特許第5698568号(P5698568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698568酸化アルミニウム焼結体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698568
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】酸化アルミニウム焼結体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/10 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
   C04B35/10 E
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-52096(P2011-52096)
(22)【出願日】2011年3月9日
(65)【公開番号】特開2012-188313(P2012-188313A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2013年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391005824
【氏名又は名称】株式会社日本セラテック
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小倉 知之
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩章
(72)【発明者】
【氏名】三浦 友幸
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−158055(JP,A)
【文献】 特開2006−089358(JP,A)
【文献】 特開平11−294455(JP,A)
【文献】 特開2010−120795(JP,A)
【文献】 特開2011−073905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/10−35/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンのみが添加され、結晶粒子と粒界相とからなる酸化アルミニウム焼結体の製造方法であって、
酸化アルミニウム粉末と酸化チタン粉末とを質量比99.90:0.10から99.50:0.50までの範囲で混合する工程と、
前記混合粉末を成形後、得られた成形体を室温から焼成温度まで80℃/hr以下の昇温速度で昇温して1500℃以上で焼成する焼成工程と、を含み、
前記焼成により得られた酸化アルミニウム焼結体の結晶粒子中に酸化チタンが0.08質量%以上0.30質量%以下固溶しており、前記結晶粒子の平均長軸長さは、20μm以上であることを特徴とする酸化アルミニウム焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインセラミックスの分野、特に酸化アルミニウム焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファインセラミックスは、多様な特性を有し、情報通信、精密機械、医療等の各種分野で利用されている。中でも酸化アルミニウム焼結体は代表的である。酸化アルミニウムは、比較的安価で汎用性が高く、機械的強度、耐熱性、耐食性等に優れているため、構造部材として使用されることも多い。しかし、酸化アルミニウム焼結体は難加工性を有し、大型もしくは複雑形状の構造部材を製作する際には多くの加工が必要となり、製造費中の加工費の割合が高くなりやすい。したがって、加工性を向上させることができれば、大幅な製造費の低減が期待できる。
【0003】
酸化チタンおよび酸化アルミニウムを材料とした製品には、静電チャックのような電気特性を利用したものがある。例えば、特許文献1記載の静電チャック基盤は、酸化アルミニウムを主成分として酸化チタンを添加し還元雰囲気にて焼成して得られたものである。また、強度および破壊靭性を向上させるために特徴的な組織構造を有する材料もある。特許文献2記載のアルミナ質焼結体は、長径3μm以下、アスペクト比1.5以下の等方性酸化アルミニウム結晶粒子と長径10μm以上、アスペクト比3以上の異方性酸化アルミニウム結晶粒子とが混在した焼結体である。また、易加工性を追求したものもある。特許文献3記載の易加工性複合材料は、ホウ酸アルミニウムを含有するアルミニウム基複合材料であり、ホウ酸アルミニウム圧粉体に溶融アルミニウム合金を注ぎ鋳造することで製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平06−97675号公報
【特許文献2】特開平09−87008号公報
【特許文献3】特開2004−353049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の静電チャック基盤は、酸化チタン添加量が0.5〜2.0wt%であること、還元雰囲気での焼成であることを考慮すると、チタン酸アルミニウムが生成し、酸化チタンの酸素が欠損するはずである。そのため、チタン酸アルミニウムが生成されて微粒子が形成され、粒子の不均一化による加工性の低下を招いたり、酸化アルミニウム本来の乳白色の外観を損なったりするおそれがある。
【0006】
また、特許文献2記載のアルミナ質焼結体は、等方性酸化アルミニウム結晶粒子と異方性酸化アルミニウム結晶粒子とが混在しているため、焼結体組織が不均一になり、加工し難くなるおそれがある。また、特許文献3記載の易加工性複合材料は、鋳造により製造されるため、手間がかかる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、焼結体組織が均一であり加工性に優れた酸化アルミニウム焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の酸化アルミニウム焼結体は、結晶粒子と粒界相とからなる酸化アルミニウム焼結体であって、結晶粒子中に酸化チタンが0.08質量%以上0.30質量%以下固溶していることを特徴としている。
【0009】
このように本発明の酸化アルミニウム焼結体は、結晶格子中に酸化チタンが固溶し、粒成長が促進されているため、焼結体組織が均一になり、加工性が良好となる。また、チタン酸アルミニウムの生成や酸化チタンの酸素欠損が生じ難い。
【0010】
(2)また、本発明の酸化アルミニウム焼結体は、前記結晶粒子の平均長軸長さが20μm以上であることを特徴としている。このような粒子形状を有することで、加工抵抗を小さくすることができる。
【0011】
(3)また、本発明の酸化アルミニウム焼結体の製造方法は、結晶粒子中に酸化チタンが固溶している酸化アルミニウム焼結体の製造方法であって、酸化アルミニウム粉末と酸化チタン粉末とを質量比99.95:0.050から99.5:0.50までの範囲で混合する工程と、前記混合粉末を成形後、得られた成形体を室温から焼成温度まで80℃/hr以下の昇温速度で昇温して焼成する焼成工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
室温から焼成温度までを80℃/hr以下の昇温速度で昇温して焼成するため、酸化アルミニウム中に酸化チタンが固溶し、粒成長を促進できる。これにより、焼結体組織が均一であり、加工性が良好な酸化アルミニウム焼結体を製造できる。また、大気雰囲気中で焼成するため、チタン酸アルミニウムの生成や酸化チタンの酸素欠損を防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、結晶格子中に酸化チタンが入り込み、粒成長が促進されているため、焼結体組織が均一であり、加工性が良好である。また、チタン酸アルミニウムの生成や酸化チタンの酸素欠損が生じ難い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(酸化アルミニウム焼結体の構成)
本発明の酸化アルミニウム焼結体は、酸化アルミニウムの結晶粒子と粒界相とから構成されている。結晶粒子中には、酸化チタンが0.08質量%以上0.30質量%以下固溶している。結晶格子中に酸化チタンが固溶し、粒成長が促進されていることで、焼結体組織が均一になり、加工性が良好となる。また、チタン酸アルミニウムの生成や酸化チタンの酸素欠損が生じておらず、酸化アルミニウム焼結体の本来の呈色が保持されている。
【0015】
酸化アルミニウム焼結体の平均長軸長さは10μm以上であることが好ましい。このように十分に粒成長しているため、加工性が高い。ただし、粒成長が過剰になると気孔が生じやすくなり緻密性が損なわれるおそれがあるため、平均長軸長さは50μm以下であることが好ましい。
【0016】
また、酸化アルミニウム結晶粒子の平均長軸長さは20μm以上であることが好ましい。このような粒子形状を有することで、加工抵抗を小さくすることができる。
【0017】
(酸化アルミニウム焼結体の製造方法)
次に、酸化アルミニウム焼結体の製造方法を説明する。まず、高純度の酸化アルミニウム粉末と高純度の酸化チタン粉末とを質量比99.95:0.050から99.5:0.50までの範囲で混合する酸化アルミニウム粉末として、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上の純度のものを用いることが望ましい。また、用いる酸化アルミニウム粉末の粒径は1.0μm以下であることが好ましい。また、0.1μm以上0.5μm以下であれば、さらに好ましい。
【0018】
添加する酸化チタン粉末の純度は好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上であることが好ましい。また、酸化チタン粉末の粒径は0.5μm以下であることが好ましい。0.03μm以下であればさらに好ましい。また、酸化チタン粉末が添加されることが好ましいが、これに限定されず、大気中での焼結後に酸化物を生成する塩化物、有機チタン化合物等の種々の形態で添加されても良い。酸化チタン粉末を用いることで、加工性に優れた酸化アルミニウム焼結体を得ることができる。
【0019】
酸化アルミニウム粉末と酸化チタン粉末のスラリーは、ボールミルを用いて混合できる。たとえばアルミナボールを入れた樹脂ポットを用いて混合し、スラリー化する。適宜、分散剤やバインダー等を加えて混合し原料粉末を作製する。
【0020】
得られた原料粉末は、乾燥させて成形する。たとえば金型による一軸加圧成形およびCIPで成形する。原料粉末は、一軸プレス成形、CIP成形、湿式成形、加圧鋳込みや廃泥鋳込み等種々のいずれかで成形できる。中でも加圧鋳込みや廃泥鋳込みなどの鋳込み成形が好ましい。その場合に用いるスラリーは、十分に混合して作製されていることが好ましい。例えば、混合時間18時間以上とする。十分に混合することで分散が均一なスラリーが得られる。
【0021】
得られた成形体は、室温から焼成温度まで80℃/hr以下の昇温速度で昇温して1500℃以上1700℃以下で焼成する。焼成温度は、酸化アルミニウム焼結体の平均長軸長さが20μm以上となり、十分に緻密化する温度を設定する。
【0022】
焼成は、大気、真空または不活性ガス等の種々の雰囲気の中で、常圧で行なうことが好ましい。中でも常圧の大気雰囲気が最も好適である。カーボンやCOなどの還元能を有する物質が含まれる還元雰囲気で焼成する場合は、焼結体の青色の色むらが顕著になる場合があるが、これを防止できる。
【0023】
室温から焼成温度に至るまでの昇温速度は80℃/hr以下が好ましい。50℃/hr以下であれば、さらに好ましい。昇温速度を小さくすることで、酸化アルミニウム中に酸化チタンが固溶しやすくなり、結晶粒径が均一化する。昇温速度が80℃/hrより大きい場合には、固溶が難しく、結果素材内の色むらが生じ、かつ、焼成時にひび・割れなどが発生しやすくなる。
【0024】
(実験結果)
実験結果を以下に示す。表1は、試料1〜18の製造条件および評価を示している。
【表1】
【0025】
(試料1〜10)
平均粒子径0.5μm、純度99.5%の酸化アルミニウム粉末、平均粒子径0.02μm、純度99.9%の酸化チタン粉末を、表1に示す混合比にて混合粉末とした。各粉末の混合は、任意量のΦ10のアルミナボールを入れた樹脂ポットを用いて、18時間混合し、スラリー化することにより行った。スラリーを乾燥後、金型による一軸加圧成形およびCIPにて成形し、成形体を焼成した。
【0026】
酸化アルミニウム粉末に酸化チタンを質量比99.95:0.050から99.5:0.50までの範囲に入るように混合し、混合粉末の成形体を昇温速度10〜80℃/hrで1500〜1700℃まで加熱し、3時間保持した後、自然冷却することによって焼結体を得た。得られた焼結体の作製条件および結果を試料1〜10として表1に示している。いずれも酸化アルミニウム粒径の平均長軸長さが20μm以上であり、加工性が優れていた。
【0027】
(試料11〜18)
酸化アルミニウム粉末に酸化チタンを質量比99.90:0.1から99.0:1.0までの範囲に入るように混合し、昇温速度25〜100℃/hrで1400〜1700℃まで加熱し、3時間保持した後、自然冷却することによって焼結体を得た。得られた焼結体の作製条件および結果を試料11〜18として表1に示している。試料1〜10と比較して、酸化チタンを多く含有している試料では焼結体が青色の色むらを呈していた。また、その中でも焼成温度が低い試料では酸化アルミニウム粒径の平均長軸長さが4μm以下であり、加工性が低下した。
【0028】
(評価方法)
上記の実施例および比較例に対して行った評価方法を説明する。まず、得られた酸化アルミニウム焼結体について、焼結体密度、酸化チタン固溶量および平均粒子径を測定した。焼結体密度は、アルキメデス法により測定した。酸化チタン固溶量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(エスアイアイナノテクノロジー社製SPS-3500型)を用いて、誘導結合プラズマ発光分光分析方法により定量分析して測定した。
【0029】
酸化アルミニウム焼結体中に含まれる全チタン量は、試料を加圧容器内にて硫酸で溶解し、溶液中に含まれるチタンの定量分析を行うことにより求めた。酸化アルミニウム焼結体中に含まれる全チタン量は、酸化アルミニウム結晶粒子中に固溶するチタンおよび固溶せずに結晶粒界に存在するチタンを合計した量である。
【0030】
酸化アルミニウム焼結体中の結晶粒界中に含まれるチタン量は、別途、試料を常圧化でフッ化水素酸−王水混酸で30分間加熱し、不溶解物をろ別し、ろ液に含まれるチタンの定量分析を行うことにより求めた。そして、上記の全チタン量から結晶粒界中に含まれるチタン量を差し引くことで、酸化アルミニウム結晶粒子中に固溶するチタン量を求め、酸化物換算をして比較した。平均粒子径は、焼結体表面を鏡面研磨し、サーマルエッチングにより結晶粒界を析出させた研磨面をSEM観察した。各粒子を矩形近似し、長辺を長軸として長さを測定し、平均値を求めた。なお、平均値はサンプル数15で求めた。