(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698941
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】排気熱回収装置
(51)【国際特許分類】
F01N 5/02 20060101AFI20150319BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20150319BHJP
【FI】
F01N5/02 B
F01N5/02 G
F01N13/08 B
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-203101(P2010-203101)
(22)【出願日】2010年9月10日
(65)【公開番号】特開2012-57573(P2012-57573A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】松岡 弘二
(72)【発明者】
【氏名】神谷 佳寛
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−144595(JP,A)
【文献】
特開平09−303131(JP,A)
【文献】
特開2000−120425(JP,A)
【文献】
実開平05−041161(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排気流路に介装され、上流側からの排気を下流側に導く排気管と、前記排気と熱交換媒体との間で熱交換を行う排気熱回収部と、前記排気管を遮断して前記排気熱回収部を通る流れに切り換える切換バルブとを備えた排気熱回収装置において、
前記切換バルブは揺動して前記排気管の開口端を閉弁する弁体を有すると共に、前記切換バルブは前記弁体が前記排気による圧力を開弁方向に受け、かつ、前記弁体の自重により閉弁方向に揺動すると共に、前記弁体から排気上流側に向かって延設された延設部の先と磁着して、前記弁体を閉弁方向に引き寄せる磁石を設け、前記磁石を前記熱交換媒体により冷却することを特徴とする排気熱回収装置。
【請求項2】
前記排気管と同軸上に配置され前記排気管の外側を覆うアウタケースを備え、前記排気管と前記アウタケースとの間に前記排気熱回収部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の排気熱回収装置。
【請求項3】
前記排気熱回収部はリング状の熱交換媒体流路が形成されたジャケットを有し、前記磁石を前記ジャケット内の前記熱交換媒体流路に面して設け、前記弁体に前記磁石と対向する吸着部を設けたことを特徴とする請求項2に記載の排気熱回収装置。
【請求項4】
前記ジャケットに前記磁石を収納する収納部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の排気熱回収装置。
【請求項5】
前記ジャケットは磁性体で形成したことを特徴とする請求項4に記載の排気熱回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの排気流路に介装され、排気と熱交換媒体との間で熱交換を行い排気熱を回収する排気熱回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1にあるように、排気流路に介装され、内燃機関からの排気と内燃機関の冷却水等の熱交換媒体との間で熱交換を行う装置が知られている。この装置は、排気と熱交換媒体との間で熱交換を行う排気熱回収部を備えると共に、排気を下流の排気流路に導く非熱回収流路と、非熱回収流路から上流側で分岐され排気を排気熱回収部を介して下流の排気流路に導く熱回収流路と、下流側で非熱回収流路を弁体により遮断して、熱回収流路を通る流れに切り換える切換バルブとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−315370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした従来のものでは、切換バルブの弁体がばねにより非熱回収流路を遮断する閉弁方向に付勢されており、排気圧力によりばね付勢力に抗して弁体を揺動させて非熱回収流路を排気が通るようにしていた。
【0005】
このため、ばねが高温の排気に晒され、高温による劣化によりばね付勢力が減少してしまうおそれがあるという問題があった。また、弁体にはばね付勢力が常時閉弁方向に加わり、開弁時には、ばね付勢力に抗する背圧が常時弁体に加わっていなければならない。非熱回収流路を通る排気にはばね付勢力に応じた排気による背圧を必要とする。よって、切換バルブの開弁時に、背圧に応じた排気圧力が非熱回収流路に生じるため、排気熱回収部に一部の排気が流れてしまい、排気熱の過剰な回収の原因になる場合があるという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、ばねの劣化を招くことがなく、排気熱の過剰な回収を防止した排気熱回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を達成すべく、本発明は課題を解決するため次の手段を取った。即ち、内燃機関からの排気流路に介装され、上流側からの排気を下流側に導く排気管と、前記排気と熱交換媒体との間で熱交換を行う排気熱回収部と、前記排気管を遮断して前記排気熱回収部を通る流れに切り換える切換バルブとを備えた排気熱回収装置において、
前記切換バルブは揺動して前記排気管の開口端を閉弁する弁体を有すると共に、前記切換バルブは前記弁体が前記排気による圧力を開弁方向に受け、かつ、前記弁体の自重により閉弁方向に揺動すると共に、
前記弁体から排気上流側に向かって延設された延設部の先と磁着して、前記弁体を閉弁方向に引き寄せる磁石を設け、前記磁石を前記熱交換媒体により冷却することを特徴とする排気熱回収装置がそれである。
【0008】
前記排気管と同軸上に配置され前記排気管の外側を覆うアウタケースを備え、前記排気管と前記アウタケースとの間に前記排気熱回収部を設けた構成でもよい。その際、前記排気熱回収部はリング状の熱交換媒体流路が形成されたジャケットを有し、前記磁石を前記ジャケット内の前記熱交換媒体流路に面して設け、前記弁体に前記磁石と対向する吸着部を設けた構成としてもよい。また、前記ジャケットに前記磁石を収納する収納部を形成した構成としてもよい。更に、前記ジャケットは磁性体で形成した構成としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の排気熱回収装置は、磁石により弁体を閉弁方向に引き寄せ、磁石を熱交換媒体により冷却するので、高温による磁石の磁力の低下を招くことがなく、また、排気圧力により磁石の吸引力に抗して弁体を揺動して開弁すると、磁石による閉弁方向の作用力は小さくなるので、開弁時の弁体への排気による背圧が小さく、排気熱回収部に流れる排気を低減でき、排気熱の過剰な回収を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態としての排気熱回収装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、1は排気管で、排気管1の一端には図示しない内燃機関に接続される上流側の排気通路に接続される。排気管1は、排気管1よりも直径の大きな円筒状のアウタシェル2内に挿入されて排気管1の外側がアウタシェル2により覆われると共に、排気管1とアウタシェル2とは同軸上に配置され、排気管1の上流側はアウタシェル2から突出されている。また、排気管1は排気管1の下流側の開口端に向かってテーパ状に拡径されて装着部1aが形成されており、装着部1aはアウタシェル2の中程に配置されている。
【0012】
アウタシェル2の下流側はテーパ状に縮径されて、下流側の排気通路に接続されている。排気管1の外周とアウタシェル2の内周との間には排気熱回収部4が設けられている。排気熱回収部4は、排気管1の外周に装着された大径管6を備え、排気管1の外周と大径管6の内周との間には隙間が形成されると共に、大径管6が装着部1aの外周に嵌着されている。排気管1の管壁の一部と、大径管6の管壁の一部とが互いに接触するように形成され、接触箇所に複数の貫通孔8,10が形成されて、排気管1の内部が大径管6の外周側に連通されている。
【0013】
排気管1と大径管6との間には、リング状のジャケット12が挿入されている。
図2に示すように、ジャケット12は内部にリング状の熱交換媒体流路14を形成した多数の中空リング部材16を積層して形成されている。各中空リング部材16は所定の隙間を空けて配置され、
図1に示すように、各中空リング部材16の熱交換媒体流路14が2箇所で連通されると共に、ジャケット12に一対の接続管18,20が接続されている。
【0014】
一方の接続管18に熱交換媒体が供給されると、熱交換媒体は接続管18から各中空リング部材16の熱交換媒体流路14に流入し、熱交換媒体流路14を循環して他方の接続管20から流出するように構成されている。
【0015】
一対の接続管18,20は、アウタシェル2の外周に嵌着されてアウタシェル2の一方の端を閉塞する蓋部材22を貫通して、アウタシェル2の外部に延出されている。大径管6も蓋部材22を貫通して、アウタシェル2の外部に延出されている。
【0016】
ジャケット12の両側には、それぞれリング状のブラケット24,26が配置されて、ジャケット12が一対のブラケット24,26により挟持され、ジャケット12がアウタシェル2、大径管6に固定されている。
【0017】
貫通孔8,10側のブラケット24には、
図2、
図3に示すように、一部にアウタシェル2の内周と隙間28が形成されており、また、同様に、ジャケット12とアウタシェル2の内周との間にも隙間30が形成されている。
【0018】
一方、ブラケット24の隙間28と180度反対側に、反対側のブラケット26には、
図2、
図4に示すように、一部にアウタシェル2の内周と隙間32が形成されており、また、同様に、ジャケット12とアウタシェル2の内周との間にも隙間34が形成されている。
【0019】
本実施形態では、貫通孔8,10、アウタシェル2の内部、ブラケット24の隙間28、ジャケット12の隙間30、各中空リング部材16の隙間、ジャケット12の隙間34、ブラケット26の隙間32により熱回収流路36が形成されている。また、排気管1の内部に非熱回収流路38が形成されている。
【0020】
図1に示すように、排気管1の装着部1aには、切換バルブ40が取り付けられている。切換バルブ40は、排気管1の開口端に挿入される円筒部42を備えた支持部材44を有し、支持部材44は円筒部42に連接したテーパ部46を備えている。テーパ部46の内周面にはワイヤメッシュ48が取り付けられている。
【0021】
切換バルブ40は、支持部材44に設けられた支点軸50の廻りに揺動可能に支持された弁体52を備えている。弁体52には、テーパ部46側に向かって突出された円錐部54が形成されている。弁体52は、支点軸50の廻りに揺動して、円錐部54がワイヤメッシュ48の内周面に接触して、排気管1の開口端を閉塞するように形成されている。
【0022】
支点軸50は、車両に取り付けた際に、排気管1より重力方向上側に配置されると共に、支点軸50の軸方向が水平となるように配置されている。また、自重により、弁体52が支点軸50の廻りに、排気管1の開口端を閉塞する閉弁方向に揺動するように、支点軸50と弁体52の重心位置とが決められている。
【0023】
本実施形態では、弁体52に重り56を取り付けて、閉弁方向に揺動するようにしている。重り56は必要に応じて設ければよく、弁体52の自重により弁体52が支点軸50の廻りに揺動して排気管1の開口端を閉塞する際には、重り56を設ける必要はない。
【0024】
支点軸50に対して排気管1を間にして、排気管1より重力方向下側に、磁石58が配置されている。磁石58はジャケット12の内部に設けられており、最も下流側の中空リング部材16の隔壁が弁体52側に向かって円筒状に突出されて収納部60が形成されている。収納部60は下流側のブラケット26を貫通して形成されており、収納部60に円柱状の磁石58が収納されて、磁石58が熱交換媒体流路14に面して配置されている。ジャケット12は磁性材で形成されており、磁石58にはネオジウム磁石等の永久磁石が用いられている。磁石58は温度が約200度程度を超えると、磁力が大きく低下する。
【0025】
弁体52には、
図1、
図4に示すように、下側に伸ばされた吸着部62が形成されており、吸着部62は円錐部54の幅より狭い幅で、本実施形態では、一旦ジャケット12側に伸ばされてから垂直に形成されて、収納部60に対向するように形成されている。本実施形態では、弁体52が磁性体で形成されているが、少なくとも吸着部62を磁性体で形成すればよい。
【0026】
円錐部54がワイヤメッシュ48の内周面に接触して、排気管1の開口端を閉塞した際に、吸着部62が収納部60に接触するように、吸着部62や収納部60が形成されている。その際、磁石58の磁力により、磁石58が吸着部62を引き寄せて、円錐部54がワイヤメッシュ48に接触した閉弁状態を維持するように構成されている。
【0027】
また、弁体52は、自重により、円錐部54がワイヤメッシュ48の内周面に接触する方向に、支点軸50の廻りに揺動するが、その際、自重により、円錐部54がワイヤメッシュ48の内周面に接触するまで揺動するように構成するとよい。これに限らず、弁体52が、自重では、円錐部54がワイヤメッシュ48の内周面に接触する手前で止まるが、磁石58の磁力により吸着部62を引き寄せて、円錐部54をワイヤメッシュ48の内周面に接触させるようにすればよい。
【0028】
次に、前述した本実施形態の排気熱回収装置の作動について説明する。
まず、内燃機関からの排気が、上流側の排気流路を介して排気管1に流入する。そして、排気管1の装着部1aに流入し、排気の圧力が弁体52に作用するが、回転数が低いときのように排気の圧力が低いと、弁体52は磁石58の磁力により吸着部62を収納部60に引き寄せ、円錐部54をワイヤメッシュ48の内周面に接触させた状態を維持し、切換バルブ40は閉弁状態を維持する。
【0029】
よって、排気は、貫通孔8,10から熱回収流路36内に流入し、熱回収流路36内では、アウタシェル2の内部、ブラケット24の隙間28、ジャケット12の隙間30、各中空リング部材16の隙間、ジャケット12の隙間34、ブラケット26の隙間32を通り、ブラケット26の隙間32からアウタシェル2内に流入し、アウタシェル2から下流側の排気流路に排出される。
【0030】
図示しないラジエータ等から冷却水を用いた熱交換媒体が一方の接続管18に流入し、熱交換媒体はジャケット12の熱交換媒体流路14を流れて、他方の接続管20からラジエータ等に戻される。熱交換媒体流路14を流れる熱交換媒体と、熱回収流路36内を流れる排気との間で熱交換が行われ、熱交換媒体の温度が上昇し、排気の温度が低下する。また、熱交換媒体が熱交換媒体流路14を流れる際に、熱交換媒体流路14に面した磁石58を冷却する。
【0031】
一方、加速時や内燃機関の回転数が高いとき等の排気圧力が高いとき、その高い圧力の排気が排気管1に流入する。流入した排気の圧力が弁体52に作用し、排気の圧力が高いので、弁体52は磁石58の磁力や弁体52と重り56との自重に抗して、
図1に二点鎖線で示すように、支点軸50の廻りに揺動し、円錐部54がワイヤメッシュ48の内周面から離間して、切換バルブ40は開弁する。
【0032】
よって、排気は、排気管1内の非熱回収流路38、切換バルブ40を通って、直接、アウタシェル2内に流入し、下流側の排気流路に排出される。即ち、排気圧力が高いときには、切換バルブ40により、排気の流れが熱回収流路36から非熱回収流路38に切り換えられ、排気は排気熱回収部4を通ることなく、非熱回収流路38から下流側の排気流路に流出する。
【0033】
排気圧力により開弁されると、磁石58が吸着部62から離れ、弁体52を磁石58に引き寄せる吸引力が弱くなる。従って、開弁すると、支点軸50の廻りに弁体52を閉弁方向に揺動する作用力は、自重のみになるので、開弁状態を維持するために弁体52への作用力は小さくてよい。よって、排気の圧力が小さくても、弁体52を支点軸50の廻りに大きな角度で揺動でき、十分な開弁状態を維持できる。
【0034】
これにより、開弁状態を維持するための弁体52に作用する背圧は小さくてもよく、背圧に応じた非熱回収流路38の排気圧力も小さく、開弁時に、排気が貫通孔8,10から排気熱回収部4に流入するのを抑制できる。よって、排気熱回収部4での排気と熱交換媒体との間での熱交換が行われないので、過剰な排気熱の回収を防止することができる。
【0035】
また、磁石58は熱交換媒体流路14に設けられているので、磁石58が熱交換媒体で冷却され、磁石58が高温になるのを防止するので、高温による磁力の低下を招くことがない。
【0036】
以上本発明はこの様な実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0037】
1…排気管 2…アウタシェル
4…排気熱回収部 6…大径管
8,10…貫通孔 12…ジャケット
14…熱交換媒体流路 16…中空リング部材
22…蓋部材 24,26…ブラケット
36…熱回収流路 38…非熱回収流路
40…切換バルブ 44…支持部材
48…ワイヤメッシュ 50…支点軸
52…弁体 56…重り
58…磁石 60…収納部
62…吸着部