(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698468
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】モデル予測制御においてフィードバック及びフィードフォワードを組み合わせるための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G05B 11/32 20060101AFI20150319BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
G05B11/32 F
G05B13/02 J
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-121407(P2010-121407)
(22)【出願日】2010年5月27日
(65)【公開番号】特開2010-282618(P2010-282618A)
(43)【公開日】2010年12月16日
【審査請求日】2013年5月20日
(31)【優先権主張番号】12/476,517
(32)【優先日】2009年6月2日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】ヤロスラヴ・ペカー
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ・ストレワート
(72)【発明者】
【氏名】デジャン・クルハス
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ・ボレッリ
【審査官】
稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−109223(JP,A)
【文献】
特表平11−513148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/32
G05B 13/02 − 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードフォーワード制御をフィードバックモデルベース予測制御システムに組み込むための方法であって、
非線形システムの少なくも一つのアクチュエータに対するフィードフォーワード信号を算出するために、非線形システムに関するパラメータ間の関係を決定するステップと、
フィードバックモデルベース予測制御システムに関する複数の制約条件をフィードフォーワード信号の関数として処理するステップであって、当該複数の制約条件が、当該フィードフォーワード信号の関数である制約エンベロープumax及びuminを含むものと、
制御動作を、フィードバック信号及びフィードフォーワード信号の総和として生成するステップと、
制御動作を非線形システムの少なくとも1つのアクチュエータに送信するステップであって、より小さい外乱状態の間、前記制御動作のフィードバック信号を用いることが優位を占めるようにされ、より大きい外乱状態の間、前記制御動作のフィードフォーワード信号を用いることが優位を占めるようにされる、外乱に関する不確実性の影響を最小化するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、該方法はさらに、
前記フィードバックモデルベース予測制御システムが、測定値を、フィードフォーワード信号をパラメータ化する測定された外乱信号とするステップと、
未知入力観測器としての状態観測器が、フィードバックモデルベース予測制御システムとともに使用されるフィードフォーワード信号の影響を推定するステップであって、フィードフォーワード信号は非線形関数である、ステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
フィードフォーワード制御をフィードバックモデルベース予測制御システムに組み込むための方法であって、
非線形システムの少なくも一つのアクチュエータに対するフィードフォーワード信号を算出するために、非線形システムに関するパラメータ間の関係を決定するステップと、
フィードバックモデルベース予測制御システムに関する複数の制約条件をフィードフォーワード信号の関数として処理するステップであって、フィードフォーワード信号は非線形関数を有し、当該複数の制約条件が、当該フィードフォーワード信号の関数である制約エンベロープumax及びuminを含むものと、
制御動作をフィードバック信号及びフィードフォーワード信号の総和として生成するステップと、
制御動作を非線形システムの少なくとも1つのアクチュエータに送信するステップであって、より小さい外乱状態の間、前記制御動作のフィードバック信号を用いることが優位を占めるようにされ、より大きい外乱状態の間、前記制御動作のフィードフォーワード信号を用いることが優位を占めるようにされる、外乱に関する不確実性の影響を最小化する、ステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
フィードフォーワード制御をフィードバックモデルベース予測制御システムに組み込むためのシステムであって、
非線形システムの少なくも一つのアクチュエータに対するフィードフォーワード信号を算出するために、非線形システムに関するパラメータ間の関係を決定するためのプロセッサと、
フィードバックモデルベース予測制御システムに関する複数の制約条件をフィードフォーワード信号の関数として処理する手段であって、当該複数の制約条件が、当該フィードフォーワード信号の関数である制約エンベロープumax及びuminを含むものと、
制御動作をフィードバック信号及びフィードフォーワード信号の総和として生成し、制御動作を非線形システムの少なくとも1つのアクチュエータに送信するためのコントローラであって、より小さい外乱状態の間、前記制御動作のフィードバック信号を用いることが優位を占めるようにされ、より大きい外乱状態の間、前記制御動作のフィードフォーワード信号を用いることが優位を占めるようにされる、外乱に関する不確実性の影響を最小化する、コントローラと、
を備えることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態はMPC(モデルベース予測制御)システム及び方法に関する。実施形態はまた、MPCアプリケーションとの関連ではフィードバック制御及びフィードフォワード制御に関する。
【背景技術】
【0002】
「MPC」と称されるモデルベース予測制御は、先進工業プロセス制御アプリケーションで頻繁に利用される手法である。MPCは、制御システムの将来の振る舞いを予測し、かつ制御問題を制約条件付き最適化して定式化するために、通常、プロセスの数学モデルを利用するコントローラの使用を含んでいる。内部プロセスモデルの精度は、制御性能に重大な影響を及ぼす要因である。
【0003】
MPCは、例えば石油化学工業、電力及び工業エネルギ、ディーゼルエンジンにおけるパワートレイン制御アプリケーション、ターボチャージャ制御、等のプロセス制御アプリケーションで使用される、標準的な制御及び最適化技術である。「MPC」は、制御動作のためのシステム入力の最適な将来の軌道を算出するために、制御システムの内部数学モデル及び最適化アルゴリズムを使用する、コンピュータアルゴリズムのクラスを指すことが通常である。MPCは、いわゆる「後退ホライズン(Receding Horizon)」スキームとの関連で実現されるのが通常である。典型的な後退ホライズン制御スキームでは、コントローラが、各サンプリング期間におけるシステム入力の将来の軌道を算出する。しかしながら、第1の制御動作はシステムに適用され、新たな測定値の入手後に、新たな将来の軌道が次のサンプリング期間で算出されるのが通常である。後退ホライズンスキームは、MPCコントローラに標準的フィードバックを導入するものである。
【0004】
MPCは、例えばエンジン操作の動的プロセスのモデルを含み、且つ、制御変数及び測定された出力変数における制約条件に従って、エンジンに予測制御信号を提供する。モデルは、アプリケーションに応じて、静的及び/又は動的、線形又は非線形である。場合によっては、モデルは1又は複数の入力信号u(t)から1又は複数の出力信号y(t)を生成する。動的モデルは、静的モデル及びシステムの時間応答についての情報を通常含んでいる。したがって、動的モデルは静的モデルよりも忠実度が高いことが多い。
【0005】
数学用語で単純な例を提示すると、線形動的モデルは次のような形式で現ることができる。
y(t)
= B0*u(t)+B1*u(t-1) + … + Bn*u(t-n) + A1*y(t-1) + … + Am*y(t-m)
ただし、B0…Bn及びA1…Amは定数行列
【0006】
動的モデルでは、時間tにおける出力であるy(t)は、現在の入力u(t)、1又は複数の過去の入力u(t-1)…u(t-n)、及び1又は複数の過去の出力y(t-1)…y(t-m)に基づいている。静的モデルは、例えば行列がB1=…Bn=0、及びA1=…Am=0であるような特別な場合であり、これはさらに単純な関係であるy(t)=B0 u(t)、と表現することができる。
【0007】
静的モデルは単純な行列乗数として示すこともできる。静的モデルは、通常、入力u(t-1), u(t-2),…又は出力y(t-1),…等の「メモリ」を有していないのが通常である。その結果、静的モデルはより単純化できるが、所定の動的システムパラメータをモデリングする際には機能が少し劣る。
【0008】
非線形動的システムの連続時間モデルは、以下の一般的な形を有する。
x'(t) = f(x(t),u(t))
y(t) = h(x(t),u(t))
【0009】
ターボチャージディーゼルシステムに関しては、システムダイナミクスが比較的複雑であり、かつその相互作用のいくつかは、「非最小位相」として知られる特性を有している。これは、入力u(t)におけるステップにさらされると、出力y(t)が初めは一方向に移動し、それから向きをかえて反対方向でその定常状態に向かうような、動的応答である。場合によっては、これらのダイナミクス応答は制御システムの最適作動にとって重要である。したがって、少なくともなんらかの制御パラメータをモデリングする際には、動的モデルが好適であることが多い。
【0010】
一例では、MPCは、プラントの1又は複数のアクチュエータにおける変化の影響をモデル化する多変数モデルを有しており、該多変数コントローラがアクチュエータを制御して、2以上のパラメータにおいて所望の応答を生成する。同様に、場合によって該モデルは、1又は複数のプラントパラメータのそれぞれで、2以上のアクチュエータにおける同時的変化の影響をモデル化し、そして多変数コントローラがアクチュエータを制御して、1又は複数のパラメータのそれぞれにおいて、所望の応答を生成する。
【0011】
例えば、線形離散時間動的システムの実例的な状態空間モデルは、以下のように表すことができる。
x(t+1) = Ax(t)+Bu(t)
y(t) = Cx(t)
【0012】
モデル予測アルゴリズムは、最適化問題すなわち、u(k) = arg min{J}を解くことを含み、ここで関数Jは、以下の式で求められる。
J = x
~(t+N
y|t)
TPx
~(t+N
y|t) + Σ[x
~(t+k|t)
TQx
~(t+k|t) + u(t+k)
TRu(t+k)]
(Σは、k = 0, 1, 2, ・・・,N
y-1の場合の加算を表す)
ただし、制約条件:y
min≦y
~(t+k|t)≦y
max
u
min≦u(t+k)≦u
max
x(t|t) = x(t)
x
~(t+k+1|t) = Ax
~(t+k|t) + Bu(t+k)
y
~(t+k|t) = Cx
~(t+k|t)
【0013】
いくつかの実施形態では、これは二次計画法(QP: Quadratic Programming)問題に変換されて、且つ標準的又はカスタマイズされたツールで求められる。変数「y(k)」は、センサ測定値を含む。変数y
~(t+k|t)は、測定値「y(t)」が利用可能なときに、時間「t+k」における予測されたシステムの出力を示している。これらは「最適に」(性能インデクスJに従って)予測された一連の出力をもたらす一連の入力を選択するために、モデル予測コントローラで用いられる。
【0014】
変数「u(k)」は、Jを最適化することで生成され、且つ場合によっては、アクチュエータの設定値のために用いられる。変数「x(k)」は、システムの動的状態空間モデルの内部状態を表す変数である。変数x
~(t+k|t)は、状態変数kの未来の離散時間の予測バージョンを示しており、システムの将来の値を最適化するためにモデル予測コントローラで用いられるものである。
【0015】
変数y
min及びy
maxは制約条件であり、システムが予測した測定値であるy
~(k)が到達できる最小値及び最大値を示す。これらは、通常、制御システムにおける閉ループの振る舞いに対するハードリミットに相当する。
【0016】
変数u
min及びu
maxもまた制約条件であり、システムのアクチュエータのu
~(k)が取りうる最小値及び最大値を示しており、通常、アクチュエータに対する物理的制限に相当する。上述のように、場合や状況によっては、最小u
min又は最大u
maxの制約条件のみが与えられる。また、制約条件(例えば、y
min、y
max、u
min、u
max)のいくつか又は全ては、現在の作動条件に応じて、時間が異なる。定数行列P、Q、Rは、個々の変数の最適化に対してペナルティを設定するために用いられる正定値行列であることが多い。これらは実際には、システムの閉ループ応答を「チューニング」するために用いられる。
【0017】
MPC及び非MPC制御手法の両方に関して制御性能全体を改善する目的で、従来のフィードバック制御システムに加えてフィードフォワード制御を使用するために、多様な制御技術及び手法が実現されてきた。実際には、ほぼ全ての現実世界の装置は、固有の非線形性を有するため、制御システムはほぼ必ず非線形であり、これは状況によっては、特に線形MPC制御ストラテジが使用される場合は、結果として生じる制御システムの性能が大きく低下し、又は不安定性を招くことになる。このような場合は、線形モデルは正確とはいえず、モデルのこのような不確実性に対処するために、何らかの技術が実現される必要がある。
【0018】
従来型フィードバック制御システムに関して、フィードフォワード制御を実現するための従来のプロセス制御技術の大多数は、フィードバック制御がその所望の動作ポイントから外れるのを充分には防止できず、制御性能全体がかなり低下する。例えば、多くの場合、フィードバック制御は所望の動作ポイントの近傍で動作するよう設計されており、且つ、対応するプラントモデルはその近傍でのみ有効である。これは、プラントモデルが所望の動作ポイントにおける非線形プラントの線形近似値であることが多いからである。この場合、コントローラがシステムを所望の動作ポイントから遠ざければ、フィードバック制御は所望の操作ポイントに回復不能な不安定な閉ループをもたらし、それが制御システムの深刻な不具合につながる。したがって、システムの非線形効果から適切に保護されていない場合には、制御システムの閉ループ性能は低下し、又は最悪の場合は制御ループの安定性が失われる。
【0019】
線形MPC技術は、フィードフォワード信号を非常に効率的な方法(「システム動的反転」)で算出するよう構成される。システムに影響する全ての測定された外乱信号は、MPC制御設計に用いられる線形モデルへ含まれる。それから、MPCコントローラは、フィードバック及びフィードフォワード部分の組み合わせを含む最適制御動作を保証する。しかしながら、制御されるシステムは非線形であり、また、線形モデルはかなり不正確なため、結果として生じる性能は許容できるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記に基づいて、特に非線形プラントにおけるモデルの不確実性の影響を最小化するために、MPCとの関連でフィードフォワード及びフィードバック制御を組み合わせる改良された方法及びシステムに対する必要性が存在している。このような改良された方法及びシステムが、本明細書において詳細に記述されている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下の要約は、本発明に固有の革新的特徴のいくつかについて理解を促進するために提供されるものであり、全てを説明するものではない。本明細書で開示される実施形態の多様な様態を完全に理解するには、明細書、請求項、図面、及び要約の全てを全体としてとらえる必要がある。
したがって、本発明の一様態は、非線形システムのための改良されたMPC技術を提供するものである。
本発明の別の様態は、フィードフォワード制御をフィードバックモデルベース予測制御システムに統合するための改良された方法を提供するものである。
【0022】
上述の様態ならびに別の目的及び利点が、本明細書に記述のように達成される。不確実性を最小化するために線形MPCにおいてフィードバック制御及びフィードフォワード制御を組み合わせるための方法及びシステムが開示される。より正確で且つ信頼性のある、外部で算出されるフィードフォワード信号が、MPCに関連して使用される。このような手法はソフトウェアモジュールとして、モデル予測制御技術に基づく制御システムの一部として実装される。
【0023】
システムパラメータ間の定常状態の関係が、非線形システムに関連する一連のアクチュエータに関する定常状態のフィードフォワード信号を算出するために決定される。それからフィードバック線形MPCコントローラが設計されるが、これにはフィードフォワード信号をMPCモデルで測定された外乱としてパラメータ化する、パラメータ及び変数を含まない。そのかわりに、MPCによって使用される線形モデルは、フィードフォワード信号によって定義される軌道周辺の線形化である。状態観測器は、フィードフォワード信号の影響を推定するための未知入力観測器として構成される。MPCフィードバック信号の制約条件(y
min、y
max、u
min、u
max)を扱うための計略(ストラテジ)が実行される。結果として生じるアクチュエータに対する制御動作は、相当するフィードバック及びフィードフォワード信号の総和として構成される。定常状態の関係は、システムの定常状態に関する正確なフィードフォワード信号の算出を可能にする。さらに、フィードバック部分に関する制約条件は、所望の動作ポイントの近傍におけるシステム制御を維持することによって、モデルの不確実性がフィードバック部分の許容不可能な性能をもたらすような、あらゆる厳しい状況でフィードフォワード信号が優位を占めるような方法で算出される。
【0024】
未知入力観測器は、フィードフォワード信号が未知の外乱として推定されるように構成される。さらに、フィードフォワード制御信号は、制御システムのより優れた過渡応答を達成するために、適切な動的フィルタを用いて改善できる。未知入力観測器は、例えば、カルマンフィルタ等のシステム状態観測器の一部として実現される。このような手法は、モデル予測コントローラの性能を大いに向上させる。制約条件を扱うための計略の関数の出力は、そのまま制御動作のフィードバック部分に対する制限となるので、結果として生じるフィードバック制御及びフィードフォワード制御の組み合わせは、アクチュエータの既定の時変制約条件に違反するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態を実装するフィードバック制御及びフィードフォワード制御を使用する、最適MPCコントローラに関連する一般的な制御システムの概略ブロック図である。
【
図2】好適な実施形態に係る、フィードバック制御及びフィードフォワード制御を有するモデルベース予測制御システムの概略ブロック図である。
【
図3】好適な実施形態に係る、モデルベース予測制御システムに関連する制約条件処理アルゴリズムのブロック図である。
【
図4】一実施形態に係る、U(t)に対する制約条件のエンベロープの定値を表現するグラフを示す。
【
図5】一実施形態に係る、システムが過渡状態にある時に、U(t)のより広範な実行可能領域を表現するグラフを示す。
【
図6】一実施形態に係る、システムが過渡状態にある時に、U(t)に与えられるより狭い帯域を表現するグラフを示す。
【
図7】好適な実施形態に係る、モデルベース予測制御システムにおいてフィードフォワード制御及びフィードバック制御を組み合わせるための方法の論理操作ステップを示す、操作のハイレベルフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
非限定的な例で論述される特定の値及び構成は可変であり、且つ少なくとも一実施形態を単に例示するために言及されており、その範囲を限定するものではない。
【0027】
図1は、本発明の実施形態が実現されたフィードバック制御及びフィードフォワード制御を使用する、最適MPC制御モジュール200に関連する一般的な制御システム100の概略ブロック図を示す。制御システム100は、自動車システム等を制御するために、MPC制御モジュール200とともに使用するよう構成される。MPC制御モジュール200は、例えば自動車システムの動的作動プロセスのモデルを含む。制御システム100もまた、エンジン120に接続されるECU(電気制御ユニット)160を含むよう構成される。ECU160は、さまざまなセンサ110から受信したデータに基づいて、エンジン120(及び場合によってはトランスミッション、ブレーキ、又は別の車両システム)の動作を制御するデジタルコンピュータを含む。これらの動作の例には、電気ブレーキ制御モジュール(EBCM)、エンジン制御モジュール(ECM)、パワートレイン制御モジュール(PCM)、又は車両制御モジュール(VCM)が挙げられる。
【0028】
MPC制御モジュール200はさらに、予測制御信号をシステム100に提供するが、それは、制御変数及び測定された出力変数における制約条件に従う。予測制御信号は、
図2に示されるようにMPCコントローラ200にある状態観測器(state observer)240を用いて、アクチュエータ130及びセンサ110の状態を決定することによって、生成される。アクチュエータ130及びセンサ110は、エンジン120等の物理的プラントと直に相互接続されている。エンジン120の情報は、センサ信号プロセッサ140と接続されている、エンジン120上のさまざまなセンサ110から取得される。制御信号は、MPC制御モジュール200からのデータとともに処理されてアクチュエータ信号プロセッサ150に送られ、アクチュエータ信号プロセッサ150は多様なパラメータを制御するために、エンジン120上の多様なクチュエータ130を適切に動作させるためのフォーマットで制御信号を提供する。
【0029】
本明細書で論述される実施形態は、限定的な意味で解釈されるべきものではない。実施形態は、本発明をより良好に理解するために必要となる好適な形態の構造の詳細を明らかにするものであり、またその概念から逸脱することなく本発明の技術的範囲において、当業者によって変更される可能性もある。
【0030】
本明細書に記載された方法は、少なくともいくつかの様態で、1又は複数のモジュールからなるプログラム製品(すなわち、コンピュータプログラム製品)と関連して実現できることが当業者には理解されるであろう。ここで使用される「モジュール」という用語は、ソフトウェアモジュールも含む。コンピュータプログラム技術では、「モジュール」は、特定のタスクを実行する又は特定の抽象データ型を実装する、ルーチン及びデータ構造の集合として実現される。モジュールは通常、2つの部分からなる。第1に、ソフトウェアモジュールは、別のモジュール又はルーチンによってアクセス可能な、制約条件、データ型、変数、ルーチン等をリスト化する。第2に、ソフトウェアモジュールはインプリメンテーションとして構成され、それはプライベート(すなわち、該モジュールにのみアクセス可能)であり、且つ該モジュールが基づいているルーチン又はサブルーチンを実際に実行するソースコードを含む。
【0031】
従って、本明細書で「モジュール」と称する時、発明者はこのようなソフトウェアモジュール又はそのインプリメンテーションを指している。ここに記載される方法は、一連のこのようなモジュール又は単一ソフトウェアモジュールとして実現される。このようなモジュールは、個別に又は一緒に使用されて、伝送媒体及び記録媒体を含む信号保持媒体を介して、プログラム製品を形成する。本発明は、多様な形態でプログラム製品として流通されることが可能であり、形態は流通を実行するために使用される信号保持媒体の特定種類によらず等しく適用される。
【0032】
信号保持媒体の例は、例えばフロッピーディスク、ハードディスクドライブ、CD-ROM、CD-R等の記録可能型媒体、並びにデジタル及び/又はアナログ通信リンク等の伝送媒体等を含む。伝送媒体もまた、標準的電話回線及び/又はより先進のデジタル通信回線で情報を送信できるモデム等のデバイスを含む。
【0033】
図2は、好適な実施形態に係る、フィードバック制御250及びフィードフォワード制御220を有するモデルベース予測制御システム200の概略ブロック図を示す。
図1〜7において、同一又は類似のブロックは同一の参照番号で示されている。制御システム200は、フィードバック線形MPC250、状態観測器240、フィードフォワード制御220、及び制約条件処理モジュール300を含む。モデルベース予測制御システム200は、「ゲインスケジューリング」手法と効果的に組み合わせて、非線形プラント230を制御するために使用される。フィードバック線形MPC250は、非線形プラント230と関連づけられる一連のアクチュエータのために、システム200の将来の振る舞いを予測でき、且つ制御問題を制約付きの最適化として定式化する。最適化は、それに対して効率的な方法の開発ができる数理プログラミング問題である。MPC250は、制御システムの将来の振る舞いを予測するための、リファレンス、制約条件等の外部信号270を受信できる。
【0034】
フィードフォワード制御220は、より正確性及び信頼性があるフィードフォワード信号U
ffを生成し、フィードバック信号U
MPCと組み合わせて使用される。フィードフォワード信号U
ffは、非線形関数又はルックアップテーブルによって、外部で算出されてもよい。システムパラメータ間の関係は、制御システム200のオンライン部分における一連のアクチュエータのためのフィードフォワード信号U
ffを算出するために決定される。状態観測器240は、フィードフォワード信号U
ffの影響を推定するための未知入力観測器として構成できる。制約条件処理モジュール300を使用してフィードバックMPC250の制約条件を処理するための手段が実現される。
【0035】
制御システム200は、加算器260を使用して、フィードフォワード信号U
ffをフィードバックMPC250によって生成された標準的なフィードバック信号U
MPCに統合できる。信号U
ff及びU
MPCは、加算器260で合算されて、非線形プラント230のための制御動作Uを生成する。フィードフォワード信号U
ffは、特に線形MPC250による非線形プラント230の制御時に、フィードバックMPC250の特性を向上させる。フィードフォワード信号U
ffは、外部の外乱信号(例:自動車制御システム、ディーゼルエンジン、等)によって生じる過渡時に、制御システム200を高速化するために使用される。
【0036】
フィードフォワード信号U
ffは、通常、一連のプロセスパラメータ又は外性変数の(非線形)関数であり、フィードバックMPC250で生成された標準的なフィードバック信号U
MPCに直接加えられる。制約条件処理モジュール300は、非線形プラント230に関して制約条件の充足を保証するために、フィードフォワード信号U
ff及び非線形プラント230からのフィードバックを受信する。フィードフォワード制御220及び制約条件処理モジュール300は、センサ110から別の入力も受信する。
【0037】
フィードバック制御250及びフィードフォワード制御220の組合せは、多数のアプリケーションで使用されるが、特にシステム200の非線形性が顕著で、(線形)フィードバックコントローラ250が非線形の振る舞いを効率的に処理することができない場合のアプリケーションで使用される。フィードフォワード制御220は、例えば自動車制御に関連する問題において、特にエンジン制御システム100で使用される。
【0038】
制御システム200は、システムにおけるそれぞれの量及び変数(例:排出制限、アクチュエータ位置等)に対する所定の時間変動制約条件を満足するための妥当な性能を達成する。
【0039】
状態観測器240は、フィードバックモデルベース予測制御信号U
MPC及び制御動作Uに基づいて、推定システム状態及び外乱を提供する。好適な実施形態では、フィードフォワード信号U
ffの影響を推定するために、状態観測器240が未知入力観測器として構成される。状態観測器240は、センサ110からの多数の入力、多数の制御出力、及び非線形プラント230と関連するアクチュエータ130からの多数の内部変数に関する、現在及び/又は過去の値を受信する。
【0040】
図3は、本発明の好適な実施形態に係る、モデルベース予測制御システム200に関連する制約条件処理モジュール300のブロック図を示す。制約条件処理モジュール300は、非線形プラント230の達成可能な生産率に影響を与える特定の動作変数又は条件に対する制限を提供する。制約条件処理モジュール300は、これに限定するものではないが、例えば安全制約条件、設備制約条件、設備アベイラビリティ制約条件、サプライチェーン制約条件等の、非線形プラント230に関する多種多様な制約条件を提供できる。制約条件処理モジュール300によってコントローラ250のフィードバック部分に関する制約条件を処理するためのストラテジは、関数f(U
ff,θ)で表現されるのが通常である。
【0041】
関数f(U
ff,θ)は、例えば、フィードフォワード信号U
ffのエンジン速度、燃料噴射、等のいくつかの関連パラメータを表しており、θは、エンジン速度、燃料噴射量、別のエンジンが測定した物理的パラメータ、すなわちリファレンスを指定するパラメータ、制約条件信号、等の関連パラメータのグループを表す。関数f(U
ff,θ)は、最大フィードバック信号U
MAXMPC及び最小フィードバック信号U
MINMPCの制限を生成できる。制約条件を処理するためのストラテジの関数f(U
ff,θ)の出力U
MAXMPC及び出力U
MINMPCは、そのまま制御信号U
MPCのフィードバック部250に関する制限である。従って、結果として生じるフィードバック制御信号U
MPC及びフィードフォワード信号U
ffの組み合わせUは、非線形プラント230と関連づけられるアクチュエータ130の規定の時間変動制約条件に違反しない。システム出力制約条件及び別の制約条件の充足は、MPCコントローラによって生成されたフィードバック部分によって保証される。
【0042】
フィードバック部250に関する制約条件は、例えば、システム200が、非線形性等によって振る舞いが大きく異なっている多数の動作ポイントを調べているような大過渡時等、モデルの不確実性が許容できない性能を生じさせるような全ての厳しい状況で、フィードフォワード信号U
ffが優先されるような方法で算出される。フィードバック部250は、例えばシステム定常状態、すなわち比較的ゆるやかな過渡時において等、モデル不確実性があまり顕著でない状況で、優先される。
【0043】
制約条件を処理するためのストラテジは、多様な適宜の形状(すなわちエンベロープ)を使用して実現される。
図4は、一実施形態に係る、Uに関する制約条件エンベロープの定値を表現するグラフ400を示す。
図5は、一実施形態に係る、システム200が過渡状態にある時に、Uのより広範な実行可能領域を表現するグラフ500を示す。フィードバック部分U
MPCは過渡時に閉じ、定常状態で開く。
【0044】
図6は、一実施形態に係る、システム200が過渡状態にある時に、Uに与えられるより狭い帯域を表現するグラフ600を示す。フィードバック部分U
MPCは過渡時に閉じ、定常状態で開く。制約条件を処理するためのストラテジのどれがふさわしいかの決定は、例えば、制御下の非線形プラント230の特性、閉ループシステムが状態空間における特定の場所で不安定になる可能性、過渡時のシステム200の振る舞いに関する最適性に対する設計要件に依存する。グラフ表示400、500及び600に関する条件は、次式で表される。
u
min≦u
MPC+u
ff≦u
max (1)
【0045】
さらに、アクチュエータのハードリミットに違反しないようにするために、MPCコントローラ250によって生成されるU
MPC信号に対する2つの追加的な制約条件が実行され、アクチュエータの飽和状態を回避する。U
MPC信号に対する制約条件は、C
min及びC
maxで示され、その条件は次式で表現される。
- C
min ≦u
MPC≦C
max (2)
【0046】
アクチュエータのハードリミットは、H
min及びH
maxで示され、条件は次式で表現される。
H
min≦u
MPC + u
ff≦H
max (3)
また、H
min≦u
ff≦H
maxと仮定すると、以下の式(4)及び(5)が満たされなければならない。
C
min≦u
ff≦-H
min (4)
C
max≦H
max - u
ff (5)
【0047】
従って、ストラテジ関数f(U
ff,θ)の出力は、以下の条件を満足しなければならない。
U
maxMPC≦C
max (6)
U
minMPC≦C
min (7)
なお、C
max, C
min, U
maxMPC, U
minMPCは、R
+に含まれる。
MPCコントローラ250によって生成されるフィードバック部分U
MPCに関して結果として生じる制約条件は、以下の式によって与えられる。
- U
minMPC≦u
MPC≦U
maxMPC (8)
【0048】
本発明の詳細な実施形態がここに開示された。しかしながら、開示された実施形態は、多様且つ代替的な形態で実現される本発明の例示にすぎない。図面は必ずしもスケールされておらず、いくつかの特徴は、特定部品の詳細を示すために誇張又は最小化されている。従って、ここで開示された指定構造的且つ機能的な詳細は制限ではなく、単に請求項の基礎となる表現及び/又は本発明をさまざまな形で採用するために当業者に教示するための基礎となる表現として解釈されるべきである。
【0049】
図7は、好適な実施形態に係る、モデルベース予測制御システム200においてフィードフォワード制御220及びフィードバック制御2500を組み合わせるための方法700を示すハイレベルのフロー図を示している。方法700は、
図1に示されるような、制御システム100の一部としてソフトウェアモジュールにより実現される。方法700は、例えば、コンピュータ資源(例:CPU及びメモリ)が制限されるような自動車又は航空宇宙の制御システム等における、さまざまなリアルタイムアプリケーションで使用される。
【0050】
ブロック710に示されるように、非線形プラント230のパラメータ間の関係は、制御のリアルタイムすなわちオンライン部分における一連のアクチュエータに関するフィードフォワード信号U
ffを算出するために、初めにオフライン部で求められる。その後、ブロック720に示されるように、フィードバックMPCコントローラ250は、フィードフォワード信号U
ffをMPC制御システム200における測定された外乱としてパラメータ化するようなパラメータ及び変数を含まない状態で、設計される。
【0051】
そして、ブロック730に示されるように、フィードフォワード信号U
ffの影響を推定するために、状態観測器240が未知入力観測器として構成される。フィードフォワード信号は、MPCモデルがそれに沿って線形化される軌道を定義するために使用される。状態観測器240におけるモデルの未知の外乱部分は、フィードフォワード信号U
ffが未知の外乱として推定されるように構成される。未知入力観測器はシステム状態観測器240の一部として実装され、それは例えばカルマンフィルタ等である。
【0052】
ブロック740に示されるように、フィードバックモデルベース予測制御u
MPCの制約条件を処理するためのストラテジが実行される。ブロック750に示されるように、結果として生じるアクチュエータに対する制御動作Uは、相当するフィードバックモデルベース制御信号u
MPC及びフィードフォワード部分u
ffの総和として提供される。制御動作は次の式(9)によって定義される。
u= u
MPC + u
ff (9)
【0053】
ここに記載された方法及びシステムは、より正確で且つ信頼できる外部で算出されたフィードフォワードU
ffを使用する。例えば、アプリケーションによっては、制御システム200における定常状態関係は、周知である又は同定実験から簡単に推定できるものである。
【0054】
いくつかの実施形態では、例えば方法700の多様な論理動作ステップが、プログラム製品(すでに論述したような)を含むコンピュータ使用可能媒体と関連して、インストラクションとして実行される。本発明上のプログラムを定義する関数は、種々多様な信号保持媒体を介してデータ記憶システム又はコンピュータシステムに送られ、信号保持媒体には、書き込み不可能な記憶媒体(例:CD-ROM)、書き込み可能な記憶媒体(例:ハードディスクドライブ、読み出し/書き込みCD-ROM、光媒体)、これに限定しないが例えばランダムアクセスメモリ(RAM)等のシステムメモリ、並びに、イーサネット、インターネット、無線ネットワーク、及び同様のネットワークシステムを含むコンピュータ及び電話ネットワーク等の通信媒体、を含むが、これに限定するものではない。従って、このような信号保持媒体が本発明の方法関数を指示する方法700のコンピュータにより読み取り可能な命令を記憶している、すなわちエンコードしていれば、本発明の代替的な実施形態であることを意味する。
【0055】
さらに本発明は、ハードウェア、ソフトウェア、あるいは本明細書に記述されたようなソフトウェア及びハードウェアの組み合わせ、又はその同等物の形態の、部品又はモジュールを有するシステムによって実現される。すなわち、
図1〜
図7に関してここに記述された方法及びそれに関する命令は、コンピュータシステム又はデータ処理装置及び/又はシステムに関連して、プロセスソフトウェアとして実現される。
【0056】
上記開示の変形、及びこれに係る別の特徴及び機能、又は代替は、所望のように組み合わせて多種多様なシステム又はアプリケーションにできることが理解されよう。また現在は予期予想のできない、これに係る代替、変更、変形又は改良が後に当業者によってなされるであろうが、これらも以下に記載の特許請求の範囲に包含されるものとする。