特許第5698835号(P5698835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698835免疫系及び酸素系を測定する方法及び装置、並びに薬物をスクリーニングする方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698835
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】免疫系及び酸素系を測定する方法及び装置、並びに薬物をスクリーニングする方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20150319BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20150319BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20150319BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   G01N27/46 323
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
   G01N27/30 341
   G01N27/46 311G
   G01N27/46 331
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-508185(P2013-508185)
(86)(22)【出願日】2011年4月27日
(65)【公表番号】特表2013-529301(P2013-529301A)
(43)【公表日】2013年7月18日
(86)【国際出願番号】US2011034051
(87)【国際公開番号】WO2011139733
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2013年1月21日
(31)【優先権主張番号】61/328,409
(32)【優先日】2010年4月27日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512275053
【氏名又は名称】ソファー サミール
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソファー サミール
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/014616(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
G01N 21/62−21/74
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ROX及びBOXの値を決定する方法であって、
(1)ポーラログラフ型酸素電極及びルテニウム被覆光ファイバー発光ダイオードプローブから選択される少なくとも1つのセンサーを準備する工程、
(2)セルを準備し、該セルに生体物質を含むサンプルを添加する工程、
(3)前記サンプルの電流を前記センサーで測定し、その電流値をベースライン値であると決定する工程、
(4)前記サンプルにストレスを導入する工程、
(5)上記(4)の後、前記センサーによって前記サンプルの電流を測定し、得られた最も低い電流値と上記(3)で得られたベースライン値の差を、前記サンプルにおけるBOXの値であると決定する工程、
(6)さらに、前記サンプルにストレスを導入する工程、及び
(7)上記(6)の後、前記センサーによって前記サンプルの電流を測定し、得られた最も高い電流値と上記(5)で得られた最も低い電流値との差を、前記サンプルにおけるROXの値であると決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記ROXの値及び前記BOXの値を、ヒト又は動物の皮膚を介して前記センサーによって測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ROX及びBOXのを制御する方法であって、
(1)ポーラログラフ型酸素電極及びルテニウム被覆光ファイバー発光ダイオードプローブから選択される少なくとも1つのセンサーを準備する工程、
(2)セルを準備し、該セルにサンプルを添加する工程、
(3)前記サンプルの電流を前記センサーで測定し、その電流値をベースライン値であると決定する工程、
(4)前記サンプルにストレスを導入する工程、
(5)上記(4)の後、前記センサーによって前記サンプルの電流を測定し、得られた最も低い電流値と上記(3)で得られたベースライン値の差を、前記サンプルにおけるBOXの値であると決定する工程、
(6)さらに、前記サンプルにストレスを導入する工程、
(7)上記(6)の後、前記センサーによって前記サンプルの電流を測定し、得られた最も高い電流値と上記(5)で得られた最も低い電流値との差を、前記サンプルにおけるROXの値であると決定する工程、及び
(8)制御物質又は遮断物質を前記サンプルに導入する工程、
を含み、前記制御物質が、前記サンプルにおける前記ROXの値又は前記BOXの値を変更することが可能である、方法。
【請求項4】
臓器移植片又は薬物に対する拒絶反応の発現を予測するために、ROXの値およびBOXの値を測定する方法であって、
該方法が、請求項1に記載の工程(1)〜(7)を含み、
前記サンプルが、処置を受ける予定の患者に由来するサンプルであり、
負荷される前記ストレスが処置物質を添加することを含み、該処置物質が前記処置に不可欠な物質である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、その全体が本明細書に援用される2010年4月27日に出願された米国仮出願第61/328,409号の優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
動物及びヒトにとって、免疫系及び酸素系は、身体の機能、並びに病気及び疾患に対する防御機構の極めて重要な部分である。実際に、植物及び微生物を含む、いかなる生物も、ストレス及び有害事象(adversity)に対抗するために内部の系を利用している。例えば疾患に応答する、組織にエネルギーを供給する、汚染及び薬物に対抗して身体を解毒する、神経筋シグナル伝達を行うこの系の能力は個体によって異なり、同じ個体内でも日によって異なる。この系は本明細書中で「免疫系」と簡潔に称される。
【0003】
例えば、C型肝炎、がん、他の疾患、又は更には身体的ストレス若しくは心理的ストレスを患う患者は、負担のかかった(taxed)免疫系を有し得る。免疫系をブースト又は調節するように設計された或る特定の免疫療法薬、例えばC型肝炎に対するインターフェロン、又はがんに対するサイトカイン及び/若しくは活性化T細胞は、個体の免疫系が所与の疾患と闘うのを助ける。例えばインターフェロンは、個体がC型肝炎と闘うのを助けることができる。しかしながら、全ての個体が免疫療法に同じ程度まで応答するとは限らない。
【0004】
免疫療法に対する応答の区別は、ニュージャージー医科歯科大学(University of Medicine and Dentistry of New Jersey)の施設内倫理委員会によって認可された、インターフェロン処置についてC型肝炎患者を評価する臨床調査において示されている。この調査の概要では、C型肝炎患者のインターフェロン処置に対する非応答者の存在は既知である。テキサス大学南西医療センター医学部(University of Texas Southwestern Medical School)のDr. William M. Leeによって総括が提示されている。Dr. Lee及び他の9つの機関の同業者らは、2002年〜2007年にHALT−C調査に取り組んだ。この調査から、インターフェロン+リバビリン処置に対して50%〜60%の非応答者が存在することが指摘される。これらの非応答者は、インターフェロンに対する非応答者と、インターフェロン維持に対する非応答者との間に肝疾患の進行速度の有意差が存在しないという点で、長期インターフェロン維持戦略に対して更に非応答性である。この研究により生じる疑問は、なぜ応答者と非応答者との間に差が存在するのかということである。
【0005】
Hinshaw、Sofer及び共同研究者ら(非特許文献1)は、イヌ科動物の内毒素性ショックモデルにおいて体外血液再循環系を調査した結果、体外ポンプ循環系によって生成される剪断ストレスが自己抗凝固(autoanticoagulation)をもたらすことを見出した。すなわち、ストレスを受けた血液は、ヘパリン等の外部抗凝固因子の非存在下で、激しくかき混ぜた血液循環系においても凝固しない。ストレスを受けた血液から、凝固を防ぐことが示されているヘパリン様因子HLF(下記のbNOSへの言及を参照されたい)が更に単離された。Hinshaw及び共同研究者ら(非特許文献2)も、イヌ科動物のこのようなストレスを受けた血液がイヌの「治癒」をもたらし、この自己抗凝固処理を受けたイヌが細菌内毒素を注射した場合のショックに耐性を示すことに言及している。
【0006】
この発明者Soferは、ニュージャージー州により支援されたバイオテクノロジーの研究教授としてこの問題を追求し、ストレスを受けた血液によって生成される、血液から生じるMOP、すなわち分子状酸素ピーク(活性酸素種ではない)を発見した(非特許文献3)。SoferのNJITバイオテクノロジーグループによる、何千回もの実行に基づく他の発表された研究では、化学的ストレス、熱的ストレス、pHストレス等の多くの他のタイプのストレスによって生成される酸素ピークの存在が強調される。ここで生じる疑問は、ヘモグロビン平衡酸素含量がゼロであるゼロ酸素濃度でMOPが血液から生成されることを考えると、MOPの酸素はどこから生じるのか;なぜストレスによってこの酸素が放出されるのか;なぜストレスが細菌内毒素の攻撃に対して免疫系を強化するのかということである。これらの疑問は、この研究者らによっては解明されていない。
【0007】
Soferのグループは、酸素測定に使用したプローブが、酸化窒素又はHS又は他の化合物も読み取る可能性を認めているが、酸素とこれらの化合物との複合作用を考慮に入れておらず、またNO貯蔵庫又は他の貯蔵庫の存在の仮定もしていない。
【0008】
NOの文献の徹底した総括において、Pieper(非特許文献4)は、酸素又はNO等が貯蔵庫中に存在することを教示しておらず、それらの複合作用の提唱もしていない。さらに、この総括は、時間の関数としてのこれらの物質の濃度の変化速度、すなわち反応速度に関する曲線の傾きを考慮に入れていない。Pieperは、重大疾患の多くに関するNO科学の不確定さを指摘している。
【0009】
Maltepe及びSougstad(非特許文献5)は、健康状態及び疾患における酸素の役割の詳細な総括を提示している。Maltepe及びSougstadは、酸素若しくはNO、若しくは他の貯蔵庫、又はそれらの複合作用を考慮に入れていない。背景技術で引用した以上の参考文献のいずれも、それらの全体が参照により本明細書中に援用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Am. J. Physiol Heart Cir. Phys: H742-750 (1980)
【非特許文献2】Circ. Shock 1979; 6(3)261-9
【非特許文献3】Comparative Haematology International (1999) 9:68-71
【非特許文献4】Hypertension. 1998;31:1047-1060.) Galen M. Pieper, Review of Alterations in Endothelial Nitric Oxide Production in Diabetes
【非特許文献5】Maltepe, Emin; Saugstad, Ola Didrik, Oxygen in Health and Disease: Regulation of Oxygen Homeostasis-Clinical Implications Pediatric Research: March 2009 - Volume 65 - Issue 3 - pp 261-268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このため、疾患を回避する個体の免疫系の能力、及びインターフェロン等の免疫系をブーストする薬物に応答する個体の免疫系の能力を判断又は定量化する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の幾つかの態様の基本的理解をもたらすために、本発明の簡略化した概要を以下に示す。本概要は本発明の包括的概観ではない。本概要は、本発明の重要若しくは不可欠な要素を特定するか、又は本発明の範囲を明確にすることを意図するものではない。その唯一の目的は、その後に示すより詳細な説明の前置きとして本発明の概念を簡単に示すことである。
【0013】
その主要な態様によれば、また簡潔に述べると、本発明の1つの実施の形態は、少なくとも1つのセンサーを準備する工程と、或る量のシグナル伝達物質を有する或る量の体液又は生体物質を含むサンプルを準備する工程と、上記量のシグナル伝達物質に対するベースライン値を決定する工程と、上記サンプルにストレスを導入する工程と、上記センサーによって上記サンプルにおけるROXの値を決定する工程と、上記センサーによって上記サンプルにおけるBOXの値を決定する工程とを含む方法を含む。さらに、本発明の方法は、ROX及びBOXの濃度における経時的な変化を決定する工程を含む。
【0014】
本発明は、装置を更に含む。この装置の1つの実施の形態は、所与のサンプルにおけるROXの値及びBOXの値を計算するプロセッサに動作可能に接続された光学プローブ及び膜プローブを備える。本発明のプロセッサは、ROX及びBOXの濃度における経時的な変化速度を更に計算する。これらの変化速度は、代表的な傾きによって示される。
【0015】
本発明は、ROX及びBOXの濃度を制御する方法であって、少なくとも1つのセンサーを準備する工程と、或る量のシグナル伝達物質を有する或る量の生体物質を含むサンプル又は生物を準備する工程と、上記量のシグナル伝達物質に対するベースライン値を決定する工程と、上記サンプル又は生物にストレスを導入する工程と、上記センサーによって上記サンプル又は生物におけるROXの値を決定する工程と、上記センサーによって上記サンプル又は生物におけるBOXの値を決定する工程と、制御物質又は遮断物質を上記サンプル又は生物(患者である場合がある)に導入する工程とを含み、上記制御物質が、上記サンプル又は生物における上記ROXの値又は上記BOXの値を変更することが可能である、ROX及びBOXの濃度を制御する方法を更に含む。
【0016】
さらに、本発明は、臓器移植片又は薬物に対する拒絶反応の発現(onset)を予測する方法であって、少なくとも1つのセンサーを準備する工程と、或る量のシグナル伝達物質を有する或る量の生体物質を含む、処置を受ける予定の患者に由来するサンプルを準備する工程と、上記量のシグナル伝達物質に対するベースライン値を決定する工程と、上記サンプルにストレスを導入する工程であって、上記ストレスが或る量の処置物質を含み、上記処置物質が上記処置に不可欠な物質である、上記サンプルにストレスを導入する工程と、上記センサーによって上記サンプルにおけるROXの値を決定する工程と、上記センサーによって上記サンプルにおけるBOXの値を決定する工程とを含む、臓器移植片又は薬物に対する拒絶反応の発現を予測する方法を含む。
【0017】
これら及び他の特徴、並びにそれらの利点は、発明を実施するための形態の節を以下の図面とともに注意深く読むことによって、健康状態及び医療処置に対する即応性を評価する技術分野の当業者に容易に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の1つの実施形態による生体系の概略表示である。
図2】本発明の1つの実施形態による、モニタリングされる患者の血液サンプル中のROX及びBOXの濃度を測定する方法の工程を示す概略図である。
図3】本発明の1つの実施形態による、所与の薬物又は他のストレスの毒性を予測する方法の工程を示す概略図である。
図4】本発明の1つの実施形態による方法の工程によってSOX事象を得る1つの可能性を示す図である。
図5】本発明の1つの実施形態によるImmunogram(商標)の概略表示である。
図6】本発明の1つの実施形態による試験装置での典型的な実行系列を示すグラフである。
図7】本発明の1つの実施形態による、試験装置の再現性を確立するため、及びACD(酸性クエン酸デキストロース(acid-citrate-dextrose))抗凝固因子の毒性を実証するための第2の実行系列を示すグラフである。
図8】本発明の1つの実施形態による試験装置によって決定される最大BOX速度及び転換点のデータを示す2回の実行を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、攻撃に抵抗する見かけ上健常な個体の免疫系の状態を決定する方法、C型肝炎等の疾患に対抗する免疫療法の一環として、免疫調節物質、すなわち免疫系の性能をブースト若又は修正する物質に対する患者の応答及びそれに応答する能力を決定する方法、並びに免疫調節物質、特により多量の用量で有毒な可能性がある免疫調節物質の用量を調整する方法である。本発明は更に、個体が内部及び外部のストレスを耐容及び克服する可能性を含む全身的な健康情報を決定する方法である。
【0020】
本発明は、疾患を回避する個体の免疫系の能力、及びこの関連でインターフェロン等の免疫をブースト又は調節する薬物によって補助される個体の免疫系の能力を定量化する方法及び装置である。本発明は人の神経系、解毒系、筋肉系、並びにエネルギー生産系及びエネルギー伝達系に適用することもできる。
【0021】
内部標準とともに用いる場合、この方法及び装置は、将来可能な薬物及び他の化学物質の毒性及び生理学的影響を定量化するために利用することもできる。本明細書中で使用される場合、「内部標準」は、試験対象のサンプルの性質又は品質を反映するか又は示すことのできる任意の好適な物質を含み得る。例えば、ウシ血液に由来する、MedX(商標)として知られる物質は、本発明の目的上、患者の血液サンプルとの比較に好適な内部標準である。重要なことに、MedX(商標)等の内部標準の使用は、サンプルの履歴及び信頼性の追跡を容易にする。例えば、サンプルが破壊され、関連の内部標準も破壊されている場合、内部標準及びサンプルの両方が同様の取り扱いミス又は環境ストレスを受けたと仮定することができる。
【0022】
本発明の方法及び装置は、バイオマーカーの有用性を評価するために用いることもできる。さらに、方法及び装置は、ストレス、疾患及び薬物治療を受容及び克服する能力に関する個体の力についての情報を提供することを含み、個体の健康全般を決定するために用いることもできる。
【0023】
理論に束縛されることを望むものではないが、酸素、又は酸化窒素等の酸素を含有する分子、及び硫化水素等の他の免疫系又は身体のシグナル伝達分子(全て本明細書中で「シグナル伝達物質」と称される)は、侵入する異質な化学物質及び生物に対する身体の防御において重要かつ強力なツールであると考えられる。豊富な量のシグナル伝達物質、特に酸素の貯蔵及び放出は、身体の免疫系の不可欠な部分を形成する。
【0024】
しかしながら、酸素等のシグナル伝達物質は、例えば非常に低濃度でしか血漿に可溶性でない。したがって、身体は、シグナル伝達物質を可動性の収容された形態で、大量のエネルギーを必要とする傷口、腫瘍及び組織等の必要性を有する位置に輸送しなくてはならない。この収容された形態のシグナル伝達物質は、酸素貯蔵庫(reservoir of oxygen)(ROX)と称される。本明細書中で使用される場合、「ROX」という用語は、血液を介した効果的な送達のために収容又はバンドルされた形態の酸素分子、並びにNO及びHSを含む他のシグナル伝達物質を意味する。
【0025】
「バンドルされた」及び「収容された」という用語は互換的に使用され、白血球を含む血液中の細胞が酸素及びNO等のシグナル伝達物質を身体内の免疫系等の系によって使用されるように血液中で輸送可能な形態へと濃縮する、電磁力又はタンパク質ラッピング(protein wrapping)等の任意の手段を指す。ROXの測定は、患者の先天性免疫の能力、及び患者が所与の処置又は薬物に即座に応答する度合いの測定である。ROXがストレスを受けると、酸素分子がバンドル形態から放出される。本明細書中で使用される場合、「ストレス」は、血液の現在の状態又は平衡を変更する物理的、化学的、電磁気的等の任意の因子として定義される。さらに、ストレスは、単一の完全なストレス、例えば全処置用量の薬物、部分的なストレス、例えば部分処置用量、又は時間をかけて2回以上与えられるストレス、例えば一定期間にわたって複数回投与される全用量の処置薬物であり得る。
【0026】
血液又は組織中のROXは、血液中で利用可能なシグナル伝達物質の貯蔵の指標であり、侵入する異質な化学物質及び生物による攻撃に対して酸素又は他の重要な生体物質を生じる人の先天的能力の尺度であると述べられる。かかる攻撃に対する応答のシグナル伝達物質として働くことに加えて、ストレスによって血液中に放出されるROXは、シグナル伝達物質を、例えばエネルギーを必要とする組織に供給する。一般に動脈血中で現在利用可能な酸素を示すヘモグロビンの尺度であるだけでなく、ROXは、酸素、NO及びHSの貯蔵庫、並びに血漿及び赤血球を含む、血液の全ての成分中に存在する他のシグナル伝達物質の貯蔵庫の尺度である。さらに、本発明を用いて、シグナル伝達物質の貯蔵庫を含有する髄液を含む任意の体液を分析することができる。
【0027】
血液又は他の細胞の酸素及びシグナル伝達物質(本明細書中で「BOX」と称される)も、免疫系の適応能力の指標であることが更に述べられる。本明細書中で使用される場合、「BOX」は、ROXが血液中に入る準備が整う速度に関連する、血球の酸化消費能、すなわち酸素、NO又は他のシグナル伝達物質が消費される(バンドル又は収容されることを含む)速度の指標である。このため、BOXも患者の適応免疫系の強度、又はシグナル伝達物質に対するキャパシティを構築する、及び身体によって使用されるシグナル伝達物質の送達をブーストする血球の能力の指標である。BOXレベルをモニタリングすることによって、より長期にわたる処置に対する患者の応答を追跡することができる。BOXは免疫スイッチが始動する投与量も与え、薬剤の適切な用量を決定するのに有用であり得る。
【0028】
血液中の正常な測定可能なROX及びBOXの濃度(図6及び図7を参照されたい)において不均衡を有する人々及び動物は、より疾患の影響を受けやすく、インターフェロン等の免疫系をブーストする薬物にあまり効果的に応答しないと考えられる。このため、ROX及びBOXの濃度の正確な測定は、免疫系及び全身の健康状態が問題となる動物及びヒトにおける疾患に関する臨床的及び診断的な価値があり得る。本明細書中で使用される場合、「不均衡」という用語は、疾患を有しない、リラックスした又はストレスのない、正常な状態にある個体又は他の生体から得られたデータに基づく正常な範囲内より高いか、又は低いBOX、ROX又は概してシグナル伝達物質のレベルを指す。内部又は外部のストレスを受けていない健常な生体は、正常な範囲のBOX及びROXの値を有すると考えられる。
【0029】
非常に長い期間にわたる、極めて高濃度の酸素等のシグナル伝達物質も身体によって必要とされることが更に述べられる。この現象は超酸化的事象、SOXと称される。SOXは血球、及び膵島等の他の組織によって生成され得る。典型的なSOX事象は、特定の体液中のシグナル伝達物質のレベルの急増時に検出可能である。例えば、SOX事象は、ラクトフェリン及びミエロペルオキシダーゼ等の他の強い免疫応答の指標を伴う、Oの一定間隔のバーストを有するNOの非常に大量のバーストを含み得る。この状況は、リンパ節の戦場においてがん又はAIDS又は病原体と闘う上で非常に効果的であり得る。例えば、SOX事象を誘発することができれば、シグナル伝達物質のバンドルを伴う白血球を、患者自身の血液、体液、又は身体の疾患若しくは問題に実際に対抗する際に使用される物質に戻すことができる。
【0030】
加えて、本発明は、流体又は物質(問題の患者が有する体液又は生体物質である必要はない)中でSOX事象を引き起こす又は生じさせる方法を企図する。患者の生体物質が過度に弱いか、又は概してSOX事象を生じることができない場合、本発明の方法は、1)患者の免疫系によって受容され得る好適な流体又は物質を準備する工程と、2)SOX事象を引き起こす工程と、3)SOX可能な物質を患者に投与する工程とを含む。この方法は、SOX事象を身体内で生じさせる獲得した人の能力に基づいて、患者がより良好に疾患、薬物治療又は他のストレスに抵抗及び克服することを可能にする。
【0031】
加えて、ストレスを受けた漸増量の血液と比較した、シグナル伝達物質のレベルの測定は、ストレスを克服する血液の先天的能力に関する情報を提供する。複数回の連続的なストレスを受けた人の血液におけるこの強度の実証は、本明細書中で血液の「転換点」又は「折り返し点」と称される。
【0032】
したがって、本発明の方法及び装置によって、血液サンプルにおけるROX及びBOXの濃度が測定される。本発明の方法及び装置は、正常なROX及びBOXの濃度を有する正常な血液を表す内部標準化合物と比較して、薬物、化学物質及び他のストレスの毒性、及びそれに対する生理学的応答を測定することもできる。本発明の方法及び装置は、これらの調査用バイオマーカー又は他の現象に関する研究ツールとしても使用することができる。例えば、Tリンパ球は酸化攻撃に対してROXを動員し、使用することができ、正常な細胞はグルコース酸化要求に対してROXを動員し、使用することができる。ROXは、II型糖尿病のインスリン抵抗性を説明し、その指標を与えるのにも役立つ。
【0033】
本発明の方法では、患者から血液を採取し、健常な個体と比較する。この方法の工程は、被験個体又は患者から新たに採取した又は凍結した或る量の血液を、ROX、BOX及びSOX、並びにこれらの事象に関連する他の情報を検出及び測定するセンサーに接続されたリーダーを有する試験装置内のウェルに導入することを含む。この測定に好適な試験装置の一例は、Immunogram Analyzer(商標)(本明細書中で「IA」とも称される)である。Immunogram Analyzer(商標)は、装置での試験実行のデータ概要を提供するImmunogram(商標)を生成する。Immunogram(商標)を用いて、インターフェロン等の免疫をブースト又は調節する薬物での処置に対する非応答者を同定することができる。
【0034】
Immunogram Analyzer(商標)は現在臨床試験中である。特に、臨床試験は、C型肝炎患者及び健常患者の対照群を用いて進行中である(ニュージャージー医科歯科大学IRBプロトコル番号0120090320)。臨床試験の目的は、ROXの量及びBOXレベルにおいて不均衡を有する患者を特定すること、並びにインターフェロン補給剤及びリバビリン補給剤による処置の経過中のそれらの進行を調べることである。ROXレベル及びBOXレベルの測定は、糖尿病及び或る特定のがんを含む他の慢性疾患の処置に関連があることが予想される。
【0035】
試験装置のセンサーは、サンプルにおけるROX及びBOXの存在を検出し、これらの濃度の経時的な変化を含むROX及びBOXの濃度のアウトプットを生成する。その後、これらのアウトプット濃度を健常個体と比較する。
【0036】
試験装置は、恒常性及び健康状態の「ベースライン」指標として定期的な健康診断中に使用することもできる。例えば、運動、瞑想、薬物、情緒的ストレス及び他のストレス等の影響を、身体の状態の改善又は生じ得る弱点の警告のためにモニタリングすることができる。
【0037】
化学的ストレス又は他のストレス(複数も可)を有する閉鎖系として試験装置を操作することは、SOXが最大数時間持続する事例をもたらすことが更に述べられる。
【0038】
Immunogram(商標)による簡単な血液検査によって、処置のために情報に基づく勧告を行うのに必要とされる情報が得られる。例示的な試験では、工程は約0.05ml〜0.5mlの患者の血液の試料をウェル又はセルに添加することを含む。好適なセルが、ヒトの皮膚を含む任意の構造であってもよく、血液サンプルを採取することなく、観察される読み取り値を皮膚を介して読み取ることができることが本発明によって企図される。ROX及びBOXの数を計算し、等価のO飽和度(%)に基づいてゼロ及び100%に較正したリーダー/プロセッサによってアウトプットすることができる。上下の変動、反応速度の傾き及び値の範囲は読み取り可能であり、潜在的価値を有する。
【0039】
ROX及びBOXの濃度における不均衡は、低下した免疫系、及び免疫をブースト又は調節する薬物による処置に対する応答性が低い免疫系を示す。しかしながら、一部の疾患では、ROX及びBOXが一時的に上昇する場合もある。同じ患者についてROX及びBOXのレベルを一定期間にわたってモニタリングすることは、臨床的及び診断的な価値があることもある。したがって、血液中のROX及びBOXのレベルを測定する本発明の方法は、患者のモニタリング、薬物のスクリーニング、バイオマーカーの評価、及び他の関連する目的のためのツールとなり得る。
【0040】
単に血液にストレスを与えるか、又はROX、BOX及びSOXについて測定しながら血液にストレスを与え、続いてその血液又はその血液に由来する物質を使用して、患者に治癒をもたらすことが、この技術の最終的な用途である。
【0041】
薬物、治療、治癒又はプロトコルの送達を目的として、この方法を用いてROX、BOX、SOX及び他のかかる事象の特徴を統合することが、この技術の更なる用途である。
【0042】
特に、生体系を概略的に表す図1を参照して本発明を説明する。図1において、生体系100が、シグナル伝達物質108を可逆的に溶媒和することが可能なマトリックス102を含む。白血球等の輸送物質104が、マトリックス中のシグナル伝達物質108’を、感染領域、がん領域等の望ましくない成分106に輸送するため、又はそれらに対処して除去する際に使用するために、取り出す及び/又はバンドルする。本発明の目的上、マトリックス102中の利用可能なシグナル伝達物質の量はROXと称され、望ましくない成分の除去に消費される、バンドル物質及び/又は輸送物質によって取り出されることが可能なシグナル伝達物質の量はBOXである。当然のことながら、ROX及びBOXは、シグナル伝達物質の十分な量、及びシグナル伝達物質を利用する十分な能力を示唆し得るため、どちらも正常な範囲内にあることが望ましい。
【0043】
本発明は、ROX、BOX、SOX、及び個体の免疫系又は他の身体の機能に関連する他の成分を測定する装置を更に含む。特に、本発明は、本明細書中に記載される特定の用途以外の有用な研究ツールである、試験を行うことが可能な試験装置を含む。
【0044】
本発明は、人の神経系、解毒系、筋肉系若しくはエネルギー系、又は白血球等のバンドル能を有する物質を含む任意の体液にも適用して、これらの系の強度及び有効性に関する情報を提供し、個体の状況に応じてストレスを克服することができる。
【0045】
1つの実施形態では、本発明の方法は、血液サンプル中のROX及びBOXの濃度を、基準と比較して測定する工程を含む。血液中に見られるROX及びBOXの濃度は、病原体に対して防御するため、免疫応答のシグナル伝達を行い、これを統合するため、及び恒常性レベルを維持するために酸素を供給する免疫系の能力を測定する指標であると考えられる。血液のROX及びBOXは、身体にかけられるストレスに応じて必要とされる大量の酸素を組織に送達するために、ヒト又は動物の身体によって用いられる機構において重要な役割を果たす。
【0046】
このため、本発明は、ストレスに対するヒト及び動物の免疫応答に関する多数の目的に用いることができる。例えば、本発明の方法は、人々及び動物の健康状態を、例えば定期的な健康診断において全身的に判断するため、並びにがん、糖尿病及び自己免疫不全症候群(AIDS)を患う患者の免疫療法計画に対する即応性を判断するために用いられ得る。本発明の方法は、運動選手がその調整を改善する際のパフォーマンスを判断するため、並びに汚染及び他の外部ストレスに曝露された人々を試験するために更に使用することができる。本発明の方法は、線維筋痛疾患、神経筋疾患及び神経変性疾患等の現在十分に規定されていない疾患を調査するために用いることができる。
【0047】
本発明の方法は、新たな薬物をより迅速かつ安価に毒性及び免疫原性についてプレスクリーニングするため、並びに臨床試験に参加する個体をモニタリングするために用いられ得る。他の化学物質、環境汚染物質、又は温度及び圧力等の物理的ストレス、情緒的ストレス等も、これにより試験することができる。
【0048】
医師又は獣医師は、ROX及びBOXを恒常性の尺度として使用することができる。次に、医師又は獣医師はROX及びBOXを使用して、或る特定の薬物及び/又は医療プロトコルに対して感受性を有し得る患者をモニタリングすることができる。これは少なくとも2つの方法:薬物若しくはプロトコルを与えながら、リアルタイムでROX及びBOXの測定のために採血することにより患者をモニタリングすること、又は危険な可能性のある薬物若しくはプロトコルに患者を実際に曝露せずに、薬物若しくはプロトコルに曝露した患者の血液サンプルのROX及びBOXを測定することによって行うことができる。
【0049】
本発明の別の特徴は身体内のNOの直接測定を含む。本発明より前に、NOの直接測定は利用可能でなかった。がんの予防、予後診断及び治癒において、並びにがん研究における大きな疑問を解明する研究ツールとして本発明を使用し得る方法の実証を、本明細書中で提示する。
【0050】
酸化窒素は、がんに対する防御において非常に重要であることが見出されている。身体が酸化窒素を作り上げるには、以下の工程が生じなくてはならない:1)遺伝子が酵素である酸化窒素シンターゼ(NOS)をコードしなくてはならない;2)このコードが発現されなくてはならない;3)酵素NOSがNOSコードから生成されなくてはならない;4)酵素が酸化窒素を作り上げるのに必要とする、全ての基質及び補因子を有しなくてはならない;5)酵素が活性化されなくてはならない;また、この発見に関連して、6)NOが容易に使用部位に輸送され、集中する形態でバンドルされなくてはならない。
【0051】
NOSをコードする遺伝子の形態の数は数百単位である。これらの形態は、内皮性(eNOS)、誘導性(iNOS)、神経性(nNOS)及びミトコンドリア性(mNOS)として特徴付けられている。本発明は、血液に由来する新たなタイプのNOS(bNOS)を明らかにしている。
【0052】
最終生成物であるNOが最も重要である。したがって、本明細書では簡略化した用語「NOS」を、これらのカテゴリの全てについて使用する。
【0053】
「慢性炎症及びがんにおける内皮性酸化窒素シンターゼの新しい役割(An emerging role for endothelial nitric oxide synthase in chronic inflammation and cancer)」と題する文献総説(Cancer Res. 2007 Feb 15, 67(4):1407-10, L. Ying and L.J. Hofseth)は、NOSがアポトーシス、血管新生、細胞周期、浸潤及び転移を含む全ての重要ながん経路を調節すると要約している。この研究者らは、NOSが固形ヒト腫瘍においても異常調節されること、及びNOSが慢性炎症にも関与することを指摘している。研究者らは、NOSをがんの予防及び処置におけるパラメータとして使用することを提案している。
【0054】
M A Rahman et al.(「肝細胞癌及び周辺の肝臓における誘導性酸化窒素シンターゼとシクロオキシゲナーゼ−2との共発現:C型肝炎ウイルス陽性症例の血管新生におけるCOX−2の関与の可能性(Co-expression of inducible nitric oxide synthase and cyclooxygenase-2 in hepatocellular carcinoma and surrounding liver: possible involvement of COX-2 in the angiogenesis of hepatitis C-virus positive cases)」と題する;Clin Cancer Res 2001 May; 7(5):1325-32)による100人の患者に由来するヒト肝臓組織切片の調査において、Rahman及び共同研究者らは、NOS発現単独ではC型肝炎ウイルス陽性(HCV)肝細胞がん(HCC)患者の死亡率の予測因子とはならないが、NOSとCOX−2との発現の組合せがHCV/HCC患者の死亡率と相関すると結論付けている。
【0055】
近年、S Fujita et al.は、「内皮性酸化窒素遺伝子における遺伝的多型は、白金を用いた二重化学療法によって処置した進行性非小細胞肺がん患者の全生存率と相関する(Genetic polymorphisms in the endothelial nitric oxide gene correlate with overall survival in advanced non-small-cell lung cancer patients treated with platinum-based doublet chemotherapy)」と題する論文(BMC Medical Genetics 2010, 11:167)において、160個を超えるNOSの遺伝的多型が存在すると指摘している。S Fujita et al.は、非小細胞肺がん(NSCLC)患者の生存率のマーカーである、NOS遺伝子の或る特別な対立遺伝子を発見した。NSCLCを有し、白金を用いた処置を行った108人の患者の調査では、このNOS遺伝子は生存率のマーカーである。
【0056】
一方、HCCを有するHCV患者は、NOS遺伝子及びCOX−2遺伝子が発現する場合に生存しない。他方で、NOSを発現するNSCLC患者は、NOS遺伝子が発現する場合に生存する。この明らかな矛盾はどのように説明することができるのだろうか。
【0057】
NOSの遺伝子発現は複雑であり、高コストで、時間のかかる分析方法である。より重要なことには、NOS遺伝子の単純な発現は、NOが実際に形成される十分な決定法ではない。本発明は、利用可能なNOを容易に分析するツールであるIAを提供する。加えて、IAは明らかな矛盾を説明する機構を仮定することを可能にする。例えば、生存するNSCLC患者がROXNO機構を有するが、生存しないHVC/HCC患者は適度なROXNOを有しないこと、及びCOX−2が酸素を必要とし、したがってROXにとって更なる負担となることを予測することができる。
【0058】
試験のための説明的な疾患モデルを形成する能力は、がん治癒の探求に不可欠である。本明細書中で使用される場合、説明的な疾患モデルは、1)疾患モデルを作り出す工程、2)臨床調査又は研究調査を行って、モデルを検証する工程、3)モデルが的確である場合に、それから展開する工程、4)モデルが不的確である場合に、データに従ってそれを修正又は改善する工程によって形成される。
【0059】
図2に示されるように、本発明の1つの実施形態は以下の装置及び方法工程を含む。初めに、センサー又はプローブ20及びリーダー/プロセッサ30を備える、サンプルウェル10又はセルを有する試験装置を準備する。重要なことには、セル10は、ヒトの皮膚を含む任意のタイプの構造であってもよい。試験プローブをセルに挿入し、シグナル伝達物質のレベルの読み取り値がゼロとなるように試験装置を較正する。例えば、シグナル伝達物質を含まない生理食塩溶液等の化合物AをセルEに添加し、シグナル伝達物質を含まない場合の機器のベースライン読み取り値を求めることができる。代替的には、シグナル伝達物質を含まない気体をセルに吹き込むことができる。
【0060】
シグナル伝達物質についてゼロ読み取り値を示すベースラインを確立した後、或る量の血液DをセルEに添加する。この量の血液Dは被験個体又は患者から新たに採取又は凍結した、少量、例えば約0.02mL〜約0.10mLの血液であってもよい。便宜上、3.00mLの抗凝固処理血液のサンプルを、後の分析のために凍結することができる。非常に少量、例えば約0.02mL未満の血液のサンプルも分析することができる。
【0061】
初期読み取り値は、任意のストレスを与える前のサンプルにおけるシグナル伝達物質のレベルから得られる。次いで、化合物Aと血液Dとの混合物を初期ストレスBに曝露する。好適なストレスは、注射器及び/又は回転マグネチックスターラーを加えることによって生じさせる物理的剪断ストレスであり得る。次いで、セルE内のセンサーによって、ストレスBの付加によってもたらされると推定される、シグナル伝達物質の濃度の低下を決定する。概して、このシグナル伝達物質濃度の低下によって、輸送のためにシグナル伝達物質を取り込む系の能力に相関するBOXの値が得られる。この低下に続いて、シグナル伝達物質濃度の任意の上昇によって、シグナル伝達物質の貯蔵庫をもたらす系の可能性と相関するROXの値が得られる。
【0062】
試験装置のセンサーは、好ましくは2つ以上のセンサーを含む。その1つは、O、NO、HS、及び結合していないため膜を介して浸透することができる他のシグナル伝達物質を測定する、膜型酸素電極22、例えばポーラログラフクラーク型酸素電極であり得る。ポーラログラフセンサーでは、分極した陽極、及び陰極が、酸素及び他のシグナル伝達物質が膜を介して浸透する電解質に浸漬される。陽極/陰極対は、系に入る酸素等のシグナル伝達物質の量に正比例して電流を流す。このため、電流の大きさは、プローブ又はセンサーに入るシグナル伝達物質の量に直接相関する。膜型センサーは必然的に、試験対象の物質のサンプルを消費の結果として枯渇させるが、センサーによって消費される物質のレベルは、本明細書中では実用的な目的に重要でないような桁数であると考えられることは明らかであり得る。
【0063】
他のセンサー24又はプローブは、光学蛍光溶存酸素分析計、例えばOcean Opticsのルテニウム被覆光ファイバー発光ダイオード(LED)プローブであってもよく、O及びバンドルされたO貯蔵庫(ROXO)の値の量を決定する、レーザーを含む他の好適な光ベースのデバイス(以下、「光学センサー」と総称する)を備えていてもよい。チップベースのセンサー等の他のセンサーを価格、利便性、及び新たなシグナル伝達物質及び反応性物質に対する感度に基づいて使用することもできる。
【0064】
本発明の試験装置は、各々のプローブからのデータラインが、プローブによって得られるデータの処理及び編成、並びにROX事象、BOX事象又はSOX事象等の関連事象についての値の算出を可能にするために、プロセッサ、ディスプレイ及びオペレーティングソフトウェアを備えるコンピュータに接続されるコンピュータ制御システムを備えていてもよい。
【0065】
本明細書中で使用される場合、「ROXO」は決定可能なO貯蔵庫であり、「ROXNO」は決定可能なNO貯蔵庫である。身体が使用するためにシグナル伝達物質を準備する血液、特に白血球によってバンドルされると、ROXO及びROXNOは膜センサーを通過することができない。しかしながら、BOX事象が起こった後、互いに追跡し合う傾向がある、膜センサー又は光学センサーによって決定されるサンプルにおけるシグナル伝達物質のレベルの上昇により、ROXO及びROXNOの量が得られる。例えば、膜センサーからの読み取り値がゼロとなる場合、すなわち、結合していない全てのOが測定されたか、又は膜を介して浸透した場合、その後の光学センサーからの読み取り値の上昇は、ROXOの量の代替的な決定とみなすことができる。同様に、NOについての膜読み取り値がゼロとなる場合、すなわち、結合していない全てのNOが測定されたか、又は膜を介して浸透した場合、任意の酸素が光学センサーによる場合のように別個に説明されると仮定すると、このシグナル伝達物質のその後の膜センサーからの読み取り値の上昇により、ROXNOの量が得られる。
【0066】
したがって、図6及び図7に示されるように、これら2つ以上のセンサーの間での試験によって、バンドルされた貯蔵庫(ROXNO)内のO、NO、ROXO及びNOについての読み取り値が得られる。この実施形態については、完全なROXの測定はROXO+ROXNOを含む。このため、膜プローブ及び光学プローブからの読み取り値を合わせると、物理的ストレスBへの曝露後のサンプルにおけるBOX及びROXの総濃度(ROXO+ROXNO)が得られる。また、図6及び図7の曲線の傾きは、これらの成分の反応速度に関する有益な情報をもたらす。例えば、シグナル伝達物質のレベルの上昇はROX事象及びそのタイミングを示すことができ、シグナル伝達物質のレベルの低下はBOX事象及びそのタイミングを示すことができる。
【0067】
要約すると、ストレスに反応してシグナル伝達物質が使用されると、シグナル伝達物質のレベルは低下することが示される。しかしながら、これらの低下が起こると、任意のその後のシグナル伝達物質のレベルの上昇は、それ以前は検出されなかった、バンドルされたシグナル伝達物質又はシグナル伝達物質の貯蔵庫の存在及び量を示す。
【0068】
図2に更に示されるように、化合物Aと血液Dとの混合物を、次に化学的ストレスCに曝露する。ストレスCは、6%フェノール水溶液等の強力な化学物質、又はサンプル中の任意の残りのROXを本質的に放出させるのに十分に強い他のタイプのストレスであり得る。次いで、セルE内のセンサーによって、ストレスCの導入の結果であると推定される、酸素及びNOの任意の上昇を測定する。このストレスを加えた後のこの酸素及びNOの上昇によって、溶液中の残りのROXの量が得られる。シグナル伝達物質、例えばサンプル内のシグナル伝達物質の経時的なレベルを追跡し、試験装置のリーダー/プロセッサ30によって記録する。
【0069】
重要なことに、体液のBOX及びROXは相互に影響を与えるように思われる。例えば、体液が異常に低いROXを有する場合、バンドルに利用可能なシグナル伝達物質がより少ないため、その同じ体液についてのBOXも低くなる傾向がある。同様に、体液のBOXが異常に低い場合、すなわち体液のバンドル能力がより低い場合、バンドルされたシグナル伝達物質がより少ないため、ROXは低くなる傾向がある。さらに、体液の先天的な強さは、その体液の検出可能なROX事象及びBOX事象によって経時的に決定することができる。正常より強い体液では、より多くのストレス及び/又はより強いストレスの付加は、同じストレスを受けた場合に正常な範囲外のBOX及び/又はROXの値をもたらし得る正常より弱い体液と比較して、正常な範囲内のBOX及び/又はROXの値をもたらし得る。
【0070】
ROX及びBOXの濃度の変化によって、ストレスに対する人の応答が急性であるか、又は慢性であるかを更に示すことができる。例えば、実質的に低下したBOXは急性応答対慢性応答の予測因子であり得る。ストレスのかかる事象の後に患者のBOXが異常に低い場合、患者の応答は慢性応答であり得るが、ストレス後にBOXレベルが正常以上である場合、これは急性応答の指標であり得る。
【0071】
本発明は、所与の薬物又は他のストレスの毒性を測定する方法を更に含む。この方法は、内部標準(又は患者の血液)を所与の薬物又は毒素とともに使用して、標準に対するその薬物の毒性、又は薬物若しくは毒素に対する個々の患者の感受性を決定することができるために、図2の方法とは異なる。図3に示されるように、センサー20及びリーダー/プロセッサ30を備える、サンプルウェル10又はセルを有する試験装置を準備する。化合物Aを試験装置のセルEに導入する。抗凝固処理したウシ血液等の代理血液サンプルである化合物Dを、次にセルEに添加する。次いで、化合物Aと化合物Dとの混合物を最初の化学的ストレスBに曝露する。セルEのセンサーによって、サンプル中のBOXの量を生成するシグナル伝達物質の任意の低下が測定される。次に、第2の化学的ストレスCをセルE内の混合物に付加する。センサーによって検出されるシグナル伝達物質の測定される増加によって、サンプル中のROXの量が得られる。これにより、所与の薬物の毒性を、一般的な薬物スクリーニング、又は所与の患者に対する薬物毒性のモニタリングのために試験することができる。
【0072】
本発明は、SOX事象を得て、かかる事象を受ける患者のROX及びBOXを測定する方法を更に含む。図4に示されるように、化合物Aを、センサー(単数又は複数)を有するセルEに添加する。血液サンプルSをセルに添加する。物理的又は化学的なストレスBを付加する。セルによって測定されるシグナル伝達物質の減少からBOXが得られる。物理的又は化学的なストレスC等を付加して、免疫応答の「点火(firing)」をブーストすることができ、細胞を外部環境から閉鎖する。SOX事象を経時的に起こし、記録する。SOXは血球の実際の「点火」を表す。したがって、この物質を含有する混合物は、患者に戻した場合に、例えばがん及びAIDSの治療及び/又は治癒において最も有用であり得る。
【0073】
臨床的及び診断的に有益であるように、ROX及びBOXの濃度読み取り値を、健常個体、又は正常な健康状態にある同じ個体と比較する。概して、被験個体又は患者のROX及びBOXの濃度が、健常個体(又は健常な期間にある同じ患者)の濃度と比較して正常な範囲外にある場合、被験個体又は患者は不均衡を有するため、平均的な人と比べて、疾患による攻撃に応答する能力がおそらくはより低いか、又は免疫調節物質に対する応答が低下している可能性がある。被験個体又は患者のROX又はBOXの濃度が、健常個体と比較して正常な濃度範囲内にある場合、被験個体は疾患に対して正常に応答することが期待され、患者は免疫調節に対して良好に応答するものとする。
【0074】
ここで理解されるように、膜型センサー及び光学センサーが用いられる場合、どちらも分子状酸素と相関する測定値をもたらすが、膜型センサーによってNO等の他の物質が検出される。好ましい実施形態では、測定値の相関は、更なる成分の間接的な決定を可能にし、それにより診断情報及び生体情報を大いに拡大する分析ツールをもたらす。
【0075】
概略的なImmunogram(商標)を図5に提示する。Immunogramでは、光学的測定の結果を時間(T)の関数として実線によって示し、膜型センサーの結果を点線によって示す。上昇するシグナルは測定される物質の増加を示し、下降するシグナルは測定される物質の減少を示す。
【0076】
図5を参照すると、マトリックス内で測定されるシグナル伝達物質の総量の代表的なものであるベースライン200が確立される。2つのシグナルは、NO又は膜型センサーによって測定される他の物質が高レベルであること以外は、通常は同様である。特定の時点T1でストレスを系に加え、それによりシグナル伝達物質を、例えば輸送のために白血球によってマトリックスから取り出す。測定されるシグナル伝達物質の減少202は、輸送のためにマトリックスから除去されるシグナル伝達物質(本明細書中でBOXと称される)と相関する。時点T2で、ストレスを増大させ、この更なるストレスによって、マトリックスへのシグナル伝達物質の放出を引き起こす。シグナル伝達物質の総量204がROXである。光学センサーによって測定される酸素の量206から、膜型センサーによって測定されるシグナル伝達物質208と、光学センサーによって測定されるシグナル伝達物質206との差(ROXNOと称される)212によって、酸素ではないシグナル伝達物質、例えば亜酸化窒素の決定が可能となる。特に、ROXが形成された後、ROXが膜センサーによって決定された場合に光学センサーより大きければ、差はNOの量である。210によって示されるROXOは、212によって示されるROXNOより小さいROXの総計である。
【0077】
本発明の試験装置によって生成されるデータの一例を図6に示す。6回の実行が図6に示される。図面の左から開始して、1回目及び3回目の実行は生理食塩水を用いた反復である。2回目の実行は、ヘリウム吹き込み(又は任意の他の手順)を使用して、「ゼロ」点をマークするゼロ較正であり、20.9%の大気酸素との平衡を用いてベースラインを決定する。次の2回の実行は、生理食塩水/ホウ酸塩混合物の反復注入であり、通常は洗眼に使用されるホウ酸塩の存在下でのBOX及びROXの増加が実証される。最後の実行からアスピリンの影響が実証され、アスピリンの血管拡張性及び抗凝血性から期待されるような、NOの非常に急速な放出が示される。この実行によって、血液におけるアスピリンの活性機構の新たな経路も実証される。この経路は血液に直接かつ即座に影響を与える。この新たな経路は、他の薬物の経路及び影響を発見する助けとなり得る。
【0078】
更に示されるように、O及びNOを測定する、膜を有するクラーク型センサーのアウトプットを、白い四角の短い破線によって表す。光学センサー(菱形の実線で示す)ではOしか測定されない。2つのセンサーの差(白い丸の大きな点線)を便宜上示す。両方のセンサーでの低下は血液の添加によるものである。膜センサーの線における低下は、BOXとして定義され、より小さな矢印として図6に示される。光学センサーの曲線は膜センサーほど低下しない。差(白い丸)は、膜を通過することはできないが、光学的に読み取ることのできる酸素を表す。これはROXOである。ストレスCを付加した点は、読み取り値の大幅な増大を表す。図6のより大きな矢印は上昇を示し、ROXとして定義される。膜の読み取り値が光学的な読み取り値より高いことに留意されたい。これは、NO(及び場合によってはHS等の他の化合物)が新たに放出されたことを意味する。これは、ROXNOの破壊+任意の即座に生成されるNOによるものである。本発明は、流体又は物質中に存在するNOを直接決定する既知の唯一の方法を提供する。さらに、試験対象の物質が初めにNOのゼロ濃度を示し、NOがその後検出される場合、かかる試験実行におけるbNOSの発見が更に示される。膜を有する又は有しない他のセンサーを、単独で又は組み合せて使用することもできる。
【0079】
下記に示されるように、第I表は図6のデータを要約し、医薬品の血液に対する毒性及び他の影響を決定するための本発明の使用を実証するものである。患者の血液に対する生理食塩水の実行と比較して、ホウ酸塩洗眼剤及びアスピリンの両方がROX及びBOXに影響を与える。同じ患者に対するアスピリンの影響は、この患者についての抗凝固結果を示す。ROXNOからのNO形成及び結果として起こるNO合成の急速な上昇(表には示さず)は、例えば血液中のアスピリンの分析において有益である。図6では、大量のNOが2秒間のマーカー間隔で形成される。
【0080】
【表1】
【0081】
大量の更なる情報を、試験装置による典型的な試験実行から得ることができる。検出されるシグナル伝達物質の減少によって示されるBOXから、幾つかの時点での傾き及び濃度を得ることができ、それによりミカエリスメンテン速度論(反応速度の関数としての酸素の曲線)、及び反応速度を分析するより高度な技法を導き出すことができる。その後の緩やかな上昇から酸素及びNOの上昇速度が得られ、ROX部分からNO及びOの送達速度が得られる。さらに、ヘモグロビンが血液サンプル中に存在することが理解される場合、そのサンプルにおける50%飽和レベルでのBOX曲線は、O消費速度による傾きの大幅な減少を示すものとする。BOXの傾きは、血液及びO消費の機構がヘモグロビンからのOの単純拡散を超えていることを示す。電磁力も作用する。特に、白血球も電磁力を用いてバンドル形態でおそらくは常磁性であるシグナル伝達物質を捕捉又は使用する。50%飽和未満の飽和のために、ヘモグロビンは溶液に更なるOを放出し始める。O消費が一定であった場合、新たな酸素が添加されるために傾きはより緩やかであると考えられる。
【0082】
図7は、試験装置を用いた12回の実行を示すグラフである。これらの実行は、装置の再現性、血液代理標準の処理、及び血液標準の測定における操作者の技能を試験するために行った。左から開始して、最初の3回の実行は実験者1によって行った。残りの実行は実験者2によって行った。ACD抗凝固因子の濃度を同様に試験した。結果は、血液標準の凍結がBOX及びROXを僅かに減少させ、凍結と組み合わせたより高濃度のACDがROX及びBOXを最も減少させることを示し、標準血液の厳しい処置を示す。
【0083】
図7の試験の結果を下記第II表に要約する。これらの実行系列によって、試験装置の最適な操作濃度及び操作条件を決定する方法、並びに装置を使用して装置の操作者を訓練する方法が実証される。
【0084】
【表2】
【0085】
好ましくは、臨床調査について、試験サンプルを比較するためのROX及びBOXの正常濃度は、処方薬を服用しておらず、自身を病気でないと述べている個体の大きな集団をサンプリングすることによって得られる。ROX濃度及びBOX濃度の分布は、この集団から生成される。平均によって、100等の標準的な数に設定されたベースラインを規定する。
【0086】
下記の第III表及び第IV表は、C型肝炎に感染した個体と比較した、「正常な」個体(試験の時点で疾患を有していなかった個体)の血液サンプルにおける応答に関する、個人病院から収集したデータを示す。第III表に示されるように、中程度のストレス標準を確立し、実行系列を行い、サンプル中の酸素レベルを膜センサー及び光学センサーによって測定した。これらの測定値に基づくと、ストレスを受けた状態の血液において、膜センサーによって約20%超の酸素の百分率が検出され、光学センサーによって約11.5%超の酸素の百分率が検出された。
【0087】
【表3】
【0088】
第IV表は、同じ個体に由来する血液サンプルについて検出されたROX、BOX及びNOレベルを示す。ROX、BOX及びNOの測定値に基づいて、正常な血液は、約40〜約110のROX、約40〜約160のBOX、及び約200未満のNOを示した。この表の目的は、BOX及びROXに関する不均衡を特定する目的で、正常なROX及びBOXの値の範囲を決定する方法を示すことである。得られた実際の数値は、或る範囲のBOX及びROXがこの個体のサンプリングにおいて正常であると決定されたことほど重要ではない。例えばC型肝炎患者の場合、正常性の範囲を、より多くの臨床データが得られるように続いて調整することができる。
【0089】
【表4】
【0090】
下記第V表は、本発明に関する血液の転換点についての情報を提供する。漸増レベルの血液に対して、毒素を徐々に増加して試験を実行した。ストレス1でのBOXの読み取りの後、化学的ストレスを一度に付加するのではなく、数回に分けて付加する。通常は、或る量の毒素、例えば0.2mlの6%フェノールをストレス2、ストレス3及びストレス4で連続して3回添加する。低レベルの血液では、ROXが形成され始め、O及びNOのレベルが上昇する。血液が毒素によって圧倒され、O及びNOが放出される。
【0091】
高レベルの血液では、血液はストレス2を克服するのに十分に強く、Oレベル及びNOレベルは上昇しない代わりに、より多くの酸素が消費される。このレベルは、血液がそのストレスを克服することを示す転換点である。
【0092】
上記の光学プローブについては、転換点は0.10mlの血液から始まる。膜プローブについては、転換点は0.20mlの血液から始まる。より強い血液を有する人では、転換点に到達するのに必要とする血液はより少ない。このようにして、免疫系強度のプロファイルを個体毎にモニタリングすることができる。このため、各々の個体について、その健康状態を習慣、運動、薬物及び毒素への曝露等の関数として、2つの別個のプロファイル(光学プロファイル及び膜プロファイル)を観察することによって最適化することができる。
【0093】
【表5】
【0094】
図8は2つの試験を示すグラフである。これらの試験の結果を第VI表に詳述する。提示の数値は飽和度(100%=大気圧及び25℃で空気と平衡化した水中の等価の酸素の量)である。0.20ml及び0.05mlの血液についての実行を図8に示す。最大BOX速度は剪断ストレスのみによるものである。NO形成は化学的ストレスを付加し、実行を完了した後である。
【0095】
これらのデータは、免疫系の全体的な強度を評価するために多くの方法で用いることができる。例えば、両方のプローブについての最大BOX速度プロファイルを、所与の医薬を与えた患者について観察し、医薬を与えない場合の先の実行と比較して、この薬物に対する患者の応答を評価することができる。これは、練習計画等に対する運動選手の応答を評価するためにも行うことができる。
【0096】
図8に示されるように、「折り返し」点を実行によって位置付け、これを使用して、被験体の全身的免疫強度を血液の滴定と同様に較正することができる。
【0097】
最終NO濃度及び全体的なNO生成は、心臓病患者についての抗凝血、NO不均衡を有することが知られる神経筋変性患者、とりわけデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者につてのNOアベイラビリティ及びROXNO用量の非常に重要な態様を示す。
【0098】
【表6】
【0099】
ROX及びBOXの決定が、疾患に対抗し、臓器移植を含む治療を受容し、概して健康状態を改善する生体の能力を向上させることにより、多数の用途に利用され得ることが本発明によって更に企図される。
【0100】
このため、本発明は、ROX及びBOXの濃度を制御する方法であって、1)センサーを準備する工程と、2)或る量のシグナル伝達物質を有する或る量の生体物質を含むサンプル又は生物を準備する工程と、3)センサーによってその量のシグナル伝達物質に対するベースライン値を決定する工程と、4)サンプル又は生物にストレスを導入する工程と、5)センサーによってサンプル又は生物におけるROXの値を決定する工程と、6)センサーによってサンプル又は生物におけるBOXの値を決定する工程と、制御物質又は遮断物質をサンプル又は生物に導入する工程とを含み、制御物質が、サンプル又は生物におけるROXの値又はBOXの値を変更することが可能である、ROX及びBOXの濃度を制御する方法を更に含む。この方法に基づいて、奏功する制御物質又は遮断物質を特定し、ROX及びBOXの任意の不均衡を調整するのに効果的な量で生体に投与して、SOX事象を作り出すか、又は生物を間近のストレスに備えさせることができる。
【0101】
本発明は、臓器移植片又は薬物に対する拒絶反応の発現を予測する方法であって、1)センサーを準備する工程と、2)或る量のシグナル伝達物質を有する或る量の生体物質を含む、処置を受ける予定の患者に由来するサンプルを準備する工程と、3)センサーによってその量のシグナル伝達物質に対するベースライン値を決定する工程と、4)サンプルにストレスを導入する工程であって、ストレスが或る量の処置物質を含み、処置物質が処置、すなわち臓器移植に不可欠な物質である、サンプルにストレスを導入する工程と、5)センサーによってサンプルにおけるROXの値を決定する工程と、6)センサーによって上記サンプルにおけるBOXの値を決定する工程とを含む、臓器移植片又は薬物に対する拒絶反応の発現を予測する方法を更に含む。間近の処置のサンプリングを受ける患者のROX及びBOXの値に基づいて、新たな臓器又は既存の移植片の拒絶反応を受容する患者の能力を決定することができる。
【0102】
生命科学研究に精通する者であれば、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、以上の本発明の好ましい実施形態に多くの変更及び置換を行うことができることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8