(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698804
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】温度調節機能を備えた射出成形機の型締装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/64 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
B29C45/64
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-139000(P2013-139000)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-9547(P2015-9547A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2014年8月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 信篤
【審査官】
長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−229884(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/152971(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側金型を保持する固定盤と、可動側金型を保持する可動盤を有する射出成形機の型締装置において、
前記可動盤及び前記固定盤の何れか一方を温度基準対象型盤とし、他方を温度制御対象型盤とし、前記温度基準対象型盤には第1の温度検出部を設け、
前記温度制御対象型盤には第2の温度検出部と温度調節部を設け、
温度基準対象型盤の温度と温度基準対象型盤の中心高さとの関係を第1の関係として記憶し、温度制御対象型盤の温度と温度制御対象型盤の中心高さとの関係を第2の関係として記憶する記憶部を設け、
前記第1の温度検出部で検出した温度基準対象型盤の温度と第1の関係から温度基準対象型盤の中心高さを求め、該求めた温度基準対象型盤の中心高さと第2の関係とから温度制御対象型盤の中心高さが温度基準対象型盤の中心高さと同一となる温度制御対象型盤の目標温度を求める目標温度算出部とを有し、
前記温度調節部により、前記温度制御対象型盤の温度が前記目標温度になるよう制御することを特徴とする射出成形機の型締装置。
【請求項2】
固定側金型を保持する固定盤と、可動側金型を保持する可動盤を有する射出成形機の型締装置において、
前記可動盤及び前記固定盤の何れか一方を温度基準対象型盤とし、他方を温度制御対象型盤とし、
前記温度基準対象型盤には第1の温度検出部を設け、
前記温度制御対象型盤には第2の温度検出部と温度調節部を設け、
温度制御対象型盤の中心高さが温度基準対象型盤の中心高さと同一となる時の温度基準対象型盤の温度と温度制御対象型盤の温度との関係を第3の関係として記憶する記憶部を設け、
温度基準対象型盤の温度と第3の関係とから温度制御対象型盤の中心高さが温度基準対象型盤の中心高さと同一となる温度制御対象型盤の目標温度を求める目標温度算出部とを有し、
前記温度調節部により、前記温度制御対象型盤の温度が前記目標温度になるよう制御することを特徴とする射出成形機の型締装置。
【請求項3】
前記温度基準対象型盤は型盤の両側面に支持脚を有し、該支持脚の少なくとも一方に第1の温度検出部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形機の型締装置。
【請求項4】
前記温度制御対象型盤は型盤の両側面に支持脚を有し、該支持脚の少なくとも一方に第2の温度検出部と温度調節部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形機の型締装置。
【請求項5】
前記温度調節部は、電気ヒータ、電熱冷却素子、流体による温度調節器の何れか一つであることを特徴とする請求項1〜4いずれか一つに記載の射出成形機の型締装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形機において、型締装置の固定盤と可動盤の一方の温度を検出し、他方の目標温度を算出して、他方の温度を制御する型締装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ成形などの精密成形では、金型固定側と可動側の僅かな芯ずれは成形品に影響を及ぼす。芯ずれの原因として、固定盤と可動盤の温度差が挙げられる。レンズなどの精密成形では、金型温度を80℃〜130℃に加温し、成形が行われることがある。その際に、固定盤と可動盤の温度差により、熱膨張の程度が異なり、可動盤と固定盤の中心位置に差が生じることが、芯ずれの原因となっている。
そこで、固定盤と可動盤の温度差を解消する必要がある。
【0003】
特許文献1には、型盤が上下左右対称に形成されており、全域に渡って温度を一定に保持する仕組みであり、金型の温度を一定に制御する技術が開示されている。特許文献2には、型盤の上下の温度差を積極的に解消する技術が開示されている。特許文献3には、機構部の温度差に起因する軸ずれを解消するため、部品間の温度差が所定の値に収まる様に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−264921号公報
【特許文献2】特開2000−271981号公報
【特許文献3】特開2006−212980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、型盤の熱変位を制御するために型盤温度を変化させている本発明とは異なる。特許文献2は、型盤の上下の温度差を解消するものであり、固定盤と可動盤の中心軸のずれを解消するものではなく、固定盤と可動盤との間の温度差を調整していない。特許文献3は、機構部の温度差に起因する軸ずれを解消するため、部品間の温度差が所定の値に収まる様に制御しているが、各部分の熱膨張が同じとは限らないため、芯ずれが発生する可能性がある。
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、実験値もしくは解析による理論値に基き、固定盤と可動盤の中心軸が一致する温度に調整する温度調節機能を備えた射出成形機の型締装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の請求項1に係る発明は、固定側金型を保持する固定盤と、可動側金型を保持する可動盤を有する射出成形機の型締装置において、前記可動盤及び前記固定盤の何れか一方を温度基準対象型盤とし、他方を温度制御対象型盤とし、前記温度基準対象型盤には第1の温度検出部を設け、前記温度制御対象型盤には第2の温度検出部と温度調節部を設け、温度基準対象型盤の温度と温度基準対象型盤の中心高さとの関係を第1の関係として記憶し、温度制御対象型盤の温度と温度制御対象型盤の中心高さとの関係を第2の関係として記憶する記憶部を設け、前記第1の温度検出部で検出した温度基準対象型盤の温度と第1の関係から温度基準対象型盤の中心高さを求め、該求めた温度基準対象型盤の中心高さと第2の関係とから温度制御対象型盤の中心高さが温度基準対象型盤の中心高さと同一となる温度制御対象型盤の目標温度を求める目標温度算出部とを有し、前記温度調節部により、前記温度制御対象型盤の温度が前記目標温度になるよう制御することを特徴とする射出成形機の型締装置である。
【0007】
請求項2に係る発明は、固定側金型を保持する固定盤と、可動側金型を保持する可動盤を有する射出成形機の型締装置において、前記可動盤及び前記固定盤の何れか一方を温度基準対象型盤とし、他方を温度制御対象型盤とし、前記温度基準対象型盤には第1の温度検出部を設け、前記温度制御対象型盤には第2の温度検出部と温度調節部を設け、温度制御対象型盤の中心高さが温度基準対象型盤の中心高さと同一となる時の温度基準対象型盤の温度と温度制御対象型盤の温度との関係を第3の関係として記憶する記憶部を設け、
温度基準対象型盤の温度と第3の関係とから温度制御対象型盤の中心高さが温度基準対象型盤の中心高さと同一となる温度制御対象型盤の目標温度を求める目標温度算出部とを有し、前記温度調節部により、前記温度制御対象型盤の温度が前記目標温度になるよう制御することを特徴とする射出成形機の型締装置である。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記温度基準対象型盤は型盤の両側面に支持脚を有し、該支持脚の少なくとも一方に第1の温度検出部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形機の型締装置である。
請求項4に係る発明は、前記温度制御対象型盤は型盤の両側面に支持脚を有し、該支持脚の少なくとも一方に第2の温度検出部と温度調節部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形機の型締装置である。
請求項5に係る発明は、前記温度調節部は、電気ヒータ、電熱冷却素子、流体による温度調節器の何れか一つであることを特徴とする請求項1〜4いずれか一つに記載の射出成形機の型締装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、実験値もしくは解析による理論値に基き、固定盤と可動盤の中心軸が一致する温度に調整する温度調節機能を備えた射出成形機の型締装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】温度調節機能を備えた射出成形機の型締装置を説明する図である(実施形態1)。
【
図3】温度上昇時に発生する芯ずれを説明する図である。
【
図4】温度調節機による芯ずれの補正を説明する図である。
【
図6】温度調節機能を備えた射出成形機の型締装置を説明する図である(実施形態2)。
【
図8】型盤の温度と中心高さとの関係式を説明する図である。
【
図9】温度基準対象型盤の温度と温度制御対象型盤の温度の関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<実施形態1>
図1は温度調節機能を備えた射出成形機の型締装置を説明する図である(実施形態1)。
図2は固定盤の構成を説明する図である。射出成形機は、図示しない機台上に射出機構部と型締機構部とを対向配置し、制御装置により射出機構部と型締機構部を制御し、成形サイクルを実行する。型締機構部は、固定側金型3aを取り付ける固定盤1、可動側金型3bを取り付ける可動盤2を備えている。固定盤1は、水平方向両側部の中心を支持脚5,5によって支持されている。ここで、支持脚5により固定盤1を支持する点を固定点6という。固定盤1と図示しないリアプラテンとはタイバー4によって連結されている。可動盤2はタイバー4の軸方向に沿って移動可能であり、固定盤1に対して進退自在に構成されている。
【0012】
固定盤1を支持する支持脚5に温度検出部8と温度調節部7が取り付けられている。温度調節部7として、電気ヒータ、電熱冷却素子、流体による温度調節器の何れかを用いることができる。温度検出部8は固定盤1からの熱が伝わり易い固定点6の近傍に取り付けられている。また、可動盤2には温度検出部9が取り付けられている。温度検出部8で検出された固定盤1の検出温度(信号)と、温度検出部9で検出された可動盤2の検出温度(信号)は、それぞれ温度制御部10に入力される。温度制御部10は、記憶部10aと目標温度算出部10bを備え、温度検出部8と温度検出部9によって検出された温度情報に基づいて温度調節部7の温度制御を行う。
【0013】
図1、
図2に示す型締機構部においては、固定盤1を温度制御対象型盤とし、可動盤2を温度基準対象型盤としている。固定盤1と可動盤2に温度差が生じると、
図3のように固定盤1と可動盤2の熱膨張の差により固定盤1と可動盤2の中心軸がずれる。符号11は固定盤1の中心軸を表し、符号12は可動盤2の中心軸を表す。
【0014】
そこで、
図7のフローチャートに示す方法により、中心軸のずれを解消する。可動盤2(温度基準対象型盤)の温度を検出し、固定盤1(温度制御対象型盤)の目標温度を算出する。可動盤2の温度検出部9が温度を検出する(SA01)。可動盤2の温度と可動盤の中心軸高さの関係(SA02)と、固定盤1の温度と固定盤1の中心軸高さの関係と(SA03)から、固定盤1の中心軸11が可動盤の中心軸12と同じ高さになるような目標温度を算出する(SA04)。温度制御部10の制御により温度調節部7を目標温度にすることにより固定盤1の支持脚5の熱膨張を調整し(SA05)、
図4のように固定盤1との固定点6の位置ならびに固定盤1の中心軸11を補正する。固定盤1の支持脚5が目標温度に到達したら(SA06)、終了する。
【0015】
目標温度の算出例を
図8の温度−高さグラフにて示す。まず、機械の組立調整時の可動盤2の中心高さ、温度をH
M0、T
M0とする。可動盤2の温度変化と可動盤2の中心高さ変化が比例関係にある場合、温度と中心高さの関係は傾きaMの直線L
Mで表される。可動盤2の現在温度がT
Mの時の可動盤の中心高さH
Mは数1式で算出される。
【0017】
また、固定盤1の温度変化と固定盤の中心高さ変化が比例関係にある場合、温度と中心高さの関係は傾きaSの直線L
Sで表される。機械の組立調整時の固定盤1の中心高さ、温度をH
S0、T
S0とし、固定盤1の中心高さH
Sを可動盤2の中心高さH
Mと同じにするための固定盤温度をT
S1とすると、可動盤2の中心高さH
Mは数2式で算出される。
【0019】
数1式、数2式からT
S1を求めると、T
S1は数3式で表される。
【0021】
H
M0ならびにT
M0、H
S0、T
S0は機械の組立調整時に測定し、機械(温度制御部10)の記憶部10aに記憶させる。aMならびにaSは、変位計もしくは渦電流計と温度検出器により測定してもよく、型盤(固定盤1、可動盤2)の膨張係数や熱伝導率から解析により理論値として求めてもよい。aMとaSも予め機械に記憶させる。数1式〜数3式により温度制御対象型盤(固定盤1)の目標温度を求めることは、温度制御部10の目標温度算出部で実行される。
【0022】
数1式、数2式の型盤の温度と中心高さとの関係は数式の形で記憶してもよく、型盤の温度と中心高さとの対応を示す数表の形式で記憶してもよい。温度調節部7の制御方法は、ON・OFF制御でも、電流値制御でもよい。温度検出部8は固定盤1に、温度検出部9は可動盤2に取り付ける。固定盤1が支持脚5を有する場合には支持脚5に取付け、支持脚5を有さない場合には固定盤1の本体に取り付ける。
【0023】
<実施形態2>
図6は、温度調節機能を備えた射出成形機の型締装置を説明する図である。温度が変動しやすい部位は型締装置によって異なるため、温度調節部7や温度検出部8,9に適した部位も異なってくる。そのため、
図6に示すように固定盤1を温度基準対象型盤とし、可動盤2を温度制御対象型盤としてもよい。ただし、支持脚5を有する型盤に取付ける場合には、支持脚5の熱膨張の方が型盤の本体の熱膨張よりも支配的であるため、型盤の本体ではなく支持脚5に取付ける。例えば、温度調節部7の取付け位置は
図5のように可動盤2上でもよいが、
図6のように支持脚5が可動盤2に設けられている場合には可動盤2の支持脚13上に設ける。
【0024】
<実施形態3>
図9のように、数3式を用いて、可動盤2の中心高さと固定盤1の中心高さが同一となる可動盤温度と固定盤温度の組を表で機械に記憶させ、温度基準対象型盤の温度から温度制御対象型盤の目標温度を照らし合わせてもよい。また、数3式は数式として機械に記憶させてもよい。
なお、上述した実施形態において、温度基準対象基盤の両側面の支持脚の少なくとも一方に第一の温度検出部を設ける。温度制御対象基盤の両側面の支持脚の少なくとも一方に温度検出部と温度調節部を設ける。
【符号の説明】
【0025】
1 固定盤
2 可動盤
3 金型
3a 固定側金型
3b 可動側金型
4 タイバー
5 支持脚
6 固定点
7 温度調節部
8 温度検出部
9 温度検出部
10 温度制御部
10a 記憶部
10b 目標温度算出部
11 中心軸
12 中心軸
13 支持脚