特許第5698837号(P5698837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698837
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】貼付剤の製造方法及び貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20150319BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 31/435 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20150319BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20150319BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20150319BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20150319BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20150319BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20150319BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20150319BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   A61K9/70 401
   A61K31/551
   A61K31/435
   A61K31/216
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K47/12
   A61P37/08
   A61P25/24
   A61P13/10
   A61P11/02
   A61P17/04
   A61P43/00 113
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-510964(P2013-510964)
(86)(22)【出願日】2012年4月12日
(86)【国際出願番号】JP2012059982
(87)【国際公開番号】WO2012144405
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2013年10月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-92477(P2011-92477)
(32)【優先日】2011年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-243189(P2011-243189)
(32)【優先日】2011年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英治
(72)【発明者】
【氏名】荻原 勲
(72)【発明者】
【氏名】仲 晋永
(72)【発明者】
【氏名】長野 英治
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/115355(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/007018(WO,A1)
【文献】 国際公開第00/061120(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2004−0106865(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第101284981(CN,A)
【文献】 中国特許第1623583(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00− 31/80
A61K 47/00− 47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層と粘着剤層とを備える貼付剤の製造方法であって、二酢酸アルカリ金属塩、塩基性薬物の酸付加塩である薬物及び非水系粘着基剤を、前記薬物と前記二酢酸アルカリ金属塩とのモル比(薬物のモル数:二酢酸アルカリ金属塩のモル数)が1:0.5〜1:15となるように混合して得られた粘着剤層組成物を用いて前記粘着剤層を形成する工程を含む、貼付剤の製造方法。
【請求項2】
前記二酢酸アルカリ金属塩が二酢酸ナトリウムである請求項1に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項3】
前記薬物が塩基性薬物の多塩基酸付加塩又は塩酸付加塩である請求項1又は2に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項4】
前記薬物が、塩基性薬物のフマル酸付加塩、塩基性薬物のマレイン酸付加塩、塩基性薬物のクエン酸付加塩、及び塩基性薬物の塩酸付加塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜のうちのいずれか一項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項5】
前記塩基性薬物がエメダスチン、セチプチリン、及びオキシブチニンからなる群より選択される少なくともいずれか1種である請求項のうちのいずれか一項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項6】
前記非水系粘着基剤が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、ポリイソブチレン、及びシリコーンポリマーからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜のうちのいずれか一項に記載の貼付剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の貼付剤の製造方法により形成されたものである貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付剤の製造方法及び貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、貼付剤に含まれる薬物の皮膚透過性を向上させることを目的として種々の貼付剤が開発されており、このような貼付剤としては、薬物と共に有機酸及び/又は有機酸塩を含有する貼付剤が知られている。
【0003】
例えば、特開平11−302161号公報(特許文献1)には塩基性薬物塩及び有機酸塩を含有する貼付剤が記載されており、前記有機酸塩としては酢酸ナトリウムが記載されている。また、国際公開第01/07018号(特許文献2)には塩基性薬物の酸付加塩、有機酸及び有機酸塩を含有する貼付剤が記載されており、前記有機酸としては酢酸や乳酸等が、前記有機酸塩としては酢酸ナトリウム等がそれぞれ記載されている。さらに、国際公開第00/61120号(特許文献3)には塩基性薬物又はその塩と有機酸又はその塩とを含有する貼付剤が記載されており、前記有機酸としては酢酸やプロピオン酸等が、前記有機酸の塩としては酢酸ナトリウム等がそれぞれ記載されている。
【0004】
また、国際公開第2005/115355号(特許文献4)には塩基性薬物及びその塩と揮発性有機酸とを含有する貼付剤において、薬物の経皮吸収を促進することを目的として有機酸塩等を更に含有させることが記載されており、前記揮発性有機酸としては酢酸やプロピオン酸等が、前記有機酸塩としては酢酸ナトリウム等がそれぞれ記載されている。さらに、国際公開第02/069942号(特許文献5)には貼付剤の粘着剤層に有機酸類を含有させることが記載されており、前記有機酸類としては酢酸や酢酸ナトリウム等が用いられている。また、特表2004−500360号公報(特許文献6)には、薬物及び無機水酸化物を含有する局所処方物において、水性流体の存在下で酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の水酸化物放出剤を含有せしめる方法が記載されている。さらに、国際公開第2009/110351号(特許文献7)には、薬物及び有機酸と有機酸塩との複合体を含有する経皮吸収製剤が記載されており、前記有機酸としては酢酸や低分子量カルボン酸が、前記有機酸塩としては酢酸ナトリウム等が記載されている。
【0005】
上記特許文献1〜7においては、有機酸及び/又は有機酸塩として、酢酸及び/又は酢酸ナトリウム等が記載されている。しかしながら、酢酸ナトリウムのような酢酸アルカリ金属塩は一般に硬度が高い粒状であり、非水系の基剤に対して不溶性である。従って、このような酢酸アルカリ金属塩を用いて非水系の基剤からなる粘着剤層を形成する場合には、粘着剤層中に粒子が残存することにより粘着剤層の表面に凹凸が生じたり、粘着剤層の粘着力が低下するといった問題や、酢酸アルカリ金属塩を粉砕する工程が必要となるため製造工程が複雑になるという問題、酢酸アルカリ金属塩を粘着剤層中に均一に分散させることが困難であるため得られる貼付剤において十分な皮膚透過性向上効果を得ることができないという問題を有していた。
【0006】
さらに、酢酸を用いて粘着剤層を形成する場合には、酢酸の揮発性が高いために目的の皮膚透過性向上効果を奏する量の酢酸を含有する貼付剤を再現性よく得ることが困難であるという問題や、貼付剤の使用中や保存中に酢酸の含有量が減少して薬物の皮膚透過性を向上させる効果が低下するという問題を有していた。
【0007】
また、薬物自体を塩の形態ではなく遊離の形態(遊離形)とすることにより薬物の皮膚透過性を向上させることを試みた貼付剤も従来から知られている。
【0008】
例えば、特開平3−83924号公報(特許文献8)、特開平7−33665号公報(特許文献9)及び特開平8−193030号公報(特許文献10)には、遊離形の薬物(エメダスチン)を用いた貼付剤が記載されている。さらに、貼付剤に含有される塩基性薬物を遊離形にする方法として、特開平2−255612号公報(特許文献11)には塩基性薬物を含有する粘着剤層のpHを7以上にする方法が記載されており、特開平3−197420号公報(特許文献12)には薬物の塩に酢酸等の補助剤酸を含有せしめる方法が記載されている。しかしながら、特許文献8〜12に記載されているような遊離形の薬物は、塩の形態の薬物と比較して保存安定性が悪く、貼付剤の保存中に粘着剤層が着色するといった問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−302161号公報
【特許文献2】国際公開第01/07018号
【特許文献3】国際公開第00/61120号
【特許文献4】国際公開第2005/115355号
【特許文献5】国際公開第02/069942号
【特許文献6】特表2004−500360号公報
【特許文献7】国際公開第2009/110351号
【特許文献8】特開平3−83924号公報
【特許文献9】特開平7−33665号公報
【特許文献10】特開平8−193030号公報
【特許文献11】特開平2−255612号公報
【特許文献12】特開平3−197420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、薬物の皮膚透過性に優れた貼付剤を容易に得ることができ、製剤ごとの薬物の皮膚透過性のばらつきを小さくすることができる貼付剤の製造方法、及びその製造方法により得られる貼付剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、支持体層と粘着剤層とを備える貼付剤の製造方法において、薬物及び非水系粘着基剤に二酢酸アルカリ金属塩を特定の比率で混合して得られた粘着剤層組成物を用いて前記粘着剤層を形成することにより、得られる貼付剤において前記二酢酸アルカリ金属塩が前記薬物の皮膚透過性が著しく向上されることを見出した。また、このような貼付剤の製造方法によれば、粒子を粉砕する等の特別な工程が不要なために製造が容易であり、さらに、得られる製剤ごとの薬物の皮膚透過性のばらつきを小さくすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の貼付剤の製造方法は、支持体層と粘着剤層とを備える貼付剤の製造方法であって、二酢酸アルカリ金属塩、塩基性薬物の酸付加塩である薬物及び非水系粘着基剤を、前記薬物と前記二酢酸アルカリ金属塩とのモル比(薬物のモル数:二酢酸アルカリ金属塩のモル数)が1:0.5〜1:15となるように混合して得られた粘着剤層組成物を用いて前記粘着剤層を形成する工程を含むものである。
【0013】
本発明の貼付剤の製造方法においては、前記二酢酸アルカリ金属塩が二酢酸ナトリウムであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の貼付剤の製造方法において、前記薬物としては、塩基性薬物の多塩基酸付加塩又は塩酸付加塩であることが好ましく、塩基性薬物のフマル酸付加塩、塩基性薬物のマレイン酸付加塩、塩基性薬物のクエン酸付加塩、及び塩基性薬物の塩酸付加塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。さらに、前記塩基性薬物としては、エメダスチン、セチプチリン、及びオキシブチニンからなる群より選択される少なくともいずれか1種が好ましい。
【0015】
また、本発明の貼付剤の製造方法においては、前記非水系粘着基剤が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、ポリイソブチレン、及びシリコーンポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明の貼付剤は、前記本発明の貼付剤の製造方法により形成されたものである。
【0017】
なお、本発明によって前記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の製造方法においては、従来用いられていた酢酸及び/又は酢酸のアルカリ金属塩を用いなくとも、驚くべきことに、薬物と共に特定の比率の二酢酸アルカリ金属塩を組み合わせて用いることで前記酢酸及び/又は前記酢酸のアルカリ金属塩を用いた場合よりも優れた薬物の皮膚透過性向上効果が得られるという本発明者らが見出した知見に基づいて、薬物の皮膚透過性向上剤として、本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩を貼付剤の粘着剤層の調製時から含有せしめることができる。前記二酢酸アルカリ金属塩の粉末粒子は前記酢酸アルカリ金属塩の粉末粒子と比較して硬度が低く、非水系粘着基剤と共に用いても粒子を粉砕する等の特別な工程を要することなく粘着剤層中に均一に分散させることができるため、本発明の製造方法によれば、前記二酢酸アルカリ金属塩の薬物の皮膚透過性向上効果が十分に発揮される貼付剤を容易に得ることができる。さらには、粘着剤層表面に凹凸のない良好な外観を有し、粘着力の低下が抑制された貼付剤を得ることが可能であると本発明者らは推察する。
【0018】
また、前記二酢酸アルカリ金属塩は酢酸のような揮発性を有さないため、本発明の製造方法によれば、常に一定の二酢酸アルカリ金属塩を含有し、一定の皮膚透過性向上効果を発揮できる貼付剤を得ることができるため、製剤ごとの薬物の皮膚透過性のばらつきを小さくすることができると本発明者らは推察する。さらに、得られる貼付剤の使用中や保存中においても、前記二酢酸アルカリ金属塩の減少量が前記酢酸に比べて少ないため、薬物の皮膚透過性向上効果の低下を抑制することができると本発明者らは推察する。また、貼付剤の製造時に溶剤を使用する場合には、前記酢酸のように極性の大きい化合物を前記溶剤と共に用いると相分離が起きる傾向があり、使用できる溶剤が制限されるのに対して、本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩においてはこのような制限がされず、製造がより容易になると本発明者らは推察する。
【0019】
さらに、従来貼付剤に含まれる薬物の皮膚透過性を向上させることを目的として行われていた遊離形の薬物を用いる方法に依らなくとも、本発明の製造方法により得られる貼付剤においては十分な薬物の皮膚透過性向上効果が得られるため、より安定な塩の形態の薬物を用いることが可能であり、保存安定性をより向上することが可能となると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、薬物の皮膚透過性に優れた貼付剤を容易に得ることができ、製剤ごとの薬物の皮膚透過性のばらつきを小さくすることができる貼付剤の製造方法、及びその製造方法により得られる貼付剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】二酢酸ナトリウムのX線回析角2θ°におけるスペクトルを示すグラフである。
図2】酢酸ナトリウムのX線回析角2θ°におけるスペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1及び比較例1において得られた貼付剤について皮膚透過試験を行った結果を示すグラフである。
図4】実施例2及び比較例2において得られた貼付剤について皮膚透過試験を行った結果を示すグラフである。
図5】実施例3及び比較例3において得られた貼付剤について皮膚透過試験を行った結果を示すグラフである。
図6】実施例5及び比較例5において得られた貼付剤について皮膚透過試験を行った結果を示すグラフである。
図7】実施例3において得られた貼付剤のX線回析角2θ°におけるスペクトルを示すグラフである。
図8】比較例3において得られた貼付剤のX線回析角2θ°におけるスペクトルを示すグラフである。
図9】実施例4において得られた貼付剤のX線回析角2θ°におけるスペクトルを示すグラフである。
図10】比較例4において得られた貼付剤のX線回析角2θ°におけるスペクトルを示すグラフである。
図11】実施例1及び比較例1において得られた貼付剤について保存安定性の評価試験を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明の貼付剤の製造方法は、支持体層と粘着剤層とを備える貼付剤の製造方法であって、二酢酸アルカリ金属塩、薬物及び非水系粘着基剤を混合して得られた粘着剤層組成物を用いて前記粘着剤層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
(二酢酸アルカリ金属塩)
本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩は、酢酸分子2つとアルカリ金属原子1つとが塩を形成した錯化合物であり、下記一般式(1):
MH(CHCOO) ・・・(1)
[式(1)中、Mはアルカリ金属原子を示す。]
で表わされる。また、結晶水を有する場合は下記一般式(2):
CHCOOM・CHCOOH・XHO ・・・(2)
[式(2)中、Mはアルカリ金属を示し、Xは整数を示す。]
で表わされる。本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩としては、無水物であることが好ましい。
【0025】
また、前記二酢酸アルカリ金属塩としては、粉末粒子状であることが好ましく、前記粉末粒子の粒子径が150μm以下であることが好ましく、3〜10μmであることがより好ましい。粒子径が前記下限未満であると二酢酸アルカリ金属塩の粉末が吸湿し、粘着剤層に水が含有されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると薬物の皮膚透過性を向上させる効果が低下する傾向にある。
【0026】
前記アルカリ金属原子としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)が挙げられる。本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、入手が容易であるという観点から、二酢酸ナトリウム(NaH(CHCOO))を用いることが好ましい。
【0027】
以下、本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩の一例として二酢酸ナトリウムについて説明する。二酢酸ナトリウムは、融点が323〜329℃の結晶性の粉末粒子であり、例えば、水中において酢酸と酢酸ナトリウムとのモル比(酢酸のモル数:酢酸ナトリウムのモル数)が1:1となるように混合してから水を除去し、晶出させることにより得ることができる。酢酸及び酢酸ナトリウムは水に溶解するため、このように水中において両者を混合することにより本発明に係る二酢酸ナトリウムを得ることができる。なお、有機溶媒や後述する非水系粘着基剤のような非水系においては、酢酸は溶解するものの、酢酸ナトリウムの溶解度が極めて小さいため、単に酢酸と酢酸ナトリウムとのモル比(酢酸のモル数:酢酸ナトリウムのモル数)が1:1となるように混合しても十分な量の二酢酸ナトリウムを得ることは困難であり、未反応の酢酸及び酢酸ナトリウムが多く残存する傾向にある。
【0028】
本発明の製造方法においては、本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩を後述の薬物及び非水系粘着基剤と共に混合して得られた粘着剤層組成物を用いて粘着剤層を形成することにより、得られる貼付剤において該薬物の皮膚透過性を向上させることができるため本発明に係る二酢酸アルカリ金属塩を該薬物の皮膚透過性向上剤として用いることができる。
【0029】
(薬物)
本発明に係る薬物としては、薬効については特に制限はなく、また、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記薬物としては、皮膚透過性に優れるという観点から、アミノ基のような塩基性の官能基を有する薬物(塩基性薬物)であることが好ましい。前記塩基性薬物としては、催眠剤・鎮静剤(フルラゼパム、リルマザホン、メデトミジン、デクスメデトミジン)、興奮・覚醒剤(メタンフェタミン、メチルフェニデート)、精神神経用剤(イミプラミン、ジアゼパム、セルトラリン、フルボキサミン、パロキセチン、シタロプラム、フルオキセチン、アルプラゾラム、ハロペリドール、クロミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、アモクサピン、マプロチリン、ミルタザピン、セチプチリン、デュロキセチン、ジアゼパム、エチゾラム)、局所麻酔剤(リドカイン、プロカイン、テトラカイン、ジブカイン)、泌尿器官用剤(オキシブチニン、タムスロシン、プロピベリン、イミダフェナシン、ソリフェナシン、ダリフェナシン、トルテロジン)、骨格筋弛緩剤(チザニジン、エペリゾン、プリジノール、スキサメトニウム)、生殖器官用剤(リトドリン、メルアドリン)、自律神経用剤(カルプロニウム、ネオスチグミン、ベタネコール)、抗パーキンソン病剤(ペルゴリド、ブロモクリプチン、トリヘキシフェニジル、アマンタジン、ロピニロール、タリペキソール、プラミペキソール、ロチゴチン、カベルゴリン、セレギリン、ラサギリン)、抗片頭痛剤(ジヒドロエルゴタミン、スマトリプタン、エルゴタミン、フルナリジン、サイプロヘプタジン)、抗ヒスタミン剤(クレマスチン、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ジフェニルピラリン)、気管支拡張剤(ツロブテロール、プロカテロール、サルブタモール、クレンブテロール、フェノテロ−ル、テルブタリン、イソプレナリン)、強心剤(イソプレナリン)、末梢血管拡張剤(ニカメタート、トラゾリン)、禁煙補助薬(ニコチン、バレニクリン)、循環器官用剤(アテノロール、ビソプロロール、メトプロロール、カルベジロール、カルテオロール、バルサルタン、クロニジン)、不整脈用剤(プロプラノロール、アルプレノロール、プロカインアミド、メキシチレン)、消化性潰瘍治療剤(プログルミド、セトラキサート、スピゾフロン、シメチジン)、消化管運動改善剤(ドンペリドン、シサプリド)、抗アレルギー剤(ケトチフェン、アゼラスチン、エメダスチン)、抗ウイルス剤(アシクロビル)、抗アルツハイマー剤(ドネペジル、タクリン、アレコリン、ガランタミン、リバスチグミン)、セロトニン受容体拮抗制吐剤(オンダンセトロン、グラニセトロン、ラモセトロン、アザセトロン)、鎮痛剤(モルヒネ、コデイン、フェンタニル、オキシコドン)、抗真菌薬(テルビナフィン、ブテナフィン、アモロルフィン、ネチコナゾール、ミコナゾール、ルリコナゾール、イトラコナゾール)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記塩基性薬物としては、より皮膚透過性に優れるという観点から、エメダスチン、セチプチリン及びオキシブチニンからなる群より選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0030】
また、本発明に係る薬物としては、薬物の保存安定性に優れ、薬物が分解されることによる粘着剤層の変色を抑制するという観点、及び、皮膚に対する刺激を抑制するという観点から、前記塩基性薬物の製剤学的に許容可能な酸付加塩であることがより好ましい。本発明の貼付剤においては、前記薬物としてこのような塩の形態の薬物を用いても優れた皮膚透過性が得られる。前記酸としては、塩酸、臭化水素酸及びメタンスルホン酸等の単塩基酸;フマル酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸等の多塩基酸が挙げられる。これらの中でも、薬物の皮膚透過性が優れるという観点から、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸等の多塩基酸又は塩酸が好ましい。
【0031】
前記塩基性薬物のフマル酸付加塩としては、例えば、エメダスチンフマル酸塩、クレマスチンフマル酸塩、ホルモテロールフマル酸塩、クエチアピンフマル酸塩等が挙げられる。また、前記塩基性薬物のマレイン酸付加塩としては、例えば、セチプチリンマレイン酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、エラナプリルマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、トリメブチンマレイン酸塩、イルソグラジンマレイン酸塩、チモロールマレイン酸塩、カルビプラミンマレイン酸塩、フルボキサミンマレイン酸塩、トリフロペラジンマレイン酸塩、レボメプロマジンマレイン酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、フルフェナジンマレイン酸塩等が挙げられる。
【0032】
さらに、前記塩基性薬物のクエン酸付加塩としては、例えば、フェンタニルクエン酸塩、ペントキシベリンクエン酸塩、タモキシフェンクエン酸塩、クロミフェンクエン酸塩、ジエチルカルバマジンクエン酸塩、タンドスピロンクエン酸塩、トレミフェンクエン酸塩、シルデナフィルクエン酸塩等が挙げられる。また、前記塩基性薬物の酒石酸付加塩としては、例えば、イフェンプロジル酒石酸塩、メトプロロール酒石酸塩、アリメマジン酒石酸塩、ブトルファノール酒石酸塩、バレニクリン酒石酸塩、トルテロジン酒石酸塩、ゾルピデム酒石酸塩等が挙げられる。
【0033】
さらに、前記塩基性薬物の塩酸付加塩としては、例えば、塩酸オキシブチニン、塩酸ロフェプラミン、塩酸マプロチリン、塩酸ぺロスピロン水和物、塩酸トリヘキシフェニジル、塩酸ビペリデン、塩酸アゼラスチン、塩酸ノルトリプチリン、塩酸イミプラミン、塩酸バクロフェン、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸クロペラスチン、塩酸エピナスチン、塩酸シクロベンザプリン、塩酸タリペキソール、塩酸シプロヘプタジン、塩酸ミアンセリン、塩酸ピロカルピン、塩酸アンブロキソール、塩酸セビメリン水和物、塩酸ロメリジン、塩酸ベラパミル、塩酸グアンファシン、塩酸トリプロリジン、塩酸ロペラミド、塩酸ベナゼプリル、塩酸プラゾシン、塩酸イソプレナリン、塩酸プロメタジン、塩酸ジサイクロミン、塩酸デクスメデトミジン、塩酸ラモセトロン、塩酸アロセトロン、塩酸ミアンセリン、塩酸ぺロスピロン、塩酸カルテオロール、塩酸ツロブテロールが挙げられる。
【0034】
また、本発明に係る薬物としては、保存安定性及び薬物の皮膚透過性に優れた貼付剤が得られるという観点から、塩基性薬物のフマル酸付加塩、塩基性薬物のマレイン酸付加塩、塩基性薬物のクエン酸付加塩、及び塩基性薬物の塩酸付加塩からなる群より選択される少なくともいずれか1種であることがより好ましく、塩基性薬物のフマル酸付加塩、塩基性薬物のマレイン酸付加塩、及び塩基性薬物の塩酸付加塩からなる群より選択される少なくともいずれか1種であることがさらに好ましい。さらに、より保存安定性及び薬物の皮膚透過性に優れた貼付剤が得られるという観点から、本発明に係る薬物としては、エメダスチンフマル酸塩、セチプチリンマレイン酸塩、及び塩酸オキシブチニンからなる群より選択される少なくともいずれか1種であることが特に好ましい。
【0035】
以下、本発明に係る薬物の一例としてエメダスチンフマル酸塩、セチプチリンマレイン酸塩、及び塩酸オキシブチニンについて説明する。
【0036】
前記エメダスチンフマル酸塩は、次式(3)で表わされる薬物である。
【0037】
【化1】
【0038】
前記エメダスチンフマル酸塩(1−(2−ethoxyethyl)−2−(hexahydro−4−methyl−1H−1,4−diazepin−1−yl)benzimidazole difumarate)は、抗アレルギー作用を目的としたスクリーニングにより見出されたベンズイミダゾール誘導体である。このエメダスチンフマル酸塩は、抗アレルギー作用、抗ヒスタミン作用、ヒスタミン遊離の抑制作用等を有することが確認されており、このようなエメダスチンフマル酸塩を用いた製剤としては、例えば、アレルギー性鼻炎や蕁麻疹などを効能とするカプセル剤が知られている。本発明においては、薬物の保存安定性に優れた貼付剤が得られ、貼付剤が経時的に着色することを抑制できる傾向にあるという観点から、このようなエメダスチンフマル酸塩を用いることが好ましい。
【0039】
前記セチプチリンマレイン酸塩は、次式(4)で表わされる薬物である。
【0040】
【化2】
【0041】
前記セチプチリンマレイン酸塩(2,3,4,9−tetrahydro−2−methyl−1H−dibenzo[3,4,6,7]cyclohepta[1,2−c]pyridine maleate)は、脳内の神経伝達を改善する4環系抗うつ剤である。本発明においては、薬物の保存安定性に優れた貼付剤が得られ、貼付剤が経時的に着色することを抑制できる傾向にあるという観点から、このようなセチプチリンマレイン酸塩を用いることが好ましい。
【0042】
前記塩酸オキシブチニンは、次式(5)で表わされる薬物である。
【0043】
【化3】
【0044】
前記塩酸オキシブチニン(4−diethylamino−2−butynyl−α−cyclohexyl−α−phenylglycollate hydrochloride)は、膀胱の収縮を抑えることで膀胱容量を増やす抗コリン薬である。本発明においては、薬物の保存安定性に優れた貼付剤が得られ、貼付剤が経時的に着色することを抑制できる傾向にあるという観点から、前記塩酸オキシブチニンを用いることが好ましい。
【0045】
(非水系粘着基剤)
本発明に係る非水系粘着基剤は、貼付剤の粘着剤層において主として感圧接着性を発揮する基剤であり、実質的に水を含有しない。ここで、実質的に水を含有しないとは、意図的な水の配合を行わず、また、日本薬局方に準拠したカールフィッシャー法による測定により得られる水の含有量が前記粘着剤層において10%未満であることを意味する。
【0046】
本発明に係る非水系粘着基剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、ゴム系粘着剤、シリコーンポリマー、ポリウレタン系粘着剤等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
前記(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体とは、アクリル酸エステル及び/又はメタアクリル酸エステルを主モノマー単位とし、必要により任意の副モノマーが共重合された(共)重合体である。前記主モノマー単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、粘着性に優れた貼付剤が得られるという観点から、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルを用いることが好ましい。また、前記副モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0048】
前記ゴム系粘着剤としては、例えば、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明に係る非水系粘着基剤としては、薬物の皮膚透過性及び粘着性に優れた貼付剤が得られるという観点から、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、ポリイソブチレン、及びシリコーンポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
(粘着剤層組成物)
本発明の製造方法においては、前記二酢酸アルカリ金属塩、前記薬物及び前記非水系粘着基剤を混合して粘着剤層組成物を得る。
【0050】
本発明に係る粘着剤層組成物においては、前記薬物と前記二酢酸アルカリ金属塩とのモル比(薬物のモル数:二酢酸アルカリ金属塩のモル数)が1:0.5〜1:15であることが必要である。本発明においては、前記薬物のモル数に対して前記二酢酸アルカリ金属塩のモル数を増加させるにつれて相対的に貼付剤における薬物の皮膚透過性を高めることができる。前記二酢酸アルカリ金属塩の前記薬物に対するモル比が前記下限未満であると薬物の皮膚透過性を向上させる効果が十分に発揮されず、他方、前記上限を超えると粘着剤層中に二酢酸アルカリ金属塩を均一に混合することが困難になり、粘着剤層の凝集性が低下する。
【0051】
また、前記二酢酸アルカリ金属塩の含有量は、得られる粘着剤層における含有量が1〜18質量%となる量であることが好ましく、3〜12質量%となる量であることがより好ましい。前記二酢酸アルカリ金属塩の含有量が前記下限未満であると薬物の皮膚透過性を向上させる効果が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると貼付剤の粘着性が低下したり、粘着剤層の厚みを均一に調整することが困難になる傾向にある。
【0052】
本発明に係る粘着剤層組成物において、前記薬物の含有量としては、採用する薬物及び目的とする薬効に応じて適宜調整することができるが、通常、得られる粘着剤層における含有量が1〜50質量%となる量であることが好ましい。また、例えば、本発明に係る薬物が前記エメダスチンフマル酸塩及び/又は前記セチプチリンマレイン酸塩である場合には、これらの含有量は、得られる粘着剤層における含有量が1〜15質量%となる量であることが好ましく、本発明に係る薬物が前記塩酸オキシブチニンである場合には、その含有量は、得られる粘着剤層における含有量が1〜15質量%となる量であることが好ましい。前記薬物の含有量が前記下限未満であると貼付剤において薬物としての効果が十分に発揮されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると貼付剤の粘着性が低下する傾向にある。
【0053】
また、本発明に係る粘着剤層組成物において、前記非水系粘着基剤の含有量としては、特に制限されず、前記二酢酸アルカリ金属塩及び前記薬物の含有量に応じて調整することができる。
【0054】
本発明に係る粘着剤層組成物としては、本発明の効果を阻害しない範囲において、必要に応じて前記二酢酸アルカリ金属塩、前記薬物及び前記非水系粘着基剤をさらに含有していてもよい。このような成分としては、例えば、粘着付与樹脂、可塑剤、経皮吸収促進剤、溶解剤、安定化剤、充填剤等が挙げられる。このような成分を含有する場合、その含有量は得られる粘着剤層において85質量%以下となる含有量であることが好ましい。
【0055】
本発明に係る粘着剤層組成物においては、前記二酢酸アルカリ金属塩の粉末粒子を粉砕する必要がないため、前記粘着剤層組成物を混合する方法としては特に制限されないが、均一に混合できる方法であることが好ましく、例えば、プロペラミキサー、パドルミキサー、アンカーミキサー、プラネタリーミキサー、らいかい機等によって混合する方法が挙げられる。
【0056】
(粘着剤層の形成)
本発明の製造方法は、前記粘着剤層組成物を用いて前記粘着剤層を形成する工程を含むことを特徴とする。前記粘着剤層としては、前記支持体層の一方の面上に形成されることが好ましい。
【0057】
本発明に係る支持体層としては、特に制限されず、貼付剤の支持体層として公知のものを適宜採用することができる。このような支持体層の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ナイロン、セルロース誘導体、ポリウレタン等の合成樹脂等が挙げられ、前記支持体層の形態としては、フィルム;シート;シート状多孔質体;シート状発泡体;織布、編布、不織布等の布帛;及びこれらの積層体等が挙げられる。また、前記支持体層の厚さとしても特に制限されないが、通常2〜3000μm程度であることが好ましい。
【0058】
前記粘着剤層を形成する方法としては、水を配合せずに行うこと以外は特に制限されず、公知の貼付剤の粘着剤層を形成する方法を適宜採用することができ、例えば、溶剤法やホットメルト法が挙げられる。
【0059】
前記溶剤法としては、先ず、溶剤に溶解及び/又は分散させた前記粘着剤層組成物を前記支持体層の一方の面上に所望の厚さで塗布し、次いで、この粘着剤層組成物を塗布した層を加温して前記溶剤を除去することにより本発明に係る粘着剤層を形成することができる。前記塗布の厚さとしては特に制限されないが、通常、得られる粘着剤層の厚さが10〜300μm程度となる厚さであることが好ましい。また、前記加温の条件としては、前記溶剤に応じて適宜選択することができるが、温度条件としては、通常60〜120℃であることが好ましく、加温時間としては、通常2〜30分間であることが好ましい。
【0060】
前記溶剤としては、非水系の有機溶剤であることが好ましい。前記非水系の有機溶剤としては、用いる前記二酢酸アルカリ金属塩、前記薬物、前記非水系粘着基剤等の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、トルエン、キシレン、ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル等が挙げられる。本発明に係る粘着剤層組成物を前記溶剤に溶解及び/又は分散させる場合、前記粘着剤層組成物の不揮発分の濃度を10〜70質量%とすることが好ましい。濃度が前記下限未満であると製造施設における溶剤乾燥に関するエネルギー効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると粘着剤層を形成する際に支持体層や剥離ライナー層に塗布することが困難となる傾向にある。
【0061】
前記ホットメルト法としては、先ず、前記粘着剤層組成物を混合しながら熱融解せしめ、これを前記支持体層の一方の面上に所望の厚さで塗布し、次いで、これを室温において冷却することで本発明に係る粘着剤層を形成することができる。前記塗布の厚さとしては前記溶剤法において述べたとおりである。前記熱融解の条件としては、前記粘着剤層組成物の組成に応じて適宜選択することができるが、通常70〜200℃であることが好ましい。本発明の製造方法においては、このようにして得られた支持体層と粘着剤層とからなる貼付剤シートを適宜裁断することにより本発明に係る貼付剤を得ることができる。
【0062】
また、本発明の製造方法としては、記粘着剤層の前記支持体層とは反対の面上に、さらに剥離ライナー層を積層する工程を含むことが好ましい。前記剥離ライナー層としては、特に制限されず、貼付剤の剥離ライナー層として公知のものを適宜採用することができる。このような剥離ライナー層としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、紙、又はこれらの積層体からなるフィルムが挙げられ、容易に剥離出来るようにシリコーンコート等の離型処理が施されているものが好ましい。また、前記剥離ライナー層の厚さとしても特に制限されないが、通常2〜3000μm程度であることが好ましい。なお、本発明の製造方法において前記剥離ライナー層を積層する場合には、前記粘着剤層を形成する工程において、先に剥離ライナー層の一方の面上に前記粘着剤層組成物を塗布して粘着剤層を形成し、次いで、前記粘着剤層の前記剥離ライナー層とは反対の面上に前記支持体層を積層してもよい。
【0063】
本発明の製造方法により、前記支持体層と前記粘着剤層とを備える貼付剤であって、前記粘着剤層が非水系粘着基剤、薬物及び二酢酸アルカリ金属塩を含有しており、前記粘着剤層において、前記薬物と前記二酢酸アルカリ金属塩とのモル比(薬物のモル数:二酢酸アルカリ金属塩のモル数)が1:0.5〜1:15であることを特徴とする貼付剤を容易に再現性よく得ることができる。このような貼付剤は、薬物の皮膚透過性に優れ、また、製剤ごとで薬物の皮膚透過性のばらつきが小さい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、皮膚透過試験、X線回折角の測定及び保存安定性の評価試験はそれぞれ以下に示す方法により行った。
【0065】
(皮膚透過試験)
先ず、6〜8月齢クラウン系ミニブタの背部摘出皮膚の真皮側の脂肪を注意深く取り除き、真皮側がレセプター槽側となるように、フロースルーセルに装着した。次いで、この皮膚の角質層側に、3cmの大きさに切断して剥離ライナーを除去した貼付剤を貼付した。前記フロースルーセルのレセプター槽の外周には32℃の水を循環させ、レセプター槽には生理食塩水(32℃)を1時間当たり約3mlの流量で導入した。前記レセプター槽から6時間毎に24時間まで試料液を採取し、採取したそれぞれの試料液について高速液体クロマトグラフ法によりレセプター槽の薬物の濃度を定量した。薬物累積透過量[Q]を次式:
薬物累積透過量[Q](μg/cm)=[薬物濃度(μg/ml)×流量(ml)]/貼付剤面積(cm
により算出した。薬物累積透過量値が大きい製剤は、皮膚透過性に優れたものと認められる。
【0066】
(X線回折角の測定)
先ず、参考試料として、二酢酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムについてX線回折角を測定した。測定用ガラス板のくぼみに二酢酸ナトリウム又は酢酸ナトリウムをそれぞれ適量取り、測定面が平らになるように整えた後、以下に示す機器及び測定条件:
機器:X’ Pert−PRO MPD(PANalytial社製)
X線:CuKα
測定角度範囲(Scan angl):5〜50°
ステップ角度(Step size):0.0167°
ステップ毎の測定時間(Time per step):10.160秒
により測定を行った。二酢酸ナトリウムのX線回析角2θ°におけるスペクトルを図1に示す。図1に示す結果において、二酢酸ナトリウムに由来するピークは22.4°付近に認められた。また、酢酸ナトリウムのX線回析角2θ°におけるスペクトルを図2に示す。図2に示す結果において、酢酸ナトリウムに由来するピークは、8.7°付近に認められた。
【0067】
次いで、各実施例及び比較例で得られた貼付剤についてX線回折角を測定した。貼付剤の支持体層側を両面粘着テープで無反射板に固定し、剥離ライナーを除去して粘着剤層を露出させて測定試料とし、上記機器及び測定条件により測定を行った。
【0068】
(保存安定性の評価試験)
貼付剤をアルミラミネートプラスチック製包材中にヒートシーラーにより密封包装し、80℃において1週間静置して保存した。保存前と1週間保存後の貼付剤の粘着剤層からそれぞれ薬物を抽出して試料液とした。採取したそれぞれの試料液について高速液体クロマトグラフ法により粘着剤層の薬物の濃度を定量した。薬物の残像率(%)は保存前の薬物濃度(質量%)を基準として算出した。また、保存前と1週間保存後の貼付剤の外観をそれぞれ目視にて観察した。
【0069】
(実施例1)
先ず、二酢酸ナトリウム10.0質量部、エメダスチンフマル酸塩5.0質量部、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)18.0質量部、メタアクリル酸エステル共重合体(商品名:オイドラギッド、ロームファルマ社製)5.0質量部、ポリイソブチレン(PIB)8.0質量部、石油系粘着付与樹脂(商品名:アルコン、荒川化学工業社製)39.0質量部、ショ糖脂肪酸エステル5.0質量部、トリオレイン酸ソルビタン5.0質量部、ジイソプロパノールアミン5.0質量部を、トルエン中において混合してプロペラミキサーにより攪拌し、均一な粘着剤層組成物を得た(不揮発分濃度50質量%)。次いで、この粘着剤層組成物を厚み75μmのポリエチレンテレフタレートからなる離型ライナー層の一方の面上に乾燥後の厚みが100μmとなるように塗布し、60℃において20分間乾燥することにより粘着剤層を形成した。次いで、前記粘着剤層の前記剥離ライナー層とは反対の面上に支持体層として厚み30μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを積層することにより、貼付剤を得た。前記粘着剤層組成物の組成(トルエンを除く)を表1に示す。なお、得られた貼付剤の粘着剤層において、エメダスチンフマル酸塩と二酢酸ナトリウムとのモル比(エメダスチンフマル酸塩のモル数:二酢酸ナトリウムのモル数)は1:7.5であった。
【0070】
(実施例2〜4)
粘着剤層組成物の組成を表1に示す組成にしたこと以外は実施例1と同様にして貼付剤を得た。なお、得られた貼付剤の粘着剤層において、エメダスチンフマル酸塩と二酢酸ナトリウムとのモル比(エメダスチンフマル酸塩のモル数:二酢酸ナトリウムのモル数)は、実施例2において1:7.5であり、実施例3において1:6であった。また、実施例4におけるセチプチリンマレイン酸塩と二酢酸ナトリウムとのモル比(セチプチリンマレイン酸塩のモル数:二酢酸ナトリウムのモル数)は1:10.5であった。
【0071】
(比較例1〜4)
粘着剤層組成物の組成を表1に示す組成にしたこと以外は実施例1と同様にして貼付剤をそれぞれ得た。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例5、比較例5)
粘着剤層組成物の組成を下記の表2に示す組成にしたこと以外は実施例1と同様にして貼付剤をそれぞれ得た。なお、実施例5で得られた貼付剤の粘着剤層において、塩酸オキシブチニンと二酢酸ナトリウムとのモル比(塩酸オキシブチニンのモル数:二酢酸ナトリウムのモル数)は1:5であった。
【0074】
【表2】
【0075】
実施例1〜5及び比較例1〜5において得られた貼付剤について、それぞれ皮膚透過試験を行った。実施例1及び比較例1の結果を図3に、実施例2及び比較例2の結果を図4に、実施例3及び比較例3の結果を図5に、実施例5及び比較例5の結果を図6に、それぞれ示す。なお、実施例4及び比較例4の結果は図示していないが、18時間後及び24時間後において、実施例4で得られた貼付剤の薬物累積透過量[Q]は、比較例4で得られた貼付剤の薬物累積透過量[Q]のそれぞれおよそ2倍であった。
【0076】
また、実施例3及び比較例3について、それぞれ同じ条件で調製した貼付剤を3サンプルずつ準備し、それぞれの貼付剤についても上記と同様に薬物累積透過量[Q]を算出し、各試料液の採取時における薬物累積透過量[Q]の標準偏差を求めた。標準偏差の値が小さい程、得られる貼付剤の皮膚透過性が安定であると認められる。各試料液の採取時における薬物累積透過量[Q]の標準偏差を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
さらに、実施例3〜4及び比較例3〜4において得られた貼付剤について、それぞれX線回折角の測定を行った。各貼付剤のX線回析角2θ°におけるスペクトルを図7図10に示す。図7は実施例3、図8は比較例3、図9は実施例4、図10は比較例4においてそれぞれ得られた貼付剤のX線回析角2θ°におけるスペクトルを示すグラフである。図7及び図9に示す結果において、二酢酸ナトリウムに由来する高強度のピーク(22.4°付近)が観察されたのに対し、図8及び図10に示す結果においては同ピークがわずかしか観察されなかった。他方、図8及び図10に示す結果においては酢酸ナトリウムに由来する高強度のピーク(8.7°付近)が観察されたのに対し、図7及び図9に示す結果においては同ピークが観察されなかった。
【0079】
また、実施例1及び比較例1において得られた貼付剤について、保存安定性の評価試験を行った。結果を図11に示す。また、各貼付剤の外観を目視にて確認したところ、比較例1で得られた貼付剤は1週間保存後に褐色に変色したが、これに対し、実施例1で得られた貼付剤においては、特に色調の変化は確認されなかった。
【0080】
上記皮膚透過試験の結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた貼付剤は、従来から薬物の皮膚透過性を向上する化合物として知られているオレイン酸、酢酸及び酢酸ナトリウムを含有させた貼付剤に比べて、薬物の皮膚透過性が著しく高いことが確認された。また、図7図10に示した結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた貼付剤においては二酢酸ナトリウムが多く含有されていることが確認され、本発明に係る二酢酸ナトリウムを用いることにより貼付剤における薬物の皮膚透過性が向上することが確認された。
【0081】
他方、図7図10に示した結果から明らかなように、酢酸と酢酸ナトリウムとを用いて得られた貼付剤(比較例3〜4)においては酢酸及び酢酸ナトリウムから二酢酸ナトリウムに類似した複合体がわずかに形成されていると認められるものの、酢酸ナトリウムが多く残存していることから、酢酸ナトリウムと複合体を形成できない酢酸も多く残存していることが確認された。さらに、表3に示した結果から明らかなように、酢酸と酢酸ナトリウムとを用いて得られた貼付剤(比較例3)は製剤間で薬物の皮膚透過性にばらつきが生じ、時間が経つにつれてそのばらつきがさらに大きくなるのに対して、本発明の製造方法により得られた貼付剤は製剤間におけるばらつきが少ないことが確認された。
【0082】
また、図3及び図11に示した結果から明らかなように、遊離形の薬物を用いた貼付剤(比較例1)においては薬物の皮膚透過性がある程度高いものの、保存安定性には劣ることが確認された。他方、実施例1で得られた貼付剤は、薬物の皮膚透過性に優れると共に保存安定性にも優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明によれば、薬物の皮膚透過性に優れた貼付剤を容易に得ることができ、製剤ごとの薬物の皮膚透過性のばらつきを小さくすることができる貼付剤の製造方法、及びその製造方法により得られる貼付剤を提供することが可能となる。
図3
図4
図5
図6
図11
図1
図2
図7
図8
図9
図10