(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698604
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】斜面補強工法における最初の段のプレキャスト板の設置工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20150319BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20150319BHJP
E02D 29/02 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
E02D17/20 103H
E02D29/02 302
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-120429(P2011-120429)
(22)【出願日】2011年5月30日
(65)【公開番号】特開2012-246706(P2012-246706A)
(43)【公開日】2012年12月13日
【審査請求日】2014年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100073287
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 聞一
(72)【発明者】
【氏名】小林 望
(72)【発明者】
【氏名】大槻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】山田 誠
(72)【発明者】
【氏名】桐山 和也
(72)【発明者】
【氏名】服部 啓二
【審査官】
鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−003479(JP,A)
【文献】
特開2010−106433(JP,A)
【文献】
特開2011−089361(JP,A)
【文献】
特開平06−057756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00−17/20
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面中央に一体固設したプレートの中央に裏面側へ貫通する貫通孔を有したプレキャスト板を、地山の斜面の上端側に並列設置した後、下端側へ順次プレキャスト板を並列設置する斜面補強工法における、最初の段のプレキャスト板を設置する工法において、
前記斜面に、前記プレキャスト板を載置する、掘削形成される装着面と前記プレキャスト板との間の隙間が広い段部を掘削形成する工程と、
前記段部における載置面の装着面寄りの部位で地山に補強杭を打ち込む工程と、
前記プレキャスト板を前記段部に、装着面との間に隙間をあけて設置する工程と、
各プレキャスト板の貫通孔を貫通させて装着面より地山に削孔する工程と、
この削孔部内に挿入した棒状補強材における、貫通孔を貫通した突端部に、前記貫通孔を閉鎖可能な座金を介してナットを螺嵌緊締する工程と、
前記削孔部内にグラウト材を注入して、固化グラウト材と棒状補強材で支持杭体を形成する工程と、
前記各工程の終了後に、前記プレキャスト板の裏面と装着面との隙間に裏込め材を注入する工程と、
を有したことを特徴とする斜面補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面、即ち自然な急斜面や、切土法面又は表面保護工済の法面を補強する工法における最初の段のプレキャスト板の設置工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜面補強工法としては、斜面の最上端にプレキャスト板を並列設置した後、下端側へ順次プレキャスト板を並列設置する、所謂『逆巻き施工』や、その反対に斜面の最下端にプレキャスト板を並列設置した後、上端側へ順次プレキャスト板を並列設置する、所謂『順巻き施工』がある。
【0003】
本願出願人は、切土法面を安定化させるための補強工法として、前者の『逆巻き施工』に関する特許を保有しており、具体的には、形成しようとする補強切土面の上端から下に向けて一段目のプレキャスト板を据付けできる高さの装着面とプレキャスト板を載置可能な載置面を有する段部を掘削形成し、該装着面と一定の隙間をおいて載置面上にプレキャスト板を並列配置し、ついで夫々のプレキャスト板の貫通孔から装着面側に削孔して貫通孔から該削孔部に鉄筋等の棒状補強材を挿入した後、該削孔部及びプレキャスト板の裏側隙間にモルタルを注入し、夫々補強材の突端部をプレキャスト板に固着してプレキャスト板に一体連結しプレキャスト板を装着面に定着した後、上から二段目にコンクリートプレキャスト板を据付けできる高さの装着面とプレキャスト板を載置可能な載置面を有する段部を掘削形成し、装着面側との間に隙間をおいて夫々一段目のプレキャスト板の下端部に二段目のプレキャスト板を連結し、二段目のプレキャスト板に透設された貫通孔から削孔して貫通孔から該削孔部に棒状補強材を挿入した後、該削孔部及び二段目のプレキャスト板の裏側隙間にセメントミルク、モルタルの様な裏込め材を注入し、夫々補強材の突端部をプレキャスト板側に固着して二段目のプレキャスト板に一体連結し、これを繰り返すことで複数段にプレキャスト板を備えた補強切土面を形成することを特徴とする切土法面等の補強工法であり、この特許発明によれば、上から順次、土留と同時にプレキャスト板を据付けする工事、即ち『逆巻き施工』であるため占用用地幅を小さくできると共に、土工事量を少なくでき、工期の短縮が図れ、又プレキャスト板の定着が確保できるため信頼性高く永久構造体にできること、及び法面がプレキャスト板となるため外観が良好で、プレキャスト板の仕上げ次第によって美観をさらに良好とすることができる効果が大きい(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−26402号公報(〔特許請求の範囲〕、〔発明の効果〕、
図1〜9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術にあっては、最初の段のプレキャスト板を設置後、次段の段部を掘削するため、掘削後に最初の段のプレキャスト板の下方をは何もなく、削孔部に注入固化したモルタルと棒状補強材で構成された支持杭体だけで支持されているため、次段の掘削工程時に最初の段のプレキャスト板が下がってしまう可能性が僅かながらに残されているなど、解決せねばならない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記従来技術に基づく、逆巻き施工による斜面補強工法では、次段の掘削工程時に最初の段のプレキャスト板が下がる可能性が僅かながらにある課題に鑑み、地山の斜面に、プレキャスト板を載置する、掘削形成される装着面と前記プレキャスト板との間の隙間が広い段部を掘削形成する工程と、前記段部における載置面の装着面寄りの部位で地山に補強杭を打ち込む工程と、前記プレキャスト板を前記段部に、装着面との間に隙間をあけて設置する工程と、各プレキャスト板の貫通孔を貫通させて装着面より地山に削孔する工程と、この削孔部内に挿入した棒状補強材における、貫通孔を貫通した突端部に、前記貫通孔を閉鎖可能な座金を介してナットを螺嵌緊締する工程と、前記削孔部内にグラウト材を注入して、固化グラウト材と棒状補強材で支持杭体を形成する工程と、前記プレキャスト板の裏面と装着面との隙間に裏込め材を注入する工程とを有していることによって、最初の段のプレキャスト板を、広い載置面上に形成され、且つ補強杭により地山への一体性が増した裏込め層を介して地山側に定着させる様にして、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
要するに本発明は、表面中央に一体固設したプレートの中央に裏面側へ貫通する貫通孔を有したプレキャスト板を、地山の斜面の上端側に並列設置した後、下端側へ順次プレキャスト板を並列設置する斜面補強工法における、最初の段のプレキャスト板を設置する工法において、前記斜面に、前記プレキャスト板を載置する、掘削形成される装着面と前記プレキャスト板との間の隙間が広い段部を掘削形成する工程と、前記段部における載置面の装着面寄りの部位で地山に補強杭を打ち込む工程と、前記プレキャスト板を前記段部に、装着面との間に隙間をあけて設置する工程と、各プレキャスト板の貫通孔を貫通させて装着面より地山に削孔する工程と、この削孔部内に挿入した棒状補強材における、貫通孔を貫通した突端部に、前記貫通孔を閉鎖可能な座金を介してナットを螺嵌緊締する工程と、前記削孔部内にグラウト材を注入して、固化グラウト材と棒状補強材で支持杭体を形成する工程と、前記プレキャスト板の裏面と装着面との隙間に裏込め材を注入する工程と、を有しているので、最初の段のプレキャスト板を、広い載置面上に形成され、且つ補強杭により地山への一体性が増した裏込め層を介して地山側に定着させることが出来れうため、次段の段部を掘削しても最初の段のプレキャスト板は下がらず、よって安全且つ正確に補強斜面を構築することが出来る等その実用的効果甚だ大である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る斜面補強工法による補強斜面の縦断面図である。
【
図2】掘削工程及び補強杭の杭打ち工程を示す要部拡大断面図である。
【
図3】プレキャスト板設置工程及び削孔工程を示す要部拡大断面図である。
【
図4】棒状補強材挿入・ナット緊締工程及びグラウト材注入工程を示す要部拡大断面図である。
【
図5】裏込め材注入工程及びカバー体嵌込み工程を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
本発明に係る斜面補強工法用のプレキャスト板にあっては、
図1に示す様に、矩形状のプレキャスト板本体1と、該プレキャスト板本体1の表面中央部に形成された矩形状の凹部2に嵌め込むカバー体3とを有している。
【0010】
プレキャスト板本体1にあっては、凹部2の底部に金属製のプレート4を設けると共に、凹部2の中央にプレート4及びプレキャスト板本体1を貫通する貫通孔5を形成している。
カバー体3にあっては、裏面中央にナット収容凹部6を形成している。
【0011】
図2〜5は、本発明に係る切土法面等の斜面補強工法の各工程を示す要部拡大断面図であり、プレキャスト板の装着面の掘削工程、杭打ち工程、プレキャスト板設置工程、削孔工程、棒状補強材挿入・ナット緊締工程、グラウト材注入工程、裏込め材注入工程を有している。
【0012】
〔掘削工程及び杭打ち工程〕(
図2参照)
最初のプレキャスト板を並列できる高さ分の地山Mの斜面10を掘削して、装着面11a と載置面11b で構成される段部11を形成し、該段部11における載置面11b の装着面11a 寄りの部位に杭体12を打ち込む。
尚、上記段部11は、載置されるプレキャスト板と装着面11a との間の隙間13を十分広く確保可能に形成し、杭体12の頭部は段部11より突出状態で、後述する裏込め層19に埋設される。
【0013】
〔プレキャスト板設置工程及び削孔工程〕(
図3参照)
前記段部11における載置面11b 上にプレキャスト板1、1a…を、装着面11a との間に隙間13を確保しつつ配列固定した後、削孔機(図示せず)によって、各プレキャスト板1、1a…の貫通孔4を貫通させて装着面11a より地山Mに所定深さの削孔部14を形成する。
【0014】
〔棒状補強材挿入・ナット緊締工程及びグラウト材注入工程〕(
図4参照)
前記削孔部14内に挿入した鉄筋等の棒状補強材15のプレート表面より突出した端部に、座金16を介してナット17を螺嵌緊締した後、削孔部14内に、例えばセメントミルク、モルタルの様なグラウト材を注入し、養生固化したグラウト材と棒状補強材15で支持杭体18を形成する。
【0015】
〔裏込め材注入工程及びカバー体嵌込み工程〕(
図5参照)
上記隙間13に例えばセメントミルク、モルタルの様な裏込め材を打設し養生硬化させて裏込め層19を形成し、最後に各プレキャスト板板1、1a…の凹部1にカバー体3を嵌め込む。
【0016】
次段以降は、斜面10を、プレキャスト板を据付けできる高さだけ掘削し次の段部を形成するが、載置されるプレキャスト板と装着面との間に隙間が最初の段より狭くなるように形成し、プレキャスト板設置工程、裏込め材注入工程、削孔工程、棒状補強材挿入工程、グラウト材注入工程、ナット緊締工程、及びカバー体嵌込み工程が順次行われ、
図1に示す様な、複数段にプレキャスト板を備えた補強斜面Wが構築される。
【符号の説明】
【0017】
1 プレキャスト板本体
2 凹部
3 カバー体
4 プレート
5 貫通孔
10 斜面
11 段部
11a 装着面
11b 載置面
12 補強杭
13 隙間
14 削孔部
15 棒状補強材
16 座金
17 ナット
18 支持杭体
19 裏込め層