(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698294
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】成形サイクル開始のための準備工程における計量方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
B29C45/76
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-68818(P2013-68818)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-188956(P2014-188956A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2013年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】弘中 義隆
(72)【発明者】
【氏名】上村 孝志
【審査官】
長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−177928(JP,A)
【文献】
特開平05−104596(JP,A)
【文献】
特開平08−197596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に射出ノズルが設けられている加熱シリンダと、該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなる射出装置を備え、溶融樹脂の計量は前記スクリュに軸方向に駆動力を作用させる背圧をかけて実施し、少なくとも成形サイクルの計量工程における計量は前記射出ノズルを金型にタッチさせた状態で実施し、前記成形サイクルの開始前の準備工程における計量は前記射出ノズルを金型から離間した状態で実施するようになっている射出成形機において、
前記準備工程における計量は、前記スクリュに所定の背圧をかけて開始し、所定の監視時間だけ監視してスクリュ位置の変化が検出されないとき所定の圧力差である背圧減少分だけ前記背圧を下げ、引き続き前記監視時間だけ監視してスクリュ位置の変化が検出されないとき前記背圧減少分だけさらに前記背圧を下げ、前記スクリュ位置の変化が検出されるまで順次同様にして背圧を下げるようにすることを特徴とする成形サイクル開始の準備工程における計量方法。
【請求項2】
請求項1に記載の計量方法において、前記準備工程において前記計量の開始時に前記スクリュにかける背圧は、前記成形サイクルの計量工程において設定されている設定背圧であることを特徴とする成形サイクル開始の準備工程における計量方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記スクリュ位置の変化は、所定のしきい値を越えて前記スクリュ位置が変化したか否かによって判断することを特徴とする成形サイクル開始の準備工程における計量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機において成形サイクルを開始するにあたり、その準備工程として射出材料を計量する計量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来周知のように射出成形機は、一対の金型、これらの金型を型締する型締装置、樹脂材料を溶融して金型内に射出する射出装置、成形品を突き出す突出装置等から構成されている。このような射出成形機において成形品を成形する成形サイクルは、計量工程、型締工程、射出工程、保圧工程、冷却工程、型開工程、突出工程等の複数の工程からなる。計量工程は、射出に必要な溶融樹脂を計量する工程であるが、次のように実施する。すなわち、射出装置は加熱シリンダとこの加熱シリンダ内で回転方向と軸方向に駆動可能に設けられているスクリュとから構成されているが、加熱シリンダを加熱してスクリュを回転させ、加熱シリンダの後方のホッパから材料の樹脂ペレットを供給する。そうすると樹脂ペレットはスクリュによって前方に送られる過程で加熱シリンダの熱とスクリュの摩擦熱によって溶融する。溶融した樹脂がスクリュの前方に蓄積されスクリュが後退する。これによって所定量の溶融樹脂が計量される。ところで計量工程においてスクリュが空下がりしてしまい計量される溶融樹脂の密度が低下することがある。このスクリュの空下がりは、溶融樹脂の粘度が高いときに特に発生し易い。そこで計量工程においては、適宜、スクリュに軸方向の力を印加する、いわゆる背圧をかけるようにしている。適切な背圧をかけると計量される溶融樹脂の密度が適切になり、成形不良を防止することができる。
【0003】
射出成形機において成形サイクルは連続的に実施するが、前後の成形サイクルは一部を並行して実施している。具体的には、前の成形サイクルの冷却工程を実施しているときに、次の成形サイクルの計量工程を並行して実施している。つまり型締めされた金型のキャビティ内に射出された溶融樹脂が冷却固化する間に、次の成形サイクルのために溶融樹脂を計量している。一般的な射出成形においては、加熱シリンダの先端の射出ノズルが金型にタッチした状態で成形サイクルが連続的に実施されるので、このように冷却工程と並行して計量工程を実施すると、計量工程において射出ノズルは閉鎖された状態になる。従って計量工程においてスクリュに背圧をかけても、溶融樹脂が射出ノズルから漏れ出す、いわゆるドルーリングは生じることがない。
【0004】
ところで成形サイクルを開始する準備工程においては、一般的に金型から射出ノズルを離間した状態で計量し、計量が完了した後に射出ノズルを金型にタッチさせる。その後成形サイクルを開始する。このように準備工程において、金型から離間した状態で計量を実施するのは、計量中に溶融樹脂が金型内に漏れ出すことを防ぐためである。射出成形機においては、計量工程におけるスクリュの背圧は成形品に適した圧力が設定されており、準備工程の計量においてもこの背圧をかけることもある。しかしながら準備工程においては射出ノズルが開放されているので、射出ノズルから溶融樹脂が漏れ出して適切に計量できない場合もあり、特に粘度が低い溶融樹脂の場合にはその傾向が大きい。そこで準備工程においては、背圧はゼロにして計量することも実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−197596号公報
【0006】
特許文献1には、このような準備工程において計量中にスクリュを強制的に後退させる方法が記載されている。この方法においては、計量される溶融樹脂量を予測して、予め設定されたタイミングでスクリュを強制的に、かつ間欠的に後退させる。そうすると射出ノズルから溶融樹脂が漏れるドルーリングが防止され、スクリュの先端に溶融樹脂を計量することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の方法のように、準備工程において、通常の成形サイクルに対して設定されている背圧をかけて計量するようにしても、あるいは背圧をゼロにして計量しても、計量することはできる。つまり準備工程を実施することはできる。また特許文献1に記載の方法のように、準備工程の計量時にスクリュを強制的に後退させるようにしても、計量することはできる。しかしながら、従来の2つの方法においても特許文献1に記載の方法においても、これらが有効であるのは特定の条件下であるように見受けられる。すなわち従来の方法のうち、成形サイクル用に設定されている設定背圧をかけて計量する方法は、溶融樹脂の粘度が十分に高い場合に有効であって、このときドルーリングは少なくかつ計量もできる。また従来の方法のうち、背圧をゼロにして計量する方法は溶融樹脂の粘度が低い場合に有効であり、特許文献1に記載の方法は溶融樹脂の粘度がさらに低い場合に有効であり、いずれもドルーリングをほぼ無くして計量できる。しかしながら条件が適合しない場合には、これらの方法は必ずしも適切であるとは言えない。すなわち溶融樹脂の粘度がそれほど高くない場合に成形サイクルにおける設定背圧と同じ背圧をかけて計量すると、ドルーリングが大量に発生して計量に時間がかかったり、計量が完了しない場合もある。また溶融樹脂の粘度がそれほど低くない場合に背圧をゼロにして計量すると、スクリュの空下がりが発生して計量された溶融樹脂の密度が低くなってしまう。これは特許文献1に記載の方法においても言える。計量された溶融樹脂の密度が低いと、初回の射出成形において成形品が不良となってしまう。さらには、密度が低いとショートショットが発生して金型によっては清掃が別途必要になり、コストが嵩んでしまう。オペレータにとっても、準備工程の計量時における背圧をどのようにしたら良いかを判断・決定するのは難しく、熟練を要する。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した、成形サイクル開始の準備工程における計量方法を提供することを目的とし、ドルーリングが少なく、速やかに計量できる方法でありながら、計量される溶融樹脂の密度は十分であり、従ってショートショットが発生しないだけでなく初回の射出成形から成形サイクルが安定する、準備工程における計量方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、成形サイクル開始の準備工程における計量方法として構成する。本発明が対象とする射出成形機は、少なくとも成形サイクルの計量工程における計量は、射出ノズルを金型にタッチさせた状態で実施し、成形サイクルの開始前の準備工程における計量は射出ノズルを金型から離間した状態で実施する射出成形機である。このような射出成形機において、準備工程における計量は、スクリュに
所定の背圧をかけて開始し、所定の監視時間だけスクリュ位置の変化を監視する。変化が検出されないとき所定の圧力差である背圧減少分だけ背圧を下げる。このように背圧を下げたら引き続き監視時間だけスクリュ位置の変化を監視する。変化が検出されないとき背圧減少分だけさらに背圧を下げる。このようにして、スクリュ位置の変化が検出されるまで順次同様にして背圧を下げる。
【0010】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、先端に射出ノズルが設けられている加熱シリンダと、該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなる射出装置を備え、
溶融樹脂の計量は前記スクリュに軸方向に駆動力を作用させる背圧をかけて実施し、少なくとも成形サイクルの計量工程における計量は前記射出ノズルを金型にタッチさせた状態で実施し、前記成形サイクルの開始前の準備工程における計量は前記射出ノズルを金型から離間した状態で実施するようになっている射出成形機において、前記準備工程における計量は、前記スクリュに
所定の背圧をかけて開始し、所定の監視時間だけ監視してスクリュ位置の変化が検出されないとき所定の圧力差である背圧減少分だけ前記背圧を下げ、引き続き前記監視時間だけ監視してスクリュ位置の変化が検出されないとき前記背圧減少分だけさらに前記背圧を下げ、前記スクリュ位置の変化が検出されるまで順次同様にして背圧を下げるようにすることを特徴とする成形サイクル開始の準備工程における計量方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の計量方法において、
前記準備工程において前記計量の開始時に前記スクリュにかける背圧は、前記成形サイクルの計量工程において設定されている設定背圧であることを特徴とする成形サイクル開始の準備工程における計量方法として構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法において、前記スクリュ位置の変化は、所定のしきい値を越えて前記スクリュ位置が変化したか否かによって判断することを特徴とする成形サイクル開始の準備工程における計量方法として構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明は、先端に射出ノズルが設けられている加熱シリンダと、該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなる射出装置を備え、
溶融樹脂の計量はスクリュに軸方向に駆動力を作用させる背圧をかけて実施し、少なくとも成形サイクルの計量工程における計量は射出ノズルを金型にタッチさせた状態で実施し、成形サイクルの開始前の準備工程における計量は射出ノズルを金型から離間した状態で実施するようになっている射出成形機を対象として、この射出成形機において成形サイクル開始の準備工程における計量方法として構成されている。そして準備工程における計量は、スクリュに
所定の背圧をかけて開始し、所定の監視時間だけ監視してスクリュ位置の変化が検出されないとき所定の圧力差である背圧減少分だけ背圧を下げ、引き続き監視時間だけ監視してスクリュ位置の変化が検出されないとき背圧減少分だけさらに前記背圧を下げ、スクリュ位置の変化が検出されるまで順次同様にして背圧を下げるように構成されている。このように準備工程において計量するので、仮に計量中に射出ノズルから溶融樹脂が漏れるドルーリングが発生しても、段階的に背圧を下げるので、速やかにドルーリングは止まって、漏れ出す溶融樹脂の総量は少なくなる。また速やかに計量されることになる。また、スクリュ位置の変化が検出されれば背圧を据え置いて計量することになるので、ドルーリングが発生しない程度に高い背圧で計量されるので、計量される射出材料の密度は大きくなる。そうすると初回の成形サイクルからショートショットが発生することもなく良好な成形品を得ることができる。また他の発明によると、
準備工程において計量の開始時にスクリュにかける背圧は、成形サイクルの計量工程において設定されている設定背圧であるので、準備工程における計量のためだけに格別に圧力を設定する必要もなく、エンジニアリングが容易である。さらに他の発明によると、スクリュ位置の変化は、所定のしきい値を越えてスクリュ位置が変化したか否かによって判断するので、誤動作することもなく確実にスクリュ位置の変化を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る射出装置を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る準備工程における計量方法を説明するグラフであり、計量時における背圧設定値、背圧の測定値、そしてスクリュ位置のそれぞれを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る成形サイクル開始の準備工程における計量方法、以下本実施の形態に係る計量方法、を実施する射出成形機も、従来の射出成形機と同様に構成されており、一対の金型、この金型を型締めする型締装置、材料の樹脂を溶融して型締された金型に射出する射出装置1、等から構成されている。
図1には射出装置1だけが示されているが、射出装置1は、加熱シリンダ2と、この加熱シリンダ2内に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュ3と、加熱シリンダ2の先端に設けられているオープンノズルからなる射出ノズル5と、加熱シリンダ2の後端寄りに設けられて加熱シリンダ2内に材料の樹脂を供給するホッパ6と、スクリュ3を回転方向と軸方向とに駆動する駆動機構8とから構成されている。スクリュ3の先端部には従来周知の逆流防止装置9が設けられ、スクリュ3を回転して溶融樹脂を計量するときには計量の妨げにはならないが、スクリュ3を軸方向に駆動して射出するときには溶融樹脂の逆流を防止するようになっている。駆動機構8は、周知の色々な機構から構成することができるので
図1には簡略的に示されているが、スクリュ3を回転方向に駆動するモータ11と、スクリュ3を軸方向に駆動する駆動装置12とから構成されている。駆動装置12は、スクリュ3を所望の駆動力で軸方向に駆動できるようになっており、図には示されていないが、この駆動力を検出するセンサも設けられている。これによって溶融樹脂を計量するときに所望の背圧をかけることができると共に、その背圧を検出することもできる。モータ11と駆動装置12は、図示されていない射出成形機のコントローラに接続され、コントローラによって駆動されるようになっている。
【0014】
本実施の形態に係る射出成形機も、成形品を成形する成形サイクルは従来の射出成形機と同様にして実施され、成形サイクルのうち少なくとも計量工程中は射出ノズル5は金型のスプルにタッチした状態で維持される。成形サイクルの計量工程を説明すると、設定されている設定背圧をスクリュ3にかけてスクリュ3を回転する。そうするとホッパ6から材料の樹脂ペレットが供給されて加熱シリンダ2内で溶融しスクリュ3の前方に送られて溶融樹脂が計量されるが、設定背圧がかけられているのでスクリュ3の空下がりが防止される。これによって溶融樹脂の密度は適正になる。射出ノズル5はオープンノズルからなるので、これが閉鎖されていないと背圧によってドルーリングが発生してしまう。しかしながら計量工程においては射出ノズル5は金型にタッチした状態で維持され、金型のキャビティには前回の成形サイクルの射出工程で射出された樹脂が充填されているので、射出ノズル5は閉鎖された状態になっている。従って設定背圧の背圧がかけられていてもドルーリングしない。成形サイクルの他の工程も従来の射出成形機と同様に実施される。すなわち型締工程において金型を型締めする。次いで射出工程においてスクリュ3を軸方向に駆動すると溶融樹脂が金型のキャビティに射出される。保圧工程においてスクリュ3を所定の駆動力で軸方向に駆動して成形品のヒケを防止し、冷却工程において成形品の冷却・固化を待つ。型開工程において型締装置を駆動して金型を開き、突出工程において成形品を突き出す。なお、冷却工程中において、次の成形サイクルの計量工程を実施する。
【0015】
本実施の形態に係る射出成形機も、樹脂の色換えをしたり、メンテナンスをするために成形サイクルを停止する。あるいはオペレータの作業の終了と共に成形サイクルを停止する。このような場合、成形サイクルを再開するには所定の準備工程を実施する必要があるが、準備工程には溶融樹脂を計量する工程も含まれている。この準備工程における計量は、射出ノズル5を金型から離間した状態で実施する。次に準備工程における本実施の形態に係る計量方法を説明する。
【0016】
本実施の形態に係る射出成形機においては、準備工程の計量を実施するにあたり次の3個のパラメータが設定されている。
○ しきい値
計量中にスクリュ位置が変化したか否かを判定するためのしきい値である。例えば、「0.2mm」のように設定されている。
○ 監視時間
スクリュ位置が変化したか否かを監視する時間である。例えば、「1秒」のように設定されている。
○ 背圧減少分
次に説明するように計量中に、所定の条件が成立しない場合には、背圧を所定の圧力だけ減少させる。1回の減少分が背圧減少分である。例えば、「2MPa」のように設定されている。
これらの他に、必要に応じて次の2個のパラメータも設定されている。
○ 初期圧力
計量開始時にかける背圧である。初期圧力は必須ではなく、次に説明する本実施の形態に係る計量方法においては、この初期圧力は格別に設定されていない。この場合、成形サイクルの計量工程における設定背圧が初期圧力として採用される。
○ 監視不実施時間
スクリュ位置の変化の監視を実施しない時間である。この監視不実施時間も必須ではない。監視不実施時間が設定されていない場合には計量開始直後からスクリュ位置の監視を行うことになる。
【0017】
本実施の形態に係る計量方法は次のようにする。まず、準備工程においてスクリュ3を回転して計量を開始するとき、計量開始のタイミングから背圧の設定値を初期圧力21として背圧をかける。
図2のグラフには、背圧の設定値のグラフが符号22で、背圧の測定値のグラフが符号23で示されている。本実施の形態においては初期圧力21は、格別に設定されていないので、前記したように成形サイクルの計量工程における設定背圧が背圧の設定値として採用されている。開始から監視不実施時間25を経過したら、スクリュ位置の変化の監視を開始する。スクリュ位置のグラフは符号26で示されている。最初の監視時間28aの間にスクリュ位置が変化しなかったら、すなわちスクリュ位置がしきい値27を越えて変化しなかったら、背圧の設定値を背圧減少分29だけ下げて、次の監視時間28bの間にスクリュ位置の変化があるか否かを監視する。スクリュ位置の変化が検出されない場合、さらに背圧の設定値を背圧減少分29だけ下げて、次の監視時間28cの間にスクリュ位置の変化があるか否かを監視する。このようにしてスクリュ位置の変化が検出されるまで順次背圧の設定値を下げる。グラフにおいては第4回目の監視時間28dにおいてスクリュ位置を示すグラフ26が変化している。すなわちスクリュ位置の変化が検出されている。変化が検出された場合には、背圧の設定値を維持する。スクリュ位置が計量位置に達したら計量を完了する。本発明に係る計量方法によって、ドルーリングを最小限に抑えながら、溶融樹脂を適切な密度で計量することができる。その後、従来周知のように射出ノズル5を金型にタッチさせ、成形サイクルを開始する。
【実施例1】
【0018】
射出材料の条件によらずに、本実施の形態に係る計量方法によって計量するとドルーリングを少なくすることができ、計量される溶融樹脂の密度も適切になることを確認するため、次の実験を行った。
(1)射出材料の条件
射出材料の種類や温度、スクリュの回転速度を変えて、表1のようにA〜G群のように複数の条件を用意した。すなわちA〜F群は、射出材料としてPMMAつまりポリメタクリル酸メチル樹脂を選択し、G群はPPつまりポリプロピレンを選択した。そして各群は表1に示されているように溶融樹脂の温度、および計量時のスクリュの回転速度を設定した。例えば、A群、E群は、それぞれ溶融樹脂の温度は220℃と260℃、計量時のスクリュの回転速度は50rpmと100rpmに設定した。
(2)実験の方法
A〜G群の各条件に対して、次の実験1〜4を行った。
実験1:成形サイクルを実施して、そのときに成形される成形品重量を測定した。射出工程の終了後に、加熱シリンダ2内に残っている溶融樹脂をパージして重量を測定した。なお成形サイクルの計量工程における設定背圧は10MPaとした。
実験2:準備工程において本実施の形態に係る計量方法を実施して計量し、その後射出工程を実施した。得られた成形品の重量を測定し、射出工程後に加熱シリンダ2内に残っている溶融樹脂をパージして重量を測定した。また計量時に射出ノズル5から漏れたドルーリングの重量も測定した。なお、本実施の形態に係る計量方法を実施するにあたり、初期圧力は10MPa、監視不実施時間は0秒、監視時間は1秒、背圧減少分は2MPaとした。
実験3:準備工程において背圧を0MPaとして計量し、その後射出工程を実施した。得られた成形品の重量を測定し、射出工程後に加熱シリンダ2内に残っている溶融樹脂をパージして重量を測定した。また計量時に射出ノズル5から漏れたドルーリングの重量も測定した。
実験4:準備工程において背圧の設定値を、成形サイクルの計量工程における設定背圧、すなわち10MPaとした。この条件において計量し、その後射出工程を実施した。得られた成形品の重量を測定し、射出工程後に加熱シリンダ2内に残っている溶融樹脂をパージして重量を測定した。また計量時に射出ノズル5から漏れたドルーリングの重量も測定した。
(3)実験結果
実験の結果を表1に示す。例えば、A−1はA群の実験1を、D−3はD群の実験3を示している。また各実験において計量が完了したタイミングにおけるシリンダ圧、すなわち背圧も表1に示されている。なお、表中において「※1」は溶融樹脂の粘度が低くドルーリングが止まらずに計量が完了できなかったことを示しており、成形品の重量とパージ重量のデータはない。このときのドルーリングの重量はスクリュの回転を停止するまでの35秒間に漏れた重量である。
【0019】
【表1】
【0020】
(4)考察
A〜G群のいずれの群においても、本実施の形態に係る計量方法で計量すると、その後に射出成形して得られる成形品の重量は、成形サイクルにおける成形品の重量とほぼ同じであった。これは準備工程において計量された溶融樹脂の密度が適切であったことを示している。またパージ重量に関しても、実施の形態に係る計量方法で計量した場合には、十分な量の溶融樹脂が加熱シリンダ2内に残っていたことが分かる。つまり成形サイクルにおける計量工程と実質的に同等であると言える。準備工程において背圧をゼロとして計量した場合と比べると、本実施の形態に係る計量方法で計量した場合には若干のドルーリングが発生したが、ドルーリング重量は成形品重量に比して十分に小さいと言える。また準備工程において背圧をゼロとして計量した場合には、得られる成形品の重量がかなり小さくなり、成形不良が発生したことも分かる。準備工程において背圧を10MPaとして計量した実験4を見ると、ドルーリングが多すぎたり、計量が完了しないこともあった。以上より、準備工程において本実施の形態に係る計量方法を実施すると、ドルーリングも少なく計量は速やかに完了し、そして計量される溶融樹脂の密度も十分であり最初の射出工程から高い品質の成形品が得られることが確かめられた。
【符号の説明】
【0021】
1 射出装置 2 加熱シリンダ
3 スクリュ 5 ノズル
6 ホッパ 9 逆流防止装置
11 モータ 21 初期圧力
25 監視不実施時間 27 しきい値
28 監視時間 29 背圧減少分