特許第5698491号(P5698491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698491
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】横編機での糸長制御装置と制御方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/36 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
   D04B15/36 103
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-228254(P2010-228254)
(22)【出願日】2010年10月8日
(65)【公開番号】特開2012-82542(P2012-82542A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2013年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】中口 一人
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
(72)【発明者】
【氏名】小村 善幸
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−209504(JP,A)
【文献】 特許第4125320(JP,B2)
【文献】 特開昭64−068547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を備えた横編機に対して、各針床の度山カムを度山補正値に応じて制御し、かつ横編機で形成された編目のループ長と、編目のループ長の目標値との差に応じて、前記度山補正値を更新する糸長制御装置において、
各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定自在に構成すると共に、
前記設定に従い各針床の度山補正値を更新すると共に、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、各針床で形成される編目のループ長が等しくなるように度山補正値を更新する度山補正部を備えていることを特徴とする、横編機での糸長制御装置。
【請求項2】
度山補正部は、度山補正値の変化分に対する編目のループ長の変化の割合を複数の針床に対して求め、求めた割合は記憶部に記憶され、
針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、度山補正部は、前記割合に従った変化分で度山補正値を更新することを特徴とする、請求項1の横編機での糸長制御装置。
【請求項3】
少なくとも前後一対の針床を備えた横編機に対して、各針床の度山カムを度山補正値に応じて制御し、かつ横編機で形成された編目のループ長と、編目のループ長の目標値との差に応じて、前記度山補正値を更新する糸長制御装置において、
各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定自在に構成すると共に、
前記設定に従い各針床の度山補正値を更新すると共に、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、リブ編成に対し、リブの裏目を編成する針床の度山補正値のみを更新し、リブの表目を編成する針床の度山補正値を更新せずに固定する度山補正部を備えていることを特徴とする、横編機での糸長制御装置。
【請求項4】
横編機は前後上下4枚の針床を備え、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、少なくとも上部の前後の針床の度山補正値と、下部の前後針床の度山補正値とを、異なる変化分で更新することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの横編機での糸長制御装置。
【請求項5】
少なくとも前後一対の針床を備えた横編機に対して、各針床の度山カムを度山補正値に応じて制御し、かつ横編機で形成された編目のループ長と、編目のループ長の目標値との差に応じて、前記度山補正値を更新する方法において、
各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定するステップと、
度山補正部により、前記設定に従い各針床の度山補正値を更新すると共に、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、各針床で形成される編目のループ長が等しくなるように度山補正値を更新するステップ、とを実行することを特徴とする、横編機での糸長制御方法。
【請求項6】
少なくとも前後一対の針床を備えた横編機に対して、各針床の度山カムを度山補正値に応じて制御し、かつ横編機で形成された編目のループ長と、編目のループ長の目標値との差に応じて、前記度山補正値を更新する方法において、
各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定するステップと、
度山補正部により、前記設定に従い各針床の度山補正値を更新すると共に、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、リブ編成に対し、リブの裏目を編成する針床の度山補正値のみを更新し、リブの表目を編成する針床の度山補正値を更新せずに固定するステップ、とを実行することを特徴とする、横編機での糸長制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は横編機での糸長制御に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機は一般に前後2枚の針床を備え、これ以外に前後上下合計4枚の針床を備えた横編機も有る。横編機で編成される編地のサイズが乱れないように、消費糸長の測定と目標値とを比較し、言い換えると実際の編目のループ長とループ長の目標値とを比較し、度山補正値にフィードバックすることが知られている(特許文献1:JP3085638B)。そして特許文献1では、ロータリエンコーダ等で消費糸長を測定し、目標値との差に応じて、度山補正値を更新する。度山は横編機のキャリッジのカムで、編目のループ長、即ち1目当たりの糸長を制御するカムであり、度山モータ等のアクチュエータで制御される。
【0003】
特許文献1では、度山と糸との組合せ毎に度山補正値を記憶する。また前後の針床では、度山補正値を同じ変化分だけ変更する。これは、例えば前針床で編成する間に度山補正値を更新すると、同じ変化分だけ後針床の度山補正値を更新することにより、後針床の度山補正値を予め適切な値に更新することである。
【0004】
発明者は、針床が異なると、ループ長を同じだけ変化させるための度山補正値の変化分が異なることに着目した。例えば前後上下4枚の針床を有する横編機では、上下の針床で針床の水平面からの角度が異なるため、上部の針床で形成する編目のループ長は度山補正値の変化に対して緩やかに変化し、下部の針床で形成する編目のループ長は度山補正値の変化に対して急激に変化する傾向がある。ここで上下の針床の度山補正値を共通に変化させると、下部針床の編成ではループ長が過剰に変化し、上部針床の編成ではループ長の変化が小さいので、適切な度山補正値に更新できないことが生じる。この場合、度山補正値は不安定で、ループ長も安定しない。さらに度詰めなどで下部針床への度山補正値が下限に達した後も、上部針床の度山補正値を減少させることが有り得る。すると下部針床の度山補正値は下限未満となり、エラーとなる。なお度山補正値の変化分当たりのループ長の変化の違いは、上下の針床間で著しいが、前後の針床間にも存在する。
【0005】
これ以外に次の問題がある。リブ編地の編成で、リブのパターンを2×2から3×3へ変更するなど、リブパターンを変化させると、消費糸長が急変することがある。またリブ編成中に糸張力が変動しても、消費糸長が急変することがある。これらに対してその都度度山補正値を更新すると、編地の風合が変化し易い。しかし度山補正値を更新しないと、ループ長が目標から外れ、編地の丈等が乱れやすい。またガーター編みを4枚ベッド機で行い、前下のベッドと後上のベッドで前編地のガーター編みを、後下のベッドと前上のベッドで後編地のガーター編みを行うと、上下のベッドで最適な度山補正値が異なるため、表目のコースと裏目のコースとで編目のサイズが異なり、縞が発生することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】JP3085638B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、度山補正値の変化分当たりのループ長の変化が針床によって異なっても、各針床で形成される編目のループ長を揃えるように編成できるようにすることにある。
またこの発明の課題は、度山補正値の変化分当たりのループ長の変化が針床によって異なっても、目標のループ長で編目を編成でき、さらにリブ編成での風合を一定にしながら、編地の丈等の乱れを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、少なくとも前後一対の針床を備えた横編機に対して、各針床の度山カムを度山補正値に応じて制御し、かつ横編機で形成された編目のループ長と、編目のループ長の目標値との差に応じて、前記度山補正値を更新する横編機の糸長制御装置において、
各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定自在に構成すると共に、
前記設定に従い各針床の度山補正値を更新すると共に、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、各針床で形成される編目のループ長が等しくなるように度山補正値を更新する度山補正部を備えていることを特徴とする。
【0009】
この発明はまた、少なくとも前後一対の針床を備えた横編機に対して、各針床の度山カムを度山補正値に応じて制御し、かつ横編機で形成された編目のループ長と、編目のループ長の目標値との差に応じて、前記度山補正値を更新する横編機での糸長制御方法において、
各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定するステップと、
度山補正部により、前記設定に従い各針床の度山補正値を更新すると共に、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、各針床で形成される編目のループ長が等しくなるように度山補正値を更新するステップ、とを実行することを特徴とする。
【0010】
この発明では、各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定できる。従って、共通の変化分で度山補正値を更新すると、編成で使用しない針床の度山に対しても度山補正値を更新することができる。そして異なる変化分で度山補正値を更新すると、針床により編目のループ長が異なる、あるいは目標のループ長に一致させることができず、度山補正値が不安定になることを防止できる。またリブ編地の表目を編成する針床と裏目を編成する針床とで、度山補正値の変化分を異ならせることにより、リブ編成での風合を一定にしながら、編地の丈等の乱れを防止することができる。さらに、針床によって同じループ長の編目を形成するための、度山補正値の変化分が異なる場合も、各針床で形成される編目のループ長を揃えることができる。この明細書で、糸長制御装置に関する記載は糸長制御方法にもそのまま当てはまり、糸長制御方法に関する記載は糸長制御装置にもそのまま当てはまる。
【0011】
またこの発明は、少なくとも前後一対の針床を備えた横編機に対して、各針床の度山カムを度山補正値に応じて制御し、かつ横編機で形成された編目のループ長と、編目のループ長の目標値との差に応じて、前記度山補正値を更新し、各針床に対して共通の変化分で度山補正値を更新するか、針床により異なる変化分で度山補正値を更新するかを設定自在に構成すると共に、度山補正部により、前記設定に従い各針床の度山補正値を更新すると共に、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、リブ編成に対し、リブの裏目を編成する針床の度山補正値のみを更新し、リブの表目を編成する針床の度山補正値を更新せずに固定する。リブの表目は裏目に比べて目立ち、ループ長の変化が編地の風合の変化として感じられ易い。そこで表目を編成する針床の度山補正値を固定することにより、風合を安定させる。表目を編成する針床の度山補正値の変化を固定すると、リブ編地の消費糸長は目標値から乱れ、この乱れをリブの裏目を編成する針床の度山補正値を大きく変化させることにより補正する。従ってリブ編地全体としては、目標の消費糸長で編成が行われる。そしてリブの裏目は目立たないので、度山補正値を大きく変化させても、風合の変化は感じられない。またリブ編地の消費糸長が目標値に一致するように制御されるので、編地の丈等のサイズが乱れない。
【0012】
より好ましくは、度山補正部は、度山補正値の変化分に対する編目のループ長の変化の割合を複数の針床に対して求め、求めた割合は記憶部に記憶され、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、度山補正部は、前記割合に従った変化分で度山補正値を更新する。複数の針床に対して求めるとは、例えば針床毎に求めること、下部の針床の一方と上部の針床の一方に対して求めること等を意味する。針床によって同じだけループ長を変化させるための度山補正値の変化分が異なる。そこで度山補正値の変化分に対する編目のループ長の変化の割合を記憶し、記憶した割合に応じて度山補正値を更新すると、度山補正値の変化に対してループ長が鋭敏に変化する針床で小さな変化分を適用し、度山補正値の変化に対してループ長が僅かしか変化しない針床で大きな変化分を適用することにより、最適な度山補正値に更新できる。
【0013】
特に好ましくは、横編機は前後上下4枚の針床を備え、針床により異なる変化分で度山補正値を更新する設定では、少なくとも上部の前後の針床の度山補正値と、下部の前後針床の度山補正値とを、異なる変化分で更新する。前後上下4枚の針床を備えた横編機では、上部の針床と下部の針床とで、例えば針床の傾斜が異なり、度山補正値を同じだけ変化させた際の、編目のループ長の変化も異なる。そこで上部の針床の度山補正値と、下部の前後針床の度山補正値とを、異なる変化分で更新すると、上下の針床の差の影響を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】横編機での前後上下の針床とキャリッジとの配置を模式的に示す図
図2】キャリッジでの針床毎の度山カムを模式的に示す図
図3】実施例の糸長制御装置のブロック図
図4】度山補正テーブルを模式的に示す図
図5】実施例でのループ長ルーチンを示すフローチャート
図6】実施例での度山補正サブルーチンAのフローチャート
図7】実施例での度山補正サブルーチンBのフローチャート
図8】実施例での度山補正サブルーチンCのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に、周知技術による変更の可能性を加味して解釈されるべきである。
【実施例】
【0016】
図1図8に、実施例とその変形とを示す。図1図2は横編機2の構造を示し、横編機2は下部前針床dfと下部後針床dr、上部前針床ufと上部後針床urの4枚の針床を備えている。なお下部の針床df,drのみから成る2枚の針床を備えた横編機でもよい。針床df〜urの上部にレール4があり、レール4に沿って複数の給糸口6が移動し、針床df〜urの図示しない針に糸を供給する。また針床df〜ur上をキャリッジcが移動し、針床の針を操作する。gはトリックギャップで、針床df〜urの針が編目を形成する場所である。横編機2の前後上下は図1のように定義し、前針床df,ufがある側を前、後針床dr,urがある側を後とする。そして通常の意味での上側を上、通常の意味での下側を下とする。
【0017】
キャリッジcは複数のカムシステム8を備え、各針床df〜urの針を操作する。カムシステム8の中で、度山カム9,10は編目のループ長、言い換えると編目のサイズを制御するカムである。なおループ長は編目1目当たりの糸長を、編目サイズは編目の縦と横のサイズを意味する。度山カム9,10は糸を保持する針の引き下げ量を制御し、各度山毎に設けられた度山モータM1〜M24(図3)により制御される。度山カム9は往行方向の度山カム、度山カム10は復行方向の度山カムである。実施例では針床df〜urは前後上下の4枚で、針床1枚当たり例えば3個のカムシステム8を備えているので、度山カム9,10の総数は24個である。
【0018】
12は横編機2のコントローラで、16は給糸口6へ供給する糸の長さを測定するエンコーダで、例えばロータリエンコーダである。糸長制御装置14はエンコーダ16と度山モータM1〜M24を除いて、コントローラ12内に設けられる。図3に示すように、エンコーダ16で測定した糸長と目標の糸長とを、例えば1コースの編成毎などに、比較部18で比較する。度山補正部20は、比較部18での比較結果を用いて、度山補正テーブル22を更新し、度山補正テーブル22に記憶した度山補正値により、例えばコースの終わりでキャリッジcが反転する際などに、度山モータM1〜M24が制御される。
【0019】
設定部24は度山補正に関する設定を行い、具体的には
・ 前後上下の各針床毎に各々別個の変化分で度山補正値を更新するか、
・ これらの針床の度山補正値を全て共通の変化分で更新するか、
・ 下部の2枚の針床の度山補正値を共通の変化分で更新し、上部の2枚の針床の度山補正値を共通の変化分で更新するかなどを入力する。最後のケースでは、下部の針床と上部の針床とで度山補正値の変化分が異なる。設定部24は、例えば横編機2のコントローラ12からユーザの入力を受け付け、あるいは編成データから度山補正に関する設定を判別する。換算表26は、前後上下の針床df〜ur毎に、ループ長を同じだけ変化させるための度山補正値の変化分を記憶している。換算表26での記憶値は、ループ長を一定値だけ変化させるための変化分自体でも、あるいはいずれかの針床を基準とする変化分の相対値でもよい。また度山補正値の変化分の代わりに、その逆数、即ち度山補正値を一定量変化させた際のループ長の変化、あるいはループ長の変化の相対値、等を記憶しても良い。
【0020】
図4に度山補正テーブル22の構成を示す。前後上下4枚の針床に対して度山補正テーブル22がそれぞれ1枚ずつ設けられ、各度山補正テーブル22にはカムシステムC1,C2,C3のそれぞれに対し、往行の度山9と復行の度山10に付いて、度山補正値が記憶されている。実施例では例えば7種類の糸を用いることができるものとし、糸毎に度山補正値を記憶し、度山補正値には上限と下限とがある。
【0021】
図5に、ループ長ルーチンのアルゴリズムを示す。ループ長ルーチンは例えば毎日1回横編機2の起動時に実行するが、1週間に1回などの頻度で実行してもよい。ステップ1で、目標ループ長で編目を編成するための度山補正値を、各針床の各度山カム9,10毎に求める。複数の糸がある場合、この処理を例えば各糸毎に実行する。ステップ1は従来技術と同じ処理であり、ステップ1の内容は任意である。
【0022】
ステップ1を実行する過程で、度山補正値をどれだけ変化させると消費糸長、言い換えると編目のループ長がどれだけ変化するかが判明する。そこでループ長を同じだけ変化させるための度山補正値の変化分を換算表26に書き込む(ステップ2)。ステップ2は糸毎に実行してもよく、糸の違いを無視しても良い。ステップ2は、例えば前後上下の各針床毎に実行するが、下部の針床df,drは度山補正値の変化分当たりのループ長の変化率が等しいものとし、上部針床uf,urも度山補正値の変化分当たりのループ長の変化率が等しいものと近似してもよい。このように近似すると、少なくとも上下2枚の針床に対し、ステップ2を実行する必要がある。なおステップ2は、図7のステップ11,12を実行するための処理であり、図6図8の度山補正A,Cを実行する場合、ステップ2を省略してもよい。
【0023】
図6は度山補正の最初の実施例(度山補正A)を示す。度山補正Aを編地を編成中に割込により実行し、ステップ3〜ステップ7を実行すると割込を終了する。ステップ3で消費糸長と目標糸長とを比較し、この差を補正するための度山補正値の変化分を求める。ステップ4で、設定部24での設定をチェックし、前後上下4枚の針床df〜urに対し、共通の変化分で度山補正値を更新する設定の場合、前後上下の度山補正テーブルを共通の変化分で更新する(ステップ5)。この場合、編成で使用していない針床の度山に対しても、共通の変化分で度山補正値を更新する。
【0024】
下部の前後の針床df,drの度山補正値の変化分を共通にし、上部の前後の針床uf,urでの補正値の変化分も共通にする、しかし上下の針床では補正値の変化分は共通ではないとの設定の場合、例えば下部前針床dfと下部後針床drの度山補正値、または上部の前後の針床uf,urの度山補正値を、共通の変化分で更新する(ステップ6)。更新する度山補正値は、ステップ3で消費糸長を測定した針床及びその針床と上下が同じ前後他方側の針床である。この設定はガーター編みの場合に特に有効である。4枚ベッドの横編機を用いて筒状編地の前後をガーター編みする場合、前編地は下部前針床dfで表目を、上部後針床urで裏目を形成し、後編地は下部後針床drで表目を、上部前針床ufで裏目を形成する。上部の前後の針床の度山補正値の変化分を共通にすると、表目のコースを編成するための度山補正値は前後の針床で同じ変化分で更新され、裏目のコースを編成するための度山補正値も前後の針床で同じ変化分で更新される。
【0025】
前後と上下とで別々に、言い換えると各針床毎に他と無関係に度山補正テーブルを更新するとの設定ができる。この設定の場合、ステップ3で消費糸長を測定したその針床に対してのみ、度山補正テーブルを更新する(ステップ7)。
【0026】
図7の度山補正Bは度山補正の他の実施例を示し、ステップ3,5は図6のステップ3,5と同じである。図7では、全ての針床の度山補正値を同じ変化分だけ変更する(共通に変更)と、針床毎に個別に変更する(針床毎の個別の変化分で度山補正値を更新する)、の2種類の設定ができるものとし、ステップ10で設定をチェックする。針床毎に個別に度山補正値を更新する場合、ステップ3で消費糸長を測定した針床以外の針床に対し、度山補正値の変化分を図3の換算表26に従って決定する。例えば換算表26に、ループ長の変化当たりの度山補正値の変化分が記載されている場合、度山補正値の変化分の比に応じて、度山補正値を変化させればよい。例えば針床Aで消費糸長を測定し、換算表26での記憶値は針床Aに対しa、針床Bに対しbとすると、針床Bには針床Aでの度山補正値の変化分に(b/a)を乗算して、度山補正値の変化分を求める(ステップ11)。ステップ12で、求めた変化分に従い、各針床の度山補正テーブルを更新する。なお度山補正値を離散的にしか更新できない場合、換算により生じた端数を記憶し、次回の更新時に加算することが好ましい。
【0027】
図8の度山補正Cでは、図6と同じステップ3,5を実行する。度山補正Cはリブ編地の編成に適用され、ステップ10の設定のチェックで、前後上下の針床を共通に更新するか、個別に更新するかをチェックし、前後上下の針床で度山値を共通の更新する設定の場合、ステップ20でリブ編地以外の編成の場合、図6のステップ5を実行する。針床の度山補正値を個別に更新し、かつ編成中の編地の種類がリブである場合、リブの裏目を編成する針床のみ、度山補正値を更新し、リブの表目を編成する針床等の、他の針床の度山補正値は更新しない(ステップ21)。ただしリブの表目を編成する針床に対して、リブの裏目を編成する針床よりも小さな変化分、例えばリブの裏目を編成する針床の3/4以下、好ましくは1/2以下の変化分で、度山補正値を更新しても良い。
【0028】
図8のステップ21で、リブの表目を編成する針床に対して、度山補正値が固定され、リブ編地では表目により風合いがほぼ定まるため、リブ編地の風合いが一定に保たれる。リブ編地の編成での消費糸長が目標値から外れると、これを解消するように裏目を編成する針床の度山補正値を更新する。従ってリブ編地全体としての消費糸長は目標値に揃えられる。この結果、編地の丈などのサイズが乱れることを防止できる。従って全体としては、一定の風合いでかつ所望のサイズのリブ編地を編成できる。
【0029】
実施例では前後上下4枚の針床を備えた横編機2を説明したが、前後の針床のみを備えた横編機でもよい。この場合は前針床と後針床の間で、度山補正値を同じ変化分だけ更新してもループ長の変化は等しくはないことを、補正する。また前後上下4枚の針床で、度山補正値の変化に対するループ長の変化の差が最も大きいのは、上下の針床間である。そこで下部前針床dfと下部後針床drを共通の度山補正値で更新し、上部前針床ufと上部後針床urを共通の変化分で更新し、下部の前後の針床df,drの度山補正値と、上部の前後の針床uf,urの度山補正値とを異なる変化分で更新すると、ほぼ目標のループ長の編地を編成できる。
【符号の説明】
【0030】
2 横編機
4 レール
6 給糸口
8 カムシステム
9,10 度山カム
12 コントローラ
14 糸長制御装置
16 エンコーダ
18 比較部
20 度山補正部
22 度山補正テーブル
24 設定部
26 換算表

df 下部前針床
dr 下部後針床
uf 上部前針床
ur 上部後針床
c キャリッジ
g トリックギャップ
M1〜M24 度山モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8