(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
送受波用の複数の第1の音響素子を配列してフェーズドアレイとして構成され、上空に異なる2以上の周波数の音響ビームを放射しかつ前記音響ビームからの散乱波を受信する送受波器と、
受波用の複数の第2の音響素子を配列してフェーズドアレイとして構成されて前記音響ビームからの散乱波を受信する、前記送受波器とは相互に異なる場所に配置された少なくとも2つの受波器と、
前記複数の第1の音響素子の各々への駆動信号を前記第1の音響素子ごとの位相差をつけて生成する駆動信号生成手段と、
前記複数の第1の音響素子で受信した信号を前記第1の音響素子ごとの位相差をつけて合成する第1の位相合成手段と、
前記受波器ごとに設けられ、対応する受波器の前記複数の第2の音響素子で受信した信号を前記第2の音響素子ごとの位相差をつけて合成する第2の位相合成手段と、
前記駆動信号生成手段、前記第1の位相合成手段及び前記各第2の位相合成手段における前記位相差を制御することによって、前記音響ビームの発射方向を制御し、受信する前記散乱波の入来方向を制御し、上空の任意の測定位置からの前記散乱波に基づく受信信号のみを抽出して抽出された受信信号におけるドップラーシフト成分を抽出し、抽出されたドップラーシフト成分に基づいて前記測定位置における風向及び風速を算出する制御手段と、
を有し、
前記音響ビームの周波数を掃引しつつ、前記発射方向及び前記入来方向を制御することにより、第1の高度での前記風向及び風速の算出には第1の周波数のみを使用し、前記第1の高度よりも高い第2の高度での前記風向及び風速の算出には前記第1の周波数よりも低い第2の周波数のみを使用する、フェーズドアレイ型のドップラーソーダーシステム。
前記送受波器からの距離が第1の距離以下である第1の群の複数の前記受波器と、前記送受波器からの距離が前記第1の距離を超える第2の群の複数の前記受波器と、を備え、
しきい値高度以下の高度での前記風向及び風速の算出には前記第1の群の複数の受波器で得られた受信信号を使用し、前記しきい値高度を超える高度での前記風向及び風速の算出には前記第2の群の複数の受波器で得られた受信信号を使用する、請求項1に記載のドップラーソーダーシステム。
前記観測位置において前記音響ビームが収束するように前記駆動信号生成手段における前記位相差を制御し、前記観測位置を収束点として該収束点からの散乱波を同相で合成するように前記第1の位相合成手段及び前記各第2の位相合成手段における前記位相差を制御する、請求項1または2に記載のドップラーソーダーシステム。
前記送受波器及び前記各受波器の各々の配置位置に関するデータを前記制御手段に供給する位置情報供給手段と温度情報を表すデータを前記制御手段に供給する温度情報供給手段とをさらに備え、前記制御手段は前記位置情報供給手段及び前記温度情報供給手段から入力した前記データに基づいて、前記音響ビームの位置合わせ及び前記風向及び風速の算出における補正計算を実行する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のドップラーソーダーシステム。
【背景技術】
【0002】
上空の風向や風速を例えば高度ごとに測定するために用いられるドップラーソーダーはは、音波を上空の大気中に向けて放射し、気温躍層や気温変動領域に起因する密度の不連続や揺らぎなど、大気の音響特性の不連続または変動箇所で発生する微弱な反射波あるいは散乱波を受信する。そして、受信信号における周波数のドップラーシフト量を求めることによって、その受信信号に対応した反射または散乱を生じさせた密度変動領域の移動速度、すなわちその個所における風向・風速を算出する。音波の送信から受信までの時間は、密度変動領域の高度に依存するから、所望の高度ごとに測風を行うことができ、この場合、1台の受波器により風速の1成分を求めることができる。このようなドップラーソーダーは、上空大気についての一般的な観測のほかに、例えば、ウィンドシアやダウンバースト、後方乱気流の発生の監視などのために、飛行場の滑走路周辺などに配置したり、あるいは、風力発電設備の立地調査などに使用することができる。
【0003】
ドップラーソーダーによる上空の風向及び風速の観測方法として、音波の放射と受信とを同一の1か所で行うモノスタティック方式と、1か所で音波を放射しつつ複数個所の音波を受信するバイスタティック方式とがある。
【0004】
1か所で音波の放射と受信とを行うモノスタティック方式の場合、ドップラーシフト量からは視線方向での密度変動領域の移動速度しか分からないので、一方向に音波を放射した結果からだけでは、風向・風速を決定することができない。そこで、1か所から3方向以上に音波(音響ビーム)を放射し、それぞれの方向でのドップラーシフト量を求めて上空での風向・風速を決定する。このとき、上空では各方向への音響ビームが相互に離れた位置を通過することになるので、上空の同一高度面では風向・風速が一定である、という仮定が必要となる。平坦な地形の上空では、ほぼこの仮定が成り立っているものの、起伏が大きかったりする複雑な地形の上空では、この仮定が成立せず、正しい計測を行うことができない。また、この仮定の下では、小スケールでの突風など瞬時に起こる風速の変化を捉えることが難しい。
【0005】
特許文献1、特許文献2及び非特許文献1には、音波の送受波器としてフェーズドアレイ型のものを使用することによって、一か所から複数方向に音響ビームを放射し、各方向からの反射波あるいは散乱波を受信できるようにした、モノスタティック方式のフェーズドアレイ型ドップラーソーダーが開示されている。
【0006】
上述したモノスタティック方式が抱える課題を解決するために、バイスタティック方式では、ある1か所に送受波器を設置して音響ビームの放射と反射波あるいは散乱波の受信とを行うとともに、これとは別の2か所以上にマイクロフォン受波器を設けて反射波あるいは散乱波の受信を行い、計3方向以上でのドップラーシフト量を求めて高度ごとの風向・風速を決定する。バイスタティック方式では、通常、音響ビームの放射方向は固定しておくので(例えば鉛直方向)、受信専用のマイクロフォン受波器から見たとき、高度ごとに反射波あるいは散乱波の入来方向が異なることになる。そこで、風向・風速の高度分布を求めるために、比較的広い指向性を有するマイクロフォンを使用することとなって、ノイズの影響を受けやすくなり、受信感度の方向依存性に起因して高度の分解能が悪くなる。さらにバイスタティック方式の場合、用途の一つとして必要とされる設置場所が上空の風向風速が一様でない丘陵や山岳地帯などの複雑地形地域であるために送受波器やマイクロフォン受波器を同一標高に配置できない場合、標高差に対応した補正計算を行わないと計測に誤差が生ずる。
【0007】
モノスタティック方式、バイスタティック方式のいずれにおいても、放射される音響ビームは上空に伝搬するにつれて拡がるので、距離レンジ(高度)が大きくになるにつれて、水平面内での空間分解能が劣化する。また、音響ビームを鉛直方向ではなく斜め方向に放射する場合には、計測された風向・風速に対応する位置が、高度に応じて水平方向にずれるという問題も生じる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示す本発明の実施の一形態のフェーズドアレイ型ドップラーソーダーシステムは、上空における風向及び風速を求めるために用いられるバイスタティック型のものであり、大きく分けると、送受波ユニット110と、送受波ユニット110とは相互に異なる2以上の場所にそれぞれ配置された受波ユニット130a,130bと、送受波ユニット110及び受波ユニット130a,130bに接続してこれらのユニットを制御し測風計算(風向及び風速の計算)を行う制御手段としてのCPU(中央処理装置)100と、送受波ユニット110及び受波ユニット130a,130bのそれぞれの配置位置に関する情報をCPU100に供給する位置情報供給部140と、を備えている。送受波ユニット110及び受波ユニット130a,130bがそれぞれ既知の点に配置されているような場合や、これらユニット間の相対的な位置関係が固定されている場合には、その位置関係に関する情報を固定情報としてCPU100内に保持しておくことができるので、位置情報供給部140を設ける必要はない。また、環境温度によって音速は変化し、その結果、波長も変化する。波長が変化すると、位相合成技術によって形成される音響ビームの角度がわずかに変化する。そこで本実施例では、環境温度を示す情報をCPU100に供給する温度情報供給部141を設けてもよい。CPU100は、温度情報供給部141から入力する温度情報に基づいて、風向・風速の演算式を補正し、温度に依存した音響ビームの角度の変化の寄与を補償して測風計算を実行する。
【0018】
送受波ユニット110は、フェーズドアレイ型の送受波器(T−R)111を備えている。送受波器111では、電気信号である駆動信号に応じて音波を放射し、かつ外部からの音波を受信して電気信号に変換する音響素子が例えばM行N列(M、Nはいずれも2以上の整数)で配置している。そのような送受波器としては、例えば、特許文献1に記載されているものを使用することができる。以下の説明では、
図2に示すように、送受波器111は、音響素子150を16行16列で配置し、そのうち、4隅部のそれぞれにおいて10個ずつ音響素子を取り除くことにより、8角形の領域内に216個の音響素子150が配置されているものであるとする。送受波器111の差し渡しは例えば約100cmである。
【0019】
また送受波ユニット110は、送受波器111からの音響ビームの放射のために、送信制御部112、RAM(ランダムアクセスメモリ)113、位相差信号発生部114、フィルタ115、送信波行列切替部116及び送信増幅器117を備えている。このドップラーソーダーシステムでは、CPU100が、各音響素子に印加されるべき送信波形信号をディジタルデータとして生成しており、RAM113は、そのような送信波形信号を保持するルックアップテーブルとして使用される。すなわち、RAM113は、CPU100から送られてきた送信波形信号に基づいて、各音響素子150に駆動信号として印加されるべき波形データを、位相差を有するデジタルデータとして格納する。位相差信号発生部114は、デジタル/アナログ変換器(D/A)またはクロック発生器として構成されており、RAM113から波形データを読み出して、各音響素子に駆動信号として印加すべきアナログ信号(またはクロック信号)を生成する。フィルタ115は、位相差信号発生部114からのアナログ信号あるいはクロック信号を波形整形して、送信波行列切替部116に供給する。
【0020】
本実施形態においては、上述したように送受波器111での列ごとあるいは行ごとのように、数乃至十数のグループに各音響素子を分類し、音響ビームの放射方向などに応じて同一グループ内の音響素子を同一の位相差で駆動することに替えて、送受波器111に含まれる216個の音響素子のそれぞれに対して個別に位相差を有する合計216種類の駆動信号を生成してもよい。その場合は、上空の任意の空間を照射できる。送信波行列切替部116は、音響ビームを放射したい方向に合わせ、同一の位相差で駆動される音響素子の組合せを選択するために、音響素子の配列の切り替えを行う。この切り替えは、実際には、音響素子ごとに設けられた信号線に対して、どの位相差の信号を供給するかのマッピングを行うことにより行われる。そして、このような音響素子ごとの信号線ごとに送信増幅器117が設けられている。各送信増幅器117は、送信波行列切替部116からの信号を電力増幅し、音響素子ごとに設けられた分離回路118を経て、それぞれの音響素子を駆動する。送信制御部112は、CPU110で指定された方向に対して音響ビームが放射されるように、RAM113、位相差信号発生部114、フィルタ115及び送信波行列切替部116を制御する。
【0021】
分離回路118は、送受波器111に設けられる音響素子における送信と受信の切り替え及び分離を行うものであり、送信増幅器117からの信号を対応する音響素子に印加するとともに、音響素子で受信した信号を音響素子ごとに設けられている受信増幅器119に送る。
【0022】
さらに送受波ユニット110は、各音響素子で受信した信号を処理するために、音響素子ごとに設けられている受信増幅器119の他に、さらに、受信波行列切替部120、フィルタ121、アナログ/デジタル変換器(A/D)122、位相合成部123及び受信制御部124を備えている。
【0023】
送受波器111は、放射した音響ビームからの散乱音波をできるだけ効率よく受信する必要がある。そこで、受信波行列切替部120は、同一の位相差で受信信号を合成することとなる音響素子の組合せを選択することによって、送受波器111が散乱音波を受信する際の指向性を制御し、最大感度方向(すなわち受波音響ビームの方向)を所望の方向とするために、音響素子の配列の切り替えを行う。この切り替えは、実際には、それぞれの受信増幅器119において増幅された各音響素子からの信号のうち、同一の位相差で処理しようとするものを選択してその選択したものを加算合成することを、複数の位相差のそれぞれごとに実行することによって行われる。
【0024】
フィルタ121は、受信波行列切替部120からの信号を波形整形し、アナログ/デジタル変換器122は、波形整形された信号を、デジタル信号に変換する。位相合成部123は、所望の方向からの散乱音波を抽出するように、アナログ/デジタル変換器122からの各信号を位相差をつけてサンプリングして合成して合成受信信号としてCPU100に出力する。言い換えれば、位相合成部123は、フェーズドアレイ型送受波器における全体としての受波音響ビームの感度を形成する。受信制御部124は、CPU100で指定された方向からの散乱波を受信するように、受信波行列切替部120、フィルタ121、アナログ/デジタル変換器122及び位相合成部123を制御する。
【0025】
受波ユニット130a,130bは、送受波ユニット110から音響ビームの放射機能を除いたものに相当し、フェーズドアレイ型の受波器(R)131を備えるとともに、送受波ユニット110におけるものと同等の受信増幅器119、受信波行列切替部120、フィルタ121、アナログ/デジタル変換器122、位相合成器123及び受信制御部124を備えている。受波器131は、外部からの音波を受信して電気信号に変換する音響素子が例えばM’行N’列(M’、N’はいずれも2以上の整数)で配置している。そのような受波器としては、上述の送受波器111と同様のものであるが受波機能しか備えていないものを使用することができる。設けられる音響素子の数は、送受波器111と受波器131とで同一であってもよいし、異なっていてもよい。以下の説明では、送受波器111と同様に、例えば、8角形の領域内に216個の音響素子が配置されている受波器を使用するものとする。
【0026】
次に、このようなフェーズドアレイ型ドップラーソーダーシステムの動作について説明する。
【0027】
同一直線上にはない3点に送受波ユニット110及び受波ユニット130a,130bが配置されているものとし、また、風向及び風速を計測しようとする上空の1点を測定位置とする。まずCPU100は、送受波器111から放射される音響ビームが測定位置を向き、かつ、送受波器111及び各受波器131において散乱音波を受信する際に受波音響ビームが測定位置の方を向くように、送受波ユニット110及び受波ユニット130a,130bにおける音響素子ごとの位相差を設定する。そして、CPU100は、音響ビームにおける音波の周波数を設定し、その設定された周波数に対応する波形データを送受波ユニット110のRAM113に書き込む。その結果、位相差信号発生部114、フィルタ115及び送信波行列切替部116によって位相合成技術が適用され、送信増幅器117を介して送受波器111の各音響素子が駆動され、先に設定した測定位置の方向に音響ビームが放射される。
【0028】
この音響ビームは、大気における密度変動領域によって散乱されて送受波器111及び各受波器131で受信される。このとき、受信波行列切替部120、フィルタ121、アナログ/デジタル変換器122及び位相合成部123によって実現される位相合成技術により、送受波器111及び各受波器131における受信音響ビームの方向が測定位置の方向に向けられており、その結果、測定位置で散乱された音波に基づく受信信号が、送受波ユニット110及び受波ユニット130a,130bからCPU100に出力される。CPU100は、各受信信号に対してFFT(高速フーリエ変換)を適用することなどによって散乱音波におけるドップラーシフト成分を求めてドップラー速度を抽出し、3方向(送受波ユニット110及び受波ユニット130a,130bの各々での受信音響ビームの方向)でのドップラー速度から、測定位置での風向及び風速を計算する。なお、送受波器111及び各受波器131で受信する音波には、測定位置以外からの散乱音波も含まれている可能性があるが、音波の往復伝搬時間を利用して、測定位置からの音波のみを捕捉することができる。
【0029】
同一地点での鉛直方向での風向及び風速分布を調べるためには、測定位置の平面位置は同じであって高度のみが異なるように音響ビームの放射方向及び受信音響ビームの方向を変えながら、すなわち、ビームスキャンニングを行いながら、音響ビームの放射と散乱音波の受信とを繰り返し実行して、高度別の測定結果を得るようにすればよい。ビームスキャンニングを行って測定を行うことにより、特定高度でのみ放射音響ビームと受信音響ビームとが交差するので、測定高度の分別がよくなり、データ取得効率と測風精度が向上する。
【0030】
なお、ビームスキャンニングを行う場合、音響ビームの放射方向を鉛直方向からはずれた斜め方向とすると、周囲への音漏れなどが生ずることがある。そこで、送受波器では常に鉛直上方に音響ビームを放射し、鉛直上方からの散乱波を受信するように、送受波器とは異なる場所に設けられる受波器において、受信音響ビームの向きを測定高度に応じて変化させるビームスキャンニングを行うようにしてもよい。この場合は、送受波器の位置の上空での風向・風速しか求めることができないから、任意の地点の上空での風向・風速を求めようとする場合には、送受波器及び各受波器の全てにおいてビームスキャンニングを行うことになる。
【0031】
ここで、任意の地点の上空での風向及び風速の鉛直分布を求めるためのビームスキャンニングについて、
図3を用いてさらに説明する。以下では説明のため、送受波ユニットを送受波器T−Rで代表して示し、2つの受波ユニットをそれぞれ受波器Rで示している。バイスタティック型の測定において、送受波器の位置の鉛直方向に限られない任意の位置での風向及び風速を求めようとする場合、送受波器から放射される音響ビームの方向を変化させる、すなわち放射音響ビームにおいてビームを振ることが必要である。音響ビームの周波数は同一でもよいが、後述するように、高高度ほど低い周波数の音波を用いることが好ましい。このとき、単一指向性であって最大感度方向を変化させることができない受波器Rを使用するとすると、受波器Rは、送受波器T−Rからの等距離の位置(図において「従来の切り取り散乱体」と表示)からの散乱音波を受信することとなり、高度によって水平方向にずれた位置からの散乱音波を受信することになる。
【0032】
これに対し、受波器における受信音響ビームの方向も、送受波器からの放射音響ビームでのビームスキャンニングに合わせて変化させることにより、
図3において太い破線で示すように、任意の地点の上空の例えば高度50mから100mまでの範囲での正確に鉛直方向の範囲内での風向及び風速を高度ごとに求めることができるようになる。もちろん、ビームスキャンニングにおけるビームを振る角度範囲を変化させることによって、所望の高度範囲での風向及び風速の測定を行うことができる。
【0033】
次に、このフェーズドアレイ型ドップラーソーダシステムにおける送受波器及び受波器の配置について説明する。
図4は、飛行場においてウィンドシアやマイクロバースト、後方乱気流などの監視を行うことを対象とした場合の、送受波器及び受波器の配置の一例を示している。
【0034】
滑走路300の両端の外側に、運航する航空機に対する障害とならないように、図示A,Bで示されるように2セットのフェーズドアレイ型ドップラーソーダシステムが配置されている。滑走路の長さに応じ、2つのドップラーソーダーシステムは、送受波器T−Rの間隔で示して約1500〜3000m離れている。各ドップラーソーダーシステムでは、送受波器T−Rと2つの受波器Rとが、例えばそれぞれが正三角形の頂点を占めるように、相互に約100mずつ離れて配置している。このような構成であれば、概ね、送受波器T−Rと2つの受波器Rとによって構成される三角形の内部やその近傍の任意の地点の上空での任意の高度における風向及び風速を測定することが可能になる。また、必要に応じて、図示点線で示すように、送受波器T−Rや受波器Rの設置位置を変更することができる。
【0035】
このようにフェーズドアレイ型ドップラーソーダーシステムを配置することにより、例えば空港では、滑走路直上のウィンドシア領域の監視を行うと同時に、大型航空機の主翼が特に滑走路の両端周辺の上空に引き起こす後方乱気流を監視することが可能になる。
【0036】
また本発明に基づくフェーズドアレイ型ドップラーソーダーシステムの適用例として、山地などの複雑な地形の上空において、空間的に離れた複数の点での風向及び風速を、地上の固定された地点からリモートセンシングによって監視するものがある。この例では、例えば風力発電機の設置を予定する複数の点での風況を調べることができる。
【0037】
本発明では、フェーズドアレイ型の送受波器及び受波器を使用するので、放射される音響ビームや受信音響ビームを特定の位置に収束させることができる。そこで
図5(a),(b)に示すように、フェーズドアレイ型送受波器において球面に沿って音響素子を配置し、これらの音響素子を同一位相で駆動したとすると、音響ビームはその球面に対応する球の中心の位置を焦点としてその焦点で収束することになる。受波器の場合も同様に、球面に音響素子を配置しそれらの音響素子からの受信信号を同一位相で合成したとき、球面に対応する球の中心の位置を音波を最も感度良く受信することになる。そこで、本発明では、送受波器や受波器において、測定したい空間位置(高度及び方位)において焦点を結ぶように、凹面に音響素子を配置し、放射音響ビームや受信音響ビームがその空間位置で収束するようにしてもよい。
【0038】
あるいは、同じく
図5(a),(b)に示すように、音響素子自体は平面に配置した上で、凹面に配置したものと同様の効果が生じて焦点で音響ビームが収束するように、音響素子に対して位相差をつけて駆動信号を供給し、位相差をもって受信信号を合成するようにしてもよい。位相差をつけて音響素子を駆動した結果、見掛け上、凹面である仮想放射面に音響素子が配置したかのような効果が得られる。その場合、位相差を調整することにより、ビームの収束高度を変えたり、ビームが収束する場所の水平方向の位置を変えたりすることができる。
【0039】
このような構成により、送受波器や受波器からの距離が大きくなる高い高度の位置においても、空間分解能を低下させることなく、風向や風速の測定を行うことができるようになる。
【0040】
ところで、放射される音響ビームにおける音波の周波数が低い場合、音波の減衰は小さいもののドップラーシフト量の計測精度が低くて測風精度も低くなり、かつ空間分解能も低くなる。これに対して音波の周波数が高い場合には、音波の減衰が大きくなるものの、測風精度及び空間分解能が向上する。一般に上空の風向及び風速の計測を行う場合、地表により近い低高度について、より正確な測定結果が要求され、高高度についてはそれほどの精度が要求されないことが多い。そこで、上述したビームスキャンニングを行いつつ、低高度については相対的に高い周波数の音波を使用し、高高度については相対的に低い周波数の音波を使用するように、順次、音波の周波数を切り替えて測定を行うことができる。高高度用に低い周波数を使用することにより、測定可能な距離レンジが大きくなって、極めて高い高度まで風向・風速を測定することができるようになる。
【0041】
図6(a),(b)はそのような測定例を示している。ここでは、
図6(a)に示すように、送受波器T−Rから東方に100m(第1の距離L1)離れた位置に第1の受波器Rを配置し、送受波器T−Rから北方に100m(第2の距離L2)離れた位置に第2の受波器Rを配置し、音波の周波数とし、高い方からF1からF6までの6種類を使用して周波数掃引を行い、50mから200mまでの高度範囲での風向・風速分布を測定している。この場合、一番高い周波数であるF1によって、高度50mあたりでの風向・風速分布を測定し、次に高い周波数であるF2によって、高度70mあたりでの測定を行い、一番低い周波数であるF6によって、高度200mあたりでの測定を行っている。
【0042】
ここで、音波の周波数に応じた風速の分解能について説明する。使用する音波の周波数をf
0とし、受信信号に基づいてドップラーシフト成分を抽出する際の周波数分解能をΔfとすると、風速分解能ΔVは、
ΔV=C・Δf/2f
0
によって表される。Cは定数である。この式から、周波数分解能Δfが一定であるとすれば、使用周波数f
0が高いほど風速分解能ΔVが向上することが分かる。
【0043】
ビームスキャンニングを行うことによって、測定高度の分別がよくなるが、これに加え、上述したように高度ごとに使用周波数を変えるように周波数掃引を行うことにより、測定高度の分別がさらによくなって、データ取得効率もさらに向上する。なお、従来の複数の音波周波数を用いることは行われてきたが、これは、データ数を増やす目的のみで行われていたものである。
【0044】
なお、
図6(a),(b)に示した構成において、音響ビームの放射を断続して行うものの単一の周波数F1のみを用いて放射したり、あるいは斜め上方向き送受波器からの送受信を行う場合は周波数F1〜F6として同一周波数を用いてもよい。
【0045】
図7(a),(b)は、
図6(a),(b)に示したものよりもさらに高い高度まで風向・風速の測定を可能にした配置を示している。
【0046】
音響ビームが密度変動領域によって散乱されるときの散乱音波の強度の角度分布に関し、音響ビームの伝搬方向をちょうど逆方向に伝搬する成分(反射成分)が最大となるのではなく、音響ビームの伝搬方向の逆方向からみて40°〜70°の角度をなす方向で強度が最大となることが知られている。したがって、より高い高度の測定を行う場合には、送受波器と受波器との距離をある程度大きくした方が、音波の伝搬距離が長くなることに伴う減衰を考慮したとしても、より強い受信信号が得られることになる。そこで、例えば400mの高度までの風向・風速の鉛直分布を求めようとする場合には、送受波器T−Rから東方に100mと300m離れた位置にそれぞれ受波器Rを設け、さらに、送受波器T−Rから北方に100mと300m離れた位置にそれぞれ受波器Rを設けている。送受波器T−Rから100mの位置にある受波器は低高度用の受波器であり、300mの位置にあるものが高高度用の受波器である。そして、高度50mから200mまでの範囲での風向・風速の測定には、
図6(a),(b)に示したものと同様に、高度ごとの6つの周波数F1〜F6を用いて、送受波器T−Rで取得したデータと送受波器T−Rから100mの位置にある2つの低高度用の受波器Rで取得したデータを用いる。さらに、高度200mから400mまでの範囲での風向・風速の測定には、高度ごとの6つの周波数F7〜F12の音波を用いて、送受波器T−Rで取得したデータと送受波器T−Rから300mの位置にある2つの高高度用の受波器Rで取得したデータを用いる。周波数F7〜F12では、周波数F7が一番高く、これは高度200m近辺での測定に用いられ、以下、高度が高くなるにつれてより低い周波数の音波を使用するようにし、高度400mに対しては最も低い周波数F12を測定に使用する。送受波器T−Rは、周波数F1〜F6の音響ビームを順番に放射した後、周波数F7〜F12の音響ビームを順番に放射する。
【0047】
このように、測定位置の高度に応じて音響ビームの発射位置と受信位置との距離を異ならせることにより、測定を行おうとする高度によらずに適正なビーム散乱角を確保することにより、大気中での温度変動と風速変動とが合わさった密度変動領域からの散乱音波を強いレベルで受信することが可能になって、S/N比(信号対雑音比)を改善することができる。具体的には、音響ビームの散乱角が上述の範囲となるようにすることによって、信号強度が数倍強くなるので、受信信号のS/N比も数倍向上する。
【0048】
次に、山岳や丘陵地帯など、平坦ではない地表面に本発明に基づくフェーズドアレイ型ドップラーソーダーシステムを配置した例を説明する。平坦ではない地表面にフェーズドアレイ型ドップラーソーダーシステムを配置した場合、送受波器T−R及び少なくとも2つの受波器Rに関し、それらの標高が相互に異なることになる。
図8(a),(b)に示したものは、送受波器T−Rの標高がh
0、2つの受波器Rの標高がそれぞれh
1とh
2である場合を示している。送受波器T−Rからみて、一方の受波器Rは、距離がL
1であって、方位角が真北から右回りにθ
1であり、仰角がψ
1となっている。同様に他方の受波器Rは、送受波器T−Rからみて、距離がL
2であって、水平方向で真北から左回りにθ
2であり、仰角がψ
2となっている。2つの受波器の標高が異なることにより、図示P点で示す位置を測定位置とした時、点Pへの仰角は一方の受波器ではα
1となるのに対し、他方の受波器ではα
2となる。
【0049】
このように送受波器や受波器において標高の差がある場合、得られた結果に対して補正を行わないと、高度値や得られた風向・風速値に誤差が生じ、さらには上述したようにビームスキャンニングの場合、標高差を考慮しないと、放射音響ビームと各受信音響ビームとが所望の位置で交差することを保証することができず、結果として、散乱音波自体を受信できないこととなる。
【0050】
そこでここに示したものでは、GPS(global positioning system;全地球測位システム)センサや方位・傾斜測定を行うことができる測距儀を用いて送受波器及び受波器の位置を計測し、位置情報供給部140(
図1参照)を介してその計測結果をCPU100に供給するようにしている。CPU100は、ソフトウェア制御により、各音響ビームの位置合わせと風向・風速の計算とを自動的に実行する。ソフトウェア制御による計算は、送受波器及び受波器のそれぞれの3次元位置が既知であり、かつ、風向及び風速についての測定位置(水平位置及び高度)が与えられている、という条件の下での三角法による計算であるから、その内容については当業者は容易に理解できるものである。このような構成により、フェーズドアレイ型ドップラーソーダーシステムにおける送受波器及び受波器の配置の自由度が高まり、このシステムの設置が簡便なものとなるとともに、上空で放射音響ビーム及び各受信ビームが交差することの確実性が向上する。