(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。なお、複数の図面において対応する要素には同一の符号を付した。また、以下の説明では、本実施形態の画像記録装置として、インクジェット方式のフルライン型画像記録装置を用いる例を説明するが、本発明の実施形態に係る画像記録装置はインクジェット方式のフルライン型の画像記録装置に限定されるものではなく、インクを使用する画像記録装置であれば他の装置にも適用可能である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像記録装置1の構成を例示するブロック図である。また、
図2は、本発明の一実施形態に係る画像記録装置1の構成要素の配置を例示す図である。以下、
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態に係る画像記録装置1について説明する。
【0016】
本発明の一実施形態に係る画像記録装置1は、制御部2、画像記録部3、給送部4、搬送部5、及び収納部6を含んでいる。
【0017】
制御部2は、例えばMPU(Micro Processor Unit:演算処理装置)等を含み、制御機能及び演算機能を有する。制御部2は記憶部7を含む。
【0018】
制御部2は、搬送情報生成部53により生成された搬送距離情報に基づいて、画像記録部3の記録ヘッド32に含まれるノズル列33からインクを吐出するタイミングを決定する。制御部2は、搬送距離情報に基づいて記録媒体9がノズル列33と対向する位置に搬送されるタイミングでノズル列駆動部31を制御し、ノズル列33からインクを吐出させ、記録処理を行う。
【0019】
記憶部7は、例えば、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、MPUが作業用記憶領域として使用するRAM(Random Access Memory)、及び画像記録装置1の制御に関する各種設定値等を記憶する不揮発性メモリ等を含む。
【0020】
制御部2は、例えばROMに記憶されている制御プログラムを実行することで、例えば、インク温度取得部21、補正値取得部22、補正部23、画像解析部24、及び温度補正部25として機能する。この制御プログラムは例えばROMに予め記憶させておく。
【0021】
本発明に係る一実施形態では、記憶部7には記録データの補正を実行するために用いられる例えば、
図3(a)及び(b)に示されるようなインク温度と補正値を対応づけるインク温度補正グラフ又はインク温度補正テーブルが予め記録されている。
【0022】
画像記録部3は、例えば、ノズル列33を含む記録ヘッド32、ノズル列駆動部31、及びインク温度計測部34を備えている。ノズル列33は、インクを吐出する複数のノズルにより形成されている。ノズル列駆動部31は、制御部2の駆動指示に従ってノズル列33に含まれる複数のノズルを個別に駆動する。
【0023】
インク温度計測部34は、例えば、温度計であって画像記録部3内のインク温度を計測する。なお、インク温度として利用可能な値は様々であり、必ずしもインクの温度が直接計測されている必要はない。インク温度は、例えば、ノズル列33に含まれる個々のノズルの近傍の温度であってもよく、又は複数のノズルを含む記録ヘッド32の温度であってもよい。また、インク温度の例は、これらに限定されるものではなく、ノズルから吐出される直前のインクの温度変化を反映する値であればどのような値であってもよい。
【0024】
給送部4は、例えば紙等の記録媒体9を積載する給送トレイ41、及び記録媒体9を搬出する給送ローラ42を備え、制御部2からの指示に従って給送ローラ42を駆動し、記録媒体9を搬送部5に搬送する。
【0025】
搬送部5は、例えば無端ベルトで構成される搬送部材51、搬送部材51を駆動する搬送駆動部52及び従動部54、並びに記録媒体9の搬送距離情報を生成する搬送情報生成部53を備え、記録媒体9を収納部6に搬送する。
【0026】
収納部6は排紙ローラ61と収納トレイ62で構成される。収納部6は、画像記録部3によって記録処理が行われた記録媒体9を排紙ローラ61によって機外に排出し、収納トレイ62に収納する。
【0027】
また、
図1において、画像記録装置1は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)等の上位装置8と接続されている。一実施形態では、画像記録装置1は、上位装置8からジョブ情報を受信し、受信したジョブ情報に基づいて、複数のノズルより記録媒体9上にインクを吐出し、記録処理を行う。
【0028】
しかしながら、画像記録装置1は必ずしも上位装置8と接続されている必要は無く、別の実施形態では、例えば、画像記録装置1にFlashメモリ等の記憶媒体が接続され、記憶媒体に格納されているデータに基づいてジョブ情報が生成され記録処理が実行されてもよい。
【0029】
更に、上述したインク温度取得部21、補正値取得部22、補正部23、画像解析部24、及び温度補正部25は、制御部2の演算処理装置が制御するハードウェアとしての信号処理回路として構成してもよい。
【0030】
以上で例示した画像記録装置1において、本発明に係る第1の実施形態を以下に説明する。
【0031】
<第1の実施形態>
第1の実施形態においては、画像記録装置1はインク温度が変化した場合に、記録データに含まれる吐出量を示す階調値の補正を実行する。
【0032】
記録データの吐出量を示す階調値の補正は、例えば、
図3(詳細については後述する)に示されるような階調の補正値とインク温度との対応関係に基づいて行われる。第1の実施形態において、インク温度取得部21は、画像記録部3のインク温度計測部34により計測されたインク温度を取得する。画像記録装置1の補正値取得部22は、インク温度取得部21が取得したインク温度に対応する補正値を
図3(a)のインク温度補正グラフ又は
図3(b)のインク温度補正テーブルを参照して取得する。補正部23は、取得した補正値を用いて、記録データに含まれる画像を形成する各ドットに対するインクの吐出液量を表す階調値を補正する。画像記録部3は、補正された階調値を用いて記録媒体9に記録を行う。
【0033】
これらの補正値は、インク温度の変化に起因するノズルから吐出されるインク滴の液量の変化に応じて決定されているため、この補正値を用いて階調値を補正することで、インク温度の変化に起因するインクの吐出液量の変化による画質の劣化を抑制することができる。以下これらの処理について詳細に説明する。
【0034】
図3(a)は、本発明の一実施形態に係るインク温度と記録データの階調値の補正値との対応関係を示すインク温度補正グラフである。
図3(a)では、インク温度の変化と、補正値とが対応づけられている。また、
図3(b)は、
図3(a)に示される、インク温度と、補正値との対応関係をテーブルとして表したインク温度補正テーブルである。これらのインク温度と、インクの吐出液量を示す階調値を補正するための補正値との関係は、例えば、インクの特性や、用いられる画像記録部3のノズルからの1階調に対するインクの吐出液量等に基づいて、予め設定されていてよく、例えば、グラフ又はテーブルとして記憶部7に格納されていてもよい。
図3(a)及び(b)に示される補正値は、補正部23が記録データに含まれる画像を形成する各ドットに対するインクの吐出液量を表す階調値を、インク温度の変化に応じて補正するために用いられる。
【0035】
本実施形態に係る画像記録装置1では、記録ヘッド32に含まれる各ノズルは、基準温度として設定された温度25℃で設計上の目標値として定められた理想的な吐出液量を吐出するように設計されている。そのため、
図3(a)及び(b)に示すように、25℃周辺の温度範囲である24℃〜27℃の範囲では補正値は0となっており、実質的には補正は行われないことになる。しかしながら、例えば、記録処理において、ノズルからインク滴を吐出し階調値の高いドットを連続して形成する場合などではノズルの駆動率が高いためノズル周辺の温度が上昇して、インク温度の上昇を導く。そして、インク温度が27℃を超えてしまうと温度変化に起因するインク滴の液量の増加が画質に与える影響が目立つようになる。そのため、インク温度の上昇に起因する吐出液量増加によって、形成されるドットの濃度が濃くなるのを抑制するため階調の補正値に−1が設定されている。また、例えば環境によって気温が低いためにインク温度が下がってしまう場合もあり、それによって温度が24℃以下になってしまった場合にはインク滴の液量の減少が画質に与える影響が目立つようになる。そのため、インク温度の低下に起因する吐出液量減少によるドットの濃度低下を抑制するために、階調の補正値に+1が設定されている。このようにして、
図3(a)及び(b)では、〜19℃に補正値+3、19℃〜21に補正値+2、21℃〜24℃に補正値+1、24℃〜27℃に補正値0、27℃〜29℃に補正値−1、29℃〜30℃に補正値−2、及び30℃〜31℃に補正値−3が設定されている。
【0036】
なお、階調の数及び1階調当たりのインクの吐出液量(即ち、インク滴1ドロップ当たりの液量)は画像記録装置1によって様々である。そのため、
図3(a)のインク温度補正グラフ及び(b)のインク温度補正テーブルに示す補正値は、画像記録装置1の階調の数、及び1階調当たりのインクの吐出液量に応じて、インク温度変化により増減したインク滴の液量を、設計上の基準として設定したインク滴の液量(本実施形態においては上述したように基準温度である25℃におけるインク滴の液量)に戻すような値に設定される。一実施形態においては、階調の数は8階調であり、1階調当たりのインクの吐出液量は6plである。
【0037】
いくつかの実施形態においては、
図3(a)又は(b)に示されるようなインク温度と補正値の対応関係は例えば、グラフ又はテーブルとして記憶部7に予め格納されており、補正部23が補正を行う際に参照される。
【0038】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る補正処理を示す動作フロー図である。
図4のフローは、例えば上位装置8等から画像記録装置1がジョブ情報を受信すると開始する。ステップS1において、インク温度取得部21は、例えば記録ヘッド32に備えられている温度計等のインク温度計測部34により計測されたインク温度を取得する。
【0039】
ステップS2において、補正値取得部22は、取得したインク温度を用いて
図3(a)に示されるインク温度補正グラフ又は(b)に示されるインク温度補正テーブルなどのインク温度と補正値との対応関係を参照することで補正値を取得する。
【0040】
ステップS3において、補正部23は取得した補正値を用いて、ジョブ情報中の記録データに含まれる画像の各ドットの階調値を補正し、画像記録部3は、補正された階調値を用いて記録媒体にインクを吐出し、記録データに含まれる画像の各ドットを形成する。
【0041】
階調値の補正及び記録処理後、フローはステップS4へと進み、ここでジョブ情報により指示される記録処理が全て終了したか否かが判定される。ジョブ情報により指示される記録処理が全て終了している場合には、Yesと判定され本フローは終了する。一方、ジョブ情報により指示される記録処理が終了していない場合には、Noと判定され、フローはステップS1へと進み、ジョブ終了までこれらの処理が繰り返される。
【0042】
なお、先にも述べたように、インク温度として利用可能な値には様々なものがあり、必ずしもインクの温度が直接計測される必要はない。例えば、インク温度として利用される値は、記録ヘッド32の温度、或いは個々のノズルの温度など、画像記録部3内のインクの温度の変化に応じて変化する値であればどのような値であってもよい。
【0043】
また、画像記録装置1の画像記録部3が、例えば、短尺の記録ヘッド32を複数組み合わせ構成されておりインク温度計測部34がインク温度として記録ヘッド32の温度を計測する場合には、
図4の動作フローによる階調値の補正は記録ヘッド32単位で行われてもよい。また、例えば、インク温度計測部34がインク温度としてノズル単位で温度を計測する場合には、
図4の動作フローによる階調値の補正はノズルごとに行われてもよい。
【0044】
以上で述べたように、本発明に係る画像記録装置1は、インク温度の変化をモニターし、インク温度に応じた補正値を用いて、記録データの画像を形成する各ドットの階調値を補正するため、インク温度の変化に起因する記録画像の濃度ムラを抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態に係るインク温度の変化に応じた補正は、画像を形成するドットの階調値に対する処置であるため、記録ヘッドの駆動電圧の変更を行なわずに実行することができ、1枚の画像又は1つの画像の記録中或いはインクの吐出中であっても実行することが可能である。
【0046】
<第2の実施形態>
続いて、
図5、及び
図6を参照して第2の実施形態を説明する。第2の実施形態では、所定の階調値以下の階調値を有するドットで構成されるイメージ領域では補正値が一定の値に固定される。この補正値の固定は、所定の階調値以下の階調値を有するドットで構成されるイメージ領域、特に所定の階調値以下のドットで塗りつぶされたようなイメージ領域の場合、そのイメージ領域内で補正値を変更してしまうと、補正値の変更による濃度ムラがかえって目立つため、このようなイメージ領域内では補正値の変更を禁止するために行われる。
【0047】
まず、イメージ領域の位置の特定について説明する。一般的な印刷装置では、例えばベクターイメージ等で作成された元データは、ジョブ情報を生成する際にビットマップデータへとラスタライズされる。ビットマップデータはドットごとの色の濃淡を表す階調値を示すデータで構成されているため、ビットマップデータはドットにより形成された画像である。しかしながら、ビットマップデータに変換される前の例えばベクターイメージ等の元データにおいては、写真、絵等のイメージで構成されるイメージ領域と、文字及び記号等のテキストで構成されるテキスト領域とが区別されている場合がある。
【0048】
そのような場合には、イメージ領域がラスタライズ後のビットマップデータにおいてどの領域に存在するかの位置を示すイメージ領域情報(例えば、イメージ領域の水平方向及び垂直方向のドットの座標範囲で表される)、及びテキスト領域がラスタライズ後のビットマップデータにおいてどの領域に存在するかの位置を示すテキスト領域情報(例えば、テキスト領域の水平方向及び垂直方向のドットの座標範囲で表される)をジョブ情報に含めることで、ジョブ情報に基づいてイメージ領域及びテキスト領域の位置を特定することができる。
【0049】
図5には、例として、写真、絵等のイメージで構成されるイメージ領域A及びイメージ領域Bと、文字及び記号等で構成されるテキスト領域Cとが示されている。画像解析部24はジョブ情報に含まれるイメージ領域情報及びテキスト領域情報に基づいてこれらのイメージ領域及びテキスト領域の位置を特定する。また、画像解析部24は、イメージ領域情報により特定されるイメージ領域の位置を用いて、イメージ領域内にあるドットの階調値が所定の閾値以下である否かを判定し、イメージ領域内にあるドットの階調値が所定の閾値以下である場合には、そのイメージ領域を、補正値を固定する補正値固定領域として設定する。
【0050】
なお、
図5に示される、イメージ領域Aは、階調値が所定の閾値よりも高く補正値を変更可能な補正値変更可能領域である。また、イメージ領域Bは、階調値が所定の閾値よりも低く補正値を固定する補正値固定領域である。
【0051】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る補正処理を示す動作フロー図である。第1の実施形態では、補正値取得部22が補正値を取得すると、その補正値を用いて補正部23は直ちに階調値の補正を行なった(
図4のステップS2〜ステップS3)。しかしながら、第2の実施形態では、補正値取得部22が補正値を取得した後に、次にインク滴が吐出され形成されるドットが、補正値固定のイメージ領域内にあるか否かによって階調値の補正を実行するか否かが変わってくる。
【0052】
図6の動作フローは、画像記録装置1がジョブ情報を受信すると開始する。ステップST1において、インク温度取得部21はインク温度計測部34からインク温度を取得する。
【0053】
ステップST2において、補正値取得部22は、インク温度を用いて
図3(a)又は(b)に示されるようなインク温度と、補正値との対応関係を参照することで補正値を取得する。
【0054】
続いて、ステップST3へと進み、画像解析部24は、受信したジョブ情報から、記録データに含まれる画像中におけるイメージ領域の位置を示すイメージ領域情報を取得し、そのイメージ領域情報を用いて、画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットが、イメージ領域内にあるか否かを判定する。画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットがイメージ領域内に無い場合は、ステップST3はNoと判定され、フローはステップST5へと進む。
【0055】
一方、画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットがイメージ領域内にある場合は、ステップST3はYESと判定され、フローはステップST4へと進む。ステップST4において、画像解析部24は、次にインク滴が吐出され形成されるドットを含むイメージ領域が、所定の階調値以下のドットで構成された補正値固定領域であるか否かを判定する。補正値固定領域である場合はYesと判定され、フローはステップST6へと進む。一方、補正値固定領域ではなく、補正値変更可能領域である場合にはNoと判定され、フローはステップST5へと進む。
【0056】
ステップST5において、補正部23は、ステップST2で補正値取得部22により取得された補正値を用いて記録データに含まれる画像を形成する各ドットの階調値を補正する。そしてST6において画像記録部3は補正部23によって階調値が補正された記録データを用いて記録処理を実行する。
【0057】
続いてフローは、ステップST7に進み、ここでジョブ情報により指示される記録処理が全て終了したか否かが判定される。全ての記録処理が終了していない場合には、Noと判定され、フローはステップST1へと戻り、以降ジョブ終了までこれらの処理が繰り返される。一方、ジョブ情報により指示される記録処理が終了している場合には、Yesと判定され本フローは終了する。
【0058】
以上の
図6の動作フローに従って実行される記録処理を、
図5に示す例を用いて説明する。
図5において、画像記録装置1による記録処理が進行する方向を矢印Xで示した。
【0059】
画像記録装置1はジョブ情報を受信すると、
図6のステップST1〜ステップST2でインク温度に応じて補正値を取得する。また、
図5の記録媒体の上端にはイメージ領域がないため、ステップST3はNoと判定され、ステップST5〜6で補正値取得部22により取得された補正値を用いてジョブ情報に含まれる画像を形成する各ドットの階調値が補正され、補正された階調値を用いて、画像記録部3は、記録媒体9の上端から矢印の方向に向かって記録処理を開始する。記録処理がイメージ領域Aに到達するまでは、インク温度に所定の温度点を超える変化があれば補正値がステップST1〜ステップST2で変更され、ステップST5〜ステップST6でその変更された補正値を用いて階調値の補正が行われ、補正された階調値を用いて記録処理が進行する。
【0060】
記録処理がイメージ領域Aに到達すると、次にインク滴が吐出され形成されるドットはイメージ領域内にあるためステップST3はYesと判定されるが、イメージ領域Aは先にも述べたように補正値変更可能領域であるため、ステップST4はNoと判定され、ステップST5〜ステップST6で記憶部7の補正値を用いて階調値の補正が行われ、補正された階調値を用いて記録処理が進行する。なお、イメージ領域A内の画像を記録する間に、画像記録部3のノズルからインク滴の吐出が行われるため、画像記録部3は発熱しインク温度は変化する。このインク温度の変化が所定の温度点を超えて変化した場合には、ステップST1〜ステップSTE2で取得される補正値は変更され、変化された補正値を用いて階調値の補正が行われ、記録処理が実行される。
【0061】
更に記録処理が進み、イメージ領域Aの下端を過ぎると、イメージ領域Bに到達するまでは、
図6のステップST3はNoと判定されるため、ステップST5〜ステップST6で補正値取得部22が取得した補正値を用いて階調値の補正が行われる。
【0062】
イメージ領域Bは、前述したように補正値固定領域である。そのため、イメージ領域B内に到達すると、
図6のステップST3及びステップST4がYESと判定され、ステップST5により階調値を補正することなく、ステップST7において記録処理が進行する。従って、画像記録部3がイメージ領域B内に画像を記録している間は補正値を用いた階調値の補正は行われず、階調値は前回の補正処理で補正された値のままになり、結果として、階調値の補正に用いられる補正値は固定されることになる。即ち、このイメージ領域Bでは、階調値が所定の閾値以下であるため階調補正を実行するとかえって濃度むらが目立つ領域であるため、階調補正は行われない。
【0063】
記録処理がイメージ領域Bを過ぎると、以降にはイメージ領域はないため、インク温度に所定の温度点を超える変化があればステップST1〜ステップST2で補正値が変更され、ステップST5〜ステップST6でその変更された補正値を用いて階調値の補正が行われ、補正された階調値を用いて記録処理が進行する。なお、本実施形態では、テキスト領域を補正値変更可能領域としている。これは、テキスト領域ではインクの吐出液量に多少の変動があったとしてもそれほど目立たないためである。そのため、本実施形態では、テキスト領域C内においては、インク温度が所定の温度点を超えて変化した場合には補正値が変更され、変更された補正値により階調値の補正が実行される。
【0064】
以上で述べたように、第2の実施形態においては、画像記録部3が所定の閾値以下の階調値を有するイメージ領域である補正値固定領域に画像を記録している間は、補正部23は階調値に補正を実行せず、階調値が補正によって更新されない。そのため、補正値固定領域に画像を記録している間は階調値の補正に用いられる補正値が固定され一定の値に保たれる。これにより、閾値以下の階調値を有するイメージ領域内で補正値を変更したことに起因する濃度ムラを抑制することができる。
【0065】
<第3の実施形態>
続いて、本発明に係る第3の実施形態を
図7及び
図8を参照して説明する。第3の実施形態では、記録データに含まれる画像を解析し、画像内での階調値の高いドットと階調値の低いドットの分布に基づいて、インク温度の変化の向きが頻繁に変わる領域を推定し、インク温度の変化の向きが頻繁に変わる領域では温度計測部で計測されたインク温度に補正をかけて、補正値の変動を緩やかにさせる。
【0066】
まず、インク温度の変化の向きが頻繁に変わる領域の推定について説明する。先にも述べたように、記録ヘッドを駆動すると熱が発生する。そのため、記録処理において、階調が高くインク滴の吐出回数が多いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域を記録しているノズルでは、その周辺のインク温度が上昇することが推定される。また、記録処理において、階調が高くインク滴の吐出回数が多いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域の直後に、階調が低くインク滴の吐出回数が少ないドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域が続く場合には、インク温度は階調が高い領域で上昇した後、直ぐに階調値が低い領域で降下することになる。
【0067】
このような、階調が高いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域の直後に階調が低いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域が続く領域では、インク温度の変化の向きが上下に短時間で変わるため、インク温度取得部21が取得したインク温度をそのまま用いて、インク温度補正グラフ又はインク温度補正テーブルを参照し補正値を取得すると、補正値が頻繁に変わるためかえって濃度ムラが目立ってしまう虞がある。
【0068】
そのため、第3の実施形態では、画像解析部24は、画像記録部3による記録処理を実行する前に、記録データに含まれる画像を予め解析し、記録処理において、階調が高いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域の直後に階調が低いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域が続く領域を温度補正領域として抽出する。
【0069】
階調値が高いドットとは、所定の閾値よりも高い階調値を有するドットであり、例えば、階調の数が8階調で、1階調当たりのインクの吐出液量が6plである画像記録装置1を仮定すると、閾値は階調値6以上というように設定してもよい。この場合、階調値が6、7、及び8であれば階調値の高いドットとなる。
【0070】
同様に、階調値が低いドットとは、所定の閾値よりも低い階調値を有するドットであり、例えば、階調の数が8階調で、1階調当たりのインクの吐出液量が6plである画像記録装置1を仮定すると、閾値は階調値2以下というように設定してもよい。この場合、階調値が0、1、及び2であれば階調値の低いドットとなる。
【0071】
なお、温度補正領域の抽出に用いる、階調が高いドット又は階調が低いドットの連続する回数である上記“所定の回数”を、以降の説明ではドット連続形成回数とも称する。階調の高いドットに対するドット連続形成回数と、階調の低いドットに対するドット連続形成回数は、同じ回数であっても、異なる回数であっても良い。
【0072】
図7に示される例は、温度補正領域の抽出に用いる、階調が高い画像領域及び階調の低い画像領域のドット連続形成回数をいずれも100回として温度補正領域を抽出した例である。第3の実施形態では、この抽出された温度補正領域内においてインク温度計測部34が計測した温度に対して補正を行う。なお、
図7において、記録処理の進行する方向を矢印Xで示した。
【0073】
図8は、第3の実施形態に係る、温度補正処理を示す動作フロー図である。第3の実施形態では、第1の実施形態と同じく、
図4に示される動作フローに従って階調値の補正が行われるが、第3の実施形態では
図4のステップS1において実行される、インク温度取得部21によるインク温度の取得が
図8の動作フローに従って行われる。
【0074】
図8の動作フローは、
図4に示される動作フローがステップS1に進むと開始する。
図8のステップSTE1において、インク温度取得部21はインク温度を取得し、フローはステップSTE2へと進む。
【0075】
ステップSTE2において、インク温度取得部21は、画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットが画像解析部24によって抽出された温度補正領域内にあるか否かを判定する。画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットが温度補正領域内に無い場合は、Noと判定されフローはステップSTE3へと進み、ステップSTE3においてインク温度取得部21が計測したインク温度がそのままインク温度として取得され、本フローは終了する。
【0076】
一方、画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットが温度補正領域内にある場合は、Yesと判定されフローはステップSTE4へと進む。
【0077】
ステップSTE4では、温度補正部25はインク温度計測部34により取得されたインク温度に対して補正を行う。この補正は、例えば、予め設定された温度補正係数に基づいて温度計測部34で計測されたインク温度を、基準温度からのズレが小さくなるように補正するものである。これは、例えば、{(計測したインク温度−基準温度)×温度補正係数+基準温度}を計算することで実行されてもよい。ここで、“基準温度”はノズルの設計上の基準として定められた温度であり、
図3(a)及び(b)の説明において上述したのと同様に、本実施形態においても“基準温度”は25℃である。また、温度補正係数は、インク温度の温度変化の向きが頻繁に変わる領域での補正値の変動が画質に与える影響を考慮して、予め定められた値であり、いくつかの実施形態においては0〜1の間の値に設定されてもよく、
図7の例では0.5であるものとする。
【0078】
温度補正領域内では、この補正後の値をインク温度として取得し、
図4のステップS2以降の処理で使用する。
【0079】
例えば、ステップSTE1で取得された温度が28℃であり、画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットが温度補正領域内に無い場合は、そのまま28℃がインク温度として用いられ、
図4のステップS2で取得される補正値は、
図3(a)又は(b)に示されるインク温度と補正値との対応から−1となる。
【0080】
しかしながら、ステップSTE1で取得された温度が28℃であり、画像記録部3により次にインク滴が吐出され形成されるドットが温度補正領域内にある場合は、ステップSTE4で温度の補正が実行され、{(28℃−25℃)×0.5+25℃}により、26.5℃がインク温度として取得される。そのため、
図4のステップS2で取得される補正値は、
図3(a)又は(b)に示されるインク温度と補正値との対応から0となる。
【0081】
このように、第3の実施形態においては、インク温度の変化の向きが上下に頻繁に変わると推定される温度補正領域を抽出し、温度補正領域内では、例えば、予め設定された温度補正係数に基づいて、計測されたインク温度を基準温度からのズレが小さくなるように補正する。そのため、インク温度の変化方向が短期間で頻繁に変わると推定される領域でも補正値を緩やかに変更して、濃度ムラを抑制することができる。
【0082】
なお、第3の実施形態における、インク温度の変化の向きが頻繁に変わる領域で補正値の変動を緩やかにさせる処理は、これらの例に限定されるものではない。例えば、上述した温度補正領域と同じようにして抽出された、階調が高いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域の直後に階調が低いドットが所定の回数以上連続して形成される画像領域が続く領域では、
図3(b)に示されるインク温度補正テーブルの補正値を小さくした別のテーブルを用いるようにしてもよい。例えば、このような別のテーブルでは、補正値は、インク温度〜20℃で2、20℃〜23℃で1、23℃〜28℃で0、28℃〜30℃で−1、30℃〜31℃で−2というように設定されていてもよい。
【0083】
また、本発明のいくつかの実施形態に係る階調値の補正は上述の実施形態で述べたものに限定されるものではなく、例えば、補正値として補正係数がテーブルに格納され、補正係数を乗算することで階調値を補正するように構成してもよい。例えば、このようなテーブルでは、インク温度の補正係数として用いられる補正値は、インク温度〜19℃で1.3、19℃〜21℃で1.2、21℃〜24℃で1.1、24℃〜27℃で1.0、27℃〜29℃で0.9、29℃〜30℃で0.8、30℃〜31℃で0.7というように設定されていてもよい。この場合には、補正部23は、インク温度に基づいて取得した補正係数を、記録データに含まれる画像を形成する各ドットに対するインクの吐出液量を表す階調値に乗じて得られた値に例えば四捨五入を行い、得られた値にもっとも近い階調値を用いて画像記録部3が記録処理を実行してもよい。
【0084】
また、上述のいくつかの実施形態においては、
図3(a)又は(b)に示すインク温度と補正値との対応関係を1つだけ用いてインク温度から補正値を取得する例を述べた。しかしながら、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、インク温度の変動に起因するインクの吐出液量の変動は、インクの種類によって様々である。そのため、例えば、
図3のインク温度と補正値とを対応づけるインク温度補正グラフ又はインク温度補正テーブルはインクの種類ごとに記憶部7に格納されていてもよい。
【0085】
また、上述したように、インク温度として利用可能な値は様々である。例えば、インク温度として個々のノズルの近傍の温度を取得する場合、補正値はノズルごとに取得される。しかしながら、例えば、インク温度として記録ヘッド32の温度を取得するというように複数のノズルに対して共通するインク温度が取得される場合には、記録ヘッド32に対して取得された1つのインク温度を記録ヘッド32に含まれる複数のノズルに対して利用するというように、取得した1つのインク温度を、記録ヘッド32に含まれる複数のノズルにより形成されるドットに対する階調値の補正に利用してもよい。
【0086】
更に、第3の実施形態における温度補正領域の抽出は、インク温度として記録ヘッド32の温度が取得される場合には、階調値の高いドットは、1つの記録ヘッドに含まれる複数のノズルのそれぞれから同時に吐出されるインク滴によって形成される複数のドットの階調値を平均し、その平均値が所定の閾値よりも高い場合に階調値の高いドットと判定されてもよい。また、同様に、階調値の低いドットも、1つの記録ヘッドに含まれる複数のノズルのそれぞれから同時に吐出されるインク滴によって形成される複数のドットの階調値を平均し、その平均値が所定の閾値よりも低い場合に階調値の低いドットと判定されてもよい。
【0087】
いくつかの実施形態について、説明してきた。しかしながら、本発明に係る実施形態は上記の実施形態に限定されるものではなく、上述の実施形態の各種変形形態及び代替形態を包含するものとして理解されるべきである。例えば、各種実施形態は、その趣旨及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できることが理解されよう。また、前述した実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、本発明に係る種々の実施形態を成すことができることが理解されよう。或いは、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して又は置換して、或いは実施形態に示される構成要素にいくつかの構成要素を追加して本発明に係る種々の実施形態が実施され得ることが当業者には理解されよう。