【実施例】
【0016】
図1〜
図8に、実施例とその変形とを示す。
図1,
図2は横編機2の構造を示し、横編機2は下部前針床dfと下部後針床dr、上部前針床ufと上部後針床urの4枚の針床を備えている。なお下部の針床df,drのみから成る2枚の針床を備えた横編機でもよい。針床df〜urの上部にレール4があり、レール4に沿って複数の給糸口6が移動し、針床df〜urの図示しない針に糸を供給する。また針床df〜ur上をキャリッジcが移動し、針床の針を操作する。gはトリックギャップで、針床df〜urの針が編目を形成する場所である。横編機2の前後上下は
図1のように定義し、前針床df,ufがある側を前、後針床dr,urがある側を後とする。そして通常の意味での上側を上、通常の意味での下側を下とする。
【0017】
キャリッジcは複数のカムシステム8を備え、各針床df〜urの針を操作する。カムシステム8の中で、度山カム9,10は編目のループ長、言い換えると編目のサイズを制御するカムである。なおループ長は編目1目当たりの糸長を、編目サイズは編目の縦と横のサイズを意味する。度山カム9,10は糸を保持する針の引き下げ量を制御し、各度山毎に設けられた度山モータM1〜M24(
図3)により制御される。度山カム9は往行方向の度山カム、度山カム10は復行方向の度山カムである。実施例では針床df〜urは前後上下の4枚で、針床1枚当たり例えば3個のカムシステム8を備えているので、度山カム9,10の総数は24個である。
【0018】
12は横編機2のコントローラで、16は給糸口6へ供給する糸の長さを測定するエンコーダで、例えばロータリエンコーダである。糸長制御装置14はエンコーダ16と度山モータM1〜M24を除いて、コントローラ12内に設けられる。
図3に示すように、エンコーダ16で測定した糸長と目標の糸長とを、例えば1コースの編成毎などに、比較部18で比較する。度山補正部20は、比較部18での比較結果を用いて、度山補正テーブル22を更新し、度山補正テーブル22に記憶した度山補正値により、例えばコースの終わりでキャリッジcが反転する際などに、度山モータM1〜M24が制御される。
【0019】
設定部24は度山補正に関する設定を行い、具体的には
・ 前後上下の各針床毎に各々別個の変化分で度山補正値を更新するか、
・ これらの針床の度山補正値を全て共通の変化分で更新するか、
・ 下部の2枚の針床の度山補正値を共通の変化分で更新し、上部の2枚の針床の度山補正値を共通の変化分で更新するかなどを入力する。最後のケースでは、下部の針床と上部の針床とで度山補正値の変化分が異なる。設定部24は、例えば横編機2のコントローラ12からユーザの入力を受け付け、あるいは編成データから度山補正に関する設定を判別する。換算表26は、前後上下の針床df〜ur毎に、ループ長を同じだけ変化させるための度山補正値の変化分を記憶している。換算表26での記憶値は、ループ長を一定値だけ変化させるための変化分自体でも、あるいはいずれかの針床を基準とする変化分の相対値でもよい。また度山補正値の変化分の代わりに、その逆数、即ち度山補正値を一定量変化させた際のループ長の変化、あるいはループ長の変化の相対値、等を記憶しても良い。
【0020】
図4に度山補正テーブル22の構成を示す。前後上下4枚の針床に対して度山補正テーブル22がそれぞれ1枚ずつ設けられ、各度山補正テーブル22にはカムシステムC1,C2,C3のそれぞれに対し、往行の度山9と復行の度山10に付いて、度山補正値が記憶されている。実施例では例えば7種類の糸を用いることができるものとし、糸毎に度山補正値を記憶し、度山補正値には上限と下限とがある。
【0021】
図5に、ループ長ルーチンのアルゴリズムを示す。ループ長ルーチンは例えば毎日1回横編機2の起動時に実行するが、1週間に1回などの頻度で実行してもよい。ステップ1で、目標ループ長で編目を編成するための度山補正値を、各針床の各度山カム9,10毎に求める。複数の糸がある場合、この処理を例えば各糸毎に実行する。ステップ1は従来技術と同じ処理であり、ステップ1の内容は任意である。
【0022】
ステップ1を実行する過程で、度山補正値をどれだけ変化させると消費糸長、言い換えると編目のループ長がどれだけ変化するかが判明する。そこでループ長を同じだけ変化させるための度山補正値の変化分を換算表26に書き込む(ステップ2)。ステップ2は糸毎に実行してもよく、糸の違いを無視しても良い。ステップ2は、例えば前後上下の各針床毎に実行するが、下部の針床df,drは度山補正値の変化分当たりのループ長の変化率が等しいものとし、上部針床uf,urも度山補正値の変化分当たりのループ長の変化率が等しいものと近似してもよい。このように近似すると、少なくとも上下2枚の針床に対し、ステップ2を実行する必要がある。なおステップ2は、
図7のステップ11,12を実行するための処理であり、
図6,
図8の度山補正A,Cを実行する場合、ステップ2を省略してもよい。
【0023】
図6は度山補正の最初の実施例(度山補正A)を示す。度山補正Aを編地を編成中に割込により実行し、ステップ3〜ステップ7を実行すると割込を終了する。ステップ3で消費糸長と目標糸長とを比較し、この差を補正するための度山補正値の変化分を求める。ステップ4で、設定部24での設定をチェックし、前後上下4枚の針床df〜urに対し、共通の変化分で度山補正値を更新する設定の場合、前後上下の度山補正テーブルを共通の変化分で更新する(ステップ5)。この場合、編成で使用していない針床の度山に対しても、共通の変化分で度山補正値を更新する。
【0024】
下部の前後の針床df,drの度山補正値の変化分を共通にし、上部の前後の針床uf,urでの補正値の変化分も共通にする、しかし上下の針床では補正値の変化分は共通ではないとの設定の場合、例えば下部前針床dfと下部後針床drの度山補正値、または上部の前後の針床uf,urの度山補正値を、共通の変化分で更新する(ステップ6)。更新する度山補正値は、ステップ3で消費糸長を測定した針床及びその針床と上下が同じ前後他方側の針床である。この設定はガーター編みの場合に特に有効である。4枚ベッドの横編機を用いて筒状編地の前後をガーター編みする場合、前編地は下部前針床dfで表目を、上部後針床urで裏目を形成し、後編地は下部後針床drで表目を、上部前針床ufで裏目を形成する。上部の前後の針床の度山補正値の変化分を共通にすると、表目のコースを編成するための度山補正値は前後の針床で同じ変化分で更新され、裏目のコースを編成するための度山補正値も前後の針床で同じ変化分で更新される。
【0025】
前後と上下とで別々に、言い換えると各針床毎に他と無関係に度山補正テーブルを更新するとの設定ができる。この設定の場合、ステップ3で消費糸長を測定したその針床に対してのみ、度山補正テーブルを更新する(ステップ7)。
【0026】
図7の度山補正Bは度山補正の他の実施例を示し、ステップ3,5は
図6のステップ3,5と同じである。
図7では、全ての針床の度山補正値を同じ変化分だけ変更する(共通に変更)と、針床毎に個別に変更する(針床毎の個別の変化分で度山補正値を更新する)、の2種類の設定ができるものとし、ステップ10で設定をチェックする。針床毎に個別に度山補正値を更新する場合、ステップ3で消費糸長を測定した針床以外の針床に対し、度山補正値の変化分を
図3の換算表26に従って決定する。例えば換算表26に、ループ長の変化当たりの度山補正値の変化分が記載されている場合、度山補正値の変化分の比に応じて、度山補正値を変化させればよい。例えば針床Aで消費糸長を測定し、換算表26での記憶値は針床Aに対しa、針床Bに対しbとすると、針床Bには針床Aでの度山補正値の変化分に(b/a)を乗算して、度山補正値の変化分を求める(ステップ11)。ステップ12で、求めた変化分に従い、各針床の度山補正テーブルを更新する。なお度山補正値を離散的にしか更新できない場合、換算により生じた端数を記憶し、次回の更新時に加算することが好ましい。
【0027】
図8の度山補正Cでは、
図6と同じステップ3,5を実行する。度山補正Cはリブ編地の編成に適用され、ステップ10の設定のチェックで、前後上下の針床を共通に更新するか、個別に更新するかをチェックし、前後上下の針床で度山値を共通の更新する設定の場合、ステップ20でリブ編地以外の編成の場合、
図6のステップ5を実行する。針床の度山補正値を個別に更新し、かつ編成中の編地の種類がリブである場合、リブの裏目を編成する針床のみ、度山補正値を更新し、リブの表目を編成する針床等の、他の針床の度山補正値は更新しない(ステップ21)。ただしリブの表目を編成する針床に対して、リブの裏目を編成する針床よりも小さな変化分、例えばリブの裏目を編成する針床の3/4以下、好ましくは1/2以下の変化分で、度山補正値を更新しても良い。
【0028】
図8のステップ21で、リブの表目を編成する針床に対して、度山補正値が固定され、リブ編地では表目により風合いがほぼ定まるため、リブ編地の風合いが一定に保たれる。リブ編地の編成での消費糸長が目標値から外れると、これを解消するように裏目を編成する針床の度山補正値を更新する。従ってリブ編地全体としての消費糸長は目標値に揃えられる。この結果、編地の丈などのサイズが乱れることを防止できる。従って全体としては、一定の風合いでかつ所望のサイズのリブ編地を編成できる。
【0029】
実施例では前後上下4枚の針床を備えた横編機2を説明したが、前後の針床のみを備えた横編機でもよい。この場合は前針床と後針床の間で、度山補正値を同じ変化分だけ更新してもループ長の変化は等しくはないことを、補正する。また前後上下4枚の針床で、度山補正値の変化に対するループ長の変化の差が最も大きいのは、上下の針床間である。そこで下部前針床dfと下部後針床drを共通の度山補正値で更新し、上部前針床ufと上部後針床urを共通の変化分で更新し、下部の前後の針床df,drの度山補正値と、上部の前後の針床uf,urの度山補正値とを異なる変化分で更新すると、ほぼ目標のループ長の編地を編成できる。