特許第5698350号(P5698350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698350妨害波信号除去装置、GNSS受信装置、移動端末、妨害波信号除去プログラム、および妨害波信号除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698350
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】妨害波信号除去装置、GNSS受信装置、移動端末、妨害波信号除去プログラム、および妨害波信号除去方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/21 20100101AFI20150319BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20150319BHJP
   G01S 7/36 20060101ALI20150319BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   G01S19/21
   G01S7/02 B
   G01S7/36
   H04B1/10 U
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-514957(P2013-514957)
(86)(22)【出願日】2011年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2011079297
(87)【国際公開番号】WO2012157141
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2013年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-109265(P2011-109265)
(32)【優先日】2011年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 盾
(72)【発明者】
【氏名】近藤 仁志
【審査官】 山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−328639(JP,A)
【文献】 特開平03−231542(JP,A)
【文献】 特開2005−260860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/00 − 19/55
H04B 1/10
H04B 1/71
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望信号とは異なる妨害波信号を除去する妨害波信号除去装置であって、
減衰周波数帯域を調整可能なノッチフィルタと、
該ノッチフィルタの出力信号を第1周波数帯域で周波数走査し、第1の信号強度の周波数スペクトルを検出する第1周波数走査部と、
前記ノッチフィルタの入力信号を第2周波数帯域で周波数走査し、第2の信号強度の周波数スペクトルを検出する第2周波数走査部と、
前記第1の信号強度の周波数スペクトルから前記妨害波信号の周波数を検出し前記第1の信号強度の周波数スペクトルによる前記妨害波信号の周波数に基づいて前記第1周波数帯域よりも狭い周波数帯域からなる前記第2周波数帯域を設定し、前記第2の信号強度の周波数スペクトルを用いて前記妨害波信号の周波数を検出し、この検出した妨害波信号の周波数から前記減衰周波数帯域の設定を行う制御部と、
を備えた妨害波信号除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載の妨害波信号除去装置であって、
前記ノッチフィルタは複数備えられて、直列に接続されており、
前記第2周波数走査部は、前記複数のノッチフィルタ毎に備えられており、
ノッチフィルタ毎に設定された各第2周波数走査部は、設定対象のノッチフィルタの入力信号を、それぞれに設定された第2周波数帯域で走査し、それぞれに第2の信号強度の周波数スペクトルを検出して、前記制御部へ出力し、
前記制御部は、前記各第2周波数走査部から出力された第2の信号強度の周波数スペクトルに基づいて、それぞれのノッチフィルタの前記減衰周波数帯域の設定を行う、妨害波信号除去装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の妨害波信号除去装置であって、
前記第2周波数走査部は、前記第1周波数走査部で設定する走査周波数ビンよりも、狭周波数帯域の走査周波数ビンを設定している、妨害波信号除去装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の妨害波信号除去装置であって、
前記ノッチフィルタは、
入力信号に対して前記制御部から出力される前記減衰周波数帯域の設定用の減衰極設定用信号を乗算するダウンコンバータと、
ダウンコンバートされた信号のベースバンド成分を抽出してベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部と、
前記ダウンコンバートされた信号から前記ベースバンド信号を減算する減算素子と、
減算後の信号に前記減衰極設定用信号を乗算するアップコンバータと、を備え、
前記ベースバンド信号を前記制御部へ出力し、
前記制御部は、前記ベースバンド信号に基づいて前記妨害波信号の消失を検出し、前記妨害波信号の消失を検出した場合に、前記ノッチフィルタへの前記減衰周波数帯域の設定を解除する、妨害波信号除去装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の妨害波信号除去装置と、
前記所望信号としてGNSS信号を受信して、GNSS受信信号を生成し、前記妨害波信号除去装置へ出力する受信部と、
妨害波信号除去後のGNSS受信信号を捕捉、追尾する捕捉追尾部と、
追尾中のGNSS信号を用いて測位を行う測位演算部と、を備えたGNSS受信装置。
【請求項6】
請求項5に記載のGNSS受信装置と、
前記測位演算部の測位演算結果を用いて所定のアプリケーションを実行するアプリケーション処理部を、備える移動端末。
【請求項7】
所望信号とは異なる妨害波信号を除去する処理をコンピュータに実行させるための妨害波信号除去プログラムであって、
減衰周波数帯域を調整可能なノッチフィルタの出力信号を第1周波数帯域で周波数走査し、第1の信号強度の周波数スペクトルを検出する第1周波数走査処理と、
前記ノッチフィルタの入力信号を第2周波数帯域で周波数走査し、第2の信号強度の周波数スペクトルを検出する第2周波数走査処理と、
前記第1の信号強度の周波数スペクトルから前記妨害波信号の周波数を検出し前記第1の信号強度の周波数スペクトルによる前記妨害波信号の周波数に基づいて前記第1周波数帯域よりも狭い周波数帯域からなる前記第2周波数帯域を設定し、前記第2の信号強度の周波数スペクトルを用いて前記妨害波信号の周波数を検出し、この検出した妨害波信号の周波数から前記減衰周波数帯域の設定を行う処理を、
を有する妨害波信号除去プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の妨害波信号除去プログラムであって、
直列接続された複数のノッチフィルタの入力信号毎に前記第2の信号強度の周波数スペクトルを検出する複数の第2周波数走査処理と、
各第2の信号強度の周波数スペクトルに基づいて、ノッチフィルタ毎に前記減衰周波数帯域の設定を行う処理と、を有する妨害波信号除去プログラム。
【請求項9】
所望信号とは異なる妨害波信号を除去する妨害波信号除去方法であって、
減衰周波数帯域を調整可能なノッチフィルタ処理による出力信号を第1周波数帯域で周波数走査し、第1の信号強度の周波数スペクトルを検出する第1周波数走査工程と、
前記ノッチフィルタ処理前の信号を第2周波数帯域で周波数走査し、第2の信号強度の周波数スペクトルを検出する第2周波数走査工程と、
前記第1の信号強度の周波数スペクトルから前記妨害波信号の周波数を検出し前記第1の信号強度の周波数スペクトルによる前記妨害波信号の周波数に基づいて前記第1周波数帯域よりも狭い周波数帯域からなる前記第2周波数帯域を設定し、前記第2の信号強度の周波数スペクトルを用いて前記妨害波信号の周波数を検出し、この検出した妨害波信号の周波数から前記減衰周波数帯域の設定を行う工程を、
を有する妨害波信号除去方法。
【請求項10】
請求項9に記載の妨害波信号除去方法であって、
入力信号に対して連続的に行われる複数のノッチフィルタ処理における各ノッチフィルタ処理前の信号に対して前記第2の信号強度の周波数スペクトルを検出する複数の第2周波数走査工程と、
各第2の信号強度の周波数スペクトルに基づいて、それぞれのノッチフィルタ処理の前記減衰周波数帯域の設定を行う工程と、を有する妨害波信号除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主たる目的として受信すべき信号等は異なる妨害波信号を除去する妨害波信号除去装置、および当該妨害波信号除去装置を備えるGNSS受信装置と移動端末に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)等のGNSS(Global Navigation Satellite Systems)では、測位衛星から放送されるGNSS信号を受信して、測位等に利用している。GNSS信号は、擬似雑音符号でコード変調されたスペクトラム拡散信号からなる。
【0003】
このようなGNSS信号を受信する際、当該GNSS信号以外の信号(以下、妨害波信号と称する。)を受信すると、GNSS信号の受信感度が低下する等の問題が生じる。
【0004】
このため、特許文献1および特許文献2には、GNSS信号とは異なる周波数帯域の狭い(狭帯域の)妨害波信号を検出して除去する妨害波信号除去装置が記載されている。図1は特許文献1に示す従来の妨害波信号除去装置100Pの主要回路ブロック図である。
【0005】
特許文献1に記載の妨害波信号除去装置100Pは、制御部101P、ノッチフィルタ102P、周波数解析部103P、周波数走査部104Pを備える。制御部101Pは、周波数解析部103Pから得られた入力信号Sの周波数スペクトルと、周波数走査部104Pで得られた出力信号Sopの周波数スペクトルから、妨害波信号の周波数を特定する。制御部101Pは、特定した妨害波信号周波数の情報から、当該妨害波信号成分を減衰させるように、ノッチフィルタ102Pの減衰特性を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/240315号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の妨害波信号除去装置100Pは、GNSS信号の受信に対して妨害波信号が影響を及ぼす全周波数帯域に亘って妨害波信号を走査、検出している。このため、妨害波信号の検出周期が長くなり、次に示す問題が生じる。
【0008】
図2は、従来の妨害波信号除去装置100Pを用いた場合の問題点を説明するための図である。図2において、CW(t)は時刻tでの妨害波信号のスペクトルを表し、fCW(t)はその周波数を表す。ATTNotch(t)は時刻tで設定されたノッチフィルタ102Pの減衰特性を表す。BST(t)は時刻tで設定されたノッチフィルタ102Pの減衰帯域である。ΔfDR(CW)は妨害波信号CWの周波数ドリフト速度を表す。
【0009】
CW(t)は時刻t(>t)での妨害波信号のスペクトルを表し、fCW(t)はその周波数を表す。CW(t)は時刻t(>t)での妨害波信号のスペクトルを表し、fCW(t)はその周波数を表す。
【0010】
まず、時刻T=tで妨害波信号の周波数fCW(t)が検出されて、当該周波数fCW(t)を中心周波数として、減衰帯域BST(t)のノッチフィルタ102Pが設定されると、このタイミングでは、妨害波信号CW(t)は、減衰帯域BST(t)内となり、当該妨害波信号CW(t)はノッチフィルタ102Pによって除去される。
【0011】
ここで、妨害波信号CWの周波数が経時的に変化する妨害波信号であった場合、図2の上段、中段、下段の順に示すように、妨害波信号の周波数はドリフトしていく。この妨害波周波数の単位時間当たりの変化の割合が周波数ドリフト速度ΔfDR(CW)である。
【0012】
このような周波数ドリフトしていく妨害波信号の場合、従来の妨害波信号除去装置100Pのように妨害波信号の走査、検出間隔が長いと、図2に示すように、時刻tでの妨害波信号CW(t)の周波数fCW(t)および時刻tでの妨害波信号CW(t)の周波数fCW(t)が、時刻tで適正に設定したはずのノッチフィルタの減衰帯域BST(t)から外れてしまう。このため、妨害波信号を適切に除去し続けられなくなってしまう。
【0013】
具体的には、次のような場合に、上述の状況が発生する。周波数走査部104Pでの周波数走査帯域幅を5MHzとし、走査周波数BINの幅を1kHzとする。これにより、走査回数は5000回となる。各走査周波数BINでの積算時間は1msec.であるので、全周波数帯域を走査するための走査時間は5secとなる。
【0014】
ここで、ノッチフィルタ102Pの減衰帯域BSTの幅を2kHzに設定し、妨害波信号CWの周波数ドリフト速度ΔfDR(CW)が1kHz/secとする。
【0015】
この場合、一回の周波数走査が行われる間に、妨害波信号の周波数は、5sec×1kHz/sec=5kHzドリフトする。また、毎秒1kHzずつ周波数シフトするため、1秒後には、妨害波信号の周波数が1kHzドリフトする。このため、ノッチフィルタ102Pの減衰極周波数を、検出した妨害波信号CWの周波数に設定、±1kHzの減衰帯域BSTを設定して、1秒後には、妨害波信号CWの周波数が減衰帯域から外れ、次に、妨害波信号の周波数が検出され、当該検出された周波数にノッチフィルタ102Pが更新される5秒後までは、ノッチフィルタ102Pで、妨害波信号CWを除去できない。そして、5秒後にノッチフィルタ102Pを再設定しても、妨害波信号CWが周波数ドリフトし続けるため、同様に妨害波信号CWを除去できなくなってしまう。
【0016】
したがって、本発明の目的は、周波数ドリフトする妨害波信号も適切に除去し続けられる妨害波信号除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明は、所望信号とは異なる妨害波信号を除去する妨害波信号除去装置であって、ノッチフィルタ、第1周波数走査部、第2周波数走査部、制御部を備える。
【0018】
ノッチフィルタは、減衰周波数帯域を調整可能なフィルタであり、制御部からの減衰周波数帯域の設定制御に基づいて、減衰周波数帯域および減衰特性が決定される。
【0019】
第1周波数走査部は、ノッチフィルタの出力信号を第1周波数帯域で周波数走査し、第1の信号強度の周波数スペクトルを検出する。ここで、第1周波数帯域とは、GNSS信号の受信感度に影響を及ぼす妨害波信号が存在し得る全周波数帯域である。
【0020】
第2周波数走査部は、ノッチフィルタの入力信号を第2周波数帯域で周波数走査し、第2の信号強度の周波数スペクトルを検出する。
【0021】
制御部は、第1の信号強度の周波数スペクトルから妨害波信号の周波数を検出する。制御部は、第1の信号強度の周波数スペクトルによる妨害波信号の周波数に基づいて第1周波数帯域よりも狭い周波数帯域からなる第2周波数帯域を設定する。制御部は、第2の信号強度の周波数スペクトルを用いて妨害波信号の周波数を検出し、この検出した妨害波信号の周波数から減衰周波数帯域の設定を行う。
【0022】
この構成では、第1周波数走査部で、妨害波信号を検出すべき全周波数帯域での妨害波信号の周波数走査を行う。制御部は、第1周波数走査部で得られる妨害波信号を検出すべき全周波数帯域での妨害波信号の周波数走査結果で、ノッチフィルタの減衰周波数帯域を設定する。これとともに、制御部は、第2周波数走査部で得られるノッチフィルタの減衰周波数帯域を含む狭い周波数帯域(局所周波数帯域)での妨害波信号の周波数走査結果を用いて妨害波信号の周波数を追尾して、ノッチフィルタの減衰周波数帯域を順次更新設定する。
【0023】
このように、走査周波数帯域に狭い周波数走査結果を用いることで、走査間隔が短くなり、妨害波信号の周波数がドリフトしても、妨害波信号の周波数を確実に追尾でき、妨害波信号の周波数をノッチフィルタの減衰周波数帯域内に収めることができる。
【0024】
また、この発明の妨害波信号除去装置では、ノッチフィルタは複数備えられて、直列に接続されている。第2周波数走査部は、複数のノッチフィルタ毎に備えられている。
【0025】
ノッチフィルタ毎に設定された各第2周波数走査部は、設定対象のノッチフィルタの入力信号を、それぞれに設定された第2周波数帯域で走査する。各第2周波数走査部は、それぞれに第2の信号強度の周波数スペクトルを検出して制御部へ出力する。
【0026】
制御部は、各第2周波数走査部から出力された第2の信号強度の周波数スペクトルに基づいて、それぞれのノッチフィルタの減衰周波数帯域の設定を行う。
【0027】
この構成では、複数の妨害波信号が存在しても、それぞれに周波数追尾される。したがって、複数の妨害波信号が存在しても、複数のノッチフィルタ毎に追尾しながら除去し続けることができる。
【0028】
また、この発明の妨害波信号除去装置では、第2周波数走査部は、第1周波数走査部で設定する走査周波数ビンよりも、狭周波数帯域の走査周波数ビンを設定している。
【0029】
この構成では、上述の局所周波数帯域における妨害波信号周波数の追尾精度が向上する。
【0030】
また、この発明の妨害波信号除去装置では、ノッチフィルタは、入力信号に対して制御部から出力される減衰周波数帯域の設定用の減衰極設定用信号を乗算するダウンコンバータと、ダウンコンバートされた信号のベースバンド成分を抽出してベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部と、ダウンコンバートされた信号からベースバンド信号を減算する減算素子と、減算後の信号に減衰極設定用信号を乗算するアップコンバータと、を備え、ベースバンド信号を制御部へ出力する。制御部は、ベースバンド信号に基づいて妨害波信号の消失を検出する。制御部は、妨害波信号の消失を検出した場合に、ノッチフィルタへの減衰周波数帯域の設定を解除する。
【0031】
この構成では、ノッチフィルタの具体的構成を示している。そして、この構成では、入力信号に減衰極設定用信号を乗算して得られるダウンコンバート信号のベースバンド成分が、妨害波信号の周波数成分に相当する。したがって、ベースバンド信号を制御部に出力することで、制御部が妨害波信号の継続、消失を正確に検出することができる。すなわち、上述の周波数ドリフトする妨害波信号の追尾とともに、妨害波信号の消失をさらに早く検知することができる。
【0032】
また、この構成では、入力信号から妨害波信号の周波数成分抽出するためだけの回路構成を必要としないので、より簡素な構成で妨害波信号除去装置を実現できる。そして、この構成は、ノッチフィルタが複数段存在し、複数の妨害波信号の継続、消去を個別に監視する場合にも、より有効となる。
【0033】
また、この発明は、GNSS信号を受信して復調するGNSS受信装置に関する。GNSS受信装置は、上述の妨害波信号除去装置と、受信部と、捕捉追尾部と、測位演算部と、を備える。受信部は、妨害波信号除去装置の前段に接続され、所望信号としてGNSS信号を受信して、GNSS受信信号を生成し、妨害波信号除去装置へ出力する。捕捉追尾部は、妨害波信号除去後のGNSS受信信号を捕捉、追尾する。
【0034】
この構成では、上述のように周波数ドリフトする妨害波信号であっても確実に除去されているので、捕捉、追尾の速度および精度が向上する。測位演算部は、追尾中のGNSS信号を用いて測位を行う。そして、捕捉、追尾の速度および精度が向上することで、測位演算の収束速度や測位結果の精度が向上する。
【0035】
また、この発明は、移動端末に関するものであり、当該移動端末は、上述のGNSS受信装置と、測位演算部の測位演算結果を用いて所定のアプリケーションを実行するアプリケーション処理部を、備える。この構成では、上述のGNSS受信装置を備え、その高精度な測位結果を利用できる。したがって、当該測位結果を用いたアプリケーションの性能が向上する。
【発明の効果】
【0036】
この発明によれば、周波数がドリフトする妨害波を確実に除去する妨害波除去装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】特許文献1に示す従来の妨害波信号除去装置100Pの主要回路ブロック図である。
図2】従来の妨害波信号除去装置100Pを用いた場合の問題点を説明するための図である。
図3】第1の実施形態に係るGNSS受信装置10のブロック図である。
図4】第1の実施形態に係る妨害波信号除去部50のブロック図である。
図5】第1の実施形態に係るノッチフィルタ52の回路ブロック図である。
図6】全域周波数走査部53および局所周波数走査部54の走査周波数帯域および周波数BIN(周波数ビン)を表す図である。
図7】第1の実施形態の構成および処理により、周波数ドリフト型の妨害波信号を追尾して除去する概念を説明するための図である。
図8】第2の実施形態に係るノッチフィルタを多段化した妨害波信号除去部50Aのブロック図である。
図9】第3の実施形態に係るノッチフィルタを多段化した妨害波信号除去部50Bのブロック図である。
図10】本発明に係る妨害波信号除去方法を示すフローチャートである。
図11】GNSS信号受信装置10を含む移動端末1の主要構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の第1の実施形態に係る妨害波信号除去装置について、図を参照して説明する。本実施形態の妨害波信号除去装置は、GNSS受信装置10の妨害波信号除去部50として機能する。
【0039】
図3は第1の実施形態に係るGNSS受信装置10のブロック図である。GNSS受信装置10は、GNSSアンテナ20、RFフロントエンド部30、アナログ−デジタル変換部(ADC)40、妨害波信号除去部50、捕捉追尾部60、測位演算部70を備える。GNSSアンテナ20は、GNSS信号を含む無線信号を受信し、RFフロントエンド部30へ出力する。
【0040】
GNSS信号は、搬送波信号を擬似拡散符号でコード変調した信号であり、広帯域に亘って周波数成分が拡がり各周波数成分のスペクトル強度が低いスペクトル拡散信号である。さらに、例えば、GPS信号のL1波信号等であれば、航法メッセージが重畳されている。
【0041】
ここで、妨害波信号が存在し、当該妨害波信号の周波数がアンテナの受信周波数帯域内にある場合、受信信号には、GNSS信号とともに、妨害波信号が含まれている。
【0042】
RFフロントエンド部30は、受信信号を中間周波数信号(IF信号)に変換して、ADC40へ出力する。ADC40は、アナログのIF信号を所定のサンプリングタイミング間隔でサンプリングすることで、デジタルのIF信号を生成し、妨害波信号除去部50へ出力する。
【0043】
妨害波信号除去部50は、具体的な構成及び処理は後述するが、受信信号(IF信号)に含まれる妨害波信号を除去し、GNSS信号のみを含む出力信号を、捕捉追尾部60へ出力する。この際、妨害波信号除去部50は、経時的に周波数が変化しない妨害波信号のみでなく、経時的に周波数が変化する周波数ドリフト型の妨害波信号も確実に除去する。
【0044】
捕捉追尾部60は、妨害波信号除去部50からの出力信号、すなわち、GNSS信号と基準信号とを相関処理することで、キャリア位相およびコード位相を捕捉、追尾し、追尾結果(相関処理結果)を測位演算部70へ出力する。測位演算部70は、相関処理結果に基づいて、擬似距離等を算出し、測位演算を行う。この際、航法メッセージが重畳されて入れば、航法メッセージの復調を行い、測位演算に利用する。
【0045】
このような構成のGNSS受信装置10を用いれば、妨害波信号が除去された状態でGNSS信号が捕捉追尾部60へ入力されるので、捕捉追尾が容易になり、高精度な測位演算結果を得られる。
【0046】
次に、妨害波信号除去部50の構成及び処理について、より具体的に説明する。まず、説明を分かりやすくするために、妨害波信号除去部50にノッチフィルタを一段だけ備えた場合について説明する。図4は第1の実施形態に係る妨害波信号除去部50のブロック図である。図5は第1の実施形態に係るノッチフィルタ52の回路ブロック図である。図6は全域周波数走査部53および局所周波数走査部54の走査周波数帯域および周波数BIN(周波数ビン)を表す図である。
【0047】
妨害波信号除去部50は、制御部51、ノッチフィルタ52、本発明の「第1周波数走査部」に相当する全域周波数走査部53、および、本発明の「第2周波数走査部」に相当する局所周波数走査部54を備える。
【0048】
制御部51は、全域周波数走査部53に対して走査周波数帯域BWfおよび走査周波数BINの帯域幅BWfABINを設定する。走査周波数帯域は、例えば、上述のGNSSアンテナ20の受信帯域や、GNSS信号の搬送波周波数を中心周波数として、妨害波信号が存在した場合にGNSS信号の捕捉追尾に影響を与える可能性のある走査周波数帯域BWf図6参照)が設定されている。例えば、走査周波数帯域BWfは、上述の従来の課題に示したような5MHzの周波数帯域が設定されている。また、走査周波数BINの幅BWfABINは上述の従来の課題に示したような1kHzの周波数帯域が設定されている。
【0049】
全域周波数走査部53には、ノッチフィルタ52の出力信号Sが入力される。全域周波数走査部53は、走査周波数帯域BWfの全域に亘り、走査周波数BINの幅BWfABIN毎に出力信号Sの信号強度を積算する。上述の設定例であれば、全域周波数走査部53による各周波数BINに対する積算時間は1msecである。全域周波数走査部53は、検出した各走査周波数BINの幅BWfABINの信号強度の積算値を、制御部51へ出力する。
【0050】
制御部51は、全域周波数走査部53からの各走査周波数BINの幅BWfABINの信号強度の積算値に基づいて、妨害波信号の周波数を検出する。例えば、制御部51は、妨害波信号検出用閾値を設定し、当該妨害波信号検出用閾値以上の積算値が得られた周波数には、妨害波信号が存在すると判断する。なお、この閾値は、例えば、出力信号SにおけるGNSS信号の信号強度の所定時間の積算値に対して、所定値の嵩上げを行った値に設定するとよい。さらには、GNSS信号の受信状況(例えばC/No等)が判断できれば、当該受信状況に応じて、閾値を設定してもよい。
【0051】
制御部51は、検出した周波数を妨害波信号周波数に設定する。この際、制御部51は、複数の周波数を検出した場合、例えば、最も信号強度の高い周波数を妨害波信号周波数に設定する。もしくは、経時的に検出結果を得られていれば、最も検出時間の長い周波数を妨害波信号周波数に設定してもよい。なお、このような妨害波信号周波数の検出は、信号強度の積算値に限るものではなく、信号強度そのものや信号電力等を用いてもよい。
【0052】
制御部51は、検出した妨害波信号周波数からなる減衰帯域設定用信号SCNをノッチフィルタ52へ出力する。
【0053】
ノッチフィルタ52は、ダウンコンバータ501、本発明の「ベースバンド信号生成部」に相当するローパスフィルタ502、本発明の「減算素子」に相当する加算器503、アップコンバータ504を備える。
【0054】
ダウンコンバータ501には、ADC40からのIF信号である入力信号Sと、制御部51からの減衰極設定用信号SCNとが入力される。ダウンコンバータ501は、入力信号Sと減衰極設定用信号SCNとをミキシングして、ダウンコンバート信号Sを出力する。ダウンコンバート信号Sは、ローパスフィルタ502と加算器503へ入力される。
【0055】
ローパスフィルタ502は、ダウンコンバート信号Sを低域通過フィルタ処理することで、ベースバンド信号SBLを出力する。このベースバンド信号SBLは、妨害波信号を含む入力信号Sに、妨害波信号周波数からなる減衰極設定用信号SCNをミキシングした信号のベースバンド成分に相当する。したがって、このベースバンド信号SBLが、妨害波信号の信号状態を表す信号となる。すなわち、妨害波信号の信号強度が高ければ、ベースバンド信号SBLの信号強度が高くなり、妨害波信号が消失すれば、ベースバンド信号SBLの信号強度は0(零)になる。このベースバンド信号SBLは、加算器503へ入力される。
【0056】
加算器503は、ダウンコンバート信号Sからベースバンド信号SBLを減算する。このような処理を行うことで、ダウンコンバート信号Sに含まれる妨害波信号の成分が除去される。加算器503は、減算信号Sをアップコンバータ504へ出力する。
【0057】
アップコンバータ504は、減算信号Sと減衰極設定用信号SCNとをミキシングしてなる出力信号Sを、捕捉追尾部60へ出力する。
【0058】
これにより、GNSSアンテナ20の受信信号に妨害波信号が含まれている場合、捕捉追尾部60へ入力される出力信号Sは、受信信号に含まれる妨害波信号が除去された信号からなる。すなわち、GNSS信号のみからなる出力信号Sが捕捉追尾部60へ出力される。
【0059】
上述のような全域周波数走査部53による走査周波数帯域BWfに亘る周波数走査およびこの走査結果に基づく妨害波信号の除去処理は、繰り返し実行される。すなわち、ある一回の走査周波数帯域BWfに亘る周波数走査が終了すると同時に、次の走査周波数帯域BWfに亘る周波数走査が開始され、これが繰り返される。そして、走査の回毎に妨害波信号検出が行われ、ノッチフィルタ52へ反映される。
【0060】
このような全域周波数走査処理とともに、本実施形態の妨害波信号除去部50は、検出した妨害波信号の周波数に基づいて局所周波数走査処理を行い、当該局所周波数走査処理による妨害波信号の検出結果もノッチフィルタ52へ反映させる。
【0061】
制御部51は、上述の減衰帯域設定用信号SCNをノッチフィルタ52へ出力する処理とともに、局所周波数走査部54に対して局所走査周波数帯域BWfおよび局所走査周波数BINの帯域幅BWfLBINを設定する。局所走査周波数帯域は、図6に示すように、走査周波数帯域BWfに対して、走査帯域全体の周波数帯域幅が狭く、且つ各周波数BINの幅も狭く設定されている。例えば、図6の例であれば、局所走査周波数帯域BWfは走査周波数帯域BWfの1/10の帯域幅であり、各周波数BINの幅も1/5に設定されている。具体的には、例えば、走査周波数帯域BWfおよび走査周波数BINの帯域幅BWfABINが上述の従来の課題に示す値に設定されていれば、局所走査周波数帯域BWfは、5kHzの周波数帯域に設定されており、局所走査周波数BINの幅BWfABINは0.2kHzの周波数帯域に設定されている。そして、局所走査周波数帯域は、例えば、検出した妨害波信号周波数が特定の周波数BINの中心周波数となるように設定されている。
【0062】
局所周波数走査部54には、ノッチフィルタ52の入力信号Sが入力される。局所周波数走査部54は、局所走査周波数帯域BWfの全域に亘り、局所走査周波数BINの幅BWfLBIN毎に入力信号Sの信号強度を積算する。上述の設定例であれば、局所周波数走査部54による各周波数BINに対する積算時間は5msecである。そして、この場合、局所周波数走査部54による妨害波信号検出の周波数分解能は、0.2kHz(±0.1kHz)となり、局所走査周波数帯域BWf全体の走査に125msecしか係らない。ここで、全域周波数走査部53は、上述の設定を行うと、周波数分解能が1kHz(±0.5kHz)となり、走査周波数帯域BWf全体の走査に5secも係ることになる。
【0063】
これにより、局所周波数走査部54は、全域周波数走査部53よりも狭い周波数帯域であるが、妨害波信号が存在する局所的な周波数帯域に対して、高周波数分解能で且つ短い周期で妨害波信号の周波数の走査を継続的に行うことが可能になる。
【0064】
局所周波数走査部54は、検出した各局所走査周波数BINの信号強度の積算値を、制御部51へ出力する。
【0065】
制御部51は、各局所走査周波数BINの信号強度の積算値から妨害波信号周波数の変化を検出し、変化後の周波数になるように設定周波数を更新した減衰帯域設定用信号SCNをノッチフィルタ52へ出力する。
【0066】
このような処理により、図7に示すような作用効果が得られる。図7は、本実施形態の構成および処理により、周波数ドリフト型の妨害波信号を追尾して除去する概念を説明するための図である。
【0067】
図7において、CW(t)は時刻tでの妨害波信号のスペクトルを表し、fCW(t)はその周波数を表す。ATTNotch(t)は時刻tで設定されたノッチフィルタ52の減衰特性を表す。BST(t)は時刻tで設定されたノッチフィルタ52の減衰帯域である。fDR(CW)は局所走査周波数帯域BWf全体の走査時間での妨害波信号CWの周波数ドリフト量を表す。
【0068】
CW(t1L)は時刻t1L(=t+(局所走査周波数帯域BWf全体のトータル走査時間))での妨害波信号のスペクトルを表し、fCW(t1L)はその周波数を表す。ATTNotch(t1L)は時刻t1Lで設定されたノッチフィルタ52の減衰特性を表す。
【0069】
まず、時刻T=tで妨害波信号の周波数fCW(t)が検出されて、当該周波数fCW(t)を中心周波数として、減衰帯域BST(t)のノッチフィルタ52が設定されると、このタイミングでは、妨害波信号CW(t)は、減衰帯域BST(t)内となり、当該妨害波信号CW(t)はノッチフィルタ52によって除去される。
【0070】
検出した妨害波信号が周波数ドリフト型であったとすると、局所走査周波数帯域BWf全体のトータル走査時間後である時刻T=t1Lのタイミングでは、妨害波信号CWの周波数fCW(t1L)は、fCW(t)+fDR(CW)となる。
【0071】
ここで、妨害波信号の周波数ドリフト速度が上述の従来の課題に示したように、1kHz/secであるとすると、局所周波数走査部54を上述の仕様で設定した場合、トータル走査時間は125msecであるので、周波数ドリフト量fDR(CW)は0.125kHzとなる。
【0072】
このタイミング(時刻T=t1Lのタイミング)では、ノッチフィルタ52の減衰帯域BST(t)の周波数帯域幅が±1kHzに設定されているので、図7の中段に示すように、周波数ドリフト後であっても、妨害波信号CW(t1L)は、略全体が減衰帯域BST(t)内となり、ノッチフィルタ52によって除去されている。
【0073】
また、局所周波数走査部54では、局所走査周波数帯域BWfが5kHzに設定されていることから、時刻T=t1Lのタイミングにおいて妨害波信号周波数fCW(t1L)を確実に検出することができる。さらに、局所周波数走査部54では、局所走査周波数BINの幅BWfABIN(周波数分解能)が0.2kHz(±0.1kHz)の周波数帯域に設定されていることから、周波数ドリフトも確実に検出することができる。
【0074】
このように検出された周波数ドリフト後の妨害波信号周波数fCW(t1L)は、制御部51で検出され、ノッチフィルタ52の減衰帯域の中心周波数に更新設定される。
【0075】
これにより、ノッチフィルタ52は、図7の下段に示すように、中心周波数がfCW(t1L)且つ減衰帯域BST(t1L)のフィルタに設定変更され、引き続き妨害波信号を除去できる。
【0076】
このような局所走査周波数帯域BWfに亘る周波数走査およびこの走査結果に基づく妨害波信号の周波数検出(周波数追尾)処理は、上述の全域周波数走査部53による周波数走査およびこの走査結果に基づく妨害波信号除去処理と同様に、繰り返し実行される。
【0077】
以上のように、本実施形態の構成および処理を用いれば、周波数ドリフト型の妨害波信号であっても、確実に周波数追尾して、継続的に除去し続けることができる。
【0078】
なお、局所走査周波数帯域BWf、および、局所走査周波数BINの幅BWfLBINは、GNSS信号(目的とする信号)を受信する際に、同時に受信してしまう可能性のある妨害波信号の仕様等に応じて適宜設定すればよい。この際、局所走査周波数BINの幅BWfLBINでのトータル走査時間による周波数ドリフト量が、減衰帯域BSTの幅以内に入り、局所走査周波数BINの幅BWfLBINでのトータル走査時間で生じる最大の周波数ドリフト量が、局所走査周波数BINの幅BWfLBIN内に入るように設定すればよい。
【0079】
また、上述の構成および処理を用いれば、局所周波数走査部54による周波数走査結果から、妨害波信号の消失を検出することができる。これにより、従来のような全域周波数走査結果に基づく妨害波信号の消失検出よりも早く妨害波信号の消失検出を行うことができる。なお、制御部51が妨害波信号の消失検出を行った場合、制御部51は、ノッチフィルタ52に対する減衰帯域設定用信号SCNの出力を解除する。これにより、空きのノッチフィルタ52を形成でき、例えば新たに検出された妨害波信号の除去用に利用することができる。
【0080】
また、上述の構成において、ノッチフィルタ52は、ベースバンド信号SBLを制御部51へ出力するようにしてもよい。この場合、制御部51で次に示すような処理を実行できる。
【0081】
制御部51は、ノッチフィルタ52から出力されたベースバンド信号SBLの信号強度に基づいて、減衰極設定用信号SCNの出力継続もしくは出力停止を判断する。具体的には、制御部51は、ベースバンド信号SBLの信号強度に対する判断用閾値を設定し、信号強度が判断閾値以上であれば、引き続き減衰極設定用信号SCNをノッチフィルタ52へ出力する。これにより、妨害波信号除去処理が継続される。制御部51は、ベースバンド信号SBLの信号強度が判断閾値未満であれば、ノッチフィルタ52への減衰極設定用信号SCNの出力を停止する。これにより、妨害波信号が消失すれば、ノッチフィルタ52の妨害波信号減衰機能を、さらに素早く停止させることができる。
【0082】
次に、第2の実施形態に係る妨害波除去装置(妨害波除去部)について、図を参照して説明する。図8は第2の実施形態に係るノッチフィルタを多段化した妨害波信号除去部50Aのブロック図である。なお、図8では、ノッチフィルタを三個用いた場合を示しているが、二個や四個以上であってもよい。
【0083】
述の説明では、受信信号から一つの妨害波信号だけを除去する構成および処理を示したが、現実に、受信信号に対して複数の妨害波信号が含まれることがある。このような場合には、以下に示す構成の妨害波信号除去部50Aを用いればよい。
【0084】
妨害波信号除去部50Aは、複数のノッチフィルタ521,522,523を備える。また、妨害波信号除去部50Aは、ノッチフィルタ数に準じた複数の局所周波数走査部541,542,543を備える。
【0085】
ノッチフィルタ521,522,523は、同じ構造からなり、上述の図5に示した構造からなる。ノッチフィルタ521は、ダウンコンバータ側がADC40(図示せず)に接続し、アップコンバータ側が、ノッチフィルタ522のダウンコンバータ側に接続している。ノッチフィルタ522のアップコンバータ側はノッチフィルタ523のダウンコンバータ側に接続し、ノッチフィルタ523のアップコンバータ側は、捕捉追尾部60(図示せず)へ接続している。
【0086】
このような構成からなる妨害波信号除去部50Aは、次に示すように動作する。
【0087】
まず、IF信号が入力されると、全域周波数走査部53は最終段のノッチフィルタ523の出力信号Sを、走査周波数帯域BWfの全域に亘り、走査周波数BINの幅BWfABIN毎に出力信号Sの信号強度を積算する。全域周波数走査部53は、検出した各走査周波数BINの幅BWfABINの信号強度の積算値を、制御部51Aへ出力する。
【0088】
制御部51Aは、周波数走査部53からの各周波数の信号強度に基づいて、上述のように、妨害波信号周波数を検出する。この際、制御部51Aは、妨害波信号除去部50Aが備えるノッチフィルタ数分までの妨害波信号を検出する。検出した妨害波信号数がノッチフィルタ数よりも多ければ、上述のように、信号強度が高いものや閾値以上の信号強度を継続する時間の長いものを優先的に検出する。
【0089】
制御部51Aは、検出した妨害波信号周波数毎に、減衰極設定用信号SCN1,SCN2,SCN3を生成し、各ノッチフィルタ521,522,523へ出力する。制御部51は、減衰極設定用信号SCN1を各ノッチフィルタ521へ出力し、減衰極設定用信号SCN2を各ノッチフィルタ522へ出力し、減衰極設定用信号SCN3を各ノッチフィルタ523へ出力する。なお、検出した妨害波信号周波数の数がノッチフィルタ数よりも少なければ、妨害波信号周波数分だけ減衰極設定用信号を生成すればよい。
【0090】
ノッチフィルタ521は、減衰極設定用信号SCN1を用いて、入力信号Sから第1の妨害波信号を除去し、第1除去処理後信号Sm1をノッチフィルタ522へ出力する。ノッチフィルタ522は、減衰極設定用信号SCN2を用いて、第1除去後信号Sm1から第2の妨害波信号を除去し、第2除去処理後信号Sm2をノッチフィルタ523へ出力する。ノッチフィルタ523は、減衰極設定用信号SCN3を用いて、第2除去後信号Sm2から第3の妨害波信号を除去し、第3除去処理後信号Sm3を出力信号Sとして、捕捉追尾部60へ出力する。
【0091】
制御部51Aは、減衰帯域設定用信号SCN1をノッチフィルタ521へ出力する処理とともに、局所周波数走査部541に対して局所走査周波数帯域BWfL1および局所走査周波数BINの帯域幅BWfLBIN1を設定する。制御部51Aは、減衰帯域設定用信号SCN2をノッチフィルタ522出力する処理とともに、局所周波数走査部542に対して局所走査周波数帯域BWfL2および局所走査周波数BINの帯域幅BWfLBIN2を設定する。制御部51Aは、減衰帯域設定用信号SCN3をノッチフィルタ523へ出力する処理とともに、局所周波数走査部543に対して局所走査周波数帯域BWfL3および局所走査周波数BINの帯域幅BWfLBIN3を設定する。
【0092】
局所周波数走査部541には、入力信号Sが入力される。局所周波数走査部541は、局所走査周波数帯域BWfL1の全域に亘り、局所走査周波数BINの幅BWfL1BIN毎に入力信号Sの信号強度を積算する。局所周波数走査部541は、検出した各局所走査周波数BINの信号強度の積算値を、制御部51Aへ出力する。
【0093】
制御部51Aは、局所周波数走査部541からの各局所走査周波数BINの信号強度の積算値から妨害波信号周波数の変化を検出し、変化後の周波数になるように設定周波数を更新した減衰帯域設定用信号SCN1をノッチフィルタ521へ出力する。
【0094】
局所周波数走査部542には、第1除去処理後信号Sm1が入力される。局所周波数走査部542は、局所走査周波数帯域BWfL2の全域に亘り、局所走査周波数BINの幅BWfL2BIN毎に第1除去処理後信号Sm1の信号強度を積算する。局所周波数走査部542は、検出した各局所走査周波数BINの信号強度の積算値を、制御部51Aへ出力する。
【0095】
制御部51Aは、局所周波数走査部542からの各局所走査周波数BINの信号強度の積算値から妨害波信号周波数の変化を検出し、変化後の周波数になるように設定周波数を更新した減衰帯域設定用信号SCN2をノッチフィルタ522へ出力する。
【0096】
局所周波数走査部543には、第2除去処理後信号Sm2が入力される。局所周波数走査部543は、局所走査周波数帯域BWfL3の全域に亘り、局所走査周波数BINの幅BWfL3BIN毎に第2除去処理後信号Sm2の信号強度を積算する。局所周波数走査部543は、検出した各局所走査周波数BINの信号強度の積算値を、制御部51Aへ出力する。
【0097】
制御部51Aは、局所周波数走査部543からの各局所走査周波数BINの信号強度の積算値から妨害波信号周波数の変化を検出し、変化後の周波数になるように設定周波数を更新した減衰帯域設定用信号SCN3をノッチフィルタ523へ出力する。
【0098】
このような構成とすることで、複数の妨害波信号の個々に対して、ノッチフィルタによる妨害波信号除去処理、および妨害波信号周波数の追尾によるノッチフィルタの設定更新処理を行うことができ、より実用性の高い妨害波信号除去部を実現することができる。
【0099】
次に、第3の実施形態に係る妨害波除去装置(妨害波除去部)について、図を参照して説明する。図9は第3の実施形態に係るノッチフィルタを多段化した妨害波信号除去部50Bのブロック図である。なお、図9でも、ノッチフィルタを三個用いた場合を示しているが、二個や四個以上であってもよい。
【0100】
本実施形態の妨害波信号除去部50Bは、局所周波数走査を実行する箇所が異なるのみで、他の構成は第2の実施形態に示した妨害波信号除去部50Aと同じである。
【0101】
上述の実施形態と同様の構成からなる局所周波数走査部54の前段には、マルチプレクサ551が接続されている。局所周波数走査部54の後段には、デマルチプレクサ552が接続されている。
【0102】
セレクタ550には、制御部51Bから走査対象選択情報と、局所走査周波数帯域BWfおよび局所走査周波数BINの帯域幅BWfLBINに関する情報とが入力される。走査対象選択情報は、複数のノッチフィルタ521,522,523のいずれに対応した局所周波数走査を行うかを選択する情報である。そして、局所走査周波数帯域BWfおよび局所走査周波数BINの帯域幅BWfLBINは、選択されるノッチフィルタに準じて設定されている。
【0103】
セレクタ550は、走査対象選択情報にしたがって、マルチプレクサ551および出マルチプレクサ552へ選択信号を出力する。また、セレクタ550は、局所周波数走査部54へ局所走査周波数帯域BWfおよび局所走査周波数BINの帯域幅BWfLBINを設定する。具体的には、セレクタ550の処理により、以下のように動作する。
【0104】
ノッチフィルタ521が選択されている場合には、入力信号Sを局所周波数走査部54へ入力させるように、マルチプレクサ521がスイッチング動作する。局所周波数走査部54は、局所走査周波数帯域BWfL1および局所走査周波数BINの帯域幅BWfL1BINで周波数走査する。デマルチプレクサ522は、各局所走査周波数BINに対する積算結果を、制御部51Bのノッチフィルタ521に対する設定部へ出力するようにスイッチング動作する。
【0105】
ノッチフィルタ522が選択されている場合には、第1除去処理後信号Sm1を局所周波数走査部54へ入力させるように、マルチプレクサ521がスイッチング動作する。局所周波数走査部54は、局所走査周波数帯域BWfL2および局所走査周波数BINの帯域幅BWfL2BINで周波数走査する。デマルチプレクサ522は、各局所走査周波数BINに対する積算結果を、制御部51Bのノッチフィルタ522に対する設定部へ出力するようにスイッチング動作する。
【0106】
ノッチフィルタ523が選択されている場合には、第2除去処理後信号Sm2を局所周波数走査部54へ入力させるように、マルチプレクサ521がスイッチング動作する。局所周波数走査部54は、局所走査周波数帯域BWfL3および局所走査周波数BINの帯域幅BWfL3BINで周波数走査する。デマルチプレクサ522は、各局所走査周波数BINに対する積算結果を、制御部51Bのノッチフィルタ523に対する設定部へ出力するようにスイッチング動作する。
【0107】
このような構成であっても、複数の妨害波信号周波数を追尾して除去し続けられる。さらに、この構成であれば、局所周波数走査部が一個であっても、複数の妨害波信号周波数を追尾することができる。
【0108】
以上の各実施形態に示したような構成からなる妨害波信号除去部を用いることで、捕捉追尾部60には、GNSS信号のみからなる信号が入力されるので、捕捉追尾性能を向上させることができる。例えば、捕捉速度や追尾速度が向上し、追尾精度を向上させることができる。さらに、追尾精度が向上することで、擬似距離等の精度が向上するとともに、航法メッセージをより確実に復調でき、高精度な測位結果を得ることができる。
【0109】
なお、上述の説明では、局所周波数帯域BWfの中心周波数を妨害波信号周波数に設定する例を示したが、これに限るものではない。例えば、周波数ドリフト方向に応じて妨害波信号周波数の位置を局所周波数帯域BWfの適する位置に設定してもよい。具体的には、周波数が徐々に高周波数側にドリフトすることが検出できれば、妨害波信号周波数を局所周波数帯域BWf内の低周波数の領域に設定すればよい。
【0110】
また、上述の各実施形態に示した制御部および周波数走査部の処理は、プログラム化してハードディスクやROM等に保存しておき、コンピュータによって実行する態様にすることもできる。
【0111】
この場合、例えば、図10に示すフローチャートに示す方法を、実現するようにすればよい。図10は本発明に係る妨害波信号除去方法を示すフローチャートである。なお、図10では、ノッチフィルタが一つの場合を示しているが、上述のようにノッチフィルタが複数の場合には、図10に示す方法をノッチフィルタ毎に適用すればよい。
【0112】
まず、全域走査周波数帯域BEfに亘り、帯域幅BWfABINからなる走査周波数BIN毎に積算信号強度を検出する(S101)。走査周波数BIN毎の積算信号強度に基づいて、妨害波信号周波数fCWを検出する(S102)。入力信号S(受信信号)から妨害波信号周波数fCWの成分を除去するノッチフィルタ処理を実行する(S103)。
【0113】
このようなノッチフィルタ処理とともに、妨害波信号周波数fCWに基づいて局所走査周波数帯域BWfを設定し、帯域幅BWfLBIN(<BWfABIN)からなる局所周波数BIN毎に積算信号強度を検出する(S104)。局所周波数BIN毎の積算信号強度に基づいて、妨害波信号周波数fCWを追尾する(S105)。追尾結果に基づいて妨害波信号周波数fCWを更新設定し、ノッチフィルタ処理を実行する(S106)。なお、この妨害波信号周波数fCWを追尾して更新設定する処理は、該当する妨害波信号の消失が検出されるまで、継続的に行われる。
【0114】
また、以上のような構成からなるGNSS受信装置10は、図11に示すような移動端末1に利用することができる。図11はGNSS信号受信装置10を含む移動端末1の主要構成ブロック図である。
【0115】
図11に示すような移動端末1は、例えば携帯電話機等のモバイル通信機であり、GNSSアンテナ20、GNSS受信装置10、アプリケーション処理部2、モバイル通信用アンテナ20M、モバイル通信処理部3を備える。
【0116】
アプリケーション処理部130は、得られたGNSS受信装置10から出力される測位結果に基づいて、自装置位置や自装置速度を表示したり、ナビゲーションに利用したり、自装置位置を用いた各種アプリケーションを実行する。
【0117】
モバイル通信用アンテナ20Mは、モバイル通信用信号(送信信号及び受信信号)を送受信する。モバイル通信処理部3は、モバイル通信用の送信信号を生成したり、モバイル通信用の受信信号を復調する。
【0118】
このような構成において、上述の妨害波信号除去部を備えたGNSS受信装置10を用いれば、モバイル通信用信号が、GNSS信号の周波数に近く、信号強度が高くても、妨害波信号除去部で確実に除去され、GNSS信号の受信感度が低下しない。これにより、高精度な測位結果を得られ、高精度な位置表示やナビゲーション等を実現することができる。また、モバイル通信用信号の周波数帯域をGNSS信号の周波数帯域に近接させることが可能になるので、使用可能なモバイル通信用信号の周波数帯域が広がり、より利用しやすい移動端末1を構成することができる。
【0119】
なお、上述の説明では、モバイル機能を実現する機能部と、GNSS信号を用いた測位結果を利用するアプリケーション機能とを、一つの筐体に備えた場合を示したが、モバイル機能を実現する機能部を備えない移動端末であって、外部からのモバイル用通信信号を受信してしまうような場合であっても、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0120】
100P:妨害波除去装置、101P:制御部、102P:ノッチフィルタ、103P:周波数解析部、104P:周波数走査部、
10:GNSS受信装置、20:GNSSアンテナ、30:RFフロントエンド部、40:アナログ−デジタル変換部(ADC)、50,50A,50B:妨害波信号除去部、60:捕捉追尾部、70:測位演算部、
51,51A,51B:制御部、52,521,522,523:ノッチフィルタ、53:全域周波数走査部、54,541,542,543:局所周波数走査部、501:ダウンコンバータ、502:ローパスフィルタ、503:加算器、504:アップコンバータ、550:セレクタ、551:マルチプレクサ、552:デマルチプレクサ、
1:移動端末、2:アプリケーション処理部、3:モバイル通信処理部、30M:モバイル通信用アンテナ
図1
図2
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図11