特許第5698791号(P5698791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698791高圧貯蔵容器の圧電ライナーを得るための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698791
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】高圧貯蔵容器の圧電ライナーを得るための方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 71/02 20060101AFI20150319BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   B29C71/02
   F16J12/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-90078(P2013-90078)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-230681(P2013-230681A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2013年4月23日
(31)【優先権主張番号】12165884.3
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510010894
【氏名又は名称】ベレノス・クリーン・パワー・ホールディング・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・オリヴェイラ
(72)【発明者】
【氏名】イヴ・レテリエ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン−アンデルス・マンソン
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−036917(JP,A)
【文献】 特開昭58−060585(JP,A)
【文献】 特開2011−212336(JP,A)
【文献】 特開昭61−241991(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/104295(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 71/02
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVDF−TrFE(ポリ(ビニリデンフルオリド−トリフルオロエチレン))コポリマーのフィルムを提供するステップ;
−前記PVDF−TrFEフィルムを、120〜145℃で少なくとも2時間にわたってアニーリングするステップ;
−アニールした前記フィルムをポーリングするステップ
−ポーリングした前記フィルムを高圧貯蔵容器内の障壁ライナーとして使用するステップ
を含む、高圧貯蔵容器の製造方法。
【請求項2】
前記コポリマーは70〜80モル%のVDFを含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記コポリマーは79モル%のVDFを含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記アニーリングステップは、3時間超にわたって実行される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記PVDF−TrFEフィルムは、125〜140℃の温度でアニールされることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アニールした前記フィルムをポーリングする前記ステップは、700〜800kV/cmの静電場を用いて実行される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
PVDF−TrFE(ポリ(ビニリデンフルオリド−トリフルオロエチレン))コポリマーのフィルムを、120〜145℃で少なくとも2時間にわたってアニーリングし、該アニールした前記フィルムをポーリングし、該ポーリングした前記フィルムを高圧貯蔵容器内の障壁ライナーとして使用した高圧貯蔵容器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧容器の障壁ライナーに関する。より詳細には、本発明は、圧電ポリマーフィルムから作製される障壁ライナー、並びにこのようなフィルム及びライナーを得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空複合体構造、即ち、ここで「容器」と呼ぶ、加圧ガスタンク等の圧力容器は、従来、鋼鉄又はアルミニウム等の金属から作製されてきた。しかしながら、近年、複合体容器の使用はより一般的になってきている。このような容器は様々なプロセスで製造され、このようなプロセスとしては、線巻法、樹脂交換成形、及びブラッダー補助成形が挙げられるが、これらに限定されない。
【0003】
大半の複合体材料は、多くの流体に対して比較的高い浸透性を呈する。従って、通常、過度の漏洩を防止するために、圧力容器内に障壁ライナーを設ける必要がある。特定のポリマーベースのライナーは、浸透、熱及び化学侵蝕に対して良好な耐性をもたらし、これはライナーを高圧媒体貯蔵に適したものとする。特に、線巻複合体容器にHDPEライナーを含むことが知られている。
【0004】
更に、高圧容器は、過剰充填を回避するため、及び漏洩の検知するために監視する必要がある。これは通常、容器の首部にある圧力センサ及びレギュレータによって達成される。このような外部圧力ゲージは、比較的高価であり、通常は使用中のみ容器に取り付ける。残りの時間、特に保存及び移動段階の間は、タンク内の圧力を容易に知ることはできない。この欠点を克服するために、特許文献1は、障壁及び圧電特性の両方を呈するライナーを備える圧力容器を開示している。圧電材料は、外力が加わると電荷を生成して、圧力下の電荷を測定することができるため、圧力センサとしての適合性を示している。従って、上記の先行技術文献は、圧電ライナーを用いて圧力容器内部の圧力を監視することによって、外部圧力ゲージを省略することができることを教示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/104295号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の解決法の1つの難点は、優れた障壁特性と強い圧電効果とを組み合わせたライナーを提供することである。従って、このようなライナーを提供することが、本発明の主たる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によると、添付の請求項1に記載のライナーを提供することにより、本発明は上記目的を達成する。
【0008】
第2の態様によると、本発明は、高圧貯蔵容器内のライナーとして使用するためのコポリマーフィルムを提供することにより、上記目的を達成し;このコポリマーフィルムを、請求項2に記載の方法を用いて得る。
【0009】
本発明によるPVDF−TrFE(ポリ(ビニリデンフルオリド−トリフルオロエチレン))コポリマーフィルム及びライナーは、強い圧電効果を呈する。更に、このフィルム及びライナーはまた、殆どの気体;特に酸素及び水素に対して、驚くほど低い浸透性を呈する。この低い浸透性により、本発明によるPVDF−TrFEコポリマーフィルムは、高圧貯蔵容器内の障壁ライナーとして使用するのに特によく適したものとなる。
【0010】
本発明の好ましい実装形態によると、PVDF−TrFEコポリマーは、70〜80モル%のVDF(ビニリデンフルオリド)を含む。出願人が行った実験から、このような比率によって、浸透性及び圧電効果に関して最良の結果がもたらされることがわかっている。
【0011】
本発明の別の好ましい実装形態によると、少なくとも3時間;より好ましくは4時間にわたり、アニーリングステップを実行する。
【0012】
本発明のまた別の好ましい実施形態によると、125〜140℃の温度でアニーリングステップを実行する。
【0013】
本発明の更に別の好ましい実施形態によると、700〜800kV/cmの静電場を用いて、アニールしたフィルムのポーリングステップを実行する。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら単なる非限定的な例としてなされる以下の説明を読むことにより、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、様々なアニーリング時間に関して、ポリマーシートの浸透性を温度の関数として示したグラフである。
図2図2は、圧電計数d33をアニーリング時間の関数として示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ライナーを圧力容器内に組み込むために、ライナーは、容器内部のキャビティと同一の空洞形状を有していなければならない。特に、円筒形容器の場合、ライナーはチューブ状であるべきである。これは様々な技術によって達成することができる。
【0017】
ライナーを形成するための1つの実際的な方法は、平面フィルムから形成を開始することである。この開始点から、2つの選択肢が存在する。第1の選択肢は、ポリマーフィルムのアニーリングステップと、ライナーを形成する前にアニールされたフィルムをポーリングするステップとを経ることである。これらのステップを行うと、アニールされポーリングされた平面フィルムを、例えばチューブ状に巻いて、気密連接を形成するために溶接することができる。別の可能性は、アニールされポーリングされた平面フィルムをロールの形態にすることであり、ここでは、幾重にも重なったロールの層により、気密連接を必要とせずに気密チューブを作り出す。
【0018】
第2の選択肢は、平面フィルムをライナーに成形することによって形成を開始し、その後で、ポリマー材料のアニーリング及びポーリングステップを経ることである。この場合、2つのポーリング電極のうち一方を、開口を通してライナー内に導入できるように設計しなければならないため、ポーリング動作は幾分複雑になる。
【0019】
ライナーを形成するための別の方法は、溶融したポリマーから形成を開始することである。この開始材料は、薄い、フィルムのような壁を有する閉形状に成形(例えば吹込み成形)することができる。本方法によると、ライナーの壁を形成するポリマーフィルムを、この後でアニール及びポーリングする。
【0020】
容器シェルのタイプ及びその製作方法に応じて、広範な技術によって様々なタイプの容器にライナー材料を組み込むことができる。1つの代替例は、ライナーの後にシェルを形成することである。この代替例によると、例えばブラッダー膨張又はブラッダー補助成形の場合に、ライナーをブラッダーとして使用することができる。別の可能性は、ライナーの外側の複合体シェルの後続の線巻のためのライナーを支持するために、取り外し可能なマンドレルを使用することである。こうして、ライナーを樹脂コーティング、スパッタリング等によって形成することができる。この最後の代替例によると、アニーリング及びポーリングステップを、容器シェル内側のライナーと共に行わなければならない。この場合、ポーリング動作は、シェルの開口を通してライナーに導入することができるよう設計した特別なポーリング電極を用いて実行することができる。最後に、吹込み成形したライナーも、シェル内に導入することができる。
【0021】
P(VDF−TrFE)コポリマー開始材料の調製
様々な供給元から、P(VDF−TrFE)コポリマーを得ることができる。例えば出願人は、粉末形状のP(VDF−TrFE)(79/21モル%)コポリマーを、Solvay Solexis社から得た。
【0022】
a)溶媒キャスト方法
まず、P(VDF−TrFE)粉末を溶媒(例えばメチルエチルケトン)に、60℃で2時間溶解させることにより、フィルムを調製することができる。ポリマーが溶解したら、これを平坦な表面上に注いだ後、一晩にわたって低真空にさらし、溶媒の蒸発を促進する。このプロセスにより、数十ミクロンの厚さの平坦なP(VDF−TrFE)コポリマーフィルムが得られる。任意に、このプロセスを繰り返して、フィルムの厚さを増大させることができる。
【0023】
b)成形
P(VDF−TrFE)粉末を、融点温度を超えて加熱することができる。続いて、溶融したポリマーを、当業者に公知であるいずれの適切な手段によって成形することができる。
【実施例】
【0024】
上述の溶媒キャスト方法によって、平坦なP(VDF−TrFE)コポリマーフィルムを得た。得られたフィルムを4つの試料に切断した。試料の1つはアニールせず、他の3つの試料はそれぞれ2、4、及び16時間にわたってアニールした。アニーリングの温度は130℃であった。
【0025】
続いて、4つの試料を、110℃で30分間ポーリングし、その後更に30分間かけて冷却した。静電場の強さは750kV/cmであった。
【0026】
特性決定
2環境下において、TA Instrument社の DSC Q100上で、示差走査熱量測定(DSC)試験を実施した。試料を、10.0℃/分でマイナス50℃まで冷却し、その状態に3分間保持した後、同じ速度で160℃まで加熱した。DSC試験を用いて、各試料の結晶度を測定した。
【0027】
Systech Instruments社の酸素浸透アナライザ、モデル8001上で、酸素浸透試験を実施した。各試料の酸素浸透量(OTR)を、相対湿度0%、O2圧1barの環境下で、10、20、30、40及び50℃において記録した。酸素浸透性(P)を、数式:P=txOTRを用いて算出した。結果を図1のグラフに示す。
【0028】
圧電係数測定(d33)のために、各試料から、直径1cmの円形に成形した二次試料を得た。4つの二次試料の平均厚さを試験前に測定し、その後、クロム及び金を積層した電極を、スパッタリングによってフィルム上に蒸着した。続いて、750kV/cmの静電場(E)を用いて、試料を110℃で30分間ポーリングし、更に30分間かけて冷却した。そして、各二次試料の圧電係数を測定した。結果を図2のグラフに示す。
図1
図2