特許第5698672号(P5698672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698672ボログルコン酸カルシウム錯体を含む培養培地を利用してアクチノバシラス・プルロニューモニエ毒素ApxIを産生させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698672
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】ボログルコン酸カルシウム錯体を含む培養培地を利用してアクチノバシラス・プルロニューモニエ毒素ApxIを産生させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20150319BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20150319BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C12P21/02 A
   C12N1/00 B
   C12N1/00 C
   C12N1/00 G
   C12N1/20 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-537959(P2011-537959)
(86)(22)【出願日】2009年11月25日
(65)【公表番号】特表2012-509682(P2012-509682A)
(43)【公表日】2012年4月26日
(86)【国際出願番号】EP2009065798
(87)【国際公開番号】WO2010060917
(87)【国際公開日】20100603
【審査請求日】2012年11月22日
(31)【優先権主張番号】08105881.0
(32)【優先日】2008年11月27日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/118,770
(32)【優先日】2008年12月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】230105223
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】スラフマン,シメン−ヤン
(72)【発明者】
【氏名】スミツツ,クリスチヤン・テオドール・ヘラルドウス
(72)【発明者】
【氏名】ブルト,バイラム
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−225924(JP,A)
【文献】 Microbes Infect.,2002年,vol.4, no.2,pp.225-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00−21/02
C12N 1/00−1/38
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌を、細菌の増殖を支持する培養培地中で培養することにより、RTX毒素ApxIを産生させるにあたり、培地にカルシウム塩を添加して培地中でカルシウムイオンを形成させる方法であって、培養培地がボログルコン酸塩を含有し、培地中でボログルコン酸カルシウム錯体を形成させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ボログルコン酸塩濃度が60mmol/l未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濃度が、25から45mmol/lあることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記濃度が、40mmol/lであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記カルシウム塩がボログルコン酸カルシウムであることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
培養の間に空気を液体培地に導通させ、空気は、大気レベルを超える二酸化炭素を含有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記空気が、5v/v%の二酸化炭素を含有することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチノバシラス・プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)を液体培養培地中で培養することにより、RTX毒素ApxIまたはApxIIIを産生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタの主要な呼吸器疾患であるブタ胸膜肺炎は、世界中で蔓延しており、超急性死亡、急性疾患ブタの治療および慢性感染動物の市場売買の遅延に起因して、ブタ産業に対して深刻な経済的損失を惹起する。病因学的作用物質は、アクチノバシラス・プルロニューモニエである。この作用物質は、主として動物間の直接的な接触により伝染し、もたらされた感染は超急性から慢性まで変動する臨床経過をたどる。疾患は、主として、高熱、重篤な呼吸困難、咳および食欲不振の臨床徴候を有する気道の感染である。疾患の発症は急速であり、罹患率および致死率が高い。アクチノバシラス・プルロニューモニエ(以下、「APP」とも呼ぶ。)感染を防除する手段の1つは、ワクチン接種プログラムである。過去に、このようなプログラムにおいてはバクテリンが使用されてきたが、バクテリンの重い副作用が知られている。近年は、APPの毒素をベースとするサブユニットワクチンが一般に使用されている。
【0003】
APPは、いわゆるRTX毒素(RTXは、毒素内反復(repeat−in−toxin)を意味する。)を産生する。このバクテリア細菌の病理学的特徴に高度に寄与するのは、これらのRTX毒素の存在である。過去に、RTX毒素は集中的に研究され、文献に記載されてきた。一般に知られている通り、全てのAPP血清型が全てのRTX毒素を産生するわけではない。例えば、血清型1、5、9および11は、ApxIおよびApxIIを産生する。血清型2、3、4、6および8は、ApxIIおよびApxIIIを産生する。血清型10は、ApxIのみを産生し、血清型7および12は、ApxIIのみを産生する。現在市販されているAPPに対するワクチンは、毒素ApxI、ApxIIおよびApxIIIをベースとする。かなり最近になって、全てのAPP血清型が目下ApxIVと呼ばれる第4のRTX毒素を産生することが見出された(EP0875574を参照のこと)。
【0004】
カルシウム塩(即ち、酸の水素イオンの全部または一部を1個以上のカルシウムイオンにより置き換えることにより形成された、酸をベースとする化合物)を添加した培養培地中でアクチノバシラス・プルロニューモニエを培養することにより、RTX毒素ApxIを産生させる方法が一般に知られている。特に、EP0453024は、このような方法を既に記載している(「Example 2」、第2パラグラフ「Purification and characterisation of hemolysin」、下位パラグラフ「Methods」を参照のこと)。使用されるApxIは「HLY」と称されることに留意されたい(Frey et al.in「J Gen Microbiol.1993 Aug;139(8):1723−8」を参照のこと)。このEP特許から、カルシウム化合物(CaCl)を培地に添加することが知られている。実際、Microbiol Pathogenesis 37(2004)29−33において、ApxIオペロンの転写活性は増殖培地へのカルシウムの添加により高められることが記述されている。こうして、高レベルのApxIを提供することができる。培地は、APP細菌の増殖を支持しなければならない。細菌の増殖を支持する培地を構成する方法が一般に知られている。古典的な培養培地は、1950年代および60年代にEagle、Hamらにより最初に開発された。Eagle、Hamらは、増殖のための基本的な要求を満たす培地は、無機塩、窒素源(例えば、窒素含有化合物の形態、例えば、ペプチドまたはタンパク質)、炭素源およびビタミンを含むべきであることを見出した。培地は、有利には、培地が酸性過多やアルカリ性過多のいずれかになるのを防止するために緩衝化される。この基本的なレシピの範囲内で、多くの異なる構成が利用可能である。例えば、アミノ酸を提供するために動物由来成分を選ぶことができるが、化学的に規定されたアミノ酸を選択することもできる。他の化合物につき、多数のバリエーションも考えられる。実際、細菌の増殖を支持する培地を構成することは、比較的簡単である。しかしながら、増殖および/または代謝産生の最適化には、特に血清または他の動物由来成分を含まない培地が好ましい場合、いくぶんの開発の時間を要し得る。しかしながら、発酵培地性能を改善するための方針は、当該分野において一般に知られており、文献に詳述されている(例えば、Kennedy and Krouse in the Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology(1999)23,456−475による総説記事を参照のこと)。このような最適化は、発酵実験室内での定型的な実験の一部を形成する。APPを培養する場合、本来、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が培地の一部を形成する。それというのも、APPはNAD依存性であるからである。NADが存在しなければ、培地はアクチノバシラス・プルロニューモニエ細菌の増殖を支持せず、従って、本出願および添付の特許請求の範囲の意味におけるAPPの増殖を支持するための液体培地とみなすことができない。細菌の増殖を支持するための培地、またはこのような培地を構成するための成分は、種々の会社、例えば、Sigma Aldrich、Quest International、Oxoid、Becton Dickinson、Pharmacia、VGD Inc、Mediatech、Invitrogen、Marcor、Irvin Scientificなどから市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0875574号明細書
【特許文献2】欧州特許第0453024号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Frey et al.in「J Gen Microbiol.1993 Aug;139(8):1723−8」
【非特許文献2】Kennedy and Krouse in the Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology(1999)23,456−475による総説記事
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の方法は、ApxI毒素の経済的に関連する収量を得るのに十分であるが、本出願人は、改善の可能性が存在し得ることを認識した。即ち、発酵の間、培地は不透明になる。この培地の不透明化を1種(以上)のカルシウム塩の沈殿に起因し得ると解したことが本出願人の功績であった。即ち、APPは、二酸化炭素を産生し、この二酸化炭素が培地中で炭酸塩イオンをもたらす。炭酸カルシウムは、特に低い溶解度を有する塩である。結果として、幾つかの問題が生じ得る。第1に、沈殿により、関与するカルシウムイオンがAPP細菌に到達しなくなることが考えられる。第2に、沈殿したカルシウム塩は、下流処理における問題を生じさせる。特に、フィルターが沈積物により塞がれる傾向にある。従って、本出願人は、種々の錯形成剤を培地に添加し、これらの錯形成剤が塩の沈殿を防止することができるかどうか確かめた。実際、例えば、EDTAを添加することにより、培地は、いくぶん透明のままであり得る。しかしながら、ApxIの産生収量は、このような錯形成剤を使用することにより悪影響を受ける。従って、劣悪または不十分であり得ることが推測される。依然として、ApxIの産生を改善することが継続的に望まれている。
【0008】
驚くべきことに、ボログルコン酸塩(例えば、2,3−ジヒドロキシ−3−[2−ヒドロキシ−5−(ヒドロキシメチル)−1,3,2−ジオキサボロラン−4−イル]プロパノアートの形態;Herbert Taylor MacPherson and James Stewart of the Moredun Institute in the Biochemical Journal;「Investigations on the nature of calcium borogluconate」,received 16 November 1937も参照のこと)を使用してカルシウムイオンを錯形成させた場合、(添加される)錯形成剤を使用せず、または他の錯形成剤に依存する従来技術の方法と比較して高レベルのApxIを産生させることができることを見出した。培地が錯体ボログルコン酸カルシウム(例えば、D−グルコン酸のホウ酸との環式4,5−エステルのカルシウム塩(2:1)として利用可能)を含有するように、この特定の錯形成剤を使用することにより、他の陰イオンとのカルシウムイオンの実質的な沈殿を防止することができる一方、同時にカルシウムイオンは、アクチノバシラス・プルロニューモニエのApxIオペロンの転写活性を高めるために依然として利用可能であると考えられる。カルシウムイオンが塩錯体中にトラップされたままであると考えられ、「トラップ」結合は、一方で、カルシウムイオンが例えば炭酸塩イオンまたは他の陰イオンと沈殿物を形成するのを防止するのに十分強力であるが、他方で、これらのカルシウムイオンが遊離溶解状態である(即ち、水分子のみと錯形成している)かのように、バクテリア細菌自体がカルシウムイオンを使用するのを防止しない。ボログルコン酸塩は、APPによるApxIの産生に要求される重大なバランスを厳密に満たすことが考えられる。
【0009】
一実施形態において、ボログルコン酸塩濃度は、60mmol/l未満である。この濃度を超えると、ApxIの産生が低いレベルまで低下することが考えられる。依然として使用可能であるが、濃度はこの数値未満のままであることが好ましい。濃度が25から45mmol/l、特に、幾つかの培地に最適であると考えられる40mmol/lであることがさらにいっそう好ましい。
【0010】
本発明につき必須ではないが、培地は、動物成分を含まなくてよい。多くの従来技術の方法の欠点は、従来技術が動物由来成分、例えば、Columbiaブロスを含有する培地の使用に依存するということである。従来技術に挙げられる他の動物由来成分は、例えば、Columbia Broth ModifiedまたはBrain Heart Infusionブロスである。一般に知られている通り、動物成分の使用は、幾つかの深刻な欠点を有する。第1に、化学組成が、製造ロット間で大幅に変動し得る。さらに、動物起源の補給物質は、感染性作用物質により汚染され得る。主要な懸念は、ヒトまたは動物においてTSEを惹起するプリオンの存在である。単純に、動物成分を含まない培地(「ACF」培地と称されることが多い。)を選ぶことができる。この意味における「動物成分」は、動物中でこのままで存在する任意の成分(例えば、血液またはタンパク質)またはこのような成分に由来する任意の成分(例えば、血液に由来する修飾血清、またはタンパク質に由来するアミノ酸)を意味する。しかしなら、本出願人は、ApxIの産生効率が、このようなACF培地を使用する場合、動物由来成分を含有する培地と比較すると、カルシウム濃度が十分なレベルである場合でさえ、かなり低いことを見出した。理論に拘束されるものではないが、血清を使用すると、カルシウム塩沈殿による問題は、カルシウムイオンの可溶性錯体を形成する作用物質の存在に起因して、それほど深刻ではないと思われる。いずれの場合も、ボログルコン酸塩を使用してカルシウムイオンを錯形成させた場合、これらの培地中でも顕著なApxIの収量増加を得ることができる。
【0011】
別の実施形態において、カルシウム塩は、ボログルコン酸カルシウムである。例えば、カルシウム源として塩化カルシウムを依然として使用し、ボログルコン酸塩を添加してカルシウムイオンを錯形成させることができるが、カルシウムをボログルコン酸塩として添加することが好ましい。こうして、培地中で生じる種々の物理的反応(沈殿、溶解、錯体分解、錯体形成)の間の平衡を待つことを要しない。このことは、時間を節約し、従って経済的に好ましい。
【0012】
さらに別の実施形態において、培養の間に空気を液体培地に導通させ、この空気は、大気レベルを超える二酸化炭素を含有する。驚くべきことに、二酸化炭素がApxIの産生率をよりいっそう改善することがわかった。プレート上で細菌のコロニーを培養する間に、増加した二酸化炭素レベルを使用することは一般に知られていることに留意されたい(例えば、US6,019,984:EXAMPLES「Bacterial Strains and Growth Conditions」を参照のこと)。しかしながら、この増加した二酸化炭素レベルの使用は、細菌のコロニーを培養し、次いで細菌を発酵槽への接種に使用することに関する。この段階において、RTX毒素の産生は関連しない。一般に、最大のApx産生は発酵槽中で高い細胞密度において、従って、指数増殖期の終了時に生じることが、よりいっそう強く理解されている(例えば、Microbial Pathogenesis 37(2004)29−33を参照のこと)。この段階において、二酸化炭素は、刺激因子としては、もはや関連しないと解されている。従って、増加した二酸化炭素レベルを使用することによりApxの産生を増加させることはこれまで試みられていない。特に、本出願人は、空気が5v/v%の二酸化炭素(不純物を有しない空気の体積に対する純粋な二酸化炭素の体積)を含有する場合、ApxIの産生が極めて高いレベルであることを認識した。通常、空気泡状物を培地中のある場所(即ち、培地の表面下)へ逃がす装置を介して空気を培地に導通させることを可能にする、多くの技術をこの実施形態において使用することができることに留意されたい。本発明の範囲の「空気」は、大気空気中に通常存在する1種以上のガス状成分、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、ラドンなどを含むガス状媒体を意味する。
【0013】
本発明を、以下の非限定的な実施例を使用することにより、さらに説明する。
【0014】
材料および方法
菌株および培地
本調査は、ApxI産生アクチノバシラス・プルロニューモニエ株、血清型10(以下、APP10と呼ぶ)を使用して実施した。全ての場合において、これの株のワーキングシードを、Columbia Blood Agar BASE(BAB)プレート(Becton,Dickinson USAから入手可能)を使用して再構成した。使用液体培地は、NaOHおよび酢酸を使用してpHを7.3に保持したColumbiaブロス(Becton,Dickinson USAから入手可能)と動物成分不含培地(「ACF培地」と呼ぶ)のいずれかであった。動物成分不含培地は、MgSO(0.75g/l)、システイン.HCl(0.1g/l)、FeCl(0.1g/l)、NaNO(0.1g/l)、KCl(0.1g/l)、トレーサー元素(例えば、Handbook of Microbiological Media,3rd edition,Ronald Atlas,CRC Press,2004に挙げられている溶液SL−10 2.5ml)、50%のグルコース溶液(10ml)および10mMのアミノ酸溶液(トリプトファンを除き、全20種のアミノ酸を含有)、HEPES緩衝液(6g/l;例えば、Sigma Aldrichから入手可能)ならびに酵母エキス(10g/l;例えば、Becton Dickinsonから入手可能)を含有する。
【0015】
これらの培地を、予備培養および発酵において使用した。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(0.01%)およびカルシウム(種々の濃度)を予備培養および発酵において使用した。全ての培地を、0.22μmの濾過により滅菌した。培地を発酵において利用する前、85℃において1分間加熱した。
【0016】
培養
APP10株のワーキングシードを、Columbia BABプレート上にプレートアウトし、37℃において約24時間温置した。幾つかのコロニーを拾い、75mlのColumbiaブロスを含有する500mLの瓶に接種した。瓶を撹拌しながら37℃において約6時間温置して予備培養物を形成させた。これらの予備培養物を用いて、幾つかの発酵を実施した。これらの発酵の幾つかを、500mlの瓶中で行った。その場合、75mlの培地に1mLの予備培養物を接種した。瓶を撹拌下で37℃において温置した。または、培養を、約400mLの培養培地を含有するSIXFORS発酵槽(Infors AG,Switzerland)中で行い、この培養培地に20mLの予備培養物を接種源として添加した。培養温度も37℃である。
【0017】
分析
細胞増殖を、660nmにおける光学密度(OD)を測定することにより求めた。ApxI抗原濃度を、定型的なELISA測定により測定した。
【0018】
結果
第1の実験は、カルシウムが、ボログルコン酸塩と錯形成しているにもかかわらず、APP細菌に依然として利用可能であるかどうかを決定するために実施した。本実験は、上記瓶中で実施した。以下、結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1のデータが示す通り、カルシウムイオンをボログルコン酸塩と錯形成させた場合、良好なApxIの収量を提供することができる。この錯形成の重要な利点は、カルシウム塩の沈殿が、下流処理に顕著な影響をもはや与えないことである。
【0021】
第2の実験は、動物成分不含培地中のボログルコン酸塩の効果が何であるか確かめるために実施した。この目的のため、本出願人は、20mMのCaClの添加と、20mMのボログルコン酸Caの添加とを比較した。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
2つの結果が得られる。第1に、塩化カリウムを使用した場合、通常のカルシウムレベルを作出した場合でさえ、ACF培地中で十分な量のApxIを得ることは困難であることが明確である。カルシウムをボログルコン酸塩と錯体化させた場合、高いApxI収量を得ることができる。同様の結果を他の培地中で得ることができる。本出願人は、このような実験を、塩化鉄も硫酸マグネシウムも含有しないが、他の点では上記ACF培地と同一である培地(「ACF−alt」)中で実施した。やはり、カルシウムをボログルコン酸塩と錯形成させた場合、顕著に増加したレベルが得られた。
【0024】
第3の実験は、ボログルコン酸塩濃度の影響を調査するために実施した。本出願人は、3種の異なる濃度、即ち、20、40および60mMのボログルコン酸カルシウムを使用した。結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
表3から明確になる通り、約40mMの濃度が理想的であると考えられる。
【0027】
第4の実験において、本出願人は、ApxI産生収量に対する増加した二酸化炭素レベルの効果を調査した。このため、本出願人は、上記ACF−alt培地を使用し、硝酸ナトリウムレベルを0.5g/lに増加させた。ボログルコン酸塩濃度は、40、50および70mMの間で変えた。COのより高い濃度は、95/5(v/v)の空気/CO混合物について1vvm(=1分当たりの培地体積当たりのガス体積)の発酵槽中の一定気流を維持することにより達成した。実験は、上記SIXFORS発酵槽中で実施した。結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
結果から、二酸化炭素は、ApxI産生収量に対して正の影響を有すると結論付けることができ:70mMのボログルコン酸カルシウムの濃度においてさえ、許容されるレベルのApxIを産生させることができる。やはり、40mMが最適な濃度であると考えられる。
【0030】
結論
本出願人は、APP細菌の増殖を支持する液体培養培地中で、ボログルコン酸塩は、一方で、陰性に荷電したイオンとのカルシウムイオンの沈殿の防止と、他方で、アクチノバシラス・プルロニューモニエのApxI産生を刺激するのに利用可能なカルシウムイオンの保持との重大なバランスを提供することができることを見出した。このことは、有利には、カルシウムイオンとの沈殿物を形成する陰イオンを含有する任意のアクチノバシラス・プルロニューモニエ培養培地において使用することができる。実際、選択培地およびこの構成成分の最適化に応じて、APP細菌自体は、より高いレベルまたはより低いレベルのApxIを産生する。しかし、ボログルコン酸塩の作用を保護することは、細菌自体の実際の産生速度とは独立して機能するので、この溶液は、全ての培地に首尾良く適用することができる。それというのも、特に、全ての培地は、本来、カルシウムイオンとの沈殿物を形成し得るイオンである炭酸塩イオンを含有するからである。