(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1及び第2のカメラの各々が、前記第2の直線上に配置された複数の画素を有するラインセンサーと、前記ラインセンサーの前面に取り付けられ、周囲の空間からの光を前記ラインセンサーの複数の画素に集光するレンズとを含み、前記レンズが、前記鉄道車両の進行方向と略直交する平面内における撮像角度を前記ラインセンサーにおける画素の位置に対応させる、請求項1記載の架線位置計測装置。
前記関心領域設定部が、第1及び第2の画像データの各々について複数の関心領域を設定し、前記画像処理部が、前記複数の関心領域の内から順次選択された1つの関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施すことにより、前記複数の関心領域に対応する複数の画像を表す第1の画像データ、及び、前記複数の関心領域に対応する複数の画像を表す第2の画像データを前記メモリーに蓄積する、請求項1又は2記載の架線位置計測装置。
前記関心領域設定部が、前記第1のカメラから関心領域を見たときの第1の角度範囲、及び、前記第2のカメラから関心領域を見たときの第2の角度範囲を算出する、請求項1〜3のいずれか1項記載の架線位置計測装置。
前記画像処理部が、第1の画像データに対して、前記第1のカメラから関心領域を見たときの第1の角度範囲外の画像をマスキングする画像処理を施し、第2の画像データに対して、前記第2のカメラから関心領域を見たときの第2の角度範囲外の画像をマスキングする画像処理を施す、請求項4記載の架線位置計測装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気鉄道の集電方式として、鉄道車両が通るレールの上方に架線を配設し、鉄道車両の屋根上に搭載されたパンタグラフ等の集電装置によって架線から集電を行う架空電車線方式が広く用いられている。パンタグラフと接触して鉄道車両に電力を供給する架線は、トロリー線と呼ばれる。
【0003】
トロリー線を配設するための方式としては、架線柱等からトロリー線を直接吊り下げる直接吊架式と、カテナリー(吊架線)を用いてトロリー線を一定の高さに吊り下げるカテナリー吊架式と、形材を用いてトロリー線を一定の高さに吊り下げる剛体吊架式とが存在する。さらに、カテナリー吊架式には、シンプルカテナリー式、ツインシンプルカテナリー式、コンパウンドカテナリー式等が存在する。
【0004】
シンプルカテナリー式の構造は、1本の吊架線からハンガーと呼ばれる金属線を介してトロリー線を吊り下げたものである。ツインシンプルカテナリー式の構造は、シンプルカテナリー式の架線を2組並べたものである。
【0005】
コンパウンドカテナリー式の構造は、吊架線とトロリー線との間に補助吊架線を追加して、吊架線がドロッパを介して補助吊架線を吊り下げ、補助吊架線がハンガーを介してトロリー線を吊り下げたものである。これにより、パンタグラフがトロリー線を押し上げる量が平均化される。
【0006】
剛体吊架式の構造は、アルミニウムや銅製の形材に、イヤーと呼ばれる金具を介して、トロリー線を吊り下げたものである。
【0007】
ところで、トロリー線等の架線が所定の位置からずれると、パンタグラフがトロリー線に正常に接触できないばかりか、事故や車両故障の原因となるので、架線の位置を計測して架線が所定の位置にあるか否かを検査する必要がある。そのために、ステレオラインセンサー等を用いたトロリー線の位置測定装置が開発されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、車両の屋根上に枕木方向においてそれぞれ設置される架線を撮影する第1のラインセンサーカメラ及び第2のラインセンサーカメラと、第1及び第2のラインセンサーカメラの近傍に鉛直上方を向けて設置され架線までの距離を計測するレーザー距離計と、第1のラインセンサーカメラから出力された画像データを基にラインセンサー画像上の架線の位置情報を算出する第1の画像処理部と、第2のラインセンサーカメラから出力された画像データを基にラインセンサー画像上の架線の位置情報を算出する第2の画像処理部と、第1及び第2の画像処理部から出力されたラインセンサー画像上の架線の位置情報とレーザー距離計から出力された距離情報とを記憶する処理メモリーと、ラインセンサー画像上の架線の位置情報と距離情報とに基づきステレオ対応点の探索を行うステレオ対応点探索部と、ステレオ対応点に基づき架線の高さと偏位を算出する高さ・偏位算出部とを備える架線位置測定装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の架線位置測定装置は、トロリー線の位置を測定することを目的としており、トロリー線以外の架線の位置を非接触で計測するのに有効な装置又は方法は未だ開発されていない。2台のラインセンサーによって得られる画像だけでは、映し出される架線と背景とを分離したり、架線の種類を特定したりすることが困難である。従って、トロリー線以外の吊架線や補助吊架線等については、検測車による位置計測ができず、線路上からFRP(繊維強化プラスチック)製の棒等を用いて手作業で位置を計測しなければならないという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の1つの目的は、架線の高度な保全のために、トロリー線以外の区分装置や支持物も含めた架線についても検測車等による非接触の3次元位置計測を可能とすることである。また、本発明の他の目的は、計測対象の架線とそれ以外の架線や背景との分離を適切に行い、架線の位置を計算する際の計算量を低減し、又は、計算精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る架線位置計測装置は、鉄道車両の進行方向
及び高さ方向と略直交
する第1の直線上に第1の距離をおいて設置され、架線の位置を測定して角度データ及び距離データを生成する第1の3次元計測装置及び第2の3次元計測装置と、
第1の直線に略平行な第2の直線上に第2の距離をおいて設置され、
鉄道車両の進行方向と略直交する平面内において架線を含む空間を撮像して1次元の画像を表す第1の画像データ及び第2の画像データをそれぞれ生成する第1のカメラ及び第2のカメラと、第1及び第2の3次元計測装置の各々によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、
鉄道車両の進行方向と略直交する平面内において、測定された架線の位置を含む少なくとも1つの関心領域を設定する関心領域設定部と、第1及び第2のカメラによってそれぞれ生成される第1及び第2の画像データの各々に対して、関心領域設定部によって設定された関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施し、順次処理された第1及び第2の画像データをメモリーに蓄積する画像処理部と、メモリーに蓄積された第1及び第2の画像データの各々によって表される2次元の画像から所定の条件を満たす架線を抽出する架線抽出部と、第1及び第2の画像データによって表される2つの画像から架線抽出部によって抽出された架線の座標に基づいて、鉄道車両に対する架線の位置を算出する架線位置算出部とを具備する。
【0013】
また、本発明の1つの観点に係る架線位置計測方法は、鉄道車両の進行方向
及び高さ方向と略直交
する第1の直線上に第1の距離をおいて設置され、架線の位置を測定して角度データ及び距離データを生成する第1の3次元計測装置及び第2の3次元計測装置と、
第1の直線に略平行な第2の直線上に第2の距離をおいて設置され、
鉄道車両の進行方向と略直交する平面内において架線を含む空間を撮像して1次元の画像を表す第1の画像データ及び第2の画像データをそれぞれ生成する第1のカメラ及び第2のカメラとを含む架線位置計測装置において用いられる架線位置計測方法であって、第1及び第2の3次元計測装置の各々によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、
鉄道車両の進行方向と略直交する平面内において、測定された架線の位置を含む少なくとも1つの関心領域を設定するステップ(a)と、第1及び第2のカメラによってそれぞれ生成される第1及び第2の画像データの各々に対して、ステップ(a)において設定された関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施し、順次処理された第1及び第2の画像データをメモリーに蓄積するステップ(b)と、メモリーに蓄積された第1及び第2の画像データの各々によって表される2次元の画像から所定の条件を満たす架線を抽出するステップ(c)と、第1及び第2の画像データによって表される2つの画像からステップ(c)において抽出された架線の座標に基づいて、鉄道車両に対する架線の位置を算出するステップ(d)とを具備する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1つの観点によれば、複数の3次元計測装置を用いることにより、複数の架線が一方の3次元計測装置から見て重なって配設されている場合においても、それらの架線を分離して計測することができる。その結果、トロリー線以外の架線についても検測車等による非接触の3次元位置計測を精度良く行うことが可能となり、架線の高度な保全が実現される。また、複数の3次元計測装置を用いる架線位置測定に基づく関心領域の設定と、複数のカメラを用いるステレオ計測とを複合化することにより、架線の位置を計算する際の計算量を低減したり、又は、計算精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る架線位置計測装置が設けられた鉄道車両を示す図である。この架線位置計測装置は、2つのレーザー測域センサー11及び12と、2つのラインカメラ13及び14と、照明装置15とを含んでいる。これらは、
図1に示すように検測車等の鉄道車両10の屋根上に配置されても良いし、あるいは、軌陸車若しくは保守用車の作業台に配置されても良い。また、この架線位置計測装置は、変位センサー(又は、加速度センサー)16を含んでも良い。
【0017】
さらに、この架線位置計測装置は、関心領域設定部21と、画像処理部22と、処理メモリー23と、架線抽出部24と、架線位置算出部25と、格納部26と、表示部27とを含んでいる。これらは、
図1に示すように鉄道車両10内に配置されても良いし、あるいは、鉄道車両10外に配置されても良い。後者の場合には、例えば、データ測定時において、レーザー測域センサー11及び12、ラインカメラ13及び14、及び、変位センサー16から出力されるデータが、外付けハードディスク等の着脱可能な記録媒体に一旦記録される。また、データ測定後において、着脱可能な記録媒体に記録されたデータが、関心領域設定部21、画像処理部22、及び、架線位置算出部25に供給される。
【0018】
ここで、関心領域設定部21と、画像処理部22と、架線抽出部24と、架線位置算出部25との内の少なくとも1つを、CPU(中央演算装置)を含むPC(パーソナルコンピューター)と、CPUに各種の処理を行わせるためのソフトウェア(プログラム)とによって構成しても良い。ソフトウェアは、格納部26の記録媒体に記録される。記録媒体としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、USBメモリー、MO、MT、CD−ROM、又は、DVD−ROM等を用いることができる。
【0019】
鉄道車両10の上方には、鉄道車両10の進行方向(
図1におけるZ軸方向)と略平行に、トロリー線、吊架線、補助吊架線(図示せず)、き電線、保護線、配電線(図示せず)、区分装置(図示せず)等の架線が設置されている。き電線は、直流送電の場合に、一定間隔でトロリー線に接続され、交流送電の場合に、トロリー線に送電するための変圧器に接続されて、トロリー線を介して鉄道車両10に電力を供給するために用いられる。保護線は、短絡事故を検知するために用いられる。配電線は、信号保安機器に給電するために用いられる。区分装置は、架線を電気的又は機械的に区分するために用いられる。本願において、「架線」とは、トロリー線、吊架線、補助吊架線、き電線、保護線、配電線、区分装置等を含むものとする。
【0020】
レーザー測域センサー11及び12は、鉄道車両10の進行方向と略直交して水平方向に延びる第1の直線(
図1におけるX軸)上に、第1の距離をおいて配置されている。レーザー測域センサー11は、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面(
図1におけるXY平面)における第1の範囲内の投射角度にレーザー光線を投射して、架線を含む空間を走査する。また、レーザー測域センサー12は、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面における第2の範囲内の投射角度にレーザー光線を投射して、架線を含む空間を走査する。これにより、レーザー測域センサー11及び12の各々は、架線の位置を測定して、架線が存在する方向を表す角度データ、及び、架線までの距離を表す距離データを生成する。
【0021】
例えば、レーザー測域センサー11及び12の各々は、レーザーダイオードを用いてパルス状のレーザー光線を生成し、回転ミラー(ポリゴンミラー等)を介して周囲の空間にレーザー光線を投射することにより、架線を幅方向に走査する。また、レーザー測域センサー11及び12の各々は、フォトダイオード等を用いて架線からの反射光を検出する。
【0022】
レーザー測域センサー11及び12の各々から投射されるレーザー光線の投射方向は、角度エンコーダーを用いて、一定の角度ステップで変更される。架線が存在する方向は、反射光が検出された時の角度エンコーダーの出力信号に基づいて求められ、架線が存在する方向を表す角度データが生成される。また、架線までの距離は、パルス状のレーザー光線を投射してから反射光を検出するまでの時間に基づいて求められ、架線までの距離を表す距離データが生成される。
【0023】
このように、2つのレーザー測域センサー11及び12を用いることにより、複数の架線が一方のレーザー測域センサーから見て重なって配設されている場合においても、それらの架線を分離して測定することが可能である。ただし、レーザー測域センサー11及び12による測定結果は、一般に、測定距離が1mである場合に10mm程度の誤差を含んでいる。従って、レーザー測域センサー11及び12は、架線の正確な位置を計測することはできず、ラインカメラ13及び14を用いて架線の正確な位置を計測する必要がある。
【0024】
ラインカメラ13及び14は、鉄道車両10の進行方向と略直交して水平方向に延びる第2の直線上に、第2の距離をおいて配置されている。第2の直線は、第1の直線(
図1におけるX軸)と同一でも良い。ラインカメラ13及び14は、架線を含む空間を撮像して、1次元のラインセンサー画像を各々が表す第1の画像データ及び第2の画像データをそれぞれ生成する。
【0025】
照明装置15は、鉄道車両10の進行方向と略直交して水平方向に延びる第3の直線に沿って設置されている。第3の直線は、第2の直線と同一でも良い。照明装置15は、夜間等において、ラインカメラ13及び14が撮像する空間を照明する。これにより、架線が明るく照らし出される。
【0026】
ラインカメラ13及び14の各々は、第2の直線に沿って配置された複数の画素を有するラインセンサーと、ラインセンサーの前面に取り付けられ、周囲の空間からの光をラインセンサーの複数の画素に集光するレンズとを含んでいる。このレンズは、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面(
図1におけるXY平面)内における撮像角度を、ラインセンサーにおける画素の位置に1:1に対応させることができる。従って、ラインセンサーにおける画素の位置から、ラインカメラ13又は14における架線の撮像角度を求めることが可能となる。
【0027】
関心領域設定部21は、レーザー測域センサー11及び12の各々によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、鉄道車両10の進行方向と略直交する平面(
図1におけるXY平面)内において、測定された架線の位置を含む少なくとも1つの関心領域を設定し、1次元のラインセンサー画像における関心領域の位置情報を算出する。
【0028】
例えば、関心領域設定部21は、レーザー測域センサー11によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、ラインカメラ13から関心領域を見たときの第1の角度範囲を関心領域の位置情報として算出する。また、関心領域設定部21は、レーザー測域センサー12によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、ラインカメラ14から関心領域を見たときの第2の角度範囲を関心領域の位置情報として算出する。
【0029】
また、関心領域設定部21は、レーザー測域センサー11又は12によって生成される角度データ及び距離データによって表される架線の位置及び太さと、レーザー測域センサー11又は12の測定誤差とを考慮して、関心領域を設定しても良い。例えば、レーザー測域センサーから1m離れた位置に半径6mmの架線が測定され、レーザー測域センサーから1m離れた位置における測定誤差が10mmである場合には、角度データ及び距離データによって表される架線の中心位置から半径16mm内の領域が関心領域として設定される。さらに、その値に、余裕係数(例えば、1.2〜1.5)を掛けて関心領域を設定しても良い。
【0030】
画像処理部22は、ラインカメラ13及び14によってそれぞれ生成される第1及び第2の画像データの各々に対して、関心領域設定部21によって設定された関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施す。例えば、画像処理部22は、関心領域外の画像を表す画像データの値を「0」に置き換えても良いし、関心領域の画像のみを切り出しても良い。
【0031】
関心領域設定部21が、第1及び第2の画像データの各々について複数の関心領域を設定した場合には、画像処理部22は、それらの関心領域から順次選択された1つの関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施す。これにより、複数の関心領域に対応する複数の画像を表す第1の画像データ、及び、複数の関心領域に対応する複数の画像を表す第2の画像データが得られる。
【0032】
ここで、画像処理が施された1つの画像においては、原則として1つの架線を構成する線条のみが表されていることになる。従って、計測対象の架線とそれ以外の架線や背景との分離を適切に行うことができるので、トロリー線以外の架線についても検測車等による非接触の3次元位置計測を精度良く行うことが可能となる。また、第1及び第2の画像データによって表される2つの画像に基づいて架線の位置を計算する際に、計算量を低減したり、又は、計算精度を向上させることができる。
【0033】
例えば、関心領域設定部21が、関心領域の位置情報として、ラインカメラ13から関心領域を見たときの第1の角度範囲を算出した場合には、画像処理部22は、第1の画像データに対して、ラインカメラ13から関心領域を見たときの第1の角度範囲外の画像をマスキングする画像処理を施す。
【0034】
同様に、関心領域設定部21が、関心領域の位置情報として、ラインカメラ14から関心領域を見たときの第2の角度範囲を算出した場合には、画像処理部22は、第2の画像データに対して、ラインカメラ14から関心領域を見たときの第2の角度範囲外の画像をマスキングする画像処理を施す。
【0035】
夜間、又は、地下区間やトンネル区間において、照明装置15を用いて架線を照明する場合には、架線が背景よりも明るく照らし出されるので、架線に相当する領域において画像データの輝度値が大きくなる。一方、昼間において、晴天の場合には、架線が背景よりも暗く写し出されるので、架線に相当する領域において画像データの輝度値が小さくなる。従って、画像データの輝度値に基づいて、架線を抽出することが可能となる。
【0036】
鉄道車両10が走行している際に、ラインカメラ13及び14が、架線を含む空間を順次撮像して第1及び第2の画像データをそれぞれ生成し、画像処理部22が、生成された第1及び第2の画像データに画像処理を順次施す。画像処理部22は、画像処理が順次施された第1及び第2の画像データを処理メモリー23に蓄積する。第1の画像データを所定のライン数分(例えば、1000ライン分)結合することによって1枚の2次元画像が生成され、第2の画像データを所定のライン数分(例えば、1000ライン分)結合することによって1枚の2次元画像が生成される。これにより、2次元の画像を各々が表す第1及び第2の画像データが得られる。関心領域設定部21が、第1及び第2の画像データの各々について複数の関心領域を設定した場合には、複数の関心領域に対応する複数の2次元画像を各々が表す第1及び第2の画像データが得られることになる。
【0037】
図2は、画像処理部による画像処理前後の画像を比較して示す模式図である。
図2の(A)は、画像処理前の画像を示しており、
図2の(B)は、画像処理後の画像を示している。
図2の(A)及び(B)においては、1つのラインカメラによって所定の期間に亘って撮像された2次元の画像が示されている。ここで、縦軸は、ラインカメラから見た架線の角度θを表しており、横軸は、鉄道車両が一定速度で走行する場合に時間軸に対応するZ軸である。画像データを処理メモリー等に取り込む時間間隔は、鉄道車両の走行速度に応じて制御しても良い。あるいは、画像データを一定の時間間隔で処理メモリー等に取り込むと共に、鉄道車両の走行速度を処理メモリー等に記録しておき、後で時間軸をZ軸に変換しても良い。
【0038】
図2の(A)に示すように、画像処理部による画像処理前の画像においては、架線を構成する3本の線条L1〜L3が映り込んでいる。一方、
図2の(B)に示すように、画像処理部による画像処理後の画像においては、関心領域の画像を切り出すことにより、計測対象外の線条L1及びL3がマスキングされて、計測対象の線条L2のみが映し出されている。
【0039】
再び
図1を参照すると、架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積されて2次元の画像を表す第1及び第2の画像データの各々に対して架線抽出処理を施す。即ち、架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積された第1及び第2の画像データの各々によって表される2次元の画像において、輝度値や角度等に関する所定の条件を満たす架線の領域を検出することにより、架線を抽出する。架線抽出処理は、架線のエッジを検出したり、架線を含むストライプ(長方形の縞)を検出したり、画像データの値を時間軸(Z軸)方向に積算したりすることによって行うことができる。以下においては、架線のエッジを検出する場合について説明する。
【0040】
架線抽出部24は、処理メモリー23に蓄積されて2次元の画像を表す第1及び第2の画像データの各々に対してエッジ検出処理を施し、検出された複数のエッジの内から所定の条件を満たすエッジを抽出する。エッジ検出処理は、例えば、ゾーベル(Sobel)フィルターを用いたコンボリューション(畳み込み)操作により、エッジの強度と方向を求めることによって行われる。
【0041】
図3は、ゾーベルフィルターの係数行列(オペレーター)の例を示す図である。ゾーベルフィルターは、空間1次微分を計算して輪郭を検出するために用いられるフィルターである。架線抽出部24は、ある注目画素を中心とした上下左右の9つの画素の値に対して、
図3の(A)に示すような水平エッジ検出用の係数行列を乗算し、乗算結果を合計することにより、水平エッジ検出値Ixを得る。また、架線抽出部24は、ある注目画素を中心とした上下左右の9つの画素の値に対して、
図3の(B)に示すような垂直エッジ検出用の係数行列を乗算し、乗算結果を合計することにより、垂直エッジ検出値Iyを得る。
【0042】
エッジの強度I及び角度αは、次式を用いて求められる。
I=(Ix
2+Iy
2)
1/2
α=tan
−1(Iy/Ix)
【0043】
架線抽出部24は、エッジ検出処理によって検出された複数のエッジの内から、強度Iが閾値以上で、角度αが所定の範囲内にあるエッジを抽出し、エッジの位置を表すエッジ座標を生成する。実際には、架線がある太さを有しているので、1つの架線について2つのエッジが抽出されるが、架線の座標として、それらのエッジの内の一方の座標を用いても良いし、それらのエッジの平均座標を求めても良い。また、エッジの一部が欠けている場合には、欠けている部分をその前後のエッジの延長線で補ってエッジ座標を生成しても良い。
【0044】
架線の座標は、例えば、各々のZ座標について、ラインカメラ13から見た架線の角度θ
1、及び、ラインカメラ14から見た架線の角度θ
2を含んでいる。架線抽出部24は、架線の座標を架線位置算出部25に出力する。架線位置算出部25は、第1及び第2の画像データによって表される2つの画像から架線抽出部24によって抽出された架線の座標に基づいて、鉄道車両10に対する架線の2次元位置を算出する。
【0045】
図4は、架線の位置を算出する原理を説明するための図である。
図4には、XY平面において、ラインカメラ13及び14と、架線の位置P(x,y)とが示されている。架線位置算出部25は、ラインカメラ13から見た架線の角度θ
1、及び、ラインカメラ14から見た架線の角度θ
2に基づいて、鉄道車両10に対する架線の位置P(x,y)を求める。
【0046】
図4に示すように、ラインカメラ13とラインカメラ14との間の距離をd(既知)とし、ラインカメラ13と架線との間の距離をr
1、ラインカメラ14と架線との間の距離をr
2とすると、次式が成立する。
r
1sinθ
1+r
2sinθ
2=d
r
1cosθ
1=r
2cosθ
2
これらの式より、距離r
1を求めることができる。
r
1=d/{sinθ
1+(cosθ
1/cosθ
2)sinθ
2}
従って、x及びyは、以下のようにして算出される。
x=r
1sinθ
1+x
0
y=r
1cosθ
1+y
0
【0047】
さらに、
図1に示す架線位置算出部25は、軌道(レール)と鉄道車両10の基準位置(例えば、XY座標の原点)との位置関係に基づいて、軌道に対する架線の2次元位置を算出する。以上のような計算を、複数のZ座標について順次行うことにより、軌道の位置を基準として、軌道に沿って延在する架線の3次元位置が算出される。本実施形態においては、2つのレーザー測域センサー11及び12を用いることにより、架線の位置を算出する際の計算精度を向上させることができる。
【0048】
変位センサー16は、鉄道車両10のローリングや上下動等による変位を観測して、軌道に対する鉄道車両10の変位を表す変位データを出力する。架線位置算出部25は、変位センサー16から出力される変位データに基づいて、架線の位置の座標を補正しても良い。変位センサーの替りに加速度センサーを用いる場合には、架線位置算出部25は、加速度センサーから出力される加速度データに基づいて変位を求め、架線の位置の座標を補正しても良い。また、架線位置算出部25は、算出された架線の位置の座標を表す架線位置データを格納部26に格納したり、算出された架線の位置を表すグラフを作成して表示部27に表示させても良い。
【0049】
次に、本実施形態に係る架線位置計測装置において用いられる架線位置計測方法について、
図1及び
図5を参照しながら説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る架線位置計測方法を示すフローチャートである。なお、互いに独立な処理については、それらを並列に行っても良い。
【0050】
図5に示すステップS1において、レーザー測域センサー11及び12の各々が、架線の位置を測定することによって、架線が存在する方向を表す角度データ、及び、架線までの距離を表す距離データを生成する。
【0051】
ステップS2において、ラインカメラ13及び14が、架線を含む空間を撮像して、1次元のラインセンサー画像を各々が表す第1の画像データ及び第2の画像データをそれぞれ生成する。1回の撮像により、ラインカメラ13及び14の各々によって、1ライン分のラインセンサー画像が生成される。
【0052】
ステップS3において、関心領域設定部21が、レーザー測域センサー11及び12の各々によって生成される角度データ及び距離データに基づいて、測定された架線の位置を含む少なくとも1つの関心領域を設定する。ステップS3の処理は、ラインセンサー画像の各ラインについて行っても良いし、ラインセンサー画像の複数のラインを含む各ライン群について、画像の連続性を考慮した補正を加えながら行っても良い。
【0053】
ステップS4において、画像処理部22が、ラインカメラ13によって生成される第1の画像データに対して、ステップS2において設定された関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施し、順次処理された第1の画像データを処理メモリー23に蓄積する。
【0054】
同様に、ステップS5において、画像処理部22が、ラインカメラ14によって生成される第2の画像データに対して、ステップS2において設定された関心領域外の画像をマスキングする画像処理を施し、順次処理された第2の画像データを処理メモリー23に蓄積する。
【0055】
所定数のライン分の第1及び第2の画像データが処理メモリー23に蓄積されると、ステップS6において、架線抽出部24が、処理メモリー23に蓄積された第1の画像データによって表される2次元の画像から所定の条件を満たす架線を抽出する。
【0056】
同様に、ステップS7において、架線抽出部24が、処理メモリー23に蓄積された第2の画像データによって表される2次元の画像から所定の条件を満たす架線を抽出する。
【0057】
ステップS8において、架線位置算出部25が、第1及び第2の画像データによって表される2つの画像から抽出された架線の座標に基づいて、鉄道車両10に対する架線の3次元位置を算出する。このようにして、所定数のライン分の画像データから架線の3次元位置が算出されると、次の所定数のライン分の画像データの処理が行われる。
【0058】
以上の実施形態においては、2つのレーザー測域センサーと2つのラインカメラとを用いる場合について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、3つ以上のレーザー測域センサー又は3つ以上のラインカメラを用いても良い。また、レーザー測域センサーに限らず、TOF(time of flight)カメラ等の3次元計測が可能な装置を用いても良いし(本願においては、レーザー測域センサーやTOFカメラ等を総称して「3次元計測装置」という)、ラインカメラの替りにエリアカメラ等を用いても良い。このように、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。