特許第5698844号(P5698844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大昭和精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5698844-タップホルダ 図000002
  • 特許5698844-タップホルダ 図000003
  • 特許5698844-タップホルダ 図000004
  • 特許5698844-タップホルダ 図000005
  • 特許5698844-タップホルダ 図000006
  • 特許5698844-タップホルダ 図000007
  • 特許5698844-タップホルダ 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698844
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】タップホルダ
(51)【国際特許分類】
   B23G 1/46 20060101AFI20150319BHJP
【FI】
   B23G1/46 H
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-522408(P2013-522408)
(86)(22)【出願日】2011年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2011064942
(87)【国際公開番号】WO2013001624
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2014年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000205834
【氏名又は名称】大昭和精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】駿河 宏和
(72)【発明者】
【氏名】川下 英盛
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭49−47264(JP,Y1)
【文献】 国際公開第2008/105043(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/053606(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップを保持するチャックと、当該チャックが回転軸芯に沿って移動可能となり、且つ、当該チャックと同期回転するよう前記チャックを保持するホルダ本体とを備えるとともに、
前記タップに対して前記回転軸芯の方向に沿って引張力あるいは圧縮力が作用したときに前記チャックと前記ホルダ本体との間に前記引張力のみを受けて変形する弾性変形体と前記圧縮力のみを受けて変形する弾性変形体とを引張方向と圧縮方向とに各別に備え、
前記引張方向及び前記圧縮方向に配置された前記弾性変形体のうち、少なくとも何れか一方の弾性変形体に生じる前記回転軸芯に沿った変形量が、前記チャックが前記回転軸芯に沿って変位する量よりも少なくなる前記弾性変形体の変形低減機構を有するタップホルダ。
【請求項2】
前記チャックが前記ホルダ本体に対して前記引張方向あるいは前記圧縮方向に変位したときに、何れかの方向において前記チャックと前記ホルダ本体との間に複数の同じ弾性体を直列に配置可能にすることで前記変形低減機構を構成してある請求項1に記載のタップホルダ。
【請求項3】
前記ホルダ本体と前記チャックとの間に介装される筒状の部材であって、前記回転軸芯の方向に作動させる複数のボール部材を前記ホルダ本体の内面と前記チャックの外面とに当接して前記回転軸芯に対する周方向に沿って設けられたリテーナによって前記変形低減機構を構成してある請求項1に記載のタップホルダ。
【請求項4】
前記変形低減機構を構成するのに、前記弾性変形体と接する前記チャックの受圧面及び前記ホルダ本体の受圧面のうち何れか一方の受圧面を前記回転軸芯に対して直交させ、何れか他方の受圧面を前記回転軸芯の方向に向けて傾斜させてある請求項1に記載のタップホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タップを保持して工作機械の主軸に取り付けられ、主軸の回転に伴って雌ねじ加工を行うタップホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械で機械主軸の軸送りと回転の同期を利用してタップ加工する際、主軸の回転とその軸送り移動量は、タップのピッチに合わせて同期するように制御されている。しかし、実際の加工においては、サーボ遅れと言われる現象などにより、タップの回転と軸送りとが同期せずタップのピッチに誤差が発生する場合がある。従来は、タップホルダの軸方向の両側にフロートを設けてこれを防止するようにしていたが、近年は機構や制御技術の発達により回転と軸送りの同期(シンクロナイズ)精度が向上したことによって、前記フロートのない一体的な構造になっている。
【0003】
しかしながら、工作機械の同期精度が向上したものの、例えば、タップを被加工対象から抜き取るため軸送り方向及び回転方向を切り替える際に、主軸の軸送りに対して主軸の回転が一致せず、タップの軸方向への微小な移動の発生を完全に排除することができないため、タップの穴が拡大したり、加工面が悪くなったりする不具合があった。
【0004】
上述の同期誤差を吸収する構成として、例えば、特許文献1では、チャック(タップコレット)を軸芯方向においてホルダ本体の取付凹部の底面及び締付ナットに弾性体を介して挟持する構成が提案されている。このように弾性体を配置すると、ホルダ本体とチャックとの間に軸方向の微小な移動が生じることとなって、工作機械の主軸における軸送りと回転の同期の誤差を吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/105043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の構成の場合、タップがタップホルダの先端側への引張力あるいはチャックの挿入側への圧縮力を受けてチャックが軸芯方向において変位すると、弾性体はチャックの変位量と同じだけ圧縮される。このため、タップホルダの先端側への引張力が作用したときの弾性力とチャックの挿入側への圧縮力が作用したときの弾性力とが同じになり、加工開始時のタップの加工物への食い付きや加工後の加工面の保護が考慮されない結果、加工精度が低下することがある。
【0007】
本発明は、工作機械の主軸に対応するタップホルダをホルダ本体とチャックとに分離するようにした構成において、工作機械の主軸の送りと回転との同期誤差を吸収する弾性体を利用し、圧縮側の弾性特性と引張側の弾性特性とを異なるようにしたタップホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るタップホルダの第1特徴構成は、タップを保持するチャックと、
当該チャックが回転軸芯に沿って移動可能となり、且つ、当該チャックと同期回転するよう前記チャックを保持するホルダ本体とを備えるとともに、
前記タップに対して前記回転軸芯の方向に沿って引張力あるいは圧縮力が作用したときに前記チャックと前記ホルダ本体との間に前記引張力のみを受けて変形する弾性変形体と前記圧縮力のみを受けて変形する弾性変形体とを引張方向と圧縮方向とに各別に備え、
前記引張方向及び前記圧縮方向に配置された前記弾性変形体のうち、少なくとも何れか一方の弾性変形体に生じる前記回転軸芯に沿った変形量が、前記チャックが前記回転軸芯に沿って変位する量よりも少なくなる前記弾性変形体の変形低減機構を有する点にある。
【0009】
本構成の如く、タップホルダには、タップが引張力あるいは圧縮力を受けてチャックが変位した場合でも、当該チャックの変位を許容又は停止させるために変形する弾性変形体の変形量がチャックの回転軸芯に沿う変位量よりも小さくなる変形低減機構を備えてある。つまり、少なくとも一方の弾性変形体を変形させ難くすることで圧縮側の弾性特性と引張側の弾性特性とに差を持たせている。本構成であれば、加工を開始する際には加工物へのタップの食い付き性が向上して加工直後から健全なネジ部を形成することができ、加工後のタップの引き抜きに際しては、タップの軸心方向への変位量を大きく確保して加工対象物の加工形状が良好に保護される結果、加工精度が極めて良好なものとなる。
尚、ここでの弾性特性とは、タップが圧縮力あるいは引張力を受けた際の、タップの変位量に対する弾性力の高まりの程度をいう。
【0010】
本発明に係るタップホルダの第2特徴構成は、前記チャックが前記ホルダ本体に対して前記引張方向あるいは前記圧縮方向に変位したときに、何れかの方向において前記チャックと前記ホルダ本体との間に複数の同じ弾性体を直列に配置可能にすることで前記変形低減機構を構成してある点にある。
【0011】
本構成のように、複数の同じ弾性体を直列に配置可能にすることで、チャックに圧縮力が作用した場合に機能する受圧面の位置に配置する弾性体と、引張力が作用した場合に機能する弾性体とを適宜設定することができる。よって、圧縮力が作用する場合と、引張力が作用する場合における弾性力を容易に設定することができる。
また、弾性体を直列に配置する構成であれば、同じサイズの弾性体を用いて、圧縮・引張力の変動に対応可能なタップホルダを合理的に構成することができる。
【0012】
本発明に係るタップホルダの第3特徴構成は、前記ホルダ本体と前記チャックとの間に介装される筒状の部材であって、前記回転軸芯の方向に作動させる複数のボール部材を前記ホルダ本体の内面と前記チャックの外面とに当接して前記回転軸芯に対する周方向に沿って設けられたリテーナによって前記変形低減機構を構成してある点にある。
【0013】
本構成のように、当該形状のリテーナであれば、チャックが回転軸芯方向へ変位した場合、リテーナはボール部材がチャックの変位方向とは反対の方向に回転しつつ移動する。これにより、リテーナの変位量はチャックの変位量よりも小さくなり、例えばリテーナの変位量をチャックの変位量の半分にすることも可能であり、リテーナにおける回転軸芯方向の長さを調整することにより、リテーナに近接する弾性変形体が圧縮力または引張力を受けた際の回転軸芯方向への変形量を調整することができる。その結果、回転軸芯方向に沿ったタップの変位調整を極めて円滑に行うことができ、また、このような機能及び構造をホルダ本体とチャックとの間の限られた空間に効率的に構成することができ、非常にコンパクトなタップホルダを構成することができる。
【0014】
本発明に係るタップホルダの第4特徴構成は、前記変形低減機構を構成するのに、前記弾性変形体と接する前記チャックの受圧面及び前記ホルダ本体の受圧面のうち何れか一方の受圧面を前記回転軸芯に対して直交させ、何れか他方の受圧面を前記回転軸芯の方向に向けて傾斜させた点にある。
【0015】
本構成の如く、弾性変形体を押圧する二つの受圧面のうちの一方を回転軸芯に対して直交させ、他方を回転軸芯に向けて傾斜させることで、前記弾性変形体を収納する空間の体積に着目した場合、双方の受圧面が回転軸芯に対して直交している場合に比べて空間の体積が大きくなる。つまり、傾斜した受圧面が弾性変形体と当接する位置を基準にして、傾斜面が弾性変形体から遠ざかる側の領域には、傾斜した受圧面と弾性変形体との間に大きな空間が形成される。チャックが回転軸芯と平行に圧縮方向あるいは引張方向に変位したとき、上記弾性変形体を収容する空間の体積は、チャックの変位によって縮小される。この縮小される容積は、傾斜した受圧面が回転軸芯に直交している場合も傾斜している場合もチャックの変位量が同じであれば等しくなる。ただし、上記のごとく、受圧面が傾斜している方が弾性変形体を収容する当初の体積が大きい。よって、受圧面が傾斜した側では弾性変形体が受ける圧縮の程度が少なくなる。逆に表現すれば、弾性変形体が同じ程度に圧縮される場合には、受圧面が直交している場合に比べて傾斜している方がチャックの変位量が大きくなる。
このように、受圧面の角度によってもチャックの圧縮時と引張時とで弾性変形体の弾性特性を異ならせることができ、よって加工対象物に対する加工精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るタップホルダの側面図である。
図2】タップホルダの側断面図である。
図3】チャックに圧縮力が作用した状態のタップホルダの側断面図である。
図4】チャックに引張力が作用した状態のタップホルダの側断面図である。
図5】第2実施形態のタップホルダの側断面図である。
図6】第2実施形態におけるチャックに引張力が作用した状態を示す側断面図である。
図7】第3実施形態におけるチャックに引張力が作用した状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明に係るタップホルダの実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
〔概要〕
本実施形態に係るタップホルダは、タップ同期送り機構を備えた工作機械にタップを装着するために用いられる。図1に示すように、タップホルダは、工作機械の主軸Bに挿入支持されるホルダ本体10と、ホルダ本体10の挿入部側である後端部に形成されるプルボルト11と、先端にタップPを保持し、ホルダ本体10の先端側に取り付けられるチャック20と、を備えている。ホルダ本体10は、工作機械の主軸Bに備えられた不図示のモータによって、「中心軸」としての回転軸芯X回りに回転駆動可能である。プルボルト11は外周面が凹入形成されており、工作機械の主軸Bの側のクランプCによって把持される。また、ホルダ本体10は、チャック20と同期回転するようチャック20をスラスト保持するとともに、ホルダ本体10に対してチャック20は回転軸芯Xに沿って移動可能に構成されている。以下、タップホルダにおいて、プルボルト11の側を「後端側」と称し、タップPの側を「先端側」と称する。
【0019】
図2に示すように、チャック20の先端側には、筒状の締付ナット21及び筒状のコレット22が備えられている。締付ナット21は、チャック20に捻じ込み可能に外挿されている。締付ナット21を締め込むと、締付ナット21は回転軸芯Xの方向に沿って移動する。コレット22は、締付ナット21に対して相対回転可能に係止されつつ、回転軸芯Xに沿って摺動可能にチャック20の内部に挿入されている。コレット22には、回転軸芯Xの方向に沿ったスリットが複数形成されている。締付ナット21を締め込むことにより、コレット22は、チャック20に対して相対回転することなく挿入され、チャック20の内部のテーパー面によるクサビ作用により径内方向に撓んで縮径される。この縮径により、コレット22の内部に挿入したタップPの全周を均一に挟持することできる。
【0020】
ホルダ本体10には、先端側に外筒部12が設けられており、外筒部12にチャック20の取付凹部13が形成される。チャック20は、ホルダ本体10の取付凹部13の内周面と緊密に接触した状態で摺動して挿入される軸部23と、軸部23の先端側に設けられた筒状のチャック保持部24とを備える。また、ホルダ本体10の内部には、切削液を圧送するための流路(不図示)が形成されており、この流路は取付凹部13に開口している。
【0021】
ホルダ本体10の外筒部12の外面から取付凹部13へ貫通する貫通孔14が外筒部12の径方向に形成されている。チャック20の軸部23の軸方向の中間位置から先端側にかけて筒状の支持部材25が配置されており、ホルダ本体10に設けられた貫通孔14に対応する位置に径方向に貫通する貫通孔26が設けられている。係止部材(不図示)を貫通孔14及び貫通孔26に挿通して、ホルダ本体10に支持部材25を固定する。
【0022】
ホルダ本体10に固定される支持部材25とチャック20の軸部23との間には、チャック20の軸芯方向への摺動をガイドするとともに、ホルダ本体10に対するチャック20の回転を阻止するキーボール27が配設されている。キーボール27は、支持部材25の筒部の内周に沿って所定間隔で穿設された複数の凹溝に嵌め込まれている。
【0023】
チャック20の軸部23において支持部材25の後端側には、リテーナ29が配置されている。リテーナ29はホルダ本体10とチャック20との間に介装される筒状の部材である。軸部23の後端側には軸部23より大径のリング状のストッパ部材30が軸芯方向のネジ部材によって固着されている。
【0024】
回転軸芯Xの方向において、ストッパ部材30の円筒状の受圧面30Aと支持部材25の後端側の受圧面25Bとが対向しており、支持部材25の先端側の受圧面25Aとチャック20の大径部20aの後端側の受圧面20Aとが対向している。チャック20が先端側への引張方向に変位したときには、受圧面30Aが受圧面25Bに近接し、チャック20が後端側への圧縮方向に変位したときには、受圧面25Aに受圧面20Aが近接する。
【0025】
ストッパ部材30とリテーナ29との間、及び、リテーナ29と支持部材25との間に、弾性変形体として弾性体31,32がそれぞれ配設されている。また、チャック20の軸部23の軸芯方向において、支持部材25と軸部23の大径部20aとの間に、弾性変形体として弾性体33が配設されている。弾性体31,32,33は、タップPに対して回転軸芯Xの方向に沿って引張力あるいは圧縮力が作用したときに、チャック20とホルダ本体10との相対変位を減衰させる。弾性体31,32,33は、ナイロン等の弾性を有する硬質合成樹脂またはゴム等で形成された部材であって、例えばOリングで構成される。リテーナ29は、対向する受圧面30Aと受圧面25Bとの間に配設される弾性体31,32間のスペーサとして機能し、ホルダ本体10に対して相対移動可能である。
【0026】
こうして、回転軸芯Xの方向において、ストッパ部材30と大径部20aとの間には、ストッパ部材30の側から、弾性体31、リテーナ29、弾性体32、支持部材25、弾性体33が順に配置されている。タップPに対して外力が作用していない、いわゆるタップ加工前の状態では、図2に示すように、弾性体31,32、33が所定の圧縮状態になるように弾性体31,32,33、リテーナ29、及び支持部材25が装着されている。
【0027】
〔軸芯方向においてチャックに圧縮力が作用した際の動作〕
例えば、タップ加工の初期等において、タップホルダに取り付けられたタップPが被加工物からの反力により回転軸芯Xの方向においてタップPが圧縮力を受けると、チャック20は後端側への圧縮方向に変位する。このとき、図3に示すように、受圧面25Aに受圧面20Aが近接し弾性体33が変形する。すなわち、チャック20の回転軸芯Xの方向に沿う後端側への変位量X1は弾性体33が変形することで吸収し、弾性体33の回転軸芯Xの方向の変形量L3はチャック20の変位量X1と同じになる。
【0028】
〔軸芯方向においてチャックに引張力が作用した際の動作〕
例えば、タップ加工の終了時等において、タップホルダに取り付けられたタップPを被加工物から抜き取るために軸送り方向及び回転方向を切り換えることにより回転軸芯Xの方向においてタップPが引張力を受けると、チャック20は先端側への引張方向に変位する。このとき、図4に示すように、受圧面25Bに受圧面30Aが近接しリテーナ29が回転軸芯Xの方向に移動しつつ弾性体31、32がほぼ均等に変形する。すなわち、チャック20の回転軸芯Xの方向に沿う先端側への変位量X2を弾性体31、32が変形することで吸収し、弾性体31,32の回転軸芯Xの方向の各変形量L1,L2はチャック20の変位量X2の半分になる。
【0029】
軸送り方向及び回転方向を切り換えてタップPを被加工物から抜き取る際には、被加工物へのタップ加工は終了しているため、チャック20に作用する引張力は圧縮力に比べて小さい方が良い。
【0030】
本実施形態では、タップPがチャック20に対して変位した場合に、当該チャック20の変位を許容するために変形する弾性体31,32の各変形量L1、L2がチャック20の変位量X1よりも小さくなるように構成されている。よって、弾性体31,32は、その変形量L1、L2が小さくなることで圧縮側の弾性特性と引張側の弾性特性とを異なるように設定できる。この結果、加工を開始する際の加工物へのタップPの食い付きが向上するとともに、加工ののちタップPを引き抜く際にタップPが加工対象品を過度に削るなどの不都合が防止でき、加工精度を高めることができる。
【0031】
複数の弾性体31、32は、スペーサとしてのリテーナ29を介在させて直列に配置されている。このため、チャック20に圧縮力が作用した場合に機能する受圧面の位置に配置する弾性体の数と、引張力が作用した場合に機能する弾性体の数とを適宜設定することができる。よって、圧縮力が作用する場合と、引張力が作用する場合における弾性特性を容易に設定することができる。
また、複数の弾性体を直列に配置する構成であれば、同じサイズの弾性体を用いることができるため、圧縮・引張力の変動に対応可能なタップホルダを合理的に構成することができる。
【0032】
本実施形態では、対向する受圧面30A,25Bの間に装着される複数の弾性体31,32の夫々の間にリテーナ29が配置して、弾性体31,32の変形低減機構を構成する。リテーナ29はホルダ本体10に対して回転軸芯Xの方向に相対移動可能である。したがって、弾性体31、32が回転軸芯Xの方向に沿って圧縮力を受けた際に、弾性体31、32に対してリテーナ29の面を所期の角度で当接させることができる。本実施形態では、リテーナ29の面は回転軸芯Xの方向に対して直角である。よって、仮に、スペーサとしてリテーナ29を設けずに複数の弾性体31,32を装着した場合に、弾性体31,32の変形に伴ない弾性体同士が径方向へ位置ずれする恐れが生じる。しかしながら、リテーナ29をスペーサとして設けることで、弾性体31,32を適切な状態に圧縮変形させることができ、所期の圧縮・引張特性を発揮させることができる。なお、スペーサとしての構造はリテーナ29に限定されるものではなく、対向する受圧面30A、25Bの間に装着される複数の弾性体の夫々の間に装着され、ホルダ本体10に対して相対移動可能であれば形状は問わない。
【0033】
ただ、本実施形態のように、上記構成のリテーナ29を弾性体31と弾性体32との間のスペーサとして用いると、チャック20の回転軸芯Xの方向への移動を実現でき、リテーナ29における回転軸芯Xの方向の長さを調整することにより、リテーナ29に近接する弾性変形体が圧縮力または引張力を受けた際の回転軸芯Xの方向への変形量を調整することができる。その結果、回転軸芯Xの方向に沿ったタップPの変位調整を極めて円滑に行うことができ、また、このような機能及び構造をホルダ本体10とチャック20との間の限られた空間に効率的に構成することができ、非常にコンパクトなタップホルダを構成することができる。
【0034】
(第2実施形態)
本実施形態では、図5に示すように、引張方向に作用する弾性変形体は弾性体31のみで構成してある。図5の状態は、弾性体31及び弾性体33が未だ外力を受けていない状態であり、例えば、タップPによって加工対象物を加工し始めた瞬間の状態を示したものである。この状態では、リテーナ29と支持部材25との間に空隙Sが形成されるように構成してある。
【0035】
チャック20の軸部23において支持部材25の後端側には、リテーナ29が配置されている。リテーナ29はホルダ本体10とチャック20との間に介装される筒状の部材である。リテーナ29には、複数のボール部材28が回転軸芯Xに対する周方向に沿って所定間隔で穿設された複数の透孔に設けてある。複数のボール部材28は、ホルダ本体10の内面とチャック20の外面とに当接し、チャック20をホルダ本体10に対して同軸芯状に保持しつつ回転軸芯Xの方向に作動させる。
【0036】
図6に示すように、例えばチャック20が回転軸芯Xの方向における先端側に変位すると、リテーナ29も同じく先端側に変位する。このとき、ボール部材28にすべりが起きなければ、リテーナ29は後端側に向けてボール部材28が回転しつつ移動する。これにより、リテーナ29の変位量はチャック20の変位量X2よりも小さくなる。本実施形態では、リテーナ29の変位量がチャック20の変位量X2の半分になるよう設定されている。したがって、弾性体31の回転軸芯Xの方向における変形量L1も同じくチャック20の変位量X2の半分になる。
【0037】
(第3実施形態)
本実施形態では、図7に示すように弾性変形体である弾性体31に接する支持部材25の受圧面25Bに回転軸芯Xの方向に向けて傾斜する傾斜部25aを形成することにより変形低減機構を構成する。
【0038】
より具体的には、弾性体31を押圧する二つの受圧面30A,25Bのうちの一方30Aを回転軸芯Xに対して直交させ、他方の受圧面25Bを回転軸芯Xに向けて傾斜させる。これにより、弾性体31を収納する空間の体積が、双方の受圧面30A,25Bが回転軸芯Xに対して直交している場合の空間の体積に比べて大きくなる。つまり、傾斜した受圧面25Bが弾性体31と当接する位置を基準にして、傾斜部25aが弾性体31から遠ざかる側の領域、即ち回転軸芯Xの側には、傾斜した受圧面25Bと弾性体31との間に大きな空間が形成される。チャック20が回転軸芯Xと平行に圧縮方向あるいは引張方向に変位したとき、弾性体31を収容する空間の体積は、チャック20の変位によって縮小される。この縮小される容積は、傾斜した受圧面25Bが回転軸芯Xに直交している場合も傾斜している場合もチャック20の変位量が同じであれば等しくなる。ただし、上記のごとく、受圧面が傾斜している方が弾性体31を収容する当初の体積が大きい。よって、傾斜した受圧面25Bの側では弾性体31が受ける圧縮の程度が少なくなる。逆に表現すれば、弾性体31が同じ程度に圧縮される場合には、受圧面が直交している場合に比べて傾斜している方がチャック20の変位量が大きくなる。
このように、受圧面の角度によってもチャック20の圧縮時と引張時とで弾性体31,33の弾性特性を異ならせることができ、よって加工対象物に対する加工精度を向上させることができる。
尚、傾斜部の形成箇所は、支持部材25の受圧面25Bではなく、チャック20の側の受圧面30Aであってもよい。
【0039】
図7に示すごとく、弾性体33を収容しつつ互いに対向する受圧面20A,25Aは共に回転軸芯Xに対して直角である。この場合の弾性特性は、上記の傾斜した受圧面25Bの場合と比べて弾性体33の圧縮程度の高まりが大きくなる。当該構成とすることで、チャック20が圧縮側に変位する場合と引張側に変位する場合とで弾性特性を異ならせることができる。
また、圧縮側と引張側の受圧面に対して共に傾斜面を形成しても良い。その場合には両者の傾斜を異ならせておけば、通常、傾斜の大きい側の弾性体が機能する場合にチャック20の変位量を大きく設定することができる。
【0040】
[他の実施形態]
(1)上記の実施形態では、弾性変形体である弾性体31,32,33としてOリングを用いる例を示したが、弾性体31,32,33の形状はOリングに限定されず、球状、立方体、回転楕円体等の各種形状であってもよい。ただ、これらの形状を採用する場合には、複数の弾性体を回転軸芯Xの周方向に均等に配置する必要がある。また、弾性体31,32と弾性体33とを異なる硬度の材料で構成してもよい。こうすると、チャック20に圧縮力が作用した場合と引張力が作用した場合における弾性変形体の撓み具合を個別に調整することができる。
【0041】
(2)上記の第1実施形態では、スペーサ(リテーナ)29を介在させて弾性体31、32を直列に配置して弾性体31,32の変形低減機構を構成する例を示したが、弾性体31と弾性体32との間にスペーサを介在させずに、両者を直列に配置することで変形低減機構を構成してもよい。
【0042】
(3)上記の実施形態では、タップPが圧縮力を受けてチャック20が変位した場合に、弾性体33の変形量L3をチャック20の変位量X1と同じになるよう構成し、タップPが引張力を受けてチャック20が変位した場合に、弾性体31の変形量L1をチャック20の変位量X2よりも小さくなるよう構成した。これは、一般的にタップPが受ける引張力の方が圧縮力よりも小さいことに鑑みて、タップPが引張力を受けた際にチャック20を迅速に変位させるよう弾性体31の変形量を小さくした構成である。
【0043】
タップPが引張力を受けてチャック20が変位した場合に、引張力を受ける弾性変形体の変形量がチャック20の変位量X2よりも小さくなるよう構成するとともに、タップPが圧縮力を受けてチャック20が変位した場合にも、圧縮力を受ける弾性変形体の変形量がチャック20の変位量X1よりも小さくなるよう構成してもよい。
なお、この場合には、引張側の弾性変形体と圧縮側の弾性変形体の弾性特性が異なるよう、引張力を受けて変形する弾性変形体の変形量と圧縮力を受けて変形する弾性変形体の変形量とを設定する必要がある。
また、タップPが圧縮力を受けてチャック20が変位した場合に、圧縮側の弾性変形体の変形量をチャック20の変位量X1よりも小さくなるよう構成し、タップPが引張力を受けてチャック20が変位した場合に、引張側の弾性変形体の変位量をチャック20の変位量X2と同じになるよう構成してもよい。
【0044】
(4)弾性変形体の変形低減機構は、圧縮力または引張力を受ける弾性変形体とチャック20の軸部23との間に連係部材等を設け、連係部材における弾性変形体の側が連係部材の揺動中心に近くなるよう設定して構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、先端側にタップを取り付け可能なチャックと、チャックが回動軸芯に沿って移動可能なホルダ本体とを備えた各種タップホルダに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 ホルダ本体
20 チャック
20A 受圧面
25 支持部材
25A,25B 受圧面
25a 傾斜部
29 リテーナ
30 ストッパ部材
30A 受圧面
31,32,33 弾性体(弾性変形体)
B 主軸
L1,L2,L3 弾性変形体の変形量
X 回転軸芯
X1,X2 チャックの変位量
P タップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7