特許第5698888号(P5698888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698888
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】半径流蒸気タービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 1/06 20060101AFI20150319BHJP
   F01D 5/04 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   F01D1/06
   F01D5/04
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-517357(P2012-517357)
(86)(22)【出願日】2011年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2011062745
(87)【国際公開番号】WO2011149111
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2013年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2011-34506(P2011-34506)
(32)【優先日】2011年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-136574(P2010-136574)
(32)【優先日】2010年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504036981
【氏名又は名称】大保 輝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】大保 輝彦
【審査官】 西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02021078(US,A)
【文献】 米国特許第01910845(US,A)
【文献】 特開2005−042567(JP,A)
【文献】 特開平02−070903(JP,A)
【文献】 仏国特許発明第372797(FR,A)
【文献】 仏国特許発明第375623(FR,A)
【文献】 特開2003−003859(JP,A)
【文献】 特開2009−203984(JP,A)
【文献】 特開2006−144758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 1/06−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸に固定された回転板と、前記回転板に取り付けた動翼と、ケーシングに固定支持された前記回転板に対向する固定板と、前記固定板に取り付けた静翼と、前記回転板の動翼と前記固定板の静翼が半径方向に交互になるように配置され、作動蒸気の流れ方向が回転軸に対して外向きの半径方向となる作動蒸気流通路を備え、蒸気供給源から供給される蒸気を作動蒸気として前記作動蒸気流通路に流通させて前記回転板および前記回転軸を旋回させる半径流蒸気タービンにおいて、
前記回転板の前記回転軸近傍に開口部を設けることにより軸方向の蒸気供給路を確保せしめるとともに、前記蒸気供給路とは別に、前記作動蒸気流通路同士の間を導通して前記作動蒸気流通路間の気圧差を調整する作動蒸気圧調整孔を前記回転板または前記固定板に適宜設けたことを特徴とする半径流蒸気タービン。
【請求項2】
前記回転板が少なくとも1枚以上設けられ、各々の前記回転板の表裏両面に前記動翼が設けられ、前記固定板が各々の前記回転板の表裏それぞれに対向するように設けられ、前記作動蒸気流通路が少なくとも2つ以上形成されたものであり、前記蒸気が前記蒸気供給源から前記蒸気供給路を介して各々の前記作動蒸気流通路まで導かれることを特徴とする請求項1に記載の半径流蒸気タービン。
【請求項3】
前記回転板が前記回転軸の周囲に直接立設されたものであり、前記回転板の開口部が、前記回転板の前記回転軸近傍部分に穿設された開口である請求項1または2に記載の半径流蒸気タービン。
【請求項4】
前記回転板が、前記回転軸の径よりも大きな中心孔を持つドーナツ状の中空円板であり、複数本の回転板支持体によって前記回転軸に支持されたものであり、前記回転板の前記回転軸近傍に開口部が、前記回転板支持体間の間隙である請求項1または2に記載の半径流蒸気タービン。
【請求項5】
前記固定板が、前記回転軸との間に隙間をあけて前記ケーシングに固定支持され、前記固定板と前記回転軸との隙間が前記蒸気供給路の一部を形成する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半径流蒸気タービン。
【請求項6】
前記回転板の前記動翼および前記固定板の前記静翼が前記蒸気供給路よりも外周側に設けられたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半径流蒸気タービン。
【請求項7】
前記蒸気供給源から前記蒸気供給路を介した前記作動蒸気流通路までの前記蒸気の供給方向が、前記回転軸の一端側の方向からと、前記回転軸の他端側から方向からの2方向である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半径流蒸気タービン。
【請求項8】
前記動翼が、前記回転板の周回方向に複数枚、環状に取り付けられたものを1段分とし、前記回転板の同心円方向に1段以上取り付けた動翼群である請求項1乃至のいずれか1項に記載の半径流蒸気タービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸気タービンであって、更に詳しくは作動蒸気の流れ方向が回転軸に対して外向きに垂直な半径方向である、半径流蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
世界中の電力供給に蒸気の膨張エネルギーを利用した蒸気タービンが主に用いられている。そのタービン効率化のため更なる高温・高圧化が計られ、益々プラントの規模が大きく成り、ガスタービンとの複合化が計られ、コンバインド・サークルをなしている。一方、CO2削減のため、排熱の利用が求められている。排熱の例として、船舶のディーゼルエンジンからの排熱、工場の生産過程から排出される熱や、ごみ焼却のために排出される熱がある。これらの廃棄される熱エネルギーを利用し電気エネルギーに変換することが求められている。しかし、電力プラントで用いられている大規模な蒸気タービンをスケールダウンするだけでは、効率は逆に悪くなり、よって小規模の発電の需要に合った蒸気タービンが求められている。
一般的な蒸気タービンは回転軸に沿ってタービン入口を高圧にし、タービン出口を低圧にし、圧力落差を大きくし蒸気の膨張熱エネルギーを回転運動に変換する。そのため、蒸気の流れ方向は回転軸に平行な軸流型で本格的な発電所の需要に合わせ大型化が図られてきた。一方、圧力落差を回転軸に対して垂直方向、つまり半径(放射)方向にした、半径流型の蒸気タービンが知られている。半径流蒸気タービンは小型だが比較的効率の良いタービンであるが、大型化には向かなかった為、昨今市場から遠ざかっていた。しかし産業排熱エネルギーの利用の需要の必要性から再度見直されてきた。この半径流型蒸気タービンの代表としてユングストロームタービンがある(特許文献1、2、および3)。
特許文献等の技術が基にする半径流蒸気タービンを代表するユングストロームタービン(特許文献1の開示図3)の特徴は2本の回転軸の其々の先端に、回転板を取り付け、該2枚の回転板を対面させ、その2枚の回転板の間に中心部から外周部への外向き半径方向に流れる蒸気通路を設けている。該2枚の回転板の対面する面に其々の動翼群が取り付けられ、同心上の環状に並んだ動翼が半径方向に向けて交互に配置され、各回転板に取り付けられた其々の動翼群(環)は時計方向と反時計方向の相反する方向に互いに反発しながら回転する(図7)。
【特許文献1】特開2005−105854号公報
【特許文献2】特開2006−144758号公報
【特許文献3】特開2005−042567号公報
【特許文献4】米国特許 5071312号公報
【特許文献5】米国特許 7244095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
公知の半径流蒸気タービンのユングストロームタービン式は其々異なる方向に反発回転する2枚の回転板と、それらが固定された2本の回転軸からなる(特許文献1及び2)。また静翼が取り付けられている1枚の固定板と、動翼が取り付けられた1枚の回転板と該回転板が固定されている1本の回転軸からなる半径流蒸気タービンもあり(特許文献4及び5)、これら公知の半径流蒸気タービンの技術の特徴は1回転軸に1回転板が固定されているのが基本概念である。このため大きな出力を得るには限界があった。
特許文献3および4では上記の問題を解決するために回転板の両側面に動翼を取り付けて、回転板の両面に半径方向の蒸気通路を設け、複数の回転板を1本の回転軸に取り付けてある。
しかし、上記したいずれの特許文献1〜4においても、蒸気を半径方向の蒸気通路に導く経路に問題があった。上記したいずれの特許文献1〜4においても、蒸気の供給方法は回転軸心内部をくり抜いて蒸気通路を設けて、該回転軸の限られた表面積に小さな穴を設け、複数の回転板の両面にある蒸気通路に、回転軸内から直接半径方向に蒸気を供給することを図っている。しかし、この方法によれば、高温高圧の蒸気のために該回転軸が膨張し、軸受けに問題が生じるが、更に大きな現実的な問題は供給する蒸気の量に制約が掛り、半径方向に展開する大きな蒸気通路に軸表面に設けた小さな穴からは十分な蒸気を供給でないという致命的な問題があり、その結果大きな出力を得ることが出来ない。しかも制作の困難さや、そしてそのために制作コストが大きくなり、いまだに産業化が図れないという問題がある。
また、動翼の面積が大きくても小さくても、蒸気の漏れる回転板と固定板との隙間の通路面積はほぼ同じである。また動翼の面積と、蒸気の漏れる隙間の通路面積の比は、動翼の面積比が当然大きくなければ成らないが、特許文献3では微小の動翼を用い、蒸気漏れ損失が大きすぎ、現実には微小の動翼では回転板の数を増やしても実用化出来ないという問題がある。
半径流蒸気タービンの出力を上げるために動翼と静翼の多段化が図られている。半径方向の蒸気の通路で減圧・膨張される蒸気は速度を上げ、動翼に回転運動エネルギーを与える。しかし、急激な蒸気の膨張が発生すると、作動蒸気体積が急激に増え、動翼や静翼間を通過しきれなくなり、その結果蒸気の流れが阻害されて、逆に蒸気の流れが減速することがある。
本発明は以上の問題を鑑み、蒸気の供給方法を簡素化し、十分な量の蒸気を軸方向に増設したタービンユニット内に供給し、効率の良い現実的な半径流蒸気タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明の半径流蒸気タービンは、回転軸と、前記回転軸に接続された回転板と、前記回転板に取り付けた動翼と、ケーシングに固定支持された前記回転板に対抗する固定板と、前記固定板に取り付けた静翼と、前記回転板の動翼と前記固定板の静翼が半径方向に交互になるように配置され、作動蒸気の流れ方向が回転軸に対して外向きの半径方向となる作動蒸気流通路を備え、蒸気供給源から供給される蒸気を作動蒸気として前記作動蒸気流通路に流通させて前記回転板および前記回転軸を旋回させる半径流蒸気タービンにおいて、前記回転板の前記回転軸近傍に開口部を設けることにより軸方向の蒸気供給路を確保せしめたものである。
上記構成により、従来は困難であった蒸気の供給方法を改善し、十分な量の蒸気を軸方向に増設したタービンユニット内に供給することができる。
本発明の半径流蒸気タービンは、軸方向に回転板と固定板を複数セット設けることが好ましい。つまり、前記回転板が少なくとも1枚以上設けられ、各々の前記回転板の表裏両面に前記動翼が設けられ、前記固定板が各々の前記回転板の表裏それぞれに対向するように設けられ、前記作動蒸気流通路が少なくとも2つ以上形成されたものであり、前記蒸気が前記蒸気供給源から前記蒸気供給路を介して各々の前記作動蒸気流通路まで導かれるものである。
ここで、回転板の形状と、回転板において回転軸近傍に設けた開口部としては、以下のものがあり得る。
第1には、回転板が回転軸の周囲に直接立設されたものであり、回転板の開口部が、回転板の回転軸近傍部分に穿設された開口である。
第2は、回転板が、回転軸の径よりも大きな中心孔を持つドーナツ状の中空円板であり、複数本の回転板支持体によって回転軸に支持されたものであり、回転板の回転軸近傍に開口部が、回転板支持体間の間隙である。
なお、上記構成において、固定板は、回転軸との間に隙間をあけてケーシングに固定支持されたものとすれば、固定板と回転軸との隙間が蒸気供給路の一部を形成するものとなる。
ここで、回転板の動翼および固定板の静翼であるが、それらは、蒸気供給路よりも外周側に設けておくことが好ましい。つまり、回転板では回転軸近傍に開口部が設けられ、固定板では回転軸近傍には間隙が設けられて蒸気供給路となっているので、蒸気供給路を確保せしめるためにも動翼も静翼も当該部分には設けない構造とする。
また、本発明の半径流蒸気タービンにおける、蒸気供給源から前記蒸気供給路を介した前記作動蒸気流通路までの前記蒸気の供給方向は、前記回転軸の一端側の1方向のみからでも良く、また、前記回転軸の一端側の方向からと前記回転軸の他端側から方向からの2方向であっても良い。
次に、本発明の半径流蒸気タービンにおいて、軸方向に回転板と固定板を複数セット設けた場合には、前記蒸気供給路とは別に、前記作動蒸気流通路同士の間を導通して前記作動蒸気流通路間の気圧差を調整する作動蒸気圧調整孔を前記回転板または前記固定板に適宜設けることが好ましい。
上記構成により、軸方向に回転板と固定板を複数セット設けた場合に、各々の蒸気供給路の間に気圧差が生じている場合、各々の蒸気供給路間の気圧差を調整することができ、本発明の半径流蒸気タービンの運転をより安定することができる。
次に、本発明の半径流蒸気タービンにおいて、動翼、静翼の段数を調整することが可能である。つまり、動翼が回転板の周回方向に複数枚、環状に取り付けられたものを1段分とし、回転板の同心円方向に1段以上取り付けた動翼群とすることができ、固定板の静翼も動翼群に対応する静翼群とすれば良い。
【発明の効果】
【0005】
従来の半径流蒸気タービンで1回転軸に対して1回転板で出力を上げる場合、多段化しかなく、非常に高い技術を要する上高価であった。一方回転板の両面に動翼を設け、多くの半径方向の蒸気通路を設けても、蒸気の供給方法は主に回転軸をくり抜き、回転する軸内を通して蒸気を供給するために十分な供給が出来ず、現実的ではなかった。しかし、本発明では1回転軸に回転板と固定板からなるタービンユニットを複数増設することが出来ると同時に、軸に沿ってタービンユニットの内周部に蒸気を供給できるため、半径方向の蒸気通路にも十分な蒸気を供給できる。
本発明は現場や供給可能な蒸気条件に応じて回転板と固定板からなるタービンユニットを同じ回転軸に沿って増設することができるため、様々な用途の産業施設の要望や、供給できる蒸気の条件に対応した蒸気タービンを提供できる。例えば、船舶エンジンの排気熱や、ごみ焼却等で廃棄されていた熱を再利用し、効率の良い電気エネルギーに変換することが出来る。新たな化石燃料を用いることなく、様々な生産工程から大気に廃棄される産業排熱エネルギーを用いて、高効率で電気エネルギーに変換できるため、CO2の排出削減に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
第1図は、本発明の実施例1に係る半径流蒸気タービン100を説明する概念図である。
第2図は、回転軸に支持体を介して固定されたドーナッツ状回転板の一部を取り出して説明する概念図である。
第3図は、回転板に開口部を施し、蒸気通路を設けた概念図である。
第4図は、半径流蒸気タービンを回転軸に沿って回転板と固定板からなるタービンユニットを増設した概念図である。
第5図は、動翼と静翼からなる段落を単段にした概念図である。
第6図は、蒸気を片側方向より供給する場合の半径流蒸気タービンの2例の概念図である。
第7図は、従来技術であるユングストローム型タービンの動翼の異なる回転方向を示した概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。本発明は下記に示される実施の形態に限られるものではない。また、各図において、同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は、本発明を理解するために誇張して表現している場合もあり、必ずしも縮尺どおり精緻に表したものではない。
【実施例1】
【0008】
実施例1にかかる本発明の半径流蒸気タービン100の構成例について説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る半径流蒸気タービン100を説明する概念図である。側面方向から内部の構造を模式的に示した図となっている。
図1に示すとおり、半径流蒸気タービン100は、基本構成部材として、回転軸10と、回転板20と、固定板30と、ケーシング40を備えている。なお、作動原理を説明するために必要な部材のみ示し、その他の周辺部材や配管などは省略している。
回転軸10は、図示しない軸受によって回転自在に支持されている。回転軸10の素材は特に限定されないが、例えば、剛性の高い素材を採用し、その危険回転数が本発明の半径流蒸気タービンの最大回転数よりも高い剛性軸とすることが好ましい。剛性軸を採用することにより、共振の問題が発生せず隣り合う動翼同士が接触するという危険がない。
回転板20は、回転軸10に接続されており、後述するように作動蒸気流が内周側から外周側の半径方向へ流れることにより各々の動翼21で受ける力により回動する。回転板20は回転軸10とともに回転することとなる。
回転板20には動翼21が取り付けられている。動翼21は衝動翼または反動翼であり、内周部は衝動翼、外周部は反動翼というように位置によって異なるものとして良い。例えば、内周部の周速度は遅く内周部の動翼21については静翼31からの蒸気を衝突させることができるので衝動翼とし、外周部の周速度は速く外周部の動翼21については静翼31からの蒸気を衝突させることができないので反動翼とする。流路面積を出口に向かうに従って狭くしてあり、導入蒸気は外周部に行くにしたがって圧力降下すると共に加速される。この際、熱エネルギーを回転エネルギーに変換する作用により動翼に回転力を発生させる。動翼21は、回転板20の片面だけに設ける構成も可能であり、両面ともに設ける構成も可能である。ここでは、出力効率を向上させるため、回転板20の両面とも動翼21を設ける構成として説明する。
本発明の半径流蒸気タービン100では、動翼21の数は特に限定されないが、この構成例では、回転板20の周回方向に複数枚、環状に取り付けられたものを1段分(Stage)とし、回転板の同心円方向に複数段取り付けた動翼群として説明する。図1の構成例では動翼群は4段構成となっている。なお、回転板20において動翼21を設ける位置は、後述する開口部22が回転板20の回転軸近傍に設けられているので、開口部22よりも外周側に設けられている。なお、動翼21を1段のみ(Singe Stage)で構成した例については実施例2において述べる。
開口部22は、回転板20の回転軸近傍に設けられた開口であり、蒸気流が開口部22を軸方向に貫いて通過できる蒸気供給路を確保するために開けられた部分である。本発明の半径流蒸気タービン100では、後述するように、蒸気供給源(図示せず)から供給される蒸気は、各々の回転板20と固定板30の間に形成される半径方向(回転軸の直角方向)の作動蒸気流通路まで導く必要があるが、回転板20の回転軸近傍に設けられた開口部22は蒸気供給路となる。このように回転板20に開口部22を設けておくことにより、蒸気が軸方向に流れ、回転板20と固定板30を回転軸10に沿って増設しても、十分な作動蒸気をタービン内へ供給出来るために大きな出力を得ることができる。なお、蒸気の流れについては後ほど詳しく説明する。
開口部22の形状や設け方は、特に限定されないが、ここでは、2つのパターンを例として示す。
図2は、回転板20aと開口部22aの一例を示す図である。なお、図2には動翼を2段だけの一部を示してある。図2の例では、回転板20aは、内周に回転軸10の径よりも大きな中心孔を持つドーナツ状の中空円板であり、複数本の回転板支持体11によって回転軸10に支持されたものとなっている。この回転板20aの内周の回転軸近傍に開口部22aが設けられているが、この開口部22aは回転板支持体11の間隙となっている。蒸気はこの開口部22aを介して回転板20aを軸方向に貫いて通過することができる。図2で示されている柱は直線状であり、開口部22aは略矩形型であるが、開口部22aの形状は供給蒸気等の条件に合わせ、最適な形状にすることができる。
図3は、回転板20bと開口部22bの他の例を示す図である。なお、図3も動翼を2段だけの一部を示してある。
図3の例では、回転板20bは回転軸10の周囲に直接立設された円板となっており、回転板20bの開口部22bは回転板20bの回転軸近傍部分に穿設された開口となっている。つまり、この開口部22aは円形の回転板20bの内周の回転軸近傍に開けられた孔となっている。蒸気はこの開口部22bを介して回転板20bを軸方向に貫いて通過することができる。なお、図3で示されている開口部22bは楕円形であるが、開口部22bの形状は供給蒸気等の条件に合わせ、最適な形状にすることができる。
次に、固定板30を説明する。
固定板30はケーシング40に固定されており、各々の回転板20に対して対向するようにケーシングから延設されている。図1の構成例では5枚の固定板30が設けられ、4枚の回転板20と交互に配設されている。また、固定板30は、回転軸10との間に隙間が開くようにケーシングから延設されている。この隙間が後述する蒸気流通部32となっている。
固定板30には静翼31が設けられている。静翼31は、後述するように作動蒸気流が内周側から外周側の半径方向へ流れることにより各々の動翼21が力を受けやすいように各々の動翼21に対応するように設けられている。つまり、静翼31も中心側から外周側に向かって半径方向に複数取り付けられている。これら静翼31及び動翼21が固定板30及び回転板20の対向面において半径方向に交互に隣り合って設置されている。なお、固定板30はケーシング40に固定されているので回転はしない。
静翼31は、固定板30の片面だけに設ける構成も可能であり、両面ともに設ける構成も可能である。図1の例では、両端にある固定板30には静翼31が片面だけに設けられており、両端以外の固定板30には静翼31が両面に設けられている。なお、固定板30において静翼31を設ける位置は、後述する蒸気流通部32が固定板30の回転軸近傍に設けられているので、蒸気流通部32よりも外周側に設けられている。
静翼31の数は特に限定されないが、固定板30の周回方向に複数枚、環状に取り付けられたものを1段分(Stage)とし、固定板30の同心円方向に複数段取り付けた静翼群となり、図1の構成例では、静翼群は動翼群に対応して4段構成となっている。なお、静翼31を一段のみ(Single Stage)で構成した例については実施例2において述べる。
蒸気流通部32は、固定板30の回転軸近傍に設けられた開口であり、蒸気流が蒸気流通部32を軸方向に貫いて通過できる蒸気供給路を確保するために開けられた部分である。固定板30が、回転軸10との間に隙間をあけてケーシングに固定支持されており、この固定板30と回転軸10との隙間が蒸気流通部32である。この蒸気流通部32は、蒸気供給路の一部を形成する。
次に、ケーシング40を説明する。ケーシング40は特に限定されないが、回転軸10、軸受(図示せず)、回転板20、固定板30を収納する筐体であり、ケーシング40は図示しない固定台などに支持されている。ケーシング40にはインナーケーシングとアウターケーシングがある。
なお、ケーシング40は適宜、蒸気が漏れないようにシールされていることが好ましい。回転板20と静翼31、固定板30と動翼21の隙間や、回転軸10とケーシング40、蒸気流入口41の周囲から蒸気漏れを抑えるため、蒸気漏れ防止のフィンやシュラウド、またラビリンス42を設け、蒸気漏れ軽減策を図ることは述べるまでもない。
ケーシング40の一部には蒸気流入口41が設けられており、蒸気供給源(図示せず)から流入する蒸気の流入口となっている。蒸気流入口41はケーシング40の片側だけに設けて蒸気を片側から供給してもよく、また、ケーシング40の両側に設けて蒸気を両側から供給しても良い。
次に、作動蒸気流通路50について説明する。
作動蒸気流通路50は、対向し合う回転板20と固定板30の間に形成される作動蒸気の通り道であり、作動蒸気の流れ方向は内周側から外周側の半径方向となっている。蒸気供給源(図示せず)から供給される蒸気を作動蒸気流通路に流通させて回転板20および回転軸10を旋回させる。
なお、図1の構成例では、対向し合う回転板20と固定板30はそれぞれ回転軸10に対して垂直で両者が平行なものとなっており、作動蒸気流通路50の幅は半径方向に一定となっているが、対向し合う回転板20と固定板30のいずれかまたは両者が回転軸10に対して斜面となり、作動蒸気流通路50の幅が内周から半径方向外周に向かうにつれて広くなるようにすることも可能である。後述するように、作動蒸気流通路50に沿って半径方向外側に向かって流れる作動蒸気は、各段の静翼31と動翼21間を膨張しながら高速で流れるため、半径方向外側に向かって作動蒸気流通路50の幅が拡がるように設ける構成でも良い。
本発明の半径流蒸気タービン100では、作動蒸気流通路50を複数設けることができる。つまり、回転板が少なくとも1枚以上設けられ、各々の回転板の表裏両面に動翼が設けられ、固定板が各々の回転板の表裏それぞれに対向するように設けられ、作動蒸気流通路が少なくとも2つ以上形成されたものとすることができる。図1の構成例では、回転板20が4枚、固定板30が5枚設けられ、作動蒸気流通路50は8つ設けられた構成例となっている。
次に、作動蒸気圧調整孔51について説明する。
この構成例では、回転板20が4枚、固定板30が5枚設けられ、作動蒸気流通路50は8つ設けられた構成例となっているが、各回転板20の回転軸近傍付近に軸方向の蒸気供給路があるので、原理的には作動蒸気流通路50間において気圧差はない。しかし、作動蒸気流通路50間の多段化が図られると、蒸気供給源からの供給蒸気量が安定していない場合などでは段落部内部で蒸気膨張にムラが出る場合がある。急激な作動蒸気の膨張により蒸気体積流量が一気に増えて動翼21や静翼31間を通過しきれなくなり、半径方向の蒸気の流れを阻害し、蒸気の流れ速度が減速する場合がある。このように、作動蒸気流通路50間において気圧差が生じると安定運転にマイナスとなる。
そこで、この構成例では、蒸気供給路とは別に、作動蒸気流通路50同士の間を導通して作動蒸気流通路50間の気圧差を調整する作動蒸気圧調整孔51を回転板20または固定板30に適宜設けたものとしている。作動蒸気圧調整孔51を設けることにより、作動蒸気流通路50間に気圧差が生じていると作動蒸気圧調整孔51を介して蒸気が隣接する作動蒸気流通路50に導通し合い、蒸気体積流量の急激な増減を緩和調整し、蒸気詰まりの現象を緩和する事ができる。
次に、蒸気の流れについて整理する。
図4は、図1の構成において蒸気の流れを分かりやすく重ねた図である。
蒸気供給源(図示せず)で生成された蒸気が蒸気流入口41から導入される。この例では、蒸気流入口41がケーシング40の両側に設けられており、蒸気が両側から流入する仕組みとなっている。
導入された蒸気は、まず回転軸10の軸に沿って回転板20に向かい、回転板20の開口部21および固定板30の蒸気流通部31により形成された蒸気供給路を通過しつつ、回転軸10の近傍で回転軸10に沿って軸方向に流れて行く。蒸気供給路を流れる蒸気は、軸方向に流れる中、各々の作動蒸気流通路50に到達し、各々の作動蒸気流通路50に流入して行く。
作動蒸気流通路50に沿って外向け半径方向に流れる作動蒸気は、各段の静翼31と動翼21間を膨張しながら高速で流れ、各々の動翼21に回転運動エネルギーを伝え、回転板20を回転させるとともに回転軸5を回転させる。ここでは、各回転板20の両側において、半径方向に圧力段差のある複数の静翼31と動翼21との段落を、膨張しながら半径方向に通過し、各動翼21に回転運動エネルギーを与える。
ここで、回転板20の両面に動翼21が設けられ、作動蒸気流通路50が回転板20の両面に設けられているので、片面の場合に比べて約2倍の回転トルクを得ることができる。
図7などに示した従来の半径流蒸気タービンでは、静翼と動翼が作る複数の段落にできる半径方向の作動蒸気流通路がたった1筋しかなく、利用できる作動蒸気流通路が1つしかないが、図4に示す本発明の半径流蒸気タービンでは8筋の半径方向の作動蒸気流通路を利用することができ、出力を向上することができる。
【実施例2】
【0009】
実施例2は、動翼21を同心円状に1段のみ、静翼31を同心円状に1段のみ設けた、いわゆる単段(Single Stage)で構成した例について示す。この単段(Single Stage)のメリットは蒸気供給源から供給される蒸気の圧力が高くない場合でも運転が可能となる点である。
図5(a)は、回転板20を回転軸10に2枚固定し、これら回転板20を中心に挟むように固定板30を3枚取り付けた例である。回転板20には動翼21が1段のみ設けられており、固定板30には静翼31が1段のみ設けられており、単段(Single Stage)としてある。なお、回転板20、固定板30の枚数は、蒸気供給源から供給される蒸気の供給量に応じて複数にすることは可能である。
図5(b)に示したように、単段(Single Stage)構成の場合の運転も、実施例1と同様、蒸気供給源(図示せず)で生成された蒸気が蒸気流入口41から供給され、回転軸10の軸に沿って回転板20に向かい、回転板20の開口部21および固定板30の蒸気流通部31により形成された蒸気供給路を通過しつつ、回転軸10の近傍で回転軸10に沿って軸方向に流れて行く。蒸気供給路を流れる蒸気は、軸方向に流れる中、各々の作動蒸気流通路50に到達し、各々の作動蒸気流通路50に流入して行く。ここで、作動蒸気流通路50中の動翼21、静翼31は単段であるので、供給蒸気はあまり高温高圧でなくても良い。また、供給蒸気量が多ければ回転軸5に複数の単段の回転板20、固定板30を増設することができ、実施例1と同様、各々の回転板20には開口部22、固定板には蒸気流通部32を設けておくことにより、回転軸10に沿って蒸気通路が確保されているため大量の蒸気でも十分供給できる。
以上、本実施例2のように、ボイラーなどの蒸気供給源から供給される蒸気が高温高圧でない場合は、動翼21を同心円状に1段のみ、静翼31を同心円状に1段のみ設けた、いわゆる単段(Single Stage)で構成すれば適用することができ、設備等のコストも安くなり、様々な産業排熱エネルギーの利用が可能になる。
【実施例3】
【0010】
実施例3として、蒸気流入口41をケーシング40の片側のみに設け、蒸気供給源(図示せず)から流入する蒸気の流入口を一つとした構成例を説明する。
図6は、半径流蒸気タービンへ蒸気を回転軸10の一方向から供給する場合の構成を簡単に示した図である。
従来技術において、回転板の片面だけに動翼を取り付ける一般的な概念の半径流蒸気タービンでは、蒸気の供給は回転軸の一方向から回転板の片面に供給する場合が多い。その為に回転板に対して軸に平行な一方向のスラストの力が働くことになる。例えば、特許文献5では回転板に掛る軸方向のスラストを低減するために、回転板の内周部に小さな穴を設けているが、回転板のもう一方の面に抜けた蒸気は仕事をすることなく蒸気漏れ損失に繋がる。
一方、本発明の半径流蒸気タービンは回転板20の両面に動翼21を備え、さらに、回転板20の回転軸近傍に開口部22を設けることにより軸方向の蒸気供給路を確保せしめた構成となっており、蒸気流入口41を片側に設けた構成であっても、回転板20に対する軸に平行な一方向のスラストの力は殆ど掛らなく、両面に流れた蒸気は両面に取り付けた動翼に仕事をすることができる。
なお、図6の例では、作動蒸気流通路50の幅が内周から半径方向外周に向かうにつれて拡がるように構成されている。作動蒸気流通路50に沿って半径方向外側に向かって流れる作動蒸気は、膨張しながら半径方向外側に向かって流れるため作動蒸気流通路50の幅が拡がるように設けた構成例となっている。
図6(b)は、図6(a)で示した半径流蒸気タービンへの蒸気の供給方法として蒸気流入口41をケーシング40の片側のみに設けた構成を応用した例である。つまり、1つの蒸気流入口41に対して、左右2つに分け、それぞれの軸方向の蒸気供給路を確保せしめた構成となっている。
上記のように、本発明に係る半径流蒸気タービンは、回転板20の回転軸近傍に開口部22を設けることにより軸方向の蒸気供給路を確保せしめ、1つの回転軸10上に軸方向に複数セットのタービンユニットを簡単に増設することができ、半径方向の蒸気通路にも十分な蒸気を供給でき、蒸気供給源の仕様に応じて望みの出力を確保できる。
以上、本発明に係る半径流蒸気タービンにおける好ましい実施形態を図示して詳細に説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の半径流蒸気タービンは、現場や供給可能な蒸気条件に応じて回転板と固定板からなるタービンユニットを同じ回転軸に沿って増設することができるため、様々な用途の産業施設向けの蒸気タービンとして提供できる。例えば、小型化して船舶に搭載し、船舶エンジンの排気熱を利用する蒸気タービンや、ごみ焼却施設に導入し、ごみ焼却施設等で廃棄されていた熱を再利用する蒸気タービンとして利用できる。
図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6