弾性復帰することなく塑性変形してしまう。そして、ステント用カバー部材3が塑性変形するまで拡径されると、ステント2は、カバー部材3の復帰力より大きな自己復帰力により形状記憶された大きさに拡径し、その状態を維持する。
【0055】
本発明に係るステント装置1は、カバー部材3が弾性力を有する材料により縮径状態でバルーン上に装着されたステント2を外周側から支持する内周径を有する大きさに形成されているので、このステント2を縮径状態に維持してバルーンカテーテルのバルーン上に圧着支持し、血管への挿入途中でバルーンに対する位置ずれや脱落を防止して所望の植え込み位置まで確実に移送可能とする。また、カバー部材3は、一定量拡径されることにより塑性変形するので、バルーンの拡張により拡径されていくと塑性変形し、拡径された大きさに形状記憶されたステント2の自己復帰力を阻害することなく拡径を可能とし、ステント2による血管の支持を実現する。
【0056】
ところで、本発明に係るステント装置1は、
図6に示すように、ステント2がステント用カバー部材3により縮径された状態に支持されてバルーンカテーテル11のバルーン12上に装着される。バルーン12上に装着されたステント装置1は、バルーンカテーテル11とともに屈曲しながら、あるいは蛇行した血管内を通過して、ステント2の植え込み位置である病変部まで移送される。そのため、バルーン12上に装着されたステント2及びステント用カバー部材3は、屈曲し蛇行した血管に倣って通過する追従性が要求される。更に、ステント用カバー部材3にあっては、ステント2を縮径した状態としてバルーン12上に支持する弾性力が要求される。ステント用カバー部材3が一定の弾性力を有しないものであると、屈曲し蛇行した血管内に挿入したときに折れ曲がったり、ステント用カバー部材3の両端が血管内壁に接触し、血管を損傷させしまう虞があり、更には、内壁との摩擦や抵抗によって、ステント2をバルーン12上に確実に支持できなくなる虞がある。
【0057】
そこで、本実施の形態では、ステント2は、PLLAにより形成されて変形が容易であって、屈曲しあるいは蛇行した血管に追従性よく挿入可能なように形成したものが用いられている。このステント2は、
図1、
図2に示すように、一連に連続する線条体4を直線部分5と折り曲げ部6とが順次連続するように折り曲げて形成された複数の管状体形成エレメント7を組み合わせ、一端側から他端側に亘って一の流路を構成するように筒状に形成している。
【0058】
このようなステント2を縮径状態に支持するステント用カバー部材3は、37℃で弾性率が2×10
7〜2×10
9パスカル(Pa)の範囲あるように形成されることにより、長軸方向への変形が容易とされたステント2の変形を阻害しないように弾性変形する柔軟性を有するものとすることができる。このような弾性率を有するステント用カバー部材3は、ステント2とともに血管内に挿入されるとき、屈曲し蛇行した血管に追従して容易に弾性変形し、挿入時に血管に接触して損傷を与えるような事故の発生を抑えることができる。そして、ステント用カバー部材3は、縮径状態にあるステント2を弾性的に支持することによりバルーン12上に確実に支持することができ、血管への挿入途中でバルーン12に対する位置ずれや脱落を防止できる。
【0059】
なお、ステント用カバー部材3は、弾性率が2×10
7(Pa)以下であると、屈曲した血管に倣って容易に弾性変形が可能となるが、ステント2を縮径状態に支持するに足る弾性力が得られなくなってしまう。また、弾性率が2×10
9(Pa)以上であると、十分な柔軟性が得られず、血管の形状に倣って追従性よく挿入することができなくなるばかりか、挿入途中で血管を損傷させてしまう虞がある。
【0060】
ところで、ステント用カバー部材3は、上述したように、弾性率が37℃で2×10
7〜2×10
9の範囲にあるように形成される。ステント用カバー部材3を構成するPLLAとPCLとの共重合体は、PLLAにPCLの組成比を適宜選択することにより、弾性特性を可変し、弾性及び柔軟性を適宜設定できる。そして、PLLAに対しPCLをモル比(mol%)で5mol%添加することで、曲げ剛性が半減し、弾性及び柔軟性が著しく向上する。
【0061】
一方、PLLAとPCLの共重合体からなるステント用カバー部材3は、PCLの組成比が高ければ高いほど、強度及び弾性率が低下し、破断伸度が増大する。PCLのみで形成したカバー部材3は、少ない力で伸びやすく、破断する。また、PCLをPLLAに対し80〜90mol%添加すると溶融温度が体温付近まで下がる。ステント用カバー部材3の溶融温度が体温付近若しくは体温以下であると、血管内で軟化又は溶融し、ステント2を十分に支持することができなくなる。
【0062】
以上のことから、ステント用カバー部材3を構成する生体吸収性ポリマー材料は、PLLAとPCLの共重合体であって、PLLAとPCLの組成比がモル比(mol%)で95〜20:5〜80の範囲にあることが望ましい。PLLAとPCLの組成比がモル比(mol%)で95〜20:5〜80の範囲とされることにより、37℃での弾性率を2×10
7〜2×10
9(Pa)の範囲にあるステント用カバー部材3を構成することができる。
【0063】
ところで、ステント2を覆うステント用カバー部材3は、血管の内壁に接触した状態で植え込まれる。カバー部材3に薬剤を担持することにより、ステント2が植え込まれた血管の内壁に効果的に薬剤を投与することができる。そこで、ステント用カバー部材3に、内膜増殖抑制効果を有する薬剤を含有することにより、薬剤の投与効果を向上でき、ステントの植え込みにより発生率が高まると指摘されている内膜増殖の発生を抑制できる。
【0064】
ステント用カバー部材3に含有される内膜増殖抑制効果を有する薬剤としては、免疫抑制剤又は抗腫瘍剤が用いられる。具体的に、内膜増殖抑制効果を有する薬剤として、抗酸化活性が高く血管平滑筋細胞の増殖を抑える作用を有するエピガロカテキンガレート(EGCg)が用いられる。EGCgは、緑茶ポリフェノールの一種であり、緑茶から抽出される。EGCgは、純度が高ければ高いほどその効果が高いので、94%以上の純度を有するものが用いられ、望ましくは98%以上の純度を有するものが用いられる。
【0065】
ステント用カバー部材3に含有される薬剤は、カバー部材3を構成する生体吸収性ポリマー材料に添加され、この生体吸収性ポリマー材料が、成型装置により成型されることによりステント用カバー部材3に含有されて担持される。
【0066】
ここで、薬剤は、ステント用カバー部材3の物理的な特性に影響しない範囲で添加される。すなわち、薬剤は、ステント用カバー部材3の弾性率が37℃で2×10
7〜2×10
9(Pa)の範囲を維持し得るようにカバー部材3を構成する材料中に添加される。
【0067】
そして、ステント用カバー部材3に含有される薬剤として、EGCgを用いる場合には、カバー部材3を構成する生体吸収性ポリマー材料100重量部に対し1〜30重量部の範囲で添加される。本実施の形態では、PLLAとPCLの共重合体100重量部に対しEGCgを1〜30重量部添加する。このような範囲でEGCgを生体吸収性ポリマー材料に添加して形成したステント用カバー部材3は、37℃での弾性率を2×10
7〜2×10
9(Pa)の範囲に維持できた。
【0068】
また、血管平滑筋細胞の増殖作用を抑えるために用いられるEGCgは、ステント装置1を血管内に植え込んだ後6ヶ月間程度徐放されることが望ましい。このような期間に亘ってEGCgが徐放されるためには、PLLAとPCLの共重合体100重量部に対し1重量部以上添加することが望ましい。そして、ステント用カバー部材3が37℃での弾性率を2×10
7〜2×10
9(Pa)の範囲とするためには、PLLAとPCLの共重合体100重量部に対し30重量部以下であることが望ましい。
【0069】
さらに、ステント用カバー部材3に担持させる薬剤の絶対量の観点からは、ステント装置1を血管内に植え込んだ後6ヶ月程度内膜増殖抑制効果を機能させるため、血管に植え込まれたときの大きさで、外周径R
1を2〜5mmとし、その長さL
1を10〜40mmとするステント2を縮径状態に支持するために用いられるステント用カバー部材3にあっては、内膜増殖抑制効果を発揮し得る免疫抑制剤又は抗腫瘍剤を1mmの長さ当たり5〜8μg含有することが望ましい。
【0070】
このステント用カバー部材3に含有する薬剤の量は、従来用いられているステントに担持される薬剤の量から推認できるところである。
【0071】
本発明に係るステント装置1においては、ステント2にも薬剤を担持させることが望ましい。ステント2に薬剤を担持することにより、ステント2が植え込まれた血管の内腔に直接薬剤の投与が可能となる。そこで、ステント2には、血栓形成抑制効果を有する薬剤が担持される。血栓形成抑制効果を有する薬剤としては、抗血小板剤、抗凝固剤、血栓溶解剤のいずれかが用いられる。これら薬剤は、ステント2を構成する生体吸収性ポリマー材料に添加されることによりステント2に担持される。あるいは、薬剤を含有した生体吸収性ポリマーの溶液をステント2の表面に被着し、薬剤含有層を形成することにより担持される。
【0072】
上述のように、ステント用カバー部材3に内膜増殖抑制効果を発揮し得る薬剤を担持し、ステント2に血栓形成抑制効果を有する薬剤を担持することにより、ステント装置1が植え込まれる血管の内壁に効率良く内膜増殖抑制効果を発揮し得る薬剤を投与し、血管の内腔に血栓形成抑制効果を有する薬剤を投与可能となり、内膜増殖抑制効果及び血栓形成抑制効果を向上できる。
【0073】
ところで、ステント装置1が植え込まれる血管には、複数の側枝が分岐している部位がある。このような部位にステント装置1が植え込まれ、血管内壁の全面がステント2やカバー部材3によって覆われてしまうと、側枝への血流が確保できなくなる虞がある。
【0074】
そこで、本発明に係るステント用カバー部材3には、
図1、
図3に示すように、複数の開口部9を設け、主血管から側枝への血流を確保するようにしている。
【0075】
カバー部材3に設けられる開口部9は、ステント2によって覆われる血管内壁の表面積に対し10〜70%の開口率で形成される。ここで、ステント用カバー部材3は、開口部9の開口率が10%以下であると、ステント2が植え込まれる領域に存在する側枝への血流を確保することが困難となる。そこで、主血管から側枝への血流を確保するためには、10%以上の開口率が必要である。また、開口率が70%を超えてしまうと、カバー部材3としての十分な機械的強度が得られなくなり、拡径状態に形状記憶したステント2を縮径状態に支持することができなくなってしまう。
【0076】
なお、ステント用カバー部材3に形成される開口部9の形状は、円形のみならず三角形、矩形等いずれの形状でもよく、
図7に示すように、大きさや形状を異にする開口部9を適宜分散形成するようにしてもよい。
【0077】
ここで用いられるステント2は、前述した
図2に示すように、一連に連続する線条体4を直線部分5と折り曲げ部6とが順次連続するように折り曲げて形成された複数の管状体形成エレメント7を組み合わせて構成し、十分な開口率が保証されたものを用いることにより、カバー部材3側への血液の供給が実現される。したがって、本発明においては、線条体を組み合わせて構成し大きな開口率を有するステント2を用いることが望ましい。
【0078】
ところで、ステント用カバー部材3は、拡径状態に形状記憶したステント2を確実に縮径状態に支持するために一定の弾性力が要求される。そのため、上述したように、ステント用カバー部材3に含有される薬剤の量には限界がある。
【0079】
そこで、ステント装置1に更なる量の薬剤、あるいは多種の薬剤を担持させるためには、
図8に示すように、ステント用カバー部材3の表面に薬剤担持層13を設けるようにしてもよい。この薬剤担持層13は、ジオキサンにPLLAとPCLの共重合体を溶解した溶液に血栓形成抑制効果を有する抗血小板剤、抗凝固剤、血栓溶解剤のいずれか1と、内膜増殖抑制効果を有する免疫抑制剤又は抗腫瘍剤を溶解したコーティング剤をステント用カバー部材3の表面に塗布などして被着することによって形成される。
【0080】
更に具体的には、ジオキサンにPLLAとPCLの共重合体を溶解した溶液に、抗血栓剤にEGCgを混合したEGCg含有抗血栓剤を溶解した薬剤含有溶液を準備し、この溶液にステント用カバー部材3を浸漬する。このステント用カバー部材3を薬剤溶液中から取り出すことにより、
図9に示すように、ステント2の外周面に接する内腔及び外周面のそれぞれに薬剤担持層13,14が形成される。
【0081】
このとき、2mlのジオキサンにPLLAとPCLの共重合体を0.5g溶解した溶液を作製し、この溶液にEGCg含有抗血栓剤を100mg溶解した溶液を準備し、この溶液にステント用カバー部材3を浸漬した後乾燥することによって、薬剤担持層13,14を形成した。このとき用いたステント用カバー部材3は、縮径されたときの外周径を1〜3mmとし、その長さが10〜40mmとしたステント2を縮径状態に支持するように、内周径を1〜3mmとし、その長さを10〜42mmとするものを用いた。
【0082】
なお、ステント用カバー部材3に薬剤担持層を形成するに当たって、薬剤含有溶液に浸漬して行う場合には、ステント2を支持した状態で薬剤含有溶液に浸漬して行うようにしてもよい。この場合には、薬剤担持層は、ステント用カバー部材3の外周面及びその内周面にも、ステント2の内腔にも形成される。更に、ステント2の表面にも薬剤含有溶液が進入して薬剤担持層が形成される。
【0083】
このように、ステント用カバー部材3の内外周面に薬剤担持層13,14を形成することにより、ステント用カバー部材3の弾性力やその他の物理的特性を維持しながら大量の薬剤を担持させることができる。
【0084】
次に、上述したように構成されたステント装置1を血管内の病変部位に植え込む過程を説明する。ステント装置1を血管内に植え込むには、
図6に示すように、ステント用カバー部材3とともにバルーンカテーテル11のバルーン12上に装着する。このとき、バルーン12は、収縮された状態にある。バルーン12上に装着されたステント装置1は、バルーンカテーテル11とともに屈曲し、あるいは蛇行した血管内を通過して、植え込み位置である病変部まで移送される。病変部まで移送されたステント装置1は、バルーン12に拡張媒体が供給されて拡張されることにより、
図10に示すように、拡径される。そして、バルーン12の拡張によりステント2が形状記憶された大きさ若しくはその大きさの近傍にまで拡径されていくと、ステント用カバー部材3は、弾性力を喪失し塑性変形するようになる。そして、ステント用カバー部材3の弾性力に比しステント2の形状記憶状態への復帰力が優るようになると、ステント2は、形状記憶した拡径した大きさに形状復帰し、自己拡張力により血管15の内壁を拡張し支持するようになる。その後、バルーン12に供給された拡張媒体を吸引し、
図11に示すように、バルーン12を収縮し、バルーンカテーテル11を血管15内から引き出すことによりステント2の血管への植え込みが完了する。
【0085】
このとき、ステント用カバー部材3は、拡径されたステント2と一体とされ、形状記憶された拡径された大きさに形状復帰するステント2により血管内壁に圧着されて密接するので、担持した薬剤を効率良く血管内壁に投与できる。
【0086】
本実施の形態において、PLLAとPCLの共重合体により形成したステント用カバー部材3は、PLLAにより形成されたステント2に比し分解速度が高いので、ステント2が血管を拡径支持する機能を発揮している期間において薬剤の徐放を図ることができる。
【0087】
上述したように本発明を採用することにより、拡径された大きさに形状記憶されたステントを、血管への挿入途中でバルーンカテーテルのバルーンに対する位置ずれや脱落を生じさせることなく所望の植え込み位置まで移送して植え込み、この植え込み位置で正確に拡径して血管を支持することを可能にしながら内膜増殖抑制効果を有する薬剤や血栓形成抑制効果を有する薬剤を徐放することにより、内膜増殖や血栓の形成を抑制するステント装置を提供できる。
【0088】
なお、上述した実施の形態では、ステント用カバー部材3に内膜増殖抑制効果を有する薬剤を含有させるなどして担持させた例を挙げて説明したが、本発明は、生体吸収性ポリマー材料により形成され、脈管内に植え込まれたときに脈管の内径以上に拡径される大きさに形状記憶され、体温により加温されて拡径された状態に形状回復するステントを縮径した状態でカテーテルのバルーン上に確実に装着支持し、所望のステント植え込み位置に正確に植え込むことを実現することを達成するのみであれば、ステント用カバー部材3に薬剤を担持する必要はない。すなわち、本発明においては、ステント用カバー部材3は、一定の弾性力を有し、一定量以上拡張されたときに塑性変形する生体吸収性ポリマー材料のみにより形成したものであってよい。
【0089】
更に、本発明に係るステント装置1を、血管の側枝がなく、側枝への血流を確保する必要のない部位に用いる場合には、ステント用カバー部材3は、
図12に示すように、開口部等を設けない平滑な外周面を有する筒状に形成したものであってよい。
【0090】
ところで、上述したステント用カバー部材3を構成するPLLAとPCLの共重合体は、熱収縮特性を有する。そこで、この熱収縮特性を利用して、カバー部材3をステント2の外周側に被せるようにしてもよい。
【0091】
この場合、ステント用カバー部材3は、バルーンカテーテルのバルーン上に装着される縮径されたステント2の外周径R
2よりやや大きな内周径R
4を有する筒状に形成される。このカバー部材3を縮径したステント2上に被せる。次いで、バルーンカテーテル11のバルーン12上に、
図13に示すように、カバー部材3により覆われたステント2を装着する。
【0092】
その後、バルーン12上に装着されたステント2を覆ったカバー部材3に熱処理を施し、カバー部材3をステント2の外周径R
2より小さい内周径R
3を有する大きさに熱収縮させる。ステント用カバー部材3は、ステント2の外周径R
2より小さい内周径R
3を有する筒状に熱収縮されることにより、縮径されたステント2をバルーン12上に圧着支持することができる。