(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5698882
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】コンデンサ陽極体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/052 20060101AFI20150319BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
H01G9/05 K
H01G9/24 C
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-550960(P2014-550960)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2014065728
【審査請求日】2014年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-128000(P2013-128000)
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一美
(72)【発明者】
【氏名】矢部 正二
【審査官】
▲吉▼澤 雅博
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−154826(JP,A)
【文献】
特開2004−349658(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/086272(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/190887(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/04−9/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンと高酸素親和性金属とを含有する焼結体、
および
該焼結体中に一部が埋設されている線材
を有しており、
前記高酸素親和性金属がタングステンより高い酸素親和性を有する金属であり且つ焼結体中にタングステンに対して0.1〜3質量%含まれ、
前記線材がタンタルまたはニオブからなるものである、
コンデンサの陽極体。
【請求項2】
高酸素親和性金属が弁作用金属である請求項1に記載の陽極体。
【請求項3】
高酸素親和性金属がタンタル、ニオブ、チタンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の陽極体。
【請求項4】
焼結体は、ケイ素をさらに含有する請求項1〜3のいずれかひとつに記載の陽極体。
【請求項5】
焼結体中のケイ素の量が、タングステンに対して0.05〜7質量%である請求項4に記載の陽極体。
【請求項6】
タングステン粉と高酸素親和性金属粉とを含有する混合粉を、
線材を植立させて、成形し、
該成形体を焼成して焼結体を得ることを含み、
前記高酸素親和性金属がタングステンより高い酸素親和性を有する金属であり、
焼結体中のタングステンに対して高酸素親和性金属が0.1〜3質量%となるように混合粉中の高酸素親和性金属粉の量が調整され、
前記線材がタンタルまたはニオブからなるものである、
コンデンサの陽極体の製造方法。
【請求項7】
混合粉は、ケイ素粉をさらに含有する、請求項6に記載の陽極体の製造方法。
【請求項8】
高酸素親和性金属粉の酸素含有量が3質量%以下である、請求項6または7に記載の陽極体の製造方法。
【請求項9】
高酸素親和性金属粉は、その平均一次粒子径が、タングステン粉の平均一次粒子径の2倍以下である、請求項6〜8のいずれかひとつに記載の陽極体の製造方法。
【請求項10】
前記混合粉が、高酸素親和性金属粉を焼成および粉砕することによって得られる高酸素親和性金属造粒粉と、タングステン粉を焼成および粉砕することによって得られるタングステン造粒粉とを混合することによって調製され、
高酸素親和性金属造粒粉の粒径分布の範囲が、タングステン造粒粉の粒径分布の範囲の内側にあるか、 または
高酸素親和性金属造粒粉の粒径の最大値が、タングステン造粒粉の粒径の最大値の2倍以下である、請求項6〜9のいずれかひとつに記載の陽極体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかひとつに記載の陽極体を有するコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサの陽極体およびその製造方法に関する。より詳細に、本発明は、植え付けられた線材の植付け根元にくすみが無く、該線材が折れ難いコンデンサの陽極体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとして、タングステン粉の焼結体を陽極体として用いたものが知られている(特許文献2)。タングステン粉の焼結体を陽極体とする電解コンデンサは、それと同じ粒子径のタンタル粉を用い、それと同じ体積の陽極体を、それと同じ化成電圧で化成して得られる電解コンデンサに比較して、大きな容量を得ることができる。通常、陽極体として用いるために焼結体にリード線を植立させる。リード線にはタンタルまたはニオブの線材が一般的に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−307963号公報
【特許文献2】WO2012/86272
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】The Oxide HandBook、G.V.Samsonov、IFI/Plenum、1973、p85-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような線材を植立させたタングステン粉焼結体は、焼成時に生じる何らかの反応によって、線材の植付け根元にくすみが有ったり、線材が折れ易かったりして、生産歩留まりが低くなることがある。このような現象はタンタル粉やニオブ粉の焼結体では起きなかったことである。
本発明の目的は、植え付けられた線材が折れ難いコンデンサの陽極体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下のような態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0007】
〔1〕タングステンと高酸素親和性金属とを含有する焼結体、
および
該焼結体中に一部が埋設されている線材
を有しており、
前記高酸素親和性金属がタングステンより高い酸素親和性を有する金属であり且つ焼結体中にタングステンに対して0.1〜3質量%含まれ、
前記線材がタンタルまたはニオブからなるものである、
コンデンサの陽極体。
〔2〕高酸素親和性金属が弁作用金属である〔1〕に記載の陽極体。
〔3〕高酸素親和性金属がタンタル、ニオブ、チタンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つである、〔1〕または〔2〕に記載の陽極体。
〔4〕焼結体は、ケイ素をさらに含有する〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の陽極体。
〔5〕焼結体中のケイ素の量が、タングステンに対して0.05〜7質量%である〔4〕に記載の陽極体。
【0008】
〔6〕タングステン粉と高酸素親和性金属粉とを含有する混合粉を、
線材を植立させて、成形し、
該成形体を焼成して焼結体を得ることを含み、
前記高酸素親和性金属がタングステンより高い酸素親和性を有する金属であり、
焼結体中のタングステンに対して高酸素親和性金属が0.1〜3質量%となるように混合粉中の高酸素親和性金属粉の量が調整され、
前記線材がタンタルまたはニオブからなるものである、
コンデンサの陽極体の製造方法。
〔7〕混合粉は、ケイ素粉をさらに含有する、〔6〕に記載の陽極体の製造方法。
〔8〕高酸素親和性金属粉の酸素含有量が3質量%以下である、〔6〕または〔7〕に記載の陽極体の製造方法。
〔9〕高酸素親和性金属粉は、その平均一次粒子径が、タングステン粉の平均一次粒子径の2倍以下である、〔6〕〜〔8〕のいずれかひとつに記載の陽極体の製造方法。
〔10〕前記混合粉が、高酸素親和性金属粉を焼成および粉砕することによって得られる高酸素親和性金属造粒粉と、タングステン粉を焼成および粉砕することによって得られるタングステン造粒粉とを混合することによって調製され、
高酸素親和性金属造粒粉の粒径分布の範囲が、タングステン造粒粉の粒径分布の範囲の内側にあるか、 または
高酸素親和性金属造粒粉の粒径の最大値が、タングステン造粒粉の粒径の最大値の2倍以下である、〔6〕〜〔9〕のいずれかひとつに記載の陽極体の製造方法。
〔11〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかひとつに記載の陽極体を有するコンデンサ。
【発明の効果】
【0009】
一般に、タンタルやニオブからなる線材を太くすることによりまたは線材表面に蒸着膜を形成することにより、線材を折れ難くすることができると考えられている。しかし、線材を太くしたり、蒸着膜を形成したりすると、生産コストが上がるだけでなく、陽極体に占める線材の体積が増えて電解コンデンサの容量が減ることにもなる。
一方、本発明に係る陽極体は、線材を太くしたり、蒸着膜を形成したりすること無しに、植え付けられた線材が折れ難い。本発明の製造方法によれば、植付けられた線材を、低コストで確実に、折れ難くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る陽極体は、タングステンと高酸素親和性金属とを含有する焼結体、および該焼結体中に一部が埋設された線材を有するものである。該焼結体はタングステン粉と高酸素親和性金属粉とを含有する混合粉を焼成することによって得られる。
【0011】
焼結体に使用されるタングステン粉はタングステン金属粉である。タングステン粉の入手方法は特に限定されない。例えば、固形タングステン金属は、粉の形態で市販されているので、それを利用することができる。三酸化タングステン粉を水素気流中で各種の条件設定にて解砕することによって所望粒径のタングステン粉を得ることができる。タングステン酸やハロゲン化タングステンを水素やナトリウムなどの還元剤を使用して還元することによっても、タングステン粉を得ることができる。タングステン含有鉱物から直接または複数の工程を経てタングステン粉を得ることもできる。
【0012】
本発明に使用される原料タングステン粉は、酸素含有量が、好ましくは0.05〜8質量%、より好ましくは0.08〜1質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。
【0013】
タングステン粉は、その表面の少なくとも一部が、ホウ化、リン化および/または炭化されたもの、またはそれらのうちの少なくとも一つを含む混合物であってもよい。また、タングステンおよび該混合物は、その表面の少なくとも一部に窒素を含有していてもよい。
【0014】
タングステン粉は、その平均一次粒子径が好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.1〜0.7μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmである。タングステン粉は造粒粉であってもよい。タングステン造粒粉はタングステン粉を焼成・粉砕するなどして製造することができる。また、造粒粉は、一旦製造した造粒粉を、再度、焼成・粉砕するなどして製造してもよい。タングステン造粒粉の粒径の範囲は、篩分等により整えてもよく、好ましくは20〜170μm、より好ましくは26〜140μmである。本発明に用いられるタングステン造粒粉は造粒前のタングステン粉が焼結して成る多孔質粉であることが好ましい。
【0015】
焼結体に使用される高酸素親和性金属は、タングステンより酸素親和力の高いものである。酸素親和力が高い金属であるかどうかは、金属酸化物の生成自由エネルギーから判断できる。Ta
2O
5、Nb
2O
5、Al
2O
3、TiO
2、WO
3の298Kにおける生成自由エネルギーはそれぞれ−1970、−1770、−1580、−882、−763(×10
-6J/kg/mol)であるので、タンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン、タングステンは、この順で、酸化されやすい(非特許文献1)。
【0016】
さらに、焼結体に使用される高酸素親和性金属は、その酸化物が、陽極体の使用される環境において、化学的に安定であることが好ましい。そのため、高酸素親和性金属としては、安定な酸化被膜を形成する弁作用金属が望ましい。このような弁作用金属としては、タンタル、ニオブ、チタンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つが好ましく、タンタルまたはニオブがより好ましく、タンタルがさらに好ましい。
【0017】
高酸素親和性金属粉は、それの酸素含有量が好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。酸素含有量が少ない当該高酸素親和性金属粉を用いることによって、植え付けられた線材に折れがさらに生じ難くなる。
【0018】
高酸素親和性金属粉は、その平均一次粒子径が、タングステン粉の平均一次粒子径に対して、好ましくは2倍以下、より好ましくは1倍以下である。なお、本発明における平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察される100,000倍の画像に写る一次粒子を無作為に約10〜30個選び、それらの粒子径を測定し、該測定値を数基準で平均して得られる値、すなわち、数平均一次粒子径である。精度を求める場合には、より多くの個数の一次粒子について観察および測定を行って平均値を求めることができる。
【0019】
高酸素親和性金属粉は造粒粉であってもよい。該高酸素親和性金属造粒粉は当該高酸素親和性金属粉を焼成・粉砕するなどして製造することができる。また、造粒粉は、一旦製造した造粒粉を、再度、焼成・粉砕するなどして製造してもよい。本発明に用いられる高酸素親和性金属造粒粉は造粒前の高酸素親和性金属粉が焼結して成る多孔質粉であることが好ましい。
また、高酸素親和性金属造粒粉の粒径分布の範囲が、タングステン造粒粉の粒径分布の範囲の内側にあるか、または高酸素親和性金属造粒粉の粒径の最大値が、タングステン造粒粉の粒径の最大値の2倍以下であることがより好ましい。なお、本発明において造粒粉の粒径及び粒径分布は篩分により求めることができる。
【0020】
高酸素親和性金属の量は、焼結体中のタングステンに対して、0.1〜3質量%、好ましくは0.5〜3質量%、より好ましくは1〜3質量%である。
【0021】
本発明に係る焼結体にはケイ素がさらに含まれていてもよい。ケイ素を焼結体に含有させるためにケイ素粉が好ましく用いられる。ケイ素粉はタングステン粉と高酸素親和性金属粉とを含有する混合粉を調製する際に添加することが好ましい。ケイ素粉は、タングステン粉と同程度の数平均一次粒子径であることが好ましい。焼結体中のケイ素の量は、タングステンに対して、好ましくは0.05〜7質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0022】
本発明に用いられる線材は、タンタルまたはニオブからなるものである。なお、線材は、本発明の効果を損なわない限りタンタル及びニオブ以外の不純物成分が含まれていてもよい。前記不純物は、タンタルやニオブと合金を形成する合金成分であってもよい。線材は断面が円形を成したものであってもよいし、断面が薄い楕円形や直方形を成したもの(箔)であってもよい。線材は、例えば、混合粉を成形する際に、混合粉の成形体に埋設して植付けられている。線材はコンデンサ陽極体の陽極リード線として利用される。
【0023】
本発明の一実施形態に係るコンデンサの陽極体は、例えば、次のようにして製造することができる。
先ずタングステン粉と、高酸素親和性金属粉と、必要に応じてケイ素粉とを混ぜ合わせて、それらを含有する混合粉を得る。このとき、焼結体中のタングステンに対して高酸素親和性金属が0.1〜3質量%となるように、混合粉中の高酸素親和性金属粉の量を調整する。焼結体中のタングステンと高酸素親和性金属との質量比は、混合粉中のそれとほぼ同じであるので、前記範囲を目安に混合粉中の高酸素親和性金属粉の量を調整すればよい。次いでこの混合粉を加圧成形して成形体にする。加圧成形を容易にするためにバインダーを混合粉に混ぜてもよい。所望の成形密度などになるように粉量、圧力などの諸条件を適宜設定することができる。混合粉を加圧成形する際に前記線材を植立させる。次いで、線材が植付けられた成形体を焼成する。
【0024】
焼成時の温度は、好ましくは1000〜1700℃、より好ましくは1300〜1600℃である。焼成時間は、好ましくは10〜50分間、より好ましくは15〜30分間である。この範囲であれば、混合粉相互間の空間(細孔)が保て、十分な強度を有する焼結体が得られやすい。焼成時の雰囲気は特に制限されないが、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガス雰囲気や減圧とすることが好ましい。なお、焼成時に前述したホウ化、リン化または炭化、および/または窒素を含有させる処理を行うこともできる。
【0025】
従来の陽極体は、タングステン粉からなる焼結体に植付けられたタンタル、ニオブまたはそれらの合金からなる線材にくすみが有って、折れ易かったりすることがある。前記くすみは、線材の断面をXPS(X線光電子分光)で分析したところ、タンタルまたはニオブの酸化物が線材表面に厚く形成されたために生じていることが確認された。
線材を構成するタンタルまたはニオブは焼結体を構成するタングステンよりも酸素親和力が高いので、焼成時にタングステン粉に含まれる酸素が線材に移行して線材を脆くしているのではないかと推測する。そのため、前記くすみは折れやすさの指標となると考えられる。本発明の陽極体は焼結体に高酸素親和性金属を含有させている。焼成時に、タングステン粉から高酸素親和性金属粉に酸素が移行し、線材に移行する酸素の量を減らすことができ、その結果として線材にくすみや折れが生じ難くなるのであろうと推測する。
【0026】
以上のようにして得られる陽極体は、特に、電解コンデンサの陽極体として好ましく用いることができる。該陽極体を用いた電解コンデンサは公知の方法に従って製造することができる。例えば、先ず、線材を摘まんで焼結体を吊り下げ、焼結体を化成液に焼結体の線材植付け面が液面下丁度となるように浸け、次いで電解酸化して焼結体の外表面並びに細孔内面を誘電体層に化成する。誘電体層は化成電圧を調節することによって所望の耐電圧を有する厚さにすることができる。化成液として、例えば、硫酸、ホウ酸、シュウ酸、アジピン酸、リン酸、硝酸などの酸;またはそれら酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの電解質を含有する溶液が用いられる。化成液には本発明の効果を損なわない範囲で過酸化水素やオゾンなどの酸素を供給することができる酸化剤を含ませてもよい。好ましい酸化剤としては過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸水素カリウム等の過硫酸化合物が挙げられる。これらの酸化剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
前記の化成処理によって得られた部材を純水で洗浄し、次いで乾燥する。乾燥は当該部材に付着した水を蒸散できる温度および時間であれば特に制限はない。乾燥するために熱処理を行ってもよい。熱処理は、好ましくは250℃以下、より好ましくは160℃〜230℃で行う。この熱処理の後に、化成処理を再度行ってもよい。再化成処理は、1回目の化成処理と同じ条件にて行うことができる。再化成処理の後は、上記と同様に、純水洗浄、乾燥を行うことができる。
【0028】
上記のような方法で得られた部材に陰極を取り付ける。陰極は各種固体電解コンデンサに用いられているものが制限なく使用できる。陰極としては、例えば、無機または有機半導電体層が挙げられる。有機半導電体層としてはポリチオフェン誘導体などの導電性高分子層などが挙げられる。有機又は無機の半導電体層は、焼結体の外表面上だけでなく、焼結体内の細孔の内壁面上にも形成される。さらに前記有機又は無機の半導電体層上にカーボンペースト層や銀ペースト層、若しくは金属メッキ層などの導電体層を形成してもよい。
【0029】
上記陰極に陰極リードが電気的に接続され、該陰極リードが電解コンデンサの外装の外部に露出して陰極外部端子となる。一方、焼結体に植付けた線材(陽極リード線)を介して陽極リードが電気的に接続され、該陽極リードが電解コンデンサの外装の外部に露出して陽極外部端子となる。陰極リードおよび陽極リードの取り付けには通常のリードフレームを用いることができる。次いで、樹脂などによる封止によって外装を形成して電解コンデンサを得ることができる。このようにして作成された電解コンデンサは、所望によりエージング処理を行うことができる。このようにして得られる電解コンデンサは様々な電子回路、電気回路に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0031】
本実施例では、評価を以下の方法にて行った。
(くすみ数)
無作為に選択した50個の陽極体のリード線植付け根元のくすみを肉眼観察し、色が白くくすんだ陽極体の数を「くすみ数」とした。
【0032】
(折れ数)
植付け根元に、リード線に直交して断面0.5mm角のニッケル線を配置した。該ニッケル線を支点としてリード線を90度折り曲げた。次いでリード線を折り曲げ前の位置に戻した。この折り曲げ操作を3回行った。無作為に選択した50個の陽極体についてこの折り曲げ操作を行い、その間にリード線が折れた陽極体の数を「折れ数」とした。
【0033】
(元素分析)
ICPS−8000E(島津製作所製)を用いてICP発光分析によって陽極体中の元素含有量を決定した。また、酸素・窒素分析装置(LECO社製TC600)を用いて陽極体中の窒素量と酸素量をそれぞれ熱伝導度法と赤外吸収法により決定した。無作為に選択した3個の陽極体についての測定値の平均を算出した。
【0034】
(平均一次粒子径)
平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察される100,000倍の画像に写る一次粒子を無作為に30個選び、それらの粒子径を測定し、該測定値の数基準平均を算出した。
【0035】
実施例1
酸化タングステンを水素還元して平均一次粒子径93nmのタングステン粉を得、これを焼成・粉砕、及び篩分して粒径範囲10〜320μmを分取し、タングステン造粒粉を得た。
フッ化タンタル酸カリウムをナトリウム還元して平均一次粒子径90nmのタンタル粉を得、これを焼成、粉砕、および篩分して粒径範囲26〜53μmのタンタル造粒粉を得た。該タンタル造粒粉の酸素含有量は1.1質量%であった。
タングステン造粒粉にタンタル造粒粉0.1質量%を加え、混ぜ合わせて、混合粉を得た。直径0.29mmのタンタル線(市販品)をリード線として植立させるようにして混合粉を加圧成形して成形体を得た。該成形体を真空下1300℃で30分間焼成して焼結させて、1.0mm×1.5mm×4.5mmの焼結体の1.0mm×1.5mm面に長さ13.7mmのリード線が焼結体内部に3.7mm埋まり、焼結体外部に10mm出て植え付けられた陽極体を100個作製した。
作製した陽極体100個から無作為に50個を選択し、リード線のくすみ数および折れ数を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
実施例2〜5、比較例1〜2
表1に示すタンタル造粒粉添加量に変えた以外は、実施例1と同じ方法で陽極体を得、リード線のくすみ数および折れ数を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例6
市販の平均一次粒子径0.6μmのタングステン粉に、市販の平均一次粒子径1μmのケイ素粉0.1質量%を加えて混ぜ合わせた。該混合物を真空下1450℃で30分間加熱した。それを室温に戻し、解砕して粒径範囲26〜180μmを分取し、タングステン造粒粉(一部表面のタングステンにケイ素の一部が結合している)を得た。
フッ化タンタル酸カリウムをナトリウム還元して平均一次粒子径0.7μmのタンタル粉を得、これを焼成、粉砕、及び篩分して粒径範囲53〜75μmを分取し、タンタル造粒粉を得た。タンタル造粒粉の酸素含有量は0.35質量%であった。
タングステン造粒粉にタンタル造粒粉0.1質量%を加え、混ぜ合わせて、混合粉を得た。直径0.29mmのタンタル線(市販品;イットリウムを微量配合した結晶化防止線)をリード線として植立させるようにして混合粉を加圧成形して成形体を得た。該成形体を真空下1500℃で30分間焼成して焼結させて、1.0mm×1.5mm×4.5mmの焼結体の1.0mm×1.5mm面に長さ13.7mmのリード線が焼結体内部に3.7mm埋まり、焼結体外部に10.0mm出て植え付けられた陽極体を100個作製した。作製した陽極体100個から無作為に50個を選択し、リード線のくすみ数および折れ数を測定した。結果を表2に示す。
【0039】
実施例7〜10、比較例3〜4
表2に示すタンタル造粒粉添加量に変えた以外は、実施例6と同じ方法で陽極体を得、リード線のくすみ数および折れ数を測定した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
実施例11
ニオブインゴットを水素中で粉砕して平均一次粒子径0.5μmのニオブ粉を得、これを真空下で造粒し、解砕及び篩分して粒径範囲53〜75μmを分取し、ニオブ造粒粉を得た。ニオブ造粒粉の酸素含有量は1.8質量%であった。
実施例6と同じ方法で得たタングステン造粒粉に、ニオブ造粒粉0.1質量%を加え、混ぜ合わせて、混合粉を得た。直径0.29mmのニオブ線(ニオブインゴットからダイスを使用して順次細線化したもの)をリード線として植立させるように混合粉を加圧成形して成形体を得た。該成形体を真空下1450℃で30分間焼成して焼結させて、1.0mm×1.5mm×4.5mmの焼結体の1.0mm×1.5mm面に長さ13.7mmのリード線が焼結体内部に3.7mm埋まり、焼結体外部に10.0mm出て植え付けられた陽極体を100個作製した。作製した陽極体100個から無作為に50個を選択し、リード線のくすみ数および折れ数を測定した。結果を表3に示す。
【0042】
実施例12〜15、比較例5〜6
表3に示すニオブ造粒粉添加量に変えた以外は、実施例11と同じ方法で陽極体を得、リード線のくすみ数および折れ数を測定した。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
実施例16
ニオブインゴットを水素中で粉砕して平均一次粒子径0.5μmのニオブ粉を得、これを酸素が3体積%含有した窒素ガス中230℃に置いて酸化させた。酸化されたニオブ粉を真空下で造粒し、解砕及び篩分して粒径範囲53〜75μmを分取し、ニオブ造粒粉を得た。ニオブ造粒粉の酸素含有量は2.3質量%であった。
実施例15で使用したニオブ造粒粉を上記のニオブ造粒粉に変えた以外は実施例15と同じ方法で陽極体を得、リード線のくすみ数および折れ数を測定した。くすみ数は26、折れ数は14であった。
【要約】
タングステン粉と高酸素親和性金属粉とを含有する混合粉を、線材を植立させて、成形し、 該成形体を焼成して焼結体を得ることを含み、 前記高酸素親和性金属がタングステンより高い酸素親和性を有する金属であり、 焼結体中のタングステンに対して高酸素親和性金属が0.1〜3質量%となるように混合粉中の高酸素親和性金属粉の量が調整され、 前記線材がタンタルまたはニオブからなるものである、製造方法によって、コンデンサの陽極体を得る。該陽極体を用いて電解コンデンサを得る。