特許第5698416号(P5698416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5698416
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】熱交換器及び当該熱交換器用フィン材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20150319BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20150319BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20150319BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20150319BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20150319BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20150319BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20150319BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150319BHJP
   B23K 35/40 20060101ALN20150319BHJP
   B23K 1/00 20060101ALN20150319BHJP
   B23K 1/19 20060101ALN20150319BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20150319BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20150319BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   F28F19/06 A
   C22C21/00 E
   C22C21/00 D
   B23K35/22 310E
   B23K35/28 310B
   F28F21/08 A
   F28D1/053 A
   !C22F1/043
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 603
   !C22F1/00 601
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !B23K35/40 340J
   !B23K1/00 330L
   !B23K1/19 D
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】9
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2014-527100(P2014-527100)
(86)(22)【出願日】2014年6月2日
(86)【国際出願番号】JP2014002909
【審査請求日】2014年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-116547(P2013-116547)
(32)【優先日】2013年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】村瀬崇
(72)【発明者】
【氏名】北脇高太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒崎友仁
(72)【発明者】
【氏名】二宮淳司
【審査官】 藤代 佳
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5345264(JP,B1)
【文献】 特許第5337326(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/00
C22F 1/04 − 1/057
F28F 19/06
B23K 35/00 − 35/40
B21B 3/00
B22D 11/00
B22D 11/06
C23F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が流通するアルミニウム材のチューブと、当該チューブに金属的に接合されたアルミニウム材のフィンとを含む熱交換器であって、Si:1.0〜5.0mass%、Fe:0.01〜2.0mass%、Mn:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、液相率が5%以上35%以下となる温度において単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材を用いて前記フィンが形成され、当該フィンが、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.0×10個/mm未満存在する領域Bを結晶粒界の周囲に有し、かつ、当該領域Bの周囲に、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.0×10〜1.0×10個/mm存在する領域Aを有することを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記フィン材のアルミニウム合金が、Mg:2.0mass%以下、Cu:1.5mass%以下、Zn:6.0mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Zr:0.3mass%以下、Cr:0.3mass%以下及びNi:2.0mass%以下から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記フィン材のアルミニウム合金が、Sn:0.3mass%以下、In:0.3mass%以下、Be:0.1mass%以下、Sr:0.1mass%以下、Bi:0.1mass%以下、Na:0.1mass%以下及びCa:0.5mass%以下から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1又は2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記フィン材において、0.5〜5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が1.4×10〜3.8×10個/mm存在し、0.5〜5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.7×10〜2.4×10個/mm存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項5】
結晶粒界の長さ当たりにおける前記領域Bの平均面積をsμmとして、2<s<40を満たす、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記フィンの表面における前記領域Aの面積占有率が60%以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項7】
接合部フィレット以外の前記チューブ表面にAl−Si共晶組織が存在しない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項8】
前記フィンのL−LT断面でのAlマトリクスの結晶粒径をLμmとし、前記フィンのL−ST断面でのAlマトリクスの結晶粒径をTμmとして、L≧100、かつ、L/T≧2である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記フィンの自然電位が−910mV以上であり、当該フィンの自然電位が、前記フィンとチューブの接合部のフィレットの自然電位より0〜200mV貴である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高腐食環境下でも冷却性能の低下が抑制された熱交換器及びこれに用いられるフィン材に関し、詳細には、ルームエアコン用熱交換器やカーエアコン用熱交換器、ならびに、これらの熱交換器に用いられるフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量性と熱伝導性が良好なアルミニウム合金からなるアルミニウム合金製熱交換器は、例えば、ルームエアコン用のコンデンサ、エバポレータ、自動車のコンデンサ、エバポレータ、ラジエータ、ヒータ、インタークーラ、オイルクーラ等として広く使用されている。アルミニウム合金製の熱交換器は、通常、フィン材とチューブ材(作動流体通路の構成部材)とを接合することにより構成される。
【0003】
アルミニウム合金材の接合方法としては、様々な方法が知られているが、それらの中でろう付法が多く用いられている。ろう付法が多く用いられるのは、マトリクスを溶融させることなく短時間で強固な接合を得ることができる等の利点が考慮されるためである。ろう付によりアルミニウム合金製熱交換器を製造する方法としては、例えば、Al−Si合金からなるろう材をクラッドしたブレージングシートを用いる方法;粉末ろう材を塗布した押出材を用いる方法;各材料を組付け後に接合が必要な部分に別途ろう材を塗布する方法;などが知られている(特許文献1〜3)。更に、非特許文献1の「3.2 ろうとブレージングシート」の章には、これらのクラッドブレージングシートや粉末ろう材の詳細が説明されている。
【0004】
フィン材とチューブ材のろう付においては、単層のフィン材を用いる場合には、チューブ材にろう材をクラッドしたブレージングシートを使用する方法や、チューブ材にSi粉末、Si含有ろう又はSi含有フラックスを別途塗布する方法が採用されていた。一方、単層のチューブ材を用いる場合には、フィン材にろう材をクラッドしたブレージングシートを使用する方法が採用されていた。
【0005】
このように、ろう付により熱交換器を製造するには、フィン材又はチューブ材の少なくとも一方の表面にろうに由来する組織が形成されたものが用いられる。例えば、単層のフィン材を用いて製造した熱交換器では、チューブの表面にろうに由来する共晶組織が存在する部分が現れる。そして、この部分がカソードサイトとして作用し、チューブの腐食の進行を促進し、早期に冷媒の漏れに至らせることがあった。
【0006】
そこで、高腐食環境下で用いられる熱交換器として、クラッドフィン材を用い、チューブの表面にろうによる共晶組織を形成させないようにすることによって、冷媒の漏れを防止することも考えられる。
【0007】
特許文献4には、ブレージングシートの製造や粉末ろう材を製造・塗布する工程を省略するため、上述したクラッド材のブレージングシートに替えて、単層ブレージングシートを用いる方法が記載されている。この方法においては、熱交換器のチューブ材とタンク材に熱交換器用単層ブレージングシートを用いることが提案されている。
特許文献5には、単層のアルミニウム合金材を用いて接合体を製造する方法において、合金組成や接合中の温度、加圧、表面性状などを制御することで、良好な接合を得ると共に変形がほとんど起こらない接合方法が記載されている。
特許文献6には、接合部材を用いることなく接合した接合体において、一方のアルミニウム合金材の成分と組織中の孔食電位差を制御することで、高耐食性の接合体が得られることが記載されている。
【0008】
表面にろうを有していないチューブ材とクラッドフィン材を組み合わせた熱交換器の場合、チューブにおいては高耐食性を得られるものの、フィンの腐食が進行し十分な冷却性能が早期で得られなくなる場合があった。特に、フィン表面の薄皮一枚を残して内部の心材部分が溶解してしまう腐食(以下、「中抜け腐食」という)がしばしば発生する問題があった。
【0009】
このような中抜け腐食は、熱交換器のフィンが図8(a)に示す模式図のような組織を有することに起因する。すなわち、心材部分に微細なAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が分散したAlマトリクス(領域A)を有し、表面に微細なAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が存在しないAlマトリクス(領域B)の層を有する。また、心材部分の結晶粒界は周囲のマトリクスより高濃度のSiを有する。この組織においては、強いカソードとなるSi高濃度部を有する結晶粒界が最も腐食し易い。従って、早い段階で粒界腐食が発生する(図8(b))。次に腐食し易いのは、微細Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物が分散したAlマトリクスの領域Aである。これは、Alマトリクス内に分散している微細なAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物がカソードとして作用し、周囲のAlマトリクスが溶解するためである。このため、領域Aは、カソードとなる部分のない表面の層(領域B)より腐食し易く、内部での腐食が進行してしまうのである(図8(c))。このような状態となった場合には、フィンの形状を外観上保っていても、中抜け腐食による中空部の存在により熱性能が極端に低下する問題があった。
【0010】
フィンが中抜け腐食することを防止するために、特許文献4、6に示されるような部材をフィン材に転用する方法も考えられる。しかしながら、これら文献に記載される材料を単にフィン材に転用しても、接合時において熱交換器のフィン形状を維持することができずに座屈を起こしてしまうため、これらを用いて熱交換器を製造することができない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−303405公報
【特許文献2】特開2009−161835号公報
【特許文献3】特開2008−308760号公報
【特許文献4】特開2010−168613号公報
【特許文献5】特許第5021097号公報
【特許文献6】特開2012−40611号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「アルミニウムブレージングハンドブック(改訂版)」社団法人 軽金属溶接構造協会 2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは上記問題を解決するために鋭意検討の結果、熱交換器の組織を制御することにより、高腐食環境下においてもフィンの中抜け腐食を抑制し冷却性能を長期間保持できる熱交換器、ならびに、当該熱交換器用フィン材を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は請求項1において、作動流体が流通するアルミニウム材のチューブと、当該チューブに金属的に接合されたアルミニウム材のフィンとを含む熱交換器であって、Si:1.0〜5.0mass%、Fe:0.01〜2.0mass%、Mn:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、液相率が5%以上35%以下となる温度において単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材を用いて前記フィンが形成され、当該フィンが、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.0×10個/mm未満存在する領域Bを結晶粒界の周囲に有し、かつ、当該領域Bの周囲に、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.0×10〜1.0×10個/mm存在する領域Aを有することを特徴とする熱交換器とした。
【0015】
本発明は請求項2では請求項1において、前記フィン材のアルミニウム合金が、Mg:2.0mass%以下、Cu:1.5mass%以下、Zn:6.0mass%以下、Ti:0.3mass%以下、V:0.3mass%以下、Zr:0.3mass%以下、Cr:0.3mass%以下及びNi:2.0mass%以下から選択される1種又は2種以上を更に含有するものとした。
【0016】
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記フィン材のアルミニウム合金が、Sn:0.3mass%以下、In:0.3mass%以下、Be:0.1mass%以下、Sr:0.1mass%以下、Bi:0.1mass%以下、Na:0.1mass%以下及びCa:0.5mass%以下から選択される1種又は2種以上を更に含有するものとした。
【0017】
本発明は請求項4では請求項1〜3のいずれか一項において、前記フィン材において、0.5〜5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が1.4×10〜3.8×10個/mm存在し、0.5〜5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.7×10〜2.4×10個/mm存在するものとした。
【0018】
本発明は請求項5では請求項1〜4のいずれか一項において、結晶粒界の長さ当たりにおける前記領域Bの平均面積をsμmとして、2<s<40を満たすものとした。
【0019】
本発明は請求項6ではでは請求項1〜5のいずれか一項において、前記フィンの表面における前記領域Aの面積占有率が60%以上であるものとした。
【0020】
本発明は請求項7では請求項1〜6のいずれか一項において、接合部フィレット以外の前記チューブ表面にAl−Si共晶組織が存在しないものとした。
【0021】
本発明は請求項8では請求項1〜7のいずれか一項において、前記フィンのL−LT断面でのAlマトリクスの結晶粒径をLμmとし、前記フィンのL−ST断面でのAlマトリクスの結晶粒径をTμmとして、L≧100、かつ、L/T≧2であるものとした。
【0022】
本発明は請求項9では請求項1〜8のいずれか一項において、前記フィンの自然電位が−910mV以上であり、当該フィンの自然電位が、前記フィンとチューブの接合部のフィレットの自然電位より0〜200mV貴であるものとした。
【発明の効果】
【0026】
高腐食環境下においてもフィンの中抜け腐食を抑制し、冷却性能を長期間保持できる熱交換器、ならびに、当該熱交換器用フィン材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る熱交換器におけるフィンの組織と腐食進行を示す模式図である。
図2】結晶粒界の長さ当たりにおける領域Bの平均面積sを示す説明図である。
図3】双ロール式連続鋳造圧延法において、注入されたアルミニウム溶湯の冷却速度を説明するための説明図である。
図4】双ロール式連続鋳造圧延法において、注入されたアルミニウム溶湯の冷却速度を説明するための説明図である。
図5】本発明に係る熱交換器の形状を示す断面図である。
図6】フィン表層での領域Aの面積占有率の定義を示す説明図である。
図7】中抜け腐食の測定方法を示す説明図である。
図8】従来の熱交換器におけるフィン(クラッドフィン)の組織と腐食進行を示す
図9】粒界に接する領域候補Bを示す説明図である。
図10】粒界に接する領域Bと領域Aの境界線を示す説明図である。
図11】表面における粒界に接する領域Bの決定方法を示す説明図である。
図12】L−ST断面におけるAlマトリクスの結晶粒数の算出方法を示す説明図である。
図13】表面における領域Aと領域Bの定義を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について詳細について説明する。
1.領域A及びBにおけるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の数密度
本発明の熱交換器は、製造時の材料とフィンの組織を制御することによりフィンの自己耐食性、特に中抜け腐食を抑制するものである。本発明に係る熱交換器のフィンの断面組織の模式図を、図1(a)に示す。カソードとなる円相当径0.1〜2.5μmの微細なAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が分散しているマトリクス(以下、「領域A」という)が、表面から内部に存在している。また、マトリクスの結晶粒界の周囲には、この微細なAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物がほとんど分散していない領域(以下、「領域B」という)が存在している。これら組織は、図8の組織と同様に、結晶粒界のごく近傍、領域A、領域Bの順で腐食が発生し易い(結晶粒界のごく近傍が最も腐食が発生し易く、領域Bが最も腐食が発生し難い)。従って、本発明に係る熱交換器のフィンは、腐食環境下において、まず結晶粒界のごく近傍が腐食するが(図1(b))、その外側に腐食が進行し難い領域Bが存在しているため、結晶粒界近傍からマトリクス内への腐食の進行が抑制される。一方、表面には領域Bより腐食され易い領域Aが存在しており、表面から腐食が進行する(図1(c))。この領域Aでは、カソードとなるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が微細に分散しているため、厚さ方向への腐食の優先的な進行が抑制され三次元全体に拡がる腐食形態となる。従って、本発明の熱交換器のフィンでは、粒界腐食が発生した後に表面から領域Aで全体的に腐食が進行し、フィンにろうクラッド材を用いた従来の熱交換器のようなフィンの中抜け腐食は発生しない。
【0029】
本発明に係る熱交換器のフィンにおける領域Aと領域Bでの金属間化合物の分散状態について、以下に詳細に説明する。領域Aでは、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が数密度で、5.0×10〜1.0×10個/mm存在する。なお、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物とは、具体的にはAl−Fe系、Al−Mn系、Al−Fe−Si系、Al−Mn−Si系、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系の金属間化合物等、Alと添加元素との組合せにより生成される金属間化合物の晶析出物である。
【0030】
領域Aは、カソードとなる微細なAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が互いに離間した状態で分散しているため、腐食が一方向に優先的に進行せず、全体的に均一に進行する。そのため、領域Bより腐食は起こり易いものの、全体的な腐食となり、放熱性能が急激に失われるような腐食が発生しない。
【0031】
領域Aにおける上記数密度が5.0×10個/mm未満の場合には、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物が安定してカソードとして作用せず、腐食が起こった場合に全体的な腐食の進行とならない。なお、この領域Aは、領域Bより腐食が起こり易い。一方、1.0×10個/mmを超える場合には、カソードとなるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が多過ぎ溶解反応が進行して、全面的な腐食が顕著に進行する虞がある。
【0032】
領域AにおけるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の数密度について、その円相当径を0.1〜2.5μmに限定したのは以下の理由による。円相当径が0.1μm未満のものは、小さすぎて有効なカソードとして作用しないため、対象から外した。一方、円相当径が2.5μmを超えるものは、カソードとして作用し当該金属間化合物と接するマトリクス部位では腐食が発生し易いが、その腐食が均一に進行することがない。従って、これまた対象から外した。
【0033】
領域Bでは、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が数密度で、5.0×10個/mm未満存在する。この場合、カソードとなるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物がほとんど存在しないために、領域Aに比べて腐食が進行し難い。そのため、同一部材内の近隣に領域Aと領域Bが存在した場合、領域Aでの腐食が優先的に進行する。
【0034】
領域Bにおける上記数密度が5.0×10個/mm以上存在する場合には、領域Aとなる。従って、結晶粒界の周囲にこのような組織が存在していても、結晶粒界からマトリクス内部への腐食の進行を妨げる作用を発揮できない。なお、この数密度は0個/mmの場合も含む。
【0035】
領域BにおけるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の数密度について、その円相当径を0.1〜2.5μmに限定したのは以下の理由による。円相当径が0.1μm未満のものは、小さすぎて有効なカソードとして働かず、領域Bの腐食抑制作用に影響を与えないので、対象から外した。一方、円相当径が2.5μmを超えるものについては、領域Aにおけるのと同じ理由から対象から外した。
【0036】
なお、上記の領域A及びBにおけるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の数密度は、アルミニウム合金材の任意の断面におけるものであり、例えば厚さ方向に沿った断面でもよく、板材表面と平行な断面でもよい。材料評価の簡便性の観点から、厚さ方向に沿った断面を採用するのが好ましい。
【0037】
2.結晶粒界の長さ当たりにおける領域Bの平均面積sμm
本発明の熱交換器のフィンでは、結晶粒界の長さ当たりにおける領域Bの平均面積をsμmとして、sが2<s<40を満たすのが好ましい。図2に示すように、sは、フィンの断面組織の測定によって求められる。すなわち、一定の視野のフィン断面より、結晶粒界の合計長さ(L1+L2+・・・+Ln)と、結晶粒界に接する領域Bの合計面積(s1+s2+・・・+sn)を測定し、s={(s1+s2+・・・+sn)/(L1+L2+・・・+Ln)}×(1/2)によって求められる。なお、一定の視野とは、少なくとも0.1mm以上の視野であることが望ましい。
【0038】
平均面積sμmが2μm未満である場合には、腐食の進行を十分に抑制できず、粒内の分散領域Aへの腐食が進行してしまい中抜け腐食が発生する虞がある。一方、平均面積sμmが40μmを超える場合には、カソードとなる微細金属間化合物が分散している領域Aが付近に存在しないため、厚さ方向への孔食が急激に起こって中抜け腐食が発生する虞がある。
【0039】
結晶粒界の周囲に存在する領域Bは、アルミニウム材が固相線温度以上に保持された際に、結晶粒界に液相が浸透した状態になり、そのまま結晶粒界が移動することで発生する。液相が浸透した状態の結晶粒界が移動すると、進行方向前方に存在するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物や液相を取り込み、後方にはAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物や液相が存在しないAl相が形成される。このAl相は領域Bであり、その面積を合計することで合計面積(s1+s2+・・・+sn)となる。結晶粒界の移動度が大きいほど合計面積は大きくなる。一方、結晶粒界の合計長さは、結晶粒界の移動度が大きいほど、結晶粒同士が合体して小さくなる。
【0040】
液相が浸透した状態での結晶粒界の移動は、液相率および加熱時間の増加によって促進され、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物の存在によって阻害されることがわかっている。液相率が高いほど、結晶粒界を満たす液相の幅が厚くなるので、より容易に進行方向のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を取り込んで移動することができる。また、加熱時間が長いほど、進行方向のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を取り込む反応が進むので、より移動することができる。一方、Mn、Fe組成が高くAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の総量が多い場合や、微細なAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が緻密に形成されている場合は、液相が浸透した状態の結晶粒界の移動が阻害されやすい。
【0041】
粒界の周囲に存在する領域Bの平均面積sμmは、具体的には以下のように測定する。
(1)まず、アルミニウム材のフィンのL−ST断面を鏡面研磨し、ケラーエッチングの後に光学顕微鏡にて複数個所観察する。
(2)観察像が得られたら、その像にある結晶粒界を最初に同定し、全ての結晶粒界の長さの和(L1+L2+・・・+Ln)を求める。結晶粒界に液相が浸透している試料では、ケラーエッチングで線上に黒く観察される部位が結晶粒界である。線上に黒く観察される部位は、部分的に不連続であっても、仮想線を引くことで直線が一致する場合は、空白部も粒界とみなす。結晶粒界への液相の浸透が少ないサンプルであり、結晶粒界が不明瞭である場合には、同じ視野を陽極酸化法にて処理した後に光学顕微鏡にて観察することで結晶粒界を同定することができる。また、EBSPによる分析によって結晶粒界を同定することもできる。
(3)結晶粒界が同定されたら、ケラーエッチング観察像にて、その周囲に領域Bが存在するかどうかを調べる。領域BはAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.0×10個/mm未満であることから、4.4μm四方の正方形の中に1個もAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物(以下、「粒子」と呼ぶ)がない領域が領域Bであるとし、距離4.4μm以内にある粒子を互いに結んでいくことで、領域Aと領域Bの境界線を引けるとした。ただし、その方法では粒界に沿って幅4.4μm以下に形成されている領域Bが検出されない。請求項2に2<s<40μmと規定されるように、粒界の周囲に形成される領域Bは2μmを超えれば効果を奏することがわかっている。そこで、粒子と粒子の場合は距離4.4μm以内にあるもの同士を線で結ぶのに対して、粒界と粒子においては距離2.0μm以内にある粒子と線を引くことで領域Aと領域Bの境界線を引くこととした。
(4)境界線を引く際は、図9のグレー部に示すように、粒界の周囲に距離4.4μm以内に粒子が互いに存在しないようなB候補をまず見つける。そして、図10に示すように、領域B候補と接する粒界の一方の端部において、結晶粒界と結晶粒界から距離2.0μm以内にある粒子を線で結ぶ。次に、その粒子から距離4.4μm以内にある粒子を線で結ぶ。その際、領域A側には無数にそのような粒子が見つかるので、もっとも領域B側にある粒子だけを結べばよい。上記の行為を繰り返し、もう一方の粒界端部に到達したら、その結線と粒界で囲まれた領域が粒界の周囲に存在する領域Bである。
(5)上記のようにして、観察像中にある全ての「粒界の周囲に存在する領域B」を同定し、その面積の和(s1+s2+・・・+sn)を求める。この面積の和を、同じ観察像中にある結晶粒界の長さの和(L1+L2+・・・+Ln)で割り、更に1/2とすることで、平均面積sμmを求めることができる。
(6)なお、領域Aと領域Bの境界線を引く際に留意すべきことがある。1つ目は、図10の粒子Aに示すように、距離4.4μm以内の粒子を1、2、3・・・個と結んでいく際に、n番目の粒子から距離4.4μm以内の粒子が、(n−1)番目の粒子以外に見つからない場合である。この場合は、n番目の粒子は領域B中に属する粒子と判断して線を結ばないこととする。図10を例にすると、粒子Aと粒子Bはともに領域B中の粒子と認識される。また、(n−1)番目の粒子も、n番目の粒子以外に距離4.4μm以内に粒子がない場合は、同様に領域B中に属すると判断する。これは、粒界から距離2μm以内にある粒子を結ぶ際も同様である。2つ目は、図11に示すように、粒界の一方の端部から線を結んでいった際に、もう一方の端部が粒界ではなく表面になってしまった場合である。この場合は、図11のグレー部に示すように粒界から距離40μmまでの領域Bを「粒界の周囲に存在する領域B」として測定する。表面において粒界から距離40μmを超えて遠くまで続く領域Bは、表面の腐食速度を抑制する一方で、内部の腐食を優先的に起こし、中抜け腐食の原因となることから、ここではその他の領域Bと区別して測定する。
【0042】
3.フィンの表面における領域Aの面積占有率
また、本発明において領域Aは表層からフィンの厚さ方向の内部まで分布しているが、図1(a)に示すように、結晶粒界の周囲や円相当径1μmを超える晶出物粒子の周りなどに、領域Bも表層から厚さ方向の内部まで斑に混在する場合がある。しかしながら、フィンの表面における領域Aの面積占有率が60%以上であれば、腐食は表層から全面腐食的に起こり、中抜け腐食や厚さ方向への急速な腐食の進展は発生せず、表層から全体的な腐食が進行する。従って、上記面積占有率を60%以上とするのが好ましい。
【0043】
表面における領域Aの面積占有率aは、液相が浸透した状態の結晶粒界が表面で移動し、表面の領域Bが増加することによって減少していく。よって、液相が浸透した状態の結晶粒界の移動が大きいほど面積占有率aは小さくなる。さらに、結晶粒径が小さいほど表面に接する結晶粒界が増加するので、表面での結晶粒界の移動による領域Bの発生率が増加し、面積占有率aは小さくなる。クラッド材のように、表面にろう材層が形成されている場合は、面積占有率aはほぼ0%となる。
【0044】
表面における領域Aの面積占有率aは、平均面積sμmを求めた時と同様にして、領域Aと領域Bの境界線を引くことで求めることができる。平均面積sμmを求める際は、粒界から結線をスタートしたのに対し、領域Aの面積占有率aを測定する場合は、表面からスタートする。粒界と同様に、表面と粒子を結ぶ際は図13のように距離2.0μm以内のものを結ぶ。次に、その粒子から距離4.4μm以内にある粒子を線で結ぶ。その際、領域A側には無数にそのような粒子が見つかるので、もっとも領域B側にある粒子だけを結ぶ。バルク内の境界線を全て結線する必要はなく、表面近傍のみ境界線を引けばよい。つまり、表面から2.0μm以内にある粒子のうち、4.4μm以内で粒子同士が隣り合っている領域、もしくは粒界と粒子が2.0μm以内で隣り合っている領域を領域Aとし、それ以上離れて存在している粒子間もしくは粒界−粒子間を領域Bとする。そして、図6に示すように観察像中の表面における領域Aの合計長さ(a1+a2+・・・+an)を、表面の長さ2Mでわることで、面積占有率aを算出する。なお、この場合は、粒界に接する領域Bの平均面積sを求めた時と異なり、粒界に接する領域Bと粒界に接しない領域Bを区別する必要はない。
【0045】
4.チューブ表面のAl−Si共晶組織
本発明の熱交換器は特にフィンの中抜け腐食を防ぐことを発明の要点としているが、高腐食環境下で使用されることを想定しているため、フィン以外の部位も高い耐食性を有するのが好ましい。
【0046】
本発明の熱交換器のチューブ表面では、接合部フィレット以外においてAl−Si共晶組織が存在しないことが好ましい。前述の特許文献7に記載のように、チューブ表面にAl−Si共晶組織が存在すると、この部分が強力なカソードサイトとして作用し、チューブの腐食を促進して早期における冷媒漏れに至る虞がある。従って、チューブ材としては、押出多穴管や、犠牲陽極材を表面に配した電縫管であることが好ましい。例えば、添加元素を少なくしてカソードサイトとなる化合物が少ない組織でもよく、Zn溶射をして表面に犠牲防食層(溶射があっても単層とみなす)を備えた組織でもよい。
【0047】
5.フィンのL−LT断面におけるAlマトリクスの結晶粒径とL−ST断面におけるAlマトリクスの結晶粒の板厚方向の平均長さ
更に本発明の熱交換器で、フィンのL−LT断面でのAlマトリクスの結晶粒径をLμm、フィンのL−ST断面におけるAlマトリクスの結晶粒の板厚方向の平均長さをTμmとした場合、L≧100とするのが好ましく、また、L/T≧2とするのが好ましい。なお、板状フィンの場合に、長手方向をL、幅方向をLT、板厚方向をSTと定め、L方向とLT方向からなる断面をL−LT断面、L方向とST方向からなる断面をL−ST断面とそれぞれ定めている。
【0048】
図1(b)に示すように、結晶粒界は組織の中でも特に腐食し易い。L<100(μm)であると、結晶粒界の腐食によりフィンが早期に非常に脆くなる虞がある。また、L−ST断面において、長手方向に伸びる結晶粒界の長さに比べて、厚さ方向に延びる結晶粒界の長さの割合が多い程、腐食によって早期に厚さ方向において貫通し、作動流体が漏れたり、脆くなる虞がある。L/T<2であると、厚さ方向において貫通する腐食が早期に発生する虞がある。L及びL/Tの上限値は特に規定するものではなく、フィン材の合金組成と製造条件、フィン材とチューブ材との接合条件によって決まるが、本発明では、Lの上限値は5000μm、L/Tの上限値は100である。
【0049】
上記L−LT断面におけるAlマトリクスの結晶粒径L(μm)は、鏡面研磨後に陽極酸化法にてエッチングした試料を、光学顕微鏡によって観察し、結晶粒組織観察像を得ることで測定できる。測定方法は板厚の中央において、ASTM E112−96に基づき平均結晶粒径を測定した。また、EBSPなどによる分析によって結晶粒組織観察像を得ることでも、同様に結晶粒径を求めることができる。
【0050】
L−ST断面におけるAlマトリクスの板厚方向の結晶粒の平均長さT(μm)は、図12に示すように、板厚t(μm)を板厚方向に存在するAlマトリクスの平均個数で割ることで算出する。板厚方向に存在するAlマトリクスの平均個数は、少なくとも長手方向が1mm以上の観察視野において、少なくとも10本以上の切断線を板厚方向に等間隔に引き、切断線状に何個結晶粒が存在するかを測定して平均したものである。上記の測定を少なくとも5つの観察像において行い、平均化した値を使用することが望ましい。
【0051】
6.自然電位
更に本発明の熱交換器では、フィンの自然電位が−910mV以上であるのが好ましい。フィンの自然電位が−910mV未満の場合は、フィンの腐食が顕著に進行する虞がある。フィンの自然電位の上限値は特に規定するものではなく、フィン材の合金組成と製造条件、フィン材とチューブ材との接合条件によって決まるが、本発明では、−750mVである。
【0052】
フィンの自然電位が、フィンとチューブの接合部のフィレットの自然電位より0〜200mV貴であるのが好ましい。この電位差が0mV未満であると、フィンの腐食が促進され、フィンが消失する虞がある。一方、この電位差が200mVを超えると、フィレットが消失し、フィンがチューブから剥がれて放熱性能を維持できない虞がある。この電位差の好ましい範囲は、50〜150mVである。
【0053】
そして、フィン(Fin)、チューブ表面(TS)、チューブ芯(TB)及び接合部のフィレット(Fillet)の4部位における電位の関係を、下記(1)、(2)、(3)、(4)とするのが更に好ましい。
(1)TS−Fillet≦200mV、
(2)Fillet≧−950mV
(3)TB−TS≧100mV
(4)TS≧−950mV
【0054】
上記(1)の左辺が200を超える場合、フィレットの犠牲防食作用による優先腐食が促進されすぎて、早期に接合部が剥れてしまう虞がある。上記(2)の左辺が−950mV未満の場合、フィレットの腐食が促進されて早期に接合部が剥がれてしまう虞がある。上記(3)の左辺が100mV未満の場合、チューブ表面の犠牲防食作用が作用しないため、チューブが貫通し易くなる。上記(4)の左辺が−950mV未満の場合、チューブ表面の腐食速度が速過ぎて、早期に犠牲防食効果が失われるため貫通し易くなる虞がある。
【0055】
7.フィン材(第1の形態)
本発明の熱交換器は、接合する前の材料であるフィン材に単層で接合機能を有する材料を用いて製造することにより得られる。第1の形態に係るフィン材は、具体的には、フィン材として、Si:1.0〜5.0質量%(以下、単に「%」と記す)、Fe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いる。更に、このアルミニウム合金において、0.5〜5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が250〜7×10個/mm存在し、5μmを超え10μm以下の円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が10〜1000個/mm存在する。以下、このアルミニウム合金の特徴について詳細に説明する。
【0056】
7−1.合金組成(必須元素)
Si:1.0〜5.0%
SiはAl−Si系の液相を生成し、接合に寄与する元素である。但し、Si含有量が1.0%未満の場合は十分な量の液相を生成することができず、液相の染み出しが少なくなり、接合が不完全となる。一方、5.0%を超えるとアルミニウム合金材中の液相の生成量が多くなるため、加熱中の材料強度が極端に低下し、熱交換器の形状維持が困難となる。従って、Si含有量を1.0%〜5.0%と規定する。このSi含有量は、好ましくは1.5%〜3.5%であり、より好ましくは2.0%〜3.0%である。尚、染み出す液相の量は板厚が厚く、加熱温度が高いほど多くなるので、加熱時に必要とする液相の量は、製造する熱交換器の構造に応じて必要となるSi含有量や接合加熱温度を調整することが好ましい。
【0057】
Fe:0.1〜2.0%
Feはマトリクスに若干固溶して強度を向上させる効果を有するのに加えて、晶出物として分散して特に高温での強度低下を防ぐ効果を有する。Feは、その含有量が0.1%未満の場合、上記各効果が不十分となるだけでなく、高純度の地金を使用する必要がありコストが増加する。また、2.0%を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、製造性に問題が生じる。また、熱交換器が腐食環境(特に液体が流動するような腐食環境)に曝された場合には耐食性が低下する。更に、接合時の加熱によって再結晶した結晶粒が微細化して粒界密度が増加するため、接合前後で寸法変化が大きくなる。従って、Feの添加量は0.1%〜2.0%とする。好ましいFe含有量は、0.2%〜1.0%である。
【0058】
Mn:0.1〜2.0%
Mnは、SiとともにAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる重要な添加元素である。Mn含有量が0.1%未満では上記各効果が不十分となり、2.0%を超えると粗大金属間化合物が形成され易くなり耐食性を低下させる。従って、Mn含有量は0.1%〜2.0%とする。好ましいMn含有量は、0.3%〜1.5%である。
【0059】
7−2.金属組織
次に、本発明の熱交換器用のフィン材の金属組織における特徴について説明する。このフィン材に用いるアルミニウム合金は、0.5〜5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が、数密度で250〜7×10個/mm存在することを特徴とする。ここで、Si系金属間化合物とは、(1)単体Si、及び(2)単体Siの一部に他の元素を含むものであり、他の元素としては、Ca、Pなどが挙げられる。このようなSi系金属間化合物は、後述するように液相発生プロセスにおいて液相生成に寄与する。なお、上記数密度は、アルミニウム合金材の任意の断面におけるものであり、例えば厚さ方向に沿った断面でもよく、板材表面と平行な断面でもよい。材料評価の簡便性の観点から、厚さ方向に沿った断面を採用するのが好ましい。
【0060】
上記の通り、アルミニウム合金材中に分散したSi粒子等の金属間化合物の分散粒子は、接合時においてその周囲のマトリクスと反応して液相を生成する。そのため、前記金属間化合物の分散粒子が微細なほど粒子とマトリクスの接する面積が増加する。従って、前記金属間化合物の分散粒子が微細なほど、接合加熱時において、より速やかに液相が生成し易くなり、良好な接合性が得られる。また、Si系金属間化合物が微細である方がアルミニウム合金材の形状を保持することができる。この効果は、接合温度が固相線に近い場合や昇温速度が速い場合により顕著である。そのため、本発明に用いられるアルミニウム合金材では、好適なSi系金属間化合物として、その円相当径を0.5〜5μmと規定すると共に、その数密度を250〜7×10個/mmであることを必要とする。250個/mm未満であると、生成する液相に偏りが生じ良好な接合が得られなくなる。7×10個/mmを超えると、粒子とマトリクスの反応面積が大きすぎるために、液相量の増加が急激に起こり変形が生じ易くなる。このように、このSi系金属間化合物の数密度は、250〜7×10個/mmとする。なお、この数密度は、好ましくは500個/mm以上5×10個/mm以下であり、更により好ましくは、1000個/mm以上2×10個/mm以下である。
【0061】
フィン材のSi系金属間化合物の数密度について、その円相当径を0.5〜5μmに限定したのは以下の理由による。0.5μmより小さいSi系金属間化合物も存在するが、接合加熱時において接合温度が固相線に至る前にマトリクス中に固溶し液相生成時にはほとんど存在せず、液相生成の起点となりえないため対象外とした。5μmを超える粗大なSi系金属間化合物は殆ど存在しないため、対象とはしない。
【0062】
また、本発明に係るフィン材に用いるアルミニウム合金は、基本組成(Al−Si系合金)によって生じるSi系金属間化合物に加えて、Al−Fe−Mn−Si系の金属間化合物が分散粒子として存在する。このAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物は、Al−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Mn―Si系、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系化合物等、Alと添加元素によって生成する金属間化合物である。これらのAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物は、Si系金属間化合物とは異なり液相生成に大きく寄与するものではないが、マトリクスと共に材料強度を担う分散粒子である。そして、このAl系金属間化合物については、5μmを超え10μm以下の円相当径を有するものが、10〜1000個/mm存在する必要がある。10個/mm未満の場合には、強度低下による変形が生じる。一方、1000個/mmを超える場合には、接合加熱中の再結晶粒の核発生頻度が増加し、結晶粒径が小さくなる。結晶粒が小さくなると、粒界で結晶粒同士がすべり、変形し易くなるのでフィン座屈が起こる。さらには、加熱接合中に金属間化合物の周囲で液相が生成し、その液相だまりが板厚の中に占める割合が大きくなりフィン座屈が起こる。このように、このAl系金属間化合物の数密度は、10〜1000個/mmとする。
【0063】
また、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物の数密度について、円相当径が5μm以下のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物も存在し、素材の強度、ならびに、接合加熱中と接合加熱後の強度に寄与する。しかしながら、円相当径が5μm以下のものは、接合加熱中の粒界移動によりマトリックス中に容易に溶解し、加熱後の結晶粒径に起因する変形のし易さについては殆ど影響しないため対象外とする。また、円相当径が10μmを超えるAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物は、殆ど存在しないため実質的に対象外とする。
【0064】
上記数密度は、Si系金属間化合物と同様に、アルミニウム合金材の任意の断面におけるものであり、例えば厚さ方向に沿った断面でもよく、板材表面と平行な断面でもよい。材料評価の簡便性の観点から、厚さ方向に沿った断面を採用するのが好ましい。
【0065】
なお、分散粒子の円相当径は、断面のSEM観察(反射電子像観察)を行うことで決定することができる。ここで、円相当径とは円相当直径をいう。SEM写真を画像解析することで、接合前の分散粒子の円相当径及を求めることが好ましい。また、Si系金属間化合物とAl系金属間化合物は、SEM−反射電子像観察で、コントラストの濃淡で区別することもできる。また、分散粒子の金属種は、EPMA(X線マイクロアナライザー)等でより正確に特定することができる。
【0066】
以上説明した、合金組成及び金属組織に特徴を有し、本発明のフィン材に用いられるアルミニウム合金は、それ自体の接合性により接合を可能とし各種のアルミニウム合金構造物の構成部材として用いることができるものであり、この合金材をフィン材として適用することにより、本発明に係る熱交換器を得ることが出来る。
【0067】
7−3.合金組成(選択的添加元素)
なお、上記アルミニウム合金は、選択的添加元素としてMg:2.0%以下、Cu:1.5%以下、Zn:6.0%以下、Ti:0.3%以下、V:0.3%以下、Zr:0.3%以下、Cr:0.3%以下及びNi:2.0%以下から選択される1種又は2種以上を更に含有してもよい。
【0068】
Mg:2.0%以下
Mgは、接合加熱後においてMgSiによる時効硬化が生じ、この時効硬化によって強度向上が図られる。このように、Mgは強度向上の効果を発揮する添加元素である。Mg添加量が、2.0%を超えるとフラックスと反応して、高融点の化合物を形成し、結果としてフラックスが酸化皮膜に作用できなくなるため、接合が著しく困難となる。従って、Mgの添加量は2.0%以下とする。好ましいMgの添加量は、0.05%〜2.0%である。さらに好ましくは0.1%〜1.5%である。
【0069】
Cu:1.5%以下
Cuは、マトリクス中に固溶して強度向上させる添加元素である。但し、Cu添加量が1.5%を超えると耐食性が低下する。従って、Cuの添加量は1.5%以下とするのが好ましい。より好ましいCuの添加量は0.05%〜1.5%である。
【0070】
Zn:6.0%以下
Znの添加は、犠牲防食作用による耐食性向上に有効である。Znはマトリクス中にほぼ均一に固溶しているが、液相が生じるとその中に溶け出して液相のZnが濃化する。液相が表面に染み出すと、その部分はZn濃度が上昇するため、犠牲陽極作用によって耐食性が向上する。また、本発明のアルミニウム合金材を熱交換器に応用する場合、本発明のアルミニウム合金材をフィンに使うことで、チューブ等を防食する犠牲防食作用を働かせることもできる。添加量が6.0%を超えると腐食速度が速くなり自己耐食性が低下する。従って、Znは6.0%以下とするのが好ましい。より好ましいZn添加量は、0.05%〜6.0%である。
【0071】
Ti:0.3%以下、V:0.3%以下
Ti及びVは、マトリクス中に固溶して強度向上させる他に、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防ぐ効果がある。いずれも0.3%を超えると粗大晶出物が発生し、成形性、耐食性を阻害する。従って、Ti及びVの含有量はそれぞれ0.3%以下とするのが好ましく、0.05%〜0.3%とするのがより好ましい。
【0072】
Zr:0.3%以下
ZrはAl−Zr系の金属間化合物として析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。また、Al−Zr系の金属間化合物は加熱中の結晶粒粗大化に作用する。0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Zrの添加量は0.3%以下とするのが好ましく、0.05%〜0.3%とするのがより好ましい。
【0073】
Cr:0.3%以下
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物の析出により、加熱後の結晶粒粗大化に作用する。0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Crの添加量は0.3%以下とするのが好ましく、0.05%〜0.3%とするのがより好ましい。
【0074】
Ni:2.0%以下
Niは、金属間化合物として晶出又は析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。Niの含有量は、2.0%以下の範囲とするのが好ましく、0.05%〜2.0%の範囲とするのがより好ましい。Niの含有量が2.0%を超えると、粗大な金属間化合物を形成し易くなり、加工性を低下させ自己耐食性も低下する。
【0075】
本発明に係るアルミニウム合金材では、熱交換器の耐食性向上のための選択的元素を更に添加しても良い。このような元素としては、Sn:0.3%以下、In:0.3%以下とするのが好ましく、これらの1種又は2種を必要に応じて添加する。
Sn、Inは、犠牲陽極作用を発揮する効果がある。添加量が0.3%を超えると腐食速度が速くなり自己耐食性が低下する。従って、これら元素のそれぞれの添加量は、0.3%以下とするのが好ましい。より好ましい添加量は0.05%〜0.3%である。
【0076】
本発明に係るアルミニウム合金材では、液相の特性改善を図ることにより接合性を更に良好にするための選択的元素を更に添加してもよい。このような元素としては、Be:0.1%以下、Sr:0.1%以下、Bi:0.1%以下、Na:0.1%以下、Ca:0.05%以下とするのが好ましく、これらの1種又は2種以上を必要に応じて添加する。なお、これら各元素のより好ましい範囲は、Be:0.0001%〜0.1%、Sr:0.0001%〜0.1%、Bi:0.0001%〜0.1%、Na:0.0001%〜0.1%、Ca:0.0001%〜0.05%である。これらの微量元素はSi粒子の微細分散、液相の流動性向上等によって接合性を改善することができる。これらの微量元素は、上記のより好ましい規定範囲未満では、Si粒子の微細分散や液相の流動性向上等の効果が不十分となる場合がある。また、上記のより好ましい規定範囲を超えると耐食性低下等の弊害を生じる場合がある。尚、Be、Sr、Bi、Na、Caの1種又が添加される場合においても、任意の2種以上が添加される場合においても、上記いずれの元素は上記好ましい又はより好ましい成分範囲内で添加される。
【0077】
7−4.機械特性
本発明に係る熱交換器用フィン材は、素板の引張強さをT、450℃で2時間加熱した後の引張強さをToとした場合、T/To≦1.40の関係を満たすものとする。450℃で2時間加熱することにより、本発明に係る熱交換器用フィン材は十分に焼き鈍され、O材となる。T/ToはO材からの強度上昇割合を表している。本合金材の場合、接合加熱後の結晶粒径を大きくするために、製造工程における焼鈍後の最終の冷間圧延加工量を小さくすることが有効である。最終の加工量が大きいと、再結晶の駆動力が大きくなり、接合加熱時の結晶粒が微細化する。最終の加工量を大きくすればするほど強度は上昇するので、T/Toは大きな値となる。接合加熱後の結晶粒径を大きくして変形を防ぐためには、最終の加工量を表す指標となるT/Toを1.40以下とすることが有効である。
【0078】
本発明に係る熱交換器用フィン材は、接合加熱前の引張強さが80〜250MPaであるものが好ましい。接合加熱前の引張強さが80MPa未満であると、フィンの形状に成形するために必要な強度が足りず、成形することができない。250MPaを超えるとフィンに成形した後の形状保持性が悪く、熱交換器に組み立てたときに他の構成部材との間に隙間ができて、接合性が悪化する。
【0079】
また、本発明に係る熱交換器用フィン材は、接合加熱後における引張強さが80〜250MPaであるものが好ましい。接合加熱後の引張強さが80MPa未満であると、フィンとしての強度が足りず、熱交換器自体に応力が加わったときに変形してしまう。250MPaを超えると、熱交換器中の他の構成部材よりも強度が高くなり、使用中に他の構成部材との接合部で破断してしまう懸念がある。
【0080】
7−5.フィン材に用いるアルミニウム合金材の製造方法
7−5−1.鋳造工程
上記第1の形態のフィン材に用いるアルミニウム合金材の製造方法について説明する。このアルミニウム合金材は、DC(Direct Chill)鋳造法を用いて鋳造され、鋳造時のスラブの鋳造速度を下記のように制御する。鋳造速度は、冷却速度に影響を及ぼすので、20〜100mm/分とする。鋳造速度が20mm/分未満の場合は、十分な冷却速度が得られず、Si系金属間化合物やAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物といった晶出する金属間化合物が粗大化する。一方、100mm/分を超える場合は、鋳造時にアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な鋳塊が得られない。好ましくは、30〜80mm/分である。そして、本発明が特徴とする金属組織を得るために、鋳造速度は製造する合金材の組成に応じて調整することができる。冷却速度は厚みや幅といったスラブの断面形状によるが、上記20〜100mm/分の鋳造速度とすることで、鋳塊中央部で0.1〜2℃/秒の冷却速度とすることができる。
【0081】
DC連続鋳造時の鋳塊(スラブ)厚さは、600mm以下が好ましい。スラブ厚さが600mmを超える場合は、十分な冷却速度を得られず金属間化合物が粗大になる。より好ましいスラブ厚さは、500mm以下である。
【0082】
DC鋳造法で製造したスラブは、熱間圧延前の加熱工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程にかけられる。鋳造後、熱間圧延前に均質化処理を施してもよい。
【0083】
DC鋳造法で製造したスラブは、均質化処理後もしくは均質化処理を施さずに、熱間圧延前の加熱工程にかけられる。この加熱工程では加熱保持温度を400〜570℃とし、保持時間を0〜15時間程度実施するのが好ましい。保持温度が400℃未満の場合は熱間圧延でのスラブの変形抵抗が大きく、割れが発生する虞がある。保持温度が570℃を超える場合は、局所的に溶融が生じる虞がある。保持時間が15時間を超える場合は、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物の析出が進行し、析出物が粗大になるとともにその分布が疎になり、接合加熱中の再結晶粒の核発生頻度が増加して、結晶粒径が小さくなる。なお、保持時間が0時間とは、加熱保持温度に達した後に直ちに加熱を終了することをいう。
【0084】
7−5−2.熱間圧延工程
加熱工程に続いて、スラブは熱間圧延工程にかけられる。熱間圧延工程は、熱間疎圧延段階と熱間仕上圧延段階を含む。ここで、熱間粗圧延段階における総圧下率を92〜97%とし、かつ、熱間粗圧延の各パス中において圧下率が15%以上となるパスが3回以上含まれるものとする。
【0085】
DC鋳造法で製造したスラブには、最終凝固部に粗大な晶出物が生成する。板材とする工程において晶出物は圧延によるせん断を受けて小さく分断されるため、晶出物は圧延後において粒子状に観察される。熱間圧延工程は、スラブからある程度の厚さの板にする熱間粗圧延段階と、数mmほどの板厚にする熱間仕上圧延段階を含む。晶出物分断のためには、スラブから圧延される熱間粗圧延段階での圧下率の制御が重要である。具体的には、熱間粗圧延段階ではスラブ厚が300〜700mmから15〜40mm程度に圧延されるが、熱間粗圧延段階での総圧下率を92〜97%とし、熱間粗圧延段階が15%以上の圧下率となるパスを3回以上含むことで、粗大な晶出物を微細に分断することができる。これにより、晶出物であるSi系金属間化合物やAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を微細化することができ、本発明に規定する適正な分布状態とすることができる。
【0086】
熱間粗圧延段階での総圧下率が92%未満では、晶出物の微細化効果が十分に得られない。一方、97%を超えると実質的にスラブの厚さが厚くなり、鋳造時の冷却速度が遅くなるため晶出物が粗大化し、熱間粗圧延をおこなっても晶出物微細化が十分になされない。また、熱間粗圧延段階の各パス中の圧下率も金属間化合物の分布に影響し、各パスにおける圧下率を大きくすることで晶出物が分断される。熱間粗圧延段階の各パス中において圧下率が15%以上であるパスが3回未満では、晶出物の微細化効果が十分ではない。圧下率が15%未満については、圧下率が足りずに晶出物の微細化がなされないので対象とはならない。なお、圧下率が15%以上であるパス回数の上限は特に規定するものではないが、10回程度を上限とするのが現実的である。
【0087】
7−5−3.冷間圧延工程及び焼鈍工程
熱間圧延工程終了後は、熱間圧延材を冷間圧延工程にかける。冷間圧延工程の条件は、特に限定されるものではない。冷間圧延工程の途中において、冷間圧延材を十分に焼き鈍して再結晶組織とする焼鈍工程が設けられる。焼鈍工程後は、圧延材を最終冷間圧延にかけて最終板厚とする。最終冷間圧延段階での加工率{(加工前の板厚−加工後の板厚)/加工前の板厚}×100(%)が大き過ぎると、接合加熱中の再結晶の駆動力が大きくなり結晶粒が小さくなることで、接合加熱中の変形が大きくなる。よって、前述のとおり、T/Toが1.40以下となるように最終冷間圧延段階における加工量が設定される。最終冷間圧延段階における加工率は、10〜30%程度とするのが好ましい。
【0088】
8.フィン材(第2の形態)
本発明の熱交換器は、接合する前の材料であるフィン材に単層で接合機能を有する材料を用いて製造することにより得られるが、第1の形態に係るフィン材に代えて以下に示す単層で接合機能を有する材料を用いて製造することによっても得られる。具体的には、フィン材として、Si:1.0〜5.0%、Fe:0.01〜2.0%、Mn:0.05〜2.0%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金材であって、液相率が5%以上35%以下となる温度において単層で加熱接合機能を有し、0.5〜5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が、前記アルミニウム合金材断面において250〜7×10個/mm、好ましくは1.4×10〜3.8×10個/mm存在し、0.5〜5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系の分散粒子が、前記アルミニウム合金材断面において100〜7×10個/mm、好ましくは5.7×10〜2.4×10個/mm存在することを特徴とするアルミニウム合金材である。以下、このアルミニウム合金の特徴について詳細に説明する。
【0089】
8−1.合金組成(必須元素)
Si濃度について、SiはAl−Si系の液相を生成し、接合に寄与する元素である。但し、Si濃度が1.0%未満の場合は充分な量の液相を生成することができず、液相の染み出しが少なくなり、接合が不完全となる。一方、5.0%を超えるとアルミニウム合金材中の液相の生成量が多くなるため、加熱中の材料強度が極端に低下し、構造体の形状維持が困難となる。従って、Si濃度を1.0%〜5.0%と規定する。このSi濃度は、好ましくは1.5%〜3.5%であり、より好ましくは2.0%〜3.0%である。尚、染み出す液相の量は板厚が厚く、加熱温度が高いほど多くなるので、加熱時に必要とする液相の量は、製造する構造体の構造に応じて必要となるSi量や接合加熱温度を調整することが望ましい。
【0090】
Fe濃度について、Feはマトリクスに若干固溶して強度を向上させる効果を有するのに加えて、晶出物として分散して特に高温での強度低下を防ぐ効果を有する。Feは、その添加量が0.01%未満の場合、上記の効果が小さいだけでなく、高純度の地金を使用する必要がありコストが増加する。また、2.0%を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、製造性に問題が生じる。また、本接合体が腐食環境(特に液体が流動するような腐食環境)に曝された場合には耐食性が低下する。更に、接合時の加熱によって再結晶した結晶粒が微細化して粒界密度が増加するため、接合前後で寸法変化が大きくなる。従って、Feの添加量は0.01%〜2.0%とする。好ましいFeの添加量は、0.2%〜1.0%である。
Mnは、SiとともにAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる重要な添加元素である。Mn添加量が2.0%を超えると、粗大金属間化合物が形成され易くなり耐食性を低下させる。従って、Mn添加量は2.0%以下とする。好ましいMn添加量は、0.05%〜2.0%である。
【0091】
8−2.金属組織
次に、本発明に係るアルミニウム合金材の金属組織における特徴について説明する。本発明に係るアルミニウム合金材は、0.5〜5μmの円相当径を有するSi系金属間化合物が、その断面において250〜7×10個/mm、好ましくは1.4×10〜3.8×10個/mm存在することを特徴とする。ここで、Si系金属間化合物とは、(1)単体Si、及び(2)単体Siの一部にCaやPなどの元素を含むものであり、上述の液相発生のプロセスで説明した液相生成に寄与する金属間化合物である。尚、断面とは、アルミニウム合金材の任意の断面であり、例えば厚さ方向に沿った断面でもよく、板材表面と平行な断面でもよい。材料評価の簡便性の観点から、厚さ方向に沿った断面を採用するのが好ましい。
【0092】
上記の通り、アルミニウム合金材中に分散したSi粒子等の金属間化合物の分散粒子は、接合時においてその周囲のマトリクスと反応して液相を生成する。そのため、前記金属間化合物の分散粒子が微細なほど粒子とマトリクスの接する面積が増加する。従って、前記金属間化合物の分散粒子が微細なほど、接合加熱時において、より速やかに液相が生成し易くなり、良好な接合性が得られる。この効果は、接合温度が固相線に近い場合や昇温速度が速い場合により顕著である。そのため、本発明では、好適なSi系金属間化合物として、その円相当径を0.5〜5μmと規定すると共に、その存在割合として断面で250〜7×10個/mmであることを必要とする。250個/mm未満であると、生成する液相に偏りが生じ良好な接合が得られなくなる。7×10個/mmを超えると、粒子とマトリクスの反応面積が大きすぎるために、液相量の増加が急激に起こり変形が生じ易くなる。このように、このSi系金属間化合物の存在割合は、250〜7×10個/mmとする。なお、この存在割合は、好ましくは1.4×10〜3.8×10個/mmである。
【0093】
また、本発明に係るアルミニウム合金材では、基本組成(Al−Si系合金)で生じるSi系金属間化合物に加えて、Al系の金属間化合物が分散粒子として存在する。このAl系金属間化合物は、Al−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Mn―Si系、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系化合物等、Alと添加元素によって生成する金属間化合物である。これらのAl系金属間化合物は、Si系金属間化合物とは異なり液相生成に大きく寄与するものではないが、マトリクスと共に材料強度を担う分散粒子である。そして、このAl系金属間化合物については、0.5〜5μmの円相当径を有するものが、材料断面において100〜7×10個/mm、好ましくは5.7×10〜2.4×10個/mm存在する必要がある。100個/mm未満の場合には、強度低下による変形が生じる。一方、7×10個/mmを超える場合には、再結晶の核が増加して結晶粒が微細になり変形が生じる。このように、このAl系金属間化合物の存在割合は、100〜7×10個/mmであり、この存在割合は、好ましくは5.7×10〜2.4×10個/mmである。
【0094】
尚、分散粒子の円相当径は、断面のSEM観察(反射電子像観察)を行うことで決定することができる。ここで、円相当径とは円相当直径をいう。SEM写真を画像解析することで、接合前の分散粒子の円相当径及を求めることが好ましい。また、Si系金属間化合物とAl系金属間化合物は、SEM−反射電子像観察で、コントラストの濃淡で区別することもできる。また、分散粒子の金属種は、EPMA(X線マイクロアナライザー)等でより正確に特定することができる。
【0095】
以上説明した、Si、Fe濃度範囲及び金属組織に特徴を有するアルミニウム合金材は、それ自体の接合性により接合を可能とし、本発明の熱交換器用のフィン材として用いることができる。
【0096】
以上のように、上記アルミニウム合金材は第1態様において、接合性という基本的機能を果たすためには、Si、Fe及びMnを必須元素としてその添加量が規定される。接合性という基本的機能に加えて強度を更に向上させるために、上記アルミニウム合金材は第2態様において、必須元素であるSi、Fe及びMnに加えて、所定量のMg及びCuが添加元素として更に添加される。なお、第2態様では、Si系金属間化合物及びAl系金属間化合物の断面における面密度については、第1態様と同様に規定される。なお、本発明における合金成分では、所定添加量以下という場合は0%も含むものとする。
【0098】
8−3.選択元素
Mgは、接合加熱後においてMgSiによる時効硬化が生じ、この時効硬化によって強度向上が図られる。このように、Mgは強度向上の効果を発揮する添加元素である。Mg添加量が、2.0%を超えるとフラックスと反応して、高融点の化合物を形成するため著しく接合性が低下する。従って、Mgの添加量は2.0%以下とする。好ましいMgの添加量は、0.05%〜2.0%である。
【0099】
Cuは、マトリクス中に固溶して強度向上させる添加元素である。Cu添加量が、1.5%を超えると耐食性が低下する。従って、Cuの添加量は1.5%以下とする。好ましいCuの添加量は、0.05%〜1.5%である。
【0100】
本発明においては、強度や耐食性を更に向上させるために、上記添加元素以外の添加元素として、Ti、V、Cr、Ni及びZrを単独又は複数で選択的に添加することができる。以下に各選択的添加元素について述べる。
【0101】
Ti及びVは、マトリクス中に固溶して強度向上させる他に、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防ぐ効果がある。0.3%を超えると巨大晶出物が発生し、成形性、耐食性を阻害する。従って、Ti及びVの添加量は0.3%以下とするのが好ましく、0.05%〜0.3%とするのがより好ましい。
【0102】
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物の析出により、加熱後の結晶粒粗大化に作用する。0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Crの添加量は0.3%以下とするのが好ましく、0.05%〜0.3%とするのがより好ましい。
【0103】
Niは、金属間化合物として晶出又は析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。Niの添加量は、2.0%以下の範囲とするのが好ましく、0.05%〜2.0%の範囲とするのがより好ましい。Niの含有量が2.0%を超えると、粗大な金属間化合物を形成し易くなり、加工性を低下させ自己耐食性も低下する。
【0104】
ZrはAl−Zr系の金属間化合物として析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。また、Al−Zr系の金属間化合物は加熱中の結晶粒粗大化に作用する。0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Zrの添加量は0.3%以下とするのが好ましく、0.05%〜0.3%とするのがより好ましい。
【0105】
以上の主に強度向上のための選択的添加元素の他に、耐食性向上のための選択的添加元素を加えても良い。耐食性向上のための選択的添加元素としては、Zn、In、Snが挙げられる。
【0106】
Znの添加は、犠牲防食作用による耐食性向上に有効である。Znはマトリクス中にほぼ均一に固溶しているが、液相が生じると液相中に溶け出して液相のZnが濃化する。液相が表面に染み出すと、染み出した部分におけるZn濃度が上昇するため、犠牲陽極作用によって耐食性が向上する。また、本発明のアルミニウム合金材を熱交換器に応用する場合、本発明のアルミニウム合金材をフィンに用いることで、チューブ等を防食する犠牲防食作用を働かせることもできる。Zn添加量が6.0%を超えると腐食速度が速くなって自己耐食性が低下する。従って、Zn添加量は、6.0%以下が好ましく、0.05%〜6.0%がより好ましい。
【0107】
SnとInは、犠牲陽極作用を発揮する効果を奏する。それぞれの添加量が0.3%を超えると腐食速度が速くなり自己耐食性が低下する。従って、SnとInの添加量は、0.3%以下が好ましく、0.05%〜0.3%がより好ましい。
【0108】
上記アルミニウム合金材では、液相の特性改善を図ることにより接合性を更に良好にするための選択的元素を更に添加してもよい。このような元素としては、Be:0.1%以下、Sr:0.1%以下、Bi:0.1%以下、Na:0.1%以下、Ca:0.5%以下とするのが好ましく、これらの1種又は2種以上を必要に応じて添加される。なお、これら各元素のより好ましい範囲は、Be:0.0001%〜0.1%、Sr:0.0001%〜0.1%、Bi:0.0001%〜0.1%、Na:0.0001%〜0.1%、Ca:0.0001%〜0.5%である。これらの微量元素はSi粒子の微細分散、液相の流動性向上等によって接合性を改善することができる。これらの微量元素は、上記のより好ましい規定範囲未満では、Si粒子の微細分散や液相の流動性向上等の効果が不十分となる場合がある。また、上記のより好ましい規定範囲を超えると耐食性低下等の弊害を生じる場合がある。尚、Be、Sr、Bi、Na、Caの1種又が添加される場合においても、任意の2種以上が添加される場合においても、上記いずれの元素は上記好ましい又はより好ましい成分範囲内で添加される。
【0109】
ところで、Fe及びMnは、いずれもSiと共にAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成する。Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を生成するSiは液相の生成への寄与が小さいため、接合性が低下することになる。そのため、本発明に係るアルミニウム合金材でFe及びMnを添加する場合には、Si、Fe、Mnの添加量について留意することが好ましい。具体的には、Si、Fe、Mnの含有量(質量%)をそれぞれS、F、Mとしたとき、1.2≦S−0.3(F+M)≦3.5の関係式を満たすことが好ましい。S−0.3(F+M)が1.2未満の場合は、接合が不十分となる。一方、S−0.3(F+M)が3.5より大きい場合は、接合前後で形状が変化し易くなる。
【0110】
8−4.フィン材に用いるアルミニウム合金材の製造方法
上記第2の形態のフィン材に用いるアルミニウム合金材の製造方法について説明する。このアルミニウム合金材は、連続鋳造法、DC(Direct Chill)鋳造法又は押出法を用いて製造することができる。連続鋳造法としては、双ロール式連続鋳造圧延法や双ベルト式連続鋳造法等の連続的に板材を鋳造する方法であれば特に限定されるものではない。双ロール式連続鋳造圧延法とは、耐火物製の給湯ノズルから一対の水冷ロール間にアルミニウム溶湯を供給し、薄板を連続的に鋳造圧延する方法であり、ハンター法や3C法等が知られている。また、双ベルト式連続鋳造法は、上下に対峙し水冷されている回転ベルト間に溶湯を注湯してベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る連続鋳造方法である。
【0111】
双ロール式連続鋳造圧延法では、鋳造時の冷却速度がDC鋳造法に比べて数倍〜数百倍速い。例えば、DC鋳造法の場合の冷却速度が0.5〜20℃/secであるのに対し、双ロール式連続鋳造圧延法の場合の冷却速度は100〜1000℃/secである。そのため、鋳造時に生成する分散粒子が、DC鋳造法に比べて微細かつ高密度に分布する特徴を有する。この高密度に分布した分散粒子は、接合時においてこれら分散粒子の周囲のマトリクスと反応し、多量の液相を生成し易くすることができ、それによって良好な接合性が得られる。
【0112】
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の圧延板の速度は0.5m/分以上、3m/分以下が好ましい。鋳造速度は、冷却速度に影響を及ぼす。鋳造速度が0.5m/分未満の場合は、十分な冷却速度が得られず化合物が粗大になる。また、3m/分を超える場合は、鋳造時にロール間でアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な板状鋳塊が得られない。
【0113】
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の溶湯温度は、650〜800℃の範囲が好ましい。溶湯温度は、給湯ノズル直前にあるヘッドボックスの温度である。溶湯温度が650℃未満の温度では、給湯ノズル内に巨大な金属間化合物の分散粒子が生成し、それらが鋳塊に混入することで冷間圧延時の板切れの原因となる。溶湯温度が800℃を超えると、鋳造時にロール間でアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な板状鋳塊が得られない。より好ましい溶湯温度は680〜750℃である。
【0114】
また、鋳造する板厚は2mm〜10mmが好ましい。この厚さ範囲においては、板厚中央部の凝固速度も速く、均一組織な組織が得られ易い。鋳造板厚が2mm未満であると、単位時間当たりに鋳造機を通過するアルミニウム量が少なく、安定して溶湯を板幅方向に供給することが困難になる。一方、鋳造板厚が10mmを超えると、ロールによる巻取りが困難になる。より好ましい鋳造板厚は、4mm〜8mmである。
【0115】
得られた鋳造板材を最終板厚に圧延加工する工程中では、焼鈍を1回以上行っても良い。調質は用途に応じて適切な調質を選定する。通常はエロージョン防止のためにH1n又はH2n調質とするが、形状や使用方法によっては焼鈍材を使用しても良い。
【0116】
本発明に係るアルミニウム合金材をDC連続鋳造法で製造するに場合は、鋳造時のスラブやビレットの鋳造速度を制御するのが好ましい。鋳造速度は、冷却速度に影響を及ぼすので、20mm/分以上、100m/分以下が好ましい。鋳造速度が20mm/分未満の場合は、十分な冷却速度が得られず化合物が粗大化する。一方、100m/分を超える場合は、鋳造時にアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な鋳塊が得られない。より好ましい鋳造速度は、30mm/分以上、80mm/分以下である。
【0117】
DC連続鋳造時のスラブ厚さは、600mm以下が好ましい。スラブ厚さが600mmを超える場合は、十分な冷却速度が得られず金属間化合物が粗大になる。より好ましいスラブ厚さは、500mm以下である。
【0118】
DC鋳造法でスラブを製造した後は、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を必要に応じて行えばよい。また、用途に応じて調質が行われる。この調質は、通常はエロージョン防止のためにH1n又はH2nとするが、形状や使用方法によっては軟質材を使用しても良い。
【0119】
9.フィン材(第3の形態)
本発明の熱交換器は、接合する前の材料であるフィン材に単層で接合機能を有する材料を用いて製造することにより得られるが、第1、2の形態に係るフィン材に代えて以下に示す単層で接合機能を有する材料を用いて製造することによっても得られる。具体的には、必須元素としてSi濃度:1.0〜5.0%及びFe:0.01〜2.0%を含有し、残部Al及びMnを含む不可避的不純物からなるAl−Fe−Mn−Si系のアルミニウム合金を基本組成とし、その金属組織において、0.01μm以上0.5μm未満の円相当径を有するAl系金属間化合物が10〜1×10個/μm存在し、5.0μmを超え10μm以下の円相当径を有するSi系金属間化合物が200個/mm以下存在するアルミニウム合金を用いるものである。以下に、これらの特徴について説明する。
【0120】
9−1.必須元素について
Si濃度について
Si濃度について、SiはAl−Si系の液相を生成し、接合に寄与する元素である。但し、Si濃度が1.0%未満の場合は充分な量の液相を生成することができず、液相の染み出しが少なくなり、接合が不完全となる。一方、5.0%を超えるとアルミニウム合金材中の液相の生成量が多くなるため、加熱中の材料強度が極端に低下し、構造体の形状維持が困難となる。従って、Si濃度を1.0%〜5.0%と規定する。このSi濃度は、好ましくは1.5%〜3.5%であり、より好ましくは2.0%〜3.0%である。尚、染み出す液相の量は体積が大きく、加熱温度が高いほど多くなるので、加熱時に必要とする液相の量は、製造する構造体の構造に応じて必要となるSi量や接合加熱温度を調整することが望ましい。
【0121】
Fe濃度について
Fe濃度について、Feはマトリクスに若干固溶して強度を向上させる効果を有するのに加えて、晶出物や析出物として分散して特に高温での強度低下を防止する効果を有する。Feは、その添加量が0.01%未満の場合、上記の効果が小さいだけでなく、高純度の地金を使用する必要がありコストが増加する。また、2.0%を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、製造性に問題が生じる。また、本接合体が腐食環境(特に液体が流動するような腐食環境)に曝された場合には耐食性が低下する。更に、接合時の加熱によって再結晶した結晶粒が微細化して粒界密度が増加するため、接合前後で寸法変化が大きくなる。従って、Feの添加量は0.01%〜2.0%とする。好ましいFeの添加量は、0.2%〜1.0%である。
【0122】
9−2.Al系金属間化合物について
次に、本発明に係るアルミニウム合金材の金属組織における特徴について説明する。本発明に係るアルミニウム合金材は、MONOBRAZE法による接合加熱時に固相線温度以上に加熱される。この時、アルミニウム合金材は主に粒界すべりによって変形する。そこで、金属組織としては、(1)接合加熱時に結晶粒が粗大になることが望ましい。(2)また、粒界に液相が生成すると粒界すべりによる変形が起こり易くなるため、粒界での液相生成が抑制されることが望ましい。本発明では、加熱後の結晶粒が粗大になり、粒界での液相生成が抑制される金属組織を規定する。
【0123】
すなわち、本発明に係る単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材では、円相当径0.01μm以上0.5μm未満のAl系金属間化合物が分散粒子として存在する。このAl系金属間化合物は、Al−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Mn―Si系、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系化合物等、Alと添加元素によって生成する金属間化合物である。0.01μm以上0.5μm未満の円相当径を有するAl系金属間化合物は、加熱時に再結晶核とはならずに、結晶粒界の成長を抑制するピン止め粒子として働く。また、液相が生成する核となり、粒内の固溶Siを集める働きを有する。本発明に係るアルミニウム合金材は、円相当径0.01μm以上0.5μm未満のAl系金属間化合物を有するため、加熱時に再結晶核が無数に成長するのが抑制され、限られた再結晶核のみが成長するので、加熱後の結晶粒が粗大になる。また、粒内の固溶Siを集めることで、相対的に粒界での液相生成を抑制する。
【0124】
上記のAl系金属間化合物の効果は、Al系金属間化合物の体積密度が適切な範囲であることでより確実に発揮される。具体的には、材料中の任意部分において10〜1×10個/μmの体積密度で存在する。体積密度が10個/μm未満の場合には、ピン止め効果が小さすぎるため、成長することができる再結晶粒が多くなり、粗大な結晶粒が形成され難くなる。また、液相生成の核が少なくなるため、粒内の固溶Siを集める作用が十分に発揮されず、粒内の固溶Siが粒界で生成した液相の成長に寄与する割合が増加し、耐変形性が低下する。一方、体積密度が1×10個/μmを超える場合には、ピン止め効果が大きすぎるため、あらゆる再結晶粒の成長が抑制され、粗大な結晶粒が形成され難くなる。また、液相生成の核が多すぎるため、直接粒界に接してしまう液相が増加し、粒界の液相がより成長してしまう。適切な強さのピン止め効果により、限られた結晶粒のみが成長し、結晶粒が粗大化するため、及び適切な液相生成の核を形成し、粒内の固溶Siを集めて粒界での液相生成を抑制するためには、上記体積密度の範囲内とする。なお、この体積密度は、好ましくは50〜5×10個/μmであり、より好ましくは100〜1×10個/μmである。
【0125】
円相当径0.01μm未満のAl系金属間化合物は、実質的に測定が困難なため対象外とする。また、円相当径0.5μm以上のAl系金属間化合物は存在するが、ピン止め粒子としてはほとんど有効に作用しないため、本発明に係る効果に影響は小さく規定の対象外とする。また、円相当径0.5μm以上のAl系金属間化合物は液相生成の核としては作用し得る。しかしながら、粒内の固溶Siを集める効果は化合物表面からの距離で決まるため、円相当径0.5μm以上のAl系金属間化合物では、当該化合物の体積当りにおける固溶Si収集効果が小さくなることからも対象外とする。
【0126】
尚、Al系金属間化合物の円相当径は、電解研磨により薄肉加工したサンプルをTEM観察することで決定することができる。ここで、円相当径とは円相当直径をいう。TEM観察画像をSEM観察画像と同様に2次元像として画像解析することで接合前の円相当径を求めるのが好ましい。また、体積密度を算出するためには、TEM観察した各視野においてEELS法などを用いてサンプルの膜厚も測定する。TEM観察像を2次元像として画像解析した後、2次元像の測定面積にEELS法で測定した膜厚を乗じることで測定体積を求め、体積密度を算出する。サンプルの膜厚が厚すぎると、電子の透過方向に重複する粒子数が増えて正確な測定が困難になるので、膜厚50nm〜200nmの範囲となる部分を観察するのが望ましい。また、Si系金属間化合物とAl系金属間化合物は、EDSなどで元素分析することでより正確に区別することができる。
【0127】
以上説明した、Si、Fe濃度範囲及び金属組織に特徴を有する本発明に係る単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、接合加熱時にそれ自体が半溶融状態となって液相を供給することで接合を可能にするとともに、耐変形性にも優れる。
【0128】
9−3.Si系金属間化合物について
本発明に係るアルミニウム合金材では、上記Al系金属間化合物に関する規定に加えて、Si系金属間化合物に関しても規定する。本発明に係るアルミニウム合金材では、5.0μmを超え10μm以下の円相当径を有するSi系金属間化合物が、材料中の断面において200個/mm以下存在する。ここで、Si系金属間化合物とは、(1)単体Si、及び(2)単体Siの一部にCaやPなどの元素を含むものである。尚、材料中の断面とは、アルミニウム合金材の任意の断面であり、例えば厚さ方向に沿った断面でもよく、板材表面と平行な断面でもよい。材料評価の簡便性の観点から、厚さ方向に沿った断面を採用するのが好ましい。
【0129】
ここで、5.0μmを超え10μm以下の円相当径を有するSi系金属間化合物は、加熱時に再結晶の核となる。そのため、Si系金属間化合物の面密度が200個/mmを超えると、再結晶核が多いために結晶粒が微細になり、接合加熱中の耐変形性が低下する。Si系金属間化合物の面密度が200個/mm以下であれば、再結晶核の数が少ないため特定の結晶粒のみが成長し、粗大な結晶粒が得られ、接合加熱中の耐変形性が向上する。上記面密度は、好ましくは20個/mm以下である。なお、5.0μmを超え10μm以下の円相当径を有するSi系金属間化合物が少ないほど耐変形性が向上するため、上記面密度が0個/mmが最も好ましい。
【0130】
なお、Si系金属間化合物の円相当径を5.0μmを超え10μm以下に限定するのは、以下の理由による。円相当径が5.0μm以下のSi系金属間化合物は存在するが、再結晶の核としては働き難いため対象から除外した。また、円相当径が10μmを超えるSi系金属間化合物は、製造時に割れの原因となり製造が困難となる。従って、このように大きな円相当径を有するSi系金属間化合物はアルミニウム合金中に存在させることがないため、これも対象から除外した。
【0131】
尚、Si系金属間化合物の円相当径は、断面のSEM観察(反射電子像観察)を行うことで決定することができる。ここで、円相当径とは円相当直径をいう。SEM写真を画像解析することで、接合前の分散粒子の円相当径を求めることが好ましい。画像解析結果と測定面積から面密度を算出できる。また、Si系金属間化合物とAl系金属間化合物は、SEM−反射電子像観察で、コントラストの濃淡で区別することもできる。また、分散粒子の金属種は、EPMA(X線マイクロアナライザー)等でより正確に特定することができる。
【0132】
9−4.Si固溶量について
また、上記アルミニウム合金材では、上記Al系金属間化合物及びSi系金属間化合物の規定に加え、Si固溶量が規定される。本発明に係るアルミニウム合金材は、MONOBRAZE法による接合前において、Si固溶量が0.7%以下であることが好ましい。なお、このSi固溶量は、20〜30℃の室温における測定値である。上述のように固溶Siは加熱中に固相拡散し、周囲の液相の成長に寄与する。固溶Si量が0.7%以下であれば、固溶Siの拡散によって粒界に生成する液相量が少なくなり、加熱中の変形を抑制できる。一方、固溶Si量が0.7%を超えると、粒界に生成した液相に取り込まれるSiが増加する。その結果、粒界に生成する液相量が増加して、変形が起こり易くなる。より好ましい固溶Si量は、0.6%以下である。なお、固溶Si量の下限値は特に限定するものではないが、アルミニウム合金のSi含有量及び製造方法によって自ずと決まり、本発明では0%である。
【0133】
9−5.第1の選択的添加元素について
上述のように、本発明に係る単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、接合加熱中の耐変形性の向上のために、必須元素として所定量のSi及びFeを含有する。そして、強度を更に向上させるために、必須元素であるSi及びFeに加えて、所定量のMn、Mg及びCuから選択される1種又は2種以上が第1の選択的添加元素として更に添加される。なお、このような第1の選択的添加元素を含有する場合においても、Al系金属間化合物の体積密度及びSi系金属間化合物の面密度については、上記の通りに規定される。
【0134】
Mnは、SiやFeとともにAl−Mn−Si系、Al−Mn−Fe−Si系、Al−Mn−Fe系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる重要な添加元素である。Mn添加量が2.0%を超えると、粗大金属間化合物が形成され易くなり耐食性を低下させる。一方、Mn添加量が0.05%未満では、上記の効果が不十分となる。従って、Mn添加量は0.05〜2.0%以下とする。好ましいMn添加量は、0.1%〜1.5%である。
【0135】
Mgは、接合加熱後においてMgSiによる時効硬化が生じ、この時効硬化によって強度向上が図られる。このように、Mgは強度向上の効果を発揮する添加元素である。Mg添加量が、2.0%を超えるとフラックスと反応して、高融点の化合物を形成するため著しく接合性が低下する。一方、Mg添加量が0.05%未満では、上記の効果が不十分となる。従って、Mg添加量は0.05〜2.0%とする。好ましいMg添加量は、0.1%〜1.5%である。
【0136】
Cuは、マトリクス中に固溶して強度向上させる添加元素である。Cu添加量が、1.5%を超えると耐食性が低下する。一方、Cu添加量が0.05%未満では、上記の効果が不十分となる。従って、Cuの添加量は0.05〜1.5%とする。好ましいCu添加量は、0.1%〜1.0%である。
【0137】
9−6.第2の選択的添加元素について
本発明においては、耐食性を更に向上させるために、上記必須元素及び/又は第1の選択的添加元素に加えて、所定量のZn、In及びSnから選択される1種又は2種以上が第2の選択的添加元素として更に添加される。なお、このような第2の選択的添加元素を含有する場合においても、Al系金属間化合物の体積密度及びSi系金属間化合物の面密度については、上記の通りに規定される。
【0138】
Znの添加は、犠牲防食作用による耐食性向上に有効である。Znはマトリクス中にほぼ均一に固溶しているが、液相が生じると液相中に溶け出して液相のZnが濃化する。液相が表面に染み出すと、染み出した部分におけるZn濃度が上昇するため、犠牲陽極作用によって耐食性が向上する。また、本発明のアルミニウム合金材を熱交換器に応用する場合、本発明のアルミニウム合金材をフィンに用いることで、チューブ等を防食する犠牲防食作用を働かせることもできる。Zn添加量が6.0%を超えると腐食速度が速くなって自己耐食性が低下する。従って、Zn添加量は、6.0%以下とする。好ましいZn添加量は、0.05%〜6.0%である。
【0139】
SnとInは、犠牲陽極作用を発揮する効果を奏する。それぞれの添加量が0.3%を超えると腐食速度が速くなり自己耐食性が低下する。従って、SnとInの添加量はそれぞれ、0.3%以下とする。好ましいSnとInの添加量はそれぞれ、0.05%〜0.3%である。
【0140】
9−7.第3の選択的添加元素について
本発明においては、強度や耐食性を更に向上させるために、上記必須元素、第1の選択的添加元素及び第2の選択的添加元素の少なくともいずれかに加えて、所定量のTi、V、Cr、Ni及びZrから選択される1種又は2種以上が第3の選択的添加元素として更に添加される。なお、このような第3の選択的添加元素を含有する場合においても、Al系金属間化合物の体積密度及びSi系金属間化合物の面密度については、上記の通りに規定される。
【0141】
Ti及びVは、マトリクス中に固溶して強度向上させる他に、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防ぐ効果がある。それぞれの添加量が0.3%を超えると粗大晶出物が発生し、成形性、耐食性を阻害する。従って、Ti及びVの添加量はそれぞれ、0.3%以下とする。好ましいTi及びVの添加量はそれぞれ、0.05%〜0.3%である。
【0142】
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物の析出により、加熱後の結晶粒粗大化に作用する。添加量が0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Crの添加量は0.3%以下とする。好ましいCrの添加量は、0.05%〜0.3%である。
【0143】
Niは、金属間化合物として晶出又は析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。Niの添加量は、2.0%以下の範囲とし、好ましくは0.05%〜2.0%の範囲である。Niの含有量が2.0%を超えると、粗大な金属間化合物を形成し易くなり、加工性を低下させ自己耐食性も低下する。
【0144】
ZrはAl−Zr系の金属間化合物として析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。また、Al−Zr系の金属間化合物は加熱中の結晶粒粗大化に作用する。添加量が0.3%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。よって、Zrの添加量は0.3%以下とする。好ましいZrの添加量は、0.05%〜0.3%である。
【0145】
9−8.第4の選択的添加元素について
本発明に係るアルミニウム合金材では、液相の特性改善を図ることにより接合性を更に良好にするために、上記必須元素及び第1〜3の選択的添加元素の少なくともいずれかに加えて、所定量のBe、Sr、Bi、Na及びCaから選択される1種又は2種以上を第4の選択的添加元素として更に添加してもよい。なお、このような第4の選択的添加元素を含有する場合においても、Al系金属間化合物の体積密度及びSi系金属間化合物の面密度については、上記の通りに規定される。
【0146】
このような元素としては、Be:0.1%以下、Sr:0.1%以下、Bi:0.1%以下、Na:0.1%以下及びCa:0.05%以下の1種又は2種以上が必要に応じて添加される。なお、これら各元素の好ましい範囲は、Be:0.0001%〜0.1%、Sr:0.0001%〜0.1%、Bi:0.0001%〜0.1%、Na:0.0001%〜0.1%、Ca:0.0001%〜0.05%である。これらの微量元素はSi粒子の微細分散、液相の流動性向上等によって接合性を改善することができる。これらの微量元素は、上記の好ましい規定範囲未満では、Si粒子の微細分散や液相の流動性向上等の効果が不十分となる場合がある。また、上記の好ましい規定範囲を超えると耐食性低下等の弊害を生じる。
【0147】
9−9.Si、Fe、Mnの含有量の関係
ところで、Fe及びMnはいずれも、Siと共にAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成する。Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を生成するSiは液相の生成への寄与が小さいため、接合性が低下することになる。そのため、本発明に係るアルミニウム合金材でFe及びMnを添加する場合には、Si、Fe、Mnの含有量について留意することが好ましい。具体的には、Si、Fe、Mnの含有量(mass%)をそれぞれS、F、Mとしたとき、1.2≦S−0.3(F+M)≦3.5の関係式を満たすことが好ましい。S−0.3(F+M)が1.2未満の場合は、接合が不十分となる。一方、S−0.3(F+M)が3.5より大きい場合は、接合前後で形状が変化し易くなる。
【0148】
9−10.MONOBRAZE法による接合前における引張強さ
また、上記アルミニウム合金材は、MONOBRAZE法による接合前の引張強さが80〜250MPaであるものが好ましい。この引張強さが80MPa未満であると、製品の形状に成形するために必要な強度が足りず、成形することができない。この引張強さが250MPaを超えると、成形した後の形状保持性が悪く、接合体として組み立てたときに他の部材との間に隙間ができて接合性が悪化する。なお、MONOBRAZE法による接合前の引張強さは、20〜30℃の室温での測定値をいう。また、MONOBRAZE法による接合前の引張強さ(T0)と接合後の引張強さ(T)の比(T/T0)が、0.6〜1.1の範囲であることが好ましい。(T/T0)が0.6未満の場合には、材料の強度が不足し、構造体としての機能が損なわれる場合があり、1.1を超えると粒界での析出が過剰となり粒界腐食が起こりやすくなる場合がある。
【0149】
9−11.フィン材に用いるアルミニウム合金材の製造方法
9−11−1.鋳造工程
上記第3の形態のフィン材に用いるアルミニウム合金材の製造方法について説明する。このアルミニウム合金材は、連続鋳造法を用いて製造される。連続鋳造法では、凝固時の冷却速度が速いため、粗大な晶出物が形成され難く、円相当径5.0μm〜10μmのSi系金属間化合物の形成が抑制される。その結果、再結晶核の数が少なくできるため特定の結晶粒のみが成長し、粗大な結晶粒が得られる。また、Mn、Feなどの固溶量が大きくなるため、その後の加工工程で円相当径0.01μm〜0.5μmのAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の形成が促進される。このように、適切な強さのピン止め効果と、粒内の固溶Siを集める効果が得られる円相当径0.01μm〜0.5のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が形成されることにより、限られた結晶粒のみが成長し、粗大な結晶粒が得られ、かつ粒界での液相生成が抑制され、耐変形性が向上する。
【0150】
また、連続鋳造法では、円相当径0.01μm〜0.5のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の形成により、マトリクス中の固溶Si量が低下する。その結果、接合加熱中の粒界に供給される固溶Si量が更に減少し、粒界での液相生成が抑制され、耐変形性が向上する。
【0151】
連続鋳造法としては、双ロール式連続鋳造圧延法や双ベルト式連続鋳造法等の連続的に板状鋳塊を鋳造する方法であれば特に限定されるものではない。双ロール式連続鋳造圧延法とは、耐火物製の給湯ノズルから一対の水冷ロール間にアルミニウム溶湯を供給し、薄板を連続的に鋳造圧延する方法であり、ハンター法や3C法等が知られている。また、双ベルト式連続鋳造法は、上下に対峙し水冷されている回転ベルト間に溶湯を注湯してベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る連続鋳造方法である。
【0152】
双ロール式連続鋳造圧延法では、鋳造時の冷却速度が半連続鋳造法に比べて数倍〜数百倍速い。例えば、半連続鋳造法の場合の冷却速度が0.5〜20℃/秒であるのに対し、双ロール式連続鋳造圧延法の場合の冷却速度は100〜1000℃/秒である。そのため、鋳造時に生成する分散粒子が、半連続鋳造法に比べて微細かつ高密度に分布する特徴を有する。これにより粗大な晶出物の発生が抑制されるため、接合加熱中の結晶粒が粗大化する。また、冷却速度が速いために、添加元素の固溶量を増加させることができる。これにより、その後の熱処理によって微細な析出物が形成され、接合加熱中の結晶粒粗大化に寄与することができる。本発明においては、双ロール式連続鋳造圧延法の場合の冷却速度を100〜1000℃/秒とするのが好ましい。100℃/秒未満では目的の金属組織を得ることが困難となり、1000℃/秒を超えると安定した製造が困難となる。
【0153】
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の圧延板の速度は0.5〜3m/分が好ましい。鋳造速度は、冷却速度に影響を及ぼす。鋳造速度が0.5m/分未満の場合は、上記のような十分な冷却速度が得られず化合物が粗大になる。また、3m/分を超える場合は、鋳造時にロール間でアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な板状鋳塊が得られない。
【0154】
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の溶湯温度は、650〜800℃の範囲が好ましい。溶湯温度は、給湯ノズル直前にあるヘッドボックスの温度である。溶湯温度が650℃未満の温度では、給湯ノズル内に粗大な金属間化合物の分散粒子が生成し、それらが鋳塊に混入することで冷間圧延時の板切れの原因となる。溶湯温度が800℃を超えると、鋳造時にロール間でアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な板状鋳塊が得られない。より好ましい溶湯温度は680〜750℃である。
【0155】
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する板状鋳塊の板厚は2mm〜10mmが好ましい。この厚さ範囲においては、板厚中央部の凝固速度も速く、均一組織な組織が得られ易い。板厚が2mm未満であると、単位時間当たりに鋳造機を通過するアルミニウム量が少なく、安定して溶湯を板幅方向に供給することが困難になる。一方、板厚が10mmを超えると、ロールによる巻取りが困難になる。より好ましい板状鋳塊の板厚は、4mm〜8mmである。
【0156】
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造された板状鋳塊を最終板厚に冷間圧延する工程中において、250〜550℃で1〜10時間の範囲で焼鈍を行う。この焼鈍は鋳造後の製造工程において、最終冷間圧延を除くどの工程で行っても良く、1回以上行う必要がある。なお、焼鈍の回数の上限は好ましくは3回、より好ましくは2回である。この焼鈍は、材料を軟化させて最終圧延で所望の材料強度を得易くするために行われ、この焼鈍により材料中の金属間化合物のサイズ及び密度、添加元素の固溶量を最適に調整することが出来る。焼鈍温度が250℃未満では、材料の軟化が不十分なために、ろう付け加熱前のTSが高くなる。ろう付け加熱前のTSが高いと、成形性に劣るためコア寸法が悪化し、結果として耐久性が低下する。一方、550℃を超えた温度で焼鈍を行うと、製造工程中の材料への入熱量が多くなりすぎるために、金属間化合物が粗大かつ疎に分布することになる。粗大かつ疎に分布した金属間化合物は、固溶元素を取り込み難く、材料中の固溶量が低下し難い。また、1時間未満の焼鈍温度では上記の効果が十分ではなく、10時間を越えた焼鈍時間では上記の効果が飽和しているために経済的に不利となる。
【0157】
また、調質はO材でもよくH材でもよい。H1n材またはH2n材とする場合は、最終冷間圧延率が重要である。最終冷間圧延率は50%以下であり、好ましい最終冷間圧延率は5%〜50%である。最終冷間圧延率が50%を超えると、加熱時に再結晶核が多数発生し、接合加熱後の結晶粒径が微細になる。なお、最終冷間圧延率が5%未満では、製造が実質上に困難となる場合がある。
【0158】
9−11−2.双ロール式連続鋳造圧延法における金属間化合物密度の制御
上述の双ロール式連続鋳造圧延法とその後の製造工程により、半連続鋳造に比べて分散粒子を微細にすることが可能である。しかしながら、本発明に係るアルミニウム合金材の金属組織を得るためには、凝固時の冷却速度をより精密に制御することが重要となる。本発明者らは、上記冷却速度の制御が、アルミコーティング厚みの制御及び圧延荷重による溶湯内サンプ制御によって可能であることを見出した。
【0159】
9−11−3.アルミコーティング厚みの制御
アルミコーティングとは、アルミニウム及び酸化アルミニウムを主成分とする皮膜である。鋳造中にロール表面に形成されるアルミコーティングは、ロール表面と溶湯の濡れを良くし、ロール表面と溶湯間の熱伝達を向上させる。アルミコーティングを形成するためには、680〜740℃のアルミニウム溶湯を500N/mm以上の圧延荷重にて双ロール式連続鋳造圧延を実施してもよく、或いは、双ロール式連続鋳造圧延開始前に300℃以上に加熱した展伸材用アルミニウム合金板を圧下率20%以上で2回以上圧延させてもよい。アルミコーティング形成に使用するアルミニウム溶湯又はアルミニウム合金板は、添加元素の少ない1000系合金が特に好ましいが、その他のアルミニウム合金系を用いてもコーティング形成は可能である。鋳造中、アルミコーティング厚みは常に増加するため、窒化ホウ素、または炭素系離型剤(グラファイトスプレー、もしくは煤)をロール表面に10μg/cmで塗布し、アルミコーティングの更なる形成を抑制する。また、ブラシロール等で物理的に除去することも可能である。
【0160】
アルミコーティング厚みは1〜500μmとするのが好ましい。これにより、溶湯の冷却速度が最適に調整され、接合加熱時の耐変形性に優れる金属間化合物密度とSi固溶量を有するアルミニウム合金を鋳造することが可能となる。アルミコーティング厚みが1μm未満では、ロール表面と溶湯の濡れ性が悪いため、ロール表面と溶湯の接触面積が小さくなる。これにより、ロール表面と溶湯の熱伝達性が悪化し、溶湯の冷却速度が低下する。その結果、金属間化合物が粗大化し、所望の金属間化合物密度を得られない。また、ロール表面と溶湯の濡れ性が悪いと、ロール表面と溶湯が局所的に非接触となる場合もある。その場合、鋳塊が再溶解して溶質濃度の高い溶湯が鋳塊表面へ染み出して表面偏析が生じ、鋳塊表面において粗大な金属間化合物が形成される虞もある。一方、アルミコーティング厚みが500μmを超えると、ロール表面と溶湯の濡れ性は向上するものの、コーティングが厚すぎるためにロール表面及び溶湯間の熱伝達性は著しく悪化する。その結果、この場合も溶湯の冷却速度が低下するため、金属間化合物が粗大化し、所望の金属間化合物密度及びSi固溶量を得られない。アルミコーティング厚みは、より好ましくは80〜410μmである。
【0161】
9−11−4.圧延荷重による溶湯内サンプ制御
連続鋳造板の金属間化合物密度については、本来凝固時の冷却速度を制御して操作することが望ましい。但し、鋳造中の冷却速度測定は非常に困難であり、オンラインで計測できるパラメータにて金属間化合物密度を制御することが必要とされる。
【0162】
双ロール式連続鋳造圧延法は、図3、4に示すように、上下に対向配置された金属製冷却ロール2A、2Bとロール中心線3とノズルチップ4の出口に囲まれた領域2に、耐火物製のノズルチップ4を介してアルミニウム合金の溶湯1を注入して実施される。ここで、連続鋳造中の領域2は、圧延領域5と非圧延領域6に大別できる。圧延領域5におけるアルミニウム合金は凝固が完了し鋳塊となっており、ロールの圧下に対してロール分離力が発生する。一方、非圧延領域6におけるアルミニウム合金は、ロール近傍の凝固は完了しているものの、板厚中央部は未凝固の溶湯として存在しているため、ロール分離力は発生しない。凝固開始点7の位置は、鋳造条件を変化させても、ほぼ移動しない。そのため、鋳造速度を速く、又は、溶湯温度を高くして、図3に示すように圧延領域5を小さくすると溶湯内サンプは深くなり、結果として冷却速度は低下する。反対に鋳造速度を遅く、又は、溶湯温度を低くして、図4に示すように圧延領域5を大きくすると溶湯内サンプは浅くなり、冷却速度は増加する。このように、冷却速度は、圧延領域の増減、すなわちロール分離力の垂直成分である圧延荷重8の計測によって制御可能である。なお、溶湯内サンプとは、鋳造時の凝固部と未凝固部の固液界面のことであり、この界面が圧延方向に深く入りこんで谷型を形成している場合はサンプが深いと言い、反対に圧延方向に入りこまず平坦に近い界面を形成している場合はサンプが浅いという。
【0163】
上記圧延荷重は、500〜5000N/mmとするのが好ましい。圧延荷重が500N/mm未満では、図1に示すように圧延領域4が小さく、溶湯内サンプが深い状況となる。これにより冷却速度が低くなり、粗大な晶出物が形成され易く、微細な析出物は形成され難くなる。その結果、接合加熱中に粗大な晶出物を核とする再結晶粒が増加し、結晶粒が微細になるため変形し易くなる。また、微細な析出物が疎になることで適切なピン止め効果が得られず、Si固溶量も多くなるために接合加熱中において粒界に生成する液相が増加し、変形し易くなる。更に、溶質原子が板厚中央部に集まり、中心線偏析を起こす要因ともなる。
【0164】
一方、圧延荷重が5000N/mmを超えると、図2に示すように圧延領域5が大きく、溶湯内サンプが浅い状況となる。これにより、冷却速度が高くなりすぎ、Al系金属間化合物分布が過密となる。その結果、接合加熱中にピン止め効果が働きすぎて結晶粒が微細となり、変形し易くなる。また、ロール表面からの抜熱量が大きいため、ロール表面と非接触の溶湯(メニスカス部9)まで凝固が進行する。そのため、鋳造中の溶湯供給が不十分となり、リップルが深くなって鋳塊表面における表面欠陥が生じる。この表面欠陥は、圧延時の割れの起点となり得る。
【0165】
9−11−5.圧延荷重の測定方法
双ロール式連続鋳造圧延法においては、鋳造中に鋳塊がロールを押し上げる力と、鋳造前から鋳造中まで上下ロール間にかかる一定の力が発生する。これら2つの力の和は、ロール中心線に平行な成分として、油圧式シリンダにて計測することが可能である。したがって、圧延荷重は、鋳造開始前と鋳造中におけるシリンダ圧の増加分を力に変換し、鋳造板の幅で割ることで求められる。例えば、シリンダ数が2個、シリンダ径が600mm、1つのシリンダ圧の増加が4MPa、鋳造中の圧延板の幅が1500mmであった場合、板状鋳塊の単位幅あたりの圧延荷重は、下記式から1508N/mmとなる。
4×300×π÷1500×2=1508N/mm
【0166】
10.その他の部材
また、本発明の熱交換器の製造に用いる材料としてフィン材以外の部材については、特に規定しないが以下のような形態であるのが好ましい。
【0167】
フィン材に組み合わせるチューブ材は、外面にろう材を有していないろう付可能なアルミニウム合金材であれば良い。たとえば、3000系や1000系の押出多穴管や、3000系の心材の外面に7000系の犠牲陽極材をクラッドした電縫管などが用いられる。これらチューブ材は、熱交換器チューブの耐食性を向上させるために、更に表面にZn溶射やZn置換フラックスの塗布などが施されたものであっても良い。
【0168】
チューブ材の両端に配されるヘッダ材は、チューブ材を接合する為のろうが供給されるアルミニウム合金部材であることが好ましい。具体的には、素材として3000系の心材の片面又は両面に4000系ろう材をクラッドしたブレージングシート、前記構成のブレージングシートを電縫加工した管、3000系の心材の片面又は両面に4000系ろう材をクラッドした押出・抽伸材、3000系の押出・抽伸材にペーストろうを塗布したものなどが用いられる。これら材料は、熱交換器ヘッダの耐食性を向上させるために、更に犠牲陽極材のクラッド、表面へのZn溶射やZn置換フラックスの塗布などが施されたものであっても良い。これら材料にプレス加工を施して、ヘッダ材として供される。
【0169】
11.熱交換器の製造方法
本発明に係る熱交換器は、上記各部材を熱交換器の形状に組んだ後、フラックス塗布などの処理を施し、炉で加熱接合を行い製造される。
【0170】
本発明に係る熱交換器の製造方法、特に接合方法について以下に詳述する。本発明に係る熱交換器では、ろう材を使用することなく、アルミニウム合金のフィン材自体が発揮する接合能力を利用するものであるが、熱交換器のフィン材としての利用を考慮すれば、フィン材自身の変形が大きな課題となる。また、この接合中において、上述の熱交換器フィンの金属組織が形成される。そのため、接合加熱条件を管理することが重要である。具体的には、本発明に用いるフィン材内部に液相が生成する固相線温度以上で液相線温度以下の温度であって、かつ、フィン材に液相が生成し、強度が低下して形状を維持できなくなる温度以下の温度において、接合に必要な時間加熱するものである。
【0171】
更に具体的な加熱条件としては、フィン材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比(以下、「液相率」と記す。)が5%以上35%以下となる温度で接合する必要がある。液相が少ないと接合が困難であるため、液相率は5%以上にすることが好ましい。液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎて、接合加熱時にアルミニウム合金材が大きく変形してしまい形状を保てなくなる。好ましい液相率は5〜30%であり、より好ましい液相率は10〜20%である。
【0172】
また、液相がフィン材と他の部材間に十分に充填される為にはその充填時間も考慮することが好ましく、液相率が5%以上の時間が30秒以上3600秒以内であるのが好ましい。より好ましくは、液相率が5%以上の時間が60秒以上1800秒以内であり、これにより更に十分な充填が行われ確実な接合がなされる。液相率が5%以上の時間が30秒未満では、接合部に液相が十分に充填されない場合がある。更には、結晶粒界の周囲の領域Bが十分に形成されず、十分な耐食性能を得られない虞がある。一方、液相率が5%以上の時間が3600秒を超えると、アルミニウム合金材の変形が進行する場合がある。更には、結晶粒界の周囲の領域Bが過剰に形成される虞がある。なお、本発明における接合方法では、液相は接合部の極近傍においてしか移動しないので、この充填に必要な時間は接合部の大きさには依存しない。
【0173】
好ましい加熱条件の具体例としては、本発明に係る上記アルミニウム合金材の場合、580〜640℃を接合温度とし、接合温度での保持時間を0分〜10分程度とすればよい。ここで、0分とは、部材の温度が所定の接合温度に到達したら直ちに冷却を開始することを意味する。上記保持時間は、より好ましくは30秒から5分である。一方、接合温度については、組成より上記規定の液相率となる温度に設定する。
【0174】
なお、加熱中における実際の液相率を測定することは極めて困難である。そこで、本発明で規定する液相率は、通常、平衡状態図を利用して、合金組成と最高到達温度から、てこの原理(lever rule)によって求めることができる。既に状態図が明らかになっている合金系においては、その状態図を使用し、てこの原理を用いて液相率を求めることができる。一方、平衡状態図が公表されていない合金系に関しては、平衡計算状態図ソフトを利用して液相率を求めることができる。平衡計算状態図ソフトには、合金組成と温度を用いて、てこの原理で液相率を求める手法が組み込まれている。平衡計算状態図ソフトには、Thermo−Calc;Thermo−Calc Software AB社製などがある。平衡状態図が明らかになっている合金系においても、平衡計算状態図ソフトを用いて液相率を計算しても、平衡状態図からてこの原理を用いて液相率を求めた結果と同じ結果となるので、簡便化のために、平衡計算状態図ソフトを利用しても良い。
【0175】
また、加熱処理における加熱雰囲気は窒素やアルゴン等で置換した非酸化性雰囲気等が好ましい。また、非腐食性フラックスを使用することで更に良好な接合性を得ることができる。更に、真空中や減圧中で加熱して接合することも可能である。
【0176】
上記非腐食性フラックス塗布する方法には、被接合部材を組み付けた後、フラックス粉末を振りかける方法や、フラックス粉末を水に懸濁してスプレー塗布する方法等が挙げられる。予め材料に塗装する場合には、フラックス粉末にアクリル樹脂等のバインダーを混合して塗布すれば、塗装の密着性を高めることができる。通常のフラックスの機能を得るために用いる非腐食性フラックスとしては、KAlF、KAlF、KAlF・HO、KAlF、AlF、KZnF、KSiF等のフッ化物系フラックスや、CsAlF、CsAlF・2HO、CsAlF・HO等のセシウム系フラックスが挙げられる。
【0177】
本発明に係る熱交換器フィン用のアルミニウム合金材は、上記のような加熱処理及び加熱雰囲気の制御により良好に接合することができる。但し、フィン材は薄肉材であるので、内部に発生する応力が高過ぎると形状を維持できない場合がある。特に接合時の液相率が大きくなる場合、フィン材内に発生する応力は比較的小さな応力に留めたほうが良好な形状を維持できる。このようにフィン材内の応力を考慮することが好ましい場合、フィン材内に発生する応力のうちの最大値をP(kPa)、液相率をV(%)とした場合、P≦460−12Vの条件を満たせば、非常に安定した接合が得られる。この式の右辺(460−12V)で示される値は限界応力であり、これを超える応力がフィン材に加わると大きな変形が発生する虞がある。フィン材内に発生する応力は、形状と荷重から求められる。例えば、構造計算プログラム等を用いて計算することができる。
【実施例】
【0178】
1.第2形態のフィン材を用いた第1実施例
フィン、チューブ及びヘッダを下記材料を用いて形成し、これらを図5に示すような熱交換器の形状に組み付けた後、全体を接合加熱し、熱交換器を製造した。
【0179】
フィン材の作製
表1の合金組成の試験材を用いた。表1において、合金組成の「−」は検出限界以下であることを示すものであり、「残部」は不可避的不純物を含む。上記試験材を用いて、鋳造鋳塊を製造した。F1、F3については、DC鋳造法で厚さ400mm、幅1000mm、長さ3000mmのサイズで鋳造した。鋳造速度は40mm/分とした。鋳塊を面削して厚さを380mmとした後、熱間圧延前の加熱保持工程として鋳塊を500℃まで加熱してその温度で5時間保持し、次いで熱間圧延工程にかけた。熱間圧延工程の熱間粗圧延段階では、総圧下率を93%としこの段階で厚さ27mmまで圧延した。更に、熱間粗圧延段階において、15%以上の圧下率となるパスを5回とした。熱間粗圧延段階後に、圧延材を更に熱間仕上圧延段階にかけて3mm厚まで圧延した。その後の冷間圧延工程において、圧延板を0.09mm厚まで圧延した。更に、圧延材を380℃で2時間の中間焼鈍工程にかけ、最後に最終冷間圧延段階にて最終板厚0.07mmまで圧延して供試材とした。
【0180】
F2の試験材については、双ロール式連続鋳造圧延法(CC)により鋳造鋳塊を製造した。双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の溶湯温度は650〜800℃であり、鋳造速度は0.6m/分とした。なお、冷却速度については、直接的な測定が困難であるが、上述のように、アルミコーティング厚みの制御及び圧延荷重による溶湯内サンプ制御によって、300〜700℃/秒の範囲となっているものと考えられる。このような鋳造工程により、幅130mm、長さ20000mm、厚さ7mmの鋳造鋳塊を得た。次に、得られた板状鋳塊を0.7mmまで冷間圧延し、420℃×2時間の中間焼鈍後に、0.071mmまで冷間圧延し、350℃×3時間の2回目の焼鈍の後に、0.050mmまで最終冷間圧延率30%で圧延して供試材とした。
【0181】
【表1】
【0182】
CCでの鋳造時には、溶湯温度680℃〜750℃において結晶粒微細化剤を投入した。その際溶湯保持炉と給湯ノズル直前にあるヘッドボックスの間を連結する樋を流れる溶湯に対して、ワイヤー状の結晶粒微細化剤ロッドを用いて一定速度で連続的に投入した。結晶粒微細化剤はAl−5Ti−1B合金を使用して、B量換算で0.002%となるよう添加量を調整した。
【0183】
また、F4については、上記幅1000mm、長さ3000mm、厚さ400mmのDC鋳造鋳塊に、表1に示す皮材(ろう材)をクラッドして二層ブレージングシートとした。クラッド後の冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延し、2回目の焼鈍、最終冷間圧延は、他のフィン材と同様にして行った。
【0184】
また、製造した板材(素板)中のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物の数密度のうち、円相当径0.01〜0.5μm未満のものは、板厚方向に沿った断面のTEM観察により測定した。TEM観察用サンプルは電解エッチングを用いて作成した。平均的に50〜200μmの膜厚である視野を選択して観察した。Si系金属間化合物とAl系金属間化合物とは、STEM−EDSによりマッピングを行うことで区別することができる。観察は各サンプル100000倍で10視野ずつ行い、それぞれのTEM写真を画像解析することで円相当径0.01〜0.5μm未満のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物数を測定し、測定面積で割って数密度を算出した。
【0185】
また、製造した板材(素板)中のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物のうち、0.5〜5μm未満のもの、5〜10μmのもの、ならびに、0.5μm〜5μm、5μm超〜10μmSi系金属間化合物の数密度は、板厚方向に沿った断面をSEM観察により測定した。Si系金属間化合物とAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物は、SEM−反射電子像観察とSEM−二次電子像観察を用いて区別した。反射電子像観察では、白いコントラストが強く得られるものがAl系金属間化合物であり、白いコントラストが弱く得られるものはSi系金属間化合物である。Si系金属間化合物はコントラストが弱いため、微細な粒子などは判別がつき難いことがある。その場合は表面研磨後コロイダルシリカ系研濁液で10秒程度エッチングしたサンプルをSEM−二次電子像観察した。黒いコントラストが強く得られる粒子がSi系金属間化合物である。観察は各サンプル5視野ずつ行い、それぞれの視野のSEM写真を画像解析することで、サンプル中の円相当径0.5〜5μm未満、5〜10μmのAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物、および0.5μm〜5μm、5μm超〜10μmのSi系金属間化合物の数密度を調べた。
【0186】
以上のAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物とSi系金属間化合物の数密度を、表1に併せて示す。
【0187】
フィン材は、板厚0.07mmのフィン材をコルゲート加工し、フィン山高さ8mmm、フィンピッチ3mm、長さ400mmとしたコルゲートフィン材とした。
【0188】
チューブは、表2の合金組成の試験材を用いた。表2に示すように、長さ440mmの押出多穴管をチューブ材とした。また、チューブ材外面の状態も、表2に併せて示す。
【0189】
【表2】
【0190】
ヘッダは、表3に示す肉厚1.3mm、直径20mmのクラッド管(心材+皮材(ろう材))を長さ400mmに切断し、チューブ厚さとフィン山高さに合わせて合計30箇所のチューブ差込穴の加工を施したものを用いた。
【0191】
【表3】
【0192】
これらの部材を図5の形状に組み付け、フッ化物フラックスを表面から全体に塗布した後、窒素雰囲気炉で加熱し接合を行った。各部材の組合せは表4に示した。組付体の加熱の際における最高到達温度は605℃とした。組付体の温度が400℃以上であるときの炉内の酸素濃度は100ppm以下、露点は−40℃以下となるよう制御した。また、これらの部材が600℃〜605℃の間に保持される時間を30分とした。
【0193】
完成した各熱交換器について、フィンの断面観察を実施した。まず、結晶粒界の周囲の領域Bとその周囲の領域Aの有無を観察した。次に、領域Bに存在する、0.1〜2.5μmの粒径を有するAl−Fe−Mn−Si系化合物の平均面積sを、図2により上述のようにして求めた。更に、フィン表面における領域Aの面積占有率aは、上述のように図6によりフィン長さ合計1mmの視野の断面から、表面の全長に対する領域Aが存在する部位の長さの和の割合として求めた。また、フィンのL−LT断面でのAlマトリクスの結晶粒径をLμm、L−ST断面でのAlマトリクスの結晶粒径をTμmとして、上述のようにしてL/Tを求めた。更に、接合加熱後のフィンの自然電位と、フィンの自然電位−フィレットの自然電位を測定した。自然電位は、Ag/AgCl電極を用い、純水中に重量比で5%のNaClを溶解させ、さらに酢酸を添加してpH3にした溶液内で測定した。また、測定するサンプルには、熱交換器より切り出し、測定部位(フィンあるいはフィレット)以外をマスキングしたサンプルを用いた。
【0194】
以上のようにして作製した熱交換器に対して、腐食試験としてSWATT試験を実施した。試験時間を1000時間とし、試験終了後にチューブの漏れの有無を評価した。その後、チューブの漏れが無かった熱交換器の中央部より図7に示すようなサンプルを切り出し、腐食生成物を除去した後に樹脂に埋め込み、断面研磨後、断面観察を行った。そして、フィン長さ合計2mmの視野の断面から、図7に示すように定義した中抜け腐食部の有無を観察した。すなわち、腐食試験後のフィンの断面を観察し、その視野内でのフィンの最外部より内側に、所定以上の腐食があるか否かで中抜け腐食の有無と程度を判断した。そして、視野内に1箇所でも図7aに示すようなL150μm×t70μmのガイドが納まる腐食が存在する場合を×、視野内に×となる腐食は無いもののL150μm×t30μmのガイドが納まる腐食が1箇所でも存在する場合を△、それ以外を○と判定した。
【0195】
以上の結果を、表4に示す。
【0196】
【表4】
【0197】
実施例1〜5では、チューブの漏れがなく、かつ、腐食試験後もフィンの中抜け腐食の評価結果が△以上となり、良好な結果が得られた。
【0198】
一方、比較例6及び7では、結晶粒界の周囲に領域Bが形成されず、チューブ漏れは発生しなかったものの、中抜け腐食が顕著に現れた。
【0199】
2.第2形態のフィン材を用いた第2実施例
フィン、チューブ及びヘッダを下記材料を用いて形成し、第1実施例と同様に熱交換器の形状に組み付けた後、全体を接合加熱し、熱交換器を製造した。
【0200】
フィン材用に、表5の合金組成の試験材を用いた。表5において、合金組成の「−」は検出限界以下であることを示すものであり、「残部」は不可避的不純物を含む。この第2実施例では、フィン材中の微量添加元素の影響を検討した。
【0201】
【表5】
【0202】
上記試験材を用いて、鋳造鋳塊を製造した。F5〜F30は、第1実施例のF1、F3と同様にして加工した。また、製造した板材(素板)の粒子分布評価も、第1実施例と同様に行った。測定したAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物とSi系金属間化合物の数密度を、表6に示す。
【0203】
【表6】
【0204】
次に、第1実施例と同様にしてコルゲートフィン材に加工し、第1実施例で用いたのと同じチューブ材及びヘッダ材と組み合わせて熱交換器を作成した。このようにして作成した熱交換器を、第1実施例と同様に評価した。評価結果を表7に示す。
【0205】
【表7】
【0206】
実施例6〜31では、チューブの漏れがなく、かつ、腐食試験後もフィンの中抜け腐食の評価結果が○となり、良好な結果が得られた。
【0207】
3.第2形態のフィン材を用いた第3実施例
フィン、チューブ及びヘッダを下記材料を用いて形成し、第1実施例と同様に熱交換器の形状に組み付けた後、全体を接合加熱し、熱交換器を製造した。この第3実施例では、主要添加元素の影響を検討した。
【0208】
フィン材の作製
まず、表8に示す合金組成の鋳造鋳塊を製造した。表8において、合金組成の「−」は検出限界以下であることを示すものであり、「残部」は不可避的不純物を含む。F31、F33〜F41、F43については、DC鋳造法で厚さ400mm、幅1000mm、長さ3000mmのサイズで鋳造した。鋳造速度は40mm/分とした。鋳塊を面削して厚さを380mmとした後、熱間圧延前の加熱保持工程として鋳塊を500℃まで加熱してその温度で5時間保持し、次いで熱間圧延工程にかけた。熱間圧延工程の熱間粗圧延段階では、総圧下率を93%としこの段階で厚さ27mmまで圧延した。更に、熱間粗圧延段階において、15%以上の圧下率となるパスを5回とした。熱間粗圧延段階後に、圧延材を更に熱間仕上圧延段階にかけて3mm厚まで圧延した。その後の冷間圧延工程において、圧延板を0.145mm厚まで圧延した。更に、圧延材を380℃で2時間の中間焼鈍工程にかけ、最後に最終冷間圧延段階にて最終板厚0.115mmまで圧延して供試材とした。
【0209】
【表8】
【0210】
F32の試験材については、双ロール式連続鋳造圧延法(CC)により鋳造鋳塊を製造した。双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の溶湯温度は650〜800℃であり、鋳造速度は0.6m/分とした。なお、冷却速度については、直接的な測定が困難であるが、上述のように、アルミコーティング厚みの制御及び圧延荷重による溶湯内サンプ制御によって、300〜700℃/秒の範囲となっているものと考えられる。このような鋳造工程により、幅130mm、長さ20000mm、厚さ7mmの鋳造鋳塊を得た。次に、得られた板状鋳塊を0.7mmまで冷間圧延し、420℃×2時間の中間焼鈍後に、0.1mmまで冷間圧延し、350℃×3時間の2回目の焼鈍の後に、0.07mmまで最終冷間圧延率30%で圧延して供試材とした。
【0211】
CCでの鋳造時には、溶湯温度680℃〜750℃において結晶粒微細化剤を投入した。その際溶湯保持炉と給湯ノズル直前にあるヘッドボックスの間を連結する樋を流れる溶湯に対して、ワイヤー状の結晶粒微細化剤ロッドを用いて一定速度で連続的に投入した。結晶粒微細化剤はAl−5Ti−1B合金を使用して、B量換算で0.002%となるよう添加量を調整した。
【0212】
また、製造した板材(素板)の粒子分布評価も、第1実施例と同様に行った。測定したAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物とSi系金属間化合物の数密度を、表9に示す。
【0213】
【表9】
【0214】
フィン材は、板厚0.115mmのフィン材をコルゲート加工し、フィン山高さ8mmm、フィンピッチ3mm、長さ400mmとしたコルゲートフィン材とした。チューブ及びヘッダは、第1実施例で用いたものと同じものを用いた。
【0215】
これらの部材を図5の形状に組み付け、フッ化物フラックスを表面から全体に塗布した後、窒素雰囲気炉で加熱し接合を行った。組付体の加熱の際における最高到達温度は605℃とした。組付体の温度が400℃以上であるときの炉内の酸素濃度は100ppm以下、露点は−40℃以下となるよう制御した。また、これらの部材が600℃〜605℃の間に保持される時間を3分とした。
【0216】
このようにして作製した熱交換器を、第1実施例と同様に評価した。評価結果を表10に示す。
【0217】
【表10】
【0218】
実施例32〜40では、チューブの漏れがなく、かつ、腐食試験後もフィンの中抜け腐食の評価結果が△以上となり、良好な結果が得られた。
【0219】
比較例41、42、44では、チューブの漏れがなかったが、フィンの中抜け腐食が顕著に現れたため、評価は×となった。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明によれば、高腐食環境下でも長期間にわたって作動流体漏れが発生せず、かつ、腐食による冷却性能の低下が抑制される熱交換器が得られる。例えば、ルームエアコン用熱交換器やカーエアコン用熱交換器に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0221】
1・・・アルミニウム合金の溶湯
2・・・領域
2A・・・ロール
2B・・・ロール
3・・・ロール中心線3
4・・・ノズルチップ
5・・・圧延領域
6・・・非圧延領域
7・・・凝固開始点
8・・・圧延荷重
9・・・メニスカス部
n・・・結晶粒数
t・・・板厚
T・・・L−ST断面におけるAlマトリクスの板厚方向の結晶粒の平均長さ
【要約】
【課題】高腐食環境下においてもフィンの中抜け腐食を抑制し、冷却性能を長期間保持できる熱交換器、ならびに、当該熱交換器用フィン材を提供する。
【解決手段】作動流体が流通するアルミニウム材のチューブと、当該チューブに金属的に接合されたアルミニウム材のフィンとを含む熱交換器であって、前記フィンが、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.0×10個/mm未満存在する領域Bを結晶粒界の周囲に有し、かつ、当該領域Bの周囲に、0.1〜2.5μmの円相当径を有するAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が5.0×10〜1.0×10個/mm存在する領域Aを有することを特徴とする熱交換器、ならびに、当該熱交換器用フィン材。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13