特許第5698786号(P5698786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698786磁気共鳴イメージング装置および高周波コイルユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698786
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置および高周波コイルユニット
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20150319BHJP
   G01R 33/54 20060101ALI20150319BHJP
   G01R 33/32 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   A61B5/05 355
   G01N24/02 530Y
   G01N24/02 520Y
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-84921(P2013-84921)
(22)【出願日】2013年4月15日
(62)【分割の表示】特願2006-192586(P2006-192586)の分割
【原出願日】2006年7月13日
(65)【公開番号】特開2013-138928(P2013-138928A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2013年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2005-211624(P2005-211624)
(32)【優先日】2005年7月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】東芝メディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和也
【審査官】 伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−334177(JP,A)
【文献】 特開2005−013726(JP,A)
【文献】 特許第5288693(JP,B2)
【文献】 A. Reykowski,et al.,"A Novel Head/Neck Coil Design Using Matrix Clusters And Mode Combiners",Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 12,2004年 5月,#2390
【文献】 A. Reykowski, et al.,"Mode Matrix - A Generalized Signal Combiner For Parallel Imaging Arrays",Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 12,2004年 5月,#1587
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の体軸方向に2つ配置される表面コイルと、
前記2つの表面コイルの出力側に設けられた0°−180°ハイブリッド回路から構成される分配合成手段と、
を有し、
前記分配合成手段は、前記0°−180°ハイブリッド回路の0°側から、前記2つの表面コイルからの受信信号を加算して第1の信号を出力し、前記0°−180°ハイブリッド回路の180°側から、前記2つの表面コイルからの受信信号のいずれか一方の位相を180°シフトさせた後に加算して第2の信号を出力する、
ことを特徴とする高周波コイルユニット。
【請求項2】
前記2つの表面コイルと前記分配合成手段とから構成される組を複数組備えたことを特徴とする請求項1に記載の高周波コイルユニット。
【請求項3】
前記2つの表面コイルから出力される前記受信信号を、前記分配合成手段を経由する経路と、前記分配合成手段を経由しない経路とに切換える経路切換スイッチを設けたことを特徴とする請求項1に記載の高周波コイルユニット。
【請求項4】
被検体の体軸と直交する方向に複数の第1の表面コイルが配置される第1のコイル列と、
前記被検体の体軸と直交する方向に複数の第2の表面コイルが配置される第2のコイル列であって、前記被検体の体軸方向に前記第1のコイル列と並べて配置される第2のコイル列と、
前記第1及び第2のコイル列の出力側に設けられた複数の0°−180°ハイブリッド回路から構成される分配合成手段と、
を有し、
前記分配合成手段は、夫々の0°−180°ハイブリッド回路の0°側から、前記第1の表面コイルの受信信号と前記第2の表面コイルの受信信号とを加算して第1の信号を出力し、夫々の0°−180°ハイブリッド回路の180°側から、前記第1の表面コイルの受信信号と前記第2の表面コイルの受信信号のいずれか一方の位相を180°シフトさせた後に加算して第2の信号を出力する、
ことを特徴とする高周波コイルユニット。
【請求項5】
静磁場中の被検体に傾斜磁場と高周波パルスを印加することにより磁気共鳴信号を発生させる信号発生手段と、
前記被検体の体軸方向に2つ配置される表面コイルと、
前記2つの表面コイルの出力側に設けられた0°−180°ハイブリッド回路から構成される分配合成手段であって、前記0°−180°ハイブリッド回路の0°側から、前記2つの表面コイルからの受信信号を加算して第1の信号を出力し、前記0°−180°ハイブリッド回路の180°側から、前記2つの表面コイルからの受信信号のいずれか一方の位相を180°シフトさせた後に加算して第2の信号を出力する、分配合成手段と、
前記分配合成手段から出力された前記第1の信号及び第2の信号から、受信チャネル数に応じた数の受信信号を選択するスイッチと、
前記スイッチにより選択された受信信号を取得する受信部と、
前記受信部において取得された受信信号から前記被検体の画像を再構成する画像再構成部と、
を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記2つの表面コイルと前記分配合成手段とから構成される組を複数組備えたことを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記2つの表面コイルから出力される前記受信信号を、前記分配合成手段を経由する経路と、前記分配合成手段を経由しない経路とに切換える第2のスイッチを設けたことを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
静磁場中の被検体に傾斜磁場と高周波パルスを印加することにより磁気共鳴信号を発生させる信号発生手段と、
被検体の体軸と直交する方向に複数の第1の表面コイルが配置される第1のコイル列と、
前記被検体の体軸と直交する方向に複数の第2の表面コイルが配置される第2のコイル列であって、前記被検体の体軸方向に前記第1のコイル列と並べて配置される第2のコイル列と、
前記第1及び第2のコイル列の出力側に設けられた複数の0°−180°ハイブリッド回路から構成される分配合成手段であって、夫々の0°−180°ハイブリッド回路の0°側から、前記第1の表面コイルの受信信号と前記第2の表面コイルの受信信号とを加算して第1の信号を出力し、夫々の0°−180°ハイブリッド回路の180°側から、前記第1の表面コイルの受信信号と前記第2の表面コイルの受信信号のいずれか一方の位相を180°シフトさせた後に加算して第2の信号を出力する、分配合成手段と、
前記分配合成手段から出力された前記第1の信号及び第2の信号から、受信チャネル数に応じた数の受信信号を選択するスイッチと、
前記スイッチにより選択された受信信号を取得する受信部と、
前記受信部において取得された受信信号から前記被検体の画像を再構成する画像再構成部と、
を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静磁場中の被検体に対し、傾斜磁場と高周波パルスを印加することにより発生する磁気共鳴信号を取得し、取得した磁気共鳴信号を用いて被検体の画像を再構成する磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置および高周波コイルユニットに係り、特に磁気共鳴信号を受信するための複数の表面コイルを備えた磁気共鳴イメージング装置および高周波コイルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場におけるモニタリング装置として、磁気共鳴イメージング装置が利用される。磁気共鳴イメージング装置は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石内部にセットされた被検体の撮像領域に傾斜磁場コイルでX軸、Y軸、Z軸方向の傾斜磁場を形成するとともにRF(Radio Frequency)コイルから高周波(RF)信号を送信することにより被検体内の原子核スピンを磁気的に共鳴させ、励起により生じた核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)信号を利用して被検体のMR画像を再構成する装置である。
【0003】
この磁気共鳴イメージング装置において、NMR信号を受信するための表面コイルを複数被検体の関心領域に配置して従来よりも高速に撮像する技術が考案されている。この技術は、パラレルイメージングとも呼ばれる。
【0004】
図15は、従来の磁気共鳴イメージング装置によるパラレルイメージングにおいて、複数の表面コイルを被検体の腹部周囲に配置した例を示す図である。
【0005】
図15に示すように、被検体Pの腹部全体を撮像する場合には、通常、被検体Pを取り囲むように複数の表面コイル1を配置し、磁気共鳴イメージング装置は、その各表面コイル1によって腹部全体からNMR信号を取得できるように構成される。そして、磁気共鳴イメージング装置は、複数の表面コイル1を撮像部位に応じて適切に配置することで、撮像部位毎に感度良く画像を取得できるようになっている。図15は、6つの表面コイル1からの受信信号を6つの受信チャネル2で受信する例を示す図である。
【0006】
パラレルイメージングでは、最大で画像データ収集時のエンコード方向に並んだコイル数分の1にデータ収集時間を短縮できるとされている。図15の体部のアキシャル断面を撮像する場合、エンコード方向をx方向とすれば、表面コイルは3つ並んでいるので、データ収集時間が約1/3になると言える。
【0007】
このようなパラレルイメージング技術は、近年さらに発展し、より高速かつ歪の少ない撮像を可能とするために、表面コイルのコイル数やシステムの受信チャネル数は益々増加する傾向にある。例えば、現在では表面コイルのコイル数が比較的少ない磁気共鳴イメージング装置でも受信チャネルが4チャネルのものが製品化され、最大で32チャネルのものも製品化されている。
【0008】
しかし、一方で、撮像部位ごとに表面コイルを配置する必要があるため、表面コイルの数が増えるという問題がある。さらに、ユーザは被検体や撮影部位が変わる度に、撮像部位に応じた表面コイルに差し替える必要が生じる。このため、ユーザは撮像部位に応じた専用の表面コイルを多くそろえる必要があるとともに、表面コイルの差し替え作業は、現場の医師や技師等のユーザにとって非常に煩わしい作業となっている。
【0009】
一般に、磁気共鳴イメージング装置では、撮像領域内に表面コイルを最も多く使用する場合の最大コイル数に受信チャネル数が対応できる必要がある。従って、表面コイルだけが多くあっても磁気共鳴イメージング装置の受信チャネルが少ない場合には、同時に使用可能な表面コイルの数が制限され、被検体体部の広い領域からの信号を各表面コイルによってカバーできないという問題がある。
【0010】
そこで、被検体の体軸に垂直なX軸方向に並ぶ複数の表面コイルについてスイッチ回路や合成回路(Matrix)を設けて、受信用に使用する表面コイルの組合せをモード選択できるように構成した磁気共鳴イメージング装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。このスイッチ回路や合成回路を設けた磁気共鳴イメージング装置では、表面コイルのモード選択により適当な数の表面コイルからの受信信号を合成することによって、表面コイルの数よりも少ないチャンネル数でのパラレルイメージングが可能となる。特許文献1では最大8個の表面コイルにおいて受信された受信信号を最小で1つの受信信号として出力できるスイッチ回路が提案されている。
【0011】
図16は、従来の磁気共鳴イメージング装置によるパラレルイメージングにおいて、複数の表面コイルからの受信信号を合成・スイッチ回路により合成できるように構成した例を示す概念図である。
【0012】
図16に示すように6つの表面コイル1が被検体Pの腹部周囲に配置される場合に、2つの合成回路3を設ける。そして、各合成回路3によりそれぞれ異なる3つの表面コイル1からの受信信号を1つの受信信号に合成して出力できるように構成すれば、6つの表面コイル1からの受信信号を2つの受信チャネル2で受信することが可能となる。
【0013】
また、分配・合成回路を設けて各表面コイルからの受信信号を複数種類合成し、受信信号をモード選択できるように構成することもできる(例えば非特許文献1参照)。
【0014】
図17は、従来の磁気共鳴イメージング装置によるパラレルイメージングにおいて、被検体の腹部周囲に配置された6個の表面コイルのうち、着目する3つの表面コイルの感度分布を示す図であり、図18は、図17に示す従来の磁気共鳴イメージング装置において、着目する表面コイルからの受信信号を合成するための分配・合成回路の回路構成図である。
【0015】
図17に示すような感度分布4を有する3つの表面コイルL、M、Rからの受信信号を合成するモードを複数通り設定することができる。例えば、図18に示すように分配・合成回路5を0°−180°ハイブリッド回路6と0°−90°ハイブリッド回路7とを用いて構成する。0°−180°ハイブリッド回路6の0°出力側からは、2つの入力信号を合成して得られる信号が出力され、180°出力側からは2つの入力信号の位相を互いに180°シフトさせた信号の合成信号が出力される。また、0°−90°ハイブリッド回路7の0°出力側からは、2つの入力信号を合成して得られる信号が出力され、90°出力側からは2つの入力信号の位相を互いに90°シフトさせた信号の合成信号が出力される。
【0016】
具体的には、表面コイルLおよび表面コイルRの出力側に0°−180°ハイブリッド回路6を設け、0°−180°ハイブリッド回路6の180°出力側および表面コイルMの出力側に0°−90°ハイブリッド回路7を設ける。さらに、0°−180°ハイブリッド回路6の0°出力側のチャネルから出力される信号を信号B、0°−90°ハイブリッド回路7の0°出力側のチャネルから出力される信号を信号C、0°−90°ハイブリッド回路7の90°出力側のチャネルから出力される信号を信号Aとする。
【0017】
そうすると、信号Bは、表面コイルLからの受信信号と表面コイルRからの受信信号とを合成(加算)した信号となる。また、信号Aは、表面コイルLおよび表面コイルRで構成される8字型表面コイルに表面コイルMをループ型表面コイルとして重ねて配置したいわゆるQD(quadrature detection)表面コイルからの受信信号に相当するQD信号となる。さらに、信号CはQD信号を打ち消した信号に相当するAnti−QD信号となる。
【0018】
QD表面コイルでは、ループ型表面コイルからの受信信号と8字型表面コイルからの受信信号とを位相を90°シフトさせて和をとることによりSNR(signal to noise ratio)を向上できることが知られている。そこで、ループ型表面コイルに相当する表面コイルMからの信号と8字型表面コイルを形成する表面コイルLおよび表面コイルRの180°シフト合成信号との合成には、0°−90°ハイブリッド回路7が使用されている。
【0019】
図19は、図18に示す従来の分配・合成回路5からの出力信号Aを受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルL、M,Rによって形成される感度分布4を示す図、図20は、図18に示す従来の分配・合成回路5からの出力信号Cを受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルL、M,Rによって形成される感度分布4を示す図、図21は、図18に示す従来の分配・合成回路5からの出力信号Bを受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルL、M,Rによって形成される感度分布4を示す図である。
【0020】
図19図20図21に示すように、各表面コイルL、M、Rからの受信信号を合成してモード選択できるようにすれば、共通の表面コイルL,M、Rの組合せにより、表面コイルL,M、Rを差し替えることなく複数の異なる感度領域4を形成することが可能となる。このため、各受信信号により再構成される3つの画像パターンを得ることができる。また、磁気共鳴イメージング装置の受信系に備えられる受信チャネル数に応じて、映像化に利用する受信信号を選択することができる。
【0021】
例えば、図17に示すように6個の表面コイル1が設けられる場合に、3つの表面コイルL、M、Rに向き合う3つの表面コイル1にも図18に示す分配・合成回路5と同様な分配・合成回路を設ける。そして、信号A、信号B、信号Cにそれぞれ対応する出力信号を信号A’、信号B’、信号C’とすると、受信系に備えられる受信チャネル数が2チャネルの場合には信号Aと信号A’とを受信信号として選択することができる。QD信号は、広い感度領域をもつため、受信チャネルが2つしかなくても広い領域の撮像が可能となる。
【0022】
また、受信系に備えられる受信チャネル数が4チャネルの場合には、信号A、信号B、信号A’、信号B’を、受信チャネル数が6チャネルの場合には、信号A、信号B、信号C、信号A’、信号B’、信号C’をそれぞれ受信信号として画像化に利用することができる。このようにして受信チャネル数に応じた撮像の高速化が可能である。
【0023】
このように、近年の磁気共鳴イメージング装置では、受信チャネル数Mと表面コイルのコイル数Nとの間にN≧Mの関係があるとしてもパラレルイメージングを行えるように、各表面コイルからの受信信号を選択あるいは合成するためのスイッチ回路が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2003−334177号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】"Mode Matrix - A Generalized Signal Combiner For Parallel Imaging Arrays" A. Reykowski, M. Blasche, 2004 Proceedings On CD-ROM, International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Twelfth scientific meeting, Kyoto, Japan 15-21 May 2004, pp1587.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、従来の磁気共鳴イメージング装置において表面コイルの数が更に増大すると、スイッチ回路によって受信信号の選択から合成まですべてを行うものとした場合に、スイッチ回路の回路構成が複雑化し、回路基板の増大、消費電力の増大、品質確保の困難性等の問題が生じる。
【0027】
また、近年では、より広範囲の撮影を行えるように、被検体の体軸に垂直なXY平面方向のみならず、体軸方向にも多数の表面コイルを配置した磁気共鳴イメージング装置が考案されている。このような磁気共鳴イメージング装置において、体軸方向の受信チャネルが少ないと、表面コイルが多数存在するにも拘らず、被検体体部の広い領域からの信号がカバーできないこととなる。一方、スイッチ回路によって、体軸方向の受信信号の選択を行うものとすると、表面コイルの数の増加に伴って前述のように回路が複雑化するという問題がある。
【0028】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、表面コイルの数が増加して体軸方向に配列されるようになっても、回路構成を複雑にすることなくより少ない受信チャネルで広い撮影領域を実現することが可能な磁気共鳴イメージング装置および高周波コイルユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
実施形態の高周波コイルユニットは、被検体の体軸方向に2つ配置される表面コイルと、
前記2つの表面コイルの出力側に設けられた0°−180°ハイブリッド回路から構成される分配合成手段と、を有し、前記分配合成手段は、前記0°−180°ハイブリッド回路の0°側から、前記2つの表面コイルからの受信信号を加算して第1の信号を出力し、前記0°−180°ハイブリッド回路の180°側から、前記2つの表面コイルからの受信信号のいずれか一方の位相を180°シフトさせた後に加算して第2の信号を出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
実施形態の高周波コイルユニットにおいては、表面コイルの数が増加して体軸方向に配列されるようになっても、回路構成を複雑にすることなくより少ない受信チャネルで広い撮影領域を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
図2図1に示す磁気共鳴イメージング装置の受信用高周波コイルおよび合成・スイッチ回路の構成図。
図3図2に示す分配・合成回路の構成例を示す図。
図4図3に示す0°−180°ハイブリッド回路の0°側からの出力信号を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図5図3に示す0°−180°ハイブリッド回路の180°側からの出力信号を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図6図1に示す磁気共鳴イメージング装置の受信用高周波コイルとして、被検体の背面に4つの表面コイルを配置した例を示す図。
図7図1に示す磁気共鳴イメージング装置の受信用高周波コイルとして4つの表面コイルを用いた場合における分配・合成回路の構成例を示す図。
図8図7に示す分配・合成回路から出力される出力信号をそれぞれ受信信号とした場合における位相プロファイルを示す図。
図9図7に示す分配・合成回路から出力される出力信号B1を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図10図7に示す分配・合成回路から出力される出力信号B2を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図11図7に示す分配・合成回路から出力される出力信号B3を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図12図7に示す分配・合成回路から出力される出力信号B4を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図13図1に示す磁気共鳴イメージング装置の受信用高周波コイルとして、被検体の頭部用に複数の表面コイルを使用する場合における各表面コイルの配置例を示す図。
図14図1に示す磁気共鳴イメージング装置の受信用高周波コイルとして4つの表面コイルを備え、各表面コイルの出力側にスイッチを設けた例を示す図。
図15】従来の磁気共鳴イメージング装置によるパラレルイメージングにおいて、複数の表面コイルを被検体の腹部周囲に配置した例を示す図。
図16】従来の磁気共鳴イメージング装置によるパラレルイメージングにおいて、複数の表面コイルからの受信信号を合成・スイッチ回路により合成できるように構成した例を示す概念図。
図17】従来の磁気共鳴イメージング装置によるパラレルイメージングにおいて、被検体の腹部周囲に配置された6個の表面コイルのうち、着目する3つの表面コイルの感度分布を示す図。
図18図17に示す従来の磁気共鳴イメージング装置において、着目する表面コイルからの受信信号を合成するための分配・合成回路の回路構成図。
図19図18に示す従来の分配・合成回路からの出力信号Aを受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図20図18に示す従来の分配・合成回路からの出力信号Bを受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
図21図18に示す従来の分配・合成回路からの出力信号Cを受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルによって形成される感度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置および高周波コイルユニットの実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0033】
図1は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0034】
磁気共鳴イメージング装置10は、ガントリ11と制御系12とを有する。ガントリ11は筒状の静磁場磁石13内部に筒状の傾斜磁場コイルユニット14、筒状の送信用高周波コイル15を同軸状に設けて構成される。送信用高周波コイル15の内部には寝台16が設けられ、寝台16には被検体Pがセットされる。また、被検体Pの撮影領域には受信用高周波コイル17が設けられる。制御系12には、傾斜磁場コイル駆動回路18、送信部19、受信部20、データ収集部21、計算機22、コンソール23、ディスプレイ24、合成・スイッチ回路25およびシーケンスコントローラ26が備えられる。尚、合成・スイッチ回路25の全部または一部を受信用高周波コイル17の一部としてユニット化することによって、高周波コイルユニットを形成することもできる。
【0035】
静磁場磁石13は、撮影領域にセットされた被検体Pに一様に静磁場を印加する機能を有する。傾斜磁場コイルユニット14は、図示しないX軸方向傾斜磁場コイル、Y軸方向傾斜磁場コイルおよびZ軸方向傾斜磁場コイルを備え、傾斜磁場コイル駆動回路18からの駆動信号に従って、それぞれX軸、Y軸、Z軸方向に磁場強度が直線的に変化する傾斜磁場Gx,Gy,Gzを撮影領域に形成する機能を有する。送信用高周波コイル15は、送信部19から受けた高周波パルスに従って、撮影領域に配置された被検体Pに高周波信号を送信する機能を有する。
【0036】
受信用高周波コイル17は、複数の表面コイルを備え、送信用高周波コイル15から被検体P内に印加された高周波信号により発生した磁気共鳴信号を受信する機能と、受信した磁気共鳴信号を電気信号として合成・スイッチ回路25に出力する機能を有する。合成・スイッチ回路25は、受信用高周波コイル17の各表面コイルから受信信号を入力し、入力した受信信号の合成や選択を行い出力信号を受信信号として受信部20に与える機能を有する。
【0037】
傾斜磁場コイル駆動回路18は、シーケンスコントローラ26から受けた制御信号(シーケンス)に従って、傾斜磁場コイルユニット14のX軸方向傾斜磁場コイル、Y軸方向傾斜磁場コイルおよびZ軸方向傾斜磁場コイルに駆動信号を与えて所望の傾斜磁場Gx,Gy,Gzを撮影領域に形成させる機能を有する。
【0038】
送信部19は、シーケンスコントローラ26から受けた制御信号(シーケンス)に従って、送信用高周波コイル15に高周波パルスを与えることにより被検体Pに向けて高周波信号を印加させる機能を有する。受信部20は複数の受信チャネルを有し、シーケンスコントローラ26による制御下において、合成・スイッチ回路25から受けた受信信号を各受信チャネルを介して増幅及び検波した後、データ収集部21に与える機能を有する。
【0039】
データ収集部21は、シーケンスコントローラ26の制御下において、受信部20から各受信チャネルを介して受信信号として受けた磁気共鳴信号を収集し、A/D変換した後、計算機22に与える機能を有する。計算機22はコンソール23からの制御信号によって制御され、データ収集部21から取得した磁気共鳴信号の画像再構成処理を行い、被検体Pの画像データを生成する機能と、生成した画像データをディスプレイ24に与えることにより表示させる機能を有する。
【0040】
図2は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置10の受信用高周波コイル17および合成・スイッチ回路25の構成図である。
【0041】
図2に示すように受信用高周波コイル17は、複数の表面コイル30を備える。各表面コイル30は被検体Pの体軸方向および体軸に垂直な方向の所望の位置に所望の数N個だけ配置される。このとき、被検体Pの体軸方向に互いにシフトした表面コイル30が少なくとも2つ設けられる。尚、通常は、被検体Pの体軸方向がZ軸とされる。
【0042】
合成・スイッチ回路25は、分配・合成回路31とスイッチ回路32とを接続して構成することができる。分配・合成回路31は、N個の表面コイル30からN個の受信信号を入力し、入力した各受信信号の分配および合成を行うことによりN個の受信信号を生成する機能と、生成したN個の受信信号をスイッチ回路32に出力する機能とを有する。すなわち、合成・スイッチ回路25は、各表面コイル30からの受信信号から任意の方法に従って所望の受信信号を生成する機能を有する。合成・スイッチ回路25は、駆動電源を必要としない受動回路により構成することで、省電力化を図ることができる。また、分配・合成回路31の分配・合成特性が、値が0でない行列式を持つN×Nの行列で表されるように、すなわち逆行列を有する行列で表されるように構成すれば、各表面コイル30からの受信信号を捨てることなく有効に利用することができる。
【0043】
スイッチ回路32は、分配・合成回路31から受けたN個の受信信号からN≧Mを満たすM個の受信信号を選択し、選択したM個の受信信号を受信部20に備えられるMチャネルの受信器33に出力する機能を有する。すなわち、スイッチ回路32は、分配・合成回路31から受けたN個の受信信号を受信部20における受信チャネル数Mに合わせてモーダルに選択切換する機能を有する。
【0044】
従って、分配・合成回路31は、各表面コイル30の数Nや配置に依存して回路構成が決定される。一方、スイッチ回路32は、M個の受信信号が選択できるように任意に設計することができる。そこで、複数の表面コイル30と、対応する分配・合成回路31とによって高周波コイルユニットを形成すれば、所望のコイル数Nの高周波コイルユニットを診断目的に応じて容易に交換することが可能となる。また、分配・合成回路31を駆動電源が不要な受動回路で構成すれば、高周波コイルユニットの回路構成も簡易となる。
【0045】
図3は、図2に示す分配・合成回路31の構成例を示す図である。
【0046】
図3に示すように分配・合成回路31は、受動回路の一例である0°−180°ハイブリッド回路40で構成することができる。図3は、表面コイル30の数N=2の場合を示し、被検体Pの体軸方向にシフトした2つの表面コイルC1、C2の出力側に0°−180°ハイブリッド回路40が設けられる。そうすると、0°−180°ハイブリッド回路40の0°側からは表面コイルC1、C2からの受信信号を加算して得られる信号A1が受信信号として出力される。また、0°−180°ハイブリッド回路40の180°側からは表面コイルC1、C2からの受信信号を、位相を互いに180°シフトさせた後、加算して得られる信号A2が受信信号として出力される。
【0047】
図4は、図3に示す0°−180°ハイブリッド回路40の0°側からの出力信号A1を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルC1、C2によって形成される感度分布を示す図、図5は、図3に示す0°−180°ハイブリッド回路40の180°側からの出力信号A2を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルC1、C2によって形成される感度分布を示す図である。
【0048】
図4図5に示すように、0°−180°ハイブリッド回路40を用いて2つの表面コイルC1、C2からの受信信号を合成してモード選択できるようにすることで、表面コイルC1、C2を差し替えることなく2通りの感度領域50を形成することが可能となる。この結果、磁気共鳴イメージング装置10の受信部20に備えられる受信チャネル数に応じて、映像化に利用する受信信号を選択することができる。また、2通りの受信信号を取得するための表面コイル30を共通化できるため、表面コイル数の増加を抑制することができる。
【0049】
ただし、表面コイル30の数は2つに限らず、診断に応じた任意数N個の表面コイル30を被検体P周囲に配置することが可能である。従って、前述のように分配・合成回路31も表面コイル30のコイル数Nに応じた回路構成となる。
【0050】
図6は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置10の受信用高周波コイル17として、被検体Pの背面に4つの表面コイル30を配置した例を示す図である。
【0051】
図6に示すように被検体Pの背面に体軸方向に4つの表面コイルC11、C12、C13、C14を配置すれば、撮影領域において診断に有用な受信データを収集することができる。図6は、4つの表面コイルC11、C12、C13、C14を被検体Pの背面に配置した例を示しているが、被検体Pの背面に限らず、表面コイル30を4つ以上被検体Pの周囲に配置すると診断に適した受信データを収集できるようになる場合が多い。
【0052】
図7は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置10の受信用高周波コイル17として4つの表面コイルC11、C12、C13、C14を用いた場合における分配・合成回路31の構成例を示す図である。
【0053】
図7に示すように4つの表面コイルC11、C12、C13、C14を受信用高周波コイル17として用いた場合には、4つの0°−180°ハイブリッド回路40を用いて分配・合成回路31を構成することができる。すなわち、表面コイルC11および表面コイルC12の出力側に共通の(第1の)0°−180°ハイブリッド回路40を設ける。また、表面コイルC13および表面コイルC14の出力側に共通の(第2の)0°−180°ハイブリッド回路40を設ける。
【0054】
次に、表面コイルC11および表面コイルC12の出力側に設けた0°−180°ハイブリッド回路40の0°出力側と、表面コイルC13および表面コイルC14の出力側に設けた0°−180°ハイブリッド回路40の0°出力側に共通の(第3の)0°−180°ハイブリッド回路40を設ける。また、表面コイルC11および表面コイルC12の出力側に設けた0°−180°ハイブリッド回路40の180°出力側と、表面コイルC13および表面コイルC14の出力側に設けた0°−180°ハイブリッド回路40の180°出力側に共通の(第4の)0°−180°ハイブリッド回路40を設ける。
【0055】
そして、第3の0°−180°ハイブリッド回路40の0°出力側からの出力信号をB1、180°側からの出力信号をB2、第4の0°−180°ハイブリッド回路40の0°出力側からの出力信号をB3、180°側からの出力信号をB4とする。そうすると、4つの表面コイルC11、C12、C13、C14を用いて4つのモードにより異なる感度領域50を形成して受信信号を得ることが可能となる。
【0056】
図8は、図7に示す分配・合成回路31から出力される出力信号B1、B2、B3、B4をそれぞれ受信信号とした場合における位相プロファイルを示す図、図9は、図7に示す分配・合成回路31から出力される出力信号B1を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルC11、C12、C13、C14によって形成される感度分布を示す図、図10は、図7に示す分配・合成回路31から出力される出力信号B2を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルC11、C12、C13、C14によって形成される感度分布を示す図、図11は、図7に示す分配・合成回路31から出力される出力信号B3を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルC11、C12、C13、C14によって形成される感度分布を示す図、図12は、図7に示す分配・合成回路31から出力される出力信号B4を受信信号としてモード選択した場合に各表面コイルC11、C12、C13、C14によって形成される感度分布を示す図である。
【0057】
図8図9図10図11図12にそれぞれ示すように4つの表面コイルC11、C12、C13、C14からの受信信号を4つの0°−180°ハイブリッド回路40で構成される分配・合成回路31により分配、合成することによって、モーダルに切換可能な4つの感度領域50を切換えて、各受信信号を受信部20に出力することが可能となる。このため、表面コイル30のコイル数N=4の場合であっても、コイル数N=2の場合と同様に、受信部20に備えられる受信チャネル数Mに応じて、映像化に用いる受信信号を切換えることが可能となる。そして、より少ない数の受信チャネルおよび表面コイル30を用いて、多くのパターンの画像を再構成することが可能となる。
【0058】
このような複数の表面コイル30の配置は、体軸方向のみならず、体軸に垂直な方向(体軸がZ軸方向である場合にはXY方向)に行ってもよい。また、合成分配回路による受信信号の分配・合成を体軸に垂直な方向に配置された複数の表面コイル30から得られる受信信号に対して行なってもよい。
【0059】
例えば、被検体Pの頭部用の表面コイル30は、体軸をZ軸方向とした場合にXY方向に3つの表面コイル30を並べて構成した表面コイルユニットを複数組備えて構成することができる。
【0060】
図13は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置10の受信用高周波コイル17として、被検体Pの頭部用に複数の表面コイル30を使用する場合における各表面コイル30の配置例を示す図である。
【0061】
図13に示すように、XY方向に3つの表面コイルCL、CM、CRを並べて構成した表面コイルユニット60が被検体Pの頭部前方(Anterior)側と頭部後方(Posterior)側に一対配置され、さらにこの一対の表面コイルユニット60を体軸方向にシフトさせて2組配置する。すなわち、被検体Pの頭部前方側および後方側にそれぞれ体軸方向にシフトさせて表面コイルユニット60が配置される。
【0062】
3つの表面コイルCL、CM、CRで構成される各表面コイルユニット60の出力側には、それぞれ非体軸方向用の分配・合成回路61が接続される。各表面コイルユニット60は表面コイルCL、CM、CRからの3つの出力を有するため、非体軸方向用の分配・合成回路61の入力チャネルおよび出力チャネルも3とされる。すなわち、非体軸方向用の分配・合成回路61の分配・合成特性は3×3の行列で表すことができる。
【0063】
非体軸方向用の分配・合成回路61は、例えば図18に示す従来の分配・合成回路5と同様に0°−90°ハイブリッド回路と0°−180°ハイブリッド回路40とを用いて構成することができる。図18に示す従来の分配・合成回路5と同様に非体軸方向用の分配・合成回路61を構成すれば、3つの表面コイルCL、CM、CRからの受信信号L、M、Rから3つの受信信号A、B、Cが生成される。
【0064】
この場合、受信信号Aは表面コイルCLおよび表面コイルCRで構成される8字型表面コイルに表面コイルCMをループ型表面コイルとして重ねて配置したQD表面コイルからの受信信号に相当するQD信号となる。また、受信信号Bは表面コイルCLからの受信信号Lと表面コイルCRからの受信信号Rとを加算した受信信号L+Rとなり、受信信号CはQD信号を打ち消したAnti−QD信号となる。ただし、非体軸方向用の分配・合成回路61は、図18に示す回路構成以外の回路構成としてもよい。
【0065】
そして、このような非体軸方向用の分配・合成回路61の信号分配合成作用により、被検体P頭部の前方側および後方側において体軸方向(Z軸方向)に設けられた4つの表面コイルユニット60から出力される12個の受信信号から12個の受信信号が生成される。ここで、頭部前方側における2つの非体軸方向用の分配・合成回路61から出力される受信信号A、B、Cをそれぞれ受信信号AA、AB、ACとし、頭部後方側における2つの非体軸方向用の分配・合成回路61から出力される受信信号A、B、Cをそれぞれ受信信号PA、PB、PCとする。
【0066】
非体軸方向用の分配・合成回路61の出力側には、さらに体軸方向にシフトした表面コイルCL、CM、CRからの受信信号を分配・合成するための分配・合成回路31が設けられる。この分配・合成回路31は、例えば、0°−180°ハイブリッド回路40を用いて構成することができる。図13は、体軸方向にシフトした表面コイルCL、CM、CRからの受信信号が6個の0°−180°ハイブリッド回路40にそれぞれ個別に入力されるように配置した例を示す。
【0067】
すなわち、体軸方向にシフトした表面コイルCL、CM、CRから非体軸方向用の分配・合成回路61により得られた2つの受信信号AAは共通の0°−180°ハイブリッド回路40の入力とされる。同様に、2つの受信信号AB、AC、PA、PB、PCもそれぞれ共通の0°−180°ハイブリッド回路40の入力とされる。そうすると、各0°−180°ハイブリッド回路40の0°側出力は、それぞれ2つの受信信号AA、AB、AC、PA、PB、PCを加算して得られる受信信号AA0、AB0、AC0、PA0、PB0、PC0となる。また、各0°−180°ハイブリッド回路40の180°側出力は、それぞれ2つの受信信号AA、AB、AC、PA、PB、PCを位相を180°シフトした後、加算して得られる受信信号AA1、AB1、AC1、PA1、PB1、PC1となる。
【0068】
この結果、12個の表面コイル30からモーダルに切換可能な異なるパターンの感度領域50を形成して得られる12通りの受信信号が生成される。この非体軸方向用の分配・合成回路61および分配・合成回路31によって生成された受信信号の出力側にはスイッチ回路32が設けられる。スイッチ回路32では、12個の受信信号から任意の受信信号を選択的に切換えて、後段の受信部20に与えることができる。
【0069】
従って、例えば受信部20に備えられる受信チャネル数Mが4の場合には、受信信号AA0、AB0、PA0、PB0を受信信号として選択することができる。さらに、受信チャネル数Mが8の場合には、受信信号AA0、AA1、AB0、AB1、PA0、PA1、PB0、PB1を受信信号として、受信チャネル数Mが12の場合には全ての受信信号AA0、AA1、AB0、AB1、AC0、AC1、PA0、PA1、PB0、PB1、PC0、PC1を受信信号として、それぞれ選択することができる。つまり受信チャネル数Mが大きい場合には、より高速なパラレルイメージングが実行できるように磁気共鳴イメージング装置10を構成することができる。
【0070】
尚、図13の例では、体軸に垂直な方向にシフトした表面コイル30からの受信信号を非体軸方向用の分配・合成回路61で分配合成した後に、体軸方向にシフトした表面コイル30からの受信信号に相当する受信信号を分配・合成回路31において分配・合成するように構成したが、逆に、体軸方向にシフトした表面コイル30からの受信信号を分配・合成回路31において分配・合成した後に、非体軸方向用の分配・合成回路61で体軸に垂直な方向にシフトした表面コイル30からの受信信号に相当する受信信号を分配・合成するように構成してもよい。つまり分配・合成回路31の出力側に非体軸方向用の分配・合成回路61を設けてもよい。
【0071】
また、図13の例のように、体軸方向の受信信号の分配および合成は、非体軸方向に並ぶ全ての表面コイル30を対象としなくてもよい。すなわち、図13の例では、前方(Anterior)側に配置された表面コイル30からの受信信号AA0、AA1、AB0、AB1、AC0、AC1同士が分配合成の対象とされ、後方(Posterior)側に配置された表面コイル30からの受信信号PA0、PA1、PB0、PB1、PC0、PC1同士は別の分配合成の対象とされている。
【0072】
このように、診断目的に応じて非体軸方向に並ぶ表面コイル30の一部からの受信信号のみを分配合成の対象とすることができる。従って、前方側あるいは後方側のいずれかの表面コイル30からの受信信号のみを分配合成の対象としてもよい。逆に、前方側および後方側の表面コイル30からの受信信号間において分配合成するようにしてもよい。また、非体軸方向に多数の表面コイル30が配置されている場合には、分配対象となる受信信号の複数のグループを形成してもよい。
【0073】
ところで、上述のように各表面コイル30からの受信信号を分配・合成回路31において分配・合成することができる訳であるが、各表面コイル30全部または任意の一部をそれぞれ単独で使用して狭い領域を感度良く画像化することが重要な場合も起こり得る。そこで、各表面コイル30の出力側にスイッチを設け、スイッチにより各表面コイル30の出力先を分配・合成回路31を経由して受信部20に向かう経路と分配・合成回路31を経由せずに受信部20に向かう経路とに切換えることができるように構成することができる。
【0074】
図14は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置10の受信用高周波コイル17として4つの表面コイル30を備え、各表面コイル30の出力側にスイッチを設けた例を示す図である。
【0075】
図14に示すように、表面コイルC11、C12、C13、C14の出力側にスイッチ70を設け、受信信号を分配・合成回路31に導く経路と、分配・合成回路31を経由せずにスイッチ回路32および受信部20に導く経路とを選択できるように構成することができる。また、後段のスイッチ回路32の入力側にもスイッチ71を設け、分配・合成回路31を経由してスイッチ回路32に導かれる受信信号の経路と、分配・合成回路31を経由せずにスイッチ回路32に導かれる受信信号の経路とを選択できるように構成することができる。このように構成すればスイッチ70の切換により、表面コイル30を単独で用いることもできるし、複数の表面コイル30を用いてパラレルイメージングを行うこともできる。
【0076】
次に、磁気共鳴イメージング装置10の動作および作用について説明する。
【0077】
まず、予め診断に必要な表面コイル30が所定の位置に配置される。表面コイル30は、受信部20における受信チャネル数M以上のコイル数Nであっても配置することができる。例えば、図6に示す胴体用のC11、C12、C13、C14や図13に示す頭部用の表面コイルCL、CM、CRその他任意の部位用の表面コイル30をより多くセットすれば、表面コイル30の差し替え作業を低減させることができる。
【0078】
次に、被検体Pを寝台16上にセットし、静磁場磁石13により撮影領域にセットされた被検体Pに一様に静磁場が印加される。また、コンソール23の操作によりシーケンスコントローラ26には、所定のスキャン条件を規定するシーケンスが計算機22内の記憶装置から読み込まれる。このときユーザが設定したシーケンスに応じて、スキャンに利用する表面コイル30が決定され、かつ表面コイル30によって形成される感度領域50および映像化に用いる受信信号のモードが選択される。選択されるモードは受信部20が有する受信チャネル数Mと表面コイル30のコイル数Nとの大小関係に応じて、より診断に重要な感度領域50からの受信信号が優先的かつ選択的に受信部20に受信されるような適切なモードとされる。
【0079】
そして、シーケンスコントローラ26は、読み込んだシーケンスに従って傾斜磁場コイル駆動回路18、送信部19、受信部20およびデータ収集部21に制御信号を与える。そうすると、傾斜磁場コイル駆動回路18は、シーケンスコントローラ26から受けた制御信号に従って、傾斜磁場コイルユニット14のX軸方向傾斜磁場コイル、Y軸方向傾斜磁場コイルおよびZ軸方向傾斜磁場コイルに駆動信号を与えて磁場強度がX軸,Y軸,Z軸方向に直線的に変化する所望の傾斜磁場Gx,Gy,Gzを撮影領域に形成させる。
【0080】
このように被検体Pに静磁場および傾斜磁場が印加された状態で、送信部19は、シーケンスコントローラ26から受けた制御信号に従って、送信用高周波コイル15に高周波パルスを与える。送信用高周波コイル15は、送信部19から受けた高周波パルスに従って、撮影領域に配置された被検体Pに高周波信号を送信する。このため、被検体Pでは磁気共鳴信号が発生し、発生した磁気共鳴信号は、受信用高周波コイル17として用いられる複数の表面コイル30によって受信される。
【0081】
各表面コイル30により受信された磁気共鳴信号は、電気信号に変換されて受信信号として合成・スイッチ回路25に出力される。複数の表面コイル30が図3図7に示すように体軸方向にのみ並んで配列されている場合には、表面コイル30から出力される受信信号は、分配・合成回路31に入力される。そして、分配・合成回路31において、所望の感度領域50に対応した受信信号が生成され、分配・合成回路31の後段に設けられたスイッチ回路32に出力される。このとき、分配・合成回路31が0°−180°ハイブリッド回路40のように受動回路で構成されている場合には、分配・合成回路31における消費電力の増加が抑制される。
【0082】
また、表面コイル30が図18に示すように体軸方向のみならず、体軸に垂直な方向にも複数個配置されている場合には、表面コイル30において受信された磁気共鳴信号は、一旦、非体軸方向用の分配・合成回路61に出力される。非体軸方向用の分配・合成回路61では、非体軸方向に配置された複数の表面コイル30からの受信信号が分配・合成される。そして、QD信号等の受信信号が生成され、体軸方向用の分配・合成回路31に出力される。
【0083】
そして、体軸方向用の分配・合成回路31において、体軸方向にシフトして配置された複数の表面コイル30からの受信信号が分配・合成されて新たな受信信号が生成される。生成された受信信号は体軸方向用の分配・合成回路31からスイッチ回路32に出力される。
【0084】
また、分配・合成回路31およびスイッチ回路32にそれぞれスイッチ70およびスイッチ71が設けられている場合には、スイッチ70およびスイッチ71の操作によりある表面コイル30からの受信信号を他の表面コイル30からの受信信号に合成させることなく単独でスイッチ回路32に導くこともできる。
【0085】
このようにして、表面コイル30から出力された受信信号は、分配・合成回路31において分配・合成された後、スイッチ回路32に導かれる。スイッチ回路32では、受信部20に備えられる受信チャネル数Mに応じた数の受信信号が選択される。すなわち、コイル数Nの表面コイル30を使用した場合、N個の受信信号がスイッチ回路32に導かれるが、スイッチ回路32において受信チャネル数M個の受信信号が選択されて、受信部20に与えられる。
【0086】
このため、受信部20の受信チャネルには、スイッチ回路32において選択された受信信号が入力される。シーケンスコントローラ26による制御下、各受信信号は、受信部20において増幅、検波された後、データ収集部21へと送られる。この結果、データ収集部21には受信信号が収集される。データ収集部21では、収集された受信信号のA/D変換が実行され、A/D変換後の受信信号は計算機22に送られる。
【0087】
そして、ユーザがコンソール23から画像表示指示を与えると、計算機22においてデータ収集部21から入力された受信信号の画像再構成処理が実行される。各表面コイル30からの受信信号は通常独立に画像再構成処理されるため、表面コイル30、受信チャネル、画像再構成処理の対象となる受信信号の数に応じた数の画像が再構成される。再構成された各画像は、計算機22において2乗和のルートをとる処理等の画像合成処理によって1つの画像に合成される。また、アンフォールディング処理等のパラレルイメージングに必要な画像処理が適宜実行される。
【0088】
そして、このように再構成および合成して得られた画像データは、ディスプレイ24に与えられて表示される。このため、ユーザは複数の表面コイル30を用いたパラレルイメージングによって、より高速かつSNRを向上させた診断画像を参照することが可能となる。
【0089】
以上のような磁気共鳴イメージング装置10、磁気共鳴イメージング装置10における受信データの処理方法および高周波コイルによれば、被検体Pの体軸方向に並べられた複数の表面コイル30からの受信信号を分配、合成することができる。従って、磁気共鳴イメージング装置10の受信チャネルが少ない場合でもX、Y、Z方向全てについてパラレルイメージングのためのモード選択の幅を拡大させることが可能である。この結果、体軸方向に表面コイル30の数が増加しても、より簡易な回路構成かつより少ない受信チャネルで広い撮影領域を実現することができる。特に体軸方向に複数の表面コイル30が配置された磁気共鳴イメージング装置10を用いて、体軸方向の広い領域を撮影する場合に好適である。
【0090】
また、分配・合成回路31をスイッチ回路32と別に設けることにより、合成・スイッチ回路25の回路構成を簡易にすることができる。さらに、分配・合成回路31の部分を受動回路とすることができるので、合成・スイッチ回路25全体としても省電力化を図ることができる。
【0091】
また、体軸方向用の分配・合成回路31を、0°−90°ハイブリッド回路を用いることなく、0°−180°ハイブリッド回路40のみを階層的に並べて構成すれば、体軸方向に並べられた表面コイル30からの受信信号の合成に適した分配・合成回路31を構成することができる。すなわち、0°−180°ハイブリッド回路40のみを用いて分配・合成回路31を構成すれば、平面的に複数個配置された各表面コイル30からの受信信号に含まれるノイズ成分に相関がなくなるため、合成される受信信号におけるノイズ成分の増加を抑制することができる。
【0092】
さらに、各表面コイル30からの受信信号を分配・合成回路31において分配・合成することなく受信部20に与えることができるようにスイッチ70を設ければ、個々の表面コイル30を単独で使用して狭い領域を感度良く画像化するというニーズにも対応することが可能となる。
【符号の説明】
【0093】
10 磁気共鳴イメージング装置
11 ガントリ
12 制御系
13 静磁場磁石
14 傾斜磁場コイルユニット
15 送信用高周波コイル
16 寝台
17 受信用高周波コイル
18 傾斜磁場コイル駆動回路
19 送信部
20 受信部
21 データ収集部
22 計算機
23 コンソール
24 ディスプレイ
25 合成スイッチ回路
26 シーケンスコントローラ
30 表面コイル
31 分配合成回路
32 スイッチ回路
33 受信器
40 0°−180°ハイブリッド回路
50 感度領域
60 表面コイルユニット
61 非体軸方向用の分配合成回路
70 スイッチ
P 被検体
図1
図2
図3
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図5
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