(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698766
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】ガスタービンエンジンによる少なくとも1つの異物の吸込みの自動検出方法
(51)【国際特許分類】
F02C 7/00 20060101AFI20150319BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
F02C7/00 A
F01D25/00 B
F01D25/00 V
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-551665(P2012-551665)
(86)(22)【出願日】2011年2月2日
(65)【公表番号】特表2013-519031(P2013-519031A)
(43)【公表日】2013年5月23日
(86)【国際出願番号】FR2011050205
(87)【国際公開番号】WO2011095737
(87)【国際公開日】20110811
【審査請求日】2014年1月15日
(31)【優先権主張番号】1050870
(32)【優先日】2010年2月8日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505277691
【氏名又は名称】スネクマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルジエ,セバスチヤン
【審査官】
瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−292069(JP,A)
【文献】
特表2012−505341(JP,A)
【文献】
特開2004−36615(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第1312766(EP,A2)
【文献】
特表2007−526421(JP,A)
【文献】
特表2003−529706(JP,A)
【文献】
特開2009−278757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを備えるガスタービンエンジンによる少なくとも1つの異物の吸込みの自動検出方法であって、
ロータの瞬間速度(R(t))が測定され、
ロータの速度信号(R(t))が、その動的成分(Rd(t))から固定成分(Rs(t))を分離するためにフィルタリングされ、
フィルタリングされた動的成分(Rd(t))が、吸込み指標(TING)を求めるために、ロータの振動衝撃応答に対応する標準共振波(e(t))と比較され、
求められた吸込み指標(TING)が検出閾値(S)と比較され、
吸込み指標(TING)が検出閾値(S)よりも高い場合に、異物吸込み検出信号が出される、方法。
【請求項2】
ロータの標準共振波(e(t))が、ロータの第1のねじれモードの衝撃応答に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標準共振波(e(t))が、ロータの第1のねじれモードの衝撃応答の特徴に応じて理論的に定義される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
標準共振波(e(t))が、検出方法が実施されるエンジンのロータにおいて直接測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
フィルタリングされた動的成分(Rd(t))と標準共振波(e(t))との畳み込み積が計算される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ロータが、ガスタービンエンジンの低圧ロータであり、フィルタリングされた動的成分(Rd(t))は、吸込み指標(TING)を求めるために低圧ロータの振動衝撃応答に対応する低圧ロータの標準共振波(e(t))と比較される、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンのブレード、特に、ブロワブレードへの衝突を検出する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機に取り付けられたガスタービンエンジンは、使用時にエンジンによって物体が吸い込まれることによって損傷を受ける可能性がある。このような物体は、例えば、鳥、石、または氷のようなさまざまな形状である可能性がある。
【0003】
物体が吸い込まれた後、物体はさまざまなエンジン要素にぶつかりながらエンジン内で上流側から下流側へと動きまわる。このような現象は、当業者には、「異物の吸込み」として周知である。
【0004】
エンジンによって吸い込まれる異物の種類、密度、および相対速度に応じて、エンジンのいくつかの部品が多かれ少なかれ損傷を受ける可能性がある。
【0005】
エンジンの使用時の高い安全性および信頼性を維持するために、損傷を受けているエンジン要素を修理または交換するために、このような吸込みによる損傷を検出する必要がある。
【0006】
乗客を乗せる民間航空便では、ガスタービンエンジンは各フライトの前に視覚検査される。しかしながら、この検査にはいくつかの欠点がある。まず第一に、この視覚検査では100%信頼性のある検出ができない。それは、作業者には小さな損傷が見えないので、さらにその損傷に気付くのは難しいためである。第二に、損傷が検出された時に、迅速にメンテナンス作業を行う必要があるので、航空機の機能を停止する必要があり、その結果、航空機の出発が遅れることになる。したがって、異物の吸込みの影響の検出が遅れると、前記航空機に搭乗している乗客に迷惑をかけることになる。
【0007】
SNECMA社出願の仏国特許出願公開第2840358号明細書から、航空機エンジンのロータの損傷検出システムであって、所定の飛行時のロータの振動および速度の測定手段を備える損傷検出システム提供することが周知である。しかしながら、このようなシステムでは、異物の吸い込みを検出するに必要な精度を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2840358号明細書
【特許文献2】欧州特許第1312766号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ROLLS−ROYCE社出願の欧州特許第1312766号明細書から、ロータブレードにおける衝突検出方法であって、ロータの速度低下を測定してアラームを発する方法を提供することが周知である。このような検出には、少し特異な欠点がある。実際に、エンジンのポンピングの場合に、ロータ速度は低下し、異物の吸込みがなくてもアラームが発せられる。このような欠点をなくすために、欧州特許第1312766号明細書は、エンジンのねじれ角を測定するためのセンサを追加して、方法の精度を向上させるようにしている。多数のセンサを使用したこのような方法でも満足のいくものではなく、正確かつ確実に異物の吸込みを検出することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の欠点をなくすために、本発明は、ロータを備えるガスタービンによる少なくとも1つの異物の吸込みの自動検出方法であって、
ロータの瞬間速度が測定され、
ロータの速度信号が、その動的成分から固定成分を分離するためにフィルタリングされ、
フィルタリングされた動的成分が、吸込み指標を求めるために、ロータの振動衝撃応答に対応する標準共振波と比較され、
求められた吸込み指標が検出閾値と比較され、
吸込み指標が検出閾値よりも高い場合に、異物吸込み検出信号が出される方法に関する。
【0011】
ロータの振動応答は、衝突、すなわち衝撃に関連する特徴となる。標準共振波は、ロータによる異物の吸込みに関連する前記ロータで測定された振動衝撃応答を指す。
【0012】
本発明によれば、吸込みを検出するために、ロータ速度の過渡的動的成分が標準共振波の特徴と比較される。本発明の方法は、ロータ速度R(t)の動的成分の振幅の閾値処理に基づくという点においてのみ先行技術の方法よりも特異であり、大きい振幅の動的成分に種々の原因があり得る。
【0013】
本発明によれば、重要な振幅の振動(例えば、ポンピング)は、ロータ速度R(t)の動的成分の形が標準共振波の1つに対応しない場合に無視できる。さらに、小さい振幅の振動を引き起こす、いわゆる「微弱エネルギー」の異物(低質量、低速)の吸込みを検出することができる。先行技術の方法ではこのような検出は可能でない。
【0014】
有利には、このような方法は、センサの追加も構造の変更もせずに実施される。
【0015】
ロータの標準共振波は、ロータの第1のねじれモードの衝撃応答に対応するのが好ましい。
【0016】
有利には、特徴が周知であるロータの第1のねじれモードの衝撃応答のフィルタリングされた動的成分を調べることにより、振動を特定するのに適した吸込み率を求めることができる。
【0017】
実際に、ロータのねじれ過渡的励起に関連して第1のねじれモードの衝撃応答のみが存在し、これは異物の吸込みに特有の形である。したがって、吸込みは確実および正確に検出される。
【0018】
さらに好ましくは、吸込み指標を求めるために、フィルタリングされた動的成分と標準共振波との畳み込み積が計算される。
【0019】
第1の変形形態によれば、標準共振波は、検出方法が実施されるエンジンのロータにおいて直接測定される。
【0020】
したがって、ロータの第1のねじれモードの衝撃応答の特徴(周波数、クッション性)は、実験に基づいて決定される。
【0021】
第2の変形形態によれば、標準共振波は、ロータの第1のねじれモードの衝撃応答の特徴(周波数、クッション性など)に応じて、理論的に定義される。
【0022】
好ましくは、ロータは、ガスタービンエンジンの低圧ロータであり、フィルタリングされた動的成分は、吸込み指標を求めるために低圧ロータの振動衝撃応答に対応する低圧ロータの標準共振波と比較される。
【0023】
本発明は、添付図面によってよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】時間ごとの低圧ロータの速度の測定値を示す図である。
【
図2】
図1の低圧ロータの速度の動的成分を示す図である。
【
図4】ロータ速度の動的成分と前記ロータの標準共振波との類似測定値に対応する吸込み指標を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、低圧ロータシャフトと高圧ロータシャフトとを備え、ブロワが低圧ロータと一体に取り付けられたダブルボディガスタービンエンジンによる異物の吸込みの正確な検出方法に関する。
【0026】
図1を参照すると、低圧ロータの回転速度R(t)は、当業者に周知であり低圧ロータシャフトの角速度を測定する構造のフォニックホイールによって経時的に測定される。言うまでもなく、低圧ロータ速度は、他の手段、特に、エンジン内に配置されている加速度計を使用して測定されてもよい。
【0027】
この測定値に関して、低圧ロータの固定速度R(s)付近で経時的にほぼ一定の曲線1が得られる。
図1では、回転速度R(t)は、低圧ロータ速度の最大値に対して標準化されている。
図1では、低圧ロータの固定速度R(s)は、最大速度の約85%である。
【0028】
測定期間中に、低質量(約50g)の異物がエンジンによって吸い込まれる。ブロワの速度R(t)を表す曲線1は、エンジンによる異物の吸込み時に発振2を呈し、この発振は非常に弱く、固定速度R(s)の値の約0.5%である。このような発振は、低圧ロータの速度R(t)の測定値に関して直接検出できない。実際に、このような発振は、測定ノイズまたは吸込み以外の他の現象、特に、エンジンポンピング現象に関係している可能性がある。
【0029】
フォニックホイールによって測定された低圧ロータの速度R(t)は、固定成分Rsと動的成分Rd(t)とを有し、以下の数式で表すことができる:
(1) R(t)=Rs+Rd(t)
【0030】
発振2を強調するために、低圧ロータ速度R(t)は、例えば、標準共振波の周波数を中心としたバンドパスフィルタリングによって、信号の動的成分Rd(t)のみを維持するようにフィルタリングされる。
【0031】
本出願人は、異物の吸込みに続いて異物がブロワにぶつかった時に、ブロワに接続されている低圧ロータは、共振波を発することによって、第1のねじれモードによってベルのようなものを振動させることによって応答し、周波数および波形がロータに特有であることに気付いた。短時間の衝突に関連したこのような振動応答は、低圧ロータの第1のねじれモードの衝撃応答である。この特徴的な応答により、異物の吸込みに関連する振動トラブルは、ノイズまたは外的現象に関連するトラブルと区別できるが、低圧ロータの速度R(t)への影響は、全体的に見るとある程度同じである。
【0032】
実際に、吸込みまたはポンピングは発振の発現につながり、エンジン速度を分析するとその全体の展開は類似している。しかし、波形および振幅が低圧ロータの衝撃応答の波形および振幅に類似した発振のみが異物吸込みに対応する。
【0033】
異物の吸込みに関して、低圧ロータの速度信号R(t)の動的成分Rd(t)は、全体として以下の数式で表される:
(2) Rd(t)=C(t).cos(W
T(t)
*t+Φ)
【0034】
このような数式において、C(t).cos(W
T(t)
*t+Φ)は、吸込みに関連する低圧ロータの振動応答によるトラブルである。このようなトラブルは、低圧ロータの第1のねじれモードに対応する振幅パラメータC(t)、位相パラメータΦ、脈動パラメータW
Tによって決まる。
【0035】
低圧ロータは、複数の低周波のねじれモードを有する。異物の吸込みの場合、第1のねじれモードのみが著しく応答することになる。したがって、第1のねじれモードの衝撃応答が吸込みの代表的な特徴となる。吸込みに関して、C(t)は以下の数式に従って大きく変化することになる:
(3) C(t)=C.exp(−t/τ
T)
【0036】
Cは、トラブルの振幅であり、かつ吸込みの「程度」の関数であり、トラブルの振幅は固定速度Rsの値に対して非常に小さい。クッション性パラメータτ
Tは、低圧ロータの第1のねじれモードのクッション性と第1のねじれモードの固有の周波数との関数である。
【0037】
したがって、エンジンによる異物の吸込み時は、低圧ロータの動的成分Rd(t)は、
図3に示されている低圧ロータの第1のねじれモードの衝撃応答e(t)に非常に類似している。異物がエンジンによって吸い込まれたか否かを判断するために、ロータの第1のねじれモードの衝撃応答e(t)が低圧ロータの速度R(t)の動的応答Rd(t)と比較される。すなわち、フィルタリングされた動的成分が低圧ロータの標準共振波e(t)と比較されて、標準共振波e(t)と測定された速度信号の動的成分Rd(t)との類似測定値に対応する吸込み指標T
INGが求められる。
【0038】
この比較を行うために、予め標準共振波e(t)を決定しておく必要がある。
【0039】
本発明の第1の実施形態によれば、このような標準共振波はロータの第1のねじれモードの衝撃応答に対応する。
【0040】
第1の変形形態によれば、ロータの第1のねじれモードは「特有の」モードであり、第1のねじれモードの特徴(周波数、クッション性)は吸込みの検出が実施される低圧ロータにおいて直接測定され、その後、標準共振波としてロータの第1のねじれモードの振動衝撃応答を使用する「カスタムメイド」の検出が実施される。固有のモードを使用した検出方法の構成により、前記低圧ロータに適した正確な検出を実施することができる。実際に、各々のロータは、そのロータに特有の第1のねじれモードの衝撃応答を有する。すなわち、異なるロータのモデルは異なる衝撃応答を有する。
【0041】
第2の変形形態によれば、ロータの第1のねじれモードの衝撃応答は、計算によって分析的に決定される。
【0042】
第2の変形形態によれば、標準共振波e(t)は、同じ低圧ロータの複数のねじれモード、好ましくは、低圧ロータの2つまたは3つの第1のねじれモードの合計に対応する。複数のねじれモードを有する標準共振波e(t)により、検出の信頼性および正確さが向上する。
【0043】
一例として、比較を実施するために、低圧ロータの動的応答Rd(t)と標準共振波e(t)との畳み込み積が計算されて吸込み指標T
INGが求められる。
【0045】
言うまでもなく、他の比較アルゴリズムが都合が良い場合もある。好ましくは、比較アルゴリズムは、標準共振波の歪み(遅延、ノイズなど)を考慮するためにパラメータ化される。
【0046】
図4に表されている吸込み指標T
INGにより、低圧ロータの速度R(t)の測定値で検出された疑わしい発振2を特定できる。低圧ロータの動的応答Rd(t)が衝突応答(この場合、異物の吸込み)の特徴である理論的衝撃応答に多く類似しているほど、吸込み指標T
INGの値は大きくなる。
【0047】
吸込み指標T
INGを算出した後、所定値の検出閾値Sと比較され、吸込み指標T
INGが前記検出閾値Sを越えると吸込みアラームが発せられる。
【0048】
検出閾値Sの値は、エンジンの正常動作に対応する指標T
INGの値に対してアラームを生成しないように決定され、検出閾値Sをノイズとすることができる。したがって、このような検出閾値は、「ノイズ」の平均レベルSbにマージンを適用することで得られる。このようなマージンは、「ノイズ」信号の特徴の関数および所望の検出信頼性レベルの関数である。
図4を参照すると、70%のマージンが検出閾値を平均ノイズレベルからシェアする。
【0049】
このような方法は非常に選択的な方法である。それは、ノイズ信号(吸込み範囲外)の吸込み指標T
INGは吸込みがない場合には、第1のねじれモードの衝撃応答が信号には存在しないので弱いためである。ノイズ信号は、第1のねじれモードの衝撃応答に類似していない。
【0050】
吸込みが検出されると、生成されたアラームは、エンジンが取り付けられている航空機のパイロットに向けられてリアルタイムで調べられる、またはメモリに記憶されて、例えば、エンジンの検査を考慮して後で調べられるか、または航空会社のメンテナンスサービスにリアルタイムで送信されて、メンテナンスサービスが次の目的地において衝突されたエンジンの詳細な検査および必要とされるあらゆるメンテナンス作業を予測および計画できるようにする。
【0051】
言うまでもなく、異なる性質の吸込み(程度の差はあるが強力な吸込み、程度の差はあるが深刻な吸込み)を区別するために異なるアラーム閾値を規定することもできる。
【0052】
本発明は、本明細書においてダブルボディタービンエンジンに関して開示されているが、言うまでもなく、本発明は1つのロータまたは2つ以上のロータを有するエンジンにも同様に適用できる。