特許第5698257号(P5698257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698257被覆切削工具および被覆切削工具を作るための方法
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  • 特許5698257-被覆切削工具および被覆切削工具を作るための方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698257
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】被覆切削工具および被覆切削工具を作るための方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20150319BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C23C14/06 N
   B23B27/14 A
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-541619(P2012-541619)
(86)(22)【出願日】2010年11月21日
(65)【公表番号】特表2013-513027(P2013-513027A)
(43)【公表日】2013年4月18日
(86)【国際出願番号】IL2010000973
(87)【国際公開番号】WO2011067751
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年9月20日
(31)【優先権主張番号】202549
(32)【優先日】2009年12月6日
(33)【優先権主張国】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】306037920
【氏名又は名称】イスカーリミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(74)【復代理人】
【識別番号】100124604
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 勝久
(74)【復代理人】
【識別番号】100154357
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】アルビール エー.レイヨス
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−213637(JP,A)
【文献】 特開昭62−214166(JP,A)
【文献】 特開2009−197268(JP,A)
【文献】 特開2004−230515(JP,A)
【文献】 特開2000−233320(JP,A)
【文献】 特開2009−154287(JP,A)
【文献】 特表2008−529809(JP,A)
【文献】 特開2007−084867(JP,A)
【文献】 特開2001−239608(JP,A)
【文献】 特開平04−337083(JP,A)
【文献】 RU 2083714 C1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に被覆され、基材とコーティングとを具えた切削工具であって、
前記コーティングは、相互に接合する硬質層と可塑性微小層とが交互に重なる層を具え、2つの硬質層の間に位置する可塑性微小層を具えた3つの層の少なくとも1つの連続体があり、
前記可塑性微小層は少なくとも70原子%の金属元素を具え、この可塑性微小層は、
i.TixAgy,TiuAlvCutおよびCruAlvCut(ただしx+y=1かつx≦0.9かつu+v+t=1かつt≧0.02)からなるグループから選択される合金層か、
ii.Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuからなるグループから選択される少なくとも1つの金属元素と、N,O,C,Bおよびこれらの組み合わせからなるグループから選択される非金属元素とを具えた亜化学量論的セラミック層
の何れかであり、
前記硬質層が(Mea1-a)と(Nwxyz)とで構成され、
MeはTi,Al,CrおよびZrからなるグループから選択される1つ以上の金属であり、
XはSi,Ta,V,YおよびNbからなるグループから選択される1つ以上の元素であ り、
0.75<a≦1.0 かつ
w+x+y+z=1であり、
前記硬質層の厚さが0.15μmから2μmまでであり、
前記可塑性微小層の厚さが10nmから50nmまでであることを特徴とする被覆工具。
【請求項2】
前記コーティングは、このような連続体を3つから30まで具えたことを特徴とする請求項1に記載の被覆工具。
【請求項3】
相互に異なる組成を持つ少なくとも2つの可塑性微小層を具えたことを特徴とする請求項2に記載の被覆工具。
【請求項4】
前記コーティングは、前記基材に隣接し、かつ前記基材と前記硬質層との間の接合層として機能する補助層をさらに具え、
この補助層は、Hf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素を少なくとも60原子%具え、 当該補助層の厚さが2nmから100nmまでであることを特徴とする請求項1に記載の被覆工具。
【請求項5】
前記コーティングは、最も外側の硬質層に隣接し、かつこのコーティングの最も外側の表面層として機能する補助層をさらに具え、
この補助層は、Hf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素を少なくとも60原子%具え、 当該補助層の厚さが2nmから100nmまでであることを特徴とする請求項1に記載の被覆工具。
【請求項6】
前記コーティングは、
前記基材に隣接し、かつ前記基材と前記硬質層との間の接合層として機能する第1の補助層と、
最も外側の硬質層に隣接し、かつこのコーティングの最も外側の表面層として機能する第2の補助層と
をさらに具え、
これら第1および第2の補助層は、Hf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素をそれぞれ少なくとも60原子%具え、
当該補助層のそれぞれの厚さが2nmから100nmまでであることを特徴とする請求項1に記載の被覆工具。
【請求項7】
前記コーティングの厚さが0.5μmから20μmまでであることを特徴とする請求項 1に記載の被覆工具。
【請求項8】
基材とコーティングとを具えた被覆切削工具を製造する方法であって、
a)前記基材を覆う少なくとも1層の硬質層を堆積させるステップであって、前記少なくとも1層の硬質層が(Mea1-a)と(Nwxyz)とで構成され、
MeがTi,Al,CrおよびZrからなるグループから選択される1つ以上の金属であり、
XがSi,Ta,V,Y,Nbからなるグループから選択される1つ以上の元素であり、 0.75<a≦1.0 かつ
w+x+y+z=1
であるステップと、
b)少なくとも1層の可塑性微小層を前記少なくとも1層の硬質層に堆積させるステップであって、この少なくとも1層の可塑性微小層が少なくとも70原子%の金属元素を具え、かつ当該可塑性微小層が
i.TixAgy,TiuAlvCutおよびCruAlvCut(ただしx+y=1かつx≦0.9かつu+v+t=1かつt≧0.02)からなるグループから選択される合金層か、
ii.Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuからなるグループから選択される少なくとも1つの金属元素と、N,O,C,Bおよびこれらの組み合わせからなるグループから選択される非金属元素とを具えた亜化学量論的セラミック層
の何れかであるステップと、
c)前記a)のステップにおける硬質層と同じ構成を持つ少なくとも1層の他の硬質層を前記可塑性微小層に堆積させるステップと
を具え、前記硬質層のそれぞれの厚さが0.15μmから2μmまでであり、
前記少なくとも1層の可塑性微小層の厚さが10nmから50nmまでであることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記コーティングをPVD法にて堆積させることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップb)およびステップc)が交互に3回から30回の間行われることを特徴とす る請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ステップ)を実行する前に前記基材に補助層を堆積させるステップをさらに具え、
この補助層がHf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素を少なくとも60原子%具え、
当該補助層の厚さが2nmから100nmまでであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
最も外側の硬質層に補助層を堆積させ、それによってこの補助層をコーティングの表面層として機能させるステップをさらに具え、
当該補助層はHf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素を少なくとも60原子%具え、
該補助層の厚さが2nmから100nmまでであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
ステップ)を実行する前に前記基材に第1の補助層を堆積させるステップと、
最外硬質層に第2の補助層を堆積させ、それによってこの第2の補助層をコーティングの最外層として機能させるステップと
をさらに具え、これら第1および第2の補助層がHf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素をそれぞれ少なくとも60原子%具え、
これら補助層の厚さがそれぞれ2nmから100nmまでであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項14】
ステップb)およびステップc)が物理的気相蒸着を用いて同じコーティングチャンバ ー内で交互に3回から30回の間行われることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質層と可塑性微小層とを有する厚いPVDコーティングにて少なくとも一部が被覆され、かつ金属を機械加工するための切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングが切削工具または摩耗部品の使用寿命を増大させることは知られている。PVDコーティングは、CVDコーティングと比較していくつかの魅力的な特性、例えばよりきめの細かいコーティングおよび堆積状態と同じ圧縮応力を有する。しかしながら、より厚いPVDコーティングは落剥,粉砕,刃先が破砕および剥離する傾向にあり、そのすべてが工具寿命を制限するので、PVDコーティングは相対的に肉薄である。
【0003】
基材の表面に直接堆積させた金属層を有するコーティングが知られている。これは、基材に対するPVDコーティングの接合力を高めることで知られている。
【0004】
特許文献1は、少なくとも2つの非金属機能層または層構造の間に位置する金属中間層を有し、この金属中間層がTi,Mo,Al,Cr,V,Y,Nb,W,TaおよびZrまたはこれらの混合の1つ以上から選択される金属元素を少なくとも60原子%具えた切削工具のためのコーティングを記述する。非金属機能層または層構造は、窒化物,酸化物,ホウ化物,炭化物またはこれらの組み合わせの1つ以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP2072637A2
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの形態によると、少なくとも一部が被覆され、基材とコーティングとを具えた切削工具が提供される。コーティングは、相互に接合した可塑性微小層と硬質層との交互に重なる層を有し、2つの硬質層の間に位置する可塑性微小層を具えた3つの層の少なくとも1つの連続体がある。
【0007】
可塑性微小層の少なくとも70原子%が金属元素である。この可塑性微小層がTixAgy,TiuAlvCutおよびCruAlvCut(ただしx+y=1かつx≦0.9かつu+v+t=1かつt≧0.02)からなるグループから選択される合金層か、Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuからなるグループから選択される1つ以上の金属元素と、N,O,C,Bおよびこれらの組み合わせからなるグループから選択される非金属元素とを具えた亜化学量論的セラミック層の何れかである。可塑性微小層の厚さは10nmから0nmまでである。
【0008】
硬質層は、(Mea1-a)と(Nwxyz)とで構成され、MeはTi,Al,CrおよびZrからなるグループから選択される1つ以上の金属であり、XはSi,Ta,V,YおよびNbからなるグループから選択される1つ以上の元素であり、0.75<a≦1.0 かつw+x+y+z=1である。この硬質層の厚さは0.5μmからμmまでである
【0009】
いくつかの実施形態によると、可塑性微小層は、Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuからなるグループから選択される1つ以上の金属からなる純金属層である。
【0010】
いくつかの実施形態において、可塑性微小層は、Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuからなるグループから選択される1つ以上の金属を0.5原子%から99.5原子%まで具えた純金属層であり、残りがAl,Yおよび耐熱金属からなるグループから選択される1つ以上の金属を具えている。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、可塑性微小層がN,O,C,Bおよびこれらの組み合わせからなるグループから選択される非金属元素をさらに具えた亜化学量論的セラミックである。
【0012】
いくつかの実施形態によると、コーティングは可塑性微小層を硬質層と交互に重ねることによって作り出されるこのような連続体を3つから30まで具えている。
【0013】
いくつかの実施形態において、コーティングは相互に異なる組成を持った少なくとも2つの可塑性微小層を有している。
【0014】
いくつかの実施形態によると、コーティングは1層以上の補助層をさらに具える。補助層を基材に隣接させることができ、この場合にはこれが基材と第1の硬質層との間の接合層として機能する。代わりに、またはこれに加え、補助層を最も上の硬質層に隣接させることができ、この場合にはこれがコーティングの最も外側の表面層として機能する。補助層は、存在するすべての場合において、Hf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素を少なくとも60%具える。この補助層の厚さは2nmから100nmまでである。
【0015】
典型的には、コーティングの全体の厚さが0.5μmから20μmまでである。
【0016】
本発明の別な形態において、基材とコーティングとを具えた被覆切削工具を作成する方法が提供される。この方法は
a)基材を覆う少なくとも1層の硬質層を堆積させるステップであって、この少なくとも1層の硬質層が(Me1−a)と(N)とで構成され、MeがTi,Al,CrおよびZrからなるグループから選択される1つ以上の金属であり、XがSi,Ta,V,Y,Nbからなるグループから選択される1つ以上の元素であり、0.75<a≦1.0かつw+x+y+z=1であるステップと、
b)少なくとも1層の可塑性微小層を少なくとも1層の硬質層に堆積させるステップであって、この少なくとも1層の可塑性微小層が少なくとも70原子%の金属元素を具え、かつ可塑性微小層がTiAg,TiAlCuおよびCrAlCu(ただしx+y=1かつx≦0.9かつu+v+t=1かつt≧0.02)からなるグループから選択される合金層か、Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuからなるグループから選択される少なくとも1つの金属元素と、N,O,C,Bおよびその組み合わせからなるグループから選択される非金属元素とを具えた亜化学量論的セラミック層との何れかであるステップと、
c)前記a)のステップにおける硬質層と同じ構成を持つ少なくとも1層の他の硬質層を可塑性微小層に堆積させるステップとを具えている。
【0017】
典型的には、硬質層のそれぞれの厚さは0.5μmからμmまでであり、可塑性微小層の厚さは10nmから0nmまでである。
【0018】
典型的には、コーティングがPVD法にて堆積させられる。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、ステップb)およびステップc)が交互に3回から30回の間行われる。
【0021】
いくつかの実施形態によると、この被覆方法は、
ステップ)の実行前に第1の補助層を前記基材に堆積させるステップと、
このステップに代え、またはこれに加え、
第2の補助層を最も外側の硬質層に堆積させ、これによって第2の補助層をこのコーティングの最外層として機能させるステップと
をさらに具え、前記第1および第2の補助層がHf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物からなるグループから選択される元素をそれぞれ少なくとも60%具え、
補助層の厚さが2nmから100nmまでである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による典型的なコーティングの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に関し、本発明は基材110とコーティング200とを含む切削工具100に関し、基材の少なくとも一部が相互に接合される可塑性微小層130a,130bと硬質層120,140aとを交互に重ねた層を持つコーティングで覆われている。このコーティングは、3つの層、すわなち金属質可塑性微小層130aが2つの硬質層120,140aの間に位置する少なくとも1つの連続体180を有する。この「連続体」という用語は、上述した意味でこの明細書全体を通して用いられよう。金属質可塑性微小層の少なくとも70原子%は1つ以上の金属元素である。この金属元素は任意の金属であってよく、好ましくはAl,Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,Au,Ru,耐熱金属またはこれらの混合物である。可塑性微小層の少なくとも0.5原子%がFe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuからなるグループの1つ以上の金属から選択される。Fe,Cr,NiまたはHfを含む合金の金属質微小層は耐酸化性を改善する。Niを含む合金は接合性を改善するのに対し、Hfを含む合金は耐熱性を改善する。Cu,AgおよびAuを含む合金は、可塑性層の延性および濡れ性を増大させて硬質層に対するその接合力を改善する。
【0024】
可塑性微小層の厚さは5nmから100nmまでであってよく、好ましくは10から50nmまでである。コーティングは、2つの硬質層の間に位置する可塑性微小層を具えた少なくとも1つの連続体を有し、可塑性微小層を硬質層と交互に重ねることによって作り出される追加の連続体(図1の150として概ね示される)を有することができ、隣接する連続体が共通する1層の硬質層を有するということが理解される。コーティング200は、3つから30の間のこのような連続体、より好ましくは5つから20の連続体を有することができる。
【0025】
「硬質層」という用語は、これが単一のセラミック層および多層のセラミック層の両方をその意味の中に含むように、この明細書を通して用いられよう。1層のセラミック層は、窒化物,酸化膜,ホウ化物,炭化物またはこれらの組み合わせであってよい。多層のセラミック層は、以下では間の可塑性微小層なしで連続的に堆積させた少なくとも2つのセラミック層を意味するようになっている。
【0026】
「耐熱金属」という用語は、以下の金属、すなわちチタン,ジルコニウム,バナジウム,ニオブ,タンタル,クロム,モリブデン,タングステンまたはこれらの混合物であるように、この詳細な説明および特許請求の範囲を通して用いられよう。
【0027】
硬質層は、切削工具に適当な窒化物,酸化物,ホウ化物,炭化物またはこれらの組み合わせの如き任意の組成を有することができる。この硬質層は、構造および組成に関して相互に同じか、または異なることが可能である。随意的に、硬質層を(Mea1-a)(Nwxyz)で構成することができ、ここでMeはTi,Al,CrおよびZrから選択される1つ以上の金属であり、XはSi,Ta,V,YおよびNbから選択される1つ以上の元素である(0.75<a≦1.0 かつw+x+y+z=1)。例として、この硬質層は(Al,Ti)N,TiN,(Al,Cr)N,CrN,ZrN,Ti(B,N),TiB2または(Zr,Al)Nの何れか1つであってよい。
【0028】
本発明による硬質層は、任意のコーティング構造を有することができる。このコーティングの任意の連続体の硬質層は、構造および組成に関して相互に同様であってよく、または相違することができる。異なる連続体の硬質層が構造および組成に関して相互に相違していてもよい。
【0029】
硬質層の平均の厚さが0.05〜5μmであってよく、好ましくは0.15〜2μmである。この硬質層は可塑性微小層よりも充分厚い。コーティングの厚さは0.6から20μmであってよく、好ましくは1から15μmまで、最も好ましくは2から9μmまでである。
【0030】
覆切削工具は、むくの一体型切削工具か、インサートホルダーとこれに固定される切削インサートとからなる切削工具か、インサートホルダーか、あるいは切削インサートであってよい
【0031】
切削工具の基材は、超硬合金と、サーメットと、高速度鋼と、酸化物,炭化物,窒化物またはホウ化物セラミックと、超研磨材(PcBNまたはPCD)と、炭素鋼と、低合金鋼と、オーステナイト系,フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼と、熱間加工工具鋼と、冷間加工工具鋼と、51000鋼と、ニッケル・コバルト超合金とから作ることができる。
【0032】
本発明のコーティングは、少なくとも1層の補助層を任意に有することができる。この補助層を基材に隣接して位置させることができ、その場合、これは接合層160として機能し、あるいは補助層を最も外側の硬質層に隣接して位置させることができ、 その場合、これはコーティング200の最も外側の表面層170として機能する。いくつかの実施形態において、第1の補助層が基材110と第1の硬質層120との間の接合層160として機能するのに対し、第2の補助層はコーティング200の最も外側の表面層170として機能する。補助層は、Hf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ru,耐熱金属およびこれらの混合物から選択される元素を少なくとも60%具え、この補助層の厚さは2nmから100nmまでである。
【0033】
本発明の一実施形態において、可塑性微小層が純金属微小層であり、この金属はFe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,Au,Ruおよびこれらの混合物から選択される。
【0034】
本発明の別な実施形態において、可塑性微小層が純金属微小層であり、その金属の少なくとも0.5原子%がFe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,AuおよびRuおよびこれらの混合物から選択される。
【0035】
本発明の別な実施形態において、可塑性微小層は、Fe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,Au,Ruから選択される1つ以上の金属を少なくとも0.5原子%具え、残りがAl,Yおよび耐熱金属から選択される1つ以上の金属を具えた純金属微小層である。
【0036】
本発明の別な実施形態において、可塑性微小層が亜化学量論的セラミックであり、その非金属元素の1つ以上がN,O,CまたはBであり、その金属はFe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,Au,Ruおよびこれらの混合物からなるグループから選択される。随意的に、可塑性微小層は窒化物である。この亜化学量論的セラミック中の金属元素の量は、亜化学量論的セラミックの少なくとも70原子%、好ましくは80原子%、より好ましくは少なくとも90原子%である。
【0037】
本発明の別な実施形態において、可塑性微小層が亜化学量論的セラミックであり、その非金属元素の1つ以上がN,O,CまたはBであって、その金属の少なくとも0.5原子%がFe,Co,Ni,Cu,Hf,Ag,Au,Ruおよびこれらの混合物からなるグループから選択される。随意的に、可塑性微小層は窒化物である。この亜化学量論的セラミック中の金属元素の量は、亜化学量論的セラミックの少なくとも70原子%、好ましくは80原子%、より好ましくは少なくとも90原子%である。
【0038】
本発明の他の実施形態において、コーティングは、硬質層と、前の実施形態にて記述した1層以上の可塑性微小層から選択される可塑性微小層とを交互に重ねた1つ以上の連続体を有する。随意的に、このコーティングは、異なる組成を持った少なくとも2層の可塑性微小層を有する。例えば、コーティングは異なる純金属組成の可塑性微小層を有することができ、あるいはこのコーティングは少なくとも1層の純金属微小層と、少なくとも1層の亜化学量論的微小層、または異なった組成を有する少なくとも2層の亜化学量論的微小層とを有することができる。
【0039】
本発明の別な実施形態において、少なくとも2層の硬質層は、0.5から2μmまでの間の厚さを有するTiAlNおよびAlTiNから選択され、可塑性微小層は20から50nmの間の厚さを好ましくは有するTixCuyまたはTixAgy(x+y=1 かつx≦0.9)である。
【0040】
本発明の別な実施形態において、可塑性微小層は本質的にCu,TiおよびAlからなる合金であって、Cuが少なくとも2原子%である。
【0041】
本発明のまた別な実施形態において、可塑性微小層は本質的にCu,AlおよびCrからなる合金であって、Cuが少なくとも2原子%である。
【0042】
本発明はまた、上のすべての実施形態にて記述した被覆切削工具を製造する方法にも関する。この方法は、
a)基材を覆う少なくとも1層の硬質層を堆積させるステップと、
b)可塑性微小層を少なくとも1層の前記硬質層に堆積させるステップと、
c)少なくとも1層の他の硬質層を前記可塑性微小層に堆積させるステップと
を具える。
【0043】
上述したように、ステップb)およびステップc)は、望ましいコーティングの合計の厚さが達成されるまで、好ましくは3から30回の間、より好ましくは5から20回の間行われる。
【0044】
可塑性微小層は、同じコーティングチャンバー内で同じコーティング順にて好ましくは堆積させられ、雰囲気を反応ガスから不活性ガス、例えばHe,Ar,Kr,Xeまたはこれらのガスの組み合わせへと変更することにより、硬質層も同様である。
【0045】
本発明の他の実施形態において、この被覆方法は
ステップ)を実行する前に第1の補助層を基材に堆積させるステップと
これに代えて、またはこれに加え、
第2の補助表面層を最も外側の硬質層に堆積させるステップと
をさらに具える。
【0046】
第1の補助層は、基材と第1の硬質層との間の接合層として機能する。第2の補助層は、コーティングの最も外側の表面層として機能する。補助層は、存在するすべての場合において、その少なくとも60原子%がHf,Al,Y,Fe,Co,Ni,Cu,Si,Ag,Au,Ruおよび耐熱金属からなるグループから選択される1つ以上の元素である。この補助層の厚さは、2nmから100nmまでである。
【0047】
切削工具をコーティングする場合に一般的に用いられる任意のPVD法を本発明の方法にて用いることができる。好ましくは、陰極アーク蒸着またはマグネトロンスパッターリングが用いられるけれども、HIPIMS(高出力衝撃マグネトロンスパッターリング)の如き新参技術もまた利用することができる。本発明によるコーティングが「PVDコーティング」として呼称されるとしても、このコーティングはまた、例えば従来のCVDコーティングよりもPVDコーティングのそれにより近い特性を持ったコーティングを作り出すPECVD法(プラズマ促進化学気相蒸着)にて堆積させることも可能である。
図1