特許第5698848号(P5698848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698848
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/12 20060101AFI20150319BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20150319BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20150319BHJP
   H05B 33/24 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   H05B33/12 C
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   H05B33/24
【請求項の数】7
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2013-528995(P2013-528995)
(86)(22)【出願日】2012年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2012070363
(87)【国際公開番号】WO2013024787
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2014年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-177204(P2011-177204)
(32)【優先日】2011年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】山江 和幸
【審査官】 本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−238507(JP,A)
【文献】 特開2010−103090(JP,A)
【文献】 特開2011−018451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/12
H05B 33/02
H05B 33/24
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射性を有する第一の電極と光透過性を有する第二の電極との間に、一又は複数の光透過可能な中間層を介して複数の発光層が積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第一の電極に最も近い中間層として第一の中間層が形成されており、前記第一の電極と前記第一の中間層との間には、第一の発光源を有する第一の発光層を備える第一の発光ユニットが形成されるとともに、前記第一の中間層の前記第二の電極側には、第二の発光源を有する第二の発光層を備える第二の発光ユニットが形成されており、前記第一の中間層は、光透過性及び光反射性の両方を有し全光線吸収率10%以下の半透過性層により構成されており、
前記第一の発光源の重み平均発光波長をλ
前記第二の発光源の重み平均発光波長をλ
下記式(1)で示される前記第一の電極で生じる位相シフトをφ、及び、
下記式(1)で示される前記半透過性層で生じる位相シフトをφ、としたときに、
【数1】
(この式において、n、kは、反射層と接する層の屈折率及び消衰係数をそれぞれ表し、n、kは、反射層の屈折率及び消衰係数をそれぞれ表し、n、n、k及びkは、λの関数である)
前記第一の発光源の光が前記第一の電極における反射で生じる位相シフトをφ(λ)、
前記第一の発光源の光が前記半透過性層における反射で生じる位相シフトをφ(λ)、及び
前記第二の発光源の光が前記半透過性層における反射で生じる位相シフトをφ(λ)、として表し、さらに、
X = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×l/2)
Y = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×m/2)
Z = (φ(λ)+φ(λ))×(λ/4π)+(λ×n/2)
(上式において、l,m,nは0以上の整数であり、l=m=nである)
の関係式でX、Y及びZを表したときに、
前記第一の発光源と前記第一の電極との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離(D(λ))、
前記第一の発光源と前記半透過性層との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離(D(λ))、及び、
前記第二の発光源と前記半透過性層との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離(D(λ))、が、
0.9×X ≦ D(λ) ≦ 1.1×X 、
0.1×Y ≦ D(λ) ≦ 2.0×Y 、かつ
0.8×Z ≦ D(λ)+D(λ) ≦ 1.2×Z 、
の関係を満たすように設定されていることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記半透過性層の全光線反射率が10%以上50%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記半透過性層はAg又はAgを含む合金を主成分とする層であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記X、Y、Zの関係式において、l≧1、m≧1、かつ、n≧1であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第二の電極の光取り出し面側に光拡散層が形成されていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記光拡散層の光取り出し側の面と前記半透過性層との間の波長λにおける光学的距離(D(λ))が、前記第一の発光ユニットの発光ピーク波長(λ)の10倍以上であることを特徴とする、請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記第二の電極の光取り出し面側に光透過性を有する基板が設けられ、この基板の屈折率が1.55以上であることを特徴とする、請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、より詳しくは、複数の発光ユニットを有するマルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子として、透明基板の表面に、透明電極からなる陽極、ホール輸送層、発光層、電子注入層、陰極が順に積層された構造のものが一般的に知られている。有機エレクトロルミネッセンス素子では、陽極と陰極の間に電圧を印加することによって、発光層で発した光が、透明電極、透明基板を通して外部に取り出される。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、自発光であること、比較的高効率の発光特性を示すこと、各種の色調で発光可能であること等の特徴を有している。このため、表示装置、例えばフラットパネルディスプレイ等の発光体としての活用や、光源、例えば液晶表示機用のバックライトや照明への活用が期待され、また、一部のものはすでに実用化されている。これらの用途に有機エレクトロルミネッセンス素子をさらに応用展開するために、より高効率・長寿命・高輝度の優れた特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の開発が望まれている。
【0004】
有機エレクトロルミネッセンス素子の効率を支配する要因は、主として電気−光変換効率、駆動電圧、光取り出し効率の3つである。電気−光変換効率については、最近のいわゆる燐光材料の登場により、外部量子効率が20%を超えるものが報告されている。この値は、内部量子効率に換算するとほぼ100%と考えられ、電気−光変換効率の観点では、いわゆる限界値に到達したと思われる例が実験的に確認されたといえる。また、駆動電圧については、エネルギーギャップに相当する電圧の10〜20%増し程度の電圧で比較的高輝度の発光を示す素子が得られるようになってきている。言い換えると、低電圧による有機エレクトロルミネッセンス素子の効率向上の余地はさほど大きくないと言える。よって、これら2つの要因に基づく有機エレクトロルミネッセンス素子の効率向上はあまり多くは期待できないものと考えられる。
【0005】
一方、有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し効率については、一般に20〜30%程度と言われており、未だ低く改善の余地が大きい。ただし、この値は発光パターンや内部の層構造によって多少変化する。光が発生する部位およびその周辺を構成する材料は、一般に、高屈折率、吸光性、などの特性を有する。そのため、光は、屈折率の異なる界面での全反射、材料による光の吸収などによって、発光を観測する外界へ有効に伝播できないことになり、その結果、光取り出し効率は、前記のような低い値となると考えられる。そしてこれは、いわゆる発光として有効に活用できていない光が全発光量の70〜80%を占める、ということであり、光取り出し効率向上による有機エレクトロルミネッセンス素子効率向上の期待値は、非常に大きい。
【0006】
このような状況のもとで、光取り出し効率を向上するための試みがこれまで非常に多くなされている。中でも特に、有機層から基板層への到達光を増やす試みが多くなされている。一般的に、有機層の屈折率が約1.7であり、また通常、基板として用いられるガラス層の屈折率が約1.5であるため、有機層とガラス層の界面で発生する全反射ロス(薄膜導波モード)は、全放射光の約50%に達する。この値は点光源近似で得られる値であり、発光が有機分子からの3次元放射光の積算であることを考慮して得た値である。この有機層−基板間の全反射ロスを低減することで、有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し効率を大きく改善することが可能である。
【0007】
全反射ロスを低減するための手段の一つとして干渉作用を利用することが考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子は発光層の膜厚が数百nmと比較的薄く、光の波長(媒質内を伝播する波長)と非常に近いため、有機エレクトロルミネッセンス素子内部で薄膜干渉が生じる。その結果、有機層の膜厚によって内部の発光が干渉し、出射する光の強度が大きく増減する。出射する光の強度を最大限に高めるためには、発光層から光取り出し側へ直接向かう光(直接光)と、発光層から反射性の電極へ向かった後にこの電極で反射されてから光取り出し側へ向かう光(反射光)とが、干渉しあって強めあうようにする。例えば、光反射性の電極において反射前後で位相シフトπが生じることを前提とし、発光層における発光源と反射電極の表面との間の膜厚dに屈折率nを乗じて導出される光学膜厚Dが、光の波長λの1/4πの奇数倍と略等しくなるように設計される。これにより、基板から正面方向に出射する光の成分量が極大値となることが期待される。この方法は、光が内部で増幅されることを意味するわけではなく、光の方向を変更させ、特定の方向、例えば、大気中へ光を取り出しやすい正面方向への光を強めることを意味する。ある方向に光が強まる分、別の方向の光は弱まるので、トータルの光量が理論値以上に増幅されることはない。
【0008】
しかしながら、実際には、光の位相シフトはπとはならず、より複雑な挙動を示す。現実の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、有機層及び反射層における屈折、消衰が関わってくるからである。この現実の位相シフトは例えば位相のずれθ(λ)として表すことができる。
【0009】
特許文献1では、有機層及び反射層における屈折率及び消衰係数から計算される複素数r(λ)を用いて、位相のずれθ(λ)を計算することが記載されている。そして、この位相のずれθ(λ)を考慮して、基板から外部へ到達する光の成分が極大値になるよう、発光源から電極の表面までの光学膜厚Dが次の式を全て満たすようにすることが記載されている。
【0010】
θ(λ) = Arg(r(λ))
2π/9 ≦ θ(λ) ≦ 15π/18
D(λ) = θ(λ)×λ/4π
0.73D(λ)≦d(λ)≦1.15D(λ)
なお、上式において、λは、発光の最大ピーク波長を表し、θ(λ)は、反射電極による位相のずれを表し、d(λ)は、透過電極と反射電極間の波長λにおける光学距離を表す。
【0011】
さらに、特許文献2では、光学干渉効果を積極的に利用して光強度を高める手法として、マイクロキャビティ構造が示されている。図15に、特許文献2に示されている層構成を示す。この素子では、基板20の上に、反射層21と、透明導電層22と、ホール輸送層23、発光層24、電子輸送層25及び電子注入層26等の有機化合物層と、半透過層27と、透明電極28とが形成されている。そして、透明導電層22の膜厚が領域によって異なる厚さに設定され、共振器構造の光学距離が相対的に短い第1領域29aと、相対的に長い第2領域29bとが形成されている。この構造は単色のデバイスにおいて色純度を高めたり、正面輝度を向上したりするには有効な手段である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−165154号公報
【特許文献2】特開2009−231274号公報
【特許文献3】特開2008−225179号公報
【特許文献4】特許第3884564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子のさらなる高輝度化、高効率化、長寿命化が大きな課題とされており、マルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子が注目されている。マルチユニット構造は、中間層とよばれる電気伝導層を介して複数の発光層を直列に接続することで、有機エレクトロルミネッセンスの特長である薄型光源のメリットを確保しつつ、高輝度、高効率、長寿命を実現することが可能である。同じ輝度を得るための電流密度を減らすことにより、高効率化、長寿命化を達成することができるのである。
【0014】
しかしながら、マルチユニット構造の素子においては、上記の特許文献に記載されたような光学設計によって光取り出し性を高めることは難しかった。
【0015】
特許文献1に記載の方法は、基板から外部へ正面方向に出射する光の成分の量が極大値となるように設計されているが、前述のとおり高輝度化・長寿命化でメリットのあるマルチユニット構造においては、発光位置が複数になったり発光波長が複数になったりするため、上記の関係式で好適な膜厚条件にすることが非常に難しかった。
【0016】
また、特許文献2の方法は、特許文献1の方法よりも輝度効率を高める効果が期待されるが、特定の波長や方向のみの光に着目された構造であるため、複数の波長における全方向に出射する光束の向上に対しては必ずしも好適な設計になっていない。また、複数の発光色やブロードなスペクトルを持つ発光層の場合、視野角による色度ズレの悪影響が極めて大きくなり、例えば、見る角度によって色が異なって見栄えが悪くなるといった視野角依存性の問題が生じる。
【0017】
特許文献3では、共振距離が複数ある構造を一つの素子内に含めて視野角依存性を改善する方法が開示されている。しかし、特許文献3の方法は、色度ズレを考慮して構造上の工夫がなされているが、厚さの異なる層を一つの素子に含めるため、プロセスが複雑化することになる。また、マルチユニット構造のような複数の発光色への対応は難しい。
【0018】
マルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子に関しては、特許文献4において、発光ユニットの中間層として薄膜金属を使用することが開示されている。このような薄膜金属の中間層の使用によって素子の輝度が向上している。しかしながら、薄膜金属の透過率は高いほどよい、すなわち、薄膜金属層は薄い、あるいは存在しない方がよい、といったことが記載されている程度であり、マイクロキャビティによる輝度向上の設計がなされていない。そのため、特許文献4の技術では、さらなる光取り出し効率の向上は難しいものであった。
【0019】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、光取り出し効率の向上したマルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、光反射性を有する第一の電極と光透過性を有する第二の電極との間に、一又は複数の光透過可能な中間層を介して複数の発光層が積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第一の電極に最も近い中間層として第一の中間層が形成されており、前記第一の電極と前記第一の中間層との間には、第一の発光源を有する第一の発光層を備える第一の発光ユニットが形成されるとともに、前記第一の中間層の前記第二の電極側には、第二の発光源を有する第二の発光層を備える第二の発光ユニットが形成されており、前記第一の中間層は、光透過性及び光反射性の両方を有し全光線吸収率10%以下の半透過性層により構成されていることを特徴とする。
【0021】
有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい形態は、前記半透過性層の全光線反射率が10%以上50%未満であることを特徴とする。
【0022】
有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい形態は、前記半透過性層はAg又はAgを含む合金を主成分とする層であることを特徴とする。
【0023】
有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい形態は、
前記第一の発光源の重み平均発光波長をλ
前記第二の発光源の重み平均発光波長をλ
下記式(1)で示される前記第一の電極で生じる位相シフトをφ、及び、
下記式(1)で示される前記半透過性層で生じる位相シフトをφ、としたときに、
【0024】
【数1】
【0025】
(この式において、n、kは、反射層と接する層の屈折率及び消衰係数をそれぞれ表し、n、kは、反射層の屈折率及び消衰係数をそれぞれ表し、n、n、k及びkは、λの関数である)
前記第一の発光源の光が前記第一の電極における反射で生じる位相シフトをφ(λ)、
前記第一の発光源の光が前記半透過性層における反射で生じる位相シフトをφ(λ)、及び
前記第二の発光源の光が前記半透過性層における反射で生じる位相シフトをφ(λ)、として表し、さらに、
X = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×l/2)
Y = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×m/2)
Z = (φ(λ)+φ(λ))×(λ/4π)+(λ×n/2)
(上式において、l,m,nは0以上の整数であり、l=m=nである)
の関係式でX、Y及びZを表したときに、
前記第一の発光源と前記第一の電極との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離(D(λ))、
前記第一の発光源と前記半透過性層との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離(D(λ))、及び、
前記第二の発光源と前記半透過性層との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離(D(λ))、が、
0.9×X ≦ D(λ) ≦ 1.1×X 、
0.1×Y ≦ D(λ) ≦ 2.0×Y 、かつ
0.8×Z ≦ D(λ)+D(λ) ≦ 1.2×Z 、
の関係を満たすように設定されていることを特徴とする。
【0027】
有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい形態は、前記X、Y、Zの関係式において、l≧1、m≧1、かつ、n≧1であることを特徴とする。
【0028】
有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい形態は、前記第二の電極の光取り出し面側に光拡散層が形成されていることを特徴とする。
【0029】
有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい形態は、前記光拡散層の光取り出し側の面と前記半透過性層との間の波長λにおける光学的距離(D(λ))が、前記第一の発光ユニットの発光ピーク波長(λ)の10倍以上であることを特徴とする。
【0030】
有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい形態は、前記第二の電極の光取り出し面側に光透過性を有する基板が設けられ、この基板の屈折率が1.55以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、マルチユニット構造により高輝度化及び長寿命化が可能であり、中間層に吸収率の小さい半透過性層を用いることによってマイクロキャビティ効果を活用して外部に放射される光を増やすことができる。その結果、高輝度・長寿命で、光取り出し効率の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の一例を示す概略断面図である。
図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
図3】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
図4】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
図5】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
図6】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
図7】有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
図8A】有機エレクトロルミネッセンス素子の機能を説明する説明図である。
図8B】有機エレクトロルミネッセンス素子の機能を説明する説明図である。
図9】発光源と反射層との間の膜厚変化に対する光取り出し性を示すグラフである。
図10】発光時のエネルギー変化を示す模式的なグラフである。
図11】膜厚変化(d)と寿命ファクター(F)との関係を表すグラフである。
図12A】膜厚と光反射率の関係を示すグラフである。
図12B】膜厚と光透過率の関係を示すグラフである。
図12C】膜厚と光吸収率の関係を示すグラフである。
図12D】界面に入射する光の挙動を説明する模式図である。
図13】膜厚と光強度の関係を示すグラフである。
図14A】光学的距離と光強度の関係を示すグラフであり、D(λ)を示す。
図14B】光学的距離と光強度の関係を示すグラフであり、D(λ)を示す。
図14C】光学的距離と光強度の関係を示すグラフであり、D(λ)を示す。
図14D】光学的距離と光強度の関係を示すグラフであり、D(λ)を示す。
図15】従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1に、有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の一例を示す。この有機エレクトロルミネッセンス素子は、光反射性を有する第一の電極1と光透過性を有する第二の電極2との間に、一又は複数の光透過可能な中間層3を介して複数の発光層4が積層された構成を有する。各発光層4には発光材料によって構成された発光源5が備えられており、この発光源5を有する各ユニットが発光ユニット6となる。このように有機エレクトロルミネッセンス素子は、複数の発光ユニット6を備えたマルチユニット構造となっている。
【0034】
一又は複数の中間層3は、各中間層3が二つの発光層4に挟まれた構成を有している。すなわち、発光層4、中間層3、発光層4、中間層3、発光層4、といったように、発光層4と、中間層3とが交互に配置する層構成となっている。
【0035】
中間層3のうち第一の電極2に最も近い中間層3が第一の中間層3を構成している。したがって、中間層3が複数ある場合には、第一の電極2に最も近い中間層3が第一の中間層3aとなり、中間層3が一つの場合には、その中間層3が第一の中間層3aとなる。
【0036】
発光ユニット6は、少なくとも二つ形成されており、複数の発光ユニット6は、第一の電極1側から順に、第一、第二、第三、…、とナンバリングすることができる。中間層3の数は、発光ユニット6の数よりも1つ少ない数になる。そして、隣接する二つの発光ユニット6の間には中間層3が設けられている。この中間層3の存在により、各発光ユニット6を、発光するためのユニットとして個別に設けることができ、また、各発光ユニット6への正孔及び電子の注入をスムーズにすることができる。その結果、マルチユニットによる発光が可能になるとともに、素子の高輝度化及び長寿命化を図ることができる。
【0037】
第一の電極1と第一の中間層3aとの間には、第一の発光源5aを備える第一の発光ユニット6aが形成されている。第一の発光ユニット6aにおいて、第一の発光源5aは第一の発光層4a内に設けられている。また、第一の中間層3aの第二の電極2側には、第一の発光ユニット6aの隣に位置する発光ユニット6として、第二の発光源5bを備える第二の発光ユニット6bが形成されている。第二の発光ユニット6bにおいて、第二の発光源5bは第二の発光層4b内に設けられている。
【0038】
発光ユニット6は、発光層4の他に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成するための適宜の層を備えている。有機エレクトロルミネッセンス素子は、正孔と電子の結合により発光材料の光励起が可能となるものである。そのため、正孔を注入したり輸送したりする機能を有する層や、電子を注入したり輸送したりする機能を有する層といった、電荷の注入又は輸送を補助するための層が備えられている。本明細書においては、これらの層を電荷補助層7という。この電荷補助層7には、電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層などから選択される適宜の層が含まれる。
【0039】
発光ユニット6は、発光層4が第一の電極1側の電荷輸送層7と第二の電極2側の電荷輸送層7とで挟まれた構造を有するものであってよい。この二つの電荷補助層7は、電荷移動の観点から、一方が電子輸送性を有する層であり、他方が正孔輸送性を有するものであることが好ましい。例えば、第一の電極1が陰極を構成するとともに第二の電極2が陽極を構成する場合、第一の電極1側の電荷輸送層7は電子輸送性を有し、第二の電極2側の電荷輸送層7は正孔輸送性を有するようにすることができる。
【0040】
第一の発光ユニット6aにおいては、第一の電極1と第一の発光層4aとの間に第一の電荷補助層7aが形成され、第一の発光層4aと第一の中間層3aとの間に第二の電荷補助層7bが形成されている。また、第二の発光ユニット6bにおいては、第一の中間層3aと第二の発光層4bとの間に第三の電荷補助層7cが形成されており、第二の発光層4bの第二の電極2側には第四の電荷補助層7dが形成されている。したがって、第一の中間層3aは、第一の発光ユニット6aと第二の発光ユニット6bとの間に配設されている。
【0041】
有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各層は、通常、基板8の表面に積層して設けられている。図1の形態では、基板8の上に、第二の電極2が形成され、その上に、第二の電極2側から発光ユニット6と中間層3とが交互に第一の電極1まで形成されている。そして、第一の電極1近傍では、第二の電極2側から、第二の発光ユニット6b、第一の中間層3a、第一の発光ユニット6a、第一の電極1がこの順で設けられている。光は、光透過性の電極である第二の電極2側、すなわち基板8側から取り出される。よって、図1の形態は、ボトムエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0042】
図2は、有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例であり、図1の形態とは、基板8の位置が異なっている。その他の構成は、図1の形態と同様となっている。図2の形態では、基板8の上に、第一の電極1が形成され、その上に、第一の電極1側から発光ユニット6と中間層3とが交互に第二の電極2まで形成されている。そして、第一の電極1近傍では、第一の電極1、第一の発光ユニット6a、第一の中間層3a、第二の発光ユニット6bがこの順で設けられている。光は、光透過性の電極である第二の電極2側、すなわち基板8とは反対側から取り出される。よって、図2の形態は、トップエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0043】
図1及び図2で示すように、発光源5では正孔と電子の結合により光が発生する。この発光源5で発光した光は、第一の電極1側に向かう光と、第二の電極2側に向かう光とに、大別される。発光源5から直接第二の電極2側に向かう光は、第二の電極2を透過して取り出され、外部に放出される。この光の進路をP1で示している。また、発光源5から第一の電極1側に向かう光は、第一の電極1で反射して第二の電極2側に向かう光となり、第二の電極2を透過して取り出され、外部に放出される。この光の進路をP2で示している。ただし、光の方向は、積層方向に対して平行なもの(基板8の表面と垂直なもの)だけではなく、むしろ積層方向に対して角度をもっているものが数多く存在する。ここで、光は、層間の界面を通過する際、界面に対する角度が浅いと(積層方向とのなす角度が大きいと)、屈折率の関係によっては、いわゆる全反射ロスを招く場合がある。全反射ロスとは、層界面を通過する際に全反射し導波光となって失活する現象である。このような全反射ロスは、光が高屈折率の層から低屈折率の層に入射するときに発生し得る。
【0044】
図2の形態においては、第二の電極2と大気(外部)との界面において、全反射ロスが発生する可能性がある。すなわち、第二の電極2の屈折率は、通常、大気よりも高いものであり、第二の電極2と大気(外部)との界面では、浅い角度で侵入した光が全反射によって失われる現象が発生する。なお、第二の電極2の外側の表面に他の層を設けた場合であっても、通常、その層は大気よりも屈折率は高いため、このような全反射ロスは発生する。
【0045】
図1の形態においては、基板8を通して光を取り出すため、全反射ロスがさらに問題となる。すなわち、第二の電極2、電荷補助層7や発光層4などを構成する有機層の屈折率は、通常、基板8の屈折率よりも高いため、第二の電極2と基板8との界面では、浅い角度で侵入した光が全反射によって失われる現象が発生する。これを薄膜導波モードにおける全反射ロスと呼ぶ。また基板8の屈折率は、通常、大気よりも高いものであり、基板8と大気(外部)との界面では、浅い角度で侵入した光が全反射によって失われる現象が発生する。これを基板導波モードにおける全反射ロスと呼ぶ。このような光が全反射で失活する導波モードの発生が、光取り出し性が低下する要因となっている。
【0046】
ここで、第二の電極2側に直接向かうP1の光と第一の電極1で反射されたP2の光とを干渉させることにより、光の方向を変化させて積層方向(光取り出し方向)に平行な方向に対する光の強度を高めることができる。そして、積層方向の強度が高まることにより、基板8に対して浅い角度で侵入する光が少なくなって、より多くの光が外部に取り出されることになる。これがマイクロキャビティ効果(以下単に「キャビティ効果」ということもある)と呼ばれるものであり、本実施形態においてはマイクロキャビティ効果を利用して光取り出し性を向上させることができるものである。なお、マイクロキャビティ効果を発揮させる構造をマイクロキャビティ構造(以下単に「キャビティ構造」ということもある)と呼ぶ。
【0047】
本実施形態においては、図1及び図2のように、光干渉による特定方向の強度を向上させるマイクロキャビティ構造を、複数の発光層4を有するマルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子に適用する。そして、特に、光反射性を有する第一の電極1側近傍に配置される二つの発光ユニット6とそれらの発光ユニット6に挟まれる中間層3とにおいてマイクロキャビティ構造を適用する。それにより、マイクロキャビティ構造の効果を高めて光取り出し性をより向上することができる。
【0048】
第一の発光層4aと第二の発光層4bの発光波長は同じものであってよいが、異なるものであってもよい。本形態では、各発光層4の発光波長が同じものであっても異なるものであってもマイクロキャビティ効果を得ることができる。例えば、光取り出し側とは反対側の発光層4である第一の発光層4aの発光波長を他の発光層4(第二の発光層4b)の発光波長よりも長波長又は短波長にしてもよい。
【0049】
マルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、反射性の第一の電極1だけではなく、中間層3(特に第一の中間層3a)の若干の反射を利用して光の干渉を得るようにすることが可能である。この中間層3の反射光を利用した場合、外部に向かう方向の光強度を高めて光取り出し性を高めることができる。なお、干渉には強度を増大させる干渉と強度を減少させる干渉とが存在し得るが、マイクロキャビティ構造では、光取り出し方向に向かう光の強度が増大されるものである。
【0050】
第一の中間層3aは、光透過性及び光反射性の両方を有する半透過性層により構成されている。それにより、外部に光を取り出すことができるとともに、マイクロキャビティ効果を得ることが可能になる。そして、第一の中間層3aは、全光線吸収率10%以下となっている。それにより、光の吸収を抑制して、光取り出し性を高めることができる。全光線吸収率がこれより大きい場合には、マイクロキャビティ効果よりも吸収による消衰や減衰の方が大きくなり、トータルの輝度・効率が低下することになる。ここで、全光線吸収率とは可視光域の平均光吸収率をいう。半透過性層における全光線吸収率は小さいほどよく、好ましくは5%以下である。半透過性層は厚みが小さくなるほど光の吸収率は小さくなると考えられるため、安定して形成できる最小膜厚の薄膜における吸収率が実際的な吸収率の下限となる。光吸収率の下限は、例えば、2%にすることができるが、安定な薄膜が得られるなら1%や0.5%であってもよい。
【0051】
半透過性層の全光線反射率は10%以上50%未満であることが好ましい。すなわち、第一の中間層3aを構成する半透過性層は、半透過性でかつ適度の反射性を有することが好ましく、特に、可視光域の平均光反射率が前記の範囲であることが好ましいのである。反射率が、これより小さい場合にはキャビティ効果が発現しにくくなるおそれがある。また、反射率が、これより大きい場合には、逆にキャビティ効果が強くなりすぎて、特定波長・角度で急峻な特性を示し、デバイスの設計やプロセスマージンの確保が困難になるおそれがある。また、反射率が大きすぎる場合は、そもそも光取り出し性が低下することになる。
【0052】
半透過性層の全光線透過率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。半透過性層の全光線透過率がより高くなることで、半透過性層の光取り出し側とは反対側の光をより多く半透過性層を通過させて光取り出し側に取り出すことができる。そのため、全光線透過率は80%以上又は90%以上であってもよい。
【0053】
半透過性層は、Ag又はAgを含む合金を主成分とする層であることが好ましい。それにより、マイクロキャビティ効果を高く得ることができる。Ag及びAgを含む合金は反射性がある材料であり、そのような光反射性の材料において全光線吸収率を低くすることにより、光の干渉作用を利用するマイクロキャビティ構造を形成することができる。Ag又はAgを含む合金を主成分とする層は、金属薄膜によって構成することができる。金属薄膜により、マイクロキャビティ構造を得ることが容易な半透過性層を形成することができる。また、Ag及びAg合金の金属薄膜は光透過性を確保できる点からも優れている。すなわち、半透過性層(第一の中間層3a)の光透過性が低すぎると、第一の発光ユニット6a側から中間層3に侵入する光が中間層3を通過しなくなるおそれがある。しかしながら、半透過性層が光透過性を有することにより、第一の発光層ユニット6a側からの光を通過させて、光を外部に取り出すことが可能になる。
【0054】
表1に、各種の金属材料の薄膜状態及びバルク状態における反射・透過・吸収特性を示す。ここでは、薄膜状態として膜厚10nmの例を示し、バルク状態として膜厚200nmのものを示している。なお、バルク状態では、透過率は0%のため記載を省略している。
【0055】
図12A図12Cに、Ag膜とAl膜について、膜厚を変化させた場合の反射・透過・吸収特性のグラフを示す。図12Aは反射特性、図12Bは透過特性、図12Cは吸収特性を示している。図12Dは、界面を通過する際の、光の反射、透過、吸収のメカニズムを模式的に示している。表2及び表3は、AgとAlに関する、膜厚を変化させた場合の反射・透過・吸収特性の数値であり、表2はAgを示し、表3はAlを示している。図12Dに示すように、有機層(例えば屈折率n=1.8)の膜11から金属の膜12に入射するときに、一部の光は反射し、残りの光のうちの一部は透過し、その他の光は金属の膜12に吸収されることとなる。このように、中間層3の設計では、光を反射・透過・吸収に分けて考えることができる。
【0056】
マイクロキャビティによる効果を発揮するためには、光吸収性が少なく、適度な反射性があることが、半透過性層(第一の中間層3a)に求められる。半透過性層について、金属薄膜を用いた場合を検討する。
【0057】
表1から、金属薄膜では、反射性があるとともに吸収率10%以下である材料としてはAgが有効であることが分かる。反射性のある材料としてはAgの他に、Alも挙げられるが、図12A図12Cのグラフ、及び表2、3に示すように、Alは薄い膜厚でも吸収率が高くなり、膜厚1〜2nmの領域で吸収率10%を超えている。金属の膜を蒸着で形成する場合、1〜2nmの成膜では薄膜ではなく縞状のものになってしまい、膜としての制御は極めて困難になる。また縞状の金属膜は導電性も悪いため中間層3としての機能も果たせなくなる可能性がある。よって、Alにおいては、吸収率10%以下でかつ安定な金属薄膜を得ることは容易ではない。一方、Ag薄膜では、厚み150nmにおいても吸収率は10%以下となっており、マイクロキャビティ構造への適用が容易である。金属薄膜の厚みの下限は、安定な薄膜を得る観点からは、5nm程度である。金属薄膜の厚みの上限は特に限定されるものではないが、150nmであったり、100nmであったりしてよい。Ag膜の場合、反射率50%未満であるためには、例えば、20nm以下の膜厚であってよい。
【0058】
金属薄膜の材料は、Agを含むことが好ましいものであるが、具体的には、Ag単体の他に、Agと表1に挙げたような金属(Al、Pt、Rh、Mg、Au、Cu、Zn、Ti、Pd、Ni)の合金を用いることができる。このなかでも特にMgAg、PdAgの合金を好ましく用いることができる。合金におけるAg以外の金属の含有率は前記の全光線吸収率10%以下を満たす範囲にすることができ、合金構造にもよるが、例えば0〜3質量%程度であってよい。なお、表1におけるMgAgは、Mgの含有率が1質量%のものを例示している。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
また、半透過性層は、上記のような金属薄膜と、導電性金属酸化物膜との積層構造によって構成することも可能である。その場合も、半透過性を有し全光線吸収率の低い中間層3を形成することができる。導電性金属酸化物膜としては、ITO、IZO、AZO、ZnOなどが例示される。導電性金属酸化物膜は、金属薄膜の第一の電極1側の面に積層されていてもよいし、金属薄膜の第二の電極2側の面に積層されていてもよいし、金属薄膜の両面に積層されていてもよい。
【0063】
次に、マイクロキャビティ効果を得るためのさらに好ましい条件について説明する。マイクロキャビティ構造においては、光の干渉作用が利用されるものであり、各層の光学膜厚(光学的距離)を設定することにより、干渉作用をより有効に利用して特定方向の光の強度を高めることができる。
【0064】
図1及び図2では、光学的距離として、光学的距離D〜Dを設定し、図示している。光学的距離Dは、第一の電極1と第一の発光源5aとの間の光学的距離である。光学的距離Dは、第一の発光源5aと第一の中間層3a(半透過性層)との間の光学的距離である。光学的距離Dは、第二の発光源5bと第一の中間層3a(半透過性層)との間の光学的距離である。光学的距離をDは、第二の発光源5bと第二の電極2の光取り出し側の面との間の光学的距離である。
【0065】
光が反射層において反射すると、その前後で位相シフトπが生じる。そこで、理想モデルにおいては、発光源5と反射層の表面との間の膜厚dに屈折率nを乗じて導出される光学膜厚(光学的距離)が、光の波長λの1/4πの奇数倍と略等しくなるように設計される。これにより、基板から正面方向に出射する光の成分量が極大値となる。この方法は、光が内部で増幅されることを意味するわけではなく、光の方向を変更させ、特定の方向、例えば、大気中へ光を取り出しやすい正面方向への光を強めることを意味する。しかしながら、実際には、光の位相シフトはπとはならず、有機層及び反射層における屈折、消衰が関わってくることとなり、より複雑な挙動を示す。このときの光の位相シフトをφと表す。本実施形態ではこの位相シフトφを用いて光学膜厚を設定することができる。
【0066】
ここで、位相シフトφは、次の式(1)を用いて表される関数である。
【0067】
【数2】
【0068】
上式において、n、kは、反射層と接する層の屈折率及び消衰係数をそれぞれ表し、n、kは、反射層の屈折率及び消衰係数をそれぞれ表し、n、n、k及びkは、λの関数である。
【0069】
式(1)で示される第一の電極1で生じる位相シフトをφと表すことができ、また、式(1)で示される半透過性層で生じる位相シフトをφと表すことができる。この場合において、位相シフトφでは、反射層は第1の電極1となる。また、位相シフトφでは、反射層は半透過性層となる。
【0070】
式(1)において、n、n、k及びkは、λの関数であるため、位相シフトは、φ(λ)と表すことができる。
【0071】
まず、第一の発光源5aの重み平均発光波長をλとし、第二の発光源5bの重み平均発光波長をλとする。ここで、重み平均発光波長とは、発光波長の強度のスペクトル(発光スペクトル)を測定して得たスペクトル強度の積分を用いて算出される波長であり、正確には、下記の式(2)で示される波長である。
【0072】
【数3】
【0073】
式(2)において、λは波長(nm)であり、P(λ)は各波長におけるスペクトル強度を表す。
【0074】
重み平均発光波長を得るための発光スペクトルは可視光域のスペクトルであってよい。発光波長としては、もちろん発光ピーク波長(発光スペクトルのピークが最大となる波長)であってもよいが、重み平均発光波長を用いることにより、より設計制度を向上することができる。
【0075】
そして、第一の発光源5aの光が第一の電極1における反射で生じる位相シフトをφ(λ)と表すことができる。また、第一の発光源5aの光が半透過性層における反射で生じる位相シフトをφ(λ)と表すことができる。また、第二の発光源5bの光が半透過性層における反射で生じる位相シフトをφ(λ)、として表することができる。
【0076】
そして、これらによって導かれる関係式、X、Y及びZを、次のように表す。
【0077】
X = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×l/2)
Y = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×m/2)
Z = (φ(λ)+φ(λ))×(λ/4π)+(λ×n/2)
上式において、l,m,nは0以上の整数である。なお、このnは屈折率を示す記号nとは関係ない。
【0078】
さらに、第一の発光源5aと第一の電極1との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離をD(λ)とする。また、第一の発光源5aと半透過性層(第一の中間層3a)との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離をD(λ)とする。また、第二の発光源5bと半透過性層(第一の中間層3a)との間を満たす媒質の波長λにおける屈折率と膜厚との積である光学的距離をD(λ)とする。このときに、これらが次の関係を満たすように設定されることが好ましいのである。
【0079】
0.9×X ≦ D(λ) ≦ 1.1×X 、
0.1×Y ≦ D(λ) ≦ 2.0×Y 、かつ
0.8×Z ≦ D(λ)+D(λ) ≦ 1.2×Z 、
の関係。
【0080】
このような関係でD(λ)、D(λ)、D(λ)が設定されることによって、マルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子において、マイクロキャビティ効果による特定方向の光強度の向上を得ることができる。
【0081】
ここで、上記のX、Y、Zの式におけるl,m,nは、それぞれ独立の整数を表すのものであり、それぞれがある整数をとった場合において、上記の光学的距離の関係式が満たされればよいものである。例えば、l=m=n=0、l=m=n=1、又は、l=m=n=2などのように同じ整数であってもよく、あるいは、例えば、l=1かつm=n=0、又は、l=2かつm=n=1などのように、mとnが同じで、lが異なる整数であってもよい。もちろん、l=2、m=0、n=1などのように、l,m,nの3つが異なる整数であってもよい。また、この3つの整数は、l≧n≧mの関係であってもよい。l,m,nの上限は特にないが、例えば、10であってもよい。
【0082】
なお、第二の電極2の光取り出し側の面と第二の発光源5bとの間を満たす媒質の、波長λにおける光学的距離はD(λ)、波長λにおける光学的距離はD(λ)として表される。第二の電極2は光透過性を有するものであり、有機物を含んで構成され得るものであるため、Dの範囲は第二の電極2を含めるようにする。また、第二の発光源5bと半透過性層(第一の中間層3a)との間を満たす媒質の波長λにおける光学的距離はD(λ)と表すことができる。また、半透過性層(第一の中間層3a)と第一の発光源5aとの間を満たす媒質の波長λにおける光学的距離はD(λ)、第一の発光源5aと第一の電極1との間を満たす媒質の波長λにおける光学的距離はD(λ)と表すことができる。
【0083】
また、第二の発光ユニット6bの光が第一の電極1における反射で生じる位相シフトをφ(λ)と表すことができるが、この位相シフトφ(λ)は上記の形態では特に用いなくてもよい。
【0084】
ここで、波長λ、λのそれぞれにおけるD〜Dは、光学的距離(光学膜厚)に関する次の一般式から求めることができる。
【0085】
D = n×d
(上式においてnは屈折率、dは膜厚(物理的膜厚)を示す。)
したがって、例えば、光学的距離Dは、第1の電荷補助層7aにおける屈折率と膜厚とを乗じることによって求めることができる。また、光学的距離D〜Dについても同様に求めることができる。
【0086】
(λ)、D(λ)、D(λ)は、理想的には、D(λ)=X、D(λ)=Y、D(λ)+D(λ)=Z、となる設定が好ましいものである。しかし、多少ずれたとしても光の干渉は生じるものであり、上記のように理想的な設定値から前後する範囲で設定した場合でもマイクロキャビティ効果が十分に発揮される。特にD(λ)は効果に与える影響が小さいので膜厚が極端に大きくなったり小さくなったりしなければよいので、上記の範囲が導かれる。マイクロキャビティ効果を得るためには、D(λ)、D(λ)、D(λ)は、好ましくは、上記の理想設定値の±10%以内の範囲(90〜110%の範囲)である。この範囲は、より好ましくは、±5%以内の範囲(D(λ)なら例えば0.95×X≦D(λ)≦1.05×Xとなる範囲)であり、さらにより好ましくは、±3%以内の範囲である。光学的距離の好ましい範囲の一例を挙げると、
0.9×X ≦ D(λ) ≦ 1.1×X 、
0.9×Y ≦ D(λ) ≦ 1.1×Y 、かつ
0.9×Z ≦ D(λ)+D(λ) ≦ 1.1×Z
となる。
【0087】
ところで、発光源5は発光層4において発光する個々の位置を意味するが、上記の関係式においては、発光源5を発光層4の厚み方向の中間の位置として計算してよい。すなわち、第一の発光源5aを第一の発光層4aの積層方向の中間の位置とし、第二の発光源5bを第二の発光源5bの積層方向の中間の位置として計算してもよい。あるいは、発光層4が隣接する電荷補助層7に比べて十分に膜厚が薄い場合には、発光層4とこの発光層4に隣接する電荷補助層7との界面の位置を発光源5の位置とし、発光層4の厚みを無視して光学的距離を計算してもよい。つまり、上記の関係式においては、発光源5の位置を積層方向の一つの位置で揃えるようにしてもよいものである。もちろん、発光層4内の任意の位置の発光源5が全て上記の関係式が満たされるようにしてもよい。また、半透過性層(第一の中間層3a)についても、半透過性層が電荷補助層7よりも十分に膜厚が薄い場合には、半透過性層の厚みを無視して素子を設計することもできる。図1及び図2においては、発光源5が発光層4の中間の位置に設定され、第一の中間層3aが厚みを無視されて中間の位置で設定されて、D、D、D、Dの光学的距離が設定されている様子が図示されている。
【0088】
図3図4図5図6に、有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の他の一例を示す。これらの形態では、第二の電極2よりも光取り出し側(外部側)に光拡散層9が設けられている。図3の形態では、図1の形態の構成に加え、基板8の光取り出し面に光拡散層9が設けられている。その他の構成は図1の形態と同様である。図4図5の形態では、図1の形態の構成に加え、第二の電極2と基板8との間に光拡散層9が設けられている。その他の構成は図1の形態と同様である。また、図6の形態では、図2の形態の構成に加え、第二の電極2の光取り出し面に、透明樹脂層10が設けられ、その透明樹脂層10の光取り出し面側に光拡散層9が設けられている。その他の構成は図2の形態と同様である。
【0089】
上記に示す関係式で膜厚設計を行うと、マイクロキャビティ効果で導波モードにならない比較的浅い角度で界面に入射する光が増幅されるため、大気に取り出される光が相対的に多くなる。しかしながら、マイクロキャビティ効果による光干渉を活用すると特定の波長、角度における発光強度が増大する一方、それ以外の波長、角度における発光強度が消衰や減衰するため、発光が視野角に依存することとなって、視野角特性が悪化する場合がある。視野角特性とは、発光を色ムラなく認識できる視野角の範囲の良否のことであり、視野角特性が悪化すると視野角が狭くなり発光が角度に依存してしまうことになる。すなわち視野角依存性が高まる。そこで、マイクロキャビティ効果を利用しつつ、視野角特性の悪化を抑制する方法として、図3〜6の形態で示すように、光拡散層9を設けるようにすることが好ましいのである。
【0090】
光拡散層9を設ける場合、図3〜6で示すように、第二の電極2の光取り出し面側に形成することが望ましい。それにより、マイクロキャビティ効果を阻害せずに光拡散層9によって光を拡散させて取り出すことができる。第一の発光ユニット6aや第二の発光ユニット6bの内部に、あるいは第二の電極2や中間層3の表面に光拡散層9を形成した場合にはマイクロキャビティ効果とトレードオフが生じることとなる。光拡散層9は、基板8の表面に設けられる場合、基板8を加工して形成してもよいし、基板8に光拡散層9を構成する材料を積層して形成してもよい。
【0091】
またこの場合、光拡散層9の光取り出し側の面と半透過性層(第一の中間層3a)との間の波長λにおける光学的距離(D(λ))が、第一の発光ユニット6aの発光ピーク波長(λ)の10倍以上であることが好ましい。このような関係になることで、インコヒーレント性が高まり、マイクロキャビティ効果と拡散とがより一層関連し合わなくなる。ここでの波長(λ)は発光ピーク波長であってよい。もちろん、波長(λ)は重み平均発光波長であってもよい。この関係は次の式で示すことができる。
【0092】
(D(λ)) > 10λ
なお、(D(λ))の上限は特にないが、例えば、λの100倍以下などであってもよい。ちなみに、Dにおいて、Dに添えた文字「d」は拡散(diffusion)の頭文字を使用している。
【0093】
上記の関係式が満たされれば、マイクロキャビティ効果を維持しつつ、光拡散層9による散乱効果で視野角特性を向上し、発光角度の依存性を緩和することがより可能である。
【0094】
ところで、第二の電極2の光取り出し側の面と第二の発光源5bとの間の波長λにおける光学的距離は、D(λ)と表され、第二の発光源5bと半透過性層(第一の中間層3a)との間の波長λにおける光学的距離は、D(λ)表される。この合計(D(λ)+D(λ))は、特に限定されるものではないが、第一の発光ユニット6aの発光ピーク波長(λ)の10倍以上であってもよい。
【0095】
図3に示すボトムエミッション型の構造の場合には、基板8の外側に光拡散層9を形成することによってマイクロキャビティ効果を維持しつつ、視野角特性を改善する効果を発揮することが可能である。この形態では、基板8に到達する光をマイクロキャビティ効果で増大して薄膜導波モードを減少させ、かつ、基板8から効率よく光を取り出すことが可能である。基板8は光の波長に対して十分に厚いため(各図では層構成の概略を示しており実際は基板8の厚みは大きい)、基板8と大気の界面で角度変換された光は内部へ戻る際にマイクロキャビティ効果で増幅された光と互いに干渉しない。このように光拡散効果とマイクロキャビティ効果とが互いに関連せずそれぞれ独立して効果を発揮することをインコヒーレントという。なお、図3の形態では、外部に光拡散層9を設けているために、その他の形態よりも簡単に光拡散層9を形成し得るという利点がある。
【0096】
図3の形態では光拡散層9は基板8の表面に形成されている。このような構成をとることで厚みを増加させることが容易な基板8を、光拡散層9と半透過性層との間に配置することができる。そのため、光拡散層9の光取出し側の面と半透過性層との間の光学距離(D(λ))を、容易に第一の発光ユニット6aの発光ピーク波長(λ)の10倍以上とすることが可能となる。
【0097】
図6のトップエミッション構造においても、光拡散層9により同様の効果を得ることが可能である。光拡散層9は第二の電極2の表面に接触して設けられても、透明樹脂層10を介して設けられてもよい。ただし、トップエミッション構造の場合には、マイクロキャビティ効果と拡散層9のインコヒーレント性が保持されるよう、図6に示すように、第二の電極2と光拡散層9との間に透明樹脂層10を形成することが好ましい。
【0098】
図4及び図5の形態では、基板8の内部側に光拡散層9を設けることにより、基板8を透過する前の光を拡散させることができ、より多くの光を外部に取り出すことが可能である。すなわち、薄膜導波モードで失われるような光を取り出すことが可能となり、全体として光取り出し性を向上させることができる。
【0099】
図3〜6の形態において、光拡散層9は、例えば、金属酸化物粒子を分散した高屈折率樹脂と散乱材とが混合されて形成された樹脂層により構成することができる。高屈折率樹脂は例えば屈折率が1.7以上であってよい。金属酸化物粒子は例えばTiOを使用することができる。散乱材としては、屈折率が1.49程度のアクリル系粒子を用いることができる。また、散乱材の代わりに、あるいは散乱材に加えて、空孔を含ませてもよい。また、光拡散層9は、基板8の表面に凹凸が形成されたものであってもよい。例えば、光拡散層9は、基板8の表面において、屈折率1.5程度の紫外線硬化型樹脂をインプリントして凹凸を形成し、この凹凸が形成された表面に、前記のような高屈折率樹脂を積層することにより形成することができる。
【0100】
図4の形態では、光拡散層9は、金属酸化物粒子を分散した高屈折率樹脂と散乱材とが混合されて形成された樹脂層により構成することができる。また、図5の形態では、基板8の発光源5側の面に凹凸面を有する凹凸層9aが形成され、この凹凸層9aの表面に、光拡散層9の表面を平坦化する平坦化層9bが形成されている。そして、この凹凸層9aと平坦化層9bとによって光拡散層9が構成されている。
【0101】
図7は、有機エレクトロルミネッセンス素子の実施形態の一例を示している。この素子では、発光ユニット6は二つであり、発光ユニット6間に一つの中間層3(第一の中間層3a)を有している。このような発光ユニット6が二つのマルチユニット構造が、より基本的な素子であり、より構造が簡単で実用性の高い素子となる。
【0102】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、第二の電極2の光取り出し面側に光透過性を有する基板8が設けられた場合、この基板8の屈折率が1.55以上であることが好ましい。特に、このような設計は、D(λ) > 10λの関係があるときに好ましい。これにより、キャビティ効果による取り出しに加え、基板導波モード、薄膜導波モードも取り出すことがより可能になり、光取り出し性をさらに高めることができる。このような素子の積層構造は、ボトムエミッション構造として上記で説明した通りである。
【0103】
図8A及び図8Bにより、マイクロキャビティ構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の光取り出し性の向上について説明する。図8A及び図8Bでは、特にボトムエミッション構造の素子による光取り出し性の関係が示されている。図8Aは、光の面内波数とPhoton数との関係を示す模式的なグラフである。内部で発光した光のうち外部に取り出されて大気放射するのは約20%である。光取り出し率がこの程度しかないのは、基板と有機層(薄膜)との界面、基板と大気との界面で角度の浅い光が導波モードとして失活するからである。すなわち、基板に入る前に、あるいは大気に出る前に界面での全反射が起こり、光が取り出せなくなる。しかしながら、マイクロキャビティ構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子においては、マイクロキャビティ効果によって光の角度が変換されて外部に向かう光の強度が高まる。すなわち光量が多くなる。
【0104】
図8Bは、発光した光が基板内に到達する光の配向パターンを模式的に示している。基板内に到達した光はA点から前方(図の上方)に向かう配向性を有している。通常の素子では、S1で示すように円状または横長楕円状の光配向性となる。しかしながら、マイクロキャビティ構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子においては、S2で示すように光配向性が変化され、縦長楕円状の光配向性となったりする。このように光配向性が変化することにより、基板内により多くの光を入れることができるのである。
【0105】
図8Aに示すように、通常の素子では、外部に取り出されずに、薄膜導波モードとして失活するのが約50%であり、基板導波モードとして失活するのが約30%である。このとき、T1で示すように面内波数に対するPhoton数は直線状となり一定の値として表すことができる。一方、マイクロキャビティ構造においては、より多くの光を基板内に入射させることができるため、T2で示すように、薄膜導波モードとして失われる光を少なくすることができ、その分の光を基板導波モード及び大気放射側へとシフトすることができる。そして、大気放射及び基板導波モードの光量が全体として上がることになり、基板導波モードは依然として存在するものの、大気放射する光の量は通常の素子よりも増加することとなる。このようにして、マイクロキャビティ効果で光取り出し性が向上するのである。そして、光拡散層9を設けた場合には、基板導波モードとして失活する光も一部、取り出すことが可能となるのであり、視野角特性の向上とともに、より高い光取り出し性を得ることができるのである。
【0106】
図9図11により、プラズモンロスの抑制効果を説明する。図9は、発光源と反射層との間の膜厚変化に対する光取り出し性を示すグラフである。このグラフでは光がどのモードでロスするかが表される。MODE Iは大気を示しており、外部(大気)に取り出される光の干渉を示している。また、MODE IIは基板、MODE IIIは薄膜、MODE IVはプラズモン、を示しおり、素子内部内に閉じ込められて外部に出ない光を示している。MODE Iでは、膜厚の変化により干渉の波形が見られている。そして、キャビティとして、膜厚が大きくなるにつれて、1次干渉、2次干渉が確認されている。ここで、1次干渉の膜厚ではプラズモンロスが大きくなってしまい、全体としての光取り出し性が低下するおそれがある。そのため、プラズモンロスを抑制する2次干渉の構造になることが好ましいものである。プラズモンロスの抑制作用により、効率改善が期待できる。ただし、2次干渉(セカンドキャビティ(2ndキャビティ))よりも大きくなるほど(3次干渉、4次干渉、・・・)、輻射寿命が長くなり効率が低下する可能性もある。
【0107】
図10は、発光時のエネルギー変化を示す模式的なグラフである。発光における典型的なエネルギー変化は実線の矢印に示されている。すなわち、基底状態のエネルギーレベルから励起して1重項励起状態のエネルギーレベルに移行し、その後、基底状態に戻る際に、光が生じる。1重項励起状態から基底状態に直接戻る経路を通るのが蛍光である。また、1重項励起状態から3重項励起状態に移行し、その後、基底状態に戻る経路を通るのがリン光である。ここで、非輻射(非発光)中心において、格子振動、欠陥などの影響により、斜線矢印の経路をたどり、適切な発光が得られなくなるおそれがある。そのため、膜厚設計が重要となる。
【0108】
発光効率ηは次式で表される。
【0109】
【数4】
【0110】
上式において、Fは寿命ファクターである。また、Γrは発光確率、Γnrは非発光確率を表す。なお、Γに添えた文字のうち「r」はradiative(輻射)、「nr」はnon−radiative(非輻射)の頭文字を使用している。
【0111】
寿命ファクターFは、大きいほど発光寿命が短く、効率が大きくなる傾向がある。キャリア寿命と発光(輻射再結合)効率は、次の式で表されるように、通常、反比例の関係にある。
【0112】
【数5】
【0113】
上式において、τはキャリア寿命、Γrは発光確率、Γnrは非発光確率を表す。
【0114】
図11は、膜厚変化と寿命ファクターFとの関係を表すグラフである。すなわち、マイクロキャビティ効果によってキャリア寿命が変化し、輻射効率(IQE)が変化(増減)しているが、2ndキャビティではファクターFが低減し、効率が低減する。したがって、2ndキャビティにおいては、前述のプラズモンロス抑制とファクターF低下による効率低下のトレードオフが存在する。しかしながら、本形態の有機エレクトロルミネッセンス素子では中間層に半透過性の材料を用いているため2ndキャビティにおいても強いマイクロキャビティ効果が維持される。したがって、ファクターFの改善が期待できるため、プラズモンロス抑制による効率改善が期待される。
【0115】
ここで、上記のように、本形態の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、光学的距離D(λ)、D(λ)、及び、D(λ)+D(λ)の好ましい範囲は、X、Y、Zを用いて表され、このX、Y、Zは、次の関係式で表される。
【0116】
X = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×l/2)
Y = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×m/2)
Z = (φ(λ)+φ(λ))×(λ/4π)+(λ×n/2)
上式において、l,m,nは0以上の整数である。
【0117】
このXの関係式において、l≧1であることが好ましい。それにより、Dがセカンドキャビティ又はそれ以降のキャビティとなり、プラズモンロスを抑制することができるため、光取り出し性を高めることができる。また、キャビティ効果は強く残っているため、発光寿命低減(効率向上)の効果の維持が期待できる。
【0118】
さらに、上記のX、Y、Zの関係式において、l≧1、m≧1、かつ、n≧1であることがさらに好ましい。この場合、D、D、Dがセカンドキャビティ又はそれ以降のキャビティとなり、ほぼ完全に近い状態でプラズモンロスを抑制することが可能になり、光取り出し性をさらに高めることができる。また、キャビティ効果は強く残っているため、発光寿命低減(効率向上)の効果の維持が期待できる。キャビティ効果とプラズモンロス抑制効果とをより両立させるためには、特に、セカンドキャビティ構造となること好ましく、その場合、l=1が好ましい。また、同様にセカンドキャビティ構造の観点から、l=1、m=1、n=1がさらに好ましい。
【0119】
ところで、上記の各形態において、第一の電極1、第二の電極2、各電荷補助層7a、7b、7c、7d、各発光層4a、4b、基板8には、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成するための材料として通常用いられ得る適宜の材料を用いることができる。例えば、第二の電極2の材料としては、ITO、IZO、酸化錫、酸化亜鉛、ヨウ化銅など、PEDOT、ポリアニリンなどの導電性高分子および任意のアクセプタなどでドープした導電性高分子、カーボンナノチューブなどの導電性光透過性材料を挙げることができる。
【0120】
また、第1の電極1の材料としては、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位との差が大きくなりすぎないように仕事関数が1.9eV以上5eV以下のものを用いるのが好ましい。そのような電極材料としては、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウムなど、およびこれらと他の金属との合金、例えばマグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金を例として挙げることができる。また、金属の導電材料、金属酸化物など、およびこれらと他の金属との混合物、例えば、酸化アルミニウムからなる極薄膜(ここでは、トンネル注入により電子を流すことが可能な1nm以下の薄膜)とアルミニウムからなる薄膜との積層膜なども使用可能である。
【0121】
発光層4の材料としては、有機エレクトロルミネッセンス素子用の材料として知られる任意の材料が使用可能である。例えばアントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアミン誘導体および各種蛍光色素など、上述の材料系およびその誘導体を始めとするものが挙げられるが、これらに限定するものではない。また、これらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることも好ましい。また、上記化合物に代表される蛍光発光を生じる化合物のみならず、スピン多重項からの発光を示す材料系、例えば燐光発光を生じる燐光発光材料、およびそれらからなる部位を分子内の一部に有する化合物も好適に用いることができる。また、これらの材料からなる発光層は、蒸着法、転写法などの乾式プロセスによって成膜しても良いし、スピンコート法、スプレーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法など、湿式プロセスによって成膜するものであってもよい。
【0122】
電荷補助層7の材料としては、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層など、電荷補助層7を構成する各層の特性に応じた適宜の材料を用いることができる。
【0123】
ホール注入層に用いる材料としては、ホール注入性の有機材料、金属酸化物、いわゆるアクセプタ系の有機材料あるいは無機材料、p−ドープ層などが挙げられる。ホール注入性の有機材料とは、ホール輸送性を有し、また仕事関数が5.0〜6.0eV程度であり、電極との強固な密着性を示す材料などがその例であり、例えば、CuPc、スターバーストアミンなどがその例である。また、ホール注入性の金属酸化物とは、例えば、モリブデン、レニウム、タングステン、バナジウム、亜鉛、インジウム、スズ、ガリウム、チタン、アルミニウムのいずれかを含有する金属酸化物である。また、1種の金属のみの酸化物ではなく、例えばインジウムとスズ、インジウムと亜鉛、アルミニウムとガリウム、ガリウムと亜鉛、チタンとニオブなど、上記のいずれかの金属を含有する複数の金属の酸化物であっても良い。また、これらの材料からなるホール注入層は、蒸着法、転写法などの乾式プロセスによって成膜しても良いし、スピンコート法、スプレーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法などの湿式プロセスによって成膜するものであってもよい。
【0124】
また、ホール輸送層に用いる材料は、例えば、ホール輸送性を有する化合物の群から選定することができる。この種の化合物としては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNBなどを代表例とする、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物などを挙げることができるが、一般に知られる任意のホール輸送材料を用いることが可能である。
【0125】
また、電子輸送層に用いる材料は、電子輸送性を有する化合物の群から選定することができる。この種の化合物としては、Alq等の電子輸送性材料として知られる金属錯体や、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、テトラジン誘導体、オキサジアゾール誘導体などのヘテロ環を有する化合物などが挙げられるが、この限りではなく、一般に知られる任意の電子輸送材料を用いることが可能である。
【0126】
また、電子注入層の材料は、例えば、フッ化リチウムやフッ化マグネシウムなどの金属フッ化物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどに代表される金属塩化物などの金属ハロゲン化物や、アルミニウム、リチウム、セシウム、コバルト、ジルコニウム、チタン、バナジウム、ニオブ、クロム、タンタル、タングステン、マンガン、モリブデン、ルテニウム、鉄、ニッケル、銅、ガリウム、亜鉛、シリコンなどの各種金属の酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物など、例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、窒化アルミニウム、窒化シリコン、炭化シリコン、酸窒化シリコン、窒化ホウ素などの絶縁物となるものや、SiOやSiOなどをはじめとする珪素化合物、炭素化合物などから任意に選択して用いることができる。これらの材料は、真空蒸着法やスパッタ法などにより形成することで薄膜状に形成することができる。
【0127】
基板8の材料としては、樹脂基板、ガラス基板などが挙げられる。上記の有機エレクトロルミネッセンス素子では、上記で示す材料を含む種々の材料において、マイクロキャビティ効果が得られるものである。
【0128】
以上の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、高輝度化・長寿命化が可能な複数の発光層を持つマルチユニット型構造においても全光束を高めることが可能であり、かつ視野角依存性が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。具体的には、複数の発光層4間をつなぐ中間層3として吸収の小さい金属薄膜を用いることによって、マイクロキャビティ効果を活用することができる。また、各層の膜厚を好適化することにより、大気中へ放射される光を増やし、輝度及び全光束の向上を図ることができる。さらに、マイクロキャビティ効果に関連しないように光拡散性のある層を設けることにより、視野角依存性を抑制するとともに、基板導波モードを効率よく取り出すことができる。すなわち、図8で示すように、マイクロキャビティ効果によって、通常全体の50%といわれる薄膜導波モードを大気側、基板導波モード側へ移動させ、基板導波モードも含めて光拡散層9で取り出すことにより、高い光取り出し効率を達成することが可能となるのである。また、図9で示すように、プラズモンロスを抑制することによって光取り出し効率をさらに高めることができる。そして、有機エレクトロルミネッセンス素子は、面状発光装置、照明器具などに好適に用いることができるものである。
【実施例】
【0129】
(実施例1)
マルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子において、光学的距離を設定し、素子の好適化を行った。
【0130】
有機エレクトロルミネッセンス素子としては、図7に示されるような層構成のボトムエミッション構造で発光ユニット6が二つのものを用いた。この素子は、透明な基板8の表面に、陽極が第二の電極2として形成され、その上に、第二の発光ユニット6bと第一の発光ユニット6aとが半透過性層(第一の中間層3a)を挟んで直列に配列されて形成され、さらにその上に陰極が第一の電極1として形成されたものである。また、第一の発光ユニット6aは、電子輸送層及び電子注入層を含む第一の電荷補助層7aと、第一の発光層4aと、ホール注入層及びホール輸送層を含む第二の電荷補助層7bとにより構成されている。また、第二の発光ユニット6bは、電子輸送層及び電子注入層を含む第三の電荷補助層7cと、第二の発光層4bと、ホール注入層及びホール輸送層を含む第四の電荷補助層7dとにより構成されている。基板8は例えばガラスなどで構成することができる。第二の電極2は例えばITOやIZOなどで構成することができる。第一の電極1は例えばAlやAgなどで構成することができる。各電荷補助層7は、各電荷特性を充足するような有機材料を用いて構成することができる。本実施例のシミュレーションでは特に材料を限定しなくてもよい。
【0131】
第一の発光層4aと第二の発光層4bとは発光ピーク波長が異なる発光材料により構成されている。例えば、第一の発光層4aは橙色発光層として形成されるとともに、第二の発光層4bは青色発光層として形成されるおり、全体としての発光色は白色となっている。この場合、白色マルチユニット構造の有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【0132】
一般に、光学膜厚Dは、膜における屈折率nと物理的な膜厚dとの積として表される。すなわち、D=n×d、となる。ここで、電荷補助層7が、屈折率nで膜厚dの層と、屈折率nで膜厚dの層と、・・・といったように複数の層からなる場合、積層方向の光学的距離Dは、それぞれの層の光学膜厚の総和として、次のように表される。
【0133】
D = n×d + n×d+ ・・・
このようにして計算される光学的距離を上記の関係式に用いるようにする。
【0134】
本実施例では、第一の発光ユニット6aの発光波長λを600nmとし、第二の発光ユニット6bの発光波長λを460nmとしている。この発光波長は重み平均発光波長である。また、第一の電荷輸送層7aの実膜厚を80nmとし、第二の電荷輸送層7bの実膜厚を40nmとし、第三の電荷輸送層7cの実膜厚を65nmとし、第四の電荷輸送層7dの実膜厚を275nmとした。発光層4の厚みは無視した。
【0135】
表4に、位相シフトφ、φがそれぞれ表に示すものである反射層(第一の電極1及び第一の中間層3a)を用いて、光学的距離D〜Dを設定した具体的なデバイスの例を示す。
【0136】
【表4】
【0137】
図13は、このデバイスにおいて、半透過性層(第一の中間層3a)の膜厚を変更したときに外部へ放出される全放射束(エネルギー換算した全光束)の変動を示している。また、あわせて、中間層の材料をAgからAlに変更したときの全放射束の変動を示す。
【0138】
図13より、Ag薄膜の厚みを変更することにより、膜厚15nm付近を中心としてエネルギー値の増大(最大約40%)が確認されている。全放射束はすべての出射方向の光のエネルギーを計算した値である。そのため、この結果は、従来から知られている単純なマイクロキャビティ効果で特定の方向のみ光が強まって得られた結果とは言えない。これは、上記で説明したマイクロキャビティ効果によって、本来、基板導波モードで失われる角度成分が消衰させられ、その分、全反射しない角度成分の光がよく取り出されているため、結果として大気中への放射エネルギーが向上したものと推定される。
【0139】
一方、Al薄膜ではマイクロキャビティ効果による干渉が同様に生じるにも関わらず、エネルギーの増大は見られずに、膜厚が厚くなるにつれてエネルギーが消衰していることが確認される。このようにAlとAgにおいて挙動が異なるのは、金属薄膜の反射率と吸収率とが光強度に大きく関わっていることを示している。
【0140】
なお、図13では、Ag膜厚が約35nmより厚くなると、参照値1.0(ref)よりもエネルギー値が低下していることが示されている。これは反射率が大きくなればなるほど光取り出し性が低下することを示しており、この結果から、反射率は大きすぎない方がよいことが分かる。
【0141】
図12A図12C及び表1〜3は、すでに説明したように、半透過性層に好適な材料の特性を示している。この図12A図12C、表1〜表3と、図13の結果から、半透過性層に用いる金属の各膜厚における透過率・吸収率と、全放射束との間には緊密な相関があることが確認される。すなわちAgは吸収率が小さく、膜厚20〜30nm程度までは反射率があまり高くないためマイクロキャビティ効果による効率改善が見られるのである。一方、Alでは膜厚が薄くても金属薄膜における吸収率が大きく、マイクロキャビティ効果よりも光吸収の方が支配的になり、結果的にエネルギーが消衰していることが分かる。これにより、Agを用いることの優位性が確認されたといえる。
【0142】
(実施例2)
膜厚の好適条件を確認するため、陰極及び金属薄膜(半透過性層)における反射の位相シフトφ、φ、及び、各発光層4a、4bの波長λ、λと、導出される膜厚D〜Dとの関係について解析を行った。
【0143】
図14A図14Dは、表4のデバイス例において、Ag薄膜15nmを半透過性層として用い、D(λ)、D(λ)、D(λ)、D(λ)の光学的距離(光学膜厚)をそれぞれ個別に変化させたときの全放射束値の変化を示している。すなわち例えば、図14BのD(λ)のグラフでは、表4のデバイス例においてD(λ)、D(λ)、D(λ)を表4の値で固定したときにおけるD(λ)の変化による光強度の変化が示されている。
【0144】
図14A図14Dでは、D(λ)、D(λ)が膜厚の変化による光強度の増減が激しく、これらは極大値を有する山形の軌跡を描くグラフとなっている。D(λ)の極大値は100〜160nmの範囲にあり、D(λ)の極大値は60〜110nmの範囲にある。D(λ)は膜厚によって増減があまりない平坦なグラフとなっている。D(λ)は50〜100nmにかけてブロードにわずかに極大化するグラフとなっている。ここで、異なる波長における光学的距離D(λ)、D(λ)、D(λ)、D(λ)でも同様の傾向が見られると考えられる。
【0145】
図14A図14Dの結果から分かるように、光学的距離の変化による影響が大きいのはマイクロキャビティ構造を決定するD及びDであることが分かる。一方、Dについては影響が少なく、Dについては影響がほとんどないことが確認された。
【0146】
一方、このデバイス例において、次の関係式を用いて、好適な光学的距離を計算した。
【0147】
(λ) = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×l/2)
(λ) = φ(λ)×(λ/4π)+(λ×m/2)
(λ)+D(λ
= (φ(λ)+φ(λ))×(λ/4π)+(λ×n/2)
なお、l、m、nは0以上の整数であるが、以下の計算ではこれらを全て0とした。
【0148】
この関係式に、表4の位相シフトの値φ、φを代入すると、光学的距離は次のように計算された。なお、次の計算式では、角度をラジアン([rad])から度([deg])に変換して記載している。
【0149】
(λ) = 150×(600/720) = 125 (nm)
(λ) = 110×(460/720) = 70 (nm)
(λ)+D(λ
= 280×(600/720) = 230 (nm)
これは、図14A図14Dにおける極大値の関係とほぼ一致していることが確認された。なお、D(λ)は、キャビティ増幅光の影響も多少受けるために最適な膜厚条件からは少しずれているが、好適な範囲内には収まっており、また、ピークの増減幅が小さいため影響は小さい。また、D(λ)のピークは140nmであり、D(λ)のピークは80nmである。したがって、表4から、D(λ)がピークになるときのD(λ)+D(λ)は80+130=210nmとなり、また、D(λ)がピークになるときのD(λ)+D(λ)は140+70=210nmとなる。よって、D(λ)+D(λ)が好適な膜厚条件を満たしていることが確認された。
【0150】
(実施例3)
図7に示すボトムエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンスを、表5に示すように半透過性層(第一の中間層3a)の膜厚を変化させて試作した。このとき、基板8の外側の表面に光拡散層9を設けたものと設けていないものを試作した。光拡散層9を設けたものにおいては、光拡散層9の光取り出し側の面と半透過性層との間の波長λにおける光学的距離(D(λ))が、第一の発光ユニット6aの発光ピーク波長(λ)の10倍以上になるように設計した(図3参照)。各素子について輝度計システムを用いて色度を測定し視野角特性(視野角依存性)を評価した。また、半透過性層の膜厚が同条件の素子について、光拡散層9の有無による光取り出し効率の向上を光取り出し倍率として評価した。なお素子の構成は表4に示すものとし、Ag半透過性層の膜厚をパラメータとして変化させた。視野角特性については下記で示される1931CIE表色系(x,y,z)を用いた1976CIE規格値(u’,v’)の視野角0°〜80°における(max−min)の値(Δu’,Δv’)を用いて評価した。この値が小さいほど視野角の依存性が小さく、幅広い視野角で発光を得ることができる。
【0151】
u’ = 4x/(−2x+12y+3)
v’ = 9y/(−2x+12y+3)
表5に、光拡散層9の有無による視野角特性及び光取り出し性の結果を示す。
【0152】
表5から、光拡散層9を設けていない場合、半透過性層のAg膜厚を厚くするにつれてマイクロキャビティ効果が強まり、特定方向の光強度が強くなるために、視野角の依存性が大きくなっている。光拡散層9を設けたものでは、(Δu’,Δv’)の値が小さくなり、視野角の依存性が抑制されている。この視野角依存性の抑制は、Agの膜厚が厚くなりマイクロキャビティ効果がかなり強くなったときにも見られる。このように光拡散層9を設けることにより、視野角特性が向上することが確認された。
【0153】
また表5から、光拡散層9を設けると、光拡散層9を設けない場合に比べて、光取り出し効率が向上することが確認された。これは、基板導波モード光を取り出すことによるものと考えられる。ただし、Ag膜厚が厚くなりマイクロキャビティ効果が強くなるほど基板に到達する配光パターンが正面方向へ集光するようなイメージとなるため、全反射自体が少なくなり見た目のゲイン(光取り出し性の向上)としては低くなる傾向にある。そのため、光拡散層9による光取り出し効率の向上は、半透過性層の厚みが薄い場合に顕著に現れることが確認された。
【0154】
【表5】
【符号の説明】
【0155】
1 第一の電極
2 第二の電極
3 中間層
4 発光層
4a 第一の発光層
4b 第二の発光層
5 発光源
5a 第一の発光源
5b 第二の発光源
6 発光ユニット
6a 第一の発光ユニット
6b 第二の発光ユニット
7 電荷補助層
8 基板
9 光拡散層
10 透明樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15