(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1に、実施例による変位測定装置の概略図を示す。XYZ直交座標系(グローバル座標系)が定義された空間にステージ12が配置され、その上に測定対象物10が載置され、固定されている。測定対象物10の表面に、複数の測定対象マークAが固定されている。測定対象マークAは、測定対象物10の表面に直接描画することにより形成してもよいし、マークが形成された部材を測定対象物10の表面に貼り付けてもよい。
【0009】
測定対象物10は、外力が加えられることにより変形する。測定対象物10が変形すると、測定対象マークAが変位する。
【0010】
ステージ12の上に、第1の基準部材13及び第2の基準部材14が固定されている。第1の基準部材13の表面に、複数の第1の基準マークE1、E2、E3が固定され、第2の基準部材14の表面に、複数の第2の基準マークF1、F2、F3が固定されている。
【0011】
第1の観測装置20及び第2の観測装置30が、測定対象マークAを観測する。第1の観測装置20及び第2の観測装置30には、例えば、ディジタルカメラ等の撮像装置が用いられる。観測対象マークAに、1からnまで通番を付したとき、一部の観測対象マークA1〜Aiが第1の観測装置20で観測され、他の観測対象マークAi+1〜Anが第2の観測装置30で観測される。なお、すべての観測対象マークA1〜Anが、両方の観測装置20及び30で観測されるようにしてもよいし、一部の観測対象マークAj〜Aj+mが、両方の観測装置20及び30で観測されるようにしてもよい。
【0012】
第1の基準マークE1〜E3が、第1の観測装置20で観測され、第2の基準マークF1〜F3が、第2の観測装置30で観測される。
【0013】
第1の観測装置20及び第2の観測装置30の各々は、レンズと受像面とを含む。第1の観測装置20に固定された第1のローカル座標系が定義され、第2の観測装置30に固定された第2のローカル座標系が定義される。第1のローカル座標系は、第1の観測装置20のレンズの光軸に一致するW軸、W軸に垂直で、かつ相互に直交するU軸及びV軸で定義され、その原点は、レンズの主点に一致する。受像面は、UV面に平行である。第2のローカル座標系は、第2の観測装置30のレンズの光軸に一致するT軸、T軸に垂直で、かつ相互に直交するR軸及びS軸で定義され、その原点は、レンズの主点に一致する。受像面は、RS面に平行である。
【0014】
第1の観測装置20及び第2の観測装置30で撮像された画像データが、処理装置40に入力される。処理装置40は、入力された画像データを処理し、観測対象物10の形状変化の時刻暦を求める。形状変化の時刻暦は、画像表示装置41に画像として表示される。
【0015】
図2に、実施例による変位測定方法のフローチャートを示す。まず、ステップSA1において、CADを用いて測定対象物の形状を定義する。測定対象物の形状は、CAD座標系内に定義される。
【0016】
ステップSA2において、CAD座標系と関連付けたグローバル座標系(XYZ座標系)を定義する。通常は、CAD座標系をグローバル座標系として採用すればよい。
【0017】
ステップSA3において、CADで定義された測定対象物を、仮想的に複数の有限要素に分割する。
【0018】
図3に、有限要素に分割された測定対象物10を示す。測定対象物10の表面に複数の測定対象マークAが固定されている。
図3は、測定対象物10が立方体の多数の要素に分割された例を示している。各要素の頂点に節点Bが画定される。各要素を、多角形の表面を持つ任意の立体形状としてもよい。この場合、多角形の表面の頂点が節点Bとなる。制御装置40は、グローバル座標系における各節点Bの位置を記憶する。
【0019】
ステップSA4において、実際の測定対象物10に取り付けられている測定対象マークAのグローバル座標系における位置を、制御装置40に記憶させる。さらに、第1の基準マークE1〜E3及び第2の基準マークF1〜F3の各々のグローバル座標系における位置を、制御装置40に記憶させる。
【0020】
ステップSA5において、グローバル座標系が定義された空間内に、第1の観測装置20及び第2の観測装置30を配置し、固定する。制御装置40に、第1の観測装置20及び第2の観測装置30の、グローバル座標系内における位置と姿勢を記憶させる。第1の観測装置20の位置は、そのレンズの主点のグローバル座標で特定される。第1の観測装置20の姿勢は、そのレンズの光軸、即ちW軸の方向と、U軸の方向とで特定される。同様に、第2の観測装置30の位置は、そのレンズの主点のグローバル座標で特定され、姿勢は、T軸及びR軸の方向で特定される。
【0021】
実施例では、第1の観測装置20に固定された第1のローカル座標系のW軸が、グローバル座標系のZ軸に平行になり、第2の観測装置30に固定された第2のローカル座標系のT軸が、グローバル座標系のX軸に平行になるように、第1及び第2の観測装置20、30を配置した。この配置の場合、第1の観測装置20は、W軸に直交する方向、すなわちXY面内方向の変位を観測し、第2の観測装置30は、T軸に直交する方向、すなわちYZ面内方向の変位を観測することができる。
【0022】
観測対象物10に予想される変形に応じて、第1及び第2の観測装置20、30を配置することが好ましい。例えば、外力の向きがXY面に平行であり、その大きさがZ方向に関してほぼ一定であれば、測定対象物10の変形は、ほぼXY面に平行な方向に生じると予測される。この変形は、主として第1の観測装置20によって観測することができる。
【0023】
以下の説明では、観測対象物10が、主としてXY面内に平行な方向に変形すると予測される場合について説明する。
【0024】
ステップSA6において、測定対象物10に外力を加えながら、観測対象マークA及び第1の基準マークE1〜E3を、第1の観測装置20で撮像し、観測対象マークA及び第2の基準マークF1〜F3を、第2の観測装置30で撮像する。撮像された画像データは、制御装置40に入力される。制御装置40は、画像解析を行うことにより、受像面内における観測対象マークAの像の位置を計測する。以下の工程では、第1の観測装置20で取得された画像データの処理について説明する。第2の観測装置30で取得された画像データの処理も、同様に行われる。
【0025】
第1の観測装置20の受像面は、第1のローカル座標系のUV面に平行である。このため、受像面内の位置は、U座標及びV座標で特定される。観測時刻t0、t1、t2・・・における画像データを解析することにより、これらの観測時刻における観測対象マークAの受像面内の位置、すなわち(U,V)座標を検出する。以下、観測対象マークA1の位置の検出方法の一例について説明する。
【0026】
まず、画像データから、観測対象マークA1を含む長方形の領域を切り取る。切り取られた領域の(U,V)座標、例えば長方形の1つの頂点の(U,V)座標を記憶する。切り取られた画像データに、ノイズ除去を目的として、低域通過フィルタ、または収縮膨張操作等の処理を行う。ノイズが除去された画像データを用い、切り取られた領域内における観測対象マークA1の位置を検出する。
【0027】
マーク位置の検出には、重心演算かピーク値検出法を用いることが好ましい。マークの像がぼやけている場合があるため、エッジ検出法やパターンマッチング法による位置検出は適さない。光強度にしきい値を設定し、しきい値以上の画素についてのみ重心演算を行うことにより、背景の光強度の強弱の影響を受けにくくすることができる。
【0028】
切り取られた領域の位置、及び切り取られた領域内における観測対象マークA1の位置により、受像面内における観測対象マークA1の(U,V)座標を算出することができる。同様の方法で、他の観測対象マークA2〜Anの(U,V)座標を求める。さらに、第1の基準マークE1〜E3の(U,V)座標を求める。
【0029】
図4に示すように、観測対象マークA1、A2・・・、及び第1の基準マークE1〜E3ごとに、座標及び変位量の時刻暦テーブルが準備されている。この時刻暦テーブルには、時刻ごとに、(U,V)座標及び変位量(ΔU,ΔV)を記憶する領域が確保されている。求められた(U,V)座標の値を、
図4に示した時刻暦テーブルの(U,V)座標記憶領域に記憶する。
【0030】
ステップSA7において、観測対象マークA及び第1の基準マークE1〜E3の各々の受像面内における時刻暦から、観測対象マークA及び第1の基準マークE1〜E3の各々について、観測時刻ごとの変位を計算する。例えば、観測対象マークA1の時刻t0及びt1における位置が(U10,V10)及び(U11,V11)である場合、観測時刻t1における観測対象マークA1の変位(ΔU11,ΔV11)は、(U11−U10、V11−V10)になる。
図4に示した時刻暦テーブルの変位量記憶領域に、計算により求められた変位量(ΔU,ΔV)を記憶する。
【0031】
次に、観測対象マークごと、及び観測時刻ごとの変位量から、(U,V)座標上で抽出された複数の点(抽出点)における変位量を観測時刻ごとに算出し、算出結果を記憶する。以下、抽出点の変位量を算出する方法について説明する。
【0032】
図5に、算出された変位量を記憶するテーブルの一例を示す。観測時刻ごとに、抽出点の変位量を記憶するテーブルが準備されている。抽出点は、例えば、U軸方向及びV軸方向に、ある格子間隔で設けた正方格子の格子点に一致するように抽出される。抽出点のU座標は、U1、U2、U3・・・となり、V座標は、V1、V2、V3・・・となる。抽出点ごとに、変位量(ΔU,ΔV)を記憶する領域が確保されている。
【0033】
図6を参照して、抽出点(Ui,Vj)における変位量の算出方法について説明する。
(U,V)平面上に、複数の観測対象マークA1〜Anが分布する。観測時刻t1における観測対象マークA1〜Anの各々のU軸方向の変位量ΔUは、
図4に示したように既に求められている。抽出点(Ui,Vj)における変位量は、変位量が既知の複数の点の変位量から、例えば補間演算等により推測することができる。V軸方向の変位量ΔVも、同様に推測することができる。観測時刻t2以降の各観測時刻について同様の処理を行い、観測時刻ごとに、
図5に示したテーブルの変位量記憶領域に、算出された変位量を格納する。
【0034】
なお、
図5に示した変位量記憶用のテーブルを準備する代わりに、変位量の近似関数を決定してもよい。変位量の近似関数fu、fvは、受像面上の位置を(U,V)とし、経過時間をtとして、下記のように表記することができる。
ΔU=fu(U,V,t)
ΔV=fv(U,V,t)
ステップSA8において、レンズ特性を考慮して、受像面上の(U,V)座標を、第1のローカル座標系のW軸を基準とした2つの極角φU及びφVに変換する。さらに、変位量ΔU及びΔVを、極角の変化量ΔφU及びΔφVに変換する。
【0035】
図7に、角度φU及びφVの定義を示す。受像面上のUV座標上に1つの点(着目点)が決まると、UVWローカル座標系内に、受像面上の着目点及びUVW座標系の原点を通過する1つのベクトルGが決まる。ベクトルGは、受像面上の着目点の位置に像を結ぶ観測対象マークに向かう。ベクトルGをUW面に垂直投影した像GUとW軸とのなす角度をφUと定義し、ベクトルGをVW面に垂直投影した像GVとW軸とのなす角度をφVと定義する。受像面上の1つの点が、1つのベクトルGに対応する。ベクトルGは、角度座標(φU,φV)で表すことができる。このため、受像面上の1つの座標(U,V)が、1つの角度座標(φU,φV)に対応する。このため、受像面上の(U,V)座標を、角度座標(φU,φV)に変換し、変位量(ΔU,ΔV)を、角度の変化量(ΔφU,ΔφV)に変換することができる。
【0036】
図8に示すように、観測時刻ごとに、抽出点に対応する角度座標(φU,φV)と、角度の変化量(ΔφU、ΔφV)との関係を示す角度変化量テーブルが準備されている。角度変化量テーブルには、抽出点ごとに、角度変化量を記憶する領域が確保されている。変換により算出された角度変化量(ΔφU、ΔφV)を、角度変化量の記憶領域に格納する。
【0037】
なお、
図8に示した角度変化量テーブルの代わりに、角度変化量の近似関数を決定してもよい。角度変化量の近似関数fφU、fφVは、経過時間をtとして、下記のように表記することができる。
ΔφU=fφU(φU,φV,t)
ΔφV=fφV(φU,φV,t)
ステップSA9において、基準マークE1〜E3の像の変位に基づいて、第1の観測装置20の変位及び姿勢の変化を求める。基準マークE1〜E3は観測期間中は移動しないものとする。基準マークE1〜E3の像が移動したように観測された場合、第1の観測装置20自体が移動し、またはその姿勢が変化したためと考えられる。以下、第1の観測装置20の変位及び姿勢の変化を求める方法について説明する。
【0038】
図9に、第1の撮像装置20の外乱による変位、及び姿勢の変化と、ローカル座標系との関係を示す。第1の撮像装置がU、V、W軸方向に並進移動する変位を、それぞれΔUD、ΔVD、及びΔWDとする。また、U軸、V軸、及びW軸を中心とした回転方向の変位を、それぞれΔθUD、ΔθVD、ΔθWDとする。また、原点から基準マークE1までの距離をdとする。
【0039】
第1の観測装置20に、外乱による角度変化ΔθUDが生じたときの第1の基準マークE1の角度座標(φU,φV)の変化量(ΔφUD,ΔφVD)は、下記の式または近似式で表される。
【0040】
【数1】
【0041】
第1の観測装置20に、外乱による角度変化ΔθVDが生じたときの第1の基準マークE1の角度座標(φU,φV)の変化量(ΔφUD,ΔφVD)は、下記の式または近似式で表される。
【0042】
【数2】
【0043】
第1の観測装置20に、外乱による変位ΔUDが生じたときの第1の基準マークE1の角度座標(φU,φV)の変化量(ΔφUD,ΔφVD)は、下記の近似式で表される。
【0044】
【数3】
【0045】
第1の観測装置20に、外乱による変位ΔVDが生じたときの第1の基準マークE1の角度座標(φU,φV)の変化量(ΔφUD,ΔφVD)は、下記の近似式で表される。
【0046】
【数4】
【0047】
第1の観測装置20に、外乱による角度変化ΔθWDが生じたときの第1の基準マークE1の角度座標(φU,φV)の変化量(ΔφUD,ΔφVD)は、比例定数をk1として、下記の近似式で表される。
【0048】
【数5】
【0049】
第1の観測装置20に、外乱による変位ΔWDが生じたときの第1の基準マークE1の角度座標(φU,φV)の変化量(ΔφUD,ΔφVD)は、比例定数をk2として、下記の近似式で表される。
【0050】
【数6】
【0051】
上述の式及び近似式から、第1の観測装置20に、外乱による変位(ΔUD,ΔVD,ΔWD,ΔθUD,ΔθVD,ΔθWD)が生じたときの第1の基準マークE1の角度座標(φU,φV)の変化量(ΔφUD,ΔφVD)は、下記の近似式で表されると考えられる。
【0052】
【数7】
【0053】
上述の近似式のうち、角度変化量ΔφUD及びΔφVDは、基準マークE1を観測することにより得られる。基準マークE1までの距離d、基準マークE1の角度座標(φU,φV)は既知である。未知数は、ΔUD、ΔVD、k2ΔWD、ΔθUD、ΔθVD、及びk1ΔθWDの6個である。3個の基準マークE1〜E3の変位を観測すれば、6個の連立方程式が得られる。従って、上記6個の未知数を決定することができる。すなわち、第1の観測装置の変位量、及び姿勢の変化量が決定される。なお、3個の基準マークE1〜E3は、6個の連立方程式から1組の解を決定できるような位置に配置されている。
【0054】
図8に示した角度変化量テーブルに記憶されている角度変化量(ΔφU,ΔφV)は、第1の観測装置20が移動せず、その姿勢も変化しないことを前提としている。第1の観測装置20に外乱による変位(ΔUD,ΔVD,ΔWD,ΔθUD,ΔθVD,ΔθWD)が生じている場合には、角度変化量テーブルに記憶されている角度変位量(ΔφU,ΔφV)を補正しなければならない。
【0055】
ステップSA10において、第1の観測装置20に生じた外乱による変位(ΔUD,ΔVD,ΔWD,ΔθUD,ΔθVD,ΔθWD)に基づいて、角度変化量テーブルに記憶されている角度変化量(ΔφU,ΔφV)を補正する。例えば、抽出点の角度座標が(φU0,φV0)であり、ローカル座標の原点から抽出点までの距離がd0であり、補正前の角度変化量が(ΔφU0,ΔφV0)である場合、補正後の角度変化量(ΔφU,ΔφV)は、下記の近似式で表される。
【0056】
【数8】
【0057】
第1の観測装置20の外乱による変位及び姿勢変化ΔUD,ΔVD、ΔWD、ΔθWDは、その変化量が微小であれば、観測対象物10から第1の観測装置20までの距離によらず、測定結果に与える影響は小さい。これに対し、観測対象物10から第1の観測装置20までの距離が遠い場合には、第1の観測装置20の外乱による姿勢の変化ΔθUD、及びΔθVDは、その変化量が微小であっても、測定結果に与える影響が大きくなる。
【0058】
第1の観測対象物20の外乱による変位及び姿勢変化が微小である場合には、近似的にΔUD,ΔVD、ΔWD、ΔθWDを0とし、ΔθUD、及びΔθVDのみに基づいて、角度変化量テーブルに記憶されている角度変化量(ΔφU,ΔφV)を補正してもよい。この場合には、3個の基準マークを観測する必要はなく、1つの基準マークを観測することによって、補正を行うことが可能である。
【0059】
ステップSA11において、
図8に示した補正後の角度変化量テーブルに基づいて、第1の観測装置20で観測されている表面上の節点Bの各々の角度変化量(ΔφU,ΔφV)を、観測時刻ごとに算出する。
【0060】
節点Bのグローバル座標は、ステップSA3で既に記憶されている。グローバル座標系と第1のローカル座標系との関係は、ステップSA5で既に記憶されているため、節点Bのグローバル座標から、当該節点Bの角度座標(φU、φV)を求めることができる。
図8に示した補正後の角度変化量テーブルを参照して、節点Bの角度座標(φU,φV)から、その角度変化量(ΔφU,ΔφV)を、補間演算等により算出することができる。
【0061】
図10に示すように、節点B1、B2・・・の角度変化量(ΔφU,ΔφV)の時刻暦を記憶するためのテーブルが準備されている。このテーブルには、節点ごと、及び観測時刻ごとに、角度変化量(ΔφU,ΔφV)を記憶する領域が確保されている。算出された角度変化量(ΔφU,ΔφV)を、
図10に示したテーブルの角度変化量記憶領域に格納する。
【0062】
ステップSA12において、第1の観測装置20で観測されている表面上の節点Bの各々の角度変化量(ΔφU,ΔφV)を、グローバル座標系における変位量(ΔX,ΔY)に変換する。
【0063】
図11を参照して、節点B1の角度変化量(ΔφU,ΔφV)を、グローバル座標系における変位量(ΔX,ΔY)に変換する方法について説明する。第1の観測装置20では、第1のローカル座標系のW軸に垂直な方向への変位を計測することとしたため、節点B1の変位方向は、W軸に垂直であると仮定する。
【0064】
節点B1を含みW軸に垂直な仮想平面Swを定義する。第1のローカル座標系において(φU,φV)方向に延びる仮想直線と仮想平面Swとの交点が、時刻t=tiにおける節点B1に一致する。(φU+ΔφU,φV+ΔφV)方向に延びる仮想直線と仮想平面Swとの交点が、時刻t=ti+1における節点B1に一致する。このようにして、時刻tiからti+1までの節点B1の変位(ΔX,ΔY)を算出することができる。
【0065】
外力がZ方向に関して均一であり、その向きがXY面に平行である場合には、各節点の変位量は、Z方向に関してほぼ一定であると考えられる。この条件下で、第1の観測装置20で観測される表面上の節点以外の節点の変位量を算出することができる。具体的には、点(X,Y,Z)の節点の変位量は、(X,Y)座標が、この節点の(X,Y)座標と等しく、かつ第1の観測装置20で観測される表面上に位置する節点の変位量と同一であると推測される。
【0066】
図12に示すように、節点B1、B2・・・の各々の変位(ΔX,ΔY)を記憶する変位時刻暦テーブルが準備されている。このテーブルには、節点ごと、及び観測時刻ごとに、変位(ΔX,ΔY)を記憶するための領域が確保されている。算出された変位量を、この変位量時刻暦テーブルの該当記憶領域に格納する。
【0067】
第2の観測装置30で得られた画像データにより、同様の方法で、第2の観測装置30で観測される表面上の節点の各々の観測時刻ごとの変位(ΔY,ΔZ)が求まる。第2の観測装置30で得られた画像データに基づいて算出された各節点の変位ΔYが、Z方向に関してほぼ一定であれば、第1の観測装置20で得られた画像データに基づいて算出された変位(ΔX,ΔY)がZ方向に関してほぼ一定であるという予測が妥当であったことがと確認される。
【0068】
ステップSA13において、
図12に示した節点の変位量時刻暦テーブルに基づいて、測定対象物10の形状の変化の様子を、画像表示装置41に動画として表示する。
【0069】
図13に、画像表示装置41の概略図を示す。表示画面内に対象物表示領域42が確保されており、その外側に、操作部43、経過時間表示バー44、及び表示指令部45が表示されている。対象物表示領域42内に、対象物が3次元的に表示される。操作部43を通して、表示開始、表示停止、表示一時停止等の操作を行う。経過時間表示バー44には、現在表示されている時刻までの経過時間が棒状に表示される。また、経過時間表示バーを介して観測開始からの経過時間を指定して、指定された時刻からの形状の変化を表示させることができる。
【0070】
表示指令部45を通して、対象物表示領域42内に表示されている画像の拡大、縮小、回転等の指示を行う。このため、種々の視点から観測対象物10の変形を確認することができる。なお、各節点の変位量を拡大して表示することができる。観測対象物の形状を変化が僅かである場合には、変位量を拡大して表示することにより、形状の変化を視認しやすくなる。
【0071】
測定対象物の形状を、時間の経過と共に連続的に表示することにより、測定対象物10の形状の変化を、視覚的に容易に把握することができる。各部の変形量を容易に把握できるようにするために、等変位量線を表示したり、変位量に応じて表示色を変えるコンター表示を行ってもよい。
【0072】
上記実施例では、観測対象物10が、主としてXY面に平行な方向にのみ変位するという条件を仮定した。次に、第2の観測装置30により、Z方向への変位が検出された場合について説明する。
【0073】
図14に示すように、観測対象物10上の観測対象マークAiが、第1の観測装置20で観測され、観測対象マークAjが、第2の観測装置30で観測される。第1の観測装置20で取得された画像データの解析により、観測対象マークAiが、W軸に垂直な方向、すなわちXY面に平行な方向に、Ai(t=ti)からAi(t=ti+1)に変位したと推測される。同様に、第2の観測装置30で取得された画像データの解析により、観測対象マークAjが、T軸に垂直な方向、すなわちYZ面に平行な方向に、Aj(t=ti)からAj(t=ti+1)に変位したと推測される。
【0074】
観測対象マークAi及びAjの近傍の節点Bkの変位は、観測対象マークAi及びAjの変位の影響を受ける。観測対象マークAiの変位のみを考慮すると、節点Bkの変位先は、XY面に平行な方向に変位した点Bkiと予測される。観測対象マークAjの変位のみを考慮すると、節点Bkの変位先は、YZ面に平行な方向に変位した点Bkjと予測される。実際の変位は、変位先Bkiへの変位と、変位先Bkjへの変位とを合成したものとなる。変位先Bkiへの変位と、変位先Bkjへの変位とを重み付けして合成することにより、実際の変位先Bk(t=ti+1)が求まる。重み付けは、節点Bkから観測対象マークAi及びAjまでの距離等を考慮して行う。
【0075】
一般的なステレオ計測においては、1つの観測対象マークを2台のカメラで同時に観測しなければならない。上記実施例による方法では、2台の観測装置20、30で、異なる観測対象マークAi、Ajを観測しても、節点Bkの3次元方向の変位を推測することができる。なお、観測装置の数は、1台または2台に限定されない。3台以上の観測装置を用いてもよい。
【0076】
次に、1つの観測対象マークを2台の観測装置20、30で観測する場合の変位の算出方法について説明する。
【0077】
図15に示すように、1つの観測対象マークAiを第1の観測装置20及び第2の観測装置30の両方で観測している。第1の観測装置20で取得された画像データの解析により、W軸に対して垂直な方向への変位先Ai1(t=ti+1)が決定される。第2の観測装置30で取得された画像データの解析により、T軸に対して垂直な方向への変位先Ai2(t=ti+1)が決定される。実際の変位先Ai(t=ti+1)は、第1のローカル座標系の原点と変位先Ai1(t=ti+1)とを結ぶ直線SL1と、第2のローカル座標系の原点と変位先Ai2(t=ti+1)とを結ぶ直線SL2との交点に一致する。このようにして、実際の変位先Ai(t=ti+1)を算出することができる。
【0078】
上記実施例では、ステップSA8において、ローカル座標系における極角φU及びφVで、抽出点の位置及び変位を表している。極角φU及びφVは、観測装置と観測対象マークとの距離に依存する倍率の影響を受けない。倍率の違いを考慮して演算を行う必要がないため、変位量算出のための演算時間を短縮することが可能になる。
【0079】
次に、
図16を参照して、観測対象物10に測定対象マークを固定する他の構成例について説明する。
【0080】
図16に示すように、例えば観測対象物10の1つの表面14が、第1の観測対象物20に対向している。第1の観測装置20から見て横方向を向く表面15に、複数のマーク表示部材11が取り付けられている。マーク表示部材15の各々は、表面15から突出しており、第1の観測装置20に対向する表面を含む。第1の観測装置20に対向する表面に、観測対象マークCが表示されている。
【0081】
表面15がW軸に平行である場合、表面15に直接描画したマークを第1の観測装置20で観測することはできない。
図16に示したように、表面15から突出したマーク表示部材11を取り付けることにより、表面15に対して固定された観測対象マークCを第1の観測装置20で観測することができる。
【0082】
図1に示した第2の観測装置30では、
図16の表面15に固定された観測対象マークのX軸方向の変位を検出することができない。マーク表示部材11を用いて表面15に固定された観測対象マークCを、第1の観測装置20で観察することにより、観測対象マークCのX軸方向の変位を検出することが可能になる。
【0083】
W軸に直交し、表面15に含まれる方向(
図16においてはV軸方向)に関して、マーク表示部材11同士が重ならないように配置することが好ましい。このように配置すると、表面15に固定されたすべての観測対象マークCを第1の観測装置20で観測することができる。
【0084】
W軸方向に関して異なる位置に配置される観測対象マークCのうち、第1の観測装置20の被写界深度内に位置するものは、受像面上に結像させることができる。被写界深度からはずれて受像面上に結像しない場合でも、重心演算等の手法を用いて、観測対象マークCの像の(U,V)座標を検出することができる。
【0085】
図17に、上記実施例による形状変化測定装置を搭載することができる射出成型機の正面図を示す。射出成型機340が、射出装置350及び型締装置370を含んで構成される。
【0086】
射出装置350は、加熱シリンダ351を備え、加熱シリンダ351に、樹脂を供給するホッパ352が配設される。また、加熱シリンダ351内に、スクリュー353が進退自在かつ回転自在に配設される。スクリュー353の後端は、支持部材354によって回転自在に支持される。支持部材354に、サーボモータ等の計量モータ355が駆動部として取り付けられている。計量モータ355の回転が、計量モータ355の出力軸361に取り付けられたタイミングベルト356を介して、被駆動部のスクリュー353に伝達される。計量モータ355の出力軸361の後端に、検出器362が直結している。検出器362は、計量モータ355の回転数または回転量を検出する。検出器362により検出された回転数または回転量に基づいて、スクリュー353の回転速度が求められる。
【0087】
射出装置350はさらに、スクリュー353と平行なねじ軸357を回転自在に備える。ねじ軸357の後端は、サーボモータ等の射出モータ359の出力軸363に取り付けられたタイミングベルト358を介して、射出モータ359に連結されている。従って、射出モータ359によってねじ軸357を回転させることができる。ねじ軸357の前端は支持部材354に固定されたナット360と螺合させられる。駆動部である射出モータ359を駆動し、タイミングベルト358を介して駆動伝達部であるねじ軸357を回転させると、支持部材354が前後進する。
【0088】
支持部材354に、荷重の検出器であるロードセル365が取り付けられている。支持部材354の前後進運動が、ロードセル365を介してスクリュー353に伝えられることにより、スクリュー353が前後進する。ロードセル365により検出された力に対応するデータが、制御装置310に送出される。射出モータ359の出力軸363の後端に、検出器364が直結している。検出器364は、射出モータ359の回転数または回転量を検出する。検出器364により検出された回転数及び回転量に基づいて、スクリュー353の前後進方向の移動速度または前後進方向の位置が求められる。
【0089】
型締装置370は、可動側の金型371が取り付けられた可動プラテン372と、固定側の金型373が取り付けられた固定プラテン374とを含む。可動プラテン372と固定プラテン374とは、タイバー375によって連結される。可動プラテン372はタイバー375に沿って摺動可能である。また、型締装置370は、トグル機構377を含む。トグル機構377は、一端が可動プラテン372と連結し、他端がトグルサポート376と連結する。トグルサポート376の中央において、ボールねじ軸379が回転自在に支持されている。トグル機構377に設けられたクロスヘッド380に固定されたナット381が、ボールねじ軸379に螺合させられている。また、ボールねじ軸379の後端にプーリ382が配設され、サーボモータ等の型締モータ378の出力軸383とプーリ382との間に、タイミングベルト384が架け渡されている。
【0090】
型締装置370において、駆動部である型締モータ378を駆動すると、型締モータ378の回転が、タイミングベルト384を介して、駆動伝達部であるボールねじ軸379に伝達される。そして、ボールねじ軸379及びナット381によって、運動方向が回転運動から直線運動に変換され、トグル機構377が作動させられる。トグル機構377の作動により、可動プラテン372がタイバー375に沿って摺動し、型閉じ、型締め及び型開きが行われる。
【0091】
型締モータ378の出力軸383の後端に、検出器385が直結している。検出器385は、型締モータ378の回転数または回転量を検出する。検出器385により検出された回転数または回転量に基づいて、ボールねじ軸379の回転に伴って進退するクロスヘッド380の位置、または、トグル機構377によってクロスヘッド380に連結された被駆動部である可動プラテン372の位置が求められる。制御装置310が、計量モータ355、射出モータ359、型締モータ378を制御する。
【0092】
可動側の金型371と固定側の金型373との間に、キャビティcavが形成される。キャビティcavと加熱シリンダ351の内部とが連通している。
【0093】
型締めを行うと、可動側の金型371及び固定側の金型373に応力が印加され、これらの金型がわずかに変形する。射出成形品の形状の精密度を高めるために、金型のわずかな変形を観測することが望まれる。
【0094】
可動側の金型371と固定側の金型373の側面に複数の観測対象マークが固定される。これらの観測対象マークを、上記実施例による形状変化装置を用いて観測することにより、金型の変形の様子を画像により確認することができる。
【0095】
上記実施例では、観測対象マークAの変位量を検出するための観測装置20。30にディジタルカメラを用いたが、他の方法で変位量を検出してもよい。例えば、レーザ変位計を用いて観測対象マークの変位量を検出することも可能である。
【0096】
また、上記実施例では、
図5に示した抽出点の座標(Ui,Vj)(i,j=1、2、3・・・)及びその変位(ΔU,ΔV)を、
図8に示したすように、角度座標(φUi,φVj)(i,j=1、2、3・・・)に変換したが、観測対象マークAi(i=1、2、3・・・)の座標(U,V)及びその変位(ΔU,ΔV)を、角度座標(φU,φV)及び角度変化量(ΔφU,ΔφV)に変換することも可能である。
【0097】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。
例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。